128  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/30  01:40  ID:???  

んじゃお言葉に甘えて。。。。  




空自浜松基地よりE-767が飛びだったのは昼頃の事だった。  
通常の業務の一環としてだった。  
それは今まで通りのフライトになる筈だった。  
レーダーの画像が唐突に乱れ、オペレーターが緊急を告げる声で、  
様子がおかしい事を機長に報告した。  

だが、報告を受けるより先に、コクピットの窓の外がいきなり暗  
転し、機長は仰天し、焦燥を含んだ声で基地への呼び出しを行っ  
たが、無線からは空電音が流れるばかりだった。  
事態の把握をしようにもなす術がない。  
そして、機外が暗転したと思ったのもつかの間、今度は、中空に体  
が投げ飛ばされるような感覚をE-767の乗員に与えた。  

それは何時間も続いたようであり、そして一瞬のようでもあり、  
気が付いた時には、視界が開けていた。  
それに気づいた副操縦士が慌てて、気体のバランスを保ち、その事  
に機長が短く礼を言う。  


129  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/30  01:41  ID:???  

状況を把握すべく、基地を呼び出すと、今度は基地からの応答があ  
り、胸をなで下ろした。  
何が起こったのか、基地に問い合わせると、地上の方でも混乱起き  
たらしく、正確な事が判らないらしく、ひとまず帰還するよう指示  
されたのだった。  





E-767で起こった事は日本各地でも起きた。  
ある者は営業活動中に、ある者は書類整理中に、そしてある者は運転  
中に。  
そして、互いに顔を見合わせるだけしかできず、自然発生的にテレビ  
やラジオをつけると、どの局でも、この日、唐突におきた出来事の臨  
時ニュースでもちきりだった。しかしながら、ニュースでも何も判っ  
ていない事しか流していなかった。  

総理官邸に各省庁の次官や大臣が集まってきたのはこの出来事から一  
時間ほど経つか経たないかだった。  

通信インフラや電力などは幸いな事に、無事で会ったため、連絡をと  
る事が可能だったのだ。  
誰も彼も、とるものもとりあえず、駆けつけてきた。  



134  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/30  01:48  ID:???  

官邸の主である大迫総理は集まってきた顔を一通り、見渡すと状  
況を知るべく、説明を求めた。  

まず口を開いたのは、総務事務次官だった。  
それによると、衛星回線が繋がらないらしい事と、海外との通信がで  
きない事だった。  
それに関連する形で防衛庁長官が、半島方面や大陸、さらにはロシア  
沿海州などの電波が傍受出来なくなったと報告する。  

続いて深刻そうな面持ちで経済産業相が、石油備蓄分が5か月分しかな  
い事を告げる。  
もし、石油が手に入らない状況が続くと、日常生活に支障が出るから  
だった。  
さらに、中東方面から日本に戻る筈のタンカーからの通信が途絶えてい  
る事も事態を深刻にさせていた。  
最悪、行方不明になったとみなす以外に何も出来ない。  
食料についても、同様だった。  
だが、食料の備蓄は石油以上に深刻だった。  
まず穀物類だが、米の備蓄分はおよそ150万トン。それに対し、大豆は  
20日分しかなく、食料用小麦についてもおよそ2.6ヶ月分しかないから  
だった。  



177  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/30  16:22  ID:???  

大迫総理はその他の状況の説明も聞いた後、しばし瞑目した。  

先行きの見えない暗礁へと突き進んだかのようで、重苦しい空気が漂う。。  

国の命運を背負うとは、これほどの重圧があるのか・・・・・・  

これほどまでに重い責任は自分以外感じられないのではないのかとさえ、  
大迫総理は思った。  
だが、それも一瞬の事だった。  
かぶりを振ると、当面の方針を指示する。  


178  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/30  16:26  ID:???  

まず、日本周辺がどうなっているかを調べる事と、当面の間、航空機の飛  
行を禁止する事であり、食糧確保の為、休耕田を復帰させると共に、二毛  
作等を行う事。  

大豆などに関しては代替品の開発による供給を早急に行うとした。  
さらに、魚業に対し、資金を供給する事によって、増産を要請する事で穀  
物類の不足分を補う事とした。  

また、外食産業において24時間営業を行っている企業に対し、当面の24時  
間営業を禁止する事だった。自粛を要請すると言ってもいい。  
これには、コンビニも含まれた。  

菓子類の販売も自粛するよう求めるべきでは。との意見も出たけれど、経済  
産業次官が無意味であると意見を述べ、これに、総務相も同意。  

娯楽については、禁止しない事とした。むしろ、この非常時だからこそ、必  
要だとの判断からだった。  


179  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/30  16:28  ID:???  

これらの方針はつまる所、この冬を乗り切り、今度の秋まで耐え抜く事を第一  
の課題であるのが明白だった。  

そして、石油の温存の為、緊急車両及び公共交通機関以外の運行停止、そ  
れに伴い、自家用車への石油の供給の停止をすべく、その為の臨時立法の  
成立を目指す事。  
だが、そうまでしても、石油の在庫が1・2ヶ月伸びるぐらいの効果しかない  
と思われたが・・・・  

なお、報道各社に対し、現下の状況を説明し、理解を求める事としたのだ  
った。  

毅然とした指示を下す大迫総理に、閣僚や次官らは瞠目した。  
普段、茫洋としていて、まるで陽だまりの中で眠る牛のような雰囲気を与え  
ており、乱世に行動できる政治家であるとは誰もが思っていなかったからだ  
った。  
だが、大迫総理の示した態度はそうではない事を伝えていたのだった。  

この人の下でなら、なんとかなるかもしれない。  
そのような暗黙とも取れるような意識を閣僚らは持つのだった。  


180  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/30  16:28  ID:???  

官邸からの情報は、国内に混乱と不安を巻き起こした。  
よくもって今度の秋まで。と死刑宣告されたも同義だったからだ。  
だが、それでも、暴動が起きなかったのは、奇跡と言っても過言ではなかっ  
た。  


かかる大事に自暴自棄になる事なく、粛々と事に当たろうではないか。  
日本人はそれが可能であると、逆境を乗り切れるだけの力があると自分は  
信じている。  

大迫総理の演説を述べるまでもなく、それは日本人の本質なのかも知れなか  
ったが。  
あの淡路大震災ですら、秩序を保てたのだ。一縷の希望のみはあった。  



231  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/30  18:25  ID:???  

では>>180の続き行かせてもらうデス。  


半島があると思われる方面や、ロシア沿海州などの捜索の為に空自による航  
空探索が行われると共に、海自及び海保もまた、周辺海域の探索にあたった。  

探索一日目にして、半島や大陸があったと思われる方面には何もなく、ただ、  
大海原が広がるのみだった。  

ついで、八丈島、西表島などの安否は確認されたが、硫黄島との連絡は取れ  
ずじまいだった。航空探索ですら確認はできなかったのだ。  

ただ、北方領土のうち、北海道から一番近い国後島、歯舞群島および色丹島  
の存在は確認されたが、択捉島についてはそっくり消えていた。  
同様に台湾の確認は出来なかった。  


日本周辺の状況が未だ掴めないままに、日にちだけが過ぎる日が続いたのだ。  
探索にあたる人間の焦燥は日毎に募っていった。  


232  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/30  18:26  ID:???  

そのような状態に、ついに変化が起きる日が到来した。  
それは沖縄から東へ390海里近く━およそ722.3Km━ほどの海域、舞台は第11管  
区海上保安本部所属巡視船「りゅうきゅう」レーダー室においてだった。  

「船橋。こちらレーダー室。東南およそ50海里に人工物と思われるモノ、みと  
む」  
その報に船長と副長が互いの顔を見合すと、レーダー室に応じる。  
「レーダー室。こちら船橋。それは確かか?」  
「はい。レーダーに映っている限りでは、小さい反応ですが、動いている所から  
人工物だと思われます」  
「生き物という事は?」  
「生き物だとすると、こうも直線的に移動はしません」  
その声に、船長は沈思した。  

一体、なんだというのだ?生き物ではなく、人工物だと?  
日本が海外からまるで島流しにあったかのような事態が起きて以来、日本以外から  
の反応はなかったのに。  

そんな船長を副長が見つめる。  
「船長。ここで留まっていても、何も判りません。この目で確認すべきかと思いま  
すが?」  
「・・・・・。そうだな、その通りだな、副長。・・・・・・・・ふむん。ならば、  
人工物だとされるものが一体何なのか、確かめてみようじゃないか」  

うなずき返すと、11管区本部に対し、人工物を発見した事と、これからその確認の為  
に向かう事を報告するよう命じた。  

「りゅうきゅう」から一機のスーパーピューイヘリが大きな爆音を発しつつ、飛び立  
つ。先に人工物と思われる物に接触するためだ。  


233  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/30  18:28  ID:???  

