271  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/10/20(金)  01:02:55  ID:???  

西暦2020年8月1日  21:00  グレザール帝国領  城塞都市ダルコニア  

「ふざけるなこの野郎ぉ!!!」  

 ガラスの割れる音と、店主の怒鳴り声が響き渡る。  
 まぁ、怒鳴るのもわかるな。  
   
「てめぇら揃いも揃って水を下さいだぁ!  
 何処の田舎モンかしらねぇが、随分なマネをしてくれるじゃねぇか!!」  

 再びガラスの割れる音がする。  
 店主の言うとおりだ。  
 事もあろうに、酒場に入るなり六人の男が水を下さいというのは、どんな温厚な店主でも我慢できないだろう。  
 酒場で水を頼むというのは、二通りの意味がある。  
 一つ、もう飲めない。二つ、こんな不味い酒をだすんじゃねえ。  

「わ、わるかった!すまない!勘弁してくれ!」  

 リーダーらしい男が必死に謝っているな。  
 まあ懸命な判断ではある。  
   
「すまないだぁ!?いまさら言っても遅いわぁ!」  

 やれやれ、見ていられないな。  


272  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/10/20(金)  01:05:24  ID:???  

「まあまあ店主、こいつら見たところ流れ者で新参だ。勘弁してやろうぜ」  
「アドルフ、お前さんがそう言うのならば聞くが、しかし、こいつらどうせ面倒を起こすぞ」  

 声をかけた俺を見た店主は、半分抜いていた腰のダガーを戻した。  
 俺の名前はアドルフ・ヒトラー。  
 この街では名の知られた冒険者だ。  
 いくつもの魔物を倒し、そして多くの冒険者を救ってきた英雄で通っている。  


「だろうな。まぁこの街の流儀っていうのを教えてやるさ」  
「ケッ、物好きなこった」  

 忌々しそうに呟き、店主はカウンターへと戻った。  
 何事かとこちらを見ていたほかの連中も、テーブルへと戻る。  

「おいお前ら、ついて来い、この街の流儀を教えてやるよ」  
「は、はぁ」  
「行くぞ」  

 席を立った俺の後ろを、男たちがゾロゾロと続いてくる。  
 それにしても、まるで叱られた子犬みたいだな。  


273  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/10/20(金)  01:09:08  ID:???  

「あの、それで自分たちは何処に連れて行かれるのでしょうか?」  
「俺の家だ」  
「はぁ」  

 俺たちは連れ立って街を歩いている。  
 ここ、城塞都市ダルコニアは、連合王国が存在していた頃からグレザール帝国の庇護下にあった。  
 三つの大陸、二つの列島に領土を持ち、人族史上最大最強である帝国は、統治の上手さに強さの秘密があった。  
   
「見てみろ、あれが領主の城だ。  
 お前ら、町の外から流れてきたんだろ?」  
「は、はい、そうなんですよ」  
「だったら覚えとけ、この街の支配者は、あの城に住んでいる」  

 帝国は、統治を各領主に一任していた。  
 規定の税を納める限り、産業を発展させようと、軍備を増大させようと口出しをしなかった。  
 対外戦争や、外交すらも好きにさせていた。  
 しかし、帝国に反抗する事だけは絶対に許さなかった。  
 そのため、グレザール帝国はほぼ同等の戦力を持つ五つの強大な軍団を、定期的に巡回させていた。  
 歩兵を中心とした鋼の騎士団、魔法使いを中心とする青銅の騎士団、魔物を使役する鉄の騎士団、帝都を守る、諸兵科混合の黄金騎士団。  
 そして・・・  


274  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/10/20(金)  01:11:04  ID:???  

「あれが白銀騎士団だ。  
 グレザール帝国五大軍団の一つ、騎兵を使った機動戦を得意とする連中だ」  

 騎兵の集団が足早に通過する。  
 白銀の鎧、その肩には、盾に交差した稲妻というマークが見える。  
 一度でも引越しをした事のある人間ならば理解できるだろうが、大軍団の移動という軍事行動には、信じられないほどの手間がかかる。  
 物資も消費するし、それまで築いた陣地や人脈も、放棄しなくてはいけなくなる。  
 これでは陰謀をめぐらせ、力を蓄える余裕がない。  
 帝国は、各軍団が反旗を翻せないように形を変えた参勤交代を行わせているのだ。  

「そろそろ俺の家だ。  
 お前ら、どうせ宿屋もとっていないんだろう?」  
「え、ええ、よくわかりますね」  

 狼狽した様子でリーダーらしい男が答える。  
 しかし、見慣れない剣をつけているな。  
 アドルフは、男たちの装具に目を向けた。  
 しっかりとした作りの、頑丈そうな鎧。  
 手入れの行き届いた、見慣れない材質の剣。  
 金髪で青い目と言う事は、日本国の人間ではなさそうだが。  

「そりゃそうだ、酒場で満足に話も聞けないような連中が、宿屋に泊まれるはずがない。  
 まぁ遠慮するな。それほど広いわけじゃあないが、雑魚寝でもなんとかなるだろう」  
「ありがとうございます」  

 古ぼけた屋敷の残骸に、一同は入っていった。  


275  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/10/20(金)  01:14:32  ID:???  

西暦2020年8月2日  07:21  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  エルフ第二氏族の村  

「ふざけないでよっ!」「ゆるしてください!!」  

 第二氏族の朝は、こうして始まる。  
 もちろん、最先任軍曹な褌エルフと三尉のやりとりではない。  
 その声は、この村でも一番貧相な小屋からしている。  

「ナーカ、貴方、いつの間に私より偉くなったのでしょうね?」  
「ゆ、許して下さいサトゥーニア様」  
「黙りなさいっ!どうして貴方が私よりも遅く起きるなんていう事が起こるのよ!!」  

 筋肉質の(とはいってもあくまでも健康的な、という意味合いである)エルフが、貧相なエルフを殴打している。  
 エルフ第二氏族は、身を守るため以外の戦いを嫌い、さらに外界との接触も嫌うという集団だった。  
 彼らは、エルフであるという事を除けば、人間に良く似た社会を構成していた。  
 そのため、第一氏族からは放置され、第三氏族からは臆病者に用はないと無視され、第七氏族からは興味深い観察対象とされていた。  

「朝食は出来ていない、掃除も始まっていない、それどころかグウグウと気持ち良さそうに寝ている。  
 どういうつもりよっ!!」  

 サトゥーニアと呼ばれたエルフは、容赦なく貧相なエルフを踏みつける。  
 エルフと言うだけあり、彼女たちも例外なく魔法を使えた。  
 そのため、四肢の欠損や臓器への致命傷といった重大な怪我を負わせない限りは、遠慮する必要が全くない。  



276  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/10/20(金)  01:19:19  ID:???  

