941 名前:小官 ◆qG4oodN0QY :04/05/26 12:01 ID:???
早メシ後の昼休みだがリクエストに応えよう。

 「…おじさん…? どうして…私達に小銃の撃ち方を今まで教えてくれなかったの? 」
 「…大人の意地、だったのさ。女子供が『人殺し』のことなんて覚える必要など…
  絶対、認めたく無かった。俺達が代わりに手を汚せば済む事だ、と思っていた…」

 開拓村。この『帝国』と日本国との友好関係を示すために作られた、一大農業地域。
『王国連合』では農奴に過ぎなかった彼ら農民が、始めて『自分の土地』を与えられた、
希望に溢れた『約束の地』だ。だが…脱走農民を看過出来なくなった一部の『王国』が
遂に『人狩り部隊』を送り込んで来たのである。我が国政府は楽観的に過ぎ…間に合わせの
『戦闘団』しか配置しなかった。各兵科から一小隊分抽出し、普通科を主力として編成した
『コンバット・チーム=CT』だ。演習で良く編成されたが…実際戦闘で編成されるとは、
世も末だ。敵の数は…我が方の約1.5倍。…自軍兵力では我が方の陣地防衛は出来ても、
奴等の真の目的である『元農奴』やその家族達を守る部隊まで編成出来はしない。


942 名前:小官 ◆qG4oodN0QY :04/05/26 12:02 ID:???

 俺達は苦肉の策を取った。戦闘団中の予備銃や砲をかき集め、教官と為れる『真に優秀』な
人材を持って教育に当たらせ、襲撃予想日までに『撃てる』様にする事。文にすれば一行だが、
普通、数週間、数ヶ月に渡って教育すべき事を2週間で詰め込まなければ為らなかった。
 教官と為った俺達、陸自の曹連中は互いに顔を合わせれば、言ったものだった。

 「…なあ、『新品三尉』より使える奴等が多いじゃないか? 仕込み甲斐が有るな」
 「冗談! 俺だったらこの状況こそ恥じるね! …自衛隊の存在価値が全く無い! 」
 「…守るべきものに銃を取らせる俺達は…きっと地獄の鬼も許さないだろうな…」
 「違いないわ…きっと、泉下の『帝国軍人』の先人達に説教されるでしょうね! 
  何のために死んだと思ってる! とか、鬼よりコワイ顔して叱られるかもね…」

 官僚も逃げた。教育者も逃げた。役人も逃げた。入植者も逃げた。文字通り、俺達陸自が
日本国の代表と為った。…俺達の戦闘団からは何故か脱走者が『一人も』出なかった。普通科
連隊長の訓示が奇跡的に効いたのだろう。何気ない言葉が『覚悟』を促す効果も有る。
 日頃『信楽焼きの狸』とか言われていた奴の訓示だったが…その時何故か、心に沁みた。

943 名前:小官 ◆qG4oodN0QY :04/05/26 12:03 ID:???

 『逃げる者は停めん。しかし、我々まで逃げれば、誰が彼らを守る?彼らだけでは無い。
  後方には同様の開拓村が多数存在している。当然、日本人も居るのだ。…我が連隊が
  現代の『良識有る正しき日本人』の姿を見せる事によって、信頼関係を磐石の物として
  見せようでは無いか! 捨石残地多いに結構! 諸官! 陸自の歴史に名を残そう! 』 
 
 ここまで言われて、逃げようとか逃げるとか言う勇気のある自衛官は、正直、居ない。まあ、
単に周りの雰囲気を気にして言い出せなかったに違い無いだろう。今の心境は、来るなら来いだ。

 「おじさん、あの土煙…もしかして…あれが…全部…? 」
 「そうだ! おいでなすったか! 特科小隊に連絡! 砲撃開始と伝えろ! 」

 伝えるまでも無く、視認した向こうが砲撃を開始した。俺達は『良き軍人』には遂に為れなかった。
『真に守るべき者』に『人殺しの道具』を扱わせたのだから。だが、それは死を以て償えるだろう。
その時始めて、俺達『日本国、陸上自衛隊戦闘団の自衛官だった日本人』は『良き隣人』と為るのだ。

廃品と呼ぶには惜しいですが廃品回収終了ですw

346 名前:小官 ◆qG4oodN0QY :04/08/12 13:37 ID:???

 「いらっしゃいませっ! 何かお探しですか? 」
 「ぬおぅっ! アンタ誰だ?! いつものオバちゃん、何処へ行ったんだよっ! 」
 「…え〜と、高田さんなら…実家に帰りましたけれどぉ…」

 駐屯地。一般人の姿を捜すのも難しいこの敷地の中で、唯一常駐を許された区画が存在する。それは、購買区画。
直営売店、民間業者の売店、喫茶店、時計屋、床屋等…駐屯地で生活する隊員達のオアシスとも言える区画の事だ。
 ゲーセンまであったりするのだが…置かれるゲームがその…更新されないのがミソだったりする。ましてや、この…
『ニッポンを遠く離れた帝国最辺境部に位置する駐屯地』と来ればなおさらだ。

 「あんた…ええと…誰ちゃん? なんで此処に居るの? 誰が入れたんだこんなの? 警衛仕事してんのか? 」
 「この名札…見えませんか? このたび現地採用になりました、シーナですっ! 」
 「高慢チキチキなエルフが店員なんぞやれんのかよっ? プンむくれる前に森へ帰れ! 」
 「ひっどぉーい! 今日が初出勤なのにぃ! そういう貴方は誰ですか! 失礼な! 」
 「ほーら地が出やがった! オレは客だぞ、客? ああ、名乗ってやる! 聞いて驚け! 第20偵察大隊第一中隊
  陸曹候補士2等陸士羽馬田幸太郎! さあ、言って見ろ! 」
 「第二十ていさちゅだいた…」
 「プッ! 舌噛んでやんのー! ばーかばーか!」
 「…どうしてこんな所にいるんですかぁ! みんな仕事なのにぃ! 」
 「警衛明けなんだよ! そんな事も…って…待て! アンタどっから入ったんだ! 今日裏門閉鎖してるしっ! 」
 「ひ・み・つ(はぁと)」
 「駐屯地の植え込み使ったな! 警衛所まで一緒に来い! この…! 出入管理舐めんなゴラァ! 」
 「ひっはらないへくらはい、はなひてくらはい、いらい、いらいれすぅ〜!」

 シーナの仕事は前途多難であった。駐屯地に起居するほぼ総ての隊員が殺到する昼休みまで…あと僅か。



382 名前:小官 ◆qG4oodN0QY :04/08/13 12:22 ID:???

 「…帝国では無く、『日本国』へ帰順するの…ですか? 」
 「そうです。ですから…この…わた…妾が逝くのです。帰順が我が王国の総意である事を示すために…」
 「帝国に帰順すれば…国内に駐留する昨日までの味方から略奪の危険が有るから…ですね? 『姫様』? 」
 「!!…は…はい…あの…そのっ…! …ごめんなさい…。気を附けます…」
 「そこで謝るから…咎めては居ません。もう少し、堂々として下さい…ああ、謝らなくても結構です」

 俺は噴き出しそうに為るのを必死に堪えた。モノ言いが丁寧に過ぎる。一人称も、無理をして変えている。
この世界独自の言語なのだろうが、『転移』した俺達には、ニュアンスまで変換されて何故か『理解可能』だ。
 世界の心憎い『配慮』とも言えるだろう。尉官の俺は英語と独語以外は守備範囲外だ。鼻がかった発音を
するおフランス語は正直、性に合わない。ガチガチに堅い独語の方が…話すには楽だ。第一、英語と大体、
学習する『ツボやコツ』が同じだから、楽が出来る。だが…学習する必要が無い言語は…正直、始めてだ。

 「あのなぁ…化けるツモリなら、も少し、偉そうにな? 王族ってモンは、えばってナンボなのよ? 」
 「姫様に無礼な口を訊くな! …いや…訊かないで下さいませ、この下…いえ…オガワ…様っ…! 」
 「とまあ、解り易い反応有難う、ただの端女サン? アンタもだよ…。演技する時は心から演らないと
  ウソ臭く見える。気を附けろよ? 何処で誰が見ているかワカランからなぁ? ですよね、塙2尉? 」

 たった2名の『護衛』と云う少なさが、日本国のこの国に対する関心の低さを示していた。付けてやっただけ
有難く思え、と云わんばかりのこの仕打ちに、何故か『端女』の方が『姫様』より烈火の如く怒っていたのは…
苦笑するしか無い。一人称が変わっている事も忘れて罵っていた位だ。奉仕されて当然。王族の王族たる所以だ。

383 名前:小官 ◆qG4oodN0QY :04/08/13 12:33 ID:???
 俺達を送り出した『幸島1佐』は言ったものだ。『俺達2名が共に居る事』で日本国の面目が保てるのだと。 

 『…『穴』出身者を君に附けた。それが責めてもの私の親心で有り、本土の思い遣りだ。喜べ。以上だ』

 『穴』。風の噂には聞くが…それは果たして本当に存在にするのかどうか…俺にはとても信じられなかった。
『穴』が噂通りの所ならば…そこで生き残ったと言う、この男の『明るさ』と云うか『馬鹿さ』が…耐えられん。

 「はーなーわーにーいっ! 一時方向に騎影5騎! ミルで言やあ800ミル、距離1千! 見えてますね! 」

 しかし、実力は有る。それは認めよう。…俺達がここまで生き残って来たのも…『半分は』…奴の御蔭だろう。 
もう半分は、俺の判断力に大きいと自負している。しかしこの娘達を本国まで送り届ける意味を…俺は見出せ無い。
 日本は文明国だ。人を貢ぐと言う行為自体、良識を以て自認する各マスコミの創り出す『国内世論』は嫌悪する。
『奴』は言った。『大方『外交使節』でOKなんじゃないんですかねぇ? 真相はいつも闇の中ぁ〜ん』と…。
…深く考えるのは良そう。今は…護衛こそ、俺に与えられた『任務』なのだ。遂行こそ、最重要課題なのだ!

