940  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/01(木)  01:10:49  ID:???  

「日本異邦戦記」  


平成15年8月22日10時  
シュレジエン方面隊  会議用天幕  

 シュレジエン方面隊総監部の主だった者たちの間に重い空気が漂っていた。  
「装備部の見解ですが、現在の状況に置いて、全力戦闘は2回が限度であると認識しております。まず第一点ですが、燃  
料の輸送及び調達が困難である事です。第二点、銃砲及びその弾薬の補充が厳しい事。これは燃料の調達と関わる事です  
が、輸送するにも燃料を消費するという基本的な現実から避けて通れません。第三点ですが、全隊員に食わせる食料も輸  
送する必要があると言う事です」  
 装備部長のこの発言が、現在の状況を端的に現していた。  


941  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/01(木)  01:13:19  ID:???  

 これが意味するところは、実もふたもない言葉で言うなら、シュレジエン方面隊は弾数を心配しながら戦わざるをえない  
と宣告されたも同然だからだった。  
要は、方面隊は戦う相手を一箇所に纏めての決定的戦闘-いわゆる決戦-をせざるを得ない状況を作り出さなければいけな  
いと言う事で、小規模の連続した戦闘をこなすだけで精一杯となるのが目に見えていた。  
それに戦闘する以前の問題として、隊員たちを食べさせなければならなかった。戦闘するにせよしないにせよ。  
 そして食べさせるにも、本国から輸送せざるを得ず、その輸送にも燃料を使わざるを得ないと言う事であり、そのし  
わ寄せがほかに回ってくると言う簡単な事実がそこにあった。  

 確かに、総監部の面々は現代戦から判断しているのは明らかだったが、人間というものはえてして未来に起こるだろう  
事に想像力を働かせる事のできるものは少ないという見本ではある。  
それも無理からぬ話ではある。誰が中世レベルの戦闘を予測できたというのだろう。  


942  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/01(木)  01:19:31  ID:???  

「燃料か」  
 防衛部の人間がうなる様な声をあげた。  
「しかしながら、本庁でも関係各所に話を通していると思うが」  

 その言葉に後方運用課長が頭を2、3度振った。  
「話を通しているとはいうものの、実際のところどのくらいの量を送ってもらえるかについて、確約されてはいないのです。  
それに希望通りの量が確保できたとしても、こちらの港は燃料を荷揚げするための能力が、我々の感覚でいうならなきに等し  
いものであります。そうして、荷揚げした燃料を輸送する車両にも燃料は必要なのですよ」  

 その言葉はけだし当然と言える発言だった。  
後方運用課長のこの言葉は現在の状況を要約していた。  
「そして、進めば進むほど、兵站がきびしくなると言う事です。この対応についても、早く解決しておかないと危険だと言っ  
ておきます」  



943  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/01(木)  01:20:01  ID:???  

「だが、我々にもたらされる結果は、前に進むのもここに留まるのも同じ結果しかないというのが、どうにもならない現実で  
はある。現状維持ではあるが、当面の方針は敵との接触はできる限り避けつつ、前進するしかないな。それから、可及的速や  
かに地図を作成するように」  

 そう言って福田陸将は方針を指示した事で、一同は実務協議へと議論を移していくのだった。  


944  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/01(木)  01:20:42  ID:???  

同日14時  
東京都  日本  

 先日来より研究が進められていた例の青い鉱物を、液状にした状態のまま維持する方法は既に確立されていたが、燃料とし  
て使えるかどうかはまた別の問題である。  
基礎研究チームの研究結果は、石油代替化研究チームの研究にリンクする事となる。  
 サンプル数が少ないため、研究結果における分母も少なくなる事を意味し、精度が低くなるのだが、致し方なかった。  
くつわ峠を確保してないのだから、当然と言えたが。  

 それでも石油の代わりには、なりそうだという結果が得られる。  
その報告は文部科学省を経由して、内閣にもたらされる事になる。  
結果、防衛庁を通じてシュレジエン方面隊に対し、くつわ峠を確保するようにという命令が下りる事につながったのだった。  



143  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/05(月)  01:41:58  ID:???  

平成15年8月24日10時  
シュレジエン方面隊駐留地  シュレジエン  

 たとえ、前線にあっても非番というものは存在する。  
いな、前線であるがゆえに隊員たちの疲労を少しでも回復するのに非番はなくてはならないものだった。  
 そうはいっても、自衛隊である以上、作戦行動を起こす時などは非番を取り消されるのだが。  
だが作戦行動を起こしていないのなら、非番は必要不可欠だという事である。  

 だから、葛重秋良三等陸尉が外出したのは、非番を与えられたからだった。  
 何をするでもなくまわりの風景をみながら歩いていくと、小高い丘が見えてくる。  
ゆっくりとした傾斜で道が丘まで伸びいているようだった。  
2人分くらいの幅がある道を、葛重三尉は道の両側に生えている草に目をやりつつ登っていくと、丘の向こう側あたりに  
何か人の気配がする。  


144  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/05(月)  01:42:29  ID:???  

 ああ、向こう側には確か竜騎兵の連中がいると聞いたけど。  

 そう思いつつ歩を進めると、三尉の予測が外れる事なく竜とその乗り手たちの姿が見えた。  
おそらく自衛隊側から貸与されたのだろうと思しき天幕が、間隔をあけてだが立ち並んでいる。  
そしてその隙間を埋めるかのように、竜たちの姿やその傍らでは世話をしている乗り手たちの姿もある。  
 そんな情況を視野に入れながら視線を動かすと、その中の一部分に幾人かが集まっているのが視界に入り、そしてその時に、  
その集団の中の一人の顔が横を向いた。  

 その横顔に葛重三尉は見覚えがあった。  
 あれは西原かな?それで彼らが何をしているのか気になり、傍に近寄ろうと向きを変えて歩み寄ると、誰かが近づいてくる  
のに気づいたのだろう、幾人かが三尉に視線を向けた。  


145  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/05(月)  01:43:35  ID:???  

