184  名前:  小官  ◆qG4oodN0QY  2006/04/24(月)  03:20:18  ID:???  

   
 「…あの馬鹿…どこまで捜しに行きやがった…小隊陸曹!  」  

 安室  零  2等陸尉は渋面を作った。しかし、念入りな黒と黄緑と深緑の  
フェイスペイントのお蔭で苦々しげな表情は一般人では読み取れないだろう。  
 彼は何時も名前のせいで損をして来た。同姓同名同階級に、職種は違うが  
安室  零と言う馬鹿がいたのだ。尽く規格外れのそいつの言動や行為が、  
皆、彼の仕業であると誤解を受けてしまう。現在の部隊に移動してきた当初、  
誤解が解けるまで、上官や部下の隊員はまともに口を利いて呉れなかった。  
 誤解を解くのは…彼の日常業務の勤務振りと、温和だが折れぬ言動だった。  

 「…水音?  …水の匂いか…あいつめ!  自分一人で水を…!  」  

 安全な水源探し。彼等の小隊はその命令を受理し、もう一週間も行動していた。  
3t半二台に73式改が一台。3t半一台に携行食料・水・弾薬を満載し、捜す  
事6日目。流石に…もう限界だった。食料が切れたら現地調達せよ、何て言う命令  
は、この世界で無ければ絶対に出さない命令だったろう。そう、ここは異世界だ。  

 「小隊陸曹!  水を発見したなら早急に連絡せよとあれほど…って…」  

 水音を頼りに茂みを掻き分け草を踏みしだきながら漸く開けた場所に出た安室が  
見た最初の物体は…なんと女体だった。それも全裸だ。腰から下まで、綺麗な水で  
満たされた泉に浸かり、髪を両手で束ねながら洗っていた。初夏の森の色をした  
彼女の瞳が、多分怪物に見えたであろう、完全武装の迷彩野郎の自分を映していた。  
彼女の長い耳がピクリ、と動く。…ここで安室は己を取り戻した。  


185  名前:  小官  ◆qG4oodN0QY  2006/04/24(月)  03:25:25  ID:???  

   
 「しししいっしいししつれいしましたぁ!  自分は帝国分遣隊  西部方面隊所属、  
   今は水源探索特別任務に従事する安室  零二等陸尉であります!  同姓同名の  
   人間がおりますが全くの別人であります!  今回はエルフ女性の水浴を覗きに  
   来たわけではなく飽くまで部下の探索を目的とした行為であり飽くまでこれは  
   事故であり日本国政府はなんら干与するものではなく飽くまで自分個人の過失  
   であり事故で或る事を了承して頂きたく存じたて上げまつる次第でありますっ!  」  

 肺活量は日頃の持続走で鍛えてあるので、これ位の台詞は息継ぎ無しでも楽勝だった。  
しかし、今回…全くの初対面の相手に伝えると言う事を完全に忘れていた安室ではあるが…  
何時もの冷静さまでは失っては居なかった。それは大きく、そして美しく、柔らかそうだった。  
 とても華奢なエルフ女性に付いていて良い代物では無かった。それを隠す事は、この世界に  
造物主がもし居たならば――多分罪だと断ずるだろう程――その双乳は綺麗だった。安室は  
瞬きすら出来ずに彼女の全ての造形美を堪能していた。  

 「…きれいだ・・・」  

 …彼女の背後の草叢から興奮した全裸のエルフ  男性が飛び出て来て、彼女が悲鳴を  
上げるまでは。安室は素早く銃と背嚢を置き、阻止に掛かる。…殺す事は出来ない。  
現在進行形である日本国の外交政策上、非常に微妙で面倒な事になるからだ。  


186  名前:  小官  ◆qG4oodN0QY  2006/04/24(月)  03:33:23  ID:???  


 「田夫野人は男の恥だ!  何故無粋な真似をする!  何故美しいものをそのままにしておけない!」  

 徒手格闘は、BOCでの選択では選ばなかったが、課業後の趣味のサークルで嗜んでいた。  
無傷で取り押さえる自信はあった。さらに相手は、非力なエルフだ。筋力では遅れを取らないし、  
得意の魔法も水に沈めてしまえば、言語を使う魔法ならば封じられる。そしてその予想は…  
二分も経たずに実現した。  

 「もう大丈夫ですよ、お嬢さん。暴漢は無事、無力化し、自分が制圧致しました!  」  
   
 男の頭を水に付けたまま安室は自信満々で彼女を振り向いた。グリーン系のフェイス  
ペイントの中、白い歯だけがやけに悪目立ちをして居るだろうと安室は思った。が…  
彼女は自分では無く、自分の背後の、エルフ男性の出てきた草叢を見ていた。安室は  
その理由に気付いた。無残にも彼女の衣服が…踏みにじられ汚されていたのだった。  

 「あっちゃあ…やっちまったがや…スマンこってすバイ…」    

 謝る安室に、エルフ女性は首を振って微笑した。どうやら許してくれたと安室は感じた。しかし…  
それでは陸上自衛隊員として、いや、男としての名誉に関わる。安室はあることを決心した。  


187  名前:  小官  ◆qG4oodN0QY  2006/04/24(月)  03:34:44  ID:???  

   
 「…了解!  5分待て!  」  
   
 エルフ男性の両手を、背後に回して、彼の両手の親指を強化プラスチック製の  
タイラップで拘束し水辺に転がすと、安室は自分の背嚢を探った。そして、貴重品  
で有る、民生品のジップロック袋(冷凍食品用)に入れた迷彩シャツ、トランクス、  
靴下一式と、今では同じく貴重品であるスーパーの大袋に入れた迷彩服上下を  
取り出す。・・・個別防水処理は完璧だ。  

 「これは私物で、迷彩服は官品です。少し大きいでしょうが、いやあ、モノの役には  
 立つでしょう!  なあに、ニッポン男子たるもの、女性の危機には細かい事を…」  
 「あの…これを…」  
 「き、気に入らないのは解ってますが、生憎当方持ち合わせがこれしか無い体たらくで…」  
 「どうやって着るのですか?  」  
 「え゛?  」  

 安室は30分間にも亘る時間を、彼女への迷彩服の着付けの講義に費やす事と為った。  
そしてその行為を、物音に気付き、彼を探しに来た小隊陸曹と小隊員数名に  バッチリ目撃  
されていたことに彼はまだ、幸福にも、いや不幸にも気付いては居なかった。  


188  名前:  小官  ◆qG4oodN0QY  2006/04/24(月)  03:53:18  ID:???  

   
 遠慮がちなノックとは不釣合いな大声が、土師三佐を思考の渦から引き戻した。  

 「安室二尉、入ります!  」  
 「よし、入れ」  

 2週間後、中隊長に呼び出された安室は中隊長室の前で怒号にも似た大音声を  
張り上げていた。陸上自衛隊では声の大きい事はアドバンテージを大いに持つ。  
『元気が良くて精強』をイメージさせる事が可能だからだ。腹式呼吸をマスターして  
置くと何かと便利で有る。大声を喉だけで出すと声が枯れる原因となるからだ。  
身長185p、体重80kgの男がドアを静かに開き、侵入して来る。安室  零2等陸尉。  
始めて『問題行動』を起こした男で有る。  

 「安室2尉は、中隊長に用件があり参りました!  」  
 「俺が呼んだんだ。お前は無いだろうが?」  
 「…入室要領を無視しては…下の者に示しが…」  
 「わかったわかった、まあ、座れ。あと、そこで聞き耳を立ててる瀬良士長、  
 コーヒーを2杯頼む。長く為る話だからな?  」  
 「は、はいっ!」  

 WACが慌てて隣の中隊事務室に駆けて行く。瀬良士長は今年から事務室勤務で  
中隊長付きを任命されている。自然と聞き耳を立てる癖が付いてしまうのも有るが、  
今回は少し事情が異なる。…安室2尉の『官品紛失』事案が余りにも特殊であった  
せいだ。不問に付される事とは為らなかったが、中隊の人間全てが『あの堅物が  
見とれる女が居たとは』と言う話題で持ち切りになったのだった。とりわけ大隊の、  
いや、駐屯地のWAC隊舎では、それに加えて怒号と悲鳴が今でも響き渡っている。  



189  名前:  小官  ◆qG4oodN0QY  2006/04/24(月)  04:11:46  ID:???  


