345 名前:物語は唐突に :03/12/25 00:21 ID:???
 魔法テロ。
 平成19年9月11日の悪夢。
 1930人の国民の命と、100名を超える警察・自衛隊の殉職者が出た。

 そして、5000名を超える国民が国外に拉致された。

 政府の決断は早かった。
 おそらく、あのアメリカ政府でさえも及ばないであろうほど早かった。 
 ただちに臨時編成の混合一個師団がでっち上げられ、隣の国であるオーラム共和国に出動した。
 いつの間に整えられていたのかは知らないが、増槽をつけたF−15Jがこれまたいつの間に装備されたのか知らない誘導爆弾で空爆を行った。

346 名前:物語は唐突に :03/12/25 00:23 ID:???
 1、自衛官が危険であると判断した場合には無力化を許可する。
 2、余力がある場合には捕虜をとることを許可する。
 3、それ以外は現地の判断に任せる
 とされたROEと呼べるのか怪しい行動基準で、俺達陸上自衛隊はオーラムの大地に立った。
 最初のうちこそ戸惑っていたが、国民の期待を背負っているという自覚と、殺らなければ殺られるという極限状態が俺達を戦場に慣れさせた。
 

347 名前:物語は唐突に :03/12/25 00:24 ID:???
 さて、派遣部隊に運悪く所属していた俺が今何をやっているのかというと、死亡状況の上位に位置する夜間歩哨だ。
 正直なところやりたくはないが、だからといってローテーションで周ってくるこれを避ける事はできない。
 唯一の方法は重症を負って後方へ戻される事だが、俺が我儘を言えば誰かが嫌な思いをするだけだし、第一戦友を見捨てて自分だけ逃げ帰るのは性に合わない。

「おい」

 そういうわけで、俺は今回もローテーションに従って夜間歩哨を行っている。
 願わくば、何事も起らない事を・・・

「おい」

348 名前:物語は唐突に :03/12/25 00:27 ID:???
「なんだよ」

 うんざりしながら相方の方を見る。
 最近補充でこちらへ来たばかりの新卒の一等陸士。
 大きな態度と、喰らった『教育』の数だけが自慢のどうしようもない好景気特有の新兵。
 だが、暗闇でも分かるその青ざめた表情が、いつもの無駄口ではないことを物語っている。

「物音、聞こえなかったか?」

 相方が89式小銃の安全装置をできるだけ音を立てないように解除する。
 それを見て俺もそれに従う。
 ROEは派遣当初と同様、夜間歩哨は以前習った原則が適応されなくなっている。
 つまり、侵入者を見つけたら、撃ち殺せ。

349 名前:物語は唐突に :03/12/25 00:28 ID:???
「おい」

 急に騒がしくなった司令部内で、何を思ったか赤いジャケットに報道と白い腕章をした三人組が密談をする。
 三人は、本土から久々にやってきたテレビ局の取材班であった。
 マスコミ各社は最初こそ報道合戦をやっていたものだが、自衛隊の護衛班を出し抜いて潜入取材をしていたクルーが全員殺害されてからは、さしものマスコミ関係者達もオ

ーラムに行く事を躊躇していた。
 そのため、彼らの姿は最近にしては珍しいものであった。

350 名前:物語は唐突に :03/12/25 00:29 ID:???
「侵入者だってよ」

「と、言う事は、自衛隊員による殺戮のシーンが取れるわね。
 これはいいわ、食べ物を求めて決死の侵入を図った民間人を自衛官が殺戮。どうせ大衆はキャプションをつけておけばそれがゲリラかどうかなんてわからないだろうし。さあ、あなたたち、行くわよ」

 どうして上層部が許可したか分からないこの左な人たちは、お目付け役の三等陸曹が席を外した隙に、夜の闇へと駆け出していった。
 ジャケットと腕章のお陰で誤射はさすがにされないが、あちこちの銃口が一瞬狙ってしまっては、慌ててその筒先を向けなおすという情景に気づけたら、彼らは決してそんなバカな事はしなかっただろう。

351 名前:物語は唐突に :03/12/25 00:30 ID:???
 まあそれはともかく、一同は自衛官達が集まっている場所へとやってきた。
 中古屋で購入した暗視装置を装着し、数百万円もする暗視機能付きカメラを構えた彼らは、狙われている対象がなんであるかに気がつくと一気に距離を詰めてライトを焚いた。

「!?」

「ご覧下さい!自衛官達が銃で狙っているのは可哀想な子供達です!一体彼らは何を考えているのでしょうか!?信じられません!」

「報道を中止しろ!さもなくば射殺する!ライトを消せ!警務隊!」

 一気に自衛官達が群がり、三人を制圧するとライトを破壊する。
 そして、警務隊員が駆けつけ、三人をロープで捕縛すると委細かまわずに引きずっていった。

352 名前:物語は唐突に :03/12/25 00:32 ID:???
 それを見送りもせず、一同はゴミ捨て場のほうに意識を集中した。
 そこには、ゴミ捨て場の残飯をあさりに来てこの騒ぎに巻き込まれ、声も出ない程に怯えている二人の幼い女の子の姿があった。
 一人の一等陸士が当然のようにカメラを構え、他の一士が同様にマイクを向ける。

「さあ、もう大丈夫だ。安心して」

 壮年の二等陸曹が現地語を喋りつつ笑顔で近寄る。
 戦闘服を着てはいるが、小銃も銃剣も短銃も持っていない。
 そして、丸腰である事を示すように両手を前に出して掌を開いている。

「おじさんは君達の言う異世界の兵隊さんたちだ。でもね、おじさんは何もしないよ?」

 ゆっくりと、怯えさせないように、しかし確実に距離を詰める。

「食べ物が欲しいのかな?それじゃあ、お菓子をあげよう。ほうら」

 どうやら手品の心得があるらしい、その手から花が現れる。

「あ、あれ?・・・えい」

 今度は万国旗が出てきた。

355 名前:物語は唐突に :03/12/25 00:37 ID:???
「えい!えい!」

 人形が、帽子が、次々と飛び出すがお菓子は現れない。
 焦る陸曹を見ていた子供達の口が、徐々に笑い始めた。

 クスッ・・・クスクス・・・・

 先ほどの怯えはどこへ行ったのか、二人の女の子は、その外見に見合った可愛らしい笑みを浮かべて笑い始めた。
 それを見ていた陸曹も、どうやら今までの失敗は演技だったらしく笑みを浮かべる。

「さあ、おじさん達の食堂に案内してあげよう。こっちへおいで?」

「はい」「はーい」

 彼に好感を覚えたらしい二人の女の子は、愛らしい声でそう答えると、小走りで彼へと駆け寄っていった・・・

356 名前:物語は唐突に :03/12/25 00:39 ID:???
 怯える女の子たちに笑顔の自衛官が丸腰で近寄る。
 ナレーターが魔法を使うのには素質のみが必要で、つまり目の前の女の子達が魔法テロを企てていないという証拠はどこにもないことを告げて恐怖感を煽る。
 その間に、自衛官は手品を披露し、なんとか二人の表情を恐怖から笑顔へと変えようと苦労する。
 解説者がこの光景は軍隊としてはあり得ないが、しかし甘いながらもこの姿勢を自衛隊が行っている事に関して好意的な意見を述べる。
 女の子達は、自衛官の言葉に笑顔で頷くと、小走りで彼に近づき、そして談笑しつつ食堂へと向かって行った。
 あの日撮影された中で、放送されたのは以上で全てである。

「・・・かくして、派遣自衛官達と地域住民たちとの奇妙な共同生活は幕を開けたのでした。
 当番組では、視聴者の皆様のご意見ご感想をお待ちしております。それではまた来週、この時間にお会いしましょう」

 嫌な笑みを浮かべつつテレビの電源を切る。

「三佐殿、夕刊です」

 部下の三曹が夕刊を持ってくる。
 一面トップにはこう書かれていた。

「赤日テレビ取材クルー3名、潜入取材を試みて全員殺害!」

367 名前:物語は唐突に :03/12/25 02:06 ID:???
「気をつけ!」

 会議室に指揮官が入ると同時に、入り口横に立っていた幹部が叫ぶ。
 だらけた感じで座っていた自衛官達が立ち上がり、敬礼をする。
 答礼しつつ、指揮官は書類鞄から何枚か書類を出すと、演台に立った。

「楽にしてくれ・・・
 さて、今回の任務だが、諸君らも既に知っているとは思うが、先日の日航ジャンボ機不時着事件の生存者救出だ」

 その言葉に会議室内の空気が引き締まる。
 どの顔を見ても、責任を果たさねばという決意と、国民を窮地から救出せねばという義務感が感じられる。
 良い表情だと指揮官は思った。
 国を護るべき軍人は、こういう表情をしていなければな。

368 名前:物語は唐突に :03/12/25 02:08 ID:???
「作戦を説明する。
 場所は魔法都市ネリェントス。建物の場所はここだ」

 スクリーンに市街地の航空写真が写る。
 それは、都市のちょうど中心部に位置する建物だった。

「建物は二階建て。武装した兵士が数多く確認されている。
 が、武装したところで所詮は剣だ。律儀に銃剣で相手をしなければ問題はなかろう」

 室内に笑みが広がる。
 自衛隊初の大規模な市街戦に緊張していた面々であったが、よく考えてみれば所詮は中世レベルの技術力しかない連中である。
 ソマリアに行った米軍とは状況が違うのだ。

「街路が狭すぎるために90式は同行できない、主に軽装甲機動車と96式装輪装甲車に分乗しての進撃となる」

 中世レベルとはいえ、弓矢は十分すぎる脅威だ。
 そのため、幌を使用している73式トラックは兵員輸送には適さない。
 目的地に到着したはいいが、乗っていた兵士が全滅しているのでは話にならないからだ。
 しかし、慢性的な予算不足に苦しむ自衛隊に、輸送車両全てを装甲化するなどといった妄想を実現する事など不可能だ。
 結果として、幌の内側に機動隊の盾を満遍なく貼り付けた『73式中型トラック改』が走り回る事となる。

369 名前:物語は唐突に :03/12/25 02:12 ID:???
「現地に到着してからは、突入班と警戒班に分かれてもらう。
 突入班に関しては、現在別室にて説明中だ。
 さて、警戒班だが、動くものは全て撃て。捕虜を取るな、捕虜になるな。簡単だろ?」

「やべぇな」

 指揮官の言葉に思わず声を漏らしてしまう若い陸曹。
 このセオリーは自衛隊のROEとして定着しつつある、しかし、そうは言っても今回は草原での決戦ではない。
 いつどこから弓矢やファイヤーボールが飛んでくるか分からない市街戦だ。
 魔法使いは、数名いるだけでも普通科には十分脅威なのだ。
 それなのに、今回の作戦地は『魔法都市』おまけに市街戦だ。 
 一体どれだけの損害が出るのだろうか・・・ 

370 名前:物語は唐突に :03/12/25 02:14 ID:???
「質問してもよろしいでしょうか?閣下」

 いかにも叩き上げといった風格の二尉が手を挙げる。

「どうぞ」

「ヘリボーンは不可能なのでしょうか?」

 その言葉に数名の自衛官が「そうか」とか「習志野の連中なら」と呟く。
 陸上自衛隊最強を誇る習志野空挺団ならば、今回のミッションをこなしてくれるのではないか?
 皆の脳裏にそんな希望が現れる。
 どうしようもない状況だから出撃する事には本心から納得できるが、他に最善、もしくは次善の策があるのならば、そちらをやってもらいたいと言うのも彼らの偽りのない本音である。

371 名前:物語は唐突に :03/12/25 02:16 ID:???
「検討はされた、しかし、その案は却下された。
 使えるヘリがほとんどないんだ。それに、装甲車両ならまだしもヘリコプターではファイヤーボールの直撃には耐え切れん。
 それと、忘れているものが多いようだが、空挺団は現在再編成のために本土に帰還している」

 指揮官の言葉に室内は静まり返る。
 前線の部隊では、部品不足から禁忌とされた共食い整備までやっている状況で、まとまった数のヘリコプターなど用意できるはずがない。
 実際、自分達が使用する車両だって用意できたのが奇跡なようなものなのだ。
 そして、空挺団の帰国。
 指揮官に言われ、やっと思い出した事実だが、彼らがなぜ再編成を行っているか?
 士気が下がりすぎ、戦闘の継続が困難になってしまったからだ。

372 名前:物語は唐突に :03/12/25 02:19 ID:???
 軍人が幽霊を怖がる理由は、鍛え上げられた肉体や、自動小銃では対処の仕様がないからだ。
 という意見が出たのは国内最大級の某掲示板だが、実際にもそういった意見はある。
 人間相手ならば鬼神のごとく暴れまわる彼らも、魔法や魔物といった化け物相手ではむしろ蹴散らされてしまう。
 そのような状況で士気など維持できるはずもない。
 そして、優秀だからという理由であちこちに派遣された空挺団は、大方の予想を裏切って再編成となってしまったのだ。  
 
「さ、さて、行き帰りのルートは最短のこれだ」

 空気を変えるべく、指揮官は話題を変える。
 士気が下がった状態での戦闘は避けなければならない。
 しかし、会議が終わるまでの間、微妙な重い空気が消える事はなかった。


435 名前:物語は唐突に :03/12/26 17:41 ID:???
神基暦2129年 5月22日0529 魔法都市ネリュントス郊外

「陸将閣下、お時間です」

 郊外に設けられた救出部隊本部に副官の声が響く。
 無線の空電音こそ流れているものの、そこは自衛隊の指揮所として使われているとは思えないほどの静寂に包まれていた。
 無理もない、自衛隊始まって以来の大規模な市街戦。おまけに相手は一人いるだけでも脅威と言われる魔法使いの大群が住む『魔法都市』だ。
 そこへ行って300名を超える人質を助け出さねばならない。
 多くの犠牲者がでるだろう。何が起こるのか皆目見当がつかないのだ。
 誰もが不安になっていた。

「うん」

 頷いた陸将は、覚悟を決めた者にのみできる表情を浮かべつつマイクを取った。
 一点の曇りもない、とはお世辞にもいえない。
 しかしその表情はただ不安に怯えているわけではないことを窺わせた。

436 名前:物語は唐突に :03/12/26 17:47 ID:???
「諸君、おはよう。救出部隊指揮官の斉藤だ」

 そこで言葉を切ると、斉藤は本部天幕の中を見回した。
 誰もが真剣な表情で斉藤の事を見ている。
 恐らくは無線で声を聞いている隊員達も同様だろう。
 正直なところ、斉藤は怖かった。
 自分がこれから下す命令で、多くの自衛隊員が倒れる事になる。
 しかし。
 宣誓を思い出す。

 事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に努め、もつて国民の負託にこたえることを期するものとする。

 今こそその時なのだろう。
 今までの楽な戦闘とは違う、あの悪夢のソマリアが、もう間もなく再現されようとしているのだ。
 だが、あそこには恐怖に震える日本国民たちが大勢残されているんだ。
 俺達が、行かなければならないんだ。

437 名前:物語は唐突に :03/12/26 17:54 ID:???
「今こそ宣誓を果たすときが来た!
 あの都市に捕らわれているであろう300名を超える人々が我々を待っている。
 護るべき人々はあそこにいる!そして我々はここまできた!後はあの薄っぺらい壁をぶち破るだけだ!!
 諸君!魔法使いとやらに我々の底力を見せてやれ!そして、絶望に打ち震える日本国民たちを一刻も早く救い出してくれ!!
 エンジン始動!弾を込めろ!!初弾装填!!!自衛隊の恐ろしさを思い知らせてやれ!!!!
 さあ、作戦開始時刻となった。速やかに状況を開始せよ。以上だ」

「各部隊は所定の方針に従い、速やかに状況を開始せよ!!」「本土へ打電!我、状況ヲ開始セリ0530」
「第七師団の先遣隊はどこまで来ている!?」「各隊へ、5分毎定時報告を怠るな!」

 一気に騒がしくなった指揮所内で、陸将の心は一人沈んでいた。
 自分の演説で部下達の士気は確実に上がっただろう。
 しかし、今日の日没までに一体そのどれだけが生き残れるのだろうか?
 機密になっている内局の概算では、損耗率39%以上と出ていた。
 冗談ではない。損耗率39%?壊滅的な打撃ではないか。
 それでも送り出さねばならない。
 あそこには民間人がいて、助けを求めている。
 そして、それをできるのは俺達自衛隊しかいないんだ。
 しかし、それでも・・・
 彼の苦しみは、残念な事に始まったばかりであった。


454 名前:物語は唐突に :03/12/27 02:12 ID:???
同日0603

「レスキューベースへ、こちらレスキュー01、間もなく城壁に到達する、送レ」

<了解レスキュー01、こちらレスキューベース。速やかに突破せよ!、終ワリ>

 日ごろは奴隷や実験体を満載した馬車が行き来している道を、一列に並んだ車列が驀進している。
 その数20を超える。
 とはいえ、全てに兵員が満載されているわけではない。
 今回は人質救出作戦としては異例の300名以上が想定されているため、救出した民間人を搭載するだけでもこれだけの車両が必要となるのだ。

「もう間もなくだ!安全装置解除!いいな!?俺が許可する。動くものは何でも撃て!一切躊躇するんじゃないぞ!!」

 車列中ほどに位置する指揮通信車でマイク相手に怒鳴っているのは、今回の作戦で前線指揮官に抜擢された刈谷学三等陸佐である。

「先頭車両が外壁に到着しました。やはり開門は断るとの事です!」

「ぶち破れ!抵抗するものは全て無力化しろ!」

「はっ!」

455 名前:物語は唐突に :03/12/27 02:21 ID:???
命令が伝わった直後、弓矢の雨に耐えつつ車両の中に待機していた隊員たちが、素早くドアの外に飛び出して無反動砲を構える。
 発射準備を整え、ためらわずに城門へ向けて発射する。
 以下に頑丈な木材を使用しているとはいえ、対戦車兵器を喰らってはひとたまりもない。
 城門は、背後に控えていた守備隊目掛けて燃え盛る木の散弾となって襲い掛かった。

