813 名前:ヲタSEAL :04/01/08 02:38 ID:???
ヲタ自衛官+SEALで投下してみる。
薄暗い天幕の中、迷彩服を着た30人の男がパイプ椅子に座っている。
1人の男が中に入ってくるなり一斉に立ち上がり敬礼し、楽にしてくれの一言で再び座った。
「休暇の所悪いな」
プロジェクターのスイッチを入れ、スクリーンに映し出された地図の前で白髪の目立つ中年男、
小山一佐はそう切り出す。まったく、悪いなんてもんじゃない。極悪だ。
「諸君の任務はここの北東70kmに位置する城砦を制圧することだ」
地図の"F25"と書かれた所にレーザーポインタの赤い点が浮かぶ。
そこは北へ100kmも行けば帝国領という場所。
814 名前:ヲタSEAL :04/01/08 02:41 ID:???
「自衛隊はこの街道を通って進撃し、既に破棄されていた無人の城砦を調査して放置していた。
周辺地域は既に我々が掌握しているが、OH-1の報告によるとだな、どうやら敗走した敵の残党が立て篭もっているらしい。
これからの進撃に備えてこの城砦に補給基地を建設したいのだが、彼らはその邪魔になる。邪魔者は排除されるべきである」
そーですね
「まぁつまり、中の奴等を武装解除させる。応じなければ実力行使!」
この人は実力行使推奨派。
「でだ、状況終了後は施設が来るまで待機。施設が着いて補給基地建設完了後にお待ちかねの帰国だ。
諸君にとっては簡単な任務のはずだ。さっさと片付けて、さっさと帰ってくれ」
いつもはここでかったるいブリーフィングが質問タイムに変わるところだろうが、
小山一佐は「ああ、それから」と付け加えた。
「今回の作戦には米軍も参加する。特殊部隊が4名、君らを支援してくれる。作戦後も城砦に米軍部隊が駐留するということだ。
特殊部隊はもうきてるはずだから後で会っとけ。以上、何か質問は?」
815 名前:ヲタSEAL :04/01/08 02:42 ID:???
待ってました質問タイム!すかさず手を挙げる。
「坂井二尉」
「敵の規模は?」
「詳しいことはわかっていないが、疲れきった騎兵数十名と軍属がちょっとのようだ。他には?」
ずいぶんアバウトだな。多分当てにならない。
後ろで手の挙がる気配。
「林陸曹長」
「女の子は?」
……。
天幕の中の各所からため息が漏れる。
816 名前:ヲタSEAL :04/01/08 02:44 ID:???
「いるといいなぁ。捕虜に取ってもおかしなことするなよ。他に」
んなこと聞く方も聞く方だが普通に答える方もなんだか。
左で手が挙がる。
「森一曹」
「ROEは?」
森一曹がROEのことを質問するのは既に儀式的なものだった。
そして答えは決まっている。(…殺られる前に殺れ。)
「いつもと同じ。他。無い?はい、解散」
……大事な儀式を省略しやがった。
パッと蛍光灯がつき、小山一佐が外に出てから俺は後ろを向くと、見慣れた眼鏡野郎が唇を尖らせていた。
817 名前:ヲタSEAL :04/01/08 02:47 ID:???
「このボケ」
「いるとイイネ」
「いねぇよアホ。いても投降しないから殺しちゃうし」
森一曹も攻撃に加わる。一曹が陸曹長にモロため口でアホと言う。
しばしば短髪でガタイのいい森がちょっと小柄な林をいじめているように誤解される。
こんな状況が我々3人は黙認された。我々3人は連隊内でも特殊な存在だった。
中学校からヲタ友で、森と林は高校卒業後自衛隊へ、俺は大学卒業後に入隊。
ヲタのくせして肉体的に自信があった俺はレンジャー課程を修了した後、偶々彼等と同じ中隊に異動し再び出会う。
林と森も実は肉体派ヲタであり、自衛官は3人の天職であった。
実弾射撃訓練の時3人の撃つ89式小銃は300m先の人型へ拳大の大きさに5.56mm弾を命中させ、
演習でMINIMIを撃てば対抗部隊の小隊は沈黙した。
結果3人は「連隊最強のヲタク」という異名をいただき、一目置かれることとなる。
今はヲタク休業中なんだけど。
818 名前:ヲタSEAL :04/01/08 02:49 ID:???
「いると願うことが大事なのだよ」
WACを追いかける事はとうに飽きたこの男、異世界での戦争で新たなターゲットを見出した。
こいつには敵わん。小隊をつれて天幕を出た。
時刻は1803。空は赤く染まっている。
それにしても人気が無い。ここは連隊本部の在る駐屯地なのだが、ほとんどの部隊が前線へ出張っているために
残っているのは同じ師団隷下の通信とか施設とかそんなのが5個中隊くらい。
俺たちの小隊は溜まった休暇を消化するため一時的に本土へ戻るための輸送機待ちだったのだが……
「帰ったらメイド喫茶行きたかったのに。OH-1の偵察要員のボケ」
「畜生余計なものを見つけてくれやがって。サイクリックスティックをヤフオクで売ってやる」
「何で行く?ヘリは共食いで使えないし、96式もだめだな。この状態を某chに書き込みたい」
819 名前:ヲタSEAL :04/01/08 02:50 ID:???
文句を垂れていると、眉の薄い一士が割って入った。
「坂井二尉、特殊部隊見に行きましょう、特殊部隊」
ほほう、名案じゃないか。一士のおかげで話にひと段落ついたところで
特殊部隊とやらを見に行くことに決めた。さて、どんな怖い人たちなのか。
「班長集合!」
班長とは林と森のこと。二人が横で「はっ」などと返事をする。
「ちゅうことで行ってくる。小野寺三曹、後は頼んだ。先に飯食ってていいよ」
「えぇぇぇえ」「ひでぇ」「キモヲタ!」「特殊部隊にいぢめられてくればいいんだ」
ブーイングその他暴言は無視。いざ行かん特殊部隊の元へ。
「で、どこにいるんだ?」
820 名前:ヲタSEAL :04/01/08 02:52 ID:???
とりあえず連隊本部から歩いてすぐの航空基地から探そう。
この地域には米軍の拠点も無いし、到着したばかりなら多分その辺でブラブラしているはず。
入り口の守衛に挨拶。滑走路は舗装されていない、立派な管制塔も無い急ごしらえな航空基地に入る。
「ビンゴ!」
彼等の所在は一目瞭然だった。
駐機場脇にある簡易管制塔のしょぼい二階建てプレハブの横に迷彩色のそれがあったからだ。
でかくてごつくて四角い、某映画で酷い目にあっていたあの車両が。HMMWVが駐車しているじゃありませんか。
向かってHMMWVの左にM4A1を肩にかけているのが1人。運転席に1人。キューポラでM240にもたれ掛かっているのが1人。
おかしい。3人しかいない。4人じゃなかったのか?話が違うぞ小山一佐!
自衛隊の3人が小山ボケたか だの、娘に会えなくて寂しさでどうかしちまったか などと言っていると
「おたくらここで何してんの?」
とても聞き取りやすい日本語が後ろから聞こえた。
822 名前:ヲタSEAL :04/01/08 02:55 ID:???
「ボスの悪口か?感心しないな」
自衛官3人が振り向く。
そこに立っていたのは身長180cmほどの男。ウッドランドBDU。右手に手帳。
瞳の色は薄く、髪は短く刈り上げた黒。彫が深くて鼻は高い。 ちょっとトム・クルーズ似のナイスガイ!
って 日 本 人 じ ゃ ね ぇ ぇ ぇ ぇ
そいつは振り向いたまま固まっている背が低い3人なんぞお構い無しに喋りだす。
「あぁ!もしかして今度の作戦の?」
首を縦に振る。
「よかった!ちょうど探していたんだ。俺は合衆国海軍から来たヴィンス・ベッカー、階級は中尉だ。よろしく」
言って右手を前に出す。
慌てて自分も右手を出して手を握り合う。ただの握手なわけだが。
823 名前:ヲタSEAL :04/01/08 02:57 ID:???
…
…
……! そうか、今度はこっちが紹介する番か!混乱している。
「あぁ…コホン、陸上自衛隊、坂井昭二尉です」
林〜
「お、同じく、林貴裕陸曹長です」
「よろしく」
「森慎一一曹です」
「よろしく。…3人だけ?」
「いえ、我々の他に27名います」
自己紹介が終わったところ、「Hey!」と声が。HMWWVの方で手を振る影が3つ。
824 名前:ヲタSEAL :04/01/08 02:59 ID:???
ヴィンス・ベッカーと名乗った男が背中を押す。
そのとき、彼の肩のトライデントのパッチが目に入る。するとあの3人も…
◆
小隊が陣取ったステキな場所、施設の奴らが「自衛隊のおいしい水」を提供してくれる機械のすぐ側の木の下。
留守番していた部下達が待っていた。飯は既に食い終わっている。早い、さすが俺の小隊!
そのうち1人が親分の帰還に気づいて「小隊長!」と声を上げる。小隊の奴ら全員がこっちを見る。これから質問攻めだな。
「どうでした?」
「どうもこうも、いい人達だった」
本当に。ガム貰った。でもこれは3人だけの秘密だ。
「英語は大丈夫だったんですか?アメリカ人なんですよね?」
「ああ、めちゃくちゃ日本語上手い奴がいてな、その人が通訳……あ」
そうだ。
なぜ彼はあんなに日本語上手い?
彼の日本語の異常な上手さに驚き混乱して肝心なことが抜けていた。後で本人に聞いておこう。
825 名前:ヲタSEAL :04/01/08 03:01 ID:???
「へぇ。どんな装備でした?」
「ええと、M240付きHMMWV、M4A1にM14。拳銃はSIG P226だったかな?後の細かいところはよくわからん」
「いいなぁP226」
不思議組織自衛隊!何で自衛隊は単列弾倉のP220なんて採用するですか。
採用された頃は既に複列弾倉のP226が開発されていて、こっちが軍用拳銃のはずなのだが。
老朽化しても更新する気無さそうだし。
さぁ、次の質問きやがれ。
「どこから来たんです?」
「横須賀と沖縄だったかな。海軍って言ってたから多分SEAL」
「え、SEAL!?」
本人達は何も言わなかったが明らかにSEALだった。なんてったって全員肩には、あの、トライデントのパッチ。
SEALにビビって質問が途絶える。
さて、さっさと戦闘糧食U型を食って明日の作戦会議のためSEALに再び会いに行こう……
866 名前:ヲタSEAL :04/01/09 01:28 ID:???
続きいくわ
作戦会議には林と森だけが同行し、7人の男が先ほど作戦の説明を受けた天幕に集合した。
通訳はヴィンス・ベッカー中尉がしてくれるので他の3人と意思疎通の問題は無い。
まず、具体的に支援とは何をしてくれるのか。
曰く、
「なんでも。そちらが要求することは可能ならなんでもしてやれと上から命令されている」
可能、て言うか嫌だったら拒否できるわけだが。自衛隊の米軍への指揮権は佐官以上じゃないと無い。
まことに遺憾でありますが、小隊長な自分は二尉であります。尉官であります。
…でもってSEALsはヴィンス・ベッカー中尉の他に中尉が2人、
チームリーダーとして大尉が1人派遣されているわけだ(ガムくれたのはこの人)。
下士官以上の米軍指揮官が拒否した場合も指揮権限は行使できない。…小山はあてにならねーな。
どこまでやってくれるかは彼らの善意に期待するしかない。
五角形をしている城砦の詳しい図と、OH-1が撮った城砦の写真が机の上に広げられ作戦会議は進む。
城砦は2箇所の門があるが、どこから侵入するか。
もし堀に架かる橋が上がっていたら?門が閉まっていたら?
城砦侵入時、侵入後の動き。
建物内部制圧時のルート。
etc etc
867 名前:ヲタSEAL :04/01/09 01:29 ID:???
途中、通信の若いWACがコーヒーを入れてくれた。ベッカー中尉にドキッ
「ありがとう」
「 ! い、ぃぇ…」
頬を赤らめて天幕から出て行く。
おいおいこんな可愛いWACいたか?ヲタ自衛官3人が顔をあわせ唸る。
「今のコ可愛いな?」
「そうですねー」
中尉の横の奴らもナイスガールだのなんだのと。
1820から開始された作戦会議は2200で終了。何事もほどほどに、とSEALsの大尉。
ああ、その通りだ。それにこれ以上続けても同じことを繰り返すだけで意味が無い。
「二尉、明日0700に会おう。Good night!」
「0700、了解。 …Good night」
この後、小山一佐に各局面における作戦計画の概要を説明して、
帰ったら小隊の奴らにも説明しなくては。
868 名前:ヲタSEAL :04/01/09 01:31 ID:???
― 翌日 0655 ―
気温16度 湿度30% 南東より0.5mの風 雲量0 快晴
「……ああ、なんと制圧作戦日和なことか!」
雲ひとつ無い空の下、武器庫の前で森がトラックをGETしてくるのを待ちつつ、
あまりにも気持ちのよい朝が故に、思わず叫んでしまった。
「そうか?」
林よ、おまえにはわからぬのかと視線を向ける。
「レンジャー課程を修了するとおかしくなっちゃうのか」
酷いじゃないか。
しかしおまえも連隊最強のヲタクのうちの1人だということを忘れるな。
「んなもん修了しなくてもおかしい奴は元からおかしいんだよ」
そうかもな、と林。
869 名前:ヲタSEAL :04/01/09 01:35 ID:???