 「さて、と、邪魔が入らんうちに言うぞ?  ウチに新隊員が入る事に為った」  
 「珍しくも無い事でしょう?  もうニートを矯正するのは御免です。使い物に…」  
 「話しの腰を折るのがお前の悪い癖だ。その新隊員は日本人でも人間でも無い」  
 「ハア」  

 気の無い返事を返す安室を尻目に、土師三佐はニヤニヤと嫌らしく笑い始めた。  

 「なんとエルフだ。驚いたか?  」  
 「エルフ?  変なプライドだけで生きてる様なあの高慢ちきで華奢で風吹けば  
 折れそうな手足を持つ、弓だけが取り得のウサギちゃんな奴らが陸自に?」  
   
 安室は馬鹿にし切った口調で返した。冗談だろう、と言わんばかりの口調だった。  
…土師三佐の顔は変わらなかった。まだ、ニヤニヤ笑っていた。正直、気味が悪い。  
この笑いで陣地変換7度目を命令下達された事を瞬時に安室は思い出していた。  

 「中隊長、まだネタが有るようですが何か?  」  
 「迷彩服亡くした件は聞いた。まだ俺は決済して無い。何故だが解るな?  」  
 「…まさか」  
   
 ノックが2度、鳴った。  

 「瀬良士長他2名、入ります」  
 「よし、入れ」  

 他2名?  という事は全員で3名か、と安室は今では貴重品と為ったコーヒーの芳香に  
頭を一杯にしながら、漠然と考えていた。しかし2名の放つ気配が、人の気配では無い事  
に気付き、振り向いた先には…!  


190  名前:  小官  ◆qG4oodN0QY  2006/04/24(月)  04:27:12  ID:???  


 「…その節は有難う御座いました…。とても大事な服だと後に村長にお聞きし…」  
 「おねえちゃん!  礼儀正しくしないで!  さっきこの人言った事聞いたでしょ!  」  
   
 水浴びをしていた裸体を瞬時に安室は思い出し、首まで赤くする。それを見たエルフ  
の姉妹の姉の方も、目元を紅く染めた。その様子が面白く無いのか、妹の方が脹れっ面  
で睨んでいる。瀬良士長も顔には出さないが、内心舌打ちしているだろうと土師三佐は  
ほくそ笑む。  

 「ああ、入隊するのはそこのチビっちゃい妹の方だからな安室?  エルフには  
   性別関係無いそうで、男性隊員教育を村長は希望している。営内には顔効くだろ?  
   内務班は営内2班が内定している。まあウチの営内はあの海本が仕切ってる。  
   営内班長はただのお飾りだからな?  海本に上官として認められてるのはお前…  
   聞いてるのか安室!  」  
 「おねえちゃんの手を握るなこの猿!  」  
   
 差し出された迷彩服を受け取った拍子に手が触れてしまい、そのまま2人の世界に  
入ってしまったらしい安室とエルフ姉妹の姉を現実に引き戻したのは、たまりかねた  
瀬良士長がワザと転んだフリをして安室の頭に引っ掛けたコーヒーの熱さだった。  
   





259  名前:  小官  ◆qG4oodN0QY  [sage]  投稿日:  05/01/07  16:22:15  ID:???  
「暴走…?  違う…。  これは…魂の…咆哮…?  『死なせない…?』  何故…?  貴方は戦うために…生まれてきたのに…?  」  

 何処か夢見るが如く、焦点の合わぬ瞳が74式戦車を見詰めている。乗員の意思に反して、爆走し、後退し続ける戦車。  
74式は土煙を巻き上げ、縦横無尽に着弾する『魔導弾』を回避して行く。履帯の耐久限界を試す様な、その機動の原動力は…?  
 どうやらあの『機械』は『命』を持ったらしい。『魔導』の遣い手は首を傾げながらも、魔導を放つその手を弛めなかった。  

 「停まれ74(ナナシ)!  俺達は行くんだ!  仲間を見捨てて…逃げられるか!  」  
 「74ぃ!  馬鹿!  誰が逃げてくれって頼んだよォ!  これじゃあ狙えネェだろうが!  」  
 「云う事聞けよ!  おい!  停まれって!  なあ!  お前を動かしてるのは俺だぞ!  」  
 「糞ッ!  装填出来ません!  74!  停まれよぉ…これじゃあ…あんまりだよっ…」  

 乗員達が涙ながらに叫ぶも、停まらない。操縦手の意思に反し、戦車は後退し続ける。乗員の4名は舌を噛みそうに為りつつも、  
5人目の仲間、『74式』にそれぞれ、訴え続けていた。戦いたいのに、乗員の意に反して『ただ逃げ続けるだけ』の戦車に向かって。  
 皆、死んで逝った。生きながら焼かれて逝った者、凍り付いた者、感電した者…しかし、彼らは『戦って死んで逝った』のだ。  

 『生きてこそ、次に生かせるんだよ、若僧ども!  死に急ぐな!  お前等を、この俺が死なせはせん!  』  

 乗員はそれぞれ、確かに聞いた。低い濁声だが、厳しい中にも優しさを感じさせる、『男』の声を。『魔導』の遣い手の紅唇が綻ぶ。  
三日月形の、『嘲笑』の形へと。追う者と追われる者。穢れ無き少女と、戦闘経験無き『鋼鉄の軍馬』。戦車の乗員は…誰も知らない。  
 彼らが戦車に『74(ななし)』と名付ける以前から、戦車が『意志』を持っていた事を。幾多の若者達が、彼の中を通り過ぎて逝った事を…。  

260  名前:  小官  ◆qG4oodN0QY  [sage]  投稿日:  05/01/07  16:29:30  ID:???  

 『若僧!  よく聞け!  貴様等は死の意味を履き違えている!  美しい死など無いッ!  有るのは無だ!  無のみ!    
   貴様等はこの俺とは違い、何かを産み出す事が出来る!  破壊以外の何かをッ!  だから…生きろ!  何かを…』  

 超信地旋回。74は、それぞれの履帯を逆方向へ機動させ、その場で急停止かつ急旋回する。魔導弾が砲身を掠め、  
大地に着弾する。未だ砲身は無傷だ。塗装も剥げ、装甲も細かい傷だらけだ。数々の『お色直し』を経た『お肌』の歴史が  
よく解る。…女がまた笑った。花の咲くが如くに。女好き揃いの乗員達がそれを見る事が出来ぬのは不幸だった。  

 『無駄な事をだと?  無駄では無いさ!  俺が斃れようとも、こいつ等はきっと戦う!  こいつ等さえ無事なら、次が有る!  
 そいつがお前らとの大きな違いさ!  お前らや俺は使い捨てかも知れん!  だが、こいつ等は…己の意志で戦うんだ!  
 俺やお前らの様に戦う事を義務付けられた存在では無い!  だから…人間は素晴しいッ!  だから俺はこいつ等を守る!』  

 女の柳眉が逆立った。人間では無い者と、人間に為りたかった兵器。…当の人間達を置き去りにしたまま、戦闘は続く。  
戦車達の機動性能、不整地走行能力が幾ら高いと行っても、NOE、ナップ・オン・ジ・アース、地表から数メートルの高さを  
保持して飛び回る魔導生物・魔導の使い手の機動力には及びも附かない。いまや戦車大隊は壊滅状態に達していた。  
そんな中、一機、いや、ただ一騎、気を吐き続ける戦車がこの『ナナシ』だった。  

 『俺は生きる!  生きて、こいつ等を送り届ける!  明日の為に!  戦い続けるために!  それが俺の存在理由!  』  



600  名前:  小官  ◆qG4oodN0QY  2006/05/09(火)  21:26:33  ID:???  