 三尉が想ったとおり、彼の小隊の仲間である西原と小川原の姿が混じっていた。それと少女とおぼしき女性がその中にあった。  
その少女に三尉は見覚えがあった。  
確か、レスティンと言ったかな?どうやら、その娘の方も彼に見覚えがあるらしく、思い出そうとしているような素振りをし  
ている。  

「あ、小隊長。おはようございます」  
 そう言って、軽く辞儀をしたのは小川原武雄の方だった。それにつられるかのように西原も軽く頭を下げてくる。  
挨拶を返した三尉に西原が話しを振った。  

「三尉も竜の見学にこられたんですか?」  
「いや、ただ散歩してたら、君たちの姿が見えたので、近づいただけなんだ」  
「そうですかぁ。てっきり、小隊長も竜を観察するのかと思ったんですが」  
「何が竜の観察だ。お前の場合、竜をダシに女の子に近づこうとしているだけだろう」  
 その言葉に、西原は情けない声を出す。なんでそう考えるんだよ。  
そんな西原の姿に、その場の人間たちが笑いをこぼす。  


146  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/05(月)  01:44:38  ID:???  

「それで何をしているんだ?」  
「今まで竜などと言う存在などありもしなかったですからね、それもあって、竜を間近に見るのとどうやって乗るのかなど聞  
いていたんです」  
「こんな巨体がどうやって浮くのかというのも興味ありますし」  
 小川原の後に続けて西原が言うと、小川原は不審そうに西原をねめつけた。どうせ女の子目当てだろうとでも言いたげであ  
る。  
そんなやり取りの中、三尉の顔を思い出そうと未だに考えている様子の娘に、葛重は声をかけた。  
「よろしく。葛重、葛重秋良だ」  
「あ、わたしはレスティン・ファタルっていいます」  
 レスティンはそう言うと、ぺこりと頭を下げる。  

「で、隊長。竜って、飛ぶときは魔力を使うらしいんですよ!?凄いっす」  
「さっきも聞いたぞ、その言葉」  
 感激したかのような声を出した西原に小川原が冷たくあしらう。  
「冷たいな〜。」  
 ぼりぼりと頭を掻く西原の姿に、レスティンが思わず笑みを顔に浮かべた。  


147  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/05(月)  01:45:11  ID:???  

「魔法って、あなた方は持ってないんですよね?」  
「もっていないな。魔法を信じるものなど子供ぐらいなものだろう」  
 素っ気無くその問いに応じる小川原を見て、三尉は彼らしいなと思う。  
「なあ、レスティンさんも竜に乗ったりするの?」  
「ううん、乗せてもらうのよ」  
「というと、後ろに乗ったりするの?2人乗りってできるもんなのかな?」  
 首を捻って悩む西原をみて、どうやら彼が思い違いをしている事に気づき、かぶりを振って付け加える。  
「わたしがペドラザ――あ、わたしの相棒の竜の名前です――の背に乗せてもらうんです。わたしだけじゃなくて、みんな竜  
の背に乗せてもらうの。他の人が乗ろうとして、振り落とされるぐらいで済むのはましな方。竜たちは操ろうとして操れるも  
のじゃないよ」  
「飼いならす訳じゃないんだ」  
「違うよ、竜は家畜なんかじゃないからね」  
「じゃあなんで、こんなに竜がいるんだろ」  
 西原の疑問は葛重三尉も同じだったし、西原が尋ねるまで王都退却戦の最中でそこまで疑問が浮かばなかったし、疑問に思  
うような余裕がなかったからでもある。  


148  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/05(月)  01:45:59  ID:???  

「竜に出会う人が少なくないからよ。わたしもそうだったから。ある日唐突に出会ったりするの。それでどうしようもなくって、  
軍に入る人が多いわけよ」  
 レスティンはそう言って、その顔に複雑な表情を浮かべる。  
彼女が言うには、竜と出会ったとしても、そうそうウマが合うわけでもないらしく、機嫌が悪ければ無視されるか最悪殺され  
る場合もあるらしかった。  
 竜に、人間たちの倫理観を求める事自体が無意味なのだ。  
竜が自らの背中に乗せるという事は、その人間に対して無条件の信頼と好意をもっているという事らしかった。  
そんな訳だから、自らが好意を寄せる人間の下に近寄るのはいいとして、困るのはそれが町にいたりするときに空から降りて  
くると大変な事になると、レスティンが教えた。  
 だから好きとか嫌いとかではなく、どうしようもないから軍に入るかそれとも人里離れるか、そのどちらかないの。  
 そう言ってレスティンは、乾いた笑みを浮かべる。  
「でも、今ではペドラザとは、互いに何考えてるかわずかだけど、判るから大変じゃなくなったから」  

「なあ、その君の相棒の竜――ペドラザだっけか、合わせてくれないかな」  
 西原がレスティンに拝むように頼むと、彼女は少し笑って快諾した。  




258  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/11(日)  21:14:53  ID:???  

「南洋の朝」  

 ここ南方諸島は、大きくわけて3つの群島からなる。  
南方諸島最北端に位置する須磨環礁があるのは、北群島という。  

 大陸南部の人々からすると南方諸島は田舎と行っても過言ではなく、  
積極的に住みたいとは思わない所だった。  
それにどの国からも見離されている土地でもあった。  

 理由は簡単だった。  
猫の額ほどの広さしかなく――勿論大陸諸国からみた感覚だ――、そ  
れゆえに耕せる場所も少ない土地にどこも見向きしなかった。  




259  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/11(日)  21:25:10  ID:???  

 だから、この島々は単に南方諸島とだけ呼ばれ続けてきたのだった。  

 だが、状況がある日突然一変する出来事がおきる。  
日本アムデス戦役を直接の原因とする、日本の政府機関の進出である。  

 無主の地であるこの南方諸島に進出し、領有してもそれほど困難では  
ないと見られたし、なにより海洋資源の調査及び採取をするためにも、新  
島だけでは心細かったというのもある。  

 また、アムデス戦役は確かに終わったが、実のところ日本はアムデス  
を退けただけで、アムデス本土まで攻めて行ったわけでもなかったから、  
保険の意味でも、また前進防御拠点としても別の場所を必要としたのだ  
った。  


260  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/11(日)  21:36:38  ID:???  

