937 :名無し三等兵:2008/05/15(木) 01:32:57 ID:???
※実は本編自体はプレイした事がありません。関連作品は好きなのですが
  設定を間違って理解していたり、二次創作的な要素が強い可能性があるのでご注意を

           ドラゴンクエストV 外伝 緑の戦士

 「いらっしゃーい」

 アリアハンにある酒場 ルイーダの店は今日も人でにぎわっている。
客層が基本的にかなり偏っているため独特の雰囲気があるが、その空気は活気に溢れている。

 「ん、また新しい客か。今回はどんなのかな…」

 歳の頃なら娘が2、3人もいそうなヒゲの男が、階段ぎわに降りてきて下の様子を伺う。

 (なんだまだ子供か。後ろは強そうだがこれじゃなあ)

 店に新しく入って来たのは、精悍ではあるが二十歳にもならないような若い男を先頭にしたパーティだった。
後ろには太い腕をした格闘家と尖った帽子の魔法使いがいたものの、腕に不安のある若者が
そこそこ強い人間を引き込んでいるようにしか思えなかった。

 男はがっかりして、酒のつまみでも注文してから引き上げようと思い少し逡巡した。
ルイーダの顔をちらりと見てしまったのが原因かも知れない。

 (ああ、早く帰りてぇな・・・)

 彼の脳裏には酒場に来るまでの数日と、来てからの日々が思い浮かんだ。

※今思いつきで書いたのでもうちょっとだけ続くんじゃよ。ごめんなさい  


939 :名無し三等兵:2008/05/15(木) 01:49:05 ID:???
 深い森の中を、そこら中にある緑に紛れるようなまだら模様のものが駆け抜けている。

 背中に大きな荷物を背負い、奇妙な形の槍を持った男は困惑していた。

 (畜生…なんだ、なんなんだここは!)

 自分は山岳レンジャーとして訓練をしていたはずで。
 何か深い溝に落ちるというへまをやらかしたのは事実で。
 
 (でも、何で、俺は、こんなバケモノどもと・・・・戦ってるんだ!)

 男は心の中で毒づきながら走っていたが
 目の前に奇妙なウサギと犬ほどもあるカラスが回り込んで来た。

 (回り込まれたか・・・逃げ切れねえかな?)

 ウサギはからかうように頭の一本角を振り回し、カラスは足に抱えた人間の頭蓋骨を止まり木に鎮座する。
 この数時間で何度か出会っている生き物だったがやはり未だに男は違和感を覚えている。

 まるで道具を使うかのように頭蓋骨を持つカラスはまだ理解できなくもない。
 普通のカラスの倍以上大きいのも、自分の脳が浸透でもしているか認知能力が狂ったと見ればありえなくはない。

 しかし頭から角を生やし、それで相手を突き刺そうとしてくるウサギは最早完全にバケモノとしか思えなかった。
 自分の知っている「野外で捕らえて食える生き物」「帰り道に怪しい親父が売りさばく哀れな生物」
 そんな範疇は確実に超えている。

 (クソ・・・イヤな目つきしてやがる。ど畜生が)

 男は娘にせがまれて行ったペットショップをふと思い出し、苦笑いする。

940 :名無し三等兵:2008/05/15(木) 02:11:21 ID:???
 「お父さん、うさぎさん欲しいー」

 まだ手足もほっそりとした少女は、色々な生き物をきょろきょろと眺めつつも
少しすると大声を張り上げて欲しいものをねだった。

 「ほら、あんまり動くと危ないよ」

 男は娘の危なっかしい視線と体重の移動に注意を送る。小さな子供というのは
そこら中に視線を送ったりやたら注意が散漫なものだ。

 娘に追いついた男はそっとその肩に手をやりながら、しゃがみ込んで柵の前へと進んでいく。

 「どんなウサギさんがいいかなー?」

 たまの休暇に父親としての顔をしている男は、優しげな目つきで目の前の白や茶色の愛玩動物たちを見つめる。

 そこには精兵としての訓練を受けた人間の強烈な光も、眼前の生き物たちを食料として利用するため
骨格や肉づきを確かめる視線もない。
 むしろ普段さびしい思いをさせているであろう小さな娘たちへのパートナーを選ぶための、探るような甘い部分があった。

 うーん、と小首をかしげながら娘は目の前を跳ね回るうさぎ達を見つめる。売れなければ大型の蛇やワニなど
爬虫類の餌食にされる事もある愛玩動物たちは、そんな事など知らないという顔で草を食んだり自分の尻を嘗め回している。

 あっ。小さな声を上げた娘は少し前にある大きなガラスの扉を見つめた。

 「おっきいウサギさん!」

 扉の上隅にはフレミッシュジャイアントと書かれたカードが貼り付けられている。
 ふてぶてしいとも、のんびりしたとも形容できる顔をしたそのウサギは普通の3倍ほどもある巨大な体を伸ばして寝転がっていた。

