632 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/07/28(木) 02:02:57 ID:???

えっと、技能を活かすって話で作ってみました

 我々が召還された世界は奇妙としか言いようがない。この世界には火器のたぐいが存在しない。だが、電力は都市に供給されている。都市とは言っても中世の名残を残す城壁つきの奇妙な都市だ。そのシンボルとも言える建物には漢字らしき文字が書かれている。
この世界での協力者曰く、この都市を象徴する文字と言うことだが、そんなこと我々には関係がない。
 この都市が奇妙なのはそれだけではない。都市の住人は幼少の頃から義務教育と同じように単一の授業を受ける。それは日本の小学校のようなものではない。彼らが習うのはこの世界の奇妙な技術だけだった。その成績で彼らの将来が決まる。
「こんなエキセントリックな世界はありえない・・・・」
 文化人類学をかじった隊員がうめいたが、わたしも同意見だった。都市の住人はすべからく、この「アカデミー」とでも言うのだろうか、妙な教育制度で妙ちきりんな授業を小学校、中学校とほとんど同じ期間受けることになる。
だが、都市にはラーメン屋や客商売の居酒屋などが並んでいる。彼らが、このような技能をどこで学ぶかというのは今もって不明だ。我々は彼らの生態系にさして興味を抱いていない。それは彼らとて同じ事だ。彼らの興味はただ一点。我々の持つ道具に関してだった。
 歴代のアメリカ大統領の像がアメリカ西部の地方にあるが、それと似たようなモニュメントがこの都市にも存在する。この都市が周辺の勢力に何かしらの分野で大きな貢献をしているのは理解できた。そうでなければ、歴代の指導者はこのようにまつられることもないだろう。



633 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/07/28(木) 02:03:50 ID:???

 「俺は火影になるんだってばよ」
 実地調査という名目で彼らの言う「任務」に付き合わされたときに知り合った少年がわたしに言った言葉だ。どうやら、全市民が義務として修得している分野は、我々の世界で言うところの特殊部隊の技能に近いようだった。
「仲間なんて甘ったるいものに縛られるくらいなら俺は力を求める!」
 これは、前出の少年と同じ「班」にいた少年の言葉だ。このように幼少期から強制的に軍事教練を義務づけられその成績でランキングされる社会に育つと、こんな屈折した青少年を量産するのだろう。我々には関係ないことだが、
外野として見ていても気持ちのいいものではない。事実、わたしはこの教育制度が生み出したとしか思えない内輪もめ=彼らの言うところの「任務」に数回かり出されていた。食料支援の見返りとは言え、イヤな仕事だった。
 しかも、「任務」のたびにうんざりすることばかりだった。精神的に屈折した敵の親玉にまつわるエピソードを延々と聞かされるし。やっと遭遇した敵には「必殺」という枕詞をつけた「キモイ」としか言い様のない魔術を使われた。
「おい!吹っ飛ばせ!」
 一度はある少女の「義兄」を助けたいと言うことで敵の拠点に潜入したらゼリー状のお化けが出てきた。しかも、そのお化けが少女の探す「お兄ちゃん」とか言うのだからたまげた。
「俺はもう、おまえの知ってるお兄ちゃんじゃない」
 お化けはそんなわかりやすい説明をしていたので、カールグスタフをぶち込んでやった。崩壊する拠点でそのお化けが最後の最後で都合よく我に返るものだから、少女を連れ出すのにこっちが死ぬ思いをしたくらいだ。
まったく、これだけ派手にやらかして何が「隠密の任務」だ・・・・。



634 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/07/28(木) 02:04:40 ID:???

 そもそもこの世界では中学生くらいの青少年が「任務」と称してこのような危険な状況に放り出されている。しかも、自ら「上忍」とかいうランクを目指して志願するのだからやっかいだ。
この世界に国連人権委員会があれば一発で警告ものだ。さらに、効率的な近代教育のシステムをなぜか持っている彼らは、そのシステムで効率的にそんな「上忍」志願者を量産していくのだからたちが悪い。
「俺は力が欲しい!」
 先日も、わけのわからない内ゲバで一族がみんな死んでしまった少年がそんなことを言って都市を去った。それを追いかけたのも少年たちだ。わたしも部下と同行したが、見るに耐えない状況だった。脱走した少年を迎えに行く少年たちに、同じ年頃の少年たちが挑むのだ。
「おろち丸様・・・・・」
 これが敵の親玉らしいが、わたしに言わせれば破滅的マキャベリスト以外の何者でもない。そんなキチ○イに心酔する連中だ。当然まともではない。土をどういう仕掛けかわからないが盛り上げて牢獄にしてしまった。
同行した少年たちは、
「チャクラが奪われて行く」
 とか焦っていたが、わたしは部下に命じてカールグスタフで大穴を開けてやった。彼らの上司である「上忍」も出動したのだが、何をかっこつけているのか、木の枝をぴょこぴょこ飛んでばかりだという。
しびれを切らした90式戦車の戦車長が木々をなぎ倒してわたしたちのところに駆けつけた。駆けつけついでに何か撃ち合わせていた「おろち丸」とかいうキチガ○の部下を2人ばかり轢いてしまった。



635 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/07/28(木) 02:06:08 ID:???

 結局、この作戦で負傷した少年を収容して都市に戻ったのだが、その少年の同期とかいう妙な少女が現れた。
「ごめんな。サスケを連れ戻すって約束を・・・・」
 とか病室で言い出すものだから、こんな茶番に付き合わされたわたしはブチ切れ寸前だった。
「サクラ」とかいうこの少女は脱走した「サスケ」が好きなようだが、重傷の少年の気持ちも知っているようだ。
つまるところ、「サクラ」とかいうこの役立たずの少女が片思いしている「サスケ」。
そしてそんな「サクラ」にいいところ見せようとして怪我したこの少年。それに付き合わされた我々はいったいなんなんだ?
「ほ、火影様!」
 火器がない割には妙に近代的な病室に最近「火影様」と慕われ始めた年増の女がやってきた。なんでも医療の天才だそうだが、医務官が対話するとミトコンドリアの存在も知らないと言う。
その程度の知識しかないのに、「チャクラの力」がどうこう言うモノだから医務官が思わず近代医療の歴史を小1時間問いつめたそうだ。
おおげさに「手術室」なんて札を下げる暇があれば、ミクロン単位で衛生管理しろと言ってやったそうだ。その話を聞いたときは本当に清々とした気分だった。



636 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/07/28(木) 02:07:17 ID:???

 そう言えば、こんなこともあった。「上忍」とかいう少年たちから「先生」呼ばわりされる男に同行したことがあった。おろち丸とかいうキ○ガイになびいた元同僚を連れ戻すとかどうとかで。
まずは小1時間、その男と元同僚の思い出を語られた。語られたところでどうしようもない。
 その上、竹林で遭遇した元同僚というのも同じようにうだうだと演説する。わたしはしびれを切らしてしまった。
「おまえ、病院行った方がいいんじゃねーか?」
 その言葉がかんに障ったのだろう。「みずき」とかいう元同僚は「上忍」を暗闇の塔におびき寄せた。わたしはその間散々「これは罠だ」って言ったんだが、彼は聞き入れなかった。
「どういうことだ、みずき!」
 この繰り返しだった。壊れたテープレコーダーじゃないんだから・・・・。そして誘われるがまま建物に入ってみれば真っ暗闇。
「わかるか!暗闇で生きていれば並の忍者には身に付かないことも身に付くんだ!」
 どうやら暗闇でモノが見える見えないのことを言っているようだが、わたしには馬の耳に念仏だ。彼が暗闇で姿が見えないのに自信満々に演説をぶっている間に、わたしは赤外線暗視スコープを装着して彼を射殺した。

 もうこんな茶番はごめんだ。いつ元の世界に帰れるかはわからない。だが、この世界だけは1分と長くいたくないことだけは確かだ。




18 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/08/07(日) 18:22:28 ID:???

前スレでご好評だったジャンプワールドネタです
以前作ったモノを加筆してみました

 護衛艦「ささぎり」艦長は腕を組んで考え込んだままだった。すでに僚艦とはぐれて数日。
衛星はおろか、無線での通信も回復しないままだった。それだけではなかった。
天測を試みるも見たことのない星座ばかり。
とりあえず、陸地とおぼしき方角を、これも海流と海底地形を参考に推測した結果にすぎなかったが、
目指していた。
 そして、つい1時間前に遭遇した奇妙な船。ガレオン船に見えなくもないが、
ちょっと形状が違っているようだ。乗組員もガレオン船ほど乗っていないように見えた。
無線連絡にも、手旗信号にも答えない。
非現実的な状況を打破しようと彼は思いきってランチで直接接触を試みた。
当然、事前に伝えられる限りの手段で先方に伝えた上でだ。そしてそれにも奇妙な船は応答しなかった。
 そこからの1時間はまるで夢でも見ているようだった。艦上の隊員はすべて戦闘配置、CICも奇妙な船
をロックして不測の事態に備えた。だが艦長は心のどこかで安心していた。
「ここは普通に考えて日本だ。いきなりドンパチが始まる世界じゃない」と。
 彼の希望的観測はランチの隊員からの連絡で消し飛んだ。
「乗り込もうとした隊員が化け物に襲われました!わあ!なんだ!」
「どうした!」
「変なものが空中から現れて自分の小銃を海に放り込みました!」
 もはやランチはパニックに陥っていることは明白だ。艦長はすぐさま退避を命じた。


19 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/08/07(日) 18:23:00 ID:???

