257 名前:(zbg2XOTI) 投稿日: 2004/10/01(金) 00:18 [ jrIiJ/cg ]
『WROLD ALL』(仮題)



子供のころ、私は幸せでした。
都市の城壁の外の、農村部に住む農民階級の小さな家庭の4番目の子供として生まれて、
あまり恵まれてはいなかったし、小さいし女の子だったのであまり働くこともできないので、
家族からは厄介者扱いされていましたが、それでも毎日家の仕事の合間に村の子供たちと
遊んでいるときは、ずっと永遠に幸せが続くのだと思っていました。
冷たい水を汲みに行くのも、重たい薪を運ぶのも、自分よりもさらに小さな弟や妹たちの面倒を見るのも、
友達と春の野原や、夏の小川や、秋の木陰や、冬の白い丘で無邪気に笑ってはしゃいでいられる時のためにあると思えば、
そんなに辛くは無いのでした。

その頃の私は、世界は光と善意に満ち溢れていて、時々荒らしの来る月や霜の害がある年が来る以外は、
苦しいことも悲しいことも無くて、穏やかな日々が続いていくのだとばかり考えていました。

それが唐突にそうでなくなったのは、私が11歳の誕生日を過ぎた頃だったと思います。
私が見えているもの、感じているもの、触れることができるもの…皆も同じように、そうだと思っていたものが、
そうではなかったのだと、思い知らされた時は、変な言い方かもしれませんが頭が真っ白になって、そして
目の前が真っ黒になって、自分の体が、周りの景色が、灰色になってしまったような感じがしました。

事の発端は、些細なきっかけに過ぎませんでした。
あるとき私はふと、それが出来るのではないか、と思ってみたのです。
前から私には、それが見えていました。 でも、他の皆には見えないものだと言うことには全然気がつかなかったのです。
道端の石ころや、テーブルの上の木で出来た食器や、自分の靴やスカートのすそが、それらの集まりで出来ているのを、
小さい頃の私はそれがどんなに重要な意味を表しているのか、まったく知る由も無かったのです。
そしてそれを、自分の意思で触って、感じて、動かせるのだと気がついたときは、自分でも物凄く…牛の口から大きな蛙が
飛び出た時みたいにびっくりしました。
やってみよう、と思ったときは本当にそれが出来るなんて思いもしませんでした。
本当に、ほんの軽い気持ちだったんです。
でも私は、それを実際に、思ったことを寸分たがわず実行してしまったのです。
私は本当に本当にびっくりして、皆に見せに行きました。 そして皆の前で、それをもう一度やって見せたのです。
私の手の中で、それを形作っている小さな小さなものが、私自身の意思で自由に動き回るのを、皆は見ることが出来ませんでしたが、
みんなはそれが、確かに形をまげてぐにゃりとへし折れるように曲がったのを確かに見ましたし、驚かなかった子はいませんでした。
女の子の中には、驚きすぎて泣き出してしまった子もいたぐらいです。

私は得意になって、それを、大人たちにも…一番最初に両親へ見せに喜び勇んで走って行きました。


258 名前:(zbg2XOTI) 投稿日: 2004/10/01(金) 00:19 [ jrIiJ/cg ]
最初、私は何を言われたのかよく理解できませんでした。
多分、悪魔、とか何か、それを意味する言葉を言われたのだろうと思います。
呪われた、という言葉も聴いたように思いました。 でも、その時はその言葉を知らなかったので、今思えばそんな言葉を言われた
ような気がするだけで、本当はもっとひどい意味の言葉を言われたのかもしれません。
ただ、両親が憎しみと蔑みと、畏れに満ちた表情を私に向けていたことだけははっきりと覚えています。
私はそのときの両親の顔を、一生忘れることが出来ません。

幾らもたたないうちに、皆は私と遊ばなくなりました。
皆は「魔女と遊んではいけない、呪いが染るから」と言われたのだそうです。
両親も兄弟も、私を避けるようになりました。
もともと小さな家で、下のほうの子供だった私には家の中に自分の場所というのは無かったようなものだったのに、さらに家の隅に、
最後には物置小屋か馬小屋に追いやられて眠るようになりました。
どうしてそんな仕打ちを受けるようになったのか、最初はその理由がまったくわかりませんでした。
でも、村の中でそういう風に疎外される日が続いていくうちに、なんとなくその理由がわかってきました。
今は、どうして両親が私を憎むようになったのか、友達だった子達が私に近づかなくなったのか、理解しています。
でもその頃は、私はとても理不尽な仕打ちを受けたように思えて、どうして?と思いつつ毎晩藁の上で泣きながら眠ったのでした。

私は家の仕事を手伝わなくてよくなった代わりに、もう友達と遊ぶことが出来なくなってしまいました。
春の野原や、夏の小川や、秋の木陰や、冬の白い丘で無邪気に笑ってはしゃいでいられたあの日々は、今では遠いどこかへ過ぎ去ってしまったのです。
私は、たった一人で村はずれの小さな丘の上で寝転んで空を見ていることが多くなりました。
他にすることも何も、一切無かったのです。 誰とも会わず、誰とも話さない日々は、時間がただ流れていくのがとても苦痛で、
そして寂しくて、私はこれから先、ずっとこの痛みや寂しさに一人で耐えていかなければ行けないのかと思うと、その度に涙が止まりませんでした。