「乗車しろ!突破するぞ!!」

 無反動砲を投げ捨てた隊員たちが車に飛び乗ると、ドアを閉めるのももどかしく軽装甲機動車はエンジンの音を唸らせつつ、城門目掛けて一気に突進した。
 爆発で死傷したのか逃げ出したのか、弓矢による攻撃は既に止んでいる。
 恐れていた魔法による攻撃もない。

「レスキュー01レスキュー01、こちらレスキュー05、城門の突破に成功!敵の抵抗は皆無。繰り返す、敵の抵抗は皆無!」

 恐怖に怯える敵兵たちに5.56mmNATO弾を盛大にばら撒きながら部隊は次々と城門を突破していく。
 かくして、後に日本の世論を二分させるほどの騒ぎの火付け役となる『魔法都市ネリュントス攻略作戦』は開始された。

465 名前:物語は唐突に :03/12/27 10:35 ID:???
同日0622 魔法都市ネリュントス市内

「行け行け行け行けぇーー!!」

 ろくに照準もつけずにMINIMIをばら撒きつつ陸曹が叫ぶ。
 立ち塞がる者は射殺するか轢き殺すかしながら突き進む軽装甲機動車。
 その後ろに続くのは、車体各所の銃眼から遠慮なく5.56mm弾をばら撒く96式装車装甲車、さらに数台後ろには機動隊のジュラルミン盾を貼り付け、その隙間から絶

え間なく弾幕を張る73式中型トラック改の姿も見える。
 合計で20両を超える車列は、周囲に死と破壊をばら撒きつつ市内のメインストリートを目標目掛けて突き進んでいた。
 ここまでの間、自衛隊の死傷者は0であった。

466 名前:物語は唐突に :03/12/27 10:49 ID:???
「先頭が間もなく目標へ到達します」

 こちらは本部天幕。
 絶え間なく報告が入る天幕内だが、しかしその空気は明るかった。
 何しろ、想定時間よりもはるかに短い時間で、一切の損害を出さずに目標へ到達しようとしているのだ。

「早いな、うん、素晴らしい」

 答える斉藤の表情も明るい。
 損害が少ないということは、撤退時になっても十分な戦闘力を維持できているという事だ。
 それはつまり今後の損害の減少に繋がる。
 やはり官僚の見積もりなどあてにはならんということだな。
 まあ、今回ばかりは外れてくれて一向に構わんが。

467 名前:物語は唐突に :03/12/27 11:03 ID:???
「もう間もなくだ!頭を低く、魔法に気をつけろ!!」

 車内でMINIMIを部下に渡し、89式小銃に持ち替えた陸曹が叫ぶ。
 その言葉に隊員達の表情が引き締まる。

「班長」

 もう間もなく除隊だったはずの23の陸士長が声をかける。
 ちなみに、自衛隊では人手不足を補うために前線部隊の定年制度を撤廃していた。
 
「なんだ?」

「聞いた話じゃ女子高生が多いらしいですな」

「そうらしいな、いいねぇ、巧くいけば俺達の中隊の彼女の充足率は全自衛体内で最高になるかもな」

「そりゃあいい!」「いいですなぁーそれ♪」

 陸曹の言葉に隊員たちが口々に同意の意を示す。
 当たり前だが、実際にはそんな能天気に喜んでいるわけではない。
 上陸作戦でもそうだが、最初に到着する部隊というのは一番損害を受けやすいのだ。
 今こうして無駄口を叩いている仲間が、帰りには冷たくなっている可能性だって十分にある。
 でも、だからこそ彼らはこうして無駄口を叩きあい、互いを励まし合っているのだ。

472 名前:物語は唐突に :03/12/27 21:26 ID:???
「着くぞ!3.2.1.停車!!」

 タイヤを軋ませ、軽装甲機動車はちょっとした広場のような場所に停車する。
 制動距離内にいた敵兵が派手な音を立てて跳ね飛ばされるが、そんなことは誰も気にしない。

「降りろ!制圧制圧制圧!!!」

 陸曹が怒号を発しつつ飛び降り、それに隊員たちが次々と続く。
 MINIMIを構えた隊員が、40mm自動てき弾銃を抱えた隊員が、車体を遮蔽物にあちこちに睨みを利かせる。
 その後ろに後続の軽装甲機動車が3台、同様にタイヤを軋ませつつ停車し、隊員を吐き出す。
 更に後ろでは96式装輪装甲車たちが次々と警戒班を吐き出している。
 それを見つつ陸曹は思った。
 これはいいぞ。演習でもここまでスムーズに決まった事はない。
 いい兆候だ。
 それは、実に甘い妄想だった。

473 名前:物語は唐突に :03/12/27 21:27 ID:???
「突入班集合!」

 散発的に銃声が響く広場に、刈谷三佐の号令が響く。
 機動隊のジュラルミン盾を持った隊員たちが速やかに集合する。

「これより目標施設内に突入し、人質を奪還する」

「はっ!」

「配置に着かせろ!」

 号令で正面の大扉、階段を上った場所にある二階バルコニー、そして建物裏側にある裏口へと各班が駆けつけ、突入体制をとる。
 その間に警戒班は周囲を囲む二階建ての建物全てを制圧、裏口にバリケードを配置し、二階から周囲に目を光らせる。

「三佐殿、突入準備完了であります!ご指示を!」

 副長が小銃を構えつつ尋ねる。
 さすがに最前線で暢気に敬礼をするわけにもいかない。
 まあ、敵弾飛び交う、という状況ではないが。


474 名前:物語は唐突に :03/12/27 21:28 ID:???
「突入!!」

 号令と同時に扉に仕掛けられた指向性炸薬が爆発する。
 だが、特殊部隊のようにスマートにはいかない。
 鍵を破壊するというよりも、ドアを吹き飛ばす。といった表現が正しい爆発を起こす。
 開戦後のイザコザで、第一線で体を張っていた連中が、一人残らず(そう、一人も残さず)靖国へと配属されてしまったからだ。
 おそらくは、つい不安となって教本より炸薬量を大目にしてしまったのだろう。

「突入!突入ーー!!!!」

 しかし、技術は怪しくとも、その戦意にはいささかの不安もない。
 一糸乱れぬ動きでスタングレネードを放り込むと、全員が一気に建物内へと突入する。
 たちまち銃声があちこちから響いてくる。

「レスキューベースへ報告しろ、突入開始、0629。以上だ」

「はっ!」

479 名前:物語は唐突に :03/12/28 03:00 ID:???
「突入!!」

 スタングレネードから発生した煙がする室内にバルコニーから突入する。
 クソ!どうしてあんなに爆薬を多く仕掛けたんだ!耳が痛いじゃないか!!
 後ろにいる爆破担当の同僚を睨んでやりたくなるが、今はそれをすべきではない。
 いつこの煙の向こうから剣を構えた兵士が襲ってくるか分からないのだ。

「二階ホール上部確保!」<一階ホール確保!><一階裏口確保!!>

 ほぼ同時に無線から報告が入る。
 おかしい。一切の抵抗無しにどうしてここまで突入できるんだ?
 二階突入班長の脳裏に映画でよく見るシーンが浮かんだ。
 突入する特殊部隊、減算されていくカウント、そして大爆発。
 思わず9mm機関拳銃を構える手が汗ばむのが分かる。
 人影が現れたのはその瞬間だった。

480 名前:物語は唐突に :03/12/28 03:22 ID:???
「Deryaaaaaaaaa!!!!」

 明らかに日本語ではない声が聞こえる。

PAPAPAN!!!

 素早く三発の9mm弾を撃ち込む。
 人影は派手に血を撒き散らし、そのまま後ろへと吹っ飛んだ。
 この世界に来た当初はこれだけで動揺していたが、今では特になんの感慨もない。
 っていうか、敵兵を殺したくらいで動揺しているようじゃ生きていけないしな。
 と、考え込んでいる間に別の人影が見える。

「クソ!出てきたぞ!!」

 一階からも銃声が響いてきた。


481 名前:物語は唐突に :03/12/28 03:23 ID:???
「こいつらどっから涌いて出た!?」

 気持ちの良い反動を残しつつ9mmパラペラム弾を撒き散らす。
 あちらこちらの扉から敵兵が湧き出てくる。

PAPAPAN!!!

 銃声。
 振り向くと後ろから寄ってきていた敵兵が頭部を失って倒れていくのが見える。

「気を抜くな!ボサっとしてると死ぬぞ!!人質はどこだ!?まだ見つからんか!!」

 89式ショートストック型を撃ちつつ正面玄関突入班長が怒鳴り声を上げる。
 既に幾つかの部屋を制圧しているが、未だ人質発見の報は入らない。
 しかし、一体どうして敵兵はこんなにいやがりますか?

「その奥の扉に気をつけろ!さっきからやたらと来るぞ!!」

 待てよ、どう考えても一室にあんなに兵士がいるはずないぞ。
 死体の数からして10人以上いた計算になるじゃないか。

「おい!3人こっちに来い!!」

482 名前:物語は唐突に :03/12/28 03:24 ID:???
「はっ!お前とお前、あと撮影係来い!」

 こういうとき実戦慣れしている幹部はありがたい。
 言われてみれば撮影係も連れて行かないとな。
 まったく、こんな作戦でも撮影班を連れて行かないといけないなんて。
 本土にいるファッキン野郎どもめ、そんなに俺達の行動を監視したいんならここまでやってこいってんだ。絶対に見捨ててやるがな!

「準備できました!」

 9mm機関拳銃を構えた二人の一等陸士と一人の本庁広報課員がやってくる。
 広報課員は可哀想な事に怯えきっている。

「奥の扉がどうにもおかしい、さっきからどんどん兵士が出てくる。地下室がある可能性がある」

「はっ!速やかに室内を確保し、状況を確認します!行くぞ!」



568 名前:物語は唐突に :03/12/30 11:50 ID:???
やれ!!」

 閃光と轟音、そして爆煙。
 突入用炸薬が炸裂し、蝶番と鍵を粉々に破壊する。
 その衝撃でドアが外れ、こちら側に倒れこんでくる。

「行け行け行け行け!!!!」

 先ほどの陸曹に怒鳴りつけられ、二人の一等陸士は9mm機関拳銃を構えつつ室内に一瞬で消えていく。
 ドアエントリーの動作自体は訓練でうんざりするほどしているために、まあまあ様になっている。
 ちなみに、なぜドア破砕は巧くいかないのかというと、自衛隊の演習では定番となっている『炸薬でドアを破壊したという設定』で訓練をやっているからである。
 『設定付き』訓練は予算不足の自衛隊では定番となっており、他にも『84mm無反動砲弾である』という設定で7.62mm弾を発射する縮尺弾発射訓練(当然反動や狙

いのコツなど分からない)や、『揚陸にいたる諸問題は全て解決された』という設定で行われる揚陸訓練(要するに単に陸揚げしているだけ)などなど、自衛隊には予算など

の都合で『〜という設定』で行われる訓練が数多く存在する。
 その弊害がこれだ。
 火薬臭い煙が充満する室内で不機嫌そうに班長。
 あれほど炸薬量は気をつけろといっておいたのに、それでもやるかこいつら。まあいい、ドアは実際破壊できたんだしな。

569 名前:物語は唐突に :03/12/30 12:31 ID:???
「○&@■×(降伏する!)」

PAPAPAPAPAPAPANN!!!!

 室内に入ってきた自衛隊を見た瞬間、兵士達は降伏を申し出た。
 彼らの認識では、自衛隊というのは輸送係の女から将軍クラスに至るまで、全てが魔法の使い手であり、さらにその魔導具は祝福を施された騎士の盾も、時としては壁でさ

えもぶち抜くとなっていた。
 そんな連中相手に傭兵の俺達が命を張る必要はない。そう判断したのだ。
 だが、彼らにとって不運だったのは、ほとんどの自衛隊員には翻訳の魔法、もしくは現地語の知識などなかったことである。

「おい、こいつらなんて言ったんだ?」

「さあ?知らねぇよ」

 軽口を叩き合いつつ室内を油断なく見回・・・そうとしたが、この部屋はそれほど広くなかった。
 古ぼけた椅子が二つ、そして汚い机が一つ、部屋の端にあるだけだった。


570 名前:物語は唐突に :03/12/30 12:39 ID:???
「二曹〜なにもありませんよ」

「そんなバカな!」

 それに答えたのはドアの外で小銃を構えている陸曹ではなく、広間で指揮を取っていた班長だった。
 班長は三名の部下を引き連れて・・・こようとしたが、室内がそれほど広くないために自分ひとりで入ってくる。

「こんなクソ狭い部屋の中に10人以上兵士が入るわけ・・・?」

 呟いていた班長が不意に黙る。
 鼻を鳴らして室内をかぎまわる。

「班長?・・・!」

「わかるな、この匂い・・・探れ、どこかに抜け道がある」

 険しい表情を浮かべた班長が部屋から出る。

「通信!こっちだ急げ!」

571 名前:物語は唐突に :03/12/30 12:49 ID:???
「さぐれっていったって、なあ?」

 室内に残された一士がぼやく。
 机と椅子しかない部屋で一体何を探れというのか?

「だよなぁー」

 相方がそれに答えつつ椅子に腰掛ける。
 と、不意に壁が妙な音を立て始めた。

「な、なんだ!?おい!何をした!?」

 大慌てで安全装置を解除しながら一士が怒鳴る。
 ドアの外も物音を聞きつけてか騒がしくなっている。

「し、知るかよぉ!座っただけだろ!!!」

 相方も安全装置を解除し、室内を満遍なく見回しながら答える。
 二人が怯えている間にも物音は続き、次第にドアの正面の壁が左右に分かれ始める。
 自衛隊員たちでは感知する事すらできるわけがなかったが、この隠し扉は一定以上(具体的に言うと40kg以上の物体)が椅子に乗ることであらかじめかけられた魔法が

発動するようになっていたのだ。
 壁はどんどん開いていき、物音が収まったときには正面の壁は真っ暗な穴へと形を変えていた。
 そして、腐臭が二人に襲い掛かった。

572 名前:物語は唐突に :03/12/30 13:20 ID:???
「うぇ、酷いなこの匂いは」

 顔を顰めつつ一士が呟く。
 相方は無言でそれに同意する。
 室内は凄まじい腐臭が充満しており、ドアの外では慣れていないらしい隊員が嘔吐する音が聞こえる。

「でかしたぞ二人とも」

 この腐臭の中でも表情を変えない班長が二人をねぎらう。

「5人、俺に続け、MINIMIと84mm、それと爆薬もだ。予備として他に5人後ろからついてこい、急げ!!」

 素早く隊員たちが集まってくる。
 後ろの方には命令していないのに衛生兵が集められている。
 歴戦の軍曹ドノがいると本当に楽だな。

「班長!準備完了しました!」

 敬礼しつつ三曹が報告する。

「うん、ありがとう。これより我々は地下室へと突入する!各員、安全に留意しせよ!突入する!!」


715 名前:物語は唐突に :04/01/04 15:20 ID:???
 階段を下りていく。
 急遽採用となった軍用のフラッシュライトは、その強力な灯りであたり一面を照らし出す。
 総勢11人からなる地下探索班全員がそれを持っているため、周囲はまるで屋外であるかのように明るい。

「何もいませんねぇ」

 俺の隣を歩きつつ陸士長が呟く。
 いてたまるか、こんな狭い階段で、ましてやおっかなびっくりの隊員たちを引き連れて、敵襲なんかあったら誤射と跳弾で何人死ぬ事か。

「いなくて何よりだ。それより無駄口を叩くな」

「はっ、申し訳ありません」

 ふむ、この三曹は実に使えるな。
 戻ったらPXで好きなタバコでもカートンで奢ってやるとするか。

「ん?」

 やがて、階段は徐々にその広さを増していった。
 それにつれ、腐臭が強くなってくる。
 今までは何とか耐えられるレベルだったが、もはや口で息をしないと無理だ。いや、それでも吐き気がしてくる。

716 名前:物語は唐突に :04/01/04 15:20 ID:???
「お前とお前、先行していけ。何かあったら声の限り叫べよ」

「「はっ!!」」

 俺があまりの気分の悪さにぼんやり考え込んでいると、三曹が命令を下しているのが聞こえた。

「班長殿、これをどうぞ」

 キシリトール配合のガムを差し出してくる。

「気休め程度にはなります」

「うん、ありがどう」

 ありがたく受け取り、口の中に放り込む。
 ふむ、悪くない味だ。
 ここ数日の移動で満足に歯も磨いていない俺にとって、清涼剤やら何やらが配合されたガムの味は格別だった。
 お陰でムカついていた胸もなんとかなってくる。
 悲鳴が聞こえたのは、その時だった。 


717 名前:物語は唐突に :04/01/04 15:28 ID:???
「ははははんちょぉぉぉーーーー!!!」PAPAPAPAPAPANN!!!

