967 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/05/12 05:14 ID:???

「日本異邦戦記」

>>../../hobby3_army/1082/1082564788.html#961の続き

「それで提案したいというのはなんなのでしょうか?」
 エンドルン卿の言葉で、面談と言う名の交渉が始まった。
「はい、その前にお聞きしたい事があります」
 女史の慎重な言に、エンドルン卿はすっと目を細め続きを促す。
「同盟を締結されているとの事ですが、既に要請は出されているのでしょうか?」
「既に使者は出しておりますが、まだ帰国しないでしょうな」
「なぜでしょう?同盟を結んでいるのなら、応援はもらえる筈では?」

 園山女史に代わって外務官僚がやや目を細めて尋ねる。
「確かに。しかし軍を出してもらうにしろ、ここで粘らなければどの国も出しますまい」
「それでは、同盟ではないと思いますが?」

968 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/05/12 05:15 ID:???

 エンドルン卿は面白そうに、逆に問い質す。
エンドルン卿らの常識では、同盟とはいえある程度の勝算がつかなければ、軍勢を出し渋るのが当然であった。
何より、負けそうな国に援軍に出す事で相手国と交戦すれば、相手国に大義名分を与えてしまい、自分たちに飛び火し
かねないからだ。
 さらにここで、王都が炎上するような事にでもなれば、逆に見限る事もあり得る。
同盟に対する認識とは、このようなものだった。
 そしてその同盟の中心国であるシュレジエンが敗れれば、同盟が崩壊したと言ってもよい。
様子見をする国があってもおかしくはないのだ。

「あなた方はそうではないと?」
「私達の世界では互いに結んだ条約の類は、遵守すべきものです。なぜならば条約を遵守しようとしない国は、信用が
ない国としてみなされるのです」
「なるほど。確かに、我々においても条約は遵守すべきものではあります」


969 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/05/12 05:18 ID:???

「なるほど。確かに、我々においても条約は遵守すべきものではあります。しかしそれは大義があって初めて遵守され
るものですな」

 この言葉に園山女史は、言外の意を受け取る。
あくまでも自国に取って利があれば遵守すべきものであり、利が薄くなれば理屈をつけて守る必要などないと。

 それならそれで幾らでも協定の結びようはある。
園山女史は目の前の机に置かれている水の入ったカップを手にとって口に含み、エンドルン卿を見据えた。
「私達は貴国シュレジエンに対し、軍の派遣も含めた軍事支援を行う用意があります。その代わりとして幾つかの要求
があります」
「軍事支援?それは一体どういうものでしょうか?」
「貴国が晒されている脅威に対処する為に必要な、支援の事です」
 その言葉に対し、エンドルン卿はすばやく判断を下した。
確かに軍の派遣を行う際、見返りを求めないならば、侵略の名分として使われる為に警戒すべきだが、女史らは見返り
を求めてきている。
 内容を聞かなければどうにもならないが、それでも検討に値すると言っていい。

970 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/05/12 05:19 ID:???

「どのような条件なのでしょうか?」
 その言葉に女史は、シュレジエン側が日本側の土俵に立った事を確信し、密かに賭けに勝ったと思った。
「はい。第1に、王都を防衛し国境までアムデスを排除した後、轡峠一体を借地させてもらいます。
借地する際は適正な価格で、使用料をお支払いいたします。ただし、そちらの料金が妥当であるかどうかはこちらでも
判断させていただきますが。
 第2は、我が方の部隊を貴国に駐留させていただきます。貴国の領土から敵を駆逐した後、貴国の軍の再建に時間が
かかるでしょうし、アムデスと国境接している以上、いつ何時また侵攻を受けるとも限りませんから。
 第3に、貴国との交易において、市場の整備をお願いします。
自由に交易する為には市場がかかせません。これによって互いに相手の文物が手に入りやすくなります。
これに関連する事ですが、市場での取引を行う為の法整備をお願いします。
 この3点がおもな要求内容です」

 これらの要求はすべて日本にとって、ある思惑の元に出したものだった。
すなわち、シュレジエンの事実上の属国化。
シュレジエンを日本のコントロール下におく事で、拠点を確保しようと言うものだった。



219 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/05/14 03:42 ID:???

「日本異邦戦記」

../1083/1083332026.html#970の続き

「なるほど。しかしながら、我々が王都を守りきれば、あなた方の申し出は無意味になりますな?」
「確かにその場合は、なかった事になるでしょうね。でも、王都を囲んでいる敵から守りきる事ができるのでしょう
か?見たところ、貴国に対し、敵側の方が優っていますが?それに援軍が到着する可能性も低いのでしょう?」
 その言葉にエンドルン卿は、口元を歪ませて苦笑した。
「よいでしょう。あなた方の実力がどの程度かは判りませんが、援軍を必ず送ってくれるのでしょうな?」
「当然です」
 大きく頷くと、卿は女史に眼を向けたまま、その条件を承諾した。
そして、ウィンダ3世に事の顛末を話し、許しを得る必要があると言った。
そう言いつつも卿は、陛下はお許しあそばされる筈だとも付け加える。
 詳しい内容は更に詰める必要はあるが、大筋でシュレジエンとの軍事協定が成立したのだった。

220 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/05/14 03:43 ID:???

 その夜、エステルス城砦の内部は異様な雰囲気が充満していた。
黎明をもって、エステルス城砦から打って出ようと言うのだから当然ともいえる。
その城砦の一角にある竜舎においてもそれは同じだった。

 蝋燭の明かりが竜舎を照らし出していたが、それは薄暗くどこか物悲しげな感じを与えていた。
竜舎は複数あり、それぞれの竜舎には一頭ずつ竜房が与えられていた。
竜房で休んでいる竜たちもまた、自分達の相棒となる人間の異様な興奮を感じ取っているのだろう、まんじりとして
いないようだった。
 その竜房の一つに、体を横たえている竜のそばに寄り添うものがいた。
レスティンだった。
彼女の竜、ベドラザは眠れないでいる彼女を安心させるかのように、彼女の顔に摺り寄せる。
くすぐったそうに笑みを浮かべると、レスティンは自分もまたベドラザに体をつけた。

221 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/05/14 03:44 ID:???

「ねえベドラザ」
 彼女が自分の名を呼んだ事に反応し、ベドラザは喉を鳴らす。
「明日の朝一番にここから逃げるのだそうよ。王都に向かうと言ってたわ」
 独りごちるように呟く彼女の声に、まるで聞き耳を立てるかのような顔をしたベドラザは、続きを促すかのように彼
女の顔を見つめる。
 顔を向けたとき、ベドラザの体が少し動いてそれに釣られるように、ベドラザの体を支えていた藁がかすかな音を立
てた。
「でも王都もアムデスの軍に囲まれてるとも言うし・・・。私怖い。ここから出られても、王都が既になくなってるか
もと思ってしまう」
 そう言うと、彼女はしんみりと視線を藁に移す。
ベドラザは不思議そうな顔をして、そんな彼女を見やる。
なんで、そんな事を思ったりするのか、とでも言いたげな顔だった。

222 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/05/14 03:45 ID:???

「・・・そんな事ないのにね。おかしいよね」
そう言って、レスティンは自分自身に苦笑するかのように口元に笑みを浮かべる。
 ふと気配を感じたレスティンは、竜舎の入り口を見た。
 視線の先には誰かの姿があり、その先の誰かもまた竜舎に人の気配を感じたようだった。
「・・・誰かいるの?」
 口を開いたのは、同時だった。
見事にハモった事で互いに驚く。
 レスティンは立ち上がって入口まで近づき、向こうもまた蝋燭の明かりがゆれる竜舎の中を進む。

223 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/05/14 03:45 ID:???

「あら・・・、貴女はディーンさんね?」
 その言葉に、向こうもまたあった事があるように感じて、思い出しているようだった。
「そう、私はディーンよ。えぇと、貴女は確か」
「えと、鉄の船の上でお会いした事があります。レスティンって言います」
 レスティンが軽く笑んで会釈をすると、ディーンもまた釣られて会釈をする。
「こんな言い方したら、失礼なのだろうけど。・・・あの異邦の人達と一緒にいるエルフって珍しかったから覚えてた
んです」
 その言葉にディーンは困ったように笑う。
「そうね、確かに異邦人と一緒にいるのって、自分で言うのもなんだけど、珍しいと思うわ」

224 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/05/14 03:58 ID:???

 ディーンはそう言いつつ、周囲を見回す。
「明日の事が気になってたから、こんなとこまで歩いてたのだけど・・・。貴女はこんな所で何をしてたの?」
「ええ、明日の事が気になって、それで一人でいたら、不安になったの。・・・だから」
 言葉を濁したレスティンに、自分にも何か心当たりがあるのか、ディーンは同意する。
「たしかにね。不安にならない方がおかしいわね。無事に王都につけるかどうか、判らないもの」
「ディーンさんも不安なの?」
「不安じゃないって言ったら嘘になっちゃう」

225 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/05/14 03:59 ID:???

 そう言って、いたずらっぽく笑った。
「不安になるのは仕方ないわ。自分だって、ホントはこうすべきなのだろうか、なんて思ったりするし。・・・でも、
結局は自分のやれる事をやるしかないから、ね?」
 その言葉にレスティンは、少し考え頷いた。
「そうですね、つまりはそういう事なんですね。自分のやれる事をやるしかないんだ」
「そういう事」
 レスティンは少し安堵したかのように息を吐くと、小さく握りこぶしを作り自分に言い聞かせる。
「うん。明日はみんなの為に、自分の出来る事をするわ」
「それでいいと思うわ」
 2人は互いの顔を見合わせると、どちらからとなく忍び笑いがでたのだった。


714 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/05/23 00:53 ID:???

「日本異邦戦記」

>>225の続き

 葛重三尉はエステルス城砦の放棄が決まってから、夜が遅くなる直前まで荷物の整理を終える事ができた。
そして、観戦武官としての日誌と報告書を書き上げる。
 近衛兵団の誤算、エステルス城砦での篭城戦、そして王都防衛の為に放棄を決めた経緯を纏めあげた。

 既に辺りは何も見えないほどに暗く、城壁の中はしんと静まり返りそれと対照的に、壁の外は明かりが煌々と照らし
ている。
椅子から立ち上がり部屋を出て、廊下は脱出の為の最後の準備で慌しい中を、まるで曲芸のように人の波を避けつつ歩
き、屋上にでた。

 エステルス城砦に立て篭もり、既に10日は経つ。
一ヶ月近く立て篭もっているような錯覚さえ、葛重三尉に感じさせる。
もう少ししたら忙しくなる為、体を休めないといけないのだが、気が高ぶっているようで、ちっとも休めないでいたの
だった。

715 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/05/23 00:54 ID:???

 葛重三尉の元には、本国で泥縄的に編纂された東方語のテキストが届けられており、それを元にディーンに教えを請
いつつ学んでいた。
今では、三尉は片言ではあったが、大陸人と意思疎通ができるまでにはなっていた。
 自分一人で行動しようと思えば、何時までもディーンに一緒についてもらうばかりではいけないと、強く思うように
もなっていたのもあるかもしれない。

 片言ながらも話せるようになれば、今度はそれを元に新たな単語が大陸人から得られるようになった事も一人で行動
出来る範囲を広げる原動力になった。

 休めないままに今もテキストで覚えた単語などを反芻していると、後ろに人の気配を感じた。
顔を気配のした方向に振ると、そこには一人の人間が屋上へと続く入り口から三尉の方へ歩み寄っていたのが視界に入
る。

716 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/05/23 00:56 ID:???

「Lawm gdiels woh daz ?」
「Daz gdiem woh Kuzushige」
「Lawm」とは「誰」の意であり、「gdiels」とは動詞であり「gdie」の三人称で男性が使用する場合で、「gdiem」
は一人称なのだった。
「woh」は存在を意味する単語であり、そこに誰がいるか尋ねる時に使用される事の多い単語である。
「daz」とは英語での「place」に近い意味の単語である。
 よって、この場合は「誰がそこにいるのか?」と言っている事になる。
これに対する返答が「Daz gdiem woh Kuzushige」という事なのだ。

717 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/05/23 01:12 ID:???

 三尉の視界に飛び込んできたのは、近衛兵団司令ガシュタス候リキアルト卿だった。
卿を確認するや三尉は答礼を行った。
その答礼に対して、卿は返礼をした。
 三尉は自衛隊式に、卿は近衛兵団としてのそれで。
互いの敬礼に対して、それぞれ教えてもらっていた為わざわざ説明する必要はない。

「ああ、葛重三尉か。貴殿も休められないのかな?」
「団長こそ、こんな所にいてよろしいのですか?」
「既に命令を出しているから、休む事が今のやる事とも言えるがね。明日は忙しくなるからな。だが気が高ぶって寝付
けないのもまた事実だ」
「そうですね」

718 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/05/23 01:13 ID:???

 三尉の言葉に卿は、やや笑みを薄く張り付かせ城壁の外を見やる。
城壁の外はいささかも警戒を緩めていないかのようだった。

「奴らの錬度は意外と高いな」
 軽く息を吐いて呟いた卿に三尉は同意した。
「ここに張り付かせられる事で逆に不満に思うのではないかと、そう淡い期待をしていたのだがね」
「そんな事を期待していたは戦などできませんが」
「それはそうだ」
 一頻り軽く笑った卿は、三尉に顔を向ける。
「この戦が終わって王都につけばの事だが、貴殿の国の事を聞かせてもらえないか?」
 怪訝そうに三尉がすると、卿は軽く頭を振る。
「無事に生還する為の理由と思ってくれ。何もないよりはあった方がいいから」
「そうですか。なら、王都についた後、自分の生まれた場所などを話して差し上げますよ」
「期待しているよ」
 そう言うと、2人は申し合わせたかのように屋上を出たのだった。



536 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/04 01:51 ID:???
 現在、「日本異邦戦記」更新に向け、着々と準備中。

ここで新規住人の為に、一旦登場人物などを整理しまふ。

大迫総理     日本国総理大臣。日本転移時の首相。
園山博恵     対シュレジエン交渉団全権代表。
ウィンダ三世   シュレジエン国王。
エンドルン卿   ドルカルフ公。シュレジエン宰相。
アイヒ・エルベス 勲士。財務卿。
アストラス     エルフ。シュレジエン宮廷魔法使いの長。
クリャージ     ドワーフ。灰色猫の一族の長。工部所頭。
葛重秋良     三等陸尉。シュレジエン交渉団護衛隊第2小隊隊長。自衛隊最初の戦闘指揮を轡峠にて経験。
長原三佐     三等陸佐。シュレジエン交渉団護衛隊隊長。
ディーン      蒼碧の森のエルフの生き残り。漂流していた所を巡視船「りゅうきゅう」に救われる。早い段階で
           日本語を習得し、交渉団に加わる。その後、護衛隊と行動を共にする。
レスティン    シュレジエン近衛竜騎兵。ひょんな事から竜に乗る。
レーク      レスティンの同僚。
横永書記長    社会革新党党首。自衛隊派兵に賛成。
ガディス・ジルバ 「アムデス」帝国軍右大将。東方鎮定軍最高司令官。 

537 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/04 02:17 ID:???
設定資料その2

蒼碧の森     大陸南部の森林部。複数のエルフの里がある事で有名。「アムデス」帝国の種族浄化政策により、
           虐殺の場となる。
アムデス     大陸南部に位置する都市国家の名称。周辺諸国を併合後は帝都の名称。近年の拡大膨張で、一
           大版図を築きつつある。
聖教        帝国の国教。以前は土着宗教の一派だったが、その教義により、瞬く間に民衆の間に広まる。
シュレジエン   東方諸国の大国。20年前の大飢饉で国が一度滅びたとさえ言われる。現在、帝国を主敵とする東方
           大同盟の盟主。
轡峠       シュレジエン領内に位置する赤鼠山に這うように続く峠。
バスム      シュレジエンの王都。
グルナール河 東方諸国を流れる国際河川。その流域には肥沃な平野が広がる。
草兎平原    王都の西方に広がる平原。

青い鉱物    光を浴びて青く光る鉱物。そのサンプルが轡峠より採掘され、日本へと運び込まれている。
          現在の所、どのように利用するか応用研究が先行している。



545 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/04 04:09 ID:???
「日本異邦戦記」

>>http://hobby5.2ch.net/test/read.cgi/army/1084265974/ 718の続き

東方暦1048年6月12日4時

 まだ日が昇らない中、エステルス城砦の壁の中は、動きが活発になりつつあった。
魔術師団は魔方陣を幾つも描き終え、竜騎兵たちはいつでも出られるよう自分たちの竜の許にあり、兵らは身支度を終
え隊ごとに列を組みつつあった。

 魔法使いらの長に、リキアルト卿が魔法の使用を命じ、一斉に詠唱に入る。
続けて傍らに控える伝令に騎兵らに乗騎を命じ、騎兵らは門の前に進みつつ隊列を組む。
門を支える閂が数人がかりで外され、すぐさま別の兵が門を開ける準備をする。

 そのうちに詠唱が終わり、魔法がこの世界に顕現する。
何もなく闇が覆う中空に、ほのかに青い帯を現出したかと思うとすぐに赤くなり、五月雨のごとく敵の野営に降り注ぐ。
 これあるを予期して、魔法に対する結界を張っていた為か見た目よりは被害は少ない。
が出現した赤い球━灼熱の火球がいくつも降り注ぎ、結界で支えきれなかった物が敵に届いた。