「この小隊の奴らはみんなおかしいよ。俺らの小隊『習志野小隊』って呼ばれてるし」
「すげーじゃん。空挺レンジャーなんて1人もいないのに。俺はただのレンジャーだし」
そう、この小隊は俺を筆頭にみんなおかしい。
始まりは小隊が1000人を相手に3日3晩拠点を守り切った時だったか。
100mまで引き付けて、ちょっと撃って後退して、爆破…
あの時以来無茶苦茶な作戦に投入され続け、その度に任務を成功させる。
成功するがツイてないのがいつも敵に弓兵や魔術師などの交戦距離の長い奴等がやたらと多いことだった。
おかげで作戦毎に戦死者が出て、現在小隊に最初からいたのは俺を含め5人だけ。
今のメンバーは戦う才能と生き残る運があった奴だ。才能だけあっても運のない奴は生き残れない。
この小隊には戦う才能と生き残る運を持ち合わせたおかしな奴等が集まっているのか……
話を聞いていた小野寺三曹が寄ってきて会話に加わる。こいつも最古参の1人だ。
「そういえば本当に空挺降下したことありましたね」
「あったあった。『ちょっと講習受けてこい』って戻ったら高度1000mでC-1からジャンプ」
本物の第一空挺団が消耗した状態なので、上は俺達に目をつけているようだった。
色々やらされるこっちにはエライ迷惑なことだ。
870 名前:ヲタSEAL :04/01/09 01:37 ID:???
「いやー最近全然ウチから死人出ないな」
みんな慣れた。これはいいことなのか?
「出なくていいんですよ林陸曹長」
いいんだ。そう。
あ、ヲタク3号が戻ってきた。
73式トラック不足のため防衛庁が急遽買い取った日野レンジャー改73式トラックだ。こいつは俺と違ってまともなレンジャー。
ODのボディに日野のエンブレムが眩しい。キィッと俺の前で止まり、森が運転席から顔を出す。
「日野73ゲッチュ。それから通信の佐伯一尉から伝言。コールサインは習志野小隊だとよ」
「マジ?ついにその名も公式認定か。まぁいい、よく日野73をゲッチュできたな。
もう古い73なんて乗ってられねぇぜ、よし、全員乗車汁!」
よっしゃぁと武装した迷彩服の男達が腰を上げ、トラックに乗り込む。その様子を見てふと思う。
各班MINIMI2丁、84mmが1門づつ。Aim Point&フラッシュライト付き89式小銃。ボレーのゴーグル。
AN/PVS-14。レッグホルスター。エルボーパッドとニーパッド。今回はCQB装備なのだが、このおかしい小隊は実に恵まれているなぁ。
0700、連隊本部入り口でSEALsと合流。M240付き迷彩HMMWVがトラックを先行し、砂埃を巻き上げながら城砦へ向けて街道を進む。
871 名前:ヲタSEAL :04/01/09 01:39 ID:???
装軌車両のキャタピラ跡が残る道を一時間半ほど揺られていると、うっそうと茂る森の上に城砦の塔が見えてきた。
先行するSEALsも塔を見たのだろう、ベッカー中尉から無線が入る。彼は道が分かれていたりすると無線を使って聞いてくる。
『坂井二尉、あれか』
「そうです。あ、ここで止まりましょう」
『了解』
カーブの終わり、城砦からこちらが見える少し手前でHMMWVとトラックは停止した。
エアコンの効いた快適なレンジャーの旅も終わりかと思うと、ちょっと名残惜しい。
顔を黒く塗ったベッカー中尉がHMMWVから降りてきた。俺も降りて作戦のWayPoint1を確認せねば。
「前方は俺達が監視する。そっちはOKか?」
「ええ。…小野寺、出番だ」
小野寺がトラックの後ろから飛び降りこちらに走ってくる。こちらも顔を黒く塗っている。
「小野寺健二三曹、参りました」
「よろしい。では予定通りベッカー中尉と城砦を偵察だ」
「了解。中尉、よろしくお願いします」
ベッカー中尉がこちらこそと言い、小野寺と森の緑の中へ消えていった。2人とも見つからないことが前提なので武器は拳銃だけだ。
SEALsの1人がHMMWVの前方50m、城砦が見えるぎりぎりのブッシュの影で伏せているのを確認。
ひと段落ついたとこで一度連隊本部と連絡を取るためトラックに戻り、ヘッドセットを頭にかける。
872 名前:ヲタSEAL :04/01/09 01:41 ID:???
「連隊本部、こちら習志野小隊。現在城砦より300mの地点にて予定通り偵察を送った。オクレ」
『習志野小隊、了解した。米軍部隊とはうまくやっているか?オクレ』
――コーヒーのWACだ。声も可愛いでしゅ。
彼女とお喋りしていたいところだが、話すようなネタも無いし、彼氏いるの?とか聞きそうで怖い。
よってまことに残念であるが、これにて通信終了とする。
「問題ない。状況開始時にまた連絡する、オワリ」
ヘッドセットを置き、はぁとため息をつく。
横で林と森がニヤニヤ笑っている。
「なんだよ」
「いや、通信中顔がめちゃくちゃ嬉しそうだったぞ。ほんの数秒」
「あのWACか?畜生俺がヘッドセット取ればよかった」
後ろから「あのWACって誰ですか小隊長」などと声が。
おまいらには関係ないよ。
873 名前:ヲタSEAL :04/01/09 01:43 ID:???
「おまえらそんなこと気にする暇あったら降りて周辺警戒でもしろ」
森が言って、後ろからどたどたどたっと音がしたかと思うと、小隊の数名がトラックから降りて周辺警戒を始めていた。
完全な味方の支配地域で何を慌てているんだ、何を。
― 小一時間後 ―
「お、帰ってきた帰ってきた」
森の声で我に返った。いかん、ボーっとしておったわ。
前を見ると、小野寺とベッカー中尉が行ったときとは反対側の茂みから出てきたところだった。
小野寺はヘルメットに偽装のための枝やら葉っぱやらが刺さっていて、そりゃもう怪しさ満点。中尉も似たような有様。
俺と林、森の3人がトラックから降りる。中尉はHMMWVの方へ歩いて行き、小野寺はこちらに駆け寄ってきた。
「只今偵察より戻りました」
「ご苦労。で、どうだった?」
874 名前:ヲタSEAL :04/01/09 01:44 ID:???
彼の報告の内容は
・城砦の2つの橋は両方上がっている
・堀は深さは10mくらいで、水が流れている
・ウォッチはいない
・城砦の中から声はしない
・罠は無い
等だった。
「橋上がってんのか…」
「絶対誰か居るねぇ」
「居なきゃ俺たち今頃C-130の中だって」
「小野寺三曹、慣れてるな」
「おっ!?」
いつの間にかベッカー中尉が俺の横にいた。心臓に悪い人だ。
「自衛隊は錬度が高いな。そうそう、橋は何とかなりそうだ。あの様子じゃ門も閉まっているだろうけど、問題ないな?」
問題ない、無反動砲で吹っ飛ばすさと森が言う。
それに林が付け加える。
「城砦の中の人が武装解除に応じれば必要ないけどね」
882 名前:ヲタSEAL :04/01/10 01:44 ID:???
エルフを地連ジャーとして訓練とか言ってみるテスト。
続きいくYO
―城砦"F25"東門前―
「連隊本部、こちら習志野小隊。1000、状況開始。オクレ」
『了解。武運を祈る』
…がんばって、とか気をつけて、とかそういうのを期待した俺が甘かった。もういいさ。
城砦の2つある門のうち1つ、東側に位置する門の前にトラックとHMMWVが停車し
その周りには迷彩色の男達が城砦に向け銃を構えている。
城砦は遠くで見るのと近くで見るのとではまったく違っていた。高さ20mというのはこんなにも大きく感じるものだったか。
さらには深さ10mの堀。水の流れが速い。絶対に落ちたくない。
しかし城砦の中へ入るにはここを渡らなくてはならない。何とかして橋を下げさせなくては。
拡声機のスイッチを入れる。
『キィィィィィィイン』
反抗的な拡声機だ。
883 名前:ヲタSEAL :04/01/10 01:45 ID:???
気を取り直して
『コホン、あーこちらは日本国陸上自衛隊である。おまえ達が占拠しているこの施設は現在日本国の管理下にある物だ。
直ちに武装を解除し、東に位置する橋を下げよ』
さげよサゲヨsageyoと拡声された俺の声が響く。もうちょっと何か言うか。
『おまえ達の…』
名誉と安全は日本国政府が保証する と続くはずだったのだが。
KRANG !
遮るようにHMMWVのボンネットに何かが当たり、音をたてる。
それが矢だとわかる前に全員が地面に伏せていた。
884 名前:ヲタSEAL :04/01/10 01:47 ID:???
「畜生…」
俺は伏せたまま警告する。
『今のは敵対行為とみなすぞ!いいのか?』
ヒュッ ヒュッ と矢を射る音。かなりの量だ。なんでいつも俺達の行く先はこれか!
「クソ!おい、隠れろ!」
皆、近くの遮蔽物に慌てて隠れる。俺は拡声機を投げ出してトラックの影に滑り込む。その直後に矢の雨が降った。
トラックのガラスを割り、幌を切り裂き、HMMWVのボディを激しく叩く。あたり一面にザクザクと矢が刺さる。
これが止んだらすぐに突入したい……ベッカー中尉が橋を何とかすると言っていたがどうするつもりだ。
『坂井二尉。これが止んだら突入だ。いいな?』
いいな?って言われても橋が……
885 名前:ヲタSEAL :04/01/10 01:48 ID:???
PAM ! PAM !
銃声。発砲したのはベッカー中尉。40m離れた岩の影からAim Point付きM14で何を狙う?
――橋を操作する鎖か。
鎖が切れた。
橋が下りる。
矢の雨は止んでいる。
「カール君持って来い!」
待ってたぜと森が無反動砲を持ってやってくる。
やることは決まっている。あの閉じたデカイ扉にHEをぶち込むことだ。
後ろには誰もいないのを確認。
「撃てっ!」
BAHuM
BAKOM!
見事、扉は木っ端微塵に吹っ飛んだ。
886 名前:ヲタSEAL :04/01/10 01:49 ID:???
「Ok guys, let's move out !」
SEALsの大尉が叫ぶ。
2人のSEALsが橋を渡り、それを大尉のM240が支援する。
TATATATAM !
TATATATATATATATAM !
「Fire in the hole!」
煙が漂う門に手榴弾を投げ込み、端に張り付く。
それと同時に俺たちも動き出した。
DODOM !
「ぎゃぁぁぁあ」と悲鳴が聞こえた気がしたが気にしないでおこう。
大尉とベッカー中尉が橋を渡り、先に渡った2人と合流し突入。
887 名前:ヲタSEAL :04/01/10 01:50 ID:???
「連隊本部、習志野小隊はこれより城砦内に突入する!」
『!気をつ… 』
「よし、征くぞおまえら!」
30名が2列になり橋の上を駆ける。SEALsは城砦内で発砲を開始。
全員渡りきった頃には大尉が「Clear!」と宣言する。
城砦内には鎧を着て剣か弓を持っている死体が転がり、血の海を成していた。
最初の手榴弾2個が効いていたようで、多くは我々の突撃に備えて密集していたために全滅したのだろう。
その他は真正面からのM240による射撃、突入した4人のSEALsによって射殺された。
それにしても、この状況を見て何も感じない俺達はどうかしているのだろうか。
「坂井二尉、次は中だな」
ODのバンダナの上からAN/PVS-7を装着した中尉。
俺はうなずき、作戦を思い出す。
888 名前:ヲタSEAL :04/01/10 01:51 ID:???
「予定通りだ。森、おまえの班は車を入れてから建物の外の敵を探し出して殺れ。
林は班を7人残して大尉達とここからA館に突入。俺は残った7人とベッカー中尉とで反対からB館に突入する。C館は最後だ」
A館B館C館と言っているが城砦の建物は1つだけだ。図上だと建物内で施設が異なるから分けた。
位置関係は東門から入ってすぐがA館。奥にB館。五角形のてっぺん、つまり城砦の一番北にC館といった感じ。
「配置につけ」
B間側の入り口に走り、AN/PVS-14を下げ壁に張り付く。
いいぞ、興奮してきた。
「林、いいか」
『いつでも』
「よし、…突入!」
889 名前:ヲタSEAL :04/01/10 01:53 ID:???
ベッカー中尉が扉を蹴破る。中は暗く明かりの蝋燭などは消えている。
AN/PVS-14を通した緑の視界は非常にクリアだ。少し進むとホールに行き着く。
ホールの両端に扉があり、部屋がある。二手に別れ、扉を蹴破り89式小銃を構えて飛び込む。
――誰もいない。テーブルと椅子があるだけ。
「クリア!」
「Clear!」
中尉の方も何もなかったようだ。合流して廊下を進む。
右側に部屋がある。ドアを蹴破る。ここも無人。その隣の部屋も無人であった。
このようにして一階の部屋は全て回ったが誰もいない。
B館の一階は無人、か。
「B館一階クリア。これより二階へ行く」
『こちらも一階クリア。二階へ向かう』
……TOTOTONK!
PAM ! PAPAPAPAPAM !