「総員安全装置解除!援護するぞ!」

 素早く俺も安全装置を解除し、全員に先んじて階段を駆け下りる。
 ふと、俺が先頭を切っていいのか?という疑問が生じるが、部下をしなせるよりはましだと思考を切り替える。

「班長殿に続け!突撃ぃーーー!!」

 後ろで三曹が怒鳴る声が聞こえ、大勢が階段を駆け下りる音が聞こえる。
 しまった、そういえば号令を下していなかったな。
 焦っている間に三曹が俺に並ぶ。

「班長殿、お気をつけください」

 言いつつ俺を追い抜き、先に下りた部下達の方へと走っていく。
 負けじと速度を上げるが、戦闘靴で階段を駆け下りるのはきつい。
 見る見るうちに距離が開いていく。
 クソ、これでも幹部内じゃ足は速いほうだったはずだが、やはり経験を積んでいる人間には勝てんな。
 相変わらず現実逃避じみたくだらない事を考えているうちに、先のほうが明るくなってきた。
 どうやら先行している三人に追いついたらしい。

718 名前:物語は唐突に :04/01/04 15:38 ID:???
「は、班長どのぉ〜」

 俺の姿を見た若い陸士が情けない声を出す。
 二人の足元にはローブを着た人間が5.56mm弾をたらふく喰らって倒れていた。
 見たところ魔法使いのようだ。
 大方、二人に魔法をかけようとして、その前に蜂の巣にされたんだろう。
 まあ、異世界人なんぞ何人ぶち殺そうとかまわん。

「三人とも怪我はないな?」

「「「はっ!!!」」」

「ならいい。人質は・・・この奥だな」

 倒れた魔法使いの死体を蹴り飛ばし、取っ手を掴む。

「班長殿、自分が」

「いいから」

 三曹を押しのけ、ドアをゆっくりと開く。
 ライトを向け、室内を見回す。

「・・・・・・・・・お、おい、おいおいおいおいおい」

719 名前:物語は唐突に :04/01/04 15:50 ID:???
 そこには、グロテスクを通り越して何も感じなくなるような、そんな酷い光景が広がっていた。
 20畳ほどの石畳の部屋の中には、昔なにかで見たことがある拷問具が所狭しと並べられている。
 そして、俺の正面に、両手両足が切り取られた人間が・・・・七人。まるで、食用肉のように・・・・

「う、ウゲェ・・」

 見てしまったらしい部下の嘔吐する音が聞こえてくる。
 無理もない、こんなもの。畜生、人間をこんな風にしやがって・・・・

「ちくしょぉぉぉぉぉ!!!!」

 9mm機関拳銃を先ほど蹴り飛ばした魔法使いの死体へ向け、躊躇せずに引き金を絞る。

PAPAPAPAPAPAPAPAPAPAPAPAM!!!!!

 頭蓋骨が砕け、肋骨が露出し、更にそれを砕いても俺は引き金を引き続けた。
 許せない。罪もない民間人を、まるで実験動物であるかのようにこんな風にしやがって。
 畜生!畜生!!!異世界人どもめ!!
 殺してやる!一人の残らず殺してやる!!!

720 名前:物語は唐突に :04/01/04 16:10 ID:???
同日0629 魔法都市ネリュントス市内

「レスキューベース、こちらレスキュー01。目標施設の制圧に成功しました。
 こちらの損害は皆無。確認殺害戦果32名。うち6名が魔法使いでした」

<ご苦労様でありますレスキュー01。要救助者は?>

「それが・・・」

<どうされました?>

「・・・七名の死体を確認。所持品および遺体より氏名を確認しました。確認願います」

<・・・・・・了解、読み上げてください>

「はい」

 傍らに並べられた死骸を見る。
 グロテスク云々以前に、そのあまりの状態に正視できない。が、仕事であると自分に言い聞かせ、名簿を見る。

「読み上げます。
 一人目、益田清美さん、19歳。身長およそ163cm。髪の色は黒。体重は遺体の損壊が酷いために推定不能。
 指紋および歯型等は遺体の損壊が酷いために採取不可能。
 大学の学生証およびクレジットカード等の入った財布を所持していた事のために当人でないかと推測されます」


721 名前:物語は唐突に :04/01/04 16:16 ID:???
<酷いな・・・三佐>

「はっ」

<遺体には申し訳ないが、3サイズからわからないか?>

 いつの間にか、通信の相手は斉藤陸将になっていた。
 思わず背筋が伸び・・・るのが普段なのだが、こんな状態の死体を見ていると、普段どおりの動作をする気力すら涌いてこなくなる。

「はい、申し訳ありません閣下。自分達は体型を図れる物を持っておりません。
 また、遺体の損壊が激しいため、メジャー等があったとしても図る事は不可能であります」

<そうか・・・すまなかったな三佐。ひとまず読み上げてくれ>

「はっ・・・次です。二人目、藤井敏明さん、32歳。髪の色は黒・・・」

 水を打ったような沈黙が広がる中、三佐が名簿を読み上げる声が当たりに響き渡る。
 名前が読み上げられた遺体は、表情を消した自衛官達によって死体袋へと丁寧に包まれ、そして貴賓を扱うかのような手つきで次々と73式中型トラック改へと運び込まれ

ていく。
 そして、本来ならば開封されるはずだったミネラルウォーターやレーションのダンボールの横に並べられると、動く事の無い様にロープで固定される。
 やがて、名簿を読み上げる声が止んだ。

722 名前:物語は唐突に :04/01/04 16:23 ID:???
<酷いな・・・三佐>

「はっ」

<遺体には申し訳ないが、3サイズからわからないか?>

 いつの間にか、通信の相手は斉藤陸将になっていた。
 思わず背筋が伸び・・・るのが普段なのだが、こんな状態の死体を見ていると、普段どおりの動作をする気力すら涌いてこなくなる。

「はい、申し訳ありません閣下。自分達は体型を図れる物を持っておりません。
 また、遺体の損壊が激しいため、メジャー等があったとしても図る事は不可能であります」

<そうか・・・すまなかったな三佐。ひとまず読み上げてくれ>

「はっ・・・次です。二人目、藤井敏明さん、32歳。髪の色は黒・・・」

 水を打ったような沈黙が広がる中、三佐が名簿を読み上げる声が当たりに響き渡る。
 名前が読み上げられた遺体は、表情を消した自衛官達によって死体袋へと丁寧に包まれ、そして貴賓を扱うかのような手つきで次々と73式中型トラック改へと運び込まれ

ていく。
 そして、本来ならば開封されるはずだったミネラルウォーターやレーションのダンボールの横に並べられると、動く事の無い様にロープで固定される。
 やがて、名簿を読み上げる声が止んだ。

723 名前:物語は唐突に :04/01/04 16:27 ID:???
「一体なんだ!誰が撃った!確認させろ!」

 三佐が怒鳴る。
 直ぐに荒々しい声と共に、先ほど遺体を運び出した突入班がやってくる。

「三佐殿!この野郎、仲間の死体に隠れてやがりました!ブッコロしていいですか!!」

 その顔を見た三佐は、彼の浮かべる歪んだ表情に気圧された。
 目は血走り、返り血のこびりついた口は嫌な角度に歪んでいる。

「まあ落ち着け、一人くらい生かしておいてもいいじゃないか、な?」

 刺激しないよう、細心の注意を払って笑顔を浮かべる。
 だが、その言葉が気に食わないのか班長は怒りを浮かべる。
 その手が腰のホルスターへと向かい・・・

 PAM!


724 名前:物語は唐突に :04/01/04 16:28 ID:???
「以上7名の遺体を収容しました」

<・・・ごくろうだった三佐。直ちに部隊を撤収させ、郊外h・・・>

PAPAPAPANN!! 

 不意に銃声が響き渡った。

「敵襲か!?」「エンジン始動!全員配置に着け!」「負傷者はいるか!?」

「失礼します陸将閣下!」

 マイクを放り投げると、三佐も周りと同様に小銃を構えた。
 だが、最初こそ怯えた兵士達によって散発的な銃声がしたものの、直ぐに周囲は静寂に包まれた。



754 名前:物語は唐突に :04/01/06 13:39 ID:???
「班長殿、落ち着いてください」

 いつの間にやら班長の隣に現れていた三曹が、ホルスターに手を伸ばしていた彼の頬を強く叩いた。
 そのあまりの衝撃に、班長は捕虜を掴んでいたロープを掴んだまま地面へと倒れこんだ。

「い、いてぇ・・・・」

 口の中を切ったらしく、班長はつばを吐きながらそう呟いた。
 相変わらずロープを掴んだまま立ち上がり、三曹のほうを見る。

「・・・・・・すまなかった。おかげで気が引き締まった」

「はっ!」

 班長は三佐の方へ向くと、敬礼して申告した。

「三佐殿!至急敵軍捕虜の後送手続きを行います!」

「いや、別にかまわん。下手に魔法を使われても困るし、幸い交戦規則は『捕虜になるな捕虜を取るな』だ。始末してよろしい」

「はっ!ありがたくあります!」

755 名前:物語は唐突に :04/01/06 13:40 ID:???
「ままま待ってくれ!」

 それに慌てたのは捕虜になっていた傭兵だ。
 異世界兵は命を大切に扱うと聞いていたのに、このままでは殺されてしまう。
 幸いにも、彼は監視役としての役目を果たすために翻訳の魔法をかけてもらっていた。
 そこで、早くも交渉の材料を使う事にした。

「待ってくれ!俺はお前達の仲間の居場所を知っている」

「こいつ!いい加減な事を!!」

 班長が目を吊り上げて銃でその頬を殴りつける。
 唾液と血液、そして砕けた歯が飛び散る。
 しかし、三佐も三曹も、そして周りの兵士達も何も言わない。
 その場にいた誰もが同胞を殺された事に対する凄まじい怒りでまともな判断力を失っていたからである。


756 名前:物語は唐突に :04/01/06 13:41 ID:???
「ゴホッ、ほ、本当なんだ、信じt・・・」

「まだ言うか!」

 聞く耳を持たず、再び銃で殴りつける。
 再び唾液と血液が飛び散る。

「ほんとう、なんだ。信じてくれよぉ。殺さないでくれよぅ」

 グチャグチャになった顔で、泣きながら傭兵が命乞いをする。

「三佐殿、どうやら本当のようです」

「ふむ、そのようだな」

 そう言うと、三佐は泣いている傭兵の髪を掴んでこちらを向かせる。
 
「言え。本当だったら殺さないでやっても良いぞ。ただし、嘘だったら」

 そこで三佐は右手で器用に9mm拳銃を抜き、銃口を傭兵の顔面に押し当てた。

「この世に生まれてきたことを後悔させてやる」

「は、はい!!何でも言います!なんでもします!!」


777 名前:物語は唐突に :04/01/07 15:43 ID:???
同日0650 魔法都市ネリュントス市内

「・・・というわけでして、捕虜の言うところでは現在地より北西に1kmほど行った場所にある、中央広場、地図だとF-3のあたりに他の人質が集められているそうです。
これより直ちに部隊を前進させ、救出に向かいます」

「落ち着け三佐!F-3までだと、迂回に迂回を重ねないといけないじゃないか。おまけに道幅も狭いし。許可できない。一度撤退し、作戦の練り直しを・・・」

「練り直しているうちに何人の国民が死にますか!!自分は、自分と部下達は、宣誓したのです!国家を、国民を護ると!!
 奴らはこっちを人間として扱っちゃいない、実験動物扱いなんです!閣下!!事は一刻を争うんです!前進許可を!!」

778 名前:物語は唐突に :04/01/07 16:06 ID:???
魔法都市ネリュントス郊外 陸上自衛隊海外派兵団本部天幕

<・・・・閣下!!事は一刻を争うんです!前進許可を!!>

 天幕内に三佐の叫びが響く。
 彼に言われずとも、斉藤は前進許可を下したかった。
 だが、そうはいっても、目的地が問題なのだ。

 自衛隊がその絶望的なまでの人数差をカバーできる最大の理由は、自動車の使用による大量輸送・高速移動にある。
 全体数では劣っていても、車両輸送により局地的に兵力を優位に立たせることができれば、仮に運んでいるのがこの世界の兵士達でも勝つ事ができるだろう。
 そこへ来てさらに現代の装備、つまり自動小銃などで武装しているのだから、負傷者が出る事すら少ない。
 仕上げとばかりに、自衛隊は今まで市街戦や山林での戦闘ではなく、見渡すばかりの大平原での戦闘を考慮した訓練ばかりやっていた。
 そのために、日ごろ無駄といわれ続けた訓練の成果が最大限に活用できているのだ。
 
 だからこそ、斉藤は悩んでいた。
 軍用車両というのは基本的に大きい。
 つまり、道幅が狭いという事は、最悪徒歩で現地へ向かわなくてはならなくなるということになる。
 装備は強力だが、肉体の強度は異世界人と変わらない。
 矢が刺されば服と皮膚、そして肉を貫通して怪我をするし、剣で切られれば出血多量で死んでしまう。
 おまけに、今回は市街戦。
 どこから敵が現れ、いつ魔法や矢が飛んでくるか分からない。
 そして、空挺団ならまだしも、普通科は市街戦の訓練の経験などない。

779 名前:物語は唐突に :04/01/07 16:07 ID:???
 一度作戦を練り直し、別の方法もしくは別の作戦でアプローチせねば、内局の概算である損耗率39%が現実になりかねない。
 しかし、三佐が言う事もまたもっともである。
 彼の今の精神状態からして、おそらく情報は拷問によって聞き出したものだろう。
 だとすれば、その情報は極めて信頼性の高いものということになる。
 ならば、これ以上ワケの分からない場所へ運ばれていく前に、なんとか人質の身柄を抑える必要がある。
 第一、我々自衛官の存在意義とは国民と国土を護る、その一点にあるのだ。
それを考えれば移動命令を出すべきだというのは分かる。
 しかし、出したら最後、彼らは自衛隊始まって以来最大級の市街戦を経験せねばならないのだ。


780 名前:物語は唐突に :04/01/07 16:11 ID:???
<閣下!斉藤閣下!!!ご決断を!>

 無線から三佐の声が再び響く。
 その声音には、命令が出ないのならば独断で動くと言外に伝える響きが含まれていた。
 
 斉藤は、決断した。

 独断で動いた場合、彼らは犯罪者と言う扱いになる。
 死亡しても一円も遺族には支払われないし、むしろ被疑者死亡で書類送検。
 赤日新聞などの反日思想集団は喜んで遺族を糾弾し、自衛隊を批判し、政府に謝罪やら賠償やらを求めるだろう。
 骨の髄まで腐りきった奴らの事だ、遺族の住所氏名を故意に公開し、あることない事を書きまくり、徹底的にやるだろう。
 それは、上官が部下に与えるべき未来ではない。

「・・・各隊へ通達。当初の想定に従い、可及的速やかに日本国民の身柄を保護せよ。以上」

<・・・・・・了解しました。速やかに行動を開始します。通信終わり>


781 名前:物語は唐突に :04/01/07 16:14 ID:???
「おい、誰か!」

「はっ!」

 地図を睨んでいた幕僚が飛んでくる。

「書類の作成を頼みたい。日付は本作戦決定時と同じでいい。内容は、別の場所に人質の存在が確認された場合、万難を排しこれを救出せよ。以上だ」

「はっ!早急に作成いたします!」

 敬礼し、駆け足で立ち去る幕僚。
 それを見送りつつ、斉藤は部下達の自分を見る目に気がついた。
 皆、溢れんばかりの敬意に満ちている。

「諸君、作戦はまだ終わってないぞ。彼らは彼らの仕事を始めた。さあ、我々は我々の成すべき事をしよう」

「「「「はっ!!!」」」」

487 名前: 物語は唐突に 04/01/17 17:40 ID:???

同日0718 魔法都市ネリュントス市内

「三佐殿」

 低速で移動を続ける指揮通信車の中で、地図を睨みつつカフェインの錠剤を噛み砕いていた刈谷三佐に通信士が話しかける。

「どうした?」

「現在のところ特に異常なしであります」

「うん、ご苦労。これでも飲んでおけ、気が楽になるぞ」

 錠剤を数錠手渡す。

「はっ、ありがたくあります」

 手早くそれを口の中に放り込み、音を立てて噛み砕く。
 それを意識の外に放り出して三佐は書き込みの多い地図へと意識を集中させる。
 既に二度の迂回を行っているため、目標到着予定時刻は数回の書き直しを行っている。
 当然、支援部隊はそれにあわせてあれやこれやと行動予定を書き直しているわけで、これ以上の遅延は正直勘弁して欲しい。


489 名前: 物語は唐突に 04/01/17 17:46 ID:???

「三佐殿」

 再び通信士が声をかけてきた。
 その声は先ほどとは違い、微妙に焦りを感じさせる。

「どうした?何か問題か?」

「はっ、先頭車両より入電、前方に強固なバリケードがあるとの事です」

「またか」

 忌々しそうに呟き、次の迂回路向かうための指示を出そうとする。
 銃声が聞こえたのは、その瞬間だった。

490 名前: 物語は唐突に 04/01/17 17:48 ID:???

PAPAPAPAPAPAN!!!

「敵襲です!!」

 振り向かずに通信士が言う。
 報告というよりも絶叫に近い。

「数は!?」

 恐らく出番はないと思うが、腰の9mm拳銃に手を伸ばし、ホルスターの止め具を外す。

「不明です!こちらの損害は皆無!しかしながら相当数がいるらしく、現在も交戦中!」

 冗談ではない、こんな左右を建物に囲まれているところで相当数だと?
 未だ報告例はないが、万が一にでも火炎瓶による攻撃を受けたら・・・
 いや、今は考えているときではないな。
 手早く思考をまとめ、指示を下す。

「全車ドアをロック!弾薬は気にするな!同士討ちにだけ気をつければ・・・」

「・・・!!敵の攻撃で数名が負傷!」

「なんだと!」

 思わず立ち上がった拍子に、カフェインの錠剤がビンごと床に落下する。
 負傷者だと?糞、今までが順調すぎたとはいえ、まだ目的地にも到着していない段階でこれか。

491 名前: 物語は唐突に 04/01/17 17:50 ID:???

「撃ちまくれ!!撃て撃て撃て撃て!!!!」

 軽装甲機動車から上半身を乗り出して89式小銃を乱射する。
 しかし、敵は撃っても撃っても周囲の建物から涌いて出てくる。
 既に彼の車の周りには数名の自衛隊員が弓矢を受けて倒れており、一刻も早く車内へと収容して治療を行わなければならないというのに・・・

「邪魔なんだよぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 なんなんだこいつら?殺しても殺しても殺しても!!!
 怒りに震える彼の視界に、それが飛び込んできたのはそのときだった。


492 名前: 物語は唐突に 04/01/17 17:52 ID:???

