461 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/01/31 15:28 ID:???
俺は蹲り、震える『女』の長い髪を掴み、喉を露出させて、私物の『剣鉈』で一息に貫いた。
延髄を貫く固い手応えが、命の重さと尊さと儚さを俺に実感させる。…『女』が真っ当な人間で
は無い事が、俺にとっての唯一つの救いだった。痙攣を繰り返す肢体は、反射的なものだろう。
「…悪く思うな…。コイツは自衛のための『超法規的処置』だ…。生きてられちゃあ困るんだよ」
俺はRCN、レコン、いや、偵察大隊に所属する隊員だ。所属は…言えない。この世界の状況を探る
先遣隊として、活動していた。この深い森で消息を断つ偵察隊員が続出したため、遂に新米である
『俺』の番が廻って来たのだった。事の真相は…。俺はあちこちに転がる木乃伊化した死体を眺めた。
…見覚えの有る迷彩服姿だ。『女』はそう、俺達の世界で言う、『淫魔』だった。
大方、女に目が無い『先達』達は誘惑に負け、『精気』を搾り取られたのだろう。下半身丸出しの、
萎びたナニが露出した姿がその醜態を雄弁に語っていた。
「童貞で助かりましたよ、先輩方…。女だろうが何だろうが、敵の前で迷うよりはマシですよ。
御蔭で生きていられる。敵を前にして、気持ちイイだとか余計な事を考えずに済みますから…」
俺は『女』を蹴り飛ばし、剣鉈を喉から抜いた。笛の様な高い音が、『女』の裂けた気管から漏れた。
OD色一色に塗られた、自分の乗って来たオフロードバイクに向かって歩き出した。背負った無線機が重い。
無線は…この森では何故か使えなかった。何らかの妨害手段を、森が有しているのだろう。此処は異世界だ。
何が有ったって不思議では無いのだ。油断は即、自らの死に繋がる。背後の茂みが、突然、不自然に揺れた。
俺は肩に掛けていた、64式小銃を降ろし、茂みに向けた。…特科隷下なので、89式はまだ、回って来て
は居ないのだ。しかしこの場合はそれに感謝した。弱装弾だが、7.62o弾は弾頭重量で弾道を保ってくれる。
462 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/01/31 15:51 ID:???
「出て来い…。この『女』の様には為りたく無いだろう? 」
「どうして…殺したの…? お母さんや私は…ただ此処で生きているだけなのに」
「俺を恨む位なら、浅ましい種族に生まれ付いた己自身を恨むんだな、淫魔」
そう、此処に棲んでいた淫魔は『母娘』だった。俺が『処理』したのは妖艶な『母』の
方だった。可憐で清楚な少女の外見を持つ『娘』は、俺が森に入った時に顔を合わせた。
…『母』が病気で苦しんでいる、と、この森の奥まで案内して来たのがこの『娘』だ。
「私たちは、何にも悪い事、していないのに! 忌み嫌うのはいつも…」
「黙れェェェェェェェっ!」
俺の腕の中の64式が、一声吠えた。…天に向かって。そうだ。この世の生けとし物は皆、
他者から命を奪い、生き延びる。俺達とこの淫魔に何の違いが有る? …大した差は、無い。
「…来い。『食事』に困らん所まで、俺が連れて行ってやる。『馬鹿な男達』が沢山
居る『街』までな…? この森は後発の部隊が通過する予定だからな」
俺は淫魔をバイクに跨らせ、その後ろに跨った。俺は『馬鹿な男』に為るまいと心に誓いながら。
715 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/01 18:22 ID:???
「防護結界はあと何分持つ? …核攻撃からの防御だが…当てにして良いのか? 」
「…術者の命が続く限りだ。高位魔導士はこの私も含め4人。一人1日の計算だ。
満足か? そなたは? 同胞同士殺し合って? 同じ理を信ずる人間であろうに」
最悪のシナリオだった。在日米軍の蜂起。この世界との融和を目指す我々『日本国』の
意向に真向から対立した彼等『空軍』と『海兵隊』は、一方的にこの世界の国々に対し、
『宣戦布告』を行った。子供染みた価値観しか持たぬあの国で育った『在日米軍』首脳陣
が、己の持つ力に『舞い上がった』挙句の所業である。日本政府は追従の姿勢を取ったが
防衛庁は秘密裏に、『外交チャンネル』を維持するためだけに俺達『脱走者』を送り込ん
だ。勿論、表向きの話だ。実質『軍事顧問団』だ。飽くまでこの世界の『やり方』で米軍
を止めねば為らないのが、俺達に課せられた任務だった。…奴等が東京に『秘匿していた』
戦略核を落とすまでは。京都に立ち上げられた臨時政府は、即座にこの世界と同盟を組んだ。
京都を守るため、俺達『自衛隊』は『現代兵器』と『魔法』の力を融合させ、活用する。
例え、理屈がどう有ろうと、神の教え諭す人道に背こうとも。国民の命と財産を守るために。
…END?
221 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/04 18:15 ID:???
「コイツ、まだ動くぜ? あらよっと! …まだかよ? 面倒臭ェなあ…」
ドガ! 64式小銃の総重量4.5sが、金属製の銃尾板を下にして痙攣を続ける『死体』に振り下ろされた。…何度も、何度も。
俺達は何をわざわざ人の土地まで入り込み、何のために戦っているのか? …馴染みの酒場で親しげに話していた少女が、短剣を向けた
時点で、俺は考えるのを止めた。最早、駐屯していた『街』の住民全てが、『敵』と化していた。ゲリラ・コマンドー。
俺達が散々演習で仮想敵としていた通称『ゲリコマ』だ。石造りの『街』の彼方此方から放たれる弓、クロスボウの矢は、対砲弾破片
防御用の、安っぽいベストを易々と貫いた。転びそうに為っていた老婆が、『神の名の下に! 』と、支えた一般大出の『士長』の首を
隠し持っていたダガーで切り裂いた。二次大戦下の中国での旧日本軍の心情が、今の俺達には理解可能だ。誰が敵か? 誰が味方か?
教会に招かれた中隊長が、塔から逆さ吊りにされて晒されたのがほんの2日前。B、防大出の先任士官は、俺が撃った。…余りの拙い
指揮振りに、我慢できずにだ。先任陸曹の俺が、実質部隊の指揮を執っている。…新任士官は、発狂寸前だ。俺達は、生き残って、見せる。
223 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/04 18:35 ID:???
事は俺達の使っていた、私物のDVD再生機が、発端だった。最初は親しい住民だけに見せて居たのだが、
話が伝わるにつれ、この地を統括する『教会』の耳に入ってしまったのだった。間の悪い事に…聖職者達
が上映現場に踏み込んだ時は…その…『シスター凌○』モノをやっていた真っ最中だったのだ。
この都市は、この世界の宗教者にとっての云わば『聖地』だった事が、俺達の第二の不幸だった。
『悪魔め! 貴様等は悪魔の使徒だ! 善良なる街の住民を堕落させに降臨した…! 』
女司教は俺達の言い分を聞かず、退去した。事情説明に中隊長が赴き…あの結果と相為ったのだ。
そして、街の住人に通達が出た。『悪魔を、滅殺せよ。神の御名に措いて』と。震え上がったB出の
副中隊長は、事も在ろうに、自分と数名だけで逃げ出そうとした。捕らえた俺は迷わず撃った。
…奴がDVDなど持ち込んだのが、全ての不幸の始まりだったのだから。 END?
238 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/04 21:15 ID:???
真のダンディズムとは? …人の嫌がる事を微笑みながら行うものだ。サラリとな。
>>223
俺達は遂に教会内部へと突入した。煌びやかなその装飾品、祭具等は、市民の食うや食わずの生活
レベルと比較すると、全くの異世界人である俺達の目から見ても…宗教者には分不相応と思えた。
市民に清貧を説いた口で、この贅沢振りだ。俺達は侵入すると片っ端から室内を『掃討』した。
開いた口が塞がらなかった。『悪魔』と俺達に良く言えた。…退廃の巣だった。クリスチャンの士長
は云った。『ソドムやゴモラが現世に在れば、きっとタメ張れますよ』と。
「さあ、気高き聖女さんとやら? 目の前で奇跡を起こして下さいませんかねぇ? 」
俺は裸に剥き、手首を縛り上げて高く吊るした、妙齢の美女に向い嘲笑した。散々抵抗した
報いだ。剥いただけだ。『悪魔』認定を撤廃させるのが目的だ。拒否したならば? 決まってる。
その姿のままで、市内を練り歩くだけだ。同じ格好をさせた、他の聖職者どもを仲良く共にして。
神殿内部を一般市民達に見学を許した俺達は、下級市民の支持を得ていた。…革命かも知れない。
「その位で許してやれい、下郎が。…ちと不粋に過ぎぬか? この様な淫らな所業に耽ったとは
云え、一応、我が信徒を名乗る者。中隊長とやらは蘇生させてやるゆえ、もう手を打たぬか? 」
俺の背後に、凛とした女の声が響いた途端、聖女を吊るしたロープが切れる。力なく崩折れる聖女に、
ローブが宙から出現し、被さる。俺は振り向いた。…美しい女神像が、『女神』として俺の前に立っていた。
240 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/04 21:34 ID:???
>>238
「無辜の市民に危害を加えぬその心根、褒めて遣わす。襲撃者への残虐行為は…
致し方無いがの。貴殿達の行為はこやつ等への神罰替わりに丁度良い薬となった。
妾の名に於いて『魔』認定を解いて進ぜようではないか。…苦み走った良い男よ」
俺は得々と話す『偉そう』な女の威厳に負けじと、睨んだ。この女が女神様だろうが知った事か。
市民との相互不信を招いた責任を、取るべきは…
「最も、手を打たぬならば、それでも良いがの? こやつ等の換わりなど幾らでも
居る。妾の手で皆殺しにしようかどうか迷っておった所なのでな? 難ならば、
そなたでも良いぞ? …妾に仕えぬか? 神たる妾に刃向かおうとする気概や良し! 」
読まれていた。俺は跪いた。此処は従おう。神様に尻拭いをさせるのも、たまには悪くない。
END
382 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/10 03:47 ID:???