「さっさと起きて、朝食の支度をなさい!このグズっ!カスっ!動きなさい!!!」  

 思う存分罵声を浴びせ、暴力を振るった彼女は、肩をいからせながら自宅へと去っていった。  
 あとには、涙目になりつつ治癒の魔法を使っているナーカが残された。  
   
「畜生、いつか殺してやる」  

 いつの間にか解けてしまった胸のさらしを無視し、彼女は怨念を込めた声でそう言った。  
   
「なんとまあ」  

 その様子を檻から見つつ、三尉は呆れたように言った。  

「まるで人間じゃないか。なあ?」  

 隣の陸曹に同意を求める。  
 だが、三尉の部下たちは、ナーカと呼ばれたエルフの胸に釘付けになっている。  
   
「ドジっこエルフかよ」  
「ドジとはちょっと違うだろ」  
「なんにせよ、貧乳はよい」  
「いや、俺はサトゥーニアのあの蹴りがいいな」  
「死ね、市ねじゃなくて死ね」  

 彼の愛すべき部下たちは、ちょっとダメだった。  


277  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/10/20(金)  01:23:15  ID:???  

「おはよう人間の諸君」  

 そんな一同のところへに、警備のエルフと何故か裸エプロンのような格好のエルフがやってきた。  

「諸君らはこの第二氏族に捕まったグレザールの兵で間違えないな?」  
「違うと言っているだろう」  
「ふむ?」  

 昨日幾度となく答えた言葉を、うんざりしつつ言った三尉に、そのエルフは興味深そうな声で答えた。  

「グレザールではない?それではどこの兵だ?  
 連合王国の残党か?それとも、例のニホンという国の兵か?」  
「そうだよ、俺たちは日本国陸上自衛隊ゴルソン方面隊の者だ」  

 僅かな期待を込めて再び所属を名乗る三尉。  

「裸エプロン?」  
「エプロンと言うより、前掛け、だなあれは」  
「畜生!畜生!裸マントならば完璧なのに!神は我を見捨てたか!?」  
「いや、違う。信じる事が大切なのだ同志。きっとどこかに裸マントの氏族もいるさ」  
「そう、だよな。信じる事が大切なんだよな。うん、そうだ。俺が間違っていたよ」  

 彼の後ろは実に賑やかである。  
 脳内で速やかに全員を銃殺に処してから、三尉は言った。  


278  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/10/20(金)  01:32:16  ID:???  

「お前は第二氏族ではないな?」  
「そうよ、私は知を司るエルフ第七氏族、その高位学者よ」  

 エルフは胸を張って言った。  
 どうやら、自意識が過剰気味な種族のようだな。  
 しかし、胸の形は一級品だ。  

「行為学者?」  

 ダメになり始めた自分の思考回路に戦慄しつつ、彼は再び尋ねた。  
 敵に、体系化された学問があるというのは脅威である。  
 自衛隊がこの世界に進出して以来、現地に何らかの情報を与えるという事は厳に戒められていた。  
 日本の文化形態、自衛隊の戦術、日本人のメンタリティなどなど。  
 それらを敵に与え、そしてこちらの弱点を見つけられれば、恐ろしい事になる。  
 敵がこちらの事を良く知らないという事が、銃や戦術に勝る戦力倍増要素であると、日本人たちは考えたのだ。  

「お前は馬鹿か?  
 こ・う・い・学者だ。  
 高い位にいるのだよ私は」  

 そのエルフの回答は、三尉を再び思考の迷路へと誘った。  
 呼んで字のとおり高い位と言われた様なものである。  


279  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/10/20(金)  01:33:43  ID:???  

 何故日本語が通じるのか?  
 何故文章に英語が使われているのか?  
 何故免疫のない病気にかからないのか?  
 何故地球と寸分違わぬ形状の惑星なのか?  
 何故何故何故何故・・・  
 この世界はわからない事だらけだった。  
 全てがご都合主義でなりたっている。  
 ドラゴンやエルフやゾンビはいるけれど、物理法則は成り立っている。  
 水は100度で沸騰するし、燃料はきちんと燃える。  
 病気には現代医学が通用するし、動植物も一部の物は元の世界と変わらない。  
 学者たちは発狂したり匙を投げたりしながら日夜原因究明を図っているが、その答えは未だ出ていない。  
 偉い学者先生たちが束になってもわからない事が、ただの三等陸尉にわかるわけがないか。  
 彼はそう割り切り、思考の迷路を脱出した。  



520  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/10/24(火)  23:43:36  ID:???  

西暦2020年8月2日  17:50  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  エルフ第二氏族の村  

 日が沈み始めた。  
 今日も三尉は一日中尋問を受け、そして救援部隊は来なかった。  
 褌や前掛けエルフにはしゃいでいた隊員たちも、さすがに捕虜生活二日目の日没に、そのテンションを大きく下げていた。  

「捕まっているのは、グレザール帝国軍じゃないな」  

 その様子を離れたところから監視しつつ、アドルフは言った。  
 彼と先日出会ったばかりの新米冒険者たちは、街のギルドから依頼を受け、第二氏族の村へ偵察に来ていた。  

「あれは、ニホンの軍ですね」  
「だな、動きやすそうなあの服装、そして黒い髪、恐らく間違いない」  

 そうなると、厄介な事になる。  
 ニホンの自衛隊がもし、あの街に進出してきたら。  
 俺の目的は果たせなくなってしまう。  
 とはいえ、連中を見殺しにするわけにもいかない。  

「助けますか?」  

 新入りのリーダー、グロックが尋ねてくる。  
   
「助けるったって、相手はエルフでここは森の中だぞ」  

 同じく新入りのベレッタが反論する。  
 彼の言うとおり、現状はこれ以上はないほどに不利だ。  


521  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/10/24(火)  23:45:17  ID:???  

「しかし、連中を助けないのは嫌だな」  

 冷静な表情のガーランドが言う。  
 彼は、その表情とは裏腹に、既に剣に手を当てていた。  

「落ち着け落ち着け、連中を助けるにしろ見捨てるにしろ、準備が必要だ」  
「ですな」  

 淡々と、今まで沈黙を守っていたバーレットが言う。  
 それに、最後まで沈黙を守り通しているエンフィールドが首だけで同意を示す。  
 どうでもいいが、こいつら随分と静かな連中だな。  
 アドルフはそう思った。  
 通常、冒険者に好き好んでなるような連中は賑やかなものだが。  

「なんにせよ、もう少し様子を見よう」  

 一同は同意し、監視を続行した。  


522  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/10/24(火)  23:46:00  ID:???  