546 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/04 04:09 ID:???
その効果を確認しつつリキアルト卿自ら騎乗すると、長槍を掲げる。
「聞け、シュレジエンの子らよ。我が故郷は今や暴虐なる軍勢に喘いでいる。王都は囲まれ、震えている有様ぞ。今こ
そ我らは生きて還り王都を苦しめる奴輩を駆逐しなければならぬ。
 シュレジエンの忠勇なる兵(つわもの)どもよ、われらが友を、愛する者を、そして子らの為、駆け抜けようぞ!」
 刹那、将兵らから一斉に喚声があがり、大地が揺れたかのようにどよめく。
リキアルト卿は掲げた長槍を更に高々と掲げ、槍を前に倒す。 
「死ぬ事は許さぬ!生きて戻る事こそ、我らに課せられた責務!
ここは死ぬ場ではない!王都へ皆で帰還しようぞ!・・・門を開けぇいッ、全軍前へ!」

 門が完全に開き、騎兵らが躍り出た。
依然と魔法使いたちによる支援は、中空から火球が顕現し敵に降り注いでいる事から、その健在ぶりが見て取れた。
火球が降り注ぐ中、どうやらアムデス軍も魔法を展開し、防ぎ始めているようだった。
しかしながら、充分な時間が取れなかったらしく効果的に防げてはいない事が見て取れる。

547 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/04 04:10 ID:???
 馬蹄の轟きが響き渡る中、近衛騎兵らがようやく態勢を整え始めた敵の正面へと辿りつき、長槍を突き出した。
怒号と喚声が一気にそこかしこで響き始める。
盾を弾かれた兵が長槍に突き刺されて崩れ落ち、傷いて棒立ちになった馬から振り落とされた騎兵が斧の餌食となる。
 更に混乱が拡大したのが、竜騎兵による地上攻撃だった。
もっとも、近衛兵団が殴り合っている戦線ではなく、その後方を専ら攻撃する。
混戦状態となっているから、支援のしようがないからだった。
竜の口から吐き出される火球が次々と降り注ぐ。

 騎兵と敵兵らがもみ合う中に兵士らが飛び込み、騎兵があけた穴をさらに拡大した。
やがて反対側でも城砦を包囲していた部隊が急を聞きつけ、その混戦にはせ参じようとしたが、竜騎兵らがそれを阻止
しようと滑空するや火球を放ち飛び去るとまた、上空から火球を敵軍に放つと言う事を繰り返す。

548 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/04 04:12 ID:???
 その竜騎兵の阻止は、さらに包囲している別の部隊が応援に駆けつけるまでの事だった。
それを見て取るや、リキアルト卿は大声を出しつつ、敵軍からの突破に全力を投じる。
 リキアルト卿もまた敵兵の返り血を浴びて、既に血まみれだった。
混乱に陥っていた敵兵らも応援が駆けつけてきた事もあり、態勢が直りつつあるから、一国の猶予もならなかった。
しゃにむに、敵の後背へと躍り出るべく前進を続けた。

549 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/04 04:12 ID:???
同日6時

 エステルス城砦において、魔法による支援を終えたと判断した魔法使い団は彼らを待つ竜騎兵へと足を向けた。
葛重三尉とディーンもまたその中に見受けられる。
最初こそ、リキアルト卿と共について行く事となっていたが、異邦からの客人を危地に巻き込む訳にはいけないとの
事から、魔法使いらと共に城砦を退去する事となった。

 階段をおり、門を抜けゆっくりと闇が明けつつある光が射す広場へと向かう。
そこには彼らを待つ竜とその相棒の姿があった。
「お待ちしておりました」
そう言って二人の姿を見つけた竜騎兵が、あっと言う小さな声をあげた。
「ディーンさんじゃない」

550 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/04 04:14 ID:???
「レスティン、あなたもお守り役?」
ディーンが軽く冗談めかして笑うと、レスティンも小さく苦笑して応じた。
「そんな所」
そう言ってディーンは小声で付け加えた。
 ホントは、戦うのが怖いの。
 その言葉に葛重三尉は、さも有りなんとでも言うような顔をする。
「まあ、戦わないですむなら、それに越した事はないですがね」
 その言葉に、レスティンは軽く目を瞠る。
「驚いた。兵隊さんがそんな事言うなんて」
 兵隊さんでなくって、自衛官なんだけどなあ。
心の中で三尉はわずかにため息をついたのだった。

551 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/04 04:23 ID:???
「全員騎乗するように!味方の先頭は既に敵の後背に出た。我々も城砦から王都へと向かう!」
 その声が響くや、一斉に竜へと乗る。
全員が乗り終わったのを見届けた指揮官は、竜を王都へと向けるのだった。

 竜の背中から見える光景は壮観だった。
まるで人が蟻のように見える。
 城砦を包囲していた部隊が続々と近衛兵団を押し潰そうとして殺到し、それを尻目に敵陣を食い破るかのように近衛
兵団が後背へと姿を現しつつある様が見て取れる。
上空には自分達シュレジエン近衛竜騎兵が乱舞しているだけだった。
それはとりもなおさず、尻に追い縋ろうとしている敵軍から、近衛兵団を援護できるのが竜騎兵のみと言う事でもあっ
たが。



566 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/04 15:14 ID:???
「日本異邦戦記」

>>551の続き

同日同時刻

 軍勢の先頭が後背へと突破したとの報告を受けたリキアルト卿は、すぐさま騎兵の幾らかを裂き軍勢の後方へと回し
た。
追い縋ろうとする敵に対する手当てである。
 明るくなりつつある空の下、近衛兵団は目的の半分を達成しようとしていたのだった。
しかし、まだ乱戦は続いていた。
金属を打ち付けあう鈍い音が、まるで不協和音のようにあちこちで響き続ける。

 槍を突き出し敵の腹を刺した味方の兵が、別の敵によって首の動脈を斧で切られて絶命する。
その敵兵は味方の騎兵が手に持つパイクで腕をはねられ、もんどりうって倒れるのだった。

 その状況にわずかだが変化が訪れる。
リキアルト卿が殿として手当てした騎兵が到着したのだ。

567 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/04 15:15 ID:???
 その間に、近衛兵らは足を早めつつ、伝令から伝えられた命令により隊伍を整えようと全力を尽くす。
この際、指揮系統などという贅沢は言えない為、身近にいるその場の上級者がわずかな人数ではあるがまとまった部隊
を作り上げる。
そうやってできた幾つかの部隊を、更に別の上級者が指揮を執る事で、流れは近衛兵団へと傾いたのだった。

 ある部隊が疲弊したら次の部隊が代わって殿を引き受ける、殿を引き受けた部隊が疲れたらさらに次の部隊が殿とな
る。
その上空からは追撃を掛ける敵を。火球で竜騎兵がけん制していた。
そうやって何度かの追撃を撃退する事で、近衛兵団はエステルス城砦から脱出したのだった。

568 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/04 15:16 ID:???
同日10時

 王都バスムの正面に軍使が馬に跨り現れたのは、東の空に日が昇りきった頃だった。
空を見上げれば、微かだが月があるのが見えた。
ゆっくりと風が流れているのは、旗琉が揺れている事からも判る。
異様な静けさが漂う中、軍使が声をあげる。
「シュレジエンの栄えある方々に申し上げ奉る!城門を開け、我らを迎えよ!
 最早勝負はついたも同様、これ以上の戦は民を苦しませるのみぞ。我らは寛大である。
都を明け渡すならば、神のご慈悲は下されよう」
 その言葉を聞くや否や、ウィンダ三世は嫌なものでも見るかのような顔となる。
それは宮廷魔法使いたるアストラスやクリャージらも同じだった。

 ご慈悲、ご慈悲とな・・・!
我らがはらからを、山々や木々の中で殺戮しているのは一体誰なのだ!?
奴らの神の慈悲とは殺し尽くす事なのか。

569 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/04 15:16 ID:???
 クリャージが口を開きかけたのを手で軽く制しながら、エンドルン卿は軽く頷いてみせて王に一礼すると、体を軍使
へと向けなおした。
「軍使殿には、わざわざのご足労痛み入る。このエンドルン、厚く感謝致し申す!されど我ら、貴殿の申される神のご
慈悲とやらに縋る気は毛頭御座らぬ。
 我々人の良き友に、敬意を払うが我らの誇り。貴殿らの神のご慈悲を受ける事、これ友を傷つけるも同然なり。
故に貴殿らの神に縋る事、能ず!」
「愚かなり!我ら人を醜くしたかのような奴ばらに敬意を払うは、神に対する冒涜ぞ!」
「我らが神々は、我ら人と共に、人の良き友を御作り遊ばされた!対等なる存在である」
「醜き奴ばらどもと手を取り合うなど、邪神に従っているとしか思えぬぞ!良かろう、神の正義を受けるが良い!・・
・さらば!」

570 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/04 15:17 ID:???
 その言葉を最後に軍使は走り去った。
「宰相殿」
クリャージが声を掛けた。
「何、お気になさるな。同じシュレジエンの民ではないか」
「ドルカルフ公の言うとおりぞ。我らと貴殿らは盟約を交わした仲でもある。それに、今や奴らは我が領土を侵さんし
ておる。わが民草も踏みにじられておるのだ」
「はい」
 アストラスは首を垂れ、ウィンダ三世に敬意を表す。

 既に周囲は迎撃の準備で慌しい。
「配置につけぇ!」「弓を構えよッ」「女子供は奥に向かえッ、成人した男は武器庫へ!」


571 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/04 15:20 ID:???
「状況はどうなっておる?」
 国王の問いに臨時に防衛隊長となった兵部総監が面前で一礼した。
「手持ちの兵は既に配しておりまする。なお予備として、なお近衛騎士団は王城へ詰めさせもうした」
「領主らの兵は?」
「は、城壁に配しており申す」
「近衛騎士団では役に立たぬと?」
「否、近衛騎士団は戦闘には向いておりませぬ。能力が違いますゆえに」
 国王は、何も言わず、ただ頷いただけだった。
近衛騎士団は基本的に儀杖部隊であって、最前線で戦うなど全く考えられてはいない。
儀杖に冠する訓練なら厳しく受けているが、戦闘訓練など年に10日ぐらいしかやっていない事からも判る事だった。
騎士団と名はついているが、数十人しかいない事もそれを証明している。
同じ近衛でも、近衛兵団とは性質が全く違うのだった。
「判った。しっかり頼むぞ」
「はッ」

572 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/04 15:21 ID:???
平成15年東方暦1048年同日同時刻

 新たに日本領に加わった「新島」は新たに成新島と名づけられていた。
その大きくはない島は今や、自衛隊の一大拠点と化していた。
そこに新たな集団が続々と集結し、編成を進めている。
新たな集団とはシュレジエン方面集団という。第13旅団を基幹として編成された部隊である。
 集団司令部を率いるのは、陸将補からシュレジエン方面集団を率いる必要から陸将へとなった福田定一だった。
海自の輸送艦だけでは集結に時間がかかる為、民間フェリーも動員して進められた。


573 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/04 15:22 ID:???
 今の所、成新島は第二期工事を、陸自施設科を動員して進められていた。
燃料に懸念があるから一気には進められないというのもあり、急いで造成する訳にはいかなかった。
では、民間フェリーの動員はどうなのだと言う声もあったが、目的が違うからと言いきっていたのだった。

 福田陸将が姿を現すとそこに詰めて既に業務を開始していた部員らが立ち上がろうとした為、それを手で押さえ自分
の机へと向かう。
そして、彼の机に置かれていた書類を一枚手に取る。
それは第71戦車連隊が昼ごろ到着する予定との報告書だった。
 これで我が集団が揃い踏みになるか。
報告書に署名すると別の箱に入れなおし、自ら業務についたのだった。




586 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/05 01:15 ID:???
「日本異邦戦記」

>>573の続き

東方暦1048年6月12日11時

 陽が中天へと差し掛かろうとするその下には、存在感を示しつつ立錐する白亜の塔を擁する外壁に囲まれた都市が、
緊張を高めつつあった。
外壁に立ち続ける兵らとともに立つ兵部総監の視線の先では、幾度目かの喚声があがる。
 今度の喊声は大きいな。
兵らもそんなふうに思ったか、総監に眼をやる者が幾人かいる。
不安に駆られる兵を安堵させるべく、総監と各指揮官は落ち着くように態度で示す。

 敵陣の喚声がやむや、大きく山が動いたかのような錯覚を覚えさせる。
陽光を受けて鈍く放つのは鎧兜をつけている証拠だった。
するするとその動きを早めつつ、外壁へと歩を進めてくる。

587 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/05 01:16 ID:???
 そして、敵兵らの先頭が中ほどまで来た時、何もない中空に淡く青い帯がいくつも走ったかと思うと火球が現出する。
そうやって生まれた火球が外壁へと降り注ごうとしたが、唐突に黄色く輝くハレーションに当たって消滅した。
まるで硬い壁に突進して砕け散ったかのような光景だ。
アストラスたち、宮廷魔法使いたちの援護だった。
だが、そんなハレーションを突き抜けるかのようにわずかな火球が外壁へとぶつかり、そこにいた兵を飲み込み巻き添
えにする。
「怯むな!持ち場を離れるでない!!戦いはこれからぞ!」
 そんな光景を目にするやすぐさま総監が叫び、その声で兵らに動揺がおきかけたのが静まる。
「王都を諸兵らが守らなくて一体誰が守るものぞ!勇者でなくとも構わん!ただ、己の責務を果たせ!」
 総監の言葉に守備兵の間から喊声が沸き起こる。

588 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/05 01:17 ID:???
 そうこうするうち、敵陣の中ほどにいる手前の兵が視認できるようになったのを見計らい、外壁の内にいる指揮官ら
が命じる。
「用意ッ!打てッ!!」
 まるで巨大なシーソーの先端に載せられた巨石が弾き飛ばされた。
 空を切り裂くような音が一斉に発生し、唸りを上げ敵兵の頭上へと降り注ぐ。
壁に向かって走りつつある敵兵らが、巨石の下敷きになる。
 続けざまに別の巨石が頭上に降り注いだ。
更に壁の上から、無数な矢が降り注ぐ。
それでも敵兵らの突撃は止まらず、いつしか壁にたどり着いた。
 弓兵らの半分を外壁にたどり着いた敵兵への対処に回し、残りはそのまま敵陣に攻撃を続けさせた。
外壁をよじ登ろうとする敵兵の頭上から煮えたぎった油が注がれ、これをまともに浴びた者が絶叫をあげて落下する。


589 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/05 01:19 ID:???

 そんな攻防が何度も続いた後、敵兵が城壁の上へとたどり着くが、待機していた領主兵らがたどり着いた所を即座に
切り伏せる。
城壁の上だと槍を使うには狭すぎる為、剣や斧を得物にしている。
刃に当たって光を反射する斧を振りかざすや、続いて登ってくる敵兵の腕を切り落とした。
既に城壁のあちこちで、同じような光景が出現していたのだ。

590 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/05 01:21 ID:???
6月12日12時

 王宮で、戦闘が行われている様子を観察している一団があった。
陸自シュレジエン交渉団護衛隊の長原三佐らである。
彼らの目にはシュレジエン軍が防戦を主導していると映っていた。
しかし、城壁に敵兵が登った事で状況が混沌としてきたと判断した。
 まずい状況だった。
シュレジエン側が手を打たなければ、兵数で劣る防衛側が消耗に巻き込まれ、早晩継戦能力を失う事は確実だったから
である。
 どうやら、それを兵部総監も判断したらしく、すぐさま別の部隊を投入したのが観察できた。
いまだ、王都バスムは健在だった。


591 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/05 01:25 ID:???
同日同時刻

 追撃を振り切った近衛兵団は、リキアルト卿の命で再編成に着手した。
部隊の指揮系統がばらばらなままでは、王都に辿りついたとしても戦えないからだった。
そこかしこで点呼が取られ、それぞれの部隊の集合が図られている。

 リキアルト卿の許に近衛竜騎兵団々長ノビクスの姿もある。
ノビクスもまた近衛竜騎兵らに一時の休息を告げ、自らの幕僚を引きつれてやってきた。
「なんとか脱出できたな」

592 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/05 01:26 ID:???
 ノビクスが卿を見やりつつ告げると、卿もそれに同意した。
「いかさま。確かにあの包囲を解けたのは奇襲が大きいからな。むしろ、問題は王都の方だ。王都を囲む敵は多いぞ」
「それに関しては、貴殿らの先頭に立って、我らが血路を切り開いて進ぜよう」
 卿は片方の眉を心もち上げると口の端に笑みを浮かべる。
「期待させていただくよ。・・・包囲を突破するにあたって、少なくない兵が死んだ。既に最盛期に比べ半数である近
衛兵団も今や消耗している」



593 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/05 01:27 ID:???
 その言葉にノビクスが見咎めるように顔をゆがめた。
「指揮官が弱気になってどうする!?弱気は兵に伝染するものぞ」
「すまぬ。わしとした事がついぞ弱音を吐いてしもうた。ノビクス殿、かたじけない」
「なに、構わぬ」
ノビクスは手元の椀に注がれていた水を口に含む。
「日暮れまでには王都の近くまでたどり着きたいが・・・」
「だが、兵の疲労も鑑みなければならん。良くて、王都まで後半日といった所だろう」

 2人の言に近衛兵団の幕僚が応じた。
「それですと、敵軍の後方の近くになります。警戒も厳しいと存じますが」
 その言葉に2人がふむと同時に呟いた。
確かにそうだった。
後方とは言え、敵の警戒は厳しいだろうからだ。
むしろ、敵地にあって警戒を怠る敵の方が珍しい。