 「本を焼く者はやがて自らを焼くだろう、か…」  
 「自分の読めない本を守る、ってのも馬鹿らしい行為の極致なんですがね?」  

 帝国の南部鎮守府の文書保管庫を守備する命令を受けた陸上自衛隊帝国分遣隊は、  
魔道士部隊に包囲された状況の中でも、保管庫の中の『本』を焼こうとはしなかった。  
再三、帝国中央から破棄命令が出ていても無視を決め込んでいた。後の世代の為に。  
文明の尊さを小中高大社会人と、骨髄まで教育された彼らに出来る行為では無かった。  

 「…破壊するのは容易(たやす)いさ。だが、そいつを再現となると到底不可能なんだ。  
   せめて大部分を記録するまで持たせなければな!  そら写せ写せ!  」  

 隊員個人の私物のデジタルカメラまで引き摺り出して、戦闘の合間を縫って記録作業は  
進む。『本』はどの様なものであれ、知識の集大成なのだ。後の世のために!  後に続く  
者のために!  一週間の攻防の末、作業は漸く半分まで進んでいた。  

 「糞!  本が…奴ら!  火炎系魔導を!  」  
 「こいつらは奴らにとっても貴重品じゃ無かったのかよ!  消火急げ!  っ…て…」  
 『有難う。滅び去らんとする者への、君達の思い、確かに受け取った』  

 ついに業を煮やした敵、王国魔道士部隊が禁断の火炎系魔導を使用した。消火を急ぐ  
隊員達の前に姿を顕わしたのは、既に滅び去ったと伝えられる、各種知性体達だった。  
ドラゴンと呼ばれる種も居る。巨大な甲殻類も居る。強力な魔導能力を持ったこの世界の  
先種人類も居た。何かの魔法で本に封印されていたのだろうか?  それとも、本の精霊か?  
ここはファンタジーな香りが生きている世界だった事を、隊員達は今更ながら自覚した。  

 『未来の為に、手を取り合おう。後に続く者のために!  』  

 陸上自衛隊と彼らの、反撃が始まる。  






160  名前:  小官  ◆qG4oodN0QY  2006/06/05(月)  19:39:29  ID:???  


 「この犬が!  政府の走狗が!  」  
 「俺達は為政者の道具に過ぎん。唯の道具に思考が要るか?  俺達は消耗品なんだ」  
 「そしてそれに大いなる誇りを抱いている、な」  

 此処、異世界に毒電波を撒き散らした左派どもを一掃するため、陸自は市街の殲滅を  
決定した。…身分支配が罷り通る世界には、奴らの語る平等思想は劇薬そのものなのだ。  
平等を語るには、相手の思想的成長と物理的試行錯誤を有る程度待たねばならぬものだ。  
 それを最初から与えようものなら、相手の成長にとっては無修正ポルノ並みの露悪主義  
に過ぎん。思想を根付かせるなら、英知を獲得させるなら…見守らねばならぬ時が存在する。  

 「貴様等は教条的に過ぎたんだよ。流血と虐殺は人間の宿命だ。避けられぬ道だ」  
 「煩い!  人間の命を何だと思っているんだ!  」  
 「言っただろ?  」  

 5.56oが轟音とともに純粋真直素直君を馬鹿な人間からただの物体へと変えて行った。  
ただ逃げ惑い、この世界の人間を醜く盾にしようとする仲間達も同様に、粗大生ゴミへと。  
放たれた銃弾は相手が誰であろうと差別はしない。奴らの信条で行けば、人間よりも慈愛に  
満ちているに違いない。  

 「消耗品なんだよ」  

 明日へと命を繋ぐ消耗品。せめてより良い命を残す為に、摘み取らねばならぬ芽も有る。  
汚れるのには慣れている。洗い流せぬ罪を背負い、それでも明日の為に、俺達は小銃を撃つ。  
 明日を迎える資格のある人間達のために。俺達を悪であると裁くだろう人間のために。  


161  名前:  小官  ◆qG4oodN0QY  2006/06/05(月)  19:49:07  ID:???  

兵士は常に考える。何も考えていないワケでは無い。  
しかし命令は神なのだ。兵士が兵士であるためには何よりも大切なものだ。  
兵士は与えられた命令の中で、自ら為す事が可能で有る事を考える。  
命令に『自由度』が有る場合は幸いである。兵士は天使にも成れるだろう。  
しかし命令に他の解釈のしようの無い、『自由度』が無い命令の場合…!  

                 兵士は地獄の悪鬼と化すのだ。  

 現代の軍を使う者は高い倫理観と道徳を必ず持たねばならぬ。さもなくば、  
軍はシステマチックに虐殺を行う集団と化してしまうのだ。…ここのSSに  
小官はその描写を期待する。小官は兵士の倫理観ならば語れる。命令に全ての  
責を負わせるのは簡単だ。しかし、必ずしもそうでは無いのだ。  


162  名前:  小官  ◆qG4oodN0QY  2006/06/05(月)  19:53:09  ID:???  

命令が無い場合?  …それは最早、軍事組織の体裁は無い。個人の良識に委ねられる。  
しかし、複数の人間は集団を創生する。指示命令は無くならぬものだよ。ウム。  




193  名前:  小官  ◆qG4oodN0QY  2006/06/06(火)  11:38:34  ID:???  


 「歴史を改変、か」  

 中井三佐は溜息を吐く。自分の部隊が死人と為っているなど、誰が好き好んで  
聞きたいか?  聞かせた人間が冗談好きで法螺吹きでも、これは振るっていた。  
 まさか生きているうちに、病院以外で自分の死亡宣告を聞かされる羽目になる  
とはな…。中井三佐が小川の目を見つめる。発言を促されたと小川は判断した。  
   
 「現時点では死人では有りません!  王国獣人密偵団の策に嵌まる前に…!  」  
 「小川二士!  黙れ!  」  
 「ハイ、おがわにぃーし!  」  
 「…私も使って見たいものだな…それ…小川二士と言う呪文を…」  
   
 現相棒を小川は恨みがましそうに横目で見遣った。中井三佐は小川から目を離し、  
部下達を見る。小隊長である尉官達を見事にスルーし、その後ろの先任陸曹や小隊  
陸曹、指揮班長に各砲班長、補給班長を。咳払いをして、先任陸曹が口を開く。  

 「中隊長、僭越ながら自分が発言して宜しくありますか?  」  
 「菅原、何だ?  同期のよしみで聞かんでも無いぞ?  言って見ろ」  
 「…じゃあ言うぞ中井。お前の教え子の話じゃ、この状況を打破する手段が  
   あるそうじゃ無いか。まあ俺達はこのまま行きゃあどの道、全滅必至だ。  
   だが、このカワイイ小川二士のお話に乗れば、犠牲は少なくて済むって  
   寸法だ。…なあ中井。部下を全員生きて還そうっつー、お前の理想は買う」  

 中井三佐の顔が一瞬頬を打たれたように呆気に取られた。人間誰しも、心の中を  
言い当てられた時はそうなるものだ。菅原曹長はそれを観て苦笑し、言葉を切る。  


194  名前:  小官  ◆qG4oodN0QY  2006/06/06(火)  11:41:01  ID:???  