 「…振り切れんか? 小川三曹」
 「…アンタ馬鹿ですか? 小型翼竜に乗ってる奴等を馬と高機動車でどう振り切るんですか? キャリバー50、
 使えませんか? 死ねオラ! 退けオラって感じで! ダメ? つかえねー幹部だなぁ、オイ! きょうび…」
 「なら貴官がやれ! Dr.は俺がやる! 」
 「泥濘に突っ込ませたのは何処のドイツだこのド阿呆! そこの女連中でも守ってろ! 能無し! 」

 原隊で今まで会った陸曹がどんなに紳士的で、どんなに俺に対して遠慮して来たか…こいつと一緒に旅をして
始めて理解出来た気がする。コイツはいつも本音で生きている。言いたい事を言う。…羨ましい生き方をしていた。

703 名前:小官 ◆qG4oodN0QY :04/08/21 20:42 ID:???
>>383
 追っ手は何とか振り切った。…我が方も行動不能に陥ってしまうとは、正直俺は夢にも思わなかった。

 「大体、三日間程度の不眠不休で80km行軍しただけの奴がな、この俺に訓戒垂れるなんざ笑止だね」
 「…オガワさん…ハナワさんをそんなに…酷く言わないで…? 御願いだから…仲良くして…」
 「ハン? 惚れたか? この能無しにか?! 何にもデキねークセに偉ぶってるだけのこのアホに?
  …って顔赤くすんなよ…。勿体ねー! アンタの方がよっぽど上等なんだぞ? 解ってるのか?! 」

 エンジンルームに頭を突っ込みながら、小川三曹は俺の事を貶し続けていた。彼にしてみれば当然だろう。
尉官の俺は、車両の整備の知識や技術も彼とは違い、持たないのだから、黙ってそれを見ているしかな… 

 「言いたく無かったがな…殺すぞテメェ! この娘等を好い加減に見習ったらどうだよ! 周辺監視
  すら忘れてるだろ! 敵はどっからでも来るんだぞ! 俺は今、銃すら使えん! この娘達もだ!
  そんな思考の柔軟さの欠片も無い! 防大や陸自で何を学んできたんだ?! アァ?! コラァ!! 
  文句が有るなら自分のやる事をやってから言え! 今日日、最近入隊の二士の方がまだ使えるぞ!」

 俺が小銃の握把を握り締め、銃口を向けようとした途端…スパナが飛んで来たのを最後に…俺は意

704 名前:小官 ◆qG4oodN0QY :04/08/21 20:47 ID:???
アレからどれくらい経ったのだろうか? 微かな痛みと心地良い冷たさが頭を覆うのに気付けば、
頭に瘤が出来ていて…水に浸した布が当ててあった。…かすかな、香油の、香りがした。

 「…上に立つ者の義務を忘れては…ならん。貴君はそれを、理解しているか? …しては居まい。
  己に出来る事は何かを断じ、率先して行動せねば誰も動いては呉れぬものだ…だから妾…私は…
  『日本国』へ往く事を決めたのだ。…国を、民を…苦しめぬためにな? 」

 俺は白い布を手に取り、匂いを嗅いだ。途端に『端女』の顔が羞恥に赤く為る。…もしや…これは…?

 「オガワとやらの入れ知恵ぞ! その方が汝の治りが早いとの『日本国の迷信』で有ると言った!
  もう起きられるのならば返せ! それは妾のっ…! 」
 「証拠写真は取ったぜ、ハナワちゃぁ〜ん! この、幸せ者っ! 塙2尉、姫様の、下着を嗅ぐ! 」
 「ハナワさん…」

 今にして思えば…一番この時が牧歌的で…幸せだったと思う。この後襲って来る事件に比べれば…。
4人を襲う者は、敵だけは無かった事を、俺達は思い知るハメに為る。『味方』すら信じられない状況。
 それが、俺達の前に立ち塞がっている事を…俺だけが『脳天気にも』認識出来て居なかったのだ。


172 名前:小官 ◆qG4oodN0QY :04/09/04 04:03 ID:???

 「…睨み合いか…」

 幸島一佐は静かに部隊展開図を見て呟いた。配置が…拙い。士気も血気も盛んな普通科連隊は、待機命令に従うだけ
でも苦痛な筈だ。あの二人に託した使者の持つ『講和条約』が成立するまで持つのか? それが目下の頭痛の種だった。
 云わば『姫』の件は口実に過ぎ無い。条約の『裏書き』のために使者を務める者の『血統』が重視されただけだ。

 「側室の子と正室の子…どちらが死んでも、一向に構わん…か…。権力の化物め…」

 父王と折衝に当たったのは幸島一佐と、外務官僚だった。言質を与えようとしない、両者の得体の知れない腹の探り合い
に業を煮やした幸島一佐が提案した、『使者派遣』に両者が同意したのだった。勿論…失敗すれば責任は…

 「恃んだぞ…AHO…『穴』出身のお前こそ…我々『日和見派』の『切り札』だ…」
 「幸島一佐! 普通科連隊が、無断発砲を! …我が方は損害軽微! 内容は敵方の指揮官狙撃です! 」
 「この…馬鹿者どもが! 日本国を無限の戦争の泥沼に嵌らせた事を何故解らん! 」
 「幸島一佐? 何を怒ってるんですか? 戦争ですよ? ここは燃えるシチュエーションですよ? 」

 去り際の、彼、AHOの皮肉げな笑顔が幸島一佐の脳裏に浮かび上がった。『…俺の判断で俺は自由に動きますよ』と
言い放った彼の顔を。『ACE IN THE HOLE OGAWA』略して『AHO(アホウ)』。それが、彼に与えられた綽名だった。

『穴』はwikiでわかった ええと ACE IN THE HOLE て 切り札でホントにOK? 

280 名前:小官 ◆qG4oodN0QY :04/08/11 13:59 ID:???
 残響音が絶えぬ間に、馬上に居た人間が落馬する。俺達の護衛対象であった…『姫』だ。
文化的後進国は交易のために『朝貢貿易』を行う事を選択した。その第一の貢物が…解るだろう?
 いかに愛娘だか何だか熱く主張されても、こんな『もの』を今の日本の誰が受け取ると言うのだろうか?

 「うっわ〜、撃った奴、きっとお前張りに冷血漢だぞ? まだ14だぞ、『姫』? …親が見ても解らんな…
 …頭が無え。こんな事可能なのは…富士学校の研究用にウン丁かあるアレしか無いな? そうだろ? 」
 「…これでこの下らん任務から解放されるんだ。感謝する! …誰だが知らんが、な? 」
 「筋書きは出来てた…か。おいおい、睨むなよ? どうせコイツの死も利用するんだろう? 他国侵略の
 ためにヨォ? 友好国の重要人物が「他の国家に殺された」とか戯言を言って? 違うか? 」

 俺は遺体を抱き上げた。この少女は…『姫』では無いのだ。お決まりの如く、『替え玉』だ。俺もこのふざけた
物言いの『奴』もとっくに知っていた。護衛を心配し、己の事を一人で完全に出来、さらには騎乗までこなす…。
王族特有の高慢さなど欠片も見られない。共に旅をしていれば解る。素性は解らんが…いい子だった…。

 「…『姫』か…。おい、やるか? アレを? 」
 「ああ、敬意を表す。俺達の流儀で…な。この子は…俺達にとっては…『姫』だ」

 捧げ銃を死体に向けて行う俺達は…狙撃者から見れば愚の骨頂だろう。だが、俺達はこの子こそ、模範なのだ。
己に与えられた『役割=任務』を、全うして…死んでいったのだがら。さらば、『姫』。俺達の記憶の中で…これからを生きよ。

571 名前:小官 ◆qG4oodN0QY :04/12/19 13:12:59 ID:???

 「特定少数を活かすために、多数を虐殺するのか? こんな卑劣な手段で」
 「嫌なら私を殺せ。しかし、各方面隊直轄部隊や、各師団は動いている。もう遅い。停められんよ」
 「…貴様等は、愚を冒しているに過ぎん! 天に吐いた唾は必ず己に還る! 」
 「もう、引き返せないのだよ…。淘汰するかされるかは、OGKだ。ああ、クリスチャンでは無いぞ?
 Only Gods Knows、八百万の神々のみ知る、さ。…しかし日本人の方は生き残るだろうよ…」

 それは、卑劣な作戦だった。インフルエンザワクチン。毒性を低めたウィルスを人体に注入する事により、
抗体を人体中に生成させるの事が目的だ。しかし、耐性の無い人間にしてみれば…ウィルスを直接注入
されているに等しい。…この世界の住人である『彼ら』には…我々の持つ雑菌ですら危険であると言うのに…。
 その真逆もまた然り、だが、我々には培ったそれまでの『医療技術』が有る。入国制限は今も生きていた。
 
 「ウィルスの変異パターンなど、人などの予想範囲を遙かに超えている事は貴様も…! 」
 「それで滅びるならば滅べば良い。それまでの存在だったのだろう。どの道、このまま野蛮人なんぞに
  豊富な資源を浪費されて指を咥えて涎を垂らして見ているだけなら…数年も持たんのだからな」

 資源の備蓄は底が露呈しそうな程だ。所詮物資の補給の無い、大量消費生活など、営めるものでは無い。
哀しい事に、戦後世代は贅沢にも…物資の窮乏のもたらす真の苦痛を知らない。斯く言う俺も、同じだ。 

572 名前:小官 ◆qG4oodN0QY :04/12/19 13:18:24 ID:???
…陸自は、戦時中の『石井部隊』並みの卑劣さを持つ連中によってある目的の元に、動かされた。
有る特科部隊は、『演習』で、『訓練弾』を渡され、この世界に提供してもらった『演習場』で撃て、と命じられた。
航空科はヘリで、『ある地方で害虫駆除』のために、ある液体の『エアロゾル散布』を集落に敢行を強制された。
普通科はつい昨日済ませた連中も『破傷風のワクチン注射』を受け、各集落で一週間以上の分屯を命じられた。
衛生科は…総てのこの世界の分屯地より撤収を完了した。少数の俺達『融和派』の有志を除いて…!

 「私を殺しても、もう遅いのだ! 生存競争は始まってしまったのだよ! はははっははっははっはははっ! 」

 …小川。貴様の言う通りに為りそうだ。インカにアステカ。今なら鈍い俺でも解る。戦闘で戦い、生存競争を
勝ちぬくならば、こうまで寝覚めは悪く有るまい。日本のために『戦って死ぬ』ならまだ俺達は浮かばれよう。
 俺はゆっくりと、小銃の引金を、目の前の2尉に銃口を向けて絞って行く。コイツが、この腐れた絵図を描いた。
それを内閣総理大臣はどんな顔で聞いたのだろうか? 隠し切れない軽蔑を顔全体に浮かべながら、俺は
逆鉤の落ちる固い音と、5.56oの軽すぎる連続発射音を聞いた。…今死ねるだけでも感謝しろ、糞野郎!
 なあ、誰か、教えてくれ。生存競争に勝てたとしても、誰が何のために生き残るのか…? 