 「うーん。あれはちょっと大きすぎないかなー?」
 男は名前の下に書かれた数字の桁に少し視線を走らせながら、少しだけ兵隊のような顔つきをして笑う。

941 :名無し三等兵:2008/05/15(木) 02:27:17 ID:???
 だらりとした茶色い肉の塊を思い出したあたりで男はかぶりを振る。

 「グゲェェエエエ!」

 カラスの叫ぶような鳴き声は、男を現実に引き戻した。目の前で撥ねながらこちらを伺うウサギは
やはり先ほどまで思い浮かべていたウサギとは全く違う顔をしている。その目線には暗く淀んだ人間への敵意があった。

 (でもこいつは・・・)

 男は思った。昔山岳訓練で見たクマや子供の頃に出会った野良犬、そうした野獣の目つきとは違う。
米軍施設のどこかで少しだけ触らせて貰ったジャーマンシェパードのような訓練された生物に近い。

 (でもこいつ、なんなんだろう?)

 どこかで訓練された生物兵器にしては動きにむらがありすぎたし、何故か攻撃をしてこない。
そもそも何でウサギに角を生やす意味があるのだろう。もっと強い生き物に・・・・

 「ギッ!」

 相手に対する考察をするほどの無駄な時間は唐突に終わりを告げた。兎特有の跳ねるような素早いジャンプは
体当たりではなく高速の突きとして男に突っ込んでくる。

 身をひねって回避はしたものの、反撃が出来るほどゆったりとした速度でもない。実はこれが狙いなのではないかと思えるほどだった。

 しかしウサギは奇妙な動きをする。なぜか一度の突進の後はすぐに突撃を開始した線へと戻って
また同じように跳ね回り始めるのだ。

 (ほんとに何なんだ・・・)

 この生物の習性なのか、生物兵器としての性質なのか。パターン通りであれば次はカラスだな、と少し考えながら男はまた
次の攻撃を回避する準備に入った。

942 :名無し三等兵:2008/05/15(木) 02:44:38 ID:???
 何とかカラスの突進を捌いた男は、もういい加減に考察にも闘争にも飽き始めていた。
 突然見た事もない生き物に出会った驚き、通信が通じなくなった事への困惑ももうない。

 そして、思い返した娘の顔がこの状況に置かれた男の疲れを全て怒りに転化させていく。

 (もういい加減にしろよ・・・夢だか何だか知らねえが、訳の分からん生き物に付き合ってるヒマはねえ!)

 「消えろ化けモンが!」

 男は叫びと共に手に持った奇妙な槍―銃剣を装着した銃剣―でもってウサギを突き刺しにかかる。
 野生動物と違って脅そうが振り払おうが走り去ろうが延々と攻撃してくるのだ。ならばもう殺すしかなかった。

 掌にあまり柔らかくない肉の感触が伝わる。野ウサギの筋肉などが飼いウサギよりも強靭で柔軟な事はよくあるが
そうした感触とも違う、まるで硬い粘土のような固さが鉄の槍と化した銃器を伝わって男の背筋を通りすぎる。

 一瞬だけ生じた違和感は、しかし自分に対して本物の殺意を向けて追ってきた生物への怒りがかき消した。
手首と腕を使って突き刺したウサギの内側を破壊すべくひねりを入れる。

 会心の一撃!男にはそんな手ごたえがあった。目の前の生き物が命を落としたであろうと確信できる
内臓と骨と筋肉と血管を引きちぎったという意識。(やはり野うさぎのそれよりも妙に硬直したところはあるが)

 蹴りを入れて銃剣を引き出すと、角の生えたウサギは血を吐いてその場で動かなくなる。

 何とかウサギを殺した男は少し構えながら身を引いて、そこでやはり奇妙な感覚に襲われた。

 「なんなんだテメェは」

 叫んだ先にいた大きなカラスは、ただじっと男を見つめていた。
数時間に渡って何故かウサギと協調するような動きを見せていたというのに、だ。

 肉食動物として餌を追っていたなら、ウサギを襲うか隙の出来た男を殺すだろう。仲間であればやはり男の隙を突いたろう。
しかしカラスはただそこに鎮座していた。

943 :名無し三等兵:2008/05/15(木) 02:59:34 ID:???
 今まで感じていた違和感が野獣と生物兵器の差ではないと悟った男は、急に目まいがした。
それが恐怖なのか何なのかは分からないが、この生き物と長く付き合いたい気はしなかった。