 それはこの世界ではもはやありふれた光景だった。
 みすぼらしい格好をした少女。
 その垢に塗れた顔は、人形と見間違うほどの無表情さだった。
 同じく垢に塗れたその手が、彼、第22戦闘班班長、谷良治一等陸曹に向けられたとして、次に続く悲劇を予測できたものがいただろうか?
 あるいは、異世界の住人ならば予測できただろう。
 しかし、極めて残念な事に彼は常識ある陸上自衛隊員であり、そして、魔力を感知することなどできはしなかった。


493 名前: 物語は唐突に 04/01/17 17:53 ID:???

「・・・?」

 なんだこれは?
 自分の胸にあいたこぶし大の穴を見つめつつ、彼は妙に落ち着いた気分でそれについての考察を行おうとしていた。
 だが、刻一刻と喪われていく血液によって低下した思考能力でそれは不可能だった。
 
(畜生、痛い!ああ畜生!いたい、いたい。だれか、たすけてくれ。いたい、いたい、いt・・・・)

 視界が薄れ、そして暗くなってくる。
 本作戦において、初の戦死者である谷良治一等陸曹は、こうして死んだ。


510 名前: 物語は唐突に 04/01/17 21:09 ID:???

同日0751 魔法都市ネリュントス郊外 陸上自衛隊海外派兵団本部天幕

 天幕内は例によって静まり返っていた。
 だが、今までの重苦しい沈黙とは違い、その静けさは通夜に見られるような似た嫌な静けさだった。
 時折静寂を破る中隊からの通信では、未だに負傷者が出続けていることを報告する無線が入ってくる。
 機械的な動作と口調でそれに通信士が答えるが、それが済むと再び沈黙が訪れる。

「閣下」

 副官が作戦図の上にコーヒーを置く。
 日ごろからは想像できない弱弱しい表情でそれを取ると、彼は一気にコーヒーを流し込み、そして口を開いた。

「諸君、谷一曹の件は確かに不幸であった。だが、作戦はまだ続いている。成すべき事を、しよう。今我々にできるのはそれだけだ」

「閣下のご命令は下った!さあ諸君!職務に戻りたまえ!!」

 副官の言葉に押され、全員が自分達の仕事へと戻る。
 だが、その動作にはいまいちキレがない。
 無理もない、ここまで順調に進んでいたというのに、ここへ来て死者一名、負傷者七名だ。
 おまけに、戦闘は未だ継続中、目的地へはあと少しだというのに、とうとう部隊は徒歩での移動を余儀なくされているのだ。

511 名前: 物語は唐突に 04/01/17 21:13 ID:???

同日0751 魔法都市ネリュントス市内 中央広場

「撃ぇ!!」

PAPAPAPAN!!  PAPAPAPAN!!
 PAPAPAPANN!!   PAPAPANN!!

 号令と共にいくつもの89式小銃が火を噴き、剣を構えてこちらへ向かっていた剣士達が倒れていく。
 死体を踏みつけ、銃剣を装着しながら隊員達は前進を続けている。
 やがて、トーチカの様なものが見えてくる。

「無反動砲前へ!」

 手早く84mm無反動砲を構えた隊員たちが現れ、一撃でトーチカを破壊する。
 火炎が吹き出す室内からは悲鳴が聞こえてくるが、隊員達はそれにはかまわずに残骸を乗り越え始める。

「班長!広場です!広場が見えてきました!!」

「落ち着け!周囲を警戒!怪しいものは全部破壊しろ!」

 弓矢や魔法による攻撃を警戒し、隊員達は両側の路肩を小走りに駆けていく。

512 名前: 物語は唐突に 04/01/17 21:25 ID:???

「Woooooo!!!」

 不意に、ドアを蹴破って数人の剣士達が飛び出してくる。
 数メートル先から突然の襲撃に、先頭を歩いていた若い一士は思わず棒立ちとなる。
 剣士達が剣を振り上げ、彼を切り刻もうとした瞬間・・・

PAPAPAPAPAPAPAPAPANN!!

 反対側を歩いていた隊員のMINIMIが火を噴き、哀れな剣士達は全身を砕かれて壁へと叩きつけられる。

「しっかりしろ馬鹿野郎!!死にたいのか!」

 陸曹が先ほどの一士の顔を殴りつける。
 だが、既に精神が限界に達していたらしい一士は、睨みつけるどころか泣き始める。
 
「落ち着け!そいつを後方へ!前進を続けるんだ!」

 もはやこういった状況に慣れてきた三尉の命令で、泣きじゃくる一士を連れて数名の隊員が車両部隊のところへと戻っていく。
 そうこうしているうちに、部隊は都市中央の広場へと到達した。
 だが、そこには彼ら以外誰も存在しなかった。生きている人間は。


568 名前: 物語は唐突に 04/01/18 00:49 ID:???

「どうした?応答しろ」

 指揮車内は軽い混乱状態にあった。
 広場到着の報告を最後に、部隊からの通信が途絶えたからである。
 再三にもわたる呼びかけを行っているのにも関わらず、部隊からの応答はなかった。

「どういうことなんだ!?どうして応答しない!」

「機器の故障ではありません!わかりません!」

 三佐の怒鳴り声に、通信士が悲痛な叫び声で答える。
 もはやワケが分からなくなっていた。
 全てが順調に進んでいた作戦は、一時間前の拉致被害者の死体発見から大きく狂いだしている。


569 名前: 物語は唐突に 04/01/18 00:51 ID:???

<・・・こちら広場制圧隊の広瀬です>

 無線からようやく答えが返ってきた。
 だが、その声は弱弱しく、そして暗い。

「何があった!?どうして応答が遅れた!?負傷者は出ていないか!?」

 通信士からマイクを奪い取り、斉藤が叫ぶ。

<いえ、死傷者はでておりません、我々は>

 妙に抑揚のない声でそう言う広瀬に斉藤の怒りが爆発する。

「じゃあなんだ!?なんでこんなに応答が遅れた!?」

 胃が痛くなるほど心配していた斉藤にとって、広瀬の抑揚のない声は心配よりも怒りを呼び起こさせるものだったらしい。
 一兵卒にまで気をかける彼としては珍しい行動だが、今は交戦中である。多少の事はしかたがない。

<はっ、申し訳ありませんでした・・・しかし、しかし・・・・>

「なんだ?・・・何があったんだ?言ってみてくれないか?」

 ようやく異常に気づいたのか、斉藤の声が優しくなる。

<死んでます・・・・みんな、みんな死んでまぁーーす!!>

570 名前: 物語は唐突に 04/01/18 00:56 ID:???

「死んでます・・・みんな、みんな死んでまぁーーす!!」

 広瀬一尉の絶叫が聞こえる。
 本部へ報告しているみたいだな。
 なんて説明口調で考えているのも現実逃避なんだろうな。
 うん、そうに違いない。というか、こんな光景、現実逃避せずにどうやって受け入れろって言うんだ?

「ウゲェ・・グブゥ」

 隣でどっかの班の一士が吐いている。
 いやこれは吐くよ。俺が吐いていないのがおかしいぐらいだもんな。
 一体何を考えて連中はこんなことをしているんだ?
 畜生、畜生、畜生畜生畜生畜生畜生!!!!!

「ちくしょうーーー!!!」


574 名前: 物語は唐突に 04/01/18 01:20 ID:???

「生存者を探せ!」

 部下達に命令を下しつつ、その行為の無意味さを自覚している。
 今俺達の目の前には、広場一杯に広がる遺体の山がある。
 服装と大きさからして、行方不明になっている女子高生達だろう。
 可哀想に、恐らく四方八方から弓矢と魔法で仕留められたのだろう。
 一行は半径10メートルほどの円を描いて死んでいた。
 外周部の少女達は、背中に大穴を開けられたり、全身を焼かれたりして絶命している。
 恐らくは即死だったであろう。
 そしてその内側、そこに倒れている少女達は、全身から弓矢を生やして死んでいる。
 こちらは遠目にもその表情が苦痛に歪んでいる事から、恐らく激しい痛みを覚えつつ死んでいったのであろう。
 円の中心部。
 ここに倒れているのは3人の大人であった。
 中年女性が2人、壮年の男性が1人。
 様子からして、生徒達に護られつつ死んだのではないだろう。生徒達を護ろうとして死んだようにも見えない。
 どこからどうみても、恐怖に震える生徒達を盾に、死体のふりをして助かろうとしたのであろう。
 中年女性の1人にいたっては、倒れている女子生徒達の死体の下に潜り込もうとしていた所を剣で刺し殺されたようだ。


624 名前: 物語は唐突に 04/01/18 10:55 ID:???

「酷いですね」

「ですな」

「ですね」

 周辺警戒をしつつ遺体の確認作業を行う隊員達。
 度重なる人死に、既に死体に対する抵抗は失っているらしい。
 だが、今処理している遺体は日本国民。それも女子高生だ。
 さすがに普段のそれとはワケが違うらしく、隊員達の表情には悲しみと怒りが満ちている。

「それで、この遺体の山ですが・・・」

「ピストン輸送しかないでしょう」

「ないですね」

 その回数を思い浮かべて憂鬱になる。
 車両が待機している場所までは約1km近く。おまけに数度の迂回をした事を考えるとかなり憂鬱だ。
 しかし、こればかりは危険でもやるしかない。彼女らを本土まで連れて帰らねば、自分達がここまで来た意味がない。

625 名前: 物語は唐突に 04/01/18 10:58 ID:???

「問題は、一個小隊が搬送のために使えなくなる事ですね」

「ですな」

「ですね」

 一個中隊は退路確保のために後方。
 残る一個中隊の内、半数は車両の安全確保のために後方。
 さらに、残りの二個小隊のうち、約3個戦闘班が負傷や精神錯乱とその搬送のために離脱。
 約一個小隊半で搬送作業を行うとなると、かなり危険だ。周辺警戒すら満足にできない。
 というか、よく考えると現時点で既に弾薬がヤバイ。
 84mmも無いし、MINIMIだって二つしかない。
 さて、どうするべきか・・・

626 名前: 物語は唐突に 04/01/18 10:59 ID:???

「敵襲!」

PAPAPAPAPAN!!

 警戒に当たっていた隊員の絶叫と銃声が聞こえる。
 やれやれ、まだ残っている奴らがいたのか。

「一人も逃すな!全員殺せ!」

「やろぉ!ブッコロしてやる!!」

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!!!」

 隊員達の叫びと銃声は止まらない。
 ・・・・・・止まらない?

「おい!敵の総数は!?」

「不明です!20人までは数えていましたが、なおも増加中!!」

 冗談じゃないぞ、これでは遺体を搬送する時間などないじゃないか!
 だが、ここに置いていくのもありえない。
 聞いた話じゃ、連中死体を弄んだり、信じられないがゾンビとして使うのが大好きらしい。


627 名前: 物語は唐突に 04/01/18 11:00 ID:???

 ああ畜生。
 まさか状況がここまで悪化するとは・・・
 予定では今頃は目的地から人質を解放し、車列を並べて基地へと凱旋しているはずなのに!
 落ち着け。落ち着け!!文句を言っている場合ではない。早く考えなければ。
 ここで防戦?              無理だ。いずれ弾薬が底を付く。
 後方の部隊を呼び出す?         ダメだ。車両を守れなくなる。
 近接航空支援?             できればやっている。
 特科の支援?              そんなもの、できるものならやってみやがれ!
 遺体を置いて撤退?           それだけはダメだ!
 となると・・・・・・遺体を焼却処分・・・するしか、ないか。

628 名前: 物語は唐突に 04/01/18 11:01 ID:???

「・・・・・・車両隊に言ってバイクでガソリン持ってきてもらう、というのは?」

「仕方ないですな」

「ないですね」

 口数は少ないものの、やけに気が合う二人の同僚に頭を下げる。
 恐らく、俺が考えていることを実行した場合、俺たち三人は極悪人として報道されるだろう。
 再就職先などは自衛隊が責任を持って紹介してくれるだろうが、社会的地位は完全に抹消されてしまうに違いない。

「責任は、私たち三人だけという事で」

「ですな」

「ですね」

 俺が敬礼し、二人がそれに答礼する。
 そうと決まればあとは行動あるのみ。
 早速無線で車両隊からガソリンと、持てるだけのマガジンを持ってこさせるよう要請した。


653 名前: 物語は唐突に 04/01/18 21:24 ID:???

 私達は、森の種族である。鉄でできた機械を通した水など飲めない。
 接待係は、目の前が真っ暗になった。

・・・エルフっ娘たちって、水源→浄水場→水道管→蛇口と経由してくる水に嫌悪感はないのでしょうか?
と、唐突に疑問に思ってみました。


914 名前: 物語は唐突に 04/01/22 16:37 ID:???

「これより行うこと、私をはじめとする三名の指揮官による独断である。
 諸君らは私達の命令に嫌々ながらも従ってもらう。ガソリンを散布しろ!」

 沈痛な表情の自衛官達がジェリ缶に入ったガソリンを遺体の山に撒く。
 遺体の放つ腐臭と、ガソリンの放つ異臭で、広場は明らかに異常な匂いが立ち込める。

「まったく、このような形で国民を弔う事になるとはな」

「予想外ですな」

「経験したくはなかったですな」

 三人が口々に呟いている間に、無表情な隊員達はガソリンを撒き終える。
 施設科出身らしい隊員が、手馴れた手つきで爆薬用の電気信管をジェリ缶に放り込み、ケーブルを伸ばしつつこちらへとやってくる。
 ポケットからスイッチを取り出し、それをケーブルの端へと繋ぐ。

「準備できました」

 敬礼し、スイッチを広瀬一尉に手渡すと、手早く列へと戻っていく。
 部隊の約半分は広場のあちこちに散らばって戦闘を続けているが、ここは最大限の配慮を行うべきだとして、彼らはあえて整列していた。
 全員が隊列を整えたのを確認すると、広瀬一尉ら三名は教本どおりの見事な回れ右をし、これまた教本どおりの完璧な敬礼をした。

「かかる事態を招いた我々の無能さをお恨みください!そして、願わくば安らかな眠りを!・・・・・・構え!」

 いいかげん欠乏し始めた弾薬を装填した銃を構え、よくわからないながらも必死にそれらしい動作を行う。


915 名前: 物語は唐突に 04/01/22 16:50 ID:???

「撃ぇ!」

 PAN!!!!

「構え・・・撃ぇ!」

 PAN!!!!

「構え・・・撃ぇ!」

 PAN!!!!

「構え・・・・・・」

 周囲から絶え間なく銃声が鳴り響く中、そこだけが風景から切り取られたように静かであった。
 広瀬一尉の号令と、隊員たちが弔砲を撃つ時以外は。
 皆、煙と悔しさで表情を歪めていた。
 誰もが心に誓っていた。『異世界人に日本人の恐ろしさを教育してやろう』と。


917 名前: 物語は唐突に 04/01/22 16:55 ID:???

「点火!!」

 スイッチを押す。
 ジェリ缶が爆発し、ガソリンをかけられていた遺体の山は凄い勢いで燃え上がった。
 広場の中心は黒々とした煙を上げ、可哀想な女子高生達を炭素の山へと変えていった。

「広瀬一尉!もう支えきれません!早く撤退許可を下さい!!」

 血まみれのだが、その声から全てが返り血らしい陸曹が叫ぶ。
 着剣された銃剣になにやらピンクのものが付着しているところを見ると、どうやら白兵戦闘まで行われているようである。

「よし、直ぐに撤退する。っと危ない!!」

 早瀬が陸曹を突き飛ばす。
 直後に彼が立っていた場所に光り輝く何かが着弾し、頑丈なはずの石畳を軽く抉る。

「魔法使いだ!探せ!!」

 たちまちあたりは銃声と隊員達の怒号で埋め尽くされた。


918 名前: 物語は唐突に 04/01/22 16:57 ID:???

「点火!!」

 スイッチを押す。
 ジェリ缶が爆発し、ガソリンをかけられていた遺体の山は凄い勢いで燃え上がった。
 広場の中心は黒々とした煙を上げ、可哀想な女子高生達を炭素の山へと変えていった。

「広瀬一尉!もう支えきれません!早く撤退許可を下さい!!」

 血まみれのだが、その声から全てが返り血らしい陸曹が叫ぶ。
 着剣された銃剣になにやらピンクのものが付着しているところを見ると、どうやら白兵戦闘まで行われているようである。

「よし、直ぐに撤退する。っと危ない!!」

 早瀬が陸曹を突き飛ばす。
 直後に彼が立っていた場所に光り輝く何かが着弾し、頑丈なはずの石畳を軽く抉る。

「魔法使いだ!探せ!!」

 たちまちあたりは銃声と隊員達の怒号で埋め尽くされた。

919 名前: 物語は唐突に 04/01/22 17:04 ID:???

同日0800 魔法都市ネリュントス市内 中央広場

「あのビルだ!」

 窓に対して銃撃を行いつつ陸士長が叫ぶ。
 確かに、時折光り輝く魔法が飛び出していくのが見える。

「そこの5人ついて来い!!」

 脇にいた年配の准尉が怒鳴り、すぐさま5人の一士が集まってくる。

「目標はあのビル!敵は三階の道路側の部屋にいると思われるが総数は不明だ!全員殺せ!やらなきゃやられるぞ!」

「「「「「はっ!」」」」」

 准尉の号令で、5人の隊員は今いるいるビル影の斜め右に建っているビルへ向けて一気に突撃しようとした。

「馬鹿者!!」

 咄嗟に准尉が怒鳴り声を上げる。
 思わず立ち止まった隊員達の目の前をいくつもの矢と魔法が通過する。

「うっ、うわぁ!!」

 慌ててビル影に隠れる。
 だが、先頭の隊員は恐怖のあまり立ちすくんでいる。それも道路のど真ん中で。


922 名前: 物語は唐突に 04/01/22 18:44 ID:???

