685  名前:  てさりすと  03/05/01  00:06  ID:???  

本日分の更新行ないます、次回海上自衛隊が(やっと)登場する予定です。  


そのころ長門もまた自身に与えられた任務を果たす為この海域最大の敵と戦闘を繰り広げていた。  
彼と彼の護衛艦である元2等巡洋艦酒匂『フェンリス』達に与えられた任務、それはコーツ海軍宿舎及び陸軍補給物資集積施設の破壊。  
および首都の後方に聳えるコーラッド山のドラグーンとユニコーン騎士団の陣地、さらに山頂付近にある自衛隊の陣地の破壊だった。  
まず戦艦『タナガー』はコーツ海軍宿舎に41mm砲弾を第4斉射分つまり32発の砲弾を送り込み、中にいた人間ごと海軍宿舎を消滅させた。  
陸軍物資集積施設(大量の干草と食糧しかなかった為被害は軽微)はジオフォンから出撃した大型ドラゴン中隊『青』がコーツ軍防空部隊の必死の対空砲火をかいくぐり  
ピクリン酸の詰まった樽や火炎壷で水平爆撃を行なった。もちろんこの樽には信管などという貴重な代物は一切詰まれていない・・が、  
このピクリン酸・・下瀬火薬の原料でもある・・は、かき混ぜたり少々衝撃を与えただけで爆発するという代物だった。  
そんなものを千数百メートルという高さから落とせばどうなるか分かりきっていた。  
ニトログリセリンには及ばないものの強力な破壊力を持った100kgの爆ダル(爆弾の詰まった樽)を16発も投下された補給物資集積施設はわずかな物資を持ち出す間もなく壊滅し、  
今では屋根のない崩れかけた建物だけが  かつて其処に補給施設があったという事を物語っていた。  

其処までされては自衛隊も黙ってはいない。  
すでにコーツ海軍の出撃していた全ての艦船は撃沈され海の其処、  
山頂に位置する自衛隊の砲撃部隊は遥か沖に見える艦隊に向けて203mmと155ミリで反撃を開始したのだった。  
初弾から155mm榴弾砲12門のうち8門による斉射が挟叉こそしなかったものの、巡洋艦『フェンリス』の至近にまとまって着弾し徐々に『フェンリス』に着弾域を近づけつつあった。  
そして残った155mm榴弾砲4門と203mm榴弾砲4門の砲撃がタナガーを捕らえようとしていた。  


686  名前:  てさりすと  03/05/01  00:07  ID:???  

「敵  防空陣地に着弾確認!!付近一帯が燃え上がっております!!」  
「よしいいぞ。目標このまま。もういちど三式弾をつかって攻撃してやれ。」  
艦長が砲雷長にそう命令する。砲雷長がそれに答え各砲塔に装填を急がせた。  
ちょうどそのとき山頂付近の自衛隊の陣地で次々と爆発が発生するのが確認された。  
「敵  砲撃部隊発砲!!弾着まで8秒!!」  
士官の一人がカウントを始める。  
「7,6,5,4,弾ちゃーく・・・・・・今!!」  
彼がそう宣言すると同時に海面に8発の大きな穴が発生する。その直後艦の両側水面が跳ね上がり海水がまるで塔のように立ち上がった。  
「敵  山頂砲撃陣地の斉射が本艦を挟叉!!」  
観測所にたっていた下士官の一人が前後左右において潰れゆく海水の塔をみてそう報告する。  
敵に挟叉されたと言うことは  後は確立の問題で命中弾が出る。つまり次の砲撃からは何時命中弾が出てもおかしくない状態に追い込まれたという事を証明していた。  
だがそれを余り気にしていない砲雷長が砲撃の指示を出す。  
「第2斉射・・テェーーー!!」  
ほぼ時を同じくするようにして『フェンリス』の砲門も炎を吐き出す。  
発射された三式弾が目標に着弾する直前に時限信管にセットされた通り爆発する。  
三式弾は  189個の黄燐焼夷弾子と400個余りの非焼夷弾子、つまりはクレイモアに搭載されているベアリング弾と焼夷弾を空中にばら撒いて航空機を撃墜する為に生まれた砲弾である。  
これをくらった陣地は正にこの世の地獄であった。  
焼夷弾子は触れた物をすべて焼き尽くし非焼夷弾子は付近に存在したドラゴン、人間の区別無く引き裂き弾き飛ばした。  
第一斉射を生き残びた兵士達が空に飛び上がろうとしたり塹壕にとびこんだが殆ど意味をなさなかった。  
空に舞い上がったもの達は非焼夷弾子を次々に体に打ち込まれて叩き落された。  
塹壕にとびこんだ兵士達もまたクラスター爆弾を頭の上で連続してばら撒かれたような被害を食らいその殆どが戦闘不能になった。  




758  名前:  てさりすと  ◆ZnBI2EKkq.  03/05/04  18:42  ID:???  

コーツ海戦の現場から30キロ、衛星を打ち上げる為に調査に向かっていた3隻の自衛隊の護衛艦が九州を目指し見渡す限りの大海原を突き進んでいる。  
そしてそのたった3隻の船団の旗艦『はるな』はひたすら九州めざし突き進みながらも  コーツ海軍とシクヴァル海軍の戦闘を見守っていた。  
「陸上自衛隊からの通信。  敵爆撃部隊を壊滅させ、敵戦艦に損傷を与えたものの被害甚大。我これより後退を開始す。  です」  
ついに砲撃戦に敗北したのか陸上自衛隊も撤退を開始したようだ。砲撃部隊が撤退を開始したということは大隊も後退を開始しただろう。  
「艦長。コーツ海軍交戦地帯付近を通過中の日本丸とあけぼの丸から救難要請です。」  
はるなの艦長、起井津慈吾朗がスピーカーを指差して聞こえるようにしろと指示を出す。  
『・・・り返す・・あけぼの丸より緊急信号!!敵の駆逐艦に追われている!!もう7発命中した!!至急救援を!!』  
無線機から25キロ先のあけぼの丸の切迫した声が聞こえてくる。時々魔術でも命中するのか爆発音も断続的に聞こえてきていた。  
「しかしのう・・わしらは衛星打ち上げ用の調査に行った帰りだしのう・・・砲雷長。武器はどれだけ残ってるか報告してくれんか?」  
「調査時に襲ってきたドラゴン相手に3発SAM撃ったのと  海賊相手にCIWSの威嚇射撃を合計432発うちましたから・・」  
砲雷長が自艦に搭載された兵装からその数を減らしていく。  
「個艦防衛用のSAMが5発、Mk18の砲弾合計300発、CIWSがあわせて6568発、後は対潜兵器だけです。」  
当たり前だがまともな戦闘など行なえる訳が無い。対艦ミサイルでも積んでいれば別だろうが『はるな』にそんなものは装備されていない。  
仮に2門のMk18=54口径5インチ単装速射砲2基で交戦したとしても装備されている装甲の厚さが違う。  
「しかしながら二番艦『おおなみ』と三番艦『あやなみ』の対艦兵器が残っております。全滅させる事は不可能でも・・・」  
砲雷長がの発言を遮って上空監視を行なっていた隊員から緊急通信が入った。  
「敵編隊視認!!種類は判断できませんがこちらに近づいてきます!!」  
「ついに見つけられた・・  全艦に第一戦闘配置を通達」  
「は。」  


759  名前:  てさりすと  ◆ZnBI2EKkq.  03/05/04  18:43  ID:???  

そうこうしてるうちに先ほどの編隊が2機を残し急旋回して引き返していく。  
(完全にこちらに気付きおったな。直ぐに攻撃部隊がやって来るんじゃろうなぁ)  
どうせ戦闘になるのは間違いない。そう思った慈吾朗は直ぐに全部隊に攻撃命令を出した。  

「よし、攻撃開始じゃ。わしの艦はあけぼの丸に付きまとう駆逐艦を狙う。二番艦三番艦は自己の判断において自由に攻撃じゃ」  
かなりいい加減に攻撃命令がだされた。しかしながらそのまま伝えられる訳も無く通信担当がその言葉を直し各艦に伝える  
「二番艦三番艦に告ぐ。本艦はこれよりあけぼの丸を攻撃中の敵駆逐艦を攻撃する。二番艦三番艦は自己判断で攻撃開始せよ」  
『了解』  
直ぐに返答が来る。それ確認した艦長は直ぐに砲雷長に指示を飛ばす。  
すでに目標艦はM18のぎりぎり射程内に納まっている。がしかしこの距離では命中弾を出す事は奇跡でも起きない限りおこらないだろう。  
だが相手に自分が狙われていると思わせるだけでいいのだ。単独行動で輸送船に追いすがって攻撃中の敵艦が驚いて逃げてくれるだけでもいいのだ。  
「射撃開始。敵駆逐艦を海の藻屑にしてやれ。」  
すこし楽しそうに砲雷長が攻撃指示を出した。その命令の2秒後前方甲板の一番砲塔が射撃を開始しその直後二番砲塔も射撃を開始した。  

MK18は1950年代初頭に米海軍が開発した優秀な対水上艦艇/対空両用砲でありその発射速度は毎分最大30発という優秀なスペックを有している。  
砲塔内に4名、下部の弾薬庫に12名の揚弾兵員配置が必用になることと重量が大きいのが欠点であるが40年以上という長きにわたって海上自衛隊の主力艦砲として使用されてきていた。  
しかしイージス艦『こんごう』からは後継となるOTOメララ社製の127ミリ速射砲がが採用されたためこれから再び古臭い大砲としてのイメージを拭いきれなかった。  


760  名前:  てさりすと  ◆ZnBI2EKkq.  03/05/04  18:43  ID:???  

だが一度も実戦で使われる事無く消えてゆくかと思われていたMK18にも転機が訪れた。  
第二次朝鮮戦争。そして異世界への召還。そしてオーランとの戦争  
多くの隊員達はミサイルや誘導兵器が日に日に少なくなっていく事に不安を覚えていた。  
だがミサイル全盛の時代にひたすら砲撃の腕を磨き続けてきた砲術科の隊員達は少し違った。  
なぜならミサイルが底を付いた場合  艦に残されるのは対空機関砲と艦載砲だけなのだ。  
もちろん彼らにも不安や恐怖を感じていた。だがミサイルに押され時代の徒花と化していた艦砲がこの世界では海上戦の主役を張れるのだ。  

3秒に一度定期的にMK18発射の振動が小刻みに艦を揺らしていく。第一射が着弾し始めた時すでに『はるな』は第4斉射目を追え次弾装填を行なっていた。  
「照準このまま!!あと400m後方だ。」  
レーダーで弾着を確認した隊員が少しずつ照準を修正していく。  
その結果13斉射目で1発命中する。その後も6斉射に一度命中弾が生じた。しかしながら敵にしてみれば溜まったものではない。  
三秒に2発が至近に着弾するのだ。直ぐに駆逐艦が身を翻し面舵で方向を変えようとする。  
そして側面があけぼの丸に向いた瞬間  駆逐艦は細長い物をいくつか海面にめがけて発射して全速力で本体の元に戻ろうとしていた。  
「目標艦  魚雷らしき物を投下!!」  
哨戒に出撃していたヘリのパイロットがそう報告してくる。  
その報告から十数秒後、あけぼの丸の後部側面に大きな水柱が発生する。  
だがさすが大型輸送船、魔術と砲弾で蜂の巣にされた上に魚雷を食らったと言うのに、少々の火災と速力がガクンと落ちただけでそのまま日本を目指し前進を続けていた。  
復讐とばかりにMK18の砲弾が次々と駆逐艦に命中していく。まともに命中したのかこちらの速力も極端に落ちた。  
だが向こうもやられっぱなしのつもりは無いのだろう。攻撃呪文を詠唱し光の弾を大量にばら撒いてくる。  


761  名前:  てさりすと  ◆ZnBI2EKkq.  03/05/04  18:43  ID:???  

