500 名前: 名無し三等兵 04/03/11 18:22 ID:???

誰もいない?
ネタかくのならいまのうち。
ちょっとしたコネタ程度だから、まあ大した文じゃないが・・・

:::::::::::::::::::::
帝国の戦争 セット組み立て開始

ここは帝国・・・仮にA帝国としておこう。ここはその領内の最外縁部である。
最外縁と言っても、基本的には帝国の雰囲気がひとかけらもない。
なぜならこの土地は、ほんの数ヶ月前まで敵国領地の中都市だったのだ。
文化の相違から、帝国の主流建築とは違った建造物がその大半を占めている。

この帝国は最近、近隣諸国に戦争を仕掛けた。「諸国」といっても二正面で
作戦をしている訳ではなく、ただ単に相手が連合国家だったという話だ。
戦線そのものは、帝国の東部一帯に存在するのみである。

開戦から2ヶ月、帝国は圧倒的戦力差でもって諸国の連合戦力前衛を叩き潰した。
進撃は快調に進み、戦争計画は素晴らしい順調さを以て消化されていった。
誰もが思った。帝国はこの戦争で更に伸長し、世界を圧する國になると。
その考えは正しかったのだ。ほんの一月前までは・・・敵国にとってさえも。

戦争開始からある程度が経ち、帝国がこの中都市に進出したころ異変は起きた。
「東から太陽が顔を出した」のだ。但し、真夜中に。帝国の星見の者や学者たちは
口々に凶兆だと騒ぎ立てた。天の流れが狂い、何か災いが起きると。
帝国の戦争に、何か影響を与えると。

前線の将兵は全くの現実主義であったから、そのような戯れ言は信じなかった。
彼らの信じるものが星々や天ではなかった事も原因だったろうが・・・
だが、今では将兵の大半がその言を信じていた。彼らは現実を受け入れたのだ。
仕方が無かった。戦争を掻き乱す悪魔の軍団が、前線に押し寄せて来たのだから。

501 名前: 名無し三等兵 04/03/11 18:38 ID:???

2、 骨組みスタート
戦争を掻き乱す悪魔の軍団は、それに相応しい力を持っていた。
彼らは草や木の衣を身に纏い、巧みに隠れて戦った。
弓矢を遙かに凌ぐ数の火の精霊共を駆って、騎兵と農兵を叩きのめした。
大地の神に守られた陣を築き、数の理論を粉々に打ち砕いた。

まさに悪魔の到来、誰もがそう思っていた。そして大半の者にとっては
それが真実だった−それも数日前までの話だったが。
中都市に駐屯する中央軍の本陣は、大混乱に包まれていた。
もっともその理由は人により違い、複数あったが。

都市の民衆の恐れは、単純明快かつ分かりやすい物だった。「悪魔がやって来た」
一般兵共の恐怖は、もう少し違った物だった。「悪魔と戦うのではないか」

だが本陣とその周辺にあった高級官僚団のそれは、恐怖と混乱が半々であった。
「悪魔が交渉を持ちかけてきた。極めて友好的態度で以て」
この恐怖と混乱が、ある意味一番大きな物と言えた。もっとも彼らの混乱は、
このあと更に深まっていくのだが。

:::::::::::::::::::::::::
とりあえずここまで。もっとばらしたほうが良いだろうか?


832 名前: S・F 04/03/14 17:49 ID:???

誰もいない?投弾するならイマノウチ・・・
>>500-501続き

帝国の戦争 プロット読み込み

大半の者たち、つまり帝国の「悪魔」肯定派将兵たちの認識は数日前から変化したと記述したが、
実際にはこれは後付け的表現である。なぜなら変化の前兆こそ確かに存在していたものの、
その事を気に留めていた者は、帝国側ではごく少数だったからだ。

歴史書に載せるような記述としてはその日が異変の始まりなのだが、人々の意識が
現実にその事を認識したのは、正に悪魔が交渉にやって来た日のその時であった。
では何故その様な事態が発生したのか、その事について少し触れてみよう。

:::::::::::::::::::::::::::::::::::

数日前、異変の発生した日。この日発生した一つの出来事は、誰にとってもそれなりの
衝撃をもって受け止められるべき事態だった。前線から交渉を求める手紙が来たのだ。

この戦争の初期においては、これらの大抵が降伏を求める要塞や都市などからの打診だった。
しかし今日来た手紙はそうで無い可能性が高いことを、誰もが知っていた。

帝国は各戦線において膠着状態もしくは退却を強いられつつあり、被害は許容範囲を超えつつあったからだ。

833 名前: S・F 04/03/14 17:51 ID:???

前線からの書簡は対等な交渉を求めるものだった。この事は既に帝国が緒戦の
圧倒的優位を喪失したことを意味していた。

帝国が最初の異変と触れたのは正にこの時だった。交渉に来る使節のリストに、
見慣れない名前が幾つか書き込まれていたのだ。

だが帝国の軍人や官僚団は、この異変を大して気にも留めなかった。打ちひしがれた
訳では無かったが、来るべき物が来たと分かっていても場の空気は重苦しく、
多くの者が細かい事にまで気を回して居なかったのだった。

もちろん誰もがそうであった訳でもない。生真面目な者はその事を当然ながら指摘したし、
口には出さなくとも不審に思う者は幾らかいた。

しかし気に留めなかった者の大半は、書簡の最後にある国々の名のひとつを指さして嘲笑した。
そこにもまた耳慣れない国の名があったのだ。

834 名前: S・F 04/03/14 17:55 ID:???

その国の名は東方諸国の言葉で「東方の太陽」とか「陽の神の国」という意味があった。
何とも馬鹿馬鹿しいと気にしない誰もが笑った。恐らく亡命した小国の王が、太陽を信仰する
自分たちを鼓舞するために大層な名前を付けただけであって、実態は王と家臣団、
それに技能者などと一握りの領民に過ぎないだろうと口々に言った。

こうして、帝国は最初の異変をどうということもない・・・いや、むしろ見下すべき
何かとして看過したのだった。

:::::::::::::::::::::::::::::::::::
投下終了。
問題があったら突っ込みヨロ。




51 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/16 00:21 ID:???

B−52は書けないけれど、全然関係ないコネタなら・・・

プロイエクト・X 異世界編〜
帝国と日本国の戦争は集結した。日本国は勝利を収めたが、これから平和と
繁栄によって国民を養っていくという大仕事が待っていた。戦争も大変だが、
こちらもまた大変なことである。

いや、戦後のある時期における日本国の状況は、ある意味で下手な戦場よりも
余程悲惨であった。焦土作戦を展開したわけでも、報復攻撃で國が吹っ飛んだ
わけでもないが。

良く日本の商船隊は血管に例えられる。そこが締め上げられれば
日本国は国土のみで生存能力を維持できない海洋国だからだ。
そして悲惨な状況とは、この海洋で起こっていたのだった。


89 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/16 15:09 ID:???

名前入れ忘れた・・・息抜きネタでも。というか>>51の続き

タイトルは「戦後の一コマ」とでも。最初のはサブタイです。
 〜黒鯨〜

その鯨は、死ぬ間際だった。身体は深く深く傷付き、異臭を放っている。
巨大な体全体から血を流しており、血によって海はどす黒く染まっていた。

鯨の周りを多くの動物が飛び交っている。奇妙に頭の大きな巨大昆虫が、
扇で手を何度も打ち鳴らしている様な音を立てて飛び回っている。

虫どもが後ろで遠巻きに見ている中、死に行く鯨に何度も何度も
突進していく別の生き物があった。虫や鳥とは明らかに違う、尖った部分の
多い羽のシルエットから、それはドラゴン・・・それもワイバーンであると
分かる者にはすぐに分かった。

ワイバーンは一頭ずつ、何度も何度も違う方角から突入を繰り返していたが、
思うように戦果が挙がっていないらしい。上空を悔しそうに飛び回りながら
遠吠えを繰り返していた・・・

近海に住むある漁師の目から見た光景は、上のような物であった。
彼はこれをたまにある、鯨の屍肉を奪い合う獣の営みだと思っていた。
もっともその実態は、彼の想像とは大分懸け離れていたのだが。

90 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/16 15:56 ID:???

「えー、只今現場の上空から中継しております。昨日夜半過ぎに起きた・・・」
風を切るプロペラの音に、女性リポーターの声が掻き消される。
金属が回転する高い音と、空気を切り裂く低い音が混じって真上から聞こえてくる。
ヘリコプター報道の時におなじみのあの音である。

カメラの真横を巨大な影が斜めによぎる。緑色をした細長い影をカメラが
慌てて追いかけると、どんどん小さくなっていく何かが確認できる。
映像が安定した時には、緑色の影はせいぜい親指程度の大きさになっていた。

緑色の何かが縮んでいく比率が、急激に下がる。距離が離れすぎて気づき
にくくなったせいもあるが、その現象の原因がそれだけではないことを
巨大な音が証明していた。

布団を思い切り叩き付けるような音が下方から響いてくる。見れば緑色の影は
両端が大きく揺れ動いており、音源はどうやらそこからのようであった。
緑色の影は、物凄い勢いでスピードを殺しているらしかった。

91 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/16 16:12 ID:???

親指の爪ほどの大きさになった緑色の影は、下方に広がる黒色の一帯・・・
その中程にある大きな黒い出っ張りの上に降り立った。
影は2、3秒ほどそこに静止していたが、また輪郭が大きくぶれて
今度は徐々に大きくなっていった。

巨大化を始めた緑の影を良く見てみると、背中に二つほど黒い染みがあった。
影は上昇するとともにヘリから離れていったため、大きさは親指大のサイズの
ままであった。影はそのままどこかへ行ってしまい、黒い染みの正体は
良く分からなかった。

キンキンと響く女性の声が、画面の向こう側から伝わってくる。
「失礼しました!たった今、生存者が救出されたようです!繰り返します!
たった今、生存者が救出されたそうです!」

99 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/16 18:51 ID:???

>>97では続きを・・・
画面の半分が唐突に切り替わり、男のレポーターが映し出された。
「えー、現場の田口さーん。生存者が救出されたと言うことですがー」

数秒遅れて女性レポーターからの返答が帰ってくる。
「あ、はい。たった今、どうやら船員の一人が救助された模様です!」
「他には何人残って居るんですか?」
「えー、海上保安庁からの情報によりますと、現在の所、乗組員24名の内、
救出されたのが7名、行方不明が8名、船上には9名が取り残されているそうです!」

「田口さーん!田口さーん!」
「はーい、何でしょう?」
「残りの救助の方はどうなって居るんでしょうかー?」
「えー、現在海上保安庁と特別救助隊の方々が懸命の救助に当たっておりますが、
現場海域付近では油と折からの強風があり、それに霊力場が不安定になっており、
救助は困難を極めております!」

女性レポーターが海上を指さすと、カメラがその付近をアップで写す。そこには
純白の奇妙な物が大量に浮いていた。消火剤の一種のようにも思われたが
それが全く違う何かであることは明白であった。

本来ならばそれは泡の山であるはずだったが、海上の黒い塊に取りついている
その物体には、奇妙なまでにぼやけた、しかしハッキリとした輪郭があった。

矛盾しているように思われるかもしれないが、これはその物体特有の
性質であった。存在感と立体感の差とでも言えるのかも知れない。
その白い物は、目を凝らせば分かっただろうが・・・人間の手の形をしていた。

138 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/17 02:56 ID:???

さて、自分も書かねば・・・>>99続き 〜イングランドより愛を込めて〜

ああ、虫共が五月蠅い。何であいつらはあんなにうるさいんだろう?
ワイバーンの背に乗っていて、その羽ばたきが聞こえていてもなお聞こえてくる。
何であんなにしなきゃ飛べないんだ?あの連中は・・・

彼は右手に見える、巨大な虫を強くにらみ付けた。巨大な虫の全身は白っぽい色をしていたが、
単一色でなく複雑な色が綺麗な線を描いて絡み合っていた。巨大な二つの目玉は暗く光を反射し、
良く見ると姿さえ映りそうにのっぺりとしている。こいつは何も考えていないんじゃないのか、と思わせる。

まあいい、あれのおかげで多少こっちも楽が出来る。もっとも龍がすくんじまうから
利点は殆ど無いが・・・溺れて膨らむよりは墜落して肉塊になった方が遙かにましだ。

ワイバーンの背に乗った男、グルンベルクは心の中でそうひとりごちた。
彼は状況を再確認するため、下方の光景に目をやった。
本来そこにあるべき青の群は、どす黒い物によって汚染されていた。
まるで失敗作の絵画を塗りつぶしたかのように、文字通り絵にならない。

「こちらサンダーバード2。隊長、応答願います」
彼は腰に伸び縮みする螺旋紐でくくりつけた黒い道具に呼びかける。
すると直ぐに道具に空いた無数の穴から、遙か向こうに居るはずの隊長の
声が聞こえてきた。

「隊長ではなくサンダーバード1だ。どうした?」
「失礼しました。サンダーバード1、これから突入します。ただ計画コースより
幾らか突入位置をずらしたいのです。」
「どこから行くつもりだ?」
「あの大虫の真横から、一直線に抜けたいと思います」
「了解、こちらの待機位置を多少ずらしておく。くれぐれも虫に引っかけ
ないように注意して当たれ。以上」
「ありがとうございます・・・サンダーバード1。通信終わり」

143 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/17 03:44 ID:???

