776  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/08/23  00:12  ID:???  

さーて、では自分も一つ投下を・・・  当てずっぽうの擾乱射撃!  
../../hobby5_army/1088/1088586701.html  
前スレ800番台かそこいらから続き(番号無くしましたスマソ)  

帝国の戦争  資料配付  

その奇妙な資料は、帝国側の出席者全員に配られた。それを見た時、アクスはそれの  
おかしな所を、いくつも発見した。まず素材は異様に白く光り、表面は心地よいほど滑らかで、  
どう見ても皮や紙でできているとは思えない、平べったいものだった。  

更に奇妙なことには、表面に書かれている文字までも全て平らなのである。手書きの  
文字なのに、筆圧によるへこみが全くない。隅に押してある判らしきものにはへこみや  
染料の立体感があるから、「へこまない素材」というわけでも無いらしかった。  

そしてそこに書かれている文字自体も、全部の資料でその形状が全く同じというのは変だった。  
普通これだけの数(十数冊)を手書きにする場合、一人で書くなどと言うことは有り得ない。  
一人で全部書いたにしても、はね方や字のにじみまで正確には再現できないだろう。  

アクスはそこまで気付いた時点で、驚きを通り越して恐怖と呆れを覚えた。  
全くニホンと言う国は、どこまで底知れず、得体が知れないのだろうか。  

彼がそんな事を考えていると、通訳の方から指示があった。  
「ではお配りした資料の、25枚目を見てください」  

とりあえず指示されたページをめくると、今度は技術的に驚くべきものは無かった。  
そこには多色刷りの版画で、兵士の絵が描かれていただけだからだ。ただ線は彫った人間が  
狂ったのでは無いかと思えるほど細かく、色もまた自然から抜き出したような鮮やかさだったが。  


777  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/08/23  00:13  ID:???  

真に驚くべき事は、その絵の下に書かれた付記事項であった。そこには小さくこう記されて  
いた。「太陽国防衛軍・一般兵の図」と。当然これを見た瞬間に、帝国側の誰もが驚愕し、  
その内の何人か−司教と将軍ら−は大声を張り上げた。  

帝国の戦争  配給元の公開  

「これは一体どういう事なのです!」  
将軍達が叫ぶのも無理はなかった。なぜなら彼らが見た一般兵の絵には、現在帝国全軍を  
後退に追いやっている謎の軍隊、悪魔の軍勢と同じ兵士が描かれていたのだから。  

草で作られた服を着て、精霊を飛ばす槍を持ち、黒髪黒目でのっぺりとした顔つきをしている。  
両者の全ての特徴は、完全に一致していた。そして下の一文も考え合わせると、悪魔の軍勢  
というのは、どうやら太陽国の軍だったと言うことらしい。  

凶暴な顔つきで睨まれた通訳は、特にその視線を気にせずにさらりといった。  
「太陽国は数月前から我々王国連合に対して、『協力』を行っていました。その一環として  
彼らの防衛軍もまた、支援兵力として参加していたのです」  

「なぜ今までそれを黙っていたのです!」  
将軍達は怒り心頭と言った感じだった。今まで自分たちを苦しめてきたのが、単なる一国家の  
軍隊であり、地獄の使いでも暴虐な傭兵でも無かった事が分かったからだった。  

「太陽国が宣戦布告をしていなかったのは、その戦力があくまでも義勇兵的な立場にあり、  
正式な参戦国では無かったからです。それに太陽国は、あなた方帝国とも国交を結んだ事が  
有りませんでしたから」  


778  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/08/23  00:21  ID:???  

将軍達もそこまで言われては、言い返すことがなかなか出来なかった。しかしそれでも  
一人の将が、苦し紛れに言葉を返した。  

「しかし参加した、という事前通達程度はあっても・・・」  
「その事に関する書簡は、確かにお送りしました。見落としが有ったか、未だに  
開封されていないのでは?」  

その言葉を聞いた途端、全員が押し黙ってしまった。彼らにとっても痛い点を  
付かれたからである。  

帝国の外相たちには日々大量の書簡が、裏表や国家個人を問わず送られてくる。  
そしてそれらには、優先順位が常に付けられる。くだらない書簡は場合によっては、  
読まれずに捨てられる事すらあった。  

しかも戦時には弱小国からの交渉願いや、さまざまな学者からの批判文といった「くだらない」  
書簡が増大するものだから、彼らの判断基準もゆるくなりがちである。だからもし未読か破棄と  
言うことになっていたら、全責任は帝国にある事になるのだった。  

帝国側の空気が最悪のまま止まった所で、通訳は軽やかに告げた。  
「しかし互いが互いを知らぬのは、不幸の元です。そこで我々は今回の会合に際して  
一つの提案を持ってきました」  

「その提案とは?」  
「太陽国特命大臣と事務官が、帝国側の政務官と両国の使節派遣・交流について  
話し合うという提案です。」  

通訳の男はさらりと言ってのけたが、帝国側は恐怖と困惑に包まれていた。  
得体の知れぬ、そして帝国軍を退けた狂軍を持つ新たな国。そんなものとの  
まともな話し合いなど、誰も考えていなかったからだ。  





362  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/09/09  03:28  ID:???  

カキコも無いようなので、ちょっとだけ投下いたしますね。  
爆弾ラックにタマが残ってる!最後の一発だ!着陸前に処理する。  
../1091/1091425925.html  
前スレ850番代以降続き  

帝国の戦争  顔合わせ終了  

「その提案、お受けいたしましょう。帝国としては太陽国との対話を望みます」  
周りの将軍や官僚が混乱する中、政務長のアクスだけは冷静な態度で返答した。  
当然周りから様々な視線を浴びせられたが、それを完全に受け流した。  

アクスは会議前夜の時点で、太陽国が王国連合とは全く異質な存在であると  
理解していた。ならばこの太陽国、つまりニホンという奇妙な国の情報は、  
少しでも多い方が帝国に有利だと判断していた。  

そして彼は、周りの者に向けてこう述べた。  
「この話を断ることに意味はありません。受けなければ何も分からなく  
なるだけですぞ」  
この一言には反論のしようもなく、しぶしぶながら他の参加者も同意を示した。  

そして帝国・太陽国間の交渉が約束され、議題は転換された。といっても元々  
会議自体に意味などないから、時間の消化と書類確認だけがつつがなく行われた。  

会合の終了が宣言されると、太陽国使節らを残して殆どの王は帰っていった。  
この後は細部の取り決めを行うため、使節らと政務官が数日ほど話し合うことが  
決定された。  

こうして帝国と太陽国−ニホンとの最初の接触が発生したのだった  




752  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/10/10  23:07:35  ID:???  

皆さん良い感じにいなくなった様なので、ホップアップ地雷を埋めに来ました。  
ベアリング玉代わりにパチンコ玉、外側は電気釜ですけどね?  

各(隔)スレ書きSS  帝国の戦争  あらすじと前書き  
../1093/1093789059.html  362続き  

帝国と太陽国が出会うまでの話は、これで終わりである。そしてこれから先の  
話は、この戦争の前段階の話となる。帝国がいかにしてこの戦争を始め、そして  
どのように敗北し、太陽国と出会うまでの状況が作られたか、それを描いていこう。  
***********************************************************  


753  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/10/10  23:09:07  ID:???  

強大な軍隊と軍備を持つその国は、諸外国から「帝国」と呼ばれていた。世界最大の  
大陸「ハートランド」の中央に本拠を構え、多種多様で広大な領域を支配する大国として  
君臨する国であった。  

しかしその威容は大陸中央とその周辺にしか及ばず、世界を握る国たり得ては  
いなかった。つまり地域覇権国家と言うことである。  

なぜ帝国が世界一になれないか?その原因は、概ね次のような物だった。  

強大な軍隊の建設と維持には、大変な労力がいる。物を作るには一切役に立たない連中を  
抱え込んで、食糧と土地と高度な武器を与えているのだから当然なのだが。  

しかも広域を支配するためには、その頭数も多くなければならないのだ。辺境防衛を民に  
負担させ、大量に傭兵を雇ってもなお、数は足りていなかった。  

唯一の救いと言えるのは、帝国領内はあまりに広く多様な環境を持つために、長期戦や  
深い侵攻が難しいと言うことだけだった。  
26  
だがそれは軍人にとっての利点でしかなく、政治の関係者からすれば頭痛の種に  
過ぎなかった。なにせ環境が色々なため、そこに住む住人も複雑化してしまうからだ。  

言葉・産物・宗教・種族・気性、ありとあらゆる物が違いすぎて、効率的な統治方法が  
確立できないどころか、国内に自治と直接統治と間接統治が入り乱れている程の惨状だった。  
もっともこれは、大抵の征服国家が抱えてきた問題ではあるが。  


754  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/10/10  23:10:05  ID:???  

そうしたわけで、帝国は数々の輝かしい戦勝と征服の歴史を持っていたが、内実は結構な  
問題を抱えていたのだった。しかしその問題の解決策は、はっきりしていた。  

金だ。  

金かねカネの世の中よ、とは良く言った物で、帝国の抱える問題の全ては『金』で解決が  
可能な問題でしかないのだ。  

食糧、武器、給料、官僚の育成機構、兵隊、その他諸々。帝国を盤石にするための要素には  
全て金がかかり、逆に言えば金さえ有れば支配はずっと楽になる。傭兵は裏切らず、軍隊は  
強い武器を得て戦いの専門家になれる。各地に官僚を送り込む事も、蛮族を教育する事も  
夢ではなくなるのだ。  

帝国は世界に君臨するために、国をもっと豊かにするために金を求めていた。  

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756  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/10/10  23:11:12  ID:???  