しかしながら照準はなっていない。無差別にばら撒くものだから飛び越していったりはるか手前に落ちたりで当りそうにも無かった。  
『おやなみ』と『あやなみ』が放った合計8発の対艦ミサイルは残念ながらたいした被害を出せなかった。  
なぜなら空中にいた敵航空部隊に見つかり6発の対艦ミサイルが『レッドタイガー』で叩き落されたのだった。  
残りの二発は敵戦艦『タナガー』を捕らえ命中したが一発は防御魔術に阻まれ甲板上にいた兵士達を生みに叩き落しただけに終わり  
もう一発は防御魔術の間をすり抜け着弾観測部隊と偵察部隊の担当地区・・つまり  
最後尾の昔、水偵を積んでいた地点を吹き飛ばした。タナガーにしてみればたいした被害ではないがその被害によって小規模ながら火災が発生し黒煙が立ち上っていた。  
「敵戦艦長門に命中弾1!後部装甲板を吹き飛ばしました!!」  
「敵航空部隊が空母サラトガ、いえジルフォンから出撃開始しました!!」  
次々と情報がはるなのCICに流れ込んでくる。  
「対空戦闘準備。すぐに敵さんが山ほどやってくるぞ!!」  



762  名前:  てさりすと  ◆ZnBI2EKkq.  03/05/04  18:44  ID:???  

同時刻空母ジルフォン  

「緑、白中隊、空に上がりました!!さきほど帰還した青及び他艦の連絡通信部隊も投下物装備した順に出撃しております!!」  
士官が艦隊司令にそう報告する。報告を聞いた司令は満足げに頷く。  
「全部隊による航空攻撃か。これならこちらの勝利は間違いないな。」  
艦橋から甲板を見下ろすと甲板を埋め尽くした航空部隊の姿が確認できる。  
爆弾を搭載したグリフォンは2,3歩はしって加速すると次々と甲板から飛び立っていった。  
「艦長。タナガーに敵艦を砲撃させてはいかがでしょうか?以下に異世界の船と言えど410mm砲の直撃には耐えれますまい。」  
作戦参謀がそう提案する。彼は知らない事だが護衛艦が410mmの直撃などを受けた場合、沈没どころか即座に轟沈する。  
しかしながら作戦参謀の提案に司令が首を振って反対する。  
「わしもそうしたい所だが、残念ながら国王からオーラン軍の指示に従えとの命令が出ておる。  
 そしてそのオーラン軍からタナガーほか砲艦はすべてオーラン軍を支援射撃せよとのことだ。」  
艦橋から黒煙を上げながらもコーツ港出入り口にかかった木製の大きな吊橋をくぐりぬけて地上に対し無差別砲撃を繰り返しているタナガーの姿を  
その橋の両端では上陸したオーラン軍とシクヴァル海軍陸戦隊が撤退していく敵を次々と背後から切り倒し前進していっているはずだ  




763  名前:  てさりすと  ◆ZnBI2EKkq.  03/05/04  18:45  ID:???  

「艦長!!個艦防衛用SAM、調査部隊の携帯型対空誘導弾共に打ち尽くしました!!」  
士官の一人がこの艦に搭載された対空ミサイルを完全に撃ち尽くしたと報告する。  
すでに哨戒に出ていたヘリは撃ち落されていた。  
『敵小隊が急降下開始しました!!』  
上空警戒を行なっていた隊員からの怒声が飛び込んでくる。  
「面舵いっぱい!!!機関全速!!」  
艦長がすぐに指示を出す。隊員が復唱しながら慌てて面舵をとる。  
先ほどからCIWSとMK18は休むことなく炎を吹き続け、次々と敵航空部隊を撃墜していくが全然間に合わず何度も至近弾を食らっていた。  
「二番艦おおなみもSAMを撃ち尽くしました!!」  
「三番艦あやなみもです!!」  
先ほどから不利な報告ばかりがCICに流れ込んでくる。  
すでにはるなはあらゆる位置からシューティングスターの集中攻撃を食らい構造物は余すとこなくボコボコになっており見るも無残な姿になりつつあった。  
「敵急降下爆撃を回避!!本艦より距離30メートルに着弾!!」  
立ち上る水柱を貫通しMK18の砲弾が次々とドラゴンを撃ち落さんと飛び出していく。  
しかしながら回避されたり果ては回避すらせず防御魔術で至近弾を回避するというつわものまでいた  
「敵水兵爆撃隊が爆弾を投下しました!!」  
今度は編隊を組んだ敵が一定の間隔に広がり同時に爆弾を落とすという攻撃を行なってくる。  
「艦に当る物だけ撃ち落せ!!」  
砲雷長がそう指示を飛ばすと同時に対空砲火が頂上に集中される。  
ほぼ90°の角度で発射されたダングステン製20mm弾が次々と爆薬の詰まった樽に命中し空中で爆発させ始めた。  
だが油の詰まった壷相手にはそうはいかない。  


764  名前:  てさりすと  ◆ZnBI2EKkq.  03/05/04  18:45  ID:???  

もちろん20mmと5インチ砲は壷も樽も区別無く撃墜したが爆薬ではなく燃える液体である。そのまま落下してきてはるなのヘリ甲板で燃え始めた。  
「敵弾ヘリ甲板に命中!!死傷者零。消火急げ!!」  
すぐにダメコン班がホースを抱えヘリポートに向かう。そして彼らがその場にたどり着いたとき幸運な事に至近に着弾した爆発魔法の立てた水柱が燃えさかる炎を油ごと連れ去り甲板をもとの姿に洗い流した。  
だが同じく攻撃を受けたDD2242『あやなみ』は不運きまわり無かった。  
撃墜しきれなかった爆ダルがちょうど垂直発射管を直撃、それも運の悪い事に発射できずに残されていたトマホークを誘爆させその爆発が次々と残されたミサイルが誘爆した。  
その所為で艦の三分の一が吹き飛び艦橋も殆ど原型を留めていなかった。その爆発音は遠くジルフォンでも観測された。  
「艦長!!あやなみが!!」  
即座に艦長がコンソールパネルに目を向ける。ほぼ同時に観測員が悲鳴のような声で全く同じセリフを伝えてくる。  
『あやなみが沈んでいきます!!』  
彼がそう報告した直後大きく後部を持ち上げていたあやなみが引きずり込まれるようにして海面下に姿を消した。  
爆発から32秒後、総員退艦も命じられたものの乗員が脱出する間もなくあやなみは轟沈した。  
同時にコンソールパネルからあやなみの表示が消滅する。  
あやなみを撃沈した爆ダルをおとした竜騎士が自分の戦果を誇示するか如く空中で数回転し補給のために母艦に戻っていく。  
続けて上がってきていた白中隊も自らも手柄を上げようと次々と攻撃を開始する。  
しかしながら生き残っているはるな、おおなみも只でやられてやるほど優しくは無い。  
再び敵部隊が攻撃に入ったのを確認した対空火器が同じく再び火を噴き始めたのだ。  
今度は船内で只おろおろとしているだけだった調査隊の陸自隊員達がやられてたまるかとばかり  
小銃を片手にヘリ甲板や艦橋上に上り小銃や軽機関銃で対空射撃を始めたのだった。  
所詮軽火器であるためたいして対空能力は増えないが曳航弾が凄まじく増えたため見た目には恐ろしく対空砲火が強化されたように見える。  
だがそれも最後のともし火だった。  


765  名前:  てさりすと  ◆ZnBI2EKkq.  03/05/04  18:46  ID:???  


「艦長!!あと30秒でCIWSを撃ち尽くします!!」  
魔法などと便利なものなどつんでいない護衛艦は搭載している弾薬を撃ちきったらお終いなのだ。  
おおなみに至ってはやけくそとばかり残されたありとあらゆるミサイルをミサイルを敵艦に向けて撃ちまくりだした。  
そのおおなみのヘリ甲板に爆ダルが命中しすでにスクラップになっていたヘリと甲板を吹き飛ばした。  
あやなみの表面を何かがガンガンと音を立てて通り過ぎていく。恐らく魔術か何かが命中したのだろう。  
船外に出て対空射撃を行なっていた隊員達もどんどんと弾を消費していきもう駄目かと思われた瞬間だった。  


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以上です。これからちょっと更新遅くなると思います  



93  名前:  てさりすと  03/05/13  19:04  ID:???  

シクヴァル海軍の最後の急降下爆撃を回避した直後、はるなのレーダーに突如として新たな機影が確認された。  
まず北西方面から8機、続けて北から6機が現れ徐々に彼ら目掛けて真っ直ぐに向かってきていた。  
「艦長!レーダーに感!!味方の航空部隊です!!」  
西部劇でインディアンに襲われ絶体絶命の市民達の元に騎兵隊が駆けつけたようなその状況に  
『はるな』のレーダーを担当していた隊員達が歓声を上げた。  

『敵航空部隊第6次攻撃部隊が出撃しました。平均高度200、ドラグーン13騎、グリフォン14騎です。約15で戦闘空域に侵入してくるものと思われます。  
 全騎から強力な魔力の反応がありますので制空部隊と思われます。気をつけてくださいね。』  
AWACS『エアキング』の管制官のクレアから続けて上がってきている部隊の連絡が速やかに各機に行なわれる。  
『地上部隊の支援は後方のフランス空軍が行なってくれるので心配は要りません。  
 安心して敵航空部隊だけを倒しちゃってください。』  
『OK、『エアキング』すぐに敵航空部隊を殲滅して見せよう。各機、我に続け』  
『メビウス、了解』『『ゲルヒルデ  了解』『ヘルムウィーゲ  了解』  
寺井に率いられた各機のレーダーがドラグーンたちをロックオンする。  
直後  彼らは機体名以外の宣言を合したかのように一斉に宣言した。  
『エンゲージ』そしてその数秒後『フォックス1』と。  


94  名前:  てさりすと  03/05/13  19:05  ID:???  

ほぼ同時に発射された6発のAAM‐4と2発のAMRAAMが約20KM先の目標目掛けて一直線に飛び出していく。  
この国産のAAM-4ミサイルは航空自衛隊が装備するミサイルの中では最も高性能のミサイルの一つである。  
ミサイルの部品に民間部品を使用する事によって低価格化に成功した上に(この時点では量産効果がさほど得られていないので1発1億円前後の値段)  
AIM−7以上の射程を持ち、何よりもAMRAAMと同じように撃ちっぱなしに出きると言うのがパイロット達にとってとてもありがたかったのだ。  
いままで自衛隊が運用してきたAIM−7はセミアクティブミサイルである為、対空魔術である『レットタイガー』と真正面から同時に撃ちあった場合  
アクティブミサイル的な対熱誘導方式を持つ『レッドタイガー』は発動した直後から術者が全力で退避行動に移れるのに対し  
こちら側はミサイルが命中するまでイルミネーターで敵機を照射し続けなければならないため退避行動は取れない。  
全力で回避運動を行なう敵とミサイルの後を追いかけるように飛行する戦闘機のどちらに先に互いの攻撃が命中するかは言う必要が無いだろう。  
それでも今まで航空自衛隊が上空で圧倒的な戦力を誇っていたかと言うと敵が気付くはるか彼方から敵を発見し  
敵の射程のはるか彼方から攻撃する事が出来たからであった。  



95  名前:  てさりすと  03/05/13  19:06  ID:???  

しかしながら逆にやられた例も存在する。オーラン軍が誇る精鋭部隊の隊長たちは風の精霊たちの支援の元はるか彼方から近づく自衛隊機の進行方向目掛けて  
数え切れないほどの防空魔術を放ったのだった。  
運良く魔術を認識できる『グリーンエンジェル』つまりクレアのような管制官が搭乗するAWACSに支援されていれば回避も出来たが  
運悪くそういった管制官に支援されていない部隊は運が悪ければそのまま自分が狙われた事に気付くことなくあの世行きになった部隊も少なくなかった。  
オーラン軍精鋭部隊『黄色中隊』にいたっては上に書いたような方法や正面からの攻撃を用いて  
既に合計15機の戦闘機と輸送用に使われていたB−747が5機、ついでに輸送、戦闘ヘリふくめて11機、その他の航空戦力に関しては数え切れないぐらい撃墜していた。  

その黄色中隊がこの空域にいるとの情報を受けたため比較的貴重な・・どのミサイルも貴重だが・・さらに貴重なAAM−4を使用する許可が下りたのだった。  
幸いな事に黄色中隊に代表される精鋭部隊は存在しないらしくミサイルが彼らの目前に迫ったと言うのに2隻の護衛艦を攻撃するのに夢中でミサイルの接近に気付いていなかった。  
そして爆発、すぐにAWACSから報告が入った  
『敵航空部隊10騎がレーダーから消失。敵攻撃部隊の編隊が崩れていきます。』  



883  名前:  てさ  ◆XqrQAy2Hxg  03/07/21  18:44  ID:???  

