181 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/02/20 20:11 ID:???
>>前スレ、369の続き
「レスティン、レーク両名は使者として、かの鉄船に赴け。ついでにかの者らに、交渉の用意がある事
を伝えると共に、この親書を向こうの代表者に手渡せ」
竜騎兵団長は、親書をレークに手渡し、二人を見やる。
「エンドルン卿は陛下にこの事を報告される。両名は案内役として、ニホン人とやらを連れてくるのだ」
その言葉に、レスティンとレークは一瞬、互いの顔を見合わせる。
事態がここまで大きくなっている事に、ある意味で驚いたのだ。
それはそうだろう。ニホン人と接触した段階では、事が国政に関わるのは判断できたが、まさか、宰相と
国王が彼らと会うという事までは予測できなかったからだ。
182 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/02/20 20:12 ID:???
そんな2人に竜騎兵団長は、やれやれといった表情をする。
「君らが余計な物を見なければ、良かったものを。・・・・しかし、ある意味、幸運かもしれぬな。もし
も、最初に彼らと接触したのが帝国でないのが幸いと言う事か」
そう言って、椅子に座り、手を組む。
「まあ、よい。使者としての任を果たせ。以上だ」
その言葉に2人は敬礼で応える。
と言うものの、レスティンは、竜騎兵団長の「余計な物」と言う文句に不満を持ちながらではあったが。
183 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/02/20 20:12 ID:???
レスティンとレークが、それぞれの竜とともに、港から離れた、人目につかない場所に停泊している「ゆう
ばり」を見つけたのは、昼過ぎの、影が大きく伸び始める頃だった。
この時もまた、「ゆうばり」の哨戒レーダーが彼らを捉えたのは、だいぶ接近されてからの事であった。
この事は、竜騎兵がレーダーに映りにくい事を意味していた。
地表すれすれであるなら、見つかりにくい事この上ない事は明らかであり、そして、今のところ彼らと敵対
状態にない事だけが唯一の安心材料である事に、艦長らは表情を渋くさせる。
もしも、敵対状態にあるならかなりの脅威である事だけは間違いないだろう。
その竜騎兵に乗っていたのは、先日、彼らと接触した、シュレジエンの竜騎兵の2人である事を艦長らは双眼
鏡で知った。
443 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/02/23 16:23 ID:???
>>183の続き
甲板の上に、窮屈そうにして大きな体躯を折った竜から降り立ったレスティンとレークを歓迎したのは、彼ら
と接触した事のある航海長の長瀬一尉だった。
通訳として、その傍らにはディーンも付き従っている。
「おや、レスティンさんと、レークさんではないですか。・・・・あなた方が来艦されると言う事は、何か進展
があったのですか?」
「はい、団長に説明した所、宰相閣下の方に話を伝えたそうです。そして、宰相閣下があなた方とお話されたい
ので、あなた方をご案内するように、との命を受け再度来艦した次第です」
444 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/02/23 16:27 ID:???
「それはいい報せですね。早速、艦長と園山女史に伝えましょう」
そう言って微笑みを浮かべる長瀬一尉に、レークは渡すものがあります、と言って親書を長瀬一尉に手渡す。
「これは?」
「竜騎兵団長より、宰相閣下からの親書を渡すよう言われています。園山女史にお渡しください」
「了解です」
長瀬一尉は、受け取った親書を落とさないよう、注意深く手に持つと先頭に立って艦内へと入ったのだった。
446 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/02/23 16:28 ID:???
首相官邸に、外務事務次官より調査団からの報告がもたらされたのは、17時をすぎた頃だった。
この所、気が滅入るような報告しかこない大迫総理にすれば、実に久々の嬉しい報告ではある。
その報告を聞いた大迫総理は、調査団が決めた当面の行動方針である、シュレジエンとの友好関係の構築並びに、
シュレジエンの国内調査及び食料買い付けを承認する。
最近の報道機関に掛かれば、食料の在庫分などすぐにばれる為、隠す事なく現下の状況を公開していた。
特に減反政策の撤回による休耕田の復帰が人手不足によって、遅々として進まず、政府の目処が狂ってしまった事
を槍玉として野党から批判を浴びた。
大迫総理は、その予測が甘かった事を認めたが、代替案を提示するよう野党に要求し、反論を封じ込め、そして反
論を封じられた野党は、これを問題とした。
18 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/02/26 12:42 ID:???
>>前スレ446のつづき
国会審議において、ファッショ政治であると言って反撃したのだ。
だが、大迫総理はこれに怯まず、堂々と野党に反論した。
ファッショ政治であるというなら、君達が政権を担いたまえ。我々よりも米の増産ができる方法を知っているらしい
ではないか?
食糧の手当てをどうするか、それだけで頭が痛いのだ。
君達が政権を担ってくれるなら、政治家を辞めて気楽にできるというものだ。
これに野党が噛み付き、国会が空転するという状況が毎日のように品を変え、現出していた。
19 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/02/26 12:46 ID:???
そんな日々で貴重な時間を費やしていたともいえる。
そんな国会に世論もまた、いい加減嫌気がさしている事を示す裏づけが出る始末だった。
だが、このような状況もシュレジエンとの友好関係の成立と食料に買い付けができるなら、少しばかりけりをつけら
れる。
燃料問題においては、在庫分しかない石油に代わって、水素電池等を初めとする大体エネルギーで凌ぐ方策に目処が
ついた。
未だ高価な水素燃料を安く販売できるよう、政府は臨時予算を組んで普及に力を入れた。
そして、廃鉱になってかなりの時間が経った石炭の採掘も再開し、人造石油の製造に乗り出していた。
燃料問題については、このような諸政策でもって、ある程度の目処がついたのだった。
残る問題が食料の手当てという事なのだった。
60 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/02/26 18:42 ID:???
投下いきまつ。
>>19の続き
本国から、方針を承認するとの連絡が入った事で。調査団一行にお墨付きが与えられた事で、園山女史を初めとする
面々は安堵し、シュレジエン側との初折衝に余裕を臨む事ができる事となった。
レスティンが一旦営舎に戻り、「ゆうばり」まで、同乗して案内してきた迎えの馬車数台に乗り込んだ。
艦から、王城まで約半日だと言う。
道は舗装されておらず、地肌で覆われている。
道行く人の服装は、どこか、アルプス山脈の高山民族に似ている。
また、街道沿いに点在している家は、一階だけの家が多い。
レンガ造りと木造とが入り混じっており、木造が過半を占めていた。
61 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/02/26 18:43 ID:???
こちらの世界でも、初夏なのだろう、と思わせる陽気が周囲を包み込んでいた。
途中、一服し簡単な食事を取ると、再度馬車に揺られる。
「都の名はバスムと言います。北方諸国の間では、多分一・二を争う広さだと思いますよ」
馬車に揺られながら、そう自慢げに話すレークに、園山女史は感心してみせる。
それなら、シュレジエンという国は、北方諸国の中心という位置にある国なのかしら。
園山女史はその疑問をぶつけると、レークは軽く頷いて肯定した。
62 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/02/26 18:44 ID:???
「ああ・・・・。見えてきました。あれが都、バスムです」
レークの指差す方に皆が視線を向けると、城の壁らしきものがゆっくりと現れ始める。
次第に近づくにつれ、壁は大きくなり、そして、その奥から塔が見えるようになった。
「あの塔は、バスムの象徴で、白陽の塔と言います。バスムに住む者、みな白陽の塔に誇りを持ってます。幾度か敵
に都まで迫られましたが、あの塔に敵が近寄る事ができなかったんですよ」
「戦争が?」
「ええ、この前攻められたのは、大分前になりますね。自分がまだ子供の頃、そうですね・・・14・5年前と聞いて
ます」
長原三佐に、レークは記憶を辿るように答える。
63 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/02/26 18:44 ID:???
やがて、街道が門へと続き城門に詰めている衛兵の脇を通り抜けるようにして、馬車が都へと辿りつく。
壁の中に入ると、様子ががらりと変わる。
大通りが真っ直ぐ伸びており、さらに内門へと続いている。
その両脇を始めとして、びっしりと家が建ち並んでいた。
その大通りから幾本も脇道が続いており、その奥にも道は続いていた。
大通りは城壁の外とは違い、石畳で舗装されており、そこを往来する人で、賑わっていた。
商店が軒を連ねるようにして、そこを出入りする人もまた多い。
そんな情景を誰もが、おのぼりさんよろしく観察している内に、馬車が内門へと到着する。
内門に詰めている衛兵のチェックはさすがに厳しく、レークが宰相直筆の許可証を見せて、通行が認められた。
64 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/02/26 18:52 ID:???
