491 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/19(木) 03:49:26 ID:???

「思えばこんな所に来て、俺らはまだ戦争してるんですよね。実に面白くも有りますが、むなしくもなりませんか?」
金髪、GIカットの迷彩服の男が、横に座り手にした突撃小銃の手入れをしている男に問いかけた。
「むなしいと思う事自体がナンセンスだ。我々は場所が変わっても同じ事しか出来ない。それに俺はこれ以外の事をするつもりも無い。
 もっと前ならそう有る事も出来たかもしれないがーーーー今はもう無理だ。」
こちらは銀髪で背は低く、先に話しかけた男と同じ柄の迷彩服を着ている。
砂埃の混じった風に揺られる長髪の間から見え隠れする顔は整っており、歳は20前程度か。
「その通り。馬鹿馬鹿しい話ですけどね。俺は自分からこの商売を選びました。理由はどうあれ望んでこうあったんですよ。
 だから俺はこの世にもわけのわからん状況に疑問は持たない。でもね中尉。あんたはどうなんですか?俺はそれを聞いた事が無い。」
そう金髪の男が言うと、中尉と呼ばれた男は手にしたクリーニング・ロッドをタオルの上に置き、
銃を組み立てにかかった。慣れた手つきは流れるように部品をもとの位置に戻してゆく。
個々の部品が、それぞれの役割を果たせる位置に。
「俺はーーー。そうだな。成り行き、と言う奴か。やりやすかったから、というのもあるが結局の所どうなんだろうな。」
「中尉は自分でもそれを知らない?」
「そうなるな。」
「まったくもって馬鹿馬鹿しいですね。」
「心の底から同意する。」
ため息をつきながら、銃を組み上げ終わった中尉はがちゃりとボルトを引き、動作を確認する。
「だって、今更「仕事だから」で終わる様なモンでもないでしょ?」
少し不満げに言われた中尉は、少し黙ってから口を開いた。
「困った事に俺にとってはーーー」

492 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/19(木) 03:50:32 ID:???

途中まで言って、気配を感じて再び口をとじる。振り向くとがちゃがちゃと金属の擦れ合う音をさせながら、誰かが走ってこっちに近づいてくる。
「休憩中申し訳有りませんグレイ殿!近隣都市からモンスターの被害に遭っているとのメッセージを持った使者が到着しました!
 この城から北西に30リッド離れた町です!防御壁で懸命に防衛しているものの、長くは持たないとの事です!」
現れたのは中世の鎧の様な防具を身につけ、腰に剣と盾を下げた若い男だった。
「やれやれ。最近俺たちを使い過ぎなんじゃないのか?」
ため息をつきながら、中尉ーーグレイとも呼ばれた男ーーが銃を杖にして立ち上がる。
「我々の力はこの世界では特別ですからね。便利だし、安全ですし。」
「だからと言って弾薬にも限りが有るんだがな。」
「弾薬は使う為にあるんですよ、中尉。鉄と血は、使えるうちに使っておかないと。『目的無く居るよりは、何かの為に戦う方が良い』です」
「パットン将軍か?」
グレイが言い当てる。
「その通り。まぁやれる時にやっておきましょう。」
ボヤきながら立ち上がる迷彩服の二人をみて焦る若い男を尻目に、二人は大きな倉庫の様な場所に向かいながら、
「北西に30リッドーーーってことはリアンか?こちらの距離感が未だにしっかりつかめん。」
「大丈夫ですよ、俺の記憶が確かならその通りのはずです。」
「騎士団はもう動いたのか?」
グレイが追いかけて来た若い騎士に問いかける。
「はっ!ソフィア団長は使者の到着後、規模を確認し、即座に50名を派遣しました!現在移動中です!」

493 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/19(木) 03:51:46 ID:???

「妥当なラインだな。我々が向かうならその程度でも大丈夫だろう。行って良いぞ。我々は我々で随時判断し、行動する」
「りょ、了解しました!イージスの守りを!」
若い騎士は剣を鞘に入れたまま、目の前にたてるという礼をしてから元来た道を走り去る。
そうしているうちに巨大なドアの横の、人間サイズのドアの前についた。倉庫のドアを開け中に入り、電灯を付ける。
人工の光が照らし出した中には輸送ヘリや、車両がならんでいた。駐車している米陸軍制式車両であるハンヴィーの横を通り、机の上に
並んでいる電子機器の中からマイクを取り出し、スピーカーをオンにする。
「傾注せよ。こちらはグレイ中尉だ。出動要請がかかった。10分後に第一倉庫前に集合せよ。
 可及的速やかに各人の装備を選定し、ブリーフィングを行った後、行動を開始する。」
大音量で倉庫の外に向かってグレイの声が響く。
「軍に居た時は、こんな放送考えられませんよね。」
「その通りだが、今更型式ばっても面倒くさいだけだろう。必要な事が伝えられればそれでいい。」
そういいながら、自分も装備を点検しだす。
弾薬や手榴弾等をACUに装着し、ハンヴィーの中にも5.56ミリ弾や50口径を運び込み始める。
「50calが大分少なくなって来たな。」
ベルトリンクで接続された弾丸を積み込みながら不満げにグレイが漏らす。積まれている他の通常の弾丸よりふた周りは大きい弾丸は、確かに
他の弾薬よりも目減りして見える。

494 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/19(木) 03:52:25 ID:???

「SS109では抜けない連中との戦闘が続きましたからね。仕方ないっちゃ仕方ないですよ。
 それよりもっと致命的なのは燃料の欠乏です。有る程度は馬車やこちらの移動手段に頼るのも考えないといけませんね。
 そのうちブラックホークが飛べなくなりますよ。」
陸軍制式輸送ヘリであるUH-60ブラックホークを指差しながら言う。
「ゲートが見つかるといいんだがな。」
「目星はついてるんですけどね。」
「本当か?報告書は回って来てないぞ?」
「そりゃまだ出してませんからね。確定って訳でもないし。現状ならまだ余裕有りますしね。作戦のプラン、出しますか?」
当然だ、と言わんばかりに首をすくめる。
「ま、それも今度だ。とにかく今は町を襲ってる間抜けなアホ共と戦うのが先決、と言う訳だ。」
グレイはふぅ、とため息をついて、倉庫の窓からすぐ近くに見える石造りの建物を見上げる。
それはまるで中世の城のようで、尖塔には盾と円陣が組み合わされた旗がはためいている。
そう。
ここは戦争をしている世界と言う事には変わらないのだが、彼らが住んでいた世界とは少し違う。
「そういえば、いつからこんな世界に来たんだかーーーー」

502 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/19(木) 17:08:40 ID:???

南アメリカ クルジス共和国 0815時 晴天
作戦名 パンドラ・トリガー

「行け行け行け!モタモタしてると着陸地点が塞がれるぞ!ブラボー2が退路を確保する!」
熱帯気候のむっとするねばついた空気の中、銀髪、銀の瞳のグレイ中尉が怒鳴る。
同時に数10センチ離れた地面にライフル弾が着弾、跳弾してグレイの後ろにあったくずかごを引き裂いた。
グレイは舌打ちし、発射されたとおぼしき方向に手にしたM4A1突撃小銃を撃ち返す。
グレイは今、5名の隊員とともに西側にホテルが見える十字路の南東側に居た。敵から断続的な銃撃が飛んで来ているのは
北側からだ。グレイが応射しているのはその北側に対してだ。
彼らが所属する米陸軍特殊部隊、デルタフォースは現在南アメリカの小国に少人数の部隊を派遣していた。
数週間前に起ったこの国でのクーデターが原因で政情が極端に悪化し、クーデター後はほぼ無政府状態と化したからだ。
クーデターを起こした勢力はもとからアメリカ合衆国への麻薬の密輸の多くを資金源としており、諜報機関の報告によると
地下組織から生物・化学兵器を受領したという報告も有る。中東のテロ組織との資金面でのつながりも見え隠れする。
そんな中、殺害されたと思われていた旧政府の大統領がアメリカに対して亡命を希望してきた。
現在旧政府大統領、ファーコ・マルドゥークはホテルにおり、諜報部が秘密裏に接触、護送する予定だった。
しかしその前にクーデターを起こした勢力に情報がリークされた。DIA諜報員は民兵組織に殺害され
護衛の為に待機していた陸軍特殊部隊デルタフォースが直接移送と護衛に着手する事になったのだ。
比較的至近距離に居たクーデター派とつながりの有る民兵組織がそれを阻止するために攻撃を開始、現在に至る。
今居る都市は比較的大きな都市なのだがまったく一般市民の影は見当たらない。かなり派手に銃撃戦を行っているので
みな屋内に避難しているのだ。路駐している車がかろうじて普段の喧噪の影を残すだけだ。
「こちらチャーリー4!一名が負傷、大統領を確保!今からカーゴをそちら側へ護送する!」

503 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/19(木) 17:09:14 ID:???