西暦2020年8月2日  18:30  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  エルフ第二氏族の村  

「夕食よ、さっさと食べなさい」  

 ナーカがぞんざいな態度で鍋を差し出す。  
 彼女の態度はともかくとして、待遇はまずまずだった。  

「どうも」  

 ナーカの態度を無視し、三尉は鍋を受け取り、檻の中へと戻る。  
 中身をぶちまけ、ひるんだ隙に逃亡を試みても良いのだが、残念な事に周囲には監視のエルフが何人もいる。  
 おまけに、受け取りに出ている間、檻は閉じており、彼一人しか逃げる事ができない。  

「なかなか映画みたいにはいかないな」  

 ぼやきつつも鍋を置き、そして一同は夕食を始めた。  

「どうしますかね三尉」  

 食器を片手に陸曹が尋ねる。  

「まあ待っていろ。細工はしてある」  


523  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/10/24(火)  23:46:43  ID:???  

 三尉の言う細工とは、夕方の尋問の際に行われていた。  
 実に不毛なやり取りを行った彼は、帰り際に集められた装備の横を通過した。  

「役たたずめ!」  

 小銃や無線機を睨みつけ、彼はそう呟くと無線機に軽い蹴りを入れた。  
 無線機のランプが灯る。  

「止めないか!」  

 容赦なく先任軍曹エルフが蹴りを入れる。  
 蹴られた彼は、そのまま倒れこみ、装備の山へと突っ込む。  

「いてぇな!何しやがる!」  

 喚きつつもがく。  
 小銃の山が崩れ、手榴弾が転がり、そして彼の手は無線機の送信スイッチを押しっぱなしにした。  
 ボリュームは最小に設定し、こちらの声だけが伝わるようにする。  

「畜生!いてぇじゃねぇか!  
 あの北へ歩いて半日程度の城塞都市に近いっていうのにやりたい方題してくれるな!」  
「お前がグレザール帝国軍じゃない以上、そんな脅しには意味がないな」  
「いいか!北に歩いて半日程度の距離に城塞都市があるんだぞ!」  
「何を意味のわからない事を。連れて行け」  

 繰り返し北に半日程度と喚く三尉は、四人がかりで連行されていった。  


524  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/10/24(火)  23:47:58  ID:???  

「ああ、それでなにやら喚きながら連れてこられたんですね。  
 いつもはふてぶてしく歩いてくるのに、あんな姿を見せられたから」  
「発狂したとでも思ったか?  
 安心しろ、俺はエルフを絶滅させるまでは狂いたくても狂えんさ」  

 三尉の脳には、部下たちの最後が今でも残っていた。  
 気のいい陸曹たち、そして勇敢な陸士たち。  
 難民を救い、笑顔だった彼ら。  
 その全員が死んだ。  
 完全に消滅した。  
 遺骨も、頭髪一本すらも本土に帰すことはできなかった。  
 それを引き起こしたエルフを許すわけにはいかない。  
 奴らは滅ぼされるべき存在なのだ。  


525  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/10/24(火)  23:48:32  ID:???  

西暦2020年8月2日  22:40  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  エルフ第二氏族の村  

「これ以上は、まずいな」  

 かなりの長時間に渡って偵察活動を行っていたアドルフは、そう呟くと撤収を命じた。  
 新人冒険者であるグロックたちにとって、それは神の御言葉に等しく、一同は静かに森を去った。  

「しかし、どうしてニホンの連中は見つかったんでしょうか?」  

 静かに、かつ足早に森を進みつつ、グロックが言う。  

「確かに、連中は少なくとも長距離偵察に出るような奴らは非常に有能だ。  
 それがいとも簡単に捕まるなんてさすがにおかしい」  

 ガーランドが周囲に視線を向けつつ続ける。  

「ああ、そりゃあ匂いだろ」  
「匂い?」  

 二人ともよくわからないようだ。  

「いいか?ニホンの連中は鉄や鉛の臭いを大量に出している。  
 それに加えて、戦った後にはいつも火山のような臭いもしている。  
 そんな状態でエルフの森に入ってみろ。見つからない方がどうかしている」  
「なるほど」  

 知識を記憶する表情でグロックが頷く。  
 確かに、硝煙の独特な臭いは、この世界では珍しいに違いない。  


526  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/10/24(火)  23:49:46  ID:???  

「それで、助けますか?」  

 後ろを振り返りつつ、バーレットが言う。  
 彼はどうにも気になることがあるようだ。  
 もちろん、それは彼だけではない。  

「囲まれたな」  

 アドルフが言う。  

「全員動くな」  

 木々がざわめき、命令を発する。  
 そして一堂の前に、一人のエルフが現れた。  
 もちろん、それだけではない事は全員が了解している。  

「名前は?」  
「エルフ第二氏族、サトゥーニア、お前は?」  
「アドルフ、アドルフ・ヒトラー。この近辺では名の通った冒険者さ」  

 第二氏族の命運を握る事になる二人が、出会った。  



653  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/11/01(水)  00:01:33  ID:???  

西暦2020年8月2日  22:41  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  エルフ第二氏族の村  

「エルフの皆さんの村に近づいてしまった事は謝罪します。  
 ですが、我々に皆さんを傷つけようという意思は全くありません。  
 このまま通していただくわけにはいきませんか?」  

 丁寧にアドルフが言う。  
 しかし、サトゥーニアは面白そうな表情を浮かべて答えた。  

「ならば、こんな夜更けにここで何をしていた?  
 ただの散歩にしては随分と森の中まで入っているようだが。  
 まさか、道をまっすぐと歩く事すらできないわけではあるまい?」  
「どうやらそのまさかのようでして、冒険者としては恥ずかしい限りです」  

 苦笑しつつアドルフは応じる。  
 このような程度の低い嫌味で腹を立てるようでは、冒険者は務まらない。  

「恥かきついでに、最寄の街道を教えていただけるとなんとか廃業を免れられるんですが、なんとかなりませんかね?」  
「その前に、我らの質問に答えてもらいたい」  

 サトゥーニアの答えに、アドルフは内心で舌打ちしそうになった。  
 どうやら、無傷で帰宅するわけにはいかないようだ。  
 俺だけならば何とでもなるが、新入りどもを見捨てて帰ることはできない。  


654  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/11/01(水)  00:02:46  ID:???  

「どういったご用件でしょうかね?もしかして、私たちが探している薬草の場所を教えていただけるのでしょうか?」  
「やくそう?」  

 彼の質問に、サトゥーニアは怪訝そうな表情を浮かべる。  

「ああ、まだ言っていませんでしたね。  
 私たちはこの森でかつて見られたというニューク草を探しているんですよ。  
 雇い主が緊急で必要と言う話でして、出来るだけ早く持ち帰る必要があるのです」  

 ニューク草とは、神聖魔法との組み合わせでいかなる病魔も発見できるという薬草である。  
 もちろん、港町にして城塞都市であるダルコニアならば、そういった薬草の類は、きちんと金を出せば直ぐに見つかる。  
 しかし、人の街に出てくる事が皆無に近いエルフには、その事実を知る由もない。のが通常である。  

「妙な事を言うな?  
 つい二日前に、まとまった数を売ったばかりだぞ?  
 それがもう売り切れたとでも言うのか?」  

 再びアドルフは舌打ちを抑えた。  
 俺とした事が、直ぐバレる様なウソをつくとは。  
第二氏族は人間と交易をしている事を、彼は今まで忘れていた。  
 とはいえ、いやぁすいません、実はギルドの依頼でここに来ていまして。と素直に自白するわけにもいかない。  

「それは金を持っている人間の場合、ですよ」  

 彼は表情を完全に制御して続けた。  

「一般市民には、気軽に手が出せない値がついています。  
 ましてや、神聖魔法の代金まで必要とあれば、なおの事です」  


655  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/11/01(水)  00:03:50  ID:???  