白陽の塔もまた、見上げるほどにまでなっており、その塔の下に続くようにして、都の中心部に座する王城がその
麗々しい全容を見せはじめた。
内門の中は、外門とは違い、瀟洒な館が建ち並ぶ。
歩く人もまた、異なっていた。
着ている服もどことなく、上質そうだった。
明らかに住人の質が違っているとも言える。
「ここの雰囲気は、さっきの所とは違いますね」
経産官僚の呟きに、レークもまた、周囲を見やる。
「ここは貴族方の館で占められていますから。ただ、貴族ばかりでもないですよ。豪商と呼ばれる者もここに居
を構えていますね」
65 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/02/26 19:00 ID:???
「と言うと?」
「私のような身分には関係ないですが、王室に献金すると貴族として列せられるそうですよ。それがいいのか悪
いのか、私には判りませんが・・・・・」
「なるほど」
やがて、王城の門で馬車が止まり、衛兵に来意を告げる。
「宰相閣下の命により、この方達とお会いになられる。陛下との会談も臨まれている方々である」
「許可証をお見せください。何人たりとも許可証なくして、入城は許されませぬゆえ」
その言葉に、レークは頷き、竜騎兵としての自分の身分を示すものと、宰相からの命が認められた書類を見せる。
247 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/02/27 23:29 ID:???
>>65の続き
それを受け取った衛兵はしばらく確認し、やおらにその書類をレークに戻した。
「確認いたしました。どうぞ、入城してください」
敬礼する衛兵に頷き返し、振り返った。
「いよいよ、城内です。中で迎えの者が待っているはずです」
そう言い、馬車にまた乗込んだ。
248 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/02/27 23:30 ID:???
城門を潜り抜け、馬車は中庭の端を通り抜け、少しばかり、狭い庭で止まった。
一行は、そこで止まったのを受け、城内に降り立った。
レークは、先に門番に来意を告げ、宰相に取り次いでもらうと共に、控え室に案内してもらう。
城の中の通路は、やや狭い。
もっとも、狭い通路とやや広い通路が交差しており、窓から光がもれている為、さほど薄暗くはない。
とは言うものの、夕方に近いのだろう、西日が差し込んでおり、どこか物憂げな感触を与えているようかのだった。
しばらく中を歩き、控え室に入る。
そして、使用人が飲み物を運んできたのを、それぞれ受け取りのどの渇きを癒す。
249 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/02/27 23:30 ID:???
そうこうする内に、宰相が到着したと係りの者が伝えてきたのを受け、応接室へと入った。
室内には、数人の人間と、そして明らかに人間ではなさげな人物とが待ち構えていた。
長い室卓には、上質な卓掛けが乗せられており、一行の人数分の椅子が据えられている。
明らかにこちらの人数に合わせて、運び込まれたかのようだった。
部屋の奥、待ち受けていた人物の一人がゆっくりと立ち上がり、入室した一行に声を掛ける。
「ようこそ、シュレジエンへ。異邦の方達よ。私は、この国の宰相を勤めさせて頂いているナイラーク・エンドル
ンと言います。以後良しなに」
「私は、園山博恵と申します。急の来訪にも関わらず、交渉の席を設けて頂いて感謝しております」
「ソノヤマ・ヒロエと申されるのですか。・・・ソノヤマ殿も、そしてあなた方も席についてください」
250 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/02/27 23:31 ID:???
一同が席に着いたのを見計らい、エンドルンが口を開く。
「まずは自己紹介からといきましょう」
その言葉に一同は互いに次々と名乗りをあげる。
やがて、背の低い人物の番となる。
「我輩は、クリャージと申す。赤鼠山に住まうドワーフの部族にして、灰色猫の一族の長である。ここの宮廷では鍛
冶や貨幣の鋳造の監督をしておる」
そう言い、頑固そうな瞳に笑みを浮かべ、長い髭をしごきつつ、椅子に座りなおす。
251 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/02/27 23:32 ID:???
続いては、長身の人物だった。
その人物にディーンは釘付けとなる。
何故なら、久しく見なかった同族だったからだ。
「私はアストラスと言います。宮廷魔法使いにして、その長を勤めさせていただいております。お見知りおきを」
優しげに軽く頭を下げる。
ディーンには、わずかに視線を傾けたが、2人とも特に何も言わなかった。
自己紹介が終わったのを受け、エンドルンが一同を見やりつつ、口を開いた。
「では、始めましょう。・・・・まずは情報交換からいきましょう」
その言葉に一同が頷く。
528 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/01 17:03 ID:???
>>251の続き
「そうですね。まず、貴国が大陸において、どこに位置しているか教えていただけませんか」
口火を切ったのは、園山女史だった。
「大陸東方諸国の中で北に位置しています。東方諸国は我がシュレジエンを始めとし、7カ国を意味します」
シュレジエン財務卿であるアイヒ・エルベス勲士が応じる。
アイヒ・エルベス財務卿は、王室に献金━━とはいうものの、実際には政府に献金したのだが━━する事で爵位を得
た豪商だった。
その点では、古くからいる貴族からは成り上がり者と蔑まれているが、その見識の高さや怜悧な判断は、商人として
も一流である事を物語っている。
そんなエルベス財務卿が、金で爵位を得たのは不本意ながらの事だった。
この頃のシュレジエンの豪商の間では、爵位を授かる事がステータスとなっているからだった。
そして、爵位のあるなしで信用度も変わってくるのだった。
そんな最近の風潮をエルベス自身は顔をしかめるのだが、評判には、背を腹に変える事はできないが故仕方なく、爵
位をえた。
529 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/01 17:04 ID:???
エルベスが爵位を得たのを見たエンドルン卿は、これ幸いとばかりに政府に迎えた。
元々、エンドルン卿自身、24年前の大飢饉からこの国を見事に立て直して見せており、15年前の戦争でも王都まで攻
め込まれながら、不利な戦局を乗り切って見せた手腕と見識の高さは誰もが認めていた。
一流は一流を知る。
その言葉通り、エンドルン卿は、エルベス勲士を説得し政府に迎え入れる事ができたのであり、そして、エンドルン
卿が宰相であるからこそ、エルベス勲士も説得に応じたのだ。
530 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/01 17:05 ID:???
「そして、わが国の西南の国境には「アムデス」が控えております」
新たに出てきた「アムデス」という言葉に、誰もが注意を払う。
「その「アムデス」と言うのは、国の名前ですか?」
財務官僚の言葉に、エンドルン卿が軽く頷いた。
「近年、武力によって拡大し続けている帝国です。一年前には、わが国の国境付近にまでその勢力を拡大しています」
その言葉をアストラスが引き継ぐ。
「本来なら、「アムデス」は既にわが国に侵攻したはずですが、それが一年近く足踏みをしているのは、わが国の力
に脅威を覚えているからですよ。もし開戦になれば、我が国は負けるやも知れない。しかしながら、簡単に負ける程、
弱体ではないですよ。むしろ、近衛軍は精強であると、周辺諸国に知られていますからね」
531 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/01 17:05 ID:???
エンドルン卿は、アストラスの言葉に頷く。
「が、しかし、あなた方の来訪は時期が悪いかもしれない」
「どういう事ですか?」
疑念の響きがこもった声を出した園山女史に、エンドルン卿が顔を向けた。
「帝国は近い時期に我が国に攻め込みますから。あなた方が来訪される数日前、帝国との交渉は破綻しました故」
その言葉に、調査団の面々が互いの顔を見合わせた。
そんな一同に、エンドルン卿は軽く笑って見せる。
「アストラス殿が仰られたとおり、我が国はそう簡単に負けるつもりもない。むしろ、如何にして、帝国を退けるかに
全力を払ってます」
532 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/01 17:07 ID:???