グレイの胸に付けた通信機から報告が入る。
「こちらブラボー2!了解した!ホテル前の十字路を突っ切る際に狙撃兵に注意しろ!ウィーバーがやられた!」
「チャーリー4了解!合図で北側に向かって掩護射撃を!」
「了解した!さっさとでてこないとケツに火がつくぞ!」
グレイの相手、無線の向こうから聞こえる声はかなり焦っているように聞こえる。
それもそのはずだ。空からの視点ーーー戦場を一望出来るMH-60ブラックホークヘリからの報告によると
中隊近い人数の敵勢力がホテルに向かって全速力でやってきているのだ。装甲車の確認報告も有る。
もし彼らが到着すれば、かなりの苦戦を強いられるもしくは作戦自体が失敗ーーーつまり大統領の殺害か全滅ーーーする事は確かだろう。
「デニス、ヤング!!俺の合図で右の建物に対して一斉射撃!ルイスとレベッカは掃射してるアホの頭を押さえろ!
 さっきの狙撃兵は俺が押さえる!」
「了解!」
「任せろ」
グレイの指示に他の隊員が答える。再度無線がグレイを呼び出した。
「出るぞ!3...2...1...今だ!」
「了解した、ぶっ放せ!」
グレイの合図で一斉に隊員が射撃を始める。突撃小銃やライトマシンガンから吐き出された5.56mmのフルメタルジャケット弾
が一斉に交差点北側に向かって、その役目を完遂すべく飛翔して行く。
銃声の轟音とマズルフラッシュ、そしてたまに見える曳光弾の軌跡を見ると、グレイは快感にも似た感情を催した。
その妙な興奮の様な感情の中、グレイは手にしたM4A1突撃小銃をスリングベルトを使って背中にまわし、
既に背中に付けていたM4A1ライフルとはまた違う細身で長いライフルを構えた。それだけで何故か心が躍る。

504 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/19(木) 17:10:11 ID:???

手にしたライフルは、M24 スナイパー・ウェポン・システムと呼ばれる、狙撃兵向けの改良型ライフルである。
フルオート射撃はおろか、セミオート射撃すらも出来ない単発装填、つまりボルトアクションライフルであるが、
その精度は恐ろしいほど高く、熟練した狙撃兵が扱えば遥か遠くのコインをドーナツ状に射抜く事すらも可能なライフルだ。
若干旧式のライフルでは有るが、グレイはスナイパーとしての個人的な趣向でこのボルトアクションライフルを使用している。
銃の先端にある支えーーーバイポッドと呼ばれるーーーを出し、安定した目の前の段差に銃を据える。
座った状態で照準は空に近い、300mほど先に見える破壊された教会の鐘楼に向けられた。
同時に照準を風向、距離を計算して調整する。
無線会話でサンダーソンに注意した、狙撃兵を狙っているのだ。先ほどジョナサン・ウィーバー軍曹が狙撃された時、マズルフラッシュこそ
見えなかった物の、グレイは光の反射を見る事が出来た。かなりの遠距離だったが、アレは双眼鏡か、スコープか。
その類の光学機器のレンズの反射であることは間違いない。ジョナサン軍曹は被弾した物の、ボディーアーマーが幸いして軽傷だ。
反射を見る事が出来たものの、本人を視認できた訳でもない。敵狙撃兵は射撃後、即座に身を隠したのだ。
しかしこれだけ派手に射撃すれば、必ずあの狙撃兵はこちらを狙ってくる。
スコープをのぞくと、鐘楼の窓が見えた。暗がりの中には誰もいない。
だが、必ず隠れている。照準線の中には闇しか無い。
敵は頭がいい。撃った後は即座に隠れる。他の場所に移動するか?いや。あそこ以外にこのあたりに撃ち下ろしの場所はなかった。
あそこしか無い。だったら撃った後、逃げた振りをしてもう一度同じ所から撃つだろう。
ホテルから出る大統領を撃つのにも最も良い場所だ。
「だからーーーーほら。来た。」

505 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/19(木) 17:11:05 ID:???

自然とグレイの口から声が出る。闇にまぎれる為に日光の元には出ない。銃口は窓より内側。
でもここからは見える。スコープを覗いてこっちを見る時にはもう遅い。こちらはもう完全に照準を終えている。
あの銃はソ連製の狙撃銃か。グレイの中の全ての経験と勘がこれから放つ弾道をイメージし、
そのイメージは敵狙撃兵の丁度両目の間を通っていた。

殺せる。

ほぼ自動的に、無意識に指が引き金をしぼっていた。完璧な一発だ。振動一つ銃口には伝わっていない。
同時に発射炎が銃口から吐き出され、弾丸が飛び出した。
鐘楼の中の狙撃兵がスコープに目を近づけた瞬間、音速をはるかに超えるスピードで7.68ミリの鉛弾が狙撃兵の目の間にえぐり込み、
頭蓋骨を粉砕して脳幹を破壊した。名も無い狙撃兵は、死んだ事にすら気づかなかった。
「狙撃兵を黙らせた。観測手は居ない模様だ。さっさと走れ」
スコープの中で倒れる狙撃兵を確認し、無線機に報告する。
「いい腕ですね!相変わらず」
横でライトマシンガンーーーM249''ミニミ''と呼ばれるマシンガンだーーーをフルオート射撃していた兵士が答える。
黒人でかなり大柄な体格をしているが目つきが妙にかわいらしいせいで雰囲気は戦場だと言うのに何故か角が無い。
「お前らが囮になったからな。ヤング軍曹、撃ち続けろ」
「了解!」
実際の所射撃しながら大声でがなりたてていたのだが、ヤング軍曹は答えると、こちらに向かってライフルを構えていた
民兵に対して大量の弾丸を降り注がせる。
すると西側に見えるホテルの玄関から8人程度の迷彩服の上に戦闘用ベストを着用したデルタフォース隊員たち
がスーツの男を取り囲むようにして走ってくるのが見えた。

506 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/19(木) 17:11:42 ID:???

「サンダーソン!」
グレイが中央の大通りを横切りそのまま東へ通過しようとしたデルタ隊員を呼び止める。
「あの男が大統領閣下だとさ!ブリーフィングの写真の通りのアホ面だな!」
サンダーソンと呼ばれた無精髭の白人が大統領を揶揄する。
「アホ面はお前も負けてないさ。このまま着陸地点まで直行だ。情報部の車両は車輪をやられて足止めを食ってる。
 だが幸いにもまだ東側に敵兵は迂回していない。このまま徒歩で大統領を護衛してブラックホークに乗り込め!」
「了解だ中尉!チャーリー41移動する!徒歩でブラックホークまで護衛するぞ!」
「敵車両12時!」
敵兵に対して弾丸を撃ち込み続けていたブロンドの女性、レベッカ軍曹が報告する。
見ると日本製のピックアップトラックの後部に大口径のマシンガンを備え付けただけの車両が横付けしており、
後部の50口径ヘビーマシンガンの射手が停車すると同時にこちらに向かって射撃を始めた。
50口径の大口径ライフル弾がこちらに大量に飛来し、グレイたちが隠れていた崩れたブロック塀がさらに無惨な姿になり始めた。
遮蔽物の少ない場所に居たサンダーソンとその指揮下にある部下たちは泡を食って大統領を近場の商店の中に引っ張り込み、上から押さえつけた。
商店の壁に大きな風穴が大量に穿たれる。その時跳ね回る破片を避けるように身を低くしていたレベッカ軍曹が、
「グレネードを!」
「俺が!」
答えた男はデニス軍曹だ。突撃小銃の銃身の下につり下げられた大口径のグレネードランチャーの照準を起こし射撃準備を行った。
「このアホが…」
デニス軍曹は軽く唇をなめ、一瞬だけ頭を出した。その一瞬で敵車両までの距離を暗記し、グレネードランチャーの射角を計算する。
彼は遮蔽物に隠れたまま、遮蔽物ギリギリ上を弾頭が通るように引き金を引いた。
銃口は目標よりも少し上に向かって向けられている。通常のライフル弾とは違った小型の榴弾を発射するため
その大きな弾頭の重量による弾道の変化はかなり大きいものになり、まっすぐは飛ばないからだ。

507 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/19(木) 17:12:36 ID:???

トン、と銃声とはまた違った少々間抜けな音が響き、緩やかな弧を描いて弾頭が飛翔した。
ワンテンポ置いてから腹に響く様な轟音が響き渡る。
大口径機関銃の銃声が止んだ。
「車両クリア!移動を再開だ!」
遮蔽物から顔を出したグレイが指示を出す。車両を見ると黒いススが大量に車体についており、ひしゃげ、ねじ切れている荷台が
グレネードの威力を物語る。赤黒い模様が付いているように見えるのはおそらく射手の血液だ。
射手の姿は見えないが、体ごと爆散したか、もしくは五体満足であれど生きてはいないだろう。
「えっぐいなぁ。だからM203はおっかねーんだよ。」
「銃で撃つのと変わらんさ。俺から見ればルイス、お前のナイフの方が危ない。」
デニスがルイスと呼ばれた男に反論する。ルイスは肩をすくめ、グレイに向かって声をかける。
「グレイ!そろそろトンズラこかないと増援がくるぞ!」
「わかっている。大統領は…」
グレイが路地を見渡すと、既にサンダーソンは商店を出て大統領を連れて路地を着陸地点に向かって移動しており、大分離れている。
「心配ないようだな。我々も移動する!ヤングとレベッカが最初だ!急げ急げ急げ!後続の増援に轢かれるぞ!」
分隊支援火器を持ったヤングと弾丸に余裕の有るレベッカを残して全員が移動を始める。
他の3名が東側に後退する間、射撃を絶やさず行い、有る程度他が下がったらヤングとレベッカも後退するのだ。
その分全力で他の三名は後退する。
「いいぞ!下がれ!」
グレイが半ブロックほど走った後、即座に転身し射撃を開始すると同時に合図を出す。
残った二人は即座に射撃を止め、後退を始める。
「少しマズいか…」
グレイがつぶやく。
時間をかけすぎた。徐々にだが敵の数が増えている。まだ回り込まれる様な事は無いようだが、なにぶん人数差がある。
敵の射撃圧が大きすぎて応射している間隔が徐々に短くなって来ているのだ。
なにぶん敵はろくに正規の訓練も受けていない民兵だから押さえていられる物の、増援が到着すればまず持たない。

508 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/19(木) 17:13:20 ID:???