気が向いたので、書いて見る。続くかも…な。
「悪い、起こしたか? ゆっくり眠ってくれ。…馬小屋なら一晩で回復するだろうがな…」
戦車のターレットに凭れて眠っていた、ローブを着た魔導士の足を、俺は引っ掛けてしまったのだ。
二次大戦のソ連歩兵のタンク・デサント張りに、5名もの魔導士がこの新型試作戦車にへばり付いて
居た。言って見れば、この戦車の主砲の装薬代わりだ。乗員は自動装填装置の御蔭で、車長、砲手、
操縦手の三人と、…新型砲の動力源たる魔導士一人の4名。上の方では、『この世界との融和を示す、
輝かしい第一歩である! 』と曰って呉れた。…いい気なもんだ。科学の塊の戦車が、物理法則を半分
馬鹿にした様な力で動いているのをマスコミが知ったら、さぞや騒ぐに違い無いだろう。
「何だよ? どうした? 気に障ったか? …ゲームの話さ。車内でやらせた事あるだろ? 」
「貴方達に逢えて良かった…。人間扱いをしてくれるのは、貴方達だけ…」
魔導士が被っていたローブを上げた。…泥や埃に汚れたローブからは想像も付かない…綺麗な顔だ。
洋ピン雑誌のグラビアモデルなど論外の…美形だ。ヤバイ。マズイ。女だとは…気付かなかった。
596 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/12 02:40 ID:???
>>382
「そうだな…引いたよ。『アン』が急激に老化した時、スィスがいきなり喉笛掻っ切った時はな…」
戦車砲こと『魔導砲』。突如現れた『世界』の破壊者。日本『島』ごと呼ばれた俺達は、『この世界』の
危機に立ち向かう事を『この世界』の『統治者達』から『要請』された。協力は、惜しまないから、と。
破壊者は、多分…止めておこう。こいつは主観の問題だ。だが、俺達が倒した『個体』達の言葉から判断
すると…この『世界』の『人間』を『創った』…奴だ。俺達日本人は普通、そいつをこう呼ぶ。…『神様』だ。
耳の尖ったこの『連中』は、差し詰め、『先行量産型・人類』な訳だ。やたら精神文明に走りすぎたのが、
『神様』の御気に召さなかったのだろう。しかし…この『装弾手』こと魔導士連中は…尖っていない。
彼等は、『戦争』の為『だけ』に創られた『人間』である事は、『支配者』の横暴ぶりから容易に見て取れた
「名前を…有難う…。『セート』って…付けてくれて。こんなの…始めてだから…」
「…大学で、フランス語齧った士長が操縦してる戦車だからな…『7』って意味さ。
名前が無いと、呼び辛いだろう? 戦闘中もさ…ああ、俺はドイツ語の方が戦車
に合うと思ったんだが…『発音が堅くて、彼らに合わない』って奴に言われてな? 」
今残っている連中は、4こと『カトル』、この『セート』、そして8こと『ユート』の三人だった。
…2桁目は…正直、数えたく無い。後の奴等は、搾り尽されて死ぬか、『敵』の撃ってくる『弾』で死んだ。
神様もまた、俺達の世界から『ツマミ食い』していたのだ。『消えた兵隊』や『謎の失踪』を遂げた軍艦、
航空機…。皆、俺達の敵だった。皆、少しこちら風味に強化されて。血の涙を流しながら、『殺してくれ』と
迫る江戸末期の洋装幕軍兵を目を瞑って焼き殺した普通科の奴の話を、最近聞いた。
…一端ここで切る。回線の調子がおかしいのでな。
597 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/12 03:06 ID:???
>>596
死ぬために、死をもたらす存在として生を受けた彼等『魔導士』を俺は、嫌悪していた。
同族嫌悪だった。ひたすら意識せずに、会話の一つもしない様に注意していた。
あんな光景を見せられて、問い詰めた挙句に、主人のために死ぬことが定めだ、と真顔で
反論されてしまった時、俺は彼等に羨望した。彼等の死には、『意味が在る』のだと。
反面俺達『自衛隊』はどうだろうか? 国会では未だに憲法論議、国内では『厄介者』と
真顔で言う奴も少なく無い。俺は出来る事なら、『意味の在る死』を迎えたかった。
「…食うか? 最後の『カロリーメイト』だ。三人で食べろ。川島や中村には、内緒だぞ? 」
「はい、サトーニソー! …これ、美味しいから、好きです…」
嘘だ。砲手の川島と操縦手の中村には話して有る。『弾薬』の補給はこれで最後にしたかった。
もう、川島など涙目で俺に言ったものだ。『あの娘達が…可哀相です…』と。『カトル』と『ユート』
が、国に残した娘と同年代だと言う。食料の補給は充分ではない。『四類』こと嗜好品、菓子、カップ麺
は、ほとんどが自前で調達する。他の戦車の弾薬の補給は…三桁台に突入したと、曹学の同期から聞いた。
一端、また切る。また、いつかな。
598 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/12 03:30 ID:???
>>597
「あと…『スィス』…幸せ…だったと思うの。サトーニソーに無視されていたけれど…
『スィス』…いつもわたしに言ってた…。あの人は、『いい人』なんだって…」
「…イイ人がな…『魔導砲』で…人を撃つかよ…バカヤロウが…」
『スィス』こと6。敵の『ケーニフィス・ティーゲル神様風味』を倒す為に、ティーゲルに抱き付き…
『魔導砲』で自分を撃つ様、俺に念話で語りかけて来たのだ。最後まで、女である事を匂わせなかった奴。
川島は言っていた。奴は…院で生物学をやっていたと言う。生体は雌性体の方が、在る意味、丈夫だと。
川島の言うには、『弾薬』は皆、雌性体ではないかと。 俺は否定した。声など聞いた事は、俺は今まで
無かった。念話で話して来る時は、『文字』が頭の中に挿入される『感覚』だったのだから。
「…サトーニソー? 泣いてるの? 」
「…哀しくないのかよ…お前らは…! 」
明日も『敵』は現れるだろう。『この世界』の『終末の黙示録』はまだ、続いていた。俺達の目の前で。
寂しく為ったのでキリの良い所まで。では、また、な?
139 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/15 04:30 ID:???
ふむ、良いぐらいに荒れておる。毎度毎度、善きかな。天晴れと言うべきか。
行くぞ一億火の玉だ! と、戦時キャッチコピーを云ってみても、解らんだろうな。
「戦死者の『処置』は忘れるな! 死霊術師の媒体にされるからな! 出発は30分後! 」
小隊長の怒声が静かな戦場跡に響き渡る。いい気な物だ。やらされる身になって見ろってんだ。
このB出身の『馬鹿』が! Bは防大出、Uは一般大出、Iは部内選抜の『幹部』のことを指す。
俺達下っ端はその三つを、『馬鹿、ウツケ、石頭』の頭文字だと裏で言っている。特徴を見事に
捉えた、綽名だ。原則馬鹿に、軍事のぐの字も弁えない糞野郎に、自分の経験でしか語れないアホ。
マシな『幹部』は、見切りを付けてとっくにドロップアウトか、上意下達の『聞く人形』と化す。
…コイツはその典型だ。上にしか目が行って無い『ヒラメ』でもある。俺は同僚の死体を積み重ね
る。中隊の半分が、死んだ。コイツの戦術眼の無さでだ。敵の投射兵器がただの弓だけだと誰が決めた?
「…俺を恨むなよ、松田…そんな目で俺を見るな…」
同期入隊の、松田。曹教も昇進も、一緒だった…。死体の山の中から、生き残った俺を恨めしそうに
見ていた。血とガソリンの混じった匂いが、鼻に付く。俺は松田から前に貰ったオイルライターに火を
付け、放った。火柱が瞬時に立った。陽炎が揺らめく中、俺は自分の眼を疑った。
「小隊長、アンタ、ツイてないぜ? …手遅れって奴だ」
一度死んだ相手を、二度殺せるのか? 俺は89式の銃把を握り締めた。 END
441 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/17 04:17 ID:???
またまた荒れておる。イイ感じだな?
>>440、そいつは個人の解釈の範疇だ。治癒魔法の限界などを隠し味に使う人間も居る。
Wizの『マディ』など使われた日には…腕が千切れようが再生OKだったりする。
原則的に『死からの復活』は避けた方が良い。もう一つの美味いネタ、『戦乙女』が、
使用不可に為るのでな? 究極、冥界の存在も無くなってしまうな。で、小官のファンタジー、
篤と御覧アレ。…魔法や中世だけが、ファンタジーではないのだよ、諸君。グノタファンタジー、全開!
442 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/17 04:26 ID:???
「…で、何なんだアレは? 新手の…現代美術のオブジェなのか? 」
俺達は頭を抱えた。蒸気自動車だと? …内燃機関が、無い世界。云わば、石油が未だ燃料と考えられない世界に、
俺達は居る。巨大な外輪を付けた船、人の乗る部分より、『エンジン』の方が遥かにデカイ自動車…。歯車と器械の
世界が、深い霧を抜けた俺達、『新隊員教育部隊』の迷い込んだ先だった。俺達の乗ってきた3トン半は、一台が参考
のため解体された。やがて来るだろう石油の時代は、この世界にも、植民地戦争の嵐を巻き起こすのか…? END?
690 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/18 04:43 ID:???
ぬう…また微妙な雰囲気に…! ホンワカ風味の萌えスレに、野暮助、小官、推して参るッ!
「まだだ…まだだぞ…まだだ…あと、もう少し近寄ってくれよ…」
掩体を構築した小銃壕の中で、僕は偽装を終え、『敵』を待っていた。指揮官は直ぐに解る。
煌びやかな、装飾の多い鎧を着た奴がそうだ。自分の呼吸音とキリキリと絞られて行く引金の
音しか、今の僕の耳に入らない。…『人』を撃つのに、こんなに嫌な思いをするとは!
「暗夜に霜の降る如く…暗夜に霜の降る如く…」
堅く粘り気のある唾が口の中に湧き出る。飲み下すと、喉に支える程だ。64式の引金の『遊び』
を、僕は徐々に殺して行く。今誰かが僕の右人差し指に息を吹きかけたら…?
