188  名前:  名無し対戦車兵  04/09/04  15:23  ID:???  

・・・・英雄王(仮)  1  

大陸北方の島国バロットには数多の伝説や伝承が伝えられているが  
その中でも一際燦爛と輝く一つの伝説があった。  

・・・この剣を抜きし者、異世界の騎士ら引き連れこの国の王とならん・・・  

古臭い、どこにでもありそうな御伽噺。  

アリゴスの丘の頂上に突き刺さった一本の剣を引き抜けば、  
王になれるという途方もないその伝説を信じ、数多くの英雄や騎士がその剣を引き抜こうとした。  
何百年もの時をかけて、数え切れないほどの人間が同じようにそれに挑戦した  
・・そして誰一人その剣を抜くことができなかった。  

カリバーン  
『選定の魔剣』ともよばれるその剣は誰一人にとてその身を委ねることを良しとしなかったのである。  
剣は延々と待ち続けていた  
自分の真の主人となるべき者が現れるそのときを・・・  



189  名前:  名無し対戦車兵  04/09/04  15:25  ID:???  

それからさらに数百年。  
剣がついに主人に出会うそのときがやってきた。  
数百年の間に国は乱れ、異民族の襲来におびえているさなか、  
国王が跡継ぎを残さずに病に倒れたのである。  

貴族や親族は『我こそが王の真の跡継ぎ』と名乗り内乱に明け暮れていた。  
親が子を殺し、子が親を殺すような状況が数年続いた。  
戦いに疲れた「王候補者」たちが『選定の剣』の伝説を思い出したのはそんな時であった。  

国中の王を目指す者達がアリゴスの丘に集った。  
歴戦の騎士、上級魔術師、挙句の果てにはパン屋の息子までがその剣を引き抜き王になろうとした  

だが、やはり誰一人としてその剣を抜くことは出来なかった。  
誰もがあきらめ、これまた、すでに古臭い伝説となった王位継承法を持ち出して一騎撃ちにて王を決めようとしていたときだった  
一人の少女がその魔剣を引き抜くことに成功した。  

これが、島国バロットを世界最強国家まで登りつめさせた英雄王の誕生であった  




346  名前:  名無し対戦車兵  04/09/08  19:11  ID:???  

英雄王3  

「なるほど、サーウィンスレットは  
剣が選んだアルナ王に従えないと言うのだな?」  
伝説に従い、私に従う事を決めた騎士達が  
私に従えないと宣言した伯爵を問いつめる  
「さよう。確かにアルナ様は剣に選ばれたようだ。  
たが、彼女はまだまだ幼いではないか」  
口調は丁寧だったが  
ウィンスレット伯の私に向ける態度は、  
『とても信じられない』  
とはっきりと言っていた。  
周囲集う騎士達も同意見とばかりに頷いている  


347  名前:  名無し対戦車兵  04/09/08  19:13  ID:???  

なるほど、いまだ15の歳を数えぬ私が剣に選ばれ、  
自分達が選ばれなかったのが、よほど悔しかったのだろう  
明らかな敵意を向けて来る者さえいる。  
だがそれだけでは無いことは明らかだ  

ふん。私が幼いからだと?  
お前らが私に従わない本当の理由なら  
この場にいる誰もが知っている  

「それだけでは無いだろう?サーウィンスレット  
紳士ならば正直に言ったらどうだ?。  
私が『女』だから従えないと」  


348  名前:  名無し対戦車兵  04/09/08  19:17  ID:???  

「ふむ、分かっていらっしゃるようですな。  
ならば隠す必要は無い  
そのとおり、私は女に王が勤まる訳は無いと考えている。  
なぜなら国防と言う大問題は  
女性の手には負えないのは  
分かりきっているのだから  
故に例え前王の血族だろうと  
女性の王など認められないのですよ」  
「ならば、私に王にふさわしい能力が  
在れば従うのだな?」  
「はい」  
サーウィンスレットは馬鹿丁寧に頷いた  
おそらく内心では不可能だと思っているからだろう  
「ならば、証明して見せよう。」  



349  名前:  名無し対戦車兵  04/09/08  19:19  ID:???  

これ以上、話していても無駄だ  
ならば実力によって証明するのみだ  

『我らは精強なる盾を持つ。  
我が敵より我が民を守るために』  

魔剣カリバーン  
選定の剣とも呼ばれるこの剣は  
異世界から将兵を強制的に呼び出す  
能力を持っている  

『我らは煌めく剣を持つ  
我が敵に報復の一撃を加えるために』  

私が自分を捨て、ただこの国を守るために  
この剣を抜くことを決意した時  
剣の守護者を名乗る老魔術士が教えてくれた  
剣を持つものだけが使える「魔法」  

私はその悲しき呪文を唱えつづけた  


350  名前:  名無し対戦車兵  04/09/08  19:25  ID:???  

『生まれいでてよりただ一度の敗北もなく  
ただ一度の後退もない  
戦に関してのみ、その存在を認めらていた  
故に平時のその存在に意味はなく  
その騎士らはきっと、戦いを望んでいた』  

騎士団召喚の禁呪  
強制的に呼び出した将兵を無理矢理服従させ  
召喚者のために戦わせるという非道の術  
たが躊躇いはない  
全てを犠牲にする決意で剣を抜いたのだ  
国ためならば、この程度の犠牲は許容範囲だ  

『ならば騎士よ!来たりて我が敵を討て!』  

その呼びかけに応じ、彼らは現れたのは  
蛮族と同じような斑模様の服を着た男達であった  




720  名前:  名無し対戦車兵  04/09/25  15:03:48  ID:???  

英雄王3  戦闘準備  

剣を引抜いてから2週間、  
私の元には多くの諸侯とともに私自身も創造していなかったほどの将兵が集結していた。  
今もまた新たな部隊が遠方より到来しつつ在った。  

「ジャクソン騎士団47名参陣!」  
「サー・リーがウインズ弓兵団72およびニガー傭兵団81、合計153名を率いて参陣されました!」  
新たな将兵の到着を幼い従兵がまだあどけなさが残る声で私に告げる  
現在の総兵力は約1200名、近くの町で徴用した者を含めるなら約1800名  
昔父がこの島の王であったときに従えていた兵力に比べれば、その500分の1にもみたない。  
地方の王族でもこの数倍は兵を備えていることだろう。  
だが、領土も金銭も保有しない前王の私生児、選定の剣に選ばれたと言っても所詮は女。  
そんな私にこれだけの兵が集まったということはそれだけでも僥倖に値する出来事だ。  
やはりそれだけ異世界の騎士団を呼び出したという事実が効いていたのだろう。  

幕舎から出て私の元に集った兵を物見台の上から眺めてみた  
連なる馬車は100を数え、その陣幕は緑の大地を埋め尽くしている。  
兵は露営のための食料をその古ぼけた馬車に積み込むのに余念はないし、  
騎士や傭兵隊長は先ほどから私の元へきては恩賞と給金の吊り上げに必死だ。  
赤青紫、色とりどりの装備でその身を固めた男たち。  
でも、本当に私が探していたのは彼らの姿ではない。  
まったく、いったいどこへ行ったというのか・・・・  
集結地の周辺にはまったくその姿を見せていない。  
忠誠の呪いを受けてこの世界に呼び出されたはずの迷彩色の兵士たち。  
「・・・・見つけた」  
そう、彼らはすでにいた。物見台の600歩ほど先の森の中で木や草をその幕舎と馬車の上に載せて。  
彼らは慌しく辺りの草や小枝をその鉄兜や対刃弾服にくっつけて緑の塊になろうとしていたのだった。  

・・・いったい何をしたいんだろうか?  
私はその理解不可能な彼らの行動に不安を覚えずにはいられなかった・・  


721  名前:  名無し対戦車兵  04/09/25  15:06:58  ID:???  