 彼の説明はこうだった。  
 まだまだ彼が駆け出しだった頃、一夜の宿を与えてくれた一家があった。  
 体力気力の限界にあった彼は、その一夜のおかげで生き延びる事ができ、そして今がある。  
 その一家の長が倒れた。  
 刻々と本人の体力と蓄えは失われており、試しにといくつもの薬草を購入するわけにはいかない。  
 そこで、一家は恥を忍んで彼に依頼をした。  
 治ったら、きっと代金を支払う。  
 だが、今はその余裕がない。  
 なんとかしてもらえないだろうか?と。  
 アドルフに否応はなかった。  

「と、いうわけなのですよ」  
「なるほどな、冒険者は自分の利益にならない事はしないと聞いているが。  
 随分と変わった奴もいるようだな」  
「まあ、普通なだけでは冒険者は務まらないわけで」  
「世話になった家族への恩返し、か。ふむ、まあいい、それで探し物はニューク草だったな」  
「ええ」  
「それならば足元にあるぞ」  



656  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/11/01(水)  00:05:06  ID:???  

 サトゥーニアの指摘に、一同は足元を見た。  
 そこには、夜の闇の中、青い光を放つ、美しい花があった。  

「いやいやいやいや、感謝いたしますよエルフのお嬢さん!  
 これで私も昔の恩を返せるというものです」  
「礼はいい、早々にこの森を立ち去るがいい」  
「ありがとうございます、それではこれにて失礼致しますよ」  

 手早くニューク草を採取すると、アドルフたちは愛想笑いを浮かべつつその場を立ち去った。  

「サトゥーニア様?あんな連中を逃がしてよかったんですか?」  

 ナーカには今のやり取りが不満らしい。  

「逃がさないで、どうするのよ?」  

 仕方がない、という態度を崩さずに彼女は尋ねた。  
 だが、視線を向けられたナーカは、途端にオドオドとし始める。  

「そ、それは、連中を捕らえて・・・」  
「本当の狙いが何なのかを尋ねる?」  
「そうっ!そうです!」  

 彼女の言葉に、ナーカは笑顔を浮かべて言った。  
 そして、表情を青ざめさせた。  
 見るからに失望した表情を、サトゥーニアは浮かべたからである。  


657  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/11/01(水)  00:05:59  ID:???  

「いいかしらナーカ」  
「は、はい」  
「五人組の見るからにひよっこの奴らも含めて、彼らの装具を見た?」  
「い、いえ」  
「プレートアーマーなどは一切なし、それでいて食料は沢山もてるようになっていた」  
「つまり?」  
「せいぜいが物見、もしくは本当にニューク草狩り。  
 街のギルドが何を考えているかはわからないけれど、警戒すべき事は何もないわ。  
 それに、彼らを捕らえたら、いよいよ私たちは引っ込みがつかなくなるわよ」  

 街の方角を見つつ、彼女は憂鬱そうに言った。  

「と、いいますと?」  

 不思議そうにナーカが尋ねる。  

「新興のニホン国の兵士を捕らえ、今度はグレザール帝国の支配下にあるギルド員を捕らえる。  
 何かの手違いで拷問や処刑でもして御覧なさい。  
 三日と持たずにこの森は消え去るわ」  

 絶句したナーカを無視し、サトゥーニアは部下たちに撤収を命じた。  
 もちろん、三人ほどアドルフたちが森を出るまで追跡するようにも命じる。  
 開放された安心感で、うっかり目的を喋ってくれるかもしれないからだ。  



658  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/11/01(水)  00:07:21  ID:???  

西暦2020年8月3日  01:00  ゴルソン大陸  グレザール帝国領  城塞都市ダルコニア  

「はい、そうです。  
 恐らくは行方不明の自衛隊の偵察です。  
 はい、数は彼らの単位で一個班。  
 そうです、ええ、ええ、はい。  
 私たちの任務は終了で?  
了解、物資を受け取り、行動を開始します」  

 ここまでなんとか守り通していた衛星通信機をしまい込み、グロックは言った。  

「軍曹」  
「はっ」  

 今までの態度とは大きく変わり、明らかに上位者に対して接する態度で彼は応じた。  

「我々の冒険者生活は終わりを迎えた。  
 三十分後、我々のための物資が投下される。  
 目的は、陸上自衛隊と合同での捕虜奪還だ。  
 何か質問はあるか?」  
「はい、いいえ少尉殿。何も質問はありません。  
 貴様らもそうだな?」  

 彼の後ろに立っていた三人組に、軍曹は尋ねた。  
 もちろん、厳しい訓練の果てに選ばれた、合衆国海兵隊の精鋭たる彼らに、今の説明で理解できない事など何もなかった。  


659  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/11/01(水)  00:08:53  ID:???  

 そう、彼らは合衆国海兵隊の人間だった。  
 この世界の人間に酷似しており、英日両方の言語を操れ、戦闘能力にもサバイバル技術にも問題がない彼らは、諜報員としてうってつけだった。  
 旧連合王国捕虜と共に暮らし、この世界での生活習慣を叩き込まれた彼らは、少数で各地の都市へと潜伏していた。  
 グロック少尉たちもその一グループである。  
 彼らの目的は三つ。  
 この世界の『標準の生活』を探し出し、市民の目からその最善を見出す事。  
 この世界の他の国家の情報を収集し、今後の外交方針や戦争計画の材料とする事。  
 そして、自分たちの名前に反応し、投降に応じないものを抹殺する事。  
 一つ目と二つ目は、日本が支配地域と外交に優位を確保するための活動である。  
 当事者たちが喜ばないのであれば、いかなるインフラも教育も医療も物資も、援助するだけ無駄になってしまう。  
 そして、よく知らない相手との外交では、思わぬトラブルが起こりかねない。  
 日本人たちは、多少の人名の損失には目をつぶり、それでも情報の収集に打って出たのである。  
   
 それでは最後の一つはというと、これは救国防衛会議の強い要請で採用された方針である。  
 技術情報やさまざまな概念が持ち込まれれば、日本の持つ技術的優位というアドバンテージは、物量の前に失われてしまう。  
 国家に害をなす者は、憲法で規定されている日本国民の定義から外して構わない。  
 そういうことだった。  


660  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/11/01(水)  00:10:17  ID:???  