594 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/05 01:29 ID:???
 近衛竜騎兵団の幕僚が発言を求め、リキアルト卿が許す。
「王都の南部に石羊山があります。軍勢を大きく南に迂回し、石羊山で夜を明かすべきであると進言します。
その後、夜が明けるを待って、敵が王都への攻勢を開始した時点で突撃を行うべきかと思います」
 王都そのものをある意味陽動にしようと言っているに等しかった。
が、彼らが取れる可能行動のうち、それがもっとも次善であろうと考えられる。

 石羊山は王都から半日の距離にはあるにはあったが、包囲網に入れようとしたら戦力が薄く伸びる事となり、逆に
邪魔になるから、包囲網の範囲外にあると判断できたのだった。
「確かに手持ちの戦力で効果的に王都に帰還するにはそれしかないか」
 ノビクスが簡単な地図を見つつ判断する。
その判断をリキアルト卿が支持した。
「よろしい。全軍に伝達。休息の後、石羊山に向かい進軍し、そこで夜を明かす。以上だ」

 その言葉で、彼らの後ろで控えていた伝令が各所へと飛び散っていったのだった。




618 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/05 19:23 ID:???
「日本異邦戦記」

>>594の続き

東方暦1048年6月12日14時
王都バスム

 アムデス軍は王都を攻めあぐねたかのように一旦撤収していった。
彼らが撤退した後は、戦いで死んだ兵士の亡き骸が無数に転がっている有様だった。
城壁の上でも、壁の外でも。
死臭をかぎ取ったのだろう。
カラスが空を飛び回っていた。

 アムデス軍が撤収した間隙を縫うようにして、味方の負傷兵や死んだ兵の亡き骸を収容する。
そこかしこで、うめき声をあげ、苦しむ兵があった。
 そんな負傷兵を同僚だった他の兵が見つけ、担架に載せる。
その収容半ばにして、再びアムデス軍が攻勢を再開する。
収容はそこで中断し、急ぎ迎撃が図られる。

619 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/05 19:23 ID:???
 敵陣と王都との中ほどまで進んできた敵兵の頭上目掛け、矢が降り巨石が舞った。
だが、巨石の数に限りがあるため、散発でしかなかった。
外壁にたどり着いた敵兵の上から最初の突撃同様、煮えたぎる油が降り注ぎ、さらに投石が落下してくる。
だが、敵兵は斃れても斃れても外壁をよじ登り続ける。

 再び、外壁の上へとたどり着いた最初の敵兵は、光を受けて刃がきらめく斧を手にした守兵によってすぐ様打ち倒さ
れる。
その敵兵を殴り伏せるやいなや、別の敵兵に立ち向かった。
斧を振り下ろした守兵の腕を掻い潜った敵兵が、守兵のわき腹に短剣を突き刺したが、別の守兵によって頭骨を打ち砕
かれ、息絶えるのだった。

620 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/05 19:25 ID:???
同日16時
シュレジエン王城

「今は善戦していますが、まずいですね」
 その言葉に、長原三佐は双眼鏡を手にして周囲を観察したまま口を開く。
「二尉もそう思うか?」
 二尉と呼ばれたその男━━シュレジエン交渉団護衛隊第一小隊々長、安達原和己二等陸尉は長原三佐同様、周囲を観
察しつつ、頷いた。
「はい。善戦しているのでは、必ず防衛側に破局が訪れますから。増援でも来なければ、持ちこたえられるものではな
いです」
 その言葉に長原三佐も同意した。
攻者三倍の原則とよく言うが、敵の兵数は防衛側の三倍以上である。
そして味方の増援はと言うと、全く期待できない代物だった。
何せ、アムデスは戦略規模での助攻を行って、他の同盟国が増援できないようにしていた。
それにアムデスの直接の脅威に晒されていない別の同盟国はと言うと、これもまた話にならなかった。
 アムデスからの鼻薬を嗅がされていたからだった。
ただし、かなり腐臭がするぐらいに甘ったるいものではあるが。

621 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/05 19:26 ID:???
 そしてシュレジエン国内もまた同様なのだから、何をかいわんやである。
東部領主のうち、王都防衛にはせ参じていないのがいるからだ。
風見鳥のように王都防衛を見ている。
ゆえにシュレジエン側は、崖っぷちに立たされていた。
「何時まで持つと思う?」
「何時ぐらいかは判りませんが、損耗率が同じであると仮定してこのような総攻撃が続くならば、明日が山だと思い
ます」
「本官も同意見だよ」
「近衛兵団なり竜騎兵でもいればまた違うのでしょうが」
「同じ事だ。遅かれ早かれ、必ず破局は訪れる。竜騎兵がいくら頑張ったとしてもな。竜騎兵は確かに強力だが、戦力
補充の充てがなければ同じ事だ」
「では黙って破局を待つのですか?」

622 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/05 19:27 ID:???
「それだと我々はどうなるのだ?死にに来たのではないんだが」
 安達原二尉の言に苦笑いを浮かべたが、依然として三佐は観察をやめようとはしなかった。
それに目は笑っていない。
「それでは?」
顔に双眼鏡をくっつけていた三佐は、そこで顔から離して両手で持ったまま胸まで降ろし、二尉に視線を移す。
「簡単な事だ。今やわが国はシュレジエンの同盟国だ。違うか?」
 その言葉に二尉はなるほどと頷いた。
確かに、日本はシュレジエンと軍事協定を締結し、同盟関係になっていた。
「このまま状況観察し、総攻撃が終わったあと、守備隊の損耗率を出してくれ。・・・何、総攻撃が中止するまで、そ
うは掛かるまい。もうすぐ日が落ちるからな」
「判りました。三佐はどこに?」
 踵を返して王城内へと戻ろうとした三佐は、一旦二尉に顔を向けつつ歩を進める。
「園山女史の所だ」

623 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/05 19:29 ID:???
同日同時刻
同地

 司令部にもたらされる報告は、今や洪水のように溢れかえっていた。
防衛の指揮を執る兵部総監は、最早一々報告を聞く事を放棄していた。
入ってくるのは同じような文言だったからだ。
代わりに総監の幕僚が報告に対する対応を図っていたのだった。
 今の所外壁から王都の街並みに侵入する事だけは必死の防戦で防げていたし、このまま行けば夜を迎える事で総攻撃
が一時中断される事となり、息が付ける。
しかし、息がつけるのは兵の間の事であって、司令部は全く息を付く事はできなかった。
深夜までやる事は多いのだ。

624 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/05 19:29 ID:???
 だが、問題はそんな所にあるのではなかった。
2度にわたる総攻撃で外壁に侵入した敵に対する手当てとして、予備の部隊を投入したのだが、投入した数が予定より
も多すぎた。
明日以降の総攻撃に対応する為の部隊すら投入する羽目になったのだ。
そして今も、入ってきた報告によって、予備の部隊を投入しなければならなかった。

 やはり戦力が違いすぎるか。
厳しい思いが募るが、兵部総監は顔にだけは出すまいと、必死に努力する。
指揮官たるもの、常に涼しげな態度でいなければならないという習わしに従っての事だ。
実際、指揮官の態度で兵の態度は違うものだ。

 そして、洪水のように入ってきた報告に変化が訪れる。
それは敵が2度目の退却をしつつあるというものだった。




673 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/06/13 11:58 ID:???

「日本異邦戦記」

>>../1085/1085566385.html#624の続き

東方暦1048年6月12日16時
王城

 安達原二尉らは、戦闘の終わった後、休息を取っている各部隊の状況調査の為に歩き回っていた。
やはり予測していた通り、最初に守備についていた部隊ほど、損害が多かった。
 街壁に貼り付けたまま、次々と別な部隊を投入してまで戦い続けなければならなかった事を意味していた。
2度目に総攻撃が開始されるまで一度は後方に下げたものの、幾度も窮地が続いた事でまた損害を埋められないまま
投入された部隊すらあったと言う事でもある。

 足で稼ぐ事で出てきた数字は、明日が山である事を物語っている。
戦う前と戦った後で7割もの損害を負った部隊もあったのだった。
その数字を前に二尉と言えど暗澹たる感覚を覚えるのだった。

674 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/06/13 11:59 ID:???

同日18時
王城内

 宮廷魔法使いらの何人かは荒い息をついて、座り込む者もあった。
何せ最初から最後まで、正規魔法を使い続ける必要があったからだ。
でなければ、とうの昔に王城まで詰め寄られていた筈なのだ。
 だが、こんなにも長時間使い続けると言うのはそうそうない。
魔法に長けるとされるエルフのアストラスですら、疲れたように椅子に座らざるを得なかったのだから、他の者は押し
て知るべしだった。

 確かに宮廷魔法使いに抜擢されるような人材であるから優秀であるが、それとて程度問題である。
しかもそんなに人数はいないし、魔法による防御壁を展開し続ける事は相応の疲労をもたらす。
かれらも生身の人間だから、当然だろう。

 ベッドに寝転がったアストラスはいつしか泥のように眠りこけるまでそう時間は掛からなかったのだった。


675 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/06/13 11:59 ID:???

平成15年6月15日20時
日本 成新島

 就業時間が終わって官舎へと戻った福田陸将の下に電話がなった。
受話器へと手を伸ばしつつ、時計を見ると20時を過ぎた所だった。

 連絡所に詰めている当直の部員からだった。
統幕直々に指令がでたらしいとの事だった。
通常の業務でそうそう、統幕から指令が下る事はないから只事ではない。

 そう判断した福田陸将はすぐ司令部に赴くと告げ、当直部員に対し全部員を司令部に呼ぶように命じた。
陸将が司令部に到着してからすぐ、続々と部員が姿を見せ、30分ほどで全員が揃う。

676 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/06/13 12:00 ID:???

 全員が揃った所で、統幕からの指令を読む。
その指令は実に簡潔極まるものだった。
 要するに、明日の日没までに王城を包囲している敵から解囲せよ、というものだった。
統幕からの情報から察するに、その意味が変わってきた。
 戦力の過半を喪失しており、正午までに増援が必要。
統幕から回された状況が、これを指し示していた。

 統幕からの指令には、シュレジエン方面集団が必要とするものは兵力以外なら全て応じるとまで書いてある。
事実上の白紙委任だった。

677 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/06/13 12:01 ID:???

 これを受け司令部では状況分析に基づく幾つかの可能行動を立案する。
その可能行動を受け、福田陸将は作戦案を決心した。

 福田陸将らの起てた案とはこうだった。

 目的。
 シュレジエンの王都バスムを解囲する最大の労力を動員する事。
解囲が難しい場合、政府中枢を確保せる事。

678 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/06/13 12:02 ID:???

 いつ。
 最悪王城が陥落するまでに。

 どこで。
 王都へと戦力を派遣する。

 どのように。
 甲。空挺団の投入により、王城を死守せる事。
 乙。午前中までに、全力でもって大陸に上陸し王都に急行する事。


680 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/06/13 12:03 ID:???

 ここで、甲案、乙案それぞれについて、検討が行われた。
すなわち、この2案が抱える問題点ならびに敵の行動予測である。
これにより甲乙両案を折衷する事が決定し、福田陸将は作戦発動を決心したのだった。

 シュレジエン方面集団司令部の作戦案に伴う諸々の作業を、防衛庁はお役所仕事とは思えないほどの精力さでも
って、関係各方面との折衝にあたった。
特に力を入れたのが、船会社からフェリーをチャーターする事だった。

 夜半突如、防衛庁からの電話で叩き起こされた各会社の代表取締役らは、突然の事に口をあんぐりとあける。
防衛庁は、渋る彼らを相場の4倍ものチャーター料を提示し、国交省には自衛隊の行動に対し、フェリーの緊急出航
に対し、協力を要請するのだった。


681 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/06/13 12:04 ID:???

東方暦1048年6月13日9時
王都

 じりじりとした焦燥に似た緊張が、いたる所で圧力を高めつつあった。
王都の市民らは、朝食に手をつけるも一向に進まない者が多かった。

 その緊張は、アムデス軍が攻撃を開始した事で破られる。
前日同様、敵が自らの陣から王都まで半分進んだ所で街中から巨石が降り注ぐのだった。
だが、それは先日よりも脅威ですらなくなっていた。
多分に集められた巨石が最早切れかけている事を意味している。

 その代わりと言ってはなんだが、弓兵らの射撃は変わらず激しい。
その矢の洪水の中を、アムデス兵らは駆けたのだった。

682 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/06/13 12:06 ID:???

 ふと何かの気配に気づいた守備兵の一人が南に視線をやる。
自分の気のせいかと思いつつ、目を凝らすと何かが飛んでいるらしかった。
疑念に思いつつ隣の同僚に、あれはなんだと声を掛ける。

 その間に空に浮かぶ何かが次第に形あるものへと変わっていく。
その何かはそう、竜だった。
それも多数。


684 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/06/13 12:07 ID:???

 一斉に誰もが声をあげた。
竜騎兵だ!近衛竜騎兵がきてくれた!!

 それまで、悲壮感すら漂っていた守備兵らの間で歓声が沸きあがる。
それに、敵の後方でも動きが慌しくなった。
その先には黄色と青の二色を有する軍旗を掲げた集団が、駆け足で進軍する様が見えた。
近衛兵団だった。



347 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/18 21:57 ID:???
 とある地に、男たちは辿り着いた。
戦役を通して、主な戦いに参戦し続けた男たちが。

 戦役が終わった時、彼らの武器は既になく。
いつしか別な武器となっていた。

 それでも男たちは戦い続け。
希望は戦役が終わると共に、蜃気楼のように消え去っていた。

 男たちとともに戦った者は引きとめたが、彼らの意思を覆す事など出来なかった。
望郷の念に勝るものなど、ありはしない。

 男たちとと共に戦った一族もおり、彼らもまた男たちと共に旅立った。
なぜなら、帰る地は既になかったから。

 そして。

 風が吹きすさび、土ぼこりが舞う地に辿り着いた男たちは、そこで生き抜く事を決意する。

348 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/18 22:09 ID:???
 それから幾星霜。
その地に、一人の少女がいる。
少女の意思は固く、そしてそう言う事ならばと曽祖父は留めなかった。
もっとも、両親は止めたけれど。
軍に入りたいというのだから、当然だろう。

 そして、少女は軍の入隊審査を受け、合格した。
審査とそれに伴う適性検査によって、少女は軍学校の門をたたく。

 軍学校で2年の月日を過ごし、士官として配属された先は国境警備の任につく監視隊だった。
少女よりも年配な下士官や、やる気のない兵などのいる雑多な監視隊の一部隊の新任の隊長として。


350 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/18 22:20 ID:???
 下士官は少女が隊長として、配属された事にやや不満を抱く。
なぜ少女如きに、自分が指図されなければならないのかという感情。
 確かに顔に不満が出ていたのだろう。
その下士官に、恐る恐るではありながら、それでも彼に部隊の事、指揮の事など色々聞いてくる少女に、
いつしか、そんな不満は消えていた。

 部隊内はこうして、下士官の力も借りる事ができるようになりようやく軌道に乗ったと言えた。
それでも国境監視は退屈で単調だった。

 代わり映えのしない赤茶けた大地、はるか遠くに見える山と思しきもの。大地にすがり生きる者の上をただ通り過ぎ
るだけの雲。

 だが、そんな単調な日々は唐突に終わりを告げる。
遥か彼方より、土煙が沸き起こってるとの報告が入ったからだった。
すぐさま少女は隊を率いて、報告のあった場所へと急行する。

351 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/18 22:31 ID:???
 目を凝らしてみる内に、その土煙は急激に大きくなっていく。
それは異形の初めてみるものだった。
すばらしい速さで走りながらも意思のなさそうな事から、それは生き物では無さそうだった。
 しかし、そうであるならその先頭に、馬か何かが繋がれていてしかるべきだった。
馬より早いと言えば、地竜以外には考えられない。
だが、それらのあって然るべきものが存在しない。

 驚き口々に私語を交わす只中で、少女は一人目を瞠っていた。
彼女の胸に去来するものがあったからだ。
 それは幼き日に、曽祖父が寝る時の子守唄代わりに聞かせてくれた話にでてくるものによく似ていたから。
それが本当なら━━━。

「全隊へ!第一分隊は支部までただちに報告に向かえ!第2・3分隊は私と共に彼らの近くへ行く!」

352 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/18 22:38 ID:???
 命令が下されるや、誰もがはっとなり、少女に注意を向ける。
「待ってください。あれが何か判らないのでは危険すぎます!ここは監視の為、距離を一定に保つべきです」
 下士官が慌てて進言するが、少女は一向に意に介さなかった。
「大丈夫よ。私の記憶に間違いなければ、彼らは危険でないわ」
 その言葉に驚いた下士官はなおも反対しようとしたが、少女はここぞとばかりに命令を続ける。
「復唱は?」
 下士官はそこで反対しようとするのをやめる。
やはり少女にはそこまでの頭はないのかという思いでいっぱいだったが、皆が注視する中で手を出すわけには
行かない。
 自分の命運もここまでか、などと思いつつ、復唱する。
走竜の頭を、見慣れぬ物体へと向け、走り出す。

353 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/18 22:54 ID:???
「ここで止まれ!ここより先は新土である!無法を働くならば容赦せぬが如何!?」
 少女が見慣れぬそれに対し、声を発する。
もし曽祖父が聞かせてくれたのと同じなら、それから人間が出てくるはずだった。