そんな日々が幾日も続いたある日、唐突にたった一人だけ、友達が戻ってきてくれました。
その子は私より三つだけ年下の男の子で、なのに生意気で、負けず嫌いで、よく泣かされて、そしてやさしい子でした。
輝かしい、幸せに満ちた日々が戻ってきました。 友達は、その子一人だけになってしまったけれど、私たちは二人きりで、
以前のように笑ったりはしゃいだりする時を過ごすことが出来ました。

私はその子に、自分と遊んでいて怒られないの?と尋ねたことがありました。
その子は、私が魔女だとか呼ばれて、一緒に遊んではいけないと言われるのは間違っている、というような事を言いました。
同時に、魔女でも何でも、私は私なのだ…と言う意味のことを言ってくれました。
今から思えば、その子は小さいなりに随分としっかりした考えを持っていたのだな、と思います。
顔を半分以上真っ赤にして、大人たちや他の子達への憤懣を交えながら私に自分の考えを一生懸命に伝えようとする
その子の存在が、私にとってどれだけの励ましと支えになったかは計り知れません。
私は、その子のおかげで孤独にはならずにすんだのですから。

けれども、その子と共に過ごせた時間はあまりにも短いものでした。


259 名前:(zbg2XOTI) 投稿日: 2004/10/01(金) 00:20 [ jrIiJ/cg ]
修道会の司祭という人が私を迎えに来たのは、その子が戻ってきてくれた日から一週間たった頃でした。
その日は両親と他の大人たちが何かを話していました。 私がそれを聞いた分には、魔女や魔法を使える人間は、修道会に預けなければいけない決まりになっているのだそうです。
私は、そこで始めて、自分があの日見せた行為が「魔法」なのだということに気づかされました。
同時に、それは人々からとても忌み嫌われているものなのだと知りました。
けれども、修道会から来た司祭様は私に「それは違う」と言いました。

「魔法は、神様が人間におあたえくださった、神様の力の本の一部で、とても神聖なものなのだから、魔法を使える君は呪われてなんかいない。 むしろ、祝福されているんだよ。 だから胸を張っていなさい。 恥ずかしがることも、恐れることもしなくていい」

司祭様はそう言って、私の頭を優しくなでてくれました。
誰かの頭をなでてもらったのは、それが初めてだったので…両親すら、私にそんな風にはしてくれたことが無かったので、とても嬉しかったのを憶えています。

修道会の紋章が描かれた幌馬車に乗せられる時、友達だったあの子が泣いていました。
私が連れて行かれるのが、とても悲しかったのだろうと思います。
その時はその子の両親がそばにいたので、私はその子に別れの挨拶を告げることが出来ませんでした。
もしその日、別れが唐突に来ることが前の日にでもわかっていたのなら、私とその子は一日中を使ってたくさん思い出を作って、決して互いを忘れず、友達でいようと硬く約束を結ぶことが出来たのでしょう。
でも運命というのは、何もかも幸せなことばかりを運んではくれなかったのです。
そうして私とその子は、理不尽な見えない何かの力で再び引き裂かれてしまって、私は馬車の中で悲しくてずっと泣いていました。
でも、不思議なことに生まれ育った村を離れることや、両親や兄弟たちと別れることは少しも悲しくも寂しくは無かったのでした。

修道会についた私は、さっそく修士服に着替えさせられて、その日から魔法とこの世界の構成と、神学についての勉強と訓練が始まりました。
勉強と訓練は水汲みや薪運びといった家の仕事よりもずっと辛いものでしたが、修道会には私と同じように連れてこられた子供たち(司祭様や司教様は「姉妹」と呼びました)がいて、彼女らと話したり遊んだりすることの出来る時間はとても楽しくて、辛いことを忘れさせてくれました。
春の野原や、夏の小川や、秋の木陰や、冬の白い丘は、もう遠くなってしまいましたが、その代わりに修道会で過ごす新しい日々が始まって、私は姉妹たちと共に毎日を幸せに過ごしていました。


でもやはり、そんな日々は永遠に続くことはありませんでした。

それが起こったのは、私が19歳の誕生日を迎えた頃でした。
まだら色の服を着た異世界の兵士たちが、この世界に現れたのは。




264 名前:(zbg2XOTI) 投稿日: 2004/10/01(金) 23:03 [ Imj68oQ. ]
WROLD ALL(仮題) …ドイツ語のヴェルトール。 事象世界、宇宙の意。


