125  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/06  00:02:49  ID:???  

52回目の投稿  
輸送戦記?  
198  
鎧の動きが止まった。何かする気なのか?  
鎧が少し震えている。!振動攻撃でもやる気か!すぐに避けられるよう体勢を整えた…が何もおきな  
い。何だ?  
「グゥォオオオオオッ」  
鎧は一声叫ぶと、少しずつ表面が剥がれ始めた。  
「グゥォオオオオオッ」  
また叫んだが、剥がれる速度はどんどん早くなっていく。  
僕はあまりの光景にあっけにとられた。  
そうしているうちに表面はどんどん剥がれ、鎧は小さくなり、剥がれ落ちたものは空気に溶けるよう  
に消えていき、最後に残ったのはアスが着ていた最初の鎧だけになった。  

「…え〜と、これって自己崩壊?それにしても助かった」  
これが僕の偽らざる心境だ。そりゃそーだろー。一時は腹をくくるほどのピンチから、相手が勝手に  
ああなってしまったのだからしょうがない。  
しかしまた何でなんだ?まさか『煉獄』と同じように…ガス欠?もしそうだったらまさに爆笑ものだ  
な。製作者とアスの両方は。製作者は能力と燃料を考えて作れと。アスは…そうだな…メンテナンス  
ぐらいちゃんとやっとけ!といったところか。  

「ぐ、ま、まさかこんなはずはない!こんな事はありえない!きっとこれは何かの間違いだ!」  
鎧が腕を振り回して騒いでいる。ああ、アスの奴は無事(?)に中にいるらしい。まー気持ちは分か  
らんでもないな。まぁ、こんなチャンスを生かさない手は無い。剣を構えてアスの前に立ってこう  
言ってやった。  
「(不適切用語の為に抹消)野郎。お祈りの時間は終わったかい?」  


126  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/06  00:03:43  ID:???  

199  
「き、貴様!いったい何をした!」  
「何をって…んな反則級の魔法帝国時代製の武具に細工が出来るほど僕は詳しくねーぞ」  
「ウソだ!」  
「まーそっちがウソと決め付けようがどーでもいいがな」  
「正義である我が負けるはずがない!このような無様な事になるなど『お約束』にない!」  
アホかこいつ。  
「王国の正義。帝國の正義。日本の正義。クラウスちゃんの正義。僕の正義。色々あるわな。それに  
正義が必ず勝つなんて信じてるのは厨房ぐらいだぜ。このヘタレ」  
カンカンに怒ったのか、アスは手を振り回して怒っている。  
「『お約束』ねぇ。こっちの『お約束』はこうだぜ。『我がままで悪辣な貴族のボンボンを、正義の  
一般庶民が懲らしめる勧善懲悪モノ』にな!」  
そう言ってアスにむかって1歩踏み出した。  

あ、アスの野郎1歩下がった。ヘタレ確定だな。  
「おいおい、騎士は勇敢じゃなきゃ務まんないじゃねーのか」  
また1歩進み、明日は1歩下がった。  
といきなりアスが切れた。  
「うるさいうるさいうるさい!我が盾『夢幻』よ!我が敵の前に幻を立てよ!」  
アスが盾を翳して叫ぶと同時に、ぼくの周りに幻影がいくつも現れた。  
僕の周りにはアスの幻でいっぱい。ふつーはこんな日中に幻術をかけても、影でわかったりするのが  
お約束なのだが…全部に影がある。殺気もある。おまけに音声まで完備してやがる。  
これでは普通の人間なら大混乱。軍隊に使えば同士討ち間違いなし。確かに強力だ。  
だが、アスは忘れている。世の中には例外があるという事を。そしてその例外が目の前で歩いている  
という現実を。  


127  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/06  00:04:23  ID:???  

200  
僕は幻を無視してアス本体に向かって歩き出した。  
「な、なぜだ!お前は幻に囲まれて我はわからないはずだ!」  
1歩近づいた。  
「魔法帝国時代の魔法武器に、かなうものはいないはずだ!」  
1歩近づいた。  
「なぜだ、なぜだ」  
1歩近づいた。  
「そりゃお前が言うところの『お約束』ってやつさ」  
「なんだと!」  
1歩近づいた。  
「RPGゲームでボスクラスに幻術・催眠系が効くわけがねーだろこのスカタン!」  
アスの目の前に立った。  