「中尉!後退します!」
「っ!ああ!今度は俺とルイスだ!」
到着したヤングとレベッカがデニスを連れて先行する。
「時間がねぇな」
ルイスが話しかける。考えている事は同じのようだった。
「ああ。DIAの連中のずさんな仕事のせいだな。アレで給料はキチッともらっているんだから笑えん話だ。」
階級差があるにもかかわらずルイスはぞんざいな口ぶりだ。だがそのことにグレイはあまり関心が無いようだ。
「全くだな。鉄砲玉の前に出てみろってんだ。ソファーをあっためるのがDIAの仕事か?」
「あのアホ共の金玉ではまず無理な話だ。まぁ今回はあっちにも死人が出ている。良くやった方だ」
「ちがいねぇ。左、自販機の影!」
「了解」
即座にグレイは自らの突撃小銃をそちらに向け、発砲した。自販機を貫通した弾丸は影に隠れていた少年兵にめり込み、
少年兵はけいれんしながら地面に倒れふした。
「今のガキだよな?」
「仕方ない。前に出てくる方が悪い」
淡々と次の敵を狙って行く。多少の憐憫の気持ちはあったが、それは無視する。今更気にしても仕方が無い。
戦争と言うものは殺意を持つ限り公平だ。相手も殺意を持っているのだから。
「中尉!次!」
移動の声がかかる。同時に即座に後退を開始した。
同じ様な事を5回ほど繰り返しただろうか。
グレイが振り返ると、通りはほぼ民兵で封鎖されている状況だ。
人数が増えて来た民兵たちは士気が上がって来たのか、雄叫びを上げながらこちらに向かって発砲してくる。
もう少しで着陸地点だ。今グレイたちは公園の塀を盾にしている。
公園の中の噴水広場近くがMH-60ブラックホーク輸送ヘリの着陸地点だ。既に大統領はブラックホークに搭乗し、離陸が完了しているようだ。

509 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/19(木) 17:17:51 ID:???

すぐ近くから2機のブラックホークのローターの回転音が聞こえる。しかし広場まで移動する事が出来ない。
敵が多すぎて射撃の切れ間が全くないのだ。撃ち返すたびに敵の数は減っているはずなのだが、かなりの応射が飛んでくる。
「こちらエコー23、早く撤収しろ!着陸しているこちらからでも敵が確認できるぞ!もう長くは持たん!お前らが最後だ!」
待機しているブラックホークのパイロットから通信機にがなり立てられる。
「こちらブラボー2、そうしたいが釘付け状態で全く動けん!今出れば良い的だ!」
「護衛のブラックホークがミニガン(バルカン砲を小型化したもの)で掃射する!
 地上からのロケット攻撃が懸念されるため長くは出来んがその間に離脱しろ!」
「護衛のブラックホーク?聞いてないぞ!」
「大統領が乗っているブラックホークの護衛機だ。あっちは手空きだからな。戻らせた!」
「気が利くな!感謝する!」
グレイが通信機を握りながら感謝の言葉を放った。その間もどんどん隠れている塀は削られている。
ビィン!と言う音がしてすぐ近くで弾丸が跳弾し、隠れている場所の近くの街路樹に命中した。
「大分際どい…ッ!」
即座に飛んで来た方向と思われる方に連射する。彼はデルタフォースの中でもかなり特殊な装備をしており、
通常M4A1ライフルと狙撃銃は同時に持たないのだが、彼は自らの意思でそうしている。
色々な状況で柔軟に対応できるのだが、その分重量がかさむ。熱帯の熱気も相乗して、かなり体力を削られている。
息が上がり、射撃の際のブレが大分大きくなって来た。周りを見ると他の隊員も少々疲労の色が出始めている。
(好んでやってる装備だが…これはナンセンスだな)
口にこそ出さないが、多少の後悔が脳裏を横切る。
その瞬間、すぐ上空に爆音が近づいて来た。
「こちらエコー25、掃射を開始する!巻き込まれたらすまん!」
ブラックホークだ。天使の調べにも聞こえる報告が入るが、最後の一言で微妙な不安感が募る。
同時にビィィィィィィッ!と、最早一発一発の銃声が判別できないほどの高速で大量の弾丸が垂れ流される。
なまじ民兵が集団で固まって攻撃して来ている分、高速で発射されるミニガンの効果は絶大だ。
路地に迂闊に出ていた敵兵はなすすべもなく大量の弾丸の前になぎ倒される。遮蔽物に隠れていた者たちも、

510 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/19(木) 17:19:03 ID:???

その圧倒的な火力の前に泡を食って身を小さくした。一時的ではあるが、致命的な士気の低下が民兵たちを襲う。
ヒュウッ、と軽くルイスが口笛を吹いた。
「騎兵隊の到着、って奴か?アイツらタイミング計ってやってるんじゃあるまいな」
「そこまで気の利く連中じゃあ無い。今のうちだ!行くぞ!」
グレイの合図で全員が飛び出す。中央広場はすぐそこだ。敵は空からの機銃掃射に気を取られてこちらに向けての発砲が
だいぶおろそかになっている。植生を乗り越えるとすぐにブラックホークが見えた。
「乗れ!乗れ!乗れ!」
特徴の有るミニガンの掃射音を背に、ブラックホークの中に全員が乗り込む。
「全員乗ったか!?」
「クリアだ!離陸しろ!」
「っと、コイツ撃たれてるぞ!」
ルイスが叫ぶ。着陸しているブラックホークの中ではミニガン射手が肩を押さえてうずくまっていた。
「知ってる!軽傷だ!誰か手当てしてやってくれ!一人銃座に付け!」
副操縦手ががなり立てる。
一番銃座に近いのはデニスだ。目配せするとデニスが銃座に付く。
レベッカは既に医療キットから薬品を取り出し、負傷したミニガンの射手の状態を見始めている。
そんなにひどい傷でもないらしく、容態は落ち着いているようだ。
「離陸する!」
ブラックホークのローター音が大きくなり、離陸する。
兵員が待機する空間に居たデニス以外のそれぞれが積載されていた弾薬箱の弾薬に手を伸ばし、
ベストに突っ込んだ。同時に滑落防止用のベルトを体に結びつけ、開け放したドアから銃を突き出し空に向かって射撃しようとする人間の頭を抑える。
「まだ地上から撃って来てるぞ!頼む!」
パイロットがデニスに指示を出す。


519 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/20(金) 00:15:20 ID:???

パイロットがデニスに指示を出す。
既に彼はミニガンを敵の群衆に向けて無作為に発砲していたが、それでもデニスは軽くうなずいた。
そのとき、開け放したままのドアから射撃していたルイスが焦った声で、
「9時!ミサイルだ!」
「イグラか!総員つかまれ!」
パイロットが悲鳴に近い声で叫ぶ。地上からソ連製の地対空ミサイルが放たれたのだ。
同時にブラックホークから大量の電波妨害用の金属片と囮のフレアと呼ばれる火炎弾が垂れ流され、ブラックホークは急激に旋回した。
「くぅ…」
猛烈な旋回速度にグレイは内部につかまったものの手が離れてしまい、ベルトによってかろうじて支持されている状態になってしまった。
他の者はそれに構う余裕等なく、必死で捕まっている。急旋回するのは仕方ないことだが、固定されていなかったいくつかの弾薬箱が落下する。
その時ドアの角度が変わった事によって、ヘリの装甲をむなしく叩き続けていた数多の弾丸の中でも限りなく偶然であるが、
運命的な一発の弾丸がドアから機内に飛び込んだ。
7.62ミリのその弾丸は誰に当たる事も無く、ただ単に空を切って行っただけであったがその過程で致命的な部分に着弾した。
運命を変えるその場所に。グレイとヘリを結ぶ固定ベルトである。
「な!?くあっ!」
ベルトが断ち切れた事によって突然解放されたグレイの体はいとも簡単にヘリの機内から放り出された。
同時に高速でヘリに向かって突進して来ていたミサイルはきわどい所でフレアに目標を変えあらぬ方向に飛んで行き自爆。

520 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/20(金) 00:16:36 ID:???