 母船に戻ったランチの乗員からの報告は奇妙奇天烈と言うほかなかった。
「いきなり、あの船の甲板にものすごい毛の生えた動物が現れて、乗り込もうとする田中をこっちに投げ返
したんです・・・」
「そして、自分が銃を構えようとすると、空中から変な手が出てきて自分の銃を海中に放り込みました」
 ありえない!艦長はその隊員の表情を見たが、うそを言っている目ではない。そこへ彼をさらに混乱さ
せる報告が入ってきた。
「あ、あの船から2名が後部甲板に乗り込んできました!」
「あれは海賊船です!マストにどくろが!」
 後部甲板の船員からの報告を聞いて艦長以下全員は狐につままれたようだった。現代に帆船で海賊行
為におよぶ船が存在するとは聞いたこともない。しかも、自衛隊とは言え、軍艦相手に。次の報告は艦長
の混乱をさらに激しくした。
「乗り込んできた2名と交渉しようとした太田三尉が負傷です!いきなり蹴り倒されました!相手はスーツ
を着てくわえタバコですが、丸腰です」
「水木二曹の小銃が斬られました!二曹も指を負傷です!相手は日本刀らしき刀を抜いています!指
示を!」
 艦長はパニック状態に陥りかけていた。最先端の技術を誇るイージス艦に乗り込んできた2名の男。しか
も1人は刀、もう1人は丸腰だという。この状態で戦闘配置の隊員に発砲を許していいのか、彼にはわか
らなかった。思わず、砲雷長が声をかけた。
「艦長!」
 それと同時に後部甲板からも叫び声があがった。
「やつら襲ってきます!指示を!」
 艦長は反射的に無線のマイクに叫んでいた。これ以上部下を危険にさらせないという本能だった。
「正当防衛射撃を許可する!」
「正当防衛射撃、アイ・サー!」
 スピーカーの向こうで無数の89式小銃の銃声が聞こえた。艦長は今まで経験したことのない事態に遭
遇したショックを乗員に知られないようにつとめていた。


20 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/08/07(日) 18:24:43 ID:???

 指を負傷した大田はハンカチで傷を押さえながら射撃命令を部下に伝えた。銃を構えているとは言え、訓練で少々扱ったことのあるくらいの程度だ。だが、部下たちは確実に弾丸を2名の不審者に撃ち込んだ。
「コックさん!」
 悲痛な叫び声が海上から聞こえた。大田がその方向に目をやると信じられないモノが目に入ってきた。何もない空中に現れた無数の手を、猿渡りのようにつたって女がこっちにむかってくるではないか。
「コックさん!しっかり!」
 あれよあれよという間に甲板にたどり着いた女。少し日焼けした黒髪の女だった。彼女は銃弾を撃ち込まれて瀕死のスーツ男に歩み寄った。ようやく我に返った甲板員は89式小銃を彼女に向けた。
「う、動くな!」
 その声に反応して彼女が顔を上げた。それと同時に、警告する自衛官のすぐそばに例の腕が現れて彼の銃を奪おうとした。
「このやろう!」
 背後に回り込んだ別の隊員が女といえども容赦せずに、銃床で彼女の後頭部を殴りつけた。
「ぐ・・・・」
 彼女がうめいてうつぶせに倒れると、空中の腕もぱっと消えた。数秒たっても何の変化も起きないこと確認した大田はCICに状況を報告した。とにかく、不審船と距離をおかないと危険だという本能が彼をせき立てていた。



21 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/08/07(日) 18:25:25 ID:???

「微速前進。不審船と距離をとれ。敵対行動を監視しろ」
 大田の意見具申を妥当と判断した艦長はすぐさま行動を開始した。不審船と数百メートル距離を取ったときだった。オペレーターから声があがった。
「不審船から不明物体が来ます!かなり高速です!」
「ターゲット捕捉!スタンダード・ミサイル発射準備!」
 艦長の言葉に砲雷長が割って入った。
「ターゲットに近すぎます!艦上の隊員に損害が出ます!」
「距離400!」
 艦長はもう迷うことはなかった。これ以上部下に怪我をさせることも、
危険な目に遭わせることもまっぴらだという気がした。
「近接防空システム、作動!」
「アイ・サー!作動確認よし!」
 オペレーターの返事を確かめると砲雷長は迷うことなく命令を下した。
「システム自動!発射!」



22 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/08/07(日) 18:26:13 ID:???

分速3000発の20ミリ弾が急速接近する物体に命中した。物体はくだけちるどころか、弾丸を受け止め
て伸び始めた。
「何だあれは!ゴムのように延びてるぞ!」
 艦上の隊員が叫ぶ間にもその物体は弾丸を受け止めてぐんぐん伸びていく。その長さは護衛艦と不審
船以上に伸びていった。それでも弾丸を受け止め続け物体は伸びていく。双眼鏡でそれを眺めていた幹
部は思わず叫んだ。
「あれはゴム人形だ!」
 彼の言うとおり、その物体は人形みたいだった。胴体の部分に20ミリ弾を受けて恐ろしく伸び続けている
。このままでは、ゴムの反動で弾丸が護衛艦に跳ね返ってくるかも知れない。そう思った瞬間、大きな音
が海上に響いた。

 ぱっっつん!!

 その音と同時にゴム人形のような物体は胴体部分からちぎれて海中にたたきつけられ見えなくなった。
CICの面々がほっとしたのもつかの間。今度は「ごつん」という衝撃が艦を襲った。
「どうした!」
「被害確認!」
 被害確認の命令が艦のあちこちに飛ぶ。しかし艦は無傷だった。
「艦首になにか命中したようですが損害は皆無。不審船からの砲撃と思われます!」
 その報告に、一度牙をむいたイージス艦は容赦することはなかった。敵対行動をとり続けるならば、こち
らの安全確保まで対応を続けるのみだった。
「単装砲、諸元入力!発射!」
 砲雷長の合図で単装砲は正確にロックした不審船を一撃で打ち砕いた。
こうして、最新鋭イージス艦の奇妙な海域での初めての戦闘は終わった。


23 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/08/07(日) 18:27:03 ID:???

艦長は後部甲板で顔をしかめていた。あの不審船から脱出して捕まえた2名の供述があまりにすっとんきょうだったからだ。
「この海域はログフォースがないと進めないのよ!」
 Gショックみたいな装飾具を手首につけた女がヒステリックに叫んだ。同じく捕獲した鼻の長い男は粉みじんに吹き飛んだガレオン船を見ながら涙を流している。
気持ちはわからなくもないが、そもそもこのバカが滑空砲なんか撃ち込んでくるから正当防衛射撃を行っただけなのだ。
「司令!数キロ先に複数の艦影です!」
 CICからの情報だった。数キロ先に10隻近いガレオン船が集結している。甲板の隊員の目視でも確認できたようだ。
「MARINE」という表記がマストに確認できたことが艦内に伝わった。とたんに安堵の歓声があちこちから聞かれた。アメリカ海兵隊の支援が来たと思われた。だが、その希望を例のGショックの女が打ち砕いてくれた。
「あれは、スモーカー大佐の船団だわ・・・・」
 在日米軍の名鑑を調べてもそんな名前の士官はいないことが判明した。そもそも考えてみれば、帆船で同盟国の最新鋭護衛艦を救援に来る軍隊がどこにいるのか?という話だ。「ささぎり」の停船要請を無視して船団は、護衛艦から数キロに迫った。
「麦藁海賊団を渡してもらおう!」
 甲板員が双眼鏡で確認したところによると、旗艦らしき船の船首に葉巻をくわえた妙な男がいるという。
「スモーカー大佐だわ・・・・」
 まずいな、と艦長は思った。双眼鏡で確認する限り、あの船団は先ほど撃沈した不審船と同様の大砲を搭載している。射程も威力も大したことない滑空砲のようだが、万が一レーダーやアンテナが損傷してしまえば帰還が難しくなる可能性がある。
「渡さないということは奴らも麦藁の仲間だな!撃て!」
 数キロ先に発泡炎を確認した。


24 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/08/07(日) 18:28:15 ID:???

「全速後進!急げ!」
 石川島播磨LM2500ガスタービンエンジンが全力で7250トンの巨体を後ろにやろうとする。その努力は実を結んだ。船団から撃ち込まれた砲弾は間一髪でかわすことができた。艦長はもう迷うことはなかった。
「ハープーンだけではターゲットリッジだ。単装砲も諸源入力!急げ!次が来るぞ!」
 砲雷長の怒声がCICに響く。オペレーターは神業的な速度で、「敵船団」をロックした。
「全弾発射!」
 垂直に煙を噴き上げてハープーンが上空に舞い上がった。
「なんだあ・・・?」
 船首で葉巻をふかしていた男は自分めがけて飛んでくる物体を目を細めて確認しようとした。だが、その物体を彼の目が捕らえる前に、彼は船首ごと吹き飛ばされていた。
「第1弾、敵旗艦に命中!第2弾、敵2番艦に命中!」
「よし!単装砲は敵船の船首を狙え。一発で戦闘不能にしろ」
 砲雷長の命令は的確だった。船首に大穴が開いた木造船はマストに風を受けて止まることもできない。すごい勢いで浸水していき、見る見る船体を傾けていった。それに、船首なら砲撃で死傷する人間も最小限にとどめることができよう。
「ちょっと甘い判断だったかな・・・」
 レーダーから反応がすべて消えたことを確認して砲雷長はひとりごちた。



25 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/08/07(日) 18:29:29 ID:???

 「さて、問題はこれからだ・・・」
 CICで艦長、副長、砲雷長などの幹部が集まっていた。
「それに例の捕虜・・・というかゲストですが。どうします?」
「まさか海に放り出すわけにもいくまい。近くの港までつれていくしかないだろう。で、この海域の情報は?」
 捕虜の看護に当たった幹部が困ったように口ごもる。砲雷長が少しイライラして彼をせかした。
「それが、例の女は「ログがないとわかんない」とか言うばかり。もう1人の女は妙な手品を使うモノですから拘束具を着せてありますので聴取は不可能。男は「俺のゴーイングメリー号が・・・」と繰り返すばかりで話になりません」
 艦長はそれを聞いてため息をついた。と、例の「MARINE」のマストをつけた船団の連中を思いだした。
「あのスモーカーとか言う男はどうした?」
「はい、副官と自称する女性によりますと、彼は「悪魔の実」を食べたため泳ぐことができずに海中深く沈んでいったと言っております。」
 海軍を自称する割にその指揮官が泳げないとは・・・・。集まった幹部から失笑がこぼれる。だがその失笑も砲雷長の咳払いで静まった。
「と、とにかく、南西方向に港があるらしいということを、例の副官は言っております」
 不審船の捕虜3名に、海軍を名乗る船団の捕虜が100名ほど。やっかいなお客を招き入れたものだと艦長は嘆息した。ましてや、正当防衛ではあるが実弾を使っているのだ。帰還の暁には責任問題から逃れることはできないだろう。
「ともあれ、お客さんには早々に退艦してもらわねばならないし、食料の補給も必要だ。南西にあるという港を目指すしかないようだ。それと同時にこれまで通り、目視の監視、天測も充分に行うように。」
「アイ・サー!」

 帰還したときの責任問題を自分でかぶる覚悟をした艦長だったが、まさか自分が「麦藁海賊団」を撃破し、海軍きっての強者スモーカー大佐まで葬り去ったことで、2億ベリーの賞金首になっていることなど、まだまだ知る由もなかった・・・。




499 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/16(金) 00:49:20 ID:???