「どうした?打って来いよこのヘタレが」  
「うわぁぁぁ!」  
あっさり避けて左腕を一撃。盾をとり落とした。  
「お前の敗因は、まずは武器を過信した事」  
また切りかかってきた。今度は右腕を1撃。今度は『煉獄』を取り落とした。  
やはり鎧の防御力が呆れるほど落ちている。やっぱりガス欠みたいだな。  
「う、わ、わかった。降伏する。降伏するから助けてくれ」  
あー降伏するのか。しょうがない。そう思って山刀を納めた。  
「ヒヒ。油断したなぁ!」  
そう叫んでアスが隠し持っていた短剣で突きかかってきた!  
「そしてもう1つ」  
アスの短剣を盾で弾いた。  
「ヤクを常用する卑怯者になった事だ」  
そうして盾で、思いっきり、アスの顔面を殴り倒した。  


128  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/06  00:05:29  ID:???  

201  
鎧+体重でけっこう重いはずのアスだが…その体がキレイに宙を舞った。うん、我ながら良いアッパ  
ーだ。会心の一撃って奴だな。  

アスが完全に気絶したのを確認してすぐ、観客席の一部が崩壊した。  
何だ?と思ったらそこには大きい鉄の塊がうずくまっていた。そしてその鉄の塊は叫んだ。  
「助けに来たぜ!草壁!」  
○ースのドギかよ。  
これが決闘の最後を飾った。  

その後は大変だった。  
逃げていた観客や関係者や司会者が戻ってきて大騒ぎ。  
司会と見届け人と医者がアスの気絶を確認し、僕の勝利を宣言したのだが…  
「認めん!認めんぞ!誰も見ていない所で決まったなど。きっとマモルはインチキをしたはずだ!そう  
でなければアス様が負けるはずがない!」  
と無効を主張する貴族関係者。  
「うわ〜ん。有り金全部すっちまった!」  
賭けに負けた奴。  
でもその中で1番大騒ぎだったのはクラウスちゃんだ。  
「守。心配したんだよ!」  
そう言って抱きついてきた!  
非常に嬉しいのだが、当然と言うかなんと言うか衆人環視の中で照れくさいが、役得か?  
その後わんわん泣きながら抱きついて話してくれない。  
そうしているうちに何か妙になってきた。  
ん?そういや僕も体が痛くなってきた。う、脇腹が。あの、クラウスちゃん。だきついてくれるのは  
嬉しいんだけど…そのなんだか、緊張が解けたら、その…痛みが…ぐは。  
そうして僕は痛みでぶっ倒れた。  




258  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/07  00:34:30  ID:???  

53回目の投稿  
輸送戦記?  
202  
決闘から3日後。  
ベッドの上で僕は横になっている。。  
全治2ヶ月。  
肋骨が1本折れ、その他あちこちの骨にヒビが入っていた。  

闘技場でぶっ倒れた後、すぐにモルヒネを撃たれて突入してきた89式装甲戦闘車に乗せられて基地へ。  
その間はクラウスちゃんがつきっきりだったそうだ。  
その後は医務室に担ぎ込まれ、後は医官の人の独壇場。色々処置を施され、併設してある個室に放り  
込まれて今に至る。  

実はこの個室は厳重な警戒下にあったりする。部屋の前には短機関銃を構えた警務隊の人が交代で詰  
めている。その上基地全体が警戒態勢に入っているそうだ。理由は簡単。負けた連中(アスと関係者  
に非ず)つまり賭けに大損ぶっこいた連中が暗殺者を送り込んでくる可能性がある事。後はやっぱり  
大負けこいた市民がヤケのついでに暴徒化して押し寄せてくる可能性があったからだそうだ。まさか  
と思ったが、サッカーの勝敗で戦争になった例があるから笑えない。  
コンコン  
そんな事を考えているとノックの音が聞こえた。誰だろ?  
「守。入るぞ」  
「なんだ。姐御か」  
「なんだとはなんだコラ。それにだ、アタシを姉御と呼ぶな」  
そう言うと姉御は僕の頭を両手で「ぐりぐり」とやった。  
「いたいいたい姉御!僕は病人ですよ!『ぐりぐり』は反則!」  
「ん、まぁこのへんで勘弁してやろう」  
「で、姉…ルローネさんは何しに?」  
「見舞いだ。そのついでにだ、アスの使った武器の簡易検査の結果が出た。3日であげたんだぜ」  


259  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/07  00:35:35  ID:???  

