218  名前:  青木原精神病院  02/12/07  00:52  ID:???  

えー、とりあえずほんとに出だしだけ書きますた。  
まだファンタジーのフの字も出てこないんですが、  
これからいっぱい書きますんでかんべんして下さい。  
投稿規制にひっからなきゃいいけど・・・  

序章  

20XX年  九月某日  富士演習場上空  

もう慣れっこになった三トン半の硬い椅子。耳をつんざくようなエンジン音。  
バンクを繰り返し傾く機体。煙缶から立ち昇るタバコのニオイ。  
総重量三十キロ以上の装備に身を固め、大和武士三曹は静かにその時を待っていた。  
「総合火力演習」  
通称「総火演」陸上自衛隊が年に一度、その真の実力を発揮する舞台である。  
戦闘能力のアピールと、国民との親交の為に、演習には自衛隊関係者のみならず、  
各国の駐在武官、そして多数の民間人の観衆が招待される、軍関係者たちはライバルとして、  
国民は守りたい人として。  
「今、俺たちの千フィート(約三百三十メートル)下に、俺たちを待っている人がいる。」  
ふとそんな考えが脳裏をかすめた。思わず頬が緩む。  



219  名前:  青木原精神病院  02/12/07  00:54  ID:???  

大和三曹は今年で二十四になる。専門学校を中退し、十九で陸上自衛隊に入隊した。  
実は大和三曹は一度入隊試験に落ちている。現役高校生の時、一般曹候補学生、  
曹候補士を受験したが、曹学は一次の学力試験で、補士は二次の面接で落ちたのだ。  
仕方なく高校を卒業後、大和三曹は親に勧められたまま東京の専門学校に入った。  
入隊に反対していた母親も、興味本位で彼の動向を見ていた友人も、  
誰もが彼の自衛隊への熱は収まり、「普通の人」のコースを歩み始めたかのように思った。  
彼自身、一度はそう思ったと言う。だが大和三曹の自衛隊熱は、  
消える事なくしぶとくくすぶり続けていた。  
大和三曹の晴れの東京一人暮らしははたして始まった。  
普通の若者なら万々歳、地方でくすぶっている若者にはうらやましい限りだろう。  
だが大和三曹は渋谷や原宿に遊びに行く訳でもなく、週末には山に出かけた。  
別段彼は東京暮らしに興味はなかった。むしろ都会の喧騒や混雑を嫌うほうだった。  
そしてもともと凝り性な大和三曹はますます登山にのめり込んで行くことになる。  
金曜の夜には飲み会も断り、大荷物を背負い原付で出掛けていく彼を  
東京の友人たちは奇異の目で見つめた。月曜になっても学校に来ないなんてことはざらで、  
次の週末にひょっこり帰って来るなんてこともあった。そして登山にのめり込むにつれ、  
大和三曹の中で再び自衛隊への情熱が鎌首をもたげてきたのである。  
そしてある日、大和三曹の友人たちにメールが届いた。  
「俺、やっぱ陸自にいく。」  

続く  



222  名前:  青木原精神病院  02/12/07  00:58  ID:???  

序章  第二話    

「俺、やっぱ陸自にいく。」  
大和三曹がこう母親に切り出した時、母親も寝耳に水で、猛反対した。  
周りの友人たちも反対こそしなかったが、「変なやつ」と思った。  
大和三曹が高校の時、一度自衛隊を落ちてこっちの専門学校に来たということは知っていたが、  
よもや学校を中退してまでもう一度自衛隊を目指すような人間は彼らにとって初めての存在だった。  
夏休みに入り募集が始まると、大和三曹は再び地元の地連出張所を訪れた。  
去年担当してくれた広報官は部隊に復帰していたが、  
なんと現在の広報官も大和三曹のことを知っていた。  
「大和君はきっともう一度受けに来る。彼のこと頼む。」  
と言って部隊に復帰したという。その時、大和三曹は心の底から自衛隊へ行こうと思った。  
そして一足遅い受験勉強が始まるのである。  


223  名前:  青木原精神病院  02/12/07  01:00  ID:???  

 大和三曹が受験したのは防衛大学校、一般曹候補学生、曹候補士、そして二等陸士である。  
近年、自衛隊へ入隊するのはますます困難になっている。防衛大学校は幹部を育てる  
偏差値六十四以上の難関校であるし、バブル期には名前を書くだけで合格したと言われる  
二等陸士ですら、現在では倍率が約四倍である。つまり入りたくても入れない者のほうが断然多いのだ。  
その中でも大和三曹が狙ったのが一般曹候補学生である。一般曹候補学生も曹候補士も  
中堅の曹を育てることを目的としたものだが、両者には大きな違いがある。どちらも入隊時の階級は  
二等陸士だが、一般曹候補学生は二年の教育期間修了後、三曹へ自動的に昇進するが、  
曹候補士は入隊から約三年経過後、選抜によって三曹に昇進するとなっている。  
もちろんどちらでも曹になることは可能だが、曹候補士は期限内(約七年)に三曹に  
昇進出来なかった場合、最悪曹候補士の資格を剥奪され、ただの士に戻ってしまう。  
士では一生勤めることは出来ず、ほとんどは四任期(八年)も勤めれば肩叩きにあう。  
自衛隊もこの二つには一見同じように見せておいて、実はかなりの差を設けていることは  
両者の合格倍率を見れば明らかだ。一般曹候補補学生は約四十倍、対して曹候補士は約十倍である。  
ちなみに受験料はすべて無料だ。  
 「はたして去年落ちたのに、現役でもない俺は受かるのか?」  
大和三曹は勉強してみて不安になった。  

続く。  


224  名前:  青木原精神病院  02/12/07  01:06  ID:???  