こんな話どうでしょ?
「レボリューション」第1話:利害

 マクシミア・ヒューゴは森の中へと続く道の上で馬を歩ませていた。彼の率いるトラキロア王国兵はおよそ100名。彼のような騎士が80名ほどと、弓兵などだった。
 彼の任務はこの人里はなれた山奥にいる山賊退治。このあたりを治める代官がその部下ごと行方不明になったため、彼が派遣されることになったのだ。マクシミアは騎士団長の位を与えられている。こんな辺境の山賊退治に派遣されることは普通はない。
だが、彼は王宮内で敵を作りすぎた。トラキロア王国の王宮は伏魔殿だ。トラキロア城内にはさまざまな派閥が存在する。彼は運悪くその少数派に属していたようだ。さまざまな口実で所領を没収され、名ばかりの騎士団長を拝命し、
そして今、こんな辺境の地で山賊退治など、およそ騎士の仕事ではない任務をおおせつかっている。
「いっそ暗殺されれば・・・」
 そう思ったこともあった。王宮の敵は彼がこのようなおよそ「どうでもいい」仕事で失敗することを期待しているのだ。不名誉な死がそれによって彼に降りかかることを期待してのことだった。
 そんな思いにふけっていると、先頭の騎士が警報を発した。
「前方に・・・・わあっ!!!」
 森の中の道を縦長に進む部隊に異変が起こった。



500 名前: 名無し三等兵 2005/09/16(金) 00:53:22 ID:???

 数時間後、マクシミアと彼の部下のほとんどは手足を縛られて汚い小屋の中にいた。騎士が虜囚の辱めを受けるなどもってのほかだった。
これは王宮の彼の敵にとって好都合な事態といえよう。
「指揮官は誰か?」
 そのとき、小屋に入ってきた男が声をかけた。マクシミアは当然、名乗り出ることなどしない。だが、部下のそれとない視線に気がついたのだろう。
男はマクシミアに軽く手招きした。
この上はせめて部下の命だけでも助けるのが指揮官の仕事だ。半分観念したマクシミアは立ち上がって、鎧も身に着けていない山賊に従って小屋を出た。
 砦・・・。マクシミアの知識ではそうとしか言いようがない山賊の支配地域は彼が見たこともない光景だった。周囲には騎馬突撃を防ぐのであろう柵と堀があった。
そして柵の近くには櫓が作られて周囲を見張っている。小高い丘に位置するここは防御にはもってこいだ。山賊風情がこんな防御陣地を作ること自体がマクシミアには不思議だった。
鎧も着ていない山賊の連中が彼を興味深そうに見入っている。山賊どもは誰も鎧を着ていない。それどころか、サーベルも身に着けていない。
「指揮官をお連れしました!」
 マクシミアを案内した山賊はこぎれいな小屋のドアを開けるとそう言った。小屋の奥、机に座って周囲に積み上げられた雑多な書類を見ていた男がそれに応えて軽く手を上げた。
山賊のメンバーはマクシミアが見たこともない返答の動作を見せると、彼と机の男を残して退室した。
「ああ、適当にくつろいでくれ」
 男は机の書類に目を通しながら言った。マクシミアがそれに反応しないでいるとようやく顔を上げた。
「あ、そっか。縛られてるんだったな・・・。」
 そう言って男は立ち上がると、他の山賊の部下と同じような格好をした彼の腰に巻かれているベルトから短剣らしきものを取り出してマクシミアを拘束する縄を切った。
男の意図がわからないまま呆然としているマクシミアに男は彼が拘束されるまで持っていたサーベルを差し出した。
「大事なものだろ?お返ししよう」
 屈託も警戒もなく、男はマクシミアが持っていたサーベルを差し出している。何をするにしても丸腰では何もできない。そう思ったマクシミアは彼からサーベルを受け取った。
それと同時に後ろに飛びのき、返ってきた愛刀を抜いた。


501 名前: 名無し三等兵 2005/09/16(金) 00:54:18 ID:???

「貴様、油断しすぎだぞ」
 そう言うマクシミアを見て男はため息をついた。そのリアクションはマクシミアが拍子抜けするほど無警戒だった。だが、彼は男の確信したような無警戒ぶりの理由をすぐに知ることになる。
「マクシミア・ヒューゴ。トラキロア王国騎士団長。最近はトラキロア城の勢力争いで劣勢だそうで、こんな辺境に派遣されたそうだね。お互い宮仕えはつらいな。ほお、年齢は28歳、俺と同い年じゃないか・・・。それに君の祖父は王族か・・・。」
 男は手にした書類を見て納得したように頷いている。マクシミアはその無警戒さに思わず一度は抜いた剣をおろした。
「そなた、わたしが目の前で剣を抜いているのをなんとも思わないのか?」
 初めて口を開いた騎士に男は書類から視線を移した。髪は黒髪で比較的短く整えられている。そして何より不思議なのは彼は鎧のたぐいを身に着けていないことだ。
身に着けているのは奇妙な服だった。森の木々と同じような色をした服。それに腰に巻いたベルトには短剣のような刃物と、右の腰には水袋のような袋を吊るしている。
その中に何が入っているかは想像もできない。
「まあ、そんなもの振り回すのも危ないからな、鞘に収めてくれ。俺たちは君たちを殺す気は毛頭ない。それはさっきのことでわかってるはずだ」


502 名前: 名無し三等兵 2005/09/16(金) 00:55:02 ID:???

 男の言うとおりだった。縦列の先頭を行く騎士から警戒を聞いた直後、マクシミアの部隊は煙に包まれた。あっという間に周囲を囲まれて捕虜になったのだ。その気になれば皆殺しにできる状況であったのだ。
「わたしは人質にはならんぞ。その時は騎士らしく自害して果てるか、貴様に負けるとわかっても戦いを挑んで死ぬ。」
 マクシミアの言葉を予想していたかのように男は苦笑いを浮かべて手を横に振った。

「ああ、それも勘弁してくれ。こっちはあんたを人質にしてとか考えていないんだから」
「だったら何が目的だ!!」
 男の余裕がマクシミアの神経を逆撫でしているのは間違いなかった。いったん納めたサーベルに手をかけながら叫んだ。真剣に怒るマクシミアを見て男は初めて真剣な表情を浮かべて彼を見た。
その真剣さに思わず、マクシミアも息を呑んだ。男の年齢はマクシミアとそう変わりはないだろう。だが、髪の毛は黒く、肌の色も浅黒い。おそらくかなり陽に焼けていると思われた。マクシミアの見事な金髪と対をなすように思われた。
「はっきり言う方がいいか?遠まわしの方がいいか?」
「な、なんだって?」
 男の予想もしない返答にマクシミアは剣を手に取ることも忘れて聞き返した。目の前にいる男はただの山賊ではない。これだけははっきりと認識できているが、この奇妙な男の意図を図りかねたのだ。
「はっきり言おう。俺は君のような人間を待っていた。俺と一緒にこの世界を手に入れようじゃないか・・・」
 男の口から漏れた予想もしない言葉に彼は反論する機会を失った。


503 名前: 名無し三等兵 2005/09/16(金) 00:56:12 ID:???

 数日後、マクシミアは男の小屋にいた。男は名前が少々変わっている。シロー・サカイ。風貌も話し方も風変わりだが、名前もそれに違わず風変わりだった。
マクシミアが想像していた山賊と彼らは大きく違っていた。サカイと同じような格好をした連中が十数名。そして、よく訓練されたトラキロア人が200名ほどの集団だった
。マクシミアはあの会談以降、自由に彼らの駐屯地を歩くことはできた。ただし、彼の部下は相変わらず軟禁状態で、彼にもミタムラという男が常にくっついていた。
ミタムラもサカイと同じく、サーベルも持たない男だった。だがその代わりに風変わりな棒を持っていた。そして彼らのメンバーであるトラキロア人もマクシミアが見たこともないくらい長い槍や、
どうやって飛ばすのかわからない弓を持っていた。彼らの弓はマクシミアが知っている弓ほど連射はできない、しかし、その飛距離や命中精度は彼の知っているそれとは大きくかけ離れていた。
ミタムラはそれを「ボウガン」と呼んでいる。トラキロア人の使う弓は長弓で連射に優れている反面、熟練が必要だ。しかも騎士階級はこの武器を好んで使うことはない。
騎士の仕事は乗馬して槍を使い敵を蹂躙することだ。飛び道具は徴募兵の使う下賎な武器だった。


504 名前: 名無し三等兵 2005/09/16(金) 00:56:50 ID:???

