848  名前:  前スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/22(土)  18:59:17  ID:???  

西暦2020年1月16日  05:20  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一基地西方69km地点  

「展開急げ!!」  

 未だに現役の89式小銃を構えた隊員たちが散らばっていく。  
 ヘリコプターを中心に円を描くように、そしてすぐさま命令が届き、かつお互いを援護できる限界まで距離を空けて。  

<離陸する!またのご搭乗を心よりお待ちしております!>  

 テンションを維持したままの声と内容でヘリが離陸し、あっという間に大空の彼方へと飛び去っていく。  
 すぐさま陸曹が駆け寄ってくる。  

「各班問題ありません。小隊長殿?」  
「前進だ。油断はするな」  
「了解」  

 短いやり取りの後にすぐさま小隊の方針は達せられた。  
 一斑を中心に、各班がそれなりの許可を取りつつ前進を開始する。  
 今のところは負傷者も戦死者もなし、というか、周囲には先発隊による攻撃に晒された惨殺死体しかない。  

「小隊長殿」  
「なんだ?」  

 三班を任せている三曹が駆け寄ってくる。  
 その表情は硬く、そして目は血走っている。  

「自分の班を先発させてください。交戦法規は事前のままでいいんですよね?」  

 事前のままというのは、捕虜を取るな、捕虜になるな。という単純なものだ。  
 我々は積極的な平和維持活動を実施しているだけであり、これに楯突くものは平和の敵、その処罰に関しては現場の判断に一任する。  
 ということだそうだ、上層部の責任の放棄ではなく、あくまでも殺害は事前に許可された状態で、殺すか殺さないかは現場の自由なのだそうだ。  
 まぁ、やりやすいといえばそうだが、一体自衛隊はどうなってしまったんだ?  


849  名前:  前スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/22(土)  19:00:11  ID:???  

「交戦法規の遵守を心がけろ、捕虜になることも部下を死なせることも許可しない。いいな?」  
「了解しました。それでは先発します」  

 敬礼する手間すらも惜しむ様子で奴は駆けていった。  
 待機している三班の連中と少しだけ会話を交わし、彼らは最前列に立って進みだした。  

「どうしたんだあいつは?」  
「さあ?人間を撃ちたくてウズウズしているのでは?」  
「病んどるなぁ」  
「さ、小隊長殿、我々も進みましょう」  

 俺のコメントを無視し、小隊は前進を開始した。  
 周辺は前方で燃え盛る村を頂点として、あちこちで何かが燃えているために非常に明るい。  
 まあ、全ての普通科に配給されている暗視装置のおかげで何もせずとも視界には困らんがな。  

「しかし、こりゃあ完全な虐殺だな」  

 視界全てに広がる殺戮の成果物を見つつ呟く。  
 イブニングライナー達は思う存分暴れたらしい。  
 あちこちに人間の残骸が広がっている。  


850  名前:  前スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/22(土)  19:02:49  ID:???  

「かなり派手にやったんだなぁ。死んだ振りをしている奴に気をつけろよ」  

 最前列を進む三班は、周辺警戒を行いつつも燃え盛る村の付近へと到着した。  
 上空では警戒を続ける戦闘ヘリコプター達の爆音が響き渡っている。  

「この村の連中もなんとか抵抗だけはしていたようですね」  

 村の入り口らしい場所には、大量に矢が突き刺さり血液がデコレーションしたオブジェがあった。  
 もちろんその周辺には死体の山がある。  

「これは、ドワーフっていう奴か?」  
「そのようですね」  

 破壊された廃屋に注意しつつ三曹と陸士長が会話している。  
 その周辺では陸士たちが安全装置を解除した小銃を手に、遮蔽物の陰で待機している。  

「前方の塔が問題の場所だな」  

 燃え上がる村の中、中心にそびえる塔のみが未だに火災から逃れていた。  
 その周辺では敵と定められた連中が騒いでる。  

「あれは、突入しようとしているのか?」  
「そのようですね。あの頑丈そうな扉に邪魔されているのでしょう」  

 剣ではなく木槌を持った連中が、必死に入り口らしい扉を叩いている。  
 だが、鉄製と見える扉はびくともしない。  

「小隊長殿?」  
「周辺警戒は怠るな。一斉射撃でカタをつける。俺の射撃で攻撃開始だ。配置につけ」  
   
 すぐさま命令は達せられ、遮蔽物と後方の視界を確保した隊員たちは、それぞれ近くの敵部隊へと照準を定めた。  
 自動小銃や軽機関銃に狙いをつけられたことを知らない敵軍は、雄たけびや罵声を上げつつ塔への攻撃を継続している。  


851  名前:  前スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/22(土)  19:09:13  ID:???  

ノービス王国暦139年豊潤の月六日  地図にない村  連合王国王立神聖騎士団第六大隊  

「気合を入れろ!ぶち破れ!!」  

 重いハンマーを扉へと叩きつける部下たちに指示を出しつつ、大隊長は空を見上げた。  
 恐らくはダークエルフたちが召喚したであろう竜たちは、聞いた事もない羽音を相変わらず轟かせている。  
 先ほどまで周辺では熾烈なブレスによる攻撃が行われていたが、不思議な事にここに攻撃が来る事はなかった。  
 軍師によると、恐らくは威力が大きすぎ、術者たちが近いここには攻撃が出来ないのだろうという事だが、まあ攻撃されないのならば事情など何でも良い。  

「まだ破れんのか!早くしろ!!」「何をやっているか無能どもめ!!」  

 二等騎士たちが兵士たちへと怒号を上げる。  
 緊急時の避難所として用意されていたらしいこの塔は、恐ろしいほどに防御力が高かった。  
   
「状況はあまりよくありませんな」  

 塔を見上げつつ軍師が呟く。  
 頑丈な石造り、かつ鉄板を随所に貼り付けたこの塔は、本格的な攻城装備を持っていない彼らには厄介すぎる代物だった。  
 窓はかなりの高さにしかなく、とてもではないが急造の梯子などでは届かない。  
 唯一の進入手段である扉は、頑丈な鉄で作られ、さらには魔法処理すらされているようで、木槌程度では破れない。  

「うむ、ここを破らない事にはどこにも帰れない」  

 恐らくこの塔から離れた途端、空を飛び回る竜たちは我々に喜んでブレスを吐きかけるだろう。  
 そうなれば一巻の終わりだ。  
 人間の術者程度でそれを防ぐ事はできないだろう。  



852  名前:  前スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/22(土)  19:16:04  ID:???  

「早く破るんだ!早くしろ!!」  

 焦った三等騎士が叫び、そして彼の頭上に重い石材が激突した。  
 一撃で頭を押し潰され、彼は絶命した。  
   
「攻撃だ!逃げろ!!」  

 命令と悲鳴が飛び交い、そこへ石材やファイヤーボールが飛び込んだ。  
 高いところから落下するものというのはそれだけで脅威だが、それが重い石材や燃え盛る火炎だというのは脅威を通り越して悪夢である。  
 すぐさま弓兵たちが応戦するが、ファイヤーボールはむしろそこを狙ってくる。  
   
「逃げろぉぉぉ!!!」  

 指揮を取っていた十人兵長が逃げ出しつつ叫び、直後に彼の部下たちは全滅した。  
 もちろん四方八方から矢を射るのだから、相手に与えた損害が皆無というわけではない。  
 頭上から悲鳴が聞こえ、何人もの敵が落下してくる。  

「畜生、劣等民族どもめ、今日まで生かしてもらった恩を忘れやがって」  

 忌々しそうに大隊長は上を見上げた。  
 そもそも、今回の作戦はあくまでも懲罰的な意味合いのものだった。  
 族長の娘だかなんだか知らんが、劣等民族にしては美しい娘を徴用しようとしただけなのだ。  
 なのに連中は、何を考えたか知らんがこちらに対して攻撃を加えてきたのだ。  
 しかも、いくら殺されようとも徹底抗戦。  
 気がつけば村を焼き払い、そしてこうして最後の攻撃を行おうとしている。  
 この村はもうおしまいだろう。  
 それはどうでもいいが、この先、この地域からの物資の収益が減るのは痛いな。  

「大隊長殿?」  

 怯えた顔つきの軍師が彼に声をかけたのと、攻撃が開始されたのは同時だった。  


854  名前:  前スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/22(土)  19:24:12  ID:???  

西暦2020年1月16日  05:45  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一基地西方69km地点  

「撃ぇ!!」  

 叫びつつ発砲を開始する。  
 PAPAPAPANN!!!!と、景気のいい音を立てて銃弾が放たれ、照準の延長線上にいた敵兵が倒れる。  
 彼の発砲を受け、隊員たちは手短な敵兵向けて発砲を開始した。  
 あちこちから89式小銃の、MINIMIの発砲音が鳴り響き、たちまちのうちに外周の敵軍は射殺された。  
 「攻撃だ!」とか「敵襲!!」という警告の叫びが敵軍から聞こえてくるが、どうやらこちらを未だ発見できていないらしい。  
 それはそうだ、太陽が昇り始めたとはいえ敵軍がいる場所は薄暗い広場で、こちらは炎を背に遮蔽物の陰から攻撃している。  
 見えるはずがないのだ。  

「左は統制が取れている、射撃を集中しろ」  

 最初こそ発砲したが、その後は射撃を控えている佐藤が指示を出し、部下たちは統制の取れている集団に攻撃を加え続けた。  
 中世程度の軍隊で統制が取れているということは、全体へ指示を下すものがいる可能性が高い。という三曹の進言を受けたからだ。  
 すぐさま射撃が集中され、敵集団が薙ぎ倒される。  

「上の連中はどうか?」  

 双眼鏡を構えている陸士長に佐藤が尋ねる。  

「こちらの攻撃に唖然としているようです」  
「動いたら知らせろ」  
「はっ」  

 今のところはこちらに攻撃するつもりはないらしい。  
 頼むからそのままでいてくれよ。  
 敵軍を睨みつつ、佐藤は心から願った。  


857  名前:  前スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/22(土)  19:39:13  ID:???  