                               序章  第三話  

 「はたして去年落ちたのに、現役でもない俺が受かるのか?」  
いざ参考書を開いてみると、そんな不安がむくむくと湧き上がってきた。  
曹学、補士ともに学科試験は高校卒業程度で、国語、数学、英語の三科目が出題される。  
どの科目もたいてい基礎中心で難問奇問は少ないが、それだけに全科目でかなり高い正答率を要求される。  
一次合格には八割から九割は必要とされるが、さらに大和三曹にはハンディキャップがあった。  
去年の受験で、広報官にこう言われたのである。  
「最近不況のせいで大卒や就職浪人がたくさん受けに来るけど、曹学、補士は基本的に高校生が対象だから、  
学力のことはそんなに心配しないでいいよ。高校生が優先で、それ以外は合格ラインを上げてあるからね。」  
今となってはそれが仇となるのだ。大和三曹には数学が鬼門だった。  
高校では三年の二学期に、中間期末両方、数学3で続けて0点をとり、「神」とまで呼ばれるほど数学は苦手だった。  
対照的に英語はかなり出来たが、好きな科目ではなかった。国語はいちおう理系だった為に、  
現代文しかとっておらず、漢文はなんとかわかったが古文はさっぱりだった。  
高校を卒業して半年余り、使わない知識が頭から抜け落ちるには充分すぎる時間が経っていた。  
高校生に有利な題問、高校生より高い合格ライン、だが障害はそれらだけではない。  
一次試験にはさらに作文がある。そして最大の難関は二次試験の面接だった。去年の面接を思い出し、  
大和三曹は頭を抱えた。自衛隊の採用試験で共通して言えるのは、どれも非常に面接を重視していることだ。  
「あんなにいちいち突っ込まれたことないよ。言葉尻ひとつ間違えてもそれに質問してくるんだからな。  
いや詰問だなあれは。参ったよ。」  
試験の翌日友人に言った愚痴まで覚えていた。思わず溜息とも苦笑ともつかない息がもれる。  



225  名前:  青木原精神病院  02/12/07  01:07  ID:???  

しかし見事、大和三曹は曹学、補士の一次試験を合格してのけた。そして二次試験に臨むことになるのだが、  
ここでまたまた大きな問題が立ち塞がる。採用試験は普通、本人の戸籍がある都道府県で受ける。  
大和三曹の戸籍は群馬県にあった。それだけなら何の問題もないのだが、よりにもよって試験前日に  
台風がやってきたのである。大和三曹としては前日入りしたいところだったが、  
まだ内定を貰っていない身分で単位を落とし過ぎるのもまずかった。一学期での成績は技量に対する評価と,  
定期試験はそこそこだったが、出席率とアティチュ―ドでひどい評価を受けていたからだ。  
案の定、交通機関はストップ。大和三曹は十月の季節外れの台風にあらん限りの罵倒をしながら、  
原付で国道十七号を一路群馬まで走る羽目になる。  
 「寒いんだよ冷てーんだよ痛ぇーんだよヴォケが!死ね糞が!!台風の代名詞はsheだ!?よし、犯す!!!」  
 続く。  


226  名前:  青木原精神病院  02/12/07  01:18  ID:???  

序章  第四話  
「寒いんだよ冷てーんだよ痛ぇーんだよヴォケが!死ね糞が!!台風の代名詞はsheだ!?よし、犯す!!!」  
 この時のボキャブラリーの半分も使えれば、大和三曹は曹学に合格しえたかもしれない。  
全国から毎年一万五千人以上の若者が受験する一般曹候補学生の陸上要員。合格率四十倍の壁はやはり厚かった。  
一次試験で約千五百名までに絞り込み、さらに部隊で長年経験を積んできた試験官たちが、  
「こいつは二年で曹になれるか?」  
と厳しく面接に臨むのだ。しかも曹学、補士両方に一次合格したからといって二度面接を受けさせてくれるわけではない。  
面接は一発勝負。どちらかで失敗したからといって、やり直しは効かないのだ。  
面接から一ヶ月も待って出た結果が不合格だっただけに、大和三曹の落胆は激しかった。  
だがまだ道がすべて断たれたわけではなかった。曹候補士である。  
その日以来、大和三曹は困ったときの神頼みで靖国神社通いを始めた。  
もう面接は終わっている、ならあとはお天道様と靖国の英霊たちにまかせるしかなかった。  
曹学の合格発表から一週間、大和三曹は足繁く靖国へ通った。そして翌週、ついに吉報を受けたのである。  
いざ入隊が現実となると、親に断固反対されたり、  
「マジで?」  
と友人にいわれ、腹の中では自衛隊をどう思っているのか見せ付けられる者が多い中、  
大和三曹は恵まれていた。反対していた母親も、大和三曹の熱意に負けて折れた。そして学校にも、  
一度は本気で自衛官を志した者がいたのだ。  
「俺は国防で、お前は学問で、行く道は違えど目指すところは一緒だ。  
ともに日本の為に頑張ろう。」  
そう誓いを交わして、五年が経つ。  


227  名前:  青木原精神病院  02/12/07  01:19  ID:???  