「サカイ、君たちはただの山賊じゃないな。いったい何者だ?トラキロア王国に弓を引く者なのか?わたしには君たちが理解できない」
 小屋の中でマクシミアは声を荒げた。相変わらず、サカイは書類に目を通すばかりだ。
「わたしをなぜ、殺さない?身代金も要求しない?なぜだ?」
 さらに声を荒げたマクシミアにようやくサカイは顔を上げた。
「言っただろ。君のように既存の価値観を持ちながらその社会から白眼視されている人物が俺には必要だ。俺にはこの国の習慣も何もわからない。生き残るために君の力と協力が必要だからだ。」
 ついにサカイはすべてを話した。だがそれはマクシミアがにわかに信じることも理解することもできない話だった。
 サカイたちはこの世界とは別の世界で生まれ育った。その世界で言う軍隊、彼らはかたくなに「自衛隊」という言葉にこだわった。ともかく、軍隊に似た組織で生活していたが、訓練中に道に迷いこの世界に漂流したというのだ。
彼らの持つ「神秘の武器」と一緒に。マクシミアにはそれはすぐには信じることができなかった。だが、彼らと生活を共にするうちに、彼らの持つ奇妙な道具や知識を垣間見る機会に恵まれた。たしかに、トラキロアだけではない。
周辺の国々にはない知識を彼らは持っていた。そしてそれ以上に、マクシミアも認めざるを得ないくらい彼らの知識や考えは優れていた。
 そのリーダーのサカイは戸惑うマクシミアに時間と根気をかけて彼らの考えや習慣や技術を教えた。マクシミアもそれを戸惑いつつも受け入れて理解していった。数日で、サカイとマクシミアに友情が芽生えた。



505 名前: 名無し三等兵 2005/09/16(金) 00:57:35 ID:???

「堺二尉、あのマクシミアとかいう騎士団長ですが・・・」
 小高い丘に作られた自衛隊の陣地にある執務室で板倉一曹が堺に進言していた。堺は相変わらず、各部署の報告に目を通すばかりだった。
「板倉一曹、ここまで懐柔しておいて彼を殺すか?殺したら彼の部下もおとなしくしていないと思うぞ」
 書類に目を通しながら堺は応じる。堺よりも若干年長の板倉は不服そうな表情を浮かべて彼の前に立っている。
「板倉さん、この辺の連中を味方に引き入れて組織してもせいぜい数は500人だ。トラキロアの連中が本気になれば一網打尽だ。だったら、トラキロア中枢に近い人物を味方に引き込まないと俺たちの生き残る道はないんだ・・・。」
「それはわかりますが、二尉はあの男に甘すぎやしませんか?」
 板倉の反論に初めて堺は顔を上げた。
「板倉さん、俺はマクシミアを通じてトラキロアの政治中枢に介入したいんだ。そうすることで俺たちの生き残る可能性を探りたい。地元の人間に聞いた限り、俺たちが日本に帰れる可能性はほとんどないんだ。
そうするしか道はない。このまま武器弾薬や燃料が枯渇するのを待つよりも前に進むしか道はないと思うんですよ」
 堺の熱弁に板倉も反論の言葉を失った形になった。確かに、このままの逼塞を打開するにはこの世界にある程度適応した生き残り戦略が必要だ。
その突破口にマクシミアを使うという堺の構想は理にかなっている。
「わかりました。ただし、これからもいろいろと意見させていただきますよ」
「恩に着ますよ、板倉さん」
 階級は違えど、年長の板倉に対して堺は最低限の礼儀を忘れない。



506 名前: 名無し三等兵 2005/09/16(金) 00:58:05 ID:???

 砦の中央に位置する広場では新兵器のお披露目が行われていた。もちろん、マクシミアもそれを見学することが許された。ミタムラが当然そばについていることにはなったが。
「あれはただの棒じゃないか・・・」
 思わずつぶやくマクシミアにミタムラはにやっと笑った。
「そうとも限りませんよ。ま、よくご覧になってください。」
 ミタムラはじめ、十数名の一団は彼に対して非常に礼儀正しかった。リーダーの堺を彼らは「サカイニイ」とか呼んでいる。何かの称号であることはわかる。
「じゃあ、あれを撃つからな」
 奇妙な棒を手にしたトラキロア人は十数メートル離れたところに置かれた小さな壷を示した。トラキロア軍の弓兵でもあれを射抜くのはなかなか難しい。ましてやそれをあんな棒でどうやって射抜くというのだ?
 男は肩に棒をしっかりと携えて狙いを定めた。そして右手で棒の下にある引き金を引いた。その瞬間、棒の先端から白い煙とものすごい轟音が飛び出した。
それと同時に彼が指し示した小さな壷は粉々に砕け散った。
「こ、これはいったい・・・」
 耳が少しおかしいことに気がつきながらもマクシミアはミタムラに尋ねた。彼はうれしそうな表情を浮かべている。
「あれはマスケット銃です。まだ大量生産できないが、ボウガンと順次更新していく予定です」



507 名前: 名無し三等兵 2005/09/16(金) 00:59:09 ID:???

 堺二尉はマスケット銃の成功報告を聞くとすぐに大量生産を命じた。メンバーの島田三尉は理系の大学院卒。なぜ、そんな学歴で自衛隊に入隊したかは知らないが、ここでは「親方」と呼ばれていた。本人はそんなあだ名に程遠い外見だが。
彼の知識で黒色火薬の生産とマスケット銃の製造にこぎつけることができた。
 自衛隊員の乗っていた3台のトラックには大量の弾薬がある。しかし、これは極力使わないようにしたい。大量にあるとはいえ、いつかはなくなるのだ。ましてや生産手段も持たない現状でだ。
とすれば、多少スペックダウンしても現地で生産可能な武器を製造して味方になったトラキロア人に支給するのが合理的だろう。
「それにしても島田がここまでやるとはな・・・」
「ええ。あいつ、いえあの人はこういう分野に向いているのかもしれませんな」
 堺と板倉が笑いながら言った。島田のおかげで、代官の圧制で山に逃げ込んだ人々に武器を配り、代官をやっつけることができたのだ。こちらの武器をほとんど使うこともなく。
「島田です。入ります!」
 うわさをすればなんとやら。島田が指揮所になっている小屋に入ってきた。堺は彼にトラキロア人が作ってくれたワインを注いでやった。
「しかし、まさかあんなものから硝石を作り出すとはな・・・」
 板倉の感心ももっともだった。島田は山の上の砦で処理に困っていた糞尿から硝石を作り出したのだ。そしてマスケット銃も彼なりに応用を加えていた。
ライフル弾を撃ち出すのだ。銃身にライフルマークを刻むことで銃弾に回転を与えて直進する力を増すのだ。ナポレオン時代に使われていたマスケット銃よりもはるかに高性能だった。
「それに、農機具の改良ももうすぐ終わります。連中の中に鍛冶屋が数名混じっていたのが幸いです。ただ、圧倒的に設備も人員も足りません」
 それはそうだ。自衛官が十数名。トラキロア人が300名ほどしかいない。何をするにも人手不足だった。



508 名前: 名無し三等兵 2005/09/16(金) 00:59:58 ID:???

「なるほど、だからこそわたしが必要なわけだな」
 島田の言葉に答えたのは、いつの間にか小屋の入り口にいたマクシミアだった。一同の視線がいっせいに彼に注がれた。
 これはまずい話を聞かれたかな?堺は一瞬顔をしかめた。それを見た板倉が腰のものに手をかけるが、堺がそれを目で制した。
「なるほど、あなたがたは自分たちが生き残るため、そしてここにいる人々のためにさまざまな努力をしているようだ。だが、聞いてのとおり何もかもが不足している。
だからこそ、わたしのような王族の血を引く者を味方にしたい。そういうことだな」
 金髪の騎士は黒髪のリーダーに歩み寄りながら言った。板倉は彼の手が腰のサーベルに向かわないか凝視している。堺が警戒することなく答えた。
「平たく言えば正解だ。だが俺はもっと別のことも考えている。ここでは身分の差はない。あるのは階級だけだ。ここには農奴、職人、商人、僧侶もいるがそんなこと関係ない。組織の中の秩序だけだ。
そして合議では誰でも自由に発言するし、意見が優れていれば採用する。それが発展の基礎になる。マクシミア、君の国にそんなシステムはあるかい?」
 あるはずがない。あればマクシミアは騎士として特権階級にいることはできないだろう。それを見越したのか堺はにやっと笑った。
「俺は君に言ったはずだ。この世界を一緒に手に入れようって。世の中を変えちまうんだ。俺たちの手で。君が身分制度の緩和を訴えて閑職に追いやられたことは知っているよ」
 マクシミアははっとした。ここにはあらゆる階級の人間がいる。盗賊やその類がいても不思議ではない。それを間者に仕立てて自分を調べていてもさほど不思議ではなかろう。
「わかった、サカイ。君の言うとおりだ。わたしは王族の身にありながら今の身分制度を嫌っている。だからこそ、領地を追われ郎党と山賊退治にまで狩り出された。そんなわたしに今更何をしろと?」


509 名前: 名無し三等兵 2005/09/16(金) 01:00:53 ID:???

 トラキロア城にある玉座の間は荘厳な趣でマクシミアを出迎えた。王座にはまだ幼い国王である、グラトス・トラキロアが鎮座し、そばに摂政のミリアネス・クラクス。
そしてトラキロア王国軍総司令官のドリアノス・バルコスが控えている。摂政も総司令官も冷たい目で王に傅くマクシミアを見ていた。
「で、山賊は確かに退治したのだな?」
 摂政のクラクスが面白くなさそうに言った。無理もない。彼はマクシミアが任務に失敗し戦死する、もしくは命からがら逃げ帰ることを期待していたのだから。
「は、摂政様。こちらが証拠の品でございます。」
 マクシミアはバルコスに血のついた兜を差し出した。それは代官の兜だった。
「これは代官の兜だ。どうやって?」
 バルコスのいぶかるような視線をものともせずにマクシミアは答える。
「山賊の首領らしき男がかぶっておりましたので、我が王国に対する侮辱と思い剣を振るい奪い返しました。」
「ふむ・・・」
 クラクスは考えた。間違いなく兜は代官のもの。そしてそれを奪い返してきた以上、マクシミアには恩賞を形だけでも与えておかねばならない。しかし、彼に恩賞を与えすぎても困る。
彼の勢力が増すことはいいことではない。幼少のグラトス・トラキロアを操っておかねば、この国を自分の意のままに動かすことができない。それには王族の血を引くマクシミアは邪魔以外の何者でもない。
「では、そなたに代官の居城であったミュラ城とその領地を与える。引き続きその武勇で山賊を取り締まり、辺境の安定に努めるがよい」
 クラクスはそばのバルコスを見た。彼も満足げな笑みを浮かべた。彼らにとっては体のいい厄介払いだった。マクシミアを天下ごめんで辺境の地に追いやることができたのだ。
「謹んで命をお受けいたします」 
 そのマクシミアもひそかに笑みを浮かべた。やはり予想通りだった。王宮にいてはなにかとやっかいなマクシミアをクラクスとバルコスは辺境に追いやるであろうことは想定の範囲内だった。無論、サカイも予想していたことだ。この方が好都合なのだ。
「マクシミア、達者でな・・・」
 まだ少年とも言えないグラトスがマクシミアに語りかけた。金髪の騎士は無言で頭を垂れると謁見の間を後にした。







524 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/17(土) 00:33:40 ID:???