「我が帝国に千年の安泰を築くには、まず国内工業の強化こそが最優先なのです!」  
「いや、今こそ新天地に活を求めて動くべきだ。植民を以て国富を増やすのが望ましい」  
「それよりも西方との通商確保に努めて・・・」  
「くだらん、どれも実に下らん意見だ!南部の征服を行えば良いではないか!」  
「現状では国内の防備と安定を図るのが最大の良策かと存じますが」  

帝国大会議は、様々な意見が乱立して混乱していた。如何にして国富を増強し、勢力を  
維持・拡大していくかを話し合うこの会議は、常に荒れる傾向にある。方法がいくつも  
存在するため、どの部門も自分の利益になる方法を考えるのにやっきだからだ。  

どの方法が正解かといえば、全てが正解と言える。だがもちろん全部を同時にやる事は  
出来ないし、やる意味もない。だからこそ自分の所属する組織に最も有益な計画こそが、  
最も優先されるべき計画になってしまうのだった。  

会議参加者の将軍や諸侯らは帝国の未来よりも、基本的には自分たちの利益に重きを置いた  
計画を考えている。しかしこれは悪い事ではない。何故なら諸侯とは矮小化された国王に  
過ぎないから、言ってみれば彼らも国家利益を最優先しているのだ。  

逆に皇帝直属の官僚団は、「帝国」(正確には帝国という枠組み)の利益を追い求めて  
居るため、諸侯や将軍との意見が対立してしまう。そして領地と権益を持つ者同士だから、  
どうしても譲れない一線が出来てしまい、対立は激化しやすい傾向にある。  

そんな両者の争いは収まることなく、会議は四分五裂と言った状態だった。しかしその  
騒然とした状況も、永遠に続くわけではなかった。  


757  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/10/10  23:12:43  ID:???  

「まあまあ、皆そう興奮せずとも良かろう。このまま話し合う前に、まず帝の御言葉を  
伺おうではないか」  
調停に入ったその声は、若々しさはないが良く通る声だった。その声を聞いた何人かが  
喋るのを即座にやめ、それに気付いた他の者もすぐに押し黙った。  

争いを止めたその声の主は、法皇ナーク4世である。法皇と言うのは要するに「帝国  
教会の総元締め」であり、数多の信徒(つまりは一大財源)を握る男であった。  
そして信徒の中にはもちろん諸侯もいるから、彼の言葉を誰もないがしろにはしない。  

聖職者であり出席者中では最年長者でもある彼は、見た目だけでも禿頭に白い帽子、  
鷲鼻で顔は丸く色白、服も白い礼服と言った出で立ちで、出席者の争う気分を  
押さえ込む効果を果たしていた。  

場にいる誰もが静かになり、部屋の最も奥にある席に注目した。一番豪華で荘厳な装飾  
をされたその椅子には、「帝国」最高権力者たる皇帝が座っているからだ。  

「私はまず、皆が上げた全ての考えとは違う計画を述べると言っておく。その計画を  
皆が考え、その上で他の計画について主張して貰いたい」  

先程争っていた全ての声よりも若いそれが、最奥の席から発せられた。その声こそは  
現在の帝国皇帝、ベイル5世の物だった。だが若いと言っても彼は顔中に濃茶の髭を  
生やしているし、髪も肩まである。そして何より妻と3人の子持ちだ。  

若いというのは、出席者との相対的な差に過ぎない。ナークや他の諸侯と比して、彼は  
まだまだ若く見えるというだけである。  

その若い主君たる彼は、全員が注目したことを確認すると再度口を開いた。  
「まず計画を良く理解するために、これを見て欲しい」  


758  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/10/10  23:14:39  ID:???  

彼は諸侯にそう告げると、従者ら数人に絨毯のようなものを抱えて来させた。  
巨獣の皮で作られたらしいそれは、大人が三人寝ころんだほどの幅がある。その巻物は  
すぐ皇帝の後ろに釣り下げられ、空気を揺するほど大きな音を立てて広げられた。  

次の瞬間、ある諸侯は驚きに息を呑み、またある諸侯は思い切り後悔の念を覚えた。  
皇帝の背後に大きく広がった巻物の中身とは、帝国領域の大地図なのであった。  
::  
「私の計画は戦争だ。ただし、攻めるのは南方の蛮地でも西方の山河でもない。私が  
求めるのは只一つ、東方諸国への懲罰だ」  

その演説が始まった途端、何人かの諸侯が更に心中でほぞを噛んだ。帝国領全土の姿を  
背負った皇帝からは、途方もない威容が放たれていたからだ。恐らくこれ自体が計算  
された演出であり、会議の流れは皇帝が握ったことも理解できていた。  

数人が平素な顔で暗い空気を放つ中、他の諸侯はまた違った反応を見せていた。目を  
伏せる者と目を輝かせる者、そして瞳に暗い炎を宿す者と様々だった。  

しかし反応こそ多様だったが、彼らの思考はすでに反論から戦争へと傾き始めていた。  
まずこの時点で、皇帝は策の第一手目に成功したと言える。そして既に第二手目も、  
彼の胸中には秘められていた。  




791  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/10/12  01:11:59  ID:???  

本当にだれも居ないようなので、クラッカー投げておきますね。  

時に西暦1989年、ジャンとナディアは・・・じゃなかった、北海道と樺太と北方領土  
はそろって仲良く異世界に飛ばされてしまった!これはそんな異世界における、血と肉と  
鉄と、そして殺意の飛び交う戦争のお話である。  

「親愛なる魔王陛下と、偉大なる魔王宮へ向けて、敬礼!」  
純白の雪と雲が支配する空間に、どす黒い為政者へと捧げられる言葉が響き渡る。  
その次の瞬間には、精悍な顔をしたつわもの達が一糸乱れぬ最敬礼を中天に行っていた。  

空を見上げる整然たる隊列の上を、黒い菱形となった竜の群がいくつも飛び交っていく。  
自然の竜にはあり得ぬほどに美しいその群れは、魔王と彼らの絆の固さを指し示すかの  
様に強い結束をもって動いていた。  

「敬礼やめ!これより師団長から、迎撃計画に付いての説明がある。総員休め!」  
師団長と呼ばれた男は、ひたすら厳つい顔に笑みを浮かべるとこう述べた。  

「恐れるな!こちらには魔王様と鍛え抜かれたお前らがいる!侵略者どもに一泡吹かせて  
やろうじゃないか!」  
男の笑みと言葉に応えてつわもの共は雄叫びを上げた。そしてそれにつられるかの  
ように、地鳴りのような魔獣達の咆吼が辺りを揺るがせた。  

この士気と魔王陛下から賜った戦力が有れば、泥棒共などすぐ海の向こうに叩き返せる  
だろう。そう思いながら、師団長はいっそう凶悪な笑みを浮かべていた。  
*************************************************  


792  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/10/12  01:12:46  ID:???  

『魔王』と名乗るこの世界の超越者と、彼らが接触したのはおよそ3ヶ月ほど前の話  
である。その始まりは、空に映し出された巨大な映像からであった。空を殆ど半分覆う  
ような影のスクリーンに、歪んだ闇が突然映し出されたのだ。  

誰もが驚きながらそれを見上げると、その闇は彼らに問いかけた。  
【我は、魔王。汝らの望む物を与える者なり。汝らの望む物は如何なりや?】  

「食べる物を!例え僅かでも与えられるならば、食糧を!」  
この頃彼らが貯蔵していた糧秣は、既に払底しかけていた。だから誰もがこの突然の  
申し出に、期待と諦めの入り交じった声で答えた。  

【我は、魔王。神には非ず。我の与える全てには代償を求めるが、それでも良いか】  

魔王と名乗ったそれは、正に悪魔のような取引を仕掛けてきた。望む物はあるが、対価を  
払わねばそれを寄越さない。その対価については何も言わないまま、契約の成立後に  
全ての要求を突きつけるという基本的だが効果的な手段である。  

「何を求める!この命か?魂か?それとも憎しみや怒りの力か?」  
誰もが焦れたように、空に広がる闇へと問いかけた。飢えた人間はパン一切れで命を  
捨てるが、彼らの心もまた同じような気分に支配されかけていたのだ。  


793  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/10/12  01:16:21  ID:???  

【命か。あるいはそれも求めるやも知れぬ。しかし我の欲するのは、それだけではない。  
汝らの力をよこせ。戦士として我に使え、我が敵を討ち滅ぼす剣となれ。誓えるか?】  

「誓う!戦うのは俺達の仕事だ!」  
ほとんどいちどきに誓いの言葉は沸き起こった。彼らは何もせずに飢えて死ぬよりは、  
僅かな望みに賭ける方を選んだのだ。  

その言葉に応えるように闇は消え、どこからともなく食糧の山が現れた。その事は  
本来不気味に思われるべき事だったが、その事は誰も気にしなかった。これが魔王と彼ら  
との契約の始まりとなったのだった。  

その後使役者たる魔王からは、この世界で『神』を名乗るもう一人の超越者と戦っている  
こと、その神が自分たちを含めた異世界人を召喚したことなどが教えられた。  

だがしかしそんな事は、彼らにはどうでもよかった。飢え死にするのを待つだけだった  
自分たちに、食の保障を与えてくれた。それだけでも忠誠を尽くすのには十分なのだ。  

そして魔王は、彼らからすれば酷く優しい存在だった。流石に近代兵器こそ作れない  
ものの、魔王は自分で産み出した竜や魔獣を戦闘用に配属してくれたのだ。地上戦力の  
不足を懸念していた彼らからすれば、その事は感涙すら流せるものであった。  

こうして彼らはより強く魔王への忠誠を深めていき、戦いへの準備を進めていった。  
来るべき日の、神と神に率いられた敵軍の打倒のために。  
*******************************************************  


794  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/10/12  01:17:09  ID:???  

そして、今−  
「敵上陸軍の狙いは、間違いなくここサハリン油田である!ヤポンスキー共は我々と  
違って、民間人を大量に引き連れている。だから工業生産を再開できなければ、労働者  
達は資本家のブタどもをなぶり殺しにするだろう。奴らはそれを防ぐために、そして  
民心の敵意を汚くも我々に向けるために、必ず戦争を仕掛けてくる!」  

そこで一旦言葉を切った師団長は、詰めの言葉を言い放った。  
「資本主義のブタ共と、薄汚い神の侵略軍を我々は止めなければならない!全力で戦い、  
奴らを海峡の向こうへと追い返すのだ!」  

師団長の演説に、青い目と白い肌の軍団は一斉に怒号を上げた。  
「汚い東洋のサルどもとクソったれの米帝に死を!」  
「魔王陛下に勝利を!そしてブタに手を貸す神を消し飛ばすのだ!」  

共産主義の観念から行けば、神などというのは忌むべき存在である。もっとも魔王とて  
本当は同じなのだが、魔王に関しては「共産主義の救い主」という事にしていた。  

神に従う自衛隊北海道駐留部隊の「樺太保障占領作戦」と、魔王隷下の極東ロシア軍の  
防衛計画「魔王の両腕」は今まさに正面衝突の時を迎えようとしていた・・・  




651  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/11/16  19:13:24  ID:???  