外から銃声が聞こえた。森が敵を見つけたのだろう。
890 名前:ヲタSEAL :04/01/10 01:54 ID:???
B館二階。
ここは主に寝室と思われ、部屋は南と東に面して配置されている。
一階と同じようにドアを蹴破り一つ一つ部屋をチェック。よく考えたらメチャクチャなことだ。
お、一階と違い人がいた形跡がある。蝋燭から煙が出ている。
Dom!
「クリア」
Dom!
「クリア」
Dom!
「クリア」
二階の部屋にも誰1人いなかった。
B館の最後、二階広間へ走る。
891 名前:ヲタSEAL :04/01/10 01:56 ID:???
広間の手前で様子を伺う。中尉が右の壁から左を、俺はしゃがんで左の壁から右を。
目に入ったのは東門で死んだ奴と同じ鉄の鎧を着た兵士。
今までして来たのと同じように89式小銃の安全装置をアからレに切り替える。
中尉が壁の陰から飛び出し、次に俺が飛び出る。部下達がそれに続く。
9人が飛び出す一瞬の出来事。
PAPAPAPAPAPAPAM !
PAPAPAPAPAPAPAM !
PAPAPAPAPAPAPAM !
PAPAPAPAPAPAPAM !
この世界の一般的な鎧の抗弾能力はレベルVAに満たない。
剣を振り上げようとした兵士の鎧に穴が開き、血を噴き出して倒れる。
中尉の方を見ると7つの死体が血の池を作っていた。
「B館オールクリア」
『……A館もクリアだ』
その後、林達と合流し最後のC館へ向かう。
98 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:08 ID:???
いくでー
C館の一階は大浴場であった。ここは帝国軍の施設だったためか、どっかの田舎の温泉旅館並みに質素だ。
まぁこんな所に人がいるわけない。
二階はだだっ広い部屋で魔方陣囲んでゴニョゴニョ言ってた魔術師のねーちゃん3人に天誅を下した。
まず最初に突入した中尉に気づいた眼鏡が短剣を抜こうとした時点でアウト。至近距離から発射された7.62mm弾が頭をスイカにする。
続いて飛び込んだ俺が正面の童顔に5.56mm弾をまんべんなくプレゼント。
次に林が左端の目つきの悪い草薙素子系の奴を始末するはずだったのだが。
……
「あれ?」
その時は実にピンチであった。林が弾倉を入れた際に槓悍を引き忘れるという あ り え な い ポカをやらかした。
何が「あれ?」だ、ボケッ!てめぇのせいでたった2秒で終わる所が4秒もかかってその間に俺は一瞬死を覚悟する羽目になっただろうが!
しかし草薙素子系の手元に陽炎が見えた瞬間中尉がM14を発砲し、事なき終える。
99 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:10 ID:???
そして今俺たちは三階にいる。
……なんだかおかしな状況に陥っているが。
「いいから直ちに武器を捨てて投降しろ!あんたらの名誉とあ…」
「断る!間もなく帝国軍の増援が来る。そうすれば投降する必要などない」
「周辺地域は我々自衛隊が掌握しているから増援など来ないぞ」
「嘘だ」
「この城砦は我々が制圧した。残っているのはおまえ達だけになった」
「嘘だ嘘だ。おまえ達は帝国軍最強の弓兵、騎兵部隊と魔法使いに追い詰められてここまで来たはずだ」
そいつら俺達が全員殺しましたが何か?銃声聞こえなかったのか?
こんなのが既に30分続いている。
100 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:11 ID:???
「そっちにいるのはクロスボウか剣を持ったメイドだろう?いったい彼女らになにができる。投降しても安全は保障する」
「はっ、もしやお前達女が怖いのか」
かァッー! このおっさんいい加減ムカツクぜ!
基本的に今まで散々酷い目に合わされている魔術師には老若男女巨乳貧乳眼鏡炉理ショタ一切容赦しない。
でもメイドときちゃあ重度のメイド属性な俺はお手上げだ!
SAELsも習志野小隊もメイド一方的に殺すのを躊躇している。林も「女の子だ!」と喜んでいられない。
俺達は部屋の真ん中で椅子にふんぞり返って座っている髭のオッサン(どうでもいい)と30人の武装メイドに苦戦していた。
突入したらメイドさん攻撃してくるかなぁ……攻撃されたら体が勝手に89式のトリガーを引いちゃうなぁ……やだなぁ。
しかしいつまでもこうしてくすぶっているわけにはいかない。俺はメイドの可能性に賭ける。
『森一曹はいつでもオッケーよん』
森とSEALs3人を屋上からロープを使って窓から突入させることにした。
そして同時に俺たちも突入。でもって真ん中のムカツク髭を殺る。ご主人様が死んだら…メイドさん反撃しないでくれよ。
101 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:14 ID:???
「おし、行くか。おまえら銃剣付けれ」
銃剣を89式小銃の先端に装着する。
血抜きの溝まであって殺る気満々な89式銃剣は威嚇効果抜群だ。
「二尉、髭は大尉が殺ると言っている」
「わかった」
俺の左にベッカー中尉、後ろに林、そして部下15名。
屋上からは森とSEALs3人。何が不足だ?行ってやろうじゃないか。
「スリー、トゥー、ワン、で突入する」
『了解』
「……3 2 1 (スリー トゥー ワン)」
思い切って部屋の中に飛び込む。
同時に窓を破り4人が突入。
完璧なタイミング。
完璧な動き。
特殊作戦群の教本にしたいくらい。
102 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:16 ID:???
BAM !
髭が脳漿をぶちまけ前に倒れる。
窓を突き破った大尉が武装メイド達が反応する前にP226で射殺してくれた。
その間にも入り口から突入した12人が横1列に部屋の中へ展開する。
「動くな!」
「武器を捨てろ!」
武器を構える余裕を与えない。
メイド達は武器を下に向けたまま固まっていた。
さぁ、その華奢な体には不釣合いなヤバイ得物を下に置いてくれ……!
103 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:18 ID:???
1人のメイドがクロスボウを床に置いた。それに習うように他のメイド達も次々と武器を置く。
やった!メイドさんを撃たなくて済んだ!習志野小隊がメイド殺戮小隊に昇格するのは回避された。
武装解除したメイド達を眺めてみる。10代半ばから20代前半の美女、美少女ばかり……ここでくたばっている髭の趣味か。
「私達は」
ややあって、最初に武器を置いたメイドが口を開く。
ベッカー中尉より白い肌。緑の瞳。ブラウンの髪を白いリボンで結っている。歳は20…18前後か。
例のWACは童顔で可愛いと言った感じだが、このコは美人と言った印象。
落ち着いた物腰は大人のようだが、それでもまだ幼さの残る顔のこの娘がリーダー?
「私達はここで死んでいる男の奴隷です。見た通り戦闘訓練は受けていますが」
奴隷と言う単語には反応せず、戦闘訓練と聞こえた瞬間89式小銃を構える体が硬くなる。
「護衛も兼ねていただけで帝国の兵士ではありません。今回の戦闘にも加担していません。
そこに留意して私達を扱ってください」
俺はそれに答えず無線のスイッチを入れた。
104 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:19 ID:???
「連隊本部、こちら習志野小隊。状況終了、死傷者無し。
なお、30名の戦闘訓練を受けたと言う民間人を保護した。指示を求む、オクレ」
『習志野小隊、現在施設科2個中隊と通信科1個小隊を向かわせている。
民間人については…後ほど指示を出す。到着まで待機せよ、オクレ』
「了解。到着を待っている。オワリ」
…連隊本部との通信中、メイド達はずっと俺を見つめていた。
ちょっと潤んだ瞳。きゅっと結んだ唇。手を前で重ねて。なんだ、その、激しくツボだ。
「あ……君達の扱いについては上からの指示待ちだ。とりあえず民間人として扱うが、
不審な動きをしたらその男と同じになるぞ」
こくりとうなずく。
なんか俺悪者みたいだな。
105 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:21 ID:???
メイド達を連れて外に出る。ここで迂闊にもA館の玄関から外に出てしまった。
無論、死体はそのまま。人の肉が焼ける匂いが充満する中を通り広場に出る。
やはりこれは失敗であった。「ひっ」と声が上がり、広場で口を押さえてしゃがみこんでしまうコが多数。
「坂井よぉ…」
「猛省しております」
猛省しているうちに施設と通信が山ほどの73式トラックと派生型のコンボイで到着。
木製の橋を鉄板で補強して城砦内に入ってくる。
メイド服の女の子を気にもせずに施設科隊員が展開していく。それからは早かった。
死体を袋に入れ血を水で流し
「やっぱりドア壊してる」と調査資料から作ったドアを取り付け
A館に無線機を運び、いくつかの部屋と廊下に蛍光灯が灯り
堀には水力発電装置が、屋上にはソーラーパネルとアンテナ塔が立ち日の丸が翻った。
「バイオトイレ、そこの建物の一階テラスに配置しときましたから」
「はぁ、そうですか」
……俺達は施設科を舐めていたようだ。
状況終了が1040、施設到着が1130。今は1400か。もうほとんど完成じゃないのか?
106 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:23 ID:???
「Um, It's good.」
「日本の技術はすごいな…」
早速SEALsがバイオトイレを使って驚いていた。
確か旭川の中小企業が開発したんだっけ。この戦争のおかげで自衛隊からの発注が沢山きたそうな。
気づけばいつの間にか施設2個中隊、総勢200名以上が広場に整列していた。
中隊長の前に施設科隊員が走ってくる。
「補給基地建設、完了しました!」
「よろしい。本日1500を持って状況終了とする。皆、ご苦労であった」
中隊長が敬礼。それに答え整列している施設科隊員が敬礼。
習志野小隊も敬礼。SEALsも敬礼する。
ずっと忘れていたが民間人もとい、メイド達はわけがわからず座っているしかなかった。
敬礼が終わるとA館の中から通信科の三尉が走ってきて中隊長に無線を渡す。
107 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:24 ID:???
「はい、大川三佐です。……は、と言いますと……了解。諸君、また別の任務だ。
詳細は大隊本部に戻ってからだ。以上」
そう中隊長が言うと、トラックは俺達の日野73と一緒にコンボイを連ねて来た道を戻っていってしまった。
いったいどうしたって言うんだ?邪魔者は排除した。補給基地は完成した。
だと言うのにここにいるのは兵隊34人とメイド30人。大尉がHMMWVの無線で誰かと話しているな…
「小隊長、小山一佐からです」
今度はこっちか。
「坂井二尉です」
『急に施設がいなくなって驚いたろ。それに関係するのだが…悪いな、帰国は中止だ』
頭を角材で殴られたような衝撃。帰国が中止?勘弁してくれ、俺はメイド喫茶に行くんだ。
もう極悪なんてもんじゃねぇ…
「…な、何故、です?」
『早い話その基地より重要な出来事が起きた。石油が出たんだ。我々の駐屯地西150kmの戦闘区域でな』
「では…」
108 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:27 ID:???
『しかし補給基地を放っておくのはだめだ。また占拠されたら面倒だからな。
そこで 連 隊 最 強 の ヲ タ ク にその基地を管理してもらいたい。管理部隊指揮官は君だ。
で、聞いた話によると戦闘訓練を受けた民間人を保護したそうだな?可能ならばその民間人をスタッフとして雇って…』
補給基地を守れ、と。
『君の部下は戦闘区域で油田の確保に充てる。今ヘリを向かわせているから、2つの班に分けて準備させておけ』
なんてことだ……俺のメイド喫茶計画は白紙に戻り、大事な小隊とは離れ離れ。
『それから、補給基地管理部隊のコールサインは』
怒りを通り越し
『ハウスキーパーだ。詳細はまた後で連絡する。オワリ』
脱力。その場に膝をつく。なんだ?俺が何をした?今まで死んだ部下達の怨念か?
ちくしょう何がハウスキーパーだ。俺は市原悦子か。
109 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:28 ID:???
「クソッ!」
「おいおいどうした」
森が声をかけてくる。どうしたか聞きたいか?教えてやろう。
「帰国は中止。新たな任務だ」
俺の声は小隊全員に聞こえた。
森は開いた口が閉じない。林はそうかと一言。
小野寺以下26名は俺の方を見て固まっている。
「石油が出たんだとさ。林、森。俺達と可能ならここにいるメイドを雇ってこの補給基地を管理することになった。
連隊最強のヲタク以外はヘリで他へ行く。詳細はそっちで聞け。小隊を2班に分ける。小野寺班長やれ、西村もだ」
可能ならば〜のくだりで座って俯いていたメイド達が反応する。
110 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:31 ID:???
「それは」
「ん?」
「可能ならメイドを雇ってこの補給基地を管理することになった、というのは…どういうことでしょうか?」
「そのまんま。君達がよければ俺達が、つまり自衛隊が雇って補給基地で働いてもらうってこと」
仕える主人が殺されて、失職中だから新しい職が欲しいってか?
「では……私供全員、この基地で働きたいと思います」
やっぱり。ちょっと意地悪してみよう。
「俺はまだ雇うと言っていないぞ」
「 …!」
俺ってば最低〜。言った自分でもそう思う。
そこへ林がやってきた。女の子がいれば城砦の管理くらいやる気満々のようだ。
111 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:33 ID:???