お休みなさい小官殿ノシ 自分ももう少しだけ書いて寝ますわ。
>>138
通信が終わると彼はまず最初に、螺旋紐を腰のベルトに強く何度も巻き付けた。話すのには
大変便利なこの道具も、これから行う行動には邪魔を通り越して危険すら及ぼすからだ。

彼は突入前の最後の呼吸として、思い切り大きく息を吸い込む。皮のマスクの臭い、
海特有の潮の香り、そして最後に・・・粘つくような不快極まりない臭いが鼻を突く。
その慣れない臭いにむせてしまい、思わず彼は息を吐き出してしまった。

全く、人間共の不始末にも困った物だ。まともな航海技術も持たない連中が、
魔法生物を使ってまで輸送しようとしていたのがこんな物とは・・・本当に呆れる。
帝国軍の師団でも毒殺か焼殺しようとしていたのだろうか?

眼下に広がるどす黒い平面、その中に小さく見える巨大鯨が居た。
高く飛んでいる為小さく見えるが、その大きさは並みの岩礁より遙かに大きい。
それを証明するかのように、平べったく白い鯨の背には、雨粒のような
大きさにしか見えない人間が数人のっていた。

彼の精神は平静であった。あんなに大きな目標ならば、目を瞑っていたって
絶対に止まれる。そう考えるだけの自身と技量、そして経験が彼にはあった。

彼は左手に持った鞭で龍の右首筋を打つ。龍は少し怯えながらも、
歴戦の豪龍らしく上手に巨大虫の真横に着けた。

頭の上に載せていた黒水晶のゴーグルを付けると、彼の乗る龍の色が
くすんだ緑から、少し黄色っぽい茶色に変化した。

見慣れた光景に安心感を覚えると、彼は仕切直しとばかりにもう一度大きく
息を吸い込んだ。今度は臭いを意識していたため、吐き出さなかった。



438 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/20 07:52 ID:???

さて、人も殆ど居ないことだし砲撃練習でもしておきますかね。
遅れに遅れて>>143からの続きです。

〜龍は舞い降りた〜

彼は鞍の前に付いている取っ手に掴まると、身体を龍に密着させるようにして
低姿勢を取り、そして同時に龍の尻を鞭で叩く。
次の瞬間、彼の身体は軋むような圧力を前から後ろに受ける。

彼の乗る龍はその薄い翼を目一杯広げ、大鯨に向かって急降下を開始したのだ。
薄刃の刀で空を斬りつける様にして、やかましい大虫を尻目に海面へと突撃していく。

グルンベルクの全身を強い軋みと痛み、そして風を切る轟音と精霊の
平手打ちが襲ったが、龍はその様なことを意に介さないかのように
ぐんぐんと海面に突っ込んで行く。

下方に見えていた大鯨の平たい背中が、どんどん巨大化していく。
その大きさは生半可ではなく、ちょっとした島のようであった。


440 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/20 08:04 ID:???

>>439 鯨の白い背、その表面にある大きな出っ張りだけでなく、小さな
もの−様々な形をした、奇妙なまでに整った直線と曲線で構成されたそれの
見分けが付くようになりだした。

大方の物は白か赤か茶色しかない鯨の背だったが、その内の一部に奇妙な色の塊があった。
それは背の上にあるどんな物とも違う色をしており、複数の色をごちゃ混ぜにした
奇怪に蠢く塊であった。

その塊から一つだけ小さな塊が離れ、移動を始める。小さな塊はどんどんと
飛行中の龍と彼に近付いていく。視界の殆どが背の白に覆われ始めた頃、
奇妙な色の塊でしかなかったそれの正体がハッキリし始める。

奇妙な色の塊に思えたそれは、明確に意志を持って行動する人間であった。



今回はここまで。

517 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/20 18:08 ID:???

小官殿お休みなさい。さて空気もいい感じにアレな事だし、なんかネタ投下でも
やりますかねえ。

「あのジドーシャは何という名前ですか?」
「あれはセダンです」
「セダンというのですか。何シキセダンですか?」
「え?」

「ではこの銃は何というのですか?」
「これはコルト・パイソンですかね」
「コルト・パイソンシキですか。ナンバーは?」
「いや、別に式は付けなくても・・・ナンバー?」

自衛隊、特に陸自との接触時間が長かったせいで車や銃と見れば
何でもかんでもシキと数字が付くと思いこむF世界の人。



825 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/23 03:24 ID:???

前スレ810から20台あたりの続き。
../1078/1078588258.html

帝国の戦争 事前ミーティング

その日、帝国中央軍の本陣が駐留する中都市は緊張に包まれていた。
彼らはこれから東方諸国の使節を迎え入れて、前線での取り決めなどの雑事について話し合うことになっていた。
だが実際には官僚と将たちは、誰もそんなことを考えていなかった。

本陣総員の一致した見解は、この交渉が帝国と諸国の和平交渉の叩き台になるという認識だった。
帝国は現在諸国連合軍との戦闘において膠着状態・・・つまり完全な劣勢に立たされているのだ。

開戦初期の予定調和的な快進撃は完全に影を潜め、守勢維持どころか撤退距離の計算が主な仕事に
なりつつあるという酷い状況の戦線すら存在した。

このような時期に前線云々という話は、どうも不自然だった。帝国の顔を立て、
諸国が穏健に和平交渉に臨むために行う会談と見るのが妥当であった。
元々帝国軍の兵力は諸国軍を遙かに上回るため、戦況が優位でも高圧的態度を取ることは考えにくいからだ。

「さて、そろそろ会談の時間です。日も天に上りました・・・」
顔と髭の面積が半々ほどになっている老人が、その場にいた全員に呼びかけた。
予定ではこの日、天に日がさしかかる頃に会談が行われることになっていた。

826 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/23 03:32 ID:???

「神のご加護があらんことを」
強面の、いかにも将といった感じの男が口を開くと、立ち上がって退室しかかっていた者達が笑い出した。
男が臆病者だと嘲笑した訳ではなく、男の冗談に皆が笑ったのである。

彼らがこれから交渉すべき東方諸国では、太陽を信仰する国家が多いのであった。
特に大陸の東側、太陽の昇る海に面した国々でその傾向が強く見られた。
男は相手の使節に幸運があるように、といっていたのだ。

「我らにも、神のご加護があらんことを」
長い一枚布の服を着た男が、それに調子を合わせて言葉を返した。
今度はまだ席に着いていた者さえも笑い出し、場の空気は一気に和んでいった。

彼は本陣に派遣されていた教会の司祭であり、本来は帝国の信仰する唯一の神にのみ仕える者である。
下手をすればこれは不敬罪に当たる発言であったが、この場合は単なる皮肉であった。
帝国の教えでは天の日は万物に等しく恵みを与える象徴であったから、彼の言葉は
「自分たちにも日の加護があって良かろう」という意味になる。

全体の空気が和やかになった所で全員が退室し、会議を開催するべく一階の食堂へと
向かっていった。

827 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/23 03:36 ID:???

彼らの居る建物にはちゃんと会議場や広間は存在したが、そこは敵国の都市から接収した建物だけに
内装が帝国ではなく東方諸国の物により近い雰囲気になっていた。

その為これではどちらが会談に出向いたのか分からない、と言う意見を汲んで
彼らは食堂を会談の場とすべく準備したのであった。

会談は天中時に行われる事になっていたので、そのまま昼食会にもつれ込んでしまい
帝国の料理でもって使者をもてなそうという算段であった。
ムードもまた会談の要素であると考えていた者と、美食家の官たちの思惑が相まって、
この日の昼食会の料理には本陣で入手できる最高の料理人と素材が使われていた。

軍人たちは粗食を常とする者や、緊急事態に備えて朝食を取る者が殆どだったが
官僚団の首魁たちは、大部分が朝食を取らずに食事時を待ちかまえていた。

将の中には「豪華な食事などしている場合ではない。前線の事を思え」という意見を述べた
者も居たが、「前線を思うからこそ、交渉のために良い料理を用意するのだ」という
意見に押し切られてしまった。

その為武官連中や将と文官の間にちょっとした波紋があったが、それも先程の冗談によって
綺麗さっぱり拭われてしまっていた。少なくとも会談の後で話題が料理の事に触れるまでは。

828 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/23 03:39 ID:???

会議室は三階にあったから、事前打ち合わせに参加した人々が食堂に移動するまでには
多少の時間がかかった。後の歴史書には、この時の事がかなり詳細に記されることになる。
なぜならばちょうどその時、彼らは帝国を悩ませる異変の実態と接触したのだから。

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::
さて、投弾終了であります。次回からはようやく!ようやくちょっとだけ日本の
人が出てきたりする感じです。
コピペなのに妙に時間がかかっているのは、その場で最後の推敲を
行っているからで・・・スマソ。


133 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/25 02:28 ID:???

自衛隊もちょっとだけなら出演予定が・・・ってメインじゃなきゃダメか。

戦後の一コマ 前スレ440続き
../1079/1079351585.html#438

人の姿を確認したグルンベルクは、左手の鞭で龍の背−両羽根の付け根である肩口あたりを強く打った。
龍は背中の刺激に反応し、その身体を風で舞い上がる羽根のように僅かばかり浮かせた。

降下角度を緩やかに変化させた後、龍はその大きな翼で大気を強く打ち付けた。減速時の
強い反動と龍の急激な動作を物ともせず、グルンベルクは龍の背にしっかりとしがみついていた。
着陸前に降下角度を多少変更する技術は、彼の訓練と龍の熟練の賜物であった。

新人は急な停止や極端から極端へと走る動作を良くやってしまうが、それは非常にまずい事なのだ。
訓練を怠ったり慣れずに急な動作を行わせると、乗り手が反動の方向の変化に付いていけずに
龍の背から放り出されたり、恐慌を起こして手綱や鞭さばきを誤って事故を起こすことが多いのである。
(もっとも、急から急への変化に耐えられる強さも必要ではあるのだが)

そう言った意味では彼の腕前はベテランの物だった。着陸動作に入る前に反動を
少し緩める事で、より確実に着地できるように工夫された動作であった。


135 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/25 02:48 ID:???

しかし如何に熟練の乗り手の腕前といえど、龍の羽ばたきの音を消すことは不可能であった。
直線的で硬い鯨の背に止まるまでに、龍は何度も強く羽ばたかねばならなかった。
高速で降下してきた以上、一発で止まることは誰であっても不可能なのだ。

龍が背の上の白い出っ張りに足を止めると、彼は一気に息を吐き出して空気を吸った。
むせかえるような酷い臭い、上空で嗅いだ悪臭の数千倍にも相当するような「空気」は
彼の鼻と喉をマスク越しでさえ容赦なく襲った。

彼は思わず吐き気を催したが、今は任務中なので吐いてなど居られなかった。第一そんなことを
したらマスクの中が吐瀉物で溢れてしまうから、彼は我慢した。
年がら年中無茶な飛び方をしてきた彼は、吐き気を押さえる能力も身に付けていた。

彼が気分の悪さを押さえて右手の方を見ると、龍の羽根幅より少し外に黒い肌の男が立っていた。
男は近くの出っ張りに掴まり、鯨の背に付いた角度と龍の羽根の巻き起こす疾風、その両方に
耐えていたようであった。

彼は男の姿を確認すると、龍の首筋を右手でなぜてやる。すると龍はすぐさま
首と身体をかがめて羽を畳み、乗り降りが出来るような体勢を作った。
彼はその動作を龍に行わせると、男に右手を振って大声で呼びかける。

「ハリー!ハヤーク!」
慣れない発音とマスクのせいで音は濁りがちであったが、男はその意図を初めから
理解していたので問題はなかった。男は猛然と傾斜の付いた鯨の背を駆け、
右手を伸ばして叫ぶグルンベルクの元へと一瞬でたどり着いた。

今回はここまで。


183 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/26 00:28 ID:???

前スレ825続き 帝国の戦争 初顔合わせ

それは官僚らの一団が階段を下り、二階の通路を移動している時の事だった。突然外から角笛の音が
鳴り響き、慌ただしく動く衛兵たちの足音が聞こえた。

その音を聞いた彼らは少しばかりざわついた。角笛は上客を歓待する為に用いられる道具であったので、
状況から彼らは自分たちの交渉相手が到来したのだと判断したのだ。
廊下のあちこちで「遂に来ましたな」などと言った言葉がやり取りされるのが聞こえた。

彼らは本来ならば歩を早め、会談の場たる食堂に向かうべきであった。交渉を行う上で遅れることや
手間取って混乱することを避けるべきであるのは当たり前のことであった。

しかしそこで一人の官が足を止めた。その人物は部屋から人々を誘導していた、髭の老人だった。
老人は窓の方を見ながら、ひどく驚いた表情をして固まっていた。

184 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/26 00:35 ID:???

>>183
「どうされました?」直ぐ後ろを歩いていた文官が、老人に呼びかける。
「あ、あれを・・・」老人が指をぎこちなく動かしながら窓の外を指さすと、そこには
進んでくる馬車が数台いた。

「あの馬車がどうしたというのですか?」文官は怪訝そうな顔をして再度たずねる。
ゆっくりとした速度で進んで来る馬車はどれも帝国の物とは違う形式で、恐らく会談に訪れた
使者たちが乗ってきた物だろうと予想が付いた。そこにあって然るべき物があると言うのに、
何故老人が驚いているのか、彼には理解が出来かねた。

「あ、あれだ!一番奥に見える馬車・・・あの馬車は何だ!」
老人の指さす先を良く見ると、彼もまた絶句してその場で固まってしまった。
彼らの視線の先に有った物は、まるで神話から抜け出たような奇妙な物であった

185 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/26 00:53 ID:???