「左!」  
「わかった!」  

 銃声に負けない大声を出しつつ、自衛隊員たちは統制された射撃を続けた。  
 入り口周辺にいた敵軍は大混乱に陥っていた。  
 周辺から聞きなれない音が鳴り響くたびに同僚たちが薙ぎ倒され、さらには頭上からの攻撃も再開されたからだ。  
 逃げようにもどこへ逃げたらよいかがわからない。  
 敵はどこにいるかわからず、上からは石材とファイヤーボール、矢の雨。  
 この村の周辺は竜がうろついており、支援がないところを見ると周辺に展開していた本隊は壊滅している様子。  
 恐慌状態に陥った若い兵士の中には、武器を棄てて泣き喚くものまでいる。  

「手榴弾!」  

 陸曹の指示が飛び、何人かの隊員が投擲を開始する。  
 閃光、爆発、悲鳴。  
 敵兵が吹き飛び、混乱が拡大される。  


858  名前:  前スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/22(土)  19:42:14  ID:???  

「三尉殿、投降を呼びかけますか?」  
「まだだ」  

 指示を下していた三曹が尋ねる。  
 しかし、佐藤はそれを却下した。  

「敵の数が多い。我々では扱いきれない」  
「しかし敵の戦闘能力は十分に奪っています」  
「まだだ」  

 三曹と会話しつつ、佐藤は冷静さを保っている自分に驚いた。  
 一方的な虐殺を行っているという認識は十分に持っている。  
 敵軍は既に戦闘能力を喪失しており、塔の上からの支援攻撃もあって身動きが全く取れない様子だ。  
 こちらは弾薬にはまだまだ余裕があり、さらに死傷者は全くない。  
 しかしながら佐藤に攻撃を中止するつもりはなかった。  
 彼にはわかっていたのだ。  
 どうせ自分たちはこの作戦が終わっても前線に配置され続けるであろう事を。  
 それならば、出来るだけ楽が出来るうちに血に慣れておいたほうが良い事を。  


861  名前:  前スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/22(土)  19:47:08  ID:???  

「佐藤三尉!」  
「攻撃を続行しろ!!」  

 とうとう肩を掴んできた三曹を無視し、佐藤は携帯無線へと叫んだ。  
 正面装備よりもそれ以外に予算を投入した何年間かは無駄ではなく、今の普通科には十分な数の暗視装置や無線機などが装備されている。  

「これではただの虐殺です!わかっているんですか!?」  
「十分認識しているよ三曹、頼むから静かにしてくれ」  
「しかしっ!」  

 必死に喰いすがる三曹を視界の端に入れつつ、それでも佐藤は攻撃を止めるつもりはなかった。  
 たぶん上は怒っているのだろう。  
 記念すべきファーストコンタクトを戦闘にしてしまった俺たちを。  
 大勝利でも全滅でもなく、単なる撃退というよくわからない終わり方にしてしまった俺たちを。  
 畜生、俺を主流から外しただけでは足りないのかよ。  

「攻撃を続けろ!」  

 内心の暗い思いを振り払うように佐藤は叫び、そして彼の部下たちは攻撃を続行した。  
 そして何人かの陸曹たちは、佐藤のその命令に喜んで従った。  
 彼らは自分たちが置かれている立場を正しく理解しており、佐藤の考えを肯定していたのだ。  
 アニメの主人公がいる部隊じゃあるまいし、自分たちばかりが次々と使いまわされる理由を察知していたのだ。  


871  名前:  前スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/22(土)  20:08:17  ID:???  

ノービス王国暦139年豊潤の月六日  地図にない村  連合王国王立神聖騎士団第六大隊  

 そんな佐藤たちの攻撃を受ける敵軍は不運だった。  
 大軍同士の国家の命運を賭けた決戦でならまだしも、彼らは佐藤の部下たちに経験値を与えるためだけに攻撃を受け続けているのだ。  
 既に魔術師や弓兵は全滅し、彼らは戦友たちの死体を盾代わりに地面へと伏せていた。  
 だが、そんな彼らには空から訪れた重量物や火炎が飛び込む。  
 逃げようと立ち上がればたちまち光弾がそれを引き裂く。  

「撃ぇ!」  
「三尉!」  
「攻撃を続行しろ!」  
「右だ!!」  

 周囲からは敵の命令らしい声が聞こえてくるが、その姿は見えない。  
 あくまでも剣と槍、そして長弓と魔法による戦闘を行う彼らは、遮蔽物に身を隠す現代の戦闘での策敵手段を持っていないのだ。  
 まあ、狙い済ましたように味方を薙ぎ倒しているこの敵が、実は数十メートル先から攻撃を加えているというのは想定の範囲外であろう。  

「シビル十人兵長戦死!」「オルラン二等騎士戦死!!」  

 次々と戦死の報告が入る中、驚くべきことに大隊長は生きていた。  


872  名前:  前スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/22(土)  20:09:33  ID:???  

「どうして気がつかなかったのだ!」  

 彼は傍らにいる軍師に怒鳴っていた。  
 甲冑を着けた死体を積み上げたこの陣地はそれなりの防御力を有しており、今のところ攻撃に耐えていた。  

「どうもこうも、私は魔術師でもなんでもないのです。  
 それよりも、今はどうするかを考えるべきです。  
 あと、私は気づきましたよ。声をかけた途端に攻撃を受けたのです」  
「言い訳はいい!どうするのだ!このままでは全滅だぞ!」  

 本隊は恐らく全滅、上空には竜の群れ、周囲からは謎の攻撃、頭上からは石材とファイヤーボールと矢の雨、頼るべき部下たちは死体の山。  
 大隊長の忍耐力は限界となっていた。  
 自然と傍らの剣へ手が伸び、そして全身に力が入る。  
 止める間もなく彼は立ち上がり、声を張り上げた。  

「我こそは連合王国王立神聖騎士団第六大t」  

 所属部隊すら言い切る間もなく、彼は5.56mmNATO弾で上半身を蜂の巣にされて倒れた。  
 これまで無傷だった大隊長が目の前で惨殺されたのを見た部下たちは、悲鳴を上げて逃げ出し、その全員が射殺された。  


873  名前:  前スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/22(土)  20:15:23  ID:???  

西暦2020年1月16日  06:00  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一基地西方69km地点  

「手向かう者は撃て!それ以外は拘束しろ!」  

 徹底した攻撃により、敵軍は戦闘能力を完全に喪失した。  
 きっかり0600時、自衛隊は攻撃を止め、敵軍へ降伏を勧告。  
 上位者を失っていた敵軍は、口々に降伏を申し出つつ地面へと伏せた。  

「武器を棄てろ!地面に伏せて両手は頭の上!早くしろ!!」  

 小銃を構えた陸士たちが前進し、哀れな敵軍はようやくの事自分たちを攻撃してきた集団を発見できた。  
 完全に錯乱している者を除き、大半が大人しく指示に従った。  

「やっと見つけたぞ!」「降伏など冗談ではない!!!」  

 もちろん諦めの悪いものというのは世の中に存在し、そんな彼らは誇りと共に肉体を撃ち砕かれた。  
 彼我の距離は未だに数メートルを残しており、そんな目と鼻の先で自動小銃相手にどうこうできるわけがなかった。  
 PAPAPAPAN!!!  
 銃声が鳴り響き、周囲に伏せていた不運な同僚を巻き込んで彼らは死んだ。  
 そして、戦闘は終了した。  


874  名前:  前スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/22(土)  20:25:10  ID:???  

「そこに固まれ!早くしろ!!」  

 ようやく周囲を明るくし始めた太陽によって、惨劇の後が照らし出された。  
 頭部がない者、手足を欠損している者、まだ息があるが、明らかに手遅れな者。  
 そこにはこの世の地獄が存在していた。  
   
「殺さないでくれぇ!」「従う!従うから!!」  

 怯えきった敵兵たちは、全身を恐怖で震わせつつ地面へと伏せ、すぐさま拘束されていく。  
 一人くらいは胸元から短剣を抜いて抵抗するであろうと警戒していた隊員たちは、その素直さに驚きつつも拘束を継続した。  

「こちらの死傷者はなし、敵軍は、ざっと見たところでは200名ほどではないかと思われます」  

 報告をまとめた三曹が佐藤へと報告する。  

「ふむ、精神をやられたものは?」  
「ショックで動けないものが何人かは。あとは死体で怯えているくらいですね」  
「上出来だな。しかし、自分で殺しておいて怯えるとは妙な話しだと思わんか?」  
「三尉殿、自分は貴方の考えがわかりません」  

 恐ろしいものを見る目で佐藤を見る三曹。  
 だが、佐藤はつまらない物を見るような視線でそれに答える。  

「この世界に来てもう二回目の戦闘。わからんか?」  
「上層部に期待されているということですか?」  
「俺たちは上に嫌われているんだよ。間違いない」  
「まさか、どうして?」  

 再び佐藤は三曹を見た。  
 今までは有能だと思っていたのだが、あくまでも通常業務に限った話だったのか?  


875  名前:  前スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/22(土)  20:47:13  ID:???  