「なぁ、坂井」
「わかってる。雇わないとも言っていない、ていうか」
「メイド属性の坂井は雇うしかない」
一言余計だが森が答えを言う。
そう。メイド属性云々は別にしても、この広い城砦を管理するには人手が必要だった。
どっちにしろ雇うしか道はないのだ。戦闘訓練を受けているならちょうどいいし。
それに、俺はメイドと一緒にここを管理するのも悪くないと思い始めていた。むしろ非常に良い……ウハハー
「では、雇っていただけるのですね?」
「俺も雇ってくれぃ」
誰だ邪魔をする奴は。この日本語、ベッカー中尉しかいない。
どうした中尉!
「あ、いや、雇うってのは冗談だが、俺は米軍側の補給基地管理者としてここに残ることになった。
理由も他の3人のことも聞くな」
112 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:35 ID:???
「あ、いや、雇うってのは冗談だが、俺は米軍側の補給基地管理者としてここに残ることになった。
理由も他の3人のことも聞くな」
理由は聞かなくても石油と言えば誰でもわかる。
もともと米軍もここに拠点を欲しがっていたが、石油が出たからには利権を逃すわけにはいかない。
よって、近くにいたSEALを油田確保に向かわせるけど、この基地も欲しい。
とりあえずここに誰かいれば後で何とかなるだろうというわけか。まったく異世界に来てまでアメリカ人というのは。
「ご苦労様です」
「その、私共を…」
「坂井二尉、ヘリが来ました!」
ごめんねメイドさん、また後で。
バタバタとローター音が聞こえる。
南の空を見ると陸自迷彩のチヌークと灰色のスーパースタリオンがこちらに向かって飛行していた。
初めて見る巨大な空飛ぶ鉄の塊にメイド達が血の気が失せた顔に汗をかいて硬直している。
スーパースタリオンのM134ガナーが手を振り、それを見てさらに青くなる。
大尉が誘導のために投げた煙幕弾から赤い煙が噴き出す。
113 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:37 ID:???
『習志野小隊、こちらアカギ2。誘導してくれ』
「こっちも米軍のスモーク使っちゃうべ」
「だな。……こちら習志野小隊。スモークレッド、南東50mに着陸しろ」
『了解』
砂埃を巻き上げチヌークが着陸する。小隊の奴らが集まってきた。
「小野寺三曹以下26名、石油利権のためにいってまいります」
「いってこい」
敬礼。
こいつらは俺無しでもしっかりやってくれることだろう。
27人がランプからチヌークへ乗り込む。
甲高いエンジン音とダウンウォッシュが強くなり、チヌークは南西へ飛んでいく。
米軍の方は大尉がベッカー中尉に「God be with you.」などと言って、残り一枚のガムを渡していた。
その後中尉は3人に頭をバシバシ叩かれ、離陸するスーパースタリオンを見送った。
114 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:39 ID:???
「わ、私供を雇っていただけるのでしょうか?」
振り向くと、胸に手を当て額に玉の汗を浮かべたメイドがいる。
「えっ?あ、ああ。雇う。雇います」
「ありがとうございます……!」
何故こんなにも必死に雇って欲しいのだ?
30名全員が雇って欲しい……主人が死んで失職したには違いないが、故郷に戻ろうと考える者はいないのだろうか。
そういえば奴隷だとか言ってたような。
「私、エステルと申します。以前はハウス・スチュアートを務めておりました」
「あ、自己紹介がまだでしたね。坂井昭二尉です。ついさっきこの基地の管理隊指揮官になりました。
しばらくお世話になると思います…よろしく」
115 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:41 ID:???
右手を差し出し握手と思ったのだが、エステルは手を前で交差させたまま躊躇っている。
そこでベッカー中尉が「この世界でも握手はしますよねエステルさん。あ、ヴィンス・ベッカーです」
と自己紹介しつつ諭してからやっと、何かこれから悪いことでもするかのように恐る恐る右手を差し出した。
彼女の白く柔らかい手を握る。
いやぁ女の子の手を握るなんて小学校のマイムマイム以来だぁなんて悲しいことを考えていると
メイド達が俺とエステルを凝視しているのに気づく。
そっと手を離すと彼女は下を向いてしまう。
「サカイ様。私供は雇われた奴隷です。このような下賎の者に今のように接しては…」
……
ああそうか、この世界は男尊女卑・奴隷など賤民思想が常識のトンでも世界だった。
雇った側の俺がこんなんじゃだめだってか?面倒なことになったな……本当に奴隷なのか。
「それから、先の城砦内での無礼をどうかお許しください」
頭を下げるエステルにどう声をかけたらたらいいかわからない。
勘弁してくれ。無礼だなんて思いもしなかったよ。
116 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:42 ID:???
「エステルさん、そんなことはどうでもいい。みんなとりあえず中に入ろう。
昼を食ってないから腹が減ってるんだ。坂井、林、おまえらは腹減ってないのか」
森は必死になって頭下げているエステルに「どうでもいい」と言うのか。
なかなか酷い奴だ。おかげで先に進むことができたけど。
でも…食い物なんてあるのか?
「腹は減っているが」
「じゃあ決まりだな。さっき施設が色々持ってきてたから、厨房の地下室にでもあるだろ。
結構な量だったからしばらくは持ちそうだな」
そういうことなら話は早い。森を先頭にA館の奥にある厨房へ向かう。
施設の作業後初めて入るA館。壁には電線が走り天井には蛍光灯が灯っている。
40坪ほどの広くて飾り気の無いリビングの端に通信機が3台並び、配線が伸びていた。
管理部隊4人の後ろにエステルを先頭としてメイド達が続く。
途中林と森が自己紹介し、やはり2人の態度にエステルが戸惑う。
戸惑うエステルに林と森も困ってしまう。
117 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:44 ID:???
「なんか俺達のメイド観が崩れたな」
「坂井のメイド観なんて知らないよ」
「俺はメイド萌えじゃないから」
「女性士官の制服がメイド服になるのは悪くないと思うな」
「……中尉」
そうしているうちに厨房地下室に到着。
蛍光灯のスイッチを入れると青白い光が地下室を照らす。縦横10m、高さ2mの空間に多数のコンテナが浮かび上がる。
隙間から見えるのは真空パックに入った食材の山だ。大根人参胡瓜茄白菜etc。奥には赤い字で「非常用」と書かれた密閉式のコンテナもある。
118 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:47 ID:???
「すげ」
「干し肉と調味料類もあるね。何だこれ?『ガランド産一角獣の干し肉』 ……」
「食えるのかよそれ!」
高級食材です。とエステル。
なにやら怪しい物も混じっているようだが、かなりの量の食べ物が搬入されたようだ。
「やったぜ納豆だ。おっと無洗米発見!……完璧だ」
…中尉、貴方は既にアメリカ人ではないと思う。
食材を確認したところで厨房に戻る。厨房は地下室と同じ広さで天井が少し高い。
木製のテーブルの上には調理器具の入ったダンボールが重ねられている。
「ここは私供が片付けます」
あらら、男は厨房から追い出されてしまった。
仕方なく食堂に出る。食堂は中隊規模の人数が一度に食事を取れるくらい広い。
管理者組が食堂の端に長テーブルと椅子を持ってきて座ると、エステルより仕事を請けたメイド達が
城砦の中へ散っていくのが見えた。エステルが2人のメイドを連れてこちらに歩いてくる。
119 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:50 ID:???
「夕食にはまだ早いですが、もし空腹でしたら何か作ります。いかがいたしましょう?」
「え、エステルさん料理できるんですか?」
「私共は帝国の調理師免許を持っていますので」
男4人が顔をあわせる。
驚いた。帝国の調理師免許を持っているだって?
俺達も料理を作るが、帝国の物とはいえ免許を持ったプロには敵わないだろう。
戦闘訓練を受けていて、料理のプロフェッショナルで、メイド。オマケに可愛い。
俺たちが勝っているのは戦闘経験という一点だけじゃないのだろうか。
彼女達の受けた訓練内容によってはそれすらも怪しい。
そんな女の子達と、いつまで続くかわからない任務に就くってのか?
どうってこと無いのだがいろいろ考えると疲れた……
「いや、俺は夕飯まで待ちます」
林も森もベッカー中尉もパスした。なんか飯を食っていられる気分ではない。
「かしこまりました。私は厨房に戻りますが、もし御用があればこの2人に申し付けください
120 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:52 ID:???
「かしこまりました。私は厨房に戻りますが、もし御用があればこの2人に申し付けください」
では。と2人のメイドを残してエステルは厨房に消えた。
2人のメイドがお辞儀をして後ろにまわる。これから会議を行おうと思ったのだが。
「あの、君達。ちょっと席を外してもらえないかな」
「「かしこまりました」」
きれいにハモった2人はまたお辞儀をして離れていく。その様子を見るだけで頭が痛い。
はぁ〜、と長いため息をつく。
「彼女達本物だよ。奴隷らしいし」
「人を殺せって命令したらきっと殺るな」
「それどころじゃない、服脱げって言ったら脱ぐぞありゃ」
「下手したらエロゲと同じだ」
「…やったことあるんですかベッカー中尉」
121 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:54 ID:???
家に置いてきたメイド物が積みゲー状態なのを思い出した。
恋愛ルートと陵辱ルートが選べるやつ。
エステルが自分の前で服を脱いでいるところを想像してしまう。
白い肌が露になり、ベッドの上で俺のなすがままに……『あぁっ…サカイ様ぁ…!』
(やばいやばい、このままではいつか間違いが起きかねん)
なんだ、どうすればいい。
少なくとも自分の意思表示をしっかりしてもらわなくては困る。ご主人様もとい、雇い主の言いなりはだめだ。奴隷なんてありえねぇ。
何でもかんでも「かしこまりました、ご主人様」ではいかんのだ。抵抗するのを無理やりってのは俺の趣味じゃないが。
…いや、違ったそうじゃなくて
「彼女達を奴隷状態から開放しなくては」
「おまえ、今えちぃこと考えてただろう。俺も」
「強くて、可愛くて、料理上手くて、メイドさんだもんなぁ しかも奴隷」
「メイドか。結構いいかもしれない」
122 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:55 ID:???
森は非メイド萌えのはずでは…
野獣供め、4人でメイドさんを陵辱か?俺の意見はスルーなのか?
「おまえら」
「大丈夫、坂井と同じ結論に達した」
森がそう言うと他の2人がうむとうなずく。
意見が一致したが……しかしどうしたらいいものか。
「とりあえず小山に訊くかぁ?」
ちょうどそのとき、先ほどの2人のメイドが慌てた様子で戻ってきた。
「サカイ様、居間にある四角い箱が……」
「すぐに行く」
ナイスタイミング。
4人が席を立ちリビングへ向かう。
123 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:56 ID:???
リビングには誰もいなかった。気づいたのは後ろからついてきているメイド2人だけのようだ。
『ハウスキーパー、こちら連隊本部。誰か居ないのか?オクレ』
おお、この太い声は小山一佐。
マイクを取る。
「連隊本部、ハウスキーパーだ。感度良好、オクレ」
『ハウスキーパー、これより任務の詳細を伝える』
慌てて何か書くものを探した。
ベッカー中尉が手帳を迷彩ズボンのポケットから取り出して親指を立てる。
ありがとう中尉!
124 名前: ヲタSEAL 04/01/14 02:58 ID:???
『言うぞ。
1つ、任務は別命あるまで補給基地"SB-F25"を守備、管理することである。
1つ、補給基地内の全ての決定権は管理部隊指揮官にある。
ただし連隊本部からの命令は反映させることが求められる。
1つ、雇用された民間人は原則として管理部隊の決定及び指示に従う義務を負うものとする。
ただし、非人道的、または風習的に許容できない場合、管理部隊に陳情・抗議を行い、
管理部隊指揮官はこれを連隊本部…この場合私に報告し、指示を仰ぐことを義務とする。
1つ ……』
小山一佐の言葉が止まった。
「?」
『ああんもう、全部は読んでられん!細かいこと書いた書類は明日荷物と一緒に送るから
日本国憲法と法律と常識の範囲で好きにやれ。それから輸送機が来る予定がある。
何か必要な物があれば言ってくれ、可能ならば積んでやる。オクレ』
125 名前: ヲタSEAL 04/01/14 03:01 ID:???
この人こんなんでいいのか?
とりあえず武器弾薬が足りない。パソコンもあればいいな…などと考えていると
とてつもなく無駄そうで、それでいて何処か萌えなことを思いついてしまった。
「連隊本部。とりあえず89式小銃30丁とMINIMI5丁に保守整備部品。5.56mm弾もだ。
それから84mm無反動砲3門と各弾種。110mm個人携帯対戦車弾でもいい。
できれば指向性地雷も欲しい。オクレ」
『おいおいそんなにどうする気だ!』
まぁ予想通りの反応。
小山一佐と同じ言葉が後ろからも聞こえた。いいからいいから。
「雇用した民間人に軍事訓練を施します。戦闘訓練を受けているとはいえ
とてもじゃないがたった4名銃が使えても基地の守備は難しいかと。これには米軍側管理者も賛同しています。
それから、民間人が自分達は奴隷だと言っているのですが……どうしたらよいでしょう?オクレ」
126 名前: ヲタSEAL 04/01/14 03:06 ID:???