203  
おお、あの常識をどっかに置き忘れたようなアレですな。  
「まずは盾の『夢幻』だが、こいつは幻覚効果を相手に与えるもので、後は硬くて軽いだけのものだ」  
「その硬くて軽いだけでも大事なんですけど。にしてもゴルゴンの盾でなくて良かった」  
「石化すると1発で勝負が決まるからな。何せ持ち主の思い通りに動く鎖も、単なる鎖になるぐらいの  
モノだからなぁ」  
…やっぱり姉御はこの話について来たか。アレも読了か。  

「で、ルローネさん。次は『煉獄』をお願いします」  
「うん。煉獄はまぁ見たとおりの火系統のもので、実際に見せた火柱状にする他、炎のムチ状にしたり  
火球を飛ばせたりする優れものだ。まぁアスが使いこなせなくて命拾いだな」  
うへぇ。下手すりゃバーベキューですか。  
「で、ルローネさん。何でいきなり『立ち消え』なんて起こったんです?」  
「燃料が無くなりゃ火は消えるだろ」  
「え、まさか」  
「そのまさかだ。守。剣に蓄えられた魔力が無くなったからだ。現在、剣が自分で魔力を補充している  
が、あの調子じゃ次また使えるのはいつになる事やら」  
「は〜いルローネ先生。燃料なら補給してしまえば問題無いと思うんですけど」  
「うむ。良い所だ守君。だが『煉獄』への補充は特殊な器具と儀式が要るらしいのだ」  
こっちの生徒らし物言いに乗ってくれた姉御が先生らしい口調で返してくれた。まぁ、白衣を着てい  
るから先生らしいと言えばらしいが。  
「先生の口調から推測すると…儀式と器具のどちらかが無いんですか?」  
「両方無い。多分量産品ではない一品モノなんだろうな。普通は取説と専用整備用具があるはずなの  
だが、無くしたんだとさ」  
なるほど。確かに取り扱い説明書無しで使うのは大変だな。後は整備もできないのでは…戦力半減だ  
なぁ。  



262  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/07  00:36:26  ID:???  

204  
「で、ルローネ先生。あの鎧は何なんです?」  
「ああ、記録映像を見たが、巨大化なんつー馬鹿げた機能なんて初めて見たぞ。アレもやっぱり一品  
モノだった」  
「もったいぶらないでくださいよ」  
「ああ、悪ぃ。アレは銘が入ってなかった。代わりに『試作品』って書いてあった」  
…試作品?  
「多分魔法帝国が崩壊したドサクサに研究機関か工房から持ち出された奴なんだろうな。でだ、アレ  
なんだが、巨大化した後に結局元に戻ったろ」  
「はい。アレで助かりましたが。あの理由も燃料切れですか?」  
「まぁそうだな守。だがアレの燃料は手持ちの魔力だけじゃないんだな」  
「え、ま、まさか…着ている人間?」  
「正解」  
でも何か変だぞ。  
「あの鎧は魔力をぶちこめばぶちこむ程強くなり、巨大化や自己修復も容易になる代物らしい」  
「でもルローネ先生それはおかしいですよ。アスは魔法が使えません」  
「普通の人間にも魔力は多少は存在する。それを使ったのさ」  
「でも量が足りませんよ?」  
「ああ、それはな」  
姉御はもったいぶるように一呼吸おいた。  
「麻薬なんだよ」  
麻薬…ってあのアスが常用してたアレか。  
「あの麻薬は短期間に一定量を摂ると魔力を放出するものだ。当然、使用後は魔力を根こそぎ無くして  
人事不省に陥るがな」  
「でもアスはあの後も動いてましたよ」  
「そこは鎧がうまくできていてな。動ける程度は鎧の方で供給するようだ。すぐバタンキューでは意味  
が無くなるから帰還用だな。で、当然脱いだらぶっ倒れると」  


263  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/07  00:37:22  ID:???  

205  
はぁ。とんでもないな。そんなのを相手によくこれだけで済んだな。  
「それにしてもルローネ先生。よくこんな短期間でわかりましたね」  
「ああ、タネは簡単だ。ここの別室に入院中のアスから聞き取り調査をしたから」  