>>637自分も期待してみます。ドラゴンはやはりファンタジーの華、強くあってこそ  
正に王道でしょうから、大丈夫かと。  

考えてみた海軍(海戦?)ものネタ。  
「海竜は確かに弓矢じゃ倒せないだろう。他の竜が硬い以上、アレもかなりの  
タフネスを誇るだろうからな・・・しかしこんな手を使うことになるとは」  

さほど荒くない海でも、この船はあまり乗り心地がよくない。木造の沿岸用小型  
帆船では、それもしょうがなかった。技術的な未熟さや、レジスタンスに金が  
ないのも一因ではあったが。  

「まあぼやいても仕方ありませんや、やることだけはきっちりやりましょう」  
日に焼けた陸曹が、岩のような笑顔で発破をかける。肩にはごついカールグスタフを  
構えており、その様は歩兵としては最高に様になっていた。もっとも背景は海で  
あったし、狙う獲物が竜と来てはまぬけさすら漂う。  

−異世界に転移した俺達普通科中隊は、なぜか陸ではなく海で戦っていた。  
対戦車兵器はこの世界のどんな魔法よりも速く、そして強力であり、事態は  
海の方が陸より深刻だったからだ。−  

魔法も弓矢も通用しないシーサーペントと、それを動力とした巨大戦艦は強かった。  
そのせいで帝国海軍は、王国海軍に常に負け続けていたほどだ。しかし俺達の  
持っている武装なら、そのパワーバランスを突き崩せる。  

「しかしなあ、北朝鮮と同じ戦法ってのはやっぱ・・・」  
「将軍様マンセー!とか叫びますか?気分出ますよ」  
「やめとけ。そろそろ射程に入るぞ、他の班員に連絡」  
「了。各班に通達、これより敵の竜戦艦に対し攻撃態勢に入る!」  
「よし、総員対戦車兵器発射!攻撃後急速離脱せよ!」  

海上に何本もの煙の尾が引かれ、発射炎が煌めいた。数秒後にはこの何倍かの  
爆炎と爆風が現れて、海竜の無敗神話を肉片に変えることだろう。  





832  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/11/21  22:30:21  ID:???  

「さーて、どちらさんもこちらさんも、さっさと掛かって来なさい!」  
「あの野郎化け物だ、俺達の力をねじ曲げやがる。魔導士だ」  
「別にそんなもん使ってないって。単なる柔術。ほれカモンベイビー」  
「ふざけやがってクソヤロウがぁ!」  

全力で殴りかかった男が、即座に頭と足を反転させられて地面に倒れる。  
足元を払われ、攻撃を流されてしまったのだ。顔面を小石でズタボロにされた  
男は気絶してしまった。  

「さー、次はどいつが吹っ飛びたい」  
「そこの葉っぱ野郎、俺様が吹き飛ばせるかな?」  

緑の服を着た異邦人に、禿げ上がった巨躯の男が挑みかかる。植物模様の服を  
来た異人が構えを取ると、男はその体を一層膨らませた。見る間に全身は黒い毛に  
覆われ、耳や口の形状が変化していく。  

「クマは俺の担当じゃない。パス1でよろしく!」  
軽い口調で緑の異人はそういうと、すぐ後ろにいた相手にタッチをかける。  
異人の背後には、葉っぱ模様どころか植物そのものを纏った大女がいた。  

「よし、今夜はぱーっと飲みまくれるねえ?」  
「グガアアアア!(ふざけるなこのアマァ!)」  
もはや熊そのものと化した男は、立ち姿勢から爪を振り下ろす。が、女は  
既にそこにはいなかった。ただ残像だけが、虚しく胸元を引き裂かれる。  

「うちの山のヌシに比べたら、あんた程度は小熊みたいなもんさ」  
女は余裕しゃくしゃくにそう言い放つと、棍棒で熊の頭をしたたかにぶん殴った。  


833  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/11/21  22:45:19  ID:???  

「おーさすがは山の大王、すげえや」  
緑の異人がそう言ったとたん、女の腰にあったL字型の木切れが投げつけられた。  
異人は素早くそれをかわしたが、後ろに回っていた男の仲間はモロにそれを受けた。  
手の骨をへし折られた男は、もんどりうって転げ回る。  

「いまマジで狙ったろ!パス分の貸しは無しな!」  
「えーなんのことかなー。ピンチを救ったから貸し2ね!」  
女がしれっとそう言い返すと、今度は異人が腰のL字の物に手をかける。  
しかし異人はそれを投げず、大きな音と光が黒いLの片方から放たれた。  

「グギャオオォ」  
いつの間にか立ち上がっていた熊の右目は、何かの力によって打ち砕かれて  
血を流していた。攻撃が乱れたところを、女がもう一度棍棒で殴って倒した。  

「貸し相殺で1な!」  
「やっぱあんたの魔法は凄いねえ。それ今度貸して?」  
「だーめ!それにこれは科学の結晶!」  

二人の蛮族が言い合っているのを、取り囲んだ男達は呆然と見ていた。熊の獣人を  
殴り倒す女と、けったいな緑の魔法使い。女の方はまだバーバリアンかアマゾナス  
だと分かるものの、男の方はもはやおとぎ話の世界だった。  

「俺らおいてきぼりだな・・・帰るか?勝てそうにねえし」  
「だな。も、いいや」  
男達は帰ろうとしたが、振り向いた一人が逃げようとした先に吹き飛ばされた。  
「帰れるとおもってんの?無事に」  
「金を置いていってもぶちのめすよ。賞金首いるだろうしね」  

まるで悪魔の声を聞いたような顔になって、男達は走り出した。  
「勘弁してくれー!」  


834  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/11/21  22:59:37  ID:???  

蜘蛛の子を散らすように男達は逃げ出したが、彼らのうちで逃げ切れた者は  
ただの一人だった。そしてほとんどの者は、即日当局にご用となった・・・  

本日の戦績  
軽犯罪者×12  銀貨15枚  
重犯罪者×8    金貨1枚  
獣人「ベアハッグのゴズ」死体なので金貨3枚(生け捕りで10枚)  

・・・備考  食糧アイテム『熊の手』×1  東方で珍重される食材。うまい。  

「おーいヤマノノリオ=リクイ!あんたのそのピストルっての、貸してよ!」  
「繋げて呼ぶなっつっとろうが。あと自然の戦士なのに、使うなよ科学の武器」  

「カガクは気にしない。あたしゃ自由派だからね。弓矢よりも強い飛び道具は  
やっぱ憧れよねー。だから貸して」  
「もっとましなモンに憧れろよなあ。そして貸さない」  
「んじゃ、今日は全力でヤケ酒とヤケ喰いしてやる!貸し1使うよ?」  
「・・・ごめんなさい、試射一回で勘弁して」  
「やっぱ十回くらいじゃなきゃ。ねえ?」  
「弾丸が少ないので3回でお願いします」  
「じゃー今日は十軒くらい飲み潰そうか。乱闘もいいなあ」  
「わーった!分かりましたよ!五回!腹切りの精神で!」  
**************************  
ラノベどころじゃねえやコレ。冒険者とかよくわからんので、昔読んだ漫画の  
ノリで書いております。うう、俺の体現出来る萌えなどこんなもんだ。  





836  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/11/21  23:14:14  ID:???  

あ、直書きしてすいませんでした。  

冒険者というかそういうのって、基本的にお気楽なんですよね。世界の運命に  
関わる関わらない関係なしに。  

「おざなりダンジョン」とか「ビバ!うさぎ小僧」て感じですかね?  
とにかく悪ノリ反則裏技を駆使して、正当サーガを出し抜くのが冒険者たるの  
由縁って気がします。  

<<こざかしいわ勇者め!貴様ごときの力で、ワシに勝てると思うてか!>>  
「魔王め、ならばこの聖剣を受けてみよ!おおおおっ(ダッシュ)」  
「構え!護符使用84、テーッ!」  
<<グアァァアァッ!ワシの、ワシの千年の悲願があぁあ>>  
「目標沈黙!王座に帰還ゲート出現しました」  
「貴様らあぁ!なぜ魔王にあのような攻撃をした!」  

「お前古文書スクロール読み飛ばしてたろ。その聖剣が魔王本体で、さっきのは  
残留思念が辛うじてとどまってただけの奴なんだよ」  
「そ、そんな。これではわたくしの今までの旅は何だったのだ」  
「さあ?まあ次の目標は出来たな。その剣どっかに封印してこい」  
「そんじゃ我々は帰りますんで〜、さようなら」  
「待ってくれ、こ、この辺にはまだ魔物と猛獣が」  
「聖騎士さまならその程度、自分で何とかせい!」  
*********************************  
一部某ゲームネタが入っています(笑)  




20  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/11/26  23:06:41  ID:???  