転変。  


彼ら、もしくは彼女らが海上を漂流しているのには、大きな訳があった。  
故郷である蒼碧の森を追い出されたのも同じ理由からだった。  

大陸南部のちょっとした都市国家に過ぎなかった、「アムデス」が海上交易よりもた  
される富は、「アムデス」をして周辺都市国家よりも強大たらしめた。  

「アムデス」は周辺諸国の取り込みに10年近い歳月をかけた。そして、周辺諸国との合  
邦による地域国家ができたのは、取り込みにかけた歳月よりも極端に短かった。  
「アムデス」を盟主とする地域国家の誕生だった。  
蓄えられた莫大な富を背景に「アムデス」が軍拡へと走り、西方に位置する隣国との間  
に戦火が勃発したのも、「アムデス」を脅威と見做したからに他ならなかった。  

隣国との戦争は、3年の月日がかかり、その間には、「アムデス」が危地に陥る局面もあ  
ったけれども、最終的に「アムデス」は隣国を降し、併合した。  

隣国との戦争を皮切りに、わずか数年で、「アムデス」は3つの地域国家を併呑し、4つの  
都市国家を一種の自治国として吸収した。  

その頃には軍事強国として「アムデス」の武威は遠く、大陸の西方まで鳴り響く。  


234  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/30  18:29  ID:???  

さらに海軍を拡充するや、今度は南方海上に存在する島嶼諸国のほぼすべてを軍門に降し  
強大な帝国の誕生だった。  

帝国を律するはラズダラ法典。帝国の武威を支えるは、帝国8色。帝国をあまねく照らす  
は聖教。  

帝国に抗う者は全て殲滅され、帝国に従う者には安寧が与えられた。  
そして、帝国は亜人に対し、苛烈だった。  

エルフやドワーフを初めとする種族は、帝国に奴隷のように生かされるを良しとせず、毅然  
と立ち向かい、そして片端から殲滅させられていった。  

エルフの放つ、古エルフ魔法ですら、焼け石に水だった。  
森の奥深く、地下の深き暗闇の中まで帝国は追撃した。  

エルフと共に戦う国々もまた同様に同じ運命を辿った。  


それが蒼碧の森から追い出された理由だった。  



236  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/30  18:32  ID:???  

「ああ、ディーン。君も早く逃げないと。・・・・僕の事はいい。ディーン達が逃げ切れる  
だけの時間は稼ぐつもりだから」  
そう言って優しくディーンの顔を見つめると、続けて言った。  

「僕だけじゃない。みんなもディーン達の為に戦うんだから。一人じゃない。・・・・だか  
ら、必ず生きるんだ」  
「・・・・でもっ!」  
そう言うのが、ディーンには精一杯だった。  

夜の帳が、蒼碧の森のエルフ達の集落を包み、淡い月の光が優しく照らす。  

言葉にならず、目を逸らし、しばらくして顔を上げたディーンは、今度は彼の顔をじっと凝  
視し、そして口に出した。  

「そんな事したら、貴方は・・・・・」  
「僕は君が生きていてくれさえすればそれでいい。ほかには何もいらない。・・・みんな、  
そろそろこの森を出る為に集まる頃だ。ディーン、君ももう行くんだ」  

そう言いつつ、そっとディーンを抱きしめ、そして優しくディーンを振りほどく。  

「夜が開けきらないうちにこの森をでないと。・・・・・ここももうすぐ、戦場になるから。  
でないと、君の身が危なくなる・・・・だから」  
万感の思いが、彼をしてそれ以上、口に出す事を許さず、そして、ディーンは彼の意思が硬い事  
を悟ると肩を落とし、そして、何度も振り向きつつ、森から逃げる仲間の元へと向かった。  


237  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/30  18:34  ID:???  

森を抜け切ったのは翌昼の事で、それからディーン達一行はまず帝国の追っ手から逃れるように  
北へと向かった。  

そして、森という森にはエルフの集落だった焼け跡が残されるばかりだった。  

とある集落の焼け跡でディーンは焼け残っていた、布の人形を拾い上げる。  


ここにいた仲間達は一体どうしたのだろう。生き残った者はいるのだろうか。もしかしたら、いな  
いのではないのか。そんな事さえ思われた。  

だが、ディーン達には、ここに留まる事さえ許されなかった。  
すぐ近くにまで帝国が迫っていたからだった。  

帝国の脅威にさらされてはいるものの、なんとか持ち堪えている国についたのは、森から逃げ出して  
3月ほどたった時の事だった。  
この時には、森を出た仲間の半数は既にいない。  



349  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/30  23:03  ID:???  

>>237の続き  


その国に長く滞在する事はできなかった。  
持ち堪えてはいるものの、伝わってくるのは、この国も長くは持ちはしない  
と言う事だった。  

ディーン達はその国の港町へと辿りつき、海路より脱出しようとした。  

船を出してくれる船主を探す事となった。  

だが、エルフに船を出してくれる者は中々現れず、逆になぜエルフが船に乗  
らないといけないのかと奇異の目で見られる始末だった。  

ディーン達は途方に暮れる。  

そんな中、一人の黒髪と潮焼けした赤銅の肌の男に出会う。  

「あんたらかね?船を捜しているエルフ達は?」  
船を出してくれないかと、依頼するエルフらに、その男は値踏みするかのよ  
うに、エルフらを見つめる。  
「私たちは、帝国に故郷の森を追いだされ、ここまできました。ですが、こ  
こも長くもたない気配です。あなた方、人間は大丈夫でしょう」  
そこで一瞬言いよどみ、そして続ける。  
「しかし、私たちは、帝国とは相容れぬ身。捕まれば、どんな事が待ち受け  
ているか・・・・」  


350  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/30  23:05  ID:???  

そして、男の顔を見据えた。  
「確かに私たちは放浪の身ですが、船を出して頂けるだけのお金ならあります」  
そこまで言うと、エルフの代表者は口を閉ざす。  

シンと静まりかえる中、男とエルフらは互いの顔を見つづる。  

どのくらいの時間が経っただろう。  
ややあって、男が口を開く。  
「・・・・行く宛は?」  
その言葉に黙ってエルフらは一様に沈痛な表情をし、そして男は察した。  

「なるほどな・・・・。ふむ」  
そして、一人頷くと、エルフらを見渡した。  

「いいだろう。船を出してやる。帝国からかなり離れた所でいいな?船を出すのは結  
構高いがいいか?」  
その言葉に、エルフらは喜んだ。  


351  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/30  23:05  ID:???  

男は、船主であり、船長だった。  
船に乗ってしばらくした後、男が語った所によると、南方海域の島嶼諸国の中の一国  
の出で、故郷はエルフ同様、帝国の支配下になった。男はその国の水軍に属しており、  
故郷が軍門に降る際のどさくさに紛れて、自分の部下と共に軍船で逃げたと言う事だ  
った。  
「俺の名はザイン・スクロードだ。しばらくの間よろしくな」  
そう言ってから船の指揮をとり続けた。  

海は、晴れていたと思えば、暴風が吹き荒れる事もある。  
マストの上で当直をしていた目のいい見張りが、甲板に向かって、大声を出す。  

嵐だ、嵐がくる!  


352  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/30  23:06  ID:???  

その声に誰もが慌しくなる。  

まず、帆をたたみ、甲板で作業を続ける者は命綱を付け、波に船体を正対させる。  

それ以外の者は船室に閉じこもる以外になかった。  
黒い雲は急速に視界を覆うまでに広がり、そして、大粒の雨が作業を続ける者の体を  
ぬらす。  
波は次第に大きくなり、木の葉のように船をもてあそぶ様になるまでにそれほど時間  
はかからなかった。  

初めて海に出たエルフ達には、まるで永遠に続くかのように思われ、そしてあまりの  
揺れに吐き出す者が続出する。  

ザインもまた船長として、木の葉のように揺さぶられる甲板にしがみ付きながら、船  
の指揮を取り続けた。  
波を読み、風をよみ、船が転覆しないように。  
風の音にかき消されそうになりながら、大声を出し続けた。  



354  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/30  23:07  ID:???  

唐突に嵐は去り、空に太陽の光が輝く。それを見てほうと、ひとつ息を吐き出す。  
ザインは甲板の状態を確認し、そしてしかめ面をした。  
帆を畳むのに遅れた支柱が一本あったらしく、最低な事に3本ある柱のうち、もう一本  
を巻き添えにしていた。  

復旧しなければいけないが、今は嵐によって、皆が皆疲れきっていた。休まなければ、  
何も出来ない。  

ひどい揺れでぐったりとなっているディーンらに、帆が破れている事、2本の支柱が、  
駄目になっている事、修理しなければどうしようもない事を告げたのは、翌日の事だ  
った。  
そして、それらに輪を掛けたかのような問題はあの嵐で水の入った樽のほぼ4分の3近  
くが、駄目になったのだ。  

支柱の修理はしたものの、沿岸にたどり着こうとする前に水がきれた。  
一人また一人、倒れる者が続出し、やがて船は漂流し始めたのだった。  



356  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/30  23:09  ID:???  

転変。  

巡視船「りゅうきゅう」から発した、スーパーピューイヘリが人工物と思われる物へと  
接近するや、その姿にパイロットらはわが目を疑った。  

面前に映し出されていたのは帆船そのものだったからだ。しかも、支柱が折れており、  
しかも漂流していると思えた。  
パイロットはただちに「りゅうきゅう」に連絡を取り、二人の隊員を状況調査の為、リ  
ベリングにて甲板に下ろすと本船へと引き返す。  

「りゅうきゅう」が到着するや、先に降下していた隊員らが投げられたロープを帆船の  
適当な場所にくくりつけると、10人程度の隊員が乗り移ってきた。  
乗り移ってきた彼らを指揮しているのは副長だった。  
「状況は?」  
開口一番、問いかける副長に隊員が即答する。  


357  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/30  23:09  ID:???  