『……奴隷なんて認められるか、開放してやれ。武器については……いいだろう、なんとかする。しかし坂井二尉、本気か?』
「本気です。あ、輸送機に積んで欲しいものにパソコンとプリンターとスキャナとデジカメ追加。
予算が下りなければ実家にある自分ので結構です。オクレ」
『了解。まったく、どうかしている。パソコン関係は君の実家から持ってくることになるだろう。オワリ』
ふはは、やったぜ。
通信機の前で頭を押さえる小山一佐の姿が見えた気がした。
マイクを置いて振り向くと3人がニヤニヤ笑っている。乗る気だ。
「おいおいどうかしてる」
「30人いるな。メイド小隊ってか」
「よくも俺を勝手に賛同者にしてくれたな。しっかり協力させてもらうぞ」
こうして、『SB-F25 メイド小隊計画(仮)』は始まった……
127 名前: ヲタSEAL 04/01/14 03:08 ID:???
SEALの影が薄くなる予感。
SB-F25 Maid Platoon !
261 名前: ヲタSEAL 04/01/15 03:09 ID:???
投下!投下!投下!
「ほちょぉぉぉぉ……数え!」
『いっち!にっ!さん!しぃ!いっち!にっ!さん!しぃ!』
野太い男の掛け声が、澄みきった青空にこだまする。
城砦管理を命じられたヲタ自衛官3人が、朝からもう疲れたと言う表情で84mmHEで扉が吹き飛ばされた城砦の門をくぐり抜けてゆく。
汚れを知らない鋼の肉体を包むのは、迷彩U型作業服。
歩調は乱さないように、部下のやる気は削がないように、数え!の前に4拍とるのが自衛隊でのたしなみ。
もちろん、歩調が乱れた時に笑うような、はしたない奴など存在していようはずもない。
262 名前: ヲタSEAL 04/01/15 03:11 ID:???
……
「うぷっ、ぷはは」
「なんだおまえ、キモチワルイ」
「な、なんでもない」
朝からしょうもないマリ見てネタが頭に浮かんだら1人で噴き出してしまった。
しかし歩調は乱れない。乱すわけにはいかない。林と森の視線が痛い。
左手首のG-SHOCKを見ると、表示は07:14,15だった。
263 名前: ヲタSEAL 04/01/15 03:13 ID:???
「もう1時間走ってるのか。飽きたな、やめだやめ」
「他にやることねぇよ」
「やることは自分で作るんだよ。俺帰ろ」
林がその場で立ち止まり、180度回れ右して城砦の中へ戻っていった。
俺と森もそれに従うように回れ右、林を追いかける。森が俺を追い越し、先に橋を渡り城砦の門をくぐった。
A館玄関にいたエステルに林が「ただいまー」と言い、それに続いて森が無言で玄関に入る。
エステルは2人にお帰りなさいませと頭を下げ、俺が彼女の横を通った時はそりゃあ眩しいくらいの笑顔で
「お帰りなさいませ、サカイ様♪」
……明らかに他の2人と態度が違う。
彼女の態度がおかしくなったのは、昨日、奴隷身分からの解放の趣を伝えた時からだった。
264 名前: ヲタSEAL 04/01/15 03:14 ID:???
◆
「……以上ですが、何かそちらからありますか?」
「サカイさま……」
「はい?」
「私、奴隷身分から解放していただいて……その上このような御優しい御言葉まで……」
「お、御優しい?」
「今までこのような経験はありませんでした」
「いや、あの、エステルさん?」
「はぁ、私どうしてしまったのでしょう?こんな……」
「あの、エステルさん、なんか変ですよ?」
「……私を変にしてしまったのはサカイさまです」
「は?」
265 名前: ヲタSEAL 04/01/15 03:17 ID:???
◆
エステルが変になったところ。
@ 口調が砕けた感じになった。
A 結構意見してくる。
B なんか俺に好意的。
多分その他色々
いや、変になったというか、性格が変わったというか、好意的なのは嬉しいというか。
林が握り拳で断言するには、「坂井の説明の仕方が奴隷身分であったエステルにとっては超優しく、
かつ彼女には衝撃的な内容の話であったためにそのような事になったんだよ!」だそうだ。てめぇはキバヤシか。
266 名前: ヲタSEAL 04/01/15 03:20 ID:???
「朝食にしましょうか?」
「ああ、そうしよう。でも昨日の夕食みたいに豪華なの沢山作らないでね。地下室の食料が持たない」
昨日は凄かった。贅を尽くしたメニューが10人分くらいテーブルの上に並んだ。
しかし飢えたSEALと第一空挺団もどきにかかれば全て食べ尽くされた。
そして"早飯・早風呂・早グソ"がモットーの自衛官と、食える時に食っとく特殊部隊SEALの圧倒的な食事の早さにメイド達は戦慄する。
「昨日のあれは不覚でした。少し考えればわかることだったのに」
エステルが肩を窄める。
俺は美味しい朝飯よろしく、と彼女の肩を叩き他の3人がいる居間へ向かうと、通信機の前で深刻な表情の男達に出迎えられた。
267 名前: ヲタSEAL 04/01/15 03:22 ID:???
「どうした?シケた面して」
「来る……来るのだよ」
林、来るのだよだけではわからん。
「何が、いつ、どこに」
「オーダーした武器弾薬が、今日、ここに!」
「「 な 、 な ん だ っ て ー ! ! 」」
アホなリアクションをしたのは俺ではなく森とベッカー中尉だった。
579 名前: ヲタSEAL 04/01/18 02:14 ID:???
眠いっ!
午後のマッタリした時間をすごしていると、大型車両のディーゼルエンジン音が聞こえた。お待ちかねのブツがやってきたようだ。
外には高機動車一台と『危』のプレート付き73式大型トラック三台が見える。
するとエステルが「き、昨日の魔導機械!」などと口走ったのに対し森が「なんじゃそりゃ」と突っ込んでいた。
俺はそんなの放置でキタキターと心を弾ませながら外へ出る。
「輸送科ですー、管理部隊指揮官はいらっしゃいますか?」
「俺だけど」
「あ、基地管理の任、ご苦労様です」
580 名前: ヲタSEAL 04/01/18 02:16 ID:???
敬礼する輸送科の三尉がヤマト運送の兄ちゃんに見えた。
何枚かの書類に内容も読まないでぱっぱとサインして、そのうちの一枚と他の書類の入った茶封筒を渡される。
「では、受け渡しですね。結構多いですけど……」
「ああ、大丈夫。おーい、手伝ってくれぃ」
へーいとやる気無さげな返事が返ってきて、林と森がやってくる。三尉の階級章に気が付き、2人が敬礼。
その後エステルがゾロゾロとメイド達を連れてきたのを見て、彼は頬に汗を伝わせた。
外で待機していた輸送科隊員もメイド30人を見るなり飲んでいた水筒を落とす。
「よし、さっさと降ろしちまおう」
581 名前: ヲタSEAL 04/01/18 02:17 ID:???
― 小一時間後 ―
「これで終わりか……」
最後の5.56mm弾薬箱を荷台から降ろす。
俺はふぅ、とため息をつき、積み上げられたODの箱を眺めた。
うむ、それにしても
「なんか、多いな」
「ええっと、89式小銃60丁、MINIMI10丁、9ミリ機関拳銃20丁、84mm無反動砲10門、81mm迫撃砲5門、
それから、あー、5.56mm弾1万5千発、9mm弾5千発、84mm、81mm砲弾各種100発、
110mm個人携帯対戦車弾100発、手榴弾10ダース、指向性地雷100個、C-4爆薬50Kgと爆破装置一式に保守整備部品ですね」
「ハァ?」
三尉が先ほどサインした書類のうち1つを読み上げる。
まて、誰が9mm機関拳銃と手榴弾なんぞ送れと言った!?
どうして81mm迫なんてあるんだ!?
なんで89式小銃もMINIMIもカール君も倍届いている!?
C-4爆薬と爆破装置一式ってなんだ!?
これは何かの間違いだ。
582 名前: ヲタSEAL 04/01/18 02:19 ID:???
「ちょっとよこせ」
「あっ」
三尉から書類を強引に取りあげる。そこには確かに
・以下の物資を云々。
--------------------------------------------------
89式5.56mm小銃 60丁
MINIMI5.56mm軽機関銃 10丁
9mm機関拳銃 20丁
84mm無反動砲 10門
81mm迫撃砲 5門
5.56mm弾 1万5千発
9mm弾 5千発
84mm砲弾各種 100発
81mm迫撃砲弾各種 100発
110mm個人携帯対戦車弾 100発
手榴弾 120個
指向性地雷 100個
C-4爆薬 50Kg
爆破装置一式 100組
保守整備部品 多数
--------------------------------------------------
師団長 川原 浩介 陸将
補給基地(SB-F25)管理部隊長 坂井 昭 二等陸尉
583 名前: ヲタSEAL 04/01/18 02:20 ID:???
しししし師団長殿のお墨付き、俺しっかりサインしてる、これはホンモノ……。
「そちらに渡した書類にも同じ事書いてありますけど」
「え、あ、本当だ」
「その高機動車はここに置いていきますから。他の荷物も高機動車の中にあります」
ありがたいことに高機動車ゲッチュ。
後でHMMWVと並べてみよう。
「それから、雇用した民間人の履歴書を電子メールで送れとのことで」
ちゅうことは俺のパソコンは高機動車の中か。
まさか壊れていないだろうな。
「今回はこれで終わりですね」
584 名前: ヲタSEAL 04/01/18 02:21 ID:???
そう言うと三尉はトラックに乗り込み、他の隊員も三台のトラックに分乗する。
ブオォッというエンジンを始動した音にメイド達が「きゃっ」と声を上げ、動き出したトラックから出る排気ガスを吸い込んでむせていた。
エンジン音が聞こえなくなり、改めて積み上げれたODの箱を眺めてみる。……トラック三台分か。やっぱ多いよ、何なのいったい。
いくつかの箱を開けてみると、折りたたみ銃床の89式小銃と「500g」と書かれたC-4爆薬が入っていた。
「ちょっと小山を問い詰めてくる。高機動車の中の荷物を運んでおいてくれ」
そう言って俺は居間の通信機へ向かった。
居間では中尉がHMMWVから持ってきた通信機の調整をしていた。
「届いた?」
「色々」
会話もそこそこに通信機のマイクを握る。
585 名前: ヲタSEAL 04/01/18 02:23 ID:???
「連隊本部、こちらハウスキーパー。小山一佐を出せ」
『えっ?あ、ハイ』
通信科の隊員が慌てて小山を呼びにいくのがわかった。
『……ハウスキーパー、小山だ。坂井二尉か?オクレ』
「坂井です。先ほど武器弾薬が届きましたが、いったいどういうことですか!?9mm機関拳銃やC-4爆薬、
81mm迫撃砲なんてどうしろって言うんです?それに89式小銃……」
『坂井二尉、落ち着け。本当は120mm重迫も送りたかったのだが……これにはワケがあるんだ』
いらねーよそんなもん!
小山は近くにいた通信科隊員に席を外せと言い、ワケとやらを説明し始めた。
『昨日あの後、師団長に報告したんだ。すると返事が、なんと幕僚長本人から来た。その返事の内容はだな、
君らが提案した民間人への軍事訓練を秘密裏に支援するというもんだった……話すと長いから詳しくは書類を熟読せよ。
それから、早く雇った民間人の履歴書作成して送れ。オワリ』
説明になってねぇ。しかし書類を熟読せよ言われたからには読むしかあるまい。
586 名前: ヲタSEAL 04/01/18 02:26 ID:???
……5分で熟読した。
内容は前に小山が言って途中で投げ出したのに加え
・補給基地"SB-F25"は、管理部隊指揮官の所属する師団、旅団、混成団の管轄とする。
・補給基地に保管される物資の使用に関しては管理部隊指揮官の一存に依る。
・補給基地に保管される物資が消費又は紛失した場合、管理部隊指揮官は
師団長に物資の補充を要請することができる。
等の他に、コレ重要。
・民間人への軍事訓練を行い、これを可能な限り早期に一定の錬度まで上げることを任務に追加する。
・上記の任務を遂行する際、自衛隊(日本政府ではない)、及び在日米軍は支援を惜しまない。
つまり、自衛隊の兵員不足解消のためにこっちの世界の人をゴニョゴニョすると言ってみるテスト。
自衛隊の活躍が今後の在日米軍にも影響してくるからアメリカも陰ながら応援するYO!ってことか。凄いことになったな。
とりあえず林と森にも書類に目を通させてからメイド達に奴隷身分からの解放のことを伝え、メイド小隊志願者を募ることにした。
このは俺がスピーチしようと思ったのだが、森が「おまえに喋らせるとエステルみたいに性格変わっちゃうコが増える」とヒデェことを言い、
これに林が「激しく同意」などと相槌をうったために結局スピーチは森が行ってメイド小隊訓練主任も森がやることとなった。
協力すると言っていたベッカー中尉は、米軍から荷物と任務命令書が届くまで動けないそうだ。
587 名前: ヲタSEAL 04/01/18 02:28 ID:???
―城砦内広場・日の丸の前―
「……と言うことで、誰からも政治的、経済的又は社会的関係において差別されなくなる。
元々我々はそういう教育を受けて育ったんで君らを差別するつもりは端っから無いけどな。わかったか?」
武器が入った箱を積み重ねた即席お立ち台の上で、森が30人のメイド達を前にして奴隷解放を説く。
しかしメイド達はポカーンと口を開けたまま反応が無い。
「おいおい、わかったんならハイって言ってくれ。わからんならわからんと言え。もう一度聞く。わかったか?」
『……わかりません』
「わかれー!」
『ハイ』
この光景、本国の駐屯地で見たことあるぞ。何だったか。
あ、そうだ、新隊員教育課程の連中か。
588 名前: ヲタSEAL 04/01/18 02:30 ID:???