それでは自分が一つやってみますかね・・・小学生よりは上手く書きたいものです。  

ジエイタイと呼ばれる連中は、ほとんどバケモノの軍隊だ。鉄で出来た巨大な  
イモムシを自在に操って、こちらの騎士も農民も、全てをその足で押しつぶしていく。  
口から吐き出される針の一撃で、アイアンゴーレムさえも崩壊させる。  

しかし、相手は全てを打ち砕く神や悪魔でないことも確かだ。ならば。  

「今日はあのくそ芋虫どもを、どろどろのスープに変えてやる日だ!」  
俺は俺の率いる部隊に向かって、大きくそう叫んだ。それと同時に部下たちからは  
激賞と歓喜の雄叫びが−上がるはずもなかった。ここには部下を睥睨するための  
大舞台など存在しないからだ。  

それどころか俺がいるのは、暗くてじめじめとした穴蔵の中なのだ。サンドワームと  
作業用ゴーレムの掘った地面の穴に、強力な防御魔法を施すことで一種の防塁として  
機能するようにした、戦闘用のスペースなのだ。  

騎士物語に憧れる兵達には、辛いにもほどがある作業だった。泥や朽ち葉や動物の糞に  
まみれながら、重い魔法筒やら危険な魔法弾を上げ下ろししていく様は、ほとんど  
アリかモグラ獣人さながらだったからだ。  

味方には笑われ、蔑まれ、そして敵の物真似に過ぎない無能の行動だと言われた。  
兵と騎士としての誇りを捨て、悪魔どもの薄汚い戦いをまねるだけのクズだと、  
俺達はそういわれたのだ。  

だから俺達は、自衛隊に勝たねばならない。絶対にだ。  


21  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/11/26  23:34:50  ID:???  

俺の言葉に反応した兵は、大半が農兵か工兵だった。彼らは元々が隧道掘りや  
城の建築土方など泥まみれの仕事ばかりだから、汚れを特に気にしなかった。  

それにもろに敵の攻撃に晒されるよりは、穴蔵に籠もった方がましだと理解している。  
そういう意味においては、下手な騎士さまよりは余程良い兵士と言える。  

「隊長!奴らのはらわたブチ撒けてやりましょうや!」  
「そうだ!はらわたをブチ撒けろ!芋虫のローストにしてやれ!」  
「あの忌々しい緑虫どもを、氷漬けにして鳥のエサにしてやるんだ!」  

班の責任者の一人が叫ぶと、他の仲間がそれに加わった。それが自分を  
鼓舞するという、女々しい理由ででは無いことは、声の調子ですぐに分かった。  

勝つつもりでいる。いや、少なくとも一矢報いるつもりでいる。今までの壊滅的  
敗北とは、現状が違うことに喜んでもいるのだろう。  

思わず俺も叫び返してやった。  
「そうだ!今日のメニューは黒こげと丸焼けと氷漬けのフルコースだ!」  
防塁の中がわっと湧いた時、後ろからハーフオークの面をした男がやってきた。  
そいつを知っていた俺は、嫌な野郎がきたもんだと心の中でだけそう思った。  

「今から祝勝会でもやるのかね?なかなか良い会場じゃないか。泥臭くて」  
豚面を晒したその男は、全身を特大の鎧に包んでいた。要するにまあ、幻想の中とは  
一味違う『白銀の騎士様』という奴だ。  

「はい、これはまあ前祝いです。もちろん本番はここじゃやりませんよ。  
こんな豚小屋みたいな汚い所ではね」  


22  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/11/26  23:57:29  ID:???  

豚にも嫌味を理解する知性があったのか、少しばかり顔をしかめて鼻を鳴らした。  
不快な音と共に息を吸い込んだ後、豚は俺に言い放った。  

「いいかねウィリアム君、我々は戦果を期待しているのだよ。会議であれだけ  
我々のことをなじったのだ、当然大勝利間違い無しなんだろうね」  

豚野郎はにやにやとしながら、俺に問いかけてきた。数日前の戦略会議で、  
俺は騎士階級の戦略は古いと批判し、相手の戦術を取り入れるべきだと話したのだ。  
それに対する会議の返答は、半ば懲罰的な決戦場への投入だった。  

そしてこの豚は、俺に対する見張り役というわけだ。敗北時には首狩り人に  
早変わりする、薄汚い覗き屋とも言える。俺はそんな奴に遠慮する気など  
さらさらなかったので、返答も当然それらしくなる。  

「ええ、もちろん。少なくとも一匹倒せば大戦果なのですから、楽なものです。  
偉大なる騎士サー・ゲアハルト殿」  
この洒落の意味も理解できたのか、豚はでかいケツを揺らしながらいってしまった。  
知能は低くないというのが、何にもましてたちの悪いところだ。  

豚が自分付きの魔導士の元へ行った後、しばらくして報告が入った。  
「観測眼アイボール7より報告!敵集団接近、内訳は2齢が30匹に3齢が20匹、  
それに5齢が・・・10匹です。恐らく中天の月頃に接触!」  

震えるような魔導士の声に、防塁内も思わず緊張した。2齢や3齢とは要するに  
芋虫どもの等級の事で、数字が大きいほど強いと言える。そして3齢までならば  
偶発的に押し返した事もあったが、5齢の芋虫には傷すら負わせられない。  


23  名前:  名無し三等兵  04/11/26  23:59:25  ID:???  

>>1  
新スレおめです  


24  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/11/27  00:15:24  ID:???  

合計60匹の大軍に、しかも最悪の化け物が10匹。しかしそれでも、俺は  
戦わねばならない。どうせ逃げてもいつかは負けるし、ここで逃げれば殺される。  

「総員戦闘配置に付け!」  
俺は全員に号令をかけた。訓練こそ行き届いていないが、それでも兵達は  
結構な素早さで配置に付いた。士気の高さが行動力に良く転化している。  

「各砲の確認完了、異常なし!いつでも撃てます!」  
「弾薬状態良し!護符及び弾頭も問題なし」  
「観測眼、8〜12移動中です。1〜4は指定位置に付きました」  

あちこちから報告が上がり、戦闘準備は整った。そしてその数分後、芋虫共の  
やかましい足音とうなり声が、防塁の壁を伝わって響いてきた。しかしその音は  
すぐに止まってしまい、代わりにどこかから太鼓の音が聞こえてくる。  

「全員衝撃に備えろ!砲弾を見張れ!誘爆は絶対に避けろ!」  
どんどんと遠くから響く音は、もちろん戦太鼓などではない。芋虫とは別にいる、  
ジエイタイの魔法生物の雄叫びだ。長い鼻が一列に並び、物凄い勢いで鼻息を放つ。  
するとそれが数里先まで届き、何もかもを吹き飛ばしていくのだ。  

もちろん誰もそれを肉眼では見ていない。魔法生物「飛目玉」の伝える情報を、  
魔導士たちが口伝えか共感通信で知らせるのだ。  

「敵攻撃第一波、来ます!到着まで、5、4、3、2、・・・」  
報告の途中からは、誰もが口を開け耳を塞ぎながら地面に伏せた。腹に響く  
爆発に備えるために、空気の逃げ道を作っておかねばならないからだ。  
もっとも豚野郎だけは、汚れるのを嫌って個人護符と結界を使っているが。  


25  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/11/27  00:33:43  ID:???  

空から甲高い音が鳴ると、一瞬後には辺りが爆発の光に包まれた。さながら巨人族の  
大行進か、ドラゴンの大魔法のような振動が地面を揺さぶる。防御結界は念入りに  
構築されているが、それでも手足には殴られているような痛みが走る。  

天井がふるえれば埃が舞い落ち、床がゆれれば小石が跳ね飛ぶ。今までも仲間や  
兵士を大量に殺してきた爆発の嵐だ。時折鉄片が飛び込んできたり、ふっとんできた  
石に当たって怪我をする者がでたものの、何とか攻撃には耐えている。  

それから蝋燭ならば一本燃え尽きるほどの時間、俺達の部隊は破滅の渦に巻き込まれ  
翻弄され続けた。体中は埃と泥が上塗りされたようになり、結界強化されている  
天井にもひびわれができている。しかし俺達は死んでいない。  

「観測眼6より受信!敵攻撃終了、芋虫の群が突っ込んできます!周辺にも敵兵多数!」  
その報告を聞いた瞬間、俺は思わず笑っていた。今までならばこの時点で崩壊  
している筈の自軍戦力が、ほとんど完璧に残っているからだ。  
嬉しいことだ。これで戦争ができるぞ。  

「弾薬移動、砲の再点検急げ!俺達は死んでいない!戦えるだけ戦うぞ!」  
「おおっ!」  
一斉に辺りから反応があった。踏ん切りが付かなかった者達も、さっきの  
無茶苦茶な攻撃に耐え切れた事で、昂揚して戦う意志が固まったらしい。  

「各砲異常なし!弾頭再確認、問題なし!」  
「よろしい!全門に装填、砲撃許可あるまで待機!」  

それから少しばかりはじれったかった。砲の射程が短いから、またいくらか  
攻撃に晒されつつ待たねばいけなかったからだ。しかし誰も恐慌に陥って  
戦い始めようとはしなかった。  


26  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/11/27  00:55:33  ID:???  

俺達はさっきの攻撃の間、いやこの作戦が開始されるまでの間、ずっと反撃の機を  
伺って来たのだ。たかが芋虫の歩む時間くらい、どうという事もない。  

「敵先頭、射程内に入りました!」  
「全門起動、一斉射!再装填後即時待機!」  
反撃のための最初の一撃は、この時ようやく放たれた。すでに敵の攻撃で  
2門が潰されていたが、それでも残りの18門は敵を捉えていた。  

あらかじめ仰角は最大射程に合わせていた。ジエイタイではあるまいし、どうせ  
こちらの力では狙い打ちなどできないからだ。しかしその分、砲の力では負けていない。  

敵はどうやら爆発で弾を飛ばしているらしかったが、もちろん我々はそんなことをしない。  
排気や煙の面倒が無いように、風の精霊を弾に張り付かせて打ち出すのだ。  
だから発射時にはボヒュ、と少しばかり情けない音が響くが、弾の速さはそれなりにある。  

「味方の第一弾、着弾まであと、4,3,2,1,0!」  
魔導士の読み上げが終わった瞬間、防塁の中には共感通信が流された。戦場の  
複数箇所に張り付いている飛目玉で、穴蔵にいながら敵の状態が分かるのだ。  
そしてそこから流れてきたのは、紛れもなく我々の戦果だった。  

3齢の芋虫は横倒しになり、中から兵士を吐き出しながら燃えている。2齢の奴は  
目玉と脳天を雷にえぐられて、黒い煙を吐き出しながら死んでいた。そして・・・  

「5齢虫一体、氷結!完全に停止しました!」  
思わず口に出したのだろう報告に、誰もが驚きの表情を浮かべた。針でゴーレムを  
打ち抜き、その足で全てを踏みつぶしてきた化け物。背中の醜いこぶと、長く  
いやらしい角をもった、頑丈この上ないクソ虫が、死んだのだ。  


27  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/11/27  01:12:31  ID:???  