「グレイ!」
横に居たルイスが手を伸ばすが遅かった。機体を離れ、自由になった体は重力にあらがう事無く落下して行った。
落下して行くグレイは無限の浮遊感を感じていた。
輸送機からのパラシュート降下とはまた違う、ただ地面に叩き付けられるだけの落下。誰にも止められず、
止めようとする事も出来ない。そう、この世界の常識では。
(死ぬ)
そうグレイの中では結論が出てしまった。背中から落下しているし、それ以前に人間が落ちて無事で済む高さではない。
もう無理なのだ。激突し、体をぐしゃぐしゃにして死ぬのが、終わりなのだ。
太陽がひどくまぶしく見えた。耳の中で血液が轟々と流れているのがわかる。極限まで時間が長く感じた。
だが、グレイの予想は結果的に外れる事になる。
死への秒読みが終わる頃、後少しで建物と同じ高さになるかどうかと言うくらいの時、突然グレイの直下で光り輝く魔法陣の様な文様が展開したのだ。
緑色に発光するその奇妙な文様はまるでこの世界の知識では解読が不可能なほど入り組んだものだが、不思議な美しさが存在する。
魔法陣は落下中のグレイの直下に現れたのだ。当然、グレイは落下方向を変える事もできず魔法陣に飛び込んだ。
そして、消えた。
民兵組織が落ちた兵士を確認しようと集まって来たが、落ちていたのは千切れた米軍制式採用のスリングベルトだけだった。

521 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/20(金) 00:19:57 ID:???

所在不明 時刻不明 晴天


鳥が鳴く声が聞こえる。柔らかな日光が目を覆い、まぶしさで目を覚ました。同時に跳ね起きる。
(何故生きている?)
全身を手で触って確認したがどこも負傷していない。骨折も無い。多少頭痛がするが、コレは気を失った事によるものだろう。
「あの高度で無事なはずが無い…落ちたはずだ。」
周りを見渡すとすぐ近くにライフルが落ちていた。自分のM4A1ライフルだ。背中の狙撃銃も無事なようだ。
とりあえずライフルを拾い、しゃがみ込む。
目に入るのは森林。茂みが生い茂り、そのなかにわずかに開けた地面が有るのだが、そこにグレイは居る。
空から降り注ぐ日光が眩しい。見た事もない鳥が飛び去るのが木々の間から見えた。
まだ撃たれていない事を考えると、周囲に敵は居ないようだ。
ここはどこだ?さっきまではうだるような熱さの中の熱帯気候だったが、今はむしろ少し涼しいくらいの気温を肌に感じる。
混乱が混乱を呼ぶ。無線機を起動するも、まったく返答が無い。
孤立したのか?
GPSも全く機能しない。落下の衝撃で破損したのか、「電波が受信できません」のメッセージを流すのみだ。
自分がどこに居るのかも分からず、今まで来た事の無い場所におり、味方の姿は全く見られない。
これらの事実はグレイを妙にいらだたせた。戦争において以上の事が同時に当てはまる時は、最も死に近い場所に自分が立っているからだ。
手に持つM4A1ライフルだけが、安心感を与えてくれる。ブラックホークに乗った時にしっかりと弾丸を補給していた事は幸いだった。
「しかし…ここはどこなのだ?」

522 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/20(金) 00:21:10 ID:???

昔カナダでの訓練に参加した時の涼しい気候が脳をよぎるが、それとはまた違った感覚がする。周りを見渡しても
深い茂みと植生によって非常に視界が悪く、遠くまで見渡す事が出来ない。
とりあえず同じ場所にとどまるのは避けようと茂みをかきわけ、少し移動するとすぐに見た事もない植物を発見した。
紫の花をつけたその植物は、鈴の様な大きな果実を実らせている。
「なんだこれは…」
野戦の心得が豊富である、つまり植物や動物に対する造詣が深いグレイでさえ見た事も無い植物だ。
「俺に…何が起った?まさか天国なんてオチじゃああるまい…」
その証拠に、M4ライフルの金属の触感は確実な現実の冷たさを放っている。
天国に銃があるとすれば、それはとても無意味な事であり、いかに天国がくだらないものかという証拠である。
不思議とこの荒唐無稽な状況の中、自分が現実感のある感覚を保っている事に安堵した。
冷静さと現実感は慎重な判断と、大胆な決断を助けるからだ。
と、そのとき突然グレイはしゃがみこんだ。
「…10時。多いな。」
少し離れた所から歓声の様な、悲鳴の様な声が聞こえたのだ。ライフルを構え、慎重に体が暴露するのを避けながら
そちらに向かって移動する。ひときわ大きな植生を乗り越えると、目の前が突然開けた。
少し高台になっており、ちょうど見下ろす形で町がある。
近くには大きな川が流れており、そのほとりに家屋が建ち並んでいる。
様子を見ようと地面にふせ、双眼鏡を取り出しレンズを覗き込む。建物の様子がおかしい。
れんが造りの建物や土壁の建物等、デザインからしても現在の町ではあまり見られない様な古風な建物ばかりだ。
それもいくつかの家屋から煙が上がっている。風上の上に、濃い植生のせいで至近距離に来ていても気がつかなかったのだ。


523 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/20(金) 00:22:32 ID:???

火事か?それとも戦闘行為が行われているのか?その割には銃声が全く聞こえない。
噴水がある広場のような所を中心に、人々が走り回っている。単に走り回っているのではない。何かから逃げているようだ。
路地に入ろうとした小太りの男が何かに気づき、逆方向に走り出した。グレイはそこに注目した。
その方向に恐らく彼らの脅威は居る。双眼鏡を取り出し、そちらの方を注視した。
双眼鏡のレンズ越しに見えたのは、置いてあった樽を突き破り、路地から飛び出して来た巨大な犬だった。
いや、犬ではない。
犬が二足歩行をして走行できるのならばそれは犬なのだろうが、あいにく犬は4つの足を地面に付けて走る方が多い。
人間のように直立し、顔は飢えた狼そのもの。盛り上がる筋肉は毛皮に隠れているものの、爆発的な筋力を発揮できる事を物語る。
犬人間、とでもいうべきだろうか。グレイは思わず目を見張った。
双眼鏡で見られている事等つゆ知らず、犬人間はそのまま小太りの男を凄まじいスピードで追いかけて行き、建物の影に入った。
「な…んなんだ…アレは…」
目の前で起ったあまりにも荒唐無稽な光景に思わずつぶやく。
再び建物の影から出て来た犬人間はなにか丸い物体を鷲掴みにしていた。
人の頭部だ。まだ首から大量の血が流れており、地面に血の染みを作っていた。
見ると他の場所でも同じ様な虐殺が行われていた。上手く逃げている者も多い反面、その強靭な瞬発力の前に無惨に殺害されている
死体も多く見られる。
「虐殺…」
理由はわからないが、とにかく一方的な虐殺が行われている。逃げるもの達は腰にサーベルのようなものを下げている事はあるが、
それを使う気はないようだ。赤い屋根の家の側で、やむなく抜いたと思われる剣のようなものを構えた男が逃げられないと悟ったか、
犬人間に斬り掛かって行ったがあえなく犬人間の拳によって動きを止められ、その鋭利な牙で首を噛みちぎられる。

534 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/20(金) 06:00:27 ID:???

「迂回するか…?」
敵の勢力や状況、数や戦力もわからない状況で戦場に飛び込むのは自殺行為だ。
最悪、交戦中の勢力すべてからの攻撃を受けるハメになる。しかし今回は、
「次に会話が出来そうな連中に会えるのはいつになるか…」
グレイは即座に判断を下した。周りはかなり広大な森林地帯だ。とても一日で踏破できそうな距離に他に人里があるとも思えない。
見知らぬ土地で、どんな勢力が居るかもわからない場所で夜を過ごすよりは、
現地の人間に協力を要請するほうがいくらかマシだ。交渉のネタになるものもいくらか持っている。
みたところ誰も銃をもっていることは無いようだ。なんとかなるかもしれない。
あのままでは犬人間は住人を皆殺しにしかねない。貴重な情報源がつぶされるのを易々見逃す手は無い。
恩を売っておけばあとあとの交渉も楽になる。
「行くか。」
とりあえず犬人間を敵と考え攻撃、無理なら離脱する。何となく、話が通じそうにないからだ。
こちらが一人な分、逃げ惑う住人のせいで追跡は困難なはずだ。悪いプランではない。
グレイは即座にライフルを置き、背中に付けていた狙撃銃を構えた。
まず狙撃で敵を減らしてから町に侵入する。それから適当な住人に話を聞けば良い。
スコープに犬人間が映った。即座に照準し、射撃。開けた場所なので、やけに軽い音が鳴り響く。
ろくな調整もしなかったので一発目は逸れた。犬人間は何が起っているのか分かっていない様子で跳弾した場所を不思議そうに見つめている。
「無能が、撃たれたら動くもんだ…!」
スコープの風向調整をし終わり、ボルトを動かし次弾を装填したグレイがつぶやく。もう一度照準。発砲。
見事に犬人間の側頭部に命中し、犬人間は糸が切れたように地面に倒れ込んだ。
影になっていて見えなかったが、金髪の少年を殺そうとしていたようだ。少年が頭を抱えてうずくまっている。
「さっさと逃げろ、死ぬぞ…」
やっと犬人間が死んだ事に気づいたのか、少年は泡を食って逃げ出した。
「鴨撃ちよりは難しいか…?」

535 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/20(金) 06:03:28 ID:???