「それから、諸事情により君達へ軍事訓練を施そうと思う。一応志願制にしたのだが……
こっちとしては全員志願が望ましいな。いや、今のは気にするな。志願する者は一歩前に出よ」
なんかこいつビミョーに圧力かけてるな。まぁいいや。
エステルが一歩前に出るとそれに習うように他のメイド達が一歩前に出る。
「全員志願です」
エステルが森に報告する。
森は「よろしい」と言い、台から降りて先ほど開けた箱の中から89式小銃を取り出した。
ガチャリと槓悍を引き、薬室を点検。口元がニヤリとする。
589 名前: ヲタSEAL 04/01/18 02:33 ID:???
「よし、ではこれから君達の主装備のひとつとなる89式小銃を供与する。命より大事な物だと思え。そっちから取りにこい」
そっちとはエステルがいる方だ。スタスタとエステルが森の前に歩いてくる。
初めて触る異世界の武器を前にして表情は硬い。嗚呼しかし、既にその瞳はバディの虜。
おっかなびっくり89式小銃を受け取って元いた位置に戻っていく。
持ち方がわからないから負い紐をとりあえず肩にかけている。
そうして次々と若いメイドを虜にしていく89式小銃。全員に渡し終えたところ、その眺めは異様だった。
メイド服に89式小銃(折りたたみ銃床)……変だ。おかしい。なんでだ?
メイド萌えである俺は、それはそれでいいのだが、何か無理している。
……そうか、迷彩服だ!戦闘靴だ!カチューシャじゃなくてテッパチ!脳内個人装備をエステルに合わせる。完璧だよおい!
メイド小隊のことで頭がいっぱいで、俺達は重要なことを見落としていたわけだ。
林も森も気づいていない予感。
590 名前: ヲタSEAL 04/01/18 02:34 ID:???
「森」
「あん?」
「メイド服で訓練させる気か」
「あっ!しまった!」
ボケェェェェェッ!やっぱりか!
俺の横で愕然としている林!貴様もボケだ!カスだ!役立たずだ!
その後、適当な体格のメイド数人を乗せ、高機動車を連隊本部がある駐屯地まで走らせたのは言うまでも無い。
214 名前: ヲタSEAL 04/02/04 17:59 ID:???
弾着……今! DOM !BAKOM !
小山は駐屯地内の連隊長室、まぁ12畳ほどのプレハブなのだが、その中で広い机に頬杖をついて呆けているように見えた。
防衛庁が用意してくれたスーパーハウス、いやまったくすばらしい。
この机と椅子と軍隊式の寝床以外はほとんど何も無い空間は、小山の小さな世界であった。
何人にも邪魔されず、適当な室温で、手の届くところに書類が置いてあり、
白く飾り気の無い壁は悩み多き連隊長が頭を痛めながら徒然と考え事をするに適している。
ここの所帝国軍との大規模な戦闘は行われておらず、稀に姿を見せる帝国の斥候は小銃を空に向けて数発砲するだけで逃げてゆくらしい。
おかげで最近は連隊内、いや師団規模でも死傷者は出ていない。上司や部下達との関係も悪く無い。補給も滞っていない。万事順調。
しかし、この白頭を痛ませさらに白い筋を増やさせる悩みの種があった。
つい先ほど本管のWACが淹れてくれた緑茶は既に冷めている。熱いうちに飲むべきだったが、とりあえずグイっと飲み干す。
215 名前: ヲタSEAL 04/02/04 18:00 ID:???
「はぁぁぁ……」
深く、長いため息をつく。
以前は悩みの種ではなかった。むしろ非常に我々司令部の人間を喜ばせていたアレが、昨日悩みの種に変化した。
悪いのは勝手に喜んで、休暇返上でどんどんアレに仕事をまわした司令部なのだが……
「おい、普通科二中の坂井と林がなんかやるらしいぞ」
「何、どこでだよ」
「需品の天幕の方だって」
小山の世界の外から、聞き慣れた本管中隊の隊員の声と、どこかへ駆けて行く足音が聞こえた。
216 名前: ヲタSEAL 04/02/04 18:02 ID:???
……1人足りないようだが何故、アレがここにいる。アレはアソコにいるんじゃなかったのか。
昨日アレからの基地警備のために民間人へ軍事訓練を施したいという要望を、自分はすぐさま師団長へ伝えた。
師団長は方面総監へ、方面総監は幕僚長へ。そして幕僚長は防衛庁長官へ……伝えなかった。
幕僚長は何を思ったかこの事を幹部達に口止めし、横田基地の第五ゲートを自らくぐり在日米軍司令部へと向かったという。
そして在日米軍司令官との密談でアレへの支援が決定されたわけだ。
今日にもアソコのSEALに命令書が届くだろう。民間人を兵隊にしろ、と。
本当は頭のどこかで無理だとわかっていた。30人の民間人とたった3人の兵隊……あ、4人か、でアソコを管理させるなんて。
だが彼等を遠い本国に一時的とはいえ、帰したくなかった。その間部隊の戦闘能力が低下する恐れがあった。
その、わかっているがアレもアソコも決して卑猥なモノのことではない。
アレとは我が連隊が、いや、師団が、いやいや陸上自衛隊が英国陸軍特殊空挺部隊とガチで勝負させてもいいとまで考える3人組。
アソコとはここの北東70kmに位置する、とある建築物。
何故アレとかアソコとかって呼んでいるのか。
幕僚長直々、極秘の命令とともに「連隊最強のヲタク」の名は口に出すなとお達しがきたのだ。
はっきり言って意味が無いと思うのだが。
217 名前: ヲタSEAL 04/02/04 18:04 ID:???
「おーい、連隊最強のヲタクが……」
今度は通信の一尉か。
アレがここで何をするというのだ。またヲタク同志のわけのわからん争いで「屈み跳躍1000回勝負」とかやるのか?
何でわざわざそんなものを見に行くのだ。それは退屈だからだ。ああ退屈さ。
「最近ドンパチ無いからツマンネ」とこぼしていた第一中隊の中隊長を思い出だした。
……しばらくしても一向に声と足音が戻ってくる気配が無い。
それどころか、連隊本部を出入りする人の気配すら感じ無かった。
まさか皆アレのアホを見に行って帰ってきていないというのか?アホはどっちだ。
218 名前: ヲタSEAL 04/02/04 18:05 ID:???
「まさかな」
そう呟いて小山は椅子から腰を上げ握り拳で外へ出るが、辺りは人っ子1人いなく、しんと静まり返っていた。
まず連隊長室の隣にある連隊本部の二階建てプレハブに入ったが、まさかまさかのもぬけの殻だ。
通信機、ノートパソコン、コーヒーメーカーの電源は入ったまま。
いつもスパイダーソリティアで遊んでいるような奴らが、今度は職場を放棄して何所行きやがった。
「……あの馬鹿供重営倉だ」
小山は悪態をつきながら連隊本部を後にした。
219 名前: ヲタSEAL 04/02/04 18:08 ID:???
―10分くらい前―
坂井がハンドルを握るのは半年ぶり位か。いつもは森か小野寺がドライバーとなっていたからだ。
しかし半年のブランクは坂井にとって何の問題にならなかった。
坂井の運転技術は上手いの部類に属するものではあったが、何を急ぐのか今回のそれは安全運転とは程遠い。
高機動車は舗装されていない幅10mの街道を時速90kmで疾走し、その速度はカーブでさえ落ちることが無かった。
いかにも、こいつは「コーナーを攻める」というヤツか。坂井の口笛がユーロビートに聞こえるのは気のせいだろう。
助手席に座っていた林は常に生きた心地がせず、シートに体を押し当てていた。
「おらっ!到着だ!全員降車!」
駐屯地内、需品科天幕の前で高機動車は停止した。
俺は降りるなり首をポキポキ鳴らし、林はボンネットに手を付き深呼吸をする。
む、メイド達が降りてこない。ドアの開け方は教えたはずなのだが。
「 …… 」
ああ、まさかと林が後部扉を開ける。
するとそこには、互いにもたれかかりぐったりとした6人のメイドがいた。
―――なんて、バカ。
振り向く林の目は俺にそう言っている。
俺の心無い運転が彼女達をそんな状態にしたのは明白であった。
580 名前: ヲタSEAL 04/02/12 01:31 ID:???
投下〜
「な、無いモノは無いんですよぉ!」
偶々天幕に1人いた悲運の需品科三曹の声が響く。
「……本当に無いんだな?」
詰め寄るヲタク自衛官2人と女6人。
彼らの顔には鬼気迫るものがあった。
「本当に、無いんです」
三曹はチラとヲタの後ろに視線をやり、なんとなく具合が悪そうな女達の姿を確認する。
既に3回目だが、その視界に入る者が変わることは無かった。
頭にカチューシャ、紺のワンピース……何でかエプロンは無し。
以前秋葉原へパソコンを買いに行ったとき見たことあるが、ここに来てメイドを見るとは。
しかし彼の有名な連隊最強のヲタクが連れてきた辺りが妙に合点がいく。
なんてったって、一般隊員が一目置く(キモがる)ほどのヲタクで、
数々の不可能と思われる理不尽な作戦を遂行してきた奴等だ。
多分、メイド位なら何とかしてしまうのだろう。
581 名前: ヲタSEAL 04/02/12 01:32 ID:???
で、彼らは天幕に入るなり「作業服と半長靴を出せ。員数外有るだろ?」ときたもんだ。
有るには有った。しかし彼らが要求してきたのは後ろにいるメイド達に合うサイズの物だった。
……無かった。
女性自衛官向けの少し小さいヤツ、それも「予備も含めて60着。半長靴30足」
あ る ワ ケ 無 い 。
昼に届いた物資には確かに沢山の作業服や半長靴が含まれていた。
だがそれは男向け、戦闘部隊が主なこの駐屯地に女性自衛官は非常に少ない。
よってサイズの小さい装備は全然補給されない。
第一、そんなに員数外もクソもあるワケ無い。
582 名前: ヲタSEAL 04/02/12 01:33 ID:???
「あぁー、まいったな」
「何がまいったな、だ、てめぇ、本当はわかってたんだろ!」と、突っ込みたいのは我慢した。
一応彼は尉官殿。しかも連隊最強のヲタクだ。下手に怒らせたらどんな処分が待っているかわからない。
「……仕方ない。手間かけたな、引き続き服務せよ」
そう言って彼らは何も無かったかのように天幕の出口に向かった。
その途中、振り向いたメイドの冷たい瞳に三曹は何か悲しい気分になった。
俺、嫌われたのかな。
583 名前: ヲタSEAL 04/02/12 01:35 ID:???
「うぁっ!?」
先頭を切って天幕を出ると、最初はどこにもいなかった迷彩色が沢山いた。
いったいどこから湧いてきたのか、その数およそ100人。いや、もっといるかもしれない。
しかし何が目的でこいつらは集まっているのだ。仕事どうした、仕事。
まぁなんにせよ、天幕を囲むように人だかりができている事は紛れも無い事実、
それに何だ、皆怖い顔して、目が「お前、邪魔だ」と言っている。
戦場で培った勘が命の危険を感じ取り、足が自動的に右の高機動車へ向かう。
「なっ!?」
同じく林も俺の後に続く。
やはり、彼にも周囲の目は「邪魔だ」と言っているようだ。
「 ……?」
エステルが出てくると状況は一変した。
584 名前: ヲタSEAL 04/02/12 01:37 ID:???
ざわ…
驚きとも感動とも取れる妙なざわめきが起きる。
そして残りのメイドが天幕の中から現れる度に何かしら反応があった。
『本当だったのか!!』とか『やっぱりー!!』とか。
おまえら何だ、その、メイドを見に来たと。
うむ、高機動車を堂々と天幕に横付けしたのは迂闊だったか。
昨日は施設を侮っていたことを改めたが、今日は他の後方部隊への偏見を改めることにしよう。
ドンパチ無い、特に仕事無い、暇、退屈だらけな彼ら後方部隊は、
優れた偵察、哨戒能力でメイドの存在を察知し、強力な通信網で各個連絡を取り合い、
並みならぬ精神力を以ってして天幕の前にアンブッシュ。
そして今、人海戦術で我々哀れな普通科隊員2人とメイドさん6人を殲滅せんとする。
―――否、殲滅されるのは俺達2人、メイドさん6人はきっとX指定だ。
男坂井、まだ見ぬX指定は許せん。なんとしてもこの窮地を切り抜け……たい。
585 名前: ヲタSEAL 04/02/12 01:39 ID:???
ジリジリと間合いが詰まる。
訓練後のレンジャー隊員のようなギラギラとアブナイ光を放つ目。
メイド達も身の危機を感じているのか、俺と坂井の影に隠れるように後ろへ回る。
正直、この状況を打開するのは連隊最強のヲタクでも不可能だ。
しかし神は見捨てなかった。
「 貴 様 ら な に を や っ と る か ァ ッ ー ! 」
訂正、連隊長小山大祐一佐殿は見捨てなかった。
彼の120mm滑腔砲の砲声の如き一喝で、一時期の某DMZ並みに緊張が高まっていた
需品科天幕周辺のデフコンは2から5になったような雰囲気を醸し出していた。
586 名前: ヲタSEAL 04/02/12 01:40 ID:???