「アドルフさんはどうしますか?」  

 軍曹が不安そうに尋ねる。  
 親しくはしていたが、こちらの正体に疑問符を抱いているようならば殺さねばならない。  

「私には親切な異世界人にしか見えんがな」  

 だが、少尉の回答は、アドルフの殺害を否定するものだった。  

「少尉殿がそう仰るのであれば問題はありません。  
 それでは回収に出発しましょう」  

 軍曹は内心で安堵し、答えた。  
 軍人と殺人鬼はイコールではない。  
 無意味な殺人など誰もやりたくないのだから当然の反応である。  
 彼らは互いに頷き、装具をまとめると、夜の闇の中へと消えて行った。  




827  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/11/06(月)  01:26:59  ID:???  

西暦2020年8月3日  02:59  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  エルフ第二氏族の村近郊  

「俺のターンだ!」  
「静かにしてください」  

 浮かれた様子で叫んだ佐藤一尉を、二曹は素早く小銃で殴りつけて黙らせた。  
 現在、彼らはエルフ第二氏族の村周辺に展開している。  
 エルフ第一氏族およびダークエルフの協力により、現在のところ発見された様子はない。  
 今回の救出作戦は、救国防衛会議の要請により過大な戦力が集められていた。  
 にもかかわらず、今まで発見されていないのには、当然ながらわけがある。  
 それは、兵力の大多数が空にいたからである。  

「はじまりましたね」  

 時計の針が0300時を示したのを確認し、二曹が言う。  
 空の彼方から、爆音の連鎖が響いてきた。  


828  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/11/06(月)  01:27:35  ID:???  

 星の光に混ざり、赤く輝く何かが点滅した物体が現れた。  
 一つではない。  

<こちらキャリアリーダー、上空に到達、降下開始する>  

 前線航空統制官の無線機から声が流れ出し、バサリ、バサリと重い何かが開く音が聞こえる。  
 夜目の利く者ならば、そして現代戦を知るものならば、飛来した航空機の編隊がパラシュートのついた何かを投下したことがわかる。  
 パラシュートの開く音は一向に途絶えない。  
   
「凄い!こいつは凄いぞ!」  

 今回の任務に同行を許可された記者たちが、暗視カメラを上空に向けつつ興奮した声を出す。  
 彼らの眼球には、夜空を埋め尽くす空挺部隊が映っているはずであり、興奮するのは当然といえる。  
 第一空挺団、陸上自衛隊で最精鋭を持って知られる彼らの、前線での全力降下が、今まさに行われている。  
 そして、後にゴルソン大陸総合火力演習と影で呼ばれることになる作戦が開始された。  



829  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/11/06(月)  01:28:50  ID:???  

「意味もなく夜中に空挺降下、税金の無駄遣いだよな」  

 落ち着いた様子でそれを眺めつつ、佐藤は言った。  

「全くですね。夜中に狭い地域にこれだけの兵力を展開して、事故がなければ良いのですが」  
「まあ、政治的配慮とかで少数で特攻させられるよりはましだがな」  
「確かにそうですね」  

 今回の作戦は、本腰を入れての捕虜救出作戦ではない。  
 この先の城塞都市に篭るグレザール帝国軍に対し、自衛隊の兵器を見せ付ける事すらも第二目標に過ぎない。  
 救国防衛会議の目的は、ひたすらに派手な作戦を実行し、戦意高揚のための記録映像を作る事にあった。  
 降下を終えた輸送機たちは、エンジンの出力を上げつつ上空を通過していった。  
 遠ざかる輸送機とすれ違いつつ、再び航空機の爆音が出現する  
 村の上空に到達すると、輸送機たちは再びパラシュートの群れをばら撒く。  
 夜空が、白く染まった。  


830  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/11/06(月)  01:30:39  ID:???  

「照明弾、今回の作戦範囲ならば二つもあれば十分だろうに」  
「ウワサでは、この一斉投下のために相当な訓練を積んでいるそうですよ」  

 真昼のように明るくなった森の中で、佐藤と二曹は暢気に会話を楽しんでいた。  
 電子装備とエルフの協力者、さらにレンジャー上がりや実戦経験豊富な部下たちに囲まれているからこそ出来る贅沢である。  

「それは俺も聞いたな。  
 おまけに、今回の作戦本部にはイベント会社が来ているそうだぞ」  
「らしいですね。こんな調子じゃあ、そのうち高射特科が花火でも打ち上げるのでは?」  
「それは戦争映画らしくないだろう」  
「確かにそうですね。では、戦争映画らしくしましょうか」  
「うん?ああ、時間だな。よし前進する」  

 弛緩していた表情と態度を引き締め、佐藤は命じた。  
 二曹が頷き、報道の腕章をつけた陸士がカメラを回す。  
 戦場で大声を出すような趣味は持っていないんだがな。  
 内心で呟きつつ、彼は口を開いた。  


831  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/11/06(月)  01:31:24  ID:???  

「全員に告げる、これより我々は、捕虜となっている友軍の奪還作戦を決行する!  
 彼らは既に長時間に渡る監禁で、心身ともに衰弱している可能性が非常に高い!  
 そして敵はエルフ第二氏族、森の住人である彼らは、非常に手ごわい敵だ!」  

 一同を見回し、拳を作る。  

「しかし!私は友軍を見捨てるような訓練は受けていない!  
 眼前の敵を見逃すような訓練もだ!  
 諸君!勇敢にして有能なる陸上自衛官諸君!諸君らはどうだ!?」  
「我々も同様であります佐藤一等陸尉殿!!」  

 二曹が声を張り上げ、次々と部下たちが同意を示す。  

「よろしい!ならば私と共に進み、窮地に陥った友軍を救い出し、日本の民主主義を良しとしない連中に教育してやろう!  
 総員実弾を装填しろ!前進する!!」  

 演技を終えた彼は、カメラが止まっているのを確認して戦闘服の襟元を緩めた。  

「敵に発見された兆候はないな?」  
「あれだけ大騒ぎしたワリには、大丈夫なようです」  

 周囲をうかがいつつ二曹が答える。  

「よし、直ぐに移動する。  
 報道、死ぬなよ。俺は電子機器の扱いが苦手なんだ」  
「わ、わかりました」  

 自動小銃の代わりに拳銃とテレビカメラを与えられた陸士は、心底不安そうな態度で答えた。  
 非力な記者たちはここに留まり、安全が確認されるまでは護衛と共に撮影を続ける事になる。  
 しかし、彼は不運な事に、これから最前線にカメラ片手に乗り込まなくてはならない。  


832  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/11/06(月)  01:32:22  ID:???  