 「降下まで、後五分!!」  
一気に部隊に高揚した雰囲気がみなぎる。今演習において、大和三曹たち第一空挺団は敵後方に降下し、  
敵後方より襲撃する任務を言い渡された。そして間髪をいれず主力が突撃し、敵を撃破する。  
降下を控え、大先輩の桐野利秋一曹が、どんなごまかしもきかないプロの目で小隊の装備をチェックし始めた。  
「いいか、これは実戦じゃない、だが降下には死ぬ可能性はいつだってある。死ぬ可能性がある以上、  
これは実戦だ。気を抜くな、基本に忠実に、素早く激しく動け。よし、行くぞ!!」  
 部隊の誰もがうなずく。晴れの総合火力演習でしくじるわけには行かない。  
続く。  



578  名前:  青木原精神病院  02/12/17  01:37  ID:???  

やっと続きが書けますた。しかし未だファンタジーの  
フの字が出てきませぬ。いまさら青春時代から  
書き始めたのをチョト後悔気味(;´Д`)  
>>218−227の続き  

序章  第五話  

 「いいか、これは実戦じゃない、だが降下には死ぬ可能性はいつだってある。  
死ぬ可能性がある以上、これは実戦だ。気を抜くな、基本に忠実に、素早く  
激しく動け。よし、行くぞ!!」  
 桐野降下長の指示の下、全員が立ち上がり、機内に張り渡されたワイヤーに  
自動開傘策のカラビナを通す。揺れる機内で、重装備で立つのはえらく骨なことだ。  
 「降下まで、後四分!!」  
 「小隊全員、降下に備えろ。」  
 空挺扉がゆっくりと開放され、猛烈な風が機内を吹き荒れる。開放されたドアから、  
蒼い山がみえる。空の神兵たちを祝福するかのように、悠然とそびえたつ富士山。  
大和三曹が見とれていると、ぽんぽんと誰かが肩をたたいた。  
 「富士山すか?  大和三曹。」  
 「なんだ、近藤か。」  
近藤勇士長、二十二歳。若いが肝の据わった男だ。  
 「三曹山好きでしたよね?」  
 「おう。」  
 「どうでした?冬富士ってのは?」  
 「いや、―」  
大和三曹は富士山へ振り返った。  
 「―まだ冬には登ってない。」  
 「それなら、―」  
近藤三曹は笑った。  
 「―あとで登りましょうや。」  
 「お、お前も山に目覚めたか。ちゃんと遺書は書いとけよ、山は自己責任で  
登りますって。御自慢の彼女に訴えられても困る。」  


579  名前:  青木原精神病院  02/12/17  01:38  ID:???  

 「ひでぇ、人の彼女にそこまで言えますかねフツー?」  
 「いつものろけてるじゃねぇか。今度こそ×××の○○○にしてやるって。  
逞しそうな女だな。裁判なんかやったら負けちまうよ。」  
 「あいつのそこがいいんですよ!!三曹はそんな面倒見悪いから彼女いないんすよ。」  
 「うるせえ!!」  
そこでぽつりと会話は途切れた。慌ただしく通信が入り乱れ、否が応にも  
緊張は増してくる。  
 「南東から微風、角度修正、右へ五度。」  
 「了解。全機、予定のコースに入りました。」  
 「編隊を維持。全機そのまま。」  
 「降下地点に到着、降下まで後三分です。用意はいいですか?」  
 「小隊、降下準備よし。」  
 桐野降下長がインカムで答えた。すこし部隊が緊張しているのを見て取ったらしく、  
悪戯っぽい笑みを浮かべる。  
 「集合地点に一番に来た班には晩飯奢るぞ。」  
 『お〜!!』  
 「・・・?」  
 吉報、だが大和三曹は首をかしげた。絵に描いたような鬼軍曹である桐野降下長だが、  
自衛官の御多分に漏れず財布の紐は大奥が握っている。サラリーマンの上司が部下に  
飯を奢るのとはわけが違うのだ。駐屯地の飯も魅力化対策ですこしはましになりつつあるが、  
まだまだまずい。いざ外食となれば、食う、馬鹿のように食う。そして残るのは皿のように  
薄っぺらで硬い財布のみだ。  


580  名前:  青木原精神病院  02/12/17  01:39  ID:???  

