89  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/13(日)  03:03:42  ID:???  

 ある日、F世界の貴族娘が小管隷下の部隊駐屯地にきた。  
見た目麗しい金髪碧眼の娘だった。  
 むさい男に囲まれた生活にいい加減飽きていた小管は、  
なにやらニヤニヤと笑いつつ娘と一対一で会うことを決めた。  

「異世界の戦士様、私の領地を守ってください。  
もう、あなた方しか頼れる人はいないんです」  
 そういって娘は小管の膝の前で跪くと、  
見せ付けるように、指で頬にかかっていた長い髪をかき上げた。  
 小官は言った。  
「しかしだね。君の領地で一揆が起こったのは必然だよ。自業自得とも言うね。  
聞くところによると、君の治める領地では奴隷の存在が黙認されているようじゃないか。  
税率も無駄に高いし、そのために餓死者も出しているのだろう?  
そんな極悪非道領主――つまりは君のことだが――を手助けすれば、  
罪のない民衆と戦うことになる。同志達も納得しまい」  
 無駄に説明臭い口調だ。  
「私、何でもする。そう、なんでも……」  
 少女が小管の膝の間に頭を埋めようとした。  
「本当になんでもするのか?  その覚悟があるのか?」  
「ええ、貴方が望むことなら……」  
 娘が目をうるうるとさせて小管を仰ぎ見た。小管は娘の頭の上に手を置き、  
その金色の髪を弄びながら  
「じゃあ、とりあえず奴隷制度を廃止しなさい」  



「むむむ」  
「なにが、むむむだ」  


90  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/13(日)  03:04:17  ID:???  

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X月X日  
 今日、うちの所帯にパツキンロリータが丸腰やってきた  
本当はピーしてピーのピピーでドキューンするつもりが、  
なんだかあまりにもズキューンな子だったので、可哀想になり、  
世の中の常識を教えてやろうと決心する  
 今日も私は偉大かつ寛大である  
日本男児の鏡を自称できる日も遠くはあるまい、まる  
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91  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/13(日)  03:05:00  ID:???  

 さんさんと降り注ぐ太陽。  
何処までものどかな平原風景は、ある種の感動を呼び起こす。  
時間の流れが淀み、ゆるやかになってゆく感覚。  
空の青と雲の白、そして大草原の緑。  
かの地は近代国家が忘れ、切り捨ててきた原色の世界であった。  

 小管(オクダ)という男が始めてこの地を訪れた時、彼もまた感銘を受けた。  
だが、いささか常人のそれとはかけ離れた感銘だったと、そう言わざるを得ない。  
 陸上自衛隊F世界派遣部隊に身を置く小管三等陸尉。  
陳腐な言い方をすれば、彼は屈強な男である。タッパがあり、根性もあり、  
集団生活にもすんなり溶け込めたし、言動はアレだったが頭も悪くない。  
その言動が理由で僻地に飛ばされたが、それは些細なことである。  
誰がなんと言おうと些細なのだ。  
 だが、そんな完璧超人たる彼にも致命的な弱点があった。  

彼は高いところや広いところが大好きなのである。  

 致命的に、破滅的に、大好きだったのである。ライクと言うよりもラヴなのだ。  
広いところが。たかーいところを愛しているのだ。  
 諸君は、それのどこが弱点なのか  と思われるかもしれない。  
ではもっと完結に言おう。  

彼は極度の『閉所恐怖症』持ちで、  
かつ、三十度ほど常人からずれているヴァカなのである。  
だがそれはまた別のお話。  


92  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/13(日)  03:05:54  ID:???  

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X月X日  
 最近、寝起きが良い  
やはり星がいっぱい見える場所で寝るのは気分が良い  
最高だね、F世界マンセー  
今日も私はグローバルかつビューチィフル  
既に次元の彼方に失われた言語をも習得している完璧ぷりだ  

 ところで、昨日のパツキンロリータがまた来たので、  
今度こそズブリイヤンァゥァゥといきたかったのだが、  
なんだか哀れになったので慈悲を与えてやった  
 やはり私は漢である、まる  
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93  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/13(日)  03:06:47  ID:???  

「だ・か・ら、この銃というのはただの補助魔法媒体なのでしょう?  
ねぇ勇者さまぁん。本当のことを言ってよぅ。  
どうやって帝国精鋭を一夜で打ちのめしたのよー。  
呪?  それともエンシェント・ワードかしらん?」  
 少女は小管に枝垂れかかった。小管は冷静によけた。  
「だ・か・ら、魔法じゃあないんだって。判る?  
科学だよ科学、知恵と無謀の合体系なの。  
……ていうかその銃を何時盗りやがったんだテメェ。XXすぞ」  
 少女はニヤリと邪悪に笑った。  
「いいわよ。その代わり責任をとって領土の治安と愚民統治の手伝いを――」  
「駄目、それは絶対に駄目。さあ、危ないから返しなさい」  
 小管が手を差し出すと、ぽいっと投げてよこしてきた。  
F世界の女は力持ちなのだなと小管は思った。  
「なによ、こんな子供だまし。  
スペル詠唱も陣もなしに魔法が打てるわけないじゃない。  
あくまで白を通すつもりなら、こっちにも考えが――」  
 遮って小管がせせら笑いながら言葉を重ねた。  
「興味深いね。君のその考えとやらをいってみ」  
 少女は言葉に詰まった。空を二秒ほど見上げた。  
そして頭の上で瞬間灯った電球が幻視できるぐらいにパァと笑顔を輝かせて自信満々で言いはなった。  



94  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/13(日)  03:07:45  ID:???  

「いいの?  言うわよ私。『勇者が現れた』って。  
異界から来た神の使徒達が、強くて怖ーい帝国を一夜にして打ちのめしたって話、有名なんだからね。  
きっと縋り付いてくるわよ。何千と言う数がこの平原に押しかけるわ。  
その醜さと悪臭に貴方は耐えられるかしら?  ふふん」  
 少女は胸を張った。体のほうの発育は良い。  
 小管はニヤニヤしだした。  
「いいですよ?  言ってください、私たちが勇者なのだと。  
それで気が済んだら帰ってください。  
銃を持った下賤で醜い悪臭に満ちた愚民?  けっこうけっこうこけこっこー」  
 少女は沸騰して赤くなった。  
「この!、コウ・アールティン(中略)カザーンが嘘をつくとでもいうの!  
これは侮辱だわ!  みてなさい!  その時になって後悔しても遅いんだからね!」  
 小管のニヤニヤ度数がまた上がった。  
「領主様の真名はコウちゃんなんだ。  
じゃあコウちゃん、ちょっと後ろを向いてみ?」  



「……ごめんなさい」  
「うむ、わればよろしい」  

 そこには、勇者様達の成れの果てがいた。  
悪臭に満ちた愚民の集団にしか見えなかった。  
愚民どもは銃一丁を紛失した罰として、  
体中から液体を垂れ流しながら真夏の草原を走らなければいけないのだ。  




141  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/13(日)  18:07:40  ID:???  