西暦2020年8月3日  03:01  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  エルフ第二氏族の村  

「三尉殿」  

 照明弾の雨が降り注ぐ中、表情を緩めて空を見上げていた三尉に、陸曹が声をかける。  

「いい景色だな三曹」  
「はっ」  
「外出の用意をしろ。  
 ここは景色は綺麗だし空気も美味いが、いささか飽きた」  
「はっ、準備は完了しております。あとはあの檻を何とかすれば直ぐにでも」  
「表の監視が何とかなれば力技で・・・」  

 視線を正面に戻した三尉は、先ほどまで空を見上げて騒いでいた監視のエルフがいなくなっている事に気づいた。  
 よく見れば、血の臭いと倒れ伏す人影、そして音を立てずにうごめく黒い影がある。  

「こんばんわ」  

 黒い影の一つが声をかけてきた。  

「陸上自衛隊ゴルソン方面隊ゴルシア駐屯部隊第3普通科小隊指揮官の原田政義三等陸尉さんですね?」  
「こんばんわ、そうですが、貴方は?」  
「今ならば貴方の部下のみなさんも含めての団体旅行を手配できますが、いかがですか?  
 しかも、全て税金で、ですよ」  
「無料サービスとは嬉しいな。ところで、マスターキーはお持ちですか?」  

 黒い影は笑顔を浮かべて小銃を構えた。  


833  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/11/06(月)  01:33:13  ID:???  

「開錠もサービスに含めておきましょう。さあ、離れてください」  

 空の彼方から、腹に響く爆音の連鎖が接近してくる。  
 一機や二機ではない。  

「救出のヘリか?」  
「ですね。安心してください。一人一機でも大丈夫なくらいに沢山来てますよ」  
「それは愉快な事だ。お前らも下がれ」  

 部下たちに命じつつ、三尉も後ろに下がる。  
 銃声が響き、頑丈そうな鍵は一撃で弾けとんだ。  

「怪我はありませんね?ここはだいぶ開けてますからヘリを呼びます。  
 待っていてください。では」  

 黒い影は敬礼し、数名を残して立ち去った。  
 何を考えて増設したのか、無数のサーチライトを地上に向けて照射している大型ヘリコプターの編隊が現れる。  
 その周囲を無数のUH−60やAH−64が乱舞している。  


834  名前:  物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  2006/11/06(月)  01:34:25  ID:???  

<我々は陸上自衛隊です。我々は仲間を絶対に見捨てません。希望を捨てず、生き延びてください>  
<抵抗は無意味である、速やかに武装を解除し、投降しなさい>  
<原田三尉およびその部隊員の皆さん、我々は最後の一人まで見捨てません>  

 拡声器から増幅された声が次々と流れる。  
 何を考えたか、それは女性自衛官の声だった。  

「随分と賑やかにやってるな」  

 明るく照らし出された森の中から、それでもはっきりとわかるマズルフラッシュが連続して見える。  
 今のところ、村の中で右往左往しているエルフたちに死人は出ていないようだ。  

「空挺が集まってきたな。よし、俺たちも参加するか」  

 三尉は気合に満ちた声を出した。  

「三尉?」  

 目の前に規模がわからないほどの救出部隊が来ているというのに、何を考えているのかと陸曹は不思議そうな声で尋ねた。  

「折角エルフの村を発見できたんだ、俺たちに出来る仕事をしようじゃないか」  

 照明弾に照らし出された原田の顔を見た陸曹は、彼の心に巣食った悪魔を視覚で確認した。  




189  :物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  :2006/11/14(火)  22:27:43  ID:???
西暦2020年8月3日  03:03  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  エルフ第二氏族の村  

 草が波打っている。  
 その原因は、上空を旋回しているヘリコプターの集団にあるように思えた。  
 だが、揺れは止まらない。  
 直上をヘリコプターが通過する。  
 一人のエルフが、ポカンと口を開けて空を見上げている。  
 黒い影がそれに近づき、そして一撃で昏倒させる。  

「貴様!」  

 それを見ていた他のエルフが剣を振り上げて叫ぶ。  
 草むらから何かが突き出し、そして火を噴いた。  

「成功」  

 剣を砕かれ、足を撃たれたエルフが転がる。  
 その傍らを、無数の自衛隊員が通過する。  

「一斑は左、二班は右だ。無駄に殺すなよ」  

 隊長の言葉を立ち止まらずに受け取りつつ、彼らは歩み続けた。  
 不運なエルフが一人、気づかずに接近を許して殴り倒される。  
 勇敢なエルフが一人、剣を振りかざした姿勢のまま銃撃を受けて倒れる。  
 長期偵察の果てに奇襲を受けた原田たちとは違い、そこに何があり、誰がいるのかを理解している第一空挺団は、無敵だった。  


190  :物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  :2006/11/14(火)  22:29:50  ID:???
「隊長」  

 小銃を構えたままの隊員が一人、小声で隊長を呼ぶ。  
 彼の視線の先には、数名のエルフの集団がいた。  

「いた、いたぃぃ!」  
「黙りなさい!この役立たずが!」  

 サトゥーニアは、悲鳴を上げて泣きじゃくるナーカの足を治療している。  
 銃弾は綺麗に抜けているが、周囲の肉が欠損しているためにその治療は難航しているようだ。  
 周囲のエルフたちは剣を構えて展開してはいるが、その注意の大半は空に向けられている。  

<無駄な抵抗は止め、降伏しなさい>  
<我々は日本国自衛隊です。降伏するものには寛大な処置を約束します>  
<抵抗は無意味である。降伏せよ>  

 上空は、幻想的な風景だった。  
 無数の照明弾が空を舞い、それに接触しないようにしながらヘリコプターの集団が乱舞している。  
 輸送ヘリ、戦闘ヘリ、大型の双発ヘリ、機種も任務も多様な回転翼機の織り成す舞踏会は、照明弾のライトアップの中で威圧感を漂わせて続いていた。  


191  :物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  :2006/11/14(火)  22:30:40  ID:???
「撃て」  

 空に気をとられているエルフたちには一切遠慮せず、隊長は発砲許可を出した。  
 たちまち銃撃が殺到し、哀れなエルフたちは次々と地面へと打ち倒されていく。  
 サトゥーニアが銃声に気づいた次の瞬間には、彼女とナーカ以外のエルフたちは地面に倒れていた。  
 草木がざわめき、男たちが現れた。  
 それを見た彼女は、一瞬で死を覚悟した。  
 目の前にいるのは、グレザール帝国程度が持てる様な兵士ではなかった。  
 一切の無駄のない装具、見た事のない武器、油断のない身のこなし。  
 抵抗しようと考える事自体が無駄に思える。  
 無意識のうちに、ナーカを庇う様に体が前に出た。  
 無駄なのはわかっている。  
 私は、恐らく瞬きをする時間も与えられずに死ぬだろう。  
   