「到着するなり戦闘を行ってしまった。  
 しかも知らなかったとはいえこちらの落ち度で。  
 そしてよりによって外務省に講和条約の締結という得点を与えてしまった」  
「しかし、そもそも戦闘の許可は上から来たんですよ!」  
「まあそうキレるな」  

 激昂した三曹を苦笑しつつ宥め、佐藤は部下たちへと視線を向けた。  
 耳元でささやき声が聞こえる。  

「あいつ、動くよ。短剣を持ってる」  

 視線を向ける。声の正体については考えない。  
 地面に伏せた敵兵に部下が近づいていく。  
 見ると左手が懐にある。  

「吉田一士下がれ!!!」  

 叫びつつ小銃を構える。  
   
「三尉?」  

 不思議そうに一士が振り向き、そして敵兵が立ち上がった。  
 佐藤の発砲と敵兵が短剣を抜くのは同時だった。  
 だが、人間が腕を振り下ろすのと音速で飛来する銃弾の速度は同じではない。  
 頭部と左胸に着弾した敵兵は、そのまま回転しつつ地面へと倒れ、動かなくなる。  

「なっ、なんだよこいつ!!」  

 吉田一士は怯えつつ死体から離れ、慌てて小銃を構える。  
 すぐさま周囲の陸士たちが戦闘態勢へと戻っていく。  


876  名前:  前スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/22(土)  21:13:42  ID:???  

「違う!俺は何もしない!」「やめてくれ!たくさんだぁ!!」  

 殺されると勘違いした敵兵たちが悲鳴を上げて命乞いを始める。  
 しかし、近くの陸士に詰め寄ろうとした不運な者を除いて攻撃はされない。  

「全員伏せるんだ!絶対に動くな!動けば殺すぞ!!」  

 殺気だった陸曹たちが怒号を上げ、その恐ろしさに悲鳴を上げた敵兵たちは大人しく拘束されていった。  
 その後は特に問題もなく、敵兵たちは両手の自由を奪われて地面へと転がされた。  
 周辺では油断なく死体を調べる陸士たちがおり、そして上空では交代したらしい別の戦闘ヘリが旋回している。  

「こちらエヴァーズマン、ロミオ64応答願います」  
<<こちらロミオ64、感度良好だ>>  
「作戦は成功です。塔周辺を確保しました」  
<<了解した、外務省の連中を向かわせる>>  
「・・・了解」  
<<そう拗ねるな二尉。到着まで現地を死守しろ。昇進おめでとう、オワリ>>  

 一方的に通信は切れた。  


877  名前:  前スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/22(土)  21:19:00  ID:???  

「昇進おめでとうございます二尉殿」  

 三曹が声をかける。  
 だが、佐藤の表情は優れない。  
 生前贈与かなにかだな。  
 表情を曇らせたまま彼は考えた。  
 彼の父親はかつて、陸上自衛隊の一等陸佐を務めていた。  
 その交友関係は広く上に横に左に下にと、階級、所属を問わなかった。  
 そんな彼の父親は、一等陸佐昇進と共に陸上自衛隊の戦闘能力向上を最優先に考えた装備計画を実行させた。    
 戦車よりもその予備部品を、新型小銃よりも89式の改善を、新たな装備よりも継戦能力の向上を最優先させたのだ。  
 新型戦車開発は一時凍結され、いつの間にか財務省や官邸からの支援を取り付けつつ、彼の父はそれを続行した。  
 普通科に個人用通信機や暗視装置が配備され、それ以外の兵科にも恩恵が与えられた。弾薬庫や補給処は大いに拡張された。  
 弾薬の備蓄が増え、そこに大量の予備部品も詰まれた。  
 各駐屯地は施設が更新され、戦闘能力は新型兵器の採用を行った場合よりも遥かに向上した。  
   
「あんな大暴れをした親父の息子が」  

 小声で佐藤は呟く。  
 そんな大暴れをした彼の父親は、成果と引き換えに自衛隊を去ることとなった。  
 あまりにも横紙破りをやりすぎ、その影響力を恐れた当時の上層部によって半ば強制的に退役させられたのだ。  
 その事態を予期し、そして全く反省しなかった父親は、その後はとある建設会社を開き、陣地を作りやすい国土開発という事業を開始した。  
 息子である彼は、気がすまない上層部のせめてもの嫌がらせとしてこんな目にあわされているのだ。  
 彼はそう考えている。  


878  名前:  前スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/22(土)  21:22:48  ID:???  

「しかし昇進は事実です二尉殿。  
 それで、どうしますか?」  
「どうもこうもない、捕虜をあの塔から離せ。戦闘が始まった場合には邪魔になる。  
 外務省の連中が交渉のためにここに来るらしい。  
 半分は大休止、食事や喫煙も許可する。  
 残りは周辺警戒に当てろ。交代が終わったら死体を片付ける。  
 君も休め」  
「了解・・・しました」  

 先に死体を埋葬するのが優先ではないか?という疑問を押し殺し、三曹は部下たちに命令を伝えた。  
 確かに、ほぼ休み無しでここまできたのだ。  
 少しは休憩を取らないと体が持たない。    
 三曹は瓦礫に座り、戦闘糧食を手にした。  

「とはいえ、なぁ」  

 惨殺死体と泣き喚く捕虜、そして焼け爛れた瓦礫に囲まれて休め、といわれても困る。  
 しかし、何かが麻痺したらしい陸士たちは、次々に休憩を開始する。  
 何人かが嘔吐しているという事実が、まだ自分たちが理性を失っていない証拠なのかな?  
 そう思いつつ、三曹は普通に食事を開始している自分に驚いた。  





42  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/23(日)  15:07:39  ID:???  

西暦2020年1月16日  09:00  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一基地西方69km地点  

「遠路はるばるご苦労様です」  

 未だ死臭の残る広場に、護衛に囲まれた外務省の人間たちが到着する。  
 死体こそ残っていないが、周知に散らばる血痕が、そこで何があったかを知らせている。  

「いやいやどうも、相手は塔の中ですか?」  

 このような場所でもスーツを着こなしている鈴木が尋ねる。  
 どうやったのかは知らないが、そのYシャツにはきちんと糊が利いている。  

「そのようです。今のところ表に出てくる様子はありません。  
 連合王国の捕虜はこちらです」  
「ああ、それは別にどうでもいいですよ。それでは早速交渉を始めますか」  

 座り込んだ捕虜たちには欠片も興味を示さずに、鈴木は塔へと足を進めた。  
 基地からやってきた護衛たちがその後ろに続き、一同は頭上に注意を払いつつ進んでいく。  

「三曹」  
「はっ」  
「攻撃の準備を整えろ」  
「はっ?」  

 不思議そうに三曹が上官の顔を見る。  
 佐藤は、戦闘中と同じ表情を浮かべて装填を確認していた。  

「友好関係を結びたいというのはこちら側の話だ。  
 向こうもそのつもりだと誰が決めた?いいから準備を整えろ。何事もなければ良い訓練になったで終わる」  
「はっ、了解しました」  


43  名前:  前スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/23(日)  15:11:16  ID:???  

 佐藤の命令はすぐさま全員に達せられ、彼の小隊は遮蔽物の陰や開口部を狙える場所に展開した。  
 それに気づかない護衛部隊ではなかったが、彼らには交渉終了まで鈴木を護らなければならないという任務があるため、自由な行動は出来ない。  
 未だ実戦経験はないとはいえ、この護衛部隊を率いている二尉も状況は理解できていた。  
 向こうから停戦交渉を持ちかけてきたわけではないのだ。  
   
「先方から見れば正体不明の武装集団、か。攻撃されないといいのですが」  
「す、鈴木さん、本当に大丈夫なのでしょうか?」  
「御国のためです、諦めて歩きなさい」  
「は、はぁ」  

 鈴木が縁起でもない事を漏らし、そしてその言葉に通訳たちが怯える。  
 それを横目に見つつ、護衛の一同は一同で、静かに戦闘準備を整えていく。  

「吉田二曹」  
「はい」  
「全員装填して安全装置を掛けろ。  
 いざという時は外の連中と合同で逃げるぞ」  
「わかりました」  

 小声で命令が伝えられ、護衛部隊は戦闘態勢を整えた。  

「横山さん、拡声器を貸してください」  
「どうぞ」  
   
 それを知ってか知らずか、鈴木は部下から拡声器を受け取り、塔の上を見た。  


44  名前:  前スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/23(日)  15:13:38  ID:???  

ノービス王国暦139年豊潤の月六日  忘れられた村  護民の塔屋上  

「動けるものはあとどれくらいだ?」  
「魔術師は全滅ですね。あと数日は休ませないと誰も動けません」  
「そうか」  

 へたり込んだ魔術師を眺めつつ、族長が答える。  

「弓兵は?」  
「矢がありません。これはどうしようもありませんね。  
 石材を投下するくらいしかないですね」  
「うーむ、食料も無いしな。それで、下の連中は何者なんだ?」  

 眼下を見下ろし、瞬く間に連合王国を蹴散らした謎の軍勢を見る。  
 こちらの攻撃を恐れているのか、その大半は瓦礫の影に隠れている。  

「あの慎重さが厄介だな。ん?」  

 族長の視界の中で、謎の軍勢の一団が塔へと歩み寄ってくる。  
 警戒している様子だが、こちらに攻撃を加えるつもりは無いようだ。  
 と、その一団の中から身なりのよい男が歩み出て、こちらを見上げる。  

「あーあー本日は晴天なり。  
 私たちは日本国外務省の人間です。  
 ダークエルフならびにドワーフの皆様、聞こえますでしょうか?  
 聞こえるようでしたら何か反応をお願いします」  


45  名前:  前スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/23(日)  15:18:57  ID:???  