「さて、今度は、あなた方の番です。なぜ、あなた方が こちらに来られたのか伺いたいです」
「それは我々にも原因が掴めておりません。調査も一向に捗っていないのです」
園山女史は本当の事を、エンドルン卿に伝える。
「こちらの世界に飛ばされた事が判明したのは、つい3ヶ月前の事です。その後、周囲の海域を調査しましたが、有力な
手がかりが見つけられないままなのです」
「何か大規模な魔術が使われた形跡はないのですか?」
アストラスの言葉に、文部官僚が思わず首をかしげた。
533 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/01 17:08 ID:???
「魔術とは、なんですか?」
文部官僚の言葉に、今度はアストラスがきょとんとする。
「魔術をご存知ない?」
その言葉に一同頷く。
その一同の動作に、今度はシュレジエン側が唖然として顔を見合わせる。
「それは、なんとまあ・・・・。剛毅なものよの」
クリャージが髭を扱きつつ、にやりと笑う。
「では聞こう。魔術の力なしに、貴殿らが乗ってきた鉄の船。あれは、どうやって動いておる?」
「それは機械によって動きます。石油を燃やし、その燃やして得た力を動力に伝えて、です」
「機械?それはなんなのだ?」
経産官僚の言に、クリャージが問いを返す。
「そうですね・・・・、人の何倍もの力で働く事ができる道具とでも言いましょうか」
「なるほどのぉ・・・。うまく、理解はできんが、それは水車に近いものか?」
「水車より、機構は複雑です」
534 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/01 17:09 ID:???
そう言うと、好奇心を刺激されたらしいクリャージが誰に言うとも無しに言う。
「今度、貴殿らの機械とやら、見せてもらいたいものよ」
「判りました。こちらでも、あなた方が飛ばされてきた原因を調べてみましょう。・・・・それで、あなた方は調査で来
られたと言う。なら、目的はあるはずですな。それをお聞かせ願えますか」
535 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/01 17:10 ID:???
「我々の目的は」
園山女史は一旦、言葉を切った。
ここが正念場だと思う。
「我々の目的は、第一に貴国の食料の量と、そして可能であれば、食料を買い付ける事。第二は、燃料源の調査と、それ
の安定供給化を図る事。第三に、この世界の具体的な調査です」
「食料ですか?それはどのぐらい必要なのですか?」
エンドルン卿の言葉に、それまで沈黙を保っていた農水官僚が、始めて発言した。
「どのぐらい必要か、その数字は既に大まかですが、算出しています。ですが、その前にやらなければいけないのは。そ
の数字を貴国で買い付けられるのか、そして、貴国で必要量が調達できないのであれば、他の国からの購入は可能か、そ
の調査をしないといけないのです」
その言葉にエルベス財務卿が腕組みする。
「ふむ、もしあなたの言う事が正しいなら、貴国ニホンは、食料が危機的状況にあるとみるが、よろしいですかな?」
その言葉に園山女史が唾を飲み込む。
わずかなやり取りで、かなり正しい状況を指摘してのけたエルベス財務卿に、目を見張る。
シュレジエン側を少なくとも、敵対させない為には、こちらの状況を正しく伝えなければと考えた。
879 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/06 15:14 ID:???
>>535の続き
「かなり厳しい状況である事は認めます。その為に、食料をどこかからか手当てしなければならい事も。その為にも先
ほど彼が言ったとおり、調査させて頂きたいのです」
農水官僚に視線を向けつつ、そう言った園山女史に農水官僚が同意する。
「詳しい事は判りました。それでは、次の燃料とは一体なんなのですか」
「我々の社会は、燃料によって成り立っています。明かりを灯すにも、暖を取るにも、全て燃料がいるのです」
880 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/06 15:15 ID:???
経産官僚の言葉に、片方の眉を心もちあげて、クリャージが問いかける。
「それは薪の事かの?」
「いえ、薪ではありません」
そう答えた経産官僚は、シュレジエン側に問いかけた。
「あなた方にお尋ねしたいのですが、例えば、燃える石または燃える水と言うものを聞いた事はないでしょうか」
「燃える石か燃える水、とな?」
「はい、我々の所では、それを燃料としています」
882 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/06 15:18 ID:???
クリャージは、ふむ、と呟いて黙り込む。
「聞いた事がないのぉ・・・・・。いや、まてよ」
そこで何かを思い出したかのように、かぶりを振る。
「燃える水などと言うのは聞いた事はないが、よく燃える石の事なら、確か人伝に聞いた事があるのお」
「それの色や形は、どのようなものでしょう」
急き込むように、尋ねる経産官僚に対し、クリャージは苦笑いを浮かべた。
「慌てても、良い事はないぞ。・・・・聞いた時は、そんな石など取るに足らぬと思ってそのままにしたが」
髭を撫で付けつつ、続ける。
「轡峠で、みたと、空山羊の一族の者が言っていた記憶がある。なんでも、青く硬いが、火に当たると、爆発したよう
に燃えたと、な」
883 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/06 15:20 ID:???
「その轡峠、というのはどこにあるのですか?」
「我が故郷、赤鼠山から5日ほど歩いた所にある、何もないところだな」
「良ければ、そこに案内させて貰えないでしょうか?・・・それと、わが国から専門の者を派遣して調査する許可を頂き
たいと思います」
クリャージから、エンドルン卿に顔を向けた経産官僚は、園山女史に視線を移す。
「経産省より、シュレジエンに対し、調査の為の許諾を受ける為に代価を支払いたいと思いますが、いかがですか」
「構わないでしょう」
65 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/07 13:35 ID:???
そう言うと、園山女史はエンドルン卿に対し、その旨を提案すると、エンドルン卿は、快諾した。
「そうすると、支払いについてですが、我が国に取って価値のあるものをお持ちですかな?」
「当方は、金を用意しております」
エルベス財務卿は、首をかしげた。
「金というと、黄色に輝き、純度の高いものは、薄く伸ばせるというものですか」
「それ以外に金と呼ばれるものは知りませんが?」
経産官僚がそう言って問い返すと、ならば実物を見せていただけませんか、とエルベス財務卿は応じたのだった。
経産官僚は、エルベス財務卿の言に頷いた。
66 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/07 13:38 ID:???
それから、宰相エンドルン卿らとの会談は終わり、国王が謁見を所望しているとの事で、夜にまた参内する事となる。
調査団に随伴している葛重三尉らもまた、近くの迎賓館に止まる事となった。
「ああ・・・・」
「どうした?」
「いや、調査団のお歴々、今頃旨い物でも食ってるかと思うと・・・・」
「それはどうかと思うぞ。あれはあれで、外交戦だからな」
銃を分解整備していた一士は手を止めずに、食べ物で一杯な同僚に淡々と返してみせる。
「んな事、上の方はそれが仕事でしょうが。うちらは鉄砲かついでなんぼじゃんか。仕事が終わったら、旨い飯とビー
ル!これに限るね」
「・・・・その言い方、中年サラリーマンの言いそうな事だぞ、西原」
西原と呼ばれた一士は、呆れたような顔をする。
67 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/07 13:39 ID:???
「じゃあ、お前は何が欲しいんだよ」
「無事に仕事を進めるだけだ」
西原は、やれやれといった顔をする。
「それより、西原も分解整備進めとけよ。何時、何があるやら判らんからな」
「おいおい、ちゃんとこうしてやってるじゃんか。小川原、ひどい事言わんでよ」
「俺はもう済んだぞ、それにほかの者もほとんど終わってるぞ」
小川原は周囲を見渡しながら、西原に指摘してみせた。
そんな小隊に、葛重三尉が姿を見せる。
「ああ、みんな、揃ってるな。そのままにして聞いて欲しい。当小隊は明後日14:00、裏門に終結後、本国からやってく
る人間と一緒に、轡峠に向かう事となった」
「どういう事でしょうか?」
小隊内の先任下士官である井倉(いのくら)一曹が聞き返す。
423 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/09 20:25 ID:???
断章
1
南方暦1078年 夏
アムデスの武威を、あまねくしろしめす帝国8色のうち、
5色が帝国東方国境に布陣を終えつつあった。
帝国8色は、4色毎を其々右大将と左大将が率いられ
ている。
今回の東征は、アムデスの軍人から信頼される「聖将」
こと、右大将ガディス・ジルバが総指揮官を務めていた。
今も本営には、布陣につきつつある5色と、そして正規
軍に付き従う領主勢の報告が、伝令によって入ってきて
いる。
右大将ガディス・ジルバは、全て滞る事なく準備を終え
ようとしている状況に満足していた。
425 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/09 20:33 ID:???