というかよく考えたら保存庫に元の文章が保存されてたりするんだがw  
まあいいやw  
・・・・・・・・・・・・・  
とある世界にとある国があった。その国は国家の危機にたたされていた。  
南の魔の森にすむ大型魔獣、西には竜騎士団やゴーレム軍団を多数保有する軍事国家に挟まれていた。  
当初の所、近隣の軍事国家が大陸中を敵にまわしていたお陰でエルフィールとの軍事バランスは保たれ安全を保っていたが  
昨年、軍事国家オーランはついに戦争相手の国々を完全に制圧。そしてこんどはその矛先をエルフィールに向けてきたのであった  

何とかマシュ将軍の率いる第三外人魔術降下師団が首都手前で敵を押し留める事に成功したが首都陥落は時間の問題だった。  
そこでダ・ゴール大統領は先の戦争以来封印されてきた『賢者の石』を使う事を決意。  
使い方を誤ると  取り返しのつかないものを召還してしまうかもしれない危険なものであった。  
しかし差し迫った危機にそんな事を言っていられるわけもなく  召還の儀式は行なわれ  
約60年ぶりに異世界のモノが召還されようとしていた。  


太陽系第三惑星の極東地区ではちょうど大規模な戦争が行なわれていた  
2005年6月25日の北朝鮮の奇襲によって再燃した朝鮮戦争は当初、北朝鮮の圧倒的有利のうちに進められた。  
不運な事に在韓米軍は5月のうちに韓国政府の要請によって韓国国内から撤退し沖縄などの軍事基地まで後退してしまっていた。  
韓国第三歩兵師団の必至の防戦をも突破し、議長府回廊を直進した北朝鮮軍は2日間に及ぶの激戦の後、6月28日韓国の首都ソウルを占領。さらに南進し続けていた。  
それを見た各国政府は17日に緊急招集された安全保障理事会で北朝鮮に対する避難声名を発すると共に韓国救援のための国連軍の派遣を決断。  
総勢22ヶ国からなる国連軍が編成された。  


884  名前:  てさ  ◆XqrQAy2Hxg  03/07/21  18:47  ID:???  

まず第一陣として沖縄に駐留していたアメリカ海兵隊を中心とする上陸部隊が釜山から上陸し防衛線の構築を急いだ。  
6月30日、韓国軍、爆破パイプライン爆破成功、一部地域で不発が発生したが北朝鮮軍の主力部隊の進攻が止まる    
7月1日、国連軍、35度線防衛ライン構成。  
これにより北朝鮮軍の進攻は平沢、源州、江陵を結ぶ防衛ラインで停止、戦線は停滞した。  
そして8月15日、国連軍第二次クロマイト作戦発動、元山にアメリカ、イギリス、フランスを中心とする国連軍上陸。平壌目指し一直線に突入していった。  
国際世論に脅迫されるようにして日本も在韓邦人の救助の名目の下参戦を決定、上陸作戦の下準備として上陸地点の掃海作業に参加する。  
さらに米軍との共同訓練で空中給油訓練を受けていた新田原のF-4EJ、築地のF-15j、F-2が米軍機と共に出撃し北朝鮮軍に対し攻撃を開始した。  
これに怒った北朝鮮首脳陣は大阪、東京対し、通常弾頭の労働1号を発射し、日本政府を恫喝した。  
ミサイルの着弾により14名の死者が出た事で国内は揉めに揉めたが結局この攻撃が切っ掛けになって議会では本格的に地上部隊の投入するという考えが主流になりつつあった。  
防衛庁は官房長官からの密命を受けて上陸部隊の編成、及びその埋め合わせの為に部隊の移動を開始。  
予備自衛官を招集したうえで第7師団などの主力部隊から部隊を引き抜き60年ぶりの戦争の為に九州に集めていた。  


『・・・ということだ最上君。2,3日留守にするからその間の指揮は君が取ってくれ。』  
「は。分かりました。それでは水瀬師団長が帰還するまでの間、自分が基地の指揮を取らせて頂きます。」  
電話の向こうに居る師団長に頭を下げながら、第四師団副師団長、最上陸将補はペンを走らせていた。  
と言っても彼は何も電話の内容を書き写しているのではなかった。故郷にいる家族にあてて手紙を書いていたのである。  
「副師団長、おられるでしょうか?」  
電話を切り、しばらく手紙を書くのに熱中していたが部下が彼の部屋のドアを叩いた事でその作業は中断されてしまった。  
「ああ、いるぞ。入室を許可する。」  
書きかけていた手紙をスチール製の引き出しの中に片付けつつドアをたたいた部下に入室を許可した。  
「は、それでは失礼します。」  



885  名前:  てさ  ◆XqrQAy2Hxg  03/07/21  18:49  ID:???  

そう言っておおきな封筒を抱えた部下がドアを開き室内に入室する。  
二本線に桜が三つが彼を一佐、海外で言う所の大佐クラスの階級に位置する事を証明している。  
「副師団長、偵察衛星が北の巡航ミサイルを確認しました。これをご覧下さい。」  
そう言って持参した封筒の中から数枚の写真を取り出した。  
「こちらが今日、11時に撮影された物です。」  
「ふむ。」  
最上が手渡された写真を順番に見ていく。一枚目は目標が小さすぎて分からなかったが2枚目の拡大された写真を見ることによって  
弾道ミサイルを積んだ車両であるということが確認できた。最上が三枚目を見ようと二枚目の写真を一番後ろに回したとき  
最上に資料を手渡した小林一佐が三枚目の写真について説明する。  
「それは30分前に米軍のハンターチームがノドン狩りを行なった成果を我が国の情報収集衛星が確認した物です。」  
三枚目の衛星写真は、先ほどの米軍による衛星写真には劣るものの割と鮮明に映されていた。  
「見事に全滅させてるじゃないか。何か問題があるのかね?」  
写真に写っている焦げた大型トラックのようなものの列は一つ残らず黒焦げになっていた。  
「はい。全滅させたように見えますが最初の写真と見比べた結果、2両たりない事が判明しました。  
 米軍及び空自も捜索を行なっていますがまだ発見されていません。」  
「なるほど、確かにまずいな。このことは空自に?」  
「はい。というよりもこの情報は空自を通して受け取りました。既に全国に展開中のパトリオット陣地が最警戒態勢に入っております。」  
前回、有事法によって展開していた空自のパトリオット部隊は落下してきた弾道弾を迎撃する事には成功したが完全に破壊しきれずに  
作戦目標を逸らしただけに終わり。弾道弾は住宅地に着弾。死者十数名を出す大惨事が発生していた。  


886  名前:  てさ  ◆XqrQAy2Hxg  03/07/21  18:51  ID:???  

PAC-2改の命中精度から考えるなら落下してきた弾道弾に命中させただけでも照準主とミサイルがよい腕と良い性能をしていた証明になるのだが  
パトリオットは無敵の迎撃ミサイルと信じ込んでいた何も知らない日本中の一般市民から  
「役立たず!!」「無能!!」と非難を浴びていたのだった。  
名誉挽回のチャンス到来とあって隊員達の士気は跳ね上がっていた。  
「ふむ。とりあえずできる事は終わっているという事か。」  
最上が見終わった書類をポンっとスチール製の机の上に放り投げる。  
「はい。以上報告を終わります。」  
そう言って報告を終えた小林がその衛星写真を整理してビルマ封筒に収めていた時だった。  

「最上陸将補!!大変です!!」  
 ノックもせずに1人の隊員がそう叫びながらドアを蹴り破るかのような勢いで最上の私室に飛び込んでくる。  
二人が驚いたように其方を振り返ると息を切らせながらも敬礼する通信士の姿があった。  
「どうした?」  
書類を纏め上げ封筒の中にかたずけた書類を脇に抱え直しながら小林一佐が尋ねた。  
「は!先ほど九州各地のレーダーと空中警戒任務に当っていたE-767が阿蘇山上空のアンノウンを発見しました!  
 既に新田原及び築城の要撃部隊が出撃しはじめました!」  
「何!?北のミサイルか!?」  
最上が机を叩くようにして立ち上がる  
ちょうど今移動式の弾道弾二基が行方不明になったと言う報告を受けたばかりであったのだ。  
「は!  現在の所アンノウンの正体は分かっておりません!  
 分かっているのは目標が突然阿蘇山上空に現れたという事、及び球形の物体であるという事だけです!!」  
通信士と話していても埒があかないと考えた最上は席を立ち通信士に告げた。  
「状況がつかめん。司令部に入る。君は司令部要員を集めてくれ。急いでな」「は!了解しました!」  
通信官が敬礼後直ぐに駆け出していったのを確認すると帽子かけに懸けてあった帽子を深々と被り  
傍で待機していた小林を伴って司令部目指して歩き始めた。  


887  名前:  てさ  ◆XqrQAy2Hxg  03/07/21  18:52  ID:???  


彼らが司令部に顔を出すと作業中の隊員達が一斉に作業を一時中断し、彼らに向かって敬礼を行う。  
小林と最上はそれに軽く敬礼を返し最上が彼らに作業に戻るように手で指示を行なった。  
一瞬シーンと静まり返った司令部に再び熱気が満ち溢れ隊員達が入り乱れて作業を始める。  
最上は司令部に設置されてある自分専用の席に向かった。担当の隊員が彼の椅子を引き彼が着席するのを手伝う。  
「状況はどうなっている?」  
「は!第8師団司令部が独自の判断で反撃体勢に入りました!防衛庁がQ号発動を指示してきております。」  
既に戦時体制に入っていたためか、先ほど召集をかけたばかりだと言うのに既に多くの司令部要員が集まっており  
集まっていなかった隊員達も司令部に現れるなり作業に入っていく  
「阿蘇山上空のアンノンは出現地点より動いておりません!!しかしながら少しずつ大きくなっている模様です。」  
「上空に上がった要撃機はどうなっている?まだ接敵できないのか?」  
「は!樋口三曹!モニターに空自機を表示しろ!!」「了解。空自機表示します。」  
巨大モニターにF-15の形をしたグリップが現れ上下から挟み撃ちにするように阿蘇山目指して向かっていく。  
釜山上空や島根上空で警戒に当っていた日米両軍の迎撃機たちも一部の部隊を残し円周運動をやめ一直線に九州を目指し  
直線軌道を描き始めた。  
「築地の迎撃機は約5分、新田原の迎撃機は約6分後に目標黙視圏に入ります。」  
其処に新たな情報が飛び込みモニターの中にミサイルを乗せたトラックの絵が表示される  
「訓練のため移動中だった第8高射特科大隊の第二中隊が阿蘇山の南約七キロの白川に展開中!あと7分で戦闘可能になる模様です。」  
「ふむ。」  
最上は書類との格闘を暫しやめそのモニターを食い入るように見つめた。F-15jの形をした指標が阿蘇山まで半分の地点に来た辺りで  
応戦体勢が出来上がったのか、阿蘇山の下に斜めに長方形の箱を積んだトラックが表示された。  
「副師団長。石橋防衛庁長官から防衛庁に連絡がありました。  
 10分後の1時ちょうどに首相による緊急放送で国民に対する避難要請が出されます。これがその文章です」  
通信部隊の隊員が軽度の暗号でつづられた文章を解読し最上に手渡した。  


888  名前:  てさ  ◆XqrQAy2Hxg  03/07/21  18:53  ID:???  

「避難要請?戒厳令か避難勧告の間違いだろう?」「いえ。避難要請です。」「ふむ。」  
まあ最上にとってはそんな言葉遊びはたいした問題ではない。どうせ馬鹿な閣僚が戒厳令の発動に反対でもしたのだろう  
危機感のある人間ならそれでキチンと避難するだろうし、危機感の無い人間なら勧告だろうが警告だろうが効果は無いだろう。  
そう考えていた最上は上から下までパラパラと目を通して机の上に放り捨てた。  
「林二尉、第四師団及び佐世保に第二混成団に最警戒体勢に入るよう連絡してくれ。」  
「は!第四師団及び佐世保の第二混成団に警戒態勢に入るよう連絡します!!」  
眼鏡を掛けた士官が復唱した後  直ぐに各部隊指揮官達に指示を出していく。  
「それにしても・・あれは一体なんなのだ?」  
それを脇目に現状が示されている正面のモニターを見続けながら最上はぼそりと呟いた。  

 第8師団  

「第8師団司令部より高射特科第二中隊指揮官へ、現状を報告せよ。」  
部下の指揮に当っていた指揮官が慌てて呼び戻され無線機のマイクを握る  
「第二中隊指揮官、東一尉より司令部へ。部隊展開完了してあります。  
 残念ながら展開に適当な場所が無かった為  スーパーマーケット及びレストランの駐車場などにも陣地を展開させました。  
 今現在、目標は阿蘇山上空で静止中。指示を願います」  
彼の背後では展開を終えた91式地対空ミサイルが阿蘇山山頂のアンノンに向けて旋回を始めていた。  
「司令部より第二中隊指揮官へ、目標の正体が確認されるまで現状で待機せよ。なにか状況に変化があれば連絡されたし。」  
「了解。」  
指揮官が無線機のマイクを握ったまま空を見上げる。  


889  名前:  てさ  ◆XqrQAy2Hxg  03/07/21  18:55  ID:???  