コトリと音が鳴り、引金が落ちてから、撃針が雷管を叩き、64式から弾丸が飛び出すだろう。
射撃の成績が抜群に良かった、ただそれだけの理由で、僕は強制的に『人』を撃たされるのだ。
「あれは人間じゃない…あれは人間じゃないんだ…うろたえるな…僕…」
『昔に何処かで見たことの在る様な、異様に耳の先だけが尖った、『人』らしき生物だ』と、
中隊長は僕を呼んで吐き捨てた。ここで斃れた仲間のためにも、僕は撃たねばならないのだ。
照門の中にぼんやりと見える『敵』が、僕の隠れている方角、前を指差した。見つかったのか?!
200m位も離れているのに! 僕の動揺が瞬時に右人差し指に伝わり、正直に引金が、落ちた。
…まあ、続きはどうするかは小官も悩む所だ。
465 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/23 21:50 ID:???
『敵』の天幕から、アノ声が漏れる。素人どもが。将官用の豪華な造りの、大きな天幕だ。
俺はRCN隊員の新米だ。しかしこうも簡単に侵入出来るとは思わなかった。間抜けな護衛兵が
股間を突っ張らせて覗いて居た。揃いも揃って馬鹿どもが。『勇将の下に弱卒無し』を地で
行く組織だ。…中世人め。文明人に楯突くレベルに到達するには後100年は掛かるだろう。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 嫌、嫌、嫌ぁぁっ! 」
女の悲鳴が俺の耳に届く。大方『現地徴収』したのだろう。自衛隊は『諸般の事情で』
女の声ですら『立つ』奴も居ると言うのに。…俺にはとても理解出来ないのだが。
やがて太って血色も良い男が、天幕を出て、護衛兵に何かを詰まった布袋を握らせた。
仕切りに頭を下げながら護衛兵はそれを受け取っていた。…俺は気分が悪くなって来た。
俺は人身売買が何よりも許せなかった。これはその最たるものだ。管理区域での人身
売買行為監視も、偵察隊員たる俺の任務だ。紛争地帯とは言え、此処は俺達の『縄張り』だ。
俺は怒りに燃えて警備兵の背後に近づき、左手で口を塞ぎ、その喉に右手の私物の『剣鉈』
を滑らせた。噴き出す血潮が茂みを濡らし、白く咲いた花を紅に染める。俺は絶命を確認する
と、天幕の中へと侵入した。女の息を呑む様子が聞き取れたが、俺の眼がまだ慣れていなかった。
468 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/23 22:18 ID:???
天幕に漂う臭いが、俺の鼻を刺す。営内や『大』のトイレに一瞬香る『精液』の臭いだ。
ニ、三度瞬きすると、眼が慣れて来た。相手は全裸だった。体中、汚されていた。しかし…
「見ないで…見ないでェ! 」
「ふん、『食事』か? イイご身分だな? 何もしなくてもメシが切れんからか? 」
「貴方にだけは…見られたくなかったのに…こんな姿を…」
『女』は俺が前に放してやった『淫魔』の『幼体』だった。声で気付くべきだったのだ。
俺は深い溜息を吐いた。全てが茶番で、徒労に終わったのだから。天幕の太い支柱に、鎖で
足首が繋がれていた。俺のモノ問いたげな視線に、『淫魔』が気付いたのか話し出す。
「抵抗…したの…」
「はぁン!? 抵抗だぁ!? 何でだ?! 嫌がるとか選り好みする…」
ご身分だった。高潔な魂の持主を堕落させると言う伝説を持つ、俺の世界の『淫魔』は、
そうだ。下種の生命力なんぞ喰ってもマズイだけか…? 俺と目と目が合った『淫魔』は、
ハッとした様子で目を背けた。その自然な含羞の仕草が、男の劣情を誘うのだろう。
…俺は、釣られない。こいつらに殺された先発隊のためにも、俺自身のためにも、だ。
「痛っ…」
今更俺の視線から身を隠そうと言うのか、『淫魔』は背を向けた。小さな叫びに目を遣ると、
足首の鉄輪が擦れ、皮膚が裂け肉が弾け、白い骨が見えていた。見るからに痛々しかった。
俺は酷い臭いに耐えながら、64式の銃口を鎖に向け構えた。『偵察隊員としては、失格だな』
と心の中で苦笑しつつ。轟音の後、鎖が弾け飛んだ。
…続く?
481 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/23 22:59 ID:???
千切れた鎖を手にして、その先と俺とを交互に見比べる『淫魔』を、俺は怒鳴り付けた。
「嫌なんだろうが! 俺が逃がしてやると言っているんだ! 付いて来い! 」
座り込んだまま動こうとしない『淫魔』の手首を、俺は掴んだ。ねっとりとした感触は
多分…川だ、川に逃げて臭いを消し、先ずは服を調達! O-1は駐屯地へ駆け込む!
O-2は適当な所で別れ、偵察を続ける! O-3は…このまま行動を共にする。行動の優先順位
を決める間も無く、矢が背後の幕を貫いた。包囲される前に、何とか天幕から脱出しなければ…!
なのに、まだ『淫魔』は座り込んだまま、俺を見詰めている。…傷付いた足を、さすりながらだ。
「自分で立て! 歩け! 走れ! 媚を売るな! 置いて行くぞ! 」
効き目は…無かった。俺は遂に『淫魔』を背負った。…私物なんだぞ! この迷彩服は! 糞!
「矢に貫かれても、文句は聞かんからな! 」
「…はい…」
耳元に吐息が掛かる…。ええい! 色即是空 空即是色! 万物流転の永遠回帰! あと、喝!
それが駄目なら…俺は自衛官だ! 新聞に載るぞ! …よし効いた! …俺もまだ『男』らしい。
哀しい性だ…。同志シラノ・ド・ベルジュラック(劇内)よ有難う! よし…『萎え』た。
俺は即、目の前の天幕を『剣鉈』で切り裂き、外に出た。新鮮な空気が美味い。
「川は何処だ川! 」
「…水の匂いは…あっちです…」
俺は走る。『これ』に比べれば、土砂を一杯に詰めた麻製の土嚢の方が遥かに『軽い』だろうと
感じながら。敵の放つ矢が、背中の『淫魔』に命中してくれる事を祈りながら。
499 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/24 01:10 ID:???
>>481
どうにか逃げ果せた俺と『淫魔』は、川沿いの巨木の『洞』で傷を癒していた。
義を見てせざるは勇無きなり、そして仁有るものは必ず勇有りの精神だ。蛮勇を
誇る馬鹿にだけは、俺は為りたくは無い。OD色の手持ちの『救急包帯』を患部に
当てる前に、私物の抗生物質入りの軟膏を塗り込んで置いた。…薬物耐性の無い
この世界の住人には『劇的』に効いた代物だ。…怪我の程度にも因るが。救急包帯
はOD色だが、患部に当てる所には滅菌されたガーゼが付いている。これは、官品だ。
「…喰えるじゃないか、他の物も…? 何故人間の生命なんだ? 」
俺の差し出す焼き魚、焼き蛇を喰う『淫魔』に俺は訊いた。…哀しげな目が、俺を
見上げた。俺は目を背けた。…コイツに取って食い物は『飽くまで代用品』なのだ。
俺は銃剣を私物の俺のシェラフ『淫魔』との間に突き刺す。『淫魔』が身を竦ませる。
「…俺がお前に圧し掛かろうとしたら、それで俺を刺せ。いいな? 」
バイクを回収出来たのは幸いだった。官品のポンチョを頭から被り、俺は蹲る。歩哨の
経験が長い俺は、聴覚、視覚を保持したまま、『眠る』事が出来る。『演習』もこんな時
に役に立つとは思わなかった。俺の意識がどこか醒めた状態のまま、深い所へ引き摺られて
行く。少年時代の、あの日に向かって。あの狂おしくも懐かしい、日々に向かって。
509 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/24 06:07 ID:???
『わたしは…好きだよ? この風景も、気候も、住んでいるみんなも! 』
『…そう…だよね…。まだ、早すぎる…? わたし達には…? 勉強する…?
うん…待ってるから…。…ねえ、ずうっと、一緒だよね? 約束だよ? 』
『ギャハハッ、マサ、キチクぅ〜! ヒデェのォ〜! ナイフで腱切るかよぉ』
『あんな人たちに…殺された…だなんて思いたく…ないの…だから…お願い…』
『ヒイッ! お、俺が何したって言うんだよ…やめ…アギャアアアアああ! 』
「美しいものを何故美しいままにして置けない! 何故汚す! 何故手折る! 」
俺は叫んでいた。何時も此処で意識が覚める。『現実』に引き戻されるのだ。
永遠に続くと思われたあの時、世の中が公正さに満ち溢れていると純粋に信じて
いたあの時はもう、還らない。一人残された俺に出来るのは…彼女の愛したモノ
を守る事だけだ。その為には俺は何でもしよう。胸を張って、彼女に再び逢うまでに。
「…そんな哀れむ様な目で俺を見るな…『淫魔』め…心配無い! 」
「…最も邪悪なる人間は…後一歩の所で聖者に為れなかった人間…。
どうして…殺したの…? あのまま放って置いても彼女は…」
「貴様ァァァァァァァァァァ! 見たなァ! 俺の記憶をォォォォ!」
俺の世界の『淫魔』は『夢魔』でも有る。夢の中で人間を誘惑し、堕落させるのだ。
この世界の『淫魔』も同じ能力を持っていたのだ。俺は赦せなかった。コイツは大方、
俺の心の中の『彼女』を利用し、汚そうとしたのだろう。俺に自分を抱かせるためだけに。
俺は立ち上がり、首を締め上げた。あとほんの少し力を入れれば、こんな細い首は軽く
乾いた音を立てて折れる。それをさせなかったのは、『剣鉈』だった。しっかり弾帯に差し
た筈なのに、何故か滑り落ち、焚き火の炎の中に垂れ下がる。俺は急いで手を離し、手繰り
寄せた。最初で最後の、贈り物。これが始めて血を吸ったのが…贈り主のモノ…。
「今度無断でやって見ろ!? その時は問答無用でお前を殺す! 解ったな! 淫売! 」
咳き込む『淫魔』をシェラフに押しやり、俺は再び外を向いて蹲った。夜がもうじき、
明けようとしていた。俺は何時、還れるのだろうか? …彼女の元へ、胸を張って…。
733 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/25 00:23 ID:???