 (班全員に晩飯を奢ると言うからには何か裏があるはず・・・。)  
と考えたのがばれたのか、桐野降下長は仏の顔で修羅の殺気をぶつけてきた。  
 「ん〜?どうした大和?俺が晩飯奢るのがそんなに珍しいか?」  
 「いえ、そんなことはないです!!」  
 ぶんぶんと腕を振り、力いっぱい否定する。  
 「ふ〜ん・・・?」  
 (おかしい、絶対におかしい・・・これは、事件だ!!旧軍の爺様にかけて解き明かさねば!!)  
 そんな入隊した時のような情熱を感じて悦に入っていると、にこやかに悪鬼は話しかけてきた。  
 「そういや大和はこないだ降下長課程終了したっけな?」  
 「そうですよ、桐野さん。」  
 「お前もすっかり一人前の空挺戦士ってわけだ。」  
 「いやあ、桐野さんに比べればまだまだですよ。桐野さんには教えられてばっかりです。」  
 これはまあ、事実だ。桐野一曹にはいつも世話になっている。  
 (少しでも心証を良くして、この事件を解き明かすのだ!!)  
と、鼻息荒く、大和三曹は名探偵を演ずべく自分を奮い立たせた。  
 「ところで桐野さん―」  
 「ときに大和―」  
 ふたりの声は完璧にハモった。見つめ合うふたり、そして恋が始まる・・・わけはないが、  
悲劇は始まった。  


581  名前:  青木原精神病院  02/12/17  01:40  ID:???  

 「あ・・・、どうぞ。」  
 これが後に言われる三トン半の譲歩、大和三曹の人生最大の失敗である。  
 「うん?いいか?大和、お前彼女もいないし暇だろう?」  
 「ゑ・・・?まあそうですけど。」  
 「わはは、おっともう時間だ。まあお前に頼みたいことがあるんだが、頼まれてくれるな?  
なに簡単なことだ。」  
 来た、ついに来たぞ!!男ならここで踏ん張れ!!未来は変えられる!!逃げちゃ駄目だ!!  
前略おふくろ様、今日大和武士は―  
 「・・・いいですよ。」  
 ・・・敗北主義者になりますた。  
 「わはは、よし頼まれてくれるか。お前も飯食いに来い。さて仕事だ。」  
 満足そうにうなずいて、桐野降下長は反対側の空挺扉に行ってしまった。どっと吹き出る汗を  
拭いながら大和三曹はだーと涙を流し、ひとりごちた。  
 (だって、だって、地獄の鬼でもあんな殺気と形相は出来ねえよ・・・断れば消されたな、俺。)  
 見つめあった時の、地獄絵図を顔にするなら金賞間違いなしの桐野降下長の形相を思い浮かべ、  
大和三曹は途方に暮れた。いったい何を頼もうとしているのか?思案をめぐらせてみるものの、  
答えは浮かびそうで浮かばない。しかしそんなことにはお構いなしに、時は過ぎてゆく  


582  名前:  青木原精神病院  02/12/17  01:41  ID:???  

「降下五秒前!!・・・四・・・三・・・二・・・一・・・状況、開始!!」  
 一秒間隔で隊員たちが次々に飛び出していく。三トン半の収容人員は四十五名、  
ふたつある空挺扉から降下しても結構な時間がかかる。降下に要する時間は  
出来る限り切り詰めなければならない。空挺部隊にとって、集結に要する時間は  
自身の生命線だからだ。きびきびと、熟練した動作で  
降下をこなす隊員たちにはあふれる己への自信がみてとれる。  
 「全員降下、不開傘なし!!」  
 「よし、行ってこい!!」  
 どんと肩を叩かれ、大和三曹は飛び出した。  
 (なんだかんだいってもあの人は頼りになるんだよな)  
 ふっ、と引力の束縛から解き放たれ、全ての感覚が鋭敏に研ぎ澄まされていく。  
 「っしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」  
 大和三曹は吼えた。するすると自動開傘策が伸び、傘体と吊策を引き出していく。  
 「初降下・・・二降下・・・開傘!!」  
 至福の自由落下は文字通りあっという間に終わり、落下傘が開き、がくん、とショックが全身を貫く。  
身を切る風、まぶしい太陽、轟音を立てて飛び去る三トン半、何もかも最高だ。これぞ空挺の醍醐味、  
隊員にとって空挺降下とは単なる技能ではない、己と対面する時なのだ、今まで自分が  
何をやってきたのか、それを問う為の。第一空挺団、これだけはやめられない。  
そして山もだ、そう山も・・・山?  


583  名前:  青木原精神病院  02/12/17  01:41  ID:???  

「そうか富士登山マラソンかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」  
 もはや語るまでもない、第一空挺団の必須行事だ。毎年比類なき強さを誇る秘密は  
こんなところにある。  
 「おかしいと思うわけだ、近藤が山登りたいなんていうわけねえじゃねえか!!  
あの野郎、さては桐野一曹とつるみやがったな!!」  
 名探偵大和三曹はひとり、名推理劇を披露したあと鬱な気持ちで富士山を見やった。だが―  
 「なんだありゃあ・・・・?」  
 大和三曹は我が眼を疑った。  
   
続く。  



700  名前:  青木原精神病院  02/12/22  03:21  ID:???  