蜘蛛の子を散らすように持ち場へ戻って行く暇自衛官達。連隊長に敬礼しろよ。
……今の連隊長にそんなことする勇気があればの話だが。
その、誰から見ても触らぬ神に祟り無しな状態の小山一佐が俺達を見るなり、
更に怖い顔になって大股で近づいてくる。
「坂井二尉。お前、ここで何してる?」
静かで、何かやばい物が含まれていそうな声。
誤魔化す事も無いので素直に答えるとする。
「は、軍事訓練を施す民間人へ与える諸装備を入手しようと思いまして」
「手に入ったのか?」
「いえ」
「後ろにいるWACは何だ?」
「は?」
「お前の趣味、か」
587 名前: ヲタSEAL 04/02/12 01:42 ID:???
これは……誤解されている。
小山一佐はエステル達をWACだと思い込み、
更に俺が彼女達にメイドコスをさせていると考えたようだ。
本当はデフォでメイドさんなわけなのだが。
「お前がこういうのが好きなのはよく知っているつもりだ。だが……ん?」
小山はエステル以下5名のメイドを凝視して、「まさか」と声を上げた。
ここにきて異変に気が付いたらしい。
「そのまさかです」
俺は怒った風も無く、無表情に言った。
「……か、勘弁してくれ」
とたん、彼のデフコンも2から5となる。
俺の目の前には、ただ40後半の迷彩服着たおっさんが肩を落として立ち尽くすのみだった。
447 名前: ヲタSEAL 04/03/10 01:28 ID:???
ドゥルカスヅディス
結局、駐屯地で目当ての物を手に入れることはできなかった。
しかし手ぶらで帰るのは何だか癪なので、液晶プロジェクターとスクリーン、地図、ホワイトボードを頂戴してきた。
高機動車の後ろで窮屈したエステル達には悪かったが、プロジェクタを使って「いいもん見せてやる」と言ったら
喜んでいたのでヨシとする。
メイドショックを受けた小山一佐は「やめるなら今のうちだぞ」と言っていたが、俺は毛頭やめる気など無い。
「楽しみにして待っていてください、マイクフォースとどっこいにして見せますよ。ハッハッハ」と言い残して連隊長室を去った。
まぁどちらにせよ基地の管理にメイドを使い、メイドを訓練するつもりだったのだから上で決めた計画の事なぞどうでも良かった。
それに、任務を放棄しない俺を止めず、さらに「計画は不可能」と報告しないあたり小山も期待するものがあるのだろう。
肝心の作業服、半長靴他メイド達の装備だが、城砦A館一階の一室のドアに "U.S. Forces fortress administrator office"
と書かれたプレートがぶら下がった後に、"USAF" のペイントがされたC-130が投下してくれた。
作業服が注文と違って、海兵隊の新型迷彩服だったのはご愛嬌。正直俺はこの迷彩はイケてないと思うのだが文句は言ってられない。
まぁ、ジャパンゴアテックスが在日米軍の要望で作ったCOVE社製ブーツのコピー(オリジナルと遜色無し)が付いてきたし、
オマケにMOLLEシステムやらA3パックやらが付いてきたから目を瞑らん事も無い。
448 名前: ヲタSEAL 04/03/10 01:29 ID:???
で、俺達3人のヲタク自衛官とSEALは着々と己が持つ技術と知識をメイド達に教え、
それをメイド達は乾いたスポンジのように吸い込んだ。
最初身体能力テストと称して森はメイド達と供に城砦の外周を走り回った。
一周は約1km、何周したかは知らないが、森が肩で息をするまで走ったのにメイド達は付いてきていた。心臓爆発寸前だった。
「おーやるなー」
「アホかやり過ぎじゃ」
「う〜ん、きつかったら抜けていいよって言ったんだけどな」
449 名前: ヲタSEAL 04/03/10 01:31 ID:???
彼女達曰く、
「付いてこいと言われたから付いていった」だそうだ。
マスターの命令は絶対か。メイドっ気が抜けてない。いや、メイドなのだが……。
ちなみにメイド小隊訓練担当教官森一曹はメイド達に "マスター" と呼ばれている。
中尉が夕食の時「一曹は合衆国陸軍でMaster Sergeantにあたるらしい」と言ったからだ。
森は「どっちかって言うとチーフだろ」と不満気だが。
ともかく、メイド達にそこそこ体力はあった。最近多いインスタント自衛官の比ではないだろう。
そういえば戦闘訓練を受けているというのを思い出した。
訓練はサクサク進む。
日々の体力錬成はもちろん、「右向け右、捧げ銃」等基礎訓練、射撃訓練、戦闘訓練etc……
539 名前: ヲタSEAL 04/03/12 01:21 ID:???
よろしいかぁー?
いくでー
PAM ! PAM ! PAM !
鋭い銃声の後に、300m先の人形の中心付近に穴が開く。
これくらいウチのメイド達には朝飯前だ。中尉にSEAL流究極精密射撃を叩き込まれたのだ。
プレッシャーのかかった状態でちゃんとできるかはまた別の問題だが。
BASHuM !
SHEEEE E E E E ……
ZuMn !
大木が吹っ飛び、土煙が上がる。
「命中……!」
不敵な笑みを浮かべ、まだ顔に幼さが残る迷彩服の少女は、慣れた手つきでパンツァーファウスト3の
空になった発射筒を発射装置から外し、ポイと投げ捨てた。その様子が妙に様になっている。
巨大トカゲ以下、巨大シリーズ・バケモノ何でもきやがれってんだ。
540 名前: 名無し三等兵 04/03/12 01:22 ID:???
「おらおらっ!!行け行け行け!!どんどん行け!!」
「えいっ!」
―――訓練開始後4ヶ月。
「次!!」
「っと!」
メイド達にとって変わったことはそれほど多くない。
「……!」
俺達と出会う以前と同じように、やれと言われた事を黙々とこなす毎日が続くだけだ。
あえて変わったことを言えば、ユニフォームが増えたこと、扱う道具が増えたこと、仕事を楽しんでいること、か。
仕事が楽しいのは重要だ。そうでなければ今、彼女達が中尉の指導の下、懸垂降下訓練なんてやってるわけ無い。
林と森がHMMWVの上にクリップボードと水筒を持って座っている。ああやってメイドの懸垂降下に点数をつけているのだ。
「ミシェルの尻はいい 2点」とか「アレクシアは降下するときの声が可愛い 4点」とか何とか。
541 名前: 名無し三等兵 04/03/12 01:24 ID:???
窓の外に米海兵隊装備に89式小銃なんてヘンテコな格好のエステルがスルスル降りてきて着地した。
始めて1週間とちょっとだが上手いもんだ。目が合うとエステルは微笑み、駆け足で屋上へ向かって行った。
……ホント楽しそうだなおい、怖くないのか?俺は怖いけど、やらなきゃならんからやっとるようなもんだが。
彼女達は俺達が教える事に興味を持ち、実践するのを楽しみ、忘れないよう反復した。
彼女達は4ヶ月のうちに何十万発もの弾薬を消費し、銃身を焼き、銃を体の一部とした。
彼女達はメイドであり、また兵隊となった。
彼女達はマジ萌える。
自分がメイド属性であるからか。いるだけでいいっす。自分の前を横切るだけで至福。
自衛官で良かった、生きてて良かった、自分で言うのもなんだが優秀で良かった。
Myマグカップに入ったコーヒーを啜る。メイドが淹れてくれる事もあるが、これは自分で入れた。
メイドは懸垂降下訓練中故。
542 名前: 名無し三等兵 04/03/12 01:25 ID:???
彼女達はメイド服でライフルドリルや実弾射撃訓練したりするもんだから、持っていたメイド服はすぐに消耗し、
あっという間に新型に更新。今度のはデザインシンプルフリフリ少なめ。これ。
新型メイド服の調達は、メイド達の履歴書を見た在日米軍上層部のファンが行ってくれた。
暇な奴等め、あちらに履歴書と迷彩服のサイズが渡ったと思われる頃に、メイド達へ「私服」が送られてきたりした。
"Send a photograph !"とメッセージが添えられていたが、そんな暇無いので送っていない。
でもそのうちに送ってやるか……いつまでもYou one we one.じゃあ気持ち悪いし、パトロンの機嫌を損ねるのは良くない。
新型メイド服デザイン決定には最後の最後に一悶着あった―――ニーソックスにするか、ストッキングにするか。
俺は肌を覆う黒いモノにエロスと萌えを感じる男だったのでどっちでも良かった。
森はストッキング派だった。林はニーソを譲らなかった。当のメイド達は「はぁ、どちらでも構いませんが」と。
決着は意外にも中尉がニーソ派だったことでついた。
……こんな事やってると、エライ人がいろいろ言ってくるという諸刃の剣。俺達以外にはお勧めできない。
それにしても4ヶ月でここまでなるとは驚き。採用基準緩和で入ったヤワな自衛官など既に相手にならん。
まだ少し煮詰めるつもりだが、もうちょっと刺激的なこともやってみたいものだ。
それでどうしたものかと居間で地図を前にして考えていたところなのだが。
543 名前: ヲタSEAL 04/03/12 01:28 ID:???
「 ……最近、森に行ってないな」
城砦から北50km、帝国とのボーダーライン手前の自衛隊監視ポスト。この付近では何度も演習を行っている。
ここらの森や平原で、パトロール中のナビゲーション、戦術的移動方法、潜伏地点に身を隠し警戒態勢をとること、
観測所の選び方、攻撃目標の近距離偵察のやり方を教え、サバイバル技術を伝授した。
また、俺達自衛官3人もSEALである中尉から教わる事が多々あった。
「遠足にするかぁ?」
……何だ、煮詰めるもクソも無い、ユルいけどもういいや。
俺はパソコンの電源を入れ、XPが起動するのを待った。
「 …… 」
Operaのメールブラウザ機能を使い、暗号化した演習の内容.txtを小山一佐に送信。
「これで演習も最後かな」
夕方には「了解」と返信が来た。
570 名前: ヲタSEAL 04/03/21 02:27 ID:???
眠いけど投下
監視ポスト――演習場へのアシはその都度駐屯地から送迎トラックを送ってもらっていた。
これは城砦に高機動車とHMMWVが一台ずつしかないためで、小隊の移動の際非常に不便である。
エライ人に「俺達にトラックよこせよ!」とお願いしてみたが、答えは「お前らにまわす余裕は無い」だった。
戦車無い、IFV無い、APC無い、情けない、トラックさえ満足に用意できないのかと。
おかげで毎回来てくれる輸送科の三尉とはすっかり顔見知りだ。
メイドに自動車免許を取らせて比較的順調に配備が進んだ軽装甲機動車か高機動車をよこしてもらうことも考えたが、
彼女らに整備技術も仕込まなくてはならないので没となった。やっぱり足りてないみたいだったし。
ともかく今回もまたいつもの三尉が73式トラック2台を引き連れてやってきてくれて、
それにいつものように米海兵隊フル装備のメイド(メイドか?)が乗り込んでいく。
571 名前: ヲタSEAL 04/03/21 02:32 ID:???
彼女達が背負う巨大なMOLLEの背嚢には、10日間程度の作戦に従事するだけの装備が入っている。
いやぁでかい。彼女達の体が見えず、背嚢から生えた足がちょこちょこ動いているように見えた。
例外として身長170cm前後の長身メイドも数名いるが、それにしても細い体には不釣合いな大きさだ。
インターセプタボディアーマーには砲弾破片程度を防ぐ抗弾プレートを入れてあり、7.62mm抗弾の物よりは軽いが、
他にも89式小銃とその弾薬である5.56mm弾や、AN/PRC-119を携行しているので結構な重さになる。
機関銃手はMINIMIと5.56mm200発入りボックスを持つことになるからさらに重いだろう。
こっちはちょっとやそっとじゃヘタレないよう訓練したつもりだが、やはり自衛官やSEALとは違う。
全長が短い空挺モデルかMk.46 mod.0と呼ばれる軽量化モデルを米軍から借りるといいかもしれない。
中尉もメイド小隊に準じた装備で頭にODのバンダナを巻き、お気に入りのM14を持っていく。これは小隊唯一の7.62mm小銃だ。
ヲタ自衛官3人の方は俺と林がブッシュハット、森が八角帽をかぶり89式小銃を持った一見して自衛隊装備だが、
MOLLEやらM9拳銃やら米軍の装備が混じっているのがオサレなところ。
その他カッコイイ小物として偵察用兼記念撮影用にキヤノンの一眼レフ型デジカメと編集用モバイルノートPC、
AN/PVS-4・AN/PVS-14暗視装置を持っていた。
572 名前: ヲタSEAL 04/03/21 02:34 ID:???
「全員乗ったか〜?」
森が大声で言った。
「ハイ、全員乗りました、マスター」
エステルが答える。
それを聞いた俺は輸送科三尉にGOサインを出し、2台の73式トラックは監視ポストへ向け走り出した。
10分も走ると周りの景色が変わってきた。広葉樹が少なくなり、針葉樹が増えてくる。
監視ポストの辺りまではまだ広葉樹が残っているが、そこより北のボーダーラインを超えるとさらに広葉樹が少なくなり、
いよいよ帝国支配地域に入ればほとんど針葉樹に変わるだろう。
帝国支配地域と言ってもこの辺りの雪が降る地域にはあまり兵隊を配置していなかったらしく、
戦争初期にパッパと俺達が駆逐してボーダーラインのむこうは高地が広がるだけらしいが。
監視ポストの意味無い?となるが、従軍魔術師のジジイ曰く「あれは敵の聖地だ。魔術師に警戒せよ」だそうだ。
まぁあのワケのわからん "魔術" 攻撃には散々な目に遭わされている。
ワケのわかってる奴の言うことは聞くべきだろう。
573 名前: ヲタSEAL 04/03/21 02:37 ID:???