 突然、凄まじい大音量が周囲に響き渡った。  
   
「なっ、なんだ!?あの男が喋っているのか!?」  
「族長!どうしますか!?」  

 慌てふためいたダークエルフたちが剣を手に尋ねる。  
 日ごろは沈着冷静をモットーとしている彼らだが、さすがに昨日は休まず戦闘を行っていたために精神力が限界に達しているのだ。  

「どうするね?」  

 傍らにやってきたドワーフの族長が尋ねる。  
 豊富な知識と優れた身体能力によって、昨夜は石材をひたすら取り外しては下へと投げ続けた彼らも、当然ながら疲れきっている。  

「やれといわれればもう少しは粘れるが、それでおしまいだぞ」  
「わかっていますよ。とりあえずは交渉するつもりです。向こうの要求から聞かないと。  
 誰か!青旗を持て!」  

 万国に通じる軍使・降伏の印を部下に持たせつつ、族長は先ほどの男の方へと歩き出した。  

「あちらさんが、そのつもりだといいのだがな」  

 そんな族長の耳に、ドワーフ族長の呟きが聞こえた。  


46  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/23(日)  15:23:41  ID:???  

西暦2020年1月16日  09:00  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一基地西方69km地点  

「聞こえますかー!  
 私たちは話し合いをしたいと考えています。  
 どうか代表者の方は応答をお願いしますー!」  

 拡声器片手に鈴木は呼びかけを続けていた。  
 周囲ではいよいよ戦闘態勢を隠さなくなった護衛部隊と、完全に怯えきった通訳たちがいる。  
   
「こちらはダークエルフ族長である!  
 我々は対話を望んでいる!代表と護衛三名の入場を許す!  
 同意するのならば他の者は塔から離れてもらいたい!!」  

 頭上から応答が帰ってきた。  
 まあ一人で入ってこいと言われないだけましかな。  
 などと思いつつ鈴木は通訳と護衛部隊に下がるように命じる。  

「しかし、それでは貴方の安全が守れません」  

 というもっともな反論も無く、護衛部隊は年配の陸曹と二人の一士を残して後退した。  

「やれやれ、もう少し心配してくれてもいいでしょうに」  

 苦笑しつつ鈴木は呟き、そして扉へと歩み寄った。  
 さすがに上から丸見えなだけあり、部隊の後退を確認すると、昨日は硬く閉ざされていた扉はあっさりと開いた。  
   
「さてそれでは、早速中へと入りましょう」  



47  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/23(日)  15:34:41  ID:???  

 塔の内部には、昨日の虐殺から避難してきたらしい難民たちがいた。  
 当然といえば当然だが、その大半は女性と子供だ、あとは負傷者である。  

「だいぶ追い詰められているようですね」  
「そうですね、兵士以外で若い男がほとんどいません」  

 前後を美形か2Dの兵士に挟まれつつ、一同は上階目指して移動していた。  
 そのまま屋上へと通され、彼らはとりあえず運び出してきたらしい椅子へと座らされた。  

「私がダークエルフ族長、シルフィーヌだ。  
 こちらはドワーフ族長、ドミトリー」  
「日本国外務省の鈴木と申します。  
 後ろの三人は護衛です。  
 さて、本日私たちがこちらに伺った理由ですが、なに、簡単な事です」  
「資源と引き換えに、生命の保証。といった所だな?」  

 シルフィーヌに先手を打たれ、鈴木は一瞬唖然とした。  
 だが、次の瞬間には愉快そうな笑みを浮かべて肯定した。  


48  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/23(日)  15:46:24  ID:???  

「ええ、ええ、まさにその通りです。  
 恐らく連合王国の方々とも同じような条約を結んでいたのでしょうが、我々のはそれよりも好条件であるとお約束しますよ」  
「対価の支払い、護衛部隊の駐屯、不可侵条約の締結、食料その他の供給?」  

 淡々とシルフィーヌは鈴木の手札を言った。  

「まあそんなところですな。それでどうでしょうか?」  
「対価の支払いは質を理由に安く買い叩く事ができる。  
 護衛部隊は本国の命令一つで虐殺部隊へいつでも変えられる。  
 食料その他の供給は、我々に首輪をつけるための方法とも取れる」  

 見事に考えていた事を言い当てられたが、鈴木は愉快そうな笑みを崩さなかった。    

「いやはや、頭の回転の速い方との会話はあれこれと説明する手間が出来て面倒ですな。  
 ならばどうでしょうか?私たちの開拓民を受け入れてください。  
 人質、というわけではありませんが、それならば皆さんとしても悩みは減るのでは?」  



49  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/23(日)  15:49:25  ID:???  

 自国民を人質にさせる?  
 シルフィーユは鈴木の考えが読めなくなった。  
 この世界では国民の定義が決まっている。  
 三代以上昔からの自国民である一等市民、難民が市民権を得た二等市民、奴隷として連れて来られたが、有能なために労働者として登録されている三等市民  
 そしてそれ以下の奴隷やただの難民が下等市民と分類されている。  
 下等市民をわざわざ送り込んでくる事はないだろうから、恐らくは管理をする一等市民とその配下の二等市民、働くための三等市民。  
 それをこちらに送り込んでくる?  

「それを理由に、護衛が増えるというのではないだろうな?」  
「お望みとあれば、護衛部隊は必要最小限に留めますよ?」  
「なるほど・・・・よかろう。ドミトリーはどうか?」  

 会談中、沈黙を保っていたドワーフ族長は、無言で肯定した。  
 その視線は護衛の三人に向けられている。  

「それはよかった!では早速条約締結と行きましょう。こちらの証文にサインをよろしいですかな?」  

 万年筆と書類を取り出し、嬉しそうに鈴木が言う。  
 キャップと苦戦しつつ二人がそこに署名し、会談は大した混乱も無く終了した。  


50  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/23(日)  16:03:17  ID:???  

西暦2020年1月16日  13:00  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一分遣隊駐屯地  

「それでは後はお願いしますよ佐藤二尉さん」  

 笑顔で手を振りつつ鈴木がヘリに乗り込み、彼と外務省の一団は基地へと帰還していった。  
 それを見送る佐藤たちは、安全な基地から離れた場所に置いていかれたショックを隠しきれない様子である。  

「二尉殿」  
「諦めろ三曹。防御計画を練るぞ。衛生はあちらさんの負傷者の治療だ。  
 直ぐに塹壕と機銃陣地を構築しなければならない。急げ」  
「はあ」  

 当面は目の前の問題だけを考えていたい二尉と、何も考えたくなくなった三曹は、直ぐに仕事に取り掛かった。  
   


51  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/23(日)  16:04:35  ID:???  

 一方の鈴木は、帰還するヘリの中で、通信機相手ににこやかに会話をしていた。  

 ええ、ええ、そうです。はい。  
 佐藤のせがれを置いてきました。  
 はあ、死守命令?  
 なるほど、嫌われているというのは本当だったのですね。  
 違う?まあ自衛隊さんの都合は知りませんからどうでもいいですけど。  
 ええ、それよりも開拓団を急いでください。  
 そうです、護衛も。他の省庁とは話がついています。  
 既に計画は実働しているんです、急いでください。はい、では。  

 通信機を切ると、鈴木はようやく笑みを崩して窓の外を見た。  
 眼下に広がる野原を、コンボイが移動している。  
 どうやら地形はある程度把握したらしい。  
 開拓団到着前にはある程度の道路も構築するらしい。  

「さすがは自衛隊さんだな。まぁ精々頑張ってください、私のために」  

 彼を乗せたヘリコプターは第一基地目指して飛行を続けた。      




68  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/25(火)  20:32:10  ID:???  

西暦2020年1月16日  15:00  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一分遣隊駐屯地  

「駐屯地司令殿」  
「今度言ったら撃ち殺すぞ」  
「はっ、二尉殿、報告があります」  
「なんだ?」  

 陸士たちに混ざって塹壕を掘っていた佐藤に三曹が声をかける。  
 ちなみに、二尉なのに一佐並みの仕事を与えられた彼は、感激に身を震わせるどころか、真剣に退役を考えている。  
 なにしろ、当然のことながら仕事量と俸給は比例しないからである。  
   
「高度に政治的な問題に、軍事上必要な事、ねぇ」  

 遥かな昔より、国家が無理を通すために使われてきた言い回しである。  
 それ自体は個人の権利よりも公共の利益を優先する現代国家、そこに属している公務員である以上、異論は無い。  
 だが、公務員であっても、その無理を通される側になるとなれば話は別である。  
   
「まったく、何で俺がこんな事を」  
「二尉殿ー準備が出来たところからMINIMIを据えてもいいでしょうか?」  
「かまわん、弾薬の再分配も急げよ。  
 陣地が完成した班から大休止だ。警戒は怠るなよ」  
「はっ」  


69  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/25(火)  20:32:44  ID:???  

土を掘る音、瓦礫を積み上げる音。  
 銃声と悲鳴ばかりを聞いた昨夜とは違い、彼ら自衛隊員一同は建設的な作業に従事していた。  

「弾薬庫はここにしよう。終わったら再分配だ!急げ!」  

 弾薬箱を持った陸士たちに陸曹が怒鳴っている。  

「よーし、この井戸を流用させてもらおう。水質検査を忘れるな!天幕を張るぞ!」  

 戦闘糧食の詰まった箱や水のタンクを抱えた糧食班が、井戸に近い場所に拠点を建設している。  

「こちら第一分遣隊、定時報告オワリ」  
   
 周囲に瓦礫を積み上げた即席の指揮所では、通信機や周辺監視装置相手に陸曹や陸士たちが悪戦苦闘している。  
 そこから視線を動かし、先方は護民の塔と呼んでいる塔を見る。  
 暗い表情をしたダークエルフやドワーフたちが、家族や戦友たちの亡骸を埋葬しているのが見える。  
 その横に掘られた大きな穴には、昨夜の戦闘で射殺した敵兵たちの死体が投げ込まれ、火葬されている。  
 いや、どちらかというと焼却処分か。  


70  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/25(火)  20:34:17  ID:???  