 耳障りな音を立てつつ少女の横で止まったそれを、少女に率いられた兵は恐れと珍しさが交差する眼差しで
穴が開くのではないかというぐらいに見つめる。
 
 その少女というと、懇願ににた眼差しなのだった。
いざという時に備えて、槍を握り締める。
ただ、それに対して槍が利くのかどうかは判らなかったが。

 少女の目の前で、板のようなものが唐突に開く。
兵の間で、思わず驚きの声が漏れる。

 出てきたのは視線の鋭い青年だった。
「国土を荒らそうと見えたのなら、謝ります。私の名は、細谷仲登と言います。所属は日本国航空自衛隊北方方面航
空隊前線管制隊地上監査班です」

354 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/18 23:03 ID:???
 日本国。
その言葉に思わず少女は口に出した。
「東の海にあるという島の名ですか?」
「なぜそれを?」
 地上監査班の者だと名乗ったその青年は怪訝そうな顔をする。
「曽祖父から聞いた事があるから。昔、曽祖父たちはそこで住んでいたって」
 それを聞いた細谷二尉は、聞き慣れないものでも聞いたかのような表情を作ってしまう。
「まさか!」
「本当らしいです」
 少女は青年の言を軽く否定したのだった。

「よければ、貴女の曽祖父に会いたいのですが、入国してもよろしいでしょうか」
「所属はコウクウジエイタイと言いましたよね?」
「そうですが、それが何か?」
「曽祖父はリクジョウジエイタイと言う所にいたそうです」
「陸自にいたと言うんですか!?」
「そう聞いてます」


355 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/18 23:12 ID:???
「あなた方に敵意はなそさうですし、入国を歓迎いたします」
 そう言って少女は制帽に右手をやり敬礼した。
青年は反射的に体を傾け答礼する。

 そのやり取りを見ていた下士官が懸念を口にする。
「入国を許可してよろしいのですか?」
「私の曽祖父と同じような雰囲気があるのよ。それにこの国がどうやって建国した知っているでしょう?」
「それは知っていますが・・・」
 言いよどむ下士官に、少女は頭を下げた。
それをみて下士官は慌てて、頭を上げるように言うのだった。
 少女の勝ちだった。


356 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/06/18 23:17 ID:???
 建国暦61年。
それはこの何もない大地に、男たちがたどりついたからの年数でもあった。
男たちがここにあたらな故郷を作った時間でもあった。
 
 その新しい故郷の名は、新土と言う。
監視隊の一隊を率いる少女に案内されて入国してきた同胞に、生き残った男たちが出会うその瞬間だった。

 その後の話はまた別の物語である。

                                             終


323 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/07/07 00:50 ID:???
「日本異邦戦記」
外伝
新大陸を発見せよ
1
 
 足掛け2年にわたった大陸戦役が終結して、はや10年。
日本を巡る環境は変わる気配すらなく、誰もがこのまま、この新世界で暮らしていく事を受け入れつつある。
 大陸戦役は極めて険しい状況、破滅の一歩手前で終結した。
日本が敗れると言う事ではなく、社会全体が崩壊する寸前だと言う事だった。
 あれから、日本国内も随分変わった。
国内には、異種族の姿も散見する事ができるのだから、当然だろう。
 食料の供給は、シュレジエンを初めとする東部諸国からの輸入によって切り抜けるとともに、農業技術を
輸出する事により、シュレジエン南部は有数の穀倉地帯と化していた。
 餓死者を、なんとか出さずに切り抜ける事ができたのは奇跡に近い。
また、日本の燃料供給は、石油から、シュレジエンにおいて発見されたブルジウムによる供給に切り替わっ
ていた。


325 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/07/07 01:21 ID:???
2
 これらが戦役終結から、10年が経った日本の現状だった。
そして、落ち着きを取り戻した今、シュレジエンなどがある大陸以外に、他の陸地がないか探索すべきとの
機運が高まるのは当然とも言えた。
 ここに、新たな国家プロジェクトが発足したのである。
 このプロジェクトを推進するに当たっては、様々な角度から検討された結果、船舶が適当であった。
航空機の場合、燃料補給はどうするのか、また見つからなかった場合、気象の変化によって、不時着しな
けれならなくなった場合はどうするのか、という点から船舶が選定された。
 この船舶についても、長期に渡る航海は必然である所から、居住性には最大限注意が払われる必要があ
った。
また、各種観測をする必要から探査機器も色々と積み込まないといけないし、それに大陸が見つかった場
合、植生や生物分布や、バクテリアなどの微生物などの調査も必要な所から、かなりの人数を要するのは
明らかだった。
 その結果、この船舶の性能諸元は次のごとく定まった。

基準排水量:16,020t
乗員:120名
定員:172名
その他:大小各種クリーンルーム、解剖室、採水器、採泥器、水温記録器、海底音波探査機、音響測深儀、電磁
海流計、自記流向流速計、遠隔温湿度計、風信儀、塩分測定機、海中雑音測定装置、気象用ファックス、
気象用無線テレタイプ、TSピンガー、STDV等、探査に必要な機器を搭載

326 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/07/07 01:29 ID:???
3
 なお、主機については、燃料問題により、技術的な冒険が試みられた。
海流発電がそれである。
船舶が、航行するときに得られる海流の勢いで、タービンを回して、発電すると言う方法である。
 また、その船舶の任務上、動揺制振装置、各種スタビライザーなどの艤装が施されていたのだった。
 新規に建造する場合と既存の船舶を改装する場合のコストを比較し、あまり変わらない事も確認さ
れた事で、新規に建造する事が決定された。

327 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/07/07 02:05 ID:???
4
 起工から2年経った今、多くの見物客が三菱重工長崎造船所に訪れていた。
大陸探査計画のもと、竣工する探査艦を一目見ようとしたためであった。
 探査艦。
 新たに採用された艦種である。
 艦名は、「すおう」。
周防灘から命名された。
 神主による儀式の後、艦名が発表されるや、どよめきが起き、その中を「すおう」は
ゆっくりと船台を滑り出したのっだ。
 これから艤装を施し公試を行った後、艦籍編入が行われるのだった。


466 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/07/10 10:39 ID:???
唐突に、SS投下

「日本異邦戦記」
外伝
新大陸を発見せよ

5
 要求性能で出された基準排水量16,020tの艦体は、進水式以前の段階で、それを超えてしまっていた。
なにせ、必要な各種装備を搭載する必要があったからだ。
 その装備の中には、危険度の高い細菌を扱う事のできる隔離室なども存在していたし、新大陸を発見した場
合、危険な猛獣がいるかも知れないため、上陸した探査チームの護衛を行う部隊が乗艦する必要もでたのだ
から。
 結果、最終的な性能諸元は、
基準排水量 19,536t
速力    巡航 19.1ノット、最大速力 23.4ノット
機関    電気推進式
乗員    122人
定員    253人
最大定員  280人
装備    航空機 UH-60JA X2
          CH-47J X2
      各種探査装置、各種実験室
となった。
 

467 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/07/10 11:03 ID:???
6
 なお、航空機がそれぞれ2機ずつあるのは、一機が故障してももう一機が運用できるようにした為である。
 公試は、未だ夏の残滓を残す9月に断続的に行われた。
技術的な冒険が行われた海流発電━━どちらかと言えば、水流発電が適当だろう━━は、低速でこそ問
題なく稼動したが、速度を23.4ノットつまり最大速度にあげた途端に問題が露呈した。
 それは水流の速度に対し、水流の勢いを受け取る為に艦体に収められたブレードが耐え切れなかった
のだ。
 その事実に、関係者は衝撃を隠せなかった。
海流発電の正体は、実は巨大な水車でしかない。
 言葉で表すと簡単な事のように思えるかもしれないが、そこには現代の日本の科学の粋が集められてい
るのだ。
 すおうが必要とする電力は、この海流発電によってバッテリーに蓄積されこれを増幅器によって、各部が
必要とする電気を供給する仕組みになっている。
 このバッテリーが艦内各部に最大電圧で供給できる時間は、最長7日間である。
 通常は海流発電によって得られた電力をバッテリーに蓄積しつつ艦内に賄われるが、陸地の沿岸部に留
まる場合は、バッテリーを使用する。
 

468 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/07/10 11:14 ID:???
7
 もちろん、すおうにもシュレジエン産のブルジウムから作られた液体燃料はあるが、それはあくまでも
長期滞在が必要になった時や、海流発電に問題が生じた際に使用されるいわば非常用であるから、お
いそれと使うわけにはいかないのだった。
 とにかく、関係者らはブレードが収められた筐体を取り出して分解を行った。
どこに問題が発生したか確認する為だった。
 分解したところ、関係者はさらなる衝撃を襲った。
あらゆる部分、ブレードや軸受けなどに金属疲労や磨耗によるとしか思えない破損や分断が生じていた
のだ。
 関係者らは、すぐさま問題を解決すべく東奔西走する事となった。
 海流発電こそが、すおうの心臓部分なのだ。
これが機能しない事には新大陸発見計画も画餅と化す。
それほど重要なのだった。
 金属疲労が起きたのは、強度が足りない為である。
そう考え、海流発電に適した素材を片っ端から試してみるとともに、筐体の構造についても見直しが図
られた。

469 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/07/10 11:26 ID:???
8
 水槽実験を幾度となく試して、これはと思うものが出来上がった事で再びすおうの中に、ブレードが
収められた筐体が搭載され、再度公試を行なう。
 関係者らが固唾を飲んで見守る中、すおうは速度をじょじょに増しつつ、公試海域を波を割って進ん
でいく。
 すおうの後ろには、すおうによって作られた波が白く泡立って航跡をつくっている。
やがて、最大速度へと速度を増す。
 とある関係者は、わが子を見るような気持ちで硬く拳を握り締めた。

 行け、羽があるがごとく、行け。

 問題なく、航行している事が伝えられるや関係者らは、大きく歓声をあげた。
 やった。すおうが走れる。
 公試を終了したすおうは、その後艦籍に編入され乗員や消耗品をこれでもかと言うぐらいに積み込む。
 
 いよいよ、未知なる大陸へと向けて、すおうが旅立つ日がきたのだった。



663 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/07/20 01:53 ID:???
「日本異邦戦記」
外伝
新大陸を発見せよ
9

「井倉一尉、命令により出頭しました」
「楽にしてよろしい」
「はっ」
 上司の元に出頭した井倉一尉は、その言葉で休めの姿勢を取る。
大陸戦役に生き残った一尉は、自衛隊に残る事を決めていた。
最初の戦闘から、ここまで良く生き残れたと自分でも感心したのだ。
 そして、折からの人材の払底に苦しむ自衛隊が士官の拡充の為、下士官枠をかなり大きくした事と
相まって、士官になる事を希望した。
 葛重二佐もまた推薦状を書き、かくしてここに一人の士官が誕生したのだった。
その後は教官を長らく務める。
 一尉のもつ技術を伝える為だった。
「貴官も知っているだろうが、現在国家プロジェクトとして新大陸探査計画があってな」
 そこで言葉をきった上司に、一尉は軽く答えた。
「新大陸を首尾よく発見した場合、上陸して調査する事となるが、その際、何が待ち受けているか判ら
ないというのがある。
 そこで調査隊を護衛する為の部隊が必要なのだ」
「それで小官に何をせよ、と仰られるのですか?」
「そう急かすな」
 そう言って苦笑した上司は腕組みをする。
「経験を積んだ士官をその護衛隊の指揮官を欲しいと注文を付けてきたのでな、人事部にそういうの
がいないか、頼んだら貴官を紹介してきたと言う事だ。
 判るな?」
「つまり、小官にその部隊の指揮を取って欲しいと言う事でしょうか」
「そういう事だ。貴官の考課表を見せてもらったが、なるほど歴戦の下士官だと思った。
本官としても、貴官に指揮を執ってもらいたい」
「命令とあらば、指揮をとります」

664 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/07/20 02:16 ID:???
10
「命令であるならと言うなら、命令だ」
 日が中天から傾き始めた日光が室内を照らす中、口の端をやや曲げて薄く笑った上司の顔の右側に
影を作る。
「命令、井倉一尉は10日0800をもって護衛隊に着任、翌11日1000をもってすおうに乗艦せよ」
「はっ。10日0800を持って護衛隊の指揮を執り、翌11日1000にすおうへ乗艦します」
 上司に対し敬礼すると、井倉一尉は踵を返した。

 護衛隊の面々は第一空挺団から選抜された一個小隊40人だった。
この日初めて、辞令を受けて集まった。
 その前に立ったのは、井倉一尉である。
井倉一尉は簡単に挨拶と訓示を行い、全員と面通しをした。
 これからしばらくは同じ船の中なのだから、今のうちに相手の事を知っておこうというのだった。
 その後井倉一尉らは輸送車に乗り込むと、すおうが待つ横須賀へと向かった。

665 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/07/20 02:29 ID:???
11
 盛大な式典が天皇陛下ご臨席の上、執り行われその訓示を神妙に参加者全員が聞き入る。
 式典の締めくくりとして、艦長を初めとする人々がすおうに乗り組み横須賀を離れた。
 今回の計画は4次に分かれている。
 第一次はすおうによる5ヶ月ほどの航海である。
行きに2ヶ月、帰りに2ヶ月。
 残りの一ヶ月は、万一に備えての期間である。
 いくら公試が終わったといっても、やはりすおう自体が試験艦のようなものだから、という事で
ある。
 成新島へと一度立ち寄った後、舳先を大陸とは反対側へと向け、何もない大海原へと乗り出
した。
 そこで異変がすおうに生じた。


666 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/07/20 02:45 ID:???
12
 異変に気づいたのは、分電室である。
とあるランプが赤くなった事に気づいたオペレーターの一人が、上司に報告したのだ。
 不審に思った上司はすぐさま、原因を突き止めるべく応急班から2人をまわしてもらった。
赤く着いた場所は、バッテリーが収まってる船室と第一発電室をつなぐパイプの周辺だった。
 そこに辿り着いた2人が目にしたのは、白い煙を吐き出しつつあったパイプ群とバルブであ
る。
 すぐに近くの電話機から報告を行い、指示を求める。
艦橋にもこの事は知らされ、応急班が駆けつける事となった。
 その間に最初に駆けつけた二人は、圧力弁とバルブのいくつかを操作して対処し、分電室
の方でも二人に状況を確認しつつ指示をだした。
 その努力が実ったのだろうか、応急班が駆けつけた頃には一応の処置が施され、危機を乗
り超えたように思えたのだった。
 だが応急班がその二人に声を掛けた瞬間、二人の背中に高温の蒸気が吹きつけられ、悲鳴
を上げつつ、壁面へと叩きつけられた。
 パイプとパイプを結んでいた結節部が破裂したのだ。
 この破裂と同時に、今度は別のバルブから勢いよく火が噴出し、火の海と化す。
 応急班が壁に叩きつけられた二人を救うまもなく、二人の影が火の中へと消えた。

860 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/07/29 02:29 ID:???
「日本異邦戦記」
外伝
新大陸を発見せよ
13

 すぐさま、艦橋に事故が発生した事が伝えられるや、艦内の見取り図が持ち込まれる。
それと同時に、火災発生現場付近の人間を非難させ、さらに消化班を増強した。
 応急班は泡沫消火剤を投入し、火災を消しとめようと火災発生箇所に近づこうとしたが、火の勢いが彼らに勝
った。
耐火服を着用していない為、近づく事さえできず、火勢を押しとどめるだけに終わっている。
 消化班の到着を待つ以外になかった。
 一方分電室では、バッテリー室と火災発生箇所が近い事に危機感を抱く。
バッテリー室を火が回れば、最悪、すおうそのものが轟沈しかねないからだった。
 轟沈しないまでも機能が停止しかねない。
 非常用バッテリーも搭載はされているが、それはあくまでも主電源が復旧するまで稼動する性格のものであり、
非常用バッテリーから回そうにも火災そのものがバッテリー室に近く、万一の事を考えればさらに延焼しかねな
い。
 艦橋では、見取り図を確認した結果、沈黙で覆われる。


861 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/07/29 02:57 ID:???
14

 なぜか。
 それはすおうの構造にあった。
 バッテリーから取り出された電力は、配電器を通して艦内各部へと回されるのだが、配電器を通った後で
電圧増幅器に流され増圧されてから実際に供給される。
 電圧増幅器やバッテリー室には、日本ガイシ謹製のガイシによって漏電を起きないように守られているが、
今回のような場合では無意味だった。
 非常用として搭載されている内燃機関の場合は、蒸気によって発電機のタービンが回る事で発電するのだ
が、バッテリーを通す場合と通さない場合の2つがある。
 通す場合というのは、もちろんバッテリーに問題がない時で、通さない場合と言うのはバッテリーに問題が
ある時だった。
 今回の火災も大きな範囲で言うと問題がある場合なのだが、問題はそこにあった。
このままでいけば、内燃機関もただあるだけの状態と化してしまうのだから。
 さらには経済性を稼ぐ為に、艦体の基本構造が商船形式になっているのも大きかった。
 注水しようにも、以上の事から電力供給が止まりかねなかった。
 ここに至り、艦長━━須藤一佐は、成新島に向け救援要請を行うとともに、総力をあげて消火に尽力する
事とした。

862 名前:政府広報課 ◆F2.iwy/iJk :04/07/29 03:27 ID:???
15

 だが、救援要請を出すとともに、激しく大きな揺れがすおうを襲う。
艦内の誰もが、不意に襲った衝撃でなぎ倒された。
 火勢がバッテリー室の防火扉を喰いちぎったのだ。
消化班がバッテリー室側へと向かい、消火活動を開始しようとしたその矢先だった。
 その衝撃で、電圧増幅器が爆発するように出火した。
内部でショートしたのだった。
 瞬時に艦内が暗闇に覆われ、激しく燃える火の光だけが明るかった。
 10秒ほどして、非常用バッテリーが稼動したのが、電灯がついた事で判る。
「やむをえん!出火箇所に対して注水するッ!該当区域にいる応急班には退避命令をだせ!」
 最早火災を消し止めるには、注水以外に手はなくなったのだった。
 須藤艦長の命により、注水が始まる。
 こうして消火は終わり第2発電室が機能したが、生命維持機能までは供給ができない状態となったのだった。

 成新島より駆けつけてきた護衛艦が、満身創痍のすおうと合流したのは、それから8時間余りの事だった。


230 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/08/10 06:38 ID:???