 「…今の今まで戦死者0で来た。パーフェクトゲーム直前だな。だがコイツは  
   スポーツじゃ無い。飽きるほど繰り返した演習でも無い。戦争ごっこじゃあ、  
   無いんだ。どうしても犠牲は出るんだよ。済まないが、中隊の行動決定権は  
   お前が握っている。勿論、上の命令がどうのとか考えている場合でも無い」  
 「言い難い事までズバズバ言いやがるな…。まだ課業中だぞ…?  」  
 「言やぁ良いんだよ。尻尾捲いて退却するってな?  ニッポンへ帰れるぞってな?  
   若い衆、喜んでさっき全部降ろした荷物を車架するさ。なあ?  」  
   
 菅原は背後の砲班長達を振り向く。砲班長は20代後半から30代前半の若手隊員が  
多い。照れ笑いがそこかしこで漏れる。中隊長と先任陸曹が慕われている証拠だった。  
普通の部隊運営ならば隊員達は自分の意志など見せず、命令下達まで沈黙を保つ。  

 「わかった、わかったよ菅原…。もう黙れ」  
 「ハイ!  中隊長!  」  
 「…今より20分後に出発」  

 中井三佐が微笑みを消し、真顔に戻って静かに、良く通る声で話す。何故か一旦言葉を切り  
尉官達を見遣る。呆然として声も出さない尉官達の目の前で大きく解るように溜息を吐く。    


195  名前:  小官  ◆qG4oodN0QY  2006/06/06(火)  11:48:16  ID:???  


 「…機材と武器・背嚢以外の生活物品は皆焼却破損処分!空いたスペースで集落住民を  
   収容!  敵、王国獣人密偵団との識別を容易にするため、各自所持の識別マフラーを  
   裂き、住民の右腕に捲かせる!  各班長は指示、命令を各班員に徹底させろ!  」  
   
 中井三佐はまた、言葉を切り尉官を見遣る。大きく舌打ちまでして、尉官の最先任者を睨む。  
     
 「…副中隊長!  俺にまだ細かい事を言わせる気か?  」  
 「…藤巻2尉、普通は、中隊長が出発を決断したら、引き継いで指示命令を出すのが…」  
 「いい、菅原。お前達が出来過ぎてるから奇跡的にボンクラでも勤まったんだよ。今度は  
   無能は死に直結する。…各班長!  小隊長が邪魔ならもう撃っていいぞ!  俺が許す!」  

 声も出さずに散っていく各班長の背に中井三佐は哄笑した。慌てて尉官達はその背を追っていく。  
その場に残されたのは先任陸曹と中隊長、小川と現相棒の戦乙女の4名だった。  

 「さあ、聞かせて貰おうか小川?  この以前の、俺達の死の行程をな?  」  

 爽やかな笑みが、戦乙女の眼に眩しかった。やはり戦士は良い。そう思わせる中井と菅原の笑顔だった。  

 「…住民保護とは思いも寄りませんでしたよ、区隊長…」  
 「俺達と戦って、戦死した集落の戦士を丁寧に葬った俺達に恩義を感じていると情報を呉れたんだ。  
   無視するワケにはイカンさ。それに一宿一飯の恩義だ。メシ…喰って無いが招待されたしな、菅原?  」  
 「ハイ、中隊長」  
 「…30分後に、集落より火の手が上がります。そして、歩哨が2名喉を噛まれ死亡」  

 手帳を片手に、腕時計を見ながら小川は平然と変わらぬ調子で呟く。撤退準備完了まであと、18分。          



393  名前:  小官  ◆qG4oodN0QY  2006/06/26(月)  06:10:03  ID:???  

>>364にインスパイア。  

 「グヘへへ…逃がさんぞぉ!」  
 「公子…私を置いてお逃げ下さい…」  
 「君は弧の臣だ!  弧は見捨てない!  絶対に!」  

 少年は少女を背負い、ふらつきながらも走る。その整った容貌と、眼差しは  
上品さを感じさせた。背後の彼らを追う男達は、獣欲と悦楽の想像でその目を  
血走らせていた。わざと距離を置いているのは嬲るためだろう。  

 「で…ん…か…」  

 少女の目に涙が滲み、溢れた。それは砂埃に汚れた少年の頬に当たり、一筋の  
清流を作る。苦しい息の中、少年は少女に微笑んで見せた。心配無いのだぞ、と  
口を開きかけたその時、矢羽の風斬音が少年の耳を劈く。足が何かに引っかかり  
少年は派手に転倒する。…無情にも、矢が地面に生えていたのだ。  


394  名前:  小官  ◆qG4oodN0QY  2006/06/26(月)  06:11:42  ID:???  

   
 「ひゃはは、どうした公子!  もう終わりかよ?」  
 「へへへ…俺、あの女の初物を頂く」  
 「女の歯ぁ折っとけよ?  噛み切られるとコトだぜ?」  
 「おりゃ公子だ!  旨そうだ…」  

 わざと遅めに接近してくる男達を振り向き、少年は闘志を隠さず睨み付ける。  
しかし男達にはそれも獣欲の気の効いた香辛料に過ぎない。少女は己の無力さに  
悔し涙を流し、そばの瓦礫に拳を叩き付ける。その時、瓦礫の下から現れたのは  
所々が錆びた剣だった。『我を使え』と剣が言っている様に少女は感じ、繊手を  
伸ばす。だが…  

 『ちょおっと待ったぁ!  俺を使いな、心奇麗な坊ちゃん嬢ちゃん!  』  

 誰かに呼ばれた気がした少女は、剣の柄に伸ばす手を止め、声の主を探す。下だ。  
 その隣に手に取りやすい不思議な形をした、見た事の無い素材で出来た握りがあった。  
少女はそれに手を伸ばし、握る。それは剣よりもはるかに軽く、石弓に似た構造をした  
鋼の物体だった。少女は男達にそれを向け、狙いを付け、ゆっくりと引鉄を絞る。  
破裂音と硝煙臭が、2人を包んだ。  


355  名前:小官  ◆qG4oodN0QY  :04/03/18  21:27  ID:???  
 力のない人間どもに、ぼくが何の理由があって従わなくちゃならないんだろうか?  
魔法の力のかけらもない、おかしな模様が入った服を着た男たちが、ぼくたちが生活  
する由緒ある『魔法学校』に押しかけ、みんなを集めて先生たちと何か話していた。  
 あんな奴ら、ぼく一人の『力』で追い払えるのに?  さあ、見てろよ…!  

 『…取り返しの付かん『悪戯』は、止めて置くんだな?  …後悔する事に為る』  

 声が『聞こえた』。…念話だ。黒い鉄製の杖を持った男たちの中の一人が、ぼくを  
見つめていた。ぼくは無視して、先生と話しているえらそうな男の尻に炎術をかけた。  
ぼくの念じた場所に、かんたんに炎が生まれる。見たか!  俗人ども…め?  

 『君は引金を引いてしまったな…。虐殺への序曲は奏でられた…』  
   
 男の目が、ぼくを哀れむかの様に伏せられた。とたんに、すごい大きな音がした。  
先生の、きれいな顔が…ふき飛んでいた。男たちの杖の先から、けむりと炎がつぎつぎ  
と上がり、ぼくの友だちや、食堂のおねえさん、先生たちを穴だらけにして行く。  

 『君はもっと早くに、その力に対する責任を、学ぶべきだったのさ…。哀しい事だが、  
   命令には、例外は無いんだ。君の御蔭で、例外無くこの世界の人間は抹殺される…』  

 念話の主がぼくに、黒い杖の先を向けた。ぼくは目をとじた。ぼくは、みんなの所へ  
行けるのかと、思いながら。ごめんなさい…先生…みんな…。また、あえ  



460  名前:  名無し三等兵  2006/06/30(金)  01:00:16  ID:???  

362  名前:小官  ◆qG4oodN0QY  :04/03/18  22:04  ID:???  
上がっておる…下げねばな?  ウム。ただ下げるのも芸が無い。  

 「どうした?  葛野?  …こんな事も想定していたろう?  」  

 同期の芦屋が僕の肩に手を置いた。一斉射撃は、この学校の教師、職員、生徒の大半を  
薙ぎ倒した。銃弾には意思は無い。彼等の心理操作の魔法も…銃弾の前には無力だった。  
 あの子が『炎術』さえ使わなければ、多分教師の掛けた『心理操作』は、中隊長に何の  
苦も無く掛かっていた筈だった。僕は制止すべきだったのだ。もっと、積極的に。  

 「悩むなよ。…お前は警告した。それで充分さ。…お前や俺の『力』がばれたら…」  
 「芦屋…それでも…僕達は…もっと…努力を…たとえ…異端者扱いを受けてもっ!  」  
 「俺は、一緒に暮らした仲間達に銃殺はされたくない。お前も、そうだろう?  」  

 芦屋は教師の死体の足を両手で掴み、校庭に掘った大穴へと引きずって行った。僕は  
唇を噛み締めた。失った命はもう戻りはしない。終わり無き戦争への、行程が始まる。    
       
と、まあ、まとめる。数人でも、異能者が居る、と言うスパイスを効かせるのも手だ。終わる。    


409  名前:小官  ◆qG4oodN0QY  :04/03/28  20:54  ID:???  
   