「馬鹿が!!こっちへ来い!」

 准尉が飛び出し、その隊員の襟を掴むとビル影へと引きずる。
 日ごろの隊内教育のお陰で、恐怖心に襲われつつも、体が条件反射で上官の言葉に従ってしまう。
 しかし、目標のビルのいくつもの窓から、二人を狙って矢や魔法が放たれようとする。

「援護しろ!撃て撃て撃て!!!」

PAPAPAPANN!!

 残る4人の一士たちが小銃を乱射する。
 たちまち四つの窓に弾着が生じ、悲鳴と共に敵兵が落下する。

「まったく世話が焼ける」

 准尉が呟きながらビル影へと帰還する。
 その左手には申し訳なさそうな一士の襟が握られている。

「馬鹿か貴様らは!市街戦においては建物間を移動するときは一人ずつと決まっておるだろうが!」

 怒りを通り越し、軽いあきれを感じつつ准尉。
 しかし、怒鳴られている隊員達は感心した表情こそ浮かべているものの、しまったという顔をしている者は一人もいない。

「あのぅ、准尉殿」

 おずおずと、先ほど彼に引きづられて助けられた一士が手を挙げる。

「なんだ?」

「そのぉ、自分達の部隊は、市街戦の訓練を受けた事がありません」

 准尉は、目の前が真っ暗になった。

923 名前: 物語は唐突に 04/01/22 18:48 ID:???

「・・悪かった。作戦を説明する。今から二人ずつ、最初は正面のビル、次は目標隣のビル、という順序で移動し、目標の建物へ突入する。移動していないときは援護射撃を

行う。いいな?」

「「「「「はっ」」」」」

 元気よく返事する隊員達。
 だが、数名の表情は明らかに疑問を抱えている事を言外に匂わせている。
 本来ならばこんなことは後方で、それも座学でやることなのだが、と思いつつ、准尉は説明する事にした。

「確認のために説明しておく。斜めに直接あそこへ突っ込んだほうが移動距離は確かに短い。だが、そうなると移動先を読まれやすく、攻撃を喰らう確立が高くなるからだ。
 なお、ビル間の移動はジグザグ走りではなく、適当に左右へぶれる程度でいいからとにかく全力疾走で走れ。カーチェイスじゃないんだ、低速で左右に動いたくらいで外れ

るなら誰も苦労せん」

「「「「「はっ!」」」」」

「よし、お前とお前行け。5・4・3・2・1・行け!!」

 怯えた顔つきの一士たちが飛び出すと、残った4人は一斉にビルへの射撃を開始した。


868 名前: 物語は唐突に 04/01/25 21:45 ID:???

「よくやった、全員いるな?」

 全力疾走の後だというのにまったく呼吸が乱れていない准尉は、荒い息をする一尉たちの無事を確認しつつ一応質問した。

「一階より突入する。突入準備」

 全員が小銃を構え、一人が扉の前に立ってドアを蹴飛ばそうとする。

「ちょっと待て、ドアに対して正対するな」

「はあ」

「ドアごとぶち抜かれたいのか貴様は!?」

「はっ!も、申し訳ありません」

 顔を青ざめさせてドアから離れる一士。
 他のメンバーも扉から離れていく。

「よし、俺が手榴弾を使う、炸裂と同時にドアを撃ちまくって突入しろ」

「はっ」

 准尉は手榴弾を取り出すと、安全ピンに手をかける。

「行くぞ!」


869 名前: 物語は唐突に 04/01/25 21:47 ID:???

 ピンを抜き、落ち着いて数える・・・2・・・1・・・

「喰らえ!」

 既に銃撃でガラスのなくなっている窓からそれを放り込む。

BAKOM!!

「突入!!撃て撃て撃て撃て!!!」

PAPAPAN!PAPAPAN!PAPAPAN!

 数名が一斉に扉に銃弾を打ち込む。
 無数の弾丸を叩き込まれ、扉はそこらかしこに穴を開けて内側に倒れそうになっている。

「うるぁぁぁぁぁ!!!」

 まさしく雄たけびと言うに相応しい怒号を上げ、隊員たちが突入していく。
 室内は手榴弾の炸裂によりメチャメチャになっていた。
 そこらかしこに破片が食い込み、重傷を負った兵士や魔法使いが転がっている。

「死ね死ね死ねぃ!!!」

 それらに容赦なく銃剣を突き刺し、踏みつけ、撃った。
 気がつけば、玄関には血染めの自衛官が五人、荒い息をして立っているだけであった。

「次だ!次の部屋に行くぞ!」

「「「「はっ!」」」」


377 名前: 物語は唐突に 04/01/27 02:38 ID:???

「一階の探索は以上だな?」

 既にその表情に狂気を隠さなくなっている准尉が尋ねる。

「はっ、間違いありません。残すは二階だけです」

 一方、答えを返す一士たちの方は、その表情に徐々に狂気が現れてきている。
 屋内での初めての戦闘に、昂ぶり過ぎた精神がおかしな具合になってしまったようだ。
 いや、正しくは、准尉の持つ狂気が感染しただけなのか。

「よし、あがるぞ」

378 名前: 物語は唐突に 04/01/27 02:39 ID:???

 一同は階段の下に集まった。
 弾倉を交換し、銃剣を装着する。

「楽なもんですね」

「馬鹿野郎、うまくいきすぎなんだよ。少しは警戒しろ」

 軽口を叩いた一士を叱りつつ、しかし周辺警戒を緩めずに准尉。
 その目は二階へと続く階段を睨んでいる。
 嫌な構造だな、上り終えた途端に背後にある廊下から何かが飛んできそうだ。

「手榴弾あるか?」

「二つほど」「自分は一つです」

 俺を入れて四つか、あまり贅沢には使えないな。

379 名前: 物語は唐突に 04/01/27 02:41 ID:???

 一士たちに警戒を命じつつ思案にふける。
 使える手榴弾は四つ。建物の構造から考えて二階の部屋は三つか二つ。
 だが、階段を上った段階で一人減るのは痛いな・・・よし。

「お前」

 先ほど手榴弾を二つ持っていると言った一士を呼ぶ。

「はっ」

「二人同時に投げる。1、2の3でだ。お前は」

 そこで別の一士も呼ぶ。
 こちらは手榴弾を一つだけ持っていると言った方だ。

「援護射撃する。先陣を切ってくれ」

「はい、よろこんで」

 うれしそうに言い、銃剣のマウント部分を確認する。
 うん、いい感じだ。


380 名前: 物語は唐突に 04/01/27 02:42 ID:???

「よし、行くぞ!1!」

「2の!」

「3!」「3!」

BAKOMU!
  BAKOMU!

「突撃ぃー!突撃ーー!!」

PAPAPAN!PAPAPAN!

 最後の瞬間が微妙にずれてしまったおかげで、爆発にタイムラグが生じてしまった。
 しかし、始まった以上驚いているわけにもいかず、指示に従って隊員たちは突撃を開始した。


381 名前: 物語は唐突に 04/01/27 02:46 ID:???

「うりゃぁぁぁぁ!!」

 銃剣を突き出すようにして先ほどの隊員が突撃する。

「馬鹿!射線をさえぎるな!」「うるせぇ!!」「早く上がれ!」

 お互いを罵りつつ階段を駆け上がる。
 上った先の正面、道路に面した窓際に一人の魔法使いが立っていた。
 手榴弾の破片を受けたらしく、手を壁について苦しんでいる。

PAPAPAN!!

 着弾の衝撃で魔法使いは窓を突き破り、道路へと落下していった。
 と、真横を矢が通過する。

382 名前: 物語は唐突に 04/01/27 02:47 ID:???

「死ねぇ!」

PAPAPAN!!

 振り返りざまに射撃を行い、剣を構えていた兵士と弓を構えていた兵士を貫通させて同時に射殺する。
 その間に二人ほど二階へと到着している。

「撃てぇ!撃って!!!」

 二人も直ぐに銃を構え、兵士たちを撃つ。
 一方の兵士たちも慌てて盾を構えるが、薄手とはいえ鉄板ですら貫通する銃弾相手に、木製の盾など役に立つはずもない。
 なすすべもなく蜂の巣にされ、次々と兵士たちは床へと打ち倒されていく。
 が、ここに来て全ての実体弾火器の持つ避けようのない構造的欠陥、つまり弾切れが発生した。

「あっ!畜生!!」

 慌てて弾倉を取り出す、古い物を投げ捨てようとして、慌てて訓練時の鉄則を思い出してポケットへしまいこむ。
 だが、その一瞬が命取りだった。
 いつの間にか懐に潜り込んだ軽装の男が、ギラリと光る大型ナイフを突き立てようとする。

383 名前: 物語は唐突に 04/01/27 02:49 ID:???

「さぁぁせぇぇるかぁぁあぁぁ!!!」 

 雄たけびを上げ、銃剣を突き出した一士が横合いから突撃する。
 その声のあまりの大きさに一瞬男の動きが鈍り、そしてその一瞬の隙で一士は男へと銃剣を突き立てた。

「WAaaaaAAaaa!!」

 明らかに痛そうな叫びを上げる男。
 ナイフを落とし、そのまま突撃の勢いで押されて壁へと叩きつけられる。
 その衝撃で銃剣がより深く突き刺さる。
 マウント部分が衝撃に負け、へし折れ、そしてズレた銃口部分がさらに突き刺さる。
 既に男は絶命していた。
 わき腹から襲い掛かる痛みの衝撃が大きすぎ、ショック死したのだ。

384 名前: 物語は唐突に 04/01/27 02:51 ID:???

「はぁ、はぁぁ」

 准尉が落ち着き払って二階へと上ってきたとき。
 そこは血の海だった。
 その中で三人の一士が寄り添って座り込み、銃を周辺に向けつつも呆然としていた。

「スバラシイ、うん、実にスバラシイ」

 嫌な笑顔で准尉。
 だが、肩で息をする一士たちも似たような笑顔を返す。
 上司も上司ならば部下も部下とは使い古された嫌味だが、彼らはもはや存在するだけで狂気が出せるほどになっていた。
 准尉の見立てでは二階にはいくつか部屋があるはずであったが、いざ上ってみると部屋は一つだけであった。

「よし、この部屋で最後のはずだ」

 ドアの脇に立ちつつ准尉。
 その全身は返り血と埃で酷い事になっている。

「早いところやっちまいましょう」

 血塗れの銃剣を装着している一士が言う。
 彼の両手も血塗れだった。 
 怪我をしたわけではない。先ほどの戦闘で銃剣突撃をした為にこのような姿になってしまったのだ。

385 名前: 物語は唐突に 04/01/27 02:54 ID:???

「行くぞ、3,2,1、突入!!」

 合図と共にドアを打ち抜き、手榴弾を放り込む。

BAKOM!BAKOM!!

 二度爆発が発生し、室内を死と破壊の暴風が吹き荒れる。

「突入ー!突入ぅー!」

 准尉に怒鳴られつつ一士たちは室内へと突入していく。
 動くものは撃ち、近いものは突き刺した。
 戦闘靴で踏みつけ、蹴り飛ばし、離れたところを撃った。
 気がつくと、屋内には隊員のほかには魔法使いらしい三人が立っているだけになっていた。

「撃てぇ!!」

 一斉に放たれる銃弾。
 哀れ三人はなすすべもなく壁へと叩きつけられ・・・はしなかった。

「な、なんだとぉ!?」

 思わず准尉が叫び声をあげるのも無理はない。
 いつものように敵を射殺するはずの銃弾は、空中に静止していた。
 しばらく静止した後、重力に引かれて落下する。

386 名前: 物語は唐突に 04/01/27 02:55 ID:???

「て、てて撤収!!」

 誰かの狼狽した声に、隊員たちは先を争うようにして室外へと逃げ出した。
 廊下へと転がり出た隊員たちは、青い顔をしつつもドアのほうに銃を向けていた。

「ど、どうなってやがるんだ?」

「しらねぇよぉ」

「じゅ、准尉どの・・・?」

 怯えつつ准尉に話しかけた一士だが、彼のあまりにもうれしそうな表情に怪訝そうになる。
 そう、准尉は怯えるどころか嬉しそうにしているのだ。

「今までが手ごたえがなさすぎだったんだ。おい貴様ら、うれしいじゃないか、殺しがいのある奴に出会えて」

 心底嬉しそうにする准尉に、隊員たちは恐ろしさよりも頼もしさを感じた。
 そうだよ、俺たちはこの世界じゃ最強無敵の自衛隊様じゃないか。なにやら魔法で頑張ってやがるが、ブッ殺してやればいいだけじゃないか。
 いつのまにか余裕のある笑みを取り戻した彼らは、立ち上がると配置についた。

387 名前: 物語は唐突に 04/01/27 02:57 ID:???

「いいか?これでケリをつけるぞ」

 荒い息と共に准尉が他の四人に声をかける。
 三人はドアの外側で射撃準備を整え、残る二人は准尉と共に突入を支援できる位置に立っている。

「了解」

「1、2の3で行きましょう」

 まだ弾の残っている弾倉を交換し、安全装置の解除を確認する。
 銃剣を装着し、唾液を飲む。

「1」

「2の」

「3!これでも喰らえ!!」

388 名前: 物語は唐突に 04/01/27 03:00 ID:???

PAPAPAN!!
PAPAPAN!!
PAPAPAN!!

 三人の隊員がその銃口を向け、魔法障壁と思われるものを張り巡らせた奴に容赦のない銃撃を加える。
 最初の一発は確かに全て空中で停止し、先ほどと同様に床へと落下する。
 だが、その後に続く二発、つまり合計六発の5.56mmNATO弾は、効果を果たした魔法障壁を突き抜けて魔法使いへと殺到した。

「・・・・?」

 全身を襲った衝撃で壁に叩きつけられたおかげで、魔法使いは何が起こったのか理解できないようだ。
 おそらく、まだ痛みも感じていないのだろう。
 虚ろな表情でこちらを見てきたその頭部に銃口を突きつける。

PAPAPAN!!

 頭部はスイカのように砕け散り、赤と灰色の混合物が壁へと飛び散った。


389 名前: 物語は唐突に 04/01/27 03:01 ID:???

「准尉ぃ!」

 魔法使いに止めを刺していると、不意に一人の一士が俺を呼んだ。

「なんだ?」

「魔法使いです。怪我をしているようですが。しかも女です」

 だからなんだと言うのだ?女の子は可哀想だから逃がしてやりましょうとでもいうつもりなのか?

「ブッ殺していいですか?」

「かまわん」

 うん、素晴らしい。戦場はこうでないと。PAN!
 現状に満足感を覚えつつ、彼は机の下に隠れていた別の魔法使いに止めを刺した。



860 名前: 物語は唐突に 04/01/29 19:15 ID:???

同日0846 魔法都市ネリュントス市内

「三佐殿、麻生准尉以下四名、敵陣地制圧に成功しました。確認殺害戦果12名。こちらの損害は皆無であります」

「おおおお!!!!!」

 出迎えに出た一同から怒号が巻き起こる。
 全身を埃と返り血に塗れさせ、五人は敬礼した。
 無事に敵陣地を鎮圧し、そして手を振りながら凱旋してきた彼らは英雄扱いであった。
 もみくしゃにされ、そして肩を叩かれまくった頃には、出てきた当初の狂気を孕んだ表情はなくなっていた。

「よくやった。装備を補充し、少し休んでいろ」

 敬礼し、回れ右をすると、一尉は再び憂鬱な会議へと戻った。

861 名前: 物語は唐突に 04/01/29 19:16 ID:???

「だから!今すぐ全員を下げないと、物量で押しつぶされて終わりますよ!!」

 年配の陸曹が怒鳴る。
 確かこいつは定年間際だったな。
 その顔を見ながら会議と全く関係ないことを思う。
 輸送船の中で、人目を避けて愚痴ってきた姿を思い出す。
 一尉殿、あんまりだとは思いませんか?自分は本当なら定年だったのに。いまさら海外赴任だなんて。
 たしか山田とかいうありふれた苗字だったはずだ。

「山田一曹、落ち着きたまえ」

 こめかみを揉みつつ声をかける。

「助けに行きたいのはこの場にいる全員が同じ気持ちだ。それは君も分かっているだろう?」

「は、はい」

「だから会議を行っているんだ。それもできるだけ建設的な方向でね」

 だから怒鳴るのはよせ。と言外に伝える。
 趣旨は間違いなく伝わったらしく、山田一曹は小さく申し訳ありません、と言った。

862 名前: 物語は唐突に 04/01/29 19:17 ID:???

「さて諸君。そろそろ結論を出したい。どうだろうか?」

 近くにいるニ尉を見る。

「はい、現在のところ最大の問題は負傷者です」

 一同の目が医療テントに向く。
 その中では負傷した隊員たちがうめき声をあげている。
 敵の攻撃は、苛烈さの代わりに狡猾さを持っており、時折思い出したように飛んでくる魔法の被害者は増える一方だ。

「負傷者とそれを搬送するための人員を試算すると、少なめに見積もっても中隊の半分は使ってしまいます。
 しかしながら、人質にここまで接近できる機会は、今後かなり少ないとも予測されます」

「結論は?」

「部隊を人質救出部隊と撤退する部隊とに二分します。
 撤退する部隊は車両のところまで戻り、予備隊を連れて引き返してくる。というのはどうでしょう?」 

863 名前: 物語は唐突に 04/01/29 19:18 ID:???