「はい。脱水症状を起こしていると思われる者が多数おります。意識のない者も見受け  
られます。・・・・・あと」  
言いよどんだ隊員に副長が先を促す。  
「あと、われわれ同様、人間なのですが、その、耳が長い者も大勢います。わずかな男性  
を除いてもその殆どが子供、もしくは女性らしいのです」  
言いにくそうに答えた隊員に副長が眉をしかめた。  
「耳が長い?」  
「はい。実際に目で見た方が早いかと思います」  
「それもそうだな・・・・」  
そういうと傍らに立つ別の隊員に、本船に対し、要救助者発見により収容を求めるように  
伝えると副長は、報告をした隊員と共に、船内へと入る。  



524  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/31  19:58  ID:???  

>>357の続き  


目的はそう、耳が長いという者たちである。  

案内された先はいくつかある船室の一つだった。  
ゆっくりと扉をあけると、確かにそこには耳が長い者がベッドにいたのだった。  
あきらかにぐったりとしている。おそらくは脱水症状だろう。  
「彼女ら以外にもいるのか?」  
「はい」  
そうかとだけ呟くと、その隊員にも救助活動に従事するように伝えた後、船長に報告するべ  
く、帆船から戻った。  



525  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/31  19:59  ID:???  

副長からの報告を聞くと船長は自分の耳が信じられなかった。  
耳の長い人間など聞いた事もないからだった。  
確かに、地球上には首長族と呼ばれるものはいたが。  

「とにかく、かれらの意識が戻ってからだな」  
「自分もそう思います」  
「問題はだな、副長。ここが本当に我々の知っている地球なのかという事だよ。ましてや、私  
が知っている限り、耳長族など聞いた事もない」  
「そうですね。ただ、ここにも人間がいる事だけははっきりしていますが」  
副長の言に船長は頷いた。  
日本だけ放り出されたあの日以来、常識と呼べるものが破綻しかけている中で、それだけは確  
かなようだった。  

「本部に連絡しよう。これが何かの切っ掛けになるとよいが」  


ディーンが目を覚ましたのは、「りゅうきゅう」に収容されて2日ばかり経った頃だった。  
まず、目の前に飛び込んできたのは、白い天井だった。  


526  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/31  20:00  ID:???  

ここはどこなのだろう。ゆっくりと頭がはっきりしてきたディーンの目の前に入ってきたのは、  
銀色の金属の棒の先に液体のようなモノが入った袋から管がでており、その管が自分の腕へと  
伸びているというものだった。  
「な、何これ!?」  
素っ頓狂な声を出したのだろう。その声につられるようにして、白衣の男が入ってきた。  
「●%#*□&」  
男が口を開いたものの、ディーンには男が何をしゃべっているのかすら判らなかった。  
ディーンが、思わず自分の腕に伸びている管を引き剥がそうとつかむと、男が慌てた様子で、  
ディーンを止めようとし、激しく、頭を横に振った。  

それをみて、ディーンはそれを外してはいけないのだろうかと思ったが、言葉が通じないのは  
もどかしい。  

それでも男の口調な身振りから、外す事だけは思いとどまったのだった。  


527  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/31  20:02  ID:???  

>>526の訂正  
>銀色の金属の棒の先に液体のようなモノが入った袋から管がでており、その管が自分の腕へと  
>伸びているというものだった。  

銀色の金属の棒の先に、液体のようなモノが入った袋がぶら下がっており、その袋から伸びいてる管  
が、自分の腕へと続いているというものだった。  


528  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/31  20:03  ID:???  

那覇港へと着くまでに次々と仲間の意識が戻り互いの無事を喜び合った。  
しかし、自分たちが今どうなっているのかそれだけは判らない。判っている事と言えば、揺れ  
ている事からどうも船に乗っている事だった。  

那覇港へと着いた彼らが驚かされたのは鉄の箱が馬も無しで、彼らの前まできた事だった。言葉  
の通じない人間の身振りだと、どうもこれに乗れという事らしい。  

誰もその場固まって動こうとしないのを見て取ったのか、付き添っていた白衣の男が率先して乗  
り込むのを見て、ようやく恐る恐る足を踏み入れたのだった。  


529  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/01/31  20:05  ID:???  

巡視船「りゅうきゅう」からおくられた情報はまず第11管区海上保安本部へと送られ、さらに  
国土交通相によって大迫総理へと届けられた。  

その報告に、大迫総理は閣僚を緊急招集する事を決めた。  
日本を左右しかねない情報があると見なければいけないし、そして、救助した彼らの言葉が判らな  
いのも問題だからだ。  

連日の国会審議で、身の擦り減るような思いをする閣僚らではあったが、それでも大迫総理の召  
集に応じた。  




722  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/01  19:11  ID:???  

>>529の続き  


「諸君、集まってもらったのは他でもない、第11管区海上保安本部より漂流していた要救助者を  
収容したと連絡を受けた」  
大迫総理の言に、文部科学相が首を傾げつつ問いかける。  
「それがどうしたのと言うのです?漂流など珍しくはないと思いますが?」  
文部科学相の疑問に何人かの閣僚が同意した。  
「君たちの疑問ももっともだ。だが、救助した者の言葉が判らないと言うと、どう思うかね?  
しかもだ、そのうちの幾人かは耳が長いとの報告を受けたのだ」  
一瞬、誰もがわが耳を疑う。  

耳が長い?  


723  名前:  121  ◆F2.iwy/iJk  04/02/01  19:11  ID:???  

どう言えばいいのか反応に困っているうちに、、大迫総理が続ける。  
「言葉通りに、耳が長いのだよ。いや、むしろとがっているのかな?それはまあ、いいが。救助  
された中に少なくはない数でいるのだ。」  

そこで一旦、話を止め、傍らのコップの水を口につける。  

「そしてだ、彼らが話している言葉が一切通じないらしい。既知の言語ではないという事だ」  
「既知の言語ではない?すると、英語でもなければ、タイ語でも中国語でも、はたまた、ロシア語  
でもないと?」  
財務相の言葉に、大迫総理は軽く頷いてみせる。  
「まず、彼らの言語を理解する必要がある。でなければ、情報すら聞きだせんのだ」  
「すると言語学者に解析を要請しなければなりませんね」  
財務相に、防衛庁長官が応じる。  
「ならば、数学者も動員した方がいいと思います。ある程度の文明に達しているのなら、数学かそ  
れに近い物が発達していると何かの本にありましたから。・・・・・その判定には素数がいいとも  
ありました」  


724  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/01  19:13  ID:???  

ほうと、感心した風に総務相が息をはく。  
「コンピュータも使うべきかと。彼らの単語を翻訳したモノをデータベース化し、片言レベルでも  
いいから、速やかに話せる事の出来る人間を養成した方がいいでしょう」  
再び、財務相の言に大迫総理が頷いた。  
「その線でよろしく頼む。我々には時間がない。その事を肝に銘じてほしい」  

そして、またコップの水を口に含むと軽く咳払いする。  
「でだ、人間がいるという事は、当然の如く、陸地があると見なければならないだろう」  
その言葉に、皆、頷く。  
それはそうだろう、人間がいるからには生活する大地が必要であるからで、そして、魚だけを食べて  
いるなどという事はないからだ。  


725  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/01  19:13  ID:???  

「ならば、海自と空自に対し、彼らが漂流していた地点を基点として、さらに探索範囲を広げさせま  
しょう。もしかしたら、近くに陸地があるのかも」  
「海保も、自衛隊と協力して探索を進めさせます。・・・・陸地がどのようになっているかの見当も  
つかないが」  
大迫総理は、防衛庁長官と国交相に頷いてみせる。  
「連日の審議で、疲れているとは思うが、これは転機だ。万事、怠ることなく、事にあたって欲しい」  



726  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/01  19:14  ID:???  

その日を境に、那覇市内の海保の建物に、日本中から、かき集められた、数学者や言語学者、それに  
混じってコンピュータと共にプログラマーが集合し、エルフやエルフと共にいた人間の言葉の翻訳に  
奔走した。  

数学者が素数━━1、2、3、5、7━━を理解できるかどうか試したところ、理解する事が確認され、  
そして、素数を皮切りに翻訳が始まった。  
翻訳が進むにつれ、言語学者は翻訳を進めるグループと文法の構成を調べるグループに別れ、プロ  
グラマーが逐一、それをデータベース化するという、面倒ではあるけれども、着実な方法で翻訳は  
続けられた。  

そして、ある程度の成果が得られたのは冬が去って、春の声を聞こうとする頃だった。  

春先とはいえ、少しばかり肌寒さが残っている。  

耳の長い者たち━━彼らをエルフというらしい━━や船員と思われる者たちの言語を翻訳し、速成教育  
でもって、エルフ語━━後で判った事だが、大陸南方語から派生した言語らしい。もっともそれは人間  
との意思疎通に必要であったからで、彼ら独自の言語もあるらしかったが━━を片言ながら習得させ、  
そしてエルフらにも日本語を教えた。  
そして、互いに片言ながら、会話できるようになったのが、この頃だった。  




728  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/01  19:16  ID:???  