「どうされました?」直ぐ後ろを歩いていた文官が、老人に呼びかける。
「あ、あれを・・・」老人が指をぎこちなく動かしながら窓の外を指さすと、
そこには道を進んでくる馬車が数台いた。

「あの馬車がどうしたというのですか?」文官は怪訝そうな顔をして再度たずねる。
ゆっくりとした速度で進んで来る馬車はどれも帝国の物とは違う形式で、恐らく会談に訪れた
使者たちが乗ってきた物だろうと予想が付いた。そこにあって然るべき物があると言うのに、
何故老人が驚いているのか、彼には理解が出来かねた。

「あ、あれだ!一番奥に見える馬車・・・あの馬車は何だ!」
老人の指さす先を良く見ると、彼もまた絶句してその場で固まってしまった。
彼らの視線の先に有った物は、まるで神話から抜け出たような奇妙な物であった。

186 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/26 00:54 ID:???

その馬車は一言では言い表せないような奇妙な形をしていた。その馬車はまず異様に小さく、
まるで子供でも乗るのかと思えるほどで、他の馬車に比べると大きさも長さも半分ほどしかなかった。

素材も明らかに木では無い光沢を持っており、継ぎ合わせではなく一枚の板で作られていた。
大きさの割に大きな窓を持ち、その窓は馬車の上部の殆どを占めるほどであった。
そして彼らを最も震え上がらせたのは、そこに馬と御者が居ないことであった。

帝国の古い伝承には、地獄からの迎えの馬車というのがある。その馬車は罪人や悪人を押し込めるために
車体を小さく作ってあり、逆に地獄を良く見せるために窓は大きかった。
その車体は人の世に存在するあらゆる物と違った何かで出来ており、異様な形をしている。
そして御者と馬は地獄の住人であるため、生きた人間には見ることが出来ないと言われていた。

彼らはこの神話から来た伝承を知っていたので、思わず震え上がった。何故こんな所に死神の馬車が
現れたのか、彼らには見当も付かなかった。

先頭にいた者が止まってしまったため、他の官僚たちも歩を留めざるを得なかった。そして
彼らの奇妙な行動に気付き、窓の外を見て同じように驚愕と恐怖に襲われたのだった。


494 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/29 01:41 ID:???

人もこないようなので、地雷を敷設していきますね。

初顔合わせ・2

官僚達は誰もがその場で足を止めた。先頭が動いていないのに進むわけにもいかないし、
彼らは目の前の奇妙な存在に心を奪われてもいた。

そこかしこでざわめきが起こる。「この街の誰かを迎えに来たのではないか」と・・・
その時彼らは年齢と、今まで成した悪行に応じた反応を示した。穏やかな顔の者、傲慢な態度で
胸を反り返らせる者などはかなりの剛の者だ。大抵の者は驚き怯えていたし、中には思い当たる
所があるのか、頭を抱えてうずくまる「不届き者」も居るほどであった。

しかしその馬車は彼らの意志に反して、即座に魂を狩りには来ない。使節団の馬車列と共に、
死神の馬車は行ってしまった。そして馬車が全員の視界から消えたとき、ちょっとした混乱が
廊下で発生していた。怯えた官僚の一部が、他の者達ともみ合っているのである。

「通してくれ!私は帰らせていただく!早くどいてくれ!」
一人の男が、立ち尽くす者を押しのけて逃げようとする。青ざめた顔をした男は
かなり荒っぽく動いて元来た道へと戻ろうとしていた。

495 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/29 01:45 ID:???

「通してくれ!私は帰らせていただく!早くどいてくれ!」
一人の男が、立ち尽くす者を押しのけて逃げようとする。青ざめた顔をした男は
かなり荒っぽく動いて元来た道へと戻ろうとしていた。

「邪魔だ!さっさとどけい!」
男は列の最後尾に突っ立っている下男と下女を押し退けて行こうとする。しかし二人は窓の外を
見たまま完全に固まっていた。他の官僚達と同じようにショックから抜け切れて居ないのである。

いらついた男が彼らを殴りつけるような動きをすると、その手を何者かががっちりと掴んだ。
男が後ろを振り向くと、そこには彼と同じ背丈の別の男が立っていた。

「何をなさる!」
男は掴まれた手を無理矢理ふりほどくと、相手の方に向き直った。そして相手を見るなり
思いきりにらみ付けた。相手の服装などからみて、官位は自分以下であると判断したのだ。

「そちらこそ何をなさっているのですか。会議場はそちらではありませんぞ」
相手は冷静に諭そうとするが、男は全く聴く耳を持たなかった。

「私は帰るのだ!あの死神どもが来る前に!」
男は既に恐慌を来しており、精神が錯乱しているようであった。

「では御勝手にお帰り下さい。あなたが何処に行かれようと死神は来るでしょうし、来なかったと
してもあなたはご自分の都合で会議を欠席されたのですから、後で処断があるでしょう」
相手は先程よりも大分声を大きくして、男と言うよりはその場の全員に対して呼びかける。

相手の言葉は功を奏し、その場でざわついていた一部の者達は平静を取り戻した。
男もまた相手を睨み付けていたが、その場から進もうとはしなかった。

496 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/03/29 01:46 ID:???

「さあ!皆様参りましょう!来賓達がお待ちかねですぞ!」
ようやく先頭の老人が正気を取り戻したのか、後続の人々に呼びかける。先程の言葉で既に全員の
帰る気が失せていたため、比較的スムーズに再度の進行が出来た。

場を鎮めた男の功績により、帝国は異変との初接触において逃亡者を出すという不名誉を免れた。
ただし「会議参加者全員が遅刻する」という、何とも間抜けな不名誉は残ってしまったのだが。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::

行読んでなかった、失敗・・・ゲファ。


773 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/02 01:38 ID:???

>>446続き 帝国の戦争 特殊機材の搬入

街の入り口を守る番兵は、暇をもてあましていた。今日の任務のピークまであと少しだけ時間が
あったので、仲間の兵と共に賭け事をしていた。

「そりゃあ!・・・げっ!」
「お前またかよ!つうか本当にやめろ。身が持たないぞ?」

兵達がやっていたのは、非常に単純かつ原始的な賭け事である。動物の骨を削って作った小さな塊を、
食器の中に投げ込んで目を競うというひどく古臭い遊びだった。

「も、もう一回な!・・・あ!」
「いいよもう。今回は見逃してやるからもうやめようぜ?賭けにならねえよ」

男は悔しがり、もう一度だけと頼み込んだ。仲間も彼の熱意に負けてもう一度だけ
やらせてやる事にしてみた。

「本当にこれ一回きりだからな!慎重にやれよ!」
「分かってるよ!・・・あ、ああ〜」

男は三度、同じ失敗を繰り返していた。彼は投げる力を強くしすぎており、椀から塊が飛び出して
しまったのである。これでは賭けにならないのも当然であった。

774 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/02 01:40 ID:???

「お前・・・失敗は大目に見てやるけど、負け分はちゃんと払えよ?」
「分かってる。ほれ」

男は塊を拾い上げると、近くに置いてあった袋から小さな金属の円盤を取り出した。銀色に光る
それを数枚重ねると、男は袋を胸元の鎧の隙間からしまった。
仲間はその円盤の数を数えると、懐から取り出した袋にじゃらじゃらと入れていった。

「本当にお前大丈夫なのか?子供抱えてるのにこんなに負けまくってて・・・」
「知ってて乗ってくる奴には言われたくねえよ!見てろ?今日の夜は絶対に勝つからな!」
「お前も好きだねえ・・・また俺が儲けるだけだぜ?ま、売られた勝負からは逃げないがな!」
「お前の方が好きなんじゃねえか。まったくよう・・・」

彼らはいつもやっているのと同じやり取りの後、大きく笑いあった。彼らの勝率はお互いに
大して変わらなかったし、他の事でそれなりに儲けているので空気は和やかであった。

しかし男が少し耳を澄ませる動作をすると、和やかだった空気が一瞬にして立ち消える。
男が仲間に頷くと、二人は側に置いてあった槍を持って、道の左右にすぐさま戻っていった。
彼らが本来居るべき場所に戻ってから少しすると、何頭もの馬の足音が小さく響き始めた。


855 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/04 18:53 ID:???

真夏の鷲

その日、少年は車の窓から奇妙な物を見ていた。そこにある殆どの物は見慣れたもの
−渋滞によって寿司詰めになった車道、排気ガスと喧噪、青く何処までも広がる海−
少年はそれらを眺めていたが、そこに異様なある物が出現していた。

少年の視線の先、そこには小さな鋭角で構成された物体が大量に飛行していた。
「それ」が異様なものであるかどうかは、人それぞれで全く評価が違っただろうが・・・
ある者は悪罵と共にそれを呼び、またある者はそれが出現する環境の方を異様と表現しただろう。

だが少年にとってのそれは、見慣れた光景の一部に過ぎなかった。異様な部分も無いではなかったが、
その更に上を行く物が近くにあっては、何も言うことはない。

少年の視線の先の先、そこには先程と違い誰もが口を揃え「異様である」と評価するだろう
物があった。異様な物体は、大音響と共に飛んでいく物体に比べると酷く複雑な形状をしていた。

複雑と言っても、それを目で確認できる訳ではない。ただそちら物体が奏でる音は
ひどくばらけていて規則性がなかった。

それらの二つは、通称龍と鷲−帝国軍爆撃隊「飛龍」と日本国航空自衛隊迎撃戦闘機隊であった。

856 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/04 19:02 ID:???

鋭角の飛行物体は、それぞれが四つづつ小さな隊形(ダイヤモンドと呼ばれる)
を組んで飛行していた。そのダイヤモンドが合計四つあり、合計で十六らしかった。
少年はそれを見てひどく不満に思った。ここ数日の内にダイヤモンドの数が二つほど
減っているからだった。

ダイヤモンドが減った理由は少年の感知出来ないところ、主に政治・経済・物理・生理の
四つが複雑怪奇に入り乱れ、そこに幾つかの直接的な物も絡んでそうなっていたのだが、
やはり彼には不満であった。

その不満の理由は至極簡単であった。「格好が良くない」ただそれだけであった。
しかし少年のその不満は後数秒で解消される予定だった。それを少年は知っていたので
あえて不満感を抱き、その直後に全てを歓喜へと切り替えた。

彼の望みはすぐに達成された。ダイヤモンドの内一番先行していた群が、一瞬にして
視界から消滅したのだ。その消滅は、爆発でも雲でもなく、群自身が発した白煙によって
成し遂げられた。

857 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/04 19:11 ID:???

素早く飛んでいたダイヤモンドよりも更に早く早く直線を描いて動いた白煙は、
その全てが複雑で奇妙な形をしていた物体に飛び込んでいった。

その物体はよくよく見れば小さな点で構成されており、複雑な姿は幾つもの点が
連なる故であることが判る。

白煙が一斉に物体に到達した時、その物体の一部がいきなり大きく欠けた。
黒い煙が空中に突如として沸き上がり、その数秒後に煙は雨雲のように黒い点を降らせた。

少年は歓喜と共にその光景を見守っていた。少年の臨むスペクタクルはまだまだこれからであった。
黒煙の発生から殆ど間を置かずに、ダイヤモンドは砕け散ってしまった。
いや、ダイヤモンドは自ら別れたのだ。彼らの恐るべき力、それを龍共に叩き込むために。

858 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/04 19:22 ID:???

ダイヤモンドはそれぞれ二つずつに別れ、ひどくゆっくりとした物体の動きとは対照的に
異常なまでのスピードで周囲に飛び回っている。

ダイヤモンドから別れた二つの物体のペアは、互いを守りあう様にして飛び回った。
その姿は正しく鷲、イーグルの名に相応しい姿であった。それぞれが親と子、兄と弟である
彼らは秩序だった、と言うよりは何者かに繰られるようにして空中に線を描いていた。

彼らの線が大物体を通り過ぎるたび、物体の形が乱れ、隙間が空いていった。
煙は既に消え去っていたが、未だにその真下では小さく黒い点の雨が降り続いていた。

少年はその光景に感動を覚え、また興奮と安堵を覚えていた。両親の制止も聞かずに
窓を開けて身を乗り出し、その光景を眺めていた。

その時少年の耳に、美しくない音響が響き渡った。彼の耳に響いたその声は、奇妙な布を
掲げた人々によって奏でられていた。

859 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/04 19:29 ID:???

「戦争はんたーい!」「くたばれ自衛隊!」「人殺しをー、やめろー!」
奇妙に赤い布を掲げた人々が、勇気か無謀か分からない態度でもって
路肩で叫び続けていた。

彼はその集団の事を不快に思った。政治思想の問題ではなく、ただこの楽しい
ショーを邪魔する連中が嫌になっていただけなのだった。

もっとも、布を掲げた彼らの述べていること自体に間違いはない。少年の見た
黒い雨は、帝国軍の龍とその乗り手(とその肉片や死体)であった。

だがしかし彼らは一つの事を忘れていた。それは、もしも鷲たちの一方的な
殺戮がなければ、肉片と肉塊を撒き散らすのが自分自身であると言うことだった。


81 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/08 11:47 ID:???

さて、話題も無い様なので投弾。
../1080/1080118526.html#855
続き 真夏の鷲

彼らは道行く人々にも様々な言葉で以て呼びかけていた。その中には税金という
単語から、まったく訳の分からない、正確な意味は本人も分かっていないだろう
言葉までが含まれていた。

鷲たちに罵倒を浴びせ、道行く人々に施政とは如何にあるべきかを語り続けていた。
中には賛同する者もいたが、大半は彼らの存在を無視していた。
それは彼らにとって現在与えられている、人々の最大級の許容であった。

現在気温は25℃であり、吹き抜ける海風によって不快指数が低かった。その事が彼らの命を
救う一因としていた。もしも気温と不快指数が極端に高い状況であったなら、車に乗った
人々と血みどろの喧嘩(彼らの呼称で言う「闘争」)が繰り広げられていただろうからだ。

そして彼らが許容されているもう一つの要素は、皮肉にも彼らの最も気に入らない
存在の一つである「鷲」だった。

82 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/08 12:03 ID:???