そう。それは3週間前の話。  
剣の丘で剣を引抜いた私が、選定の剣に選ばれたことを証明するために呼び寄せた異世界の戦士たち。  
本来ならきちんとした儀式の上で呼び出すべき物を、  
ついカチンときた私は、つい剣と私自身の魔力だけで呼び出してしまったのだった。  
その結果、数万の兵を与えてくれるはずの剣が呼び出せたのは・・・  

たった150人と鋼鉄の化け物6匹、それに馬無しで走り出す馬車が大中あわせて20台。  
それだけだった。  

・・・自分の軽率な行動が原因だと分かっている。  
たしかに力を証明するためとはいえ、剣は無駄に力を使い果たし、  
次の召喚や送還を行おうにも魔力の充填には最低限半年はかかると老魔術師は私に教えてくれた。  
つまり、半年は異世界からの増援が見込めないというわけだ。  
自分の馬鹿さ加減が嫌になってくる。  

たった100ばかりの火銃(筒状の弓から火薬で鉄の玉を飛ばす武器)があったばかりで  
いったい何ができるというのか。  
たしかに火銃は100歩圏内においては重装の兵士に対しても絶大な殺傷力を誇る。  
だが射程が短すぎるから弓の遠距離射撃で殲滅されやすいし、  
連射の点においても火槍一発打つ間に敵が長弓なら3本は確実に飛んでくる。  
弾の運搬は矢の運搬よりは楽に運べるが、雨や渡河で火縄が湿気れば撃つこともできない。  
一直線に弾が飛んでいくために弓とは違い常に最前線に配置するしかないが所詮は遠距離兵器。  
火銃そのものが相当な重量であるため、ほかの兵器を持つわけにはいかずせいぜい短剣。  
騎兵や槍兵に殴りこまれればそれでお仕舞い。あとは殲滅されるのを待つだけだ。  
挙句の果てにおもっいっきり値が張る。火銃ひとつ作るお金があれば石弓を5つは作れる。  
火銃が役立つのは十分に時間を確保できる功城戦の防御側が使った時ぐらいのものだろう。  

異世界から召喚された彼らはそんな武器で武装している陣地防御専門部隊だったのだ。  
なのに彼らはそれで野戦をも戦おうとしているのだ。  
確かに鋼鉄の化け物・・キューマルとナナヨンなどという名前らしい・・を飼いならしているとはいえ、  
敵にもゴーレムはいる。6匹では少なすぎる。  
やはり無謀と言うほかない。  


722  名前:  名無し対戦車兵(無能)  04/09/25  15:31:32  ID:???  

だけどこの世界に召喚された男たちが本当に無能だったというわけではなかった。  
2週間ばかり観察してみたところ、兵士としての能力にはいまだ疑問が残るものの、  
部隊の維持統制に関しては目を見張るばかりだった。  

まず第一に騎士や傭兵隊長に複数の階級を設けて指揮関係をはっきりさせることにより  
無駄な指揮権争いを無くす事ができて、部隊のより迅速な行動が可能になった事。  
不満を持つ騎士や貴族もいたが、おおむねみんなが従ってくれた  
次に町側と交渉して、将兵の寝床と食料を準備させたこと。  
私たちがいくら脅迫しても集まらなかった物資を、彼らはたった一日で集めることに成功した。  
何でも、サー・シドウ連隊長自ら町長に掛け合ったらしい。  
交渉は長引いたが、シドウが発した  
「残念ながらそれではこの町に恒久的なわれらの駐屯地を作ることになるぞ?」  
という一言で町側が折れたらしい。あわててこちらが要求していた以上の物資を引き渡してきた。  
・・・・よほど駐屯地を作られるのが嫌だったようだ。  
そして彼らが成し遂げた最大の戦果は  
6台で約1ラスト(彼らがもといた世界では2トンという単位らしい)を積み込める  
馬車を150台も町側から確保したことだった。  
参陣した将兵が持ってきた馬車は大半が騎士や貴族専用のものばかりで全然、  
これまでは水と飼葉を現地で調達するとした上で  
兵の背嚢分の食料を合わせて計算しても約4日しか戦えなかったのだが、  
40台の追加により馬車に搭載できる物資だけで1800名の兵が十日は戦える見込みになった。  
トラックと呼ばれている無馬馬車に積める分を考えれば約2週間は戦えることになる。  
サー・シドウとしてはこれでも不満らしかったが、これ以上の物資はこの町では手に入らなかっただろう。  
足りない分は途中で確保するしかない。  
ともかく、これでなんとか戦争を行える体制が整った。  

ちなみに現在の戦力は総兵力は今参陣した奴ら含めて約2000名  
内非戦闘員は約200名。騎兵300名に馬車が253台(内52台が指揮官たちの物)  
対する敵は約12,000人、約騎兵3000。主城含めて城塞62。  
あまりの差に自嘲的な笑みさえ浮かんでくる。  
目指す目標はコルウオールの都にそびえるキャメロット城、我が父の城を取り戻すことだ。  


723  名前:  名無し対戦車兵(無能)  04/09/25  15:37:24  ID:???  

英雄王4  出撃  

「陛下、第39戦闘団150名は本日0800をもって出撃準備を完了。  
 ですが、先だって報告したように燃料弾薬が不足しています。  
 特に戦車は情報小隊の偵察で判明した敵策源地フットにたどり着くのが精一杯です。  
 その後は燃料の補給がない限り、移動不可能だということを認識しておいてください」  

「よい。燃える水の件ならば既にマーリンが捜索してくれている。  
 かの魔術師ならば、すぐにでも諸君が望むものを持ってこよう。  
 ・・・それよりも、準備が整ったのなら速やかに前進したほうがよかろう。  
 既に私は貴公に敵の支城を攻撃するよう命じたはずだ。」  

「ですが私はいまだ文書命令を頂いておりません。  
 いかに陛下の命令とはいえ、今回の戦争はあらゆる面から見て異常な戦争です。  
 この世界に何が起こったのかはわかりませんが、  
 この火力神話の時代に槍や騎兵で戦うような異常な戦争に参加するんです。  
 口頭命令ではなく、きっちりと命令を文章にしておいてください。」  

火力神話の時代?槍や騎兵で戦うような戦争が異常?  
不振げな表情で彼を見返すが彼はそれにかまわず続けた。  

「航空自衛隊はどこに行きました?われわれを支援すべき特科郡はどこへ?  
 そもそも『ここ』はいったいどこなんですか?」  

なるほど。私にもやっと理解できた。  
彼は、そして彼らは選定の剣によってこの世界に呼び出された  
そして呼び出された時にかけられた呪いのせいで、私とこの国を主人として刷り込まれただけに過ぎない。  
言語などについては刷り込まれたようだが、  
世界観まで刷り込まれた訳ではない彼らにとってこの世界のすべてが彼らにとって異常なのだ  


724  名前:  名無し対戦車兵(無能)  04/09/25  15:56:33  ID:???  