 「感染するのは弱者なのを何故解らんのだ…女や子供…老人が真っ先に犠牲に為る…。貴様等の大好きな、
 『純血の日本人』が生まれぬ引金を引いたに等しい結果を、何故、何故解らなかった! 馬鹿ヤロウ…! 」

 残された時間は、無い。俺は報告を済ませると、紙資料を総てデジタルカメラで記録し、メモリーカード数十枚と
ともに脱出を試みる。さあ、来たぞ?同族殺しの始まりだ! …相手は…嘗ての『仲間』だが…。

580 名前:小官 ◆qG4oodN0QY :04/12/19 19:07:24 ID:???
>>572

 「な、なんて殺し方だ…同じ日本人なのに! 」

 殺す相手をまだ『ヒト』だと思っているのか? 俺にしてみれば『敵』は息をする動物以下に過ぎん。
両目に親指突っ込んで脳まで損傷させなければ無力化出来ない。それが真実だ。日本人も糞も無い。
体中の筋肉を痙攣させてのたうちまわるそいつの眼窩から、血が止め処無く、溢れ出ていた。

 「…敵を人間だと思ってる、貴様等が甘いだけさ」

 『穴』に篭って見ると良いのだ! この腐れ馬鹿どもも! 『奴等:半魚人』と血みどろの戦いを行えば良い。
タコの化け物に精神をいじくられそうになる恐怖を感じると良いのだ。そして狂わされた先程までの『仲間』相手に
弾薬、食料、資材の奪い合いを演じてみるが良い。…きっと人間への深い絶望を抱いて一生を贈るハメに…

 「おまえだって、陸上自衛官だろうが! 」
 「そうだが、俺は俺なのさ。…貴様等みたいに心から『犬』には為れん。卑小な者にはなれんのさ」
 「何様の…! 」

 五月蠅い。俺は力一杯首を踏みつけてやる。…予想外に軽く高い音が響いた。首の骨は、結構丈夫なのだが、な?
残り2人は小銃を握ったまま、撃とうともしない。オイオイ…銃口が震えてるぞ? 殺る気があるのか? ンゥ? …ふう。

 「さあ、撃てよ? どうした? 貴様等なんぞのCQBでは、俺を停められんぞ? 貴重なデータは灰同然で、
 俺の所持しているメモカだけが総て! 欲しけりゃ俺を殺して奪うしか無いんだよなぁ…キミ達ぃ? さあ、さあ、さあ! 」

スネーク、スネーク! 応答しろ、スネーク!



754 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 2006/07/18(火) 03:54:05 ID:???

>>532

 「さてと相棒、落ち着いたな? 」
 「…まだ…もう少し…そなたを…」

 小川はサイアの背を軽く叩き、離れようとしたが、サイアの中の別人がまた
抱き寄せ、小川の胸に頬擦りをし、鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ素振りを見せた。 

 「らしくもない可愛い事を言いなさんなよ相棒、っと」
 「あ…」

 小川は公子に含羞の笑みを見せた。サイアの顔をした別人は公子の存在に
やっと気付いたらしく、首まで真っ赤に為って照れていた。思わず公子は何故か、
そこはかとない罪悪感に囚われてしまう。

 「事情を説明するとだ。俺はこのお嬢ちゃん、坊ちゃんの臣下のサイアちゃんの
  中の別人…極東方面監察官の戦乙女の手駒になっちまった人間だ。道具だわな」
 「好きでそうした訳では無い! そなたが死にそうだったから仕方無く…! 」
 
 慌てて口を挟むサイアに、小川は優しく微笑む。全部解っているんだよ、と小川の
眼が語っていた。さらにサイアの頬の紅潮が激しくなった。

755 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 2006/07/18(火) 03:57:14 ID:???

 公子はふと、小川に呟く。
 
 「弧の臣、サイアは今…? 」
 「ああ、居る。俺の相棒と今、俺についての記憶と感覚を共有してる頃だろうな。
  お互いこっ恥(ぱ)ずかしい事(こ)って…なあ、相棒? 」

 右片方の眉を上げ、悪戯っぽく小川はサイアに笑ってみせる。するとサイアは小川の
頬に平手打ちをかまそうと手を振り上げた。小川は即座に銃剣を鞘に突っ込み、空に
なった手でサイアの腕を掴み、引き寄せる。サイアの喉元に大刀の物打ちが突き付け
られた。サイアの大きな眼から、綺麗な雫が次々と生まれ出る。

 「…どうやら俺の相棒は引っ込んだらしいな? わりいわりい、イジメ過ぎたか? 」
 「貴方は…優しいけれど…! 」
 「なんだい嬢ちゃん? そいつは俺も解ってるんだ」 
 「…とても…残酷な人です! 」

 小川の顔が酢を飲んだが如く歪む。絶えず浮かべていた唇の端のニヤニヤ笑いが消えた。
逆に公子の顔が綻ぶ。サイア、と呼びかけようとして、息を呑んだ。サイアが怒っていたからだ。

756 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 2006/07/18(火) 04:16:59 ID:???

 「貴方が死んだ理由は、あの人が…他の女性の中に封印されたのを知っていて…
  その女性にわざと殺された事! あの人は貴方を殺す瞬間までその女性と感覚を
  共有していたのに! そしてもっと酷いのは…! 」
 「その続きは止めな? 嬢ちゃんよ? 今、自分がどう言う状況か解ってるのか? 」

 途端に張り詰める周囲の空気に、公子は息を呑んだ。物理的に感じられる程の殺気を
浴びたのだ。公子はただ、先程の暴漢達がこれを浴びずに死んだ事を幸せに思えた。 

 「その女性が、貴方とあの人の関係に嫉妬していて、貴方を渡したく無いから殺すのだと
  言う事を知っていて、ワザとその女性の嫉妬を煽るように振る舞って居た事よ! 」
 
 小川はモノも言わずに大刀を持つ手を下げた。サイアの首に一筋の紅の線が走った。

 「…私に最初に訴えかけた『剣』…! それが…その女性よ! 貴方が散々無視して来た、
 その女性も、あの人の中に居る! 貴方は知らなかったでしょう、それは! 」
 「あの馬鹿…どうしてそんな事を…」
 「…貴方に人間らしい感情を、取り戻して欲しかったからよ…。ただ…それだけ…?」

 小川はサイアを解放し、公子に押しやった。殺気が緩む。小川の苦笑が、痛々しく見えた。

 「坊ちゃんの臣下をキズモノにしちまって済まねえな? 次はそっちの事情を聞く番だ」
 

846 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 2006/07/22(土) 12:53:05 ID:???

>>756

 「ん? どうした少年? 」

 公子の顔が引き攣ったのを小川は目聡く見咎めた。追い詰められた状況でも
恐怖に慄く事が無かった少年が、こうも過剰な反応を示すなど、余程の物を
見たに違い無い。隣のサイアも硬直し、歯の根が合わぬ程恐怖に震えている。
ご丁寧に両者とも顔から血の気が引いているのがご愛嬌だ。

 「やはり劣等人種に任せるからだ。このアガルタの住人は、ヴリルを持つ
  原アーリア種以外、ただの類人猿以下に違い無いだろうな、諸君」
 「アンタはそれさえ無ければ理想的な指揮官なんですがね? これは失礼を」
 「我々の発見したアガルタは通路であり、ここは別世界だと思いますがね。
  何せ空は蒼いし空気は美味い。こんな空を飛びたいモンだなぁ」
 「エェデルヴァイス、エェデルヴァァイス! エコーすら綺麗ですなぁ」
 「二人の傍に居るのはどうやら東洋人の様です。エリッヒの着ているものと
 迷彩パターンは似ている様ですが、別物です。先発隊の現地徴用兵の…」
 「…今は親衛隊上級中隊指揮官殿だ、…導師」

 公子達の視線の先を見ようと振り向いた小川は、公子達とは別の意味で絶句した。

 「何ダァ、ありゃあ…」

847 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 2006/07/22(土) 13:04:02 ID:???

 一体何の冗談だ、と自分の眼が信じられなくなった。一体誰の趣味だ? そろって
金髪碧眼でWW2のグロスナチライヒ軍コスチュームだ。一人はSS迷彩、一人は降下
猟兵のスモック、一人は空軍士官服、一人は陸軍戦闘服、一人は女で、なんと一般
SS制服を着用だ。SS迷彩を着た奴が、自信満々でのたまう。

 「我等総統特務隊の手から逃れられんよ、公子」
 「総統特別懲罰任務部隊の間違いじゃないですかネェ、中尉」
 「曹長、皮肉は結構だ。階級は以後、間違えるなよ? …公子を捕獲せよ」

 小川は物も言わず集団に89式小銃をぶっ放す。その音で2人は我に帰る。錆が
浮いて居た筈の小銃が、何故か輝きを取り戻していた。小川は片眉を上げる。

 「中々面白そうな追っ手だな? 話はあとだ。走れ! 」
 「各自散開! ミヒャエルは導師とともに公子の捕獲を継続せよ!」
 「了解、指揮官殿、さ、行きましょうや指揮官殿の愛人」

 公子はサイアの手を取り走ろうとするが、サイアは振りほどく。そして、小川の89式
小銃があった場所へと駆け寄り、剣を取り、握った。剣が輝き、人影が生まれる。
やや細身の長髪の女の影身だった。だが、耳が…長い。古代種に分類される人間だ。

 「あ奴を頼むぞ…悔しくて言えた義理では無いがな」
 「…今行くぞ、憲人」

 革鎧を着た女は嬉しげに目を細めると、疾風の如く小川の元へ駆けて行った。


782 名前:小官 ◆qG4oodN0QY :04/06/14 03:31 ID:???

 「敵の衣装を着れば強くなると思ったか?! 愚の骨頂の最たるモノだ! 死ね! 」

 俺は破れた迷彩服を着た男の頭を床尾板で叩き潰した。死体から剥ぎ取った服を
着れば、その能力を得られると信じての行為かつ更衣だったのだが、生憎、技術も
根性も信念も持たぬ、この世界の糞農民にはなんら加護をもたらさなかった。

 「戦国時代のメンタリティで生きるしか無いのさ…俺達は、正しい。他は悪人だ」

 先任陸曹が、吸っていた『マイセン』を『死体の山』に投げた。その瞬間、派手に
燃え上がる。一体一体、荼毘に付す暇など無かった。…疫病の根絶が最優先だった。
 それは性病。一旦罹患すれば、猛烈な勢いで拡がる。衛生概念など皆無の土民には
哀しいが、娯楽は子作りかその後ろを使った類似の行為しか無い。防ぐ手段は…。

 「哀しいな…。守りたかったろうにな…? コイツも…テメェの大切なモノを…」
 「…家族や友人、隣近所も一緒に送ってやった。俺達に出来る、せめてもの手向けだ」

 まだ、集落は残っている。人でなしとでも罵るが良い。敢えてその『汚名』を甘受しよう。
俺達は命令と己の信念に従い、任務を完遂するまでだ。 明日を生きる者の、世界の為に。

783 名前:小官 ◆qG4oodN0QY :04/06/14 04:02 ID:???