そして、会話による意思疎通ができるようになって、エルフや船乗りらからの情報が、ようやく政府に  
届き始める。  



こうした翻訳作業とは別に陸地の探索も進められ、島とはいえ、陸地が発見されたのも大きかった。  
がしかし、大陸が見付かるものとばかり思っていた政府の思惑が、完全に外れてしまい、大迫総理らは、  
少しばかり意気阻喪したが、それでも大きな陸地があるはずだとして、さらなる探索を行わせたのだっ  
た。  

このような状況を俯瞰して、改めて記者会見を行い、今までに判った事などを国民に対し、公開したの  
だった。  



765  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/01  22:54  ID:???  

>>728の続き  


しかしながら、さらなる探索を行う前に、やらなければならない事があった。  

それは新たに見つかった島の拠点化だった。  

新たに見つかった島を拠点化するべく、陸自の小さな部隊が編成され、そして施設科と共に送り込まれ、  
飛行場の設営や港湾設備の造営を初めとする地上設備の建設に当たったのだった。  

飛行場が出来るまでの間、海自第一輸送隊によるピストン輸送でもって、資材が搬入され、施設科の手  
によって、飛行場と港湾設備が急速に形を整え始めた。  

そして、飛行場ができるやいなや、今度は空自航空支援集団から選抜編成された、特別輸送航空隊が海  
自第一輸送隊に続いて物資搬入を行う。  

この頃になると、政府は正式に、この島を日本領とする事を国民に宣言し、「新島」と名付けたのだった。  


766  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/01  22:56  ID:???  

大型機の運用が可能になるように飛行場をさらに拡充し、そして飛行場の拡充に続く形で、港湾設備も第一  
期分が完成した。  

港湾設備が完全に使えるようになるまでには、二期及び三期分の工事が完成しなければいけなかったが、  
それでも使えるようになった事の意義は大きい。  

今度は、民間から雇った貨物船が資材を搬入するようになると、さらに加速度的に、建設が進められた。  

やがて、空自から新たに編成された「新島」特別航空集団が常駐するようになると共に、先に編成された  
特別輸送航空隊もまた、「新島」輸送航空隊として特別航空集団に属する事となった。  

海自からも大湊地方隊より第27護衛隊が分派され、「新島」の警備にあたる。  

この「新島」を拠点化すると共に、空自RF-4Eを初めとする航空機がさらなる陸地を探して、飛び回る事と  
なったのだった。  


767  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/01  22:57  ID:???  

春が過ぎ、初夏の訪れを感じるようになった頃、ディーンもまた、今では日本語が使えるようになって  
いた。  

最初の頃こそ、見るもの聞くもの、全てが珍しく、そして不可解だった。  
まず、日本人が彼らの部屋に持ち込んだのは、テレビと言う、小さな人間がまるで中に入って動いているか  
のような箱だった。  
誰もが、目を丸くした。  
説明を聞くと、魔法などではなく、遠くにあるものを、まるでその場にいるかのように見る事ができるらし  
いが、ディーンらにとってすれば、魔法以外の何者でもなかった。  

しかし、どうやって動いているのかその原理はさっぱり判らなかったけれど、操作法を教えてもらうと、  
日本語が理解できるようになった事も手伝って、エルフやエルフと共に収容された人間らの娯楽となった  


768  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/01  22:59  ID:???  

やがて、彼らがいる建物がある施設内でなら、動けると言う事もあり、ディーンが気分転換に外に出ると、  
見知った顔があった。  

彼女らが乗っていた船の船長、ザイン・スクロードだった。  

「おや、お嬢さんか。君も気分転換かな?」  
片目を細めて、軽く笑うザインに、軽く頭をさげ、ザインの座っている椅子の横に腰掛けた。  
「・・・あなたも?」  
「ああ、そうだ。ここはなんというか、今まで俺たちがいた所とは大違いだ」  
ディーンもそれに同意した。  
「私たち、エルフを知らないものね。誰もが、私たちの耳をじろじろ見て、困るわ」  
そう言って、息を1つつくと、ザインが苦笑する。  
「違いない。どうも日本人とやらの土地には、エルフがいないみたいだ」  
そう言うと、ザインはあたりを見回す。  
周囲には海保の職員が、あちらこちらを動き回っている姿が見受けられた。  
ディーンも、職員の姿を見つめる。  


769  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/01  23:00  ID:???  

「私たち、これからどうなるのかしら・・・・。彼らは確かに私たちをじろじろ見るけど、それ以外、何もし  
ようとしないし。かと言って、「アムデス」のように弾圧しようとする気配をまったく感じないし」  
「いいんじゃないのか?少なくとも命の心配をしなくても済む」  
「私たち、日本人から今後の身の振り方について、どうするか聞かれたわ」  
「ほう?」  
「私ね、故郷の蒼碧の森がどうなったのか知りたい。せめて、彼がどうなったのかを知りたい。・・・・す  
ると軍と行動する以外にないと思うの」  
「・・・・そうか」  
ザインは、そう呟くと、ディーンの静かな決意を湛えた瞳を凝視する。  
「危険だぞ?」  
「判ってるわ。・・・・こう見えても私は、古エルフ魔法を使えるのよ?・・・・ただ、昔のエルフみたい  
に強力なのは使えないけど」  
そう言って軽く笑む。  
「上手くいくといいな」  
「・・・ええ」  
ザインは静かに目を閉じた。  




844  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/02  17:24  ID:???  

>>769の続き  


自衛隊や海保の陸地探索の努力が報われたのは、港湾設備の第二期工事が半分ほど進んだ頃だった。  
まず海岸線の存在が確認されるや、「新島」特別航空集団に属するRF-4Eが増漕をつけて内陸部の調査を行う  
べく離陸した。  

RF-4Eがまず行ったのは、付近の海岸線及び海岸線に沿った内陸の航空写真撮影だった。  
上陸して、本格的に内陸部の調査を行うにしても、地図のあるなしは大きい。  

その撮影に数日掛けた後、さらに内陸目指して、RF-4Eが飛んだ。  
人家らしきものが一向に見えない中、後席の偵察員が、レーダーに反応が現れた事を伝える。  
パイロットが、伝えられたポイントに機を向け、しばらく進むと肉眼で、レーダーにあった反応が何か確認で  
きた。  


845  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/02  17:26  ID:???  

すると、彼らの目に飛び込んできたのは、信じがたいモノだった。  
それは空自のパイロットと言うよりも、日本人の常識からかけ離れた光景だった。  
「な何っ!?後席、前方のあれ、見えてるか!?」  
「はい!自分も見えてます。あれって、ドラゴンなのでは!?」  
「嘘だろう!?ドラゴンがいるわけなど・・・・!!」  
「自分も信じられませんが・・・・」  

そこで、ふとわれに返った偵察員が「新島」特別航空集団本部に向かって、報告する。  


846  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/02  17:27  ID:???  

「クラマ、クラマ。こちらブルーウェーブ。どうぞ」  
『ブルーウェーブ。こちらクラマ。どうした?』  
「我の前方にて、ドラゴンと思われる飛行生物と遭遇した」  
『・・・ドラゴン?なんだ、それは?』  
本部の管制官も、ドラゴンと言う聞きなれない単語に、どう反応していいのか困っている風だ。  
「そのまんまの意味だ。ドラゴンという以外に言いようがない。翼を持って空をとぶトカゲのようなのは、  
そいつしかいないと思う」  
『・・・・気は確かか?』  
「確かだとも」  
そう言うと、偵察員が続ける。  
「気がおかしくなったと思うなら、後で精神鑑定でもなんでもしてくれ!自分たちは正気だ」  
そこまで言い切ると、管制官も納得したのだろう、そのまま、触接を続けるように言い、回線を空けたまま  
にする事も伝えてきた。  


847  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/02  17:28  ID:???  

やがて、ドラゴンと思しき飛行生物との距離がだんだん狭まってくると、今度は更なる驚愕がRF-4Eの搭乗員  
二人を襲う。  

ドラゴンらしき生物の背中には、なんと人が乗っていた。  
いや、むしろこの場合は騎乗していると言った方がいいのか。  
しかも、その背に騎乗している者が、女性の様にも見えた。大人と言うよりは、まだ若いようだった。  

「・・・・馬鹿な!人が乗っているのか!?しかも、女性だと?」  
パイロットが驚きの声をあげたが、偵察員もまた同じ思いだった。  

ドラゴンらしき生物に乗っている女性らしき人物もまた、こちらを見て驚いているみたいだった。  
それぞれ互いに、目を丸くして眺めていると言った方がよかった。  



879  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/03  00:40  ID:???  