なるほど、確かに彼が言うように陸戦では火銃や大筒が幅を利かし、鋼鉄の船が海洋を闊歩し、  
さらに金属でできたセントウキと呼ばれる兵器が空中で激しい戦闘を行うような世界から見れば、  
槍兵や騎兵が華々しく着飾り、真正面から戦うような戦闘は異常というほかない。  
だが、『こちら』の世界ではこれが普通なのだ。彼らが思うような戦闘など起きようはずはない。  

「状況なら既に説明したはずだ。祖国は異民族の侵略により崩壊し分裂した。  
 祖国を再統一するためにまずキャメロット城を異民族から取り戻すと。」  
「それはわかっています。しかし・・・!」  
「それだけ分かっているのならそれで十分だ。」  

反論は許さない。  
私は一気に畳みかけるように速やかに出撃することを強制した。  
いくら話し合っても私が彼らをこの世界に留め置く以上その矛盾は絶対に解決することはない。  
話し合うだけ無駄なことだった。そんなことをいつまでも続けるほど暇ではない。  

「命令文書ならすぐに作って早馬にて届ける。速やかに出撃しろ」  

問答無用で出撃を促すと返事も待たずにその場を離れた。  
私が最初に下した命令のやりとりはそれで終わった。  


・・・後の話になるが  
そのやり取りの10分後、私は伝令に文書命令を持たせて  
サーシドウの元に急がせたのだが、伝令が追いついたときには蛮族の支城が陥落した直後だったそうだ。  





514  名前:  名無し対戦車兵(無能)  04/11/13  14:28:00  ID:???  

英雄王  (たぶん3)勝者の混迷  勝者の権利  

占領された城はその城内に人を飲み込み再び熱気をその城内に取り戻す  
無論その熱気を与えるのは嘗ての住民ではない。  
城砦陥落の報を聞きその勝利を確実な物とするために  
60kmを昼夜無く踏破してきた私の軍勢がその主役だ  
強行軍を耐え抜いた将兵は勝者に認められた当然の権利を行使しようとした  

敗者からのあらゆる略奪。  

彼らの司令官も当然の事として其れを黙認しようとした。  
働きに対する報酬こそが彼らを突き動かしていたのだから当然だとした  
敗者の方とて其れを当然と考えたのか抵抗すらせず逃げ回るばかりだったようだ  
だがそれが起きて当然の状況に待ったをかけた者たちがいた  
城を落とした当事者・・紫藤戦闘団の面々であった。  

「何を考えてるんだ貴様ら  
 住民財産に手をつける権利などわれわれにはないぞっ」  
「馬鹿を言うな  
 勝者が敗者から全てを与えられるのが当然の権利だ  
 お前らこそ、財宝を独り占めしたいだけだろうが」  

このような遣り取りが町や城の至る所で行われていた  
血を見なかったのは彼らが戦友だと認めあっていたからではない。  
異世界の火銃兵のほうは、強硬手段に出るにはあまりに彼を取り囲む兵が多かったからだし  
この世界の兵の方は、曲がりなりにも150人で600の守る城を攻め落とした  
異世界の火銃兵と鉄の化け物を警戒していたからであった  

それでもこのままではいつか血を見るのは避けられない  
私と義理の兄ケインは死体を片付けただけの城内の広場に兵を集め演説を行うことにした  


515  名前:  名無し対戦車兵(無能)  04/11/13  14:31:04  ID:???  

だが、演説というものは一種の賭けでもある。  
うまくいけば部隊をまとめるいい機会でもあるが、最悪の場合離反を招く恐れすらある  
義兄ケイン・ウェストリウスは演説の天才だが私は違う。  
それが私にとっての最大の心配ごとでもあった。  
「・・まず私は諸君らに感謝したい  
 この古の剣と僅かばかりの部下しか持たない私についてきてくれた事を」  
だから、演説の始まりもありきたりな始め方になってしまっていた  
それでも効果はあったようで騒いでいた将兵は静まってくれたのはうれしかった    
「だが、今の諸君らの間にはびこる確執には落胆を感じ得ない  
 原因はハッキリしている。『勝者の権利の行使に付いて』だ。  
 だが権利を主張するものは思い出してほしい。  
 この国は誰のものであり、住民は誰の保護を受けるべきであるのかを」  

具体的な名など言うまでも無い。私は演説を続けた  
今後一切司令官の文書命令なく略奪を行ったものは罰する事  
とはいえ諸君らの強行軍には目を見張るものがあり  
それに対する恩賞が与えられて当然であること  
王位奪回に成功した暁には諸君らに広大な農地か応分の金銭を与えること  
その前払いとして25枚の銀貨を演説後に与えること  
そういった事を述べていった。  

勝者の権利を主張していた者の中には不満を隠さない者もいたが、  
演説の後に配られた銀貨を受け取って納得してくれた  
逆にジエイタイのほうは演説を不審げに傾聴し首をかしげながらも、  
一応、略奪は止められたので自己完結で満足してくれたようだった  


516  名前:  名無し対戦車兵(無能)  04/11/13  14:32:54  ID:???  

・・ちなみに私は養子に出された身でもあるので必要量の銀貨を持ち合わせていない。  
ならばどうやってその銀貨を確保したかと言うと  
貴族や経済人でもある騎士(本来はそっちが本職)たちから借用して配ったのだ  
当然士気は維持されたし、それどころか向上した  
さらに私に手持ちの全財産を貸付けた貴族や騎士たちも返済を求めるのであれば  
戦争に勝つしか無くなったので私を裏切ることは不可能になったのだ  
まあ、もともと私に手を貸した時点で私を裏切ることなど不可能ではあるが・・・  

とにかく、軍団内部の確執には一応の決着が付き、  
われわれにもやっとの事ではあるが防御された策源地が誕生した事になる  

「さて諸君、我らの敵であるナリバー王が  
 我々を迎撃する為に大急ぎで出陣の用意を進めさせているとの情報が  
 諸君らの友人である『蒼の魔術師』によってもたらされた」  

私のすぐそばに佇む老魔術師リーンの事である  
数百年前、この剣をあの丘に突き刺した魔術師の弟子であり  
政治に干渉しようとしない魔術師の中では珍しく、常に政治に介入しようとしている  
・・が、いまはそういった事に言及している暇はないのでそれには触れない  

「地方の領主達もそれに応じて我々を四周から包囲するように機動している  
 おそらく後何週間か時間はあるであろうが、王自ら必ずここにやってくるであろう  
 だが勇猛なる諸君とならば必ずこれを打破しえると私は確信している」  

次に具体的な人事と作戦を発表していく  


530  名前:  名無し対戦車兵(無能)  04/11/13  15:00:53  ID:???  

訂正  
>>516と>>517の間にこれを挟んで読んで下さい  

だが作戦自体は単純だ。外線からやってくる我に勝る敵に対処するためには  
支城と陣地を築いて遅滞し、停滞した敵を圧倒的な機動力で各個に撃破するしかないのだから  
無論言うのは簡単だが実現は困難だ。しかし其れしか方法がないのではやむをえない  
ここを離れて準備の整わないキャメロットを攻撃する事も考えたが、  
どう考えても功城戦の最中に背後を絶たれての討ち死にか飢え死しかない  

それにフッド城周辺の地形は比較的防御に適している  
半島の付け根に位置するこの城を中心に平地が広がっていて  
海岸線沿いに東西に街道が伸びているというものだ  
西は我々に友好的な都市が多いので勝利しているうちは大して問題はないし  
北には力のある領主が多いが間に沼地とエルフ達の支配する森が広がっている  
南には海が広がっているためさしたる脅威は今のところ無い  

問題は東だ。  
水量の多い河川と丘陵地帯、さらに森によって非常に良く防護されてはいるが、  
河川の先に敵側の有力な城があるしその支城も侮れない  
さらにこの島の動脈となる街道が数本走っているために敵軍が進攻するための補給線もばっちりだ  
敵主力の進撃はおそらくこの方角から行われるであろう  

故に私は敵本隊の進攻が予想される東方隘路には私自身と戦闘団で当り  
諸侯らの侵入が予想される北方には義兄と義父を向かわせ  
西方の補給線の維持には将兵の一部と傭兵団で当る事を宣言し、演説を終えた。  


517  名前:  名無し対戦車兵(無能)  04/11/13  14:34:54  ID:???  