すいません、パソ買い換えてコテハンもトリップも反映してないのに気がつきませんでした
では>>499の続きを投下します

「レボリューション」第2話:奪還
ミュラ城の城下である変化が起こっていた。人々が日に日に増加しているのだ。そして自由に商売を行っている。トラキロア城下からやってきた商人は市場の入り口にいる役人に出店料を支払って商売を始めた。
「楽市楽座ですか?」
 城から城下を眺める堺に島田が声をかけた。指揮官は振り返って頷く。そうしておいて島田にイスを勧める。
「ここは辺境地帯らしい。この城の東。俺たちがいた丘の向こうは国境だ。この先は東部人と呼ばれる蛮族の土地らしい。高地と砂漠で農耕には適さない」
「つまり、蛮族に備えてという理由で兵力増強もできる、ということですね」
 島田の言葉に堺は満足そうな顔をしてワインを注いでやった。そこへマクシミアが入ってきた。少しして板倉一曹もやってきた。役者がそろったわけだ。それぞれが席に座ると堺が口を開いた。
「さて、部隊編成だが板倉一曹・・・」
「はい。現在総兵力は二千名を超えました。この中から体力的に優れた者を選んで新開発のピストルを装備した偵察小隊を編成中です」
 堺の戦略としては軍の基幹は徴募兵からなる歩兵を考えていた。徴募兵というくらいだからさぞやゴロツキの集団と思いきや、意外と忠実だった。そこで急遽騎士のような重装騎兵でなく、軽装備の軽騎兵を作ろうとしたのだ。
彼らの装備には新開発した連発ピストルを装備させる予定だ。カートリッジの開発は進んでいないため、中折れ式リボルバーのシリンダー部分を取り替えるタイプの拳銃を開発した。
この装備で軽快に活動し、時には重装騎兵の側面からピストルで奇襲することも可能な部隊になるはずだ。



525 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/17(土) 00:37:04 ID:???

 次に、根幹の歩兵だがマスケット銃の生産はまだ軌道に乗っていない。そこで基幹歩兵はパイクを装備させた。パイク兵の戦列で騎士の突撃を
 大砲は銃を開発した後では簡単だった。時限式の炸裂弾を飛ばす構造だ。彼らの仮想敵は間違いなくトラキロア王国軍だ。重装騎兵の騎士と弓兵からなるトラキロア王国軍を打ち破るにはこれでもまだ足りないくらいだが、そう贅沢はいえない。
「製鉄所を作っていますが、ミュラの森はこの分で行けば数年で枯渇します。あまりに伐採が進むとミュラ川の氾濫も懸念されるので別の燃料が必要でしょう」
 島田の言葉に堺は考え込んだ。別の燃料となると、石炭あたりが必要になってくる。各地に派遣した医療衛生教育隊を兼ねた調査団がいい報告を持って帰ってくれればいいんだが。調査隊は医療衛生教育においては成果を出していた。
軍隊が集団生活を行う時にもっとも懸念されるのが伝染病だ。そして伝染病の蔓延は民間の生産をも破壊する。中世ヨーロッパで腺ペストが流行して発展が大きく遅れたのがいい事例だ。これを繰り返すわけにはいかない。
ヨーロッパには数百年の猶予があったが、堺たちにはそんな猶予はないのだ。
さらに言えば、堺は将来的なミュラでの徴兵制も考えていた。その実現のためには一般市民に均等な基礎的知識が必要になる。それを見越しての医療衛生教育だった。
「やっと城下町以外の村落でも風邪程度の病気に関する原理がわかってもらえたようですよ。これでも大きな進歩といえますね」
 確かに、それだけでも大きな進歩だ。その報告に堺もマクシミアも満足げだった。さらに島田の報告は続いた。
「農機具開発は大成功です。来年度の農業収入はかなり増加することが見込まれます。それに文官の教育も進んでいます。我々ほどではないにしても基礎的な事務作業には支障はなくなるでしょう。」
「まあ、俺たちもトラキロア語を覚えるのには苦労したからな」



526 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/17(土) 00:37:37 ID:???

 板倉一曹がワインを口にしながら笑った。堺が目指しているのはまさに「富国強兵」だった。幸いにして代官が溜め込んでいた大量の金貨が城から発見されてその資金は十分だった。三途の川の向こうには金は持っていけないらしい。
「しかし、あまりに急激な変化は敵を生みかねない。そうでなくてもわたしはクラスス摂政とバルコス総司令官に敵視されているんだ。ことは慎重に運ばねばいけない」
 マクシミアがワインをおかわりしながら言う。確かに、ここ数ヶ月でミュラ城下は劇的な変化を遂げている。いくら辺境に無関心なクラススたちも目をつけないという保証はない。それを受けて島田が口を開く。
「急激な変化を望んだ織田信長は多くのことを成し遂げましたが、同時に多くの敵も作りました。できることなら我々は二の轍を踏みたくないものですね」
「ノブナガ?」
 島田の口から発せられた聞きなれない人間の名前にマクシミアが反応した。堺は新たに領主となった騎士団長に信長のことを聞かせた。楽市楽座も実は信長からいただいたアイデアということも含めて。
「なるほど。だが我々は歴史から学ぶことができる。ノブナガは敵を恐れぬあまり敵を身内にまで作ってしまった。我々はその教訓を学ぶべきだろう」
 無論だ、と堺は思った。今、俺たちが目指しているのはこの世界では未だ誕生したことのない社会システムだ。職業軍人に官僚制。だが、島田の言うように信長の失敗を考えれば多少、この世界に妥協した行動を考えねばなるまい。
それに関してはマクシミアに任せておけばいいし、自分なりに考えもあった。それを実行に移すべきなのかもしれない。



527 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/17(土) 00:38:20 ID:???

 トラキロア城にある塔のひとつに幼い少年王グラトス・トラキロアはいた。ここが彼の寝室ということになっていた。実際は監視されているということは成長してきたグラトスにもよくわかっていた。
「わたしはいずれクラクスやバルコスに殺されるんだろう」
 少年王は悟っていた。いまや、彼らはこの国で思うがままに振舞っている。そのもっともな理由が、グラトスの若さだった。自らが生き残るためとはいえ、その聡明さを隠している少年王は、
それによって民衆が受けている苦難を容易に想像できた。マクシミアがいてくれれば、とないものねだりをしたくなる。だが、彼ははるか辺境で蛮族対策に追われる羽目になった。
この城でグラトスの味方は少しだけ年長の侍女リーサだけだった。その彼女は今、王のためにベッドメイキングをしている。小高い塔のバルコニーに出て少年王は己の若さを悔やんでいた。
「国王陛下・・・」
 そのときだった。どこからともなく声が聞こえた。とっさに腰に手をやるが、彼は武器の類は持たされていない。
「ご安心ください。摂政や総司令官の放った暗殺者ではありません」
 声が少年王を安心させるように言う。
「では何者だ?」
 グラトスの言葉に、声の主がバルコニーに現れて膝をついた。背格好からトラキロア人であることはわかったが、その服装は見たことがない。木々と同じ色をした奇妙な服だった。顔は真っ黒に塗られている。まるで暗闇に溶け込むためのように。
「ご安心ください。わたしはマクシミア・ヒューゴ様の手の者です」
「マクシミアの?」
 思わず大きくなった声を王は抑えた。室内にいるリーサには気がつかれていないようだ。男は恭しくあるものを少年王に差し出した。
「明日、マクシミア様が陛下をお迎えにあがります。この道具の使い方をよくご理解されるようにとのことです」
 聡明な少年王は間者の渡してくれた道具を見た。革のバンドに丸い物体がつながれている。物体の中では3本の針が見えた。それは時計だった。



528 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/17(土) 00:39:06 ID:???

 堺と初めて出会った丘にマクシミアはいた。ここで堺がまだ彼に見せていないものを見せると言う。
それを踏まえて、君がもっとも気に病むことを解決するとも言っていた。マクシミアが気になること。それは若き国王のことだった。できることなら自分の手でお救いしたい。
そうは思っていてもすぐには無理だ。軍勢を率いてバルコスの軍を打ち破り、王都トラキロア城にお迎えに行くにはまだまだ時間がかかりすぎる。
「やあ、マクシミア」
 堺だった。すでに到着していたようだ。彼の後ろにマクシミアも見覚えのある2名の男がいるのが見えた。
「紹介しておこう。飯島三尉と奥野二曹だ。」
 彼らは堺たちみたいな服を着ていない。似たような色をした服を着ているがちょっと様子が違う。だからマクシミアも彼らのことを覚えていたのだ。
「で、サカイ。わたしに見せたいものとは?」
「ま、焦るなよ」
 先を急ごうとするマクシミアを制するように堺はいつもの笑みを浮かべて彼を森の奥へと案内する。しばらく進むと開けた土地に出た。そこにはマクシミアが見たこともない物体が置かれていた。
「サカイ、これは・・・・?」
 物体は大きく、頭にいくつかの棒がついている。そして鳥のようだがはるかに小さい羽がしっぽにくっついている。その物体の側面には何か文字が書かれている。マクシミアが島田から教わった範囲で読めるのは「陸上自衛隊」ということを意味する文字列だった。
「これで少年王を救出する。今夜・・・」



529 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/17(土) 00:39:44 ID:???