>>218-227  
>>578-583の続き。  

「おかしいと思うわけだ、近藤が山登りたいなんていうわけねえじゃねえか!!  
あの野郎、さては桐野一曹とつるみやがったな!!」  
近藤士長への怨嗟の言葉を吐いた後、大和三曹はあの台詞を思い出した。  
『お前も(オマエモ)飯食いに(メシクイニ)来い(コイコイコイコイ)・・・』  
桐野降下長の声が不気味なエコーがかかって聞こえたのは恐怖のせいか。  
すなわちこの飯を食った瞬間、大和三曹は神話のイザナミと同じように  
「あちらの住人」にされてしまうというわけだ。  
「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」  
鬼の空挺レンジャーが泣きながら降下するという光景も珍しいだろう。  
しかしそれよりも不可思議なものを大和三曹は目にすることになる。  
「・・・なんだありゃあ・・・・?」  
これから大和三曹が登ることになるであろう富士山、その遥か天空には天使のような  
光輪が、つつつと描かれつつあった。先端部分は淡い光を放ちながらかなりの速度で  
飛行し、瞬く間に輪は完成する。輪の直径は相当に大きい、裾野のなかばまで  
達しているだろう。輪が完成した後も、なおも光は図形のようなものを描きながら  
飛行を続ける。  
「ユーフォー・・・?」  
呆けた顔で大和三曹はつぶやいた。  
(ユーフォーだと・・・?)  
心中でもう一度唱えてみる。  
「ありえん。」  


701  名前:  青木原精神病院  02/12/22  03:22  ID:???  

ばっさりと否定してのける。大和三曹にはユーフォー、オカルトその他諸々の趣味はない。  
どうせ空自か航空科がなんか展示飛行でも始めたのだろうとたかをくくった。  
「っと、いけね。」  
戦闘降下における着地までの時間は極めて短い。自分でもまあよくあそこまで頭が  
まわったもんだと苦笑しながら、大和三曹は荒れた大地への着地に備え始めた。  
瞬間、視界がブレる。  
「!?」  
同時に平衡感覚までもが失われる。そして霞む視界一面に突然現れる、うっそうと茂る  
森に大和三曹は驚愕した。慌てて開けたところを捜してみるも、貧血をおこした時のように、  
まるで目が見えない。  
「ちくしょう!!」  
もうこうなれば記憶だけが頼りだ。開けた場所はない。ならば木にあたる寸前に  
落下傘を操作し、落下速度をゼロ近くにまで落とすしかない。失敗すれば串刺しだ。  
生か、死か。  
「やったろうじゃねえか!!」  
すばやく計算し自分の高度を求める。  
「今だ!!」  
ぐっと落下傘を操作し、落下傘を地面と出来うる限り平行に飛行させる。  
「!・・!・・!・・!!」  



702  名前:  青木原精神病院  02/12/22  03:22  ID:???  

ばきばきと枝をへし折りながら、大和三曹は森に降下した。  
「いてててて・・・」  
体をまさぐってみるが、大事には至っていないようだ。感覚も徐々に戻ってくる。  
ちゅうぶらりになりながら、大和三曹はほっと息をついた。  
「にしても、なんなんだよ?」  
見回してみても、下生えに邪魔され何も見えない。視界はせいぜい十数メートル程度  
といったところか。高い針葉樹林を中心とした、暗い森だ。  
「東富士演習場にはこんな森ないよなあ・・・」  
とにかく愚痴っていても始まらない。怪我と弁当は降下につきものだ。痛む体をさすりながら、  
落下傘を切り離して地面に降り立つ。  
「みんなここに落ちたんかなあ?」  
地図とにらめっこしてみてもこんな森はない。  
「まあ集合地点の方向に行ってみるか。」  
コンパスを取り出し、大和三曹は見知らぬ森の中を集結地点目指し,歩き始めた。  

続く。  



790  名前:  青木原精神病院  02/12/27  06:34  ID:???  

>>218-227  >>578-583  >>700-702  の続き。  

 少し想像してみよう。  
 もし、あなたが道なき深い森の中で、一人きりにされたとしたら?    
それもなんの前触れもなく、置き去りにされたとしたら?  体力を温存しようと、  
じっと助けを待ち続ける?  それとも活路を切り開くべく、みずから歩き出す?    
やがて体力に限界が訪れたら、あなたは何を思う?  死を感じたとき、自分にそれに  
抗う力がないと悟ってしまったとき、あなたはそれをどう受け止める?  
 ここに、その選択を迫られている男がいる。数百年、この森で生き続けてきたであろう  
巨樹に男は身を寄せ、漆黒の夜が明けるのを待っていた。ぱちぱちと火の粉をあげる焚き火、  
そのやわらかな熱が男を包み込む。木々のわずかな隙間から垣間見える、蒼天の夜空に輝く星々も、  
その夜空を統べる金色の月も、今宵この男を癒すことはかなわぬように思えた。  
 さながら男は森の幽鬼のような装を呈していた。藪漕ぎで切り刻まれた手、泥だらけの戦闘服、  
くたびれきった背嚢、まるで男が森に侵食されているかのように見える。だがすべてが汗と泥と血で  
汚れ切ったような男の持ち物の中で、肩にかけた小銃だけはその鈍い輝きを失ってはいない。  
黒光りする銃身は森においてまるで異質であった。そして男の瞳も、この窮地にあってすら  
その輝きを失ってはいない。男は憔悴した表情を浮かべてはいるものの、大きく見開かれた瞳は  
決して絶望に濁ってはいない。  
「死ぬまで戦え」  
 それが男の、唯一の答えだった。  