2
聖将ことガディス・ジルバの年齢は誰もしらない。
いな、本人ですら知らない。
なぜなら、彼は捨て子だったからだ。
帝国の国教である聖教、その地方の教会にガディス・ジ
ルバは拾われた。
ガディスの名は拾われた時に付けられたものだった。
ちなみに、ジルバの姓は、彼を拾った教会の名である。
やがて、成長すると共に、彼はその才幹を発揮し始めた
のだ。
そして、そんな彼の才幹をこのまま、地方の教会で終わ
らせるのは勿体無いと考えた司祭は、彼を中央に上げ
る事を考える。
426 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/09 20:44 ID:???
3
中央にあがったガディス・ジルバは聖職者としての道を歩み始める。
ガディスの才能は、中央で更に磨かれた。
アジィム神の教えを淀みなく人々に伝える様は、教徒をして心から感動で
打ち震えさせたのだ。
聖教とは、人々にかく在るべしと道を説き、人権と人道を教え諭す教理を
有する。
だが、その教えはあくまでも帝国に住み、聖教の敬虔なる信徒にのみ、開
かれた。
427 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/09 20:47 ID:???
聖教に従わないものは、聖教が守るべき信徒ですらない。
人間であろうと、それは信徒と同じ言葉を使う事のできる動物、それが聖教
の考える異教徒の姿だった。
人間ですら、そうなのだから、エルフなどを初めとする神代より、人間と共に
種族はそれ以下の存在だった。
むしろ、聖教にとって、この世界から浄化すべき存在だった。
428 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/09 20:55 ID:???
4
ガディス・ジルバもまた、聖教から従軍牧師と派遣され、
帝国に従わない異教徒と、そして異教徒ともに抵抗して
虜囚として捕らえられたドワーフの姿を見て、吐き気を覚
えた。
こんなものが、この世界にいるとは!
従軍から戻った後、ジルバは異教徒を浄化し、この世界を
清めるべきだと、熱心に説いて回るようになる。
衝撃がどれほどのものだったか、それは想像に難くなか
った。
数年の後、若くして司教となったガディス・ジルバは、上司
である大司教に自ら願い出る。
私は異教徒を浄化する為、軍と行動を共にしたいと思いま
す、と。
429 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/09 20:59 ID:???
世俗に戻る事を願い出た彼を、大司教は好ましく思い、
むしろ聖教に留まり、浄化運動をすべきであると諭し
たのだった。
彼の才幹に、軍の上層部の者も聞き及んでいた為、ガ
ディス・ジルバの入隊を歓迎した。
が、ガディスは、今しばらくは経験を積みたいと伝え、そ
の希望は叶った。
430 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/09 21:10 ID:???
5
ガディス・ジルバが着任したのは、荒れ荒んでいた事で知られる、
とある中隊だった。
だが、最初こそ、彼を男娼の如き目で見ていたが、やがて彼の態
度に、兵士は感服して従うようになった。
そのきっかけは、彼が中隊長として着任して、初めての演習だった。
それまで、この中隊は演習に参加しても、まず最初に全滅するの
が関の山だが、ガディス・ジルバの指揮は中隊をして、最後まで演
習で生き残らせたのだ。
それ以後、演習において、ガディス・ジルバの指揮により好成績を収
め続た。
431 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/09 21:14 ID:???
6
やがて、一年経ち、ガディス・ジルバの中隊は、実戦において
大殊勲をあげる。
決戦において、敵の本営を奇襲してのけたのだ。
その戦果は、上層部にも届き、ガディス・ジルバをして大隊や
連隊を飛ばして、一足飛びに旅団長とさせる。
その才能は、大隊や連隊で終るものではない。
軍上層部は、そう考えたのだった
432 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/09 21:21 ID:???
7
実際、軍上層部の判断は間違っていなかった。
旅団長になってからも、実績をあげるガディス・ジルバを
今度は、帝国8色のうち、一色を指揮する事のできる将軍
に任じたのだ。
聖教もまた、浄化を進めるガディス・ジルバを大司教とする。
大司教に任じられ、その衣を纏って人々の前に立った時、誰
が言うともなしに、歓声があがった。
聖将万歳!
帝国に誉れあれ!
この時既に、誰もが、右大将にふさわしい人物であると認めた
も同じだったのだ。
433 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/09 21:28 ID:???
8
ガディス・ジルバの進める大戦略の前に、対抗できる国は存在しなかった。
ガディス・ジルバの戦略は理に適ったものだった。
必要なときに必要なだけ、敵よりも優勢な兵力でもって圧倒する。
全くもって、奇手奇略の存在できないものだった。
そして、ガディス・ジルバの戦略を帝国の国力が支える。
その力は既にどの国であろうと、対抗できるものではない。
434 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/09 21:34 ID:???
9
だが、帝国の前に立ち塞がる存在が現出した。
東方大同盟。
それが、その立ち塞がる存在の名詞だった。
帝国に追い詰められた国々の盟約だった。
その中心となる国の名は、シュレジエン。
精強で知られる近衛軍を有し、不敗を誇る国の
名である。
帝国の喉にかかった小骨といっていい。
だが、東方大同盟を軽視する訳にはいかず、帝
国はまず、外交でもって切り崩しにかかった。
436 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/09 21:44 ID:???
飴と鞭で同盟を揺さぶる外交で、かなりな成果があがったのだ。
だが、それでも幾つかの国々には効果はなく、むしろ敵に追いやっ
てしまう事となったが。
もっとも、大同盟の盟約を結びながらも、帝国と密約を交わした国
に対し、帝国はその存続を認める気はない。
そして、密約を交わした国も、帝国にもっと目を向けるべきだった。
帝国にとって異教徒は、人の言葉を話す事のできる動物でしか過
ぎないという事を。
外交で揺さぶりを掛けると共に、帝国は「聖将」ガディス・ジルバに
対し、東征を命じる。
437 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/09 21:47 ID:???
東征に投入した兵力の内、3色をシュレジエンに、もう1色を東方大
同盟に、残る1色を戦略予備とした。
領主勢はというと、4割を対シュレジエンに4割を大同盟に、残る2割
が戦略予備である。
もっとも大同盟に対しては、牽制であり陽動である。
438 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/09 21:58 ID:???
10
煌々とあかりの灯る本営にて、ガディス・ジルバとその幕僚達は、その時を待ち続ける。
おそらく、前線の兵士たちは緊張しているだろう。
このままいけば、日の出とともに、戦端を開く事ができる。
既に前戦線に渡って、やるべき事は終わっていたから。
何せ、戦線の端から端まで、120里(およそ360キロ)なのだ。
伝令を走らせるにしても数日はかかる。
だから、いつ始めるか前もって決めているのだ。
やがて、うっすらと東の空が白み始めた。
と同時に、前線において、喚声があがる。
帝国による東征が遂に始まったのだった。
完
606 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/12 12:27 ID:???
>>26の続き
「うん。その事だけど、どうも轡峠に、燃料資源になりそうなものがあるみたいなんだ。それで、本国から技術者を急遽
派遣する事となったんだ」
「それで、当小隊がその随伴に選ばれたと言う事ですか」
「その通り。でまあ、こう言っちゃあなんだが、明日は一日、休暇となった。町の見物をするもよし、寝るもよし」
その言葉に、小隊全員が互いの顔を見合せた。
小隊の意見を代表するかのように、井倉一曹が代弁する。
「休みをくれると言われましても・・・・。言葉が通じないのに、何をしろと言うんですか」
呆れたような口調に、葛重三尉はただ苦笑いをしただけだった。
607 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/12 12:28 ID:???
「そういうな。それと、食事も用意できているから、遠慮なく食べるといい。さすがに、ビールは置いてないが、代わり
となるものぐらいはあるだろう」
その言葉に、西原一士が嬉しそうな声をあげ、それに釣られて、全員が歓声をあげた。
その様子に葛重三尉は軽く笑って、建物からでて、一休みも兼ねてしばらく歩く。
あたりは、既に闇に覆われ始めており、人の気配も少なかった。
すると、人の気配がしたので、首を回して周囲を見やると、誰かが石壁に体を預けて、夜空を見上げていた。
誰だろうと思い近寄ると、よく知った人物だった。
608 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/12 12:30 ID:???