 「誰か?!  誰か?!  誰か?!  」  
   
 合言葉は…プラス2だ。何の事かは解らないが、外見の偽装は完璧の筈だ。  
魔法による変化は完璧だ。化ける事など造作も無い。「小道具」もちゃんと  
用意した。化けさせてもらった本人は…記憶を読んだ後に『処理』した。  
 微笑みながら、近寄る。敵意が無い事を示すために、両手を上げる。  

 「もしかしてお前、宇井津か?  久し振りだな!  元気にしてたか?  」  

 拍子抜けだ。確か、「前期教育隊」が一緒だった法師とか言う奴だった。  
合言葉も確認しないとは、愚かな奴だ…。まあ、こんな所で見張り員をして  
居る様な下賎な輩は警戒するまでも無い!  魔法に勝る物など存在しない!  
近寄ってきたな?  さあ、直ぐそのつまらない仕事から解放してやろう!  

 「法師!  こんな所で逢うとは思わなかったよ…!  会えて…?  」  
 「…宇井津じゃないだろうが…お前は…そうだよな…残念だよ…」  

 ドン!  法師は私の胸に何時の間にか抜いた、腰の短剣を突き立てた。何故、  
ばれた?  私は聞こうとしたが、唇から漏れたのは…かすかな吐息のみだった。  


411  名前:小官  ◆qG4oodN0QY  :04/03/28  21:09  ID:???  
 俺は馬脚を顕しつつある魔術師の死体を、右手で抜いて刺した銃剣で支えながら  
黙ってその場に仰向けに倒した。人を見下すのに慣れた、その高慢そうなツラが、  
間抜けに歪んでいた。『何故ばれた?  』と今にも云わんばかりの顔で。  

 「自衛隊員ならな、三度目の誰何(スイカ)に為っても名乗らない馬鹿はな、  
   居ない。さらに、所属部隊名、姓名、階級…一回目で応えるよ…普通はな?  
   間違えてるのは半長靴だよ。昨日まで雨が降ってて辺りはぬかるんでるのに  
   お前の半長靴の靴底には泥すら付かない。そんな半長靴があったら、皆、噂  
   になってる。で、お前は哨戒を終えて、くたくたの筈なのに元気一杯の声を  
   出してる…数え上げればキリが無いが…間抜けだよ。兵士に化けるにはな?」  

 俺は死体に唾を吐き、死体の腹に左足を乗せ、銃剣を引き抜いた。コイツのせい  
で俺と部隊の仕事がまた増える。俺は日報と上級部隊への報告で、部隊は宇井津の  
捜索だ。多分宇井津は生きては居まい。89式小銃は…消えなかったのだから。  END?  


887  名前:厨官  ◆qG4oodN0QY  :04/03/06  16:35  ID:???  
 「ふん、女、か。剥かれるとでも、思ってるのか?  違うな?  そんなに優しくは無い…」  

 俺は何の躊躇いも無く、足で踏ん付けた女騎士の首に力を込め、小銃弾を顔にぶち込んだ。  
間抜けな発砲音と残響音が響く。死体は二度三度、激しい痙攣を繰り返してから、辺りに静寂が  
訪れた。女の顔は撃てないだと?  何の意味がある?  敵は殺さなければ意味は無い。無力化する  
には殺すのが一番手っ取り早い。捕虜など取るか。前線の、俺達の食い物すら無いと言うのに。  
 残酷だと『娑婆』の奴等は喚く。しかし、一番合理的な方法だ。貴様等はどの口で喚いている?  
俺達が味わえぬ、手前らだけが愉しんでいる『平和』のために、死んで行く人間の存在を考えたか?  
 『無知』程、罪深く、そして恥知らずで残酷な物など何処にも無い。それでも俺は、生きている。  
今も見知らぬ誰かが、命を掛けて創り出している、ひと時の夢に似た『平和』の中で。      END  


796  名前:小官  ◆qG4oodN0QY  :04/03/05  04:21  ID:???  

 「喰らえ、自衛官の六四式小銃の弾を!  なぁにが魔王だドラゴンだ!  弾丸の前では、  
   総てが平等に価値が無い!  さあ死ね!  死んでしまえ!  幾多の自衛官の怨念と共に  
   事象の彼方へ去れィ!  もう沢山だ!  貴様等の相手など正気でしていられるかヨォ!」  

 狂った様に撃ち続け、20発入り弾倉が空になると交換し、俺は撃ち続けた。これは面白い!  
バタバタバタバタ羽虫の如くドラゴンとやらが落ちて行き、叫び声を上げて魔王の眷属どもは  
死んで行く。民衆の犠牲?  知った事か。ついさっき、少女の頭を気分良く、柘榴の様に砕い  
た所だ。ああ、エルフもフェアリーも同様にな。最大多数の最大幸福。救い切れぬ者は必ず、  
居るのだ。狂人の天国は常識人にとっての地獄だ。此処は精神力の支配する土地だ。思い込みの  
強さならば、俺は誰にも負けはしない。死ね、死んでしまえ。この世の総ては価値の無い、糞の  
塊で出来ている。平和などもう知った事か!  殺せ!  弾は一発だけ残しておこう。…俺の為に。      


779  名前:小官  ◆qG4oodN0QY  :04/03/04  21:48  ID:???  
 その場にうつ伏せになり、脚を出した銃を地面に置き、2脚をやや押し気味にして、  
稼動可能にする。照星や照門が、立っているか確認する。…問題は無い。立っている。  
切り替え軸を引き、浮かせる。アからタに、タからレに。回転させ、左手を離す。  
 床尾板を上げ、右肩に乗せる。少し痛い。銃杷に左手を置く。さあ、後は…。  

 「弾込め良し、装填良し、準備良し!  」  
 「第一小隊、射撃準備完了!  」  
 「別名有るまでそのまま待機!  」  

 耳栓越しに良く通る、小隊長のやや高めの声が、何故か可笑しく聞える。緊張感で  
上ずっているのだろう。自分の命令一つで、多くの命が失われて行くのだ。無理も無い。  
 暴徒と化した民衆の『成れの果て』は、死体しか無い。俺はゆっくりと引金の遊びを  
殺して行く。射撃命令も無いままに。命令が有るまで引きはしない…。弾は有効に使いたかった。  
 殺さなければ、自分が殺される。この陣地を越えられれば、もう俺達には後が無いのだから。      

781  名前:小官  ◆qG4oodN0QY  :04/03/04  22:04  ID:???    
 どうして、自国民を撃つ命令を下さねば為らない?  職を求めて居るだけじゃないか!  
僕は目の前の『暴徒』に対する射撃命令を、喉の奥に引っ掛けたまま、出せなかった。  
 日本が『国交』を開き、待っていたのは…労働者の流入だった。賃金の安く済む、質の  
良い労働力を欲した国内企業は…容赦無く『自国民』を切り捨てた。悪い事に政府はそれを、  
『黙認』し、有ろう事か『放置』した。そして国民の怨嗟の声は『企業』では無く…『政府』  
に向けられた。『政府』は自らの延命を画策し…『警察』と『僕ら』に鎮圧を押し付けた。  
小隊陸曹が僕を見る。黙って、見詰める。本当に、良いのか、と問うかの様に。ああ、取って  
やるよ。責任を。お前達は黙って従えば良い。僕もそうするさ。責任は、政府が取るだろう。  
…斃されさえ、しなければ。取らなくても、このままではどうせ、殴り殺されるだけだ。  