791  名前:  青木原精神病院  02/12/27  06:35  ID:???  

「みんな大丈夫かなあ……」  
 大和三曹はひとりごちた。結局、あの日に降下してから数日余り、大和三曹は部隊の誰一人として  
合流することはかなわなかった。一個中隊、約二百数十名の誰ともだ。無線は通信士でない大和三曹は  
持ち合わせていない。笛を吹いたり、初めはかなり気が引けたが数時間毎に一発だけ、八十九式を  
撃ってみている。だがこれもいまのところ不発に終わっていた。  
「地図にこんなでかい森はないし、青木原にまで突風で吹き飛ばされたはずがあるまいし……それに――」  
 そう、あの降下中にみたあのユーフォーらしきものだ。  
「――あれはいったい何だったのかなあ?」  
 だが、いくら考えてみても分からない。あの光はミステリーサークルのような、というよりはむしろ、  
なにやらあやしい儀式に使われるような紋様を描いていたようにも思えた。しかしそれとて現状を  
打破するに何か役に立つと言うものではない。  
「うーん……」  
 それっきり黙りこんでしまう。空腹はつらいものではあったが、この程度なら空挺レンジャー課程を  
突破した者なら誰でも耐えられるだろう。ただしそれとて終わりがあるとわかっているから無茶が  
出来るのだが。とにかく自分で能動的に事態を解決出来ぬなら、今は待ち続けるしかなかった。  
ちょっとした山ヤなら誰でもわかることだ。大きくあくびをして、ごろりと横になる。  
(なーに、今にヘリが飛んでくるさ。そして激務休を頂きだ)  
 そんな不敵に笑う大和三曹の耳に、かさりと藪をかき分ける音が飛び込んだ。  
「おっ?」  
 がばっと飛び起きる。助けが来たのだろうか?  誰何の声を上げるべく、もう一度口をあける。  
と、その瞬間――  
『おい、そこのおにいさん!  早く逃げろ!』  


792  名前:  青木原精神病院  02/12/27  06:35  ID:???  

 空気を媒介としない、声ではない声。そんな警告が大和三曹をつらぬいた。  
(はあ?)  
 大和三曹は首をかしげた。  
(いまのは人の声だったよな…?)  
 とそこでふと思い当たる節があった。  
「ああ、なんだ。幻聴か」  
 ぽん、と手を打つ。  
「空挺レンジャー課程でなんべんか聴いたっけなぁ」  
 懐かしそうにうんうんとうなずく。  
『お〜い?  もしも〜し?』  
「なんだ、しつこい幻聴だなぁ」  
 どさりと座り込む。もう幻聴を聴きだすまでに血糖値がさがっているのだろうか。大和三曹は背嚢を  
ごそごそと探り始めた。  
「まだチョコレートがあったっけ?」  
 だがしびれを切らしたのか、「声」は気勢を荒げた。  
『あのなあ!  ひとがせっかく親切で警告してやってるのに、幻聴とはひどいんじゃないか?』  
「なんだよ、やべえなあ俺」  
 しぶしぶ大和三曹は背嚢から顔をあげた。焚き火が照らし出すわずかな明るみにはやはり誰もいない。  
深刻そうな表情が大和三曹に浮かぶ。  
「う〜ん…」  
 どうやら相当頭に栄養が行っていないようだ。近藤ならいつもの事だと悪態をつくだろうが、  
今度ばかりはそうもふざけていられない。  
「しかたねえ、虎の子の鳥飯を食うか……」  
『おにいさん、こっちだ、こっち』  
「ああ?」  
 まるで脳に直接語りかけるような声にも指向性があるのか、大和三曹は先ほどより近い声が聞こえた  
方向へ、再度視線を走らせる。  


793  名前:  青木原精神病院  02/12/27  06:37  ID:???  