 「おらぁっ!」

 追い払おうとして銃剣を当たる距離で振るう。しかしカラスはなぜかかわさなかった。
 それなりの重量がある鉄の棒で殴りつけられたからか、大きく体を揺らがす。

 男の手に伝わったのはウサギの時と同じ感触だった。羽毛に覆われた巨大な鳥とは思えないような感触がある。

 「死ねっ!」

 手に伝わるその感触は男を激昂させた。男は無意識に自分のしている事が
夢の中での行為ではなく発狂した認識によって生じていると感じたのかも知れない。

 狂ったように数度殴りつけると、やはりカラスは動かなくなった。
しかし手に残ったのは、やはり鳥ではなく粘土か何かを殴ったような感触だけだった。

 「ったくよお・・・」

 男は誰にともなく毒づきながら、近くの樹に蹴りを入れた。ストレスの発散だったのか、自分の感覚を確かめるためのものか。
 だがそこでまた感覚に違和感が伝わる。
 分厚い野戦用の靴の底からとはいえ、蹴り足に伝わる樹の感覚は普通の木から帰って来る反動だと何となく分かったからだ。

 「木は・・・普通だな」

 今度は手で木の皮をはがしたりはたいてみたが、やはりそれは木の堅さだった。生木特有の少し湿ったような手触りは
男の体に冷たさを伝えてくる。

 その冷たさは男の手に感覚を取り戻させた。何度も鉄棒を振るった時の熱さも、追撃者との戦いで得た狂いそうな気分も
徐々に森の空気の冷たさが落ち着かせていく。

944 :名無し三等兵:2008/05/15(木) 03:15:41 ID:???
 男は、とりあえず森を抜ける事にした。また訳の分からない生物に襲われたくもないし、
 自分の置かれた現状は常に把握すべきだと思うからだ。
 そしてひたすら走っていた時の事を思い出しつつ現在位置を探ろうとしたが、思い返すと自分が歩いていた森には殆ど段差がなかった事に気づく。

 男は溝から落ちた時にどこか大きな窪みにでも落ちて、ずっとぐるぐる回っていたのかも知れないと思った。
 (生物兵器や夢云々といったような事が何故か排除されている点については、男が常識でものを考えはじめたからだろう)

 深い森の中で堂々巡りして体力を消耗した事にばかばかしさを覚えつつも、自分が居た状況を思い返す。

 (多分山奥のちょっとした台地にでも居るんだろうが・・・あの辺の山はそんなに変な地形でもなかったはずだ)

 訓練前に見た地図や今までの経験上、幾ら堂々巡りでも数時間も適当に走って
ほとんど下り坂にも上り坂にもならない山などはまず考えられない。
 ならば斜面はすぐ傍にあるだろうし、そこから山頂に出れば救助もされやすくなる。

 そして方向を定めようと近くの木に登った所で、男はまたも顔をしかめて目の前に突きつけられた現実を見た。

 木の上から見たあたりの森は、完全な平地になっていたのだ。しかも正面には何故か平原がある。
 そして男の信じていた何かをあざ笑うように、平原の先には西洋の古城のようなものがそびえていたのだった。

 「なんなんだよここは!」

 男は木の上で力一杯叫んだ。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 やたら長くなってしまったので、一旦ここで止めます。数日以内には何とか序盤の回想に繋げようかと…
 書き始め適当だったので迷走してしまってすみません。




476 :FXM ◆9QcJ1MSUKQ :2008/07/15(火) 23:33:42 ID:???
『発砲は許可できない。非武装地帯における交戦規定について、若干の修正作業を進めて
いる。繰り返す、現時点での発砲は許可できない。所定の配置にて待機せよ』
 中東の某国にて平和維持活動に従事する自衛隊は、平和の為の軍隊である。武装ゲリラ
に襲撃を受けた時においても、それは変わりない。風切り音の後、何発目かの迫撃砲弾が
宿舎に着弾し、破片を受けた陸自隊員が絶叫と共に乾ききった大地へ投げ出された。
 彼らは国際社会における自国の地位を維持あるいは向上させるため、戦火の地へと赴く。
そして血税の無駄遣い、人殺し集団の汚名を被って死んでいくのだ。
「畜生……!!」
 資材に挟まれた同僚を救い出した所で、自らも爆風に飛ばされた男が壁に叩きつけられ、
崩れ落ちる。破れた天井から覗く青空が腹立たしいほど美しい。耳をやられた所為か、あ
ちこちで銃声が聞こえる。敵が踏み込んできたのか、味方がとうとう撃ち返したのか、そ
れは解らない。
「しっかりしろ、斎藤士長」
 首根っこを掴まれ、引きずられる感覚を覚えた。薄暗い通路の中、身をよじって自分を
引っ張る人物を見上げる。叩き上げの古参から役立たずの代名詞の如く呼ばれている、防
衛大学校出の幹部候補生。いやに冷たい目を思い出して、咳混じりに苦笑いした。
「まだ……逃げてなかったんスね、天乃曹長……でしたっけ」
「使えない、態度だけ大きなエリートのお坊ちゃんに助けられて不満だろうが、今は耐え
てくれ。こちらの装甲車両は真っ先に破壊されたからな。長丁場になる」
「どうして、そんな事に……ありえないでしょ。索敵は? 援護要請は?」
「襲撃開始から2分間、何もかもが上手くいかなかった。奴らの神のお導きだろうな。
嶽川一曹、どうだ? 他の生存者は?」