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 X月X日  
 朝っぱらからパツキンロリータだった  
私が優秀すぎるが故に片付ける仕事がないとはいえ、  
アホの子に付き合うのはそれなりに疲れる  
 それに、少々不気味である  
領主というのはそんなに暇な仕事なんだろうか?  
それで食っちゃ寝して夜も入れ食い状態なら私がなりたい、領主に  

 で、小娘に篭絡されて銃を容易く盗まれたアヒルの餓鬼どもに、  
いや、移転前なら腹切確実の豚どもに偵察任務を与えようとしたが、  
話しかけたら豚の癖に無言でボールペンを腰だめ構えられた。  
なんだか死亡フラグ一歩手前だったのであきらめる。  
 ならばこそ習志野で馴らした私の出番と言うわけだ。  
洒落も冴えており、今日も私は絶好調である。  
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142  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/13(日)  18:08:23  ID:???  

 第4師団第40普通科連隊第13F中隊は、  
自称で『小管関東軍』と洒落つつ、他称で『不良品隊』と笑われ呼ばれていた。  
 意図して不良品を集めたわけではない……と信じたい。  
不良品が不良品を不良品独特の磁力で集めてしまった結果、  
優秀でありながら致命的な不良品部隊となったのだ。たぶん。  
 移転前に発覚したならば即除隊であったろう性癖の持ち主や、  
言動が危なすぎてもう国内には置けない奴。  
空挺団の降下訓練中に運悪く足の骨がボキリと逝ってしまい、  
世を怨んで新興宗教を立ち上げようと画策したアホウ。  
ケツを触られたことで区隊長の玉を片方潰したWACなんぞは、  
今や同隊内では小管以上の権力を掌握していたりする。  
 そんな小隊の中にあって、小管は未だまともな方である。  



143  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/13(日)  18:09:23  ID:???  


「と言うわけで、ほんの出来心なんです領主様。  
どうかお許しください。いやまじで」  

 言ったのは小管だった。あの、小管だった。  
つまりは私だ。  
 ロバっぽい動物に乗って自宅に帰還する小娘を、  
点在する丈の高い草に隠れて尾行し、  
上手いこと館を見つけて進入したまでは良かったが、  
 久々に狭くて暗い場所に入ったので注意散漫になり、  
天井裏から当の領主様の寝室に落っこちてあっさりと見つかり、  
タックルを喰らって捉えられた。  
 なんだろう、ちょっと自殺したくなった。  



144  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/13(日)  18:10:39  ID:???  

「僭越ながら領主様。殺っちゃいましょう。  
さくっと晒し首を推奨します。  
そしたら領民もすこしは思い知るはずです」  

首に銀色の小刀を当てたまま、横の名も知らぬ赤い雌餓鬼が言った。  
 ちくしょう、いつかピーのピピーしてやる。  

「領主様のし、寝所に忍び込むとは、なんて羨まっ、あ  
いや、えっとその……不届きな!  万死に値する!」  

 もう一人、火病を起こした黒い長髪の娘が威嚇してくる。  
効果音はキシャーてな感じだ。  
 人間は一回しか死ねないよ?  と言おうとしたが、  
動脈が盛大に抉られそうなので心に留めておく。  

「キリ、アイシャ、だめ。落ち着きなさい。  
殺したらどうなるか、賢い貴方達になら分かるでしょう?」  

 よしいいぞ、コウちゃん。その調子だ。惚れそうだ。  

「な、何でこんな奴を庇うんですか!  
っは、まさかこの俗物にほれ、ほれほれ、惚れて!」  

 ごめん。前言撤回。僕ちん、年上が好みなの。  

「アイシャ、彼はね。この地方にいる異世界の戦士達の、  
その司令官、将軍なのよ?」  


145  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/13(日)  18:12:14  ID:???  

 黒いのが顔全体で驚愕を表現した。  
 赤い方は無表情だが、顎の下の小刀が僅かに動く。  

「……僭越ながら領主様。僕には信じられません。  
影武者、他人の空似、そういった可能性はありませんか?」  

「そ、そうですよ!  護衛の一人もいないし、  
あたし達に捕まる将軍だなんて本物のはずがありません!」  

 ……鈍ったのかな、体。帰れたら鍛えなおさないと。  

「黒い髪の黒い瞳でその顔ならば、  
他人の空似と言うことはありえません。  
それに、影武者でも、本物でも、それは些細なことです。  
帝国のようになりたいのですか?  
今ここで彼の首を取るのは簡単です。  
しかし、明日の昼には私たちの命はないでしょう」  

 いや、自衛隊は基本的に報復行動はしません。  
というかしたくても出来ません。  
 帝国の時は帝国国営の海賊が北海道に無断で上陸して、  
文民から略奪しようとしたのが開戦の切欠だったし。  
 でも胴と首が泣き別れるのは勘弁なので黙っておくことにする。  

「……分かりました。領主様。  
愚かにも下賎の身で領主様に意見を述べたこと、  
どうかお許しください。  
……そして異界の将軍様。  
無礼な口を聴いてしまいました。  
この罪は如何様にも償います」  

 ようやく小刀が首から離れる。  


146  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/13(日)  18:13:19  ID:???  

「あ、あたしはあやまんない!  
なによ!  夜這いをかけるような男なんか、  
絶対、絶対にあやまんないもん!」  

 別に夜這いをかけようとしたわけではないぞ。  

「二人とも下がってよい」  

「っ、  
最近のコーちゃん、おかしいよ!  
領主様ってそんなに大変なの?  
だったら止めればいいじゃない、  
逃げればいいじゃない。  
私はもうやだ、やだよ!」  

「もう一度言います。下がりなさい」  

 黒髪の子はクシャリと顔をゆがめて頭を下げた。  
赤髪の子も黙って頭を下げ、再度「お許しください」と言い、  
泣き出した黒髪の子を伴って部屋を出て行った。  


147  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/13(日)  18:13:51  ID:???  