 そして、日本政府の思惑はある程度成功した。  
南方諸島の領有化を行う事ができたのは大きい。  
何より資源調査及び採取拠点として確保できたのだから。  

 だが、ここで大きく躓く事となった。  
実に簡単な事だ。  
まともに港をおける島が1つしかなかったという事だった。  
 そして、港を作るための土木工事を行う為に、本国から  
各種建設機械を持ってこなければならなかったと言う事  
である。  

 ここで何が問題かというと、各種建設機械を持ってこよ  
うにも、まともな港がないため、荷揚げする事ができない  
と言う事だった。  

 大陸では、既に大型船舶の入港ができるぐらいに拡充  
されているのとは全く状況が違うのだった。  


261  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/11(日)  21:45:24  ID:???  

 そこで白羽の矢がたったのが陸上自衛隊施設部隊だった。  
この部隊を海自輸送艦でもって運びこむ事となる。  

 住んでいる人間も限られて島にしかおらず、また文句をいう  
ような人間もいないため、港湾建設に専念できるのはありがた  
いというものだ。  

 難点はというと――実に簡単だった。娯楽がなかった。  
だがら、隊員らは麻雀か釣り、もしくはビデオぐらいと後は、  
定期的に輸送されてくる雑誌や親友や肉親からの手紙を読む  
事しかなかった。  



262  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/11(日)  22:02:28  ID:???  

 そんな苦労をしながらも施設科は、どうにか岸壁を造り上げたのだった。  
岸壁ができれば後は早い。  
国と契約した建設事業者が乗り込んできたのだ。  
施設科は民間と交代する事となった。  

 そんな中で南方庁が新設され、南方諸島に置かれる事となる。  
新設された南方庁に入る事となった職員の構成は、実に日本的といえた。  
各省庁に総理大臣が要求したのは確かだったが、その後はおきまりの省  
庁間の駆け引きによって、人間が南方庁に送り込まれることになる。  

 農林水産省、経済産業省、国交省が積極的に人材を送り込んだのはいい  
だろう。防衛庁が絡んできたのもまあいいだろう。  
なにせ、日本本国からは最も離れた場所にあり、いつ近隣諸国が攻めよう  
とするかもしれないからだ。  
   
 意外だったのは、外務省だった。  
誰もが外務省が積極的に人間を送り込んだ事に首を捻る事になった。  


263  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/11(日)  22:09:00  ID:???  

 しかし、外務省は自分たちの価値観でもって、南方庁に力を入れることに  
したのだった。  
理由は一つ。  
いつ他国からの使節がくるかもしれない。とすれば、それは外務省の管轄  
だろうと。  
そして、よそ者に対して、外交をやらせるはずもない。ならば、そのような可性  
がある南方庁に人間を送り込んだのである。  

 そのような経緯を経ながら、当初の予定どおり南方庁はその本拠を南方諸島  
においたのだった。  





308  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/15(木)  22:53:51  ID:???  

 さて、日本的な情景によって、編組された南方庁に出向する事となった  
職員の家族の為、学校が設立される事とあいなる。  

 学校を作ったなら、今度は教師が必要となり、その教師も日本から遥  
か遠く離れた地へと赴任するから、当然のように妻子もちの教師は、妻  
子とともに赴任する事となる。  
 だから、急造ではあるが唐突に街が出来上がるのは必然だった。  
それがいい事なのか悪い事なのかは別にして、であるが。  

   


309  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/15(木)  23:06:30  ID:???  

 ここで、南方庁教育委員会は日本人的な思考で考えた。  
ここは既に日本なのだし、教育を受けていない人間がいる事自体が、  
おかしいといわざるを得ないと。  
ならば、地元民に教育を受けさせるべきだ。勿論だが地元民の現実な  
ど考えずにである。  

 そして当然のように地元民の反発がおきる。曰く、大事な働き手を奪  
うつもりかと。  

 しかし教育委員会は、その意見にまったく頓着しなかった。  
読み書き計算はできて当たり前だと。でなければ、商売なぞできない。  
そう言い放つ。  



310  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/15(木)  23:24:42  ID:???  

 かくしていつか来た道を教育委員会は辿りつつ、強引にみえるぐらい強力に  
教育普及計画を推進したのだった。  
   

 そしてこういった大人の事情など、学校に通う子弟にとってはあまり意味がな  
い事情である。  

 その学校に通う子弟の中に南方庁に父親の赴任とともに、引っ越してきた子  
供がいる。  

「あ、いっこ〜。おはよー」  
「うん。おはよー」  
 彼女の姿を見つけた同級生が声をかけてきた。  
ゆっこ、と呼ばれたその少女、早瀬樹(いつき)は、返事を返すや、やや小走り  
に彼女に声をかけた同級生の傍による。  

 周囲は彼女らと同じように学校へと通う子弟らの姿があった。彼らもまた学校  
へ通う年齢である。  



341  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/17(土)  23:01:13  ID:???  

「南洋の朝」  

 今日の授業は、2時限より野外観察が組まれていた。  
学年合同授業とでも呼んでいい代物である。  
だから、樹たちの鞄の中身が軽くなっている訳だった。  

 野外観察として学校側が選んだのは、本島から少しばかり離れ  
た島の一つだった。  
野外観察というからには、生物学を初めとする自然科学が中心と  
なる。  

 とは言うものの、まったくの手付かずの島という訳ではなく、既に  
陸自施設科の手によって海岸付近が整備され、海保の手によって  
水測調査がある程度なされており、また水産庁資源管理部及び増  
殖推進部と水産総合研究センターの合同による、南方諸島におけ  
る海洋生物の調査が大雑把ではあるが、行われている。  


342  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/17(土)  23:12:36  ID:???  