「どうした?」
「木花咲耶って言ったら、富士山のご神体で女神ですよ」
 その言葉に、一同目を丸くしたとかしないとか。
 ここで驚いていても仕方ないので、隊に戻って報告する事になったとか。
 木花咲耶媛が次の生贄に要求されたとかで、これは見過ごす訳にもいかんだろうと、災害救助と強引に決め
付け、蜘蛛の化け物退治に乗り出す中隊の皆様。
 風向き確認しつつ、煙を穴に流して燻りだす作戦を決行して、見事退治したようです。
 
 それで、中隊はどうなったかって?
 現代に戻れたとか、未だ神話世界をさ迷っているとか・・・。

       お後がよろしいようで。

 続くのだろうか(汗


751 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/08/22 17:59 ID:???

「日本異邦戦記」

外伝
新大陸を発見せよ

18

 この調査報告がもたらされるや、建造計画に修正が図られた。
 具体的には、バッテリー室や機関などの分散配置である。
 それとともにより一層の安全対策がほどこされる事が、計画に盛り
込まれた。
 すおうの場合は改装した場合、新造したのとあまり変わらなくなるた
め、そのまま補修する事となる。
 かくして、補修が終わったふそうが船渠から出てきたのは、既に冬が
訪れた頃だった。
 どんよりとした空からちらほらと風花が舞う中、見送りの家族や報道
陣でその周囲だけ気温があがったように感じられる。
 もちろん空に報道陣のヘリが飛び回っているのは、いつもの光景と言
えた。
 成新島に立ち寄るのは、以前と同じである。

752 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/08/22 18:01 ID:???

19

 成新島に寄航したすおうは、一路西へと向かう。
 海底探査などを行いながらの航海であるため、その歩みは遅い。
 この海域にまで足を運ぶと、本国の寒さは既に感じられなくなってい
た。
 この事からもこの地には、気候区分がある事は確実であろう。
 だが、調査班はそれでも油断はしない。
 なにせ、魔法などというものがある世界だ、精霊がいてもおかしくはな
いだろう。
 ひょっとすると精霊のせいで、気候がおかしい地域もあるかもしれない。
 船乗りや飛行機乗りにとっては、地平線より先が見えない事から、こ
の地が惑星だろう事は確かだった。
 そうでなければ、かなり遠くまで見渡せるはずだから。
 だから少なくとも国内において、球体だろう事は、同意が得られている

753 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/08/22 18:02 ID:???

20

 日本を離れて既に一月が経過した。
 そろそろ、何かしらの変化があっても良いはずだったが、音沙汰なしだ
った。
 探査機器から得られる結果も同様だった。
 一向に変化しなかった。
 そして、2ヶ月が過ぎようとしていた。
 計器の一つから吐き出されるデータに一人の観測員が気づく。
 海流探査器が、変化したデータを出していた。
 どうも、南西あたりから海流が合流しているようにしかみえないのだ。
 どの程度の幅と深さになっているか、そしてどこに続くのか調査する必要が
あった。
 陸地の近くから合流しているのかもしれないし、そうでないかもしれなかっ
たが。

754 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/08/22 18:03 ID:???

21

 だが、ここは既に南半球な筈だから、コリオリの力は直角左に働くはずだった。
 しかし実際には歪んでいる。
 とすると地衝流が働いていると考えるのが自然だった。
 そして、音響探査から上がってくるデータも、海底に変化が生じた事を告げてい
る。
 だが、彼らの調査はそこで打ち切らざるを得なかった。
 帰りの食料をそろそろ計算し始めなければいけなかったからだ。
 無念ではあるが、引き返す他になかった。
 だが、次の航海でその海流の先に向かう事だけは、誰の目にも明らかだった。

755 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/08/22 18:04 ID:???

22

 今度はこの海流を辿っていく。
 その先には何があるのか。
 誰もがそう思いを馳せる。
 そして、それから数ヶ月が過ぎた初夏、すおうは再度航海に出る。
 前回の乗員と調査班を乗せ、あの海流の先に。

 時に平成28年。
 新たな陸地が見つかった事が、日本に知らされるや国内に一大反響が起きた
のだが、それはまた別の話である。

                 「日本異邦戦記」
                 外伝
                 新大陸を発見せよ
                       
                      「完」



332 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/09/08 03:12 ID:???

「日本異邦戦記」

東方暦1048年6月13日10時
王都南方

「諸兵らよ、これより王都に入城し防備につく!敵の只中にあって血路を開け!」
 近衛兵団長リキアルト卿の声に、ときの声があがる。上空では竜騎兵らが所定の任務に応じ二手に分かれる。一方
は近衛兵団の支援に、もう一方は魔法使い団を王都に送り届ける為に。すばらしい速度で敵陣へと飛来した竜騎兵ら
が連続して火球を放ち、五月雨のように降り注ぐ。その火球を目の当たりにした敵兵らが逃げ惑う。

 だが、長弓から放たれた何本もの矢が上空に放たれ、かなり近くまで降りていた竜騎兵に当たった。竜の背に乗っ
ていたその竜騎兵は背中から転がり、地上へと叩きつけられるように落ちていった。心の奥低で繋がった赤心の友と
もいえる相棒を失った竜は、怒り狂い火球を所構わず吐きまくる。だがあまりにも怒りにわれを忘れ高度を下げてい
た事で、逆に長弓の餌食とかし無念の叫びを発しつつ落下していった。そうして一体また一体と無数の矢を浴びた竜
が乗り手ごと落下するも、地上のアムデス兵たちに対し多大な犠牲を強いる事で、近衛兵団の突撃を助けていた。


333 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/09/08 03:12 ID:???

 太陽がうっすらとではあるが西の空に浮かぶ月を追いかけつつ、中天へと駆け上がりゆっくりと流れる雲の端に陽
光が反射してきらめく光を地上に浴びせる中を、まだ態勢が整いきっていないアムデス軍の後背へと近衛兵団が吶喊
をかけた。戦力の過半を失ったとは言え、王都への帰還を目的とする近衛兵団に取って、敵を撃破する事が作戦目的
ではないのだから血路を切り開く事に専念すればよく、逆にアムデス軍は彼らの王都への帰還を防ぎとめなければな
らない為、そこにリキアルト卿は活路を見出していた。問題となるのはただただ時間のみだった。近衛兵団に取って
時間こそが最大の敵なのだった。

 吶喊を叫びつつ近衛兵らが盾を構えるアムデス兵に向かって槍を前に倒し、体毎アムデス兵の盾に体当たりでもか
ますかの如く、突き進む。その突撃衝力を支えきれず、盾を落としたアムデス兵らが命を落とし、盾をしっかりと保
持しえた別のアムデス兵らが無我夢中で突きたてた剣で体のどこかを刺された近衛兵が、もんどりうって倒れ付した
所を、後続の兵士に踏まれ落命する。両軍が激突すると同時にみるみる内に混戦状態と貸し、敵味方の判別が付かな
くなった。

334 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/09/08 03:13 ID:???

「ひるむな!前進せよッ!」
 声を大にして近衛兵を励ましつつリキアルト卿は、部隊の先頭に立ってまるで王都への道があるかのごとく、次々
と姿を見せるアムデス兵を相手に蝸牛の如き速さになりつつも前へと歩を進ませる。馬上から槍を振り下ろし、群が
るアムデス兵らを突き伏せ、今度は右から剣を繰り出してきた敵兵の脳天から、槍を叩き落すように薙ぎ払われたア
ムデスが脳漿をばらまきつつ絶命した。混乱してはいるものの、まるで分厚い壁が聳え立っているかのような錯覚に
囚われつつも、先頭に立ち続ける卿の姿を見やりつつ、近衛兵が少しでも王都に近づこうと死闘を繰り広げる。

 だがアムデス軍が王都包囲網から戦力をやりくりして抽出した兵力があてがわれるにつれ、近衛兵団の速度がアム
デス軍の中ほどで、足を止めさせられるのにさほどの時も必要としなかった。近衛兵団の苦境を見て取った竜騎兵団
が、アムデス軍の包囲から近衛兵団を救う為に、火球をより効果的にアムデス軍に放つべく降下するが、それは自ら
の犠牲と引き換えにするもので、自らの乗り手に対し弓矢の餌食となるのを嫌がる意思を見せる竜に、乗り手たちは、
すまない、という気持ちを強く見せ、心の奥呈で繋がりあっている竜の多くは、そのすまないと言う気持ちを感じ取
ったがゆえに悲しげに一声鳴くも、乗り手の意思に付き合ったのだった。

335 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/09/08 03:14 ID:???

平成15年6月16日同時刻
シュレジエン東方海上

発 シュレジエン方面集団総監部総監 陸将 福田定一
宛 各級部隊

                                平成15年6月15日

1 シュレジエン方面集団総監部は下記の事を命ずる。

1 シュレジエン方面集団は16日1000時を持って、王都防衛戦に参加する。

336 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/09/08 03:15 ID:???

1 王都防衛作戦の名称を「青号作戦」とさだめる。

1 「青号作戦」の第一目的は王都防衛にあり、それが達成しえない場合政府中枢の東部海岸地帯への脱出を支援する
  事にある。各指揮官はこれを念頭に置くように。

1 「青号作戦」参加部隊及び秘匿名称は以下の通りとする。
  第一空挺団「マンシュタイン」
  第十三旅団「ハルダー」
  第七十一戦車連隊「ホト」
  第一ヘリコプター団「グデーリアン」
  シュレジエン軍王都守備隊「パウルス」

337 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/09/08 03:15 ID:???

1 地名及び敵部隊の秘匿名称は以下の通りとする。
  成新島「ベルリン」
  王都バスム「スターリングラード」
  王城「ドン」
  シュレジエン東部海岸「ヴォルガ」
  シュレジエン侵攻軍「ワシレフスキー」
  王都包囲軍「ジューコフ」

338 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/09/08 03:16 ID:???

1 作戦方針について以下の如く定める。
 イ.「マンシュタイン」は900時までに、「グデーリアン」に搭乗し、もって「ベルリン」を出撃。
  「ヴォルガ」に到着次第、「グデーリアン」に懸架せる高機動車をもって「スターリングラード」近郊に戦力を
  集結せしめ、「パウルス」に合流せよ。
 ロ.「パウルス」と合流の後は、「ドン」の防衛に全力を尽くせ。なお状況次第によっては、「スターリングラード」
  の防備に全力を尽くせ。しかしながら、「ハルダー」及び「ホト」の「ヴォルガ」到着後、「スターリングラー
  ド」解囲に間に合わないならば、余力のある内にシュレジエン政府中枢を「ヴォルガ」までの退避支援を行え。
 ハ.「ハルダー」及び「ホト」は、1200時までに上陸船団への搭乗を完了せしむる事。2200時に「ヴォルガ」への上
  陸を完了せよ。

339 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/09/08 03:19 ID:???

 ニ.「スターリングラード」にて「マンシュタイン」がその保持を維持しえた場合、「ホト」を急行せしめ、包囲に
  穴をあけるべし。しかるに「ハルダー」はその穴を持って「スターリングラード」を解囲する事。
 ホ.「マンシュタイン」並びに「パウルス」が「スターリングラード」放棄の已む無くに至った場合、「ホト」はそ
 の火力でもって、収容に全力を挙げよ。
 ヘ.「グデーリアン」は「マンシュタイン」の輸送後、「ヴォルガ」にて本隊の到着あるまで、現地にて待機せよ。
  補給は本隊到着時に行う。

1 各級指揮官へ
  常に冷静なる判断をもって大胆なる指揮を取れ。

1 各自衛官へ
  自衛官の本分を果たし、その義務を遂行せよ。

以上


431 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/09/12 15:52:39 ID:???

「日本異邦戦記」

>>339の続き

平成15年6月16日東方暦1048年6月13日11時
シュレジエン東方海上

 高い波と低い波が入れ代わり立ち代り交差する海面に、複数の影を落とすものがあった。陽光を受けてきらめく海面
にあって、そこだけが黒いのは日の光が強い事を物語っていた。やがて、ゆっくりと流れる雲の下に影を作り出すモノ
が入り込むと、海面に投影された影もまた薄くなる。影を作り出しているからには、それは海中にあるのでない事は確
かで、奇妙な事に海上のどこにもそれらしきものはなかったが、この世界にあって聞きなれない轟音と呼ぶべきものが
空から聞こえてくる。その聞きなれない音は一つでなく複数存在している事もまた、この世界には存在しない筈のモノ
である事は確かで、轟音を発している存在は生き物などではなく、無表情な無機物だった。

 その無機物の胴体と思しきものの上側には、円を描いて回る代物があり、そこから轟音が放たれていた。轟音を吐き
出す代物を一つ付けている物体もあれば、2つ付けた巨体の物体もあるそれらは、第1ヘリコプター団「グデーリアン」
である。

432 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/09/12 15:54:09 ID:???

 その「グデーリアン」に乗る第1空挺団「マンシュタイン」の面々は実戦に初めて赴くかのような新兵の気持ちを、
否応なく持たされる。空挺に限らず、この青号作戦に参加する自衛官の全てに取って初めての実戦なのだから、それも
仕方ないと言った所だったが、それでも曹士ともなれば部下の手前落ち着いた態度を見せ、その態度に陸士らは気持ち
を落ち着かせようとする。そうは言うものの敵前に降下するのではなく、あくまでその前方に降下する為いきなりの矢
ぶすまにされる事だけはないから、その分危険という訳ではなかったが。

 やがて、一群の先頭に位置するヘリの前下方に陸地が見え始めた。秘匿地形名称「ヴォルガ」━━いわゆる東部海岸
だった。見え始めた最初こそ黒く見えていたが、近づくにつれ、地形に凹凸の起伏が現れ始め、黒く見えていた地形も
緑や白などが浮かび始めていた。視界の左端には海岸線近くまで、緑が迫っている場所もある。

 マンシュタインを指揮するのは黒木貞夫陸将補だった。
「マンシュタイン総員へ。これより、降下開始する。準備にかかれ」
 短かったが、それでも空挺団員にとっては必要充分だった。訓練と同じようにこなせばいい。そう言う事だった。そ
れに重い機材のほとんどは、臨時航空輸送隊が低空投下する為、身軽とも言える。

433 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/09/12 15:55:27 ID:???

 海面を流れるように過ぎ去り、代わって地表の上へと達した「グデーリアン」所属機が地表へと舞い降りるやいなや、
ほぼ同時に扉が開く。
「急げッ、急げ!もたもたするなッ!」
「動けッ!」
 陸曹らの叫び声があちこちで木霊し、その声に釣られるかのように、隊員たちがヘリから吐き出されるようにして、
駆け足で分隊毎に集結する。
「第3分隊整列!点呼!!」
「第3中隊第1小隊欠員なしッ!」
「番号!」「1、2、3、4、5、満!」
 分隊毎に点呼が取られ、その報告が上位の指揮官へと次々に伝えられていく中、黒木空挺団長は無事降下した事を
「ハルダーと共に移動しつつあるシュレジエン方面集団総監部へと伝え、総監部はその報告を受け、「ゲーリング」に
対し、物資投下の為の最終命令を下す。



96 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/10/05 10:05:34 ID:???

「日本異邦戦記」

>>../1093/1093789059.html#433の続き

平成15年6月16日11時
ヴォルガ

 その結果、東の空に微かに芥子粒のような黒い点が現れゆっくりと大きくなりだし、だんだんと芥子粒から大きくな
っていくとともに、形がはっきりし始める。それを見た黒木陸将補は、集合地点から離れた場所で発煙筒を炊供養に指
示をだす。

 空に浮かび上がったそれは輸送機の群れだった。ゲーリング所属の機体群だった。急速に近づくにつれ、中空に爆音
が轟き、輸送機が降下してきた。機体のランプが地上からでも開いているのが明らかだった。


97 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/10/05 10:06:11 ID:???

そして、輸送機の胴体より大きな物体が落とされると同時に、パラシュートが開き地面へと落ちてくる瞬間、落下した
衝撃音が辺りに響いた。その衝撃音は一つだけでなく、連続して続くとともに「マンシュタイン」が必要とする物資を
落としていく。最後のパラシュートが降りると同時に降下してきたそれらに隊員が群がり、使える状態へと持っていっ
た。

 投下された物資の中で一番大きなものは、高機動車と古色古めかしいけれど唯一の機動火力たる106mm無反動砲だった。
このうち、106mm無反動砲はこの作戦で使い捨てる事を前提に持ち込んだもので、行きの分の燃料しか持って来ていない。
また、120Mなども持ち込まれており異常がないか各部をチェックした後、高機動車に繋げられる。それらが終わったの
を見届けた黒木陸将補は、所定の地点へと部隊を急がせたのだった。


98 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/10/05 10:07:07 ID:???