直接的には帝国軍の爆撃を防いでいる事が上げられるが、現状では
鷲の果たしている仕事はそれだけではなかった。

鷲たちの戦い、それは人々に安心感を与えているのだった。帝国の軍勢が
散々に蹴散らされているからこそ、車に乗った人々は心に余裕があった。

もしも鷲の襲撃が不十分であった場合、単なる渋滞では済まずにパニックが
発生していた事だろう。車に乗った人々は避難民であり、帝国の龍どもが
吹き飛ばそうとしている街から逃れてきた人々だったのだから。

正しい政治を滔々と語っている彼らもまた、車を路肩に留めていた。
つまり人々の進路を妨害する要素でしか無かったから、パニック時に
話し合いがもたれれば恐らく良い方だろう。

最悪の場合は流血の闘争など発生し得ない。避難中の大型車両が進路の
邪魔になる彼らの車を強引に排除しかねないからだ。

彼らの財産と生命は、直接にも間接にも、間違いなく彼らの忌み嫌う
鷲の翼によって守られていた。彼らの不満を、鷲は全く気にしない。
財産と生命の保護、それは鷲たちの仕事の一つだからだ。



223 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/13 00:09 ID:???

さて、人もいないので投弾しますかね。

>>82続き 真夏の鷲

少年が「政治」を語っている連中をうっとうしげに眺めている間に、状況は
変化を見せていた。空を守る鷲、F15Jが帰投を始めたのである。

龍の群が未だに残り続けていた状況だったが、鷲たちは整然とした隊形を作って
その場から離れていった。

鷲が帰っていったのを見て、少年は不安になった。龍の群は帰り始めては
いなかったからだ。

だが少年の心配をよそに、徐々に整然とした隊形を組み始めていた龍の群に
白煙の列がまたもや襲いかかった。光と白煙の列を逆に辿っていくと、そこには
新たな鷲の群が現れていた。

最初の群より小さい彼らは、三機が三角形のような形を作って飛んでいた。
三角形が四つで合計12、今度の群は北ではなく南の方から飛来してきていた。

224 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/13 00:25 ID:???

少年は知らなかったが、帰っていった最初の群はかなり長く戦っていた。
弾、燃料、機体状態、すべてが限界に来るまで戦っていたのだ。

異世界転移と呼ばれる大異変から数ヶ月、整備も満足に出来ない現在の日本国
自衛隊の中では、最高に近い戦いぶりを示していたほどだった。

今回投入された鷲は全部で28。あらゆる物が不足している現状では、大盤
振る舞いも良いところだ。

大規模(これでも、だが)投入がなされた原因はいくつか有ったが、その
最たるものは農業地帯の安全確保である。農産物の貿易相手は存在していたが、
通貨制度その他の違いにより安定していないのだ。

現状で農業地帯が投げ打たれ、農家から避難民がでるなどもってのほかだった。
出来る限り食料自給率を上げなければ、何が起こるか分かった物ではなかった。

もう一つは自衛隊の思惑であった。整備の騙しとパーツの喰らい合い、それを
いくら積み重ねても稼働率の維持は難しいのだった。

225 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/13 00:36 ID:???

このままでは訓練による練度の維持すら出来なくなる、そう空自の上層部が
思い詰めていた所へ、今まで帝国が投入して来た龍の数十倍、いや数百倍は
いるとも思える大規模編隊の報告があったのである。

そしてどうせ散るなら散らせてしまえ、無能とそしられるよりは!とばかりに
幕僚長たちは大投入を行ったのだ。

もちろんただの自暴自棄でもなかった。この作戦さえ成功してしまえば、帝国
航空戦力に大打撃と恐怖を与え、空襲を手控えるだろうという判断だった。

現在国内では純国産部品の戦闘機開発、及びT−1の再生産等の計画が
動き出していたが、効果を発揮するまでにはまだ時間がかかるのだった。

仲間を救う貴重な時間を稼ぎ出す為に、鷲たちはまともに飛べる最後の
時間を群で過ごすことを許されたのだった。



447 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/16 02:25 ID:???

投弾でも行きますかね・・・>>225続き 真夏の鷲

少年の目の前で繰り広げられるショーは、終幕の直前を迎えていた。
戦いが始まった直後から降っていた「雨」は、その量を徐々に減らしつつあった。

余りにも圧倒的な鷲たちの攻撃により、龍の列に補いようの無い穴が開き始めた
らしかった。

時折この「雨」、つまりは帝国軍の龍乗りと龍の肉片などがF15のエンジンに
飛び込んだり、バードストライクと同じ現象を起こして悪影響を及ぼす事がある
というのは何とも皮肉だった。

鷲たちの執拗かつ熟練した襲撃により、補われなかった穴はどんどん大きく
そして歪んだ形に開いていった。帝国軍は、立て直せない程の混乱に陥っていた。


450 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/16 02:43 ID:???

鷲たちの襲撃が暫く続いた後、終幕のベルが大きく鳴り響いた。それは道路近くの
スピーカーと車載ラジオから聞こえてきた、空襲警報の解除サイレンだった。

耳を打つ、というより脳に染みるサイレンの音が流れた後、周辺の車から歓声が
起こった。小さいながらも多くの安堵のざわめきも聞こえてくる。

渋滞は解消こそされなかったが、殺伐とした道路周辺の雰囲気は一気に消え去った。
少年もまた安堵し、運転席にいる親と少し言葉を交わしてまた窓の外を見た。

「雨」がまだ少し降る中で、巨大な穴だらけにされた龍の群は遠ざかっていった。
そしてカーテンコールに応える役者のように、綺麗な群を組んだ鷲が頭上を飛んでいった。

渋滞した道路で暇をもてあます内に、夏の日差しは少しずつ衰えて行った。
全ては幻であったかのように思えるほど、空と海には何も見えなかった。
赤く染まっていく空を見ながら、少年は深い眠りに落ちていった。

真夏の鷲 完


550 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/17 11:45 ID:???

小ネタ

日本はかつて、超高齢社会になると言われていた。人口の4人に1人が
老人になり、桁違いの社会福祉予算が必要になるとされていたのだ。

その為に日本は将来において、大変苦しい思いをするであろうと思われてきた。
だがしかし現在では、それもまた失われた良き日の思い出でしかなかった。

「状況は?」服に色とりどりのバッヂを付けた男が、側にいた者に訪ねた。
側にいた者はホワイトボードに貼られた地図を細い棒で指し、応えた。

「現在、武装難民及び王国義勇兵団は琵琶湖南岸付近を移動中。
目標は京都と思われます。」

ホワイトボードに貼られた地図は、誰もが見慣れた日本の地図であった。
そこには毒々しい赤で難民の進行路と、主要集団を示すピンが張られていた。

現在日本国内には、総数約二千万とも三千万とも言われる経済難民が
発生していた。その原因は様々であったが、引き金は一つに絞ることが出来る。
日本国「召喚」、日本人達が主に「転移」と呼んでいる出来事であった。

551 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/17 11:54 ID:???

日本が崩壊した直接の原因は、その構造産業に求められるだろう。
日本の主要産業が加工輸出である事は、誰もが知っている事だろう。
そして第一次産業が大きく圧迫されている事も。

それは善悪高低という問題ではなく、ある種の時代の流れと言えた。
世界経済が国際分業という大きな流れで動いてきた中で、日本は一時その頂点に立った。

最大限の利益を得られる、最終段階の加工に産業を集約する事で世界の一部を
まがりなりにも支配してきたのだ。

しかしそれが平和と安定の中にある繁栄でしか無いことも事実であり、
今回の事態ではその内の「安定」が消滅したのだった。

日本国はある日突然、見知らぬ世界へと「召喚」された。それが原因で
主要取引先だった各国の市場は物理的に消滅した。これが崩壊の始まりであった。

一端区切ります。小官殿、どうぞ。

577 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/17 18:39 ID:???

>>550続き 
海外市場の完全崩壊は、歴史に類を見ないほどの大恐慌を巻き起こした。
一瞬にして全てを失った日本の人々は、完全に失業してしまったのだ。
物資が海外頼みだった国内向け産業も壊滅し、ある程度稼働できる職業も
購買力の喪失によって殆ど動くことが出来なくなった。

この恐るべき事態により、完全失業率は3割を越え、殆どの企業は開店休業
状態になってしまった。

政府は事態を解消するため、日本国外の調査を行った。その結果比較的
未発達の文明と、帰属の決まらぬ無人の沃野が存在することが判明した。
そして日本は、直ちに文明との接触、そして無人地帯の調査を開始する事にした。


579 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/17 18:51 ID:???

日本北西部に確認された大陸は、調査の結果農鉱業に好適な土地であると
判断され、文明との接触もスムーズにいった。

失業と転移によって呆然とした人々を救うため、日本国は文明との交易と
大陸への植民を行う事を宣言した。この発表に、人々は希望を見いだした。
我々は救われる、少なくとも生きていける、と。

貿易が再開されると、街には少しずつ活気と物資が戻ってきた。移民船は
人々を集め、日々彼らを送り出していった。

人々は希望と夢を取り戻し始めた。これが後に最悪の事態を招くなど、
この時は殆どの者が想像しなかった。

580 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/17 19:01 ID:???

事件が表面化し始めたのは、植民地における原油探索が始まった頃だった。
油田がなかなか見つからないのだ。政府や技術者の予想を遙かに超えて
原油を探る事は困難を極めた。

原因はよく分かっていなかったが、地下に地球とは全く組成の違う地層が
存在するため、地中の様子がまるで分からないという事らしかった。

日本の首脳部は完全なパニックに陥った。暴動を抑える為に失業対策を
最優先したため、船舶燃料を大規模に統制していなかったのである。

見越しで行った移民計画は大混乱を起こし、一気に航行船舶数を減じた。
移民予定者は失業者に逆戻りし、貿易も必要最低限度に押さえられた。

皮肉といえば皮肉なのは、石炭船と石炭の需要が高まったことで
全国の石炭鉱山とドッグに活気が戻ったことだった。

581 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/17 19:09 ID:???

しかし近代化された各施設が全力稼働した所で、国内に残っていた
(そして増えていった)失業者を吸収することなど不可能な話であった。

前近代的なやり方に戻す事は、命の値段が高くなりすぎた上に、その技術の
失われた国で行うのには、無理がありすぎた。

こうして再発生した大規模失業者は、完全にあぶれものになってしまったのだ。
職を失い、希望を踏みにじられた彼らは、徐々に流民と化していった。

関東南部から東海に掛けての都市圏を中心に、一千万近い流民が発生した。
この土地で一番多くの難民が発生した理由は、彼らの多くが第三次産業と
輸出産業に携わっていたからだった。

余剰生産力が消失し、殆ど戦前レベルにまで生活が戻った日本に、
流民を養う能力など存在しなかった。そして、遂に悲劇は発生した。

ここで区切ります。


649 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/18 16:56 ID:???

さて、ちょっと椅子を磨かせて貰いますよ・・・
>>581続き

大規模な難民の受け入れを、周辺地域の各県知事が完全に拒否したのである。
これによって流民たちは、その全てが自分たちの住んでいた地域に押し戻された。
地方自治体にしてみれば、生活の維持のため仕方のない事だった。
しかし流民達にとっては「仕方がない」では済まされない。

各地で状況の改善を訴えるデモ行進が行われ、その一方で治安も急速に
悪化して行った。流民と社会の対立は激化の一途を辿り、時たま警官隊と
流民の衝突すら起きるようになり始めた。

政府は事態を重く見て、流民収容地区の建設に乗りだした。しかしそこは
下手な監獄よりもひどい施設でしかなく、事実上の隔離政策だった。

最低限の貿易しか出来ない日本は、流民への支援など不可能だったのである。
流民の収容地区では徐々に不満と反発、失望が収束していった。
そして二月も終わりに近付いた頃、流民による武装蜂起が発生した。



733 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/29 01:03 ID:???

>>732ありがとうございます!
../1081/1081338122.html#773続き

帝国の戦争 特殊機材の搬入・2

馬の足音は、徐々にその音量と数とを増していった。その内に道の向こうに、足音の元らしい馬車が
数台見えてきた。見慣れない型の二頭立て馬車が、護衛の騎兵を従えてゆっくりと近付いてくる。

馬車列がある程度門に近づくと、その側にいた護衛の騎兵が一騎飛び出してきた。
「止まれぃ!」番兵の二人は互いの長槍を交差させ、飛び出して来た騎兵に大声を掛ける。

声に応じて、騎兵は番兵の少し前で馬を止める。騎兵は馬から下りることなく番兵達に言葉を返した。
「私は中央軍第3兵団騎兵小隊長オール!我が小隊は本日の会議に出席する、東方の王たちを
連れ参った!通していただきたい!」

番兵たちはその小隊長を見て、槍の交差を解いて垂直に戻した。二人の見るところ護衛や馬車に
怪しい所は認められなかったし、その小隊長は番兵たちとは顔見知りであったからだ。

番兵たちは内心とは裏腹に、大声で相手に返答を返す。
「遠方からの護衛と案内、ご苦労様でありました!どうぞお通り下さい!」

「かたじけない!では、参りますぞご客人がた!」
小隊長は大声で後ろの御者に声を掛けると、顔を引き締めてゆっくりと進んでいった。
それに続いて、後方の馬車が移動を始める。

番兵たちは謹厳な表情で馬車を見送りつつ、内心で毒づく。
その対象は任務ではなく、小隊長である。

734 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/29 01:05 ID:???