な、なんだってー(AA略  

「アスがいるの?ここに?」  
「決闘で得た捕虜だぜ。有効に使わなきゃな。でだ、捕虜を殺してしまったら利用価値は無いだろ。  
入院費も水増しして請求するって守、お前の所の外務省官僚が言ってたぞ。交渉カードに使う気なんだ  
ろうな」  
多分みんなは問題が発生すると思って隠していたな。  
「まぁ3日も経てば頭も冷えるだろうからここで初めて公開したわけ」  
まぁ3日も経てばいきなり怒鳴り込むようなマネはしないだろう。  
「ルローネ先生。アスは今どうです?」  
「ああ、あいつは呆然としておとなしいもんだ。前と今ではほとんど別人だったぞ。かなりのショック  
らしいな。何せ家宝を持ち出して戦ったのに返り討ちで、家宝は捕獲され、自分も負けて捕虜。ここ  
まで負けてしまってプライドずたずただな」  
「…まぁ、アスには良い薬でしょう」  
「まぁな。あ、薬と言えば、アスの薬抜きが必要だから1回日本に送るらしい。向こうで治療してまた  
取引きを有利にしたり、色々やるらしい。実験動物扱いはされず、お客様扱いだってさ」  
「…まぁ、いいんじゃないですか?返した後の事も考えると色々便利だと思いますよ」  

姉御はその後いくつか話をした後、帰り際に気になる事を言った。  
「そうそう忘れるところだったが守。後はお前の話だが…」  
「何です?」  
「責任はとるよ〜に」  




338  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/08  00:57:17  ID:???  

54回目の投稿  
輸送戦記?  
206  
それから3日後。  
現在医官の診察中。  
「先生、どうなんでしょうか」  
「う〜ん。難しいな、草壁君」  
「ああ、やはりそうなんですね。窓から見えるあの葉が落ちるとき、私も死ぬのですね」  
「んなアホな事言えるんならとっとと叩き出すぞ」  
「冗談ですよ」  
「このままここで療養したいという希望は分かるが、医者としてはダメと言わざるをえない」  
ああ、やっぱし。  
「普通、あんな化物と殴り合って、投げ飛ばされて、骨は折るわヒビは入るわ…1回本土に戻って精密  
検査を受けてこい。復帰はそれからだ」  
「そんな〜」  
結局、1週間後に本土から来る輸送機に乗せられて帰ることになった。  

さらに2日後。  
砂川と松下が見舞いに来た。  
「よぉ守。元気してたかぁ?」  
「おぅ、なんとかな。ところで何で2人ともニヤニヤしてるんだ?何企んでやがる」  
「その理由を知りたいか?」  
「当たり前だ松下」  
「それじゃ教えて進ぜましょう」  
「何だその講釈みたいな口調は」  
そうして砂川と松下は声を揃えてのたもうた。  
「決闘の記録を全部みたよ〜。告白もばっちり」  


339  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/08  00:58:21  ID:???  

207  
「え、ま、待て。何でアレをみんな見てんだよヲイ」  
「だって」  
「なぁ」  
砂川と松下が顔を見合わせた。  
「教育の一環として全員が見せられたぜ。アレ。そうだよな、砂川」  
「ああ。松下の言うとおりで、何グループかに分かれて上映会が行われたぜぇ」  
うわ最悪。  
「いや〜面白かったぜぇ。何せ娯楽が少ないからみんな大喜びだぜぇ」  
「全くだ砂川。しかも『何してやがるこの(不適切用語の為に抹消)野郎!そいつは俺んだ!』とき  
た。いやー男なら1回は言ってみたいセリフだな」  
う〜わ。あの時完全ブチ切れ状態だったからなー…て待て。まさかクラウスちゃんも見たのか?  
「なあ、砂川。その上映会にクラウスちゃんは?」  
「ばっちり来てたぜぇ。草壁」  
「そう言えば上映後にWACの皆さんが何か耳打ちした後、真っ赤になってたな。まったくこのロリコン  
め」  
うわー。みんなと顔が合わせづらくなった。恥ずかしい。  

「そういや草壁。お前さん一旦帰るんだって」  
「そうだぜ。ああ、また来るつもりだから土産を持ってくる予定だ。松下は何がいい?」  
「おいおい草壁。オレは無視かよぉ」  
「砂川よ。おめーはとらやの羊羹が大好物なんだろ?」  
「分かってるねぇ」  
そうしてしばらくおしゃべりに。  
「そういえば今日何かあるか知らんが、クラウスちゃんがものすごい格好してたぞ」  
「何だ?言ってくれ。松下」  
「ああ。これぞ騎士!って感じの古めかしい騎士のかっこうしてたぞ」  


340  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/08  00:59:16  ID:???  