この戦いに備えて作られた『魔法弾』の威力は凄まじかった。これは弾そのものに  
魔法を込めることにより、魔法陣に直接誘い込んだのと同じ威力を敵に与えられる  
新兵器だった。値段はバカのように高いが、どうやら見合った戦果を上げてくれたようだ。  

「うおしゃあぁ!あの糞虫め、ざまあみやがれ!」  
「誰も勝てなかった化け者が倒れた!奇跡だ!」  
驚きは一瞬で喜びに変わり、全員が歓喜の叫びを上げた。もっとも豚だけは、  
恐怖とも何とも付かない顔で固まっていたが。  

俺ももちろん喜んではいる。しかし指揮官としての態度は別だ。  
「喜んでる場合じゃないぞ!第二射装填!仰角調整急げ!位置予測は良いか!」  

「はっ、失礼しましたぁ!全員とっとと次に急げ!」  
俺の命令で現実に戻った兵達は、素早く弾込めを済ませていった。敵は恐れてか  
混乱してか、取り敢えず反撃もされなかった。  

しかし第二射以降は、敵も死にものぐるいで反撃してきた。第5射目までに砲の  
半分以上が失われ、第7射までに残っていたのは3門だけだった。しかし敵も  
3匹目の5齢虫が雷に焦がされたのを見て、とうとう引き上げていった。  

「敵、こちらの射程から完全に離脱しました!東部へ向かって移動中・・・  
敵は完全に撤退した模様です!」  
魔導士が最後の報告を告げると同時に、防塁にいる大部分の者が叫んだ。  
−穴蔵の兵隊が、騎士に倒せぬ化け物を倒した!万歳!万歳!−  

沸き上がった兵達の叫びは、当然豚の耳にも聞こえていた。そこで俺は  
顎のぜい肉を震わせている豚騎士様の元へ、戦勝報告に伺うことにした。  


28  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/11/27  01:31:15  ID:???  

「ご報告申し上げます。今回の戦闘で、敵の2齢虫を12匹と3齢虫を7匹  
撃破しました。さらに5齢虫3匹を完全に死滅させました。他にも恐らく  
爆風などで負傷を負ったものもいるでしょう。我らの大勝利です」  

俺はしわだか肉ひだだか分からない物を歪ませている豚に、流れるように伝えてやった。  
正直俺自身ですら予想しなかった大戦果だ。豚にとっては悪夢か何かにしか思えない  
だろう。そして豚は、肉を切られるかのような声で答えた。  

「こ、今回の勝利は見事だった。私も観戦武官として、ウィリアム君の  
活躍と指揮官ぶりを、各方面へ良く伝えるとしよう」  
流石にここまで大戦果を上げれば、反論のしようもないらしい。目玉はねっとりと  
濁っていたが、時流も見えないほど阿呆ではないということか。  

「ありがたく存じますゲアハルト殿。しかし今回の勝利は、私の力によるものでは  
ありません。敵の呪われた戦い方と、泥まみれになった兵達のことを、是非とも  
皆様に良くお伝え下さい」  

さっきの言葉はつまり、昇進や恩賞で口封じし、問題を個人の能力にすり替えようと  
いうことなのだろう。豚は所詮、丘から物を見られないのか。  

・・・いや、全てが分かっているからこそ、こんなことを言うのだろう。バカならば  
俺の言ったことを先に喚き散らす筈だからだ。呪われた力になど頼りおって!と。  
まったく頭がいい。そしてたちが悪い。  


29  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/11/27  01:43:19  ID:???  

「今回の戦で死んでいった兵達の事も、良く話しておくことにしよう。彼らは  
良く戦い、そして勝利のために礎となったのだからな」  

今度は名もない英雄でも仕立てるつもりらしく、豚はいつもの調子を取り戻して  
ぶるぶると肉の振動で喋っていた。くそったれめ。  

「生きた者も死んだ者も、みなよく戦いました。勝利と栄光を受ける権利は、  
ここで戦った全員に与えられるべきです。その事も、伝えて置いて下さい」  

俺は豚に言葉をかけながら、心の中で色々と計画を練った。この豚をいかに  
利用し、そして出し抜いていくかを。この戦争に勝利するには、ろくでなしの  
騎士共を黙らせなければならないからだ。  

豚の地位と知能は、そのためには有効な手段と言えた。上手く使えば俺の提案も  
通りやすくなる。そしてそれが戦果を上げていけば、いずれは全員を黙らせられる。  

−この戦争に勝つためならば、何でもやってやる。悪魔のような戦い方も、  
豚と豚小屋で踊ることも。あのくそったれの虫どもを、一匹残らず殺してやる−  
俺はこっそりとそう誓うと、豚に一礼をして立ち去った。  
***************************  
や、やっと終わった・・・すいません、直打ちでやってしまいました。  
長時間新スレを止めてしまって、申し訳ありませんでした。  



195  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/12/04  00:29:44  ID:???  

我これより冬季中央戦線に向かわんとす。ついては、それに関する作戦準備を  
数ヶ月に渡って行うため、積極的行動は今後しばらく控える予定である。  
よって現時刻より最終突撃を行い、これを持って戦線の支援・離脱を目論む。  
*******************************************  

古びた石塔の前に、宝石の如く輝く一人の女が佇んでいる。女の肌は光を弾く  
ビロードのようであり、手と爪はクリスタルよりも透き通って白やピンクに  
染まっている。それだけを見れば、女はうら若き乙女にも見えただろう。  

ただ、編み込まれた長い長い髪だけが、女が幾千もの時間を通り過ぎた  
存在であることを告げていた。  

「今日で貴男とお別れしてから、400回目の命日ですね・・・」  
ほつれた髪を掻き上げながら、その女はぽつりとつぶやいた。上向いて三角に  
尖った耳が少し揺れ、柔らかく一瞬だけ震えた。  

苔むす岩と化し自然と一体になりかかったその墓には、この世界には存在しない  
幾つかの文字が刻まれていた。そこに刻まれていたのは、女が最も愛した男、  
その名であった。つまり女は、異世界人と契りを結んだのだ。  

墓守として過ごした数百年、「侍」と名乗った男との思い出とその子供達が  
いかに暮らして今に至るかを女は振り返っていた。普段はさほどやらない事なの  
だが、この日だけは特別にそれを行うのだ。  

しかししばらくして、女は時間を遡るのをやめた。余りにも深く思い出を  
引き出し過ぎて、その時間にまで戻ったのかと思ってしまったからだ。  
「あの人の声が聞こえる・・・」  
女はそうつぶやくと、意識を外に向けた。しかし声は止まなかった。  


196  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/12/04  00:49:31  ID:???  

「やっぱり聞こえる。なんで、どうしてこの声が」  
女は一瞬戸惑った。自分の耳には確かに聞こえるのだ、夫の声が。数百年の内に  
子供達の間で変化していったそれでも、記憶の中に落ち込んだ最初の思い出の  
内からでもなく、どこかから全く新しい『言葉』が聞こえてくるのだ。  

「おーい、誰かいませんかー」  
自分の覚えている夫の言葉とは、それは微妙に異なっていた。だが紛れもなく  
夫と同じ純粋な異人の喋り声だった。数百年ぶりに聞いた言葉は、どこか  
平べったい感じがしたが、それでも懐かしさはとめどなくこぼれてくる。  

「ここにいる!私はここにいるわ!」  
女は思わず叫んでいた。相手が夫ではないと分かっていても、それにとても近い  
存在であることは、言葉からひしひしと感じ取れたからだ。  

「ありがたい、今そちらに行きます!」  
草と木をかき分けながら、声の主は女の方へと近付いてきた。そして深い下草の  
間から、緑色の服を着た声の主が現れた。  

女はその顔を見たとたんに、驚き、そして涙を溢れさせた。そこにいるのは  
紛れもなく自分の夫その人だったからだ。顔立ちも背丈も、体つきもまさに  
そのものといってよい、生き写しであった。緑の服を着ている以外は、  
生まれ変わりとしか思えない。  

「ど、どうしました」  
「あなた、お名前は・・・?」  
「はっ、自分は大河原二等陸尉です」  


197  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/12/04  00:58:32  ID:???  


女はそれ以上言葉を続けられず、泣きながら墓の方を指差した。大河原と名乗った  
男は、墓に顔を近づけて、そして絶句した。  

<<大河原三郎柾介>>  
墓に刻まれたその名前を、男は思い出していた。妻子を残し神隠しにあった  
奇妙な伝説を持つ先祖。恐らく失踪か暗殺だと言われていたその男の名が、  
何故か緑に包まれたその墓には刻んであった。  

「あなたはあの人の子孫に当たるのかもしれません・・・いいえ、きっとそうです。  
何もかもが似すぎています。顔も、仕草も、ほとんどあの頃と変わらないのですから」  
女はそう言いながら、涙を流し続けた。数百年ぶりの邂逅を、自分は果たしたのだから。  
***************************  
えー、これで終わりますた。(えー  

この流れの後予想される「女は懐かしむけど大河原ブチ切れて暴走」とか、  
「子孫の領地とかいろいろ大冒険」とか「先祖と穴兄弟!?マジ勘弁!」とか  
そういったお話は思いついたけどやりません。  

冬季反攻は近い。同志諸君!自分は中央戦線の突破と二月大攻勢に備え、  
これより数ヶ月の秘匿行動に入る!同志諸君には、戦線の維持と戦果の積極的拡大を  
期待する!以上!  




373  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/12/13  00:38:43  ID:???  