現在、彼らは都市の警護部隊に属している。とは言っても儀仗兵という訳ではなく、
ただの休暇配置で後方に居るだけの話なのだ。

普通なら大した任務もなく、のんびりと過ごして英気を養う為の仕事だ。
彼らも約一月ほど前に、そのつもりでこの街へやって来ていた。

しかし番兵二人にとって、不幸な事がいくつか起きた。一つ目は、休暇配置直後に
出現した「悪魔の軍勢」が味方の主力を潰走させた事だ。このために後方に
来る負傷兵や逃亡兵が大量に現れ、休む暇もなく仕事続きになってしまった。

二つ目は、オールと知り合ってしまった事である。オールは帝国の貴族であり、基本的に
見栄と派手とをひたすら好む質の男であった。中央軍本陣との連絡の為に町を何度か訪れており、
その際に二人はこの男と知り合いになってしまった。

そして三つ目は、今回の護衛当番に廻された事である。本陣には本職の儀仗兵が
居なかった上に、戦況は混乱を極めていた。しかし交渉の場では、絶対に弱みを
見せる訳には行かない。そのため警護部隊の精悍な兵を選りすぐり、儀仗兵として
「でっち上げる」という計画が本陣では持ち上がったのである。

二人は自分自身を精強とは考えて居なかった為、特に関係は無いと考えていた。
しかしオールの口利きによって、強制的に儀仗兵の一員に「させられた」のである。

そして二人は、無理矢理儀仗兵としての教育を叩き込まれた。もちろん、若い貴族の横槍で
不機嫌極まりない護衛隊長に、である。悪魔も逃げ出すようなしごきを受けて、数日間で
二人は急速錬成の儀仗兵になった。

735 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/04/29 01:07 ID:???

もっとも二人は、オールの事を強く憎んではいない。彼は口は出したが、金も出してくれた。
個人的に特別手当と、武具や装備の手入れを完璧にする為の銀貨を大量に握らせてくれたのだった。
それを使って鎧は買った時よりも磨き上げられていたし、槍も目立つ傷の殆どを直してあった。
しかしそれはそれとして、特訓の日々の『原因』に素直には感謝できない部分があったのだった。

二人は自分たちが選ばれた理由が、「金で釣られるから」だというのを良く理解していた。
四角四面で、ゴーレムかと見まごうような兵よりも面白味があり、また兵としての威圧感が
期待できると言うことなのだろうとも。

すなわち、自分たちは「儀式屋」ではなく、戦場で生き残った「兵隊」として見込まれたと
言うことだろう。そう考えると、何とも皮肉が効いている。

二人はそんな事は表情に一切出さずに、いかにも真面目そうな顔で槍を構えている。
精神では毒づく部分もあるが、彼らも結局は兵である。そんなに簡単に気を取られたりはしない。

872 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/05/09 23:10 ID:???

人もいなくなったところで、残弾の放出を開始。
../../hobby3_army/1082/1082564788.html#733 続き

馬車列が進んで行き、どんどん馬車と騎兵が街へと入っていく。二人はその馬車の数を数え、
次に来る馬車が最後で有ることを確認した。
しかし二人は、次の瞬間あっけにとられた。そこにあるべきはずの馬車が、どこにも見えなかった
のである。思わず直立不動の姿勢を解き、さっと視線を走らせる。

すると少し視線を下げた所に、とんでもない物があった。ひどく小さな、馬の繋がれていない馬車だ。
妙にぬめった光沢を放つそれは、車体に比べて窓が異様に大きく、素材も明らかに他の馬車と違う。
それを見た二人の脳裏には、すぐにある考えが浮かんだ。この異様な乗り物は、昔聞いた「死神が
乗る馬車」ではないか、と。少なくとも、それがまともな馬車でないことは理解できた。

しかしその異様な馬車は、騎兵数騎に左右と後ろを守られつつ前進していく。
その事が、二人を困惑させる事となった。自分たち以外の誰もが、その馬車の存在を気にして
いないからだ。護衛の兵も、前を行く馬車達も。

見ている物が死神の馬車ならば、誰何を掛けた後で呪われる恐れがある。
ただの幻覚だとしたら、下手に対応すると失笑を買う。そして本当に何処かの国の
使節が乗っているならば、無礼を働いたとして自分たちの首が危なかった。

二人は即座に判断を下した。現状を維持し、取り敢えず様子を見ることにしたのだ。
崩した姿勢を慌てて立て直すと、もう一度険しい表情を取り繕って立ち続けた。


873 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/05/09 23:15 ID:???

最後の騎兵が立ち去った事を確認すると、二人は表情を崩して息を付いた。
既に二人は儀仗兵ではなく、只の一兵士に戻っていた。
「あー、最後の馬車は何だったんだ?どう考えてもまともじゃなかったぞ」
「お前も見たのか?あの馬車。死神が乗るとか言う奴に似てたな」

二人はお互いが馬車を見た事を確認すると、深い溜め息を付き、愚痴をこぼした。
「今日は賭けはやめよう。酒飲んで宿舎でゆっくり寝よう」
「そうだな。幻覚だろうが本物だろうが、あれは洒落にならねえ」

さっき見た物が何であれ、下手に関わるとまずい物であるのは確かのようだ。
危険な事や嫌なことは、遊んで忘れるのが一番と決め込んだ二人は、博打に回す金を
飲み代にすることに決めた。まだ日は高かったが、二人の決心は固かった。

さて、今回はこれにて終了。次からは外交編かな?戦争編はなかなかネタが決まらない・・・





101 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/05/13 18:33 ID:???

新しいの立ってたんですね・・・気付かなかった。
SSの質が偏っている、というのは確かにそうですね。
でも自分はギャグが書けないっ!

召喚魔導士vs自衛隊の人

「我が魔力に応え、来たれ、地獄の番犬ケルベロスよ!」
「グルルルル・・・・」
「なあ、その犬鎖で繋がれてるぞ?」
「ああっ!地獄の『番犬』だからか!?」
「人の物を使おうとするなよ!」

「くそー!だが今度はっ!現れろ!地獄の犬!」
「シャーッ!」
「なんだこの白いのは?イタチか何かか?なかなか可愛らしいじゃないか」
「予想外の物が出てしまった・・・この動物は何なんだ?」

「ならば最大最後の秘奥義!出よ地獄の大魔王!」
「グハハァ!太古の契約に基づき、地上の腐った国を滅ぼす!」
「なあ、あっちお前の国の方じゃないのか?」
「ああっ!や、やめろー!」
「あーあ、盛大なキノコ雲。これじゃ国残っててもボロボロだろうなあ」
「あのー、そちらで雇っていただく訳には」
「お前のような無能などいらん!帰れ!吊されろ!」

こんなんでよろしいか?>ギャグSS



284 名前:S・F ◆Pf7jLusqrY :04/05/31 22:37 ID:???
どこを掘っても石炭しか出ないF世界。自衛隊は技術・燃料その他の問題により
艦艇の大半が使用不能、もしくはモスボール状態に。
そこで戦力の確保に勤めるべく、日本は石炭船の再建造に乗りだしたのだった。

「で、これが新型艦か?頭痛くなってくるな」
「しょうがないですよ、といってもほぼ趣味の世界ですが」

海上自衛隊新世代艦・改みかさ型「よしの」
高度技術の使用制限、予算不足により、主要装備は127m砲四門。通信機器も
交換部品が払底して居るため、信号旗が大いに復活した。
最高速力約20ノット、近接戦闘に備え装甲が従来より強化されている。

「いわきの煙はわだつみの〜、か。まあ敵も竜装備だからちょうど良いか?」

日本の制海権を新たに脅かすのは、旧ソ連でも北○鮮でもなかった。
海竜−シー・サーペント、シードラゴンに曳航される巨大戦闘艦を率いる
異世界の海洋国家「青龍国」であった。

黒い竜と青い竜、世界の派遣を手に入れるのは、どちらだろうか。
「どーでもいいが、やっぱZ旗は掲げるのかねえ?」



301 名前:S・F ◆Pf7jLusqrY :04/06/01 00:52 ID:???
>>189氏、こんなんどうでしょう。
奪われた空

私は、空を飛べなくなった。といっても別に頭にキている訳でもないし、
事故に遭った悲劇のパイロットと言うわけでもない。この異世界に飛ばされて
以来、政府が燃料統制に踏み切った巻き添えになっただけだ。

政府は自衛隊や公的な物を除く、殆ど全てから燃料を取り上げた。そのせいで
私のような「日銭で空飛ぶ趣味人」は飛べなくなってしまったのだ。
日本中の私的航空機学校は全面閉鎖に追い込まれ、そして普通、一市民は
自家用機も燃料タンクも所有していない。(あっても徴発されるが)

どこかの団体はこの徴発や自衛隊の周辺調査を「帝国主義的だ」と罵ったが、
そんなことはどうでもいい。誰であろうと石油の確保に乗りだしてくれるなら、
それは今の私にとっての神だ。なんなら団体潰しに協力したって良い。

太陽が二つに増えようと、月がジャガイモみたいになって居ようと、
結局空は空なのだ。そこを飛ぶ魅力は何物にも代え難い。
その為ならば、専横結構、統制大いに結構である、と私は言いたい。
空自に入隊することも、今は真剣に考えている。
(ある男のエッセイより)



508 名前:S・F ◆Pf7jLusqrY :04/06/03 15:37 ID:???
魔法学校?竜の穴!
「ここが王立魔法学校ですか、さすがに凄い設備ですね」
「はっはっ、でしょう?これが我が国最高の魔法訓練施設です」
『うわあああぁぁぁー・・・』

「しかし想像と大分違いますね。実験棟や学舎があるのかと思っていましたよ」
「ここは研究じゃなく実戦がメインですからな。知識だけでは生き残れませんよ」
『ぎゃあああぁ熱い!燃えるうぅ!』

「しかし皆さん立派な体格で。うちの隊員よりガタイがいい」
「それこそが我が校の長年の成果です。【並みの戦士は一ひねり】が宣伝文句ですから」
『尻はいやだあああ!あおっ!おああぁあぁ刺さるぅ』

「ところで、この滝やら火の床やら巨大剣山はどうやって?」
「高学年の生徒が魔法で作っております。これも修行ですよ」
『俺は死なん!絶対に校長をぶっとばす!あのクソ拷問鬼があ!』

「・・・魔法って、ひょっとして飛ばないんですか?」
「攻撃圏は体で触れられる範囲ですからな。敵地で生き残るにはこれ位
しないといかんのです。私も心を鬼にして鍛えているのですよ」

「自衛官の魔法研修の件ですが、アレはまた今度と言うことで」
「そうですか?でも体験コースならいつでも歓迎です。貴方もやって行かれますか?」
「折角ですが、またの機会ということで・・・」



326 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/06/09 22:13 ID:???

>>181氏、そのとおりですね。失礼いたしました。
さてちょっとしたネタでも行きますかね・・・

エルフの森

「我らの森が火事だ!誰か助けてくれ!」
「空が真っ黒いな・・・こりゃかなり酷いぞ」
「我らの家が、土地が燃える!なんとかしてくれ!」
「しかしこれだけの火事だと、ただの消火じゃ・・・そうだ!」

−一時間後−
「なんじゃこの鉄の機械の群は!何故木を切り倒す!我らの住処を打ち砕く
つもりか!」
「これが一番いい方法なんだって」
「我らに死ねということか?これが人間のやり口か!」
「まあ暫く見ていれば分かる!施設科、作業続行!」

−数時間後−
「なんと、水の魔法でも消し止められなかった火事が・・・消えた。どういうことだ?」

「火っていうのは、四元素や五行で成り立ってるんじゃないってことさ。
燃えるものと空気、あと熱があって初めて火になる。だから『燃えるもの』
を無くしてしまえば、大きな火事は止められる」
「お前たちの科学とやらも、役に立つこともあるんだな」

なんとなく思いついたネタ。



637 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/06/12 01:10 ID:???

よーし、誰もいない内に埋設してみますよー。
釘式対人地雷万歳!

帝国の戦争 細部の詰めと連絡会・2

配された料理の皿を前に、全員が一斉に神への祈りを捧げる。もっとも宗教や宗派の違いから、
タイミング以外は統一感のない祈りであったが。

祈りが終わり、会食が始められる。それぞれが色鮮やかな野菜や魚、揚げられた肉などを、
自分の皿に運んでいく。今回は公式の会議なので、全員が行儀良く肉を切り分け、
手に怪我を負う者も出なかった。侍従が手洗い鉢や手拭き布の世話や、新しい肉の切り分け
などをする中で食事が続けられる。

会食中は幾らか世間話もされるが、誰もが聞いているから、社交辞令以上にはならない。
今回は料理が良く作られていた事もあり、殆どの者が料理の感想に終始した。

こうして、緊張した空気はいくらか崩れ、使節団としては帝国に悪印象を抱かなかった。
但し、地方領主としての心情はまた別だ。

そのうちに会食も終わり、出席者は互いに礼をすると、それぞれ侍従に案内されて
移動していく。会議以降の予定は組まれていなかったので、書類のとりまとめや
打ち合わせの為、東西の官僚は館の宿舎へと向かっていった。

638 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/06/12 01:11 ID:???

雑談の時間は、範囲的には、会議の終了から次の日に至るまでの全時間だ。
そして名目も特に決まっていない。逆に言えば、なんでも有りということである。

訪問と称して会議の落とし所を相談したり、書類点検と言いつつ事前通達を行うのである。
団結、根回し、裏切り、抜け駆け、口約束その他諸々で相手を翻弄し、利益を引き出す。
いわばこれからが、本当の政治の時間であった。

639 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/06/12 01:13 ID:???