「どっちの君が……」  

 私は立ったまま、この狭い国領の領主である小娘に質問をする。  

「どっちの君が本当の君なんだ?  
取るに足らない小娘――  
貧相な体を武器にして取引を持ちかけた君か?  
……それとも、ある日突然不幸にも領主になり、  
藁にも縋る思いで私の前にのこのこやって来た、  
そんな愚かな君か?」  

「どっちも取るに足りない小娘じゃないの」  

「違いない」  

 私は身を翻して窓から飛び降る。  
広い庭を突っ切って領主の大きな館から出て行く途中、一度だけ振り返った。  
 空は真っ暗で、館は大きかったが、照明の灯っている部屋はほとんど無かった。  




「昨夜はお楽しみでしたね」  
丑三つ時、WACに玉を潰されそうになった。  



234  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/14(月)  17:04:29  ID:???  

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 X月X日  
 WACから矯正を食らった、蹴りも喰らった  
小便したら血ghrさふじこ;f@えqp  

 さすがは野戦昇進した中隊長殿、  
軽快かつ容赦のないパンチキックでした  



くそ、ドキューンめ、  
いつか寝技でアンアン喘が  
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235  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/14(月)  17:04:59  ID:???  

「何書いてんの、小管君」  

「ちょっとした日記ですよ。  
プライベートです。覗かないで下さいね」  

 ここで動揺してしまえば命はなかったろう。  
が、小管は演技が上手だった。面の皮も厚かった。  
小学校演劇会では主役を張っていたこともある。  

「……ふーん。まあいいや」  

 カリカリカリ、万年筆が紙の上を滑る音だけが聞こえる。  
ここは、F世界に派遣されている陸自第13F中隊駐屯基地だ。  
通称『小管関東軍』駐屯基地。  
その中でも唯一冷房の完備された仮設テントの中でのことだ。  
ちなみに電力は太陽発電で賄っている。夜は寒い。  



236  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/14(月)  17:05:55  ID:???  

「ねえ、小管君」  

「はい、なんでしょう中隊長殿」  

 F世界移転後、本土では疫病と物資不足と過剰インフレに悩まされた。  
兎に角、物が無い。移転から七年を経た今でもだ。  
F世界に派遣された陸自は、当然のごとく自給自足が基本となっている。  
水も自分達で掘り出したものを濾過して使っているし、畑も耕している。  
春と秋には猟も行う。乗り物は今や本土から連れてきた競走馬だ。  

「……焼肉食べたい」  

「子供か、あんた」  

 なお、第13F中隊は『小管関東軍』として有名だが、  
今現在の書類上の最高責任者はWACの轟(とどろき)三等陸佐であった。  



237  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/14(月)  17:07:05  ID:???  

 カリカリカリ  

「平和ね」  

「へいわですねー」  

投げやりに小管は答えた。  

「ねえ、小管君」  

「はい、なんでしょう」  

小管は既に反射神経でこたえている。  
台詞の中から『中隊長殿』がどこかへ消えた。  

「まじめな話、あの領主はどうなの?」  

 小管の左手が止まった。  



238  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/14(月)  17:07:37  ID:???  

「……はい、中隊長殿。  
自分は回りくどい話し方は嫌いです」  

 金髪の娘がロバに乗って護衛も付けず、  
一人で異界のぐんた――自衛組織、に乗り込んできた。  
自分は領主なのだと言って……  
 そりゃあもう、怪しさ大爆発。普通は信じない。  
もちろん、真に受けて最高責任者に合わせるはずも無い。  
 件の娘は、たまたま小管隷下の小隊が対応をしているということで、  
小管がスケープゴートに選ばれたのだ。まったくの偶然だった。  

 でも、自分が中隊の責任者なのだと匂わせたのは小管の独断だった。  

 怪しむ場所はその他にも無数にあった。  
 反乱が起こっても私設軍を出さないのは何故か?  
――出さないのではなく出せないのだとしたら?  
 命の危険を冒し、恐怖の対象であるはずの異界人にまで縋ったのは何故か?  
――他に取るべき道が無かったからだ。  

 第一、領主の髪は金色ではない、銀髪のはずだ。  

「そう……」  

 轟は背もたれに体重を預けた。  
 小管は唇を噛み締めた。  



239  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/14(月)  17:08:37  ID:???  

 完全に自分たちの過失。文明人の驕りだった。  
奴隷は自由を求めてあたりまえ?  餓死者がなんだって?  
 そんな些細な理由で――当たり前に人が死んでゆくこの世界で、  
反乱など起きる訳が無い。  
 自分達がこの大草原に駐屯しているのは何故だったか?  
 帝国の残党を狩るためではなかったのか?  
 敵が此方に攻撃を仕掛けてこないからといって、残党は居ないのだと何故そう言える?  
 そう、愚民をけしかけ、戦わせているのは――  
 もう一度権力を掌握しようと意地汚く蠢くそれは――  




「じゃあ聞くわ。あんたロリコン?」  
「そっちかよ!?」  




292  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/17(木)  13:34:13  ID:???  

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 X月X日  
 焼肉パーティをやる  
 迷宮から田中&佐藤の2小隊が帰還したので、  
さぞや盛大なパーティになるだろう  
 どうせならと、領主とその愉快な仲間達を駐屯地に招待した  
 拉致して監禁をした  とも言うかもしれない  
 まあ、細かいことは気にしないでおく  

 大事の前の小事  
 より大きな正義のために、小さな悪が必要なのである、まる  
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293  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/17(木)  13:34:57  ID:???  