何しろ犬人間の動きは速い。短距離走の選手並みの速さで跳躍する。だが幸運にもこちらにはまったく注意を払っておらず、
犬人間達のコミュニケーションや指揮系統等はほぼ無い様なもので、一人ずつ確実にしとめて行けるのが幸いだった。
同じように狙撃し、8人を殺害確認した所で撃ち頃の位置に立っている犬人間は居なくなった。
「行くか…!」
狙撃銃をそのまま地面に置き、植生を引き倒して上にかぶせ、場所を記憶する。
同時に高台の斜面を滑り降り、M4A1ライフルを手にした。補助武器として装備しているP228ピストルも同時に動作をチェックする。
一番近くにある家の壁面に向かって走り、壁に取り付くと半身を隠したまま先の様子をうかがう。
とりあえず、生きているものは誰もいない。
先ほど見えた噴水の広場に向かって走り出す。分かりやすい目標地点がそこしかなく、多く遮蔽物があることや森に対して比較的近距離である事から
撤退にも有利と踏んだのだ。
遮蔽物を利用しながら走っていると、路地から人が飛び出して来た。女だ。白人、ショートの髪のややおっとりした顔つきであるが、
今はその表情を恐怖で凍らせている。
「動くな!その場でひざまずけ!」
銃を構えてグレイが警告する。
しかし女は全く無視して、こちらに走りより、グレイの腕をつかんで訳の分からない言語を喋りだした。
撃とうかとも思ったが、なんとか自制する。
「ahoiu ksuasjkfiu uasjohn!!!」
まったく理解できない言語に対して、グレイはまたも混乱した。特殊部隊員というものは様々な言語を習得する事を要求される。
デルタフォースも例外ではなく、隊員は皆多くの言語を習得している。
グレイは育った環境も手伝って、通常よりも多いかなりの数の言語を習得しているが、
彼の知識のなかにこのような言語は全く見当たらなかった。しかし、女が自分が来た路地を指差してパニックを起こしてるのを見て、
おおよその事情はつかめた。敵が居る。女に害意はなさそうだ。武器は無いし、あちこち破れた服は軽装だ。銃を隠す場所はないだろう。
「伏せてろ、伏せろ!」
女を道の横にあった看板の影に引き倒し、自分は積まれていた飲料水と思われる水が入った樽を遮蔽物とした。
「dfop jalsjdfoaiunw jodisf!!!」
「やかましい黙ってろアホタレ!」

536 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/20(金) 06:05:01 ID:???

未だパニックからさめない女を怒鳴りつけ、路地に集中する。未だに女は騒いでいるが、全く無視だ。
と、路地から高速で犬人間が飛び出してくる。脚部の巨大な爪が石造りの路地と擦れ合い、かちゃかちゃと音を立てている。
かなり大きい。2.5メートルはあるのではないだろうかと思われるその体格。近くで見ると、更に威圧感が感じられる丸太の様な腕。
その異様な外見に多少驚いたが、ためらいなく発砲。警告無しに胸に1発、頭に1発叩き込む。
が、胸に1発目が命中した時点で犬人間はよろめいたものの即座にグレイに飛びかかって来た。
そのせいで他の弾丸は空を切った。隠れていた女が悲鳴を上げる。
しかしグレイはその事すらも予想済みだった。即座にフルオート射撃に切り替え、なぎ払うように射撃する。
犬人間の胸にミシンで穴をあけたように等間隔に弾着し、着弾位置から大量の赤黒い血液が流れ出す。
致命的なダメージを身体に受け、生命の火は消えた様に見えたものの、突撃の勢いは止められずそのまま体はグレイの方に倒れ込んで来た。
グレイはあわてて横っ飛びに跳ね、その重たそうな体を正面から受け止める事を避けた。
どずっ、と重い音がして道に血をぶちまけ、骸をさらす。
スコープで見ていた時は大体しか分からなかったが、かなり鋭い爪が手足に生えている。グレイの装着しているボディーアーマーを
貫通できるかどうかは怪しいが、その太い腕から繰り出される計り知れない腕力を相乗すると無事では済まないだろう。
接近されたらかなりマズい。すこしグレイの背筋に寒気が走った。
分析を中断して、周りの様子をうかがう。さっきの女以外は誰もいない。犬人間も、ここには見当たらない。
とりあえずの安全は確保したと考え、先ほど女を隠した遮蔽物の影に自分もしゃがみこみ、
弾倉を交換しながら出来るだけ冷静に落ち着いて話しかける。
「あなたを攻撃する意志はない。私は味方だ。こいつらは一体なんなんだ?ここはどこだ?」
「adfhbqi nqoihwofn qwns lpsp!!」
と、唐突に抱きつかれた。西洋人の様だが全く話が通じない。
英語以外にも中国語、ロシア語、スペイン語等様々な言語で話しかけてみるが特別な反応はない。
「言葉がわからんとは…ここは南アメリカではないのか?」
意思の疎通が全く出来ない。抱きつかれながらグレイは軽く嘆息した。

537 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/20(金) 06:06:27 ID:???

と、そのとき先ほど目指していた広場の方から大きな爆発音がした。割と近い。
同時にまた女が悲鳴を上げてよりしっかりと抱きついてくる。
グレネード等の個人用の火器ではない。同時に炎がせりあがる。恐らくC4か何かの爆薬だ。かなりの量が一度に爆発した。
ということは、
「どこかの部隊が居る訳か…!!マズい…」
接触は回避したいが自分がどこにいるかも分からない状況だ。手がかりになるかもしれない。
重火器で武装した兵士が居るとすれば、それで自分がどこに居るかどうか、つかめるかもしれない。
彼らが友好的であればいいが、敵意を持っていれば問題だ。しかし死体から分かる事も多い。
敵対的であれば、何人か殺すかして死体を調べれば良いだけだ。とりあえず、様子を見る為に移動する事にした。
「いいか?そっちの住居の中に入れ。そして何かに隠れて一切動くな。言葉が理解できん事はわかるがとりあえずそうしてくれ。」
まったく意図のつかめていない、未だに抱きついたままの女を引きはがし、すぐ近くの家屋を指差し頭を抑えて隠れる
ジェスチャーをする。はじめは意図がつかめていなかったようだが、2度同じ動きを繰り返すと、女はやっと理解した様子で、こちらに向かって
何度か同じ言葉を繰り返し、半壊した扉の中に消えた。おそらく感謝の言葉なのだろう。
グレイは女が隠れたかどうかを確認もせず、先ほど向かっていた噴水のある広場の方向へ駆け出した。黒煙が上がっているせいで
場所はすぐにわかる。
なるべく遮蔽物の多い路地を少し走るとすぐに道が開けた。れんが造りの噴水が少し離れて見える。
そこでグレイは驚くべき光景を目にし、即座に手近な遮蔽物に身を隠した。
影から様子をうかがうと、噴水の周りには8人程度の犬人間の死体が転がっている。
その死に様が異様なのだ。鋭利な刃物で切断された腕や足、半分溶け始めている氷が突き刺さったまま噴水に突っ伏している死体、黒こげの死体。
そして、その中に立つ、一人の男。フードで顔は見えないが、足まで届く黒いローブを羽織ってい、
手には節くれ立った杖のような棒を持っている。
その前に二人の犬人間がすぐにでも襲いかかりそうな態勢で立っていた。そんな状況に恐れる様子も無く、
男は杖を振りかざす。すると突然男の目の前で大きな火柱が立ち、それが回転し、球状になった。

538 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/20(金) 06:08:12 ID:???

(なんだアレは…)
犬人間達は、その異様な風景に驚いたのか二の足を踏んだ。
そのまま男が杖を振り下ろすと、火炎の球が犬人間の間に落ちた。
ゴォォン!
同時に爆発。吹き飛んだ土や炎の残滓、爆風に引きちぎられてばらばらになった元々は犬人間の肉の破片が当たりに散らばる。
先ほどの爆発はアレだったのか?爆薬なんかじゃない。今見た奇妙な光景が原因なのだ。
一体そのローブの男がどのような武器を所持しているのかが全く理解できなかったので、グレイはそのまま隠れながら様子をうかがっていた。
ローブの男の着衣には不思議なことにススや血のりなどは付いていない。あの至近距離であの規模で爆発したのならば破片で怪我をしても
全くおかしくない、というか怪我をしない方がおかしい。
そんな事を知ってか知らずか、ローブの男は犬人間の死に様に満足したのか、ローブを翻して森の方向へ去って行った。
制止しようかとも思ったが、相手の行った攻撃が全く理解できなかった以上、迂闊に手出しはしたくない。
そのまま放っておくと、何時しかローブの男は完全に森の中に消えていた。
(何かの新型か?焼夷榴弾…ではない…か?)
何もかもが分からない。更なる混乱がグレイを襲う。とりあえず男の姿が見えなくなったので広場に出た。
いつしか悲鳴や犬人間の叫び声は消えている。どちらかが全滅したか、どっちも全滅したか。
少なくともさっき助けた女はへまをやらない限り生きているだろうが。とりあえず小康状態のようだ。
広場には何人かの人間の死体と、犬人間の死体が転がっている。少し詳しく死体を調べてみた。
特に犬人間の死に方が不可解だ。死に方がまちまちだ。一体どういう事なのか。何をすればこうなるのか?
とグレイが思案に耽っていると突然、グレイは噴水に突っ伏して死んでいると思い込んでいた犬人間が立ち上がり、こちらに飛びかかって来た。
即座にライフルを向けるが、強靭な腕の一撃でライフルがはねとばされた。ライフルが破損したか分からなかったが、
左手のしびれが大きい。姿勢も崩してしまった。

539 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/20(金) 06:10:21 ID:???