 「…これをどう見たら、自衛隊員です、と看做せるんだ? 娑婆の奴等の目は…」
 「止めとけ。『部隊の精強さ』なんて語っても、一言半句すら聞かんだろうからな? 」

 巡察中にとっ捕まえた迷彩服とプラッパチを被った甘ったれた顔をした若者の弛緩した唇に、
俺は勿体無いが、磨き上げた半長靴の爪先をご馳走してやった。妙に白いエナメル質の固形物と
トマトケチャップ染みた液体を盛大に吐いてくれた。全く…農民の子は躾が為っちゃあ居ない。
食い物が有るからそんな勿体無い真似が出来るのだ。食い物は粗末にしてはイカンのだ!

 「あーあ、どーすんだよ? 前歯圧し折って? 後で怒鳴り込まれるぜ? サバゲしてた
  だけだ、とかまた誤魔化されたら、コトだぞ? って…まあ、バカだからここが安全な
  地域だと思って、こんな格好で現地人脅すのか…。!! おい、まさかお前…本気で…」
 「ゲリコマ発見、さ。こんなのが類似品扱いされるのは、本家の名折れだ! 死に値す! 」

 名誉は何よりも重い。今日明日にも自分が死ぬかも知れない。少なくとも、身の潔白は証明
したい。こんな糞野郎と一緒くたに罵られては、自分を育ててくれた先輩方にあの世で顔向けが
出来なくなる。名誉こそは我が命。白痴や低脳とは、人間の基礎部分、素質自体が違うのだ。

荒らしている奴にこの2作を叩き付ける

支援貼り
219 名前:小官 ◆qG4oodN0QY :04/06/18 04:13 ID:???

 「夢を…見たいのですよ」

 食料、水、酒、毛布、鉄…。物資の山を背にした男は、俺達『陸自の荒くれ』に静かに笑って見せた。
運送の、匠合組織の長であるその男は、『帝国』、いや俺達、『陸自』への全面的支援を決めたと言う。

 「貴方達は…美しいからです」

 ムクツケき男達の、垢染みて、髭も髪も伸び放題、ディーゼルエンジンの煤煙で真っ黒の俺達のどこが、
と云う眼が男を貫く。その時俺には何故か…男の笑顔がとても『綺麗』に見えた。『含羞』とでも言えば良いの
だろうか? はにかんだ笑顔が…憎めなかったのだ。俺達の催促する視線を感じたのか、男は続けた。

 「今だ嘗て…我々輸送業に従事する一族を…『人間』として見てくれた軍は無かった…!
  損害が出ても…それは運んできた私達の勝手だと面と向かって言い放たれたものです…」

 そうだ。俺達は知っている。『補給』の有り難さと、『物資』が涌いて出るモノでは無い事を。この世界の
『指揮者』はそれを未だ『軽視』する輩が多い。先ずはその認識こそを俺達は感謝すべきだった。御蔭で…

 「貴方達は違った! 叱責を覚悟で前に出た私達を賞賛し、手すら握って感謝して、遠路はるばる済まな
 かった、と何と治療まで…! 一度ならずも毎回、他の部隊へ行っても…貴方達は…! 優しかった! 」

 差別。優しさ。日本にも差別は有る。だが、俺達はそれを憎む教育をされて来た。常に『悪』を憎む民族の
美意識が、この世界に残る差別を…憎んだのだ。命を張って呉れる者には同じ様に、命を張って応えねば、
『自衛官』の恥だ。その潔さこそが、俺達の総てであり、行動理念なのだ。…まあ、憲法の範囲内なのは、
ご愛嬌と言えば、ご愛嬌だが。だが、これは国家の『自衛』の戦闘だ。俺達の独自色が、出せる。

 「信頼には信頼を、我等を守って流してくれた血には血を以て応えたい! 『帝国』に、いや、貴方達に
 大陸全土のこの私を含めた、総ての仲間が応えましょう! 今、この時を以て! 」

 俺達は誰に命じられたでも無く、テッパチを脱いで『10°の敬礼』を男に行った。信頼は、何よりも重いのだ。

133 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY [sage] 投稿日: 2005/07/14(木) 20:03:24 ID:???

 「屈強な女戦士…ねえ…その割りにゃあ、筋肉の発達がなぁ」
 「…何だぁあの格好…肌の露出が多過ぎだぞ? 水着の方がマシだな」
 「おーい、ウルシの木でも擦り付けてやれや若い衆! かぶれるぞ〜」

 偵察中隊に配属された、冒険者ギルド派遣の女戦士は、斑模様の服の
男達に文字通り『視姦』されていた。この世界に来てからと云うもの自衛官は
『品行方正に振る舞う事』を防衛庁の通達により、強制されていた。しかし…
根が『カネ・オンナ・サケ・バクチ』大好きな大多数の男性自衛官は我慢の
限界に来ていたのだ。…彼らの性衝動を止めるには、新聞に載るぞ、と云う
強烈な一言が必要だった。だが、ここにはマスコミ関係者は居ない!

 「や、止めろ、さ、さわるなぁ! 」
 「はぁ? 嫌よ嫌よも好きの内、とくらぁな! 剥いちまえテメェら! 」
 「おお、柔らけぇ、女の手だねぇ」
 
 男子隊員数名の手で、女戦士の申し訳程度の鎧が、引ん剥かれて行った。

 「おい、準備出来てるかぁ! 若い衆! 」
 「ハイ! 小池一曹! 」

 背後を振り向いた年嵩の男は、ニンマリと笑った。そこに見えるは、自衛隊が
誇る野外浴場だった。小銃を構えた女性隊員の士長が、裸の女達を案内している。
…DDTをぶっ掛けて害虫駆除する、と言う訳には行かない時代の、苦肉の策だ。

 「…ま、役得って奴さね。衛生観念身に付けて貰うためにも、必要な処置なのよ。
  ほーらネェちゃん、サッパリしてこいや! 若い衆! 次行くぞ次! 」

 小池一曹率いる偵察分隊、通称『風呂入れ隊』は今日も大活躍の予定だ。


259 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY [sage] 投稿日: 05/01/07 16:22:15 ID:???
「暴走…? 違う…。 これは…魂の…咆哮…? 『死なせない…?』 何故…? 貴方は戦うために…生まれてきたのに…? 」

 何処か夢見るが如く、焦点の合わぬ瞳が74式戦車を見詰めている。乗員の意思に反して、爆走し、後退し続ける戦車。
74式は土煙を巻き上げ、縦横無尽に着弾する『魔導弾』を回避して行く。履帯の耐久限界を試す様な、その機動の原動力は…?
 どうやらあの『機械』は『命』を持ったらしい。『魔導』の遣い手は首を傾げながらも、魔導を放つその手を弛めなかった。

 「停まれ74(ナナシ)! 俺達は行くんだ! 仲間を見捨てて…逃げられるか! 」
 「74ぃ! 馬鹿! 誰が逃げてくれって頼んだよォ! これじゃあ狙えネェだろうが! 」
 「云う事聞けよ! おい! 停まれって! なあ! お前を動かしてるのは俺だぞ! 」
 「糞ッ! 装填出来ません! 74! 停まれよぉ…これじゃあ…あんまりだよっ…」

 乗員達が涙ながらに叫ぶも、停まらない。操縦手の意思に反し、戦車は後退し続ける。乗員の4名は舌を噛みそうに為りつつも、
5人目の仲間、『74式』にそれぞれ、訴え続けていた。戦いたいのに、乗員の意に反して『ただ逃げ続けるだけ』の戦車に向かって。
 皆、死んで逝った。生きながら焼かれて逝った者、凍り付いた者、感電した者…しかし、彼らは『戦って死んで逝った』のだ。

 『生きてこそ、次に生かせるんだよ、若僧ども! 死に急ぐな! お前等を、この俺が死なせはせん! 』

 乗員はそれぞれ、確かに聞いた。低い濁声だが、厳しい中にも優しさを感じさせる、『男』の声を。『魔導』の遣い手の紅唇が綻ぶ。
三日月形の、『嘲笑』の形へと。追う者と追われる者。穢れ無き少女と、戦闘経験無き『鋼鉄の軍馬』。戦車の乗員は…誰も知らない。
 彼らが戦車に『74(ななし)』と名付ける以前から、戦車が『意志』を持っていた事を。幾多の若者達が、彼の中を通り過ぎて逝った事を…。

260 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY [sage] 投稿日: 05/01/07 16:29:30 ID:???

 『若僧! よく聞け! 貴様等は死の意味を履き違えている! 美しい死など無いッ! 有るのは無だ! 無のみ! 
  貴様等はこの俺とは違い、何かを産み出す事が出来る! 破壊以外の何かをッ! だから…生きろ! 何かを…』

 超信地旋回。74は、それぞれの履帯を逆方向へ機動させ、その場で急停止かつ急旋回する。魔導弾が砲身を掠め、
大地に着弾する。未だ砲身は無傷だ。塗装も剥げ、装甲も細かい傷だらけだ。数々の『お色直し』を経た『お肌』の歴史が
よく解る。…女がまた笑った。花の咲くが如くに。女好き揃いの乗員達がそれを見る事が出来ぬのは不幸だった。

 『無駄な事をだと? 無駄では無いさ! 俺が斃れようとも、こいつ等はきっと戦う! こいつ等さえ無事なら、次が有る!
 そいつがお前らとの大きな違いさ! お前らや俺は使い捨てかも知れん! だが、こいつ等は…己の意志で戦うんだ!
 俺やお前らの様に戦う事を義務付けられた存在では無い! だから…人間は素晴しいッ! だから俺はこいつ等を守る!』

 女の柳眉が逆立った。人間では無い者と、人間に為りたかった兵器。…当の人間達を置き去りにしたまま、戦闘は続く。
戦車達の機動性能、不整地走行能力が幾ら高いと行っても、NOE、ナップ・オン・ジ・アース、地表から数メートルの高さを
保持して飛び回る魔導生物・魔導の使い手の機動力には及びも附かない。いまや戦車大隊は壊滅状態に達していた。
そんな中、一機、いや、ただ一騎、気を吐き続ける戦車がこの『ナナシ』だった。

 『俺は生きる! 生きて、こいつ等を送り届ける! 明日の為に! 戦い続けるために! それが俺の存在理由! 』


名前: 小官 ◆qG4oodN0QY [sage] 投稿日: 2005/07/30(土) 12:50:48 ID:???
            最後の竜騎士に捧げる砲声(うた)