 第13F中隊駐屯基地は、久々に賑やかだった。  
旧帝国領に点在する迷宮遺跡の一つを制覇し、  
田中小隊と佐藤小隊が帰還したのである。  

「こんな石ころがねぇ……」  

 小管が感慨深そうに言った。肉を焼く手は止まっていない。  

「小管さんも来ればよかったんですよ。  
常温で燃え続け、熱を吸い取る石だとか、  
空気中に振りまくと重力を遮断する水とか、  
面白いものがいっぱいありました。  
あ、その結晶は記念にどうぞ」  

 駐屯地の畑で丸々と太った茄子を焼きながら、  
嬉しそうに田中二等陸曹が言った。  
 階級が小管よりも一つ高いこの男は、誰に対しても丁寧な言葉を使う。  

「遠慮しとく。  
暗くてじめじめして狭いところは大嫌いなんだ。  
本土の学者を伴うのも嫌だね。  
奴らは自分では戦わないくせに人一倍五月蝿いから、  
ついつい殴ってしまう」  

「ははは、小管さんならそう言うと思ってました」  

 田中は焼けた茄に醤油に少し付けて口に運んだ。  
ホクホクしていて実に美味い。  



294  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/17(木)  13:37:05  ID:???  

「呑んでるかぁ皆の衆ぅ!」  
「ちょ、中隊長!、今は昼です!  こら水島、脱ぐんじゃない!」  
「なんらと佐藤。わらしの酒が飲めないっつーのかよ、ああん?」  
「いや、中隊長。そういう問題ではありません。  
仕事中に飲んでは隊員に示しが……」  
「わかったわかった。  
君の言うことはよぉーーくわかったぞよん。  
色気がたりないといふのだろ?  
おーけーおーけー、それなら、わらしが一肌脱いで――」  

「おやめください中隊長――!!!」  

 小管たちの後ろでは、既に出来上がっているWACの轟を、  
髭で強面の男が付きっ切りで面倒見ていた。  

「……佐藤は相変わらずだな」  

「ええ、轟中隊長も変わってませんね。  
もう少し肩の力を抜くことが出来れば、  
佐藤さんの胃炎も治るんでしょうけど」  

「ポジションを変わってやれよ」  

 大事に大事に育てたカルビを食いながら、小管が苦笑して言った。  

「ははは、ご冗談を」  

 残った最後のタン塩を焼きながら田中は一笑に付した。  



295  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/17(木)  13:38:03  ID:???  

 それは楽しい宴だった。  

 だが、素直に楽しめない人もいた。  
 小管と佐藤と同じ七輪を囲んでいる三人である。  
 パツキンロリータこと領主のコウ・アールティン(中略)カザーンと、  
彼女のお供の赤黒い二人、キリ・アルガナシスとアイシャ・アルガナシスだ。  
 いよいよ近くの町にまで攻め上ってきた反乱軍に備え、  
汗水たらしながら僅かな防衛策を施していたところで拉致されたのであるから、  
当たり前といえば当たり前であった。  

「あの、オクダ様。これはいったい……」  

 恐る恐るといった感じでコウが聞いた。  

「ん?  本当は中隊長殿からの説明がある予定だったんだが……  
あの様子だと夜までかかりそうだから気にしないで食べてくださいな」  

 小管はそっけなかった。この男はバツが悪い時にはこうなのだ。  



296  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/17(木)  13:38:40  ID:???  

 田中は苦笑しながらフォローした。  

「どうも、ご挨拶遅れました、陸曹をしております田中です。  
今後ともよろしく」  

「あ、ご丁寧にどうも。現カザーン領領主のアールティン(中略)です。  
……あの、一つだけ教えてください。  
こちらの軍隊の将軍はオクダ様ではなかったのですか?」  

「軍隊ではなく、自衛組織です。  
そうですね。ここには全部で3小隊の200人前後が駐屯していますが、  
その内で私達小隊長の各々に指揮権があるのは50人弱です。  
ここにいる私と小管、それと向こうの――あの裸に剥かれそうになっている佐藤。  
この三人と、もう一人別の小隊長がいて、それぞれの部隊を受け持っています。  
さらに、私達四人を指揮するのが、あそこで踊っている轟中隊長です。  
ですので、全部を指揮する責任者は轟中隊長ですね」  



297  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/17(木)  13:39:38  ID:???  

「あの方が……」  

 コウの目では、どう見ても一軍の将には見えなかった。  
かたくなに自衛組織なのだと言い張るのも謎だ。  
この妙に簡易な焼肉という料理も謎だ。食ってみたら意外と美味しかったが……  
異界の戦士には謎が多い。  



「あははは、佐藤君、顔に似合わず短小なんだね……」  
「ウワァアアン!(ノД`)・゚・。」  





395  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/19(土)  02:30:21  ID:???  

 七年がたった。  
F世界に日本が飛ばされてから、今日で七年目だ。  
 移転直後、巻き起こった未曾有の混乱は、  
政界と財界と、何よりも大衆に深い傷跡を残し、ようやく収束しつつあった。  
使い物にならなくなった旧紙幣に変わり、金本位制を基にした日本新円も広く広まった。  
各地で大打撃を受けた外食産業やサービス業も、以前の元気を取り戻し始めた。  
電気ではない新動力が導入され、新幹線や車も走るようになった。  
食料自給率90%を達成し、三時のオヤツを出す家庭も増えてきた。  
子供には必ずワクチンが打たれ、病気で死んでしまう子供は減った。  

 それら驚異的な順応は、日本民族の並々ならぬ努力によって成し遂げられた。  
しかしながら、その功労者達の内で最も賞賛を受けるに恥じない者達――  
最も多くの不幸を防いだ者達は、その功績にも拘らず、何を受け取ることも無く、  
尊敬を集めるでもなく、この異界の地で眠っているのだ。  
 真実を知る者達の反応は様々だ。  
ある人は不条理だと言う。ある人は仕方が無いのだと自分に言い聞かせる。  
また、ある人はやり場の無い怒りを抱えてしまう。  
 しかし、しかしだ。  
それで良かったのではないかと当事者達は思っている。  
たとえその身に癒えない傷を負い、呪いに蝕まれ、当たり前の幸せが掌から零れ落ちたのだとしても、  
最も大事なモノを貶めることなく、彼らは守りきったのだから。  



396  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/19(土)  02:31:26  ID:???  