「っ…!」
「ガッシャァァァァ!」
犬人間が吠えると凄まじい血の匂いと腐った様な匂いのする息が流れて来た。あまりにも近すぎる。
そのままグレイは倒れ込み、即座に右手で拳銃を引き抜いた。右手だけで保持し、ありったけの弾丸を連射する。
一発撃つ毎に巨大な体は揺れ、拳銃のスライドがオープンし弾丸がなくなった事を告げると、犬人間は立ったまま動かなくなった。
拳銃の銃口から煙が流れ、薬莢が地面をころころと転がる音がする。
「まったく…寿命が縮む…」
グレイは立ち上がると、立ったまま死んでいる犬人間に蹴りを入れる。重い音とともに犬人間は倒れふした。
起き上って周りを見渡すと銃声に引かれてなのか、いつの間にか何人かがこの広場にやって来ていたらしい。
逃げ疲れたのか疲弊した顔は皆同じでは有るが、遠巻きにこちらを見ているようだ。
「私は敵ではない。ここはなんと言う場所なのか、教えて頂けないか?」
大きめの声で声をかけるが、やはり彼らは顔を見合わせるだけで反応がない。
ふぅ、とため息をつく。
と、そのときこちらを見ていた子供が大きな声を張り上げてローブの男が消えた方と逆の方向を指差した。
グレイを含むそこに居たものたちはつられてそちらを見る。すこし急な丘になっている頂上に学校の様な建物が見える。
と、そこにつながる道のりを走る二人ほど人影が見えた。いや、人ではない。先ほどの犬人間だ。
「まだ居たのかクソが…」
またも大騒ぎになってきた。パニックを起こし泣き崩れる者や、地団駄を踏んでいる者も居る。
マトモに話も聞けそうにない。いや、もとより言葉も通じないが。
グレイは落ちていたライフルを拾い、作動を確認する。幸いボルトの動きも問題なく、銃身が曲がっている事も無い。
左手はまだしびれているが、狙撃をしないかぎりは大丈夫だろう。
ここに居る人間は銃を持っていないようだし、こちらを攻撃する様子も見られない。敵対行動をとった者は犬人間だけ。ならば、
「話している最中に背中をやられるのは、御免だ…」
残る不安要素を消す為に。脅威を消してからゆっくり意思の疎通を計れば良い。
自分の居る場所がどこなのか、何が起っているのかを知る為にグレイは学校の様な建物に向かって走り出した。

552 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/21(土) 22:50:12 ID:???

同時刻 ヘックラー記念孤児院

どうしてこんなことになったのか?何がきっかけだったのか?丘をおりた町では大変な事になっている。
丘の上にある孤児院で子供達の面倒を見ているエレン・ヘックラーは凄まじい焦燥感に襲われていた。
つややかな腰まで届く黒髪に、藍色の目をした柔らかな雰囲気をかもしだす外見も、今は彼女の世界に走る緊張感で張りつめている。
先ほど窓から町を見たとき、ウェアウルフーーー半人半獣の化け物ーーーが町を襲っているのが見えた。
それで急いで孤児院の子供達9名を集めて、食堂に集合させたのだ。全ての子供達が食堂に集まった時には既に町の一部から煙が上がっていた。
さっきから何かがはじける様な音もしている。ターン、ターンと断続して妙な音が聞こえるのだ。それがまた不安感を募らせる。
「この町が襲われる事なんて、今まで無かったのに…」
自分がこの町に来てからと言うもの、一度も襲撃にあったことはなかった。それは単なる幸運だったのかもしれない。
少し前から隣国が魔物を使役して近隣諸国を攻撃しているという噂は聞いた事があったが、そのせいなのだろうか?
驚きと恐怖で体中の体温が下がった様な気がする。死の予感と、痛みがすぐ近くに息づいている。
エレンの周りには孤児院の子供達が恐怖に震えながら抱きついて来ていた。
「僕らどうなるのシスター?恐い…」
子供の一人がこちらを見上げ、声をふるわせている。
「大丈夫、きっとなんとかなりますよ…」
安心させようと、出来る限り声を震わせないようにして語りかけるがそれでも子供達はおびえている。
彼女の着ているゆったりとした足首まで届くワンピースをつかんで震える子供達を見る。
そう。私がなんとかしないといけない。

553 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/21(土) 22:51:08 ID:???

ここには自分しか、子供を守ってやれる存在はいないのだ。何の為に守る術を学んだのか?何の為に癒す術を学んだのか?
守るべき者を守るためだ。
恐怖と不安はまだまだ残っていたが、子供達を守るという決意が行動力を揺り動かした。
「礼拝堂にいきましょう。マティア様がきっと守ってくださいますよ…」
そう、あの神像がある所まで行けば、神像の力を借りて皆を守る事が出来る。自分一人の力ではどうにもならないけれど、あそこに行けば。
エレンは子供達を礼拝堂に誘導しはじめた。
「さ、お歌を歌いながらいきましょう。」
子供達の不安感を少しでも和らげるため、歌を歌わせた。勇気を出して森を歩き、森の妖精と友達になる内容の歌だ。
自分から率先して歌うと、子供達も自然とそれに合わせて歌いだした。
それでいい。礼拝堂の扉を開けると、礼拝の為の長椅子が並べられている中、
中央にエレンが信仰する神であるマティアの神像がすぐに目に入った。
手にした穀物を皆に分け与えるその姿。いつも見慣れていつつも敬いの念を忘れた事はなかったその神像であったが、
今はむしろ精神的な意味ではなく、物的な意味で頼りになるように見えた。
「さ、みんなマティア様の元でお歌を歌いましょうね」
全員を神像の元に向かわせる。子供達は歌を歌いながら、それに従う。
これからが本番だ。昔修道院に居た頃に覚えた呪文を唱え始める。同時にマティア神像が薄く輝き始めた。

554 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/21(土) 22:56:49 ID:???

と、木が裂ける音がして何かが崩れる音がした。おそらくウェアウルフが玄関の戸を突き破って来たのだろう。
心の中に大きな焦りが生まれるが、必死で押さえ込もうとする。子供達はより大声で歌っているのでまだ気づいていない。
先ほどまで皆が居た食堂を荒らす音が聞こえる。もう少しで詠唱が終わる…!
「我が身を守り、悪意を防ぎたまえ!ウォール!」
詠唱が終了し、手のひらを前に突き出す。同時にマティア神像を中心とした約5メートル程度の半径にうっすら青く透明な壁が出来上がる。
「せ…成功…したみたいですね…神よ…。」
防御壁の呪文だ。間に合った。これが破られればもうおしまいだ。歯が立たず、あきらめてくれる事を祈るばかりだ。
子供達は呪文の終了時のエレンの声に驚き、歌を中断している。
「みなさん、マティア様の像からはなれてはいけませんよ!私になるべくくっついて下さい!」
子供達にそう告げると、子供達は競ってエレンに近づきだした。
その時どばぁん!と礼拝堂と廊下をつなぐ扉が突き破られた。ウェアウルフが礼拝堂に侵入してくる。
子供達が、ひっ、と小さな悲鳴を上げエレンにしがみついて来た。エレンもしゃがみ込み、子供達を抱きかかえる。
2匹だ。その醜悪な外見と獣独特の機敏な動き。口からむき出しになった牙は鋭く得物を前にして期待の念で涎がしたたっている。
中の様子をうかがうように首を動かし、中にエレンと子供達しか居ない事を確認するとすぐにこちらに向き直る。
「お守りください…!」
思わず口から祈りの言葉が漏れる。同時にウェアウルフ達が飛びかかって来た。が、障壁の法術により壁が出来ているのに気づかず、
障壁に触れた瞬間ガイン!と言うぶつかる音がしてウェアウルフは悲鳴を上げもんどりうって倒れた。
ぶつかる音におびえた子供達が身をすくめる。障壁は完璧なようだ。自分だけの力で障壁を張らず、
神像の力の助けを借りて詠唱したのが正解だったようだ。

555 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/21(土) 22:58:06 ID:???