 そんな島に樹たちは引率の教諭ともども、フェリーに乗り込んで  
向かったのだった。  
そんな事情だから、ちょっとした遠足気分も混じっているのは否定  
できないが。  

「いっこ、陸地が見えたよ」  
「ほんとだ」  
 友人の声に早瀬らが、島に眼を向けた。  
フェリーが近づくにつれ、陸地が大きく広がっていく。  
視線を上に向けると、緑に囲まれた山の頂が、視覚として飛び込ん  
でくる。  

 それほど、背が高いわけでもなく、どちらかというと中背――とはい  
うもののこの年頃の女子としては、やや背が高いが――である樹は、  
身を乗り出すようにして島をみつめた。  

 船の前方から吹き付ける風が、樹のうなじのあたりで大雑把にまと  
められた髪をなぶるように、吹き抜けていく。  



343  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/17(土)  23:23:42  ID:???  

 フェリーは海岸に近づくにつれゆっくりと速度を落としていった。  
そうして、護岸整備された海岸に近づくとともに更に速度を落として、  
海岸に平行になるように船を付け、その接岸による軽い衝撃が樹  
らに伝わった。  

 フェリーから降ろされた、梯子から陸地へと降り立った、早瀬ら  
は引率の教諭らが取った点呼と、それに続く細々とした注意事項  
をいささかうんざりしながら聞いた後、野外観察を始めたのだった。  

その中で、樹とその友人は山での観察を選択した。  
とは言うものの、道らしい道は全くないと言ってもいいから、当然  
その裾野での植物の観察と採集という事となる。  




344  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/17(土)  23:37:08  ID:???  

 樹ら二人は、植物のスケッチやその状態を書き留めたり、また集めた  
植物を袋に入れていった。  

「これなんか初めてみるね」  
 そう言いながら、二人の距離は離れつつもさりとて遠すぎない程度に  
声が届く範囲で、観察を続けていた時だった。  

 友人の耳に何かが滑り落ちる音と、そしてそれに重なるようにして響い  
た声。  
「いっこ!?ねぇ、いっこ!?」  
 その声に導かれるかのようにして急いで、樹がいたと思われる場所に  
駆け寄ったが、友人の目に飛び込んできたのは、足を滑らせたと思われ  
る跡とそして、土をかぶった樹のスケッチブックと半分に折れた鉛筆だけ  
だった。  


345  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/17(土)  23:50:37  ID:???  

「先生!・・・いっこが、いっこが!」  
 半泣きになりながら友人が教師の元に戻ったとき、なぜ半泣きなのかが判らず、  
落ち着かせて事情を聞きだした。  
 涙声で詰まりながら事情を聞くにつれ、教師は顔を強張らせるとともに、他の教  
師と手短に対応を決め、同僚とともに行方不明になった現場へと急ぐ。  
   
「早瀬!」  
「樹さん!」  
 声を限りに叫んだが、その声は虚しく消えていった。  
樹が足を滑らせたその下は、谷のようになっており、それなりの装備のない彼ら  
ではどうする事もできなかった。  

 彼らにできる事は野外観察を中止して、捜索隊を出してもらう事しかなかった。  

 南方庁に生徒の一人が行方不明になったという連絡が入ったのは午後を過ぎ  
てからだった。  
本島につくやいなや、教師らが学校や警察に対して連絡し、その情報が南方庁  
に回ったのである。  


346  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/17(土)  23:58:49  ID:???  

 だが、警察はとてもではないが、捜索隊を出すような人員のゆとりがなかった。  
第一、谷底に下りられるような装備がなかった。  
 そのため、南方庁は南方諸島に派遣されてきている陸上自衛隊に対して、出  
動要請を行い、ここに消防と陸自との合同捜索が始まる事となった。  

 そうして、樹が行方不明になった場所に彼らが到着したのは、17時をとうに回る  
時間だった。  


347  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/18(日)  00:01:05  ID:???  

今回はここまで。。。  

やっぱり即興で書いたから、句読点を打つ場所がおかしかったりするなぁ。。。  

さて、次で完結できるかなぁ?  
それが問題だorz  



390  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/25(日)  01:17:20  ID:???  

「南洋の朝」  


 どのくらい気を失っていたのだろうか。  
きわめてゆっくりではあったが、早瀬樹は腕をうごかして、まぶたをこすった。  
のろのろと目を開けた樹は、ここがどこなのかすぐには判らず、ぼんやりと一  
体どうしたのかと考える。  

 樹の視界に飛び込んできたのは、緑色とこげ茶色が複雑に絡み合いなが  
ら重なり合っていた。  
目に飛び込んできたそれらは、有体に言えば植物だった。  
樹は体を起こそうとしたのだが、痛みが走り、思わぬ痛みで顔を歪めてしまう。  
だが、動かせないような痛みではない。  

 痛みに顔をしかめつつ、体についた落ち葉や土を払いながら、ようよう落ちる  
瞬間の事を思い出した。  
 ・・・・・・そう言えば、写生しながら動いてるうちに、落ちたんだっけ。  
 そうして、樹は自分が落ちてきたのではないかと思われる場所に視線を向け  
る。  


391  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/25(日)  01:30:41  ID:???  

 そして、見上げた瞬間に、諦めの混じった息を吐き出した。  
どのあたりから落ちたのか判らないぐらいに、山と崖が折り重なっていたのだ。  
 どうすればいいのか、樹にはさっぱり判らず、困惑せざるを得なかった。  
なにせ、樹は今まで、山登りなどした事がなかったのだから、当然といえば当  
然だった。  

 だから、沢に下りるのではなく尾根に登れば言いという事に思い至るはずもな  
く、樹は諦めと痛みとそして落ちたショックによる困惑で頭がいっぱいだったか  
ら、樹からして歩きやすい方に足を向けたのだった。  

 そうこうするうちに、ゆっくりとではあるが、それまで短かった影が伸び始めて  
くる。  
ふと、空を見上げると、太陽がゆっくりと西に向かって傾き始めていたのだった。  






392  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/06/25(日)  01:47:44  ID:???  