208  
騎士のかっこう…戦闘用は整備隊の皆さんに造ってもらったアレだから違うだろ。普通の時は鎧なんて  
つけないし、ならば残るは儀礼用のかっこうか。何か式典あったっけ?  
「クラウスちゃんのそのかっこうは儀礼用だぜ。今日明日何かあるっけ?」  
「いや、何もしらねぇ。松下は何かしってるかぁ?」  
「こっちに振られても知らんものは知らんぞ」  
何だ?アレはめったな事では着なくなったからな。  
「ああ、思い出した!」  
「何をだ、さっさと言えよ松下」  
「そうせかすな草壁」  
「クラウスちゃんな、基地司令のところや、官僚の詰め所やら、お偉いさんの所に出入りしたって聞  
いたぞ」  
ますますわからない。  
「松下よ。マイヤーさんは一緒だった?」  
「ああ、一緒だったと聞いたぞ」  
「つーかそれならオレも見たぜぇ。オレん時は幹部連中の所から出てきた所。ちょうど密輸○ュッパ  
○ャプスの取引が終わった所だったからよく覚えてるぜぇ」  
砂川よ…妖しい取引なんだが商品が面白すぎるぞ。  
「砂川よぉ。おめーはまたそんな妖しい取引までして食いたいのかよ」  
「いやぁ。戦場では煙草と甘いものは貴重品だからねぇ。それより松下よ、お前も妖しげな骨董に心  
惹かれてるって聞いたぞ。焼き物でも弾いて音でも聞くんだろぉ?」  
「ウチはマ・○べじゃねーっつーの」  
「かねとー(笑)」  
まったくこいつらは…これだから仲良くしたいんだよな。  

コンコン  
誰かがドアをノックしたようだ。  
「はーい。空いてるよ」  


341  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/08  01:00:31  ID:???  

209  
ドアを開けたのはクラウスちゃんだ。だが様子が尋常じゃない。  
鎧を一部の隙もなく着て、先祖伝来の長剣を腰に差し、思い詰めたような顔をしている。このまま吉  
良上野介邸に討ち入りに行くといっても信用してしまいそうな格好と雰囲気だ。  
警備の警務隊の人がクラウスちゃんの後ろから心配そうな顔をして覗いている。  

「守…その、話がある」  
クラウスちゃんの言葉を聞いた松下と砂川。  
「あ、そういや今日は板チョコ取引があるんだった。つーわけで帰るぜぇ」  
「悪いが手に入れた骨董が、磨いてくれないと祟ってやると騒ぐんで帰る」  
あの野郎。クラウスちゃんの気迫に押されてトンズラしやがった。この薄情者めが。まぁそれだけ  
怖いんだが。  

松下&砂川が出て行き、ドアが閉められて2人っきり。  
「で、邪魔者はいなくなったところでクラウスちゃんの用は?」  
「うん…あの…」  
「言っておくがこのままアスの所に討ち入りは無しだぞ」  
「…警務隊の人にもそう言われた…けどそうじゃないから安心して。守」  
まずは安心。  
「守が日本に帰るってみんなから聞いたよ」  
「ああ。暴走中のアスにブン投げられたりしたからな。精密検査は必須だからその為にね」  
「守…帰っちゃやだ。帰らないで!ずっとここにいて!」  
クラウスちゃんが僕の手を思いっきり握り締めて叫んだ。  
「日本に戻ったら、きっとこんな怖いところなんてイヤだってきっと思う。ここにこんな小さい騎士  
がいた事なんて忘れてしまう。そうしてもう日本から離れることなんて考えなくなる!わたしそんな  
のイヤだよ!まだ守に剣で勝ってない。まだ日本の面白い話も全部聞いてない。だから、だから、こ  
こにいて!わたしと一緒に領地に行こう!闘技場でのあの言葉はウソだったの?」  




459  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/09  00:27:27  ID:???  

55回目の投稿  
輸送戦記?  
210  
そう一気に叫んだ後、クラウスちゃんはこっちをじっと見た。  
「それとも、守はわたしのこと、キライ?」  
ぐは。14でそんな表情とセリフを使うとは。クラウスちゃん、それは男殺し専用かつ最強の1つだぜ。  
恐るべし。  