>>847の続き  
「な、何?あれ!?・・・・ってペドラザ、興奮しないで!私を振り落とさないで!・・・・  
きゃああ!危ないったら!!」  

少女から大人へと、ゆっくり変貌しつつある年頃の娘は、自身が乗っている竜を落ち着かせ  
ようと懸命だった。  
彼女は唐突に現れた、銀色に光る金属のような塊が轟音を発して、急速近づいてきた事に驚  
愕した。  
彼女が知っている限り、そのような存在は、聞いた事すらなかったし、この世で速く動けるの  
は、竜ぐらいなモノなのだ。  

しかし、轟音を出してはいるものの、彼女らに何か危害を加えようとしない事に、なんとなく  
気づいた彼女は、竜を落ち着かせると、ゆっくり観察し始めた。  

すると気づいた事があった。それは金属の塊の先の方に人間のような者がいる事だ。  
あれに人間が乗ってるの?  
言葉に出さずに呟くと、彼女は上司に報告するべく竜の体を元来たほうへと向けたのだった。  


880  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/03  00:42  ID:???  

ペトラザと共に竜騎兵団の駐屯地へと戻った彼女は、ペドラザを竜舎に戻すのも、もどかしげに  
上司の下へと、純白の制服を翻して足早に歩いた。  
「隊長、レスティンです。入ってよろしいですか?」  

部屋の前で、そう名乗ると中から、入ってよろしいとの返事があり、室内へとレスティンが入っ  
た。  

「何事だ?私は、君にブルーデ砦に使いを命じたはずだが。もう済んだのかな?」  
書類から顔を上げた、中年の男は、娘と呼んでいい年頃のレスティンを凝視する。  
「い、いえ。それはまだです」  
「それなら、なぜここにいる?」  
疑わしげに、レスティンを見やると、レスティンは緊張した顔で、隊長に今見た事を告げた。  

すると、中年の男は、何を馬鹿な事を言っている。と言うと、さっさと、使いを済ませてくるよ  
うに、命じたのだった。  


881  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/03  00:43  ID:???  

レスティンが竜騎兵団に入ったのは、しごく偶然なものだった。  
簡単に言うと、竜━━ペドラザ━━と初めて遭遇した時、ペドラザとの間に精神感応が出来たから  
なのだった。  

まず竜に乗る為には、その竜との精神感応が出来なければならない。そこに、男女の差など全くない。  
言わば、個人の資質に近い。  

そして、竜自体の個体数が少ない━━とは言うものの、種として生存する為の必要な数はある━━が  
ゆえに、精神感応が出来た者には、一種の畏敬でもって見られるのだった。  



882  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/03  00:44  ID:???  

それを聞きつけた竜騎兵団はレスティンの両親と話し合い、そして渋々ながら、竜騎兵団に入れ  
る事に同意した両親によって、レスティンは竜騎兵団への門を叩いたのだった。  

この国の竜騎兵団の制服は、純白を基調としたものである。  
この国の常備軍の制服が、緑色を基調としている事からすると異例であると言っていい。  
だが、これはどこの国であっても、同じだった。なぜなら、竜騎兵はどこの国でも最精鋭として見ら  
れている事を意味する。  

故に竜騎兵の制服は見る者を圧倒するかのように、実用一点張りでありながら、計算され、洗練され  
つくした機能美を有しているのが普通だった。  

そして、レスティンが銀色に光るの金属の塊、つまりRF-4Eと出会ったのは、竜騎兵団に入ってから、  
3ヶ月ばかり経った頃の事なのだった。  




19  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/03  20:08  ID:???  

>>前スレ882の続き  



渋々ながら、ブルーデ砦への使いに行く最中も、そして戻ってきてからも、レスティンは不満だった。  
あれを見たら、隊長も絶対信じるはずだ。  
そう確信していたからに他ならなかった。  

そんなもやもやを抱えて数日を過ごしている内、レスティンの様子をいぶかしんだのか、同僚が声を  
掛けた。  
「どうしたんだ?ブルーデ砦から戻ってきてからというもの、どこか変だぞ、レスティン」  
「・・・。あのね、レーク。今から私の言う事が信じられる?」  
「信じるかどうかは、話を聞かんといけないがな。レスティンの苛立ちも、それに関係しているなら、  
聞くだけ聞くよ」  
そう言うと、レスティンが話し終わるまで、静かに耳を傾ける。  
だが、レークは聞き終わると、まるで信じられないと言った顔をする。  


20  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/03  20:09  ID:???  

「そんな話、信じられんな」  
「やっぱり、頭から疑ってるでしょ」  
そういってふくれると、レークが、まあな、と言って頷き、そして口を開く。  
「だが、その話が本当かどうか、確かめてみようか」  
「ほんと!?」  
「ああ。だが、何もなければ、レスティンが白昼夢を見た事にするよ」  
「それでいいわ。でも、もし、本当なら・・・・」  
「本当だったら、隊長に報告するまでさ」  
レークはレスティンを促すと、竜舎へと向かったのだった。  



21  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/03  20:10  ID:???  

一方、日本政府部内においても、竜とそれに乗っている者との遭遇は、1つの衝撃をもたらす事となった。  
「りゅうきゅう」に救助されたエルフや人間の一部は、この頃、首相顧問となっており、首相顧問となっ  
たエルフによって、多分に竜騎兵ではないかと伝えられたのだった。  

この情報に、大迫総理は1つの決断を下した。  
それは、外務省職員や、財務省職員及び農林水産省、経済産業省職員などを初めとする各省庁から、横断的に  
調査団を編成し、大陸にあると思われる政府組織に接触する事だった。  
通訳として、この世界のエルフと人間が随伴する事となった。  

新たに編成された調査団は、政府専用機でもって、「新島」へと向かい、そこから第27護衛隊所属護衛艦  
「ゆうばり」に乗艦し、大陸へと向かった。  


22  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/03  20:11  ID:???  

この調査団に与えられている使命は幾つかある。  
第一に、この大陸の情勢を調査する事、第二に国交を締結する事、第三に休耕田の復帰が思わしくなく、こ  
のままでは、深刻な食糧難になる事が予期されたが為に、緊急に食料を買い付ける事だった。  
特に第二・第三の目的が重要である。  

そして、護衛として陸自より「新島」派遣団より一個中隊が随伴する事となった。  

その陸自一個中隊の中には、ディーンの姿もあった。  
今のディーンの身分は、嘱託に近いものである。  



232  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/04  20:34  ID:???  

>>22の続き  

今では、日本の機械に一応慣れてきたディーンではあったが、それでも、護衛艦が帆もなしで動く所を見れ  
ば、やはり驚愕してしまう。  
何か、とてつもない魔法具が存在しているのではないのではないか、とすら思ってしまうわけである。  

自分にあてがわれた自室から甲板にでると、ばったり陸自の隊員と顔を合わせた。  
確か、葛重三尉といっただろうか。  
まだ若く、どことなく優しげな顔立ちのする青年だった。  
「おや、ディーンさんではないですか。・・・・どうしたんですか?」  
「えぇと、確か、クズシゲ三尉だったかしら?」  
「覚えていてくれて光栄ですよ」  
そう言って、葛重三尉は微笑した。  
「なんだか、部屋にいてもする事がなくて・・・・つい甲板にでてきた訳。それに帆もない状態で動くなんて  
信じられないし。何だか、落ち着かなくて」  
そう言って、淡く苦笑すると、葛重三尉は、釣られて苦笑する。  



233  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/04  20:35  ID:???  

「自分は、ほら陸自ですから、船に詰め込まれると何していいやら判らんのですよ」  
「陸自って確か、近衛軍とか、騎士団に近いものだったわよね」  
「ディーンさんの方では、正規軍がないのですか?」  
「正規軍?それってなんなの?・・・・戦になれば、近衛軍や騎士団を中心に、領主が一族郎党を率いて戦う  
わね」  
「へぇ。てっきり正規軍があるのかと思ってました。自分らが元いた世界では、正規軍がまるであるかのよう  
な、そういった世界の物語が作られてますから」  
そう言って、片目を閉じた。  
「陸自、つまり陸上自衛隊ですが、ディーンさんの言うところの近衛軍が巨大なモノとでも言えばいいのかな」  
「巨大な近衛軍・・・・。なんだか、想像できないわ。領主が戦になったら、自ら率いて馳せ参ずるのが普通  
だから。どこでもそうよ?」  
「そうなのですか」  

そこで、二人の会話が一瞬とまり、二人して何の変化もない海原をただ見やる。  

「それにしても、日本にきてからと言うもの、驚かされてばかり。この軍船にしてもそうよ。帆もないのに動く  
んだから。」  


234  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/04  20:36  ID:???  

ディーンの「軍船」と言う言葉に、葛重三尉は、彼女らと自分達との間に常識の溝がある事を悟る。  
今の日本では、「軍船」という存在は戦国時代以外にしかないからだった。  
「軍船ではなく、護衛艦というんですよ」  
「護衛艦?」  
「そうです。護衛艦です。他国で言うところの軍艦かな」  
「だったら、軍船じゃないの」  
不思議そうに首をかしげるディーンに、葛重三尉はどう説明していいやら困り、苦笑した。  

と、その時である。  
何かの気配に気づいて、葛重三尉が顔を空に向けると、右舷より、2体の何者かが中空より接近してくるのが見  
えたのだった。  

「あ、あれは一体なんなんだ?」  
空を見上げて、自分の見ている物が信じられないかのように呟く葛重三尉に、ディーンは、感動したような声を  
出す。  

「あれは・・・・そう、竜騎兵よ・・・・!でもこんな海上まで飛んでるなんて・・・・・!?」  



445  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/05  21:37  ID:???  