東方暦1048年6月13日11時
王都

 近衛兵団があと少しで包囲網を突破しようとする所で、アムデス軍の予備戦力の一部がその前面へとようやく到着し
た為に、無くなりかけていた近衛兵団の突撃衝力は完全に消滅し、遂に立ち止まる事を余儀なくされた。時間との戦い
に、近衛兵団は敗れたのだ。その事は王都の街壁の上からも見る事ができ、その様を見る事が出来た守兵らの士気は一
気に底辺へと落ち込んだのだった。

 進むも引くも、最早不可能だった。周囲は敵兵で囲まれている。それでもリキアルト卿を初めとする近衛兵らは、そ
れでも戦い続けるしかなく、王都から援護しようにも、この状態では何も出来ずただ指をくわえて見る事しかできない
状態で、一部の者は近衛兵団の救援に向かうべきだと息巻き兵部総監に詰め寄ったが、兵部総監は首を縦に振らなかっ
た。

99 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/10/05 10:08:05 ID:???

 この状態でなにができるというのか。
そんな兵部総監の思いなど詰め寄った者に通じるはずもなく、危険な状態がおきかけたが、すんでのところで観戦武官
として居合わせた長原三佐が両者をとりなそうとした。
「今救援に出た所で、我が方の戦力を無為に失うだけです。今まで防戦出来ていたのは、ひとえに王都に篭っていたか
らです。近衛兵団の苦境を救いたい気持ちは判りますが、今この段階で打って出るのは崩壊を早めるだけですよ」
「なんだとッ!?」
「所詮は、あなた方はよそ者だ。そのよそ者に何が判る!彼らは、近衛兵団の者らは、はらからぞ!援けずして、何が
シュレジエンの民である事を誇れようか!」

100 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/10/05 10:08:51 ID:???

「然り。滅びると言うのならば、打って出る事こそ武人ぞ!」
 長原三佐は、そう口々に叫ぶ彼らを一喝した。
「打って出て何になる!?打って出るという事は守るべき人を見捨て、死ぬという事だ。愛する者を、家族を、子供を
守らずして何が武人かッ!貴様らの後ろには、貴様らの力を必要とする者がいる事を忘れたか!?耐えるべき時に耐え、
捲土重来を図る事も大事なのだ。安易に、打って出るなどと言う言葉を使うな!」

101 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/10/05 10:09:53 ID:???

 兵部総監に詰め寄った彼らは、長原三佐の気迫に気圧され、先ほどの勢いをなくしてしまう。その様子を見て取った
三佐は一転して静かな声音で彼らに伝える。
「このままシュレジエンが滅びると言う事はないでしょう。ここにあなた方が踏ん張る限り、救いの手は必ずきます。
おそらくは今日中に」
「何を抜かす。世迷言もほどほどにしろ!」
 その言葉に、三佐はゆっくりとかぶりを振った。
「世迷言ではありません。救援要請を出しましたからね」
「そんな事が出来るはずがなかろう。我らは包囲されているのだぞ」
「妄言ではないと断言できます。もし、救援がこなければ、この首を差し出しても構わないが」

102 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/10/05 10:10:42 ID:???

「ほお、よく言った。嘘なら、覚悟するのだな」
 そう捨て台詞を残すと彼らは一旦指揮所を離れていく。その様を見やりながら、兵部総監は三佐に頭を下げ謝意を表
した。
「礼には及びません。どんな所にでも、あのような手合いはいるものですから」
「それもそうだが。それより貴官の言った事は確かなのか?その救援が来ると言う、それは」
「確かです。もうこちらについて、向かって来ている筈です」
「期待してもらっても宜しいかな?」
「その期待に関しては、請負います」
「ふむ。ならば期待させてもらおう。ないよりはましだからな」




250 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/11/01 01:51:02 ID:???

日本異邦戦記

../1096/1096642183.html#102の続き

平成15年6月16日11時
東京 日本

「番組の途中ですが、ここで臨時ニュースをお送りします」
 昼前のワイドショーを放送していたテレビ各局は、一斉に臨時ニュースを流し始める。何事かとテレビの前にいた
人々の注意を引きつけたテレビ局では、慌しげに電話が鳴り響いていた。
「本日10時50分ごろ、官邸にて重大発表がありました。その発表によれば、新大陸方面にて陸上自衛隊が治安
維持の為の協力活動を開始したとの事です。官邸前と中継が繋がり次第詳しい情報を」

251 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/11/01 01:51:45 ID:???

 そこまでキャスターがのぺた所で、画面の端から紙が手渡されるのが、テレビ画面に映し出される。
「ただ今、新しい情報が入りました。防衛庁の発表によりますと、陸上自衛隊シュレジエン方面隊が新大陸にて治安
維持支援活動を本格的に開始したとの事で、この支援活動の一番手として、第一空挺団が先行展開を行った模様です。
・・・あ、官邸前と中継がつながったようです。笹田さん、聞こえますか?」

 しばらく無音の状態が続いた後、遠くから声が聞こえるような感じで音声と映像が繋がる。
「はい、笹田です。10時50分ごろ官邸において記者会見が行われ、その席にてシュレジエンにおける治安維持の為の支
援活動を開始したとの発表がなされました。治安維持支援活動にあたるのは、陸上自衛隊が新たに設けたシュレジエン
方面隊が行うとの事です。なお、シュレジエン方面隊の移動にフェリーなど多数の船舶が用いられているそうです」



184 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/03 23:09:47 ID:???

「日本異邦戦記」

>>../1096/1096642183.html#102の続き

平成15年6月16日11時
東京 日本

「番組の途中ですが、ここで臨時ニュースをお送りします」
 昼前のワイドショーを放送していたテレビ各局は、一斉に臨時ニュースを流し始める。何事かとテレビの前にいた
人々の注意を引きつけたテレビ局では、慌しげに電話が鳴り響いていた。
「本日10時50分ごろ、官邸にて重大発表がありました。その発表によれば、新大陸方面にて陸上自衛隊が治安
維持の為の協力活動を開始したとの事です。官邸前と中継が繋がり次第詳しい情報を」
 そこまでキャスターがのぺた所で、画面の端から紙が手渡されるのが、テレビ画面に映し出される。
「ただ今、新しい情報が入りました。防衛庁の発表によりますと、陸上自衛隊シュレジエン方面隊が新大陸にて治安
維持支援活動を本格的に開始したとの事で、この支援活動の一番手として、第一空挺団が先行展開を行った模様です。
・・・あ、官邸前と中継がつながったようです。笹田さん、聞こえますか?」

185 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/03 23:11:18 ID:???

・・・し、しまった。過去の話を載せてしまった(げふん
このまま、いきますorz

186 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/03 23:11:52 ID:???

 しばらく無音の状態が続いた後、遠くから声が聞こえるような感じで音声と映像が繋がる。
「はい、笹田です。10時50分ごろ官邸において記者会見が行われ、その席にてシュレジエンにおける治安維持の為の支
援活動を開始したとの発表がなされました。治安維持支援活動にあたるのは、陸上自衛隊が新たに設けたシュレジエン
方面隊が行うとの事です。なお、シュレジエン方面隊の移動にフェリーなど多数の船舶が用いられているそうです」

「何時フェリーが集合したのでしょうか?」
「前日との事だそうです。ただこの為に少なくない燃料を使わなければならない事は確実で、燃料不足の昨今政府に対
する批判が集まるのは必須と思われます。また、支援活動と言ってはいるものの、実際には戦闘行動であるのは確実で
あると思われ、自衛隊に被害が出る可能性もあります」
「なるほど。ありがとうございます。続報が有り次第、またお伝えします」

 日本全国の目を釘付けにした報道の後、各テレビ局に電話が鳴り響く事となった。

187 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/03 23:13:03 ID:???

東方暦1048年6月13日12時
王都 バスム

 近衛兵団の存在を示す最後の軍旗がアムデス軍の軍勢の中にかき消すように倒れるや、思わず王都の街壁から見守
っていた守備兵らの士気は底辺にまで落ち込んでしまった。

 帝国軍による幾度目かの総攻撃に守備隊は遂に持ち堪える事ができず、堤防にできた小さな亀裂から一気に鉄砲水が
あふれ出すの如き状態で、防戦が崩壊した。兵部総監は街壁での防戦を諦め、王城での篭城をすぐさま命じる。

 長原三佐はそのような混乱の中、兵部総監に向き直った。
「我々も撤退の支援に付きますが、よろしいですか?」
「撤退の支援と?」
 怪訝そうに兵部総監は長原三佐に問いただしたが、三佐はと言うと事も言葉を続ける。
「おそらく、士気が崩壊したような状況では、撤退すらままならないでしょう。確かに我々は少数ですが、それでもこ
のような状況では少数と言えど、時間を稼ぐぐらいはできますから」
「それでは、あなた方にも被害が」
「やりようは幾らでもあります」

188 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/03 23:15:06 ID:???

 止めようとする兵部総監の言葉を制して三佐は、如何にも簡単そうに言ってのけるが、それが三佐の言うように簡単で
はない事は明らかだった。
「人の好意は、素直に受け取るものですよ」
 三佐はそう言って口の端を歪めてみせると、兵部総監はしばし押し黙り、そこまで言うならと、申し出を受け取った。
兵部総監に敬礼するや、三佐は足早に護衛隊が待つ空き地へと向かった。

「護衛隊、欠員なし。お帰りをお待ちしておりました」
 三佐の姿を認めた第一小隊隊長、安達原二尉は三佐の許へ駆け寄ってくるなり、敬礼しつつ開口一番に言ってのける。
「指示通り、数人毎に班を編成しております」
「ご苦労、安達原小隊長」
 三佐は、おそらく街壁での防戦は今日一杯持たないだろうと判断し、護衛隊でもって撤退支援を行う事を決意してい
た。そして、少数で効率よく支援を行うべく、分隊ではなく数人毎で班を編成させたのだった。あくまでもこの場限り
の臨時編成という訳だ。
効率よくとはいうものの、出来る限り状況に対処するためのものだった。
「よろしい。ならば、仕事にかかってくれ。ただしあくまでも撤退支援だからな、犠牲のないように行動するように」
「はっ。ただちに状況開始します」

189 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/03 23:17:10 ID:???

平成15年8月16日12時
東京 日本

「いよいよか」
 首相官邸にてテレビを前に椅子に座りつつ、誰に言うともなしに呟いた大迫総理の周囲には、首相補佐官の面々が顔
を揃えていた。
「そのようですね。できるかぎり、犠牲をださずに終わって欲しいものです」
「相手のいる事だから、それはなんとも言えん」
 画面から目を離さずに、総理は補佐官の一人にそう答えつつ続けた。
「これはもしかすると、これは歴史の転回点に立っているのかもしれん。最近そう思えて仕方がない」
「事実、そうなのでしょう。戦後初めての事態ですからね」
「そうですねぇ。自衛隊が多数派遣されるなど初めてですから」
 大迫総理はそれらの言葉を聞きつつ眉の付け根を軽く揉むと、テレビを消し補佐官らの顔を見回した。
「王都防衛、もとい治安維持支援任務・・・だったな。王都を守りきれるにせよそうでないにせよ、政府として次の策
を打たねばならん」
 補佐官らは居住まいを正すと、資料を取り出して次のリアクションを取る為の策を練り始めるのだった。




201 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/05 02:12:32 ID:???

「日本異邦戦記」

>>190の続き

東方暦1048年6月13日12時
王都 バスム

 街壁から雪崩を打つように侵入してきたアムデス兵に負いかけられるようにして、王城へと退却しているシュレジエ
ンの守備兵は、今や総崩れの如き状態となりつつあった。
 その混乱の中、路地をかける幾つかの影があった。
その影が潜んでいる路地をアムデス兵が通り過ぎようとするや、唐突に聞き慣れない甲高い音が響く。
その音が周囲に響きわたると同時に、先頭に立つ兵卒がばたばたと倒れた。
 戦友が斃れるのを見て、アムデス兵らはたたらを踏みつつ立ち止まって、わずかの間周囲を見渡す。
どこからその音が響いたのか探しているのは一目瞭然だった。
「よし、引き上げるぞ!」
「了解」
 ばたばたとアムデス兵らが斃れるその原因を作ったのは、路地に潜んだ幾つかの影だった。
その影の正体は、撤退支援に付いた護衛隊で編成された、幾つかある班の一つだった。
 どうやら、路地の一つに戦友らを倒した存在がいるのを知ったのだろうとある一兵卒が彼ら隊員が身を潜める路地を
指差し、一斉に押し寄せた。

202 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/05 02:13:08 ID:???

「急げっ!」
 班長の声にせき立てられるようにして逃げ出す隊員らを追って、後方からアムデス兵が追いかけてくるのを、視線を
後ろにやって確認した班長が舌打ちした。
「ちっ、いかん。一度制圧するぞ」
 後ろを振り返って手に持った銃を構え直し狙いを定めて乱射するや、後ろから追い縋ってきたアムデス兵らが地を吹
いて斃れていった。
その様にたたらを踏んでブレーキが掛かったかのように、アムデス兵らが立ち止まった。
 何事が起こったのか理解できていないようで、兵卒らの顔には何か信じられないものを見るかのような表情が浮び上
がっており、それを見て取った班長は班員をせき立てるように駆け出す。
三十六計逃げるにしかず、である。
 こうして逃げ切る事ができたのだった。

 そのような情景はそこかしこで見る事ができ、ささやかではあるが潰走する守備兵を王城へと収容する時間を稼いで
はいたが、それとて大勢から見るなら、王都が陥落しかかっている事には違いはなかったのだった。

203 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/05 02:15:01 ID:???

同時刻
シュレジエン北東部

 見渡す限りの草が風になびく様はのどかな光景そのものであり、その草原の一角は普段放牧に使われている。
その草原の一部に、普段ならめったと見る事のできない存在があるのは、異様といってよかった。
その存在とともに多数の人影が動き回っている事も普段ならない事だった。
 特にその存在は大きく、その存在の横--丁度上のあたりから平べったいものが生えており、それが一面に敷き詰めら
れたかのような草に影を作り出していた。
その存在の名前は竜という。

204 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/05 02:16:09 ID:???

 そう彼らの名は近衛竜騎兵団といい、近衛騎士団の壊滅後彼らは一度この草原へと撤退し、戦力を再編していた。
竜騎兵団にも損害は出ていたのだから、当たり前と言えば当たり前だった。
周りを見渡せば、いる筈の竜とその乗り手らの姿はそこにはなく、一抹の寂寥感が漂うのは仕方のない事だろうか。
さらに傷ついた竜の手当てを行う乗り手にも、疲労感のようなものがあるのは否めず、また傷ついた乗り手も手当て
を受けているような有様だった。
 彼ら竜騎兵は簡単な治療、それも包帯を巻くぐらいの事はできるけれど、それとて重傷を受けたような者を前にして
はどうする事もなかった。

 そんな中で、ディーンだけが唯一魔法が使えるため急ぐようにして、うめき声をあげる乗り手らの間を回っている。
それとてあくまでも悪化する傷を食い止めるだけの術でしかなく、更には儀式なしでやるため負担が大きそうな事は、
ディーンが疲労感を顕わにしている事から見て取れる。
どちらにせよ、本格的な治療を施すにせよ魔方陣を描くにせよ、それらを施す人も居なければ魔方陣を描く為の道具も
なく、その場しのぎであるのは明らかだった。

205 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/05 02:16:52 ID:???

 そんな状況の中、その一角で言葉を交わす者らがあった。
近衛竜騎兵団々長のノビクスと、葛重三尉だった。
本来ならいるべき筈の副長はここにはいなかった。
魔法使いらを送り届けた竜騎兵の中にもいなかった事から、帰らぬ存在となったとしか思えなかった。
 なぜ2人だけかと言うと、ノビクスが相談すべき人はここにはおらず、また各隊長もまた再編の為に動き回っている
為、葛重三尉が相談をうけるような形で、ノビクスの傍らにいるのだった。
そうでなければ、本来ならあくまで部外者である葛重三尉が相談を受けるような事にはならない。


206 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/05 02:17:43 ID:???

「どうしても出るというのですか?」
「当然だろう。王都と陛下の御身が危ないのだ。陛下に何事かあれば如何いたす?」
「それは判ります。しかし」
 葛重三尉は周囲を見渡し、それに釣られるようにしてノビクスもまた視線を周囲にむけた。
この大陸に渡るまでどことなく物静かな雰囲気を周囲に与えていた葛重三尉だったが、今やその雰囲気は変わっていた。
大陸に渡ってから発生した色々な出来事が、三尉に厳しそうな雰囲気を与えていた。
とは言うものの、寄り付きがたいといったようなものではなく、元からの雰囲気と併せて頼れそうな雰囲気だった。
「言わせて頂きますが、今のこの竜騎兵団に戦闘力があるとは思えません」
「どうしてだ」
「まず第一に、乗り手に少なくない負傷者がおり、彼らの面倒を見るものが必要です。本来なら、看護できる者はいる
のでしょうが、今この場に彼らはいません。その為に乗り手の中から面倒を見る者を残す必要があります。次に先ほど
指摘した事と関連がありますが、負傷者と彼らの面倒を見る者を残した場合、部隊としての戦闘力がなくなる事は確実
であると考えられます」

207 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/05 02:18:30 ID:???