>>509
俺の『夢』への『淫魔』の介入は一週間経過した今でも、続いていた。それも10年前の
中学生の俺が、裸の『彼女』を拒絶した時点を、しつこく、繰り返すのだ。俺は女を未だ、
知らない。だから耐え切れたと思う。知らなければ、目の前に女兵士が居ても、迷わずに
殺せる。抱き心地が良いだろう、ヤりたいなどと無駄な事を考えずに済む。俺は兵士だ。
それで飯を食っている。仕事の時位は、男を忘れなければならない。それが俺の心情だった。
しかし…もう限界だった。『彼女』を汚し続けるこの『淫魔』に。再三に亘り、警告した。
俺は心の中で小銃に謝った。何回も何回も謝った。下劣な事に、魂とも言えるそれを使う事に。
「あの…わたし…」
「…来て貰おうか? お前に見せたい物が有るんだ」
『淫魔』が黙りこくった俺に声を掛ける。尋常では無い俺の雰囲気を感じ取ったのだろう。
振り向いた俺は、微笑んだ。唇だけで。俺の大きすぎる迷彩シャツと迷彩服を着用している。
換えが無いので、裂く訳にはいかない。俺は『淫魔』の手を引き、小銃を片手に洞窟を出た。
恐怖に泣き叫ぶが良い。俺の『彼女』を汚した罪は、すべからく断罪せねばならんのだから。
739 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/25 01:34 ID:???
俺は『淫魔』を殺せなかった。何故か? 雰囲気が『彼女』に何処か似ていた。
俺は拒絶したあの日から、『性』や『女性』について文献を、医学書を、雑誌を
読み漁った。インターネットやwebサイトがまだ、それほど無かった頃だ。『彼女』
のためだけに。数ヵ月後の俺の誕生日、夜の公園で『彼女』は…『汚され、壊された』。
相手は俺と年も変わらぬ少年達だった。俺がどうしたかは…もう知っているだろう。
彼女の鎖骨の窪みに突き入れたあの『剣鉈』の手応えは、忘れない。奴等を『処刑』した
事も、後悔はしない。良心を持たぬ獣を駆除して何が悪い? 罪の意識など無い。有るのは…
俺は弾倉を外し、スライドを引く。薬室の一発が、抽筒子に引っ掛けられ、飛び出る。
俺は落とす事無く受け止め、引いたまま、スライド止めボタンを押す。薬室が空いたままの
状態で、用意して置いた小銃擲弾用の空砲を装填する前に、規整子を空砲に合わせて置く。
そして、一発だけ装填し、スライドを少し引く。手を離すと、スライドが戻り、装填完了だ。
「そこに…その缶を置け。そうだ…その位置だ…」
俺は『淫魔』に缶飯の缶を置かせ、その1m手前で伏射姿勢を取る。…新教の時のデモンスト
レーションだ。空砲でも…缶はズタズタに為る。切り替え軸部を『ア』から『タ』に変え、引き
金の遊びを殺して行く。そして…轟音。缶が吹き飛び、裂ける。『淫魔』が耳を塞いで、茫然と
俺を見ていた。これから自分が何をされるかも、知らずに。俺は空薬莢を回収すると、言った。
「下を脱げ」
と。含羞の仕草を見せながら、『淫魔』は脱いで行く。…その滑らかな肌が…艶かしく写る。
俺は冷静な声を作った。自分の正気を確認しながら、だ。誘惑はまだ…されては居ないと。
「その木に手を付けて、尻をこっちに向けろ」
俺はわざと、弾帯を外し、迷彩服の下を脱ぐ『音』を出す。信じさせねば、ならないからだ。
言われた通りに素直に従った『淫魔』に、俺は呉れてやる事にした。堅く冷たい、64式の銃身を。
981 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/26 01:57 ID:???
>>739
「フン、結局咥え込む訳だな? 欲しかったんだろう? ああン? おい? 」
俺は消炎制退器が隠れるまで一息に押し込んだ。泣き喚く『淫魔』に向かって俺は
静か、低い声で言った。『静かにしろよ? 見たろうが、こいつの威力をな? 』
効果は覿面だった。声を殺し、むせび泣く『淫魔』に俺は、満足する。勿論、次弾など
装填して居ない。むしろ着剣装置、『剣止め』まで挿入していない事に『淫魔』は感謝
するべきだ。ゆっくりと円運動を交えながら前後に小刻みに動かすが…俺の想像していた
反応が、無い。…罪悪感が、俺の嗜虐心を押し流す。俺のしている事は、何だ? と。
バックルを外した弾帯から『剣鉈』が滑り落ちた。俺の行為を『彼女』も咎めている。
俺は小銃を引き抜き、見た。…分泌液が、付着しては居なかった。俺はニ脚を拡げ、銃を
置いた。そして、『淫魔』の迷彩服のズボンを引き上げ、ベルトを止める。
「赦してくれ…俺は…俺は何て事を…! 抵抗出来ない弱者に…! 」
…俺は、膝を付き、泣いていた。俺のした事は、『彼女』を面白半分に
殺した奴等と対して差が無い事に、漸く気付いたのだ。憎悪からは、何も
生まれない。頭を垂れ、さめざめと泣く俺の頭を抱く者が居た。
「赦して…呉れるのか? 」
「わたしは…貴方を…癒したかった…。わたしの…やり方で…」
「…そうか…だから…お前は…俺の夢に…何度も、何度も…」
「貴方は悔やんでいた…。もしあの時、『彼女』を抱いていたら…」
そうだ。俺はずっと、ずっと思っていた。あのまま彼女を受け入れ、二人で
何処か遠くで一緒に暮らせていたら、と。俺の拒否が彼女をあんな目に遭わせた
のだと。俺は声を上げて泣いた。彼女を殺したあの時の分の涙まで流そうとする
かのように。へたり込んだ俺は、延々と泣き続けた。…『淫魔』の少女の、膝を借りて。
984 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/26 02:41 ID:???
一頻り泣いた後、俺は顔を上げた。『淫魔』に背を向け思いっ切り、手鼻を
咬む。片方の鼻の穴を押さえて鼻から勢い良く息を出し、鼻水を鼻から出す。
もう片方も、実施する。目を堅く瞑り、頬を両手で叩く。痛みが、萎えた心を
平常心へ戻して行く。もう心は、立派な自衛官だ。いつまでも少年では、居られ
ない。俺が大人に戻る『儀式』を終え、振り返ると…『少女』が微笑んでいた。
「…何が可笑しい?! 俺の顔にまだ鼻水でもついているのか?
大方…みっとも無いとでも思ってるんだろう?! 正直に言え!」
「ううん、何にも…ただ…子供みたいに純粋だなって…」
「子供で悪かったな! 畜生、どうせ俺は童貞だよ! 糞! 」
俺は言い捨てると、洞窟に戻り、寝具や道具をまとめる。撤収だ。迅速かつ
正確さが、要求される。付いて来た『少女』は、俺の手つきを後ろからじっと
見詰めていた。特に俺の紐等を結ぶ手つきを注視している様だった。
「…ん? 俺の寝込みを襲って道具かっぱらって逃げる気か? …付いて来る
必要はもう無いだろう? …傷も塞がっただろうし、俺にも任務が有る…」
「…敵の本隊の、司令部のザヒョウを、『トッカレンタイ』に知らせるのが
今回の『ニンム』。…そんな事で…死んでも良いの…? その場で即、報告
するつもりでしょう?」
俺は二の句が次げなかった。…殺すか? いや…それでは…マズイ。敵に…狙い
が…ばれる。死体にしたとしても、何らかの情報を引き出す術を、『この世界』の
奴等は弁えて居る筈だ。生かして連れて行くしかない。俺は心の中で溜息を吐いた。
985 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/26 02:46 ID:???
俺はシェラフと背嚢と携帯無線機一号を持って洞窟を出て、バイクに結びつけ、
無線機を背負い、跨る。当然の様な顔をして、『少女』が俺の前に跨る。
…厄介な『モノ』を抱え込んでしまって、俺は自らの任務を完遂出来るのだろうか?
バイクも女が乗って機嫌が良いのか、一発でエンジンが懸る。
『少女』が突然、バイクを下り、駆けて行った。…命の次に大切な、俺の愛銃の64式
小銃を差し出し、にっこり笑う。…可憐だ。しかし…人では無い。人では、無いのだ。
「忘れ物。…大事なものでしょう? 貴方、夜も抱いて眠ってるもの! 」
「ああ、幾ら手を掛けても、コイツだけは俺を裏切らないからな…? …ありがとう」
「あー! 今、貴方、お礼を言わなかった?! 言ったでしょう!? ちゃあんと…」
俺は小銃を肩に担ぐと、黙って『少女』を抱き上げ前に跨らせ、アクセルを吹かせた。
気恥ずかしさを誤魔化すために。『人間』の俺は、無意識の少女の『誘惑』に、耐え切れ
るのであろうか? …俺達の前途を示すかの様に、青空はどんよりと曇りつつあった。
258 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/28 00:24 ID:???
「もう疲れたぁ!! 一歩も歩きたくなぁい! 」
『少女』の甲高い声が俺の耳を苛んだ。バイクの燃料が切れて2日間。…任務は未だ果たさぬままだ。
敵にコイツの色気のせいで発見され、最大速度で逃げてきたツケが、これだ。…この脳天気娘がっ…!
軽い、寝袋ぐらい持ってくれたってイイだろうが! テメエは何か俺を馬か何かと勘違いしてないか?
「屋根のある所で眠れるって貴方言ったけれど、何故森の中へ入って行くの? ねえ? 」
話し掛けるな。…正直、俺はとっても頭を通り越して鶏冠(トサカ)に来ているんだ! 誰のせい
でこうなったと思っている! 「お腹すいたぁ」とか言って、てっきり食い物を調達するかと思えば…!
貴重な弾薬を2発も使ったんだぞ2発も! この淫…! …突然、「少女」が笑顔で俺を振り向いた。
「何だ? 俺は怒ってるんだがな? 用件は手短に言えよ? 」
「…あのさぁ…誰かに守って貰えるって…案外…気持ちイイんだね…? 」
「そこの石柱の間だ。遅れるなよ? 直ぐに閉じるはずだからな?」
「? 何も…! 」
立ち止まる「少女」を無視して、俺は石柱に向かって歩く。正しくは石柱と石柱の間だ。潜り抜けると
景色が一変する。『夜』の世界だ。…まだ『夜行』趣味は変わらんか…。まあ、あんな目に遭えばな…?