 困惑と絶望感を背負って歩く事ほど、疲れやすくそして歩く速度も遅かった。  
いつしか、太陽が西にかなり傾き夕日があたり一面を照らしていく中、樹は疲  
れと空腹感からもはや歩く事はできずに、ちょうどいい大きさの幹の木に体を  
預ける破目になった。  

 まぶたから感じる光に樹はぼんやりとしつつ、目を開けた。  
どうやら眠っていたらしい。  
目が覚めると同時に、空腹を覚えてしまう。  
歩くのがおっくうになりつつあったが、喉が乾いているのをおぼえ、緩慢ではあ  
るものの体を起こし、水を求めて歩き出した。  

 乾きと空腹とで、ふらふらになりかけた時、樹の耳に水音が飛び込んできた。  
期待感に胸を膨らませながら、歩き寄ると意に違わず、川を流れる水が川底に  
つらなる岩に当たって砕ける音が響いていた。  

 水辺にひざまずき川の水を両手ですくって口にする。そしておもむろに顔を  
洗った。  
樹の顔にようやく生気が戻ったのだった。  





618  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/07/16(日)  07:53:23  ID:???  

 手を組んでそのまま上に向けて、大きく伸びをすると川に沿って樹は  
歩き出した。  
何も目印になるようなものがないため、川に沿って歩けばどうだろうかと  
考えたからだった。  

 空腹を覚えつつ、草のかたまりを掻き分けながら泣きたくなるのを我慢  
しつつ歩く樹の耳に、微かにだが水が物に当たって飛び散るような音を、  
聞いたように思えた。  

 空耳かな?  
そう思いながら2・3歩歩くと、また水が跳ねるような音を樹はきいた。  
今度は空耳ではない。  


619  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/07/16(日)  08:08:17  ID:???  

 疑念と好奇心と恐怖とが入り混じったような感情を抱いて、樹はおっかなびっくり  
近づいた。  
そして近づくにつれ、樹の耳により水が物に当たって砕ける音と、水を書き分けるよ  
うな音が響いた。  

 音の源にまで近づいた時、樹は信じられないものでも見たような顔をする。  
水を砕いていたもの。  
 まるでこうもりの様な翼と、太く厚い胴体とそこから伸びる四肢。  
胴体の前後に続く、やや長い尻尾と太いけれど、やや短い首だった。  

 思わず、樹は腰を抜かして地面に尻餅をついてしまい、声にならない叫びを漏らし  
てしまった。  


620  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/07/16(日)  08:17:03  ID:???  

 樹の声にならない叫びにその生物は気づき、樹に首を巡らして、  
爬虫類のあの独特の目でもって、樹を見やる。  

 その動きに尻餅をついたまま、樹はあとずさった。  
その生物は、そんな樹の姿をみて、やや高音に近い声を出し、少し  
首を傾げつつ、樹を見やった。  
 その声はどうみても樹を威嚇したり、獲物として狙っているわけで  
もなく、ただ興味と注意を樹に向けているようだったが、今の樹に判  
るわけもなく、恐怖で思わず涙がでる。  


621  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/07/16(日)  09:03:31  ID:???  

 その生物は樹に対して、もう一度鳴いた。  
涙目の樹に、唐突に自分のものとは違う感情がわいた事に、混乱してしまった。  

 自分とは違うものに対する好奇心が、樹の感情に割り込んできたものである。  
更に混乱した樹のもとに、その生物が近づくのを見とめた樹はとうとう金縛りにあ  
ったかのように動けなくなってしまった。  

「こ、こないでよ!」  
 震えながら声を絞り出した樹の眼前に、その生物はすうっと頭を突き出したかと  
思うと、顔の先端――どうやら鼻らしい――で匂いを嗅いでいるようだった。  

 しばらくして、樹の体を嗅ぎまわるのに飽きたようで、今度は樹の傍に座り込んで、  
じっと樹を凝視し始めた。  


622  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/07/16(日)  09:26:10  ID:???  

 恐怖で体が硬直していた樹は、どうやら目の前にいる生き物が襲ってくる  
気配がなく、興味深げにじっと覗き込んでいるその目のおかげで、ようやく  
落ち着きを取り戻した。  
そうすると今度は自分とは違う感情に疑問が浮かぶのは当然といえた。  

「ね、ねぇ。何もしないでよ・・・?」  
 そう言って恐る恐る立ち上がろうとした樹の声にその生き物は反応したらしく、  
樹の動きに合わせて顔と目を動かした時、また別の感情が流れてくる。  

 何をするのだろうという好奇心だった。  
その感情と目の前の生き物の動きから、樹は唐突に悟ってしまった。  


623  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/07/16(日)  09:37:26  ID:???  

 目の前の生き物の感情だという事に。  
その事に気づいた樹は収まっていた混乱にまた動揺してしまう。  

 なんでそんな・・・!声にならない叫びをあげ、寝そべりながら  
樹を見つめ続ける生き物を。訳が判らないまま見つめ返した。  

 立ち上がりかけた腰を再び地面につけたまま、樹は思わず鳴き  
そうになった。  
「・・・お母さん」  
思わず口をついて出た言葉に、どうやらその生き物は反応したらし  
く、むくりと体を起こした。  

 ど、どうしたのかしら?何か悪い事でも言っちゃったのかな。  
そんな事を考えてしまいつつ、目を丸くしながら樹は体を起こした  
生き物を注視する。  
   


624  名前:  政府広報課改め大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/07/16(日)  09:47:46  ID:???  

「連れてってくれるの?」  
 どこにとは言わなかった。樹にとってはその言葉の主語は家で、しかし  
どうやら相手はそれだけで判ったらしい。  

 その反応に思わず樹が口走った。  
「家まで送ってよ!」  
 するとその生き物は乗れとでも言いたげに、腹を地面につけて樹が乗り  
やすいよう首を低くしたのだった。  

 どうやら乗せてくれるらしい。そう思った樹はおっかなびっくりだが、生き  
物の背中に乗り首にしがみつくと、唐突に体が浮き上がるかのような感覚  
を感じた。  
その感覚は嘘ではなかった。実際にその生き物の体が宙に浮いている事  
に、樹は驚愕し、首に強く抱きついたのだった。  





742  名前:  大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/08/16(水)  13:12:10  ID:???  