帝国の戦争 監督の暴露日記

顔中に髭を蓄えた老人が、館の中を歩いていく。彼はある用件の為に、使節用の宿舎に
なっている棟に向かっていた。夜中なので足音を忍ばせながら、ゆっくりと移動する。
しばらくして目的の部屋の前に着くと、彼は扉をそっと叩いた。

事前に話を通してあるため、名前を告げると部屋の戸はすぐに開けられた。
そして中から男が現れる。
「お待ちしておりました、アクス閣下。どうぞこちらへ」

目鼻立ちの整った若い男が、流ちょうな帝国語でアクスと呼ばれた老人に挨拶する。目や髪の色が
西方人より幾らか濃い、いかにも東方民と言った顔立ちの男である。男に通されたアクスは、
部屋の奥にある大きなテーブルへと向かっていく。

そのテーブルには、既に二人の男が着いていた。アクスは両方に挨拶をすると、用意されていた
椅子に腰掛けた。四人掛けのテーブルだったので、先程の男も掛けて満員となる。
全員が揃ったことを確認すると、男がアクスに改めて語りかける。

「さて、それでは紹介させて頂きます。こちらは太陽国防衛軍の、ニシキ事務官です」
ニシキと呼ばれた禿げ頭の男が、アクスに頭を下げて会釈する。黒縁の眼鏡を掛けた
四十か四十五くらいの男である。

「そしてこちらが、太陽国特命外交大臣のゴトウ大臣です」
今度はゴトウと呼ばれた男が、アクスに大きく頭を下げて挨拶する。こちらは
丸顔に黒髪の、五十くらいの男だ。

640 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/06/12 01:14 ID:???

それに応えてアクスも名乗る。
「私はアクス。帝国軍中央軍付きの政務長をしております」
アクスの言葉を聞き、耳慣れない言葉で男がゴトウとニシキに話しかける。
帝国語、東方語ともまるで違う言葉だったが、アクスは驚かずに聞き続ける。

男が喋り終えると、ゴトウが何か男に話しかけ、男がアクスに話しかける。
男はどうやら通訳のようだと、この時アクスは理解した。

「お会いできて光栄です、アクス閣下」
男のこの言葉を以て、帝国と太陽国−「悪魔の軍勢」を率いる国−との
非公式の交流が始まった。

641 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/06/12 01:15 ID:???

帝国の戦争 監督の暴露日記・2
「こちらこそお会いできて光栄です、ゴトウ大臣、ニシキ事務官」
アクスの返事を男が通訳し、それを聞いたゴトウとニシキが微笑みを浮かべる。

その微笑みが消えるか消えないかの内に、アクスがゴトウに質問する。
「して大臣、私に一体いかな用がおありで?」
アクスはひどく短刀直入だった。美辞麗句を使ったところで、通訳がいるから
余り意味がないと考えたのだ。

返答が帰ってくるまでの僅かな間に、アクスは部屋へ来るまでにずっと考えていた事の
整理を始めた。彼らは一体何者で、どこから来たのだろうか?ずっと答えの出ない問題が
アクスの頭の中に渦巻いていた。

アクスを始め官僚団の殆どの人間は、「太陽国」の事を何処かの国の名残か亡命勢力
だろうと考えていた。しかしその予想が完全に裏切られたのだ。目の前の二人の男、
太陽国の使者と名乗る彼らは、東方人にしては奇妙すぎた。

まず東方人に比べてずっと皮膚、髪、目の色が濃い。言葉にしても発音すら聞いた
ことのない言葉だった。しかしこれだけなら、辺境の蛮族にも同じような連中は居た。
彼らと蛮族との大きな違いは、その服装にあった。

642 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/06/12 01:16 ID:???

彼らの服には、そこかしこに物入れ袋が取り付けてあるのだ。上着と肌着に一つずつあり、
ズボンに至っては前後四箇所に物入れ袋が仕込んである。こんなに沢山何を入れるのか
疑問に思えるほどだった。

色にしても上着は黒や灰色といった暗い色で、肌着だけが異常に白い。一国の大臣にしては
ひどく地味で、派手さも華美さもまるで無い。

しかしこれほど奇妙でありながらも、全体のデザインとしては調和がとれている。
縫った部分も殆ど分からないし、素材も何かは分からないが、とても密に作られて
いるのは見て取れる。つまり彼らの技術は非常に高く、文化も野蛮人の物ではないと判る。

帝国とも東方とも、その他の国とも明らかに違い、そのくせ技術は高いと来ている。
何故このような国が、今までまったく知られて居なかったのか?アクスにはそれが疑問だった。
アクスの知る限り、このような国や土地、民族は古文書や伝説にも載っていない。

文献どころか神話にすら登場しない、全く未知の文明国。そんなものが本当にあるのだろうか?
アクスの頭の中は、このような疑問で一杯であった。





745 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/06/13 22:41 ID:???

じゃあ、ネタSSでも・・・「スライム」
−某所−
「さて、今回の依頼は王国諸侯と『自衛隊』幹部とやらの捕獲だが、どうする?」
「人が最も油断するときは、まぐわいの時、食事時、そして寝る時だ。だが
今回は人数が多いからな。ばらけるから寝室は面倒が多い。食事時にしよう」
−食堂−
「というわけで、楽しい食事を邪魔してすまんな。動いたらこのナイフが
貴様等を貫くぞ?声を立てるな、従者も呼ぶな」

「どうする。こんな席だから武装も何もないぞ。格闘も自信は無い」
「食事用ナイフじゃなあ。倒せなかったら確実に死人がでるぞ。まずいな」

「おいそこの!何を喋っている!訳の分からない言葉で話すな!」
「・・・よし、いい手がある。私が突っ込むから、その隙にあの壺を投げつけろ」
「あの壺か?なるほど。死ぬなよ?」

「そこっ!動くな!」
「ぐっ」
「これでも喰らえ!」
「うわあっ、なんだこの液体は!体が焼ける!っがあああああぁ・・・」

「どうされました!・・・な、なんですかこの骨は・・・」
「なに、ちょっとした生ゴミ処理だ。気を付けて片付けてくれよ?喰われるぞ?」

そこには、残飯処理用のスライムに『喰い殺された』哀れな死体が転がっていた。



948 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/06/14 20:47 ID:???

「やめてー!二人とも、私の為に争うのはやめてー!」
遠くから聞こえる醜女の声が、ぎんぎんと耳に響き渡る。
心の底で『貴様のようなオークもどき、誰が!』と叫びながら、二人は殴り合う。

その二人とは・・・魔術師と自衛官だった。
決闘裁判、それは戦いによって全てを決する、という原始的方法。
しかし原始的でない点が一つあるとするなら、それは代理が可能という点だった。

誰もが戦える訳でも、戦いたがる訳でもない。そしてそれ故に、商売として成立する。
今回はある娘の結婚拒否を巡り、二人の男が戦うことになった。
容姿以外の全てに恵まれた娘と、得体の知れない見かけ倒しの男。良くある話だ

「こんな事ばかりやってて、恥ずかしくはないのか貴様!このクズが!」
「テメエもご同業だろうが!このくそったれ!」
銃を魔法で壊され、護符が銃剣と相打ちになり、お互いに頼るべき物は肉体のみ。
拳と拳、熱い様々な物が交わされていく。

二人とももう、分かっていた。こんな下らない争いになど意味はないと。
しかし、止めることが出来ないのだ、どちらかが倒れるまでは。

いや・・・二人を止める物が有るとすれば、それは女の泪だけだろうか。
「私のために、死なないでー!」
「こんなヘボの拳で、誰がやられるかぁ!」
「本読みだけしかやってないと思うなよ、この!」
勿論娘の声に応えた訳ではなく、ただの威嚇と鬱憤晴らしだ。

・・・何とも醜い争いは、双方が娘にキレて和解するまで続いたとさ。



237 名前:S・F ◆Pf7jLusqrY :04/06/18 15:28 ID:???
さて、自分もネタ投下行きますか。
フェア・プレイ
「で、どうします隊長?現状はほぼ最悪ですよ」
「そうだな。アレが居るしなあ」
男二人の視線の先には、小銃の代わりにカメラを持った男が居た。マスコミ関係者だ。
戦場撮影を申し込む大手新聞社の圧力に負け、自衛隊は渋々それを承諾したのだった。

ただし記者は主戦場ではなく、敵が出ないはずの地域へ向かう部隊へ配属された。
しかし、彼らの部隊は迷子になった。そして敵に攻撃されているのである。
既に数回の突撃をはね返しているが、それでも相手は引かなかった。

「迫は弾をかなり消耗しています。それと、敵部隊に石人兵を確認しました」
「本当か?危険すぎるな」
石人兵とは、体高5m程の大型ストーンゴーレムの事である。体が固く力も有るため、
塹壕に詰め寄られると大変に厄介な存在であった。

「よし、今こそM2投入だ」
「本気ですか?あの男が居るのに」
「大丈夫、その辺は言い含めておく」

238 名前:S・F ◆Pf7jLusqrY :04/06/18 15:30 ID:???
「大口径機関銃を投入するんですか!それは条約違反ですよ!
幾ら戦況が苦しくても、それは絶対にしてはいけません!」
「大丈夫です。重機関銃は対人ではなく、敵の無生物部隊に使用します」
「そんな事を言って、もし間違って人に当たったらどうするんです!」
「絶対にそんなことはしません。なんなら宣言しましょうか?
スポーツマン風に『我々は正々堂々と戦います』と。」
「今の言葉、記録しましたからね」

その後、敵の突撃を隊員達は凌ぎきり、高価なゴーレムを失った敵は、
そのまま逃げ去っていった。しかし自衛隊員達は、すぐには撤退せずに
敵の埋葬を行うことにした。それは隊長の提案であった。
最初は渋っていた隊員も居たが、隊長の説明を聞くと積極的に作業を開始した。

「しかし隊長も言うねえ。『戦った相手には敬意を表せ』とは。どこまで本心なんだか」
「ま、半分じゃねえの?それよりそこの仏さんは早く埋めようぜ。『敬意を表して』な」

隊員達が真っ先に手を付けた死体は、ゴーレム隊周辺の死体だった。
その死体は殆どが石の破片か、重機の跳弾に打ち抜かれていた。

239 名前:S・F ◆Pf7jLusqrY :04/06/18 15:31 ID:???
「まったく隊長もお人が悪い。ここまでやりますか?」
「おいおい、人聞きの悪い。条約違反もしていないし、むしろ美談になるような
事をしたんだぞ?それに、あんなコワレモノで戦争やる奴がアホなんだ」

「その美談も『勘違いの美談』なんでしょう?後世の人がどう思うか」
「そんな連中の話は知らん。せいぜい好きに言わせておくさ。今までみたいにな」

後にこの話は、戦場におけるルールとマナーを心得た人々の話として、
語り継がれている。もちろん美談としてか、笑い話としてかは人によるが。



319 名前:S・F ◆Pf7jLusqrY :04/06/18 21:20 ID:???
さて、ちょっとだけ煙幕弾。
「しかし、お前間抜けも良いところだな?自分の飼い犬に、
いやグレムリンに手を噛まれるとは・・・」
「ぬかせ!貴様等とて被害は受けたではないか!目的は達成したわ!」
「戦術と戦略の違いを、小一時間語ってやろうか?このアホ魔導士!」
[ふん、お前の様な平民ごときに、私の高貴さはわからん」
「頭でっかちのバカが何をいうか!お前の愚かさは、アレが証明しとるわ!」

自衛官が指差した先には、倒壊した、もとい「解体された」魔導士の家の残骸があった。
天然種を品種改良した強化型グレムリンは、「あらゆる道具」すなわち
檻と家をも分解する能力を身に付け、脱走したのだった。

グレムリンは増殖を続け、家や歩道、武器、ありとあらゆる人造物を綺麗に分解して
遊んでいた。その責任を取るため、魔導士はグレムリン処理に駆り出された。

そして彼は、街だったはずの平原で、殺気立つ民衆が囲む中でグレムリンを
素手で狩っているのだった。網さえも分解する為、素手で捕獲して穴に埋める
しかないのだ。

「ギギギギギギッ!ギギギギッ!」
「こらー、また増えたわよ!真面目にやりなさいこの宿六の穀潰し!」
「あたしのおにんぎょう、かえしてよー!ばかー!」

「随分悲惨な言われようだな?」
「お前らの武器がいかんのだ、この戦争屋め!」
「無駄口叩いてる暇に、さっさと捕まえたらどうだ?」
「す、すいません(くそ、いつか殺してやる)」

こうして彼は、日が暮れるまでグレムリン狩りに勤しんだのであった。

ネズミを駆除するのに地球を破壊する奴は狂気です。それさえ分かって
頂ければ、自分より愚者殿は努力家かと。


558 名前:S・F ◆Pf7jLusqrY :04/06/22 01:06 ID:???
「弾種AP!テッ!」
「だめです、弾かれました!」
「何ィ!?」
「目標飛行!こちらに向かってきます!」
「回避しろ!」
「ダメです!間に合いません!」
「総員衝撃に備え!」
**********************************
「で、負けたのかね。」
「負けては居ません、一体は倒しました。でも何ですかあの化け物は!
徹甲弾ははじくは戦車はひっくり返すは・・・むちゃくちゃですよ」
「虫だよ。まあ戦車並みに大きいがね」

この頃自衛隊は、駐屯地付近の森に棲む巨大昆虫に悩まされていた。
戦車並みのサイズを誇るカブトムシ、軽く数百mを飛ぶバッタなどである。

「しかし戦車もダメとなると、どうやって倒せばいいんだ?」
「小銃もダメ、迫もダメ、重火器は弾不足で使用不可。八方ふさがりです」
「だが駆除しないことには、敵が操ってくる可能性もある。危険すぎる」
「卵や巣から根絶やしにしますか?森の中は地獄でしょうね」
「森に火を付けると、色々うるさいしなあ」
「毒って案はどうなりました?」
「致死量に到達しない。幾ら何でも大きすぎる」