城館が、数百メートル先に見える。俺は溜息を吐いた。迎えに来てくれても罰は当たらんだろうが、アイツは!
259 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/28 00:36 ID:???
「…ここ…何処? あれ…お城ぉ?! 」
「ん? 知り合いの領地だ。相互不可侵の文書を交わしてある。『敵の敵は味方』。意味、解るか? 」
「…『人間族』の敵って事? ここの領主様は? 」
「本当は優しいんだけどな? この世界の頭の固い人間が、敵に廻しただけだ」
直ぐに城門の前に辿り着く。俺はノッカーに手を掛けようとした少女を停めた。…仕掛けがあるのだ。
俺は大声で叫ぶ。『領地』に入った所から、どうせ監視されている。俺が来ているのを知っているはずだ。
「おいコラ! 俺だ! この前預けたブツを貰いに来ただけだ! 何で姿を見せん! 」
『女性(にょしょう)は苦手と抜かして置いて、なにゆえ淫魔など連れて来る! 妾へのあてつけか?!
妾を何だと思うて居るのか! 愚弄するにも…?! す、済まぬ…この馥郁(ふくいく)たる匂いは…
そなたはまだ相違無く…』
「…その先言ったら本気で怒るがイイか? 出て来い! どうせ近くに居るんだろうが! 」
少女が息を呑んだ。俺の喉に刺突剣を突き付ける『顔色の悪い』女がいきなり現れたのだから。俺は片眉を
あげ、テッパチを取って跪いた。日本国と『最初の』不可侵条約を結んでくれた、この城館の『領主様』に。
俺が転移初期の、先遣隊への伝令任務に就いたある時、この世界のバカドモに襲われる『女』を保護した。
その時は昼間で、曇っていた。やけに色白の女だと思い、命令も『なるべく関わるな』とあったので、あえて
無視を決め込もうとしたが…俺のトラウマを直撃する行為に人間が、いや獣どもが及ぼうとしたので、迷わず
排除したのである。まあ、開口一番、『誰が助けを求めた!』と怒鳴られたのが印象的だったと言っておこう。
261 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/28 01:07 ID:???
感謝の言葉はともあれ、俺は女の言うままに『領地』に入り、仔細を説明されるに及んだ。
最近『人間』と敵対関係に至ってしまった、昔は共存していた、餓えに飢えて已む無く誇りを
捨てて食を乞うたと言うにあの振る舞い、赦しがたし、等等。当時の俺はまだ『隊員根性』が
希薄だったので、思い付きで、『じゃあ俺の国と手を結ばんか? 』と言ってしまったのである。
新兵の頃から『下宿』が欲しかった俺は、最近駐屯地内の『営内』生活に飽き飽きしていたのだ。
俺は迷わず班長に報告し、先任陸曹の前で同じ事を繰り返し、中隊長にも話す羽目になり、大隊長
にも話し、連隊長にも話し、駐屯地司令の前でも壊れたテープレコーダーの様に繰り返した。
『独立国家だからなぁ…内局を通じて外務省に折衝してもらうしか無いな…。君、仔細を…』
…そんなこんなで話が大きくなり…この城館内に『補給所』が設置されるに至ったのであった。
その代償は…察してくれ。ベタ過ぎて俺の口からはとても言えん。まあ、特別製の医療用パックと
だけ言って置こう。本人は『生!』と言って聞かんが。それからは各部隊、燃料を気にせず行動可能
と相成ったのだ。俺に金一封の一つも出なかったが…隊員クラブの金券3000円が先任陸曹から出た。
「大人しく喉を出し、すべからく賞味させよ。それが予てよりの約定。如何? 」
「イカン? じゃ無い。任務遂行のため燃料補給だ。この前の士長はどうした? 」
「…断りも無く寝所に入ってきたゆえ、殴り飛ばしたら顎がもげた。その詫びもまだじゃが! 」
…俺は迷彩服の袖を捲くり上げ、剣鉈を抜く。そして、黙って、左腕の皮膚を5cmばかり縦に切る。
「やけに聞き分けが良いのじゃな? 今日は? …構わぬ…のか…? 最早…」
「啜るがいい。浅ましく、舌を出して、音を立ててな…? なあ? お優しき『領主様』? ん? 美味いか? 」
嬉嬉とした表情を見せ、俺の血を啜る領主と、それを詰る俺を、「少女」は機嫌が悪そうにただ、睨んでいた。
289 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/28 16:03 ID:???
「何時見てもシュールな景色だな…? まあ、人権団体が来ないのが救いか…」
城館までの道は、領主曰く、『愚者の小径』だ。ワラキアの君主、ヴラドの故事や所業を知って
いる者は彼の二つ名を思い出せば解る。…中には高価そうな背広を来た姿や、顎が無い迷彩服姿の、
比較的新しい奴等が仲間入りしていた。『領主』の美意識に背いた輩の末路だ。
「この人…同族を殺しているのに…貴方どうして何も言わないの?! わたしの母さまは…!」
「理由が有る。あの背広着た奴は、うちの国の高級官僚だ。病原菌等で汚染された血液を『故意』に
この国に廻して、弁明を求められた。隣のは外務官僚。無能者は交渉する気にもならん、であれだ。
あの迷彩服の顎無しはさっき言った馬鹿だ。仕事さえやってりゃ死なずに済んだものを…」
領主は領民に対し責任を負う。当前の事だ。支配する、されるメリットが無ければ始まらない。領民の
『食』を保証しなければならない立場に有る領主が怒ったのも当然だと俺は思う。国家の名で仕事をして
いるのだから、殉ずる覚悟があっての、役人の所業だ。その御蔭でここに『駐屯』している俺の『仲間』
がどんな目に遭うか想像したならば、俺の憤りも理解してくれる事だろう。…実は俺もその場に居た。
「…ね、姉様…わ、私が悪う御座いました…お許しを…」
「黙れ! あろうことか、己の私欲に因り、領民を飢餓に晒した愚者に掛ける慈悲など妾には無い!」
身内すらこの通りだから恐れ入る。…弟が餓えとその…に負け、付近の人間の集落に出没したのが事の
発端だった。領主は発覚後、直ぐに処分し、集落に謝罪に出かけ…俺と出くわしたという訳だった。
290 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/28 16:27 ID:???
厚生官僚の時は凄かった。『何か言い訳は有るか? 』で、彼が口を開いた瞬間、
『妾は卑劣漢と語る下衆な趣味は無い』で、襟首を掴むと開いた窓から放り投げて、
『正義は行われた』だ。処刑は俺と現大使、領民の前で行われた。領民は10名。
2家族分だ。投げたら、杭にまるで狙った様に刺さっているのが、俺は何時も不思議
でならない。…領民に犠牲者が出る前に発覚したのが、実は俺の入れ知恵だったと
知ったら、俺はきっと恨まれるに違いないだろう。ボーリング調査で『現代の命の水』
の有望な備蓄の存在が明らかに為った今では。…プラント稼動まで、あと僅かだ。
「…いい加減、腕を離してくれ…何か目の前が…暗く…」
「おお、済まぬ…久方振りで…つい…な? もう少し…」
「絶ぇっ対っ、『つい』じゃ無い事は確かね…。目が笑ってるもの…」
領主の館には、分室が設けられている。俺はそこで車両運行指令書に記入しなければ
ならない。何km走り、どの位燃料を使用し、何時間車両を使ったか? 細大漏らさず
記入する必要が有る。貧血で倒れて書けません、ではお話に為らないのだ。俺は自衛官
である。常に健康であって『当然』なのだ。 ?…バイクが、重い…?そう感じた途端に、
俺は意識を失った。領主のうろたえる声と、「少女」呆れた吐息を聞きながら。
394 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/29 01:41 ID:???
「気が…ついた? 気分はどう? …死んだように眠ってたから…わたし…」
俺が目を覚ますと、寝台の上に居た。小奇麗な内装に清潔なシーツ、そして営内の
モノとは違い、適度な柔らかさを保っているマットレス。自分の臭いのしない、甘い
匂いを放つ掛け布団。そして何も着ていない自分…だと? いかぁぁぁぁぁぁん!
「剣鉈は!? 俺の服、俺の装備は! 俺の荷物は! 俺の半長靴、テッパチは?
…お前は無事なのか…? 何故俺を殺さなかった? 俺は母親の仇だろうが! 」
「…妾が見張っておったのじゃ。重々感謝致せ? 子々孫々までその恩を伝えよ」
「俺の劣化コピーなど誰が作るものか! 俺は俺だ! 絶対に造らんぞ! 」
「…体に障るぞ? 自動二輪車とやらは分室の輩に預け置いた。整備を命じた故、
案ずるな。装備等は部屋の隅。服は洗わせて居る最中じゃ。…脱がせたのはそやつ
じゃぞ? 妾では無い。決してな! 」
「大嘘吐き。わたしに階下に居ろってこの部屋に運び込んで脱がせたの…ムグ…」
「ともかく、寝るのじゃ! 抱えた任務も何もかも忘れてな! 出るぞ、ほら! 」
「んぐぅー! 」
騒々しい奴等だ…。1月じゃ変わり様も無いな…。ん? 足元がくすぐったいな…。
シーツに…髪が? この色…長さ…このベッドに籠った匂いは…まさか、な…?
そんな可愛げの有る女じゃあ、無い筈だ。礼代わりに持って来た服も、こんな下賎な
物を着ろと言うのかと叩き付けた位だ…。 捨てても構わんと俺が言ったら、預かって
やらんでもないとか言ってたしな…。サイズ的にもアイツに合うと思うし、返して貰…。
421 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/29 15:48 ID:???
>>394
遥か背後に、人工の、冷たい光が煌々と輝き亘っている。文明の、俺達の世界の、光だ。
『街の灯が眩しい位ですね、班長。憎い位に。それに引き換え…』
『言うなよ。…其処に暮らす人々の税金で、俺達は戦争しているんだ』
『弱音…吐いちまいました…済みません。でも…山の中暮らしは辛いですよ』
『…聞いたぞ? 演習中にヤッてた奴等を捕虜にしたってな? 見ない振り位してやれば…』
『…給料貰ってますからね? 真面目に戦争しないと罰が当たりますから』
夢、だ。…新教の助教だった班長が、生きて喋っている。アレから半年しか経っていないのに…。
もう随分昔の様に感じる…。そうだ…班長は高射特科で…俺は高射の司令部への伝令の帰り…そして…。
422 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/02/29 15:50 ID:???