477 :FXM ◆9QcJ1MSUKQ :2008/07/15(火) 23:35:24 ID:???
 曹長の前に立って歩いていた男が振り返った。2メートル近いがっしりとした長身で、顔
など岩から削りだしたかのようだ。イメージ通りの声で返答する。
「陸士の衛生要員1人と連絡がつきました。班員を皆やられたそうで、こちらに合流する
との事。……指揮系統の乱れには、目をつぶるほかないでしょうな」
 進行方向側のドアが勢い良く開け放たれ、嶽川と天乃がそれぞれ小銃と拳銃を向ける。
左腕に赤十字の腕章をつけ、大型のバックパックを背負った気が弱そうな青年が両手を上
げた。2つの銃口が下を向く。
「かっ……柏二等陸士です。彼は、負傷しているのですか?」
「心配するな。いきなり吹っ飛ばされて全身痛ぇが、無事だよ」
 天乃の手を軽く叩いて離させ、頭を振りつつ斎藤が立ち上がる。近くで上がった爆音と
震動に各々が身を屈め、傍の機材に身を預ける。
「この建物を……西側のドアから出て200メートルほど行った所にある駐車場で、態勢を
立て直した味方が頑張っているらしい。合流したい」
「合流できるわけないでしょ。敵さん、直ぐに此処にも踏み込んでくるんだろうから」
「嶽川、そこのドアだ」
「はっ」
 斎藤を無視し、落ち着き払った天乃が右手に拳銃を持ってドアノブに手をかける。
薄く開いて少し待ち、小銃の銃口を僅かに差し入れた嶽川が、姿勢を低く保ったままドアを大
きく開いていく。焼け付く日差しと共に、風に乗って敵の言葉が聞こえてきた。
「……訛り過ぎなのか、全然解りませんね」
「理解できない方が心安らぐだろうが、今はマズいな」
 吼えんばかりの歓声と小銃の発砲音の中で囁き合う柏と天乃。不意に、日差しが失われ
た。柏が顔を輝かせる。
「航空機か!」
「音がしねえよ……音が、しねえ」
 辛うじて抱えていた小銃を構え直し、柏を睨む斎藤。訝しげな表情を浮かべ、天乃と嶽川を見遣る。
数秒前の喧噪が嘘のように消えていた。

478 :FXM ◆9QcJ1MSUKQ :2008/07/15(火) 23:36:45 ID:???
「風だ」
 天乃が軽く上げた左手を水平に戻し、嶽川が建物の外へと出る。続いて斎藤と頷き合い、
小銃を構えた彼が屈みつつ嶽川の四角を補うのを確認しつつ、衛生要員の柏を庇いつつ
一歩を踏み出す。暗雲が立ち込め、風がうねる空を見上げた。
「さっきまで晴れてたのに」
 柏の言葉とほぼ同時に、黒雲の内部に青白い光が生まれた。直後、稲光がその場にいた
全員の視界を覆い尽くす。
「倉庫へ戻れ!」
 天乃の声を最後に、大音響と閃光が全ての感覚を遮断した。

――お前の親父は自衛官の恥さらしだ、天乃!――
「……」
 うつ伏せで倒れていた天乃が、ゆっくりと薄目を開ける。口を開けて気絶していたのか、
下草を口に入れていたようだ。舌を出して唾を吐き、起き上がる。ブーツがぬかるんだ地
面を踏みしめ、水音を立てた。
 乾ききった中東の大地ではない。天国にしては不快指数が高過ぎる。地獄というには快
適だ。濃い霧が立ち込め、50メートル先も見えない。腐りかけた木の板で造られた簡易な
路が横にあり、松明の灯がぼんやりと揺らめいている。
「斎藤! 嶽川! 柏!」
 近くで同じように伸びていた3人に呼びかける。呻きつつ、大儀そうに身体を起こす各々。
柏が自分の頬をつねり、斎藤が疲れた笑い声を上げ、嶽川が小銃を手元に引き寄せた。
「面倒な事に、なった」
 天乃はそう言って、腕を組み澱んだ空を見上げる。巨大な鳥が怪声を上げて横切り、少
し離れた所にやはり巨大な白色の糞を落とす。腐り切った木板に当たり、融解させた。