英雄王  『城』  

元来、人類は多くの敵と戦ってきた。  
その敵が狩の目標の猛獣か逆に自らを狩ろうとする猛獣かそれとも土地を争う他人類か  
それは当時の人間に聞いてみないことには分からない  
それはさておき、それらの「敵」と生身で戦うことになった人類は  
『生身で敵と戦うとこっちも相当痛い目を見る』と何回目かの交戦の後に学んだようだ  

「どうにかできるだけ自分たちは痛い目を見ることなく敵を倒せるか」  

これも本当にそう考えていたかどうかは過去の人に聞いてみないと分からない  
・・・が、結果として人類は『武器』を『発明』した  
誰かが経験と知恵を絞りそれを「開発」したのかもしれない  
もしかしたら本当に偶然何かの拍子に「発見」したのかもしれない・・・あるいはその両方か  
その発明経緯について詳しく知りたいところだが、  
文字も残されていない時代の出来事を完全に知ることなど不可能だろう  

とにかく発明者・・・または発明者たちは『武器』を利用して有効に敵と交戦した  
石や木でできた武器のおかげで素手で戦うよりも効率よく敵を倒すことが可能になったが、  
それでも接近戦になることは避けられない  
そうなれば当然(以前より確実に少なくなっただろうが)多くの犠牲が出た  

「どうにか敵に攻撃されないように一方的に敵を倒せないか」  

と考えたのかどうか分からないが、おそらく考えたのだろう  
棒を利用して遠くから殴る程度ではすぐに対応されたはずだ  



518  名前:  名無し対戦車兵(無能)  04/11/13  14:36:15  ID:???  

人類は『投擲技術』を『発明』していた。  
そこから遠距離から敵を攻撃できる「投擲武器」が開発された  
初めは石や棒切れを投げていただけだっただろう  
しかしながらそれではまだ距離が近い。接近戦になり犠牲が出る  
それでも動物相手なら何とかなった。  
だが猛獣相手では弱すぎるし、他人類はこちらを模倣して同じような武器を持ち始める始末  

「より遠く、さらに遠くからの攻撃方法はないのか?」  

結果として投槍が生まれ、弓矢が誕生する  
よほどの怪物や魔獣を除き、奇襲を受けない限り大半の猛獣はこれで倒せた  

だが、他人類はとことん性質が悪かった  
これまた模倣して(あるいは独自開発か)結果として同じものを装備し始めたのである  
当然それらの武器を使った交戦風景は激しさを増していく。  
減らすはずだった犠牲は逆に増え、敵味方両方を痛めつけた  
が、運よく生き残った人はその経験を生かし次の戦闘においても生存し勝利しようとしたのである  

結果、人類は敵から身を遮蔽してくれるが運搬困難な「木」など遮蔽物の代わりに  
木を適当な大きさ形に切り出して身を守りやすくした「盾」を開発した  
同じように「鎧兜」も開発された・・・つまりは『防具』を発明したのだ  
最終的には敵よりも頑丈な兵器や効率のよい道具を作る為に『青銅器』『鉄器』も発明された  

敵を圧倒できる武器と防具・・『兵器』の開発にいそしむ一方で、  
それらとは別に指導者は経験から地形地物や環境を利用して敵を効率よく倒す術を作り上げていく  



521  名前:  名無し対戦車兵(無能)  04/11/13  14:38:20  ID:???  

だけど、守るべきものがあるところにそういった地形地物があるとは限らない  
だからといって「無いから仕方が無い」で終わらすわけにはいかない  
土地か、それとも家族か、それとも何らかの共同体か  
「ソレ」なんとしても守らなければならなかったのだから  
・・・無論最小限の犠牲で。  

「必要な場所に必要な地形地物をどうにかそろえられないか・・・」  

武器の場合と同じように大昔の人類が本当にそう考えていたかはどうかは不明だが  
その解決方法もどうにか見つかったようだ  
人工的に地形地物を作り上げる技のことを『建築技術』という  
人類はその技術を使い自分たちが生存しやすい環境を整えてきた  
『家』というものもその技術の応用の一つである  
その技術を利用して戦闘用に特化した人工的な地形地物を作ろうとした  

『我が方の安全をできる限り確保し、敵に対しできる限り多大な妨害を与える』  

このことを目的に彼らは地形を改造していく  
谷を参考に地面を掘り下げた『堀』、逆に土を盛り上げた『土塁』  
敵に対する通行妨害としての『柵』、防衛線である『塀』と『狭間』  
それらを効果的に防御し敵を撃退するための『櫓』  
城外で安全にかつ敵に効果的に反撃するための『虎口』  
そして最終的な防護拠点であると同時に戦時の居住区である『天守』  

「土」をもって人工地形障害を「成」す  
防御地形『城』の誕生である  

だがその城をもってしてもその建設地によって防御力と存在価値に差が出るのは防ぎ用が無い  
故に更なる優位を得るためにその建設地を巡っての戦闘が起きるのも道理だった  



796  名前:  名無し対戦車兵  04/11/20  20:05:05  ID:???  

英雄王  「川を渡って木立を抜けて」  

南北に走る河川の幅200mといったところだろうか、  
互いに川を越えて対岸に陣地を構築しようとしていた彼我部隊がにらみ合っている  
双方が火制する為に既に橋は通行不可能な墓所と化している  
通行不能になった石橋を中心に河川の土手に沿って無数の盾と土嚢が立ち並んでいる  
既に幾度かの交戦を交えたのか盾や土嚢は無数の矢と穿たれた穴によって彩られていた  

こちらの魔術師が加速魔術により炎を創造し渡河しようとした敵歩兵に叩き込めば  
お返しとばかりに雨のように矢と魔法が降り注ぎ魔術は中断される。  
当然のように其れを予想しているこちら側も速やかに魔術師を後退させ  
敵火点と思われる地点に無差別に矢の雨を降らして沈黙させる。堂々巡りである。  
数日に及ぶ対陣の結果、盾や陣地が増強されて土手は城壁と化し  
その戦闘はさながら隣接する城同士が戦っているようでもあった  

魔術戦は老魔術師とサーシドウの部下の指導によりこちらに有利に進みつつあったのだが  
弓兵の射撃戦においてこちらが不利であった。  
敵は石弓で武装していたが、こちらの弓兵は弓である  
最低限上半身を敵に晒さねば射撃できないこちら側に対し  
敵は土手に伏せて射撃できるというのが大きかった。  
河川が浅ければ密集隊形の歩兵が魔法防御された大盾をもって  
戦列を組んで突撃する事も不可能ではなかったのだが、  
胸の辺りにまで流れに晒されてはまともに盾など構えられたものではなかった  
故に歩兵同士の戦闘は橋の上で行われた物を除き未だ小規模なものに留められている  
鉄の化け物たちが魔力の源であるガソリンとやらを使い尽くし動けない状況・・・  
双方決定打の無い対陣はナリバー王の到着まで永遠に続くかと思われた  



797  名前:  名無し対戦車兵  04/11/20  20:07:00  ID:???  