景色を眺めているうちに監視ポストに到着した。
小隊がトラックから降り始めると、ここの連中が持ち場を放棄してゾロゾロやってきた。
「いやぁ、二尉。久しぶりですねぇ」
「監視任務ご苦労だな」
「ハハ、こうしてオニャノコ見ることができると思えばなんのそのですよ」
ここの奴等は暇である。
暇と言うのは適切ではないが、その、暇なのだ。
毎日適当なルートをパトロールして、櫓に登って遠くの山を眺め、
飯食って風呂入って糞して寝る。たまに不寝番。
娯楽はテレビ等あるにはあるが、そんな物すぐに飽きる。こういうのを退屈とも言ったかな。
彼等は外からの刺激が欲しい。既に敵よ来い、何でも来い状態。
そこへ俺達がやってくれば彼等にとっては大きな変化、しかも女と来た!
退屈しのぎと目の保養ができるってもんだ。
574 名前: ヲタSEAL 04/03/21 02:38 ID:???
「すぐに森へ入るんで?」
「ああ」
なんとも言えぬ遺憾の表情が俺の目に映る。
こっちは忙しいんじゃい、てめぇらにかまってる暇は無いんだYO!
「おーし、いくぞぉ」
監視ポストの西の森に入る俺達を残念無念オーラを発しながら見送る男達。
それに毎度の事、営業スマイルを浮かべて上品に手を振るメイド小隊。
俺達も手を振るが奴等の脳が認識するのは彼女達だけだ。
奴等はメイドが見えなくなってもしばらく手を振っているに違いなかった。
575 名前: ヲタSEAL 04/03/21 02:42 ID:???
今回の演習はあまり色々やろうと思っていないが一応実戦を想定して、
「ある地点に存在する敵野営地を発見・殲滅する」ことを目標とした。
ある地点とは以前の演習で見つけた森の中の開けた場所で、
そこには最初メイド達が持っていた剣を1本地面に刺してある。
大まかな位置はわかっているけど地図とコンパスを頼りに森の中をさまよう事になるだろう。
予定では警戒態勢を取りながら戦術的に移動すれば3日程度で錆びた剣を抜く事ができるが、
あくまでも予定は未定だ。
森に入ってからは8人*2、9人*2の分隊になって別行動を取りターゲットを探す。
各分隊で俺と森が8人の班、中尉と林が9人の分隊長としている。
俺の分隊はエステル、シエラ、ブリジット、ソフィー、ミシェル、エミリー、レアが隊員だ。
彼女達は体格差はあれど能力差はほとんど無く、誰に何をやらせても上手くこなしたが、
とりあえず一番背の高いエミリーにMINIMIを持たせていた。
エミリーは身長170cmで林と大差ない。エミリーの背が高いのか林が小さいのか、多分両方だ。
576 名前: ヲタSEAL 04/03/21 02:47 ID:???
俺は最初エステルを偵察兵として先行するように指示した。
偵察兵は俺の見える範囲で先行し、問題があれば知らせる。
偵察兵が止まれば俺も止まり、後の者もそれに従う。
エステル次第で俺達の動きが決まる。その重大さを彼女は十分に理解している。
「エステル、この方位だ」
「ハイ、サカイ様」
ブッシュハットを深くかぶったエステルがこくりと頷き、俺の20mほど前を歩き出した。
そのとき彼女は緊張した様子だったが、何かこれから楽しいことがあるような雰囲気でもあった。
826 名前: ヲタSEAL 04/04/04 02:44 ID:???
眠い……更新
「……川、ありませんね」
エステルが地図を取り出しながら言った。
「むぅ」
できればあって欲しかった。
「あのう、もしかして……」
もしかしてもしかすると?
ブリジット怪訝顔で俺を見つめる。見つめても何も出ませんよ。
「でもまさか」
いやいやしかしソフィー殿。無きにしも非ず。
「そのまさかよ。私達は迷った」
シエラが答えを言った。
827 名前: ヲタSEAL 04/04/04 02:45 ID:???
「やはり……」
そう、ミシェル殿。
矢張りメイドはドジでなくてはならないのだろうか(苦笑
……じゃなくって、彼女達は教えた通りに地図を読み、教えた通りゆっくり、慌てず、注意深く森の中を進んだ。
それでも迷うものなのだ。演習2日目にして、重装備による肉体的疲労と警戒態勢による精神的疲労溜まり、
集中力が落ちているためある程度は仕方の無いことだった。
さて、これからどうするか。ここで俺が口を出してしまってはつまらんし、演習にならん。
彼女達には教えた通り対処してもらおうじゃないか。
「後退して全周囲防御を敷いてはどうでしょうか」
ミシェルの案は通った。
200mほど後退し身を隠せそうなところを見つけ、所定の位置に指向性対人地雷をセットして2名が周辺を見張る。
そして俺達の位置がわかっていたのはどこまでだったか、そこから検討してゆく。
数名が俺の周りに集まって地図を広げた。
828 名前: ヲタSEAL 04/04/04 02:47 ID:???
「ここまで……前の小休止まではハッキリわかっていました」
「ああ。300m前進して……岩のあった所までも大丈夫だ」
今朝は丘の麓から出発し、北の尾根沿いに頂上を目指し、
頂上からは南西の緩やかな斜面を下り平地に出た後、正面の斜面を登り始めた。
どうやらここで丘が終わり、違う丘を登り始めたと勘違いしたようで、まだ丘の一部をうろうろしていたのだ。
斜面で歩測が狂ったかせいもあるだろうか。結局今は丘の頂上と思しき場所に潜伏している。
現在地がわかった所で俺は2名を短距離偵察に出して500m先の地形を確認し、3度目にレアとブリジットを送り出した。
「このまま300m下れば川に直角に突き当たるはずだ。そこから200m前進して北向きの急斜面があれば、
俺達はこの丘の頂上にいることになる。もし違ったらかなりマズイぞ」
829 名前: ヲタSEAL 04/04/04 02:48 ID:???
2人は思ったより早く戻ってきたが、その顔は血の気が失せていた。
レアが深呼吸をして口を耳に寄せて言った。
「川に直角に突き当たったし、崖もありました……それから……金属のぶつかる音と人の声が」
「あぁん?なに、ブリジットは?」
「私も音を聞きました」
「何か見たか?」
「いえ、見たわけではありませんが……確かに前方に誰か居ます」
最初、他の隊に接近した可能性も考えたがそれは否定された。
俺達はこのような作戦中に音を立てるような訓練はしていない。
また多数の人間――2人が言うには少なくとも1個小隊かそれ以上が集結しているらしく、
この地域で俺達城砦管理部隊以外の自衛隊、米軍が行動しているわけ無いし、何かあれば連絡があるはずだ。
830 名前: ヲタSEAL 04/04/04 02:52 ID:???
(チクショウ誰だよ……)
俺は2人に音を聞いたという場所へ案内させたが、到着しても誰かが居るような気配はせず、
周辺を捜索したところ多数の足跡を発見した。
それは俺達の官品戦闘靴やビブラムのソールパターンなどではなく、
こちらの世界――帝国陣地跡などでよく目にする靴跡だった。
誰もそいつ等を見たわけではないが、足跡を残したそいつ等は "敵" であると察しがついていた。
エミリーがMINIMIの蓋を開け、5.56mm弾がきちんと装填されているか確認する。
皆早まっていた。
「エステルよぉ……こりゃ誰のだ?」
「えっ? えと、その」
何をモジモジしとるのだ、このムスメは。
「あのな、正体不明なんだろうが?」
言うと、エステルが「あ」っと小さく声を上げる。
察しはついても確信は無い。そこでボスである俺が正体不明と言えば 「多分敵?」 は正体不明なのである。
しかし正体不明を正体不明にしておきたくないのが人の性。
俺達が次にやることは決定していた。
「演習内容変更。これより不明部隊を追跡する。正体が判明したら……CPに報告、指示を待つ。
以上、何か質問は?無いな?では出発だ」
798 名前: ヲタSEAL 04/04/20 00:11 ID:???
所属不明部隊を追跡し始めてから既に4時間が経ち、日は傾いて空を赤く染めている。
俺達は奴等の罠や欺瞞、後衛に警戒しつつ相変わらず足跡を辿っていた。
この際自分達の位置を見失なわないよう注意する必要があり、それに加え重い装備が俺達の神経と体力を磨り減らせる。
さらに今までの演習とは違うという事実が重く圧し掛かった。これは全く実戦だ。
当たり前だが俺は実戦経験がある。
これまで数々の過酷な作戦に従事してきたし、その中で人を殺したことだってある。
きつい、つらい、異常な環境で冷静でいられるようにもなった。
レンジャー課程修了は伊達じゃないが、やはりここでのクソ・ファンタスティックな経験のおかげだ。
銃弾やミサイルの代わりに矢と奇妙な光球が飛び交い、人外の化け物が戦闘に参加して自分を襲ってくるような戦場。
ソ連軍自動車化狙撃師団を相手にした方がマシかもわからん。
彼女達は……無論、実戦経験は無い。ピチピチの戦闘処女である。
今日の今日まで女と見なさず扱いてきたが、それに耐えられてもナマの経験に耐えられるという保障は無い。
優秀な(ヲタク)自衛官とSEALが仕込んだんだから技術的には問題ないが、精神面が重要なのだ。
考えたくはないがもし奴等と戦闘になったとき、彼女達は動くことができるか……最悪“壊れる”かもしれない。
何かする際、彼女達は我が愛する2中隊第2小隊の狂人共の様なプロフェッショナルじゃないことを忘れてはならない。
799 名前: ヲタSEAL 04/04/20 00:14 ID:???
ポイントマンを務めるレアが左手拳を上げて止まり、前方を指差した。
ついに見つけたか……彼女の表情は擬装用ネットで見えないが、特に慌てた様子は無い。
後に続くエステル以下5名も、ただ俺に従い歩を止めるだけだ。
俺はレアについてくるよう合図し、後の者は100m後退して装備を置いて残るよう指示した。
「問題があれば音でわかるはずだ。日没までに戻らなければ俺達2人の装備を置いて丘まで戻れ。
それで明日の正午までに戻らなければCPに連絡してから東へ道路にぶつかるまで進め」
俺とレアは小銃と携帯装備だけを持って敵がよく見える所まで第四匍匐で這い進む。
「虫になれ……」と助教は言ったもんが、今まさしく2人は虫になって地面を這っていた。
傍から見たら濃緑の巨大芋虫が這っているようにしか見えない……完璧じゃないか。
数十メートル進んだところで俺達は止まり、俺はレアにここで留まり援護するよう命じ、
今度は一人で這い進んだ。
800 名前: ヲタSEAL 04/04/20 00:16 ID:???
ずるり、ずるりとゆっくり這い、5m程の所で倒木の陰から覗き見る。
50m先の森が開けた場所に奴等を確認した。
奴等は鋼の軽鎧を装着し、腰から洋剣をさげ、肩に帝国の紋章がある見間違えようの無い敵であった。
主に軽歩兵を戦力とした部隊は一個小隊どころではない。ざっと見ただけで70……80人弱か。
中隊には届かないが、どう考えても8人で対処可能な戦力ではない。
心拍数が上がり、暑くも無いのに体の至る所から汗が噴出して服を濡らして非常に不快だ。
今は敵を確認できただけで十分だった。俺はレアの所に戻ろうとゆっくり後退し始めたとき、
兵士達の前で何か喋っている金髪の男の後ろに、ある物が地面に刺さっているのが見えた。
一見ただの棒だがよく見ると、金属独特の光沢と所々赤茶けた錆がついているのがわかる。
(アレには見覚えが……って、ビンゴだ!)
以前の演習時に地面に刺したメイドの剣だ。
忘れかけていた記憶が蘇る。最初はここに到達するのが目標だった。
ツイてる……!が、こんな状況では意味が無い。
そう思った時、剣の正面の男が180度回れ右し、叫んだ。
801 名前: ヲタSEAL 04/04/20 00:19 ID:???
「この地に眠る同胞に!」
男はザッと音を立てて腰の剣を抜き放ち、刃を胸の前で構えた。
それに従い後ろの80名弱も同じ動作をする。
一糸乱れぬ統制された動きは、観ている者の心を奪う美しい光景だった。
うむ、やはり軍隊はこうでなければならん。厳粛な雰囲気も非常によろしい。
しかし奴等の行為に何の意味があるのか?
おそらくはあの地面に刺さった剣が誰かの墓だと勘違いしたのだろう。
メイド剣は帝国製でオサレな帝国の紋章付きだし、敗走した帝国軍がここで力尽きた者を埋めたとしても納得できる。
だが残念ながらあのメイド剣はただの飾りに過ぎん。帝国兵にはそれがわからんのです。
当事者の俺は込みあげる笑いを堪えながらレアの所までずるり、ずるりと後退し、再び森の中に溶け込んだ。