499 :FXM ◆9QcJ1MSUKQ :2008/07/16(水) 20:03:49 ID:???
「課題は幾つもあるが、まず此処がどこであるかを確かめるべきだと思う」
 天乃の言葉に、バックパックを足元に置いた3人が頷いた。澱んだ空の向こうで、太陽
がぼんやりと光っている。付近の湿地帯を流れる小川の音が混じり合い、犬か狼の声が響
いて、柏が神経質そうに辺りを見回した。
「この木の板と柱で造られた道が向こうにもあるが……そちらはよく整備されている。泥
が付着した足跡もあったから、しばしば使われていると推測して良いだろう」
 霧が深まった方を手で示した。光が3つ、間隔を置いて道を作るように揺れている。
「木材で道を造り、ブーツを履き、火を使う複数の知的存在が近くにいる可能性がある。
それを調べる事が、現状把握の近道と言えるだろう。質問、提案は?」
「はーい。言葉、通じますかね? さっきのデカイ鳥とかテレビでも見た事無かったし」
 呑気に手を挙げ、天乃に指差された斎藤が問いかける。
「それについては全く分からない。出来れば友好的な関係を形成してコミュニティを利用
する所までいきたいが。このままでは原隊復帰どころではないからな」
「……そうスね。つまんない事聞いちまった。以上でッス」
「いや、重要な事だ。他に何も無ければもう一つ決めたい。リーダーだ」
 かぶりを振った天乃が、そう言って3人を順繰りに見遣る。
「状況が状況だ。いざとなった時、君どう思う?などとやっていては全滅しかねん。4人
全てに責任を持つ者を、予め立てて置かなければ」
「はい。それは、天乃陸曹長では無いのですか? この4人中、最高位ですし」
 挙手した柏を差した天乃だが、今度は即答を避けた。顎に手をやって唸る。
「どうかな。僕は大学を出たばかりで色々経験が浅い。慣例に則って階級で決めていい事
かどうかは、疑問だぞ。嶽川一曹が適任じゃないかと思うが、どうだ?」

500 :FXM ◆9QcJ1MSUKQ :2008/07/16(水) 20:04:55 ID:???
 小銃を抱え、岩のように押し黙っていた40半ばの巨漢が顔を上げた。首を横に振る。
「こういう状況でこそ階級を重視すべきだと思います、陸曹長。中途半端に実力主義を導
入すれば我々、己の存在を誇示する為に軽挙妄動に走る恐れがあります。そして此処が何
処であるかも解らない以上、私の経験がどこまで通用するか不明ですので」
「一曹に賛成スね。大体こんな所で俺、他人の生き死に責任なんざ取りたかねえし。言う
事を聞いて死んだ方が楽じゃないスか?」
 肩を揺らして笑う斎藤を横目で睨み、嶽川が頷いてみせた。柏も首を縦に振る。
「……解った、期待を裏切らないように奮闘努力する。集団行動についての決定は、全て
僕がやる。ただし、提案する事を忘れないでくれ。常に思考を停止させないように。良い
か? 君達は何の責任を感じる事なく、自分の考えを全員と共有してくれ」
「「「了解」」」
 姿勢を正し、踵を合わせて敬礼する彼らに、天乃も返礼した。

「斎藤、確かにこっちだろうな!」
「任せて下さい陸曹長。俺、耳は良いんです。悲鳴でした! 残念ながら男の!」
 小銃を持った斎藤、嶽川が前に、武装が拳銃のみの天乃、柏が時折背後に気を配りつつ、
木製の路をひた走る。軽薄な態度を消し去った斎藤が、天乃に答えて左右に視線をやる。
やがて地面にブーツが触れ、足音が変わった。
「止まれ……! 茂みに身を隠せ」
 視界が開け、土と下草と樹以外の物体が見えた瞬間、天乃が押し殺した声で命じた。
こげ茶色の外套を着た男が伏せ、大声で叫んでいる。銅貨と銀貨が散乱し、左脚が赤く染
まっていた。すぐ傍で横倒しになった荷車に、何かがへばりついている。
 青灰色の人型だった。手足の先に水かきを持ち、外側へ飛び出した大きな両眼が蠢く。

501 :FXM ◆9QcJ1MSUKQ :2008/07/16(水) 20:05:34 ID:???
 外套姿の男が更に叫んだ。
「助けてくれ! 誰か、誰か助けてくれええ!」
「うおっ!言葉、通じてやがる……! 日本人には見えませんがね。どうします?」
 茂みから小銃の銃口を突き出した斎藤が、人型の首に狙いをつけつつ囁く。
「発砲は待て。光もそうだが、音が大きい。響き渡るぞ……嶽川、斎藤」
 小銃を持った2人に呼びかけ、天乃がそっと茂みから身体を出す。倒れている男が、這
って逃げようとしていた。拳銃の銃身を握り込む。
「僕が指示するか、僕に何かあるか……止むを得ない場合は撃て」
「隊長自ら、何を?」
「最大のリスクは、僕が引き受けるという事だ」