 「えげつ無い事するもんだねえ、上の方もなぁ…」

 大平原で、陸上自衛隊、第一高射大隊本部管理中隊のレーダー班員は
左右に振れるデカいアンテナ部を見ながら慨嘆した。索敵のためでは無い。
電磁波発振源としての、火砲と並ぶ『攻撃兵器』としての運用だった。 

 「それに従う俺達も相当なモンだがね」

 年嵩の班員が応えた。自衛隊歴は長そうだ。何せテッパチの顎紐を外しっ
放しでも、周りの隊員は文句一つ言わない。尉官は口をモゴモゴさせている
のだが、彼の睨み一つで黙ってしまう。彼の機嫌を損なえば、レーダー班は
尉官の命令には何一つ反応しなくなってしまうのだ。

 「命令には絶対服従が、俺達自衛隊員だろうが? 」

 その彼に気安くこうも話しかけられるのは、『同期入隊』と云う絆を持つ者だけ
に限られる、この男だけだった。…ある意味、自衛官らしいとも言える、何故か
浮世離れした、詩人の様な感性を持つ人間だった。だからこの『異世界』にも、
理解を示す事が出来る。

 「それは、ただの逃げだよ。…根源的な良心からのな…」


673 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY [sage] 投稿日: 2005/07/30(土) 13:42:10 ID:???
 まだ若いレーダー班員が、コンテナ状の機材モニター室より慌てて転がり出てくる。

 「敵襲! 目標は大型! ドラゴンライダー! …一騎のみ! 3中陣地に三秒で来ます! 」
 
 年嵩の男は舌打ちをした。班員が弛んでいる証拠だと思ったのだ。大方居眠りでもしていたのか、
と、その顰められた眉の間が雄弁に語っていた。舌打ちが漏れるのを、隣に居た男は聞いた。

 「仕方無いさ。相手はNOE(ナップ・オン・ジ・アース:低空飛行)を5pでやれる奴等だ。しかし…」

 何故、姿を表わしたのだ? 男はいぶかしげに思った。これまでの彼らの経験則から、竜騎士は
索敵にしか運用されなくなって来た筈だった。明らかにこの速度は…竜のブレスを意図した速度だった。
 二輪車の爆音が響く。伝令だ。レコンだけの装備だったが、この世界の広大さから、中隊に2台は常備
となったシロモノだった。オフロード用の市販品をOD色に塗り、寝かせた時に脚を挟まないだけの部品を
取り付けた程度の改造しかして居ない。どうせ飛んでくるのは弓矢か魔導弾だ。

 「伝令! 小隊長に…あ、意味無いな…小隊陸曹に伝令! 」
 「ああ、俺だ。どうした小林、何か有ったか? 」
 
 年嵩の男が応えると同時に、第3中隊の陣地の方角から砲声が響く。砲撃は禁止されている筈だった。

739 名前: 名無し三等兵 2006/10/01(日) 22:10:33 ID:???

 「第三中隊長より伝令! 敵名乗りを聞く! 内容は我最後の竜騎士アン・ ヴァイオラと竜ベルガ! 
 貴隊に最後の戦闘を望む! 戦える竜騎士は最早我等一組のみと! 我が隊は応戦す! 以上! 」

 続いて第一中隊の近SAMが、第二中隊の短SAMが次々と発射されて行く。近SAMは兎も角、短SAMは
命中する確率などドラゴンブレス後では妖しいものだった。それでも、発射した彼ら、No中隊の心境が、
感受性の強すぎる彼には、痛いほど理解出来た。

 「戦士には戦士の遣り方が有る、か…。古い浪漫だと哂われようとも…俺達は…戦士なんだよな…? 」 

 巨大な竜が、レーダー班の展開する陣地をフライパスして行く。満身創痍の竜の目が、満足げに笑っている
かの様に、男には一瞬、見えた。男は肩から下げていた64式小銃を降ろし、立射で居銃し、発砲した。
年嵩の男も、伝令隊員も、小銃を手に取り、発砲を開始した。モニター室より出てきた他のレーダー班員も、
置かれていた銃を手に取り、それに倣う。
 
 「なんで撃つんだ?! 命令を無視するツモリか! 」 
 
 レーダー小隊長が怒鳴るが、居並ぶ人間からは無情にも無視される。それでも喚く小隊長の水月を、年嵩の
男が鉄製の銃尾板で容赦無く突く。小隊長の呼吸が止まり、その場で蹲る。男がその前に立ち、静かに言った。

 「命令じゃ無い。これは歌さ。最後の竜騎士に捧げる……砲声(うた)だ」

 ドラゴンライダーが、力の限りに剣を持った手を振るっていた。 戦えた喜びを示すかのように。      end



615 名前:小官 ◆qG4oodN0QY :04/03/21 14:42 ID:???

 「どうしようも無い奴は何処にでも居るな? ええと、今日、里木士長は
  民間人に対し、不適切極まりないストーカー行為並びに猥褻行為を敢行、
  現地人により撲殺、と。報告はこんなモノで良いな? 小川三曹? 」
 「はっ、その様にお願いします。…自衛官の恥さらしが! 俺が殺す! 」
 「そ、そんなぁ…俺はただ、あの娘の着てるコスにハァハァしたのが…」

 小川の半長靴が里木の頬骨にめり込んだ。汚い物を蹴った、と言わんばかりに
小川は靴底を床に擦り付ける。里木の輪郭は、既に奇妙な形に変形していた。

 「貴様の御蔭で、俺達の皆が変態扱いを受ける! 貴様とは一緒にされたくは
  無い! その臭い口を閉じろ、元デ●ヲ○ヒ○キーが! 性倒錯者め! 」

 これで私的制裁による死者は二桁台に突入だ。…団塊ジュニア世代のこの世界に
置ける性犯罪率は…はっきり言って高い。本国もそろそろ…『踏み絵』を実行する
段階に来たのかも知れぬ。現地部隊では処理がし切れぬほど、事態は切迫していた。 



616 名前:小官 ◆qG4oodN0QY :04/03/21 15:04 ID:???

 「我々は臣民の友であります! 見て下さい、臣民に迷惑を掛けた者は
  この通り! 同胞で有ろうが我々は決して容赦は致しません! 」

 里木は徹底的に有効活用された。貼り付けで晒し者だ。…奴に暴行された下働きの
少女が、真っ先に敷石を剥がし、投げ付ける。奴の腹にヒットした後、87式の装甲に
当たり鈍い音を立てた。87式偵察警戒車の砲塔後部に貼り付け柱を固定し、ゆっくり
旋回させて晒しているのだ。罪人の姿が、臣民に良く見える様にとの配慮だ。

 「里木が何分でくたばるか、賭けないか? 俺は30分だ! 」

 鈍い音が車内に響く中、俺は皆に言った。不謹慎な? 歓声が次々に車内に上がる。

 「班長、あのデ○の体力じゃあ、精々20分って所ですね」

 まあ、娯楽の少ない帝都臣民には、格好の娯楽で有る事は間違い無いだろう。正に、
一石二鳥の策だ。良かったな? 里木? 最後に皆の役に立って。俺は改心の笑みを
頬に浮かべた。木の折れる音がした。くぐもった里木の悲鳴が聞こえ、途中で切れた。 

648 名前:小官 ◆qG4oodN0QY :04/03/21 22:41 ID:???

 「これで…全部です…里木の遺品は…」
 「総て燃やせ。…両親がこれを見たら…泣いて悶死するぞ…」
 「そうですよね…。解りました。燃やします、小川三曹」
 「…俺も立ち会うからな。絶対に、隠匿するなよ? 灰に為るまで、燃やすんだ」
 「…了解しました…環境に良く有りませんけれど…」
 「貴様も仲間か? 営内点検するぞ? 」

 俺は里木の遺品を手に取った。里木をあんな風にしたこの…このグッズが…!
俺はそれを床に叩き付けた。以前奴が『レア物、届きましたよ班長! 』と見せ
に来た物だった。奴は…此処に来てから変わったのだ。昔は、いい奴だった。
 体力練成も欠かさず、ひたすら模範的な隊員の道をひた走っていた。変わった
切っ掛けが…外部のジャーナリストが持ち込んだ、新聞だった。それからの奴は
正に引き篭もりと化した。外出枠を持って居ながら外出もせず、営内に篭もり、
DVDのチェックにグッズの通販。そして…見る影も無く太り…自己中心の視野狭窄
に陥って行き…班員を見下す様になり…終には孤立化し、部隊のお荷物になった。

 「こんな物があるから! 奴が! 里木がっ! この…魂を腐らせる呪物ども
  め! 男の、国防に燃える男の魂を…こんなもの風情がっ…奪ったっ! 」

 …何が奴をそうさせた!? 俺は子供の一人でも楽に入れそうな段ボール箱一杯に
積まれたグッズを蹴り飛ばした。本が、人形が、DVDケースが…廊下にばら撒かれた。 END

面白かった? じゃあねぇ〜!



375 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 2006/10/22(日) 05:37:45 ID:???

 「目標、正面の的、か…」

 擬装は完璧だ。植生も考慮して迷彩服に付けてある。葉の裏表も考慮し、萎れれば随時交換している。
周囲は広葉樹林、色づく葉ばかりで、針葉樹は少ない。夏の終わりを迎える季節だが、此処は日本では
無い。だが、勝手知ったる森の中で、演習と同じだ。もう毒草・病害虫リストも作成済みで、頭の中に叩き
込んである。記憶力と応用力が無ければ、戦闘部隊では曹や士でやっては行けない。

 「道具に頼らず、自分を信じろ…」

 スコープやピノキュラーが有れば、楽だ。だが、反射光で位置が露見する場合も有るし、頼り過ぎれば
損壊し、使用不能に為った場合が怖い。物資の補給に敏感な米軍ならまだしも、旧軍からの日本の伝統は
まだ生きている。足りぬ足りぬは工夫が足りぬ、だ。能力を磨け。代用可能ならそれで済ませ。防衛予算で
一番なのは兵器では無い。人件費なのだ。

 「だから風邪を引くな、体を大事にしろ、と言われてもね…」

 耳の長い、容姿端麗な女の顔がぼやける。照門の丸い穴を通し、照星に顔を合わせたのだ。緑の長い髪が
眩しい。自分が64式小銃の引金を引く事で、顔は柘榴の様に弾けるだろう。残酷だとは思わない。今の自分の
境遇からすれば。最後にコーラを飲んだのは…もう3ヶ月も前だ。狙う標的はエルフ族の女族長だった。森を
知悉した彼等に対抗するには、彼等同然の生活をし、文明の匂いを消さねば即座に嗅ぎ付けられるだろう。

376 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 2006/10/22(日) 05:48:28 ID:???