 グラトスは夕べと同じく、塔にあるバルコニーで夜空を眺めていた。左腕に例の間者がくれた時計をつけて。この機械に書かれた独特の数字は間者から教わった。10時きっかりにマクシミアが彼を助けにやってくるというのだ。
マクシミアめ、わたしを励まそうとして手の込んだいたずらを考えたものだ、と笑いたくなるが。その反面、本当に来てくれるのかと淡い期待も抱く。心臓の鼓動と同じくらいの間隔で動く長い針を少しいらいらして見つめる。と、グラトスの耳に聞きなれない音が聞こえてきた。
「リーサ、何か言ったか?」
 いつものように王のために寝室を整える侍女に声をかける。
「いえ、陛下・・・」
 侍女の返答を聞いて夜空に視線を再び戻したグラトスの目に入ったのは、言葉にならない情景だった。



530 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/17(土) 00:40:20 ID:???

「あそこだ!あそこに国王陛下がおられる!」
 ローター音でうるさいキャビンの中でマクシミアが叫んだ。彼はトラキロア城の大きな塔を示していた。赤外線暗視スコープをつけた飯島と奥野がバルコニーにいる人物を確認する。
「少年がいます!間違いないですか?」
「間違いない!」
 マクシミアの言葉を聞いて飯島はヘリを進めた。トラキロア城ではヘリの爆音を聞いた兵士たちが気がついて上を下への大騒ぎだった。すぐに堺たちの意図もばれるだろう。
「マクシミア、これを」
 堺は今にもサーベルを抜いて国王の待つ塔へ突入しようとしているマクシミアに9ミリ機関拳銃を手渡した。
すでに堺と板倉、そして6名の自衛官とトラキロア人から編成した本部中隊要員は89式小銃か9ミリ拳銃を準備している。マクシミアは笑顔でそれを受け取った。
「かたじけない!」
「気にすんな!」
 ヘリはトラキロア城内で少しホバリングした。とたんに弓兵の矢が襲ってきた。鉄のボディを「カンカン」と矢がたたく音が聞こえた。
「低空ホバリングは危険だ。少し旋回しろ!」
 堺の指示で空飛ぶ鉄の鳥、UH−60ヘリは上空を旋回し始めた。



531 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/17(土) 00:42:39 ID:???

 聞いたこともない爆音で眠りを妨げられたミリアネス・クラススは城の中庭に出て目を見張った。
「これはなんだ?」
 彼の頭上には見たこともない大きな鉄の鳥が大きな音を出して、下賎の武器とはいえ弓兵の矢を跳ね返しているのだ。そしてその鉄の鳥にマクシミアがいるのを認めてこの連中の意図を察して大声を出した。
「国王陛下をお守りするのだ!バルコス殿に親衛隊を塔に派遣しろと伝えろ!」



532 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/17(土) 00:43:28 ID:???

 死角に入ってマクシミアと堺、数名の自衛官を塔に乗り移らせたヘリは再びゆっくりと旋回を始めた。バルコニーで事態を見守っていたグラトスは塔に乗り移ってきた人物を認めると喜びの声を発した。
「マクシミア!本当に来てくれるとは思わなんだぞ!」
「何をおっしゃいますか、陛下」
 マクシミアとグラトスはがっちりと握手した。その後、塔の階段を警戒する堺を紹介した。少年王は堺のこの行動について深く感謝の念を述べた。
「だが、ひとつ。頼みがある」
 いざ脱出の段になって少年王が言った。
「侍女のリーサも一緒に連れて行って欲しいのだ」
 その言葉に堺は事情も飲み込めず部屋の中でおろおろする侍女を見た。少年王と年齢はさほど変わらない。せいぜい13か14だ。器量もさすが名ばかりとは言え国王の侍女だ。と、ここで堺に直感的なアイデアが浮かんだ。
ここで「個人的」に王に貸しを作るのも悪くない。かなりの確率でグラトスの申し出の動機は個人的なことだ。少年王は侍女に惚れている。無理もない。
他人とろくに接触できない環境でこの侍女とだけ接するのだ。そういう気持ちになっても仕方がない年頃だ。
「いいでしょう。さあ!」
 堺たちが王と侍女を収容したときに、バルコスの親衛隊が姿を現した。
「撃て!」
 堺の号令で9ミリ機関拳銃がいっせいにヘリから掃射された。思えば、マクシミアも彼らの武器が実際に人間に向けられるのを見るのは初めてだった。甲冑の男たちがなすすべもなく倒れていくのを呆然と見つめていた。
「収容完了!離脱だ!」
 UH−60はトラキロア城から離れてミュラに向けて針路をとった。マクシミアは堺が渡した銃の威力を垣間見て呆然としていた。彼はわたしにこんな武器を渡すのか。わたしが裏切らないとも限らないのに。そんな彼の思考を見抜いたのか堺が言った。
「そう考えるな。俺は君を信じている」
 その言葉にマクシミアは確信した。堺はわたしを信用している。そしてわたしも堺を信用している。それでいいじゃないか。ヘリは順調にミュラ城に向けて飛行を続けていた。



554 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/18(日) 01:11:46 ID:???

投下します。
「レボリューション」第3話:戦端
 休む間もなく堺たちは次の作戦会議に突入した。
「しかし時期尚早ではないですか・・・。各兵器の配備もまだまだ進んでいない状態ですよ。それにすぐに救出部隊がやってきますし」
 島田の危惧をマクシミアがさえぎった。
「だが、バルコス総司令官が全軍を準備するにはかなり時間がかかる。」
 奪還部隊の編成にかなり時間がかかるとはなんとも効率の悪いことだ。だが、それが狙い目でもあった。堺もそれに続く。
「準備不足でも先遣部隊は発進したころだろう。それに各地の軍団も準備出来次第進軍を開始するはずだ。何も、やつらが準備万端整うまで待ってやる必要もあるまい。」
 なるほど、各個撃破を狙うわけか。だったら装備にいささか不安が残るこちらでも十分対応できるし、時間を稼げば稼ぐほどこちらも生産した兵器を部隊に配備できる。板倉は早速出動可能な部隊のリストを探した。
「捜索・偵察小隊と特科中隊はいつでも準備できています。パイク大隊も同様です。」
「騎士団も出動可能だ」
 マクシミアもそれに続く。堺は測量隊に作らせたミュラ地方の地図を出した。マクシミアの領地の境はミュラ川だ。ここで連中を迎え撃つことにしたかった。
「ミュラ川の橋を落とせ。川岸に空堀と馬防ぎ柵を構築。特科を後方に配置しよう。捜索偵察小隊は対岸で偵察活動。敵を発見したら小規模攻撃で敵を川までひきつけて撤退しろ。敵はおそらくは騎士団だ。川に突入させて動きが鈍ったところを一斉射撃で殲滅する」
 効果的な火力攻撃で敵を圧倒したい。そうすれば戦わずして攻撃をあきらめる連中も出てくる可能性がある。なにしろこっちには少年王がいるのだ。つまりは「官軍」だ。こちらの力に恐れおののいて寝返る連中も出てくることを期待して、戦闘を急いだのだ。




555 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/18(日) 01:12:31 ID:???

 無事にミュラ城に着陸したUH−60は城の片隅で再び永い眠りにつくことになった。
「また当分はお蔵入りか・・・」
 嘆息しながら飯島と奥野が愛機の寝床を整えてやる。思えばここに来てからまともにヘリを飛ばしたのは今回で3回目だ。
最初は飛行中にこの世界に迷い込んだとき。次は堺たちと合流して長くお蔵入りだったヘリをミュラ城に飛ばしたとき。そして今回の作戦だった。飯島にとってヘリの出番がないのは残念だったが、なにしろ燃料がないのだ。無理もないことだった。
「さ、次はいつの出番になることやら・・・」
 そう言いながら点検作業を始めるが、こいつの出番はあとせいぜい2回だろうと思っていた。もう燃料はそれほど残っていないのだから。



556 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/18(日) 01:13:10 ID:???

 島田は城下に作られた製鉄所と工場に赴いた。この国の鍛冶屋はかなりの技術を持っている。島田の要求する品物はたいてい作り出していた。マクシミアたちの身に着けた甲冑やサーベルを見てそれは想像できていたが、現実は彼が思っていた以上だった。
「旦那、注文の品ですよ」
 鍛冶屋はそう言って工場の隅に山と積まれた木箱を見た。捜索・偵察隊やトラキロア人幹部に支給するピストルだった。すでに試作品で使い方は教え込んである。
わずか数ヶ月でよくもここまでできたものだと感心する。だが、この先生産規模が大きくなれば燃料不足も考えられる。早く調査隊の報告を聞きたいものだ。
 完成品を駐屯地に運ぶように手配してから島田は官庁に向かった。ここではすでに軍の出陣が伝えられ、その準備で大忙しだった。軍の補給物資を算定し、城の倉庫から運び出す手配が行われている。
この世界にこのような事務管理制度がないことが島田には驚きだったが、少なくともこの城下のトラキロア人にはすんなり受け入れられて最近、ようやく機能し始めた。
「堺二尉はこのシステムがちゃんと動くかどうか試すために戦闘に踏み切ったのかもな」
 そう思いつつも島田には堺の真意はよくわからないでいた。だが、彼は深くは考えない。目の前に与えられた自分の仕事を黙々とこなすだけだ。



557 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/18(日) 01:13:52 ID:???

「しかし、思った以上に早く決断しましたな」
 マクシミアが騎士団動員のために退出したため、部屋には堺と板倉だけが残される格好になった。板倉は指揮官にワインを満たしたグラスを渡した。
「島田の言葉がヒントになったんです。連中の価値観にも多少妥協した行動をとらないと内部に敵を作りかねないってね。」
 それに、できることならトラキロア全軍との戦闘は避けたい。こちらの力を見せ付ければ、王がこちらにある以上寝返る連中も出てくるはずだ。
連中の王に対する忠誠心を利用して無血で王都以外を味方につければいいわけだ。そのための派手なプロパガンダにヘリを利用したのもある。そしてプロパガンダ第二弾が今度の追撃隊迎撃だ。
「サカイ、入るぞ」
 聞きなれない声が聞こえてドアが開かれた。入ってきたのは背の低いひげもじゃの男だった。いぶかしげな顔をする板倉に堺が言った。
「彼はロッソ。盗賊の頭で、東部出身だ。」
 なるほど、堺がこっそりとミュラ城下に出かけている間に知り合った盗賊か。彼を味方にして部下の盗賊を各地に間者として放っているおかげでいろいろと情報が入ってくる。
「なあ、あれを返してくれないか?」
 いかつい顔の男はもじもじしながら堺に言った。
「よかろう・・・。」
 そう言って堺はポケットから写真を取り出してロッソに返した。板倉がそれを覗き込んで「あっ」と声を出した。写真には、目の前にいるいかつい男がまだ大人とは言えない少女と絡み合っている写真だった。堺が酒場に併設された売春宿で撮影したものだ。



558 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/18(日) 01:14:31 ID:???