日本異邦戦記外伝  

南洋の朝  

樹が行方不明になってから、既に24時間が過ぎており、陸自  
捜索隊の面々の間では、既に生存の可能性が少ないものと言う  
雰囲気が漂い始めていた。  

憔悴し始めている母親を気遣うように、父親もまた疲労の色が  
滲み始めている。  

島とはいえ、かなりの広さがある。  
そして24時間程度で、廻り切れるものでもなく、陸自から捜索のため  
のヘリが昼近くになって、飛び立った。  

捜索計画との摺り合わせもあるので、仕方ないと言えば仕方ないが。  


743  名前:  大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/08/16(水)  13:25:51  ID:???  

ちょうど、捜索班の一班が、川沿いに出たときの事だ。  
その班が川に出た場所は、奇しくも樹が川に出た場所でもあった。  

隊員たちの頭上を黒い影が覆ったかと思うや、通り過ぎていった。  
「おい、あれって・・・」  
「・・・竜だと?なんでこんな所に?」  
「竜がいるなんて聞いてないぞ!?」  
飛び去って行く竜を見上げながら、疑問を言い合った。  

首を傾げながらも班長は、竜に関する報告を入れた。  


744  名前:  大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/08/16(水)  13:48:24  ID:???  

捜索本部に入ったその報は、樹の消息とは何の関係もなかったが、  
本部を困惑させるには十分すぎた。  

捜索ヘリがちょうど、島のすぐ傍まで近づいている事もあり、  
竜の進行方向へと向かわせた。  
そして、数十分ほどで竜に遭遇した。  

本部にヘリからの連絡が入ったのは、間もなくの事だった。  

「竜と遭遇することに成功した。・・・背中に人がいるぞ!?オクレ」  
「人が乗っているだと?本当か?オクレ」  
「ああ、間違い・・・。どうも、特徴が行方不明になっている女子高生と一致している。オクレ」  
「待て、本当に間違いないか、特徴を確認してくれ。オクレ」  
「了解」  

しばらくヘリからの交信が途絶えた中、本部の中で報告と対応  
策に関する指示が慌ただしく行き交った。  


745  名前:  大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/08/16(水)  14:09:45  ID:???  

「目標は女子高生と一致している。指示を乞う。オクレ」  
「了解した。目標にどうにか指示を出して誘導してくれ。オクレ」  
「了解。目標に対し、誘導を行う」  


竜の首筋にしがみついている樹の耳に、聞き慣れない、空気を  
切り裂く音が響いた。  

怪訝そうに視線を、音のする方に向けると、ボール大の大きさの物  
が近づいてくるのが見えた。  
樹がしがみついている竜が警戒しているのが、心で感じた。  
どうやら、竜が何を感じているのかが判る事にとまどった。  
そうこうする内に、空気を切り裂きながら、近づくその物体が  
大きくなるにつれ、樹に取って日本本国で見慣れた物−−ヘリ  
の姿となって樹の前に、顕れた。  



746  名前:  大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/08/16(水)  14:24:13  ID:???  

ヘリが近づくに連れ、警戒を強くし、いつでも攻撃しようとした竜を、  
樹は、慌てなだめた。  
「大丈夫よ、大丈夫。あれは怖くないから」  

落ち着かせようとする樹の感情を感じたのだろう、ようやく竜は  
警戒を解いた。  
やがて、ヘリから身振り手ぶりで、樹に対して、何かを伝えて  
いる事に気付いた。  
どうやら、着いてくるように言っているらしい。  

「ねぇ、あれについていって。お願い」  
竜はその言葉に、短い声で応じると、ヘリの後についたのだった。  


747  名前:  大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/08/16(水)  14:41:00  ID:???  

樹が本部が置かれている場所に、竜とともに降り立った時、  
そこには、沢山の人が集まっていた。  
竜が上空に顕れるや、どよめきが沸き起こる。  
そしてその首筋から樹が降り立った時、静まりかけたそのどよ  
めきが、再び広がった。  

その人だかりの中に、樹は両親の姿を見つけるや、駆け寄って  
抱き着いた。  

「・・・お母さん!」  
言葉にならない思いをその一言に込めて。  

竜の姿を見たとき、思わず母親は腰が引けたものの、竜から樹が  
降り立ったのを見たら、親としての思いの方が強かったと  
いう事だった。  



748  名前:  大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/08/16(水)  15:31:17  ID:???  

樹は無事、家族や親友の元に戻れたが、樹の日常は変わってしまった。  
樹の傍らには竜がいた。  

竜にとって見るものが珍しいのか、街中を闊歩するのだ。  
島の街にとって、それは一大事件と化す。  
人を襲うわけではないし、何かを壊したりするわけでもないから、逆に始末に負えない。  

樹の通う高校側も困り果てる。  
樹が高校で、授業を受けていると、どこからともなく、竜が飛んでくるのだ。  
文字通り。  
高校側は両親に事情を話し、言葉を濁しつつ退学を求めたのだった。  


749  名前:  大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/08/16(水)  15:33:53  ID:???  

「学校やめなきゃならなくなったのあなたのせいよ?!」  
溜め息をついて愚痴をこぼす樹に、竜が首を傾げるようにして、覗き込んでくる様に、  
樹は思わず感情の持って行く場を失い、脱力したのだった。  

しばらくしてだが、樹と両親に対して、思わぬ所から、救いの手が差し延べられた。  
陸上自衛隊からだった。  

将来自衛官になる事を条件に、高校及び大学教育を無条件で、受けれる事。  
樹が竜と出会った島一体を陸自の所有地にする事で、街の平和が維持でき  
る事を提示したのだった。  

やがて、陸自初の竜騎兵が誕生するのだが、それはまた別の話である。  

終幕  

「おはよ、ラン。空にあがろ」  


Special  Thanks  

自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた  スレ住民の皆さん  

初期スレ設立者  元1だおー氏  

SS職人各氏  

終わり  









164  名前:  大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/09/11(月)  08:50:18  ID:???  