「二尉殿」  
「ん?」  

 振り向くと、不機嫌な表情の三曹が立っていた。  

「なんだ?」  
「ですから、どうされますか?」  
「???」  

 何故こいつは上官相手に意味のわからない事を言って怒っているん・・・!!??  

「うん、すまん、なんだったかな?」  
「ですから、作業の終わった班から大休止を取らせます」  
「あ、ああ、かまわん。やってくれ」  
「了解しました。できれば二尉殿も少し仮眠を取られては?」  
「うーむ、そうだな、そうしよう。あとは君に任せていいかな?」  
「はい。それでは向こうの天幕へどうぞ」  
「うん、わかった」  

 いやはや、昨夜の緊急出動から戦闘終了後の今まで、考えてみれば休みらしい休みをまったく取っていなかったな。  
 今のうちに休んでおこう。  
 どうせ基地から輸送部隊がきたら休む暇なんてないんだ。  
 三曹の言葉に甘えて彼が天幕の中で横になった直後、第一基地より派遣された輸送部隊が到着した。  



71  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/25(火)  20:35:31  ID:???  

西暦2020年1月16日  21:30  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一分遣隊駐屯地  

「よーしいいぞー!そのまま!そのまま!!」  

 重機が唸りを上げ、頑丈なコンテナハウスを地上へと設置する。  
 その傍らでは塹壕に並べられたドラム缶から発電機へと燃料を運ぶ陸士たちの姿がある。  
 周囲を暗闇に閉ざされたこの駐屯地では、現在第一基地経由で本土から持ち込まれた様々な機材と人間が活躍していた。  

「災害用コンテナハウス、国家備蓄の燃料、本土の駐屯地から運び出された戦闘糧食の山。  
 どうやら、少なくともここを捨石としてみているわけではないのですね」  

 需品担当の陸曹となにやら打ち合わせをしつつ三曹が呟く。  
 それを聞き流しつつ、佐藤は周囲へと目を向けた。  
 先ほどまではただの焼け爛れた村だったここは、現在無数の建設重機が動き回る一大拠点へと変わろうとしていた。  
 鉄条網が張り巡らされ、コンクリートで作られたトーチカが建設され、鉄骨で作られた監視塔が立っている。  

「なるほど、機材を既に用意していたからこその死守か」  

 夜間だというのに堂々と煙草を吸いつつ佐藤は言った。  
 一日だけ持たせることが出来れば、現代科学文明の粋を集めての一夜城を建設できるってわけか。  
   
「二尉殿。輸送部隊の方がお話があるとの事です」  

 照明機材に照らし出された駐屯地の中を、恰幅の良い男性が歩いてくる。  
 護衛の陸自部隊とは別系統の、今回の任務のために外務省が雇った男らしい。  



73  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/25(火)  20:37:01  ID:???  

「やぁどうも二尉さん」  
「どうも」  

 煙草を加えたまま軽く敬礼する。  
 礼は失しているが、あいにくと起床時間が24時間を突破した彼にとって礼儀など守るに値する存在ではなかった。  
 幸運な事に、先方はそこまで礼儀に煩い人間ではなかったらしい。  
 疲れ果てた佐藤に苦笑しつつ、敬礼らしいものを返す。  

「大分お疲れのようですね」  
「ええ、何しろ24時間戦っていますから」  
「それは大変ですな」  

 監督と呼ばれている彼は、周囲を見た。  

「工事はあらかた終わりました。明日コンクリの壁を作って終わりです」  
「コンクリの壁?」  
「敵は戦車や戦闘機じゃなくて剣と弓なんでしょう?  
 ならば視界を確保できるフェンスよりも、矢を通さない遮蔽物として使えるコンクリの壁の方が使えるだろうと鈴木さんが言ってまして」  

 確かに一理ある。  
 敵が迫撃砲や戦闘ヘリ、あるいは重砲で仕掛けてくるならばまだしも、せいぜい使ってくる投射兵器は弓矢と魔法程度。  
 ならばフェンスよりも頑丈なコンクリートの壁を設置し、監視塔と周辺の天蓋付きトーチカの方が有効である。  
 あの鈴木とか言う外務省の男、底は知れないが、少なくとも有能ではあるらしい。  


74  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/25(火)  20:38:04  ID:???  

「ちょっと!困ります!!!」  

 佐藤が感心した直後、重機を止めている場所から抗議の声が上がった。  
 何事かと視線を向けると、限りなく2Dに近い体型のドワーフたちが、整備中の重機へと群がっていた。  

「なんだなんだ、何事だ?」  

 監督と共に駆け出し、作業員たちの傍らで尋ねる。  

「ああ監督と二尉さん。この人たちが」  
「あんたがこの人たちの長かね?」  

 髭で顔面を覆われた男が尋ねる。  
 確かこれは、ドワーフ族の族長だったな。  

「こんばんわドミトリー殿、どういったご用件でしょうか?」  

 脳内で命令を復唱する。  



75  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/25(火)  20:39:45  ID:???  

 佐藤二等陸尉。君が率いる事になる第一分遣隊は、軍事上の都合から、いかなる事態においても現在位置の死守を命じる。  
 また、これは高度に政治的な理由のために詳細は話せないが、現地住民とは可能な限り良好な関係を保ち続ける事。  
 なお、技術情報の流出に関しては最大限の注意を払う事。  
 我が国の場所、自衛隊の組織構成、一般的な知識。  
 どんな些細な事も流出は許可できない。  
 治療も食糧の配給も、全ては君とその指揮下の人間で行う事。  
 戦闘も、我が方の兵器を使用する場合には、残存兵力に関わらず君たちのみで行うように。  
 なお、連合王国相手には君の判断で戦闘を許可する。  
 定置式対人散弾発射装置、対物狙撃銃、航空支援などの使用も一任する。  
 非常時の際には第一基地を呼び出して『グスタフ』を三連呼する事。  
 以上だ。  


76  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/25(火)  20:41:47  ID:???  

 遠まわしに死ねと言われている気もするが、二尉に与えられるようなレベルではない権限、かなりの支援。  
 それを考えると、ただ単に死んでこいと言うわけではなさそうだ。  

「・・・あんた、聞いているのか?」  
「えっ?ああ、なんでしょうか?」  

 慌てて尋ね返した佐藤に、ドミトリーは哀れむような視線を向けた。  

「まぁ、酒も無しに長時間起きているのは辛いよな。  
 いやな、簡単な話さ。お前さんらの使っているその機械、ちょいとばかりいじらせてくれんか?」  

 なるほど、そういう事か。  
 人間の数十倍の仕事をする謎の巨大な機械。  
 興味を覚えないはずがないな。  

「大変申し訳ありませんがドミトリーさん。  
 あれは大変に高価なものなのです。  
 万が一にでも壊そうものならば、私の首がいくつあっても足りません。  
 どうかご自重を」  

 嘘は言っていない。  
 建設重機は安くても数百万円はするものだし、民間資産を自身の権限で損壊させようものならば、恐らく自分が腹を切るだけでは足りない。  
 幸いな事に先方も信じてくれたようだし、うん、結果オーライだな。  


78  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/25(火)  21:24:22  ID:???  

ノービス王国暦139年豊潤の月六日  忘れられた村    

「族長」  

 瓦礫に腰掛けたダークエルフ族長に、若いダークエルフの青年が話しかける。  
 彼の背後では、夜の闇を切り裂いて作業を続けるジエータイの姿がある。  

「なんだ?」  
「ジエータイが、我々と共に食事を取りたいそうです。  
 もし口が合えば、是非とも自分たちの料理を味わってもらいたいとも」  
「ジエータイが?」  

 報告する青年の後ろを見る。  
 確かに美味そうな匂いがするし、明らかに人数分より多い席が用意されている。  
 だがなぜだ?  
 彼らは我々の命を救った。  
 我々に圧倒的に有利な条約も結んだ。  
 人質の提供すら申し出た。  
 少ないながらも護衛も出した。  
 何が目的なんだ?  
 どうして初対面の相手にそこまで下手に出る?  
 向こうがその気になれば、恐らく我々はなすすべもなく皆殺しになるだろうに。  


79  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/25(火)  21:26:20  ID:???  

「代償には何を求めている?」  
「何も」  
「何も?」  
「はい」  

 青年は何の疑いもない表情で答えた。  
 恐らく彼は腹が減っているのだろう。  
 シルフィーヌは青年を哀れんだ。  
 かつては人族やドワーフと共にエルフと世界の覇権を争った我々ダークエルフが、今では目先の食事に釣られて思考が働かなくなるとは。  
 だが。  
 同時に彼女は考えた。  
 実は彼らも困っていたとすると、どうだろうか?  
 なりふり構わずに、ひたすらに仲間を求めているような状況だったとすればどうだろうか?  
 例えば強大な敵に迫られている。  
 あるいは、人族の中で孤立していたとしたら?  
 同盟を結ぶには、早急といえる。  
 何しろ我々は、向こうの事を何も知らないのだ。  
   
「全員を護民の塔へと集めろ。  
 自衛隊が我々に食事を振舞うというのならば、まずは向こうからこちらへ出向いて欲しいと伝えろ。  
 あくまでも“お願い”だ。  
 高圧的な態度には出るな」  
「は、はあ。わかりました」  

 釈然としない態度で青年は立ち去った。  

 無理もなかろう。  
 それを見送りつつシルフィーヌは思った。  
 彼は、絶望の一年間を知らないのだ。  



80  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/25(火)  21:28:16  ID:???  