「んークラウスちゃん、よく聞いて。僕もクラウスちゃんの事が大好きだよ」  
「え!な、なら…」  
「でもちょっと待って。クラウスちゃんと一緒にいるって事は、クラウスちゃんを守らなくてはいけな  
い。同時にクラウスちゃんが大切に思っている領民のみんなも守らなくちゃいけない。わかるね」  
「う、うん」  
「召喚される前の日本があった世界に『医者の神』がいてね、確かその人が言った言葉がある。『体  
が弱っている時は心も弱っている』というのがね」  
「両方、なの?守」  
「そう。両方」  
ん、少しは落ち着いたようだな。  
「でだ、今僕はケガをして横になっている。それどころか精密検査を受けた方が良いと医官の人に言  
われている。さっきの医者の神様の言葉からすると、当然心の方もそれだけ弱っている。そんな状態  
では自分も、領民も、領地も、大好きなクラウスちゃんも守れない。そんなのは僕はいやだ。だから  
一旦僕は日本に戻り、体を完全に治す」  
実際にケガ人は足手まといになる。  
「で、でも1回帰ったらもう戻りたくなくなるんじゃ…」  
「はっはっは。クラウスちゃん。ここに、自分を大好きだと言ってくれる娘がいて、僕もその娘が大  
好きなんだよ。そんな娘を置いたままになんか絶対できないよ!」  


460  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/09  00:28:33  ID:???  

211  
「守…」  
「あークラウスちゃん泣かないで。医官の先生にはすぐ復帰したいとゴネたし、松下たちとは日本から  
どんなみやげを持ってくるか打ち合わせをした。元から僕はここに戻ってくるつもりだよ。まだまだ  
やりのこした事もあるからね。それ以上にクラウスちゃんがいるのに戻ってこないなんて事は、絶対  
にありえない。だから安心してね。僕の可愛い騎士様」  
あークラウスちゃんはもう泣きそうだよ。  
そんなクラウスちゃんの顔に僕は顔を近づけて…  
ミシ。  
…いいところなのに何だこの音。  
「…バ…押……って…あぶな…」  
「そっち…痛…裂ける…」  
メキメキメキ、バターン。  

いきなり入口のドアが壊れて人が大勢倒れこんできた。  
警務隊の人に医官。砂川に松下。姉御にミランタン。伊良子3佐に外務省の官僚。米空軍日本食大好き  
ギルバート・ケイン少佐。その他…廊下にも何人かいるらしい。  

「あのー皆さんおそろいでいったい何をなさっているんです?おしくらまんじゅうをするにはだいぶ  
早い時期だと思うんですけどねぇ」  
とジト目で睨んで嫌味たっぷりの口調で言ってみた。  
「思いつめた表情のクラウスちゃんが入っていくのを見まして、警務隊の人間としては危険と判断し  
まして…その、上司に報告を…」  
「それを聞いた伊良子3佐が大慌てで出て行ったのをルローネと一緒に追いかけて…」  
「それをまたたまたま来ていたギルバート少佐が見つけて追いかけて…」  
「それで皆さんそろっておしくらまんじゅうしながら盗み聞きですかい」  
そうして僕は溜息を1つ。  


461  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/09  00:29:25  ID:???  

222  
それから息を少し吸い込んで(大きく吸い込むと折れた肋骨が痛む)と…  
「とっとと出てけこの出歯亀ども〜!」  
「うひゃあ」  
「うわー」  
「待ってくれぇぇぇ」  
僕の一喝でみんなそろって逃げ出した。  
やっぱりみんな後ろめたかったのね。それに恥ずかしいし。  

すっかり雰囲気が変わってしまった。  
「くすくす」  
あ、クラウスちゃんがもう笑ってる。良かった。機嫌がすっかり良くなってくれた。  
「それで守。必ず戻ってくるっていう約束がほしーな」  
え、約束かぁ。うーん、あ、アレにしよう。  
「クラウスちゃんちょっとこっちに来て」  
「なに?」  
と近づいてきたクラウスちゃんのおでこにキス。  
「え、え、え、ま、まもる!」  
「んーまー約束ってことで。ここから先は戻ってきたらとゆー事で。まぁ、手付け…みたいな感じか  
な?」  
「まもる〜『手付け』って…本当に手付けした〜」  
「でもこれは確実な約束だよ」  
「ん〜もうわたしお嫁にいけな〜い!」  
「しょうがないなぁ。なら僕がもらってあげるよ」  
そう言った後、お互いに顔を見合わせると大爆笑。  
クラウスちゃんの機嫌も良くなり、約束もできたな。  


462  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/09  00:30:20  ID:???  