「ありえん」  
 大和三曹はぷいと横を向いた。  
『現実から目をそむけるなよ〜』  
 悲しそうな声が追いかけてくる。しかたなくもう一度振り返ると、そこには子供の手のほどの小人が  
立っていた。ピーターパンのような緑色の服を着て、肩には小さな袋を提げている。そしてその顔は――  
「スーパーひとしくんか?  おまえ?」  
『なんだよ、それ?』  
 小人は首をかしげた。キモいと言えばキモいのかも知れないが、なかなかこれはこれで愛嬌がある。  
アイボのような玩具なのだろうか。そんなものが森の中にあるはずもないが、今の大和三曹には  
人の痕跡が、ただ嬉しかった。  
「へえ、ちゃんと問いかけにも答えるんだ。よく出来とるなぁ」  
 大和三曹は空腹も忘れて近寄った。  
「う〜ん、まさに本物だな」  
『なんだかよくわからんが、本物と言われて悪い気はしないな』  
 誇らしげに胸を張ってみせる小人。しかし見れば見るほどそっくりだ。吹き出しそうになるのを必死に  
こらえて大和三曹は続けた。  
「おう。そのでかい鼻といい、張り出した頬骨といい、そっくりだ」  
『……そいつってハンサムなのか?』  
「いや、全然」  
 すまし顔で答えてのけるあたり、大和三曹もなかなか上司の影響を受けているのかも知れない。  
小人の反応を見て大笑いするところもだ。初めの拒否反応も融けるように消え、大和三曹はすっかり  
この小人に夢中になった。小人はそんな大和三曹に罵詈雑言をあびせてくる。  
『それにしても命の恩人にむかってそれはないんじゃないか!?』  
「ちょっとまて、機械仕掛けのスーパーひとしくんがいつから俺の命の恩人になったんだ?」  
 ふと聞き捨てならない事を口にする小人。大和三曹はぴくりと眉根を寄せたが、それでもどうにも  
この愉快な小人をからかい続けてしまう。  


794  名前:  青木原精神病院  02/12/27  06:37  ID:???  

『上まあ正確に言えばこれからなる予定な訳だが。それに俺は機械仕掛けじゃない……しまった!!』  
「いやあ、それにしても実によくしゃべるスーパーひとしくんだ。誰が作ったんだ?」  
『そりゃおにいさん、おっとさんとおっかさんがえ〜んやこら、と作ったに決まってる…  
だからそうじゃなくてだな――』  
 がさりと、ひときわ大きく藪をかきわける音が、おかしな二人の会話をぷっつりととだえさせる。  
藪をかきわけ、焚き火に照らし出されたその姿は、人か獣か、大和三曹には区別がつきかねた。  
『あちゃ〜』  
 小人が額をぺしりとたたいた。  
「ありえん……」  
 しかし今度ばかりは大和三曹も目をそむけはしなかった。  
 その獣、身長はたいして高くはない。猫背なせいもあるだろうが、せいぜい胸くらいの高さだ。  
二足で歩き、四肢は驚くほど太い。そして手には人間の太ももほどの太さの棍棒を持っている。  
なにより奇怪なのはその顔だ。どこまでも醜く歪んだ顔はとても正視に堪えない。吐く息は耐え難い  
臭気を放ち、その歯は人のものではない。そして赤黒く、にごり切ったまなこはうつろに大和三曹を  
映し出していた。  
『喰屍鬼だ…』  
「喰屍鬼…?」  
 ごくりとつばを飲み込む。だがそれすらも吐き出したくなるような悪臭があたりを漂う。  
じりじりとにじり寄って来る、喰屍鬼。どう見たって友好的な奴には見えない。正真正銘の、化け物だ!    
心臓が早鐘のように打ち続ける。まるで初降下の時のような、じわりと染み渡るこの感覚は恐怖か、  
それとも……?  
『逃げるぞ!』  


795  名前:  青木原精神病院  02/12/27  06:39  ID:???  

 小人が叫んだ。瞬間、それまでの緩慢な動きからは想像もつかない迅さで喰屍鬼が飛び掛ってくる。  
「!!」  
 頭を狙い、真横に振りぬかれた棍棒をとっさにしゃがみこんでかわす。うなりをあげて掠め飛んでいく  
棍棒に気が遠くなりそうになりながら、大和三曹はそのまま喰屍鬼の膝を狙いタックルをかけた。  
神速で飛び込み、膝裏を刈り込むように腕を引き、全身のバネを使って押し倒す。膂力では圧倒的に  
上回ると思われる喰屍鬼がいとも簡単に倒れた。  
 押し倒した瞬間、大和三曹は凄絶な笑みを浮かべた。  
(こいつ、ガードポジションをとらねえ!)  
 馬鹿力だが、あきらかにこのような格闘には素人だ。ガードポジションとはタックル時に倒されたとき、  
相手の腰か片足を、両足を使って締め上げ、マウントを取られないようにすることだ。  
(寝技なら、いける!)  
 瞬間、鬼の空挺レンジャーの血が駆け巡る。押し倒した勢いもそのままに、大和三曹はマウント  
ポジションを取りにいく姿勢で全体重を乗せたテッパチの頭突きを食らわせる。  
「グフェェ!」  
 喰屍鬼が悲鳴ともつかぬ声を漏らす。しかしもはや大和三曹にためらいはない。両膝を喰屍鬼の腕を  
砕かんばかりに打ちつけ、左手を手首に、棍棒を右脇に挟んで瞬時にして取り上げる。そして悪鬼の  
ごとく棍棒を顔面に打ちつけ始めた。  
「ギフェェェ!!」  
「このぉ!  野郎っ!  早くッ!  死ねよっ!!!  」  
『おおっ!?』  
 小人が驚嘆の叫びをあげる。よもや喰屍鬼を相手に徒手空拳で挑むとは!  しかし無謀とも思えた  
その男はいまや勝利を収めようとしている!  