 
 「後に続く部隊の為に、か…。皆、俺を生かすために…奴らに…」

 師団で一番の射手で、射撃徽章を持つ。それだけで今回、狙撃を命令された。自分を森に潜入させるために、
自分の中隊は…敢えて奴らの魔法で『全滅』させられる道を選ばされた。統合運用計画の完遂。ただ、それだけの
為だけに! 理不尽極まり無いが、『負けて見せて油断を誘う』事も敢えて必要な時も有る。理性では判る。だが、
感情では判りたくは無い事も現実には確実に存在する。それが、こんな異種族が跋扈する世界でも、だ。

 『お前が命令を遂行し、完了した時…初めて俺達は報われるんだ、生きろ! 行け! 』

 そう言って魔導が生み出した雷撃に撃たれ、彼の目の前で感電死した一期上の曹候補士の士長の最後の言葉が
頭に響く。男であれば、やらねばならぬ。一将功成りて、万骨枯る。その一将が、今は自分なのだ。引金の遊びが
キリキリと絞られ、殺されて行く。何百何千と、同じ小銃で繰り返した行為だ。後ほんの少し、髪の毛で触れた程度で
撃鉄が落ちる。そのレベルで、人差し指を保持する。訓練は偉大だ。

 「この一発は中隊の皆の為に! 死ねよやぁ! 」

 女が300m離れたこちらを向いて指差した時、彼は撃鉄が落ちる音を聞いた。しっかりと女の顔が爆ぜる光景を確認
しつつ。撃った後の弾の見送りが命中率の向上には不可欠なのだ。さあ、後は逃げるのみだ。中隊最後の生き残りと
して。また、確かに中隊が存在した証として、報告せねばならぬのだ。中隊に付与された命令は完遂された、と。

 「命の価値は同じだ! 誰もが持っている! 問題はどう使い、何を為したか、だ! 」

 彼の背後で魔導の力を帯びた弓が地面に刺さる音が連続して聴こえた。まだ動くべきでは無い、と彼は伏撃ちの姿勢
のままで思う。これは標定射なのだ。音さえ出さなければ奴らに露見しない。…次なる柘榴を生み出すべく、彼は引金を絞る。 

                                  END


111 :小官 ◆qG4oodN0QY :2006/11/11(土) 23:46:57 ID:???

 「当時刻、払暁、0400より我が臨時編成戦闘団は勇者の支援を開始する。 今井! 前へ! 」

 安室二尉が叱咤に近い声を掛けた。ハイ! と大声を上げ一歩前へ出る。民間人ながらノリが良い
この男に安室は、全てを賭ける気に為っていた。コイツとハイジ、勇者アーデルハイドだけは殺しては
ならん、と。例え自分達が全滅の憂き目に遭っても、志を継ぐ者として生き延びさせねばならぬ、と。

 「君は、自動2輪車、即ちレコンのバイクを運転し、アーデルハイド嬢を乗せて敵前線を突破せよ」
 「…死んで来いと言う事ですか? 」
 「ま〜た寝言言ってやがるな、こいつは! 最後まで聞けよ! このポンコツは」

 菅原一曹が今井の背中をどやしつけた。整列した自衛官諸官が笑う。民間人には暴力は御法度だ。
しかし今井はこの男達の集団の中で完璧に「身内」として扱われていた。共に死線を潜り抜けた「仲間」
として。命をマトにして戦い抜いた「同志」として。この最後の『魔王』との戦いに措いても、変わらなかった。

 「敵、魔王軍は雑魚モンスターの大群を小官の部隊にぶつけて来る。小官以下自衛官諸官は、車両全て
 を駆使し、機動防御を以ってそれに対抗する。しかし、敵は大群。弾薬は持たんだろう。我々が食い止めて
 いる間に魔王城縦深に突入せよ。城門を先に特科砲撃でぶち壊したのはそれが狙いだ。理解したか?」
 「…此処まで来て、仲間外れとは! 」
 「小官以下自衛官の受領した命令は防衛だ。攻撃は命令の範囲外である君にしか出来ん。…済まんな」

 今井とアーデルハイドを交互に見遣り、安室はニッコリと笑う。いいペアじゃ無いか、お似合いだ、と心の底から
思う。部下達も口々にやっかみ半分で叫んでいる。ハイジちゃん独り占めかよ、とか、タンデムで胸の感触愉しめ、
等だ。アーデルハイドは胸鎧を着けているのにも関わらず。ムクツケキ男達の中に咲いた一輪の華を預けるのだ。
それくらいの罵声だけで済んでいるのは幸運だった。菅原一曹は言う。「この幸せモンが! 」また、どやしつける。




121 小官 ◆qG4oodN0QY sage 2007/02/17(土) 23:02:06 ID:???

 「天使か…確かに羽は生えてて俺達がイメージする天使だがな…」

 有翼人。そんな翼で空を飛べるものかよ、と呆れ顔で眺めていた俺達陸自の人間は
此処が異世界である事を骨の髄まで思い知った。…相手が物理法則の外に有る事を。

 「せめて脳味噌がトリ並みだったら救いようが有ったんだが…な」

 筋力もそれ相応にあり、脳味噌まで有れば天下無敵の生物だ。何せ『飛ぶ』と言う
行動は、俺達、普通の人間が思うよりも、もっとエナジーを消費する行為なのだ。
背筋力は翼を動かす分も含めて常人の10、いや、100倍は算状しておかねばならん。
 現にテッパチごと鈍器で頭を潰された奴を俺達は嫌と言う程見ているのだから。

 「武勇に優れているから密集行動を取らんのが難点でもあり、付け入る隙でもある」

 集団行動を取らんから砲撃で纏めてぶち殺す事が出来んが、班単位で対抗可能な
レベルであるとも言える。…ゲリラ戦に投入してきたこの世界の、『王国』とやらの軍師に
手を叩いてやりたい気分にもなる。その後各種砲弾やミサイルや銃弾の贈り物をゴマンと
くれてやるつもりだが、な。

122 小官 ◆qG4oodN0QY sage 2007/02/17(土) 23:14:07 ID:???

 「山田2曹、大変です! ゆ、有翼人です! 一人です! 」
 「64式の十字砲火の的にしてやれ。言って有るだろうが? 」
 
 血相変えてやって来た陸士に、俺は面倒臭そうに答えた。弾薬の消費が凄い事だが、
人的被害を考慮に入れれば、お釣りが来てもいい位にばら撒いても何ら惜しくは無い。
即刻退治が最優先事項であり、命令だからだ。従わない者は居ない筈…だった。

 「若い女なんですよ! まるで天使みたいで…その…」
 「また『萌え〜』とか言ってるか? 若い奴らが? 卒業させたと聞いたぞ? 」
 「和平とか言ってるんです! 種族代表だとか言って! 」
 「情報を小出しにするな馬鹿! いつまで娑婆を引き摺ってるつもりだ!」

 俺は無言で報告者の士長のテッパチをぶん殴った。結論から先に言うのが此処の、
自衛隊の常識だ。前書きを垂れてるうちに攻撃されて、死んでいては元も子も無い。

 「ここの戦士長は貴方ですか? 」

 さらには案内までしてやってる間抜けさに、俺は溜息を吐いた。凝りに凝った擬装も
コレでは台無しだ。上空からは露見しないよう、演習で工夫に工夫を重ねた陣地も…
追跡されているのに気付かず帰還して来れば、無駄の最たるものに過ぎん。 

 「言っとくが俺達は末端の現場の人間だぞ? 上には見敵必殺を命令されて…」
 「女子供は見逃せ、と私的命令を出しているとお聞きしましたが? この方に? 」
 「誇り高い種族だと聞いていたんでね、出て来ないと思ってた。以後訂正するさ」

 俺は上に送信する上申書の文面と、今日のコードブックのページを思い浮かべていた。
何せ暗号変換も送信も全部…通信技能を持っているこの俺の仕事だったから。         

329 小官 ◆qG4oodN0QY sage 2007/02/22(木) 04:42:15 ID:???
『あしたのために』 その一

 現在の矢吹丈2等陸曹の朝の始まりは、起床ラッパなどでは無い。薪を割り炉にくべる事から始まる。
不便極まりない生活だが、まだ他に比すれば文明的な生活だった。何せ上水道と下水道がある都市での
生活だ。煉瓦造りの高層建築で、衣食住は保障されている。屋根のある所で眠れる。ただ、問題は…

 「ジョーさん…おはよ…。ごめんなさい…」

 物憂げな声に振り向いた矢吹2曹の目に、絹に似た繊維の薄物一枚を着用しただけの少女のあられも
ない姿が飛び込んでくる。見慣れた光景と言えばそれまでだが、炉に踊る紅蓮の炎が作り出す独特の
陰影は、少女の年齢にしか出せない新鮮な色気を増幅する。そんな時、矢吹2曹は心に言い聞かせる。

 『俺は陸上自衛官で紳士で優しいお兄さん。俺は陸上自衛官で紳士で優しいお兄さん。法令順守! 』

 と。そう言い聞かせてもう一年が経過しようとしている。今の自分を見て、何ら恥じる所の無いとは言えない。
文明人として、売春に加担しているのだから。

330 小官 ◆qG4oodN0QY sage 2007/02/22(木) 04:43:48 ID:???
他の若い潜入男性自衛官が今の自分を見れば『喰い放題だろ』とニヤニヤするのは目に見えて居たが、
矢吹丈2等陸曹自身には地獄も同然だった。そう、ここは『娼館』だ。矢吹2曹が現在、担当しているのは
言ってみれば『簡易ボイラー』であり、館の『生活』には欠かせぬ装置であった。暖房・湯沸し等等…。
それを一手に任される矢吹2曹の仕事振りと信頼度を、推して知るべしである。ただの下働きでは無いのだ。

 「いいよユウリ。まだ眠っていて…。昨日はお客様付かなかった非番の日だろう? 今日も仕事…」

 頑張れ。言え、言うんだ丈! 何故こんな年端も行かぬ少女が慰み物に!何故大人達は黙っている! 
人権は! 日本国ならばそんな事はさせはしないのに! 何故なのだ! …丈の心は悲鳴を上げていた。

 「いいの…ジョーさんの寝台…取っちゃったし…良く眠れたし…ね? ユウリも手伝うからぁ…」
 「いいから寝てなさい。寝ないとな、肌が荒れる。…またお客付かなくなるぞ? いいのか? 」 

 欠伸混じりで寝台から降りようとする少女の両肩を押さえ、布団代わりの毛布を被せる。ノミもシラミも無い、
清潔にしている寝具だ。この世界の衛生状態からすれば、奇跡に等しい。潜入隊員への日本国からの援助
物資が生きている証左だ。少女が毛布から目から上だけ覗かせて、消え入る様に呟いたのを矢吹は聞いた。

 「いいもん…また、ジョーさんと居られるから…」

 矢吹丈の心がまた、痛む。自分の心を裏切り続ける痛みは、いつまで経っても慣れないものだ。日本国の
ために潜入し、娼館でこうして娘たちから『仕入れた』情報を流し続けるのが、今の矢吹丈の『任務』だった。
高級娼館であるこの娼館は、『身分の高い』連中も出入りする。矢吹丈は今日もまた…娘達の『信頼』を裏切る。
自分自身の為ならば疾うにこんな卑劣な行為を止めているだろう。しかし矢吹は耐える。ひたすら耐える。
やがて来るだろう、日本国自衛隊と言う、娘達の解放者のために。そう、輝ける…『あしたのために』。       続く?