だがこのとき既に決着は付いていたのだ  
騎兵の背にしがみついて機動したジエイカン達とその火力によって支援された騎兵の500が  
敵騎兵を追い散らし上流からこちらに向かってきていたのだから  
そうとも知らない敵部隊はいつものように此方にだけ注意を払っている  
頭だけ出してその様子を確認した私は土手の背後で戦列を組んで  
突撃の合図を待ち続けている4個大隊約2300名の兵士達と共に突撃の機会を待ち続けていた  
そして迂回部隊の到着が、その突撃の合図となった  

突如として林の影から追い散らされて逃げ戻ってきた騎兵に驚いた敵部隊は  
北からの攻撃に備えるため慌てて歩兵部隊と火力部隊の一部を機動させて  
河川と直角に部隊を配置させて釣鐘状に部隊を展開させる  
軍旗の数から数えておよそ1200と有力魔術師10名前後が迂回部隊に向けられたのだった  

「敵部隊が機動中の今こそ攻撃をかけるべきです」  
大隊長に任命した地方領主が進言してくる。  
だが私は片手でそれを制し突撃のタイミングを待ち続けていた  
まだ早い。敵の予備がもう少しに北側に機動してからだ  
すぐに騎兵達が先ほどの林の影から現れ突撃の構えを見せる  
さすがに騎兵達といえども損害なしの状況ですら合計は400  
騎兵と対戦した直後ではむやみな攻撃は出来ない  

だが、彼らが敵をひきつけてくれたおかげで敵は予備を使い果たし  
土手には群がる2個大隊500名ほどしか張り付いていないと  
北の高地から敵陣を一望した迂回部隊の一隊から  
『通信機』という凶悪な魔道兵器を通じ連絡がはいってくる  
正直、私と私の幕僚達が最も頼りにしたのは火銃兵でも鉄の化け物たちでもなかった  
この『通信機』と言う名の魔道兵器とそれを指揮する『士官達』であった  
リアルタイムで部隊間の通信が行え、あれほど優秀な士官達がそれに従い戦うならば  
敵がいかなる大軍でいかなる行動を取ろうとも恐ろしくは無い  


798  名前:  名無し対戦車兵  04/11/20  20:10:11  ID:???  

リーンの合図でジエイタイの迫撃砲小隊と魔術兵の大半が最後の砲弾と付き掛けた魔力で  
迂回部隊を全力で支援するように見せかける  
敵司令官はそれに釣られて阻止砲火と対砲兵射撃を開始させつつ  
大急ぎで北に向かっての陣形を整えさせていく  
予備まで投入したという事はおそらくではあるが、我が方の歩兵が隠れていたため  
主力である歩兵部隊も北から迂回してくると判断したのだろう  

「第一大隊  突撃しろ!」  
私の突撃命令と同時に赤の戦旗が翻り突撃を示す大太鼓が乱打される  
それを待ちわびていた我先にと歩兵部隊が一斉に前進を開始する  
と同時にあらゆる火力部隊の火力が指向先を変えて一斉に対岸の敵部隊に降り注いでいく  

第一大隊は主席百人隊長マルケルスを先頭に完璧な戦列を組んで橋の上を堂々と前進していった  

突撃するこれらの部隊の構造はきわめて簡単な物である  
まず主力である重装歩兵で編成されるレギオン  
最前線に魔法防御された長方形の盾と2間半の槍を大小三本ばかり持った兵12名  
彼らの装備品は資産差による物が多少あるがこれまた似通っている  
青で染められた半そでの戦闘服の上に楔帷子のワンピースを着てその身を守り  
金銭に余裕がある者は胸甲やゴンレットと呼ばれる篭手を装備している  
そして兜。基本的にはジエイカンが使っている『テッパチ』と言う兜と似たようなものだ  
問題は階級や資産力が上がるにつれては飾りが激しい物となり、  
中隊の最先頭を行く百人隊長マルケルスに至っては鶏のような有様になっている  
これの腰帯の左右に大小の片刃の長刀をつければ重装歩兵の完成である  
後方6列までは同じ武装でその後方4列の盾だけが魔法防御されていない物になる  

これが基本的な戦闘部隊である1個中隊100名の編成である  
そして1個大隊は5個中隊約500名で編成される  
例外として軍団主力である第一大隊は増強5個中隊800で構成されているが後は同じだ。  
これらの兵が一斉に突撃を開始したのだ  


799  名前:  名無し対戦車兵  04/11/20  20:14:28  ID:???  

状況の分からない橋のこちら側を威力偵察しようとファランクスを形成して  
橋を前進してきていた敵歩兵小隊30名が第一中隊の最初の犠牲者となった。  
彼らは慌てて後退しようとするが陣形を乱せば  
一瞬にして矢と魔法によって殲滅されるために逃げることすらままならない状況であった  
「構えろ!!」  
マルケルスが槍を振りかざし部下に叫ぶ  
直後第一中隊の兵が第6列まで一斉に盾と槍を正面にかざし上げ  
逆に投げるための槍の方を肩に近く後方に引き下げつつ助走の為にその場に停止する。  
さすがに竜殺しすら成し遂げた歴戦の戦士マルケルスに選抜されただけあって  
ほとんど訓練もしていないというのにその動作に一切の無駄はない。  
まだ名も知らないが彼らもまた名のある戦士に違いなかった  

敵の軽装歩兵は生存は不可能であると絶望したのかせめて一人でも道ずれにと  
陣形を崩した上に邪魔になる盾を投げ捨てて2間の槍を突き出すようにして一斉に突撃を開始してきた  

「投げろ!!」  
合図どおり一斉に三歩ばかり助走して一斉に投げつけていった  
約3メートル、2.5kgが同時に降り注ぐのである。文字通り槍の雨が降り注いだ  
その結末はあまりに無慈悲であった。  
もちろんその大半は敵の姿すら見えない状態で投げられたため的を大きくはずしたが当る物が物である。  
命中さえすればあらゆる装甲を無視して兵士達をことごとく串刺しにしていった  
盾を投げ捨てなかった兵とて例外ではない。ある者は盾ごと頭を貫かれて即死した  
運よく生き残ったものとて盾に3メートルの槍などぶら下げていては戦えたものではない  
結局彼らも盾を捨て突撃することになった。この時点で20名が脱落した  

それを見てマルケルスと中隊旗手グラディアスを除いた前列全員が一斉に後退した  
何も彼らを恐れたのではない。  
残された四列の兵士がその隙間に一斉に突撃してきて槍を投げつけたのだ  
さらに8名の兵が倒れる。  
肩をその槍に貫かれた兵士はこの期に及んで逃げ出そうとしたため背後から狙撃を受けて死んだ  
残された兵はたった一名であった  


802  名前:  名無し対戦車兵  04/11/20  20:24:44  ID:???  

失敗。  

>>799と>>800との間に之を挟んで読んで  


最後の敵兵は私に向かって最後の槍を投擲してきた  

うむ。なかなか筋がいい。正確に即死を狙って顔面に投げつけてきた  
だが残念だ。彼には経験が足りない。  
このような場合は胴体か盾を狙って相手の動きを封じるべきなのだ。  
私は首を右に捻ってそれを回避した。  

気に入っていた羽飾りの一部が引きちぎられて持っていかれてしまった  
まあそんなことはどうでも良い。  
死力を尽くすものには全力で当るのが礼儀と言う物だ  

反撃する。  

が、私は一撃必殺の胸など狙わなかった。  
胸ほど骨によって防御された部位は無い。  
だが腹ならば槍はやすやすと貫通するのだから。  

驚いたことに槍が回避された。それでもまあ問題は無い。  
盾の無い右側に回りこまれないように左腹に突き出しておいたのだ  

敵兵が私に肉薄して剣を振りかざし切り下ろさんとした時  
無意識のうちに私は『盾で敵の顔面を殴り飛ばして』回避していた  



800  名前:  名無し対戦車兵  04/11/20  20:15:16  ID:???  