新田原から進出してきたF-15Jがレーダーに表示されている通り南からやってきて目標の正体を確認するかのごとく緩やかに旋回を開始し始めていた。  
それに影響されたのかどうかは分からないがアンノンが急に発光し膨らみ始めた。  
「第二中隊より司令部へ。F-15Jを二機確認しました。現在目標周辺を旋回中です。  
 それと目標にも変化があります。急激に発光しながら膨張しています。」  
指揮官がそう報告した直後  球体のアンノンが急に爆発し目標を確認する為に近づいていた空自機を一蹴にして飲み込んで  
その光る爆風と閃光が山を滑り降りて彼らのほうに近づいてきたのであった。  
それを見た指揮官が慌てて無線機のマイクに怒鳴りつけ  付近にいた部下達にに指示を飛ばした。  
「全部隊に告ぐ!!直ぐに作業を中断し建物の中に逃げ込め!!」  
そう叫んで彼も直ぐに中隊本部の隊員を引き連れローソンの中に飛び込んでいった。  
その直後  光る爆風がローソンの建物ごと彼らを飲み込み、勢いが減ることも無くその場を通過していった。  

第四師団司令部  
「第8師団司令部との交信途絶!」  
「空自機がレーダーから消失!!要撃機が全速で後退していきます!!」  
モニターから次々と消えていき通信が途絶する部隊及び基地が次々と現れる。  
「くそ・・一体何だと言うんだ!!屋外にいる全部隊に直ぐに退避するように伝えろ!!」  
机をダン!!と叩いて立ち上がった最上陸将補は出来るだけ被害を減らそうと直ぐに指示を出した。  
だが本人も分かってはいた。恐らくその指示が履行される前に爆風が到達するであろう事は  
「防衛庁にも連絡だ!『我アンノンより攻撃を受ける  敵の攻撃は核かそれ並の破壊力』と!!」  
「爆風が久留米にまで到達!」  
『偵察隊より司令部へ!!爆風の勢いが衰えな・・・・』  
「基地内及び司令部各員へ!!対ショック対応!!急げ!!」  
隊員達がまるで潜水艦の中のように椅子や机に無理やりしがみついて身体を固定していく。  
『爆風がきたぞ!!伏せろ!!』『助けてくれ!!』  
静まり返った司令部に各地の部隊から飛び込んでくる絶望的な音声だけが響き渡っていった。  

そして  爆風が  九州を飲み込んだ・・・  



890  名前:  てさ  ◆XqrQAy2Hxg  03/07/21  19:24  ID:???  

第二章  

「ダ・ゴール大統領。召還の儀式は成功しました。」  
「おお」大臣達の間にざわめきが起きる。  
「静かに、それで何が召還されたのだ?」  
大統領のダ・ゴールが片手を挙げて大臣達を静まらせながら魔術師・・いや召還術を行なうのだから召還術師か・・  
とにかくダ・ゴール大統領は召還術士にむかって続ける。  
「人か?それとも物か?」  
大臣達の注目の中  彼は大統領に返答する。  
「は。残念ながらそのどちらでもございません。」  
召還術士が恭しく礼をしながら返答する。  
「・・?  ということはモンスターか何かが召還されてしまったのか?」  
召還術士の話を聞いた閣僚が心配そうに胸の前で両手をあわせながら召還術士に向かって尋ねる。  
「いえ。なんとも言い難いのですが・・・島です。それも特大サイズの」  
「島・・・?  一体どんな・・・」  
閣僚達がざわつき始める。  
確かに強力な援軍や兵器が召還されるのを期待していた彼らにはいきなり島が現れたと言っても理解し難いのであろう。  
「私が説明するよりも直接ごらんになられた方が宜しいでしょう。この要塞の最上部の見張り台からなら良く見えますので。」  
「ほう。ならば見張り台まで行って見ようではないか。案内したまえ。」  
「は。」  
そう言って大統領は席を立つと近衛兵に護衛されて先を進む召還術士の後を悠々と付いていく。  
大統領が立ち上がったこと為に閣僚達も慌てたように立ち上がり金魚の糞のように国王の後を追いかけて行った。  

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
連続書き込み制限が付いたみたいなので今日はこんだけ。  
今回は異世界に向かうまでのところを出しました。  



696  名前:  てさりすと  2005/07/31(日)  00:39:59  ID:???  

 町は賑やかだった。いや騒がしかったと言うべきだろうか。  
 武器を振りかざした傭兵達が松明と共に建物に進入していったのは数時間前の事だ  
 窓から見上げれば月明かりが自棄に眩しい。  
 先ほどから吹き始めた微風は勢いを増し、今では窓を時折ガタガタと揺らすほど強くなりつつあった  
 だと言うのに遠くから何かを破裂させるような音が響き、続いて女の長く響く悲鳴が聞こえてくる  
「誰だ?・・まったく勝手に商品に手を出すなって言っただろうに」  
 おそらくは強姦だ。  
 この屋敷には町中から女子供40人ばかりかき集められている。  
 思いがけないほどの略奪物に気をよくした誰かが宴会でもおっぱじめたらしい  
 その中の運の悪かった器量良しの誰かが酔っ払った彼の部下の手によってそこ等の部屋にでも引きずり込まれたのだろう  
 まあいい。商品はたくさんあるんだから一人二人傷物になったところでたいした問題はない  
 傷物だって多少値は落ちるが娼館あたりが買い取ってくれるだろう  
 そういいながら彼はさきほどまで進めていた遊戯を再開した      
「何が商品だこの豚め。約束が違うぞ」      
 後ろ手に括られて床に転がされている領主が食いかかってくるが男は下品笑いでそれに答えた  
「けけ。傭兵の約束を信じたお前が悪いのさ」  
 町はずれにひっそりと立つ領主の館である  
 小さな町の割には屋敷はそれなりに広かったが内装がそれに追いついていない  
 この地下室では安っぽい精霊灯がせめてもの調度品だった  
 もちろん大して高価なものではない。  
 ただ、常に魔術師が常に魔力を補充してやらねばならないために魔術師を雇えない一般人に持てるものではないため  
 持ち主がそれなりに裕福なことの証明程度にはなった  

「金目のものはくれてやる。だから女子供には手を出すな」  
 それが領主になったばかりの少年の出した条件だった。  
 だが、領民を思いやる優しい領主様は世間知らずでもあったのだ  

 どこの山賊がそんな約束を守るだろう    


697  名前:  てさりすと  2005/07/31(日)  00:44:23  ID:???  

 領主が彼に罵詈雑言を浴びせ続ける  
 豚野郎。そのふざけた面ごと叩き切ってやる  
 だが山賊兼傭兵でもある彼にしてみればそんな罵詈雑言は慣れっこと言うものだった  
 傭兵になって間もないとはいえ、戦場を潜り抜けた数は少なくないのである  
 ただが罵詈雑言で遊戯を止めるわけはなかった  
 周囲に気を払えば心なしか先ほどより表が騒がしくなりつつある。  
 どうやら部下達は相当激しく楽しみだしたようだ  
「まあ、初めての略奪だ。多少羽目をはずすのは見逃してやるか」  
 そうつぶやいたすでに鎧を脱いで半裸だった彼は腰布だけを巻いて領主に迫って行く  
 領主は罵倒を続けながら這うように後退するしかない      
 なるほど。領主は彼の好みだった  
 程よく肩でそろえられた髪。態度の割りに成長しきっていない体など、たまらない  
 なにより彼を喜ばせたのは高貴な人間を襲えると言うこの状況だった  
 彼が故郷でこのような性癖を見せたときには変態とののしられた  
 当然その性癖の相手になってくれるものなど、娼館の住民以外存在しない  
 それがいまやどうである  
   
「糞!近づくな豚野郎!」  
 壁際まで追い詰められた領主がも直も抵抗を試みる  
「けけ。そういわずに一緒に楽しもうぜ」  
 彼が領主に手を伸ばしながらそうつぶやいた次の瞬間だった    
 ドアを蹴破った男が乱暴に部屋に入ってきて言い放つ  
「動くな」  
 振り返った彼の目線の先・・・  
 そこには緑で統一された異国の鎧を着た男達の姿があった  


698  名前:  てさりすと  2005/07/31(日)  01:31:57  ID:???  


 相沢率いる小隊がこの町に浸透し始めたのは十数分前のことである  

 昼の偵察の結果、すでに町の構造の概要は掴んである  
 それを簡単に説明するなら川にへばりつく長方形と言う感じであった  
 山賊除けに2メートルのレンガ積みの壁と1メートルの空堀に囲まれていることは囲まれているのだが  
 気の抜けた代物で戦車か重機で押してやればすぐにでも崩れそうであった  
 だが、今の相沢達には戦車の支援も施設の支援も望めないため壁に突入口を開設するというわけにもいかない  
 となれば主となる進入地点は自然、北と南にある街門に限られてくる  
 最初に攻撃の口火を切ったのは最初に南門から進攻した第一班だ  
 すでに見張りは斥候班の第四班が制圧している。  
 何の障害も無く町内に浸透したこの班は教会を目指し前進中であった  
「俺達が狙うのは穀物庫だ。声を出すんじゃねえぞ」  
 そう言った漆原二曹は班を二つに分け二つのMGで相互に支援させながら前進していた  
 完全に統制されたその素早い交互躍進は見事というほか無い    
 仮にどちらかが攻撃を受けたとしても瞬時にカバーに移れるのだ  

 静かだった。誰一人何もしゃべらない。  
 班長の意思を班員につたえるのは手信号だけである  
 だが、運良くなんの抵抗に出会うこともなく前進を続けた彼らにもついに発見される瞬間が訪れた  
 ただしそれを発見したのは山賊と化した傭兵達では無かった  




885  名前:  てさりすと  2005/08/02(火)  16:32:58  ID:???  

 彼らを発見したモノ・・それは光だった  
 公園の街灯の前を横切った一人の士長の背に街灯の光が分裂してふわふわと奇妙に上下に動きながら付いてくる  
 取り付かれた士長があわてて銃尾で振り払おうとするが離れて行く気配はまったく見えない  
「くそ!ドジめ」  
 傍に居た身長よりやや長い小銃とは別の獲物を持った2曹がそれを見て小さく毒づく  
 何もこの世界では珍しい光景と言う訳でもない  
 古い街に一本は在る古代の精霊灯の前を通れば誰にだってその光がついてくることになるだろう  
 それは精霊灯の本領発揮の光だ  
 精霊灯は何も蛍光灯のように光るだけの代物ではない。  
 確かにそのように光ることもあるが、それは精霊灯の内部に光の精霊が取り付いて居るだけ  
 本来は中の精霊を通行人に寄生させてポケットライトのように使うための物だ  
 帝国が残した古い町にはよくある防犯と民用を兼ねた精霊灯  
 もしすれ違う住民や警備兵達が居たとしたならばすぐにでも発見されることになるだろう  
「まあ取り付かれた仕方が無い・・・坂上。お前少し離れて付いて来い」  
 坂上と呼ばれた士長は  すみません秋山2曹  と言い残し後方へ下がって行く  
 これでいきなり班全員が補足される心配は無くなっただろう  
 秋山は再び班に前進を命じた。  
 以前として坂上が敵に補足される心配が有ったが何しろ夜であり街の中である  
 いきなり攻撃される恐れは少ないだろうと判断したのだ  
 そしてしばらく進んだ所で、その予想は大いに的中することになったのだ  


 それは教会の近くにある墓地を通り抜けようとしたときのことだった  
「おい手前。こんな夜中に何してやがる」  



886  名前:  てさりすと  2005/08/02(火)  16:34:08  ID:???  