>>234の続き  


ディーンと葛重三尉が、甲板で見た竜騎兵は、既に「ゆうばり」のレーダー室において捕捉されていた。  

しかしながら、レーダーで捉えられたのは、むしろ遅い方だった。  
「レーダーに感!本艦に、空中より接近する物体2を捕捉!3時の方向、距離800!!」  
「そこまで接近されるまで、なぜ気づかなかった!」  
「捕捉できたのは今しがたです」  
「仕方ない。IFF(敵味方識別信号)は!?」  
「反応ありません」  
レーダー室からの反応に、艦長はすぐさま、光学装置を覗き込む。  
報告のあった空域に視点を合わせると、接近しつつあるという物体が確認された。  



447  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/05  21:37  ID:???  

光学装置を介して、艦長が見たのは、彼の常識では全く考えられないものだった。  

とかげの化け物じみた物体が翼を羽ばたかせて飛翔しており、しかもその背には人間が乗っているというも  
のである。  
艦長が生きてきた人生において、そのようなものは思考のらち外であり、目の前の光景を信じられないのも  
無理はない。  
「・・・あれは、一体なんなのだ!?」  
指揮官たるもの、決して動揺する所を部下に見せてはならないのだが、この時ばかりは艦橋にいた者全てが  
度肝を抜かされていた為、問題とはならないのが不幸中の幸いか。  



449  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/05  21:39  ID:???  

だが、呆けているだけではなかったのが、艦長の艦長たる所以である。  
「敵か味方か判らんが、警戒すべきだ。奴が、敵対行動を取ったなら然るべき措置を取る」  
その言葉に。全艦橋要員が我に返る。  
「艦長、人間があれに乗っている以上、意思を確認できるかと思います。もし、敵ではないなら、こちらの  
指示に従うかもしれません」  
航海長の言葉に、艦長が訝しげに問い返す。  
「どうせよ、というのかね?」  
「後部デッキに、適当な言葉がないから、どう言えば判りませんが、着艦するよう指示をすればどうでしょう」  
「言葉が通じるかどうか判らんが、ボディランゲージでなら通じるかもしれんな。よろしい、やってみたまえ。  
ああ、それから調査団の人間にも初の接触の機会だと伝えるように」  
「はっ。了解しました。・・・おい、菊池一曹と凡河内一曹、一緒にくるように。それから秋沢二尉は外務官  
の園山女史を連れてくるんだ」  



191  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/09  00:40  ID:???  

>>前スレ449の続き  


ディーンと葛重三尉が、確実に近づいてくる2騎の竜騎兵を見上げていると、艦内から数人の人間が出てきて、  
ディーンらの方へとやってくる。  
それから、まもなくして、男女2人組の姿が続いて現れる。  

最初の方がどうやら乗組員で、後の方は調査団と乗組員らしく見えた。  
最初のグループの先頭にいた男がディーンらの気づき、声をかけた。  
「あなたは確か陸自の・・・・?」  
航海長の問いに、葛重三尉は軽く敬礼し、うなずく。  
「はい、葛重秋良三等陸尉であります。気分転換にここにいたら、あの空中の物体が現れました。あなた方の目的  
も、あれに関係あるのですか?」  
「自分は、航海長の長瀬博人一等海尉です。・・・そうです。意思疎通ができるかどうか試しにきました」  


192  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/09  00:41  ID:???  

答礼し、ディーンの方に顔を向ける。  
「あなたは、エルフでしたね。ちょうどいい。通訳をお願いできませんか?」  
「えぇ、いいですとも」  

2つ返事で了承したディーンに、長瀬一尉が、感謝します、と応じた時、調査団に特命全権大使として派遣されて  
いた園山女史と、女史に伴ってついてきた秋沢二尉が追いつく。  
「あれが、竜騎兵とかというものね・・・・!あんなものが中に浮いてるなんて!」  
園山女史は感嘆の声を出し、長瀬一尉に顔を向ける。  
「あれと意思疎通を図るというのね?」  
「はい。そして、この方に通訳を行ってもらえることになりました」  
長瀬一尉の言葉に園山女史は、ディーンを見て、そして彼女の耳に気づき、あら、と声を出す。  
「あなた・・・・。あのエルフとか言うものでしょう?・・・・・ごめんなさい、エルフを見るのは初めてだから。  
気を悪くしたなら謝ります」  
その言葉に、ディーンは、まるで見慣れた反応であるかのように、苦笑する。  
「気にしてませんから」  

おもむろに、長瀬一尉は、菊池一曹と凡河内一曹に対し、艦直上にまで近づいた2騎に向かって手を振るように命じ  
た。  



349  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/09  22:05  ID:???  

名無し志願兵殿もがんばれ〜。  

でもって、、、  

>>192の続き  



どんどんと、帆もない状態に動いている鉄の船に接近するうち、レスティンはその船に対し、再び言い知れぬ感  
慨を抱き、レークはレスティンの言葉が正しい事を知り、そしてその船に対し、驚愕を隠せないでいた。  

あんなものが、この世にいるなんて・・・・!  

そんな驚きも束の間、だんだんと船の詳細がはっきりするにつれ、甲板の後ろに何人かの乗組員らしき人影がいる事  
に気づく。  
そして、甲板に見えている乗組員らしきもの達がこちらに向かって手を振っているのが見える。  
どうやら、彼らも自分達に気づいているらしい。  
そして、レークには彼らがどうも手招きしているように思えたのだ。  

降りろ、とでも言うらしいな。  
そう呟くと、レスティンに対し、竜騎兵用に発展した戦闘用手話でもって、鉄の船に降りる事を伝える。  


350  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/09  22:05  ID:???  

竜と人間との意思疎通は、どんな場合でも近くに居さえすれば━━逆に言えば、離れていると不可能である━━可能  
だが、竜騎兵同士となると上手くいかないのだった。  
極めて至近距離でなら、大声で話すこともできるが、聞き取れない事があるのも考えると、軍用手話が一番なのだった。  
軍用手話と言うからには、単語数はごく少なく、そして、誰であろうと間違うことがないぐらいに文法も簡素化してい  
る。  
これを日本がもと居た世界に当てはめるなら、オーストリア=ハンガリー二重帝国の軍用言語に近いだろうか。  
違うのは、オーストリアのそれが多民族多言語国家であるがゆえであり、竜騎兵の軍用手話は戦闘時における意思疎通  
を目的としている事だった。  

レスティンもまた、軍用手話でもって、降りる事を了解した事を伝える。  
鉄の船に対する恐れもあったが、それよりも未知の物に対する興味の方が強かったらしい。  
2騎は一度、護衛艦の上空を旋回し、おもむろに降りていった。  


351  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/09  22:06  ID:???  

竜騎兵が降りてくるにつれ、レスティンを除く日本人は皆、その大きさに驚いたままだった。  
2頭の竜が甲板に降り立つと、艦の甲板後部は窮屈にさえ感じられる。  
やがて、竜の背中より、2体の人影が降りてくる。  
竜から降りてきた2人の内、一人は女性である事に、皆が驚く。  
その女性は、まるでおのぼりさんらしく、きょろきょろとしており、もう一人は日本人の方へ、足を運ぶ。  

黒髪の男が、口を開いたが、何を言っているのか全く判らず、それに気づいたレスティンが代わりに伝える。  
「あなた達は一体何者だ?この船はどのようなからくりで動いている?と言っているわ」  
「判るんですか?」  
長瀬一尉の問いに、レスティンが頷く。  
「東方語と、南方語が混ざっているみたいだけど、理解はできるわ」  
それに関心したように、長瀬一尉が頷く。  
「なるほどね。じゃあ私の付け焼刃な南方語では無理みたいね。・・・・通訳をお願いしますね」  
園山女史はひとしきり苦笑して、レスティンに頼んだ。  
「通じるかどうかは判らないけど、やってみるわ」  
そう言って軽く頷いた。  



445  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/11  11:00  ID:???  

>>351の続き  


「私は、日本からこの大陸調査団の長として来た、園山博恵と申します。この大陸がどのようになっているか、それを  
調べる為です」  
「自分はレーク・デオナスと言います。こちらは、レスティン・ファタルと言います。早速ですが大陸調査団とはなん  
でしょうか?それと、ニホンとは一体どこの国でしょうか?」  

自己紹介された事で慌てて、レスティンは日本人らに軽く頭を下げた後、ディーンに視線が向かい、小さく、あっと言う  
声をあげる。エルフがなんでここに?その言葉にディーンが、はあ、と一つ息をついて苦笑したのを見て、再度慌てて、  
頭を下げて謝る。  

レークは、そんなレスティンに、やれやれと言ったような気になるが、顔には出さない。  
「我々もまた、大陸がある事に驚いています。我々の常識ではこのあたりには、大陸はありませんから」  
「大陸がない?なんでまた・・・・」  
「それが判ればいいのですが・・・。ですから、それも調べないといけないのです」  
園山女史の言葉に、レークは思わず唸ってしまう。  


446  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/11  11:00  ID:???  