「怪我人か?抵抗しないのならば助けよう」  

 目の前の存在は、想定の範囲外の言葉を発した。  



193  :物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  :2006/11/14(火)  22:32:03  ID:???
西暦2020年8月3日  03:09  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  エルフ第二氏族の村  

「これは、返してもらうよ」  

 縛り上げられた最先任軍曹エルフに言いつつ、原田三尉は装具を身につけている。  
 周囲では海兵隊の人間が遠慮のない視線を向けており、部下たちが彼と同じように手早く戦闘準備を整えている。  
 海兵隊の支援を得た彼らは、大して苦労する事もなく装備を取り返す事に成功していた。  

「特になくなったものはないようですね」  

 どうやったのか戦闘準備を完成している陸曹が報告する。  

「それはいい事だ。国民の血税で購入した物をなくすわけにはいかないからな」  

 89式小銃を装填し、腰に挿した拳銃の安全装置を確認する。  
 周囲ではヘリコプターの立てる爆音が響いている。  

「貴様、どうするつもりだ」  

 床に転がされたエルフが尋ねる。  
 どうするって?決まっているじゃないか、害獣を駆除するんだよ。  
 俺の部下たちが死んで、お前らみたいな存在が生き残っていていいわけがないだろう。  
 小屋の中まで差し込んでくる照明弾の明かりの中で、原田は完全に狂った笑みを浮かべ、小銃を構えた。  


194  :物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  :2006/11/14(火)  22:32:34  ID:???
「原田三尉、気持ちはわかるが弾薬の浪費はよせ」  

 いつの間にか、戸口のところに佐藤が現れていた。  
 その隣には、こちらに向けて小銃を構えた二曹の姿もある。  

「佐藤一尉?」  
「救出が遅れて申し訳ないな。今回の作戦にはマスコミや外務省の人間も来ている。  
 悪いが、エルフたちの身柄は預からせてもらうよ」  

 佐藤の隣をすり抜け、次々と陸士たちが突入してくる。  
 原田が止める間もなく、室内に転がされていたエルフたちは連行されていった。  

「判断能力を持っているウチはいいが、あまりにもおいたが過ぎるようだと後送するぞ」  
「気をつけます。ヘリはどれに乗ればいいのでしょうか?」  
「二曹に案内させる。後始末は任せておけ」  

 未だに小銃を手放さない二曹に案内されつつ、原田たちは捕虜生活に別れを告げた。  
 既に周辺の征圧は完了しており、散発的に聞こえていた銃声も途絶えている。  
 上空を見れば、非武装の民間機らしいヘリが一機、着陸態勢に入っている。  

「外務省の鈴木か、まったく、こんな最前線までご苦労な事だ」  

 一応、地上部隊の指揮官とされている佐藤は、出迎えのために着陸地点へと向かった。  


195  :物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  :2006/11/14(火)  22:33:09  ID:???
「お疲れ様です、外務省の鈴木です。  
 お元気そうで何よりですね佐藤一尉」  
「遠路はるばるお疲れ様です。早速会談ですか?」  

 挨拶もそこそこに、佐藤は本題に入った。  

「ええ、先方に余り損害は出ていませんよね?」  
「事前に徹底されましたからね。ご案内します。こちらへどうぞ」  

 早くも降下した部隊が撤収を始める中、佐藤と鈴木は連れ立って村の中を歩いていく。  
 あちこちに負傷し、武装解除されたエルフたちの姿がある。  
 遅れて到着した衛生が、診療所を開いてそれを治療している。  

「いやいや、今回の作戦は良いプロモーションになりますよ。  
 勇猛果敢で慈悲の心を忘れない我が自衛隊員。  
 映像効果と合わせて、きっと国民の心に焼きつくでしょう」  
「まあ、映像効果のために大軍を動員できたというのは嬉しい話です。  
 国内世論に遠慮して少数精鋭で突入するよりは遥かにマシですからね」  

 上空を飛び回るヘリコプターの集団を見上げつつ佐藤が言う。  

「その国内世論とやらを作るための作戦ですからね、少数精鋭で地味に行うわけにはいきませんよ」  
「それはありがたい事です。映画とは違い、小規模な部隊では行える事に限界がありますからね」  

 会話を交わしつつ、彼らはこの村の代表が捕らえられている小屋へと足を進めた。  


196  :物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  :2006/11/14(火)  22:34:51  ID:???
西暦2020年8月3日  03:12  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  エルフ第二氏族の村  

「それでは、皆さんは我々と敵対する道を歩むというのですね?」  

 先方の主張を聞き終えた鈴木は、静かに言った。  
 室内は静まり返っている。  

「顔を殴られた後に喜んでケツを差し出すようなバカに私が見えるとでも言うのか?」  

 縄を解かれた先任軍曹エルフは、怒りに燃える目を鈴木に向けている。  
 この状況でここまで敵意をむき出しに出来るというのは感動すら覚えるな。  
 第三者の視点でそれを眺めつつ、佐藤は内心で呟いた。  

「そちらが先に手を出したという事を忘れないで頂きたい」  
「それは貴様らの兵士が我々の住処に近づいたのが原因だと言っただろう!」  
「ならば、その前にそちらに手を出しているグレザール帝国に手を出さない理由はなんなのでしょうな?」  

 にやけた表情で鈴木が尋ねる。  
 理由は既にわかっている。  
 グレザール帝国は五つの軍団のうち、一つをこの大陸に派遣している。  
 軍団といえば名前は立派だが、その数は一個師団に辛うじて手が届く数だ。  
 しかし、数は揃えられても組織立った行動が苦手なこの世界では、訓練の行き届いた一個師団と言うのは驚異的な存在であるといえる。  
 大方、その武力を恐れて沈黙していたのだろう。  



198  :物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  :2006/11/14(火)  22:40:41  ID:???
「我々の戦力を、ここに展開している程度の小規模な部隊だけだと思わないほうがいいですよ」  
「どういう意味だ?」  
「言葉通りの意味ですよ。我々は二十万以上の軍隊を持っています。  
 もちろん、保有する兵器も、剣だの弓矢だのといったチャチなものではありません。  
 それを扱う隊員たちも、高度に訓練されています。ああ、これは皆さんもよくご存知ですな」  

 チラリと皮肉を混ぜる。  
   
「後でわかる事ですが、今回我々がそちらのお仲間を余り死なせなかったのは、殺せなかったからではありません。  
 殺すだけならば、我々はもっとスマートに、そして完璧に行えます。  
 いいですか?我々は、あえて、殺さなかっただけなんです」  

 鈴木の言葉に、相手は沈黙を保っている。  
 見たところ、怯えているわけでも、怒りを堪えているわけでもないようだ。  
 まあそうだろうな。  
 やはり第三者的な視点のまま、佐藤はその原因を考察した。  
 この村は、グレザール帝国と旧連合王国、さらにはエルフの第一、第三氏族に挟まれる位置に存在している。  
 そこで、強力な人間側にも、同族であるエルフたちにも組することなく、最低限の損害で独立を維持するという事は難しい。  
 それなりの政治的センスを持っているからこそ、目の前のエルフはこの村を残す事ができたのだろう。  