 50mばかり距離を置いて並んでいた馬車の列の何処から声が響く  
 光に取り付かれた坂上を除く全員がその場に膝を付いて声の方に銃を構える  
 馬車から現れたのは片手にランタン反対の手にそれぞれの獲物を抱えた男が4人ばかり。  
「おい聞いてんのか。手前だよ手前。こんなとこで何してやがるんだ」  
 先頭の禿た男が凄みながら続ける    
 松明に照らされたその顔は中々に迫力がある代物だった  
 坂上は無言で小銃を構えながら男達とは別の方向にゆっくりと後ずさって行く  
「兄ちゃん。そりゃなんかのまじないか?バネもついてねえ弩なんかじゃ脅しにもなんねえぜ」  
 小銃を弩か何かと勘違いしたらしい誰かが冗談を言い放つ  
 だが坂上は声も出さずに後退するだけだ。  
 暫く後退したところで民家の壁にたどり着いてしまう  
 男達はげらげらと笑いながらゆっくり坂上に近づいて行った  
 それを確認しながら秋山は班員達に手信号で散開と攻撃準備を命じる  
「動くな。それ以上近づいたら攻撃する」  
 やっと口を開いた坂上が警告する  
 だが男達はニヤニヤと笑いながら止まらない  
 どうやら強そうなのは見た目だけらしい  
 男達は坂上にだけ気を取られ周囲の警戒を怠るという最大の失態を犯していた  

「秋山班長。撃っちゃって良いですか?」  
「だめだ。弾がもったいない」  

 誰にとも無くそう呟いた部下と闇夜から響く声  
 そのやり取りに男達はあわてて声のした方向に武器を構えるがもう遅かった  


887  名前:  てさりすと  2005/08/02(火)  16:36:23  ID:???  


「誰だ!うぎゃあぁぁぁ」  
 まず太陽を直視するに等しい閃光が彼らの目を焼いた。  
 秋山の私物のライトだった  
 いい加減に予備電池の残量が心配になってきているため滅多に使用されることは無いが  
 一帯を真昼のように照らし出すだけの出力がある代物である  
 瞳孔が開いた状態でまともに見たならば暫くどころか下手をすれば数ヶ月も視力を失いかねない攻撃  
 当然悲劇はそれだけに終わらない。  
 顔を抑えてもだえ苦しむ男達の側面から現れた8人の隊員が銃尾打撃や飛び蹴りをぶちかましたのだ  
 当然成すすべも無く男達は勢い良く武器を投げ出して倒れこむことになる  
 しかし倒れたところで攻撃の手が止む訳ではない  
 それどころか返って攻撃は激しくなる  
 蹴る殴るは当たり前。兜をつけていた男には分厚いゴム底の革靴による顔面への踵落としさえ行われた  
 ある罰当たり者にいたっては傍にあった墓石による打撃をくわえる有様である  
 もはや戦闘ではなく虐めでしかない  
 だが、秋山に言わせればこれでも人道的な方だった  
 敵が刃物で武装していたのにこちらは刃物すら使っていないのだ。  
 これを人道的といわずになんと言うのか  
 この間、機関銃主は第一撃をぶちかました後で一人この乱闘に参加せず警戒に当たっている  
 仮に馬車から増援が現れたとしてもすぐに制圧できるだろう  

 暫くして、適当に男達を痛めつけたところで秋山は捕縛を命じた  
 もはや抵抗するものは一人も居ない  
 命だけは、と小さく呟くばかりである  
 秋山は部下二人に縛り上げた男達の見張りを任せると荷馬車の制圧に向かって行った  


888  名前:  てさりすと  2005/08/02(火)  16:48:15  ID:???  


 同時刻  中央通にて  

 闇夜に大声で争うような声が響いた。  
 それは教会の方角から聞こえて来ていた。  
 教会に隣接する食料庫に部下が押し入ったのか、それとも町民に発見されたのか  
 暫く続いた男達の声は暫くの静寂の後、女達の悲鳴に変わった  
「よーしよし。制圧は成功したみたいだな」  
 その悲鳴に耳を傾けなが相沢2尉はうれしそうにそう呟いた。  
 良くも悪くも、市街戦における女性の悲鳴とは攻撃側が有利に戦況を進めている証拠である  
 何しろ防御側が優勢ならば攻撃者達は民家に突入することができない  
 女子供の声が響くということは、攻撃側が防御側を撃退して民家や目標に突入を果たしたという事でもあった  
 第一斑の無線機はこの前の傭兵活動のときの流れ矢の所為で壊れてしまっていたために  
 無線は通じなかったが、銃声が響かず悲鳴が響いているということは心配する必要は無いだろうと彼は判断した  
   
「あとは俺達の仕事って訳か」  
 相沢は二班と行動を共にしていた。三班と共に目標を挟み撃ちにする為である  
 彼の目標はただ一つ。この街で一番大きな領主の館であった  
 たった二人の門番が眠そうにしているのを確認した彼は改めて部下を見回すと  
 一番最後尾に居た二人に向かって攻撃準備を命じる  
 距離にして約150m。夜とはいえ目標は照明によって照らし出されているのである  
 完全に必中射程圏内であった  
 最前列に出てきて膝立ちで武器を構えた二人はそれぞれの目標を完全に照準に捕らえている  
 あとは迂回している三班の到着を待つばかりである  
     
『我目標二到着。KZ構築完了。何時デモ始メラレタシ』  
 無線機からその言葉が流れてきたのはその30秒後の事であった    




943  名前:  てさりすと  2005/08/06(土)  13:02:54  ID:???  


 傭兵隊に雇われている流れの傭兵ミルスは占領した領主の館の前でうとうとしていた  
 仲間が屋敷の中で騒ぐ音を聞きながら、住民達がどのように過ごしているのかと考えていた  
 もしかしたら、復讐のために此処を攻撃してくるかもしれないと考えていた  
「俺だったら最初は弓で見張りを倒して出来るだけ気づかれないように敵に近づきたいもんだ」  
 そしてその通りになったのである  

 遠くで騒ぐ音が聞こえた。教会の方角か?  暫くして静かになる  
 暫く間を置いてなにやら女の悲鳴のようなものが聞こえた  
 ミルスは出来るだけ不自然な動きをしないように同じく門番に立っていたクラリスに声をかけた  
「馬車の見張りがどっかに押し入って女を馬車に引きずり込んだのよ」  
 彼の弟子であり共同事業者である彼女は寝ぼけ眼を擦りながらそう答えただけだった。  
 ミルスも案外そんな所ではないかと見当をつけていた      
 だがどうにも寒気がする。これはよくない兆候だ  
 不安を拭い去れない彼の耳に、バキンという聞きなれた鉄バネの弾ける音が届く  
 一般人なら何の音か耳を顰めるだけだっただろう。  
 だが、戦場で敵が放つこの音を嫌と言うほど聞かされていた彼はその音の正体を一瞬で見破っていた  
「弩だ!!」  
 彼は叫びながら未だ寝ぼけた顔で「なんですか・・・」と呟く弟子に飛び掛った  
 瞬間  30cm頭上を闇の中から現れた「それ」が通り過ぎて行く  玄関の大きな扉に命中  
 すぐに振り返って「それ」を確認。鉄の矢。間違いなく弩による攻撃である  
 なにやら抗議しようとした戦友もそれを見て何が起こったのかを即座に認識し慌てて正門の柱の影に隠れた  
「敵襲!!敵が来た!」  
 クラリスが叫ぶ。だが屋敷からは何の返答も無い。  
 柱の影から彼女は何度と無く叫びつづける。やっと誰かが気づいたようだ。  
「1、2、3、4、5人」  
 柱の影から鏡のように磨き上げた短剣の腹を少しだけ出し  
 矢が飛んできた方向を見張っていたミルスはそこで数えるのを止めた  
 その全員が自分達の方に向かって走ってくるのが見えたのだ  


944  名前:  てさりすと  2005/08/06(土)  13:05:04  ID:???  

 続けて6人目が現れる。  
 なぜか一人だけ奇妙な弩を持っていなかったが、  
 そいつは引き抜いた刀の刃先をまっすぐに彼らの方に向けて何かを叫んだ  
 まずい。敵のシェフ(隊長)だ!  
「走れクラリス!」  
 屋敷の内側に注意を払っていたクラリスは咄嗟に動けない  
 すでに走り出す準備を整えたミルスはもたつく彼女を確認すると  
 もどかしげにその襟をつかみ引きずるようにして植生の方へ走り出した。    
 風切音・・そして轟音。閃光と共に正門が弾け飛びその木端がミルスの肩当を叩いた  
 彼はそのまま走り続けた。  

 いきなり街は活気という名の生命を取り戻した。  
 いたるところに悪魔のような影がうごめいている  
 二人は植生の間を潜り抜け屋敷の内部に居る仲間と連絡を取るために勝手口を目指した  

 だがそこまでたどり着くことは出来なかった  
 奇妙な敵からの本格的な攻撃が始まったのである  


945  名前:  てさりすと  2005/08/06(土)  13:11:48  ID:???  



 相沢2尉は舌打ちした  
 何故かは分からないが矢が放たれたと同時に敵は味方を庇う様にしてその身を伏せたのである  
 気づかれた  間違いなく  そして即座に敵は警戒態勢を取るだろう  
 弾が勿体無いからと弩で代用したのがまずかったのか。  
 糞  全員着剣だ  強襲作戦に変更する  全員突撃  
 相沢の命で隊員たちが走り始める。荷を背負っていないために中々に軽快である  
   
「行け行け行け行け!」  
 鹵獲した指揮刀を引き抜き、逆の手に拳銃を持った相沢は剣を振りかざして叫んだ  
 84mm無反動砲を構えた部下に目標を示す。目標  正面の扉  撃て!  
 警備兵がまたしても攻撃命中直前に走り出した  
 こちらの動きが分かるのか?    
 まあいい。裏手に逃げてくれればこちらの物だ。小物は見逃すことにしよう  
 爆音と土煙、扉がぶっ飛んで突入口が瞬時に現れた  
 奥から鎧も着ていない剣を構えた男達が次々と現れる  
 一連射。二連射。  
 二つのMINIMIが短く弾をばら撒くたびに現れた男達はバタバタと倒れた  
 最初の集団は逃げ場も無く狭い通路のど真ん中を突き進む最中に  
 次の集団はそれを見て怖気つきドアからでて直ぐのところで立ち止まった所を  
 それ以後の集団は出てくることすらしなくなった  
 慌てて屋敷の奥に逃げて行くのを追って追い立てるように相沢たちは屋敷の中に突入していく  
 戦闘の興奮は隊員から恐怖を徐々に奪い去って行くらしい  
 真っ先にホールに飛び込んだのは攻撃開始前に相沢に向かって躊躇いの言葉をもらした士長だった  
 彼らはバディごとにドアを蹴り開きながら屋敷を制圧して行ったのだった  


 そして時間は(>>696)に戻る  


946  名前:  てさりすと  2005/08/06(土)  13:13:07  ID:???  

「どこの魔術士かは知らないが助かったよ」  

 開放された領主はほっとしたように解放者に話しかける  
 差し出された手には荒縄の後がまだくっきりと残っている  
 まだどこと無く少年の面影を残した顔がうれしそうにほほを緩ませていた  

「なに、困っているものを助けるのは人間としての義務です」  

 ・・・ふと先程まで部下達にこの村を略奪させようとしていたのは誰だったのだろうか  
 相沢は何事も無かったようにその手に応えるといけしゃしゃあと笑顔で答えた  
 街に略奪は行われなかった  
 教会の直ぐ傍の食料庫に向かい  
 たまたま傭兵隊の馬車群を制圧することになった第一斑が  
 馬車に捕らわれていた亜人達から情報を聞き出して伝令を出したのだ  
 伝令は全力で正面通りを走り抜け屋敷にたどり着いた時、屋敷は陥落寸前だった  
 彼は警備兵と思われていた敵の正体が実は単なる同業者だったと告げた  
 さらに二言一言続ける  なんとすばらしい。  
 傭兵達は大量の物資を馬車に積み込んでいた。当然一斑長は即座にすべてを没収した    
 伝令は正確にその事を相沢に報告する  直ぐに相沢は略奪命令を撤回した。  

 傭兵の大半は馬鹿正直に裏手から逃げようとしたところを攻撃されていた  
 罠とは本来奇襲に驚いた敵が逃げ出す方向に仕掛けるものである  
 馬鹿正直に敵と反対側に逃げ出したがためにまともにKZに飛び込み  
 無数の銃口と弩に歓迎された傭兵達は一分を待たずに制圧されてしまっていた  
 後の話になるが、この攻撃から逃げのびたのはミルスとクラリスの二人だけだ  
 茂みの中に隠れ逃げ延びた彼らは脱出を果たすために敢て危険な手段を取った  
 真正面からの敵中突破である  
 屋敷を征圧し残党掃討を行う隊員が不用意に茂みから注意を逸らしたその瞬間に彼らは行動に出た  
 不意を倒れた隊員が弓に倒れそのバディが戦友を物陰に引きづり込む隙に堂々と正門から脱出したのである  
 その他のものは残らず捕虜になるか、三途の川を渡河させられた  


947  名前:  てさりすと  2005/08/06(土)  13:14:31  ID:???  