「俺たちドワーフ族は背が低いからな。人間の女を相手にするときはこれくらいの女じゃないと釣り合わないんだよ」
 写真を懐にしまいながらロッソが口を尖らせて言う。堺はもちろんそれが嘘であることを知っているがあえてここは追及しない。
「しかし、あっさり写真を返してしまっていいんですか?まだまだ間者には働いてもらわないといけないんですよ」
 そう言う板倉に向かって堺はにやっと笑った。
「もちろん、そのつもりですよ。これからは正規の契約に基づいて報酬を支払うことにします。ロッソとはそういう契約です。」
「そうだ。サカイは今度の王都潜入で俺たちの腕を試したんだ。で、みごと彼のおめがねに適ったってことだ。」
 この若造。こんなに腹黒かったか?と板倉は胸の中で自問した。
「で、ロッソ。東部人の動向を知りたいんだが・・・」
 板倉が自問しているうちに堺とロッソの話は先に進んでいた。
「うむ、今度の冬が開けるころに動きそうだ。王様をめぐって内輪揉めしている暇はないんじゃないか?」
 ロッソの警告を笑って堺は聞き流す。代わりにワインを盗賊の頭に注いでやった。
「いいんだよ。これで俺たちが王都からの追撃隊を撃破する。奴らは混乱するだろう。そうすると・・・」
 堺は例の地図を取り出した。
「南にあるガルバラ王国が動き出す可能性がある。トラキロア南部の農業地帯はこちらが確保しておきたいところだからな。おいそれと渡すわけにはいかない。」
 だったら、今戦争を始める必要はない。こちらは東部人に備えてトラキロア王国軍を動かさせるような行動をするべきではないのではないのか?板倉の疑問に堺がすぐに答えた。
「俺はロッソがいるから言うんではないが、東部人と本気で戦争をする気はない。こちらの力を見せつけるにとどめて交渉するつもりだ。その交換条件は・・・」
 そう言って堺はミュラ地方からまっすぐに南に向かってボールペンで線を引いた。
「東部人がガルバラ王国まで行けるように領内を通行する権利を認める。連中にはガルバラで略奪でも何でもやっていてもらおう。その間に俺たちはトラキロアを制圧する。」
「なるほど、二正面作戦を極力避けるわけですね・・・」
 板倉が感心して息を吐いた。この若造、やるじゃないか・・・。


559 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/18(日) 01:15:52 ID:???

 トラキロア城ではバルコスが怒り心頭だった。マクシミアはとうとう悪魔に魂を売ってしまったのだという噂が流れていた。確かに彼自身、あんな空飛ぶ鉄の鳥を見せつけられればそう思わないこともない。だが、事態はそれよりも深刻だった。
「早急に王を奪還しなければ諸侯が反旗を翻す恐れがある。」
 クラクスはそう言ってすぐに全軍をミュラに向けるように要求していた。奴は戦をわかっておらんとバルコスは思った。軍とはいえ、諸侯の軍は各地に散らばり、集合の号令をかけても準備に数週間かそれ以上かかる。とりあえず、追撃隊を送ったが全軍となるとそうはいかない。
 しかし、バルコスもわかっていた。摂政と総司令官がすぐに行動を開始しないと諸侯から王を見捨てたと非難されかねない。少年王を担いでいいように国を操っていた報いかもしれない。くそ、いつから俺はクラクスの片棒を担ぐ羽目になったんだ。
「ミリアをこれへ呼べ」
 甲冑を従卒に身に着けさせながらバルコスが命じた。すぐにミリアがやってきた。
「お父上様、お呼びでございますか?」
 豪奢な鎧に身を包んだ騎士がバルコスのそばに膝をついた。ミリア・バルコス。バルコスの娘だった。
「うむ、追撃隊は出発したがいささか不安が残る。ミリア、わしに代わって指揮をとってくれぬか」
 たいした準備もなく出発させた500名だ。ちゃんとした指揮官がいなければ万が一のときに士気が瓦解することも考えられる。
「はっ、仰せのままに」
 そう言ってミリアは退出した。実の娘でないながらも彼にとても忠実でとても勇敢な騎士だった。そして彼女は何より不思議な力を持っている。彼女はエルフ族の末裔。人間にはない不思議な力があるといわれる人種だ。


560 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/18(日) 01:16:35 ID:???

追撃隊に追いつくべく街道で馬を走らせるミリアは初めて父に大仕事を任せられた喜びに胸を躍らせていた。バルコスと血がつながっていないことは彼女もよく知っていた。何しろ自分はエルフ族の末裔なのだから。
もう自分以外に残っていないかもしれない。トラキロアをはじめとする人間との戦いで滅びてしまったエルフ族のわたしを父は娘として育ててくれた。その恩に報いるときがきたのだ。
「でも・・・」
 喜びで高鳴る胸とは違い、心には影があった。何か変なことが起こりそうな気がする。彼女は何か不吉なことが起きるときはこういう心境に駆られることがあった。父の仕事を助けるのに何度か役に立ったこともある。そのときと同じ感覚を彼女が襲っていた。



609 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/23(金) 14:42:18 ID:???

投下します
第4話「葛藤」

 ミュラ川に陣取るマクシミアと板倉は双眼鏡で対岸の様子を確認していた。街道周辺にある橋はすべて落とした。唯一あるのは彼らの陣地の目の前にある橋だけだ。
これも敵が接近すれば破壊する。ミュラ川は幅数十メートルだが、敵の足を止めるには十分だった。柵と堀で固められた陣地からマスケット銃を撃ち込んで接近した敵はパイクで止める。マクシミアの騎士団は敵の追撃に備えての予備隊だ。
「第1マスケット中隊、第2マスケット中隊は配置完了です。第3パイク大隊と第4パイク大隊はマスケット中隊の後方に展開。特科中隊も配置完了です。」
 伝令の騎兵が報告にやってきた。騎士の連中は偵察や伝令といった仕事を嫌う傾向がある。マクシミアの部下にしてもそうだった。そこで徴募した兵から新たに伝令専門の小隊を編成せざるを得なかったのだ。
「お、来たようだ。」
 双眼鏡を眺めるマクシミアが土煙を見つけた。ミュラ川対岸に広がる田園地帯に一筋に走る街道の向こうが土煙で曇っている。
「捜索小隊を出動させて敵をこっちにおびき寄せよう。」
 板倉は小隊に出動を命じた。



610 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/23(金) 14:43:21 ID:???

 城を出て夜を徹して走ったミリアはようやく夜明け前に野営する追撃隊に追いついていた。体は疲れているが気持ちは高ぶっている。昨日感じたいやな感じも今日はしない。
あれは初めて大仕事をする不安だったんではないだろうか。短く切った髪を掻き分けながらミリアは思った。
「ミリア様、現れました」
 そばの騎士が前方を示した。ミュラ川に近い小高い丘に少数の騎兵が見えた。彼らは甲冑を着ていないようだ。いったいそんな装備で騎士と戦う気があるのだろうか。
「戦闘体勢だ!」
 ミリアの号令で追撃隊は戦闘準備を開始した。戦法は伝統的な騎兵突撃。軽装備の騎兵など一撃で殲滅できるだろう。横に展開した騎士団の後方で少数の弓兵が矢をつがえた。
「放て!」
 曲射で矢が放たれた。それを予測していたのか敵騎兵は二手に分かれてあっという間に丘を下った。意外と素早い。ミリアが慌てて騎士団に隊列の変更を命じるが、それも間に合わない。
敵騎兵は両翼から追撃隊を挟むように数十メートルの間隔で展開した。
「なっ」
 ミリアの頭を何かがかすめた。隣にいた騎士の鎧にぽっかりと穴が開いてそこから血を噴出しているのが見えた。
「ぱんぱん」という聞いたこともない音が聞こえてくる。そのたびに馬が恐怖のいななきを叫ぶ。だがそれもすぐに収まり、敵騎兵は川に向かって逃走を始めた。
「ひるむな、追撃しろ!」
 言い知れぬ恐怖を打ち消すようにミリアは自ら先頭に立って敵の追撃を開始した。



611 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/23(金) 14:45:04 ID:???

 板倉一曹は偵察隊が思ったよりも早く戻ってきたことを疑問に思っていた。斧を持った施設隊が最後の橋を叩き壊しているのが見えた。
伝令が駆けつけて詳細を報告する。
「ピストルの不発が多く、反撃の危険があったため予定よりも早く撤収したそうです」
 伝令の報告を聞いて板倉はそばにいたトラキロア人のピストルを受け取ると空に向かって引き金を引いた。
激鉄がかちっと音を立てるだけだった。やはり急いで作りすぎたのだろうか。テストでは順調だったのだが、騎馬の揺れで不具合が生じたようだ。
「まあいい。敵をおびき寄せる役目は果たしたようだ」
 川の対岸に敵が姿を現した。予想通り、騎士を中心にした騎兵だった。板倉は特科に大砲の発射準備を命じた。

「なんだあれは・・・?」
 ミュラ川に出たミリアは眼前の光景に言葉を失った。川岸に一面柵を設けている。あんな柵で騎士の突撃を防ごうというのか。笑止に値するが、
先ほどの未知の武器もある。少し彼女は躊躇した。それを見たそばの騎士は部隊の主導権を握れるチャンスを逃さなかった。
「ミリア様、敵は歩兵ばかり。あんな柵なぞ、一気に蹴散らしましょう」
 そう言って騎士はミリアの返答も聞かずに突撃を開始した。彼らからすればバルコス総司令官の娘とはいえ、エルフに指揮をされるのは気に食わないようだ。
 くそ、わたしが男だったら、そしてエルフでなければこのようなことは許すことはないのに。悪態をつきながらミリアも突撃を開始した騎士に続いて馬を走らせようとした。
が、その動作は途中で止まった。
「なに、これ・・・?」
 昨日感じたあのいやな感じだった。それも昨日よりももっと大きい。不吉だ。これは不吉だ。みんなを止めなければ。
「突撃を中止せよ!危険だ!」
 だが彼女の声は轟音でかき消されることになる。


612 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/23(金) 14:45:44 ID:???