『なんです? この砲台? こんなのありましたっけ? 陸自に? 』
『退役したはずのL-90、35o高射機関砲だ。何で替わりも無いのに退役させるかね…?
ミサイルは点の防御は出来ても、面の防御は出来ん。何考えてんだかな…お偉方は? 』
『空自のバッヂに海自のイージスが有るからじゃないんですか? レーダー網は完…』
『砲班長! 12時方向に影! …なんだぁありゃあ? 鳥…なのか? 』
『でかさ…変わりま…エエ!? 』
『電源手、送電! 射手、安全装置解除! 射撃用意! 』
『方向止め解除良し、射撃用意、良し! 』
『テェー!』
機関砲弾に混じった曳光弾が尾を引き、『鳥』に吸い込まれて行く。鳥の背中から、何かが落ちた
のを、俺は確認したのだ。多分機関砲上の3人と、班長も確認したはずだ。…それは、人間だった。
地響きがした。何か途轍も無く重い物が落ちた…そんな感じの、鈍い音だった。俺達は見た。
俺達の頭上を悠々と通り過ぎてゆく巨鳥が落とした、大岩だった。…軽自動車一台分は有るだろうか?
『敵襲か! 糞! 本管のレーダーめ、何やってた?! 空自は情報管制でもしてたのか? 』
『アレじゃあ…誰も責められませんよ砲班長…あそこから…どんどん…』
『なんだと射手…!? …お別れだな…後方に伝えてくれ。新型高射機関砲の再配備を求む、とな?
死に行く者の祈りだ、聞いてくれる。…昔の班長の、最後の願いだ。…生きて戻れ、日本に! 』
眼下の森林から、羽ばたいて来る手綱を付けた巨鳥の群れ。例外無くその足には岩の存在が…あった。
542 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/03/01 20:10 ID:???
>>421-422
『班長ォォォォォォォォォォ!!! 』
重厚な扉の向こう側から、叫び声が聞える。多分この淫魔の耳にも、届いて居る筈。
邪魔な存在じゃ…。是が非でも此処より去んで貰わねばならぬ…。しかし、母親の仇
じゃと? あ奴一体何を仕出かした? …あ奴の敵は妾の敵。もし危害を加えるの…
「…ねえ…戻って…構わないでしょう? 心配なの…。今、凄い叫び声が…」
「母親の仇であるのに、情け無い…。さては惚れたでも言うのか? まさかそ…」
「そうよ? 何か問題でもあるの? …始めてなの…あんな変な人…。目の前に
わたしが居ても、『しなかった』人はあの人が始めて。堕としてみたいの…。
そうでもしなければ、わたしの種族の存在価値が無いわ。今まで何人…」
「即刻その汚らわしい口を閉じよ、淫魔。…妾の剣の錆に為りたく無ければな?
イゴール、イゴール! 客人を部屋に案内(あない)せよ! 妾はちと所要が
出来た! 暫く一人にしろと分室の者どもに伝えい! 聞えたか、イゴール!」
「先程より控えて居りますれば、聞えたかとは異な事を仰る…。失言致しました、
御館様の仰せのままに…こちらにどうぞ。小生、御館様の命には逆らえぬので」
「離してったら! あー! 胸触るなぁーっ! どこへ行くのよ高慢貧血女ぁ!」
臭い者には蓋をして、何処か目の着かない所へ放り込んで置くのが最善の策じゃ。
目付けも去んだ故、一挙両得とはこの事じゃ…フ…ふふふふ…笑みが…停められぬぅ…。
誰も、居ない。あ奴の傍には今、誰も居ない! 妾の思うがままに慰んで呉れるわぁ!
779 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/03/04 21:48 ID:???
その場にうつ伏せになり、脚を出した銃を地面に置き、2脚をやや押し気味にして、
稼動可能にする。照星や照門が、立っているか確認する。…問題は無い。立っている。
切り替え軸を引き、浮かせる。アからタに、タからレに。回転させ、左手を離す。
床尾板を上げ、右肩に乗せる。少し痛い。銃杷に左手を置く。さあ、後は…。
「弾込め良し、装填良し、準備良し! 」
「第一小隊、射撃準備完了! 」
「別名有るまでそのまま待機! 」
耳栓越しに良く通る、小隊長のやや高めの声が、何故か可笑しく聞える。緊張感で
上ずっているのだろう。自分の命令一つで、多くの命が失われて行くのだ。無理も無い。
暴徒と化した民衆の『成れの果て』は、死体しか無い。俺はゆっくりと引金の遊びを
殺して行く。射撃命令も無いままに。命令が有るまで引きはしない…。弾は有効に使いたかった。
殺さなければ、自分が殺される。この陣地を越えられれば、もう俺達には後が無いのだから。 END
781 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/03/04 22:04 ID:???
どうして、自国民を撃つ命令を下さねば為らない? 職を求めて居るだけじゃないか!
僕は目の前の『暴徒』に対する射撃命令を、喉の奥に引っ掛けたまま、出せなかった。
日本が『国交』を開き、待っていたのは…労働者の流入だった。賃金の安く済む、質の
良い労働力を欲した国内企業は…容赦無く『自国民』を切り捨てた。悪い事に政府はそれを、
『黙認』し、有ろう事か『放置』した。そして国民の怨嗟の声は『企業』では無く…『政府』
に向けられた。『政府』は自らの延命を画策し…『警察』と『僕ら』に鎮圧を押し付けた。
小隊陸曹が僕を見る。黙って、見詰める。本当に、良いのか、と問うかの様に。ああ、取って
やるよ。責任を。お前達は黙って従えば良い。僕もそうするさ。責任は、政府が取るだろう。
…斃されさえ、しなければ。取らなくても、このままではどうせ、殴り殺されるだけだ。
「テェー! 」
自分の声なのに、他人の声の様に聞こえた。…僕は歴史に名を残すだろう。虐殺者として。 END
796 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/03/05 04:21 ID:???
「喰らえ、自衛官の六四式小銃の弾を! なぁにが魔王だドラゴンだ! 弾丸の前では、
総てが平等に価値が無い! さあ死ね! 死んでしまえ! 幾多の自衛官の怨念と共に
事象の彼方へ去れィ! もう沢山だ! 貴様等の相手など正気でしていられるかヨォ!」
狂った様に撃ち続け、20発入り弾倉が空になると交換し、俺は撃ち続けた。これは面白い!
バタバタバタバタ羽虫の如くドラゴンとやらが落ちて行き、叫び声を上げて魔王の眷属どもは
死んで行く。民衆の犠牲? 知った事か。ついさっき、少女の頭を気分良く、柘榴の様に砕い
た所だ。ああ、エルフもフェアリーも同様にな。最大多数の最大幸福。救い切れぬ者は必ず、
居るのだ。狂人の天国は常識人にとっての地獄だ。此処は精神力の支配する土地だ。思い込みの
強さならば、俺は誰にも負けはしない。死ね、死んでしまえ。この世の総ては価値の無い、糞の
塊で出来ている。平和などもう知った事か! 殺せ! 弾は一発だけ残しておこう。…俺の為に。
887 名前: 厨官 ◆qG4oodN0QY 04/03/06 16:35 ID:???
「ふん、女、か。剥かれるとでも、思ってるのか? 違うな? そんなに優しくは無い…」
俺は何の躊躇いも無く、足で踏ん付けた女騎士の首に力を込め、小銃弾を顔にぶち込んだ。
間抜けな発砲音と残響音が響く。死体は二度三度、激しい痙攣を繰り返してから、辺りに静寂が
訪れた。女の顔は撃てないだと? 何の意味がある? 敵は殺さなければ意味は無い。無力化する
には殺すのが一番手っ取り早い。捕虜など取るか。前線の、俺達の食い物すら無いと言うのに。
残酷だと『娑婆』の奴等は喚く。しかし、一番合理的な方法だ。貴様等はどの口で喚いている?
俺達が味わえぬ、手前らだけが愉しんでいる『平和』のために、死んで行く人間の存在を考えたか?
『無知』程、罪深く、そして恥知らずで残酷な物など何処にも無い。それでも俺は、生きている。
今も見知らぬ誰かが、命を掛けて創り出している、ひと時の夢に似た『平和』の中で。 END
123 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/03/07 20:16 ID:???
「全自衛隊統合作戦、『禊』開始まで1分。各部隊指揮官並びに作戦に参加する全ての隊員は
時間合わせをお願いします 」
秒読みする女性オペレーターの凛とした声が、響く。現有最大兵力をもっての、陽動作戦だ。
陸、海、空の三自衛隊が捨て鉢とも言える攻勢に打って出る中に、秘密裏に伏せておいた特殊
部隊で『敵元首』を誘拐し、戦争を終結させると言う、B級アクション映画張りの無謀極まり
無い作戦が始まるのだ。最後の補給が終了したとの報告が市ヶ谷に届いたのが30分前だった。
「5、4、3、2、1、今! …発信終了。只今を以て、作戦を開始します」
もう、後が無い。全自衛隊現有戦力の全てを運用する「日本国の一番長い日」が今、始まった。 END
740 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/03/13 01:30 ID:???
不可蝕民。…そんな人間など世界の何処にも居ないのだと、学校で教えられて来た。
俺は、6・3・3・4の16年間、そう、教育されて来た。人間には貴賎など無いのだと。
しかし、俺の『幻想』は無残にも、打ち砕かれた。人間に貴賎は、存在したのだ。
「何故、見て見ぬ振りを!? 彼らは、少なくとも我々と同じ黄色人種の特徴を有して
います! その彼らが不正確な宗教書によって、不可蝕民扱いをされて…! 」
「…甘いな。我々もそう見られて居るのだ。もし我々が彼らに同情し、接近をしたら?
この世界の支配者層に警戒され、挙句の果てには攻撃され兼ねん。耐えろ。命令だ」
目の前で、繰り広げられる痴態。不可蝕民だから、その様な扱いは当たり前だと同僚は言う。
しかし、俺の品性がそれを許さなかった。次に見たら、俺は許さない。人間の尊厳を汚す者を。
俺の受けた教育と、人格を形成してくれた優しく厳しい大人達の名に置いて、俺は許さない。
741 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/03/13 01:47 ID:???