そして、しばし沈黙が訪れた事で、長瀬一尉が話題を変える。  
「こんな所ではなんですから、船内に入りませんか?」  
「船内に?いいのですか?」  
「ええ、あなた方から話を政府の方に伝えてもらう為にも私達の事を知ってもらった方がいいと思いますから」  
園山女史が、続けて言う。  

日本人の申し出にレークとレスティンは互いの顔を見合わせる。  
「ねぇ、入っていいって言ってるんだから入ろうよ」  
「だが、この船がどういう仕掛けで動いているのかも判らんのにか?」  
「だからじゃない。その為にも入った方がいいと思うけど」  


447  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/11  11:02  ID:???  

レスティンは好奇心いっぱいと言った表情で、レークに言い寄り、それにレークは軽く息を吐いて、艦内に入る事とした。  

「わかりました。では、自分達も中に入らせて頂きます。・・・・グリーゼ、そこで大人しくしててくれ」  
自分の竜に大人しくしているように言うと、彼の竜━━グリーゼと言った━━は大丈夫か、とでも言う表情をする。  
グリーゼを安堵させるようになだめた後、レスティンを伴って、中へと入っていった。  



艦内に入って、レスティンらがまず驚いたのは、所々、ろうそくやランプ油でもないのに、照明がある事だった。  
どういう原理で動いているのかすら、判らないのだ。  
魔法としか思えず、その事について、長瀬一尉に聞くと、そうではないと言う。  
そして、その事について、驚きさえする。  

やがて一同は、とある一室へと入って席に着くと、情報交換を行った。  




731  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/13  02:10  ID:???  

>>447の続き  


最初に口を開いたのは、レークだった。  
「あなた方はニホンからきたと言いましたね?ニホンとはなんなのです?」  
「私達が住んでいる国の事です。そして、列島の名前でもあります」  
園山女史が答えると、レークは訝しげに首をかしげた。  
「失礼ですがそのニホンとやらはどこに存在しているのです?南方海域の島国の一つなのですか?」  
「南方海域とは?聞いた事すらないですよ」  
長瀬一尉の言に、レークは腑に落ちない顔つきでさらに聞き返す。  
「ご存知ないのですか?・・・・主だった大きな島は南方海域に存在しているだけです。それ以外の地域で国と呼べるぐ  
らいに広い島は、自分はしらないですよ」  



732  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/13  02:11  ID:???  

自衛官や園山女史らは互いの顔を見合わせた。  

「こちらからお尋ねしますが、あなたがおられる国はなんというのですか?」  
「シュレジエンといいます。多分、シュレジエンが一番端っこだと思います。シュレジエンから北に国があるなど聞いた事  
がないですから」  

シュレジエンという固有名詞に、園山女史を初めとする日本人らはこの世界は自分達の地球とは違う事を思い知らされた。  

「私達もその事で、困っているのです。ある日突然と言っていいぐらいに、唐突に日本だけが転移し、途方にくれている中」  
そこで一旦、園山女史は口を閉ざし、ディーンの方を見やると言葉を続ける。  
「彼女らが漂流しているのを発見し、救助したのです」  


733  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/13  02:12  ID:???  

「なるほど。それであなた方の目的はなんですか?」  
「私達の目的は、あなた方の言う、シュレジエンとの国交を開く事と食料の確保で、そしてこの世界の調査です」  
「なら、上の方に伝えないと。自分の権限では対処のしようがないですから」  
問題が複雑になりそうな為、上の方に伝える事を約束すると、一足先に伝えるべく、レスティンを促して立ち上がる。  

そして、この船が白昼堂々と港へと入っていくと混乱が起きる事は確実であり、人目のつかない場所で待つようにも要請  
したのだった。  
レスティンは見るもの全てが珍しいようで、その間ずっときょろきょろしていた。  

そして一同に出されていた、こげ茶色の飲み物に恐る恐る口付けて、その苦さに顔をゆがませたりしていた。  
レスティンが後で知った事だが、その飲み物はコーヒーという。  
その妙に苦いが、癖になりそうな飲み物を名残り惜しそうにしつつ、席を立ったのだった。  


734  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/13  02:13  ID:???  

2騎の竜騎兵が「ゆうばり」から去っていくのを見送ると、一同は艦内へと戻る。  
元の部屋には、調査団の主だった者が顔を揃えており、その中には艦長を初め、  
護衛として動向している陸自中隊の指揮官である、長原三等陸佐の姿もある。  

中隊長には、3等陸佐か一等陸尉がつくものであるが、今回は調査団とのバラン  
スや現地における柔軟な対応をするという目的で、三佐が当てられたのだった。  



76  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/14  20:33  ID:???  

>>734の続き  



「さて、みんな、集まったようですね。竜騎兵がこの艦に訪れた事はご存知だと  
思います」  
園山女史はそう言って室内を見渡す。  
既に、誰もが承知しているのを示す様に頷く。  

「彼らとの出会いで判った事は、これから訪れようとしているのがシュレジエンと  
いう名前の国らしい事です」  
「シュレジエン?」  
経産省から派遣された人間が、尋ねる。  
「ええ。多分にこの世界の政治体制を予測するなら、王政であると考えられます。  
その根拠は、我々と新たに働く事になった彼らからの情報とそして、我々の元の歴  
史からも推測することができます」  


77  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/14  20:35  ID:???  

彼らからの情報、と言う言葉に誰もが納得する。先だって、救助したこの世界の人  
達を意味する事だった。  

「王政ですか。すると、中央集権でしょうか?それとも封建制なのか。それによっ  
て、我々の対応も変わってくると思いますが」  
「つまり?」  
文部科学官僚に、経産官僚が応じる。  
「封建制であるなら、王権の範囲が限られてきます。なぜなら、諸侯と王権は契約  
関係によって結ばれているからです。そうですね・・・・・例えて言うのならば、  
鎌倉時代の「御恩と奉公」に近いです」  
そこで一旦、文部官僚が言葉を切って全員の顔を見やる。  
「これが絶対王政であるなら、中央集権化が図られ、王権が強大となります。何を  
するにしても、国王の思うがままです」  


78  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/14  20:37  ID:???  

それまで黙っていた、外務官僚が応じる。  
「とすると、相手の政治体制によって交渉方法が代わる。つまりはそういう事なの  
かな」  
その言葉に文部官僚が頷いた。  
「中央集権であるなら、国王に話が通じれば、必ず実行される、そういう事です」  
「すると、封建制であるなら?」  
「国王が承諾したしても、諸侯が応じない場合があるという事です。あくまで契約  
関係によって主従関係を結んでいるからに他なりません。そうであるなら、国王の  
命に必ずしも従う必要がなく、そして従わなかったからと言って、それが反逆行為  
と見なされる訳ではないのです」  


79  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/14  20:38  ID:???  

それは困るな。そう呟いたのは、農林官僚だった。  
その呟きには切実なモノがあった。  
彼が受け持っているのは、食料の確保である。至上命題と言ってすらいい。  
何故なら、遅々として休耕田を復帰させる事業が進んでいないからである。  
「なら、農作物は下手をすれば、必要量揃えられないと言う事なのでしょう?」  
「その事はシュレジエンについてから調査しなければならないでしょう。最悪、僅か  
しか確保できない事も考えなければ。今の段階ではっきりとした事は言えませんから」  

園山女史が、自分に言い聞かせるかのように続ける。  
「皆さん。もう少しで、初めての大陸の一つの国であるシュレジエンと接触するのです。  
こちらの風習がどうかすら判っていない。その中で交渉するのです。困難ではあるけれ  
ど、シュレジエンとの友好関係を作る事に専念しましょう。全てはそれからです」  
思う事はどうであれ、調査団全員はその言葉に頷いたのだった。  





168  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/15  13:07  ID:???  

>>79の続き  



シュレジエン宰相、ドルカルフ公ナイラーク・エンドルンを初めとするシュレジエン執  
政部は、この国に訪れていた「アムデス」との難しい交渉を、なんとか言を右に左にか  
わしつつ、先延ばしにしていた。  

交渉が始まって、既に一月以上が経つ。  

その間、両国の使者は互いの国を何度となく往来し、交渉結果━━ありていに言うなら  
現状維持という━━は実らなかった。  


169  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/15  13:07  ID:???  

エンドルン卿は、その交渉を思うと頭が痛くなるのだった。  

その交渉の内容と言うのが、人間以外の種族の追放要求と、そして追放を行う事によっ  
て帝国の同盟国として扱うと言うものなのだ。  
シュレジエンとして、人間以外━━すなわち、エルフを初め、ドワーフ、そしてノーム  
らを追放する事はできない相談だった。  

それはシュレジエンの拠って起つ足場とも言える。  
否、建国以来の同盟種族と言ってもいい  
そうであるが故に、エルフは彼らが住まう森より、わざわざこの国に仕官し力を貸して  
いるのであり、ドワーフらはシュレジエンの為に彼らの槌を振るっているのだ。  


170  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/15  13:09  ID:???  