 鉤爪で革袋を引き裂き、中からひと抱えもある石が転がり落ちた時、その化け物は両手
で掲げて『歌った』。口の中で絡まるような旋律を奏で、分厚い唇で青く光るその石にキス
をし、ぬめった身体で抱き締めて舐め回す。
 鈍い殴打音と共に身体が傾ぎ、石を取り落とした。尻餅を突き、怯えたように後ろを振
り返る。相手が人間だと知って声を高め、両眼が大きく見開かれた。
「悪いな。スポーツをやる気はないんだ」
 その目に映ったのは、唇の両端を吊り上げて拳銃を振り上げる天乃。横殴りの一撃で骨
が砕ける音が上がり、化け物は泥濘に倒れ伏す。体表面に青灰色の泡立ちが生まれ、ゆっ
くりと身体が崩れていく。ついに地面に吸い込まれ、粘液に塗れた石のみが残った。


508 :FXM ◆9QcJ1MSUKQ :2008/07/17(木) 18:45:11 ID:???
 外套の男は商人を自称した。応急処置を施した柏に肩を借りて歩く。フォアグリップ付
きの小銃を構えた嶽川が先頭に立ち、その斜め後ろでダットサイトを備えた同じ89式を持
つ斎藤が死角をカバーする。
「本当に助かった! あんた達が後少し遅れたら、どうなっていたか……!」
「いえ、これが任務ですので」
「任務? 何のだ?」
 幸いにも何処も壊れていなかった荷車を引く天乃が、しまったという表情で口元を押さ
えた柏に溜息をついた。斎藤が喉の奥で低く笑い、嶽川に小声で叱責されて首を竦めた。
売り物だった縫い針と糸で補修した革袋の奥で、大きな石が脈打つように光っている。
「おぉ、あんたがたは兵士か何かか? 髪型と身体つきはそれっぽいが」
「はい。詳しい内容は申し上げられないのですが、現在本隊とはぐれ、復帰の手段を探し
ています。この……此処は何という場所でしたか? 派兵されたばかりなもので」
 天乃が外向けの紳士的な微笑を浮かべると、商人は笑顔で応えた。
「3年前に、学者先生がミムール湿原と名付けた。だが此処ではぐれたとなると、探しには
来ないんじゃないかと思うがなあ……ちなみに、今はホブル村という集落に向かっている」
「ホブル村、ですか。探しに来ないというのは、なぜでしょう?」
 問いつつ、天乃は右側に視線をやる。牛のような生物の死骸に、カラスのような鳥が群
がっていた。ぬかるみに骸を半ば沈め、腐敗臭が酷い。
「ここが、さっきみたいなドロナーどもの巣だからだ。わしも宿場町で護衛を雇えば
良かったよ。ケチる所を間違えてしまった……しかし、ばかに言葉が丁寧な兵隊さんだね」
「丁寧? 丁寧というニュアンスまで伝わるのか。ほぼ完全な翻訳だな……」
 呟く天乃に首を捻った商人だが、思い出したように手を叩く。
「そうだ、さっきの変わった形の棍棒は物凄いな!ドロナーを滅ぼすとは!」
「これですか? そう頑強な敵ではありませんでしたが」
 ホルスターに収めた拳銃に触れると、商人は何度もかぶりを振る。
「奴らは精霊の一種だ。殴ろうが刺そうが切ろうが、一度倒れても再生して起き上がって
くる。ここの水をそのまま飲んだり、奴らに殺されて心臓を食われた人間が変異するんだ。
……水は、大丈夫だろうね?」

509 :FXM ◆9QcJ1MSUKQ :2008/07/17(木) 18:45:49 ID:???
「問題ありません。手持ちは残り僅かですが」
「ほっとしたよ。跳ねて口に入るくらいなら良いんだがな……」
「隊、いえ曹長」
「どちらで呼んでも構わないぞ。どうした?」
 嶽川が小銃を向けた先を天乃が見遣る。濃霧越しに松明を持った人影が2人見えた。
建物の影が、薄暗く覆い被さっている。
「村に着いたか。我々はどうしたものだろう……」
「あんた達は命の恩人だ。入れるよう交渉してきてやるよ。……大丈夫、大丈夫だ」
 進み出ようとする柏を押しとどめ、包帯を巻いた足を引きずりつつ商人は離れた。