「問題はその間の戦力不足です」

 需品担当の一曹が続ける。

「撤退をする部隊にも武器は持たせてやらねばなりません。が、度重なる戦闘により、既に弾薬の残量が怪しくなりつつあります」

「そんなに残りがやばいのか?」

「いえ、まだそれほどまでには。しかし、今のペースで戦闘を続けると、撤退時に弾薬が不足する可能性があります」

「ふむ、それは楽しくないな」

「しかし、戻ってくる時に余剰分の弾薬を持ってきてもらえばいいだけの話だろう?」

 別の一曹が口を挟む。

「そうだ、それでいいじゃないか。それよりも早く出発するべきです」

「そうだ!」

「そういうことだな。第一、ここに到着するまで抵抗らしい抵抗なんてなかったんだ。撤退する部隊も急がせれば目的地到着前に合流するかもしれん」

「そうですよ、考えてばかりではいつまで経っても救出できませんよ!!」

 ふむ、戦意は旺盛、素晴らしい。



865 名前: 物語は唐突に 04/01/29 19:19 ID:???

「・・・というわけでして、戻ってきた部隊に増援と物資の補充を願いたくあります」

 恐らくは許可されるであろうと思いつつ、行動計画を話す。
 だが、戻ってきた答えは予測以上だった。

<了解した。陸将閣下の許可も頂いた。安心して作戦に励んでくれ>

 うん、素晴らしい。
 陸将閣下の許可が下りたということは、つまり私達の現在行っている行動は法的根拠を得ている正規の作戦行動ということだ。
 一見、最前線で身を張る私達には関係ないように見えるが、これは大きい。
 自分達の行動が、誰にも支持されずに独断専行に近い形なのか、それとも上官の、上層部の、自衛隊の、つまり政府の支持を得た行動であるという形なのか?
 それが分かるだけでも彼らの士気はずいぶん違う。

「了解しました。これより任務を続行します。終ワリ」

 無線を切り、銃を取る。

「小休止の後、移動を開始する!!」


562 名前: 物語は唐突に 04/01/31 22:49 ID:???

同日0921 魔法都市ネリュントス市内

 射殺された帝国兵が転がる道を、うめき声を上げる負傷者たちを連れた一隊が移動している。
 血走った目をした三人の一士を先頭とする彼らは、一刻も早く車両部隊が待機している場所へ到着しようと必死だった。
 既に四回の攻撃を受け、弾薬は早くもその量が危うくなり始めている。
 
「車両部隊からの増援はまだか?」

 重い無線機を担ぐ三曹に一尉が尋ねる。
 
「はい、敵軍の抵抗にあっているらしく、こちらへはまだ到着できないと」

「急がせろ。このままではヤバイぞ」

「はっ」

563 名前: 物語は唐突に 04/01/31 22:54 ID:???

「クリア!」

 路地裏を覗いていた一士が怒鳴る。
 その言葉を聞くと、MINIMIや89式を構えた他の隊員たちがゆっくりと歩き出す。
 先ほどの一士はすぐさま次の路地目指し、小走りで走り出す。

「もういないみたいだな」

 同じく走りながら同僚が言う。

「だな、しかし油断するわけにはいかんだろう」

 三人目の一士が会話を締めくくり、路地へ向けて銃を向ける。
 油断なく周囲を窺いつつ、その中へと入っていく。

「クリ・・・ウワァァァッァ!!!」

PAPAPAN!!

「どうした!?」

 他の二人が銃を構えつつそちらを向いた瞬間、先ほど叫んだ一士が通りへと飛び出してきた。
 だが、その上半身と下半身は別々になっている。

「てっ、敵襲!!!」

564 名前: 物語は唐突に 04/01/31 22:55 ID:???

 同僚の仇をとるべく、怒りに燃える二人の一士は問題の路地へと突入しようとした。
 しかし、後ろから凄まじい熱を感じ、振り向いた。
 視界一杯に広がる赤。彼らが知覚できたのはそこまでだった。
 二人を襲った火炎の温度は摂氏250度。
 絶叫する間もなく全身を焼かれ、呼吸系を全滅させられ、二人の一士は弾薬をその熱量で暴発させながら地面へと吹き飛ばされた。

「な、なんだありゃあ」

 呆然と呟く一尉。
 その上空をなにやら怪しげな生き物が旋回している。
 彼が気づいたときには手遅れだった。
 生き物は上空からファイヤーボールのようなものを吐き出し、彼と通信士、その周囲にいた数名の負傷者とその搬送要員を焼き尽くした。


565 名前: 物語は唐突に 04/01/31 22:58 ID:???

同日0930 魔法都市ネリュントス郊外 陸上自衛隊海外派兵団本部天幕

「通信が途絶えた?」

 車両部隊からの報告を受けた通信士が不安そうな声を出す。
 今まで悲しい知らせならば一生分は聞いたが、状況が不明になるという報告は初めてだったからだ。

<はい、現在救援に向かうために部隊を編成しておりますが、先発隊が未だに交戦を継続中であり、間に合うかどうか>

「ヘリを出そう」

 不意に会話に割り込んだのは、ヘルメットを小脇に抱えたパイロットだった。
 そう、陸上自衛隊の整備班は、危機的状況が多発している現状を見過ごす事を良しとせず、ヘリの部品をヘリで空輸する、それもバケツリレーのように基地から基地へ、と
いう方法で何とか二機のUH−60JAを用意できたのだ。


566 名前: 物語は唐突に 04/01/31 23:00 ID:???

「許可する。二個小隊を連れて行ってくれ」

 パイロットの後ろにいつの間にか現れた斉藤が告げる。
 本部の警備についている中隊から二個小隊を供出するというのだ。

「い、いやしかし、それではここの警備が手薄になってしまいますが」

 不安になったらしい幕僚の一人が口を挟む。

「ここには物資も車両もある。二個小隊もいればいいだろう?」

「で、ですが万が一を考えますと・・・」

 なおも引かない幕僚。
 本部はこの作戦の要である。
 ここが落ちるようなことがあってはならない。
 大体、ここが敵地である事を考えれば一個中隊ですら不安なのだ。

「89式戦闘装甲車や96式装輪装甲車が数台いるのは心強いです。しかしだからといって普通科を減らすのは不安です」


567 名前: 物語は唐突に 04/01/31 23:02 ID:???

「君の考えはもっともだ。私も不安ではある。だが、今戦力を必要としているのは我々ではなく、あそこにいる彼らなのだ」

 天幕から見えるネリュントスを眺めつつ斉藤。

「それにだ、後方の基地からの増援も要請する。どのみち減少した戦力のままでは撤退すら不安だからな」

「は、はあ」

 納得しきれない表情は浮かべたものの、人としても自衛官としてもそれを拒否する事が許されない事を分かっている幕僚は納得した。

「と、いうわけだ」

 くるりと向きかえると、斉藤は先にパイロットに敬礼した。

「直ぐに部下達を連れて現地へと向かってくれ」

「はっ!よし!お前ら行くぞ!!」

 惚れ惚れするような見事な敬礼をすると、パイロットは直ぐに天幕の入り口に来ていた同僚を連れて仮設ヘリポートと駆け出していった。




638 名前: 物語は唐突に 04/02/01 03:52 ID:???

同日1022 魔法都市ネリュントス市内

 銃声が鳴り響き、神話に出てきそうな形をした魔物が息絶える。
 と、凄まじい火炎がバリケード代わりの建物へ向けて発せられる。

「うわちっ!!」

 隙間から漏れ出してきた炎で火傷をしたらしい一士が叫ぶ。
 しかし、火炎が収まった事を確認すると、焦げている窓枠から身を乗り出し、小銃を乱射する。

PAPAPAN!!

「撃てぇ!!怯むなぁ!!」

 陸曹が怒鳴り声を発し、銃声が一斉に鳴り響く。
 魔物たちは次々に肉体の各所を撃ち砕かれ、路肩へとその残骸を横たえる。

「伏せろっ!」

 号令と共に銃声が止み、隊員達はバリケードに引っ込む。
 そこへ襲い掛かる火炎。
 しかし、炎を吐けるとはいえ所詮は獣。
 窓枠から室内を狙おうとは考え付かないらしい。
 火炎は外壁で食い止められ、屋内には被害は生じない。



640 名前: 物語は唐突に 04/02/01 04:01 ID:???

「糞、もう弾薬も残り少ない。どうすればいいんだ」

 決死の戦闘を続ける部下達を見つつ、生存者の中で最高位の一曹は呟いた。
 通りを見れば、化け物の死体に混ざり、一尉殿たちの遺体が転がっているのが見える。
 まさか上空からあのような攻撃を受けるとは思わなかった。
 お陰で一尉殿と一緒に通信士も殉職してしまった。
 彼の持つ通信機がなければ、後方や先を行く部隊に救援を求める事ができない。

「一曹殿!弾薬がありません!」「俺もだ畜生!!」

 口々に喚きながら一士たちがこちらへとやってくる。
 あの混乱の中でなんとか引っ張ってこれた弾薬箱を蹴飛ばす。

「そいつを使え!最後の一箱だ、大事に使えよ」

「了解」

 落ち着いたな顔つきをした三曹が答える。
 どうやらこいつは既に腹をくくっているみたいだな。
 糞、俺は嫌だぞ。諦めてこんなところで死ぬのは。
 絶対に嫌だ。生きて帰ってやるんだ。


641 名前: 物語は唐突に 04/02/01 04:04 ID:???

「一曹殿!!!」

「今度は何だ!」

 咄嗟に怒鳴り返してしまう。
 いかん、相当参っているようだ。

「み、味方です!味方が来てくれましたぁ!!」

「な、何だと!?」

 慌てて窓から外を見る。
 上空を旋回する二機のヘリコプターが見える。
 ガンナーが重機関銃を構えている姿が見える。

DODODODODODODODODON!!!

 ヘリの通過に伴い、突風と弾着が駆け抜け、化け物どもが悲鳴を上げて逃げ惑い、しかし銃弾に倒れていく。

「ははは、いいぞ、素晴らしい!!」

642 名前: 物語は唐突に 04/02/01 04:06 ID:???

 一曹が歓声を上げているうちに、ヘリの一機が高度を下げる。
 ロープを垂らし、そこから隊員が路上へと降下する。
 すぐさま建物から飛び出した隊員たちが周囲を取り囲み、そこを確保する。
 降下した隊員がロープから離れると、次々と隊員がロープを伝って降りてくる。

「よく来てくれた!!」

 口々に叫びつつ地上で戦っていた部隊の隊員が降下したばかりの隊員たちの肩を叩く。
 降下した隊員達は、それに笑顔で答えつつもヘリから降りてくる隊員達のために場所を開け、周囲に殺到してくる化け物相手に銃撃を食らわす。

「一小隊降下完了!」

 およそ二個分隊が降りたところで陸曹が叫ぶ。
 この街に着くまで連戦連勝の自衛隊ではあったが、精神病を患うものや負傷するものは後を絶たず、充足率などという言葉はもはや問題ではなかった。
 そのため、二個分隊の小隊など別に珍しくはなかった。
 しかし、援護される側の地上部隊としては微妙であった。
 なぜなら、正規の規模だと一個小隊の増援というのは確かにうれしいが、彼らが今欲しているのは増援よりも補給物資だからである。


643 名前: 物語は唐突に 04/02/01 04:15 ID:???

 ヘリは次々と隊員を降下させる。
 降下した隊員は直ぐに周囲へ弾幕を張り巡らし、殺到しようとしていた化け物たちを蜂の巣へと変えていた。
 やがて全員を下ろしたらしいヘリは、周辺警戒をしていた別の機と交代し、今度は二機目が隊員を降下し始めた。
 だが、四人を下ろしたところでストップがかかった。
 一個小隊もつれて来れなかったのか。地上部隊が見守る中、いくつもの見覚えのある木箱が下ろされ始めた。
 弾薬箱。
 小銃の弾薬を入れるための箱である。

「おいおい、大盤振る舞いじゃないか!!!」

 嬉しそうに叫ぶ一曹。
 司令部は、末端の部隊が弾薬不足に陥るであろう事まで計算してヘリにこれを載せてきたのだ。
 つまり、司令部ではこちらの状況を予測とはいえかなり正確に近い形で把握しているという事である。
 と、言う事は、兵員よりも弾薬で乗り切れれば良い=友軍が近くまで来ているということになる。
 やがて、ヘリは歓声を上げる地上部隊を残して上昇し、周辺の掃射へとその行動を切り替えた。

644 名前: 物語は唐突に 04/02/01 04:15 ID:???

同日1136 魔法都市ネリュントス上空

 轟音を立て、二機のUH−60JA、コールサイン”オタスケマン01””オタスケマン02”は戦場を支配していた。
 力強いローターとエンジンが発する轟音は敵兵を恐慌状態に陥らせ、そして恐怖に震えていたはずの友軍を、いつも通りの無敵の軍団へと戻していた。

DODODODODODODODODODODODODOM!!!

 機体に据え付けられた重機関銃は、重い発射音を立てつつ逃げ惑う敵兵たちを遮蔽物ごと粉々に撃ち砕いている。

「いいぞー!!」「もっとブッ殺せぇ!!!」

 歓声を上げつつも射撃を継続する地上部隊を眺めつつ、ガンナーは射撃を継続した。
 知らず知らずのうちに、彼の口元には奇妙にゆがんだ笑みが浮かんでいた。


645 名前: 物語は唐突に 04/02/01 04:16 ID:???

神基暦2129年5月22日 魔法都市ネリュントス市内 魔導士協会臨時駐屯所

 殺戮の音色は未だ続いていた。
 土煙が時折落ちてくる室内は、血の匂いに満ちている。

「やはりこの小娘が?」

 返り血に塗れた魔導士が言う。
 名前はなんといったか?まあいい。
 さきほど、この水兵のような格好をした少女が変な物を取り出したので殺したが、おそらくアレは仲間を呼ぶための魔導具だったのだろう。
 その証拠に、一度は通過したこの建物の周りに敵兵が大量に現れ、おまけに空飛ぶ怪鳥すら現れた。
 だが、今に見ていろ。私の持つ最大級のあの魔法さえ決まれば。

646 名前: 物語は唐突に 04/02/01 04:17 ID:???

 ・・・・・・血が止まらない。
 もうだめなのね私。
 あの広場で友達が皆殺しにされたとき、私は奴らに連れられてここへと連れてこられた時。助かったと思った。
 みんなが私を呼ぶ声が忘れられない。助けて。助けて。私も連れて行って。
 振り向かなかった。振り向けなかった!!怖かった。怖かったのよ。
 ここへ来てすぐに後悔した。
 あいつらは、私を何度も何度も犯した。何度も何度も。
 服を投げ与えられたとき、ポケットに入っていた携帯を手に取ったのは何故なんだろう。ここが圏外だなんて分かりきっていたのに。
 でも、あいつらは携帯を見て目の色を変えた。
 いきなり襲い掛かり、携帯を奪い取ると踏み潰した。
 あーあ、パぱ、かなしんでるだろうな。
 でも、じえいたいはもうすぐここへきてくれる。
 じえいたいが、たすけてくr・・・・・・・ 

647 名前: 物語は唐突に 04/02/01 04:18 ID:???

「今です!屋上はなんとか安全です!!」

 階段から様子を窺っていた下級兵士が叫ぶ。
 名前など知る必要もないが、こいつは連中が襲ってきたときからずっと生き残り、私の役に立っている。
 ふむ、下級兵士にしては十分すぎる貢献だな。生き残ったら私の専属兵にしてやろう。

「ごくろう。邪魔をしないようにな」

 いいつつ屋上へと出る。
 奴らとの戦闘の後に必ずする、なんともいえない匂いが充満している。
 屋上の中心へと立ち、詠唱を始める。

「・・・・・・qkazhhhj・・・・・・aiooqqpdldlslk・・・・・・」

 魔力が溢れ出すのが分かる。
 怪鳥はまだ私には気づいていていないらしい。
 いいぞ、もう呪文は完成する。

「・・・・・・古の盟約により、我にその力を与えたまえ!!!!!」


648 名前: 物語は唐突に 04/02/01 04:22 ID:???

GYAGIGIGIGIIIIII

 突然凄まじい轟音が生じ、ヘリが大きく揺さぶられる。
 先ほどまで力強い音を立てていたエンジン音がおかしくなり、ローター音もなにやら怪しくなってくる。 

「油圧低下!」「畜生テールをやられた!!」

 警報音と明らかにおかしいエンジン音で埋め尽くされたコックピットで、パイロットたちは懸命に機体の制御を取り戻そうとしていた。
 しかし、攻撃を受けたヘリは言う事を聞かず、どんどん先ほどの場所からずれていく。

PiPiPiPiPiPiPiPi!!
BeeeP!BeeeP!BeeeP!

 警報音は止まらない。
 全ての警告ランプが点灯し、機体は緩やかな回転を始めている。
 みるみるうちに高度が落ち、地面が見えてくる。

「墜落する!こちらオタスケマン02!畜生!墜落する!こちらオタスケマン02!!畜生!ちくs・・」


671 名前: 物語は唐突に 04/02/18 01:39 ID:???

「はぁ、はぁ」

 目の前には荒い息を吐く異世界人が転がっている。
 呼吸が荒くなるのも無理はない、さっきまで散々ぶん殴ったからな。
 バケツを手に取り、水をかける。

「目が覚めたか?」

 必死に何かを訴える目でこちらを見てくる彼女を睨みつける。
 彼女。そう、こいつは女だ。
 女になんて事を?ジュネーブ条約?知らん。そんなもん、俺は知らない。
 こいつは今日、魔法で五人の自衛官を殺した。
 そのうちの一人は俺のバディ、娑婆の言葉で言うところの相棒って奴だ。
 残りの四人は同じ戦闘班の奴らだ。いや、正解にはだった。


672 名前: 物語は唐突に 04/02/18 01:40 ID:???