386 小官 ◆qG4oodN0QY sage 2007/02/24(土) 03:50:39 ID:???
『あしたのために』その二

 矢吹丈はただひたすらに、屋上の物干場(ブッカンバ)で仮想敵を相手に拳を打ち込む。
洗濯は矢吹考案・作成の『自転車利用洗濯機』のお陰で、労力をさほど掛けずに終わらせる。
あとは鈍らないようにトレーニングを欠かさない。薪割りだけでは、それ以外に使用しない
筋肉が衰えて、敏捷さが命のフットワークがこなせなくなってしまう。ボクシングは彼の…
命だった。『燃え尽きちまった』後、命など要らぬと自衛隊に入り、ずるずると続けてきた。

 「酷い人…脾腹を打って、体勢を崩した所の顔に横殴り? …ジョウは拳闘士なの? 」
 
 声のした辺りを丈は裏拳で薙ぐ。やわらかいものが当たったのを感じ、急いで拳を停めた。
革の胸鎧で受け止められた、と感じたのだ。だが…それは遅かった。ゥグウ、と若い女が息を
詰まらせたのを後悔の念とともに丈は聞いた。敵では無いと理解はしていたのに! 糞ッ!

 「…ゲホッゲホッ…酷いわジョウ…。わたしだって知ってて、やったんでしょう…? 」
 「済まなかった。気配を殺すのが癖なのか、盗賊ギルドの連中は? …停められなかった」
 
 丈は女の背中をさする。線が細そうに見えて、充分な筋肉が付いている身体だ。この娼館の
少女達とは根本的に違う造りだった。触れれば折れてしまいそうな可憐さとはまったく縁の無い、
言わば生硬さを感じさせる肉体だった。…ジョウの股間の血潮が怪しく波打つ。さあ、行くぞ!

『俺は陸上自衛官で紳士で優しいお兄さん。俺は陸上自衛官で紳士で優しいお兄さん。法令順守! 』

387 小官 ◆qG4oodN0QY sage 2007/02/24(土) 03:52:16 ID:???
生じた煩悩が霧散していくのが心地良い。が…気がつけば女が自分を振り返って見詰めていた。
鳶色の大きな瞳、整った鼻、形の良い唇。赤毛のポニーテールが、屋上を吹く風に揺れ、丈の鼻を
くすぐっていた。…香でも焚き込んでいるのだろうか? それとも生来の香なのか? …クチナシの
花の香が丈の嗅覚を刺激する。数瞬、視線が交錯するが、丈は目を逸らす。女は溜息を吐いた。

 「…ジョウ…盗賊ギルドの人間にまた喧嘩売ったでしょ? 良家の少女を攫って売るなって」
 「ああ。ここに売りに来た馬鹿を叩きのめした。…ティスリ、まさか俺を殺しに来たのか? 」
 「その逆! 掟破りを始末してくれてアリガトって、頭からの伝言を持ってきたの! …んもう」

 口を尖らせて女は拗ねた。盗賊ギルドとは持ちつ持たれつの関係を、丈は構築するに至っていた。
敵の敵は味方だ。この都市を支配する真面目な貴族階級にとって見れば、盗賊ギルドはただの癌である。
だが、この娼館で得た『取り締まり』の情報をギルドに流すことにより、丈は盗賊ギルドに『顔』を
売るに至った。信頼関係を構築するには『血の代価』も必要である。…それも丈は払っていた。

 「背中だけ触ってないで、拳を当てた所もちゃんと撫でてよぉ、ジョウ…」
 
 ティスリ。この若さで盗賊ギルドの上級幹部だ。手入れがあった際、丈が自分の私室に匿って
以来、何かとまとわりつくようになった。…自分の何が面白くて出入りするのかわからないのだが。
『あしたのため』に必要なのは、人脈も然り。丈はきな臭い顔をしながら、おずおずと豊かな胸に
手を伸ばす。『あしたのために』。丈は生きる。立つな、立つんじゃ無い! 丈Jr!  続く?

311 小官 ◆qG4oodN0QY sage 2007/03/28(水) 05:31:58 ID:???

あしたのために その三

 「何、この音? …ジョウ? ジョおったら!」

 食料の買出しに出ていたジョウ・アローブローこと城塞都市に潜入潜伏中の
矢吹丈2等陸曹は、自分に懐いている女盗賊のティスリを無視して路地を走る。
 それは喇叭(らっぱ)の音色だった。国旗掲揚時に演奏されるフレーズだ。
疾駆しながら、矢吹丈は建物の高層階に目を走らせる。合図はどこだ、と。

 「あそこか! あそこだな…次の『集会』は…」

 建物の角に敷布が干してあった。その敷布の中心部が、紅の丸に染められていた。
城塞都市の住人ならば、『アノ事』を連想してほくそ笑むだけだが…矢吹達、潜入者
には特別な意味を持っていた。レッド・サン。日本国国旗の『日の丸』だ。

 「ジョ…ジョウ…なんて速さなの? …私じゃ無かったら追いつけな…
  何故…泣いてるの? ジョウ? …ねえ、ジョウってばぁ…答えてよぉ」
 「…何でも無い。ただ…悲鳴が聴こえた気がしたんだ」

 埋伏の計。古典的だが、結構効果的な計略だ。この城砦都市に潜入している
陸上自衛官は矢吹だけではない。正確な数は判らないが大隊規模にまでそれは
拡大しているのでは無いか、と矢吹は感じていた。。

312 小官 ◆qG4oodN0QY sage 2007/03/28(水) 05:33:34 ID:???

 「…痛いんだろうな…とっても…」
 「だろう…って、ティスリ…もしかして…」
 「もしそうなら…ジョウは、優しくして…くれる? 」 

 矢吹の埋伏先である娼館は『集会』に毎回参加出来るほど楽な仕事先では無い。
不在の理由が見つけ難い職業にはある矢吹だが、最近、隊員相互の連絡が密に
為っているのだ。行商の野菜売り、薪売り、娼館の客…荷運びの下働きに必ず、
同胞、それも鋼の鞭を束にしたような体つきの男が混じっていて、矢吹に『10度
の敬礼』をして来るのだ。…気は熟す一歩手前、かも知れない。

 「さて、どうだかな…? 寄り道をした…。さあ、帰るかティスリ! 」
 「どうだか、って…ジョウは優しい人だよ? どうして笑うのよぉ?! 」

 周りの人間を騙し通せる自分の何処が優しい人間かよ、と矢吹は胎の中で己を罵倒する
言葉を溶かした。命令が下達されたならば、己の良心など雲散霧消してしまうに違い無い。
兵士たる『矢吹2曹』はただ殺戮の為に動く組織の一細胞と為らざるを得ないのだから。

(せめて『ジョウ・アローブロー』で居る間は…まっとうな人間らしく生きてみよう)

 矢吹はやたら身体を密着させ、まとわりつくティスリを適当にあしらいつつ、己の情欲と
戦う。ただひたすら希(こいねが)う、やがて来るだろう『あした』のために。


381 小官 ◆qG4oodN0QY sage 2007/04/04(水) 03:24:25 ID:???

 あしたのために その4 

 「…ジョウ! ジョウ!? …居ないの? 」
 「ン…ジョウさんならアイギス先生のところ…。字の書けないコ達連れて…」
 「あのど腐れ元貴族のお嬢の?! あのアマ…いつかぶち殺してやるわ」

 娼館の半地下ボイラー室に矢吹丈2等陸曹を訪ねたティスリは、空振りに終わって
いた。部屋に居たのは火の番を頼まれた、客が付かなかった非番の少女一人だった。

 「…アンタ達もアンタ達よ。もともとアイツに痛めつけられてたくせに…」
 「でも、鞭でぶたれてもジョウさんが庇ってくれたから…嬉しかったな」
 「ハイハイハイハイ…ってぇ!? 何それ?! ジョウ、そんな事したの!? 」
 
 ティスリの綺麗に整えられた眉が嫉妬に逆立った。盗賊らしからぬ、と仲間に陰口を
叩かれるに至るまでに己の容姿を気にする様になったのは、ジョウと知り合ってからだ。
…不思議な男だった。禁欲的とでも言えば良いのだろうか? ギラギラした所が無く、
どこか『燃え尽きた』ような彼の心の暖かさが、ティスリの心を捕らえて離さないのだ。

 「ここで待ってたら? ジョウさん、きっと戻ってくるから、ね? 」

 フン、とティスリは鼻を鳴らして、ジョウの寝台に潜り込む。…爽やかな男の汗の香がした。


110 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY [sage] 投稿日: 2007/06/22(金) 00:55:40 ID:???

 「貴様等の様な蛮人がのさばっているからぁ! 」

 脅えるエルフの捕虜を一人ずつ座らせ、後頭部を金属バットのフルスイングで潰して行く。
異世界で日本型の消費社会を維持するには、資源が必要だ。それは無限に湧くわけでは無い。
他者から奪うのが手っ取り早い。この場合は異世界からだ。一億二千万人の国民を生かす。
そのための犠牲は付き物だ。この森の下には先発隊による極秘裏のボーリング調査により、
現代の「命の水」の存在が確認されている。本格的な調査には…判るだろう?

 「さあ次! 銃弾使うのも勿体無いんだからな! 」

 大規模な溜池を作るとの触れ込みで、渋るエルフ族を協力させて、拘束。そして即時処刑。
日本国からは「現地の判断」と言う「独自裁量権」を付与されている。マスメディアに露見した
途端、「トカゲの尻尾切り」をされる程度の「言質」だが、無いよりはマシだ。少なくとも、実際に
手を下す者の気は晴れる。高校で野球部出身の三曹が無表情で金属バットを振るって行く。

 「一人残らず殺せ! 殺せ! 女も子供も老人も残らずだ! 俺が責任を取る! やれ! 」

 レーベンスラウム、生存圏。拡大させなければ、待っているのは破滅のみだ。大衆に寄生する
マスコミ連中も、その基盤を失っては生きては行けまい。恐らくは「密告」やらP2Pファイルの流出で
大方の事情は把握している筈だ。まあ、数珠ツナギに拘束してある最後尾に「新聞記者様」も居るわけだが。

 「…記者さん、アンタも運が無かったな? 上には行方不明になったと報告して置くよ」

 小便を漏らしてガタガタ震えてももう無駄だぜ女記者さん? 俺達は…一致団結、使命感の塊だ。
日本国民を生かすためならば、「一匹の寄生虫」の存在など塵以下だ。俺達の心は既に死んでいる。
生きながら「死して護国の鬼」となる。即身成仏だ。…帝国の先達もあの世で褒めてくれるに違いない。


125 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY [sage] 投稿日: 2007/06/22(金) 22:25:10 ID:???