 絶望の一年間。  
 それは百年以上の時を過ごしたダークエルフ以外は記憶にない、辛く、悲しい記憶だった。  
 当時、その考え方から人族およびドワーフとの結びつきが強かったダークエルフは、エルフとの戦争を行っていた。  
 人族の仲間として、ドワーフの戦友として、世界各地で戦っていた。  
 事の発端はエルフからの最後通牒だった。  
 人族との関わりを断ち、ドワーフたちを見捨てよ。  
 自由と森を愛するエルフとして生きろ。  
 さもなくば、滅ぼす。  
 ダークエルフから見れば冗談ではなかった。  
 生きるためには、人族から食料を買わねばならなかった。  
 生活するためには、ドワーフから鉄を石材を木材を買わねばならなかった。  
 森を捨て、人族と、ドワーフと暮らす事を選んだダークエルフには、それしか道がなかったのだ。  
 だから彼らは反発した。  
 反発は武力衝突へとつながり、戦争へと発展した。  
 ダークエルフには商売相手としての人族が、共に肩を並べる仲間としてドワーフがいた。  
 当時は誰もが勝てると考えていた。  


81  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/25(火)  21:29:51  ID:???  

 しかし、エルフは狡猾だった。  
 自分たちだけでは勝てないと悟ると、すぐさま自由と正義を愛する、人族至上主義の国家と手を結んだのだ。  
 彼らは大陸一つをまとめる強大な帝国だった。  
 意見の多様性を、文化の違いを、相手の立場を理解できない帝国だった。  
 彼らはエルフと共同し、弱小国を、そして強国を、次々と仲間に引き入れ、エルフ族と共に戦場に現れた。  
 ダークエルフは邪悪な、そして愚かなサルに過ぎないと決め付け、滅ぼされなければならない存在だと決定した。  
 いかなる抵抗も無意味だった。  
 やがて、人族の仲間たちは一人、一部隊、一部族、一国という単位で次々と敵に回った。  
 ドワーフたちは、生存を条件に停戦した。  
 そして、気がついたとき、ダークエルフは一人だった。  
 世界中を相手に、魔法で、己の肉体で戦いを挑み、そして敗北した。  
 村が焼かれ、街が滅ぼされ、国が消えた。  
 あとに残ったのは、かつての敵国の機嫌をうかがいつつ、エルフよりは商売のしやすい精霊族としての道しかなかった。  
 それから百年以上、とうとう人族は、ダークエルフを奴隷としてしか見ないようになった。  
 昨夜の戦闘、あそこで滅ぶしかなかった。  
 唯一利用価値を見出していた連合王国以外、ダークエルフの生存を許す存在など、世界中を見回してもなかったからだ。  


82  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/25(火)  21:32:20  ID:???  

 そこに現れた救いの手。  
 連合王国を蹴散らし、ダークエルフという種としてみてくれた『ニホンコク』  
 だが、油断してはいけない。  
 彼らとて、それ以上に利益となる事を見つけたら、笑顔で自分たちを殺すだろう。  
 百年前はそうだったのだ。  
 なにしろ、最初にダークエルフの国に攻め込んだのは、最初に国交を結んだ連合王国(当時のノービス王国)だったのだから。  
 昨夜は助けてくれた。  
 その恩は一生忘れない。  
 だが、明日もそうとは決まっていないのだ。  
 だからこそ、シルフィーヌは相手を食事に呼んだ。  
 私一人が死ぬのはいい。  
 もう絶望には慣れた。  
 だが、仲間たちには、子供たちには、どうせ死ぬのならば、絶望を感じつつ嬲り殺されるよりも、誇らしく戦って死んで欲しかった。  
 簡単に信用してはいけない。  
 簡単に仲間だと思ってはいけない。  
 この世で本当に信用が置けるものなど、同族以外にはありえないのだ。  
 来るなら来い、塔ごと消し飛んで、ダークエルフの誇りを見せてやる。  


83  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/25(火)  21:33:12  ID:???  

「ああ、食事はここでよろしいのでしょうか?」  
「え?」  

 暗い表情で考え込んでいた彼女は、不意にかけられた声に間抜けな声を出した。  
 目の前には、案内役を勤めた青年と、不思議そうな表情を浮かべた男が立っていた。  
 ニイと呼ばれている、疲れきった男だ。  
 必死に笑みを浮かべようとしている姿も哀れさを感じる。  
 その隣には、苦笑したカントクと呼ばれる男もいる。  
   
「そちらの方から、一緒に食事をしたいと言われまして。  
 いやはや、いきなり呼びつけるという失礼をしてしまって申し訳ありません」  

 疲れ切った表情のまま詫びられる。  
 詫びられる、など、何十年ぶりだろう。  
 ドワーフのドミトリーたちとあった時以来であることは確かだ。  

「い、いや、こちらこそ誘いを断ってしまい、申し訳ない。  
 詳しくは塔の中で話そう。  
 そちらの部下の人たちも一緒にどうか?」  

 ニイの後ろにいる男女に声をかける。  

「ニイ殿?」  
「折角のお誘いだぞサンソー。私は美人の誘いを断るような訓練は受けていない。  
 君も、上官の命令を断るような訓練は受けていないな?」  
「はぁ、そこのイッシ三人、ニイ殿といs」  
「「「了解致しましたサンソー殿。自分たちは上官殿と一緒に地獄の果てまでお供致します!!!」」」  

 シルフィーヌは一つだけ忘れていた。  
 若い男というのは、美人のためならば多少の無理は承知で従う存在なのだ。  
 そして、混血を続けたダークエルフは、元々がエルフというだけあり、かなりの美形ぞろいだったのだ。  






124  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/30(日)  20:24:17  ID:???  

西暦2020年1月16日  22:00  ゴルソン大陸  第一共同入植地区  護民の塔最上階    

「まあお口に合うといいのですが。  
 できればこんな戦闘食ではなくて、きちんとした食事をしたいところなのですが・・・まあ、次回にご期待下さい」  

 苦笑しつつ佐藤が最初に食事を始め、そこに部下たちが続く。  
 その様子を見ていたシルフィーヌたちダークエルフがようやくの事食事を開始する。  

「それで、このような景色の良い場所に我々をお招きいただいた理由は何なのでしょうか?  
 気分を変えて、という事ではないというのは理解できているのですが?」  

 武器を構えないにしても、決して手放さずに立っているダークエルフたちを見つつ佐藤が尋ねる。  
 いくら自動小銃や拳銃で武装しているとはいえ、至近距離では全員が無傷というわけにはいかない。  
 それを理解した上で、彼らはここへ来ていたのだ。  
 その用心深さに呆れたか納得したかは知らないが、シルフィーヌは軽く息を吐きつつ答えた。  

「ええ、ご察しの通りよ。  
 私たちは貴方たちを完全に信用したわけではない、という事」  
「それは理解しています。  
 いきなり現れた相手が今日から仲良くしようと言っても、心の底から信用するとは私も思いません」  
「それをわかった上でここへ?」  

 食事の手を止め、シルフィーヌは目の前のサトーニイという男を見た。  
 知る限り丸一日働き続け、疲れている。  
 その部下たちも同様のはずである。  
 腹も減っているはずだ。  
 実際に、話しつつも手は止まっていない。  
 だが、その気配はただの人間ではない。  
 周囲の様子を探り、いつでも対応できるように構えている、強いて言えば、狩人のような気配だ。  


125  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/30(日)  20:26:42  ID:???  

「我々は確かにあなた方と友好的な関係を結びたいと考えています。  
 それは私たち現場も、上の方もそのはずです。  
 ですが、こっちがそう思っているから相手もそうだ。と思い込むほど頭は悪くないつもりです」  

 ちっとも美味しくないインスタントコーヒーを飲みつつ佐藤は続けた。  

「しかしながら、そちらがご存知かどうかは知りませんが、私たちはあなた方の力を借りたいと考えています。  
 一つの国だけでいつまでも繁栄し続けられるわけはないからです。  
 良き隣人として、対等のパートナーとして、いたいと考えているからこそ、我々はこうしてここに派遣されてきた。  
 今回の会食は、そうしたこちらの意図を理解していただきたいためのものです」  

 許可も求めずに煙草を取り出し、手早く火をつける。  

「まぁ、こちらとしてはそうした次第なので、できれば覚えておいてください。  
 さて、申し訳ありませんが、本日はそろそろ寝たいと考えているので失礼してもよろしいでしょうか?」  
「あ、ああ、呼び出してしまって申し訳ない。  
 下まで案内させよう」  
「いえいえお気遣いなく。全員戻るぞ。ゴミを回収しろ」  

 煙草を加えたまま佐藤は立ち上がり、陸士たちは慌てて食事のゴミを回収した。  

「では、本日はこれにて」  

 最後に一同揃って敬礼をし、佐藤たちは護民の塔を後にした。  


126  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/30(日)  20:27:57  ID:???  

ノービス王国暦139年豊潤の月六日  忘れられた村  護民の塔  ダークエルフ族長の部屋  

「良き隣人として、対等のパートナーとして、か」  

 薄暗い部屋の中で、シルフィーヌは呟いた。  
 壁にかけられた風景画を見る。  
 かつて存在したダークエルフの国がそこにあった。  
 人間とドワーフとダークエルフが暮らした理想郷。  
 確かにエルフと折り合いは悪かったが、それぞれの種族の特長を生かしたその国は、小さいながらも全ての面で一流だった。  
 ダークエルフが精霊の声を聞き、ドワーフが鉱物を見つけ出した。  
 人間は、それらをうまく使って畑を作り、商品を作り出し、そして国を富ませた。  
 もう失われた、過去の風景がそこにあった。  

「絶望の一年で失われた全てを、取り戻せるとでもいうのか?」  

 疲れ切ったあの男を思い出す。  
 サトーニイ。  
 変わった名前である。  
 語尾や作法から見ると、良い育ちではないだろう。  
 しかし、そこから見えてくる人となりは、決して悪人には思えなかった。  
 人族にしては精霊に好かれているという事実もそれを肯定する。  


127  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/30(日)  20:29:00  ID:???  