212  
「おや、お嬢様。お話は全てお済ですかな」  
「マイヤー!」  
「マイヤーさん!」  
壊れた入口に現れたのはマイヤーさんだ。  

マイヤーさんは壊れた入口をしげしげと見つめていた。  
「お嬢様…かなり手荒い『説得』をされたようですな。マイヤーはあれほど荒っぽい手は使わないよ  
うにと申し上げましたのに。悲しいですぞ」  
「違うもん」  
「マイヤーさんそれは違いますよ」  
そうして僕はマイヤーさんに一部始終を話した。  
「ほっほっほ。そういう事でしたか。申し訳ありません、お嬢様」  
「まぁマイヤーさんが勘違いしたのも無理は無い状況と言えば状況ですな」  
「あ、守ひどい〜」  
そうしてまた笑い声。  
「ところで守殿。一旦お国へ戻られるようですが、また戻ってくるのですな?」  
「はい。ケガが治ればすぐに。ダメなら密航でもしますよ。まぁ大丈夫でしょうが」  
「ほっほっほ。それは頼もしい。ですがこちらに来られても違う所に配備されてしまうかもしれませ  
ん。ですから保険はかけますが、よろしいですかな?」  
「マイヤーさん、できれば内容の方を…」  
「それはその時まで内緒という事で。切り札は最後まで秘匿しておくものですよ」  
なんだかものすごく気になるが、クラウスちゃんと一緒にいられるならしょうがないか。  
「それでは私もとんでもない『お土産』を持ってきますよ」  
「おみやげとは何ですかな?」  
「おや、切り札は最後まで秘匿しておくものでは?」  
「はっはっは。これはしてやられましたな。それでは楽しみにしていますよ」  



554  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/09  21:32:21  ID:???  

56回目の投稿  
輸送戦記?  
213  
そんなこんなで大騒ぎなあの日から数日。  
滑走路にはC-5輸送機(ただし横に航空自衛隊とでかでかと書いてある)が駐機して荷を降ろしてい  
る。あれが終わってこちらからの荷物を載せ、それに便乗して僕は日本に帰ることになった。  
「すまんな、草壁君。本当は横田にあるC-9ナイチンゲール(病人輸送専門機。座席が通常と逆)でも  
手配すべきだったんだがな」  
「いいんですよ伊良子3佐。通常なら車両で運ばれて最後は船で戻るところが、航空機であっと  
いうまに帰る事ができるんですから」  
電気駆動のフォークリフトが荷物を運ぶ音が響いた。  
「ところで…今、君が羽織っている上着だが…」  
「ああ、コレですか?」  
派遣民間人に渡された上着。そこにはお決まりの日章旗に、半公式になった民間派遣隊の部隊章。修  
道院攻防戦参加章に、ギルバート・ケイン少佐がくれたパープルハート(いいのかおい)がつけて  
あった。  
「やっぱり目立ちますよね、コレ。まぁかっこつけの為に着ているだけなんですけどね。やっぱりま  
ずいですか?」  
「いや…それだけつけたら立派な歴戦の勇士に見られるからな。向こうでも軍関係者からの熱い視線  
を浴びるだろうな…と思っただけさ」  

「ところで3佐。アスの野郎はみあたりませんが?」  
「彼は『空を飛ぶ?とんでもない!』と主張して今頃車中の人だよ」  
「まぁ、一緒の航空機で帰るのはかなりイヤだからまぁ良かったですね」  
「まったくだ。まぁ彼には車酔いと船酔いで苦しんでもらうとするか」  
「それはいいですね」  


555  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/09  21:33:10  ID:???  

214  
輸送機からの荷降ろしが終わった。次は積みこみが始まった。  
「積みこみ、始まりましたね」  
「ああ。だがこっちからの積みこみはそう多くはないぞ」  
「だが少ない割には重要度は高い。そうじゃないですか?伊良子3佐」  
「そいつはナイショだ」  
まぁ、立場があるわな。  
そうして積みこみ作業を見つめた。  
「アスとの決闘時に捕獲した魔法の武具一式とかがはいってますね?あの大きくて厳重な梱包がされた  
あの荷物。取り扱いがものすごく慎重ですよ」  
「さ〜てねぇ」  
「他にも色々なサンプルが入っているんでしょうね」  
伊良子3佐は煙草をくゆらせてしらんぷり。  
「中には『黒い水』がありますね」  
その言葉を聴いた途端、伊良子3佐の体に緊張が走ったように見えた。  
「…もしかして、マイヤーさんをたきつけたのはお前か?」  
「クラウスちゃんの領地を豊かにするには使えるものはなんでも使わないといけませんから。それに、  
自衛隊としても燃料がいくらかは現地調達できるのはありがたいはずですよ」  
「…まぁな。戦車や装甲車に限らず車輌は燃料を馬鹿食いする。人間の生活にも燃料は要る。いきなり  
マイヤーさんが『領地に油があるからサンプルを持ちかえって欲しい』なんて言いだして、3日で往復  
して採取してきた。アレがこっちの燃料事情を助けてくれるのなら、政府は悪魔とでも取引するぞ」  
「で、そこの領主は現在の所、親日派。しかも日本人の男と仲が良い。ならば穏健な手で身内に引き  
込もうとしますね。いきなり軍事占領なんて馬鹿なマネはないでしょうし」  
「草壁君。君、自分のセリフをあまり信用してないだろ」  
「半分ぐらいですよ。伊良子3佐」  
伊良子3佐はためいきをひとつついた。  


556  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/09  21:34:05  ID:???  