再び起き上がったウェアウルフは何度か障壁を小突き、壁の存在を確認すると中に踏み入る事が難しいと判断したのか顔を見合わせると方向転換し、
イスの間を歩いてさっきとは別の直接外に出る扉へ向かった。
あきらめたんだろうか?エレンがそう思った瞬間、ウェアウルフ達は唐突にこちらに向き直り、走り出した!
牙を使って噛み付こうとするのではなく、加速をつけて拳で障壁を殴りつけて来たのだ。あまりの迫力に、エレンは思わず目を閉じる。
ビシッ!と言う音がした。驚いて目を開けると目の前の障壁にヒビが入っている。
「嘘…!」
ウェアウルフはそれを見て、にやりと醜悪な笑いともとれるように口を曲げた。そしてそのヒビの入った部分を何度も殴りつけて来た。
何度も殴りつけられるうちにどんどんヒビは広がって行く。
「やめて…お願いします!」
そんな言葉は全く気にかけずウェアウルフ達は障壁を破ろうと殴りつけてくる。
ガタガタと震えながら、エレンは子供達を抱きかかえ、地面にしゃがみ込んだ。
神よ、お願いです。この子達をお救いください!
繰り返し祈り続けるも、何も起る気配がない。
バキン!と言う音がする。見ると、障壁に穴があいていた。これ以上は持たない。
穴があいた部分をさらに殴りつけ、すぐに腕が通るほどの穴が出来てしまった。
ウェアウルフ達はその穴から手を突っ込み、そのかぎ爪で中の者を引き裂こうと手を振り回している。
少しでもそこから子供を離そうと、子供達をより神像に近い所に押し込む。
引き裂かれ、内蔵を引き出され、食いつかれ、食べられる。そんな最悪の光景が頭をよぎる。
極限の緊張と絶望感。もう自分ではどうにもならない。せめて子供達だけでも助けたい…!
「Get Down!! Get the fuck down!!」

556 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/21(土) 23:00:54 ID:???

ばぁん!とドアを蹴破る大きな音がした。同時にウェアウルフが破壊して来た方とは違う、
正面の入り口の方から大きな声が聞こえた。何をいっているのかさっぱり分からないが、
何かをこちらに向けている。杖ではない。剣でもない。逆光で顔も見えないが、変な模様の服を着ている。緑色の妙な服だ。
「Get down you fucking asshole or shot!!」
何事かをこちらに向かってがなりたてている。騎士団なのだろうか?助けが来たのだろうか?それにしては一人しか居ない。
あれではおそらくやられてしまうだろう。ウェアウルフは剣で戦うとなるとかなり熟練した人間でもなければ勝てないのだ。
ガァッ、とウェアウルフ達が遅れて反応する。障壁を殴りつけるその手を一旦止め首をそちらに向けると、
敵意を持った何者かが居る事を察知し、即座に飛びかかった。
「逃げ…」
エレンは現れた「誰か」に対して警告しようとしたが、それから先は何が起ったのかわからなかった。
凄まじい大音量が礼拝堂の中に響き、「誰か」が居た入り口から凄まじい光が放たれた。
ドドドドドドド、と耳の奥に直接響く様な音が止んだとき、ウェアウルフ達は血を流しながら地面に突っ伏していた。
耳の奥がきーん、とする。床を血に染めたウェアウルフ達は動かない。助かったのか?そう思うと足に力が入らなくなった。
騎士団ではなく、魔法使いだったのか?いや、違う。魔法使いならば杖かなにかを持っているはずだ。
「誰か」が持っているのはもっと違う物だ。
彼はこっちに向かって何か言っているが、全く分からない。翻訳の法術をかけないと恐らく分からない。
違う国の人間なのだろう。安心したせいか視界が狭くなり、立っている感覚がなくなって来た。
同時にエレンの脳裏に昔父親が眠れない夜に教えてくれたおとぎ話が浮かんだ。
人々が恐怖の底に有る時、星の下に生まれた異国の服を来た勇者が、光のホウキと油差しを持ち、そこから放たれる光によって
悪を打ち負かす。だからどうにもならない時はこう唱えるんだ。これは私のひいじいさんが教えてくれた魔法の呪文だ。
この世界の言葉じゃないから、どう書いて教えれば良いのか分からない。でもこんな感じで発音するんだよ。
「Go for broke...」
極限の恐怖から解放され、もうろうとした意識の中エレンはつぶやき、意識を失った。

602 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/23(月) 00:34:58 ID:???

グレイが学校らしき建物に到着した時にはすでに玄関に大穴が開いていた。
学校にしては規模が小さいようであったが、そんなことは今は関係ない。残った犬人間を始末するのが最優先だ。
足跡から推測するに、数は2匹。この建物の中に入った事は確かだ。
崩れた建材で足場が悪い上に見通しが悪い正面玄関は回避し、横にもうひとつある大きな扉から侵入する事にした。
ドアの前まで来た時、中から子供らしき悲鳴と何か固いものを殴りつける音がした。
どうやら中の人間と交戦、もしくは一方的に虐殺しているのだろう。どちらにしても
敵が夢中になってる時を狙って先手を打てば簡単に殺せる。
音を立てないようにゆっくりとドアを開けた。カギはかかっていなかった。中を慎重に覗き込む。
小さな礼拝堂の様な作りのようだ。長椅子が並んでおり、見た事も無い像が飾ってある。キリスト教ではない、イスラムでもなさそうだ。
その前にやはり2匹犬人間が居た。その奥に何人か、へたり込んでいる。子供ばかりだ。
何故か犬人間達は彼らを殺そうとはせず、そのすぐ5メートルほど前で手を振り回している。
なにをしているのかはわからないが、チャンスだ。後々の事を考えて、奥の人間を殺す訳にはいかないのが面倒くさいが、
流れ弾に気をつければ大丈夫だろう。こちらにまず気を引きつけ、奥の人間に警告してから犬人間を殺す。
一歩後ろに下がり、思いっきりドアを蹴りあけた。ばぁん!と大きな音がしてドアが全開になる。
「伏せろ!伏せろっ!」
大声で警告する。奥にいるのは子供だけではなく、女性が一人居るようだった。子供とへたり込んだままこっちを見ている。
やはり言葉は通じない。
「伏せないと巻き込まれるぞボケ!」
犬人間達がこっちを向いた。もう間に合わない。まぁもともとへたり込んで姿勢は低い。貫通した弾が当たらない事を祈るばかりだ。
二匹の犬人間が同時にこっちに向かって突進して来た。直線的な動きだ。グレイは流れる様な動きで
ライフルに積んでいる低倍率の照準器を覗き、赤い点をそのうちの一匹に合わせた。
礼拝堂の中で反響する大音量の銃声と共にフルオートで弾丸を撃ち込む。

603 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/23(月) 00:35:34 ID:???

4発が命中した時点でそのまま次の標的に合わせる。その速さはあまりに速く、
フルオートで撃ちっぱなしにしているようでもあった。さらに7発が次の犬人間に命中。
ウェアウルフ達は突っ込む勢いそのままに地面に倒れ込んだ。地面に血溜まりが広がる。
「なんとかクリアか。これで最後なのか?」
銃を下ろし、周りを見渡す。硝煙の匂いが広がる中、犬人間の気配はない。足跡の数通り、ここに来ていたのは2匹だけなのだろう。
ごとん!と音がした。見ると子供に囲まれた女性が地面に倒れている。
どこか怪我をしているのか?そう思い、犬人間の死体をまたいでそちらに向かう。
「おい。大丈夫か?怪我をしているのか?」
そういいながら歩み寄る。血を流しているようには見えないが。子供達は女性を守るように円陣を組んでいる。
「大丈夫だ、何もしない。その女をみるだけ…ぶっ!」
ごいん、と小気味よい音がして、視界に火花が散る。何かに顔面をぶつけた。
「ッ…」
まったく予想していなかったので思わず顔を手で押さえる。
「ぷっ…」
子供達の間から押し殺した笑い声が聞こえた。
「むぅ…結構痛いんだがな。笑い事じゃない。」
手を振ってそういいながら、何に顔をぶつけたのか確認する。手を伸ばしてみると、何か透明な固い壁が有る。
軽く小突いてみると、コンコン、と言う音がした。
よくよく見てみると薄い青色がかかったガラスの様な感じだ。一部が割れている。
「そうか。防弾ガラスの向こうにいたんだな。懸命だ。」

604 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/23(月) 00:36:56 ID:???

言ってから自分で気づく。ここに防弾ガラスがあるのならば、この子供達と女性はどうやって入ったのだ?
見るとその防弾ガラスらしき者はびっちりと壁まで円形に続いている。出口が有るようにも見えない。
「どうやって入った?というかどうやって出るつもりだ?」
子供達に聞いてみるが、そこはやはりきょとんとしているだけだ。見た所この女性がこの子供達の保護者のようだ。
しかしそれも気を失っている。声をかけてみるが、反応がない。恐らくここに避難させたのはこの女性だろう。
出方も彼女が知っていると思うのだがそれも聞けない。ふぅ、とため息をついてから、
「抜けるかどうかやってみるか。こっち側から離れろ。ほら。そっちへ行け。」
手を振って右側に寄るように示す。反応がない。ジェスチャーを変えてみる。右に押し込む様な素振りをした。
ようやく分かったようで、子供達は女性を抱えて右に寄って行った。
「よし、賢いぞ。そういう賢さが命を守るんだ。」
つぶやきながら、自分も跳弾を避ける為に後ろに下がる。
ダン!ダン!ダン!と単発で壁に向かってライフルを撃ち込んだ。
すると意外に簡単に貫通し、バリン、バリンと穴があいた。不思議と破片が出なかった。何故か割れたと思うとすぐに消えてしまうのだ。
「なんだこれは?まぁいい。これはいけるか。」
もう少し撃ち込んでやる。すぐに穴は大きくなり、人が通れるほどになった。中に入ると子供達がびくっとし、身をすくめる。
「大丈夫だ。何もしやしない。むしろ助けたんだ。感謝こそされど脅える必要は無いと思うが…」
銃を下ろし理解されないのを承知で話しかける。
「その女性に話を聞きたい。お前らの保護者だな?さ、どいてくれ。」
近づいて抵抗する子供を押しのける。女性は長い黒髪の、幼い感じが残る優しい顔つきだ。
脈と呼吸を確認する。脈はしっかりしており、呼吸も大丈夫だ。が、脈を取ろうとした時に髪が揺れ、驚くべき物を目にした。
耳が細長い。通常の耳の形ではない。軍隊にはいろいろな人種が集まってくるが、それでも見た事が無かった。
「体質的な物か?それとも病気かなにかか…」
疑問ばかりが頭に残る。とにかく、単に気絶しているだけのようだ。人質が救出され、気が緩んで気絶するということは良く有る。

605 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/23(月) 00:37:28 ID:???