796  名前:  青木原精神病院  02/12/27  06:40  ID:???  

幾度となく叩き込まれる棍棒の殴打に、もはや喰屍鬼の顔は万物の創造主すらも目を背けるであろう  
有様と成り果てた。だがいまだその肉体は逆襲を試みようと、暴れ続け、反抗をやめはしない。  
その強靭な肉体で、ブリッジを仕掛けあわや大和三曹を跳ね上げようとすること数度。  
「おいっ!  そこのっ!」  
『はっ、はい!』  
 地獄の番犬もすくみ上がるような声で大和三曹は小人を怒鳴りつけた。しかし殴り続ける手は  
とまりなどしない。  
「俺の鉈を持って来い!」  
『お、おい……おにいさん…?』  
「はやくしろっ!」  
 もうなにも言えず、小人は一目散に巨樹の傍らに放り出してあった弾帯へ駆け寄った。  
「オラッ!  オラッ!  オラぁぁぁ!」  
 鉈を引きずり振り返れば、凄惨な光景がただただ繰り返される。蒼き月光と、黄金色の焚き火が  
映し出す、夜の惨劇。喰屍鬼の悲鳴とも、断末魔ともつかぬ絶叫、肉がちぎれ、骨が砕ける音。  
そして男の気違いじみた咆哮。決して沈黙することのないはずの森が、今はこの惨劇に目を  
背けるかのように静寂のそこに沈んでいた。  
(いったいどっちが魔物なんだ?)  
 小人はそんな感を拭いきれなかった。  
『ほ…ほら。これだろ?』  
「早くよこせッ!」  
 大和三曹が鉈を受け取った、そのわずかに連打がやんだ瞬間、喰屍鬼は最後の気力を振り絞ってか、  
大和三曹を跳ね上げた。  


797  名前:  青木原精神病院  02/12/27  06:41  ID:???  

っく!」  
 跳ね飛ばされた大和三曹にはあきらかに焦りの色がうかがえた。  
(あれだけぶち込んで、何故倒れない!?)  
 もはやスタミナは限界に近づいていた。ただでさえここ数日ろくに食事をとっていないのだ。  
絶対的に有利な条件でしとめ切れなかった自分の甘さに舌打ちしながら、大和三曹は身構えた。  
大きく肩で息をしそうになるのを歯を食いしばってこらえる。喰屍鬼はおぞましき怒声をあげながら  
棍棒を再び手にした。  
(だめだ、もうあれはかわせない)  
 胸中でうめき声を上げる。あの棍棒を食らえば一撃で昏倒は免れないだろう。ましてもうあの連打で  
息が上がってしまっている。  
(一発で仕留めるしかねえ……なら!!)  
 再び喰屍鬼が突進を仕掛けてくる。同時に大和三曹の左手がうなりをあげた。  
「ギフェェェェェ!!」  
 喰屍鬼の腹には、鉈。深く突き刺さったそれを恨めしそうに見やる喰屍鬼。だがそれを強引に引き抜き、  
喰屍鬼は勝ち鬨をあげた。  
(ついに男は丸腰になった。これでもう阻むものは何も無い。この男には地獄の苦しみを  
味わわせてくれよう。生きながらに引き裂き、喰らい尽くしてくれる!)  
 小人は喰屍鬼の暗い心を読み取り、怖気に震えた。やはり人間が丸腰で魔物に挑むなどという  
こと事態、あまりに無謀すぎたのだ。男はと言えば木のほうにふらふらと歩いていったかと思えば、  
みょうちくりんな棒をいじっているだけだ。  


798  名前:  青木原精神病院  02/12/27  06:41  ID:???  

『おにいさん!  もう逃げ――  
 小人の再三の警告は、またしてもかき消された。八十九式自動小銃が放つ、5.56ミリNATO弾の  
咆哮によってだ。音速の数倍で飛来する、わずか数グラムの金属片。それがばらばらに喰屍鬼を  
引き裂いていく。銃口からは目も眩むような閃光がほとばしり、発射ガスが大和三曹のほおを叩いた。  
束の間、森はその閃光に照らし出される。ある弾丸は腹に命中し、横転を繰り返しながらその臓物を  
引っ掻き回し、引き千切り、ぶちまける。またある銃弾は頭部に命中し、その分厚い頭蓋をいとも粉々に  
打ち砕き、脳髄を滅茶苦茶に混ぜ切り、後頭部からそれを吹き出させる。骨にぶつかれば、その骨を、  
肉に触れれば、その肉を、全てを完全に破壊し尽くし、5.56ミリNATO弾はさながらランプから  
解き放たれたジンのごとく、破壊と硝煙の香りを残し飛び去っていった。  

 続く