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 拝啓、  
 大草原で獣どもを飼育している轟です。  
 さて、この度は帝国の飼っていた駄目犬どもを追って半年。  
この何も無い大草原で半ばダレながら冒険をやらかしていたわけですが、  
どうやら駄目犬どもは他所様の家にズカズカと上がりこんでいた模様です。  
しかも家にいたゴキブリを洗脳して持ち上げ神輿に乗せ、なにやら企んでいる様子。  
 面の皮が厚いのにもほどがあります。  
その家の主人の可愛い子から、「助けて」と言われました。  
なので、助けてあげようと思います。可愛い子は宇宙の宝ですから。  
 ゴキブリ退治ごときで本土に迷惑をかけるつもりはありません。  
が、万が一情報が漏れたら五月蝿いことになりそうなので、  
一応の備えはしておいてください。  
 正式な書面(と言っても裏面ですが)は後日にまた鷹にでも運ばせますんで。  
                           敬具  
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397  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/19(土)  02:32:14  ID:???  


「ねぇねぇ、キリちゃん。  
キリちゃんてば。これなんだろ、これ。  
音が鳴るよ」  

「……アイシャ。  
善意で使用を許可された物なのだから、もっと丁寧に扱え。  
壊してしまったら弁償させられるぞ?」  

 コウは風呂上りの自分の銀色の髪に櫛を通しながら久々に笑った。  
弾んでいる黒いのと、無表情ながらソワソワと落ち着きのない赤いのを見て、ついつい笑ってしまったのだ。  

「……領主様。  
油断をしてはいけません。  
今一度現状を思い起こしてください。  
僕達は今、囚われの身なのです。  
っこら、アイシャ。ベットの上で跳ねるな!  お前はもう寝ろ!」  

 笑っていたら、コウはキリに怒られてしまった。  
 キリの心配も尤もだとコウは思う。  
けれど、だから自分達に何が出来るのか  といえば、何も出来ないのだ。  
ここは見知らぬ異界の戦士達の家の中で、ここでの私達はただの世間知らずな子供でしかないのだから。  



398  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/19(土)  02:33:15  ID:???  

「寝ましょう、キリ。アイシャも。  
考えても仕方が無いと思う。  
彼らが味方をしてくれるのなら、それで良いではありませんか」  

 言いながら、自分の容姿も捨てたものではないのだなと、コウは思い直した。  
あの小管という男にあしらわれた時は、それはそれはショックだったものだ。  
文字通り藁にも縋る思いで一世一代の演技をかまし、  
顔から火を噴きそうな台詞を吐いたのに素気無く追い返された時には、ちょっと泣きそうになった。  
 どうせ護衛をつれても反乱軍に見つかれば粉砕されるだろうと思い、  
髪を染めて、一人で恐怖に耐えながら連日ここに通ったのも、無駄ではなかったのだ。  
コウはそう思い、何日も緊張で固まりっぱなしだった頬を思わず緩ませたのだった。  

「ごほん……あーっと、邪魔してもいいか?」  

 テントの外から小管の声が聞こえた。  
やはり良い人なのだ。この人は、いつも相手のことを考えて行動している。  
そう思い、コウはまた声を出さずに笑った。  
笑ってから承諾しようと口を開きかけて、コウはちょっと遅れてしまった。  



399  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/19(土)  02:34:08  ID:???  

「……駄目に決まっている。  
僕達はもう寝るんだ。嘘吐きは絶対に入れない。  
何をされるか分かったものじゃないしね」  

 キリは、小管がこの異世界の戦士達の長ではないと知ってから、殊更に小管にきつく当たる。  
小管も内心面白くは無いのだろう、テントの外で苦笑いをしている。  

「夜はさぞ冷えるだろうと、追加の毛布を持ってきただけだ、ほら」  

 ぶっきらぼうに言って、入り口から毛布を投げよこし、そして背を向け歩き出した。  
騒いでいたアイシャはもう夢の中だ。毛布に包まっているのは遊び疲れた子供の寝顔。  
何もかもが状況にそわず、けれどそれが可笑しくて  

「あの、オクダ様」  

 コウは、この不器用な変人への礼と仕返しをするべく口を開いた。  

「ん?」  
 小管は首だけで振り向いて、歩く早さを緩める。  


「一緒に寝ません?」  
 小管はこけた。  




467  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/20(日)  19:58:35  ID:???  

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 創世神話に示され曰く。  

――始まりの世界は無形であった。  
誕生間もない世界の内で、鉄は金であり、水は火だった。  
そこでは、ありとあらゆる物が唯の指向性――  
揺らぐ界面に時の概念は無く、昨日は明日であり、明日は昨日であった。  
生まれ出ずる白き神々は純なる力に満ち、世界には境が無かった。  

 我々は、この時代を第一期と呼んだ。  

――無形の時代は長く長く続いたが、やがて終わりを迎える。  
鉄の神子であり、火の源とも呼ばれるイュウダが世界を打ち壊したからだ。  
かの神は溶岩の髪を振り乱し、世界を焼き溶かしたのである。  
溶け別れて後、冷え固まった世界からは総てが生まれた。  
空は猛りに満ち、血と鉄と火が大地を覆う戦の時代が始まった。  
その時から金は金であり、鉄は鉄だった。  
善は善であり、悪は悪となった。  

 我々は、この時から始まる時代を第二期と呼んだ。  



468  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/20(日)  19:58:58  ID:???  

――戦の時代もまた長く続いたが、やがて終わりを迎える。  
人の神たる白翼公が、火と共に悪を地の奥深くに閉じ込めたからである。  
永く永く雨が降り、大地に澱む血を流した。  
鉄は冷えて固まり、用を成さず、水に囚われた。  
世界に、青き空でも赤き大地でもない、緑の森が生まれた。  
それは善の時代。  
人の時代。  

 白翼公に始まる時代を、我々は第三期と呼んだ。  

 そして今、我々は第四期にいる。  

――訪れる第四期は、狂乱の時代である。  
地の底から亡者が溢れ、空より酸血の雨が降るだろう。  
森は焼き尽くされ、血塗れて光る刃が炭の木を砕き舞うだろう。  
白翼公の御技が解かれる時、総ては終るために終ってしまう。  
心せよ。  
囚われてはいけない。  
世界を四期で終らせてはならない。  
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469  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/20(日)  19:59:26  ID:???  