憤懣やる方無し、と言わんばかりの態度で、奴は乱暴に10度の敬礼を律儀に行い、
「塙ニ尉は用件終わり、帰ります!」と大音声に呼ばわり帰って行った。娑婆っ気の
抜けない男だ。雨は平等に降らない。差別は、何処にでも転がっているのだ。それが
たまたま極端な例で存在するだけだ。支配者層も、彼らと代わらん姿をしているのを
奴は知らないのだろう。何時も覆面とローブで顔と肌を徹底的に隠しているのだから。
調子に乗った一部の隊員が、不可蝕民に「悪戯」をするのは、処罰せねばなるまい。
「悪い事は悪い事、か…。懐かしい感覚だな…? 塙…。しかしな、ここは組織だ…」
その少年染みた正義感で、お前は駐屯している全部隊を危機に晒そうと言うのか?
戦後教育は、己の帰属する集団に対する、責任感まで奪ってしまったのだろうか?
「古き良き時代は、帰らん…。もう…戻れんか…」
私は先任陸曹を呼び、内々に命じた。「塙が暴走しそうな時は、撃て」と。多分、
私の命じた事は塙に伝わる筈だ。自重するか、暴発するか…。私は9o拳銃の重さを
この世界に来てから始めて自覚した。何れにせよ、私が、やらねばならないのだから。
749 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/03/13 02:46 ID:???
「急げ! 撃ったら即移動! 陣地変換に何分掛けている! この馬鹿! 動け! 」
こんな筈じゃあ、無かった。今頃は一般企業に入って、デスクワークの毎日の筈だった。
緒戦で「奇跡」の大勝を収めた我が国軍? こと自衛隊は、政治屋の奏でた戯曲に自ら乗り、
省へと格上げの道をひた走り…装備改変や増員を行い…何故か僕は特科に入ってしまった。
…これも不況が悪いのだ。会社を倒産させた団塊世代が悪いのだ…っ痛ぇ!
「バカヤロウ! ボケっと突っ立ってンじゃねえ! 陣地変換だっつーの! 」
…威張るなよな…珍走上がりが…! 僕は頭の中で毒づいた。しかし、彼は正しかった。
僕等がFH70を牽引し、移動している最中に、陣地だった場所が…突然劫火に包まれたのだ。
「な? 『兵は拙速を尊ぶ』だよ。お前がも少し遅いと、今頃皆、あの中なんだよな」
僕の顔はちゃんと安堵の微笑を浮かべて居ただろうか? 頭の中では『兵は拙速を聞くが、
未だ巧遅を聞かざる為り』だと僕が思い浮かべて居たのを知ったら、彼は怒るだろうか?
793 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/03/13 16:46 ID:???
いっそ殺られた方が気が楽だと、わたしは思った。小銃の負い紐が、肩に食い込む。
重い。もう、走れない。…性差の違いが、呪わしい。何故造物主は男と女に能力差を
創ったのか? 肩を貸すでも無く、班長がわたしをただ、見ていた。他の男子隊員は
もう、伏せて射撃準備に入っている。自己嫌悪が停まらない。皆、待っているのに…!
「ぬおおおおおおおおっ! 5番到着ぅ! 」
雷雨の如く、矢の降る中わたしは叫び、遮蔽物の陰に突っ込んだ。射撃準備に入る。
「5番射撃準備良し! 」
「三枝、よく頑張ったな! 第一班、目標正面の敵、テェー! 」
わたしの体が小銃の反動を受け止める。バディを組んだ6番、「ウタマル」こと
桂士長が、まだ息を切らせているわたしの背中を軽く叩いて言った。「援護、頼むぞ」
と短く、照れながら。遅いんだよ、と小突かれた方がまだマシなのに…。涙ぐみそうに
為るわたしを置いて、今度は偶数番を付与された者が突撃する番だ。出来る事を、やる。
足手纏いだと決して言わない、小隊の皆の為にわたしは迷わず撃とう。目の前の敵を。
131 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/03/17 02:06 ID:???
師団司令部からの通信が入る。アメさんの爆撃終了との連絡だ。市街の掃討に
俺達は投入された。焼け残った家屋の中で…俺はナイフを向ける少女に出会った。
小隊の奴等と離れたのが拙かった。…小用足すのにぞろぞろ附いて回られるの
は正直言って恥ずかしい。最も、見られたくない個人的な理由も有るのだが。
「何故殺すだと? 憎いのか、だと? 哂わせるなよ? そんな面倒臭い事を
いちいち考えて居られるか! 残敵を掃討せよ、と命令が発令されて、俺は
それに従う義務が有る。むしろそんな物で動いてる奴の方が珍しいね? 」
少女の手は、震えていた。…怖いのだろう。俺は笑いかけた。小銃の握把から
手を離し、両手を頭の後ろに組んだ。…害意が無い事を示したつもりだったが、
少女の手の震えが体全体にまで広がっていた。俺の鼻が嗅ぎ慣れた刺激臭を
捉える。…済まないな。俺はただそいつを出しに来た所だったんだよ…。
「見ないで…見ないでぇぇぇ! 嫌ぁぁぁぁ…」
…言葉が通じる事が、これ程残酷だとは俺はこれまで思っても見なかった。
気丈にも少女はまだナイフを俺に向けながら…泣き出し…座り込んでいた。
俺は、眼を背けなかった。こんな間抜けな事で、まだ死にたくは無いのだ。
134 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/03/17 02:22 ID:???
「憎いから殺すんじゃ無い。仕事だから、義務だから殺る。あんた等の世界
にも居るだろうが? なあ、お嬢さん。…見なかった事にして置くから、
武器を置け。安心しろ。何もしやしないさ。俺もその…漏れそうなんだよ」
きょとん、とした瞳が俺を見上げた。そうだ。人間の生理現象には、大した
違いは無い。喰ったら出す。自然の摂理だ。俺は再び少女に優しく笑いかけた。
少女も、笑ってくれた。俺は笑い声を出した。少女の可憐な唇からも…。
…乾いた破裂音が背後でした。少女の胸の中心に、紅い華が、咲いた。
「大丈夫ですか! 山田ニ曹! お怪我は!? 」
「お前…この子の何処が敵に見えるんだよ! 何故撃った! 応えろ! 」
「自分はただ、命令に従ったまでです! 現任務解除命令は未だ、受けて
居りません! 武器を持った相手には油断するなと教育で…」
…解っては居た。だが、言わずには居られなかった。この戦いは…何時まで続く?
遠い故国の、最高司令官殿…? あんたの命令次第で俺達は、悪魔にも天使にも為れる。
出来ることなら終わらせてくれ。このやるせない泥沼に、はまり込む前に。 …END?
355 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/03/18 21:27 ID:???
力のない人間どもに、ぼくが何の理由があって従わなくちゃならないんだろうか?
魔法の力のかけらもない、おかしな模様が入った服を着た男たちが、ぼくたちが生活
する由緒ある『魔法学校』に押しかけ、みんなを集めて先生たちと何か話していた。
あんな奴ら、ぼく一人の『力』で追い払えるのに? さあ、見てろよ…!
『…取り返しの付かん『悪戯』は、止めて置くんだな? …後悔する事に為る』
声が『聞こえた』。…念話だ。黒い鉄製の杖を持った男たちの中の一人が、ぼくを
見つめていた。ぼくは無視して、先生と話しているえらそうな男の尻に炎術をかけた。
ぼくの念じた場所に、かんたんに炎が生まれる。見たか! 俗人ども…め?
『君は引金を引いてしまったな…。虐殺への序曲は奏でられた…』
男の目が、ぼくを哀れむかの様に伏せられた。とたんに、すごい大きな音がした。
先生の、きれいな顔が…ふき飛んでいた。男たちの杖の先から、けむりと炎がつぎつぎ
と上がり、ぼくの友だちや、食堂のおねえさん、先生たちを穴だらけにして行く。
『君はもっと早くに、その力に対する責任を、学ぶべきだったのさ…。哀しい事だが、
命令には、例外は無いんだ。君の御蔭で、例外無くこの世界の人間は抹殺される…』
念話の主がぼくに、黒い杖の先を向けた。ぼくは目をとじた。ぼくは、みんなの所へ
行けるのかと、思いながら。ごめんなさい…先生…みんな…。また、あえ
362 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/03/18 22:04 ID:???
上がっておる…下げねばな? ウム。ただ下げるのも芸が無い。
「どうした? 葛野? …こんな事も想定していたろう? 」
同期の芦屋が僕の肩に手を置いた。一斉射撃は、この学校の教師、職員、生徒の大半を
薙ぎ倒した。銃弾には意思は無い。彼等の心理操作の魔法も…銃弾の前には無力だった。
あの子が『炎術』さえ使わなければ、多分教師の掛けた『心理操作』は、中隊長に何の
苦も無く掛かっていた筈だった。僕は制止すべきだったのだ。もっと、積極的に。
「悩むなよ。…お前は警告した。それで充分さ。…お前や俺の『力』がばれたら…」
「芦屋…それでも…僕達は…もっと…努力を…たとえ…異端者扱いを受けてもっ! 」
「俺は、一緒に暮らした仲間達に銃殺はされたくない。お前も、そうだろう? 」
芦屋は教師の死体の足を両手で掴み、校庭に掘った大穴へと引きずって行った。僕は
唇を噛み締めた。失った命はもう戻りはしない。終わり無き戦争への、行程が始まる。
と、まあ、まとめる。数人でも、異能者が居る、と言うスパイスを効かせるのも手だ。終わる。
615 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/03/21 14:42 ID:???