だからこそ、エンドルン卿は帝国との交渉に苦悩する日々が続いていた。  
今日の交渉は、行き詰まった事を決定付けた。  

「シュレジエンとエルフらとの建国以来の関係は、我らもよく判っています。だが、時  
とは移ろうもの。貴国が過去にまどろむのは、未来に対する冒涜と言えましょうぞ。・・  
・・・既に、言葉で述べるべき事は述べました。後は、貴国の決断のみです。今、情勢が  
那辺にあるかよくお考えになられる事です・・・・」  

その使者の交渉を打ち切りする事を伝える、最後の言を思い返して、卿は重い息を吐き出す。  

「帝国は、交渉の打ち切りを決めただろうな。・・・・ついに帝国との開戦も近いか。陛  
下に今日の事を伝えねばな」  
誰にともなしに、呟いた。  

そして窓辺に佇み、これからの事に思いをはせていると、唐突に扉を叩く音が聞こえた。  
卿が誰何を尋ねると竜騎兵団長である事が判り、入室を認める。  



366  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/16  20:44  ID:???  

>>170の続き  



「何用か?」  
「は。宰相閣下にお伝えしたき事があり、参上した次第です。・・・・もしかすると、事が  
大きくなるかもしれないと判断したゆえです」  

その言葉に、エンドルン卿は、片目をやや狭めて、団長をみる。  

「どういう事なのだ?詳しく話せ」  
その言葉に、団長は一礼し、話し始める。  
「まず、申し上げる事は、我が配下の者をある用事でブルーデ砦に出した所、向かう途中でこ  
の世にはないような船を見たと報告してきました。その時は、くだらない事を言っていると  
判断し、用事を果たすよう命じました。・・・・がどうやら用事を済ませた後も、処遇に不  
満を持っていたらしく、今度は同僚を伴いその船を捜索したようです」  
「この世には存在しない船とは一体何なのだ?」  
「は。それも鉄の船だと言うのです。しかも、マストすらないとの事」  
「マストがないだと?それでどうやって動くのだ」  
「それは自分にも判りかねますが。・・・・一つ言える事は魔法か何かで動いているとしか推測  
できません」  



367  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/16  20:45  ID:???  

その言葉に、卿は頷いた。  
確かに、マストも無しに動くとすれば、それは魔術的なものとしか考えにくいからだ。  

「一人だけなら、白昼夢として片付けられましょうが、今度はその同僚も見たという報告をし  
てきました。そして、その船の乗員と思われる者に招かれたとも。あまつさえ、船内に入り、  
言葉を交わしたと言うのです。その船の乗員の言葉は理解出来ないようなのですが、驚いた事に  
その船でエルフを見たと言うのです」  
「エルフだと?あまり船に乗っているなどというのは聞かないが」  
「確かに。しかも、鉄の船となればなお更です。特に彼らは、鉄でできた物を身に付けている事自  
体、稀ですから」  


368  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/16  20:47  ID:???  

「それは当然だ。彼らは鉄はあまり好まないからな」  
「そのエルフと思しき者が通訳をしたとの事。そこで判った事は、その船は『ニホン』という国か  
ら、この大陸を調査しにきたらしいのです」  
「シュレジエンを侵略しようというのかね」  
「いえ、どうやら、彼らもまた困惑しているらしいのです。唐突にこの世に現れたらしく、状況を探  
るため、そして、元居た場所に戻る為の方法を見つける為だと報告してきました」  

卿は、ふむと呟く。  
すると、たちまち『ニホン』というらしい国は、この国と事を構えるつもりはないと言う事なのか。  

竜騎兵団長の報告を信ずるなら、と言う但し書きはつくものの、無碍に扱う事もできないという事は  
わかる。  
確かに、事はこの国に、いやこの世界に関わるかもしれないという事は言える。  


369  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/16  20:48  ID:???  

「なるほど。それで、その鉄の船とやらはどこに向かうと言うのか、判ったのか?」  
「は。この国と接触するのならば、人目につかない、港から離れた場所に停泊して欲しい、と伝えてい  
るとの事。いかが致しましょうか」  
卿は団長に命ずる。  
「よろしい。あって話をしてみよう。そうだな、使者は先に彼らと接触して二人がいいだろう。私は、  
陛下にこの事をお伝えする」  
「御意に。では早速、使者を出してきます」  



426  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/17  02:40  ID:???  

断章  
東方暦1024年秋  

1  
ドルカルフ公ナイラーク・エンドルンは、秋のどこか物寂しげな木陰を縫って、まっすぐに  
伸びる幹道を進む馬車の中にあった。  

これから、王城に登城する為である。  
内々に宰相就任を打診され、それに応じたのだ。  

だが、エンドルン卿にとっては気は重かった。  
望んで、宰相就任を飲んだ訳ではなかった。  

王国の財政は近年稀に見るほどの赤字であり、その原因は、数年前に2年続いた不作にあっ  
た。  

まず、社会の低層に位置する下層民に打撃を与えた。  
身売りは元より、生まれたばかり赤子の間引きすら行われた。  

だが、この時点では、政府の動きは鈍く、対策は取られなかった。  


427  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/17  02:46  ID:???  

そして、政府が動こうとすらしない間に、事態はさらに悪化した。  
貴族諸侯にまで、その経済的打撃を与えるようになった。  
最初の標的となったのが、財政基盤の弱い下級諸侯だった。  
先祖より受け継がれてきた土地すら売り、それでも耐えられないまま、明日の食事を心配しなけ  
ればならない程のものだった。  

特に西部に領地を有する諸侯において、それは顕著となる。  
2年続いた不作はついに飢饉にまで広がった。  
ついに餓死する者が、そこかしこで見られるようになり、そして、大貴族と呼ばれる者ですら、  
それは例外ではなかった。  
大貴族で、なんとか踏み止まったものもいたが、それですら西部諸侯の中では少ないほどだった。  
ある貴族などは、領民に重税を課して、乗り切ろうとしたが重税に耐えられない領民の多くが、  
浮民と化し、逆に更なる苦境に追い込まれたものすらあった。  

ここにきて、政府も重い腰をあげたが、なんら有効な政策を打ち出せないまま、事態はより悪化し  
た。  


428  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/17  02:47  ID:???  

馬車の車窓から見える光景は、エンドルン卿をして、沈鬱にさせる。  
生気なく、地べたに腰を下ろしている者も少なくない。  

あの中で、この冬を越せる者が幾人いるのか。  

それを思うと気が重くならざるを得ない。  


2  
ドルカルフ公爵家は、建国王より数えて5代目のウィンダ1世の御代に臣籍降下した、グリハル  
ト・ガルバゾ王子を始祖とする。  
その後、3代目当主エタニオの時代に嫡子がなく、全て女子のみとなり、請われて、婚姻したドル  
アノ・エンドルン卿が第4代当主となって今に至る。  



429  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/17  02:49  ID:???  

やがて、ナイラーク・エンドルンより数えて曽祖父であるクラウゼンの時代、ドルカルフ公爵領にお  
いて、飢饉が生じた。  
困窮する農民を救うべく、グラナイクは、領地の5分の3近くを売り払って糊口を凌いだのだ。  
これによって、公爵領は名実ともに小規模となり、公爵位としては最下位に甘んじる事となり、他の  
諸侯より陰口を叩かれるほどだった。  

だが、グラナイクは領民を救って余った金を原資として、交易にその活路を見出した。  
グラナイクに交易商としての才覚があったのだろう。  
海路を使っての交易は、ドルカルフ公爵家に莫大な資産をもたらす事となる。  
以後、ドルカルフ公爵家は交易商の名門としても有名となった。  

この事は、ドルカルフ公爵家の陰口を叩いていた諸侯らに取っては、唖然とさせるものであったのは  
言うまでもない。  

ナイラーク・エンドルンに宰相就任の打診があったのは、ドルカルフ公爵家の人間であるなら、この  
経済的苦境を打開してくれるのでは、という期待感があったからである。  
このシュレジエンに猛威を振るう経済的苦境の中にあって唯一、ゆれる事なく存在しているからだった。  

現政府は、既に誰からも見放されていたと言ってよい。  
政策能力を喪失しているのは明らかだった。  


430  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/17  02:51  ID:???  

3  
やがて、馬車は王城へとたどり着き、卿は降りると城内へと入る。  
就任式典がこれから始まるのだ。  

控え室へと通され、そこで式典が始まるのを待つ。  

やがて、卿に呼び出しがかかる。  

門の前まで進み、先触れが行われる。  

「これより、ドルカルフ公爵ナイラーク・エンドルン卿の入室です」  


431  名前:  政府広報課  ◆F2.iwy/iJk  04/02/17  02:53  ID:???  

重そうに門が開き、卿は国王の前へと進み、静かに深く一礼した。  
「ドルカルフ公爵、そなたを宰相と致す。よく国政を為せ」  
「は。仰せのごとく、宰相として、責務を果たしたいと存じます」  

ここにシュレジエン宰相ナイラークエンドルンが誕生したのだった。  

これ以後、エンドルン卿は傾いた財政を立て直すべく辣腕を振るい、様々な政策を実行していく事とな  
る。  
これらの諸政策は、俗にエンドルン改革と呼ばれる事となる。  
その影響は、シュレジエンの体制を変化させるほどのものである。  

時に、この世界に日本が現れる24年前の出来事だった。  

終