 小隊はいつになく活気に沸いていた  
 何しろこれで暫く生きていける事が約束されたのである  
 たしかに負傷者が出た。それは悲しむべき事だった  
 だが、自然と顔が緩むことは避けられなかった  
 何しろ略奪をしていた傭兵隊から略奪した物資が山と在る  
 抵抗した傭兵を無力化するのに120発もの弾丸を必要としたが  
 対価として全員が丸々2ヶ月は遊んで暮らせる物資を手に入れることができた  
 故郷に帰りがてらの略奪だったらしい。  
 桃のような果実に始まり、黒パンやチーズも山のように積み上げられていた  
 おかげでわざわざ街から物資を奪い取る必要が無くなったのである  
 物資を手に入れるために犯罪行為に手を染める予定だったのに  
 街を開放した挙句に物資も大量に手に入れることが出来たのだ  
 喜びを隠す必要は無いのである  
 それでも知る小隊本部通信手の織部士長はその領主の感謝の言葉に  
 傭兵達が行なったことを自分達が行おうとしていた事を思い出し  
 気まずくなって笑顔の領主から視線を逸らし小隊長の顔色を伺ってみた  
 だが相沢に気まずそうな様子は無い。涼しい顔をして領主の応答に答えていた  
 運良く別の傭兵隊が居たから良いようなものの、  
 居なければ略奪に手を染めていたのは自分達の方であると言うのに  

「それにしても・・・たった小半刻で43人もの傭兵を片付けるとは・・」  
 疑うことを知らない領主は繰り返し感謝と驚嘆の言葉を続けると  
 歓迎するから暫く滞在されてはいかがかとまで言う始末だった。  
 ただ飯にありつけるのならと相沢は首を縦に振った  


948  名前:  てさりすと  2005/08/06(土)  13:17:30  ID:???  

 街の開放から二時間後。  
 小隊は警戒員を残し全員が酒場に集っていた  
 住民や人質からの感謝の嵐も一段落付いたころである  
 あるものは果実酒片手に、あるものは強い地元酒を片手に    
 酒の飲めないものはつまみのチーズを齧りながら酒場に住み着いた精霊の歌うような声に耳を傾けていた  
 かつて帝国が飼育していた情報共有の能力を持つ精霊である  
 帝国の日常的な情報などを各地で伝える傍ら、情報収集の役割も持っていた  
 衰退したとはいえ、帝国は未だかつての支配地にまで影響力を持ち続けている事の証とも言えた  
 そして士気高揚のための曲を流すことも良く在る。それは辺境に残された数少ない娯楽の一つだった  
『・・さて、本日の通信も恒例のあの曲で締めくくらせていただきます』  
 日付が変わるちょうど一時間と少し前、精霊はそう告げて最後の曲を奏で始めた  
 いや、歌を歌っているのは精霊だからそれは間違いか  まあどうでもいいことだった  
『・・vor  der  kaserne  vor  dem  goroben  ben  tor  〜♪』  
 今どれほどの人間がこの放送に耳を傾けているのだろうか  この感傷的な兵士の曲を  
 ともかく、この曲は異世界から来た彼らにも受け入れられていた  

 隊舎の前  正門の脇  街灯が在ったね  今でもそこにあるね    
 そこでまた会おうよ  街灯の下で  昔みたいに  
   
 素朴な歌だった。  
 それゆえこの歌は戦いと死と向き合わせになっている兵士達に愛された  
 もちろん帝国語をしらない隊員たちはこの歌が何を歌っているのかは彼らにはわからない  
 だが、それでもこの歌は確実に家を、家族を、平和な故郷を、友人達を、そして恋人達のことを思い出させた  
 耳を傾ける少なくない隊員のほほを涙がぬらした  

 この歌が彼らを支えていた  
 元の世界に返れる保証も無いこの世界で、それだけが唯一の支えだった  
 曲が終わった。精霊は挨拶の後に口をつぐんだ  
「さあ、明日もがんばっていこう  解散」  
 最後の一杯を引っ掛け、声高らかに相沢は宣言した。歓声で返事が返って来る  
 そうとも、なんとしてでも元の世界へ返ってやるさ。全員がその決意を新たにしながら。  



337  名前:  てさりすと  2005/09/03(土)  23:52:05  ID:???  

とりあえず九州召還の外伝のプロローグだけ書き込んでみる  

200X年6月3日  
リノー・ストライダム上級弓兵はアレフスタニア東部の穀倉地帯の小高い山の上の見張り台から  
身を乗り出すようにしてベルバース海を双眼鏡で眺めていた  
真昼の太陽はまるで衰える様子など見えないほどに照りつけ  
どこまでも緑色に広がる海面を今にも乾かし尽くさんかと言うほどに輝いている  
強力に存在するのは海の緑だけではない。  
少し海岸沿いに視線を移せばそこには果てしなく広がるオリーブやブドウ畑が  
生命を証明するかのように緑を張り巡らせている  

「リノー?何か見つけたー?」  

ソニア・ストライダム弓兵隊長が真上を見上げるようにして尋ねてくる  
黒く染められた修道服を着込んだ中々の美人である  
その姓が示すようにリノーの姉妹であった  

「・・特に変わったものは何も無いよ。姉さん」  

・・・いつものようにオーランの偵察竜騎兵が時折訪れるだけです  
そう続けようとして彼女は「あっ」とだけ呟くとそのまま呆けたように黙り込んだ  
待ちに待った目的のものを我が目で遥かな洋上に確認したのだ  

「何を見つけたのリノー?」  
「鉄の船・・・」  
「鉄の船ってことは詰り・・・そう、ついに来てくれたって事」  
「SIE  KOMMEN・・・そう、『彼らは来た』」  

彼女の視線の先・・そこには海上自衛隊のDD『たかなみ』の姿があった  

・・・以上です  





400  名前:  てさりすと  2005/09/06(火)  22:45:31  ID:???  

『塩野2尉へ  
 つい先日まで戦場に居た君に改めていう必要も無いと思うが  
 現在この戦争は膠着状態から抜け出せずにいる  
 日本とエルフィールを主力とする多国籍軍の調整の困難、  
 果てしなく伸びた長大な補給線、それに引き換え優秀な敵の水上や砂上輸送路  
 そして例のビックカノンの砲撃などだ。  
 これらの存在は想像を絶するほど強力な障害となっているのだ  
 もちろん我々も相当な打撃を敵に与えつつある。  
 だが、敵の強力な水陸輸送路がその被害を帳消しにしてしまっている    
 だからこそ、君に与えられた任務が重要性を深く認識して欲しい  
 君が首尾よく任務を達成したならば  
 敵の南方戦線の補給線は完全に麻痺する事になるだろうし  
 それが不可能だったとしても少なくない敵をひきつける事に成功するだろう  
 そうなれば我々の友邦国は南方戦線において優位に立てる  
 だが・・それは副次的な目的に過ぎない  

 現在我々はビックカノンの制圧作戦のために準備を進めているのは君も知っている事だろう  
 最終的には日米、そしてエルフィールの保有する戦力のすべてを注ぎ込んで  
 あの悪魔を完全に沈黙させなければならない  
 だが・・君の派遣地域に居座る偵察翼兵団や蒼竜教導騎士団が障害として立ちふさがっているのだ  
 君の任務の最も重要な目標は敵の竜騎士団を同地から完全に叩き出す事にある    
 君の任務の成功は我らの大きな勝利の糧と成ることだろう  
 必ずや、目的を達成してもらいたい。  

 最後に君の任務が愉快なる冒険になることを願う』  


401  名前:  てさりすと  2005/09/06(火)  22:46:21  ID:???  



まったく、どこの誰がこんな作戦を計画したのだろうか。  

『現地の反オーラン武装勢力を支援して敵の後方を脅かしさらに敵航空戦力を撃滅する』  

なるほど、趣旨は理解できる。が楽天的過ぎる気がする  
近代兵器を扱う日米軍ですら攻めあぐねているオーランを相手に  
民兵程度の反乱軍がいか程に役立つというのか  
とはいえ・・戦略云々は司令部と政府の仕事なので合えて口を挟む気は無い  
与えられた任務が正当なものであり、その成功が味方の勝利の糧となるのなら  
ただただ一心不乱にその完遂を目指すだけでいい  

同僚の佐藤2尉と共に我々を此処まで運んでくれた海自の内火艇に揺られながら  
私は作戦立案者からの手紙を折りたたみ、再び胸ポケットに収め海岸を見つめた  
おそらく我々を呼び寄せた反オーラン勢力の連中だろう  
数十人ほどの人影が砂浜を行ったり来たりしている  
その背後に広がっているのは見渡す限りの果樹園らしき緑の壁  
気候の変動の激しい地方だと聞かされていたのだが  
穏やかな快晴の空や生い茂る緑を見る限り聞いていたほどでは無いのかもしれない  
昨夜も満天の星空を見上げながら穏やかに過ごせたしその前の日も似たようなものだった  

「もう直ぐ陸ですよ  お客様方  
 約束通りレジスタンスにきれいな女が居たら紹介してくださいよ」  

気のいい三曹が内火艇を操りながらおどけて話かけてくる  



403  名前:  てさりすと  2005/09/06(火)  22:48:21  ID:???  


「任せろ三曹。日本に帰るのを躊躇するほどの美人を紹介しよう  
 もちろん俺達が振られた後での話だけどな!」  

私がそう答えると佐藤2尉がまったく同じタイミングで答えていた  
なにかおかしかったのか3曹が大声で笑った。私達も釣られて笑う  

まったく。今回の任務は彼らの協力があってこその話だった  
現在の陸上自衛隊には遠く離れたこのアレフスタニアまで私達を送り込む術は無い  
と、なれば空自か海自の協力を要請しなければならなかったのだが  
空自は大陸の連合軍(エルフィールが主力)の支援で手一杯  
となれば海自に支援してもらうほか無いのだが、  
正規の輸送船や揚陸艦は出払っているかドック入り状態  
結果として我々は護衛艦に輸送してもらう事になったわけである  
当初、我々としてはどこか適当な場所・・倉庫にでも寝泊りするつもりだったのだが  
わざわざ幹部室を一部屋を空けてもらうなど厚遇を受けていた  
この恩はいつか返さないといけないだろう  

さあ、海岸も迫ってきた。  
海岸には外務省の役人が現地との調整要員として来ているはずだ。  
まずは彼を探す事にしようか  


・・・・・・・・・  
以上です  



16  名前:  てさりすと  ◆V2ypPq9SqY  2005/11/12(土)  10:53:06  ID:???  