悪魔の子守唄  

「クソっクソっ畜生どもめ!何が悪魔だ!何が呪いだ!ふざけおって」  

窓も無く暗い部屋の中で、ひどく痩せた男がうろうろとしている。服装は豪奢で  
いかにも貴族といった感じだったが、顔や肌の色は悪く、目付きは狂人か  
妄想病にかかった廃人のようであった。  

「もういい、私はここを出るぞ!馬車を用意しろ、装甲馬車をだ!」  
蝋燭だけで照らされたその顔は、正しく幽鬼と称してよい姿だった。男は執事に  
命令を下すと、すっくと部屋の中央から立ち上がった。  

「お待ちなされい!彼の物の力を侮ってはいけませぬ。あやつは文字通り悪魔と  
契約しておるとしか思えません。護法を途切れさせれば、すぐに狙われますぞ」  

男と同じ部屋にいた老人が、しわがれた声で男に忠告する。紺色のローブを  
頭から被った老人は、複雑な魔法陣に魔力を注ぎ込んでいた。  

「うるさい!お前などに頼らずとも、私の配下の魔導士に守らせればよい!  
第一何日も何日もこんな部屋に閉じこもって居られるか!」  

激昂した男に対して、老人はすがるように説得した。  
「あの悪魔は狡猾にして強力です。いくら魔導士が優秀でも、事前の準備が  
無ければ到底勝てませぬぞ!せめて馬車にも護法を施さねば・・・」  

しかし老人の言うことを無視して、男は分厚い扉を執事に支えさせて出ていった。  
老人はその場で哀れむような溜め息を付くと、仕事場を一つ失った事と、これから  
起こる惨劇に思いを馳せて悲しんだ。  


374  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/12/13  01:00:44  ID:???  

男が屋敷から出てきたのは、それから数分後の事だった。重装甲の護送用馬車が  
裏口に停まると、素早く開けられた扉から内部に飛び乗った。  

「ふ、ふふははは。大丈夫だったではないか!私は死んでおらぬ」  
魔法灯に照らされるだけの室内で、男は安堵と喜びの言葉を口にした。数日間に  
渡る暗い部屋での生活。悪魔に見破られぬために、全ての欲望を断ち切るべしと  
宣告され、死をすら望みかけた悪夢の日々だった。  

護法の陣から出れば死ぬと言われ、怯え暮らしたのが嘘のようだ。こんなことなら  
もっと早く抜け出れば良かった。何とも馬鹿馬鹿しいことこの上ない。  
結局あの爺いは、自分の言うことに従わせ、恐怖を植え付ければ金を絞れると  
思っていたのだろう。しかも妙なところで説教臭い。  

男は無能で強欲と決めつけた老魔導士がした、嫌がらせのような説教を思い出していた。  
『新たに呼び出された土地からの略奪と、住民たちへの搾取が全ての元凶です』  

大魔法によって召還された新諸島には、高度な技術と大規模な原住民の巣窟があった。  
しかし調査に訪れた一団が見た物は、強力な魔法で殺し合いをする原住民の集団だった。  
統制と規律は一部に名残りがあるだけで、ほとんど島は戦場だった。  

調査団を派遣した王国にとって、大量の難民と高度な技術・知識と魔法は大変に  
魅力的な物だった。そのため王国は各地の支配者を影に日向に支援する事で、  
奴隷(表向きは王国への難民)と物品を労せずして略奪できたのだった。  

しかし老人は、その事が悪魔を呼び出したと言う。王国全土を繁栄させ、自分たち  
貴族の懐をも救済してくれた召還が、呪われた何者かをも連れ込んだのだと。  


375  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/12/13  01:28:15  ID:???  

そしてその呪いは、確かに何人もの人間を死に追いやっていた。これまで新諸島の  
支配階層や王国貴族、それも第二王子から下級貴族に到るまでが、その悪魔の  
手によって殺されていた。  

男もそれを恐れて、狙われると予知された数日間を苦しんで過ごしたのだ。  
「ふん、爺いめいい加減なことを。何も起こらぬではないか!どうせ悪魔が  
去っていたのに、知らせず金を毟って居たのだろうが」  

先に乗っていた魔導士がびくりとしていたが、そんなものは気にならなかった。  
どうせ魔導士などろくでなしばかりなのだ。あんなクズもいるだろう。  

席に座った男は安堵すると、御者へ壁越しに行き先を伝えた。男の告げた行き先は  
私娼だった。新諸島からきた『難民』のうち、特に粒よりの者を集めた非合法な  
場所であった。  

珍しい異世界人の子供と言うことで、娼館では見世物も行われていた。少年同士の交尾に  
母子の強制的な姦通や、時には死にかけた子供を使った殺戮ショーまでが繰り広げ  
られている、いわばこの世の煉獄であった。  

男はそこでの交わりを思い出し、股間を硬くしていた。数日間の間は自慰すらも  
禁じられて居たため、睾丸にはたっぷりと精液が堪っていたのだ。  
今日はどの少年の尻を犯そうか?それとも汁を無理矢理口に注ぎ込もうか。  
男の頭はそんな妄想で一杯になっていた。  

だが男がぶちまけたのは、薄汚い欲望ではなく大量の血だった。首の付け根が  
思い切り抉られ、左右からアンバランスな出血をしている。魔導士がヒーリングを  
かけようとするが、彼もまたすぐに首を打ち抜かれ倒れた。  


376  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/12/13  01:59:23  ID:???  

御者は後ろの物音に気付いて声を掛けた。しかし返事は一切ない。代わりに耳に  
聞こえてきたのは、どこかから響く悪魔の鳴き声であった。  

「ひっ、あ、悪魔の唄だぁ!あああ!助けてくれぇ」  
高く低く響くその鳴き声は、生き物の出す声ではなかった。まるで暴風が唸った  
時のような、洞窟の奥で巨人が息をするような音だった。  

御者は小便を漏らしながら席から飛び降り、いきり立つ馬の間を駆け抜けた。  
押さえる者が居ない以上、馬はますます興奮し出す。そして遂には重い装甲馬車を  
引きずって、街へ向かって勝手に走り去ってしまった。  

後に捕まった装甲馬車からは、首を抉られた二つの死体と、ひしゃげた小さな鉛の  
固まりが二つ見つかった。  
*************************************************  
「よう、あの御者は見逃すのかい?あいつだってあの男の手下だ。どうせどっかで  
日本女とよろしくやってたろうぜ」  
「黙ってろクソッタレ。お前に喋られると宿酔いみたいになる」  

俺の頭の中に響いているのは、正真正銘の悪魔の囁きだ。魂の契約を結ぶ事で  
意識そのものと接続された、最悪にもほどがある取り立て人と言っていい。  

「おいおい、お前もヒデェ事考えてるな。これまでの戦果は誰のお陰だと  
思ってやがるんだ」  
「もちろん俺の腕と意志に決まってる。お前なんざ単なるおまけだ。お前こそ  
誰のお陰でぬくぬくと喰ってられるんだよ、ええ?」  


377  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/12/13  02:16:19  ID:???  

俺の質問にクソ悪魔も言葉に詰まった。俺のようなタイプの契約者は、どうやら  
余り数が多くないらしい。全く奇妙な話だが。  

「何が奇妙だ!お前みたいな変な奴は滅多に居ないぞ。魂の切り売りなんてのは  
普通は絶対にやらないもんだ。人間は苦痛が大嫌いだからなぁ」  

「苦痛も支払いの内なんだろ?だったらそれ位は喜んで払うさ。人と魔とは  
契約の元に平等であるべし、ってんだから」  

そうだ。神なんていうゴミ虫よりは、こいつらの方が余程ましだ。少なくとも  
俺達をこんな目に遭わせた、この王国の守護神とやらよりは。  

今から2年前−2006年のクリスマス、俺達の日本は最低のプレゼントを貰った。  
日本全土の異次元転移、現在では『召喚』と呼ばれる現象が発生したのだ。  

このせいで景気は踊り場からフロアへ昇る途中で、一気に地階まで突き落とされて  
しまった。なにせ金融も輸出も輸入も全滅したのだから、相場の状況は資源危機とは  
比較にならないレベルの崩壊を招いてしまった。  

そして縮小が進んでいた自衛隊では、赤軍の再来と化した労働者は止められなかった。  
各地大都市は即座に陥落、地方駐屯地は辛うじて一部が生き残っただけだった。  
しかし最悪の状況は、この後に訪れた。諸外国が介入してきたのだ。  

もちろん諸外国といっても、米中なんぞの事ではない。原始共産主義を標榜する  
エルフ連合、冶金技術を狙ってやって来たドワーフども、そして召喚の張本人だった  
王国などを始めとした、数カ国の「大国」が各勢力を影で支援した。  


378  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/12/13  02:57:56  ID:???  

政治と経済が崩壊した状態でこれをやられれば、たどる道は一つしかない。  
内戦、それも同族同士の徹底的かつ残酷無比な戦い。  

各勢力が互いに技術や知識を盗み合おうとする上、エルフ連と王国では真っ向から  
政治イデオロギーが対立していた。そんな状況まであって、穏当な決着など  
見られるはずもなかった。  

そして今でも日本は内戦を続けている。一部の技術を維持した組織以外は、もはや  
政軍共に80年代のアフリカも真っ青なレベルの低さで殴り合っているのだ。  
だから俺は王国要人の暗殺任務に志願し、この国へやって来たというわけだ。  

しかし魔法による狙撃の防止は予想外に強力で、気配さえも消せるような魔法を  
使われると、もはや手に負えないほどだった。それに手こずる内に部隊は風土病、  
支援状態の悪化や敵の反撃で数を減らしていった。  

その内に俺は、自分が何をしているのか分からなくなり始めた。日本の内戦を  
止めるために王国に来たのに、何一つ戦果は上がらない。これでは日本の危機を  
救うどころか、日本を見捨てた最悪の男として死ぬことになる。  

国内の状況が心労となったのは、俺だけではなかった。他の隊員も自分の家族や  
故郷に申し訳が立たないと泣いて苦しんだ。今の自分は父母や兄弟、それに  
死んでいった仲間にも顔向けが出来ないと、狂わんばかりの者も居た。  

その言葉を聞いた俺は、この作戦のためならば悪魔にでも魂を売ると決意した。  
何をしてでも、絶対に王国を叩いて帰らねばならない、と。  
そしてそこに現れたのが、この悪魔と言うわけだった。  


379  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/12/13  03:19:06  ID:???  