 「よし!成功だ!」
 板倉は双眼鏡でミュラ川の対岸に砲弾が着弾するのを確認した。対岸には突撃を開始した騎士団を援護すべく展開しようとしていた弓兵がいたが、砲撃で多くは死傷するか四散したようだ。
「次弾は川の中央だな。マスケット隊は・・・」
 マスケット隊は三段構えで柵に張り付いている。マスケット中隊を指揮する自衛官が「準備よし」の白旗を振っている。マスケット兵が川を渡河しようとする騎士団にいっせいに射撃を開始した。
柵のあちこちから白煙があがって突撃してくる騎士がばたばたと倒れた。
発射した前列が後ろに下がって弾込めを始めている。後列が前に進んで発砲している。訓練どおりだ。訓練を担当していた板倉は胸をなでおろした。
 それでも射撃の合間を縫って柵に近づいた騎士は柵の間から突き出されたパイク大隊の槍で突き倒されていった。次弾装填を済ませた大砲が川で混乱する騎士団に注がれた。水柱が高く上がっている。
「よし、一気に片付けよう」
 板倉のホイッスルを合図にマクシミアの騎士団が押し出した。それに続いてマスケット中隊も着剣して前進を開始した。



613 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/23(金) 14:46:20 ID:???

 ミリアははっと気がついた。最後に覚えているのは突撃を止めさせようとしたこと、そして突然降り注いだ何かだった。ここはどこだ?天井が見える。どこかの室内だ。
撤収する味方に助けられたのだろうか・・・。
「気がついたようだな」
 その声に思わず体を起こす。頭がひどく痛むことに気がついた。
「頭を打っただけだ。無理せずに休め」
 ミリアは声の主を探し出して息を呑んだ。そして自分の置かれた状況を理解して絶望の念に駆られた。目の前にいる男はトラキロア軍ではない。見たこともない草木に近い色をした服を着た男だった。
敵に捕まったということだ。その後ろにいる甲冑の人物には見覚えがあった。
「マクシミア・ヒューゴ・・・」
 父の政敵で王族の血を引く男だった。彼はきっとわたしを殺すだろう。そう確信していた。問題はどう殺されるかだ。
「マクシミア・ヒューゴ!わたしを殺すならさっさと殺せ!そなたはわたしがドリアノス・バルコスの娘と知っておるだろう!」
 マクシミアは黙ったままだ。代わりに奇妙な格好をした男が口を開いた。
「君が何者であろうと君は戦時捕虜だ。捕虜はその生命の安全を保証されなければいけない。いろいろと話を聞くのは明日からだ。今日はゆっくり休むといい。三田村、任せたぞ」
 男は傍らに立っている同じような格好をした男に声をかけた。男は右手を額あたりにくっつけてそれに答えた。



614 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/23(金) 14:47:12 ID:???

 ミリアの扱いはマクシミアが捕虜になったときとさほど変わらない扱いだった。
「いいのか、サカイ。彼女は血がつながっていないとはいえバルコスの娘だぞ」
 いつになく強い口調でマクシミアが堺に訴えた。彼女の父はマクシミアを閑職に追いやった張本人なのだから、無理もない。バルコスは強硬な軍国主義者のようだ。だからこそ、既存の身分制に異議を唱えたマクシミアを恨んだのだろう。だが、堺はある点がひっかかっていた。
そのような強権論者が血のつながっていない、人種も違う者を実の娘同様に扱うだろうか。何か裏がある気がしていた。
「ロッソ、仕事を頼んでいいか?」
 堺はマクシミアの言葉をさえぎってロッソを呼んだ。
「バルコスのことをなんでもいい。調べてくれ。趣味、思考でもなんでもいい。」
「よかろう・・・」
 そう言ってロッソは会議室を出て行った。意外な堺の対応にマクシミアはなおも突っかかった。
「サカイ、どういうことだ?いまさらバルコスを調べたところで何になる?あの娘はエルフ族だぞ。人間のように扱う必要もないんだ。」
 その言葉に堺がぴくっとした。その反応を見てマクシミアもはっとした。今まで彼が見せたことのない表情だったのだ。
「マクシミア、エルフ族っていったい何者だ?なぜ、君のような男もエルフ族を嫌悪し蔑むんだ?」
 エルフ族は古代から森の民として生活してきたが、人間と折り合いが悪く、過去多くの戦いを巻き起こしてきた。数十年前、エルフ族の多くは滅びたが少数の混血などが生き残ってたそうだ。それもどんどん数を減らしこの世界からエルフ族はいなくなった。と言われている。
おそらく、ミリアが最後のエルフ族という可能性もあるということだ。
「バルコスが絶滅危惧種のエルフを科学的見地から保護しているとも考えにくい。だったら娘同様に扱うことはしないはずだ。」
 どうやら、バルコスを色眼鏡を通して見ていたのかもしれない。だったら、トラキロア制圧をもう少し楽に達成することができるのかも・・・。だが、それには目の前の男を納得させる理由が必要だ。堺にとってマクシミアの反応はちょっと意外だった。
身分制度に疑問を投げかけた開明的な男にしては、もう滅びてしまった人種に対してはことさらに冷淡だ。
やはり、彼もトラキロア人ということなのだろうか・・・。



615 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/23(金) 14:48:16 ID:???

 数日後、ドリアノス・バルコスは最終的な報告を聞いて愕然としていた。ミリアが行方不明というのはほぼ確実なようだ。
捕虜になったか、それとも戦死して遺体はミュラ川に流されたか・・・。
報告を持ってきた従卒が退出すると歴戦の総司令官はがっくりと床に座り込んだ。それもこれも、クラクスの甘言に引っ張られた自分への報いなのかも知れぬ。
 だが総司令官としていつまでも落ち込んで入られない。諸侯の出陣準備は遅々として進まない。
中には追撃隊を打ち破ったあの悪魔のような軍隊の噂を聞きつけて出陣を渋っている諸侯も出始めたと聞く。さっそく、出陣を渋るいくつかの諸侯に督促の手紙を書き、従卒に手渡した。
「それと今日はあそこに出向く。」
 そう言い残して、バルコスは執務室を出た。
 トラキロア城の正門前でロッソは出入りする人物を見張っていた。軽い偵察のつもりだったが、出てきた人物を見て思わず口笛を吹いた。
「いきなり本命に出くわすとはな・・・」
 単身で馬に乗った甲冑の大男。トラキロア王国軍総司令官バルコスだった。彼は護衛もつけないで城下を進む。持ち前の素早さで慎重にロッソも尾行した。
 馬はやがて郊外の屋敷にたどり着いた。ロッソの部下が調べた情報によると、ここはバルコスの自宅ではない。彼に愛人がいるということも聞いてはいない。首をかしげながら、ロッソは近くの木に登って中の様子をうかがった。
「あれは・・・」
 屋敷の庭に現れた総司令官は満面の笑顔だった。そして彼の周りには幾人もの子供たちが集まってきた。
「お父様がきた!」
 口々に叫ぶ子供たちの言葉を聞いてロッソは目を見開いた。お父様だって?子供たちの数は十数人。それもバルコスとは似ても似つかぬ子供たちばかりだ。
「元気だったか?おお、大きくなったな!」
 ロッソは子供をうれしそうに高々と抱きかかえる司令官を呆然と見つめていた。



616 名前: 分家228 ◆st/L1FdKUk 2005/09/23(金) 14:48:55 ID:???

 ミリア・バルコスはまだ気を許していなかった。ミタムラとかいう男の態度はやさしく紳士的だったが、これは捕虜を油断させる罠かもしれないと思っていた。
だが、彼女はミュラ城内のどこへ行くのも自由だし、何を質問してもミタムラは答えてくれた。彼らの持つ悪魔のような武器についてもだ。
「こいつは悪魔の武器でもなんでもない。89式小銃っていうんだ」
 彼はそれを触らせてもくれた。ただし、この武器で重要な部分なのだろう。奇妙に曲がった箱は取り外されていたが。
「お前たちはわたしを殺そうともしない。なぜだ?」
 たまりかねたミリアが城の塔に与えられた部屋に戻りながら尋ねた。ミタムラは少し考えてから答える。
「っていうか、捕虜を殺しちゃいけないだろ?普通に・・・」
 要領を得ない回答だ、とミリアは思った。捕虜は戦で得たものだ。それをどうしようと捕らえた方の勝手だ。殺すなり身代金を要求するなり。
「それにわたしはエルフ族だぞ・・・」
「そんなこと知らないよ。トラキロア人だろうとエルフ族だろうとドワーフ族だろうと人権を侵害することはしないさ」
 二人はいつの間にか塔の階段を登り始めていた。途中の衛兵とミタムラは言葉を交わしている。
「今日はローストチキンだってさ。チキンは好きかい?」
 理解できない。なぜ、彼らはここまでわたしに優しいのだ。エルフ族であるわたしに分け隔てなく接してくれたのはこれまではただ一人だった。
「父上様・・・」
 彼らは父と同じだ。そんな彼らがなぜ、父と戦おうとしているのか。おそらく、あの武器を相手にすれば百戦錬磨の父とはいえ勝つのは難しいだろう。
いやだ。父がこの世からいなくなるなんて・・・。わたしはどうすればいいのだろうか。
「じゃ、悪いな。一応規則で鍵をかけなきゃいけないんだ」
 ミリアの悩みをよそにミタムラは笑顔で言葉をかけた。