「おや、ディーンさん。何しているんですか?通訳として、夕食会に出るはずでは?」
「あら・・・葛重三尉さんね。・・・・夕食会にはでるけど、主催が王様でしょ?なんだか堅苦しそうで」
ディーンは再び夜空を見上げる。
「王様かぁ。自分もなんだか想像できないですけどね。そんな肩書きの人なぞ、あった事もない」
葛重三尉も、一緒に夜空を見上げた。
「それにしても、星がきれいだな。故郷でもこんなに光っている事なんかなかったからな」
「そうなの?」
「はい。空気が濁ってて、あまり星が鮮明に見えんのですよ」
その言葉に、ディーンは軽く目を瞠る。
「信じられない。星が鮮明に見えないなんて、私が住んでた森では、考えられない」
609 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/12 12:31 ID:???
しばらく、2人の間を沈黙が包み込む。
「今、こうして、ここにいるのが夢みたい。・・・・私も森から出た時、死ぬかもしれないと思ったもの」
沈黙を破ったディーンの言葉を葛重三尉は、静かに聞き入る。
「多くの仲間が、逃げる途中で死んだ。好きだったあの人も、自分達を帝国と呼ぶ者たちから、自分たちを逃がす為に戦
った」
葛重三尉は、そう話すディーンの横顔をそっと見る。
その顔は、遠い過去を思い出しているかのようだ。
「・・・ねぇ、葛重三尉。あなた達の国は帝国と呼ぶ者たちと戦うのでしょう?」
「それは、難しい。国内が戦争という言葉に敏感だから。それに自衛隊は、専守防衛を目的としているし」
「なぜ?帝国は、自分たちにまつろわぬ者は全て、消そうとするわ。ニホンとて、例外ではないわ」
「自分の身近な人が殺されても平気だと言うの?帝国に取って、私達は虫けらと同じなのに」
「そう思わない人間もいるから。・・・・帝国と称する者も同じ人間なのだから、話せば通じる筈だ、という人間もいる。
それに、自分も戦争はしたくないし。自衛官だからと言って、誰も、むやみに戦いたいわけではないんだ」
610 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/12 12:32 ID:???
その言葉に、ディーンはやや驚いたような顔をする。
葛重三尉は、困ったように笑う。
「でも、その時にならなければ、多分判らないよ」
「そうね。そうだよね」
軽く笑んだ後、ディーンは、そろそろ行かないと、と言うと、彼に軽く頭を下げ、去っていった。
三尉は、軽く息を吐き出すと、夜空をただ眺め続けた。
719 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/12 23:19 ID:???
>>609の続き
夕食会に列席したのは、日本側からは、園山女史を始め、調査団の主だった者と長原三佐だった。
シュレジエン側は、現国王ウィンダ三世、宰相ナイラーク卿そして、宮廷魔法使いの長たるアストラス及び
工部所頭クリャージらが日本側を出迎えていた。
日本側もシュレジエン側も互いの言葉を理解できない━━とは言っても日本側はわずかではあるが理解でき
たが、複雑な用語の介在する外交の場においては付け焼刃でしかないが━━為、通訳はもっぱら、ディーン
らを始め、3人ほどが通訳に当たる事となる。
国王の歓迎の言葉と共に始まった夕食会は、だが、日本人達を困惑させた。
長卓には、おいしそうな物が並んでいるのおり、手元には取り皿もある。
美味しそうな湯気と共に、匂いが鼻をつく。
721 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/12 23:22 ID:???
だが、彼らの手元にあってしかるべき物がない。
その困惑を見て取ったのか、ウィンダ三世が、訝しげに問いかけた。
「おや、皆様、食べられないのですかな?毒は入っておりませんぞ!」
その言葉に、軽い笑いが座を覆う。
「つかぬ事をお伺い致しますが・・・。フォークもしくはナイフはありませんか?」
「フォーク?それは一体?」
「いえ、フォークがないのに、どうやって食べるのかと悩みまして」
「ふむ。あなた方は、別の食べ方を致すのかな」
「食べ方というよりは作法、もしくはマナーの部類ですね」
「なるほど、わが国を始め、ここらの国では、こうして食べる」
722 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/12 23:22 ID:???
そう言うと、国王みずから、面白そうに実演してみせた。
傍に控えている御用控えに命じると、御用控えは大きなナイフを取り出し、肉を切り分け、国王の手元にある
皿に置く。
日本側にも、同じように手元の皿に切り分けた肉を載せていき、一通り乗せ終わった事を見て、国王は、その
肉を手に持ちかぶりついたのだ。
その様子に、日本側は、目を丸くする。
ふと、シュレジエン側を見ると、同じように肉を手に持ち、かぶりついたかと思うと、体の左側に置かれてい
たナプキンで、指についた脂を拭き取ると、今度はその手で、果物を取り器用に皮をはいで、咀嚼する者もい
た。
723 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/12 23:25 ID:???
その光景に、日本側は愕然とした。
何せ、自分たちの常識では、晩餐会と言うと、ナイフとフォークは必需品であり、格式ある作法が支配するもの
だからだ。
あっけに取られる中、シュレジエン側と同じように、肉を手に持った者がいた。
長原三佐だった。
その姿に、園山女史が続き、それに釣られるようにして、手元の皿に切り分けられた肉にかぶりついたのだった。
しばらく経った後、国王のニホンに対する興味から発した質問を皮切りに、ようやく夕食会らしくなったのだった。
724 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/12 23:26 ID:???
本国から到着した技術者を出迎えた葛重三尉らは、クリャージが寄越したドワーフの若者と共に、轡峠へと向かっ
て出発する。
最初の目的地は赤鼠山である。そこで一泊した後、轡峠へと向かう事となった。
彼ら随伴中隊は、あくまで護衛であり、「ゆうばり」には、そもそも車両を置くスペースなどないため、轡峠までは
馬車に乗る事となった。
もっとも、馬に乗れればいいのだろうが、彼らは技術者も含め、馬に乗った事など皆無である。
赤鼠山まで、二日は掛かるという。
彼らは、最初のうちこそ、物珍しげにきょろきょろと馬車の車窓から外の景色を見回したが、やがてそれにも飽き、静
かな旅となる。
813 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/13 21:08 ID:???
では投下いたしまつ。
今回から、SSの題名つきまつ(w
「日本異邦戦記」
>>724の続き
赤鼠山のドワーフの集落で一泊した一行は、轡峠へとたどり着いた。
葛重三尉は、無事到着した事を無線で連絡し、小隊を配置につかせる。
護衛とは言うものの、戦う訳ではないため、気楽と言えば気楽である。
その中で、技術者たちはドワーフの一氏族である空山羊の一族から詳しく聞きだした地点を中心に、青い鉱石らしきも
のの調査にあたる。
まず地質学者の手によって、丹念に地質の探査が行われ、そのあと、超音波探知器などを駆使して探し回った。
一日目は、そのままなんの手がかりも見つからないままに過ぎる。
だが、2日目にして、ドワーフから聞き出したポイントのすぐ近くでそれらしきものを見つけたのだ。
ある程度安全だと思われる距離を取って、用意した導火線に火をつける。
導火線の先には、件の青い石があった。
814 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/13 21:08 ID:???
導火線を火が伝わって、青い石へと辿りついた。
するとどうだろう、まるで爆発したかのような破裂音とともに激しく燃えたのだ。
その音に一瞬、誰もが振り向くほどだった。
全て燃え尽きるのに、30分以上かかった事に技術者の誰もが、興味をそそられた様だった。
超音波探知器が青い石が眠っていると思われる地脈を知らせたのは、その青い鉱石がみつかったあたりである。
どうもこの一帯には、鉱脈があるらしい。
原始的ではあったが、小隊の何人かに手伝わして、スコップで掘り進む。
その作業を行って、更に一日が経った時、がつんと言う音にぶちあたり、何事かと手で土を払いのけると青いものが頭を
のぞかしていたのだ。
すぐさま、技術者を呼ぶ。
815 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/13 21:15 ID:???