塩野慶輔2等陸尉は1980年に名古屋の有力建設会社の社長の長男として生まれた  
運悪く母は彼をみもごったことで体を悪くし他界してしまったが  
その後は再婚した両親と仲のよい義妹に囲まれ経済的にも何不自由ない人生を送るはずだった  
両親の突然の病死後、一族会議で会社の経営権を叔父に奪われたことでそのはずは突然の終わりを告げた  
経営権が彼の手から零れ落ちたこと自体は当時いまだ中学生に成ったばかりの彼の年齢を考えれば  
当然といえば当然の成り行きであったのかもしれない。  

問題はその後にあった。  
常識的に考えれば彼とその義妹である唯はその叔父の支援の下生活していく事もできたはずであるが  
彼と唯は住み慣れた家から追い出されることになる  
原因は単純なものである  
酔った叔父が唯に悪戯を仕掛けようとしたのを兄妹で手痛く撃退したのだ  
その後唯がその事を言いふらしたことで一族の恥をばら撒いたと逆に恨みを買い実家にも居ずらくなってしまう  
ある意味、これが彼の性格形成に大きな影響を与えたといってよいのかもしれない  
彼は唯一の理解者であった北海道に居る叔父を頼り、その後見の元強く生きていくことになる  

数年後、高校を卒業した彼は叔父の影響もあり、慶輔は叔父と同じ自衛隊の営門を叩くことにした  
慶輔は泣きながら別れを惜しむ唯と叔父家族に見送られ第二の故郷を離れた  
人が見ればそれほど根をこめて勉強した訳でもなかった彼であったが、  
なぜか運よく防衛大学の試験を通り抜けることに成功し、彼は幹部としての道を進むことになっていた  
だが、組織というものは結束を持って第一とするところである  
入学して一年後には慶輔はその自由奔放な性格ゆえに多くの敵を作ってしまっていた  
さらにたいした勉強をする風でもないのに常に上位の成績を維持し続けたためにさらに多くの敵を作る事になってしまっていた  
当然そうなれば陰性陽性を問わずさまざまな圧力がかけられる事になるのだが  
慶輔がまるで気にした様子もなく淡々とそれも簡単にあらゆる問題を処理し続けたために  
(いや事実まったく気にしていなかったのであるが)  
自然とその圧力は余計に高まりつつあった  
数少ない佐藤をはじめとする理解のある同期や教官をはじめとする援護射撃も無くはなかったが  
まさしく焼け石に水の態を呈していた  


17  名前:  てさりすと  ◆V2ypPq9SqY  2005/11/12(土)  10:54:09  ID:???  

その状況が改善されたのは二年後に彼を追って義妹である唯が入学してからである  
入学式早々兄に出会った嬉しさの余り唯が慶輔に抱きついたことに始まる  
慶輔にしてみれば、兄思いでかわいい妹でしかない唯も  
普段は周りの人間が近寄り話しかけるのも躊躇うほどの高嶺の花である  
仮に勇者が蛮勇を奮って無謀にも声をかけてみたところで  
遠まわしでかつ致命的な一撃を食らって撃退されるのが落ちだった  
その様子を見た同期と後輩たちがしばらくして入学式の事件を思い出したのだろうか  
『将を射んとすればまず馬を射よ』とばかり慶輔に近づくことを思いついたらしい  

「兄上!」  
「なあ慶輔!妹を紹介してくれ!」  
「お兄様(さん)と呼ばせてください」  

などといった風に急に親しげになったことであった  
その先頭になぜか佐藤が居たのは愛嬌というものであろう  
このことは慶輔にしてみればいい迷惑であるが、これが案外よい切欠となった  
近寄って一緒にすごしてみれば慶輔は奔放な人間ではあったが無思慮な人間ではない事が  
妹を巡るやり取りの中で同期や後輩たちに理解され始める  

こうして大学の中での足場を本人すら気づかぬうちに組み上げた慶輔であったが  
やがて卒業の時は来る。卒業式で制帽を高らかに投げ上げた彼も部隊に配置されることになった  
彼は第二師団の装輪化連隊に配置され、ナンバー中隊の対戦車小隊として任に着くことになる  
それは彼にとって悪くない仕事だった。  
何しろ北方防衛の最前線である。  

北部方面隊  第二師団  それが彼の新たな任地の名前だった  


18  名前:  てさりすと  ◆V2ypPq9SqY  2005/11/12(土)  10:54:41  ID:???  


第二師団  
それは陸自最強が第七師団であるならば、陸自最精鋭は第二師団であると自他共に認める精鋭師団である  
好戦的な性格の強い彼にしてみればもっとも理想的な任地と言えた  
再び性格から来る問題で組織性重視の最初の中隊長には睨まれてしまったが  
そのおかげと言うべきか厄介払いされるように各種教育や海外派遣に数多く参加することができた  
米射――米国ヤキマ演習場における実弾射撃訓練に始まり  
PKFとしてゴラン高原に東ティモール、最後にはその経験を買われイラクへも派遣されている  

それからさらに2年、原隊復帰した塩野は再燃した朝鮮戦争に介入する為に  
九州に移動し同期である佐藤と再会。今回の九州召還に巻き込まれてしまうことになった  

障害だらけの彼の人生であったが、今回の召還はある意味最悪の障害と言えた  
陸自初の実践となったエルフィール首都防衛戦にこそ参加していなかったが、  
戦争の発端となった穀倉地帯ボードアを巡る機動戦での活躍に始まり  
その後の残党討伐や佐藤と共に蒼竜と白虎の争いの仲裁に入り成功するなど  
街道を脅かすあらゆる障害を佐藤と共に潜り抜けた慶輔はいつしか  
『ボードアの守護者』『契約者』などと呼ばれるほどになっていた  
事実彼らの指揮する部隊の働きがなければ、オーランが送り込んだ優秀な軍師を取り押さえることもできず  
いまだにボードアのゲリラ活動は活発盛んに行われ前線に対する補給は滞ることになっていただろう  

だが、時として突出した勇者というのは作戦遂行上の邪魔になるものである  
それは彼の友人で同じく街道の守護者であった佐藤2尉が戦争に疑問を持ち  
終戦工作の同志を募るという行為に至った時点で  
上層部は慶輔の存在は無視できないほど大きくなっていることに気づいた  
塩野自身は佐藤の活動に関心を示さなかったが、なにしろ塩野は英雄である。  
上層部は彼の存在をその性格ゆえに敵も少なくないとはいえ  
竹を割ったようにハッキリとした意見とそれを実現しうる能力を持った人間というのは  
良くも悪くも人間をひきつける魅力にあふれた人間である  


19  名前:  てさりすと  ◆V2ypPq9SqY  2005/11/12(土)  10:55:36  ID:???  


その塩野が万が一佐藤に同調すればどうなるだろうか  
ただでさえ今回のオーランとの戦争は交戦意欲に欠ける他人の戦争である  
国内世論は今のところ「戦争もやむを得ず」が大勢を占めているとはいえ  
お茶の間にも顔が知れ渡った塩野と佐藤の二人が反戦派であることを国民に知られたならば  
手のつけられない反戦活動、果ては反エルフィール活動になる可能性もあった  

自衛隊や臨時政府の上層部とて馬鹿ではない  
現場の一士官が思いつくことなど、とうの昔に考慮研究され始めている  
だが、最終的に『オーランとの停戦と同盟』『エルフィールとの敵対』いう道を日本が選ぶにしても  
それは段階的、計画的になされるべきであると考えられていた  
このような考えを持つ上層部から見てみれば  
佐藤の活動は愛国心と正義の心から生まれたとはいえ、国家戦略の障害以外の何者でもない  
その佐藤とその同調者をこれ以上彼の活動に適したボードアにおいておけばどうなるか  
何とかして兵と彼らを分離せねばならない。  

こうして敵勢力化である辺境のアレフスタニアに対する軍事顧問団の派遣を行うという  
戦術的には無謀というほか無い作戦が実行されることになった  
彼は佐藤の親友であり、同じく反戦運動の主導者になりうる知名度をもっていたという  
慶輔自信には何の責任も無いことが原因で佐藤の島流しに同行させられることになった。  
塩野慶輔二等陸尉は己の身に一遍の咎なくして国家に忌避され追い払われたのだ  





117  名前:  てさりすと  ◆V2ypPq9SqY  2005/11/13(日)  14:57:14  ID:???  

―――先行した外交官―――  

「気に入らないな」  

それがアレフスタニアで待っていた外務省の外交官との会合を終え、  
用意された部屋に憮然とした顔で佐藤に言い放った塩野の第一声である  

「俺も確かに気のりしない」  

同じく疲れ切った顔で椅子にふんぞり返った佐藤がそうつぶやいた  

「現地兵を支援してオーラン軍後方を混乱させる。これはよい  
 だが、何の訓練も資材もなくすぐに戦線に投入せよというのはあまりにも無謀すぎる  
 なにより反乱指導者の教育すら我々で何とかせよと言われれてしまえばな」  

現地で状況を聞かされてみれば誰だって彼と同じ気持ちを持ったことだろう  
何しろ現地での反乱運動はまったく統制の取れていない物にすぎない  
ウィル教などといわれる現地宗教の指導者が一応の反乱主導者であることは判っているが  
聖女と呼ばれる指導者の子供たちのほとんどは  
思い思いに戦うだけで個々の戦闘に協調性が無いというのだ  
なにも仲違いをしているわけではない。純粋に連絡手段の不足がそれを不可能にしているらしい  
ならば十分な無線機による通信網を構築し武器弾薬に始まる各種資材を準備して  
十分な訓練を積んだ上で戦闘に投入すればよいと佐藤は意見したのだが、  
なにしろ大陸に恐ろしいまでの勢いで垂れ流しつつある日本にそれはできないと  
外交官に無碍もなく断られてしまったのだ。  
佐藤は塩野の言葉が先ほど外交官が漏らしたあまりに無謀な計画に対する言葉だと受け取っていた  

「ちがう。俺が言ってるのはあの外交官が現地人を馬鹿にした事を言い放ったことだ」  


118  名前:  てさりすと  ◆V2ypPq9SqY  2005/11/13(日)  14:57:43  ID:???  


「ん?そっちか?」  

そう答えつつ佐藤はなんだまだそんなことを気にしているのかと思った  
同時に、いやこいつの性格からするとそんなことの方が問題になるのかも知れないなと考える  
それは塩野が軍事顧問が現地人の服装を着用すること許可を求めたときのことである  
外交官は心底驚いたというような表情を見せた後  
法的に自衛官は制服の着用を義務づけられているから戦闘服を着用してくださいと言ったのだ  
それ自体は間違ったことではない。  
確かに正規軍の将兵は制服を着用し公然と武装することを国際法で義務づけられている  
その義務を守らなければどうなるか。  
当然何かの手違いで捕縛されでもされたとき捕虜として扱ってもらえない事になる  
外交官にしてみれば自衛官の制服着用は常識であり、現地人の服装など論外としか思えなかったのだ  
塩野たちが現地人の格好をすることでおきかねない貴族とのゴタゴタも怖かった  

「それもわかる。だが認めてほしい」  

塩野は改めて許可を得るために自分がなぜ現地人と同じ服装をしたいのかを述べた  
情報の秘匿という意味でも偽装という意味でも現地人と同じ服装は非常に役に立つと彼は考えた  
なにしろここは九州ではなくアレフスタニアなのである  
それは本土やボードアのように多数の自衛隊や米兵が駐留する所ではないということだ  
こんな所で馬鹿正直に迷彩服など着込んでいたらどうなるか  
それこそ自分から敵にその矢弾の標的の在り処を教えているようなものでしかない  
塩野は自らだけが死地に追いやられるならとそれも面白いと受け入れていただろう  
だが、戦闘服により部隊の居場所が敵に知られれば作戦そのものの遂行が  
不可能になってしまうではないか。塩野はそれを恐れた  
さらに部隊間の意志の疎通を図るという意味においても、  
塩野の考えでは現地の服装を着るというの絶対に必要な条件だ  


119  名前:  てさりすと  ◆V2ypPq9SqY  2005/11/13(日)  14:58:17  ID:???  


仮に自分の会社や部隊の中に明らかに異色な服装をした新入りがやってきて  
偉そうにあれこれ指示を出す風景を想像すればすぐに判るだろう  
おとなしく従ったとしても塩野たちを心から信頼してくれることはまずありえなかった  
全く違う環境で育ってきた相手の信用を得るには同じ釜の飯を食べ同じ衣に身を包むのが一番である  
塩野はそのように主張した  
これが原因で規則を重視する外交官と作戦上の利点を重視する塩野の間に確執が生じた  


「奴の意図も判らんでもない。しかしあの野郎が最後の別れざまになんて言ったか覚えているか?  
『それほど野蛮人と同じ服装がしたいなら好きにすれば良いでしょう』だと  
 何様のつもりだ。ただ生まれる所が違っただけじゃないか」  

塩野はどの様な人間でも自分と同じだと思っている  
貧乏も金持ちもどこに生まれたかの違いでしかない。  
彼にとって最も重要なのは  

「まあまあ。許可は得たんだからいいじゃないか」  
「・・・そうだな。それにしても忌々しい」  

そういう佐藤はどう考えているのかといえば双方の意見とも受け入れるべき所はあると考えていた  
だが、現地の人々と信頼関係を築くには確かに塩野のやり方の方が良いに決まっている  
米特殊部隊の人身掌握法にも、現地人と同じ生活をしろと書いてあるほどなのだから  
彼にしてみれば現地人の服装は単に着心地が悪いだろうと感じる程度の問題である  


120  名前:  てさりすと  ◆V2ypPq9SqY  2005/11/13(日)  14:58:41  ID:???  