1−1

アルヘイム(鯰の故郷)というこの国は大陸西方の南部、スードと呼ばれる比較的温暖な地域を領有している国で、大昔からエルプ山脈をはさんだ北部のトイトや西部のケルト、東部のポレなどに居を構える、ヴァナヘイム、ヴィンドヘイム、ニザヴェリルといった国々とは領土をめぐって何度も戦争を繰り返している歴史を持つ。
大昔のスードは都市ごとに小国家が軒を連ね、争いあっていたのを300年ほど前に初代の王となるヴァーヴォル1世が統一してアルヘイムを建国したといわれており、そのような国柄もあってか、弱肉強食の実力主義が常識となっている国でもある。
他の国と何度も戦争を行い、その度に勝利してきただけあって兵器や戦術などの技術は高いものを持っているのが自慢でもある。
アルヘイムは(ほかの国も大抵そうなのだが)身分制度の強い国で、王族、貴族、士族、平民、農民の階級ごとに階層を作って社会が形成されていた。
王族と貴族が政治をつかさどり、士族が軍事を担う。
一応、専制主義国家ではあったが地方分権の色も濃いという一面も持つ。
というのも、もともとが小国家の集まりで、統一後300年たつ現在も貴族たちは地方の都市を領有してそれなりの勢力を保っている。
故に、王族の子弟が玉座を巡って争うときなどには、貴族の後ろ盾をどれだけ多く味方につけることが出来るか、というのが重要視された。

第27代目の国王であるヴィーウル4世の死去の直後、次の後継者として最も有力であったのは王弟ニューラーズ公だった。
彼は7つの地方都市領を支配する7人の大貴族の後ろ盾を得て、第28代目のアルヘイム国王として即位するはずだった。
しかし、即位の直前となって7人の大貴族のうち6名が、先王の忘れ形見である12歳になったばかりの幼い王女、ローニを新王をとして推挙、そのまま強引に即位させてしまったのである。
これには、6人の貴族たちとニューラーズ公との間に政治上の権限をめぐる衝突があったと噂されている。
ローニ女王の後見人あるいは摂政となった貴族たちは、既に成人し頑迷で自己中心的なニューラーズ公を御しがたいと判断し、まだ幼い女王を傀儡として自らの思うままに政権を握る心積もりでいたのだ。


265 名前:(zbg2XOTI) 投稿日: 2004/10/01(金) 23:03 [ Imj68oQ. ]
当然、王になるはずだったニューラーズ公はこれに納得するはずがなく、唯一自分を後援するラーズスヴィズ伯とともに女王と貴族たちに対し叛乱を企てた。
しかしならが、公とラーズスヴィズ伯の持つ戦力では、既に近衛騎士団と常備軍を掌握した貴族たちに対抗できるはずもない。
どう見ても勝ち目はないはずだったが、公には勝算があった。
公は、切り札ともいえる「援軍」を配下の魔法士に命じて召喚していたのである。
その援軍とは、国外…ヴァナヘイムやヴィンドヘイム、あるいはスードの西端の小国ロガフィエルなどの周辺諸国から呼び寄せたものではなかった。
国内の紛争に外国の力を借りれば、後々面倒なことになるのはわかりきったことだ。
ただでさえ、諸外国はスードの温暖で肥沃な土地を虎視眈々と奪う機会を窺っている。
ならば、公はどこに援軍を求め、貴族たちに対抗しようとしたのか?

その答えを、貴族たちは戦場で知ることになる。
近衛軍と常備軍を率いてヴァグリーズの平原へ会戦に赴いた6人の貴族たちは、そこで異様な姿かたちの軍隊を目にすることになる。
見たこともない銃や砲、そして鉄の車を使う、まだら色の服を着た異貌の集団が、そこに待っていたからだ。



修道会の本部ヴァルファズル大聖堂は三つの巨大な円錐状の建築物が寄り集まったような形をしている。
この巨大建築物は250年ほど前に当時の国王ガングレイリ2世が命じて建築が始まったもので、着工してから120年ほど経過した段階で工事が打ち切られ未完成のまま現在に至る。
建築予算が国庫に多大な負担をかけるとの理由から建築途中のまま放棄された西の塔の上部三分の一は、基礎の骨組みだけという少しみすぼらしい姿をさらしていた。

その西の塔に、私たち「姉妹」の寮は置かれていました。


266 名前:(zbg2XOTI) 投稿日: 2004/10/01(金) 23:04 [ Imj68oQ. ]
今日も王都から修道会へ魔法士の援軍を求める女王の(貴族たちの、というほうが正しいかも知れない)使者達が大聖堂の城門前広場で開門を求める声を叫ぶ。
ほどなくして人の背丈の3倍はあろうかという巨大な門は開かれ、使者たちは中へと入っていった。
私はそれを寮の自室、南側に面した日当たりのいい小窓から見下ろしている。 最近はそれが、日課になりつつあった。
早駆けの馬で来る使者の一団が大聖堂に来ない日は一日とてなく、彼らが肩を落として帰ってゆかなかった日も未だなかった。

異世界軍…ジエイタイを味方につけたニューラーズ公の軍は既に貴族の支配する二つの地方都市領を攻め落とし、王都まで40里の距離まで迫っているという噂だった。
「姉妹」たちの間では、私たち「魔法士」が異世界軍と戦うことになるのかならないのか…つまりは、修道会が貴族たちに援軍を差し向ける決定を行うのか否かという話題でもちきりで、誰もが訓練や勉強に手のつかない有様…というよりは、噂話や議論のほうに夢中になっていた。
現在のところ、修道会は中立、不介入の立場をとり続けているが、将来的にどうなるのかはわからない。
大聖堂が王都のすぐそばにある以上、この場所も戦争に巻き込まれないとも限らないのだ。