軽く頬を叩いて目を覚まさせる。
「ん…」
少しうめいて、目を開いた。頭を抑えながらこちらと目が合う。
「起きたか。言葉はわかるか?」
「unasdn ineasn konas ea?」
こいつも同じか。やれやれ。グレイは心の中で何度目かわからない嘆息をした。
「auns sanuea kinia uguan」
「ああ、わかったわかった。言葉がわからんのだろう」
ぞんざいに返事する。
「aksunw inga poann awa」
「すまんがさっぱりわからん。英語にしてくれ」
「gsu wina knina tos」
何事かを言っているようだが理解できない。ここまで意思の疎通が出来ないってのも中々つらいな。
これではリスクを承知で戦闘に参加した意味がない。味方につく方は間違っていなかったようだが。
そう思った時、突然女性がグレイの頭をつかみ、自分の額に押し付けた。
「!なにす…」
「trakcewatle」
女性が何ごとかつぶやくと、頭に一瞬ひどい痛みが走った。
「っ!貴様…」
「わかりますか?」
銃を抜こうとしたグレイに、やっと理解できる言語が耳に入った。英語だ。思わずホルスターにのばした手が止まる。


607 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/23(月) 01:08:12 ID:???

「な…」
「翻訳の法術をかけました。これでわかるかと思いますが…」
確かに分かる。いや、発音する言葉自体は変わっていないように見えるが、何故か即座に英語で意味が取れる気がする。
いや、実際に頭の中で理解している。
「ど…どうしたというんだ。何で…言葉が?」
「それは…翻訳の法術をかけましたから。」
きょとん、とした顔でそういう。
法術?なんだそれは?というか理由になっていない。
「法術、ご存じないですか?」
「聞いた事も無い。全く意味が分からん。」
「そうですか?珍しい方ですね。」
珍しいのはお前の耳だ、と思ったが口には出さない。
「ありがとうございました。おかげで私たちの命は救われました。神のお導きですね…
 私はエレン・ヘックラーと申します。先ほど救って頂いた、この子達を養う孤児院の管理をしています。」
自力で女性が立ち上がり、丁寧な言葉で礼を述べ、自己紹介する。
「ここは孤児院だったのか…エレンさん、あんたの神が何をしたかは知らんが俺はこの場所の情報が知りたいから助けただけだ。
 俺はグレイ・フォックスアイ中尉だ。まず聞きたい。ここはどこだ?南アメリカなのか?さっきの奴はなんなんだ一体。」
とりあえず言葉がわかるようになった事に対する疑問はさておき、ここぞとばかりに今までの疑問をぶつける。
「エレンで結構です。グレイ・フォックスアイチュウイ…ですか?」
「中尉は階級名だ。グレイでいい。それはともかくここはどこなんだ?」
「ここ、と言いますとこの町の事ですか?ナディール王国に属している事になります、マーリエという町ですよ。」
どこだそれは。ナディール王国?そんな所が地図上にあったか?
頭を抱えたくなる気持ちを押し込み、次の質問へ移る。
「ぬぅ…それはわかった。その…ナディール王国とやらは南アメリカ大陸に位置する国家か?」
「みなみあめりか…ですか?どこだかわかりません。ここは東大陸だと思いますけど…」
「ぐっ…なんでわからんのだ…まぁいい。次だ。さっきの奴らは一体なんだ?人間じゃなかったぞ?」
もっとも疑問だったことを告げる。

608 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/23(月) 01:09:04 ID:???

「あれはウェアウルフですね。この近隣にいるというのは初めて聞きましたが…
 襲われていたとは言え命を奪わなければいけない事は悲しいですね。」
ウェアウルフ。それはグレイも聞いた事があった。前にルイスに連れて行かれた映画館で確かにあんな感じの化け物とイギリス軍が戦う
映画があった。だがアレは映画じゃないのか?
意思の疎通が出来ればなんとかなると思ったが、聞けば聞くほど混乱が深まるようだ。
「よし、とりあえず状況を整理しよう…」
自分を落ち着かせるため、そう口に出してから考える。
まず作戦行動中にヘリから落ちた。その時に気を失った。目が覚めたら森の中だった。町を見つけて様子を見ると
犬人間ーーウェアウルフといったーーが町を襲っていた。市民と言葉は通じないようだった。
ウェアウルフを殺して人(?)を助けたらそいつに額を付けられた。すると言葉が通じるようになった。
そしてここは東大陸ナディール王国のマーリエと言う町。
「うむ…」
しっかりと意味不明だ。自分で整理していて情けなくなって来た。
「と、とりあえずこの壁の中からでよう。穴をそっちにあけてある。」
「あ、はい」
エレンが穴を乗り越えるのを手助けし、子供達を穴から運び出し終わると、
「あなたがこなければどうなっていたか…本当にありがとうございました。他の国から来られたのですか?」
眉間にしわを寄せるグレイに、エレンに抱きついて来た子供達の頭をなでながら、再度礼を述べるエレン。
「む…そう…なのかもしれんな。自分でも自信がなくなってきた。俺は…」
身分を明かしてよいのか一瞬考えたが、今更どうでも良くなって来た。
「俺はアメリカ合衆国陸軍特殊部隊に所属している。作戦行動でクルジス共和国に居たのだが、ヘリから落ちて目が覚めたらこの近くだった。」
簡単に今の状況を説明する。

609 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/23(月) 01:10:27 ID:???

「うーん。よくわかりませんが、他の国ですよね?」
「多分そうなんじゃないか。」
「こちらから質問してもよろしいですか?」
「かまわない。」
「下の町はどうなっていましたか?」
エレンが心配そうに質問する。
「大分死人が出ているようだが全滅とまでは行かないだろうな。ここにくるまでに11人あの…何だ?ウェアウルフ?を殺して来た。
 ここで二人殺したがな。」
「!やはり亡くなられた方がおられるのですね…」
途端に顔が曇る。
「死体が路上に転がってるのをいくつか見て来た。まぁ仕方が無い。」
「そう…なのでしょうか…」
暗い顔のまま、エレンは考え込む。
「とりあえず俺は理由はわからんが言葉がわかるようになった様だし下におりて現状を把握したい。
 あんたはどうする?」
「町に行かれるのですか?…では私もご一緒します。怪我をされた方がおられるのなら、力になれますし…」
顔を上げ、答える。見た目ではわからないが、医療知識があるような口ぶりだ。
「そうか。では一緒に下におりよう。」
「この子達もつれていってよろしいですか?子供達だけで残しておくのは不安なので…」

610 名前: ◆rZb05aQI/2 [sage] 投稿日: 2007/07/23(月) 01:11:24 ID:???

「…まぁ、いいんじゃないのか。」
まぁ、賢明だろう。他にウェアウルフが居ないとも限らない。足手まといが増えるのは面倒くさいが、
子供を守りたいという意思は尊重してもよい。放っておいて死なれても寝覚めが悪い。
「では行こう。」
「あ、ちょっと待ってください。」
「まだ何か有るのか?」
聞き返すと、エレンは子供達の方に向き直っていた。
「みなさん、怪我は無いですか?」
子供達に聞くと、泣いている子供以外の子供達は口々に「なーい」「大丈夫!」「恐かったー!」とやけに元気よく返事した。
「みなさん、今日私たちは神の慈愛の御心のおかげで、こちらのグレイさんに命を救って頂きました。」
神の慈愛じゃなくて運と5.56ミリのおかげだ、とグレイは思ったがどうでもよいので黙って聞く。
「では、グレイさんにみなさんでお礼をいいましょう。ありがとうございました。」
「ありがとーーーございましたっ!!」
エレンが言うと、子供達が一斉に声をそろえて礼を言う。
突然の事にうろたえたグレイはなんと答えれば良いのかわからなくなり、どもりながら
「ん、う、運が良かったな。」
としか答えられなかった。なんとなくきまりが悪くなったグレイは、
「もういいな、行くぞ。」
きびすを返しウェアウルフの死体をまたぎこえドアから外に出ようとする。
「あ、はい。みなさん行きますよ。」
後ろからエレンと子供達が付いてくる足音がする。
歩きながらグレイはいつもの戦闘の後とは違う、妙な感覚を感じていた。少し疲れが消えた気がする。
子供達に礼をいわれたからだろうか?軍隊に居た時や、その前もこんな感覚はなかった。そこまで考えて、頭を振る。
「くだらない…」
つぶやいてから、孤児院前の道を下り始めた。