「何が目的だ?」  

 長い沈黙の後に、彼女はようやくそう言った。  
 鈴木の表情が、満足げに緩んだ。  


199  :物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  :2006/11/14(火)  22:42:02  ID:???
西暦2020年8月2日  02:59  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  エルフ第二氏族の村近郊  
     
「それで、結局のところ君はこう言いたいんだな?」  

 長々とした鈴木の演説を遮り、統幕長は言った。  

「ただの人質救出作戦ではなく、出来るだけ派手なショーにしたいと言いたいんだな?」  
「まさにその通りです閣下」  

 鈴木は愉快そうに言った。  

「ここの所、情勢が安定しているために国民は飽きています。ただの戦闘では足りない。  
 かといって吐き気を催すような凄惨な殺し合いも勘弁です」  
「内陸部が舞台では、我々は余り出番はないな」  

 海将が腕を組んで言う。  
 空将と陸将が、親の敵を睨むような視線を向ける。  


200  :物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  :2006/11/14(火)  22:44:41  ID:???
「陸上自衛隊は、近隣の部隊から習志野の空挺まで、なんでもお出ししますよ。  
 必要ならば大陸に展開しているヘリもありますしね」  
「大陸は歩くには距離がありすぎるでしょう。どうです?どうせならば派手に空挺降下を決めては?  
 近接航空支援も目標が更地になるまでやりますよ」  

 口々に二人は提案する。  
 次の戦争が始まるまでに、彼らは出来るだけ予算と発言権を確保しておく必要があった。  
 何しろ次の戦争は、恐らく長く続く。  
 そこでは、制海権の確保と通商破壊が必要不可欠である。  
 グレザール帝国を屈服させるには、海上自衛隊の大規模な拡大は避けては通れない道である。  
 活躍せねばならない。  
 活躍し、国民の脳裏に焼き付けなくてはならない。  
 そうしなければ、不十分な人員と予算で次の戦争を戦わなくてはならなくなる。  
 陸将も空将も、必死だった。  
 鈴木の提案は、そんな彼らにとって魅力的だった。  
 何しろ、人気取りが出来るような作戦を、是非とも派手にやってくれと言うのだ。  
 断る理由はない。  


201  :物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  :2006/11/14(火)  22:47:40  ID:???
「航空自衛隊には何と言っても空挺降下の支援と、あとは照明さんを担当していただきましょう」  

 なにやら考え込みつつ、鈴木は言った。  
 彼の頭の中では、次々とプランが策定されているようだ。  

「照明?」  
「照明弾を、短時間で出来るだけ大量に落としましょう。  
 夜闇の中で行えば、さぞかし綺麗な光景になるでしょう」  
「ライトアップされた夜の中、勇猛果敢に空挺降下する我が自衛隊員。絵になる光景ではあるな」  

 他人事のように海将が言う。  

「もちろんの事、救出が目的である事は忘れていません。  
 せっかくこの世界に溶け込んでくれているようですが、海兵隊の偵察に協力していただきましょう」  

 つい先ほど、航空攻撃で更地にしましょうと言っていた空将が、しれっと言う。  
 陸将が内心でよく言うよと呟く。  

「城塞都市ダルコニアにいる海兵隊の偵察ですか。  
 もったいなくはありますが、しょうがないですね」  

 仕方なさそうに鈴木が言う。  
 正体を偽ってこの世界に潜入した海兵隊の偵察班は、その少なからぬ数が任務に失敗し、撤退するか殺されるかしていた。  
 手駒として気軽に動かすべき存在ではないが、自衛隊員が捕虜になっているとなれば、渋るわけにもいかない。  

「外から目をひきつける空自と、周辺を征圧する陸自。  
 先発し、捕虜の安全を確保する海兵隊としましょう。  
 詳細は皆さんに立てていただくとして、私は私なりに行動させていただきます」  


203  :物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  :2006/11/14(火)  22:53:09  ID:???
「だがちょっと待ってほしい」  

 場の空気が動き出した時、文部科学省の代表が口を開いた。  

「前任者では思いつかなかったような、なにか有益な対案があるのでしょうか?」  

 下らない事を言うのならば摘み出すぞと言外に言いつつ、鈴木は尋ねた。  
     
「いや、戦闘を派手にやるという事自体に問題はない様に私個人は感じた」  
「では何か?」  
「できれば、余り相手を殺さない様にはできないだろうか?  
 いや、南京大虐殺を繰り返すつもりか、とか、戦中の軍国主義がどうのとか、下らない事を言うつもりはない。  
 ただ、国民の戦意を高揚させつつも、邪魔者は殺す、という論調を何とか出来ないかと思ってね」  

 その後、長々と説明は続いたが、彼が言いたいのはこうだった。  
 国家の敵は殺すという論調は、今の世代に限って言えば、大いに効果がある。  
 別の世界に放り出されたという絶望感。  
 日々目減りする資源、食料、統制される生活。  
 国民には、何らかの形で娯楽を提供し、士気を維持する必要がある。  
 しかし、その次に続く世代には、ある程度抑えた情報を与える必要がある。  
 大人から入ってくる情報が壊す殺す踏み潰すでは、情操教育としてあまりにもよろしくない。  
 選択肢が戦争しか思いつかないような世代を、出来れば作りたくはない。  

「なるほど、確かに将来を見据えれば、そういった考えも重要ではありますね」  

 自分が外務省の要職についた後に、戦争だけを声高に叫ぶ部下たちが入省してくる姿を想像しつつ、鈴木は言った。  


204  :物語は唐突に  ◆XRUSzWJDKM  :2006/11/14(火)  22:58:44  ID:???
「ならばできるだけ、殺す事を控える方向で考えていただけませんか?」  

 陸将を見つつ、彼は続けた。  
   
「もちろん、自衛官に損害が出ない範囲で、です」  

 当然のように付け加える。  
 軍人に手かせ足かせをつけても、自己満足以外は得られない事を、鈴木も文部科学省の男も歴史から学んでいた。  
   
「そういうお話であれば、できるできないではありません。  
 現場と話し合いつつ、最善を尽くしましょう」  

 陸将は頷き、席を立った。  
 空将も当然のように立ち上がる。  

「詳細は出次第ご報告します。  
 それでは自分たちはこれにて失礼します」  
「よろしく頼む。他の者も何か提案があった場合には速やかに申し出て欲しい。  
 我々は会議をするためにこの場にいるのであって、椅子を暖めるためにきている訳ではないからな」  

 統幕長が締めくくり、会議は閉会した。  
 文部科学省の前の担当者が更迭されて以来、粛々と進行していたこの会議は、この日を境に活発的な討議の場所へと戻った。