「それは、無いんじゃないのかな」

『黄色の姉妹』のスルーズが唐突にそう言ったので、『赤』のミストや『黒』のスケルグが「突然何?」とでも言いたげげな顔をこちらに向ける。
『黄』の派閥に属する感応系の魔法士であるスルーズは、他人の思考を読む魔法に長けている。
彼女は、私が頭の中で考えていたことを読み取り、それに答えたのだが、ミストやスケルグにはわからない話だったので、二人は怪訝そうな顔をしたのだ。

「修道会は神聖不可侵な神の家だもの。 修道会に手出しをしたら、国中を敵に回すことになるわ。 ニューラーズ公がそんな暴挙に出るとも思えないけれど」

それを聞いて、スケルグが「なんだ、その話?」とあきれたような顔で納得する。
私も、いきなり人の思考を読んで話しかけてくるスルーズの突拍子の無さには少し呆れるものがある。
いきなり話しかけられた方はびっくりするだろうし、周りで聞いていた人たちもいきなり何を言い出したのか戸惑うだろう。
スルーズは、そのあたり天然でデリカシーに欠けているんじゃないかと思える節もある。

「そ、そんなつもりは無いんだけれどなっ…でもその言い方はひどいよっ」

彼女はまた私の思考を読んだけれど、ミストとスケルグには話が伝わってないのでわからない。
スケルグは「二人だけで会話するのやめてくれない?」と溜息をつくし、ミストに至っては何がなんだかわからず、きょとんとしている。

「…で、スヴァンは何を考えていたって?」

スケルグが書き物をしていた手を止めて、私を見る。
私の名前は本当はヒルデというのだけれど、ここの「姉妹」たちはスヴァンヒルデ…さらに前半分だけでスヴァンと呼ぶ。
スヴァンヒルデというのは御伽噺に出てくる、戦場で戦士たちを導く戦乙女の名前らしいけれど、私は自分の名前を変えられて呼ばれるのはあまり嬉しく思っていない。
もっとも、スケルグや「姉妹」たちの多くは「もともとヒルデというのはスヴァンヒルデが短くなった名前なのだからいいのよ」と言って抗議しても押し切ってしまう。
だからなんとなく、私はここではスヴァンという名前で呼ばれていた。



275 名前:(zbg2XOTI) 投稿日: 2004/10/03(日) 21:00 [ Wize9Rcw ]
World All



1−2

スケルグとミスト、スルーズの3人は私が修道会に来てすぐに出会って、初めて打ち解けた「姉妹」だった。
それ以来友達として、こうして部屋に集まって話したり、くつろいだり、お茶を飲んだりしている。
本当は、こういうのはいけないのだそうだ。 司祭さまに見つかれば、叱られる。
姉妹たちは全員が魔法使いで、自分が使える魔法ごとに6つの派閥に分かれている。
当然、寮の部屋の割り当ても分かれていて、念動系「青」の姉妹、感応系「黄」の姉妹、生体系「白」の姉妹、量子系「黒」の姉妹、時空系「赤」の姉妹、そして特質系「緑」の姉妹という様にそれぞれ色が与えられている。
スルーズはさっきの通り感応系。 スケルグは量子系、ミストは時空系で、私は念動系。
来ている修士服もそれぞれの派閥の色で統一されているのだ。 これは、同じ派閥の姉妹同士の結束を高める理由があるという。

そしてやっぱり、派閥の姉妹ごとに対抗心というか競争心みたいなものがあって、普通は違う派閥の姉妹同士仲良くなったり部屋に集まったりはしないそうだ。
私は、そういうのはよくわからない。 どうして、わざわざ派閥だとか、色だとか、分けて考えて敵対心を持たなければならないんだろう。
結束を高めるなら、どうせ私たち「魔法使い」は人間社会の中ではごく少数派なのだから、魔法使い同士差別なく結束しあえばいいのに。

「修道会は私たち魔法使いを集めて、『魔法士』に育て上げている。 私たちは、魔法の力を神様から与えられた力だと教えられ、みだりに使ったり不用意に人を傷つけたりするべきではないから、力を制御し自由に使えるようにと訓練を受けてきたわ。 でも、その一方で私たちの力は戦争で使われる。
私たちは敵を傷つけ、味方を癒し、敵の目から味方の姿を隠したり、敵の後方に兵を送り込むのに使われる。 …私たちが訓練を受けたのは、紛れもなく戦争で使われるため。 なのに、どうして今度の戦争では、修道会は私たちを戦争に使わせようとしないのだろう」

私はつぶやくように胸のうちに抱えていた疑問を彼女たちに打ち明けた。
今度の戦争は何かおかしい。 これまでのアルヘイムの歴史の中にも、何度も王位をめぐった争いは起きていたし、修道会は外国との戦いでも国内の内乱でも、何らかの形で戦争に介入してきた。
司祭様の歴史の講義で何度も聴かされたはずだった。 修道会は、必ず神の教えと正しい勢力の側を助ける、と。

スケルグは少し考えるようなそぶりを見せた後、口を開いた。


276 名前:(zbg2XOTI) 投稿日: 2004/10/03(日) 21:02 [ Wize9Rcw ]
「修道会が戦争に介入せず中立の立場でい続けるのは…どちらも正しくないと判断したからじゃない? ニューラーズ公は、貴族の支持の強い王族が王になるというしきたりを無視して戦を起こしたし、貴族たちは幼い女王を即位させて、傀儡にしようと…王権を侵そうとした。どちらにも正統性がないから、どちらの味方もしない。 だから、中立なんじゃない?」