火をつけると爆発したように燃えた為、発破を使うわけにはいかない。
その為、道路工事でコンクリートやアスファルトを切断するような機械を持ち込んでいたのが役に立った。
案内役としてついてきたドワーフがその大きな音にびっくりしつつも、青い石を切断していく様に驚き興味津々と言った
様子で覗き込み、いろいろと技術者に質問している。
やがて、一塊の切断された鉱石が地面に置かれる。
これを持ち帰って、調査するのだ。
その後も、近辺を技術者らが調査した。
816 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/13 21:17 ID:???
そのような中、無事に帰還できると思った矢先の事である。
井倉一曹はふと、何か気配を感じて、周囲を見回す。
だが、気のせいだろうか。
そう思って小首を傾げたのを小川原一士が見たらしく、どうしたのですか、と尋ねた。
「いや、何か気配がしたようなんだが・・・。気のせいだったかな」
「気配が?」
そう言って小川原一士も首を回して周囲を見渡す。
そして、小川原一士は峠の先に何か見えたような気がした。
817 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/13 21:18 ID:???
轡峠において、丁度井倉一曹と小川原一士は、峠の南側の斜面におり、その斜面まるで切り立ったかのようであり、下界
が良く見えた。
その小川原一士の様子を怪訝に思ったか、井倉一曹は双眼鏡に手を伸ばし、倍率を伸ばして、見つめた。
すると、なにやら砂ぼこりがしていた。だが、それは尋常ではない。
なんと、地平線の先にまで延びているではないか!
すぐさま、葛重三尉を呼び出すと共に、ディーンやドワーフの若者にも、それが何か確認してもらう。
「あれは・・・・!」
ディーンの言葉にならない様子とドワーフの若者の驚愕の表情はただ事ではなかった。
葛重三尉もまた、双眼鏡を構えたまま、問いかけた。
818 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/13 21:18 ID:???
「一体、あれはなんなんですか?」
「帝国の軍勢だわ!」
「そうとしか言いようがない。それに先頭にいるのは・・・・!?」
ドワーフの若者が絶句した。
「柏葉騎士団ではないか!」
「柏葉騎士団とは・・・?」
「わが国の西の国境を警備している勇猛な騎士団です」
どうも、柏葉騎士団は潰走しているようにしか見えなかった。
帝国の軍勢と思しき黒い奔流に飲み込まれるかのように、最後尾の騎馬から倒れていく。
退却しつつも、反撃を試みているのだろうが、焼け石に水でしかなさそうだった。
ぐすぐずしている訳にはいかなかった。
葛重三尉は中隊本部に連絡を取ると共に、技術者らを先に王都へと帰還させた。
護衛として、一個分隊をつけてである。
それを見届けた後、小隊本体は葛重三尉の指揮の下、急ぎ帰還する事となる。
819 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/13 21:19 ID:???
葛重三尉は何度も後ろを振り返る。
追われているような気がしてならないのだ。
しかも、馬車であるから、それほど速度はでない。
そして、ついに西からの軍勢は赤鼠山まで後2日と言う所で葛重三尉らに追いついたのだった。
とは言うものの、轡峠から進んできた一隊は分遣隊らしく、数は少ないようだったが。
それでも、葛重三尉らより規模は上である。
何事か、後方より、叫ぶ声が聞こえる。
多分に、止まれ、とでも言っているのだろう。葛重三尉は、話し合いができるのでは思い、応じる事とした。
通訳ができるのはディーンだけなのだが、その彼女はまるで恐怖で体が強張っているようだった。
820 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/13 21:26 ID:???
しかし、話し合いが出来るのではという考えは、結局甘かった事を思い知らされる事となった。
やがて、数人の騎兵が前方から近づいてくる。
念のため、葛重三尉は、全員に装填を命じ、交渉の為、近寄ろうとすると、ディーンの姿を見咎めたのか、唐突に速度
をあげ、槍を構えて、迫ってきた。
「危ないッ!」
そう叫び、ディーンの体を抱えるようにして、大地を転がる。
その時、槍の先が葛重三尉の左腕をなめる様に滑り、思わず、痛みで声を上げた。
いきなり、銃声が辺りにこだまし、騎兵の何人かが崩れ落ち、落馬しなかった者も、馬が急な音に驚き、葛重三尉をどう
こうする所ではなくなった。
小隊が葛重三尉とディーンを助けるべく、遂に発砲したのだ。
930 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/15 20:02 ID:???
そんな日常の中、一族の中の一人が、変わった服を着た人間とばったり出くわしたのだ。
「そこに誰かいるのか?」
その何者かは誰何の声をあげる。
気配を感じ取られた事に、内心驚きつつ、姿をその者の前にあらわした。
「・・・・・」
訝しげにその何者かを観察した。
その者が来ている服は確かに変わった柄だった。緑を基調に、濃紺のまだらみたいな、
柄が全体を覆っていたからだった。
体つきはと言うと、中肉中背で髪の色は黒く、肌は日に当たっているらしく、やや色は濃い。
そして、どこをどう見ても、男だったのだ。
一族の者が口を開いた。
「お前は一体何者だ?」
警戒心を露にしているのを気づいたのか、男はやや苦笑した。
936 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/15 20:12 ID:???
「人に名前を聞くのなら、まず自分から名乗るのが先決だろう?」
その言葉に一族の者━━まだ若い青年だった━━は、顔をしかめる。
「俺の名は、アクスタだ。アクスタ・ナージ」
その言葉に男は満足すると、頷いて答える。
「自分の名は、菊地原一登だ。身分は、航空自衛隊一等空尉だ」
コウクウジエイタイ?それはなんなんだ。
「そんな名前の身分など、聞いた事もない。どこからきた」
菊地原一尉は、頭を掻く。
「どこから、と言えば、日本からきた。としか言いようがないな。一般的に
は自衛官と言えば、大抵の人間は判るんだが、ね」
その言葉に、アクスタはさらに顔をしかめる。
「ニホンなどという国など知らないぞ。お前、気は確かか」
949 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/15 20:25 ID:???
「日本をしらない?ふむ。いよいよ、ここが別の世界か異次元かという事になるな」
そのぼやきに、アクスタはやや驚いた。
「異次元?別の世界?そうなら、別の世界から来たとでもいうのか!?」
「だから、最初からそう言っているだろうに」
菊地原一尉は、よく理解しきれないでいる、目の前の若者にそう応える。
「今度は、お前の事を聞く番だ」
そう言うと、菊地原一尉は、口元に手をやって、考えた。
そうだな、何がいいだろう。
そう考えて、アクスタとかという若者に問いかけた。
「では最初の質問だ。お前はここの近くに住んでるのかな?」
その言葉にアクスタは、一瞬答えられなかった。
一族で放浪しているから、などと気恥ずかしくて言えなかったし、そう言って、相
手と付き合って、裏切られた時の事も思い出したからだった。
960 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/15 20:32 ID:???
「どうしたのだ?」
怪訝そうに菊地原一尉がアクスタを見やると、アクスタはその視線にうながされ
たかのように、口を開いた。
「いや、ここの地元に住んでるわけではない。自分らは、もともと放浪しているか
らな」
その言葉に、菊地原一尉はひっかかりを覚えた。
「自分らと、言うと、他にもいるのだな?」
菊地原一尉の言葉に、アクスタは、思わず、はっとした。
「い、いや・・・・・」
「そういう場合はだな、あくまでも図々しく、否定すべきだよ」
菊地原一尉は、アクスタに苦笑いして諭した。
967 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/15 20:39 ID:???
「まあ、いい。では、次の質問だ。なぜ、君らは放浪しているのだ」
「ふん、なんでそんな事を言わないといけない!?」
菊地原一尉は、真っ直ぐ太い眉をやや捻じ曲げた。
アクスタの言う事も、もっともではある。
だが、ここは聞いておくべきだな。
「理由もなしに放浪している訳ではなかろう。人は、何か理由がないと、普通は旅など
しないものだからな」
その言葉に、アクスタは押し黙った。
どうも、心の古傷らしきものにふれたらしい。
「気に障ったのなら、謝る。が、君らが何者かしりたいのだ。ただそれだけの事で言った
のだ。済まない」
その言葉にアクスタは驚く。
972 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/15 20:49 ID:???