「全く人間って奴は分からんねー。こんな鉄の矢を使うよりは、いっぺんに  
全員片付けた方が楽だろうに」  

この悪魔の言葉は、俺の感情をちょうど逆にしたものだった。魂の呪いで全てを  
解決しても、真っ当な戦果とは絶対に言えないのだ。一人一人、狙撃で以て  
あの世に送ることこそが、俺の使命であり班員達の救いなのだ。  

「しっかし悪魔の子守唄ってのも、ひでえ話だよなあ。俺あんな音じゃ絶対に  
眠れないっつうに。俺の親だってあそこまでひどい声じゃないぞ」  

俺はこれには思わず笑ってしまった。悪魔をも眠らせない絶望の叫び、というのも  
それはそれで面白いかも知れない。  

「悪魔も眠らない銃声か。神は七日目に眠ったとか言うが、その阿呆もこいつで  
たたき起こしてやれないもんかな」  

「やめとけ。あのジィさんだと心臓が止まっちまうと思うぞ」  
「だったらなおいい。あんな野郎は永眠させとくのが一番だ」  
「そいつは俺も賛成だな!クソ神野郎をぶち殺せー!ってか?」  

神は王に国を与え、政の全てを与える。ならば神もまたこの王国の共犯者なのだ。  
俺が地獄に叩き込むには、ちょうど良い相手だ。  
**********************************************  
投降終わり。何か途中から話ズレた・・・プロットちゃんと練ればヨカタOTL  
視点F世界人で打たせたのが拙かった。「悪魔の視線」で色々と見せてから、  
脅威の狙撃術で1000mゴルゴ打ちとかやりたかったのに。  

ぬー、音が響くまで何秒かかったとか、風の動きを魔物の感覚で読む隊員とか、  
そういうアレ度の高い描写入れたかった。精進します。  




664  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/12/22  13:46:02  ID:???  

 ある晴れた日のこと、竜の軍団は一色だけが支配する世界にいた。見上げれば果てなく  
青い海が広がり、見下ろせる場所も全てが海の青に覆われている。時折は小島や雲も  
見えたものの、それらはすぐさま彼らの後ろへと消えていってしまう。  
 もしこの空に他の色があるとすれば、それは彼ら自身が身に纏う風の黄色だけだろう。  

 この生き物たちが駆け抜けているのは、彼ら以外の如何なる種でも達せない高みで  
あった。鳥よりも、雪をかぶった山よりも高い空。竜族以外にこの空を飛べる存在は、  
竜が生まれてから星が幾千巡った今日までは、全く現れなかったほどだ。  

 竜の一団がしばらく飛んでいる内に、青の世界に新たな色が加わった。海と空との  
境から、小さくまばらな緑と、いくらかの白い塊が滲み出したのである。境界上に朧に  
浮かぶ二つの色は、彼らが進むごとに実体を持ち出し、徐々にハッキリとしていく。  

 ちっぽけな緑が明らかな島影を持ち始めた頃、彼らの先頭にいたものが長い首を横に  
大きく振った。すると竜たちは2〜3頭づつ幾つかの組に分かれ、互いが黒い点になる  
まで離れあって進み始めた。それでも完全に離散することはなく、速さと進路は同じ  
ままであった。  


 <<小僧、小僧、聞こえるか?そろそろ初めての空だ、だが怖がって糞や小便なんか  
漏らすなよ。ばらまいて良いのは、奴らの臭い腸だけだ。分かったら返事をしろ>>  

 意識の底から『小僧』と呼ばれた竜は、気分を悪くしていた。頭の中に人語が入りこむ  
違和感もあるが、それ以上に言葉に腹が立った。いくら自分が数巡り分も年下とはいえ、  
自分はもう子供でも、怯えて腹を下すほどの臆病者でもないのだ。叱咤激励とは分かって  
いても、どうもこの言葉遣いには慣れない。そう思いながら、竜は相手に返事をした。  


665  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/12/22  13:47:33  ID:???  

 <<こちらダード。ダード。よーく聞こえてますよお爺ちゃん!奴らとやるのは初めて  
だけど、今まできっちり狩りなんかはやって来たんだから、大丈夫ですよ。そっちこそ  
シモのしまりが悪いのを言い訳にしないで下さいよ>>  

 竜は嫌味と軽口を込めた返事を返した。相手である組長は初孫が孵ったばかりだから、  
反論は無いだろう。それに最後の言葉は弱めに念じたから、多分聞こえてないはずだ  
などと考えながら、竜は半笑いで返事を待った。  

 <<このクソガキ!最後まで全部聞こえとるぞ!奴らを甘く見るんじゃない。奴らの  
魔法は詠唱も動きも異様に速いし、忌々しい銀の鳥も最近は弱いのばっかりだが、  
それでも下手を打てば殺されかねん強さなんだ。お前みたいな羽根も抜けきらん小僧  
じゃあ、何も分からない内に殺されるぞ!分かったらきっちりと注意しておけ!>>  

 返ってきたのは、予想外に厳しい返答だった。まさか聞こえるとは思っていなかった  
竜は、更に気分を暗くしたが、同時に組長の凄さを改めて実感した。自分ならば聞こえ  
ないほど絞った声でさえも、向こうは聞き分け怒鳴ってきたのだ。混戦中でも連絡は  
同じ方法で行うことを考えれば、これは心強い要素とも言える。  

 こんなやりとりの後で、竜は尊敬と反発がないまぜになった気分のまま、周囲を警戒  
し始めた。同組の仲間とも連絡を取り合い、進路に異常が無いか見張るのだ。  

 それにしても本当に、音より速く飛ぶ火矢などあるのだろうか?尻から火を噴く銀の  
鳥が、自分たちより高い空を駆けるなどという話も、どうも信じられない。竜はそう  
いぶかしみながらも、目玉と首で辺りを見回しながら飛び続けた。  




734  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/12/25  00:27:44  ID:???  

 「ははははは、日本人め、滅びるがいい!貴様らは我らのこの一年の怨みを、  
憎しみを、全てを受け止めて崩れ去るのだ!」  
 高笑いと共に魔導士が叫ぶ姿は、首都圏に巨大な幻影となって伝えられた。  
古代文明の遺産である空中要塞が、日本本土へと接近しているのだ。大きさにして  
都市一つ分ほどもある、超巨大な岩石の塊とも言って良い。そして魔導士は、  
これを墜落させることで日本を殲滅すると息巻いているのだ。  


 「迎撃はどうなってる!そもそもあんな巨大な物に、何故気付かなかった!」  
激昂する空幕長を、どうにかして幕僚がなだめつつ返答した。  
 「日本へ接近中だった、超巨大台風の中にいたのです。恐らくあの時点では、  
こちらのレーダーも無効にしていたのでしょう」  

 「なんて事だ、なんて事だ。本土上陸予定時間は?」  
 「恐らく想定されうるコースと速度では、東京まで5時間ほどです」  
 「ありったけのミサイル、は投入しても無駄だな。せめて核弾頭があれば  
何とかなるんだろうか?」  

 すると近くにいた別の幕僚が答えた。その口調はひどく冷静で、感情は含まれて  
いなかった。能面ですらほの赤く見えるだろう顔色で、彼は報告を始めた。  
 「あの質量では破片による被害すら防げません。海に落ちれば津波で湾岸は壊滅し、  
地上に落ちれば地震と爆風で半径数十qは粉々になります」  
 「そうか。つまりこの距離で落とすとなれば、被害は何にせよ甚大なのだな」  
 「その通りです。あれをここまで接近させた時点で、我々は敗北したのです」  

 妙に達観した声で、幕僚は語った。恐らくこれを落とされれば、日本経済は  
立ち直れない打撃を受けるだろう。一年かけてようやく立て直した柱は、まだ  
根本すら固まっていないのだ。  


735  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/12/25  00:45:27  ID:???  

 「方法は二つあります。あれをどうにかする方法は。どちらも成功するかは  
分かりませんが・・・」  
 会議場にいた対魔法戦局の局長が、ぼそりと呟いた。新設の部門ではあるが  
戦争の帰趨を握る仕事でもあるので、その発言は注意を引いた。  

 「現状ではどうせ打つ手がない。このまま行けば全てが終わる。ならばどんな  
賭けであっても、最高に分がいいとも言えるな。で、二つとは?」  
 陸幕長は、暗に発言を促した。それを受けた局長は、頷きながら白板の前に  
歩いていった。そしてペンを握ると、耳障りな音を立てて絵を描き出した。  
 「あの手の魔法兵器は、基本的にサブシステムがあります。つまり補助エンジン  
とも言うべき機関があるという事です」  

 喋りながら局長は、すらすらと簡単な要塞の絵を描き始めた。撮影写真を  
大雑把に見とったらしく、要点は非常に分かりやすい絵である。  
 「ふむ、それでどうすると言うのだね?エンジンを吹き飛ばすのか?」  
 「逆です。ここに乗り込んでエンジンを稼動させるのです。強制的に軌道を  
修正すれば、上手く行けば山奥が崩れる程度で済むかもしれません」  
 そう言いながら局長は、七つほどあるヒトデの腕のような部分の一つを赤丸で  
囲んだ。それを一同が見たあと、すぐに海幕長からの指摘が入る。  

 「しかし相手も警戒しているだろう。防衛兵器だってあるだろうし・・・」  
 「それらに関しては、大半が問題になりません。相手は一年もかけて、しかも  
あれだけの兵器をただ落とそうというのです。つまり機能など理解していません。  
もしまともに運用できるなら、我々はとっくに消し炭ですよ」  
 局長の言葉は全く冷徹だった。自分の発言を本気で信じている者に特有の、  
相手の無知を蔑むような響きすらあった。  


736  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/12/25  01:09:15  ID:???  