「でもそれなら、両者の間に入って戦争を仲裁し止めさせることも出来る。 修道会には、それだけの発言力があるはずよ?」

そう、今の修道会の行動はどこかおかしい。 何か、陰謀めいたものを感じるのだ。
スルーズもスケルグも内心ではそれに気づいているので、何か薄ら寒いものを感じて口を閉じてしまった。
ミストだけが、きょとんとした顔をしてみんなを見比べている。

「…ねえスケルグ。 ニューラーズ公が呼んだという異世界の軍隊のことだけど」

私は固くなった雰囲気を払拭するためわざと話題を変えた。

「量子論における多元宇宙の解釈は私にもわかる。 でも、所詮個人に過ぎない魔法使いの力でそんな事が可能になるの? 平行宇宙から別の世界の人間をこちらの世界に持ってくる、なんて事が」

スケルグは再びちょっと考え込むような仕草をしてから、テーブルの上のカップをひとつとって、ポットの中のハーブティーを注いだ。

「量子系の魔法において、ある場所から別の離れた場所に物体を移動させることは普通に出来る。 物体を構成する分子や、原子、さらにそれを構成する素粒子などを一旦『情報』として分解してから、別の場所にその『情報』どおりに分子を組み立てて物体を構成させる。
確立論的に言えば、物体がある場所に存在する確立を強制的に0にして、別の場所で100にする、と解釈できる。 平行世界に存在する何かの物体や生物を、何らかの方法で『それを構成する情報』を手に入れれば、こちらの世界で再構成させることも出来なくはないけど」

スケルグがお茶を注いだカップがテーブルの上から唐突に消えて、私の手元に現れる。 量子系魔法によるテレポート現象だ。
スケルグは残り3人分のお茶をカップに注ぎながら続ける。

「ミストのような時空系なら、ある場所と別の場所の空間を任意につなげて、物体を移動させることも出来る。 もしかしたら、平行宇宙の何処かとこの世界をつなげる扉を作ることも可能かもしれない。 でも、どちらの方法を使うにしても…」

スケルグがお茶の用意をはじめたのを見たミストは顔を輝かせて棚の小さな扉を開く。
いつもはそこは裁縫道具などが入っている小物入れになっているはずなのだが、ミストは冷機の流れ込んでくる棚の奥から皿に乗ったケーキを人数分取り出し始めた。
何処かの氷室か倉庫と、棚を繋げたらしい。

…これって泥棒になるんじゃないだろうか。

「…魔法使い個人の力で出来る範囲を大きく逸脱している。 もしどちらかの方法で異世界から軍隊を呼び出したとするならば、複数の魔法使いで召喚を行ったか、異世界との扉を開いたか。 さもなければ…神様の奇跡にでも頼ったのでしょ」

スケルグはそう言って、ミストから苺のタルトの乗ったケーキを受け取る。
私も、剥き身の甘栗の乗ったケーキを受け取った。
どうでもいいけど、ケーキについている薄い銀色の紙…包装? のようなものは何だろう?


277 名前:(zbg2XOTI) 投稿日: 2004/10/03(日) 21:15 [ Wize9Rcw ]
今回は短め。
何気に複線あり。


量子テレポートの方法についてはかなり不正確。
なにせ一回データが消えてしまったのでうろ覚えの記憶で書いた…
多分大体あってるはず。


魔法の系統について簡単な解説。

・念動系  サイコキネシス能力者。 物質の分子や原子・電子の運動に干渉する。
      分子振動数を上げて加熱するパイロキネシスなどもこれに含まれる。

・感応系  テレパシスト。 感覚能力に特化しており、遠距離や視界外の分子の運動も感知できる。
      透視・リモートビューイングやサイコメトリー、予知も含む。
      あと人間の脳のシナプスの活動も読み取り、自分の脳内で同じ用に再現したり他人の脳で自分の脳のシナプスの活動を再現することも出来る。
      思考を呼んだり伝えたりするだけでなく、意思を支配することも可能になる。