「と、そういう神話なんですが、  
これは別に迷信とか言い伝えとかじゃなくてですね。  
本当なんですよ。本当のことなんです。  
本当に無形の時代や善の時代が過去にあったんです。  
だから、私達には愚民どもを導く使命が――」  

「ああ、そうだね、うん。わかったわかった理解した」  

 こういう宗教っぽいのには真面目に答えるだけ無駄だと小管は思う。  
不可知論者を自称する小管にとっては、神なんぞよりも明日の飯のほうが重要なのである。  

「聞いてるんですかー?  オクダ様ってば!」  

「……無駄ですよ領主様。  
こういった猿にも劣る低脳下劣な輩には何を語ったとしても無意味です。  
時間の無駄。力の無駄」  

 赤い髪のキリの毒舌も、慣れてしまえば可愛いものなのだ。  
小管は山盛りの書類や親書に脳の演算を傾けながらニヤニヤ笑い出した。  
 ひょっとしてこれは、懐かれているのではないかと思ったからだ。  
いやはや、どうしたものか。まとめてヤっちまってもいんだな?  ん?  



470  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/20(日)  20:00:08  ID:???  

「もう、キリったら……  
で、ですね。神話はこう続くんです。  

――時が満ちれば、世界には指針が打ち込まれる。  
異界の大地、日の出ずる空より勇者は遣わされるだろう。  
心せよ。  
囚われてはいけない。  
世界を四期で終らせてはならない。  
千年王の時代は、勇によって立つ。  

これって、ほら、オクダ様達のことじゃないかなって私思うんです」  

 聞いた小管は噴き出しそうになった。  

 勇者?  私が勇者?  
トラウマをたっぷり食ったこの閉所恐怖症の男が?  
家族に石を投げつけられた出来損ないの私が?  
 ははっ  
 まあ、自分に何を期待するのも自由だ。  
勝手に期待して、勝手に懐けばいい。  

そんなふうに小管は思った。  
 思って、ちょっと間をおいたら腹が立った。笑いが止まった。  

 くそったれめ、この餓鬼はやはり何も分かってない。  



471  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/20(日)  20:00:53  ID:???  

「オクダ様?  どうされました?」  

 表情の変化を読み取ったらしい、コウが不思議な顔をする。  

「……君達の敵は、おそらく明日にでも攻めてくる。  
街を焼きながら、男を殺し、女子供を犯しながらだ。  
誰もいない領主の館に土足で入り込んで、勝鬨をあげるだろう。  
私達はそれを止めない。目の前で行われる蛮行を見逃す。  
それでも私達は君がいうような勇者か?」  

「あ……」  

 銀髪の小娘は黙った。  

「……っふん。  
領主様さえ守れれば愚民なんぞどうでもいいさ」  

 そうだ。物事には優先順位がある。  
個々人の利害による優先順位が、だ。  
善悪なんてものはそこに無い。  



472  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/20(日)  20:01:22  ID:???  

「そこの赤いのの言う通りだ。  
"義を見てせざるは勇無きなり"  
私の故郷の諺だ。確かにその通りだろうよ。  
だが、正義とはなんだ。ん?  それは各人の欲望だろう?  
自分に近いもの、自分の見知ったもの、自分の手の届くもの、自分の気に入ったものが正義だ。  
正義を行う者が勇者だというなら、さぞや素敵に我侭な勇者様なんだろう?  
ああ、そうだな。  
君の言うとおり、確かに私は勇者だよ。  
けどな、私にとっての勇者が君にとっても勇者なのだとは限らない」  

 支離死滅。  
 言っても無駄なことぐらいは分かっているが、言葉は止まらなかった。  
 ちくしょう、自分は疲れているらしい。  



「……それでも、私から見れば小管様は勇者に見えます」  
「そうか、なら勝手にしろ」  

 日中の生暖かい風がテントの中に吹き込まれた。  
 ありもしない血の匂いを嗅いだ気がした。  





490  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/21(月)  19:12:33  ID:???  

 領主の館がある直轄都市カザの西。  
遠い昔に活動を休止した火山が削れ、台地となったその場所で、  
一人の男が大声を出していた。  

「――一握りのブルジョワージがこの地をを支配して百余年。  
大地と共に住む我々が自由を要求して、何度彼らに踏みにじられたかを思い起こすがいい。  
我らの掲げる、人類一人一人の自由のための戦いを、神が見捨てる訳は無いのだ!」  

 馬鹿どもはこの上なく上手に踊ってくれている、――そう感じて、反乱軍を一手に取り仕切るアスタロンはご満悦だった。  

 全くもって愚民とは度し難いものだ。  
帝国が倒れた、あの悪夢のような一夜から五年が過ぎようとしている。  
帝国を故郷に持ち、帝国から総てを享受してきた元子爵たる自分はもういない。  
総てを奪われ、苦汁を舐めたこの五年は実際以上に長く感じた。  
ようやく、――ようやく戻れるのだ。あの輝かしい座に。  
 半ば形骸化した教皇領主制において、領主はつまり領内を納める王。  
王が倒され、新しい王がその後釜になることに、なんら不自然はない。  
つまりだ。あの馬鹿な小娘を引き摺り下ろせば、私が王だ。  
政敵もいない、完全な自分の国だ!  これが喜ばずにいられようか。  



491  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/21(月)  19:13:28  ID:???  

 アスタロンは優秀だったのだろう。  
彼が苦々しく思っている帝国崩壊という転機が彼の優秀さを際立たせた。  
 当時、帝国の崩壊に際して多くの帝国貴族は路頭に迷った。  
守ってやっていたはずの民衆は手の平を返して、何の権威もなくなった貴族を弄った。  
当時まだ十台前半のぼっちゃん貴族だったアスタロンにとり、それが何を意味するのかは言うまでもない。  
 彼は地獄を見てきたといってよい。  
多くの元貴族はその地獄に負けて発狂し、屍となったが、彼は助かった。  
 運による所も多かったのだろう。だが、運だけでは語れない何かがこの男にはあった。  
それがつまり、この男の優秀さである。  

 親兄弟を無くした戦争孤児。  
必要に駆られたとはいえ、その役柄を演じきった才能は飛びぬけていた。  
貴族だと言うだけで首を刎ねられる期間を、彼は慎重に忍耐を重ね、乗り越えた。  
善意ではなく肉欲で彼に近づいた豪商を利用し、身分を手に入れると、後は簡単だった。  
筋の通った教育を受けた利発な若者が動けば、自ずと結果はついてくる。  
 そうして五年。  
山賊と化した帝国兵の残党を軸に、彼は反乱軍を組織した。  
 村々から血気盛んな若者を引き抜き、軍としてはあまりにもお粗末だった領主の私設軍に内通し、裏切らせ取り込んで、従わない村は患いを失くすために完全に焼きつつ、ついに領主の首を取れる位置にまで上り詰めた。  



492  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/21(月)  19:14:12  ID:???  