英雄王  幕劇「橋の上の対決」  

最後に残されたナウリー軍の下士官ジョンストンは逃げ出した兵とは違い勇敢であった。  
実戦経験が少ないというのに『イムネス』の役職に回されたのも間違いではない  
逆に全力で敵百人隊長と旗手目掛けて残された槍を投げつけつつ突撃を止めなかったのである  

顔面目掛けて投げつけたその槍は何事もなかったかのように首を動かしただけでかわされた  

だが一度下がった第六列までが再び配置に付くよりは  
彼が敵百人隊長に肉薄するほうが明らかに早いのは間違いなかった  
片刃の長刀を引抜いて両手で振りかざし雄たけびを上げて突っ込んでいく  

だが百人隊長は動じない。  

正面に鷲と竜を描いた盾を向けたまま正確無比に彼の右腹目掛けて槍を繰り出した。  
彼はそれを剣先でそのまま右側にいなして肉を抉られながらも回避し  
文字通り肉薄することに成功した  

そのまま百人隊長の頭を盾ごと断ち切らんとして剣を振り落とそうとしたその瞬間  
予想外の衝撃を受けてジョンストンは弾き飛ばされたのだった  



・・・・・・・・・・・・・・・・・・  


801  名前:  名無し対戦車兵  04/11/20  20:18:50  ID:???  

ジョンストンは自身の身に何が起きたのかを認識して正気に戻った時  
彼は胸を踏みつけて槍を捨てて短剣を構え彼を見下ろす百人隊長の姿を見た  
矢や弓が飛びかう最前線だというのに・・である  
逆光であったため表情は分からないがなぜか喜んだような表情をしているようにみえた  
戦士であった彼はこんな男になら負けても仕方がないと思ってため息をついた  

                 (イムネス)  
「よくやった『軍曹』。この続きはあの世でやろう」  

不意に真横から飛んできた矢を何事も無かったかのように短剣で叩き落しながら百人隊長は言った  

「・・・くそったれ・・・次は負けねえからな・・」  

彼も口元に引きつった笑みを浮かべてそれに応じた。  
死ぬのが怖くないといえば嘘になる。  
だがジョンストンにはこんな男にほめられたのならばそれは誇ってもいいと思えたのだ  

「うむ。期待しているぞ。  ではしばしの別れだ」  

その直後、振り落とされた槍は一瞬にしてジョンストンの心臓を破壊してその生命を急停止させる  
軍団兵たちが再び隊列を引きなおしたのはその直後であった  

ガレムハルト・k・マルケルスとグラディアス・k・ネロ  
戦場のあるところ必ずその人の姿ありといわれた稀代の戦士にして  
複数の国の王の未亡人と結婚している放浪王とその従士でもある  

そしてこの戦いが、この男達が放浪をやめ一人の王の下で戦いを続けることとなった、最初の戦いであった  



803  名前:  名無し対戦車兵  04/11/20  20:25:17  ID:???  

英雄王  「川を渡って木立を抜けて」  

突如として土手のこちら側に現れた兵たちに驚いたらしい  
しばらくの間まともな反撃など無かったが、タダで通してくれるほど甘くはなかった  
死体を乗り越えて橋の中ほど間で進んだ辺りで  
軽装歩兵の敵とばかりに魔術と矢の洗礼を受けることになった  

最初の数撃は何事もなかったように盾が弾き飛ばしていたがやがてはその効力も切れ  
最前線の兵左翼4名に右から左、まるでマルケルスを避けるように飛んだ氷の礫が直撃し  
魔術防御の切れた長方形の盾ごとなぎ倒されて後方に弾き飛ばされる  
弾き飛ばされた兵は後方にいた第三列までの味方の兵を巻き込んで先頭不能になって倒れた  
その隙間が次の兵によって埋まらぬ間に新たな炎と矢がこのレジオンなだれ込んで後方の兵達を焼く  
直後5列目の兵達が何とか味方の死傷者を踏み越えて第一線に辿り着いて穴を防ぐが  
今度は生き残っていたバリスタの直射を受けて右翼3列目が第9列までまとめて殲滅された  
そしてついにはマルケルスのすぐとなりにいた大隊旗手までもが矢に倒れた  
さすがにマルケルスと精鋭第一中隊を除いた兵士達は色めき立ち徐々に戦列を離れて後退してきた  
飛び交う炎や氷、そしてバリスタの矢の直撃を受けても怯まないのは第一中隊の化け物たちだけ  
普通は恐れ混乱するのだ  
なおかつ後方の兵の大半は引っ張ってこられた農民達である  
百人隊長や軍曹達、そして騎士たちは必死になってそれを止めるが止めきれるものではない  
数人を部隊に戻している間に10人は逃げていく  
そして終にマルケルスの第一中隊も前進を停止せざるを得なくなった  
いかに彼らといえど後方が付いてこなければ橋を越えたところで何も出来ないのだ  

「いったん部隊を後退させましょう!士気が崩壊します!」  
それを見た貴族の大隊長が私に進言してきた。  

「・・後退?馬鹿をいうな」  
こんな状況で後退などした日には二度と立ち直れるものか  
だがこのままでは埒が明かないのは間違いなかった  


804  名前:  名無し対戦車兵  04/11/20  20:26:25  ID:???  

歩調を速めた私は名剣を引き抜いて戦死した大隊旗手の元へ急いだ  
単身突撃すると勘違いした幕僚達は必死に私を諌めようとするが聞いてなどやらなかった  
右手に名剣を持ち左手には大隊旗を掲げ上げ、私はマルケルスの元に向かった  

「王か?・・良くこんなところまで来たものだ  
 まさか自ら後退命令を伝えに来たのか?」  

最早盾に盾に掘り込まれている紋章すら判別困難なほど魔術と矢を受けた盾をかざしながら  
それでも楽しそうにマルケルスは話しかけてきた。  
・・・いずれこの男には口の聞き方を教えてやらねばなるまい・・  
そう思いつつ彼の言葉に返答してやった  

「何を言うか。後退などあり得ぬ。  
 それよりマルケルス。貴公こそ何をしているのだ?私は待機命令など出した覚えは無いぞ  
 さっさと進撃を再開してもらおうか」  

マルケルスとグラディアスは突然顔を見合わせて無言になったが、しばらくして大笑いをはじめた  
私が後退命令を出さないのがそんなに気に入らないのか?  
だがこの状態で後退などした日には指揮能力を疑われ剣を取り上げられてしまうだろう。  
以前の勝利は私の勝利ではなくサーシドウの勝利なのだ  
故に私は私自身の勝利を得なければならない。  
勝利によってこそ自身の能力を証明出きるのだから  
・・・それに私自身はこの戦いが不利な状況だとは思ってはいない。  
我々さえこの橋を渡れば勝利は目前に控えているのだ。  


805  名前:  名無し対戦車兵  04/11/20  20:32:15  ID:???  

歩調を速めた私は名剣を引き抜いて戦死した大隊旗手の元へ急いだ  
単身突撃すると勘違いした幕僚達は必死に私を諌めようとするが聞いてなどやらなかった  
右手に名剣を持ち左手には大隊旗を掲げ上げ、私はマルケルスの元に向かった  

「王か?・・良くこんなところまで来たものだ  
 まさか自ら後退命令を伝えに来たのか?」  

最早盾に盾に掘り込まれている紋章すら判別困難なほど魔術と矢を受けた盾をかざしながら  
それでも楽しそうにマルケルスは話しかけてきた。  
・・・いずれこの男には口の聞き方を教えてやらねばなるまい・・  
そう思いつつ彼の言葉に返答してやった  

「何を言うか。後退などあり得ぬ。  
 それよりマルケルス。貴公こそ何をしているのだ?私は待機命令など出した覚えは無いぞ  
 さっさと進撃を再開してもらおうか」  

マルケルスとグラディアスは突然顔を見合わせて無言になったが、しばらくして大笑いをはじめた  
私が後退命令を出さないのがそんなに気に入らないのか?  
だがこの状態で後退などした日には指揮能力を疑われ剣を取り上げられてしまうだろう。  
以前の勝利は私の勝利ではなくサーシドウの勝利なのだ  
故に私は私自身の勝利を得なければならない。  
勝利によってこそ自身の能力を証明出きるのだから  
・・・それに私自身はこの戦いが不利な状況だとは思ってはいない。  
我々さえこの橋を渡れば勝利は目前に控えているのだ。  


806  名前:  名無し対戦車兵  04/11/20  20:33:51  ID:???  