 「テェー!  」  

 自分の声なのに、他人の声の様に聞こえた。…僕は歴史に名を残すだろう。虐殺者として。    END  



382  名前:小官  ◆qG4oodN0QY  :04/02/10  03:47  ID:???  
気が向いたので、書いて見る。続くかも…な。  

「悪い、起こしたか?  ゆっくり眠ってくれ。…馬小屋なら一晩で回復するだろうがな…」  

 戦車のターレットに凭れて眠っていた、ローブを着た魔導士の足を、俺は引っ掛けてしまったのだ。  
二次大戦のソ連歩兵のタンク・デサント張りに、5名もの魔導士がこの新型試作戦車にへばり付いて  
居た。言って見れば、この戦車の主砲の装薬代わりだ。乗員は自動装填装置の御蔭で、車長、砲手、  
操縦手の三人と、…新型砲の動力源たる魔導士一人の4名。上の方では、『この世界との融和を示す、  
輝かしい第一歩である!  』と曰って呉れた。…いい気なもんだ。科学の塊の戦車が、物理法則を半分  
馬鹿にした様な力で動いているのをマスコミが知ったら、さぞや騒ぐに違い無いだろう。  

 「何だよ?  どうした?  気に障ったか?  …ゲームの話さ。車内でやらせた事あるだろ?  」  
 「貴方達に逢えて良かった…。人間扱いをしてくれるのは、貴方達だけ…」  

 魔導士が被っていたローブを上げた。…泥や埃に汚れたローブからは想像も付かない…綺麗な顔だ。  
洋ピン雑誌のグラビアモデルなど論外の…美形だ。ヤバイ。マズイ。女だとは…気付かなかった。  


596  名前:小官  ◆qG4oodN0QY  :04/02/12  02:40  ID:???  
>>382  
 「そうだな…引いたよ。『アン』が急激に老化した時、スィスがいきなり喉笛掻っ切った時はな…」  

 戦車砲こと『魔導砲』。突如現れた『世界』の破壊者。日本『島』ごと呼ばれた俺達は、『この世界』の  
危機に立ち向かう事を『この世界』の『統治者達』から『要請』された。協力は、惜しまないから、と。  
 破壊者は、多分…止めておこう。こいつは主観の問題だ。だが、俺達が倒した『個体』達の言葉から判断  
すると…この『世界』の『人間』を『創った』…奴だ。俺達日本人は普通、そいつをこう呼ぶ。…『神様』だ。  
 耳の尖ったこの『連中』は、差し詰め、『先行量産型・人類』な訳だ。やたら精神文明に走りすぎたのが、  
『神様』の御気に召さなかったのだろう。しかし…この『装弾手』こと魔導士連中は…尖っていない。  
彼等は、『戦争』の為『だけ』に創られた『人間』である事は、『支配者』の横暴ぶりから容易に見て取れた  
     
 「名前を…有難う…。『セート』って…付けてくれて。こんなの…始めてだから…」  
 「…大学で、フランス語齧った士長が操縦してる戦車だからな…『7』って意味さ。  
   名前が無いと、呼び辛いだろう?  戦闘中もさ…ああ、俺はドイツ語の方が戦車  
   に合うと思ったんだが…『発音が堅くて、彼らに合わない』って奴に言われてな?  」  

 今残っている連中は、4こと『カトル』、この『セート』、そして8こと『ユート』の三人だった。  
…2桁目は…正直、数えたく無い。後の奴等は、搾り尽されて死ぬか、『敵』の撃ってくる『弾』で死んだ。  
神様もまた、俺達の世界から『ツマミ食い』していたのだ。『消えた兵隊』や『謎の失踪』を遂げた軍艦、  
航空機…。皆、俺達の敵だった。皆、少しこちら風味に強化されて。血の涙を流しながら、『殺してくれ』と  
迫る江戸末期の洋装幕軍兵を目を瞑って焼き殺した普通科の奴の話を、最近聞いた。  

597  名前:小官  ◆qG4oodN0QY  :04/02/12  03:06  ID:???  
>>596  
 死ぬために、死をもたらす存在として生を受けた彼等『魔導士』を俺は、嫌悪していた。  
同族嫌悪だった。ひたすら意識せずに、会話の一つもしない様に注意していた。  
 あんな光景を見せられて、問い詰めた挙句に、主人のために死ぬことが定めだ、と真顔で  
反論されてしまった時、俺は彼等に羨望した。彼等の死には、『意味が在る』のだと。  
 反面俺達『自衛隊』はどうだろうか?  国会では未だに憲法論議、国内では『厄介者』と  
真顔で言う奴も少なく無い。俺は出来る事なら、『意味の在る死』を迎えたかった。  

 「…食うか?  最後の『カロリーメイト』だ。三人で食べろ。川島や中村には、内緒だぞ?  」  
 「はい、サトーニソー!  …これ、美味しいから、好きです…」    

 嘘だ。砲手の川島と操縦手の中村には話して有る。『弾薬』の補給はこれで最後にしたかった。  
もう、川島など涙目で俺に言ったものだ。『あの娘達が…可哀相です…』と。『カトル』と『ユート』  が、  
国に残した娘と同年代だと言う。食料の補給は充分ではない。『四類』こと嗜好品、菓子、カップ麺は、  
ほとんどが自前で調達する。他の戦車の弾薬の補給は…三桁台に突入したと、曹学の同期から聞いた。  


598  名前:小官  ◆qG4oodN0QY  :04/02/12  03:30  ID:???  
>>597  

 「あと…『スィス』…幸せ…だったと思うの。サトーニソーに無視されていたけれど…  
   『スィス』…いつもわたしに言ってた…。あの人は、『いい人』なんだって…」  
 「…イイ人がな…『魔導砲』で…人を撃つかよ…バカヤロウが…」  

 『スィス』こと6。敵の『ケーニフィス・ティーゲル神様風味』を倒す為に、ティーゲルに抱き付き…  
『魔導砲』で自分を撃つ様、俺に念話で語りかけて来たのだ。最後まで、女である事を匂わせなかった奴。  
川島は言っていた。奴は…院で生物学をやっていたと言う。生体は雌性体の方が、在る意味、丈夫だと。  
 川島の言うには、『弾薬』は皆、雌性体ではないかと。  俺は否定した。声など聞いた事は、俺は今まで  
無かった。念話で話して来る時は、『文字』が頭の中に挿入される『感覚』だったのだから。  

 「…サトーニソー?  泣いてるの?  」  
 「…哀しくないのかよ…お前らは…!  」  

 明日も『敵』は現れるだろう。『この世界』の『終末の黙示録』はまだ、続いていた。俺達の目の前で。  




517  名前:  小官  ◆qG4oodN0QY  2006/07/08(土)  19:43:17  ID:???  

答えが出ないので>>394の続きを上げよう。某2に失望した身としては辛いがね?  