「負傷した者らは、彼らの中で程度の軽い者で面倒を見ればよい。看護にあたる者を残せば戦闘力がなくなるというな
らば、その事を伝えれば彼らも納得しよう。誇り高き近衛竜騎兵ならば、納得して当然だ」
「そんな乱暴な。それでは聞きますが、この部隊に補充の当てはあるのですか?負傷した者とて竜騎兵です。彼らが居
なくなったとしてです、彼らの代わりはいるのですか?そして竜の代わりは?そうそう補充ができるのですか?」
「貴公は痛い所をつくな。竜もその乗り手も、中々補充がきく様なものではないのは確かだ。だがだからと言って、王
都を見捨てよと言えるか?仮にだ、貴公の御国が今将に滅びようという時に、死ぬのが判っているからと言って動こう
とはしないのか?そうではなかろう?」
 その言葉に葛重三尉は言葉を詰まらせ、そんな三尉をノビクスは凝視した。




228 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/06 04:05:34 ID:???

「日本異邦戦記」

>>207の続き

 三尉は、現代の日本とこの大陸での価値の基準が異なる事を痛感し、それと共に共感できる部分もあった。
「しかし、捲土重来という言葉もあります。隠忍自重し時を待つ事も必要です」
「捲土重来か。確かにそれに期する事も考えないではない。しかし、王都が落ちてからでは、否、陛下が身罷られた後
では遅いのだ」

ノビクスの決意の硬さに三尉は数度瞬きを繰り返した。
「そこまで仰られるなら・・・、判りました。その代わりここに必ず戻り、負傷者を連れ帰る事をお約束ください。
彼らの損失は何者にも換えられませんから」
「それに関しては、異議はない」

 この瞬間、近衛竜騎兵団は再度出撃へと取り掛かったのだっ

229 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/06 04:06:09 ID:???

同時刻
王城 王都バスム

 王都の街並みが敵兵で溢れかえるのと入れ替わりに、王都の守備兵とその撤退支援についていた護衛隊は王城へと収
容された。
そして、彼らを追うようにしてアムデス兵らが、まるで蟻の群れのように王城へと殺到してくる。

「陛下、王都への侵入を許してしまい申し訳有りません」
「いや、兵部総監の采配あってここまで持ったのだ。大儀だった」
 疲労感を隠せぬままに兵部総監はそう陳謝し、そんな兵部総監に対しウィンダ三世が労わりの言葉をかける。

230 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/06 04:07:13 ID:???

 あちこちで弓矢を放つ音と何かを命じるような怒声の如き号令が響きあう中、ウィンダ三世は瞑目する。
「援軍は?」
 その言葉に兵部総監は何も言わず沈黙したのを、ウィンダ三世は正しく推し量った。
東部諸侯は最早自らの家臣と領地を守るために、アムデス帝国を押し戴くべくそれぞれの領地に篭っているのは確定した
と言ってよかった。
 そしてこの危急に隣国からの援軍もなかった。
自国の守りを固める事に専念せざるを得ないからだった。

「余とシュレジエンに運はなかったか」
「何を言われますか。まだ敗れた訳ではありませんぞ」
「いや、ここまできては同じ事だ」
 ウィンダ三世は、慌てて言を継ぐ兵部総監を見つつ、軽く笑んで横に振った。
そんな様を宰相ドルカルフ公ナイラーク・エンドルンはただ見つめるだけだった。
この状況では宰相としての出番はないのも同じだったからだった。

231 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/06 04:07:53 ID:???

「お待ちください」
 そんな中を女性特有のやや高い声が響いた。
「援軍がない訳ではありません。我が方から派遣された自衛隊の部隊がそろそろ到着する頃です」
 その声の主にその場に居た者全ての視線が注がれる。
その声の主は園山女史だった。髪を短くそろえた彼女は、片言ながらも覚えた大陸東方語で話しかけてきた。
「少なくとも、悲観する事はありません」
「それはまことかな?」
「間違いなく」
「だが間に合うと保証できるか?」
「それはできかねます。しかし、耐える事に専念すればいずれは」
「ふむ。それはそれで希望と言えるが、この状態では厳しいだろう」
「ならば合流し落ち延びればよいのです。ここにおられる方々さえいれば、国の再建は可能です」

232 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/06 04:08:47 ID:???

 今まで口を開かなかった宰相エンドルン卿は、園山女史と問答を繰り返す。
「兵部総監」
 ウィンダ三世の呼びかけに兵部総監が振り返る。
「何事であらせられましょう?」
「落ち延びるとして、無事に皆が合流する事は可能か」
 その言葉に、兵部総監は厳しげな表情を浮かべたのをみたウィンダ三世は、ふむ、とだけ呟いた。
「ならば、余が立ち塞がろう」


233 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/06 04:09:42 ID:???

 その言葉に皆が絶句し慌てて翻意するよう猛然と説得し始める。
だが、それらの反対をウィンダ三世は手で制止した。
「兵部総監や宰相が立ち塞がったとして、時間を稼げるか?合流はできるか?確実に無理であろうぞ。そうであるなら、
余が壁になるしかあるまい」
「なればこそです。陛下をむざむざ敵手に渡すわけにはゆかぬのです!」
「よいのだ。王都が落ちる所を見たくはないのだ。我が子らの事もある。子らの前で無様な所を見せとうはない」
 ウィンダ三世は笑いつつ、絶叫のような反対の声をあげる兵部総監に頷くようにして、押し切った。
「ならば、この私もお供しますぞ」
 国王を翻意する事諦めたかのような兵部総監は、代わりにそう応じた。
「陛下をみすみす失ったとあっては、末代までの恥ですからな」
「それでは軍を束ねる者がおらぬではないか」
「まだ近衛竜騎兵団々長がおります。ノビクスめには少しばかり骨を折ってもらいましょう」

234 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/06 04:10:21 ID:???

 そう言いつつ、兵部総監は宰相らの方に向き直る。
「陛下のお供はこの武辺者めがつかまつる。再起を果たす為には、宰相殿や財務卿なくしては出来はせぬ。よろしく頼
む」
「卿もよく難儀な事を、よく頼む気になるな。少しは私らの事を考えられてはどうだ」
「だから、こうして頭をさげておる」
 兵部総監は笑いつつ、頭を下げ宰相は苦々しげに吐息をつく。
「陛下も陛下です。難しい事を良くぞ如何にも軽そうに仰せ奉られる」
「何、これも宰相を見込んで言っておるのだ」

 その中を園山女史に近づく者がいる。
長原三佐だった。
そして園山女史に耳寄せして何かを伝えるや、女史は軽く頷いてみせた。
「救いの手がきました」


235 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/06 04:12:19 ID:???

同時刻
王都バスム東部 シュレジエン

 王都を包囲するアムデス軍を指呼の間に収めつつ、布陣を終えた部隊があった。
「マンシュタイン」である。
 その「マンシュタイン」を指揮する黒木陸将補は、部隊が所定の位置についたのを確認した後、マイクを片手に持っ
た。
「マンシュタイン指揮官より、各員へ告ぐ。前進せよ。救いを待つ者達の元へ急行せよ」
 その命令が届くや否や、号令が響き渡った。
「1中隊、前へ!」
「3中隊、行くぞ!」
「5中隊、前進!」
「2小隊、遅れるな」
「9小隊、急げっ」


236 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/06 04:13:00 ID:???

 どんどんと近づいてくる大きな異音に、攻囲しているアムデス軍の一部が何事かと後ろに目をやると、巨大な砂埃が
巻き起こっているのが目に飛び込んでくる。
それに驚いたアムデス軍に、漣のようにいぶかしむような動揺が広がっていく。
 その正体は驀進する60式無反動砲だった。
「目標、先頭の軍勢。狙いなど構わん、これだけいるんだ。打てば当たる」
 その大雑把な車長の言に砲手は思わず抗議しそうになりつつ、あくまで冷静に12.7mmスポットライフルでもって評定
しつつ、砲棹を操作する。
指揮車が発砲したのを見て両車が続けて発砲し、それとと同時に砲の後ろからも火が吹き出るとともに、彼らに立ち塞
がるようにして位置する軍勢へと着弾する。

237 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/06 04:13:49 ID:???

 当然アムデス軍は身を隠してなどいない。第一彼らの知る戦闘の常識として、身を隠すような遮蔽物など存在しないし、
あっても盾ぐらいのものである。
着弾すると同時に、アムデス軍の兵卒が次々と吹き飛んでいく。
一方的と言っても過言ではない。
その混乱によって生じた好機を失う事なく、即座に「マンシュタイン」が制圧射撃を繰り広げて吶喊していく。

 制圧射撃の前になす術なく、「マンシュタイン」に立ち塞がっている側のアムデス軍が崩壊していき、王都へとたど
り着くのは最早時間の問題と思えた。

「くっ。一体、奴らは怖くないのかっ!?」
 制圧射撃でばたばたとアムデス兵は斃れてはいくものの、次々と現れる軍勢を前に「マンシュタイン」の隊員らの間
に、焦りのようなものが浮かび始めていくのだった。

238 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 05/01/06 04:14:25 ID:???

同時刻
王城 王都バスム

「では、よろしく頼む」
 ウィンダ三世は宰相の手を握り、ゆっくりと宰相はこうべを下げた。
そして妻たる王妃と2人の子である王子と王女に向き直る。
「済まぬな」
 その言葉に王妃はしばしの間言葉すら出さず凝視したかと思うと、小さいけれど振り絞るかのようにして声に出す。
「あなたを恨みます」
 ウィンダ三世はゆっくりと王妃を抱擁し、そして子供達を抱いた。
「母を困らしてはならぬぞ」
 異様な雰囲気と城外の荒々しい状況に何事かを感じ取ったのだろうか、先ほどから怯える娘を撫でるのだった。

「では参るぞ。そなたらは援軍と必ず合流するようにな」



142 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2005/05/10(火) 19:42:28 ID:???

「日本異邦戦記」

東方暦1048年6月13日12時
王城 王都バスム

 シュレジエン王は残存戦力の一部とともに隊列を組み終わり、ゆっくりと王城の城門が開いていった。
門が開くのを見るや、今や王都に溢れかえりつつあるアムデス軍の一部がそれに気づき殺到し始める。
さっとシュレジエン王ウィンダ三世は槍を前へと突き出し、後続する軍勢を率いて殺到するアムデス兵へと吶喊し
ていく。
 その後を長原三佐率いる護衛隊とともに王妃や園山女史を初めとする交渉団が、血路を開くウィンダ三世率いる
軍勢の後をおった。
そのうち、王都の外へと向かう軍勢の先頭にいる人物が誰か判ったのだろう、アムデス兵の目にぎらぎらしたもの
が光り始めていくのを、見て取ったシュレジエン王はここぞとばかりに大音声で名乗りをあげた。

143 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2005/05/10(火) 19:43:08 ID:???

 その姿に長原三佐はさっと敬礼を送るや、彼らに気づいて群がるアムデス兵を銃弾を節約しつつも、牽制をかけ
城門へと向った。
 だが、彼らが救援部隊の元へと守っているのは、王妃を初めとするシュレジエンの政府首脳や交渉団ばかりでは
なく、王城で働く女官や王城に逃げ込められた人々もおり、そして彼らが足かせとなっていた。
 その為、長原三佐とシュレジエン残存部隊の指揮官は簡単な協議を行って路地という路地を先行して警戒する戦力
を護衛隊から出す事、シュレジエン側が直接王妃や守るべき人々を直衛する事を取り決めた。

 彼らの進行方向にある路地と路地、そして脇道に対処する為に部下を先行させたり、遅れがちになる避難民から脱
落者がでないよう気を配ったりと、刻々と変わる情勢に長原三佐を始めとする護衛隊やシュレジエン軍は苦しい対応
を迫られざるを得なかった。

 長原三佐らに取って城門までの距離が果てしなく長いと感じてしまう。
それでも、足を止める事なく前進し血路を開かねばならなかった。でなければ、自分達が死ぬだけだから。

144 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2005/05/10(火) 19:43:39 ID:???

東方暦1048年6月13日13時
平成15年8月16日13時
シュレジエン王都外周部

 次々と現出するアムデス兵を前に、初めて実戦を経験する自衛隊員たちは敵が一向にひこうとしない様に、恐慌状態
が現れ始める。
無線で入ってくる報告を黙って聞き続ける黒木陸将補は、泰然としていたがその実、内心じっと心の中で耐えるほかな
かった。

 城門にまでたどり着くのが早いか恐慌状態に陥るのが早いか。
そこまで事態が進んでいたのだった。

145 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2005/05/10(火) 19:44:16 ID:???

 焼け付くような焦燥が広がる中、待望の報告が入ってくる。
街の外門へと、部隊の先頭がたどり着いた事を伝えてきたのだ。
 すぐに黒木陸将補は、外門の固守を命じると共に、まだ辿りついていない部隊にも、相互に支援して外門に辿り着い
た部隊の所へと急ぐよう命じる。
王族や交渉団の面々を収容しきるまで、持ち堪えなければならなかった。

 そして、未だ「マンシュタイン」各隊の苦闘は終わってはいない。
一向に引こうとしないアムデス兵を相手にしての戦いは自衛隊員らをして、精神を擦切らせかけつつあった。

146 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2005/05/10(火) 19:44:51 ID:???

同時刻
王都バスム

 長原三佐率いる護衛隊の阻止を振り切ったアムデス兵の攻撃がいくつかあり、その度毎にシュレジエン隊の手によっ
て、撃退するという事が何度かあった事で、その度に余計撤退しようとするシュレジエン側の集団の足が止められる破
目に陥る。
 恐怖で足がすくむ一般都市民や女官らをその都度、声を掛けて脱出を図ろうと四苦八苦せざるを得なかった。
 王妃もまた顔を青ざめてはいたが、それでも女官らを騎士達とともに励ます姿を見る事でなんとか遅くなりつつも、
足を前へと動かしている。

 これで何度目になるか判らない襲撃を払いつつ、ようやくの事で外門が目に飛び込んでくる。
長原三佐らが外門が近い事を、後ろの都市民やシュレジエン要人らに伝えて励ます。


147 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2005/05/10(火) 19:45:41 ID:???

 そして、城門が間近に迫った時、長原三佐らの耳になじみのある音が響いているのが飛び込んでくる。
今しがたまで自分達が奏でていた衝撃音、つまりは銃の発砲音だった。

「本官はシュレジエン交渉団護衛隊隊長長原宏茂三等陸佐だ!貴官らの所属及び上官は!?」
「王都救援隊「マンシュタイン」所属相場陸士長であります。合流が出来た事をすぐに伝えます!・・・おいっ!」
 長原三佐の誰何に間髪入れずに答えたその陸士長は直に一人の陸士に声掛けると連絡を入れる。
その報告はかなりの速さで黒木陸将補まで届くや、陸将補みずから長原三佐及び園山女史へと足を運ぶ。
「ご無事でなによりです。『マンシュタイン』指揮官黒木陸将補であります」
「助けに来てくださってありがとうございます」
「まだ、戦闘中であります。本当なら、迎えの車と行きたいですが、我慢してください」
 園山女史は思わず顔をしかめるも、未だ助かったわけではない事を思い出して頷いた。

148 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2005/05/10(火) 19:46:42 ID:???

 前面にでようとするシュレジエン兵らをなんとか説得し、長原三佐も護衛隊と共に戦列へと加わり、撤収を開始
する。
 だが、その撤収は容易ではなかった。
ややもすれば、追い縋るアムデス兵を前にしてなんとか踏み止まるような状況が続くと共に、一般都市民を抱えての
移動なのだ。
依然としてぎりぎりの瀬戸際は続いているのだった。

 陸将補はこの状況を打開する為に、120Mによる支援を命じる。
「頭を下げろ!すぐに間接支援砲撃が始まるぞ!」
 その言葉に隊員らが反射して身を一旦伏せ、陸将補は王妃らを初めとするシュレジエン人らに注意を促した。
『マンシュタイン』からの圧力が減った事に、アムデス兵らはここぞとばかり殺到するが、いち早く身を伏せた隊員
らが伏射を行いその突撃を抑制する。

149 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2005/05/10(火) 19:47:25 ID:???

 中空よりやや鈍いけれど、空気をこするような音とともに、何かが落下してくる。
次々とそれらは『マンシュタイン』の頭上を飛び越えて、密集するアムデス兵の上へと落下し大きく破裂するような
音とともに塊のような火炎が発生し、大地をえぐった分だけの、土砂を撒き散らす。
 それを皮切りに似たような物体が次々と現れては、アムデス兵へと降り注いでいった。

 ただちにシュレジエン人を避退させ、続けて陸将補は隷下の部隊を相互に下がらせる。
できるだけ距離を空けたかった。
この120Mによる支援によって、アムデス軍に混乱が広がった。

150 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2005/05/10(火) 19:48:12 ID:???

 そんな中、遥か彼方の中空からゆっくりと近づいてくるものがあった。
それは始め空に浮き出たシミのようであったが、ゆっくりと大きくなりやがて黒点となり数を増す。
次第にそのシルエットが顕わになるや、黒木陸将補の目にもそれが飛び込んできた。

「・・・あれは」
 息を飲み込んだ黒き陸将補を初めとする面々に移ったのは、竜の群れだったのだ。
 黒木陸将補は思わず、顔をゆがめた。
敵か味方かわからない以上、敵とみなすより他なく、そして作戦が失敗したとばかり思ったからだった。


151 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2005/05/10(火) 19:48:56 ID:???