「精霊とか、心臓食われるとか……この光ってる石とか。もう大変ッスね」
 商人が霧の向こうへ行くと、斎藤が苦笑いした。革袋の中から覗く青い石を顎で示す。
「ああ。こんなに早く、しかも一見したところ友好的な住民に接触するとは」
「我々の持つ武器についても、説明を考えねばならんでしょう。服装や、知識の無さも」
 嶽川が言って、小銃をちょっと持ち上げて見せた。頷く天乃。
「ところで君達、予備弾はどれほど持ってきた? 僕は小銃のを2つ、拳銃のを2つだ」
「アッハハ、集め過ぎッスよ曹長。俺は小銃のを1つです。咄嗟に抜き取ったもんでね」
「自分は小銃弾倉を3つです」
「……面目ありません、ゼロです」
 俯き、消え入りそうな柏の声に顔を見合わせ、3人は頷く。確かに彼は殺された同僚の懐
を漁ったり、身を守るより先に物資を掴み取ったりしそうには見えなかった。そして天乃
と同じく拳銃しか武器がない柏だが、代わりに背負った大量の医療物資がある。
「気にするな、柏。後ほど分配する。補給はほぼ絶望的なので、射撃はセミオートで行う事が望ましい。勿論、弾を惜しんで命を落とすわけにはいかないが」
「ちらっと話聞いた限り、銃撃戦にはならないでしょ。撃ちまくるわけでも無いしー」
「だと、良いが。……戻ってきたな」
 歩み寄る商人が、笑顔で手を振っていた。

510 :FXM ◆9QcJ1MSUKQ :2008/07/17(木) 18:46:49 ID:???
「私の方からも感謝したい、兵隊さん達。彼が持ってきたマナ・クリスタルがあれば、村
の浄水装置の寿命が、後4カ月は延びる」
「マナ・クリ……浄水……? ああ、あの噴水のような機械ですか。僕の故郷では見ない形
だったので。いや、お役に立てて何よりでした」
 村長の家に招かれた天乃は、そう言って深く頭を下げた。3人もそれに倣う。
「貴方がたが通ってきた街道に沿えば、2週間ほどでカルディア城下に着くだろう。だが
この季節はドロナーが大量発生していてね……4、5日滞在されて、様子を見られては?」
「それが叶うならば有難いです。ところで、行商人の方は?」
「村の医者が診ているので大丈夫だろう。彼は治癒魔術が使える学者先生でもあるんだ」
 誇らしげに胸を張る初老の村長に笑い返し、新出単語を頭の中で整理しようとする天乃。
「ところで、兵隊さん達はこの辺りに慣れていないのだろう? 村外れの精霊師にこれを
持っていくついでで、話を聞いてみてはどうかな? 小さな橋を渡った先なのだが」
「精霊師、ですか」
 再び出てきた解らない単語を反芻しつつ、天乃は受け取った革袋を小さく開ける。
「……解りました。訪ねてみます」
 毒々しい色の液体を入れた瓶を束ねる木製のスタンドから顔を上げ、彼は頷いた。


521 :FXM ◆9QcJ1MSUKQ :2008/07/18(金) 19:37:36 ID:???
「意外なほど指摘されませんな。我々のアサルトライフルや、戦闘服について」
「ライフルはまだ一発も撃っていないし、弓機構が壊れて解体したクロスボウ程度に思わ
れてるかも知れない。服は……いやそれよりも、こちらが突っ込みたい気分だ」
 革袋を両手で持った天乃が、斜め後ろで随行する嶽川を振り返ったついでに目線を上げ
る。村の三方には強酸性の糞を落とす巨大鳥を防ぐ為か、カラスと人間を掛け合わせたよ
うな模型が置かれ、嘴が空に向かって開かれていた。家屋の屋根には植物の蔦が絡みつい
ており、軒下では老婆が泥の取れていない野菜を広げている。
 粗末なサンダルを履いた子供達が、棒きれで地面に絵を描いていた。湿原で見た霧は
村の中にまで入り込んでおり、濃霧の向こうでは紫や緑の大きな光がゆったりと漂って
いた。湿原から流れ込む3本の小川は簡易な河川工事が施され、村の中央にある噴水に
似た浄水装置を経由させられている。
 装置の柱表面が脈打つように青く光り、透き通った水が吐き出されるのを見た天乃が唸
った。手伝いをさせる為に柏と斎藤を遣った医者の家を一瞥し、再び歩き出す。
「魔法や精霊がごく当たり前に存在し、また認知され、それらを利用した技術まである。
局所的に見れば、僕達の世界より進んでいるかもしれない」
「これほど高度な機械を村に導入できるのに、人々の生活水準は高くないようですが」
「社会・経済の特徴かもしれない。格差を容認する文化があるのかも。身分制とかな」
「は……」
 天乃の言葉に同意を示した嶽川は、若い幹部候補生の背中を見遣る。経験が浅いにも関
わらず、天乃は気味が悪いほど落ち着き払っていた。リーダーなので冷静沈着である事に
越した事は無いのだが、冷静なだけとも思えない。
 抱えた小銃を握り直しかぶりを振る。少なくとも今は、己の上官に疑問を抱く余裕など
無いのだ。村外れに住む精霊師の小屋へと続く橋に足をかけると、嫌な軋みを上げた。