・生体系  生物の生体組織に干渉する。 ヒーラー。
      治癒再生能力を強制的に高める他、筋肉のリミッターを解除したり神経系を支配することも出来る。

・量子系  作用量子定数や波動関数に干渉し、事象の確立を任意に捻じ曲げる。
      極度に幸運な人間なんかがこれに含まれる。

・時空系  テレポート能力者。 空間を任意に捻じ曲げたりつないだり出来る。
      限定的になら時間にも干渉できるらしい。

・特質系  上記5つのどれにも含まれない能力をさす。
      幽霊を見たり出来る人とか、原理が不明な能力とか。





288 名前:(zbg2XOTI) 投稿日: 2004/10/11(月) 20:34 [ Hy59bzxg ]
WORLD ALL

1−3

私はミストが一体どこからケーキやお菓子を持ってくるのか少し不思議だ。
ミストは、戸棚や部屋の扉を何処か別の場所とつなげて食べ物だとかお菓子だとか果物だとか、普段は禁止されていてめったに食べられないものを持ってくる。
この世界、この宇宙のどこかと時間と空間をつなげて、遠くにあるものを手元に引き寄せたり、逆にこちらから向こうに物や人を送れる能力。
私たちの使う魔法、物理現象に干渉する力は、物体の分子の運動や状態を把握し、それに干渉・制御することでさまざまな事象を任意に発生させることができる。
でもそれは、自分の知覚する範囲で分子や電子の運動を認識できるからであって、たとえば念動系は自分の視界内の分子にしか干渉することはできないけれど、
感応系は壁の向こうや地理的に遠く離れた場所にまで知覚するセンサーの範囲を広げられるし、生体系は生物の体内に干渉することができる。
(ただ、その代わりに生物組織以外のものには干渉できない。 生物限定で干渉することに特化した能力なのだ)
しかし、時間や空間といった物にまで認識能力を拡大し、干渉を行うことができる時空系の能力というのは、かなり異質な力だといえる。
量子系のように可能性事象や作用量子定数に干渉し、「確立の変動」を行う能力とも異なる。
私は、ずっと以前司教様に時空系の能力を使えるようになるにはどうしたら良いのか、と尋ねたことがある。
時間と空間にに干渉するほどの能力を得るには、この宇宙全体、あるいは宇宙の外にまで認識能力を拡大しなければならない…司教様はそう言っていた。
そして、時空系の能力はその原理が不明確な部分が多い。 それは、もしかしたらこの宇宙全体の運動に干渉を行える能力…なのかもしれないと、付け加えた。
私はそれを聞いて、少なからず落胆した。
その質問をしたのは修道会に来てからまもなくの頃だったけど、私自身の能力の限界というものは既に自覚していた。
だから、私はミストみたいに自分の部屋の扉を何処か遠くと繋げたりすることはできないのだと、理解してしまった。
もし、私にミストの様な力があったら、部屋の扉と生まれ故郷の村をつなげて、あの子に会いに行けるのに。

その時の私は、それが残念で、心残りで、悲しくなって少し泣いた。


289 名前:(zbg2XOTI) 投稿日: 2004/10/11(月) 20:36 [ Hy59bzxg ]
私がミストの顔を見つめると、ミストは視線に気づいて「食べないの?」という視線と表情を私に投げかけながら自分のケーキを手づかみて口に入れる。
ミストは、口が利けない。 言葉を話すことができないだけでなく、声が出せない。
失語症、というのだそうだ。

私たち魔女・魔法使いの多くは、魔法が使えると周囲の人間に知られたときから嫌悪と侮蔑と畏怖の対象として見られる。
私が両親や大人たちに言われたりされたりした事は、まだ軽いほうらしい。
もっともっと酷い事を、それこそ自殺してしまいたくなるような事をされた子も、修道会には大勢居る…
ミストも、そんな子の一人なのだ。 なのに、ミストは口が利けないということ意外は、普通の女の子と変わらない。
よく笑って、よくはしゃいで、よく食べて、私たちと、こうして一緒に居る。

スケルグはミストと違ってあまり笑わない子だ。 いつもすましたような表情をしている。
でも、おしゃべりが好きで自分の得意分野の話なら何時間でも話している。
私も、スケルグと量子論の話をするのは好きだ。
時空系が使えないならせめて量子系を、と思ってスケルグに教えてもらったのが始まりだけれど、未だに私は初歩の確立変動すら使いこなせずにいる。
スケルグは、得意不得意があるのだから、といいつつ理論を教えてくれる。

スルーズは勝手に人の頭の中を覗くというちょっとデリカシーの無いところもあるけれども、悪気があってやっているわけじゃないし、本人はお人好しでいい子だ。
めったに怒らないし、喧嘩もしない。 温和だし、控えめだし、あと少し子供っぽいところもあるけれど、全部含めて好きだ。

だから、この時の私は、気の合う友達に恵まれて、とても幸せだった。





311 名前:(zbg2XOTI) 投稿日: 2004/10/31(日) 20:28 [ zAg0zPIY ]
WORLD ALL 1-0 自衛隊サイド



西暦200X年 10月30日  日本海対馬沖

朝鮮半島情勢は緊張の度合いを深めていた。
先年来の食糧難、そして相次ぐ脱北者、日本をはじめとする各国の援助打ち切り…北朝鮮の経済状況は明らかに瀬戸際だった。
それに対し、北朝鮮は強硬姿勢を崩そうとせず、逆に日本・アメリカへの弾道ミサイル攻撃を行う用意があるという宣言を行った。
譲歩しないブッシュ政権に対して脅迫を持って妥協点を得ようしたのだ。
これには、日本・アメリカのならず中国やロシアからも反発を受けた。
かくして国連安保理は北朝鮮に対する経済制裁と直接攻撃を決定。 多国籍軍の派遣を決定する。

小泉総理も、この事態を受けて有事法制を強行採決で可決。
邦人救助と経済水域封鎖を目的として護衛艦隊 第1護衛隊群、第4護衛隊群の派遣を決定した。 
そして陸上自衛隊の派遣中隊第一陣も車両と装備を積載し輸送艦「おおすみ」とともに派遣されたのだった…