 「ふはははははっはっはははっはは! 蛮族どもがぁ! 」

 小官は安室 零2尉である。今回は我が愛する陸自宿営地に投石等を行う餓鬼どもに
厳重たる注意を行うために付近の集落に出向いた次第では有るが…どうやらこの世界の
唯一神の狂信教徒に襲撃を受けてしまったので有る。幸い、こちらから攻撃する事は無く…

 「安室2尉! 目標は正面の『敵』っすね! 」

 喜々として89式装甲戦闘車のスイス・エリコン社製KED35o機関砲の照準を担当する奴が
小官を振り向く。弓矢の直撃でカンカン五月蠅い車内にいい加減ウンザリしてきた小官は、
重々しく頷いてやる。純然たる恐怖こそが、愚民どもを沈黙させるのだ。

 「相手は20mしか離れて居ない集団だが、派手にやれ。主砲の使用を全面的に許可するぞ? 」
 「ヒャッホゥ! 逝くぜ白人ども! 貴様等の大好きなフリカッセにしてやるぜぇ! ハッハぁ! 」

 どうせ暗黒時代の愚民なのだ。保護する謂れなど文明人たる我々には、全く無い。むしろ
限られた食料と生存圏確保のために虐殺こそが正義なのだ。…何も知らない左翼かぶれの
民衆どもは、食料備蓄が尽き掛けているのを報道管制により知らされぬまま、我々の行為を
『虐殺』として糾弾している。それを思うと滑稽さに溢れた嘲笑に、涙すら出てくる。

 「貴様等は正義だ! 小官が歓喜と共に貴様等に誇りを持って命令する! 貴様等は無罪だ!  
  目標、正面の敵集団! 35o機関砲、テェー! 」
 「了解! いきまっせぇー! 」

 機関砲が轟然と吼える。集落の男達が吹き飛び、ただの肉塊に為る様は小官を興奮の渦に叩き込む。
これだ! 正統派ファンタジー世界でチート全開にズルをするこの快感こそが小官をいきり立たせる!

126 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY [sage] 投稿日: 2007/06/22(金) 22:27:09 ID:???
 
 「掃討せよ! 64式小銃以上の背丈を持った男は殺せ! 女は処女以外殺せ! 処女は犯して殺せ! 」
 「安室2尉…そいつは皆殺しって意味じゃあないですか? 」
 「そうとも言うな? いや、餓鬼は連れ去って奴隷がデフォルトだ。イエニチェリ、知ってるだろう? 」
 「はぁ? 何スかそれ? 喰いモンすか? 」

 …世界史を勉強して無い以前に、陸自の高卒陸士には無学モノが多い。やはり大卒や社会人陸士が欲しい。
打てば響くし、さらには此方の思う一歩先を予測して行動してくれる心地良さが堪らない。まれに、高卒陸士にも
優れた素質を持つモノも居るが…大抵部隊のほうでそいつの素質を陸自向きでは無い、と潰すのだ。小官は、
そんな陸士達や、そこから陸曹に為った者に慕われる『アウトサイダー』である。 インサイダーの周辺民だ。

 「アムロさん、教会と孤児院、見つけました! アムロさん好みの若い有髪の尼僧もいます! 」
 「そうか! よくやった! じゃあ餓鬼の前で取っておきの『性教育』でも始めるとするか! 」

 小官は小隊陸曹に案内されるまま、意気揚々と清潔な『神の家』に乗り込んだ。一神教徒の陸曹が喜んで、
この世界の神のシンボルをぶち壊している。流石はカトリックと言うべきであろうか? 差し詰め、ここで清貧に
いそしむ者が悪魔崇拝者に見えるに違いない。…そうだ。回復魔法なんて見た日には、感性はそうも為ろう。

 「お願いです! 子供達、子供達だけは…! 私は何でもしますから! 」

 この世界の下級尼僧服を着た、清楚な20代前半の美人な白人娘が、小官の手下、地位士長と熊欄士長に小銃を
突きつけられている。奥の壁には連発発射でボロ雑巾に成ったこの世界の男性聖職者の遺骸が無造作に放置済みだ。 
 いいぞ、いいぞ! この台詞だよ! 数分後には口に出した事を後悔する台詞だ! さあ、先ずはこの問いからだ!

 「お嬢さん? 処女だな? 」

 含羞の表情を見せる女に、小官は落胆する。ち、経験済みやも知れんな? まあ、挿入してしまえば解るさ! ハハハ!
127 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY [sage] 投稿日: 2007/06/22(金) 22:28:52 ID:???

 「くそ、まだるっこしい! 小官殿! 俺が犯りま…」
 「馬鹿者! 我々は侵略者ではないのだぞ!」

 小官は我慢し切れずに迷彩服下衣の前ボタンを外した地位士長、通称『G』の頬桁を力の限りにぶん殴る。
自衛隊では暴力は御法度だか、ここは最早『戦場』で、そしてコイツは指揮者の命令を無視した。つまりは、
『違法性阻却事由』に当たる。したがってこれは暴力行為では無い。純然たる『指導行為』と看做される。
…平時では即民事訴訟ネタと昇進に関わる事なるのは言うまでも無い。転移万歳! ハハハハハハ!

 「お嬢さん? 我々はただ、宿営地に悪戯をする子供達を叱りに来ただけだったのだ。しかし、そこで死んでる
 愚か者の―貴女の血縁者ならば済まないが―聖職者が、集落の男達をけしかけ、我々に抵抗したのだよ? 」

 端正な娘の顔が呆然と為る様が小官の笑いのツボを刺激する。そうだろう。残虐な侵略者は、実は自分達、
大人の事など歯牙にもかけて居なかった事実を知ったのだから。こいつは笑うしかない。仕掛けた奴を恨め!

 「では…では…」
 「そうだ。仕掛けて来たから殺した。それだけだ。我々は専守防衛を旨とする組織だからなぁ? 陸自は? 」

 小隊陸曹! いい味を出してくれるでは無いか! 流石、紫電改曹長だ! 皮肉にソツが無いぞ! 小官の
台詞を半ば取ったのは頂けないが、小官の渋みを損なわぬその配慮、痛み入るぞ! んじゃ、始めるか!

 「子供達を此処へ全員連れて来い! 熊欄士長! あ、陸曹候補生か。スマン、訂正。熊欄候補生! GO! 」

 小官の詭弁にウンザリした顔を見せていたそいつは脱兎の如く走り去って行く。さあ、イッツ・ア・ショー・ターイム!

137 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY [sage] 投稿日: 2007/06/24(日) 14:43:16 ID:???
>>127

 「とまあ、時に娘さん、今、何でもしますと言ったが、イカン、イカンぞぉ…? 貞操は高く売れるのだ。
 こんな…」

 チラリと小官は背後を振り返る。勇将の下に弱卒無し。雌犬の前鼻の穴おっぴろげてハァハァして
お預けを食った雄犬の如くにギラギラした性欲を、惜しげも無く披露する揮下の隊員が集合していた。
…貴様等の思う様に小官がこの尼僧を嬲り尽くし、然る後に下げ渡す小官だと思ったら大間違いだ!

 「奴らが黙って居ないとも限らない。奴らが娘さんの体中の穴と言う穴を利用して汚らわしい獣欲を
 思うがままに吐き出す事を想像して御覧なさい? 彼等も小官も、実はもうこの24ヶ月に至るまで
 若い女と言うイキモノから隔離されている状況なのだ。この小官は日本国陸上自衛隊の代表として
 の分別から辛うじて自制心を保ってはいるが…」
 「アムロさん、もう犯っちゃっていいスか? いいスよね? 」
 「バカモノォ! 小官の深慮遠謀が解からんか! そこで伏せて待てェ! 」

 小官は粗末なものを丸出しにしてハァハァしていた地位士長をブン殴る。顎先にクリーンヒットして
脳震盪を起こしてぶっ倒れる。一罰百戒、他の部下も静まる。…そんなに尼僧を犯りたければ自分達の
装備した小銃でいっそ小官を殺してしまえば良いのだが、長くに築いた相互信頼関係は簡単には崩れん。
フハハハハハ! いいぞいいぞ諸官! それでこそ小官の嗜虐欲を満たすと云うモノだ!
138 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY [sage] 投稿日: 2007/06/24(日) 14:51:22 ID:???
 
 「この私に何を…求めているのですか? 」
 「失礼だが率直に聞く。同じ質問だ。お嬢さん? 処女だな? 」

 コクン、と恥らいながら頷いて見せる尼僧は被り物を退ける。有髪だ。…勿体無い、な。運用計画変更!
小官の故郷の金言、「先用後利」の精神で行くぞ! 異世界人は美形が多い。まあ、裸体写真取った後で
本国の出版社にデータ送信して儲けた金で駐屯地に『特別慰問団』を呼ぶ! …では納まらんだろうなぁ…。

 「そうか…では尋ねるが、近隣に寡婦か、女子修道院は無いかね? 出来れば案内を頼みたい」
 「え…? それだけで…良いのですか? 」

 尼僧のポカン、と拍子抜けした表情に、小官は頷いて見せる。まあ今回苛めて楽しいのは尼僧<部下である!
背後で落胆した者も居れば、逆に鼻息が荒くなった者も居る。げに凄まじきは男の性欲よ! フハハハハハハ!

 「安室二尉! 子供達を連れて来ました! 」
 「御苦労だ熊欄候補生。まずは全員正座させろ。そこ! ペドか貴様! 幼女に必要以上に触れるなケダモノ! 」
 
 命令違反の隊員には足元に小官愛用の64式を短連射で御見舞いしてやる。指切り出来んアホには、異世界では
持つ資格など無い代物だ。さあ、小官のお楽しみ、お説教ターイム! 延々3時間は話してやるとするかね!

 「諸官はその間(カン)死体等の後片付けを願いたい! 男手が将来的に足りなく為る村だ! 恩を着せておけ! 」

 まあ、こうして地元民との交流を『深めて』行くのも悪くは無い。匪賊の遣り口と言えばそれまでなのだが、な?