 「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャァ〜ん!  とぉ!  Ace  in  the  Hole  Ogawa、略してAHO推参!」  

 公子と呼ばれた少年と、臣と呼ばれた少女の前に突然現われたのは、斑模様の奇妙な服と背嚢を背負う、  
やや黄色味を帯びた肌をした大丈夫だった。背嚢と背中の間には無線機があり、ブレードアンテナが飄々と  
揺れている。男は白い歯を2人に見せた。それは漢らしくそして男臭い、爽やかな笑顔だった。思わず少女は  
頬を赤らめた。黒く濃い眉に、切れ上がった目尻、日に焼けた肌、何よりも迷いも無く自分を見詰める黒い瞳…  

 「撰んでくれてアリガトよ!  だがソイツは整備も無しじゃあ、素人には危険だ。火薬が生きてたら尚更だな?  」  

 腰に下げていた湾曲した大刀を、一息にすっぱ抜く。それは全長が少年の5分の4を超える長さを誇っていた。  
さらに反対側の腰に有る短剣を抜く。黒い刃が見える。少年少女は知らないが、それは紛れも無い銃剣だった。  
AHOと名乗った男は、暴漢どもに体ごと向き直り、侮蔑と嘲笑を顔一杯に浮かべ、声にも表現した。  

 「さっさと来いよ、雑魚ども!  抵抗出来ない少年少女を嬲れても、武装した男は怖いってか?  んぅ?  」  
 「抜かせぃ!  」  

 怒声と石弓の矢が、答えだった。大刀で払い、一息に大刀の長さの距離を跳躍し、脳天に小刀を叩き込む。  
衝撃で頭蓋骨が陥没し、両の眼球が視神経を引いて飛び出る様を、少年少女はモロに見てしまった。  

 「折角の飛び道具を外すなよ〜?  さあ、お次は誰だい?  」    

 少年少女からはAHOと名乗る男の顔は背を向けていて見えはしなかった。だが、その声は確かに「笑って」いた。  


518  名前:  小官  ◆qG4oodN0QY  2006/07/08(土)  20:13:46  ID:???  


 少女の10歩を数えるだろう真円が、AHOと名乗る男の『殺界』だった。幅広の両刃剣を持った男が突進し、  
難なく首の太い血脈を刎ねられ、辺りに血潮を撒き散らす。それを回避した斑模様の服を着た男は、後ろも  
見ずに片手の小刀の刃を投げ上げ、逆手に持ち替えて後ろに振り下げる。狙ったが如くそれは見事に、  
背後から襲い掛かってきた小剣遣いの心臓を胸骨を避け、下から貫いていた。  

 「残りは一人だ。どうする?  坊ちゃん?  お付きのお姉ちゃんにいいトコ見せたいなら譲るぜ?  」  

 崩折れた小剣遣いを支え、小刀を持った手首を捻りながら、AHOと名乗る男は振り向いた。3人もの男の  
命を瞬時に奪ったと言うのに、男の唇の端には親しげで魅力的な笑みが消えて居なかった。  

 「…!  サイア、退いてくれ。弧は男(おのこ)として…」  
 「君子危うきに近寄らずです、公子!  そこの亜父(あほ)とやら、臣が痴れ者どもを討つ!  」  
 「君の様な美女候補には是非、小川  憲人と呼んで欲しいモンだね?  坊ちゃん、俺は残念…」  
   
 サイアと呼ばれた少女の髪留めを少年は外す。操作すると鋭利そうな刃が飛び出す。少年はそれをただ  
一人残った暴漢の眉間へと投擲した。狙いは寸分違わず、人体で最も堅い部所であろう一つに突き立つ。  

 「へえ、手裏剣術、ね。ここまで逃げて来れたワケだ。お兄さん感心感心、と」  
 「公子に先程からの無礼千万許しがたし!  そちは何者ぞ!  」  
 「…おお怖い…おっと、冗談冗談!  ったく…目覚めてくれないと話が進まねえんだよな…」  

 男はサイアの真剣に怒る表情を見て、相好を崩す。旧知の人間に逢ったかのように親しげに小剣を保持した  
片手を振り、いなす。そして急に真顔に戻る。何故かサイアの胸が急に一度、高鳴った。ドクン。頬が、熱くなる。  

 「今は何年だ?  」  

 サイアのその反応を見透かした様に、AHOと名乗った男の顔はとても優しく、笑っていた。    



531  名前:  小官  ◆qG4oodN0QY  2006/07/10(月)  03:25:30  ID:???  

>>518  

「現ライセナ王の在位12年と102日…」  
「かぁ〜…そんなんじゃなくてなぁ、帝国暦だ。まだ在ったら、だが、な?」  

 サイアのローカル過ぎる答えに、AHOと名乗る男、いや、小川憲人は大袈裟に、  
心もち愉しげに額に左手を当て、天を仰ぎ言葉を続けた。帝国、と聞いた瞬間、  
少年少女の瞳が期待に輝く。小川は空気が変わったのを感じ、公子と呼ばれた  
少年を見詰めた。少年ながら凛々しいその態度は、陸自に生きた小川に好感を  
抱かせるには充分過ぎた。  

 「弧は爺より今は、帝国暦893年と聞いている」  
 「…100年経ったのかよ…よくぞ持ったり89式!  …湿気が無かったのが幸いか」  
 「…弧は貴殿に救って貰うた。しかし聞かねばならぬ。貴殿は一体何処から来た  
   のだ?  そして何者なのだ?  突然、現れた様に弧は…」  
 「公子!  こやつ、死霊の類(たぐい)に候!  離れませい!」  

 サイアは公子を背後に庇い、小川を睨み付けた。柳眉を逆立てて怒っているのだが、  
滲み出る愛嬌は隠せない。小川は鼻で哂って距離を詰め、サイアの額を指でつつく。  


532  名前:  小官  ◆qG4oodN0QY  2006/07/10(月)  03:27:02  ID:???  

サイアの胸の奥が何故か、不思議な懐かしさで切なく、痛み、涙が出そうになる。  

 「ま、当たらずと言えど遠からずって奴だな。AHO指数で50点はやろう」  
 「ふざ…」  

 けるな、とサイアが怒声を上げようとしたその時、口が意のままに動かなくなった。  
何か別の者が自分の中に居る、と感じた時、膨れ上がる理解出来ぬ想いが彼女  
を支配していた。恋慕、思慕、慕うと言う得体の知れぬ感情が突然、あふれ出す。  

 「けるで無いわ…。この…この…痴れ者め…この…この…たわけ…」  
 「サイア…?  何を言っているのだ…?  この者は知人なのか?」  
 「やっと出て来たか相棒?  まぁ、俺の魂を取り込んで、天界とやらの戦野  
   へ送らなかったには感謝するぞ?  素直にな?  さあ、冒険の再開だ!  」  
 「…この肉体は完全に我の物では無い。さらにそなたの存在も…不安定で…」  
 「知るかそんな事!  俺とお前が揃えば、怖いモン無しだ!  行こうぜ相棒!」  

 訳の解からぬ公子を一人置き去りに、サイアとは似て非なる者は小川と抱き合った。  
終には涙を流して頬を擦り合う2人の姿を、公子はただ美しいものと認識していた。  

 「少年、済まんな?  説明は後だ。今は黙って、こうさせてくれや、な?  」  





191  名前:小官  ◆qG4oodN0QY  :04/05/13  23:22  ID:???  
…よし、ギャグだ。決定。いくぞ!  

 競技会。自衛隊の練度を測るバロメーターである。中隊ごとにその能力を競わせ、  
優勝した中隊へは『○○競技会優秀中隊』との『看板』が与えられる。各種職能の  
大規模な競技会開催の中…それは行われた。中隊の調理能力を競う、競技会である。  
 品目は、カレー。決められた時間内に、決められた分量を調理する。一挙にその数、  
各々の中隊分と、審査員分。この競技会には…尉官や佐官の出る幕は、無かった。  

 「番号、始め!  」  

 森の開けた広場の中、3中隊がその威信を懸けて、カレー調理を担当する。各中隊、  
10名の人数で、何十名分ものメシを用意しなければ為らない。ミスは許されない。  
失敗すれば…当然メシ抜きだ。居並ぶ中隊の連中の無言の圧力が、彼らの肩に圧し掛かる。  




192  名前:小官  ◆qG4oodN0QY  :04/05/13  23:37  ID:???  