『遥かなる空』  


「うっ、・・・・・・イテテ」  
意識が戻ったと同時に、肩が痛みを訴えて来た。  
どうやら寝違ったらしく、右手を左肩にやって揉みほぐしながら、周囲に視線を巡らした。  

「?」  
彼は短めに刈った頭を小さく捻る。  
先程まで、彼が居た場所とどこか違うのだが、どこが違うのか判らなかった。  
首を捻りながらも、傍らに視線を落とすと、89式小銃を手繰りよせ、巧妙に隠した火の痕跡を消す。  

後、2日か。  
今度こそ、田嶋三曹にゃあ負けねぇ。  
彼は常に自分の半歩先を進む同僚の顔を思い描きつつ、8日前に始まった青木原での野外踏破訓練で、  
不敵な面構えで彼の挑発に乗った田嶋三尉の幻影に呟いた。  



165  名前:  大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/09/11(月)  09:26:05  ID:???  

02  
周囲に目を光らせながら立ち上がった彼の背は、身長180Cmほど細い目にどこか丸みを帯びた顔立ちだ。  
夏が終わり、暑さが残っているような初秋の中、鬱蒼とした下草を時々掻き分けつつ、  
警戒しながら進んでいた時、微かだが金属音が彼の耳に飛び込んでくる。  

こんな所で、金属音?  
有り得なかった。  
ここに今いるのは、俺をいれた空挺レンジャーだぞ?  

訝しんだ彼は慎重に音を起てないよう、音源へと近付く。  
近付くに連れ、その金属音は互いに激しく打ちあう、鈍く重い音へと変わっていく。  
やがて、音源と思しき場所に着き、状況が見えた。  

見ると数人の男を相手に、一人の人物が防戦していた。  
どちらも長い得物を林立する木々の中で、繰り出している。  
防戦している方は、髪をうなじの所で纏め、小柄ながらも自分  
よりも背の高い男達を相手に、一歩も引かない。  
彼は、小柄な人物がそれなりの腕前らしいが、何度も打ちあっているらしく、息が上がって  
いる事に気付く。  


幾度目かの打ち合いで、その小柄の方の顔が、偶然彼の方を向く。  
若い女性のそれだった。  
額から大粒の汗を流し、相手の斬撃を受け長そうとして、足を滑らしたのを見た時、彼の体は  
身を隠していた茂みから踊り出て、ナイフを突き出し鈍い音を発生させながら、彼女を突こう  
とした刃物を弾く。  


166  名前:  大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/09/11(月)  10:08:29  ID:???  

03  
彼女を庇うように男たちと正対した彼は吠えた。  
「卑怯だろう!?女に得物をむけるなど、許せないな!」  

彼の獅子吼に、男達は互いの顔を見合わせるや、どうやら彼を敵と見なしたか、純然たる殺意  
で得物を突き出してくる。  
長い得物をナイフで弾きながら、相手を如何に撃退するか考えていると、唐突に彼の左前方か  
ら繰り出された得物が弾かれた。  

横目で見遣ると、彼が庇った女性だった。  
細く尖った耳に目を見張る彼に、その女は彼の方を見もせず、鋭く囁くように呟く。  
「気を逸らさないで!」  
まだ息は荒いながらも呼吸を整えた様を見て、彼はふっと口の端を歪ませると、繰り出され  
る得物を受け流すと、力いっぱい回し蹴りを食らわす。  
足を通じて鈍く重い衝撃が伝わり、落ち葉を周囲に舞い散らせながら、相手は背中から沈んだ。  




167  名前:  大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/09/11(月)  10:09:30  ID:???  


彼は倒れた相手に見向きすらせず、別の者の斬撃を間一髪で受け止め、素早く前へと体を押し  
込み肘打ちを食らわすや、倒れかかった相手の腹に、重い蹴りを食らわす。  

ふと視線を彼女に向けると、ちょうど相手の得物を払って、切っ先が腕を掠めた所だった。  

「とどめを刺して!でないとまたやってくるから!」  
荒い息を漏らしながらも、激しく彼に言った彼女に困惑しつつ、油断なく目を前にしたまま問い返す。  
まだ相手は一人いるからだった。  
最後の一人は、二人が手強い事を知り、慎重になっていた。  
「そこまでせずともいいだろう!?  
この場を逃れれば、大丈夫じゃないのか?」  
「それだけじゃ駄目よ!  
こいつらは私を憎んでるから」  
「憎む!?なんでまた・・・・・・」  


彼がそこまで言った時、相対していた男が叫びつつ、土埃をあげながら得物を繰り出した。  




168  名前:  大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/09/11(月)  10:57:15  ID:???  

「ほざけ!この恥さらしめ!  
貴様らさえいなければよかったのだ!」  
「このままではいけなかったというのが、何故判らないの!?」  

彼女が言い終わると同時に繰り出された斬撃を、受け止めたが力に押し負け、たたらを踏み体を崩した。  
咄嗟に彼は両手でナイフを構え、その斬撃を受けきった。  
耳に激しい金属音が響き渡り、白い火花が弾け飛んだ。  

腰を落とし重心を低く構えて受けきった事で、足を滑らせてしまった所に、体勢を立て直した彼女が、  
彼の右側から黒い髪を翻し、得物を左手で逆さに構え、右手で柄の先を持って突き出した。  

狙い違わずその切っ先は相手の左胸を貫く。  
「例え、地の果て・・・・・・」  
男はみなまで言えず、絶命した。  
ようやく、最初に倒れた男が彼女の後ろから襲ったのを見て、考えるより先に彼はナイフを  
繰り出していた。  


169  名前:  大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/09/11(月)  11:24:06  ID:???  