「ニホンコク」  

 呟いた名前は、やはり記憶にない。  
 黒い髪に黒い瞳、やや黄色い肌。  
 恐らくは人族なのだろうが、聞いた事がない国だ。  
 しかし、彼らの持つ武器は強力だ。  
 持っている道具は凄まじい能力を持っている。  
 そして、恐らくは名門のではないであろうサトーニイが指揮官になれるという、ある程度は平等である社会。  
 そのような国と同盟を結べれば、ダークエルフもドワーフも、豊かな暮らしが出来るようになる。  

「しかし、彼らが連合王国と結べば、あのサトーニイも」  

 そう、恐らくサトーニイは、いつもどおりの疲れた様子で皆殺しを命じるだろう。  
 また絶望を味わうのは絶対に嫌だ。  
 死ぬのもやはり嫌だ。  
 彼らを信じるべきなのだろうか?  
 あの夜。  
 滅亡を確信したあの時、彼らは我々を助けてくれた。  
 そこにいるのが何者かは知らなかっただろうが、少なくとも助けてくれた。  
 その後、彼らは食事をくれた。水をくれた。治療をしてくれた。  
 一緒に暮らそうと言い、護衛を与えてくれた。  
 彼らを信じてみてもいいのではないか?  
 確かに裏切られるのは恐ろしい。次は逃げる間もなく滅ぼされるだろう。  
 だが、彼らを信じてみてもいいのではないのか?  
 疲れているが悪人ではなさそうなサトーニイ、そして、ニホンコク。  
 彼らの与えてくれる未来を、信じてもいいのではないか?  


128  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/30(日)  20:31:08  ID:???  

「母上?」  

 不意に娘の声がした。  
 かなり考え込んでいたらしい。  
 顔を上げると、いつの間にか部屋に入っていたらしい愛娘が、不安そうな表情でこちらを見ている。  

「どうしたの?」  
「いえ、部屋に戻ったら、母上がいつになく深刻そうな表情をしていたので・・・  
 まさか!あのサトーニイが何か無礼を!?」  
「してないわよ」  

 いきり立って剣を抜こうとする愛娘を、苦笑しつつ押し留める。  
   
「何もないわよ。というかあなた、部屋の中で剣を振り回すのは戦う時だけになさい。  
 装飾物だってただじゃないのよ?」  
「し、しかし母上。ならば何故、そんなに深刻そうな顔を?」  
「彼らとの同盟についてね」  

 シルフィーヌの答えを聞いた愛娘は、不思議そうな表情を浮かべた。  


129  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/30(日)  20:33:56  ID:???  

「同盟って、母上はもう書類にサインをしたのでしょう?  
 何か不備でもあったのですか?」  

 愛すべき娘の言葉に、シルフィーヌは絶句した。  
 一瞬言葉を失い、そして次の瞬間、彼女は久方ぶりに大声で笑い始めた。  

「あっはははは!そうよね!そうだったわよね!!」  
「は、ははうえ?」  

 突然爆笑を始めた母親に、恐る恐る彼女は尋ねた。  
 だが、ダークエルフ族長は、愉快そうに笑うのを止めない。  
 そうだった。そうだったのだ。  
 信じるも何も、自分たちはもう、条約に調印したではないか。  
 あとはもう、なるようにしかならない。  
 ならば、出来るだけ彼らを利用して、そして良き隣人でいるための努力を惜しまない他はないのだ。  
 そう、ニホンコクは既に隣人となっているのだ。  
 あとは、彼らを手放さないように、裏切られないように気をつけるしかないのだ。  


130  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/30(日)  20:41:21  ID:???  

西暦2020年1月16日  22:10  日本本土  防衛省  救国防衛会議  

 政治家が全て消えるという異常事態に、官僚たちは何も出来なかった。  
 確かに国を動かしてきたのは、各省庁の官僚だった。  
 しかし、制度上のトップである大臣と国会議員、そして総理大臣が消えるという異常事態は、彼らの対処能力を超えていたのだ。  
 そしてそれが、現在の状況を生んでいる。  
 国土を取り巻く状況と、国内の把握に努めていた統合幕僚監部は、日本国民の生存と財産を保全するために、救国防衛会議を発足させたのだ。  
 いわゆる軍事政権という物である。  
 とはいえ、民族浄化をするわけでもなく、財産の収奪を行ったわけでもない。  
 ただひたすら、日本国内の状態を破滅させないために動き続けていた。  
 なにしろ、立場に胡坐をかいて贅沢をしようにも、日本国の置かれた立場はそれどころではなかったからである。  
 国民あっての国家、国家あっての軍隊。  
 それを理解している自衛隊首脳部にとって、独裁政権下で短い贅沢を楽しむなどという絵に描いたような悪党の生活は、頼まれてもごめんだった。  



131  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/30(日)  20:43:45  ID:???  

「経済状態は、統制下にあるにしては上出来といえます。  
 しかしながら、海外からの原料の調達が来年度もなかった場合、早くて今年の12月、遅くても2021年の3月には全てが崩壊するでしょう」  
「食料も同様です。JAには日々恐喝に近い形で要求を出し続けています。  
 ですが、収穫は量に関わらず今年の秋ですし、増産はいくら努力を重ねても再来年までは必要量に達しないそうです」  

 貿易立国の日本にとって、海外からの資源・食料の流入ストップは壊滅的な打撃だった。  
 製造に関しては、海外の輸出先が消滅した事により年内は在庫でなんとかなるという報告が出ている。  
 しかし、食料に関しては、我慢すれば死ぬだけであり、腹は満たせても、必要な栄養分を確保できなければやはり死んでしまう。  
 JAは折衝担当の度重なる入院にも負けず、やはり再来年まではどうしようもないの一点張りを続けていた。  

「原因は、自衛隊の活動にあると私は考えています」  

 突然、若い文部科学省のキャリアが立ち上がり、一同を見回しつつ勝手に話を始めた。  



132  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/30(日)  20:45:58  ID:???  

「いわゆる新大陸基地は、まるで日本を見捨てて逃げ出そうとしているかのように物資をかき集めています。  
 聞けば、外務省の一部勢力と組んで、現地勢力との密接な関係を構築しようとしているとか。  
 統幕長、これについてはご存知でしたか?」  

 一同の視線が統幕長に注がれる。  
 だが、彼は苦笑しつつそれに答えた。  

「ご存知でしたよ?  
 自衛隊と名前を変えても軍隊、つまりはお役所ですから、報告書の類は来ておりますとも」  
「ならば!彼らがあそこで何をしているかも知ってるんですね!?」  

 大声で怒鳴るキャリアに対して、統幕長はあくまでも苦笑を浮かべつつそれに答える。  

「ええ、彼らは第一基地で、現地勢力と密接な関係を保ちつつ資源情報の収集に当たっています。  
 より正確には、自衛隊は護衛と建設作業を、外務省と通産省の合同調査団が現地勢力との折衝と情報の収集に当たっています」  
「そこには企業より派遣された文民の一団も参加しているとか。  
 もちろん、大企業のね」  
「ええ、間違いありませんが、何か?」  
「なにかじゃないでしょう!!」  

 突然キャリアは怒鳴り、机を叩いた。  

「大企業、政府の一部のもの、そして軍隊。  
 あなたがたは、戦前の満州国をもう一度作るつもりなんですか!!」  
「そうですが、何か?」  

 あっさりと返してきた統幕長に、キャリアは思わず言葉が返せなかった。  


133  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/30(日)  20:55:45  ID:???  

「我々が生き残るためには、資源を搾取すべき相手が必要なんですよ。  
 資源探査、国交樹立、通商交渉、機材準備、輸送、組み立て、稼動、回収、そして本土への輸送とその製品化。  
 大雑把に言ってもこれだけの手間隙がありますが、それを正規の手順で行っていられるほど、我々には余裕がないのです」  
「余裕がないの一言で周辺諸国に迷惑を」「黙ってくれないかな、君」  

 今にも飛び掛りそうな様子のキャリアに、冷静な一言を浴びせた男がいた。  
 会議室の扉を開けつつ集まった視線に会釈をしたのは、この場での外務省の代表である鈴木である。  

「いやはや、自衛隊のヘリは足が速いですな。  
 到着が遅れてしまい申し訳ありません統幕長」  
「いやなに、鈴木さんにはあちこちに飛んでいただいてますから。  
 報告は受けていますが、改めて皆さんにお伝えしては?」  
「そうですね。その前に」  

 突然笑顔を消し、鈴木は文部科学省の代表を睨んだ。  

「君のように現実を直視できない人間を見たのは久しぶりですよ。  
 文部科学省に入る前にはどこに?  
 今どき、高等教育を受けていない人間だって君よりはよほど優秀だ。  
 どこにいたんですか?」  

 限りなく失礼な言葉を浴びせられた文部科学省の若いキャリアは、顔面をどす黒くして沈黙した。  


134  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/30(日)  21:02:12  ID:???  