「明日の夜には領主を断首台に載せよう。  
そうすれば、カザーン領は生まれ変わる」  

 心にもない演説を兵達の前でするのも、もう慣れてしまった。  
兵達は自分達の行うことを本質的には理解しない。  
一度信じ込ませれば、言われたことを鵜呑みにしてくれる。  
 赤子の心臓に刃を差し込みながら、平和を願える偽善者達……  
アスタロンは彼らを心の底から軽蔑している。  

「さあ、行こう。  
新しい時代。平和な時代。自由の時代。  
僕らの時代を創る為に!」  

 節目がないはずの時を区切り、時代と評する。  
 今このときが特別な一瞬なのだと錯覚させる。  
 過去を悪として断じて、明日は素晴らしいものと詠う。  
 そして、それを担うのはお前なのだと認識させる。  

 いつの"時代"でも変わらず多用される古典的な戦意高揚の手法だった。  
 兵から歓声があがる。  
その殆どが、顔を赤くした未だ十台であろう若者達だった。  





643  名前:  ネタ無し  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/24(木)  14:34:16  ID:???  

――久遠に臥したるもの死することなく  
 怪異なる永劫の内には死すら終焉を迎えん――  


 目が覚めたら、真っ暗だった。  
自分が横になっているのが分かる。背中に冷たい感触。  
自分は寝ていたのだろうか、何故寝ていたのだろうか、――分からない。  
右手を動かして、顔を触ってみる。左手で体を支えて、上半身を起こしてみる。カサリカサリと布が擦れる音。  
頭に上っていた血が落ちる感覚。少しの眩暈。  

 目が慣れてきた。顔の前の掌を見つめる。ひたすら見つめる。  
なぜだ?  いや、まて、何かかがずれてる。ちがう。違う気がする。  
いや、おかしい。奇異しい。うん、なんだ、えーと、これは俺の手か、俺の手、  
 俺、俺、俺俺おれおれオレオレ――  


――俺って、誰だ?  

「目ェ、ザめた  のか?」  

 急に甲高い声がしたから驚いた。頭を巡らして声の元を見ようとするが、暗くて見えない。眩暈が酷くなった。  
なんだ。誰だ。ここは何処だ。お前は、俺は、なんなんだ?  
 背筋を駆け上がる千の虫は恐怖。心臓が波打ち、肺が膨らみすぎて苦しい。赤子のように、泣き叫びたくなる衝動が――  

「ナんだっ、見え  ナいのか。姿と同じく人間と  同じカ。不便な」  

 何を言っている?  人間と同じ?  俺は人間じゃないのか?  お前は人間じゃないのか。なら何だ。お前はなんだ。  


644  名前:  ネタ無し  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/24(木)  14:35:13  ID:???  

「言葉を持たぬのか。口はあるのニ。よもやその姿、擬態か?  ――頭の中を覗かせてもらうぞ」  

 こめかみにちくりとした痛み。刺された?  
 明かりがほしい。気が狂う。  

「ふむ、やはり見えぬのカ。明かりをつけてやろう、――これでどうだ?」  

 無音で闇が反転する。  
反射的に右手で目を庇ってしまう。  

「安堵せよお客人。覗いたのは表層のみ。童(わらわ)は礼をわきまえとる故な」  

 だんだんと目が慣れてくる。  
手を下ろすとそこには――  


選択肢  
1)巨大なタコの化け物が  
2)ちっちゃな女の子が  
3)その他  




649  名前:  ネタ無し  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/24(木)  21:37:21  ID:???  

「安堵せよお客人。覗いたのは表層のみ。童(わらわ)は礼をわきまえとる故な」  

 だんだんと目が慣れてくる。  
手を下ろすとそこには――  

「人間種にまみえるは久々じゃ、童もうれしい。ゆるりと過ごされてくが良い」  

女の子がいた。  
女の子、だよな?  

「……ふむ、口はきけるのだろ?  なにか申せ」  

 そういって、その女の子は目と思わしき器官を世話しなくうごめかせ、こちらを睨み付けた。  
ちょっと怖い。いや、かなり怖い。  
 とにかく、何か喋らねば。  

「あー、うー、っとととと……、ここは何処?  俺は誰?」  

 あほな質問だが、切実ではあると思う。  
自分について分かっていることといえば、自分が人間であるらしいことと、ここに居る女の子に客人として迎えられていること。  
だから、まずは自分と自分の在る状況を確認しなければならない。そうであるはずだ。  
 見ると、女の子は満足そうに頷いるようで、口元?にある触手を蠢かしている。  



650  名前:  ネタ無し  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/24(木)  21:37:41  ID:???  

「ふむふむ、哲学的命題とは恐れ入る。ではまず、一つ目の質問に答えよう、――そなたの感覚器官は丁稚な作りゆえ、眼で観た方が早かろう」  

 なにやら勘違いされたようだ。  
女の子は軽く水音を滴らせながら、背をむけ這い進み出した。  
ようやく周りを見渡す余裕が出来る。  
自分がいるのは、石で囲まれた大きな大きな部屋の中で、その部屋はやたらと天井が高く、四方の壁と床は水濡れていて冷たい。  
 女の子が部屋に唯一存在する両開きの扉を押し開ける。  

「ではご案内いたそう。水の館ルルイエへようこそ――」  

 慌てて立ち上がる。部屋の扉も部屋と同じで大きくて高い。閉じ込められたら洒落にならない。  
そこで唐突に思った。目の前の女の子の名前を聞いていない。自分を識別できないのだから、他個体の識別ぐらいはしておきたかった。  

「ごめん、質問を増やしても良いかな」  

「む?」  

 拒否する感じはなかった。  
俺は女の子の濡れた背中に向かい、小走りで追いかけながら尋ねる。  

「君は誰?」  

「童か?  童は――」  



741  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/11/27(日)  15:45:00  ID:???  