「痛いか?痛いだろう」

 全身に青あざと切り傷がある彼女は、再び何かを訴えるような目でこちらを見てきた。

「だがな、だけどなぁ」

 声が震える、右腕に力が入る。

「秋山はもっと痛かったんだ!!」

 右腕を振り下ろす。もう一度。もう一度。
 血が飛び散り、悲鳴が響く。
 しかし殴るのは止められない。止められるはずがない。
 力を込めて、憎しみを込めて。

「おいおい、死なない程度にしておいてくれよ、彼女にはまだまだ役に立ってもらうんだからな」

 下卑た笑い声と共に、警務隊員の声がドアの外から聞こえてきた。




893 名前: 物語は唐突に 04/02/18 21:10 ID:???

「△・・・@■×□!!!(お願い!殺さないで!!)」PAM!PAM!

ちりん

 静まり返った室内に、薬きょうが転がる音がする。
 あたまを壊された捕虜が床に倒れこみ、湿った音を立てる。
 あっけない。とてもあっけない。

「ふぅ、は、はは、ははは、あはははははははははははは」

 なんだよ、魔法つかいさんってのはこんなもんか?あっけないなぁ。

「なんだよ!起き上がってこいよ!ほれ!ほれぇ!!」

 わき腹をけりつけてやる。
 しめった音を立て、し体が転がる。
 もう一度蹴りつける、もう一度転がる。ける。ころがる。

「動けよ!オラァ!動いてみろよ!!」

 じゅうを向け、トリガーを絞る。
 着弾と共に死体が震える。
 もう一度。もう一度。もう一度。もういちどもういちどもう一度もういちど。

「動いてみろよ!動けよぉ!」

 弾が無くなった銃を投げつける。
 だめだ、こわしたりない。もっとこわしてやらないと。


894 名前: 物語は唐突に 04/02/18 21:12 ID:???

「おい!何してる!」

 うるさいなぁ警務隊員が。
 前線に出ないお前らにはわかんないんだよ。

「こんなに無駄遣いをしおって!」

 強引に腕をとられ、手錠をかけられる。
 うるさいなぁ、どこ連れて行くつもりだよ。
 
「いいから、キリキリ歩け!」

「なんだよ!放せよ!」

 三人がかりで錯乱した隊員が連れて行かれた後、死臭の充満する室内に一人残った警務隊員が呟いた。

「こんなの殺すのに弾使うなよ、もったいない」

 忌々しそうに呟くと、彼は死体に唾を吐きかけてその場を立ち去った。


895 名前: 物語は唐突に 04/02/18 21:12 ID:???

いやですからねぇあれを壊してやらなきゃいけなかったんですよ。
え?あれってなにかって?いやだなぁ、あれですよ、異世界の。そう、魔法使い。
壊す?だってあんなもん、ただの物ですよもの。生き物として認知してやる必要ないっしょ?
気持ちは分かる?なにがわかるんですかね?あんた警務隊でしょ?
俺ら普通科よ?最前線で命はってるんよ?あいつね、今日俺の同僚を六人も殺したんよ。
だからぶっ壊してやったんだよ。なんか文句あるのかよ?あ?文句あるのかよ?
そうだろうぉ?文句ないだろう?だよなーお前も同じ自衛隊員だもんな。
ところでさーいつまで俺ここにいればいいの?
え?これで終わり?いいの帰って?
あーなるほど、取りあえずの拘禁なわけね。明日からどうすればいいの俺?前線行きたいんだけど。
え?いつもどおり?マジでー?ありがとう!
え?どうして喜ぶのかって?
そりゃあんた、あいつら一つでも多く壊してやらないとダメでしょう?
ですよねー!わかってるじゃーん♪
あ、そいじゃあ自分はここいらで失礼しますよ〜


896 名前: 物語は唐突に 04/02/18 21:13 ID:???

ある警務隊員の業務日報
20XX年11月21日2200
本日1320頃、○○一士(プライバシー保護のため削除)が尋問中だった敵魔法使いが突然暴れだし、○○一士(プライバシー保護のため削除)に襲い掛かった。
○○一士(プライバシー保護のため削除)は懸命になだめようとしたが、生命を危険に晒されたため正当防衛射撃を行った。
その結果、敵魔法使いは死亡。○○一士(プライバシー保護のため削除)に怪我はなかった。
こちらの人道的配慮を逆手に取り、このような行動を行う敵国兵に対し、取り扱いの抜本的な見直しが必要であると痛感した一日でありました。

「ふぅ」

 日報を付け終えた警務隊員は、ため息を吐くと目を閉じた。
 まったく、いくら人手が足りないからとはいえ、あそこまで病んでいる奴を使わんでもいいだろうに。
 昼間尋問をした隊員を思い出して身震いする。
 あの目は、正常だとか狂っているだとかいうレベルではない。巧く言葉では表現できないが、何かがおかしい。
 まともな判断能力を有している彼にとって、このような日常を過ごしていくことは極めて不快だった。
 しかし、妻子が本土で仕送りを待ち望んでいる事を知っている彼は、胃痛を覚えつつもこの狂った日常を過ごしていくしかなかった。狂気が感染しないようにと祈りつつ。


372 名前: 物語は唐突に 04/02/29 00:41 ID:???

同日同時刻 魔法都市ネリュントス郊外 陸上自衛隊海外派兵団本部天幕

<墜落する!こちらオタスケマン02!畜生!墜落する!こちらオタスケマン02!!畜生!ちくs・・zeeee>

 オタスケマン02からの音信が途絶える。
 通信士がしばし無言になり「オタスケマン02からの音信が途絶えました」と、小さく言う。

「わ、私の・・・責任だ」

 そう呟くと、斉藤はよろめきつつ椅子へと崩れ落ちる。
 作戦開始時の精気に満ちた表情はどこかへと消え去り、その顔は死刑直前の死刑囚にも似た絶望を醸し出している。

「せ、責任って、どういう意味だ!!」

 声が聞こえたらしいヘリの整備班が詰め寄る。
 口々にわめき、雲の上の存在であるはずの陸将に怒鳴りつける。
 完全に頭に血が上っている。
 同僚の死を自身の進退問題よりも下と見ているような発言なのだ。無理もない。

「ふざけるなよ!何が責任だ!てめぇは自分の星を増やすことしか考えつかねぇのかよ!!」

373 名前: 物語は唐突に 04/02/29 00:42 ID:???

「黙れ!!」

 突然、黙り込んでいた斉藤が怒鳴った。

「階級ぅ?星ぃ?そんなもんで奴らが帰ってくるなら三等陸士にでもなんでもなってやる!!」

 制服の階級章を掴み、頑丈につけられているはずのそれを毟り取る。
 あまりの力に制服の抗力が負け、制服の一部が破れる。 

「俺が階級なんかに未練があるとでも言いたいのか貴様ら!!」

 ようやく、彼らは気づけた。
 斉藤は自分の進退問題に関わるから落ち込んでいたのではない。
 自分のせいで三名の命が失われたことに落ち込んでいたのだ。
 そう、今彼の前に押しかけている自分たちと同じ、いや、命令した立場であることを考えるとそれ以上かもしれない。
 既に死者は何名も出ている。
 だが、直接指示を出し、言葉を交わしたという事実が、斉藤をここまで苦しめていたのだ。

374 名前: 物語は唐突に 04/02/29 00:44 ID:???

 あまりの気まずさに黙り込む一同。
 彼らは、必死に涙をこらえている遺族に「悲しくはないのか?」と尋ねるのに近い愚を冒してしまったのだ。
 現に斉藤は、陸将という階級、自衛官という立場、男性という社会的常識を無視し、人前で声を上げて泣いているのだ。
 怒鳴りつけてしまった以上、気にしないで下さいとも泣くなとも言えない。
 そんな彼らを救ったのは、現場からの通信だった。

<こちら別行動中の広瀬一尉です。本部応答願います>


375 名前: 物語は唐突に 04/02/29 00:46 ID:???

同日1200 魔法都市ネリュントス市内

「撃ぇ!」

PAPAPAPAPAPAPAPANN!!

 号令と共に銃声が鳴り響き、逃げ惑っていた敵兵たちが次々となぎ倒されていく。
 うん、いつ見てもスカッとする光景だ。おまけに、皆射撃がどんどんうまくなっていく。
 一の実戦は百の訓練に勝るとはまさしく至言だな。

「広瀬一尉殿!残敵の掃討はもうまもなく終了する予定であります!」

「うんご苦労、一人も生かすなよ」

「はっ!」

 敬礼をすると、三曹は駆け足で部下たちを手伝いに行く。
 ふむふむ、感心感心。


376 名前: 物語は唐突に 04/02/29 00:49 ID:???

「おっしゃー!二名確認殺害戦果ぁ!!」

 小銃を構えたまま一士が叫ぶ。
 その先には蜂の巣になった傭兵らしい男が二人、糸の切れたマリオネットのような不自然な体勢で倒れている。
 と、不意に彼の視界の右側にある扉が開き、二人のローブをつけた男が飛び出してくる。
 二人は、片手を一士に向け、なにやら高速で呟きだす。

「しっ死ねぇぇぇ!!」

 軽いパニックを起こした一士は、手に持っているのが銃弾を装填した自動小銃であるということを忘れ、そのままそれを振り上げて二人に殴りかかった。
 手前にいた小柄な方に距離を詰め、銃口を持って一気に頭部へと振り下ろす。
 骨が砕けるなんともいえない音がし、小柄な男は地面へと倒れる。
 と、もう一人の方が後退しつつ手のひらをこちらへと向けてくる。

「やばい!?」

 不意に嫌な予感がし、突撃の勢いを利用してそのまま地面へと倒れこむ。
 視界に先ほど頭部を砕いた魔法使いの顔がどアップで入ってくる。
 目が飛び出し、鼻からはどす黒い血が流れ出している。
 しかし、そんな些細なことは気にせず、小銃を構えなおして発砲する。

377 名前: 物語は唐突に 04/02/29 00:51 ID:???

PAPAPAN!!

 残っていた一人は腹部に三発の銃弾を受け、なすすべもなく地面へと叩きつけられる。
 一士は立ち上がり、着剣すると、その銃剣をまだ息のある魔法使いの顔面へ勢いをつけて刺し込む。

「!!??Gyaaaaaaaaaaaaaa!!」

「死ね死ね死ね死ねぇぇ!!」

 ありったけの殺意と敵意を込めて、銃剣を深く突き刺す。
 血と肉とが飛び散り、悲鳴が止む。

「確認殺害戦果三名!!」

 一士の喜びに満ちた申告が、路上に響いた。


378 名前: 物語は唐突に 04/02/29 00:52 ID:???

同日1210 魔法都市ネリュントス市内

「では、何も知らないんだな?」

 銃をこめかみに突きつけ、不気味なくらい静かに一尉が尋ねる。
 先ほど遭遇戦で壊滅した部隊の捕虜たちに対する尋問を行っているのだ。
 しかし、聞けども聞けども答えは「何も知らない」
 実戦ですっかり精神の具合がおかしくなっている一尉は、既に我慢の限界へと近づいていた。
 
「そっ、そうだ!俺は何も知らないんだよ!」

 まさしく必死というに相応しい表情を浮かべた傭兵が叫ぶ。
 恐怖に満たされたその瞳は、時折動いては周囲に座らされている彼の戦友たちへと動いている。

「そうかー、つまり君は何も関与せず、従って情報は特にないと」

 不意に一尉は笑みを浮かべ、軽い口調に変わる。

「そっ、そうなんですよ!」

 助かったといわんばかりに上半身を乗り出す傭兵。
 いくら敵兵といえども、異世界人拉致に関係のないふりを続ければ助かるだろう。
 彼は、そんな甘い妄想を抱いていた。

379 名前: 物語は唐突に 04/02/29 00:53 ID:???

「そっかー」

 一尉は拳銃を抜いた。

「じゃあ君いらないや」

PAN!

 9mmパラペラム弾が頭部を貫通し、哀れな傭兵は脳漿を撒き散らしつつ地面へと倒れた。
 地面へと叩きつけられた後も、微かに体の各所が痙攣を起こす。

「次!」

「お、俺知ってるぞ!」「何でも言う!何でも言うからぁ!」

 ロープで縛られ、着剣した小銃を向けられているというのにも関わらず、捕虜たちは知っていることを可能な限り話そうと暴れだした。
 その後、あまり有力な情報は得られていなかった。
 そのたびに捕虜たちは殴られ、切られ、撃たれた。が、ようやく有益な情報を持っている捕虜が現れた。  
 その捕虜は涙と埃に塗れた顔面を大きく歪め、どうか殺さないでくれと懇願していた。
 死にたくないのならば何か話せと広瀬一尉が言ったところ、この先の神殿へ異世界人たちを運んだことを告げたのだ。

「こちら別行動中の広瀬一尉です。本部応答願います」

 広瀬一尉は直ちに本部へと連絡を行った。

380 名前: 物語は唐突に 04/02/29 00:54 ID:???

同日1250 魔法都市ネリュントス市内 退路確保中隊

PAPAPAN!!

「クソっ!こいつら殺しても殺しても沸いてきやがる!!」

PAPAPAPANN!!

Zip!Zip!!

「Vuooookuoooooooo」

 なんとも形容しがたい声を出しつつ、ゾンビたちは進み続けていた。
 いくつもの5.56mmNATO弾を喰らっているのにも関わらず、その歩みは止まらない。

「班長ぉ!弾が!弾を下さい!」

 高卒らしい、まだ子供のような顔をした一士が小便を漏らし、泣きながら班長のところへやってくる。
 だが、渡そうにも班長も残すところマガジンは2つとなっていた。

「くっそぉ!装甲車!こっちも援護してくれ!」

「了解」

 怒号と銃声が止まないこの場において驚異的な聴力を見せた96式装輪装甲車の射手が、12.7mm機関銃の銃身を肉薄しつつあるゾンの群れへと向ける。

AGAGAGAGAGAGAGAN!!!

 ゾンビたちは対物機関銃の乱射を受け、石畳ごとバラバラになって空中へと舞い上がる。
 銃撃はそのまま続き、集団の背後にある建物の壁を打ち砕き、さらにはその中に隠れていた農民の一家4人を血まみれの肉塊へと変えてようやく収まる。

381 名前: 物語は唐突に 04/02/29 00:55 ID:???

「やったか?」 

 あたりに立ち込める土煙に咳き込みつつ、班長は装甲車の影から顔を覗かせた。
 やがて、ゆっくりと煙が晴れてくる。

「ん?」

 不意に、何かが光った気がした。

「班長ぉーー!!」

 あれ?どうしてこいつ叫んでいるんだ?いやいやそれ以前ににおれはまえをむいていたはずd・・・

382 名前: 物語は唐突に 04/02/29 00:56 ID:???

「う、撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

PAPAPAPAPAPAPANN!!!
 PAPAPAN!       PAPAPANN!!!

「GYAOOOOOOOOO!」

 やけに発達した左手に斧が生えている化け物が、集中砲火によって頭部を吹き飛ばされ絶命する。
 一方、首と胴体との二つに分けられた班長は、地面に頭部が触れる前に死亡している。
 班長が、死んでいる。班長が。死んでいる。死?さっきまで戦っていたのに。真っ二つで。死んでる。シ。

「ウァァァアッァァァァァァァアァァアアアア!!!!!!!!!!!」

PAPAPAN!PAPAPAN!!PAPAPANN!!

 精神が限界を超えてしまった彼は、絶叫しつつ車列から飛び出し、視界に入った化け物を続けて三体射殺した。
 そして、四体目に銃口を向けようとしている間に頭部を切り飛ばされ、衝撃で引き金を引いた胴体が四体目を射殺したのをその目に映しつつ絶命した。

383 名前: 物語は唐突に 04/02/29 00:57 ID:???

「まだきたぞーーーーー!!!」

 銃撃を続けつつ射手が叫ぶ。
 土煙の向こうから、車列の反対側から、続々と化け物たちが押し寄せてくる。
 頭部がないもの。頭部がいくつもあるもの。手足がいくつも付いているもの。よりどりみどりだ。

「ひっ、ひるむな!撃てぃ!!」

 必死に弾幕を張り巡らし、化け物たちを一歩も近づけまいと銃撃は続く。
 最初こそ外見で自衛官たちを震え上がらせたものの、所詮は銃火器を持たぬ化け物である。
 頭部を、あるいは全身を砕かれ、次々と絶命していく。

「いけるぞ!銃撃を続・・・うっ、ギャーーーァ!!」

 不意に頭上から悲鳴が聞こえる。
 見上げると、さきほどまでその過剰なまでの火力で敵を圧倒していた車載機銃の射手が宙に浮いている。
 いや、正確には、吊り下げられている。

「SIGYUAAAAAAAAA!」

 見るからにガーゴイルと分かるそれが、哀れな一士を両手で吊り上げ、大きな翼を羽ばたかせていた。


384 名前: 物語は唐突に 04/02/29 00:58 ID:???

「たたたたっすけ、助けてくれぇ!!」

 両手両足をばたつかせ、必死に逃れようとする一士。
 混乱のあまり腰に下げている9mm機関拳銃を使おうというところまでは思考が回らないらしい。

「銃だ!銃をつかえーー!!」「助けてー!たすけてーー!!!」

 車内から同僚が必死に助言をするが、混乱している彼にはその言葉を理解する余裕がない。
 一方、下は下で援護射撃をしようにもばたつく一士に当たりそうで撃てず、それ以前に重機の支援がなくなったために援護どころではない。

「助けてくれー!誰か!たすけて!!」

 うるさい事に腹を立てたのか、ガーゴイルは一士の頭にかじりついた。

「たすけギャァァァァァァァ!!!・・・」

 甲高い叫び声を立てたかと思うと、一士は糞尿と大量の血液、そして微量の脳味噌をたらしつつ絶命した。
 彼だったものが頭上から垂れてくるという異常事態ではあったが、周囲への弾幕に加えて頭上の脅威からも身を守らなくてはならなくなった彼らは発狂する暇すらない。
 押し寄せる化け物。それを肉片へと変える自衛官たち。
 狂乱の宴は、未だ終わる気配を見せなかった。


452 名前: 物語は唐突に 04/02/29 20:34 ID:???