 「それで、もう一つというのは?」  
 雰囲気の悪さを見て取った空幕長が、局長に説明を求めた。局長は少しばかり  
手元の資料を見つめると、さっき描いた城の絵の中心をペンで塗りつぶした。  
   
「敵の運用力は、たった今申し上げたように最低レベルです。恐らくまともに  
飛ぶどころか、方角指示しか出来ないでしょう。墜落にしても、自爆というよりは  
主要機関を魔力でオーバーロードさせるか、簡単な緊急停止装置を見つけたか  
その程度です」  

 一端言葉を切って反応を見ると、局長は言葉を続けた。  
 「つまり中の魔導士及び技官等を全員抹殺すれば、城自体は問題なく飛び続ける  
事が出来るでしょう。そして安全圏に到達したら、自爆でもなんでもさせれば  
良いのです」  

 その言葉を聞いた面々は、一気に顔色を良くしていった。つまり内部制圧か  
一部機関の稼動さえ出来れば、助かる可能性はあるのだ。しかし局長だけは  
押し黙ったまま、場の空気が収まるまで黙っていた。そして全員が局長の様子に  
気付くのをまって、もう一度口を開いた。  

 「ただし、もう一つ問題があります。補助機関こそ制圧は簡単でしょうが、  
それらの解析・始動には面倒が多すぎるのです。また、要塞内では一部のガード  
システムが稼動している可能性も考えられます」  
 「先程君は、敵は運用など出来ていないと言ったじゃないか!」  
 空幕長の怒鳴り声を受け止めると、局長は静かに答え始めた。  

 「敵は航行システムと心臓部まで、ガードを破壊もしくは回避して通った  
可能性があります。これも魔法文明の遺産ですが、熱線砲もどきや光学迷彩マント  
じみたものも、確認されています。つまり相手がそれを使っていれば」  



739  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/12/25  01:41:08  ID:???  

 「システムを突破しても、解除はしていない。そう言うことだな?」  
 「はい、その通りです陸幕長。しかしこちらは捕獲品でさえ、そういった道具は  
制圧に必要な人数には行き渡りません。しかも最悪の場合、上級ガーディアンが  
いるかも知れません。これはロボットに近いですが、敵の魔導士よりも厄介です」  

 「もうだめだ・・・こんなに短い時間では、制圧どころか装備の補充すら  
間に合わない。あと数時間で魔法戦特化部隊を編成するなど、無理だ」  
 陸幕長の言葉に、全員が暗い面持ちになった。もはやこれまで、そんな空気が  
場を圧倒し、一人一人が顔を沈み込ませていった。しかし局長だけは、そのまま  
動かない表情で、要塞の絵を弄り回していた。  

 「諦めないでください!移動速度への対策はあります!」  
 白板を殴る音と叫び声は、会議室全体を震撼させた。局長は白板を数度拳で  
叩くと、あっけに取られた全員の注目を集めさせた。  
 「要塞自体は強力ですが、何度も言うように運用はまともではありません。  
補助機関の稼動も認められない所からすると、要塞は現在保守状態にあると  
推定できます」  
 突然の発言に戸惑いながらも、頭が覚め始めたのか陸幕長は質問を返した。  
 「つまりどういうことだね?」  
   
 「あの要塞はとどのつまり、冬眠状態と言うわけです。最低限の出力と機能を  
維持しながら、本来の利用者のために飛び続けているのでしょう」  
 局長が一端言葉を切った時には、全員の目に光が戻っていた。どうやら希望が  
意志を取り戻させたようだった。それを見た局長は、説明に入った。  

 「つまり飛行に使っている力は、限りなくゼロに近いのです。それでも相当な  
レベルではありますが、こちらの対応次第では止められるでしょう」  


740  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/12/25  02:01:00  ID:???  

「どうすればいい。アレを止めるには」    

 「推進自体も物理力ではなく魔力ですから、こちらも同じ物で対抗すれば  
いいのです。つまりは巨大な結界を張って、空中に静止してしまえば良いのです」  
 「結界だと?そんな物をどうやって」  
 「国内にいる魔法戦力全部を使いましょう。訓練中の富士魔法教導団、それに  
顧問のエルフ族代表団、他にも魔法を使える友好種族を集めるのです」  
 「それでどの位足止めできる?」  
 「上手く行って48時間。最悪でも24時間ほどは可能かと。全力でなら、ですが」  

 局長の示した時間を聞いて、陸幕長は頷いた。そして次の瞬間から、室内は怒号と  
喧噪と靴音に彩られた空間となった。  

 「各大使館に呼びかけろ。基地にも連絡、魔導士を緊急輸送だ!燃料はいくら使っても  
かまわん。急げよ!スクランブル機にくくりつけてでも連れてこい!」  
 「空挺とレンジャーを即座に編成!急げ、時間はほとんどないぞ!とっとと連絡に行け!」  

 こうして自衛隊は、過去最悪のスケジュールでの降下・制圧作戦を展開する  
事となった。自衛隊にとってもっとも短い一日が、始まろうとしていた。  
**************************************  
やっぱ練らないとダメだ・・・  
ロリ赤豚の御大は、凄いなぁ。  




857  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/12/29  03:11:27  ID:???  

今年最後っぽいSS投下!(試験はどうした)  

>>664続き  
 竜集団の長であるライは、敵の弱体化を一秒一秒肌に感じていた。以前ならば  
散開する時点で火矢が飛んできたものであるが、現在ではそれはない。危険回避の  
ために隊形を開く距離は、出撃ごとに徐々に伸びているのだ。  

 その事を理解しているライは、しかし油断もしていなかった。敵はどんな所から  
でも、平然と火矢を放ってくるのだから。  

 そんな考えを巡らせている内にも、敵からの攻撃は始まっていた。仲間の内の  
一頭が、空の果てにある小さな点を見つけたからだ。竜並みに高く飛べるものなど  
世界にほとんど存在しないから、その点は敵の火矢と判断し得た。その報告を  
受け取ったライは、即座に既定の連絡を行った。  

 <<敵襲!注意!>>  
 単純で短い思考の波を送ると、ライは練り上げておいた呪文を解放した。小さな  
炎の球を身の回りに作る他愛ない魔法だが、これが意外にも防御策となるのだ。  

 戦争の初期、火矢が口から吐いた炎に反応する事が確認された。そのことから考えられ  
たのが、小さな火球を周囲にはべらせることで、火矢の軌道を歪めるという方法である。  
 絶対に当たらないとは言えないが、ある程度の効果はあった。  

 身に纏う風も強め、身体そのものを守るという方法も同時に講じられていた。もちろん  
気休め程度でしかないが、爆発時に刺さる破片を幾らかは減らせる。(そう、人間は  
火矢に爆薬を詰めていたのだ!それに気付かなかった初期の戦闘では、かわしたと  
思った瞬間に全身を貫かれて死ぬ竜が続出していた)  



859  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/12/29  03:34:02  ID:???  

 竜達が手を練っている間に、点は恐るべき数に増加していた。と言ってもそれこそ  
矢ぶすまだった緒戦の頃に比べれば、大した量では無かった。一頭当たりに飛んでくる  
火矢の数は、昔からは半減して2本か3本という所だった。  

 <<きたぞ、かわせ!>>  
 そう通達しながら、ライは翼を斜め後ろに引き下げるようにした。すると速度は  
急激に上昇し、視界の歪みは一気に大きくなった。そのままでは火矢に突っ込む形に  
なるので、ライは前傾姿勢になって下に飛び込んでいく。  


 目の前の景色が流れる川みたいに歪んで、尻の方からは耳障りな甲高い音が聞こえて  
来る。俺は刺されて死ぬのも焼け死ぬのも御免だったので、首が朽ち木みたいに軋むのも、  
耳が滝の真ん前みたいな轟音に支配されるのも、何とか我慢して「落ち」続けた。  

 真っ直ぐ落ちるとすぐに捕まってやられるから、枯葉が地面に落ちるみたいに  
体を動かしながら飛ばなきゃならないのがかなり辛い。全身の骨が鳴き喚いて  
痛い上に気分が悪くなる。さっさと外れればいいのに、火矢はしつこい。  

 火矢が爆発する音が聞こえたら、それはやっと逃げきれた証拠だ。とりあえず  
もう一度昇って良い目安程度にはなる。たまに火矢が飛んでくる事もあるが。  


 ライの急な機動に対応できなかったのか、火矢の一本目と二本目は迷走したあと  
勝手に爆発した。もう一本は火球に惑わされたのか、接触して自爆してしまった。  

 しかし全員が綺麗にかわせた訳では無かった。火球をすりぬけた火矢に当たった  
者や、機動が甘かったために尻に食いつかれた者もいた。この攻撃で全体の  
四分の一に当たる、十頭が死ぬか帰投を余儀なくされてしまった。  


860  名前:  S・F  ◆Pf7jLusqrY  04/12/29  03:48:47  ID:???  

 <<傷のひどい者は、快復をかけつつ帰れ!傷の軽い奴と組の仲間は、護衛について  
送って行け!無傷の者は、俺に続いて進め!>>  
 再編の指示を下しながら、ライは牙を火花が出るほどに擦り合わせた。  


 毎度の事ながら人間というのはしたたかだ。火矢を遠くからひたすら撃ってきて、  
鳥自体が戦うことは殆どない。時折打ち合っても、撃っては逃げ撃っては逃げの  
繰り返しでしか戦おうとせず、一対一などもまずやらない。被害は最小効果は最大、  
これぞ兵法の極意、か?  
 最近は鳥が襲ってくることも増えてきたが、それには決闘主義以外の何か、別の  
理由があるのだろう。火矢が減ってきたことと、何か関わりがあるのだろうか。  


 ライは人間に怒りを覚えつつも、内心では賞賛もしていた。ここまで徹底して殴り合いを  
避けるのは、余程の臆病者か余程の知恵者であるからだ。だからこそ最近増えてきた  
鳥の直接攻撃は、不気味な物をライに感じさせずにはおれなかった。  
**************************************  
ミサイル回避とか接近時間の描写、おかしな点はありましたでしょうか?細かいことは  
まるで分からない上、直書きなので結構アレだとは思いますが。  
それでは皆様、善いお年をー。