それに塩野の個人的見解がどうであろうとこの荒巻とか言う外交官は重要な存在なのだ  
自衛隊の準備すら整わぬうちから危険を犯し現地入りし  
十人にも満たぬ護衛と役員だけで情報収集と友好関係の構築に働いている腕利きなのである  
彼は現地の最有力者との会談も準備してくれたし、  
これからの行動に関してもできる限りの事はしてくれると約束もしてくれている  
それに今現在の状況を言えば、我々は彼の客人として扱ってもらっている  
彼が居なければ塩野達は拠点となる寝床を探すことから始めなければないはずだ  
さらに彼自身は純日本人的な協調規則主義的な観がぬぐえないが、人懐こい雰囲気を持っている  
おそらく先ほどの言葉は売り言葉に買い言葉で飛び出てしまったに違いなかった  

どちらにしろ既に終わったことである  
気分を切り替えた塩野と佐藤は改めて会談に向けての相談を始めた  
何しろ彼ら自身が、自分達という名の剣をささげる相手を見定めなければ成らないのだから  



121  名前:  てさりすと  ◆V2ypPq9SqY  2005/11/13(日)  14:59:10  ID:???  

―――謁見  観察者達―――  

数時間後、会見に臨んだ塩野達を出迎えたのはソニアと呼ばれる貴族だった  

腰より長い赤に近い茶色の髪を風になびかせ堂々と歩く姿は  
まるで謁見を受ける騎士にかしずかれながら王座を目指す国王の姿のようだった  
武装した美しく可憐な女性兵と、りりしい奴隷たちに囲まれてやってきた彼女は  
今回の軍事顧問団の到着に喜んでいるのだろうか、  
喜色満面というような表情で我々の横で頭を下げている荒巻外交官に話しかけた  

「ごきげんようアラマキ様。調子はどうかしら」  
「おかげさまで。ソニア様こそお元気そうでなによりです」  

その自然なやり取りに塩野は荒巻外交官とソニアの間に旧知の間柄のような雰囲気を感じた  
それもなぜかおそろしく親密なものだった  
いくらこの外交官が塩野達より先にアレフスタニア入りしていたとはいえ  
精々が一ヶ月ほどである。それなにに有力者とこれほどの関係を関係を築いているとは!  
塩野は荒巻に対する評価を一気に格上げすることにする  
(こいつは話の通じぬ男では在るが、決して無能ではないらしい)  
佐藤が聞けば「お前が言うのか」と失笑を買いかねなかったが塩野はそんなことは気にも留めない  
ひたすら状況を面白そうに観察し、この二人がいかほどの人物かと評価付けようとしていた  

が、その佐藤のほうはといえば・・なんと塩野の囁き等まるで聞こえてなどいなかった  
彼のあらゆる感覚はソニアの後方に控える女性兵・・リノーに完全に奪われていた  
ソニアと同じ赤茶の髪だが肩の高さに切った髪を後方で束ね、  
なにやら実用性のほどが恐ろしく怪しい露出の高い胸甲をつけている  
もちろん儀式的な物で実戦用の物ではない。  
貴族の家の生まれを示す、いわばこちらの世界で言う礼服に過ぎない  


122  名前:  てさりすと  ◆V2ypPq9SqY  2005/11/13(日)  15:00:03  ID:???  


だが、塩野の目は彼女に釘付けになっていた。  
たしかにソニアのよりはスタイルが良かったがスタイルだけなら  
テレビでよく見るアイドル達の方がはるかに良い  
だからといって何か魅力的な声や言葉遣いだったわけでもない。  
そもそもここに入ってきてから彼女は儀式的な挨拶しか口にしていない  
なぜだか知らないが佐藤が目をはずせない何かをリノーは持っていた  
しばらく時の流れるままにリノーを見つめ続けていたがその視線に気づいたのか  
リノーが彼に視線を合わせてきたために慌ててその視線をそらしていた  
その瞬間の佐藤の顔は、塩野が見れば間違いなく囃し立てたに違いないほど真っ赤になっていた  

「それで、私の配下達を導いてくれる貴方の国の英雄達はどこに?」  

ソニアは荒巻外交官の周りを眺めながら訪ねた  
その動きは手で目の上を蔽い見えないものを見ようとするわざとらしい物だったが  
嫌味な感じはせずどこか愛嬌と典雅さを感じさせる動きだった  

「貴方の国の兵士は緑の斑模様の陣羽織を着て連射の聞く火縄を持っていると聞いているわ  
 でも・・そのような者は個々にはいらっしゃらない様だけど」  

実の所ソニアは既に海岸で塩野達を見ている。  
だから「聞いている」というのはおかしい。なぜなら「見知っている」のだから  
何しろその上陸の一部始終をその目で見ているのだがそんなことはおくびにも見せない  
ソニアとリノーは全力で地竜を駆り先回りして体力を消耗しているのだが  
それも外見上からは絶対に悟られない自信をソニアは持っていた  


123  名前:  てさりすと  ◆V2ypPq9SqY  2005/11/13(日)  15:00:41  ID:???  


そこまで頑張ったのは交渉の小さなきっかけでも優位にするための材料にするためである  
ゆえに荒巻の横で興味深そうに彼女を観察している男となぜか顔を真っ赤にしている男が  
先ほどまで迷彩に身を固めていたうわさの英雄だということをすでに彼女は知っている  

「おっと失礼しました。紹介がまだでしたね  
 彼らがわが国の英雄である塩野二等陸尉と佐藤二等陸尉です  
 この国の方々に馴染んで貰おうとの彼らの提案をこの国の衣服を着させて頂きました」  

二人の男が前に出て彼女に一礼した  
顔が赤かった方はやや慌てて、こちらを観察していたほうは悠然と一歩前に出て名乗りを上げる  

「佐藤雄一二等陸尉です。及ばずながらご尽力させていただきます」  
「塩野慶輔二等陸尉。押しかけ助っ人に参りました」  
「・・・塩野2尉。もう少し言葉を選びなさい」  
「かまいませんアラマキ様。サトウ様とシオノ様ですか。  
 私はソニア・ミューレン  パジェット家の当主としてこの付近の民をまとめています  
 『ボードアの竜虎』が揃ってお越しとは光栄の極みです」    

(悪くない態度の英雄様方ね)  
それがリノー・ミューレン  パジェットの塩野達に対する第一印象だった  
片方は真面目一筋な印象を持ったが、片方は度胸と力強い意志の力が瞳にある  
たしかに悪くない。彼らなら忠実に任務に挑み積極果敢に戦ってくれそうだ  
それより何より、目の前の男達はどちらも根は単純で扱いやすそうに見えたのがよかった  
わざわざ我々の民族服に身を包み、こちらの気を引こうとしているようにも見える  


124  名前:  てさりすと  ◆V2ypPq9SqY  2005/11/13(日)  15:03:24  ID:???  


もしかすると我々が考えている以上に日本にとってこの軍事支援に意味があるのかもしれない  
(そういえば先ほどサトウはなぜか私をじろじろと観察していた)  
視線を合わせると急に視線を逸らしたのも明らかに怪しい態度だったといえる  
シオノの方はといえば今もアラマキと意見を交わす姉をそれとなくでは在るが興味深そうに眺めている  
おそらく、この二人は協力して私達姉妹がいかほどの人物であるかを念入りに観察していたに違いない  
実際の所は現地の服装に身を固めたのは純軍事的な目的と塩野個人の我侭で  
佐藤が彼女を見つめ続けていたのは一種の一目惚れの様な物だったのだが  
他人の思考が読めるわけでもないリノーにそれが判るわけが無い  
(うまくやれば、かなりの支援を日本から引き出せそうね)  
姉から軍事顧問達の観察に徹するよう命じられていたリノーはそのように考え  
少しでも彼らの印象を良くしようといっそう気を引き締めてあらため会談に望んだ  

それにしてもこの姉妹は塩野達を知っているのになぜわざわざ荒巻訪ねたのか。  
もちろん単なる礼儀上の問題というわけではない  
確かに紹介を受けたわけでも名乗りを受けたわけでもない者と口を交わすのは  
貴族の礼儀に反するが、もちろんそれだけではない。  
ソニアは彼らをどの様に紹介するのかで塩野達と荒巻の関係を探ろうとした  
荒巻の紹介の際、言葉こそ何時もの様に流暢であったが  
一瞬わずかに躊躇ったような雰囲気が流れたのを姉妹は見逃さなかった  
もしかしたら、彼らの間に何らかの齟齬があるのかもしれない  

今後の交渉で少しでも優位に立つため、姉妹は全力を尽くしていた  




125  名前:  てさりすと  ◆V2ypPq9SqY  2005/11/13(日)  15:04:25  ID:???  

―――結論―――  

「では・・日本政府は金銭的な支援はできないと?」  
「いえ。出来ないという訳では在りません。ただし――」  

塩野は先ほどから経済支援の範疇に及んだ会談から少し離れて成り行きを見守っていた  
何しろ彼は自衛官である。軍事的なことならともかく政治や経済の分野に口を挟む権利は無い  
当然やる事も無いので二人のやり取りを見守るしかないのだが  
しばらく観察を続けるうちにあることを感じた  

このソニアという人物が少しばかり陽気すぎるのではないか、と  

笑ってばかりいるから生きるのが楽しくてしょうがないという雰囲気をうかがわせているが  
先ほどからずっと表情は笑っているのに目だけは笑っていない  
さらにそれとなくでは在るが油断なく周囲をうかがっているようにも見える  
格式張る事は無く誰とでも打ち解けて対等に話をするが  
重要な事柄に触れると途端にそのような諧謔は成りを潜め  
今目の前で繰り広げられているように言葉少なに、そして抜け目なく話を進めていく  
荒巻が買いかぶるのも無理も無かった  
確かにまさしくこれぞ貴族の鑑というべきほど貴族的な人物だった  

だが・・初めてここで出会ったはずのソニアに塩野はなぜか親近感を抱いていた  
それも、なぜか昔から旧知の間柄であるかのような感覚である  
その原因を確かめるために塩野は彼女自身をよく観察してみる  
小柄で多少発育の方は悪いようだが肌はきめ細かくて白い  
態度は闊達で、あるいは闊達を装っているのかもしれないがそのはっきりとした態度が気持ちいい  
妙な獣耳と尻尾さえ付いていなければできればぜひ恋人か嫁にほしい女性だ  
知り合いに確かこんな人間が知り合いに居たはずだが・・  


126  名前:  てさりすと  ◆V2ypPq9SqY  2005/11/13(日)  15:05:27  ID:???  

(そうか妹だ。ソニアは唯にそっくりなんだ)  
髪型と髪の色、それに余計な獣耳や尻尾を取り払って着替えさせればソニアは義妹の唯そのものだった  
そう考えてこの人物の観察をしなおせばこの人物の本音もなんとなく予想できた  
要するにこのソニアという人物は野望家なのだ  
荒巻外交官が情報収集で得た情報通り先見の明のある政治家で機敏な策士なのだ  
目指す所はアレフスタニアの独立の達成と獣人国家の建設に在るのは  
自他共に共通の認識であり本人も明言しているがその程度の野望で終わらすつもりは無いだろう  
「唯(義妹)なら自分で新国家を牛耳ろうとするだろうな。  
 それも俺が絶対に断れない状況を完成させた上で強制的に巻き込んで」  
そう個々にはいない義妹を懐かしく思いながら思いいたった塩野の考えは正鵠を得ていた  
まさしくソニアの野望は自分の国を持つことなのである  
それもエルフィールや日本の敵役を張れるような大国家を牛耳るという大望である  
獣人がエルフや人間と対等な関係を築くという彼女の理想実現のためにはそれが必要になるのだ  
そのために日本やエルフィールを相手に大芝居を目論んでその主役を演じるつもりでいたのだ  

考えをまとめた塩野が佐藤に目を配ると彼はこくりと頷いてそれに答えた  
どうやら正気を取り戻し本来の任務に戻った佐藤も同じ結論に達したようだ  





このソニア・ミューレン・バジェットはこの反乱運動の指導者にふさわしくない  

あまりに冷静で優秀すぎる  
それが塩野と佐藤の下した結論だった