522 :FXM ◆9QcJ1MSUKQ :2008/07/18(金) 19:38:49 ID:???
「失礼します、アボーラさん。御在宅ですか?」
 おどろおどろしい仮面や、乾した翼持つ小動物などが屋根の下に吊り下げられた小屋の
ドアを叩く天乃。沼地の岸に建つこの家は、丸太を組んだ床板と4つの柱によって構造を
維持している。霧はますます深まり、村人がドロナーと呼ぶあの青灰色のヒューマノイド
が、今にも霧を掻き分け現れそうな場所だった。
 つっかい棒を外す音と何かの呪文を唱える囁き声が聞こえた後、濁った灰色の目をぎょ
ろつかせた皺だらけの老婆が顔を出す。実験用アルコールに何かおぞましい物を混ぜたよ
うな不愉快な臭気が漏れ出し、天乃は咳払いした。
「ううぅーむ? 水かきも鉤爪も持っちゃいないねえ、お入り。お入りヨォ……」
 背骨の曲がった身体を黒いローブで包み、老婆は奥へと戻っていく。嶽川と顔を見合わ
せ、頷き合った天乃が足を踏み入れた。小さな天窓が開いているが、湿原全域に覆い被さる澱みが、
換気を妨げている。
「それで?蛙の毒にでもやられたかい? 明る過ぎる緑には注意しろとあたしは言ったよ。
それともマダラヒモに食らいつかれたかい。首を刺されたら諦めな……イヒヒッ!」
「行商人の方から、これを預かってきました」
「ほほう、となるとあんたが……例の戦士だね? 村長の遣いから聞いたよ」
 ひきつるような笑い声を上げ、天乃の手から革袋をひったくる老婆。口を開けて中身を
改めると、床に座り込んだ後に袋を自分の背後へ押しやった。
「ばかに短い棍棒で、ドロナーを滅した男と言っていたねえ。そいつを見せてごらん」
 嶽川の持つ89式を凝視しつつ、老婆は天乃に手を差し出す。ホルスターから拳銃を抜き
取った天乃が、老婆の前に差し出した。
「触れても構わないかい?」
「ご遠慮下さい。他人に自分の武器を触れさせたくないのです」
「ヒッヒ、よろしい」
 座ったまま身を乗り出し、眼球が飛び出るのではないかというほど目を見開いた老婆が、
舐めるように9ミリ拳銃を観察する。生暖かい鼻息が手に触れても、天乃は眉ひとつ動かさない。
やがて老婆は姿勢を直し、裾を軽く払った。

523 :FXM ◆9QcJ1MSUKQ :2008/07/18(金) 19:39:35 ID:???
「変わった武器だが、どう使ったかは解るよ。穴の開いた棒だか筒だかを掴んで、この突
き出た場所を叩きつけた。当たったろう?」
「はい、お見事です」
 笑みを浮かべる天乃。上機嫌で床を叩く老婆。
「ヒッヒ! そりゃあ解るとも。臭いがこびりついているからねえ」
「臭い? 特には……」
「あんたの臭いだ。あんたの魂に、この棍棒で命を断つ姿が焼きついておる!」
 前歯が抜けた口を一杯に開き、老婆は天乃に向かって骨ばった指を突き出した。
「よくお聞き。精霊を殺す方法は基本的に2つ。魔術によって精霊と現世を繋ぐ帯を断つ
か、魔力か対抗する精霊の加護を受けた武器で、精霊の魂を壊すかだ。しかし極稀に、存
在そのものが精霊を殺す武器となる人間が現れる!伝承はそれを『リーパー』と呼ぶ!」
 血走った瞳が興奮を示している事は明らかだった。ホルスターに拳銃を戻した天乃が、
戸惑ったように視線を泳がせる。嶽川がそっと小銃の銃口を上げた。
「その武器を手放すでないよ。強力な呪物だ。あんたにとってのみのだがねえ」
「アボーラさん、何を仰っているのか僕には……」
「凝り固まった強い憎しみと怒りが、人間をリーパーに変える事がある。あんたの場合は
その好例だ。殴り殺す様が、魂に刻まれておると言ったろう! あたしには解る!あんたは、
その武器かそれと同じ形の武器で、人を殺めておる! 憎しみのままにな!!」
 天乃の左眉が持ち上がり、嶽川が眉間に皺を寄せた。一種のトランス状態に入っている
のか、年老いた精霊師はけたたましく笑い続ける。
――頼む。やめてくれ、天乃……許してくれ……!――