「只今付与された番号は各人の固有番号!  以後の行動は番号を以て示す!    
 右ェ、倣えィ!  1番、前!  5番、もう少し後退、よし!  直れィ!  」  

 中隊でも古参の一曹、曹長クラスが気合を入れた声で整列させる。大隊長の  
指示を以て、競技は開始される。整列終了後、式次第が述べられる。さあ、競技  
の幕が、上がろうとしていた。  

 「大隊長臨場、部隊気を付け」  
 「本部管理中隊(第一中隊)(第二中隊)、気を付けィ!」  
 「大隊長に敬礼」  
 「頭ァ、右(中)(左)!」  
   
 大隊長が答礼を返す。各中隊を見渡してから、直る。  

 「直れィ!  」  

 (その後こまごました号令が続くが、割愛)もう、各中隊選抜人員が焦れている  
のが肌で解る大隊長は、ニヤリと笑う。我が大隊、士気軒高なり。…ただ、皆、  
ハラが減っているだけだとは、露ほども彼は知らなかった。そして、口を開く。  

 「各中隊、始め!  」  

 S1の若手3尉がストップウオッチを押した。時間は1時間半。審査員全部のルーから  
メシから盛り付けまでその時間内に全て完了しなければ為らない。中隊の分も同時に作る  
が、配布は後からだ。見守る視線が…熱い。中でも本管中隊にはその『面子』が懸っていた。  


193  名前:小官  ◆qG4oodN0QY  :04/05/13  23:46  ID:???  
 本部管理中隊。云わば後方支援のエキスパートだ。実際、演習では彼らの中から  
糧食班が選抜され、各NO中隊から人数を若干差し出させる、と云うのが昔のやり方だ。  
 いまは、各中隊が同等の能力を持つように、と指導が入り、人員練成中である。  
器材はあっても、人が居なければ話に為らない。各NO中隊は、本部管理中隊との人事  
移動で来た人材を、この競技に投入していた。後方支援の本家は、負ける事を許されない。  

 「どんな料理が出されるのか…楽しみです。ああ、各種香料の入り混じった香りが…」  

 この広場を貸与してくれた『長老』が言う。しかし、永遠の若者たる彼らにとってその  
称号は奇異どころかはっきり云って相応しく無い。大隊長は隣でムゥ、と唸る。御付の者が  
見とれていたのだから。しかし、不満を顔には出せないのが、上に立つ者の辛い所だ。  


194  名前:小官  ◆qG4oodN0QY  :04/05/13  23:56  ID:???  

 「裁断班、作業完了!  これより材料投入!  」  
 「馬鹿!  手前!  こら!  そこ!  火加減!  ああ、焦げるだろ!  」  

 テッパチに迷彩服姿に、白マスクと使い捨てプラ製手袋は余り似合わない。  
しかし、これは飽くまで調理なのだ。皆、大真面目だ。与えられた材料は、  
同じ。これにどう、アレンジを加えるか?  ルーは業務用カレーフレーク。  
水加減と、野菜の分量、加熱時間が、勝敗を分ける。だが、一番大事なのは…?  

 「3、2、1、今!  それ、攪拌!  …閉じろ!  」  

 米飯だ。釜で炊くが、これも方法が指定される。カレーのキモであるメシが  
焚けないと…中隊に配布されるのはカレールーのみだ。…予備など無い。  
 失敗したが最後…他の中隊にアタマを下げて、貰いに行くしか道は無いのだ。  
必死だな、と冷笑した奴がその場で袋叩きにされかね無い程、緊張感が張り詰めていた  


195  名前:小官  ◆qG4oodN0QY  :04/05/14  00:07  ID:???  
で、各中隊が完成品を審査員の前に並べ終わったのが、5分前キッカリで有る。  
品目は、野菜サラダ、カレーライス、福神漬け。各中隊の個性がもろに出る瞬間だ。  
 本管中隊。サラダの野菜もカレーライスも盛り付けの形は良い。全体的に細やかだ。  
第一中隊は戦闘部隊の気質を残した荒々しい出来で有る。野菜もぶつ切り、ごろごろ大きい。  
見た目は『?』だが、食欲をそそる匂いだ。第二中隊。…同じ戦闘部隊なのだが…ちょっと  
上品だ。なんと米が良い。立っている。他の中隊が焦げ目が有るのに対し、ふっくら美味しそう  
に長けている。大隊長の心中は…サラダは本管中隊、ルーは第一中隊、米飯は第二中隊だった。  
しかし長たる者、我儘は云ってはいけなかった。可愛い部下が心を込めて作ったのだから。  

 「ああ、済みません、そちらのサラダとそちらの汁、それとそちらの穀物を頂けますか?  」  

 長老が、明るく云った。…何の屈託も無く。大隊長はその日、一日中何故か不機嫌だったと言う。  

                                                             END  

249  名前:小官  ◆qG4oodN0QY  :04/05/15  10:59  ID:???  

 僕達は2重に取り残された。日本にも、友軍にも。僕は神は信じない。でも祈りたくは為る。  
夢なら、醒めてくれと。連隊長がいくら謝って呉れても、足りない気がするのは…僕だけだろう。  

 「総統閣下がトチ狂う前に、社会の理想を見たのが『戦場』だ!  …勝利と云う目的のために、  
   各人が己の果すべき責務を担い、一心にただ、戦う!  あらゆる階層から志願した兵士がだ!  
   一致団結するその姿は、例う物無き美しさを誇る!  ただ、間違えたのはな…!  」  
 「…負けると解っていても、遣らねばならぬ!  皇道派の日本人しかり、本物の右翼ってのは  
   こう、なんかヒロイックな自意識に被れてるんですよ!  最後に割を食うのが巻き込まれた  
   人間なんです!  終わらせる事も考えて初弾発射して下さい!  坂崎班長!  」  

 義を見てせざるは勇無きなり。勇有る者は必ず仁有り。文句は言っても、僕はこの人の生き様が  
好きだ。どんな馬鹿を次は見せてくれるのか?  どんな事を矢弾飛び交う中で語って呉れるのか?  
 僕は、西  大輔。西2士と散々班長にからかわれ、鍛えられた。WACの駆け足の隊列にワザと  
くっ付いて、『さあ、良く覚えとけよお前ら!  娑婆には無い、いいケツだろ?  な?  』に始まり  
『夜中に便所で射撃する奴!  弾倉空に為ったら明日がキツいぞ!  』等…娑婆ではとても聞くに  
耐えない卑猥かつ猥褻な表現が…新教入りたての、当時の僕等の緊張をほぐしてくれた。  


250  名前:小官  ◆qG4oodN0QY  :04/05/15  11:01  ID:???  

 「どうせ死ぬなら美しく!  ってグロ否定じゃ無いぞ?  生き方って奴だ!  」  
 「…ドン・キホーテが常人のアロンソ・キハーノに戻って死んだ様にですか!  」  
 「馬鹿!  シラノの様に、『誰にも汚されぬ心意気』を持って、さ!  死体を壊せても、  
   俺達の信じた理想、気高き魂は汚せは出来ん!  綺麗なまんまあの世に持っていく!  」  
 「フーゾク通い『だけ』の達人が今更何を言うんです!  …聞きましたよ?  本当の事…」  
 「ばれたか…女の子とご歓談してただけだ。誰かの支えに、為りたかっただけさ…」  
   
 人間には2通り有る。『馬鹿な人間』と、『馬鹿になれる人間』だ。僕は坂崎班長は前者だと  
ばかり思っていた。だが…言動と中身は違うと思い知らされた。こんな状況でも、班長は平然と  
している。…ハッキリ云って、僕達特科中隊の全滅は近い。移動速度と踏破能力に難が有り過ぎた  
のだ。しかし、坂崎班長は笑っていた。聞けば、『アイツが助けに来てくれるさ』と言っていた。  
 アイツ。僕の知っている人は…既に死んだと聞いていた。坂崎班長は僕にだけ、言ってくれた。  

 「ホントにアイツが死んだなら、真っ先に俺に報告に来る筈だ。新教前期の班長と教え子の絆ってのはな、  
   結構、濃いんだぜ?  西陸曹候補生よぉ?  だから、俺は信じない。アイツは生きている。必ずな?  」  

 敵が眼前に迫る中、僕達は静かに着剣した後に、また撃ち続ける。僕達の名は残るだろうかと思いながら。  

こいつらも本編とやらで  でてきそうだがなw