「司令、自分に良い案があります」
「何!アレを倒す方法が有るのか?」
「死体の検証結果から、有効な手段が見つかりました」

559 名前:S・F ◆Pf7jLusqrY :04/06/22 01:13 ID:???
数週間後、基地近くの虫は全滅した。
「しかしあの虫どもが、ほんの少しのガスでやられるとは」

「あれだけ体格が大きいと、呼吸器は普通の虫より遥かに効率化されています。
そこを破壊してやれば、簡単に殺せるわけですが・・・もう本当に虫じゃない
ですね。なにせ肺があって気門が全部埋まってるんですから」

虫が巨大な体躯を維持するには、二つの条件が有る。酸素と、外骨格の強度である。
普通の虫に数十倍する硬い殻を持つことで、彼らはその体躯と強さを手に入れた。
しかし同時に、呼吸器官を劇的に変化させねばならず、それが脆さに繋がった。

「ところで、ガスの毒性はすぐに消えます。取り敢えず夕食には間に合います」
「ん?夕食とはどういう事だ」
「しばらく我々は、蛋白源に困らないという事です。懸案がもう一つ解決しました」

「お、今日の飯は久々の肉か!これ何肉なんだ?オオトカゲ?サーペント?」
「お前、戦車が横転した時の傷はいいのか?」
「戦車乗りがこんな事でへたばってられるか!俺が嫌いなのは虫だけよ!」

彼は蜂の子を実家で出され、それ以来「虫は人間の食う物じゃない」
との堅い信念を持っていた。もっとも単なる喰わず嫌いなのだが。

「今日の肉はうまいなあ!歯ごたえがあって、ちょっと癖があるけど・・・いける」

637 名前:S・F ◆Pf7jLusqrY :04/06/26 01:30 ID:???
「知ってるか?街の方に最近、美人巫女が来たらしいぜ。占ってもらわないか?」
「高かったりしたらどうするんだよ?ボッタクリとか・・・」
「お代はお気持ち程度、って事らしい。まあ問題ないさ」
*************************
「占いお願いします!(美人でしかも可愛い系入ってる!巫女バンザイ!)」
「じ、自分にもお願いします(お代はボクの『気持ちです』なーんつって!)」
「自分にもお願いします!巫女さん(恋占い口実にして、真実の愛に目覚めさせちゃる!)」
「俺が先だ」「いや俺が」「ここはやはり俺が」
「まあまあ皆さん。三人ですね?ではアレで占いましょう。全員同時に出来ますよ」
(同時に占いをやるなんて、聞いたことが無いが?どんなのだろ)
*************************
「ロン!緑一色四暗刻、裏ドラ6!」
「・・・ハコテンです」
「結果出ました。金運0、恋愛運0、気を付けないと悪い女に全部持って行かれる、です」
「自分でいいますかフツー?まだだ、まだもう一局!」
「別の占いもありますよ?さいころ占いとかカード占いも」
「それトランプとチンチロリンですか?」
「そちらではそう呼ぶそうですね」

賭け事というのは、古代においては天や地を占う神事であり、巫女が扱っていた。
毎日毎日それを専門として扱っているのだから、弱いはずもなかった。
彼女の元へと通う男達の目的はいつしか変化し、完全な賭博場と化していった。
そして・・・

638 名前:S・F ◆Pf7jLusqrY :04/06/26 01:32 ID:???
「Qのフォーカード。これなら勝てる」
「残念でした。キングとジャックのフルハウス、ジョーカー入り」
「ま、参りました」
「まだ占いますか?お布施の貸し出しに保証は要りません。神様からの授け物です。
ただしきちんと返さない場合、天罰が貴方に下るでしょう」
「天罰っていうか、仲間に恥ずかしくないのかてめえら!自衛官として!」
「我々は神の僕として働くだけです。全ては公平な運命です(俺も借金が有る、すまん)」

「どうしますか?天罰が怖いなら別の貸し出しもありますよ?十日に一割値段が増しますが」
「オニ!悪魔!」
「わたくしは巫女です。穢れなどどこにも有りませんよ?」

こうして今日もまた、自衛官たちの悲鳴や歓声が街の一角に木霊するのだった。

元ネタは自衛官の休日。F世界にはパチンコつーよりその原形しかないですし。
自衛官がまぬけになりすぎた?どうなんだろ。まあオメガ予備軍みたいな
連中なんだと思ってくださいw

845 名前:S・F ◆Pf7jLusqrY :04/06/27 18:54 ID:???
返答が無いので、界面活性剤でバチルス退治。前スレか前々スレ 780あたり?

帝国の戦争 監督の暴露日記・3
アクスが思考をまとめている間に、返答が帰ってきた。
「我々の望みは、我が国の兵の取扱いについて、新たな関係を貴国と結ぶことです」
つまりは捕虜問題か、とアクスは思った。確かに昼の会議から行けば、極めて妥当な所だった。
だがなぜ明日でも問題のない事を、こんな所で話すのかは分からなかった。

アクスの疑問を見て取ったのか、通訳の男が言葉を繋げる。
「訝しむのもごもっともです。しかし、これにはちょっとした事情があるのです」
男は大臣に話しかけ、大臣が頷くと共に説明に入った。

「我が太陽国防衛軍は全員が民兵で、その管理をしているのは、全大臣の長たる
総理大臣です。つまり国家管理軍なのですが、その為に幾らか問題が生じています」
アクスはほう、と大仰に驚き頷いて見せる。その態度に微笑しながら、男は続けた。

「その問題というのは、ずばり金です。わが軍の兵は全員が国の命令で動いて
いるため、独自の交渉権や資金源が存在しません。まあ有り体に言ってしまえば、
捕虜と交渉しても、身代金は出ないのです」
少し渋い顔をした男に、アクスも驚いた顔で返してみる。

「それは初耳ですな。しかしそれでは、貴国の兵は売られてしまいますぞ?」
「そこで、我々が提案に来たという訳です。兵の管理は国が行っていますから、
交渉権も国の方に存在するのです」
「つまり、貴国の捕虜に関しては国を通せ、ということですな」
「そのとおりです」

846 名前:S・F ◆Pf7jLusqrY :04/06/27 18:56 ID:???
男の笑顔に微笑みを返しつつ、アクスは思案していた。捕虜に交渉能力が
存在せず、その権限は国に集中している。それは裏を返せば、帝国軍の捕虜も
交渉権を失ったことを意味している。現地の将軍などと話が付かないからだ。
つまり帝国兵もまた、彼らの国と交渉する必要がある。

「では我が国は、誰にその話を通せば良いのでしょう?」
「その事に関しては、明日の会議でお話ししましょう」
男の返事に、アクスは頷いた。

「しかし太陽国というのは、随分と不思議な国ですな。私のような年寄りには
よく分からない事が随分あるようで」
アクスが口にした言葉は、もちろん嘘というか冗談である。こんな夜中に
交渉をしているのが、何よりの証だ。

政治屋に舌が何枚有ろうと、体は一つしかない。だから今回のように王などが
多数集まる場合、秘密交渉や打ち合わせなどは一人でこなす必要がある。

しかしそれをひとときに行うと、間違いなく時間が足りなくなる。そのため
アクスは昼間から歩き回っていた。世間一般のイメージと違い、談合は夜に
やるべき物と決まっているわけではない。

要は秘匿性が高ければ良いのであって、燭台一つのカビ臭い部屋や、
娼館の隠された一室など、絵本的な所でなくとも問題はないのだ。

847 名前:S・F ◆Pf7jLusqrY :04/06/27 19:07 ID:???
そのためアクスは、太陽国との交渉を夜中に回した。そして出来る限りの
情報を収集していたのだった。

ある国には折り目正しい官僚団が送り込まれ、またある国には住民から収奪を
行わない軍隊が送られたとも聞いた。その話から、ある程度国の水準が想像できた。

訳の分からない、しかし侮るべきで無い国、それが今のアクスの認識だった。
昼間の会食でも、彼らだけは服に油じみ一つ付けず、行儀を良く守っていた。
つまり彼らは、にわか仕込みの礼儀しかない三流国ではない。

文明だけでなく文化をも持っている、ならば油断などすべきではなかった。


509 名前:S・F ◆Pf7jLusqrY :04/07/12 22:32 ID:???
SS埋設行きまーす。地雷用の柵付けておきますね。
********************************************
帝国の戦争 監督の暴露日記・4

「ところで太陽国と言うからには、太陽崇拝が随分と盛んなんでしょうな」
アクスは話題の種に、ふと思ったことを口にしてみた。今回の勘違いの原因である
『太陽国』という名前の事は気になっていたし、相手国の信心深さを知っておくのも
悪いことではない。

しかし帰ってきた返事は、少々意外な物だった。
「いえ、太陽国は太陽崇拝をしていません。昔はそうだったと聞きましたが」
「そうなのですか?てっきり私どもは、貴国が信仰の為に付けた名前かと思っていました」

アクスの疑問を含んだ言葉を聞いて、男は苦笑した。
「どうやら誤解があったようですね。実はあの名前は、王国連合の方で付けた名なのです」

その言葉でアクスは、ようやく納得できた。太陽国の名は王国連合の意訳であって、
本来の名では無いと言うことだ。それならば名前と中身の不一致も理解できる。
しかし太陽信仰が無い国ならば、なぜ太陽国なのだろうか?

「では本来の名は、何というのですか?」
「太陽国の元々の名前は、ニホンといいます」
「ニホン、ですか。なんだか妙な発音ですなあ」

後ろの大臣と事務官が、明らかに反応したのが分かる。ニホンという本来の名を
呼ばれたことに気付いたのだろう。しかしなぜだか、背中がむず痒いような顔をしていた。

510 名前:S・F ◆Pf7jLusqrY :04/07/12 22:34 ID:???
「彼らの言葉で『太陽のもとにある国』つまり日の本、でニホンと言うそうです」
「とすると、ニホンというのは太陽に近い所にある国なのですか?」
「ええ。私の住む国よりも更に東、日の恩恵に最も早く浴せる場所にあります」

その言葉を聞いたアクスは、やはり妙だと思った。東の果てには大きな海があるが、
そこには野蛮人の住む小島しか無いはずだからだ。しかしその疑問を差し挟む前に
男は返答した。

「もうひとつは、ニホンの皇帝『テンノー』が太陽神の血筋の方だからでしょう」
「なるほど、それで『太陽の国』と言うわけですか・・・しかしそれでは、
やはり太陽信仰が無いのは分かりませんな」

アクスは神の血を王が引く国に行ったことがあるが、そういった国では殆どが
その祖先たる神を崇めていた。だから皇帝が太陽神の血筋なのに、その信仰が
無いことはどうにも理解できなかった。

「その辺はすこし複雑になりますが、ニホンの歴史的経緯の問題です」
「一体どういう事なのでしょう?大変興味がありますな。お話しいただけますか?」
「では、お話ししましょう。といっても私も聞かされただけですが」

通訳の男は、この奇妙な所だらけの国について語り始めた。

511 名前:S・F ◆Pf7jLusqrY :04/07/12 23:08 ID:???
「ニホンは昔、彼らが『世界』と呼んでいた所の全てと戦争をしたそうです」
男がとつとつと語りだしたのは、神話の時代の戦いのようだった。もしくは古すぎて
伝説と化したような、どこか現実感のない大きないくさの話であった。

巨大な船の群が海を渡り、数百万に及ぶ軍が動き、大陸に海にそして空に戦った。その世界の
覇権を賭けた死闘は長きに渡り、その戦いにニホンは敗北した。国中は焦土と化し、街一つを
焼き尽くす巨大な火を二つも喰らい、民草の多くが死んでいった。

アクスはそこまで戦争の話を聞くと、思わず唸った。話の内容からすると、これはニホンと
言う国の、いわば創世記にあたるような話では無いかと考えた。

「そしてニホンは、国を新たに作り直し始めたのです。今までの住処や街、様々な物を
変化させ、新たな力を得られるようにと。しかし人々の心は、敗北によって混乱していたのです」
「その混乱を立て直すために、信仰を変えたと言う事ですかな?」

戦争によって王や貴族が宗旨変えする事はあるし、国を強くするために宗教を改革する事も
珍しいことではない。帝国にしたところで、歴史上宗派や国教が何度も変わったことがある。

「ええ、そういう事です。まあ変わっている所と言えば、テンノーが
自ら人間であると宣言した事でしょうか」
この言葉は、アクスは特に気にしなかった。皇帝自らが神を名乗る場合はあるから、
それを取りやめただけだろうからだ。むしろ後の言葉の方が、アクスを驚かせた。

512 名前:S・F ◆Pf7jLusqrY :04/07/12 23:22 ID:???
「そしてテンノーは、『私は神ではなく、民と共にある者である』と言ったそうです」
「なんと!皇帝自らが、民と共にあると言ったのですか?」
さすがにこの言葉には衝撃を受けた。神自身であることを捨てても、神の代理人たる事まで
捨てるような統治者など、聞いたこともないからだ。

「そう言ったわけで、今のニホンでは太陽信仰が取られていないそうです。
テンノーは神ではなく、民と共にある国の象徴であるということらしいです」
「ふーむ。色々と興味深い話を、ありがとうございました」
「いえいえこちらこそ、受け売りの話で申し訳ない」

型どおりの挨拶を交わしたアクスだったが、内心の疑問と混乱は更に深まった。

訳が分からないどころではない。ニホンという国は、自分たちの知る物とは
全く別の歴史を歩んできたようにしか思えない。異国の人間というよりも、
まるで別の世界から来た何者かのように感じられる。

様々な思考の展開を行いつつ、アクスはその後他愛もない話を続けた。
大臣とも幾らか言葉を交わし、ニホンは帝国に対し悪意の無いこと、ニホンは
帝国と通商の意志が有ることなどを聞いた。

そうしている内に夜は更けていき、アクスとニホン大使との会合は終わった。
アクスは寝床に引き上げる途中も、様々なことを考えていた。

513 名前:S・F ◆Pf7jLusqrY :04/07/12 23:23 ID:???
技術に優れ、歴史を持ち、民と皇帝が共にある国。皇帝が居るならば帝国なのだろうが、
それにしても自分たちの『帝国』とは随分と違う。しかも話や大臣の言葉からすると、
元々戦争を好む国でも無いようだ。通商を望むと言うが、こんな奇妙な連中と果たして
商売がやっていけるだろうか?