そう言う人間を、アクスタは知らなかった。
「・・・・どこまで行くのか知らないけど、森を出る頃には完全に日が暮れる。
出られたとしても、人家までは遠いはずだ。泊まっていけ」
森の木の梢の先から、今にも没しようという太陽を、手をかざしながら、菊地原
一尉に言った。
「いいのか?」
「一日、とまっていくぐらい誰も文句は言わない。だが、冷たくするから、と言って
それで気を悪くするな」
ぶっきらぼうに言ってのけた若者に、菊地原一尉は苦笑して、その申し出を快く
受け取る。
後、少しで彼らの宿泊地に着こうという矢先の事である。
日はとっぷりと暮れた為、菊地原一尉は、ふところの懐中電灯のスイッチを入れる
と、アクスタは驚いた。
魔術か何かかと聞いてくるアクスタに、そうではなく技術の一つだ、などと応じて
いると、何かの気配を感じた。
それも複数━━━。
974 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/15 20:58 ID:???
赤く光るものが、対で空にいくつか浮かんでおり、何者かの吐息の気配がする。
「ま、まさか」
菊地原一尉は、思わず息を呑む。
「あれは、狼だ・・・・・」
アクスタが応じる。
赤く光る存在が、露らになり、その輪郭がはっきりとしてくる。
二人はじりじりとあとずさった。
菊地原一尉は、武器となるものを持っていない事にふと気づく。
しまった!何か、木の棒でも拾って置けばよかった!
何頭かの狼は、合図したかのように飛び掛ってきた。
その時だった。
アクスタの体に異変が生じたのは。
975 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/15 21:04 ID:???
アクスタの体が急激に膨張したかと思うと、体中から体毛が生え、
鼻の先はとがり、耳が伸び、そして、爪が鋭く伸びる。
「ぐぅるるおぉぉぉッ!」
うなり声を発し、「アクスタ」だった者は、狼を相手に立ち回り、そ
の全てを殴り殺したのだった。
菊地原一尉は、その光景にただ、呆然と見ているしかなかった。
どれくらいの時が経っただろう。
「アクスタ」だった者は、また元の姿に戻り、そして、菊地原一尉
の方を悲しげな、そして切なそうな目で見つめる。
こいつも、キクチハライチイとやらも、自分から逃げ出そうとする
のか・・・・・・。
977 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/15 21:10 ID:???
だが、アクスタの耳に飛び込んできたのは、今までとは違う言葉だった。
「驚いたな・・・・。まさか、変身するとはなあ。漫画か何かでしか、あり得ないと
思っていたが」
菊地原一尉は、ぼりぼりと頭を掻いたのだった。
「怖くないのか?」
「どうして、怖がらないといけないのだ?」
恐る恐る尋ねた、アクスタにそう聞き返して見せると、今度はアクスタが絶句し
たのだった。
その後、アクスタら獣人族は、日本を安住の地として住み着く事となったのだった。
end ?
223 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/17 19:15 ID:???
>>../1078/1078588258.html#820の続き
痛みで顔をしかめつつ、後ろから追いすがろうとする一隊から葛重三尉とディーンを助けるべく援護を行う小隊に助けら
れつつ、葛重三尉はディーンに体を起こされ、立ち上がり、よろめきながら走り出す。
小隊の何人かが、大きく腕を振り上げ、早くこっちに、と叫んでいた。
帝国の軍勢の一隊は、聞きなれない銃声に驚く馬を宥めつつも接近してくる。
小隊に向かって、ばたばたと落馬しつつも、葛重三尉のすぐ後ろまで近づいてきた。
が、葛重三尉とディーンは間一髪で小隊員に腕を捉まれ、後方へと身を投げ出された。
224 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/17 19:30 ID:???
その時だった。
悲鳴のような声が上がった。
敵の騎兵の槍が一人の二士の体を突き刺したのだ。
そして、二士を突き刺した騎兵もまた、銃弾の的となって、転がり落ちる。
槍に突き刺された二士はと言うと、刺さった槍と体の接点に手をやったまま、転がった。
敵の猛攻もそこで終わり、おびただしい犠牲を出して撤退していくのを誰もが荒い息を吐いて、見送るしかなかった。
葛重三尉は、ディーンの手によって包帯が巻かれた左腕を抑えつつ、槍で刺された激痛で苦しむ二士を、衛生士が包帯
を巻き、止血を行って痛み止めを打つ様を見やりながら、本部との連絡を取った。
「本部、本部、こちら3小隊。オクレ」
『3小隊、こちら本部。どうした。オクレ』
225 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/17 19:31 ID:???
「先ほど、帝国の一部隊と交渉を行おうとしたが、ディーンの姿を見た敵の使者が槍を構え、ディーンに危害を加えよ
うとした為、かばった所、攻撃を受けたので、正当防衛として発砲を行った。その後石動(いするぎ)二士が、槍にさ
さり、重体を追う」
『少し待て。』
しばらく、無線機の前で待たされる。
『葛重三尉。長原三佐だ。報告した事は本当か?』
「本当です」
代わって無線機に出てきたのは、中隊長の長原三佐だった。
『それで、敵部隊は退却したのだな?』
「はッ」
『石動二士が重体との事だが、赤鼠山まで、あとどのくらいの距離がある?』
「およそ2日ほどかかると思います」
『判った。それで衛生士はなんと言っている?赤鼠山まで持ちそうか?』
226 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/17 19:32 ID:???
その言葉に、葛重三尉は衛生士に状況を聞いた。
聞かれた衛生士は、顔を暗くして首を横に振る。
赤鼠山までまだ二日はあり、そして医療機材と言えば痛み止めと包帯ぐらいなものであり、止血するのが関の山なのだと
言う。
そして、問題の患部が腹部であるため、長くは持ちそうにないとも。
その事を報告すると、無線の向こうで長原三佐が押し黙った。
『ならば、葛重三尉。一旦敵が退却したとは言え、すぐ追撃してくるはずだ。残念だが、中隊にも軍医はいないし、そも
そも、交戦する目的で我々がここにいる訳ではない。それは判るな?』
「はい、判りますが・・・・・」
葛重三尉は言いよどんだ。長原三佐が何を言わんとしているか、うっすらとだが、判る気がした。
227 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/17 19:33 ID:???
『貴官の責務は、無事に部隊を生還させる事だ。交戦して全滅するのが責務ではない。敵の追撃を受ける前にだ、石動二
士と言ったか、彼を楽にしてやるのだ。このまま、苦しみを長引かせるな』
「それでは、石動二士の家族になんと言えばいいのですか!?石動二士を見捨てたと報告しろと言うのですか!?」
『そうは言っていない。誰がみすみす見捨てると思うか!?ただでさえ、我々自衛隊は人手不足なのだ!』
「小官は、戦闘で部下を失う為に、こんな所にきたのではありません!我々の受けた命令は、交戦せよと言うものではな
かったはずです!」
『それは私とて、同じだ、葛重三尉。状況が変わってしまったのだ。貴官の小隊とわが中隊本隊は離れすぎており、そし
て敵の追撃は必須だ。そんな中で石動二士を満足に手当てできるというのか?満足な機材すらないのにだ?』
その言葉に葛重三尉は押し黙る以外なく、そしてそんな自分を嫌悪する。
『葛重三尉、私を殴りたければ、何度でも殴れ。だが、まずは貴官と貴官の小隊を生還させる事が先決だ。つまりはそう
いう事だ』
「・・・・了解であります」
葛重三尉は、搾り出すようにそう言って、唇をかみ締める。
傍らにいた、通信士らも同じだった。一様に顔を強張らせて、葛重三尉を見ていた。
641 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/21 22:07 ID:???
>>227の続き
その顔に葛重三尉は、辛そうに頷いて見せる。
葛重三尉は、痛み止めを打たれたものの、それでも苦しそうにする石動二士の元へと歩を進める。
小隊の誰もが、その様子を見つめる。
横たわる石動二士の元に、体をかがめて膝を突く。
腹部に巻かれた包帯はすでに赤く染まり始めていた。
人の気配を身近に感じたのだろう、石動二士が瞼をあけ、葛重三尉へと目を向ける。
「・・・小隊長ですか?」
「ああ、その通りだよ」
「自分は大丈夫ですよね?すぐ元通り、治りますよね?」
「・・・・」
その言葉に、何も言えなかった。
642 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/21 22:08 ID:???