「私には納得できかねます」

 壮年の男性にしては良く通る声が響き渡る。
 ここは日本国東京都千代田区永田町1−7−1。世間一般では国会議事堂と呼ばれてる建物の一室である。
 その部屋は、本会議場と呼ばれている部屋だった。
 彼は一体何に納得できかねるのか?それは、彼とその考えに賛同する一同にだけは簡単に理解できるものだった。

『戦没自衛隊員遺族への補償金、一時見舞金および遺族年金増額に関する予算問題会議』

 今日、この豪華な部屋で話し合われている問題の、政府の示した方針についてである。
 政府は、国家のために命を落とした自衛官達に対して国が行える事とは、その名誉を記録し、賞賛し、そして遺された家族を養ってやる事であると主張した。
 対する反対派は、前半に関しては大いに賛同した。
 一昔前ならばまだしも、今の日本でそんな事をすれば、政府のコントロール下にあるマスコミによって徹底的に叩かれ、二度と議員バッジを手に入れる事が不可能になるか

らだ。
 彼らは、金のためならば主義主張などどうでもよいのだから無理もない。
 では、なぜ彼らは後半部分には反対しているのか?
 簡単である。
 政府の方針とは、内閣総理大臣を含む全ての国会議員たちの給料を最大で50%減額し、それを戦没遺族年金に当てる。とされていたからである。
 議員達でなくとも反感を覚えないはずがない。

453 名前: 物語は唐突に 04/02/29 20:35 ID:???

 しかしながら、前述したように日本国はかつてのように軍事を優先する国家へと進みつつあった。
 というわけで、彼らの意見に賛成の意を漏らすものは少なかった。が、それと同時に反対の野次を飛ばすものも少なかった。
 つまり、おおむね議員たちは賛成していたのだ。

 なんで俺達の給料を減らさなければならない。そんなもの増税で国民から巻き上げればいいじゃないか。

 声こそ出ていないが、彼らの本音はこれだった。
 そこで、表に出ない本音を示すべく、男は立ち上がった。
 男の名は、笠間直人。
 自衛隊の海外派兵前は『自衛官の命を危険に晒すのはかわいそうだ。内閣は血も涙もない』とテレビで叫んでいた自称良識派の議員である。
 
「聞けば自衛隊は、ネリュントス攻撃作戦においてヘリコプターを使わず、危険が予測される車両での攻撃を行ったというでありませんか!
 これはどういうことなのでしょうか?しかも、後半ではあえて徒歩で移動していたという!
 皆さん!なぜ彼らは安全な車両から『わざわざ』降りて歩いたのでしょうか!?
 私には理解しかねます。どうしてわざわざ危険な方法を選び、そして自滅していった自衛官のために血税を投入しなければいけないのか!?
 ぜひともこのあたり、総理にお聞きしたい」

 言うだけ言うと、彼は椅子に音を立てて座り込んだ。
 腕を組み、憮然とした表情を浮かべつつ、さあ答えてみろと言わんばかりに総理を睨みつける。

454 名前: 物語は唐突に 04/02/29 20:38 ID:???

「内閣総理大臣」

 やる気のなさそうな議長の声がスピーカーから響き、総理大臣が立ち上がった。

「みなさまもご存知の通り、今回の民間人救出作戦では」

 彼はあえて笠間とは違う表現を用いた。
 攻撃ではなく、民間人の救出のための出動であったと強調するためである。

「ハイジャックされた日航ジャンボ機231便の生存者を救出するために臨時で行われた作戦でした。
 彼らの任務は国民の救出。目的地は敵の一大軍事拠点ネリュントスです。
 確かに自衛隊には100機を越えるヘリコプターがございます。
 しかし、笠間議員はご存じなかったようですが、作戦当時、それらのヘリコプターのほとんどは可動状態にありませんでした」

「修理すればいいだろう!」「そうだー!」

 笠間に賛同している議員から野次が飛ぶ。
 それに冷ややかな視線を送る総理。


455 名前: 物語は唐突に 04/02/29 20:41 ID:???

「そちらの議員諸君はご存じないようですが、機械の修理というのは、直れと念じてするものではありません。
 機材と部品を用い、整備員が技能を駆使して行うものです。
 そして、どうやらこれもご存じなかったようですが、作戦当時、当該部隊に存在していたヘリコプターは、そのほとんどが部品不足から可動不可能になっていました」

 総理の直接的すぎる嫌味に顔を赤くして黙り込む議員達。

「さて、笠間議員は車幅よりも狭い道で車両を動かせる技能を有しているようですが」

 会議場内に失笑が起こる。
 呆れるしかないほど、笠間たちが用意した資料には穴があった。

「残念な事に、敵軍事拠点に派遣された自衛官達にはその技能がありませんでした。そして、そこでは車幅は車両が通行できるほど広い道ではなかったのです。
 そのような場所で、周囲から魔法や矢が降り注ぐ中、彼らは自分達の命よりも民間人の救出を優先したのであります!」

 そこまで言うと、総理は待機していた秘書達に頷いた。
 秘書達は放送室へと合図を送り、準備ができた事を確認すると総理へとアイコンタクトを送った。

「これからお聞きいただくのは、現地へと派遣された部隊が本部と取った無線連絡の抜粋であります。それではお聞き下さい」

 総理の言葉に会議場内は静まり返る。
 そして、かすかに雑音の混じった通話記録が流れ出した。

456 名前: 物語は唐突に 04/02/29 20:44 ID:???

「読み上げます。
 一人目、益田清美さん、19歳。身長およそ163cm。髪の色は黒。体重は遺体の損壊が酷いために推定不能。
 指紋および歯型等は遺体の損壊が酷いために採取不可能。
 大学の学生証およびクレジットカード等の入った財布を所持していた事のために当人でないかと推測されます」

<酷いな・・・三佐>

「はっ」

<遺体には申し訳ないが、3サイズからわからないか?>

「はい、申し訳ありません閣下。自分達は体型を図れる物を持っておりません。
 また、遺体の損壊が激しいため、メジャー等があったとしても図る事は不可能であります」

 
 ざわめきが広がる。
 新聞では『惨殺死体』と四文字で表現されていたものが、実際にはどのようなものだったのか、議員達はようやく知ったのだった。
 音声が途切れ、次の音声が流れ出す。


457 名前: 物語は唐突に 04/02/29 20:46 ID:???

「練り直しているうちに何人の国民が死にますか!!自分は、自分と部下達は、宣誓したのです!国家を、国民を護ると!!
 奴らはこっちを人間として扱っちゃいない、実験動物扱いなんです!閣下!!事は一刻を争うんです!前進許可を!!」

 自衛隊員の絶叫が響き渡る。
 これには議員達は一言も漏らせない。
 それほどまでにこの言葉は響いた。議員達の心に、傍聴人達の心に、そして、テレビ中継を見ていた国民達の心にも。

「・・・これが、死んでいった自衛官達の本音と、彼らがそれを決意した状況です。
 国家は、我々は、彼らに大きな借りができました。そして、借りとは返すものです。
 笠間議員、どうして貴方はそれを嫌がるのでしょうか?貴方は彼らに対して申し訳ないと言う気持ちはないのか!!
 ・・・議員のご意見をお聞きしたい」

「笠間議員」

 静かになった会議場内に、議長の声が響いた。


489 名前: 物語は唐突に 04/03/01 06:55 ID:???

 笠間は立ち上がり、演台についた。
 その動作は遅く、顔色は悪くなっている。
 彼は(そして“台本”を用意した官僚も)総理がここまで言ってくるとは思っていなかったからだ。
 会議場内は先ほどの通信記録のおかげで、完全に総理の意見に賛同するものになっている。
 しかし、あそこまで言った以上、それを肯定するわけにはいかない。
 彼は、今後の党内での自分の地位を守るため、最大限の努力を行うことを決意した。
 ややネクタイを緩め、軽く息を吐き出す。
 笠間は話し出した。

「確かに彼らの行動には見るべき点は多い。それは私も否定はしない!
 が、しかしである!彼らは賞賛されるべきすばらしい人間などではない!」

 秘書に頷き、予め用意してあったパネルをいくつも提示する。
 
「これをご覧下さい!」

 それは撮影班が現地から持ち帰った映像のうち、笠間たちにとって都合の良いと判断されたシーンを写真にしたものである。
 無数の若者たちが倒れている。実際には彼らは剣で武装していたが、一箇所に集められていたそれはトリミングによってパネル内には写っていない。
 女子高生たちの遺体が焼かれている。涙を流している自衛官たちはやはりトリミングされ、パネル内には写っていない。
 
「この非人道的な行動の数々をご覧下さい!彼らは投降した捕虜、それも皆さんの子供のような前途ある青年たちを虐殺し、発見された女子高生たちの遺体を無慈悲にもガソリンで焼き払ったのです!」


490 名前: 物語は唐突に 04/03/01 06:56 ID:???

 大嘘であった。
 写されているのは戦闘の結果射殺された敵兵であり、当然ながら戦闘で敵兵を射殺することを虐殺とは言わない。
 女子高生たちは、当時大量の敵軍と交戦状態にあり、到底全ての遺体を回収することが不可能であったこと、遺体を放棄したままではその遺体たちが実験に使われる、あるいはゾンビにされるであろうと想定されたことから臨時で火葬されたものである。もちろん弔砲付きで。
 前者は自衛隊の正当な業務であり、後者は全く人道的見地から行われた行為である。
 非難されるいわれなどない。
 が、さも事実であるかのような言い回しで語られれば、真相を知らぬものは簡単に騙される。
 ましてや地位や名誉を持っている人間がそれを語ればなおさらである。
 そして、自衛官たちには不運なことに彼は現職の国会議員であり、ここに居合わせた議員たちの大半は真実を知らなかった。


491 名前: 物語は唐突に 04/03/01 06:57 ID:???

「こんな、このような、旧軍にも匹敵するような暴挙が許されるのでしょうか!?
 しかも!彼らはここまで悪逆非道の限りを尽くしながら、救出したのはたったの15人。これだけ殺して、救出したのは200人を越える中で15人!」

 演台を叩く。
 間近で大きな音を立てたためにまともにマイクが音を拾ってしまい、会議場内に妙な音が響き渡る。

「かような殺人者の集団の家族にどうして我々国民の貴重な血税を使わねばならないのか!まさしく無駄遣いとしか言いようがない!
 使うべきは今この瞬間も苦しんでいる我々の同盟国民や困窮する我が日本国民ではないのか!?総理!どうなんですか!?さあ答えてください!さあさあさあ!!!」

「そうだー!」「総理は恥を知れ!」「内閣は即刻に総辞職せよ!!」

 その後は大混乱であった。
 腕を振り上げた野党議員たちが席を立ち、与党議員たちへと襲い掛かる。
 だが、与党議員たちもコップを投げつけ、水差しの中身をぶちまけ、そして同様に野党議員たちへと襲い掛かった。
 会議場内はつかみ合う議員たちと罵声で大混乱になり、議長が休憩を怒鳴ったところで会議は中止となった。

492 名前: 物語は唐突に 04/03/01 06:59 ID:???

 この騒ぎは全自衛隊員たちと彼らを支持する国民たちに深い失望と強い怒りを呼び起こし、そして笠間の考えを支持する国民たちを大いに沸き立たせた。
 この日を境に日本全土で自衛隊擁護派・反対派の決起集会、デモ、そして暴動レベルの乱闘やテロの応酬が始まることとなる。
 火付け役となった笠間だが、後に彼の強い働きかけによって強行された『議員様の大事な大事な娘さん救出大作戦』(自衛隊関係者命名)にて辞職を余儀なくされた。
 数年後のある雪の日、彼はネリュントス攻略作戦生存者の退役自衛官および自衛隊遺族からなる数百名の襲撃を受け、最後だけ波乱に満ちた生涯に終わりを告げることとなる。



494 名前: 物語は唐突に 04/03/01 07:03 ID:???

同日1320 魔法都市ネリュントス市内某所

「ここですヒロセイチイ殿」

 卑屈な笑みを浮かべつつ捕虜が言う。
 どうでもいいが、こいつ絶対に俺の名前を『広瀬一尉』だと思ってやがるな。
 まあいい、報酬を渡してお別れしよう。

「ごくろうだったな、褒美をやろう」

「へへっ、ありがとうございます」

 卑しい笑みを浮かべつつ手を出してくる。
 それに笑顔で答えつつ、俺はホルスターから銃を抜き、一発だけ発砲した。

PAM!

 笑顔を凍りつかせたまま捕虜は頭部を撃ちぬかれ、脳髄や血液を盛大に撒き散らしつつ倒れこんだ。

「これより弾薬の分配を行う!小休止の後に敵施設へ突入!全ての障害を排除し、可及的速やかに民間人を救出する!!」

495 名前: 物語は唐突に 04/03/01 07:05 ID:???

神基暦2129年5月22日魔法都市ネリュントス市内 暗黒教ネリュントス支部

 まただ、また奴らの『KenZyu』とかいう魔導具の発動音がする。
 予想外であった、彼らをおびき寄せ、殲滅させるのがこの作戦の目的だったはずなのだ。
 それなのに。
 憂鬱な想いを抱きつつ、神殿内を見回す。
 疲れきった、そして傷ついた兵士たち。地下神殿へと逃げ込んでいく暗黒教司祭。

「諸君!」

 突然高位司祭が声を上げた。

「今知らせが入った!もうまもなく、異世界人たちの血を持って魔王様が光臨なされる!!」

「なんと!」「魔王様が!」

 座り込んでいた兵士たちの表情が輝く。
 すばらしいな、魔王様さえ蘇れば、異世界兵など皆殺しにできる。いや、それだけではない。
 兵士長は思わず身震いした。
 魔王様さえ蘇れば、我々暗黒教を信じるものたちは全て救われる、異世界人どもの国すら従え、世界に君臨できる。

496 名前: 物語は唐突に 04/03/01 07:06 ID:???

「兵たちよ剣を取れ!立ち上がれ!そして異世界兵どもにこの世の地獄を見せてやるのだ!!」

 そうとなれば俺の役目は決まっている。
 魔王様が蘇るまで、この神殿を護るのだ。
 思わず拳を握り締める兵士長の視界に、兵士たちが立ち上がり、隊列を整えつつある姿が入った。
 見れば微かに異世界兵たちの姿が見える。

「準備が整い次第突撃に入る。往くぞ諸君!」

 彼に答えたのは歓喜に打ち震える兵たちの雄たけびと、一発の弾丸であった。


556 名前: 物語は唐突に 04/03/01 21:08 ID:???

 雄たけびが響き渡った瞬間、敵の突撃発起と判断した狙撃兵は、事前の計画に従って照準を合わせていた敵指揮官へ発砲した。
 弾薬が合わないというのに狙撃のためにわざわざ持ち込まれた64式小銃狙撃仕様は、長距離射撃に適した性能をある程度発揮し、寸分の狂いなくとは言えないものの、好

ましい箇所に命中した。
 命中箇所は目標の上半身左側、通常の人間は心臓と呼ばれる臓器がある場所である。
 そして、兵士長は通常の人間だった。

「突撃よーい!」

 広瀬が89式を構え、隊員たちへと怒鳴る。

「敵の攻撃を受けるまでは発砲するな!最悪人質にあたる可能性がある。総員着剣!」

 全員が銃剣を取り、小銃の先へと取り付ける。
 先任が広瀬の隣へと駆け寄り、突撃の用意ができた事を報告する。

「目標施設までの距離はおよそ50m。周囲は開けている。魔法に気をつけろ!」

 安全装置を解除し、神殿を睨む。

「総員突撃にぃー前へぇ!!!!」

 景気付けに数発空へ発射し、広瀬は前へと躍り出た。

「一尉殿に続け!前へぇーー!!」

 陸曹たちの号令があちこちから聞こえ、そして部隊は突撃を開始した。


557 名前: 物語は唐突に 04/03/01 21:09 ID:???

「奴ら出てきました!」

 先任が怒鳴る。
 言われんでも見えているさ。

「無反動砲前へ!」

 荒い息を吐きつつ無反動砲を担いでいた連中が立ち止まり、手早く発射準備を整える。

「準備ができ次第撃ちまくれ!MINIMIもだ!!」

 MINIMIを担いでいた連中も立ち止まり、こちらも手早く射撃準備を整える。
 速度の速い発砲音が連続で鳴り響き、敵集団先頭が次々となぎ倒されていく。

BAHUM!!BAHUM!!BAHUM!!

 三発のロケット発射音がし、数秒後に敵集団を爆発が包む。
 爆風で舞い上がった敵兵たちの残骸が飛び散っているのが分かる。

「いいぞいいぞ!!もっとやれ!殺せ!撃て!撃てぇ!!」

 号令で全員が伏せ、射撃を開始する。
 既に突撃を開始した意味はなくなっていた。
 隊員達はあちこちに伏せ、本能の赴くままに射撃を行っている。
 爆発で浮き足立った敵兵たちは既に戦闘能力を喪失しているようだが、そんなことはお構いなしに射撃は続く。

559 名前: 物語は唐突に 04/03/01 21:10 ID:???

「撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃てぇぇぇえ!!」

 景気よく射撃を行いつつ広瀬が叫ぶ。
 その顔は狂気に染まり、表情は歪みきっている。
 だが、彼と同様に狂気に染まっている隊員達は、それを頼もしくは思っても恐ろしくは思っていない。
 射撃を継続し、時折手榴弾を投擲する。
 そのたびに敵兵たちはなぎ倒され、吹き飛ばされいく。
 こちらに向かってくる以外の抵抗は一切ない。

「突撃!突撃だぁ!」

 頭に血が上りすぎ、自分でも何を言っているのかわからなくなりつつ広瀬が号令を発する。
 隊員達は再び立ち上がり、銃剣を突き出しつつ突撃を再開した。