そして、派遣護衛艦隊は現在米軍第7艦隊と合流、韓国釜山港へ向かう途上の海の上にいた。


312 名前:(zbg2XOTI) 投稿日: 2004/10/31(日) 20:28 [ zAg0zPIY ]
「おおすみ」甲板上。 午前6時29分。

陸上自衛隊の橘2尉と藤原陸曹長はロープで固定された車両列の間を歩きながら話していた。

「でもアメリカが動くのは、日本にミサイルが落ちてきてからだと思ったけれどな」
「そりゃまた、何故です?」
「そうすればアメリカは北朝鮮への攻撃と、同時に日本占領の口実が得られるからだよ。 日本が北朝鮮と戦争して社会や経済に大打撃を受ければ、日米安保理を建前にアメリカは治安回復の為と称して日本を再占領できる」

橘2尉の視線の先には米海軍の空母キティホークが白い波を曳いて海上を進む姿がある。
併走する巡洋艦やイージス艦を引きつれ、海自の護衛隊まで従えて威風堂々とした王のようだ。

「そのために、韓国や沖縄から駐留部隊を引き揚げさせり、強硬な姿勢をとったりして北朝鮮を挑発した。 911テロの時もそうだが、アメリカはそこら辺ずるがしこい。 相手に一発殴らせてから、袋叩きにする口実をつけて喧嘩をする」
「…いかにもやりそうな事です。 真珠湾のときもアメリカは事前に日本軍の奇襲を察知していて、黙認したって言う噂もあります」
「噂じゃなくて、事実だよ」

橘2尉はくわえていた煙草を海に投げ捨てた。
事実、とは言い切ったものの陰謀論に過ぎない。
ただ、集団的自衛権が行使できるようになった途端、今回のような事態が起こったようなことを考えると、自分たちは誰かの書いた脚本の上で動かされているような、そんな気もしてくる。


313 名前:(zbg2XOTI) 投稿日: 2004/10/31(日) 20:29 [ zAg0zPIY ]
「お前たち、何をやっているか! 釜山港に到着するまで艦内待機の命令だぞ!」

艦橋の上から声が響く。
二人は一瞬肩をすくめて艦橋の上を見上げた。
派遣中隊の中隊長、柊3佐。 規律にうるさく、隊内では煙たがられている人物だ。
中隊の指揮官で、今回の第一陣派遣には率先して志願したとささやかれている。

「おはようございます! 自分が藤原曹長を連れて車両点検巡回中です」
「そうか。 ならいい。 30分後にミーティングだ! 艦内に戻れ」

橘2尉が敬礼しそう答えると、柊3佐は意外にも簡単に納得し船内に戻って行った。
いつもはここからさらに10分ほど説教というか、小言が続くのだが。
藤原曹長がほっとしたように息を吐く。

「いつも二言目には規律、規律ですからね。 頭が固いったら…」
「ああいうのが自分の仕事だと思ってるのさ」 

部隊の規律と部下の気を引き締めるだけが、指揮官の仕事ではない。
が、柊3佐はどうもそればかり重視しているような向きもあると橘2尉は思っていた。
ああいう上官は、上手く立ち回ってなだめたり軽くいなすのが調度いい。
自分の場合はさらに、下の部下たちと上の幹部たちの間を取り持つ役目もある…


314 名前:(zbg2XOTI) 投稿日: 2004/10/31(日) 20:29 [ zAg0zPIY ]
「さて、3佐が戻ってきて小言の続きでもされたらかなわない。 戻るか」

そう言って、二人が艦内に戻ろうとしたとき、甲高い音を立てて警報が鳴り響いた。
警報は「おおすみ」艦内だけでなく、艦隊全部から発せられていた。
米海軍の動きもあわただしくなり、空母から艦載機が発進する。

『総員配置! 北朝鮮が第7艦隊および日本本土に向け弾道ミサイルを発射した模様!』

二人ははっとして顔を見合わせ、すぐに駆け足で艦内のタラップを駆け下りる。
途中、血相を変えた海自隊員数名とすれ違った。

「やっぱり血迷ってミサイル攻撃に踏み切ったか!」
「核弾頭でしょうかっ!?」
「わからんっ! そうでないことを祈ろう」

海上では日米双方のイージス艦が噴煙を吹き上げるスタンダードSAMを発射し始めていた。


午前6時47分。

北朝鮮は第7艦隊と日本本土へ向けて弾道ミサイルを発射。
米軍第7艦隊は日本の派遣護衛艦隊を含む艦艇の約3分の1を消失する。
その中には、「おおすみ」も含まれていた。
日本本土にもミサイルが着弾、自衛隊および民間に多くの犠牲者と行方不明者を出すことになる。

これを契機とし、アメリカは北朝鮮に宣戦布告、本格的な攻撃を開始する。
そして、中国およびロシアも北朝鮮に軍を派遣、朝鮮半島情勢は混乱の様相を見せ始めた。


315 名前:(zbg2XOTI) 投稿日: 2004/10/31(日) 20:31 [ zAg0zPIY ]
1−0 F世界サイド

西方スード地方 アルヘイム王国 

シーレーギャーグ内海に突き出た半島の先端部、フラーナングの入り江に見慣れぬ灰色の鉄の船が浮かんでいるのを岬の上から見下ろす集団がいた。
その内の一人は漆黒の外套を着た、男性とも女性ともつかぬ人物で、被ったフードは目元までを覆い隠し、表情は見えない。
そのほかの人物たちは上質そうな素材で仕立てられた装飾つきの礼服を着て腰に剣を帯びた者たちか、金属製の甲冑を着込んで武装した屈強そうな男たちで、兜の面頬をあげて驚嘆の表情を浮かべている。