ネタ投下  

正しくない日本召喚の仕方  

 現地時間西暦2021年8月5日午前2時ジャスト、太平洋の西側上空で円盤状の歪みが発生した。  
その直径、およそ五千q、中央の厚みは八百q。電熱層から第三衛星高度を貫き、宇宙空間にまで到達している巨大なものだった。  
幸いにも夜であったため、レンズ効果による温度上昇は無かったが、天文学者や気象学者を驚かせたこの異変はまず、地上へと押し出された空気による『突風』と言う害をもたらした。  
直下に存在していた総ての窓ガラスが割れ、木造の神社が空を飛び、自動車は木の葉のように舞った。  
 だがそれも、続く大異変の前兆でしかなかった。  
 圧縮された空気だと思われる、僅かに青みがかっていただろう巨大なレンズ。  
近づいてみれば、そのレンズの表面に幾何学の模様が存在していたことが分かる。  
外周から中央へと向かう模様は無数の象形記号によって紡がれたものだ、その一つ一つがこの世界では失われた『力のある記述式(ワード)』であった。  
つまり、馬鹿げたことにこのレンズは、巨大な積層型方陣だったのである。  
 午前2時5分32秒、記述式(ワード)のそれぞれから光子一個分ほどの因果操作率を汲み上げた方陣は、空間の厚生を利用してそれを陣の中央へと収束させる。  
やがてそれはビー球一個分ほどの多次元幽光体(エクト・アストラル)となって固まり、時間と空間に針の先ほどの門を開けた。  
 かくして日本は飛んだ。質量の軽い地殻を引っぺがしながら、方陣は周囲の空間もろともに自身を定率圧縮させて門を潜り抜け、あらかじめ仕込まれた通りに自壊した。  
 午前2時5分48秒、一つの世界から一つの国が消滅し、別の世界にほんの僅かな質量増加作用を成した。  







888  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/12/04(日)  16:08:05  ID:???  

 銃。  
これは実に不思議な武器だと思う。  
いや、その仕組みだとか、形だとか、そういう外面以前の話で、なんというか、そう――、  
……匂いが違う。  
血の匂いがしないんだよね、銃には。  
 たとえば剣だとか、槍だとか、オーソドックスな武器を見れば、うん。  
そういう鉄で創られたものって、振るえば振るうほど血の匂いが染み付くものなんだよ。  
鬼気とでもいうか、武器自体になにやら重いものが宿ってくる。  
戦いの場に出ると、そこに宿った何者かが脳みそに語りかけてくるんだな。  
『俺を抜けー、あいつを殺せー、血を飲ませろー』  ってね。  
んで、身体が熱くなってくる。そわそわして、きょろきょろして、殺してやるぞーって、そういう気分になる。  
 けど、銃は違う。  
血の匂いはしない。  
凶悪な匂いってものが、なにやら其処だけ抜けてるかのように、無色で透明な、そんな匂いしか発しないんだ。  
戦場に立つだろ?  見つからない場所でじっと目を凝らして待ってる。大体は既に弾を込めてる。  
敵が興奮してたり、恐怖したりして叫んでるのを尻目に、こっちは冷静に構える。  
銃と一体化する。化合する。冷静に冷静に自分を押さえつけて狙い定める。気配は絶対にもらしちゃいけない。  
そんで、打つ。引き金を引く。パーンっと紙を打ったような軽い音がする。相手が倒れる。  
その動きってのは、最小限なんだ。とても小さな動き。針の穴みたいな、鼠のケツみたいな動きだ。血の匂いなんかぜんぜんしない。軽いんだよね、とっても。  



889  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/12/04(日)  16:08:25  ID:???  

 もちろん、銃にだって何かが宿ってくる。  
けれど、それは剣に宿る野生の獣のようなものじゃなくて、なんというか、とっても優しくて冷徹なものなんだよ。  
イメージとしては、んー、そうだな。……『お母さん』かな。  
僕らはそれを『精霊(ムラサメ)』とか『女神(アムル)』とかって呼んでる。  
剣とか槍とか杖をとかを使う人は笑っちゃうかもしれないけど、戦いの前には必ず『精霊』に祈るようにしてるんだよね。  
ぴかぴかに布で磨き上げてさ、『今日も僕を守ってね』なんて心の中で思うんだ。  
僕らみんなで、静かな部屋の中で椅子に座って、銃を両手に抱えて、目を閉じて祈ってたんだ。  
すると不思議なもので、上手いことに敵の大将を一発で倒せたりする。  
逆に、祈りをする時間が無くて、精霊に拗ねられると、何度撃っても当たらない。  
当たっても場所が悪かったり、そんで見つかったり、危なく切られそうになったりする。  
そういう時は魔術で切り抜けたりするけど、やっぱりすごく怖い。反面、すごく楽しくもあって、どきどきわくわくする。  

 自慢じゃないんだけどさ、僕って、けっこうこの辺りじゃ有名な銃使いなんだ。  
他の銃使いがみんな逃げたり死んだりしたってこともあるんだけどさ、かなり有名だと思うよ。  
この間なんか――  




258  名前:  ネタ投下  ◆NKC4RAkJMA  2005/12/17(土)  14:20:16  ID:???  

「建前はどうでも良いのだ、雑種>>255」  

 玉座に在りて、キング・トレボーは>>255の上申を遮った。  
トレボーの声は老獪かつ清涼、その眼は爛々と野獣のごとく輝いている。  
王は立ち上がった。居並ぶ騎士達がどよめく。  
 王は言葉を続けた。  

「なるほど、さすがは真理と嘯くことはある。  
 よく出来た絵空事だ。  
 我が民の内でも極めて愚かな者ならば、まあ信じるだろう――  
 ……が、残念だったな、異界の雑種よ。我を謀るにはちと足りん」  

 キング・トレボー  
 金色の獅王  
 青眼の高貴なる獣  
 王は座に在りて不滅なり  
 素は古  基は真  詠う風には靡かない  

 王は無造作かつ優雅な動きで、剣を抜いた。  

「我を謀った罪として、死罪。  
 だが猶予をやろう。  
 その絵空事を我が民に信じ込ませ、兵を作れ。  
 村々を回り、愚か者の首に縄をかけ、我の前に引き出せ。  
 百日で万を揃えよ。良いな。百日で万の兵だ。  
 出来なければ――」  

 奔る銀光。ボトリと>>255の両耳が落ちた。  
絶叫が響くが、騎士達は眉一つ動かさない。  

「次には腕を貰おうか」