敵は未だ気づいてすらいない  

『騎兵と共に行動しているはずの『ジエイカン』達がその姿を見せていないことに』  

無論気づかれた所で対処などさせないが、  
全ての計画は最低限1個大隊はこの橋を渡りきらなければ実現できないのだ。  

既に死んでいった者達の為にも、必ず勝たねばならない。  
故に私は彼らを前進させなければならない。  
そのためにも中隊の中心である彼らを動かさなければならないのだが・・・  
・・不味い。なんと言えば前進を再開させられるのか・・・  
金でも約束するか・・いや、既に支払い限度は当に超えているほど与えている  
土地・・もナリバー王を倒して国を取り戻すまでは与えようが無い・・・  
では何を与えてやれば彼らは前進を再会するのか・・・  
真剣に悩んでいたその時であった。突然この二人が笑い始めたのは  

「気に入った!気に入ったぞ王よ!  
 ・・決めたぞグラディアス!私はこの王が死ぬまで付いていく」  
「私もですマルケルス。王よ!我が命あなたにささげましょう!」  

・・・よく分からないが、先ほどの私の言葉が彼らのツボに嵌った様である  
・・なにやら理解しがたいが、忠誠を誓ってくれたのだから悪い気はしない  
内心の嬉しさを隠すために私は彼らの姿を見ずに前進しつつ彼らに返答した  

「ならば私に続いて証明せよ!ゆくぞ!」  

『おうっ!』  

中隊全体が私に応じ、こうして前進は再開された。  
だがその先頭は第一中隊ではなく私と軍団最強の百人隊長と旗手、  
そしてやむなく付いてきた貴族幕僚達を最前線にしてではあったが  





52  名前:  名無し対戦車兵  ◆3pwaMKLepc  04/11/27  21:08:31  ID:???  


英雄王    石の城壁        

最高指揮官自ら最前線に立ったことで将兵の指揮は一気に跳ね上がり  
逃亡しかけた軽装歩兵が自ら最前線に飛び出てきて  
その場に居たものと共に防御正面を独自に形成し速歩にて突撃を開始する  

「どうした戦士諸君!勇気を見せるのは彼らだけか!」  
そう叫んだネロは鷲旗を掲げ上げ盾も持たずに橋の縁に上り全員を鼓舞する  
「勇気を!もっと勇気を!」  
全軍に振り返りつつアルナもそう叫んで軽装歩兵の後を追い掛ける  
それに合わせたかのように支援砲火が延伸されて弾着地点がだんだんと河川から離れていく  

無論味方を巻き添えにすることを避けるためであるのと  
そして更なる打撃を敵に与えるために敵の後方部隊を打撃し始めたのだ  
王は旗を傍に居た幕僚に投げ渡し王者の剣を掲げ上げた  
そしてその剣は裁きの鉄槌を下すかのごとく目の前の戦列めがけて振り落とされた  
その瞬間、青い戦列は満開の帆に風を受けて走る帆船のごとくその疾走を開始した  

それを待ち受けるは魔術槍兵団長サー・ジャクソンに率いられた  
6メートルの長槍と魔方陣を描いた円形の盾を持つ縦5列の茶色のファランクス  
けして後退は許されぬとばかりに戦列の最前線に自ら立つその姿は  
まるで青い津波を返り討ちにせんと立ちはばかる石の城壁を連想させた  

青い軽装歩兵の放った無数の大鏃をファランクスはレッドメタルで出来た20kg近い大盾で弾き飛ばす  
如何に命中さえすれば貫けぬものは無いとされる投槍とは言え、  
その先端は敵の盾にぬがり込んで曲がるように作られていたことが仇となった。  
自衛隊の狙撃にすら限定的ながらも有効な防御効果をもたらした厚さ三pの特殊金属の盾と魔術防御によって  
大半が先端をへし曲げられては弾き飛ばされ力を失い地面に転がっていった  


53  名前:  名無し対戦車兵  ◆3pwaMKLepc  04/11/27  21:09:12  ID:???  


それでも被害が無いわけではない。やはり無数の兵が力尽き地面に倒れ落ちた  
自らの仕事を終わらせた軽装歩兵は細波のごとく引き下がって津波の中に姿を消していく  
そして今度は石の城壁ごと敵陣を押し流さんとばかりに青い津波は突入した  
その攻防は精鋭同士の戦いにふさわしく一進一退の情況を示した  
青いレジオンが槍を投げつけ剣を引抜き突撃すれば  
茶色のファランクスは之を押し返さんと無数の鑓を突き出して押し返さんとする  
それを青いレジオンは盾で鑓先を跳ね上げて石の城壁に肉薄せんとばかり鑓下に潜り込んで疾走すれば  
茶色のファランクスは跳ね上げられた鑓を之幸いとばかりに叩き落とし津波を叩きつぶす  
それすら潜り抜けた兵も後方から伸びてくる槍によって敵に肉薄することかなわず突き返される  

その中央部でも部隊長達の激しい戦いが繰り広げられていた  

「やあぁぁぁぁ!!」  
アルナは袈裟懸けに突き出されたジャクソン達の槍の先端を次々と切り落とし  
指揮官に向かって二の太刀はいらないと両手で最上段に選定の剣を携え  
ネコ科の動物のような俊敏な動きで肉薄し振り落とした  
盾すら持たずに攻撃を行うその姿はまるで獅子の一撃すら連想させる物であった  
「ふんっ!」  
それをジャクソン達は魔力を受けた盾で受け止めて押し返し、  
すぐに鑓を持ち替えて石突に着けられた刃でもってアルナを突き刺さんと鑓を繰り出す  
今度は同じく突撃に移っていたマルケルスの盾によって其の攻撃は阻まれる。  
其のマルケルスにしても自身に向けられた無数の鑓先を避けきる事などできず  
無数の傷を負いつつ後退するのがやっとの事であった  


54  名前:  名無し対戦車兵  ◆3pwaMKLepc  04/11/27  21:09:55  ID:???  


故に青いレジオンはその完成された防御陣を突破することが出来ず、  
茶色のファランクスもまたその勢いに押し出されて徐々に後退することを余儀なくされていた  
だが、隘路に等しい橋の上とは言え、およそ200対2300、石の防壁の崩壊は時間の問題と言えた  
それでもこの頑丈無比な石の城壁はしばらくの間青の津波を押し返し続けていた  
だがその石の城壁にも終わりが訪れた  

ファランクスの後方に居た名誉に目のくらんだ一人の弓兵の誤射が原因となった  
アルナを狙ったその矢は、疲労のせいで目標を外れ運悪くその目前で彼女に槍を突き刺さんとしていた  
ジャクソンのその背に吸い込まれるように直撃したのだった  
致命傷こそ与えなかったものの彼とその周りに居た部下たちの動きをしばし停止させるには十分であった  
マルケルスとアルナを先頭とした青い津波がその隙間に疾風怒濤の勢いで飛び込んでいった  
ジャクソンは必死にもっとも危険な敵と判断したマルケルスの剣をその盾でなんとか受け止める  
だがその隙に槍衾を潜り抜けてきた選定の剣の一撃までは防ぎきることは不可能だ。  
剣は容易く鎧の隙間を貫通しジャクソンに致命的な打撃を瞬時にして与え、その意識を奪い取っていく  
疾風と化した白刃は止まらない。すぐさま隣に居た兵士を側面から袈裟切りにし  
返す刀でさらに付近の兵を問答無用になぎ払いファランクスを中央から打ち崩していく  
従士が傷ついたジャクソンを後方に引きずり出して何とか南に向けての脱出に成功した時には  
既にその石の城壁は完全に崩れ去る寸前であった  


55  名前:  名無し対戦車兵  ◆3pwaMKLepc  04/11/27  21:10:43  ID:???  