04  
彼が向けた刃は、幸か不幸か首を貫き、男を絶命へと追いやる。  
しまったと思ったが手遅れだった。  
視線を彼女に向けると、最後の一人を死に追いやっていた所だった。  
全て倒した事で、彼女は大粒の汗を拭うと、油断なく彼に向き合う。  

「助けてくれた事には感謝するわ。  
でも、ここで別れましょう。  
お礼は何も出来ないけれど、それが貴方のためでもあるから」  
「ちょっと待てよ。成り行きとは言え、関わっちまったんだ。  
襲われた理由ぐらい聞きたいんだがな?」  

そう言って、息を吐きつつ彼は、彼女を逃がさまいと凝視して続けた。  
「第一、ここは青木原じゃないのか?それにあんたの恰好、それ造り物じゃないのか?」  
その言葉に彼女は驚く。  
「私たちを知らないの?それにここは、アオキガハラなんて所じゃないんだけど」  
「なんだと?俺達は訓練でここにいたんだぞ!?」  
「俺達?貴方しかいなかったけど?  
後はあの追っ手だけよ」  
二人は互いに顔を見合わせ困惑する。  

「ここがどこなのか、それも含めて教えてくれないか?」  
その言葉に彼女は、周囲を見回すと仕方なさそうに、頭を軽く振る。  
「仕方ない、か。私が言える範囲でなら教えるわ。  
それでいいでしょう?」  
「ああ、それで構わない」  

彼が頷いたのを見て、二人はその場を離れたのだった。  




189  名前:  大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/09/12(火)  12:46:44  ID:???  

「遥かなる空」  

05  
「金貨1枚に、銀貨3枚と10連銭5つだな」  

両替商からそんな言葉が反ってくると、男は思わず嘆息した。  
「マジかよ?もう少し高いはずだぜ!?・・・・・・色つけてくれよ、おやっさん」  
「嫌なら別のとこにいくといい、レドルム。儂よりやすかろうて」  
レドルムと言われた男は、長身の体を思いっきり落胆させる。  
彼にも、両替商の言葉が正しい事ぐらい判る。  

レドルムが駆け出しの頃からの長い付き合いだったし、言葉は悪いとは言え、この両替商は  
彼が持ち込んでくる物に対して、わずかだが色をつけていた。  
もっとも、それはこの両替商の眼鏡に適った人間だけだったが。  




190  名前:  大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/09/12(火)  13:47:03  ID:???  

06  
「レドルム、お前がまだ戻ってない時に聞いたんだがな。  
暗緑樹海に少し入ったとこで、妖魔が3体死んでいた、と警備兵が言っていたぞ」  
「妖魔?有り得ないなぁ?大方幻じゃないのか」  

レドルムは頭を振って、心底疑って見せる。  
「ああ。妖魔などではなく、ダークエルフらしいな。  
暗褐色の肌に灰色の髪と言うとあ奴らしかおらんだろうて」  

その言葉を聞きながら、レドルムは、なんでこうもおやっさんは地獄耳なんだろうなと慨嘆する。  
金になるような直感も鋭いんだけどなぁ。  
でも細々と両替商をしてるのが判んないんだよな。  

「今頃、探題の連中は人間じゃないから不熱心だろうよ。  
・・・・・・これは儂の勘じゃがな、どうも金になりそうじゃ。  
警備兵の連中を出し抜いてみんか?」  
「俺がか?むだ足になるだけと違うのか?」  

歳だというのに、未だ豊かな髪を短く刈った両替商の頭をちらっとみたレドルムは、おやっ  
さんの言葉を軽く拒んでみる。  

「必要な金ぐらいだしてやるぞ。  
自慢じゃないが、儂の勘はあまり外れてないぐらい、お前さんだって知っとろう?  
ああ、嫌ならいいぞ?別段、誰かに頼まなくとも困らんしな」  
事もなげに言ってのける両替商に、レドルムは負けてしまった。  
貧乏しているぐらい、とうの昔に目の前の親父にはばれていたし、必要経費は出すとまで  
言っているのだ。  
どちらにせよ、自分の懐は痛まない。  

もし、大金を手に入れられたら、後で倍以上取っていかれるのは目に見えていたが。  

かくして、レドルムは親父に唆された結果、暗緑樹海へと足を向けたのだった。  


191  名前:  大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/09/12(火)  14:24:25  ID:???  

07  
川面に跳ねた水音が、幾度か響き、しばらくして水面に何かが沈む音が少しだけ大きく生じた。  

そこから程遠くない所で、もたれ掛かっている人間よりも一回り大きな木が、影を周囲に投げ  
かけている。  

「まだ名前を言ってなかったな。俺は柏原文人(かしわら  ふみと)だ。  
陸上自衛隊の三曹だ」  
柏原の言葉に、川面から声が届く。  

「カシャーラ  フント?」  
どこか言いにくそうに問い掛けた声は、はっきりと聞き取りやすい落ち着いた声音だった。  
「いや、か・し・わ・ら  ふ・み・と、だよ」  
「カシワラ  フミトね」  
まだ言いにくそうだったが、ちゃんと言ってくれたので柏原は、そうだ、と頷く。  

「私はディエル・ディナン。  
さっきは助かったわ。ありがとう」  
再び、川面に水が飛び散る音が響く。  
「それで聞きたい事があるんだが、いいかな」  
「何が聞きたいの?」  


192  名前:  大本営発表  ◆F2.iwy/iJk  2006/09/12(火)  15:01:13  ID:???  

「この森はなんて言うんだ?」  
「この森は暗緑樹海って言うんだけど、知らないの?」  
「知らんな。第一、目が覚めたら、あそこにいたんだぞ?」  
「じゃあ、遠くから来た訳でもないか。こんな事、私も聞いた事がないわ」  

水面を軽やかに跳ねる音がしたかと思うと、川辺を踏む気配がする。  
「私には理解できないし、貴方の言葉が本当かどうか判らないし、取り敢えずそういう事にしとくわ」  
柏原は、ふむと呟く。  
俺にも判らんし、それでいいか。  

外套を羽織っただけのディエルが、柏原同様木にもたれ掛かった。  
着ていた服は汗で濡れて気持ち悪くて仕方ないので、ディエルは水洗いしていた。