「いいですか?君にもわかるように説明してあげるから、その口を閉じているように。  
 我々は、最短で11ヶ月、最長でも15ヶ月程度の時間しかありません。  
 タイムオーバーになれば、日本国は滅亡します。  
 電力の供給が止まり、物流が崩壊し、国内は餓死者で埋まります。  
 北朝鮮よりも惨めな国家になるでしょう。  
 君のその貧相な発想力でも思い浮かぶでしょう?  
 負傷者を、病人を、年長者を見捨て、災害用備蓄食料に群がる人々に対して、それを押さえている連中が武器を持って立ち向かう様子が。  
 そこには自衛隊も警察もありません、追い詰められた人間がいるだけです。  
 そして、食料を握っている連中だって、最終的には農家の人間に頭を下げるか、彼らを武器で奴隷とするしかありません。  
 急激な破壊が起きた場合、19世紀程度まで文明は衰退するでしょう。  
 いや、国内からの資源の供給がない以上、それよりも酷いかもしれない。  
 そうならないために、統幕長閣下も私もあなた以外の人々も、対策を講じているのです。  
 わかったかな?うん、それならば、出来るだけ早くこの部屋から出て行きなさい。  
 来週からは、君以外の人間をよこすように次官には話しておくから。  
 ああ、書類は置いていくように。“部外秘”の内容だからね。  
 じゃあ、ばいばい」  


135  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/30(日)  21:06:10  ID:???  

 あんまりな扱いを受けた若いキャリアは、怒りと屈辱のあまり痙攣したように全身を震わせていた。  
 しかし、統幕長の目配せで屈強な警務隊員たちが彼を取り囲むと、今度は恐怖に目を見開きつつ震え始めた。  

「建物の外まで送ります。立ちなさい」  

 無表情のまま警務隊員が言うと、彼は無言で立ち上がった。  
 そのまま両腕を捕まれ、部屋の外へと連行されようとする。  
 ドアが近づくと恐怖感が限界になったらしく、突然立ち止まって喚き始める。  

「い、いやだ、死にたくない!死にたくない!どこへ連れて行くんだ!やめてくれ!」  
「お静かに」  

 口を押さえられ、半分担がれるように部屋の外へと連れ出される。  
 扉が閉められ、室内は静かになった。  

「建物の外へ追い出すだけなのに、大げさな人ですね」  
「まったくですな、さて、話を戻しましょうか」  
「いやはや、今の時代になってもああいう人っているんですね。  
 前時代的というかなんというか・・・ああ、失礼しました」  

 どうも無駄話が多いのが私の欠点でして、と苦笑しつつ、鈴木は鞄から一枚の航空写真を取り出した。  


136  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/30(日)  21:13:02  ID:???  

「現地では毒の沼地、死の湖などと呼ばれている地域の写真です。どうぞ」  

 一同に書類を配る。  
 一枚目には航空写真が、二枚目には、防護服に身を包んだ人々が、実験装置を液体に浸している写真だ。  
 周囲は土か砂、そして黒い水で埋め尽くされている。  

「二枚目の写真は、現地へ派遣した調査隊がサンプルを回収しているところです。  
 一年中瘴気が吹き出し、水を飲んだ者は死に、水草一本生えないという恐ろしい場所に、彼らは行ってきてくれました。  
 調査の結果、現代科学がこの恐ろしい地域の正体を明かしてくれました。  
 三枚目をどうぞ」  

 一同は言われるままに書類をめくる。  
 よくわからない化学式やフラスコに収められた液体の写真、長ったらしい報告文章が現れる。  

「この地域では地中から液状化した原油と天然ガスが噴出しています。  
 その埋蔵量は今後の調査を待つとして、みなさん、我が国は少なくともエネルギー資源では救われました」  

 一瞬、会議室は沈黙に包まれた。  
 だが、次の瞬間には誰かが拍手をした。  
 数名がそれに続き、やがて会議室の中は拍手と歓声、万歳で埋め尽くされた。  



139  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/31(月)  02:31:58  ID:???  

西暦2020年1月21日  21:00  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一分遣隊駐屯地  

「石油の採掘は進んだのかね?」  
「私に聞かれても困りますよ二尉殿」  

 数日前までは唸りをあげていた建設重機たちは、第一基地とこの駐屯地の中間地点にある毒の沼地へと転進していった。  
 代わりに到着した開拓団も、今ではこの駐屯地に馴染み、急に態度を軟化させたダークエルフたちと仲良くやっている。  
 自治体警察病院消防などなど、ありとあらゆる公的サービスを供給する事になった自衛隊員たちは、忙しくも平和な日々を送っていた。    
 ドワーフと共同して行われている資源調査にて、いくつかの鉄鉱石や石炭の鉱脈を発見されており、それは今や埋蔵量の調査へと進んでいる。  
 連合王国との戦争は上の人間が考えるべき事であり、貼り付けの守備隊となりつつある彼らには影響がなさそうな出来事となっている。  

「ところで三曹、君に質問があるのだが」  
「確か二尉殿も見えるんですよね?」  

 二人の話題は、ここ数日間小隊全員が訴えている事だった。  
 もともと、佐藤はこの世界での初の実戦から『小さな少女』や『可愛いドラゴン』などが見えてしまっている。  
 だが、誰もが信頼の置ける相手に冗談交じりに愚痴る程度であり、それはいいのだが、問題は全員が同じ症例を訴えていることだ。  
 精神疾患にしては症状が回るのが早い。  
 何らかの汚染源がこれを引き起こしているのか?とも考えられたが、衛生の検査を超えて進入してきているのではどうしようもない。  


140  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/31(月)  02:43:43  ID:???  

「二尉殿も、ってことは、とうとう君も?」  
「・・・はい。私の89式、ちっちゃな大和撫子が見えます」  
「奇遇だな、俺の場合は戦闘服を着た少女だ。  
 イージス艦も真っ青の照準能力を持ってる」  
「私にも出来る、そうですよ」  

 89式に腰掛けた少女の訴えを聞いた三曹が答える。  
 筒先からはドラゴンが見える。  

「精霊なのに現代用語が普通に伝わるのが興味深いな。  
 なあ、海や空の連中にもいるのか?」  
<<万物の精霊という言葉の通り、需品には大体宿っています>>  
「なるほどねぇ」  

 この駐屯地に移って以来、とうとう普通に会話できるようにすらなった。  

<<ダークエルフさんたちの能力が関係しているかもしれません。  
   とはいえ、自分の権限ではそこまでしかわかりません>>  

 精霊のくせに自衛官みたいな奴だ。  
 いや、官品だからこいつも自衛官だな。  
 同僚に対して、くせに、っていうのは失礼だな。  

「いざって言う時は頼むぞ」  
<<了解していますよ二尉殿>>  

 その様子を見ながら、三曹は思った。  
 エルフ・ダークエルフ・ドワーフ、それに加えて89式の精霊。  
 望んでいた世界に来たというのに、俺がやることといったら書類仕事に部下の管理、そこに加えて実戦で生き残る事。  
 どうして普段の仕事よりむしろ大変な状態になっているのだ?  
 これじゃあ世界を楽しむことなど不可能じゃないか!  


141  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/31(月)  02:47:40  ID:???  

「三曹?」  
「はっ!なんでしょうか?」  
「だから、警戒を強化しておけ。どうにも嫌な感じがする。  
 なんとも言えないんだが、戦場だと、こういう感は大事にするべきだよな?」  
「了解しました。警戒を強化します。弾薬の分配はどうしますか?」  
「規定の量にしておけ、戦闘時のな」  
「了解しました。直ちに実行します」  

 すぐさま三曹は陸士の群れに向けて突撃していった。  
 おや、あれは坂田陸士長か、あいつはいくつになっても女にちょっかいを出すのがやめられないな。  
 おお、人間って空飛べるんだなぁ。  
 さてさて、俺も仕事をするか。  
 嫌な予感は止まるどころかますます強まっていやがる。  


142  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/31(月)  02:51:25  ID:???  

西暦2020年1月22日  02:03  ゴルソン大陸毒の沼地周辺  石油試掘チーム拠点    

 いくつかの省庁と企業の合同で設けられたこの拠点は、陸上自衛隊の定数を満たした二個小隊によって守られていた。  
 しかし午前二時三分現在、この拠点は指揮系統を潰された四個分隊によって辛うじて生き延びていた。  

「敵はどうか?」  

 頑丈なコンクリート製のトーチカに篭った陸士たちを見回し、年配の三曹が尋ねた。  
 傷一つなく、しかし疲れ切った陸士がそれに答える。  

「第一小隊は指揮所をやられました。  
 西田三尉を含めて小隊指揮所は全滅、自分たちは無傷ですが弾薬がありません」  
「第二小隊も同じだ」  

 苦々しい表情を浮かべた三曹が答える。  
   
「弾薬庫を押さえられたのが痛いな。  
 なんとかならないか?」  
「ダメですね。骨とデブとゾンビは銃弾が効きますが、悪霊はどうしようもありません」  

 この拠点に襲撃をかけてきた敵は四種類。  
 見るからに骨しかない化け物、いわゆるオークとかいうデブな存在。  
 腐った死体という他ないゾンビ、そして、一切の物理的攻撃が通じない悪霊。  


143  名前:  前々スレ909  ◆XRUSzWJDKM  2006/07/31(月)  02:53:28  ID:???  

「武器庫周辺は敵味方の悪霊が入り乱れてどうしようもありません。  
 私らじゃあ近寄るだけで魂を持っていかれます。  
 どの宗派でも構いませんから牧師なり坊さんなり連れてこないと皆殺しにされますよ」  

 悪霊には銃弾は通じない。  
 この事を理解するために、随分多くの人命が失われた。  

「どうする?  
 どうすれば俺たちは生き残れるんだ?  
 死んでも逃げるなと言われた以上、俺たちはどこにも逃げられない。  
 一体どうすればいいんだ?」  
<<聞こえるか?こちら第一基地第一分遣隊、誰でもいいか応答してくれ>>  

 携帯無線機に突然通信が入った。  
 珍しい、民間人も自衛官も含めて無線機を必要とする距離に生存者などいなかったはずだ。  
 何処に生き残りがいたんだ?