「…これにて召喚の儀は滞りなく完了したしました。 あの者たちとの交渉は公御自らがなされるがよろしいかと」

闇の色に身を包んだその人物が少年のような高い声で、ひときわ華美な装飾のなされた服を着た偉丈夫に告げると、公、と呼ばれた人物はやや呆然としながらもうむ、と頷いた。
今しがた目の前で起きたことがまだ信じられないでいるようだった。
異世界より軍隊を呼び出すなどという事が。 しかし、現に眼下に見下ろす入り江にはこれまで見たことも無いような大きな鉄の船が、ほんの一刻ほど前までには船影一つ無かった静かな海面に浮かんでいる。

「もっとも、外つ国より呼び出されました彼の者たちの言葉を通訳する者がおりませぬと話しになりませぬから、それは私が務めましょうが…」


316 名前:(zbg2XOTI) 投稿日: 2004/10/31(日) 20:32 [ zAg0zPIY ]
彼とも彼女ともつかぬその人物はそう言って、フードに半分隠された顔の、下半分から覗く赤い唇を笑うように歪ませた。
公はその笑みを見て肌寒いものを感じた。 この「魔法使い」に命じて異世界より軍隊を呼び寄せたのはほかならぬ公自身であるが、そもそもの初めに公へ異世界の軍勢を呼び出すことを進言したのは魔法使いの方である。
公も公の家臣たちも最初は魔法使いの言葉に半信半疑であったが、自らの野望のため戦力を必要としていた公はその進言を受け入れた。
そして、魔法使いは言葉どおりに軍…軍艦とその乗組員を召喚して見せたのである。
この魔法使いがいつ頃から自分の腹心として、公に助言や提言を行うようになったのかは公自身も覚えていない。
ただ、魔法使いの言う言葉は全て物事を正確に言い当て、その言葉に従って間違いはあったことが無かった。
そして今回も、この魔法使いはいとも容易く、風と稲光を伴って異世界より軍を呼び出して見せたのだ。

彼は思った。 これだけの事をやってのける魔法使いの力に、得体の知れない恐怖と不信感を抱いたのだ。
元々魔法使いという生き物は、魔の力を使う呪われた人間と世俗では言われ、誰もが魔法使いの行使するその力に畏怖と嫌悪を覚える。
公もそれは承知で、何よりも自分のために役に立つからと、この魔法使いを側においてきたのだ。
しかし、今回ばかりは魔法使いの力に恐怖した。 このまま、この化け物のような生き物を飼っていて良いものだろうかと。
その時、一瞬魔法使いが顔を上げフードの奥に隠していた青い左右の目を公に見せた。
公と魔法使いの視線が交差した次の瞬間には、公は魔法使いに抱いていた不審と恐怖とをすっかり忘れてしまっていた。

「うむ、ご苦労である。 引き続き、我が大義のために力を貸してくれような」
「御意…」

公が言葉をかけ、魔法使いは口元に笑みを浮かべながら恭しく一礼した。





582 名前:(zbg2XOTI) 投稿日: 2004/11/29(月) 20:08 [ TNCDyMAI ]
本スレ書き込めないのでこっちに。
スーパーロボットをどうにか理屈こねて登場させるSS。

「起動コード、emeth、入力。 コード受信確認。 試08式歩行戦車、システム起動します」

重厚なモーター音をハンガー内に響かせながら桜の印をつけたアイアンゴーレムが立ち上がる。
チタン合金とセラミックの複合装甲を身に纏い、強化ガラスで出来た赤い瞳を輝かせ、今一歩を踏み出す。
ゆっくりと片足が持ち上がり、一拍の間をおいて踏み下ろされる。
ズム、という腹に響く音とともに、酷く不快で耳障りな音がゴーレムの膝関節から聞こえてきた。

「右脚部駆動部に過負荷。 バランス修正…不可! …倒れます」

メキメキという音とともにゴーレムの膝が折れ、鋼鉄の巨体は派手な音を立てて横倒しに倒れた。

「停止コード、meth、入力。 システムダウン。 …停止しました」

モニターの前で長い耳の魔法技官がため息をつく。
8度目の起動試験失敗。 陸上自衛隊の歩行戦車…アイアンゴーレム研究は難航を極めていた。


「だから、こんな予算の無駄遣い止めてしまえと言ってるんだ。 魔法技術を取り入れるための研究開発と言ったって、何の成果も出せていない」

休憩室の自販機の前でジョー○アの缶コーヒーを飲み干しながら3尉の襟章をつけた自衛隊員が愚痴をこぼす。
耳の長い帰化人の…エルフ族の女性技官は爽健○茶に口をつけずずずーっと飲んだ。

「結局、作った物といえばアニメもどきのロボットが8台。 全部起動直後に重量オーバーでぶっ壊した。 そもそも、人型のロボットなんかが兵器として実用性に…」
「まあ、私はこうしてこの国に帰化させてもらって、専門の技能も生かすことが出来て万々歳なんですけどねえ」