同日14時
同地

 王都バスムに姿を現した竜の群れは、ノビクス率いる近衛竜騎兵団だった。
ノビクスらが王都へと到着するや、アムデス軍に混乱のようなものがおきており、視線をその混乱の先に延ばすと、
何者かの集団がアムデス兵と交戦しているのが目に移る。

 その様にノビクスは瞬時に判断した。
敵の敵は味方だと、目星をつけたノビクスはアムデス軍と戦闘を行っている彼ら支援する事を、配下の竜騎兵らに合図
して伝える。

152 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2005/05/10(火) 19:49:34 ID:???

 ノビクスは相棒たる竜と共に一段高く駆け上がるや、一気に降下へと移り、振り落とされないようしっかりと手綱を握
りしめる。
充分間合いに入った事を肌で感じるや、次々と竜の口から火焔が吐き出されていくのだった。

 上からも攻撃があった事で、アムデス兵らが浮き足立つのが見て取れ、アムデス軍と交戦していた集団も一瞬驚いた
ようだったが、すぐさま戦闘を再開したようだ。



730 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2005/06/18(土) 22:59:58 ID:???

「日本異邦戦記」
何度目かの更新(爆

>>../1115/1115249813.html#152の続き

東方暦1048年6月13日14時
同地

 敵だとばかり陸将補は思い込んだが、『マンシュタイン』と合流したシュレジエン兵の間で歓声が唐突に起きた事で
その認識を変える必要に迫られた。
 敵なら、歓声ではなく別の声があがる筈ではないのか。
 陸将補はそう思い、中空を飛ぶ竜の群れを見つめる。

 120Mによる支援の下、遅滞防御戦闘を行いつつ撤収する『マンシュタイン』を通り越し、その竜の群れは撤退を行う
彼らを逃がさんとばかりに追撃するアムデス兵へと火焔が吐き出されていくのが視認できる。


731 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2005/06/18(土) 23:00:33 ID:???

 しばらくの間、先の戦いで残存して今現在アムデス軍と交戦に入った竜騎兵の援護を得てようやくの事で追撃を振り
切ったのだった。
執拗なまでに彼らを追いかけたアムデス兵らに命令があったのだろう、苛烈な戦闘は急速に汐が引くように止んでいっ
た。
アムデス側もまた態勢を整える必要があったという事なのだろう。
 アムデス軍の襲撃を警戒しつつ、海岸部へと急ぐのだった。


732 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2005/06/18(土) 23:01:16 ID:???

平成15年8月16日18時
シュレジエン東部海岸地帯

 シュレジエン方面隊総監である福田定一陸将は幕僚達とともに、夕闇のせまる薄暮にようやくシュレジエンの地へ
と足を入れていた。
『青号作戦』本隊は未だ上陸作業の途上にあり、すぐに行動に出れる訳ではない。
梱包を解いていない貨物もあるのだ。
 沖合いに碇泊した貨物船から荷物積んで海岸へと向かう小型艇と貨物を降ろして再び沖合いへと向かう小型艇、それ
に貨物を降ろしている隊員たちなどで、海岸は慌しかった。
そんな状態ではあったがいくつかの天幕は既に設営されており仮ではあったが、総監部としての機能を始めていた。

 椅子に座ったあとで眼鏡を掛け直した総監は、運び込まれたばかりの椅子に幕僚らとともに天幕の一つへと入る。
海岸への移動などで、状況が判らなかったからだった。
別の天幕には梱包を解かれた通信機器がつい先ほど設置され、通信士が調整をようやく終えて早速先行している『マ
ンシュタイン』との連絡を開始した所だった。

733 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2005/06/18(土) 23:01:47 ID:???

 大分以前に航空写真によって、海岸部付近の地形は判るが内陸部となると全く判らない状況で唯一『マンシュタイン』
や交渉団とともに大陸へとあがった長原三佐らの情報が頼りという手探りの状況なのだから。
 どの街道がどこに繋がるのだとか近くの山の標高がいくらだとか全然知らないのも同様だった。
だから、方面隊総監部は大陸へと赴く前に総監部調査課が上陸すると共に測量を行う手はずを決定しており、その決定
に基づいて調査課は行動を開始していた。
 また、秘匿名称として『ハルダー』を与えられた第13旅団も、偵察のために少人数の部隊を既に幾つか活動に付かせ
ている。


735 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2005/06/18(土) 23:02:24 ID:???

 その一方で機動戦力たる第71戦車連隊の揚陸作業はまだ終わっていなかった。
確かに、輸送艦などを総動員してはいるものの、彼らだけを運んでいる訳ではなかったから。
 そのため、この付近にある港に一部の船舶が向かわざるを得なかった。
しかし、港があるからといって、荷揚げ作業が早くなるわけでもないから、第71戦車連隊はおろか、総監部も一緒に頭
を抱える事となる。
 原因は一つしかない。
それは港湾能力が極めて貧弱というその一点につきている。
確かに、岸壁部分などは整備されているかも知れないが港自体が狭く、大型船を付けたらそれだけで一杯と言う状態
であり、また技術水準は中世並みであるから、押して知るべしである。
 この場合の大型船とは、この異邦の大陸においての大型船ではなくて現代日本の大型船だ。

 戦車などを積載しているフェリーからの揚陸は、後回しにするしかないという笑うに笑えないものと化す破目になっ
ている。
 そのため、『マンシュタイン』との連絡はついたものの、動きが取れないという体たらくで、作戦に大きな齟齬を生
じさせる事となった。


737 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2005/06/18(土) 23:03:15 ID:???

平成15年8月17日9時
官邸 東京 

 官邸執務室にいた主の下へ、補佐官の一人が入室した時、中には大臣たちと総理がテーブルを囲んでおり、幾人かは
テーブルの上のコップを口につけている所だった。
「総理、シュレジエン方面隊が上陸したとの事です。現在方面隊総監部は準備が整い次第、第一空挺団並びにシュレジ
エンの要人を収容するために、部隊を派遣するとの事です」
「方面隊総監の名前は福田陸将とか言ったね。彼は努力しているようだな、よろしく頼む、と伝えて欲しい」
「判りました。それとそろそろ方面隊総監部が上陸して活動を始めたとして、官房長官が記者会見を行ないます」
「それは木曽君に任せておけばよいだろう」
 大きな丸い目を動かした総理は軽く頷いて、木曽官房長官が行なう事を了解した事を伝える。
補佐官が退室した後、方面隊が上陸した事について隣同士で軽く話し合う中、警察庁長官が口を開く。


738 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2005/06/18(土) 23:03:49 ID:???

 今日の会議は国内の治安体制について、話し合うものだった。
転移以来幾度かの会合を行うその間に、情勢が変化した事で、既にその内容が変わっている。

 目下の議題の主眼は外国人問題だった。
移転以来、外国人コミュニティの多くで、ゆっくりとではあるもののの不安が広まっており、地域住民の不理解と相ま
って、ゆっくりとではあったけれど深度を増しつつあった。
 どれほど人権団体が叫ぼうと、現実はそんなものでしかないという事である。

 補佐官が退出したのを見計らって警察庁長官が論議を再開した。
「さて、ご存知の通り、今のわが国は他国と連絡が付かない状態でありまして、それはつまり彼らは母国から切り離さ
れているという事であります。その中には我が国日本へ仕事で短期的に訪問しておる者も含まれておりまして、彼らも
またこの異変の犠牲者であります」
「しかしだな、彼らも犠牲者だと言うのは判るが、彼らは問題ない。問題なのは他の件だろう?」


739 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2005/06/18(土) 23:05:34 ID:???

 やや薄くなり始めた頭髪を内心気にし始めている警察庁長官に、そう反論したのは国交相の凡河内(おおしこうち)直
樹だった。
御年62歳になろうかという凡河内は、政治家になってから今まで自らの意見を全く変えておらず、それゆえに主流派に
なれずにいた。
 だが、自らの軸足が一度もぶれていないため、政府与党から一目置かれる存在だった。

「国交相の仰られる通りです。我々が危惧しておりますのは」
 警察庁長官に代わって、現場のトップたる警視総監が応じる。

 内容が内容なので、現場がどうなっているのか判る人間がこの会合には混じっていた。
どのように対応すべきか、現場の視点で指摘できる人間が必要だった。

740 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2005/06/18(土) 23:06:25 ID:???

 警視総監が警察庁長官に代わって応じたのは、長官からすれば言いにくい事だったからで、その雰囲気を察した凡河
内国交相が警視総監に視線で促したのだった。

 眼鏡を掛け直して総監が続ける。
「不法滞在者であります。
ここで分けなければならないのは、全く合法的に日本で働く為にきた者とそうでない者です。我々が危惧しております
のは、このそうでない者たちの方なのであります。
 今までは、不法入国者を検挙すれば、そのまま強制送還できましたが、今や送還するための彼らの国と断絶している
事につきます。そして現段階で、こういった人間が何人いるのか把握できていない事であります。
 そして、不法入国した者の中で、分けなければいけない事は犯罪者とそうでない者なのでして、その犯罪者の過半が
大陸からきた人間であります」
「半島からの人間はどうなのだ?」
「半島からきた人間は大人しい方です。むしろ、地域社会に溶け込んでいる分、安全であると言えるでしょう」

741 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2005/06/18(土) 23:07:31 ID:???

 凡河内国交相の質問に警察庁長官が応じた。
「つい先ほども枕崎長官が述べられたゆうに我々の側にも問題がありまして、それは地域住民そして地域社会の彼らに
対する不理解であります。地域社会の多くにとって、外国人のコミュニティは異質なものと映ります」

 大迫総理を始めとする面々は、なるほどと感じる。

「我々と致しましては最悪の事態も想定しておく必要がありまして、最悪暴動が発生した場合の対処を想定しておく必
要があります」
「暴動まではいかんだろう?」
 丸顔の財務相に言葉に対して、警察庁長官が答える。
「確かに今の状態では暴動は起こらないでしょうが、この先も発生しないとは限りませんし、そうなった時の為に対策
を講じておく必要があるべきだと存じます」
「確かに。ならどうしようというのだね?その場合は留置所におくのかな?」
 国交相がそんな疑念を発した。
「それだと留置所が満杯になりかねません」
「それなら、自衛隊に入隊させればどうでしょうか?聞く所によると自衛隊は人員不足とか。更に異大陸に展開してい
る為、人員不足は深刻だと聞きますが」

742 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2005/06/18(土) 23:08:05 ID:???

 長官の言を受けて外相がそう発言したのを受けて、大迫総理が何か思い至ったようだった。
「それは良いかも知れないね。一定期間自衛隊にいたものには何年かの滞在資格か国籍を与えるのはどうだろうか。そ
れならば、その者がどこにいるか把握できるというものだしな」
「いわゆる外人部隊ですな?だが犯罪者にまで、国籍を与えるのはいかがなものか」

 財務相が不安を呈した。その不安は不法滞在者を自衛隊に入隊させ、国籍もしくは滞在資格を与えるという事に危惧
を持った者に共通のものだった。

「それなら指紋押捺を行なえばいいのでは。滞在資格を与えた後、犯罪を犯したとしても、指紋を検出すれば判る事だ
ろう?それに、自衛隊に入隊して滞在資格ないしは国籍を得た後でそのような事をするのは不名誉だという風潮を盛り
上げれはいいだろう」
「それなら良いかもしれないですな。早速だがこの件についてどのようにすればいいか案をつくってほしい」
「畏まりました」
 大迫総理の命に警察庁長官は応じた。



761 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2006/02/20(月) 23:34:05 ID:???

「日本異邦戦記」

平成15年8月19日15時
東方暦1048年6月16日
シュレジエン東部

 後ろからアムデス兵がいつ現れるか恐れつつ避退する避難民らの足取りは重く、時間が経つにつれその歩みは
次第に遅くなっていき、その避難民を守る残存シュレジエン兵の士気が時間と共に喪われていくのは、目に見え
る一方で、彼らが守るべき避難民同様、足取りが重くなっていく。

 空挺団を率いる黒木陸将補と交渉団護衛隊の長原三佐らは、その様にまずいものを感じたのも当然といえた。
また避難民らを抱えている為、街道沿いに撤退せざるを得ずアムデス軍の逆襲を恐れるという極めて危機的な状
況であり、常に斥候を出して進出してきた第十三旅団との邂逅は、彼らを破滅から救ったともいえる。

 秘匿名称「ヴォルガ」と呼ばれ、シュレジエン派遣部隊が橋頭堡を築きつつあるシュレジエン東部海岸に、シ
ュレジエン政権の主だった面々と、園山博恵女史らのシュレジエン交渉団を始めとする人々が到着したのは、そ
れから2日たった8月21日の事だった。

762 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2006/02/20(月) 23:34:54 ID:???

 シュレジエン方面隊総監福田陸将は、いくつもの天幕が置かれた中の一つに入るべく声を掛ける。
「中へ入ってもよろしいですか?」
 中にいる人物にそう丁寧に声を掛けるところを見ると、どうやらそれなりの人物らしかった。
返答を待つまでもなく中から、どうぞ、と言う声が返された。
「失礼いたします」
 そう前置きして天幕へと入ると、数人の女性が福田陸将のほうを向く。
彼らの主らしい女性が近くにある椅子に座るよう丁重に手で示し、軽く会釈して椅子に腰をかけた。

「このたび、貴国の支援を行う部隊の指揮を取っている福田定一と申します」
「ご助力に感謝しております」
 その女性は福田陸将に対して、高位の女性らしくゆっくりと礼を返した。
福田陸将は、女性が顔を自分に向けるのを待って続けた。
「先の戦闘において、貴国の陛下が身罷られた事、残念に思います。王妃陛下におかれてはお悔み申し上げます」
「その言葉、ありがたく存じます」
「所で、このような場所に王妃陛下を始め両殿下がとどまられるのは、まことに心苦しいのですが、如何せん近く
の宿などを借り上げる余力が、今のところないのです。今しばらくご寛恕頂きたく思います」
「判っております。わたくしらにそのような余裕がない事は確かなれば、貴殿らにお任せ致します」

763 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2006/02/20(月) 23:35:25 ID:???

 女性、そう先の王都撤退時に散っていった故ウィンダ三世の奥方であって、二人の子供の母親でもあるエクスタッ
ト王妃は、軽くうつむく。
福田陸将の言葉にエクスタット妃は、戦死した国王の事を思い出したのだろう少しばかり俯いたままで、その様を
見やりつつ、辛いかと存じますが、決してお気を落とさずに。可能な限り体を休める場所を早くご用意します、そ
う言うと、王妃の下を辞去したのだった。



779 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2006/02/22(水) 22:58:51 ID:kj2hb0Ff

「日本異邦戦記」

>>763の続き

平成15年8月22日10時
シュレジエン東部海岸

 大陸へと足を踏み入れた自衛隊の様々な作業で賑やかな場所からやや離れてはいるものの、ある程度開けた場所
に彼らの姿がある。
「ペドラザ、今度は首の下吹くから上向いてよー」
 やや小柄な少女のされるがままに、まるで言葉が判るかのように、首を上に向け、しかしながら少女が拭けるよ
うに、伸ばす1頭の竜があった。
その少女―つまりはレスティンは、桶に付けたタオルを絞って片手をペドラザの首の横に添え、もう片方の手で、
首の下を吹き始める。
 ペドラザはおとなしくレスティンにタオルで拭かれるがままになり、気持ちがいいのか、目を閉じている。

780 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2006/02/22(水) 22:59:25 ID:???

 王都から逃げ延びたあと、レステインはペドラザの横で、ペドラザと共に泥のように眠った。
いな、王都が陥落するという状況で竜と人とが共に大層疲れ果て、ペドラザ同様着地してしばらくするやいなや、寝
入ってしまったといえた。

 ペドラザの体を拭いているレスティンは王都を巡る戦いでひどくはないものの傷を負い、左腕に薬を付けていた。
まだ完治はしてないが、痛みはないようだ。
ペドラザも傷の具合を気に掛けているようで、タオルで体を拭かれつつも具合を確かめるようにレスティンに感
覚的に問いかける。
 言葉は通じないものの、相手が何を思っているかぐらいは互いに判るおかげで、レスティンは大丈夫よと言いたげ
に頷いてみせるのだった。

781 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2006/02/22(水) 23:00:11 ID:???

 だがレスティンとペドラザはまだましだと言える。
瀕死の重傷を負いつつも乗り手をここまで運んで息絶えた竜、帝国兵らの放つ石弓などの矢によって傷を負い、竜の
背から落ちたりなどした者もいるからだった。
 この時点でシュレジエン近衛竜騎兵団は半壊状態と化していた。
もっとも、王都撤退戦において負傷者を置いての出撃での事で、その彼らが合流してではあるけども、それでも竜騎
兵団が戦力を完全に回復するには相当の時間が必要だった。

 ペドラザの体を拭き終わって桶の水を捨て、タオルを乾かす為に棒に掛けてから、レスティンは負傷者の傷の手
当ての手伝いをするため、看護処へと足を向けた。


783 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 2006/02/22(水) 23:01:13 ID:???

 看護処では無傷の者に混じって、レスティン同様比較的傷の浅い者が薬師の指示の元、包帯を取り替えたり、薬師
を手伝ったりしていた。
慣れない者か゛包帯を外すものだから、包帯にこびりついた血液と共に肉がついたりなどして、余計痛みを怪我人に
与えてしまうものもいる。

 その様にわずかに目を細めながらも、レスティンも傷の手当てを手伝い始めるのだった。