「はは・・・・・。何も言ってくれない所を見ると、難しいという事ですか・・・・」
喘鳴の混じった声で、葛重三尉に確認するように言い、何も言えない三尉の様に、一人納得した様子の石動二士は、
弱弱しく笑う。
「自分の家族に、伝えてください。石動は小隊長を守ったって・・・。」
「ああ・・・・」
「敵はまた小隊長らを追ってくるはずです。足手まといになるぐらいなら、自分をここに置いて行ってください」
「それは・・・そんな事はできない」
辛そうに言う三尉に石動二士は、促すように言う。
「自分のせいで、みんなが危険な目にあうのは、見たくないです・・・」
そこまで言って、石動二士が吐血した様をみて、衛生士が気道に詰まった血を除いて、気道を確保した。
643 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/21 22:14 ID:???
衛生士の表情からするに、最早手を打つすべがないのが見て取れた。
「石動二士。君を連れて帰りたいが・・・・。すまない」
石動二士は苦しそうにしつつ、頷く。
2人のやり取りに、小隊の皆の空気が沈む。
小隊から今、一人の仲間が消えようとしている事に・・・。
葛重三尉は、自分の拳銃帯から拳銃を取り出すと、安全装置をはずした。
乾いた音が、辺り一帯にこだまする。
その音は雲一つない空へと響いていった。
814 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/22 23:34 ID:???
>>643の続き
「失礼します」
扉を叩く音がして、入ってきたのは長原三佐だった。
園山女史は、何事かと三佐に顔を向ける。
「どうしました?」
「例の鉱石の調査の為に、中隊より派遣した第二小隊が帝国軍と思われる部隊と交戦した模様です。その際、相手側が
先に攻撃した為、発砲したとの事。その戦闘によって、戦死者が一名でました。」
「それは本当なのですか?」
「勿論です。嘘をつくなら、もっといい嘘をつきます。・・・それはいいですが、小隊長は、一個分隊を調査団に付け
て、先にこちらに向かわせたと報告してきました。そして、小隊主力は相手側を撃退しましたが、なお、予断を許さな
い状況にあるのも事実。そこで、当中隊は、殿軍を努めている小隊主力を収容するべく、出動したいと考えています」
園山女史はその言葉に、しばし考え込んだ。
815 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/22 23:35 ID:???
帝国というと、あの「アムデス」なのは間違いないはず。
そして、三佐の言葉が本当なら、国境は既に敵の支配下にあると考えていい。
そのような状況だとすると、殿軍を努めている筈のその小隊はかなり危険だとみていいのではないかしら。
そう考えた園山女史は、三佐に頷いてみせる。
「判りました。その小隊を助けに行く事を許可いたします。ただし、くれぐれも危険は避けるように。それから、事は
既に、我々だけで対処する事はできないだろうから、今後の方針に関して、政府に指示を仰ぎます」
「危険は避けるようにとの事ですが・・・・、なにぶんにも相手がいる事ですから。ただし、努力は致します。それに
部下を、これ以上死なせるわけにもいきませんからね」
腰を折って敬礼すると、長原三佐は女史の個室を退去したのだった。
816 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/22 23:38 ID:???
「せいれーつ!気をつけーッ!」
号令が城の中庭に響き、その声に何事かと城で働く者たちが注視する。
「頭ーッ、なかッ!中隊長に注目!」
その隊員たちの敬礼に、長原三佐は答礼を返した。
「第二小隊が、調査団に随伴している事はみな知っていると思う。その第二小隊だが、帝国と交戦し、一人が戦死した
と言う。撃退したとはいえ、帝国軍は直に部隊を強化して、追撃するのは確実である。」
三佐は、皆の顔を見渡す。
817 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/22 23:39 ID:???
よく通る声が、陽光で照らされる中庭全体に広がる。
「そこでだ、当中隊は未だ、危険な状態にある第二小隊を収容すべく出動する。当然の事だが、相手側との交戦も予測
でき、命を落とす事もあるだろう。よって、怖いと思う者は遠慮なく言ってくれ。怖いと思ったからと言って、それは
恥ではない。否、拒否したくて拒否せずに、付いてこられても足手まといですらある。先ほど言ったように交戦する事
も充分に考えられるからだ」
三佐は自分にも言い聞かせるように、皆に話す。
「よって、拒否したい者はこの場より去って欲しい。5分待つ。みな、目を閉じたまえ。そして、誰が去ったか、それを
口に出す事も禁ずる。去ったからと言って、その者をなじる事も許さん」
818 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/22 23:40 ID:???
そう言うと、自ら、目を閉じた。
そして、5分経ち、目を開け、中隊全員を見回す。
去った隊員がいない事に、三佐は静かに息を吐いた。
「みな、済まん。そして、ありがとう」
三佐は、心から敬礼をする。
中隊は、直ちに出動すべく行動開始したのだった。
900 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/24 00:56 ID:???
「日本異邦戦記」
>>818の続き
後方から、何時追ってくるかと警戒しつつ馬車を走らす第二小隊は、赤鼠山を通り抜ける。
元より、赤鼠山が目的地ではない為、通過したが帝国の来襲は伝えた。赤鼠山をすぎると王都まで、後2日である。やが
て赤鼠山から、街道への合流点へとでようとした時、西から、多くの人間が疲れた様子で王都へと向かってくるのが、見
える。
武装している所から、この国の兵士だという見当はつく。
だが、唐突に雑然とした空気が最後尾でおきる。
901 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/24 00:57 ID:???
見ると、黒と赤の奔流が飲み込みつつあったのだ。
帝国の軍勢だった。
葛重三尉らは、馬車を乗り捨てる事を決断した。このままだと、第二小隊自体も危ないからだ。
街道の脇に沿って、強行軍をする事とした。
たとえ、銃をもち、この世界よりも強力だといえど、人数が足りないのだ。
多勢に無勢といえる。
黒と赤の奔流が席巻する様をびくびくしながら確認しつつ、歩を進め、帝国の軍勢をやり過ごそうとして、遂に彼らに
気づかれてしまった。
ここまでか!?
そう思って覚悟を決め、戦闘準備を下令した。
902 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/24 00:58 ID:???
騎兵が彼らに向かって突撃してくる。
「・・・・・もっと引き付けろッ!まだだ」
段々と、軍馬の大地を蹴る音が大きくなる。それは対峙する者に怖れを生じさせるものだった。
その姿が、かなり大きくなり、目測で50メートルは切ったのではないか、と判断して葛重三尉は命じた。
轟音が木霊し、ばたばたと人馬の別なく、ばたばたと倒れる。
聞きなれない音に、棒立ちする馬が続出する。
903 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/24 00:58 ID:???
そして、第二射が放たれる。たったそれだけで、帝国軍は、恐慌状態に陥る。
そんな時、葛重三尉は、彼らに付き従っているディーンに目が入った。
ディーンが異様な雰囲気を発していたからだ。
「風よ。彼らを包み込み、望む姿を写せ。偽りの理を表したまえ」
その言葉が引き金になったのだろう。恐慌状態にあるとは言え、それでも小隊に攻撃しようとする者もいたが、その彼
らをして、唐突に明後日のほうに足を向けたりしている。
「何をやったんです?」
904 名前: 政府広報課 ◆F2.iwy/iJk 04/03/24 00:59 ID:???
「古エルフ魔法の一つを顕現させたのよ。今、彼らに幻覚を見せているところだわ。今のうちに逃げましょう!」
「よくは判らないが・・・」
そう言って、帝国の兵士らの様子を見つつ、葛重三尉はとっさの事に、納得できないが、それでも今が逃げる為に最適な
状態である事はわかった。
「射撃やめ!今のうちに逃げるぞ!・・・それでディーンさん、その魔法とやら、どのくらい持つのです?」
「それは。魔法にかかった人によるわ。早い人なら、呼吸を数十回で幻覚から覚める人もいるし。本当なら、もっと手順
を踏むのだけど、この状況だと、そうも言ってられないから・・・」
「・・・全く、素敵だ!みんな、急ごう!」
その言葉で小隊全員は、脱兎のごとく駆け出したのだった。