アクスはもう一つの「帝国」に思いを馳せながら、どうでも良いことも考えていた。
「テンノー」や「ニホン」と言ったときの大臣達の妙な顔は、一体何だったのだろう。
笑いをこらえているのか、怒っているのかも良く分からなかった。これも彼らニホンの
文化なのだろうか?だとしたら、やはり理解しがたい人々だ。



794 名前:S・F ◆Pf7jLusqrY :04/07/26 22:51 ID:???
>>509-続き 帝国の戦争 資料配付

朝の空気というのは、どこかにけだるさを誘う物がある。気のない仕事をしている時などは
特にそうだ。それは現在開かれている会議にも、言えることかもしれない。

帝国と東方諸国との会議は、二日目の朝を迎えていた。いま議題に上げられているのは、太陽国改め
「ニホン」となった国から提案された事柄である。そのニホンの通訳が提案について述べているのを、
帝国側の官僚は話半分に聞いていた。全員見かけこそ普通だったが、他の参加者と違って緊張感は
欠片もなかった。

彼らに緊張感が無いのは、官僚らの長たるアクスが、ニホンの提案について話を通していた
からである。その内容は簡単で、前夜の会合について要約しただけのものだった。

「太陽国は実はニホンという未知の国で、帝国との交渉を持ったことがない。当然
捕虜についての交渉役もいないため、互いにそれを設定したいと提案された」とアクスは言った。

ほかの官僚達も、それにただ頷いた。ニホンは帝国にとって全く未知の国だったから、
その場所や他国とのつながり、利害関係なども全く分からないのだ。突っぱねるとか
丁寧に扱うといった、態度を決める事も出来ない。

その結果として、全員が話を「はいそうですか」と聞くだけになってしまった。提案そのものは
ただ受け入れるしかない内容であり、何か行動をしても意味がないからだ。そんな状況だったから、
参加した官僚の多くが会議と関係ないことを考えていた。

795 名前:S・F ◆Pf7jLusqrY :04/07/26 22:52 ID:???
ニホンという国と、それを統べる皇帝テンノー。この皇帝のことは、何度考えても分からない。
『民と共に有る者』という宣言は、権力の常識から言えば有り得ない。

権力とは要するに、両天秤のようなものだ。金と権威を両手に載せる、この世で最も大きな天秤。
もちろんこれの均衡を見極められなければ、破滅が待っている。
金を重んじれば権威が失われ、権威を重んじれば金を浪費せざるを得ない。
そして均衡が狂ったとき−天秤そのものが反動で倒れる。

だからテンノーの行った行為は、どうにもアクスには解せなかった。神をやめた後で
「民と共に有る」と言うことはすなわち、貴族としての力をも捨てたと言うことだ。
なぜテンノーは神と貴族の権威という、二つの重しを捨てたのだろう。
こんな無茶をすれば、普通は反動で倒されるだけだ。

しかし、とまたアクスは思った。ニホンはその時、この上なく大きな戦争に負けたのだ。
つまりは金の重しも、その頃には全て失われていたのだろう。金の重しと権威の重し、
双方が無くなれば、空になった天秤は釣り合いがとれる。

796 名前:S・F ◆Pf7jLusqrY :04/07/26 22:53 ID:???
だがそれはまた、絵空事でもあった。空になった天秤など誰も重んじないからだ。
空になった天秤は捨てられ、誰かがまた天秤となって新たに立ち上がる。普通はそうだ。

しかしニホンに新たな権威者は現れず、テンノーは民と国の象徴という何とも奇妙な存在となった。
からっぽの天秤、ほんの少しの力で倒れる脆い「もの」。なぜそんなものが生き残れるのか?
アクスは考えても考えても、答えが一向に出せなかった。

アクスの考えがまとまらない内に、通訳の話は終わった。そして通訳の男から、帝国側に
ひどく奇妙な物が渡された。その奇妙な物とは、何綴りかの資料であった。

267 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/08/10 23:28 ID:???

国賓級の交渉とウルルン的交流は、他の方に任せますた。自分はネタを・・・

帝国辺境民との交流会は、その最後に来て全てが吹き飛びかかっていた。宣撫班として
送り込まれた音楽隊と護衛の普通科中隊は、予想外の敵に遭遇したのだ。

山賊にしては異様に図体の大きな勢力が、山から下ってきていた。魔法兵らしきものや
大型魔獣など、とても一個中隊では支えきれない戦力を敵は保持していた。

「ちくしょう!なんであんな無茶苦茶な戦力が・・・」
音楽隊の隊長は、地団駄を踏んでくやしがった。交流会が成功しても、
村が焼かれては何の意味もない。こんな事態は予想外だった。

「恐らく辺境軍とつるんだ、軍閥もどきなんだろう。村を焼いては物資や住民を
売り飛ばし、闇金を貯めているって訳だ。国境に近いから良いビジネスになる」

護衛隊長の言葉は、ひたすら冷酷だった。相手は間違いなく血も涙もない、最悪の
ごろつきどもで、説得は意味を成さない事を匂わせていた。

「何とかならないのか?ここで逃げたら何の為の友好か分からない!他の村にも
噂が伝わったら、今までの分もこれからの事も、全部無駄になっちまう!」

「無理だな。戦力が足りなさすぎる。音楽隊の増援があっても、せいぜい
増強中隊にしかならない。これでは殲滅される」

音楽隊の投入、というのは正気の発言である。中央や方面隊等、大きな音楽隊以外は
基本的に有志であるから、戦闘訓練は十分受けている。武器の予備を使えば参戦可能なのだ。

268 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/08/11 00:00 ID:???

「村人の逃亡援助は?逃げ切れればまだ何とかなる」

「それは可能だが、敵は騎馬だ。村の馬は論外だし、車に老人や子供などは
全部載せきれない。追撃を喰って大損害を出すだろう」

魔法や魔獣も存在するから、無理に詰め込んで逃げても恐らく被害は出る。
完全な逃走は不可能だった。

「戦力も機動力も足りず、辺境で負け犬か死体になるしかないのか。
最低の結末だな!くそっ!何か無いのか」

音楽隊長は状況と言葉を反芻しながら、必死に考えていた。
−まだ襲撃まで幾らか間はある。何とかいい手はないか、考えるんだ。
しかし戦力の不足はどうにもならない。距離が遠すぎて増援部隊など来やしない。

−待てよ?なぜ戦う必要がある?今の目的は村人を「守る」ことであって攻勢支持や
陣の固守ではない。戦ったり逃げたりしなくても、敵の足を止めれば同じ事なのだ。

ならどうやって敵の足を止めよう。あの悪党どもを、どうすれば止められる。
悪党どもの苦手な物、恐れる物−そうだ、あの手がある!

「一つ提案がある。上手くいけば犠牲は出ない手だ。失敗すれば殲滅戦になるが」
「随分な大バクチだな。見込みはあるのか?」
「見込みなら有る。ただし作戦案じゃなく、変則的交渉手段なんだが」

護衛隊長にしても、逃走や犠牲は本意ではない。上手くいくならそれが一番だ。
彼は音楽隊長の話を聞くことにした。

269 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/08/11 00:16 ID:???

「・・・という案なんだが、どうだろう?」
護衛隊長も流石に首をひねった。どうにも無茶というか、やけっぱちな作戦だと
彼の心は囁いていた。しかしその反面、その作戦に賭けてみたい衝動にも駆られた。
どうせどう転んでも犠牲は出るのだ。ならばこの手にもやる価値がある。

「時間がないのは厳しいな。音楽隊の方は大丈夫なのか?」
「それは任せてくれ。仕込みは十分に出来てる」
「分かった。では、こちらはすぐ準備に移る。そちらも準備を」
「了解!」
二人は敬礼を交わすと、即座に作戦準備に入った。
*****************************************************
きょ、今日はここまで・・・ネタのはずなのに終わらなかった。
レス止めてしまってスマソ。



301 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/08/11 18:37 ID:???

空気が戻るかは分かりませんが、>>267の続きでも。

**********************************************
夕方山を下りた山賊たちは、夜になって村へと進んだ。夜間に出歩く者は少ないから、
襲撃や強奪には都合がいいのだ。もし気付いた者がいても、街に着く前に
グリフォンか魔法で潰してしまえばいいから、行動は気楽なものだった。

「今夜の獲物は何にする?俺は処女が欲しいなあ」
「こないだの村はシケてやがったからなあ。豚と牛でも分捕るか」
「お、おで・・・かーいいおんなのこがほしいなあ・・・でへへ」
「お前、またバラして喰う気か?ホント好きだな」

彼らの気楽な気分は、言葉にも溢れていた。自分たちがこれから襲う相手を
完全に見下し、狩る対象としか考えていない証左であった。

しかし彼らは忘れていた。自分たちは常に狩る側では無いことを。
そして狩られる恐怖を忘れたままに、彼らは村へと進んでいった。


303 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/08/11 19:03 ID:???

彼らが恐怖を思い出したのは、村のすぐ手前まで来た時だった。

「なあ、村の方からラッパとドラの音が聞こえないか?」
「バーカ、今の季節に祭りは無いだろ。だいたい祭りにラッパは使わねえ」

殆どは気にしなかったが、一部はその音を気に掛けていた。祭りの音楽とはまるで
違う、異様に力強い旋律と拍子。聞き慣れていながら、全く心休まらない狂暴な音楽。
村から聞こえてくることなど、普通は有り得ないその曲。

「お、おい!こりゃ祭り囃子なんかじゃねえぞ!この調子と音は・・・」
誰かが叫ぶか叫ばないかの内に、村の方から信じられない大声が轟いてきた。

「我々はぁ、帝国軍討伐部隊の先遣隊であある!山賊ども、足を止めええい!」
『帝国軍』という言葉が、朗々と夜空に響き渡った。それに驚いて全員が
足を止めると、音楽はいっそう大きくなり始めた。馬の足音が消えたせいも
あったが、それ以上に恐怖と威圧感が音を腹に響かせていた。

「ようく聞け不埒な山賊ども!我が部隊は辺境軍の腐敗を鑑みられた
皇帝陛下の勅命により、きさまらを討伐に来た!」

皇帝の勅命と聞いた瞬間、周りの空気は一気に冷めていった。山賊たちは
思い出したのだ。自分たちを狩る者、国家という暴力の権化を。

恐怖が全体に浸透した頃、また村から大声が響いた。
「しかし我々も、村を戦火に巻き込む気はない!今すぐに引き返すならば、
今夜だけは見逃してやる!」

304 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/08/11 19:38 ID:???

相手からの提案に、山賊たちは戸惑った。とにかく今夜逃げ切ってしまえば、
あとは他の山賊の所に逃げ込むなり、夜盗や追い剥ぎとして生きる道もあるからだ。
しかし討伐されてしまえばどうしようもない。

その時であった。山賊の頭目が大声で吼え返したのだ。
「テメエ等本物の帝国軍か?だったら軍旗を見せてみやがれ!」
「そ、そうだ!本物なら証拠を見せやがれ!」

頭目は帝国軍の存在を疑っていた。辺境軍からの情報が入っていないし、あまりにも
出現が唐突だったからだ。これで沈黙するようなら、相手は偽者というわけだ。

しかし相手の返答は、全くよどみがなかった。
「貴様等に聖なる軍旗など見せるか!証拠はこれで十分!」
返答から数秒しない内に奇妙な高音がいくつも響き、村の前で大爆発が
巻き起こった。連続した爆発で、近くの地面が大きくえぐれて焼け焦げた。

「ま、魔法ですぜ。こりゃ本物だ!」
「くそっ!今夜の所は引き上げだ!」
こうして山賊たちは、村の前からすごすごと引き下がっていった。

305 名前: S・F ◆Pf7jLusqrY 04/08/11 19:47 ID:???

朝を迎えた村の中で、二人の隊長は談笑しあっていた。
「良く帝国軍の音楽なんて知っていたな」
「なあに、帝国人に受けるかと思って練習してただけさ。大した事じゃない」
「だがあれが無ければ、こっちが帝国軍だと思わせられなかった。ありがとう」

「それよりあの演技は良かったな。『聖なる軍旗を見せるか!』って」
「あ、あれはその場の空気という奴だ。誉めるなら、夜間射撃で苦労した
迫の連中に言ってやってくれ」

「まあまあ、照れるんじゃないよ。で、取り敢えずこれからどうする?」
「しばらく敵は山に籠もっているだろうが、その内気付いて帰ってくるだろう。
だが今なら逃亡準備もできるし、増援も呼べる。何とかなるだろう」
「尻拭いはやっぱり自前か。忙しくなるなあ。」

二人の隊長はそこで笑い合うと、村に向かって走り出していった。