「どうしようも無い奴は何処にでも居るな? ええと、今日、里木士長は
民間人に対し、不適切極まりないストーカー行為並びに猥褻行為を敢行、
現地人により撲殺、と。報告はこんなモノで良いな? 小川三曹? 」
「はっ、その様にお願いします。…自衛官の恥さらしが! 俺が殺す! 」
「そ、そんなぁ…俺はただ、あの娘の着てるコスにハァハァしたのが…」
小川の半長靴が里木の頬骨にめり込んだ。汚い物を蹴った、と言わんばかりに
小川は靴底を床に擦り付ける。里木の輪郭は、既に奇妙な形に変形していた。
「貴様の御蔭で、俺達の皆が変態扱いを受ける! 貴様とは一緒にされたくは
無い! その臭い口を閉じろ、元デ●ヲ○ヒ○キーが! 性倒錯者め! 」
これで私的制裁による死者は二桁台に突入だ。…団塊ジュニア世代のこの世界に
置ける性犯罪率は…はっきり言って高い。本国もそろそろ…『踏み絵』を実行する
段階に来たのかも知れぬ。現地部隊では処理がし切れぬほど、事態は切迫していた。 END
616 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/03/21 15:04 ID:???
「我々は臣民の友であります! 見て下さい、臣民に迷惑を掛けた者は
この通り! 同胞で有ろうが我々は決して容赦は致しません! 」
里木は徹底的に有効活用された。貼り付けで晒し者だ。…奴に暴行された下働きの
少女が、真っ先に敷石を剥がし、投げ付ける。奴の腹にヒットした後、87式の装甲に
当たり鈍い音を立てた。87式偵察警戒車の砲塔後部に貼り付け柱を固定し、ゆっくり
旋回させて晒しているのだ。罪人の姿が、臣民に良く見える様にとの配慮だ。
「里木が何分でくたばるか、賭けないか? 俺は30分だ! 」
鈍い音が車内に響く中、俺は皆に言った。不謹慎な? 歓声が次々に車内に上がる。
「班長、あのデ○の体力じゃあ、精々20分って所ですね」
まあ、娯楽の少ない帝都臣民には、格好の娯楽で有る事は間違い無いだろう。正に、
一石二鳥の策だ。良かったな? 里木? 最後に皆の役に立って。俺は改心の笑みを
頬に浮かべた。木の折れる音がした。くぐもった里木の悲鳴が聞こえ、途中で切れた。 END
648 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/03/21 22:41 ID:???
「これで…全部です…里木の遺品は…」
「総て燃やせ。…両親がこれを見たら…泣いて悶死するぞ…」
「そうですよね…。解りました。燃やします、小川三曹」
「…俺も立ち会うからな。絶対に、隠匿するなよ? 灰に為るまで、燃やすんだ」
「…了解しました…環境に良く有りませんけれど…」
「貴様も仲間か? 営内点検するぞ? 」
俺は里木の遺品を手に取った。里木をあんな風にしたこの…このグッズが…!
俺はそれを床に叩き付けた。以前奴が『レア物、届きましたよ班長! 』と見せ
に来た物だった。奴は…此処に来てから変わったのだ。昔は、いい奴だった。
体力練成も欠かさず、ひたすら模範的な隊員の道をひた走っていた。変わった
切っ掛けが…外部のジャーナリストが持ち込んだ、新聞だった。それからの奴は
正に引き篭もりと化した。外出枠を持って居ながら外出もせず、営内に篭もり、
DVDのチェックにグッズの通販。そして…見る影も無く太り…自己中心の視野狭窄
に陥って行き…班員を見下す様になり…終には孤立化し、部隊のお荷物になった。
「こんな物があるから! 奴が! 里木がっ! この…魂を腐らせる呪物ども
め! 男の、国防に燃える男の魂を…こんなもの風情がっ…奪ったっ! 」
…何が奴をそうさせた!? 俺は子供の一人でも楽に入れそうな段ボール箱一杯に
積まれたグッズを蹴り飛ばした。本が、人形が、DVDケースが…廊下にばら撒かれた。 END
207 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/03/26 02:53 ID:???
「ほう…その武装警察とやらがの…? 妾は旧友に逢いに来たのみと言うに? 」
「あ、貴方様はその…国賓ではいらっしゃいますが…その…何分不法入国を…」
「貴様達とて、他の者の『命』を喰らいながらのうのうと日々を無駄に過ごして
居るでは無いか? 妾の種族と何が違う? 愚者どもが…何も変わらぬな? 」
妾が『あ奴』に逢うために入国し、政府に直接交渉を迫った途端、出迎えたのは
新規に編成された『武装警察』じゃった。昼間時にも行動出来る妾の姿に、彼奴等
は驚愕し発砲を開始した。…無礼者には制裁を。それが妾の種族の大原則で有る。
結果は…この国の首都の、『国会議事堂』と申す建物の前に火の海と屍山血河が
産まれる事と相為った。妾の衣服が少々乱れたのみで済んだと申すべきなのだろう
が、許せなんだ。『あ奴』に貰った服が…見る陰も無く為った…これは痛い!
「少し頸周りがきついようじゃな…この服は…?」
「…急に仕立てました物で…何卒、御容赦の程を…」
見知った迷彩服と申す者を身に纏った輩が現れた時に、妾は交渉を持ち掛けた。
『自衛隊』は妾の領地を守護する『同盟者』と言う位置付けであったのだからな?
武装警察とやらは、身の程知らずに『交渉抜きで』交戦に及んだ。二の轍を踏ま
ぬと言う保障は無かったが…妾は『あ奴』の仲間達を殺すには忍び無かったのだ。
208 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/03/26 03:11 ID:???
幸い、『自衛隊』には妾に対しての『詳細なる』情報が「あ奴」を通じて行き届いて
居った。妾と交渉に臨んだ小隊長の『尉官』とやらは怯んで居ったので、「駐在武官」を
して居ったと言うその上の『佐官』が出て来おった。まあ、胆力は在ったな。妾が片手で
持ち上げた装甲車とやらを投げられても動じもせなんだからの? その剛毅さ、賞賛に値する。
『無礼者の末路じゃ。文句が有るか? 』
『いえ、閣下、我等の価値を政府に再認識させる機会を与えて頂き光栄です』
『ふむ…。妾には交戦する意志は無い。…それは聞き及んで居るな? 』
『当然。部下からの詳細な報告により、礼を失し無い限りは、事に及ばぬと』
あ奴の事を言って居るのだと気付いた妾は、口を拭い襟を正した。話すに足る『人間』が
やっと現れたのだからな? 礼には礼をじゃ。妾が「あ奴」の墓所への参拝の意志を告げる
と、その人間は一筋、涙を流した。…さて、迎えの車が来たようじゃ。急ぐとするかの…。
209 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/03/26 03:33 ID:???
「あ奴」は妾の腕の中で息絶えた。…同族に為る事を拒否してな。座標とやらを
報告してから直ぐに、砲弾が降り注ぎ…あ奴はその無数の破片に傷付けられた。
…妾ともう一人を庇ってな? 可笑しな話よ? 有限生命種たる者が不死者を。
背中に突き刺さった破片を見た時…息が在る方が不思議じゃった。妾があ奴の首筋
に口を付けようとした際、何処にそんな力が残って居ったのか? と思う力で退け
言った。『死こそ救いなのだ、……が迎えに来ている』と宙を見据えてな? 妾が
そこを向けば…戦乙女よ。あれは頂けんよ。『神々の玩具にされたいのか』と妾が
聞くと、正気を若干取り戻し…右手に持っていた『剣鉈』で頸の血脈を…刎ねた。
末期の言葉は? 色も素っ気も無いぞ? 『第三偵察小隊、任務完遂…』じゃ。
戦乙女はどうしたかと? …妾の館に捕らえて在る。あ奴に死を撰ばせた罪を永遠
に償わせてくれる。不死者の妾がじきじきにな?
「『靖国神社』への参拝ですが…その…該当する者の氏名がその…」
「無い訳が無かろう? 本当に、探したのか? 」
あ奴の屍骸は…後に来た『部隊』に引き渡した。渡したくは無かったが、な…?
紅い十字を刻んだ車に、遺骸を運ぶ妾に対し『捧げ銃』とやらを行い、見送った。
もう一人は…ただ、涙ぐんで…あ奴の顔を撫でていた。…その後は、妾は知らぬ。
409 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/03/28 20:54 ID:???
「誰か?! 誰か?! 誰か?! 」
合言葉は…プラス2だ。何の事かは解らないが、外見の偽装は完璧の筈だ。
魔法による変化は完璧だ。化ける事など造作も無い。「小道具」もちゃんと
用意した。化けさせてもらった本人は…記憶を読んだ後に『処理』した。
微笑みながら、近寄る。敵意が無い事を示すために、両手を上げる。
「もしかしてお前、宇井津か? 久し振りだな! 元気にしてたか? 」
拍子抜けだ。確か、「前期教育隊」が一緒だった法師とか言う奴だった。
合言葉も確認しないとは、愚かな奴だ…。まあ、こんな所で見張り員をして
居る様な下賎な輩は警戒するまでも無い! 魔法に勝る物など存在しない!
近寄ってきたな? さあ、直ぐそのつまらない仕事から解放してやろう!
「法師! こんな所で逢うとは思わなかったよ…! 会えて…? 」
「…宇井津じゃないだろうが…お前は…そうだよな…残念だよ…」
ドン! 法師は私の胸に何時の間にか抜いた、腰の短剣を突き立てた。何故、
ばれた? 私は聞こうとしたが、唇から漏れたのは…かすかな吐息のみだった。
411 名前: 小官 ◆qG4oodN0QY 04/03/28 21:09 ID:???
俺は馬脚を顕しつつある魔術師の死体を、右手で抜いて刺した銃剣で支えながら
黙ってその場に仰向けに倒した。人を見下すのに慣れた、その高慢そうなツラが、
間抜けに歪んでいた。『何故ばれた? 』と今にも云わんばかりの顔で。
「自衛隊員ならな、三度目の誰何(スイカ)に為っても名乗らない馬鹿はな、
居ない。さらに、所属部隊名、姓名、階級…一回目で応えるよ…普通はな?
間違えてるのは半長靴だよ。昨日まで雨が降ってて辺りはぬかるんでるのに
お前の半長靴の靴底には泥すら付かない。そんな半長靴があったら、皆、噂
になってる。で、お前は哨戒を終えて、くたくたの筈なのに元気一杯の声を
出してる…数え上げればキリが無いが…間抜けだよ。兵士に化けるにはな?」
俺は死体に唾を吐き、死体の腹に左足を乗せ、銃剣を引き抜いた。コイツのせい
で俺と部隊の仕事がまた増える。俺は日報と上級部隊への報告で、部隊は宇井津の
捜索だ。多分宇井津は生きては居まい。89式小銃は…消えなかったのだから。 END?