英雄王    崩壊  

一つの崩壊はまるで火薬庫の火薬に引火するように連鎖反応を生んでいく  

橋を渡河することに成功した第一大隊は戦列も直さぬまま弓兵や魔術師たちの殺戮を開始し始めた  
慌てて予備数百が投入されるが既に1000人近くが渡河に成功した直後である  
燃え盛る業火に水をかける程の効果ももたらさなかった  
二番目に渡河を終わらせた第三大隊が迎撃に投入され  
拘束された敵予備を続けて渡河を終えた第二中隊が側面を打撃して叩き伏せる  
第一大隊も追撃を適度なところで終わらせては中隊ごとに各々再編成に入っていく  
こうしてアルナ王の4個大隊は渡河に成功して  
北方の騎兵と向かい合うナリバー軍の後方に躍り出ることに成功したのだ  
刹那、今の今まで沈黙を守っていた騎兵たちが前進を開始し始めたのはその直後であった  
騎兵突撃の始まりは徒歩の歩兵すら追いつけるほどのゆったりとしたスピードでの前進だ  
それが敵の100mほど先になった時点で人間で言う速歩に移り始める  
そして敵の50mほど前面に達した時には最早騎兵自身ですら  
その突撃を止められないほどの全速疾走をもって突入を開始するのだ  

ナリバー軍の将兵にとって唯一の救いと言えば同士討ちを恐れた支援砲火が完全に停止したことぐらいであろう  
北から騎兵の圧力を受け西と南東ではは無数のレジオンによる包囲機動が展開中である  
最早戦闘に等なら無いと判断したナリバー軍将軍はすぐさま東に向かっての撤退を命じた。  
命じる前から既に幕僚までもが東と南東に向かって走り始めていたのはご愛嬌というものではあったが・・  
王は橋頭堡が確立された後に橋を渡って来た通信兵から無線を取り上げて  
別行動中の戦闘団の情況を彼らがいる予定である方角を眺めながら問いかけみる  


56  名前:  名無し対戦車兵  ◆3pwaMKLepc  04/11/27  21:12:07  ID:???  

「サー・シドウ。見えているだろう?予定通り檻を塞げるか?」  

一瞬の沈黙、数瞬の後に返答が送られてくる  

『第三小隊が敵警戒部隊に阻まれている以外は攻撃準備完了  
 第三小隊も敵分遣隊制圧後5分以内に予定準備地点に到達の予定』  

『良い。ならば矢を放て』  

『了解  矢は放たれた』  

何の魔力も篭らない単純な攻撃命令。  
だが大規模儀式魔術二匹敵するほどの効果をもたらすには十分な一言であった  
その次の瞬間には東に向かって逃げ出していた将兵は一斉に方向転換を余儀なくされることになる  

膨らんだ小袋を叩き割ったような快音が数え切れないほど大量に  
東の森の森林線のすぐ手前に現れた迷彩色の演奏士によって奏でられていく  
それは一つ一つはバラバラな物の正確なリズムを刻みつつ繰り返されていった  
逆にナリバー軍将兵は音が鳴り響くたびに確実にその数を減らしていった  
時間にすればおよそ一分ほどの小規模な演奏会  
観客は最早完全に包囲殲滅されつつあるナリバー軍将兵だ  
大半の将兵は射撃が止んだことにすら気づけずに混乱しておろおろと  
そこにウインスレット率いる騎兵が全速でもって雪崩込んだ  
完全な陣形を組んでいてすら騎兵は歩兵の最大の天敵である  
それを混乱して慌てることしかできない将兵に抵抗などに出来たものではない  
騎兵達はあらゆる「モノ」を突き刺し跳ね飛ばし片端から殲滅していった  
立ち向かったものは悉く突き殺され、逃げ出したものも背中から襲われた  


57  名前:  名無し対戦車兵  ◆3pwaMKLepc  04/11/27  21:12:50  ID:???  

だが状況はさらに悲劇的になりつつあった  
橋周辺の敵を追い散らし再編成をおえた王と第一大隊が全速力でもって  
最後に残された南東への脱出路を遮断せんと機動し始めたのである  

勝てないと絶望した将兵は敵に背を向けそれでもなんとか生きながらえようと  
未だ包囲されていない南東に向け向け走り出した  
その方角にある城にさえ戻れば命だけは助かる  そう信じて  

木立の影を走って機動してきたのは東にいる戦闘団だけではなかった  
紫藤連隊長は全ての装甲車両の最後の燃料を高機動車2台に集めて機動させたのである  

「バックス将軍!もはや完全に包囲され脱出は不可能です!降伏しましょう」  
ナリバー軍の将校が将軍に向かって進言するが将軍は聞き入れずに疾走を続けた  
将軍は騎兵の我が身だけならばいまだ脱出は可能だと確信していた。  
現れた異世界兵と最後の脱出口を塞がんと機動する第一大隊の間は未だ8百m以上はなれている  
「将軍!異世界兵に狙撃されます!止まって降伏しましょう!」  
将校の進言に将軍は笑いながら答えた  
「安心しろ!これだけ距離が離れていればたとえ俺が象だったとしても当りは  グハッ!」  
突如真東から飛来した一発の流れ弾が運悪く頭に直撃した事によって、  
バックス将軍が何を言おうとしていたのかは永久に謎に包まれた  

無論そんな些事には構わず、包囲網は完成されたのだった  


58  名前:  名無し対戦車兵  ◆3pwaMKLepc  04/11/27  21:14:04  ID:???  


暴走族よろしく第三小銃小隊を箱乗りさせたこの車両が南東に姿を現したときが、  
運よく包囲を逃れた者達を除いたナリバー軍将兵の運命は決した瞬間でもあったのだ  

この川を巡る戦いはこうして終幕を迎えた。  
アルナ王の部隊2300人の死者89名重軽傷者352名に対し  
ナリバー軍の部隊2400人中、死者約800捕虜1050名、  
行方不明約200  逃げ延びたもの150名足らずという大勝利であった  

この勝利を逃さないように王は休息も取らずに  
温存しておいた傭兵達と第三大隊南方の支城を攻囲し、取り囲むように包囲陣地を築かせた  
戦闘団と残された大隊を二つの隘路街道に突進させて陣地構築に当らせた  
昼夜問わず近隣の農民や捕虜を巻き込んでの突貫工事は二週間に及び  
その突貫工事によって建設された主要な陣地は七地点に及んだ  

王の姓を取ってペンドラゴン陣地と名づけられた河川橋頭堡の軍団陣地を最大として  
近いほうから順番に隘路出口陣地、隘路中央陣地、隘路入り口陣地が各々二つづつである    

ナリバー王、3個軍団を率いてキャメロット城を出陣の方がもたらされたのは  
3週間後のことであった。  

そして戦場にも、単なる戦場の風だけではなく政治の風も吹き荒れ始めていた・・・