215  
「確かにな。関東軍じゃあるまいし。知ってるか?本土の某団体が俺たちの事を『新世紀の関東軍』  
と呼んで批判しているらしいぞ」  
「…まぁ、彼らの『伝統芸能』みたいなもんですから」  
「草壁君。これで油が出たら妙な連中が押し寄せてくるな」  
「某大手出版社が倒産した時、そこに勤務していた人たちの呼び名ですか?」  
「なんつーマニアックなネタを振るんだ」  
「多少のユーモアは会話の潤滑油なのでは?3佐」  
「それにしては随分と黒いぞ」  
「まぁ、あの水について話しているので色があっているので良いでしょう」  
「良くないとおもうが、まあいい。本当はさっさとここからは足抜けしたいところだ。治安維持任務  
まで課せられたらそれこそ関東軍化するぞ。歴史的に言ってそんな事は御免蒙る」  
「ちゃんとそう考えている人がいて嬉しいですよ」  
「一応言っておくが、政治家は知らんが制服組は関東軍化を嫌がっているからな」  

僕と伊良子3佐がそんな黒い話をしていたら、そこに姉御&ミランタンに、目指せ石射猪太郎な外務省  
官僚の人がやってきた。  
「あれ?何で姉御たちがここにいるんです?まさか一緒に行くんですか?」  
「そーだぞ守。アタシたちは魔法の武具関係で行くんだ」  
「私も官邸や本省(外務省)に報告しなければならない事があるので」  
けっこうにぎやかなフライトになりそうだ。  
「ところで、姉御たちって飛行機大丈夫?」  
「アタシたちは乗ったことがないぞ」  
「私、実は乗り物酔いしやすいクチでして…」  
前言撤回。かなりきついフライトになりそうだ。  


557  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/09  21:35:10  ID:???  

215  
そうこうしているうちに搭乗時間。  
「守…絶対に戻ってきてね。絶対に絶対だよ!」  
「だから大丈夫だって」  
クラウスちゃんは見送りに来てもう泣きそう。それをなんとか宥めるのに苦労した。  
「守殿。これでよろしいかな」  
「ありがとうございます。これで『おみやげ』が確実になります」  
マイヤーさんとはある種のうちあわせを行った。  
砂川は『買ってきてほしい食べ物リスト』を渡された。荷物に制限があるっつーの。  
松下には骨董品を実家に持って帰るようにたのまれた。…税関を通らないからコレって密輸になるん  
じゃねーか?聞いたらやっぱり密輸になるので断った。  

なんだかんだで大騒ぎの見送りを受け、ぼくは車椅子に乗せられて輸送機の中へ。  
着ないでシートに固定され、5時間?ぐらいのフライトらしい。僕の席は1番窓側でながめがいい。  
姉御はきょろきょろとなんだか落ち着かない様子。ミランタンは…もう寝てる!外見から予想もできない  
この豪胆さには驚きだ!  

そうしているうちにエンジンが動き出した。  
窓からは手を振るみんなが見える。こちらも振り返した。  
クラウスちゃんはまた泣きそうな顔をしているなぁ。大丈夫だよ。  

輸送機は誘導路から滑走路へ移動を終え、そうしてついに飛び立った。  
僕は王国を後にした。  

「絶対に戻ってくるぞ!」  



677  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/10  16:39:57  ID:???  

57回目の投稿  
輸送戦記?  Epilogue  
216  
2年後。北方開拓地。  

桜の花が咲いている。  
日本から移植した当初は『無理があるからすぐに枯れるだろう』と僕やみんなも考えていたが、姉御  
やこっちに移住してきた元難民エルフ一族と、日本人農業技術者の尽力で立派に根付いた。調べてみ  
たら妙な突然変異が発生したらしく、かなり強靭になっているとか。日本の学会では新しい学名をつ  
けるべきか迷っているらしい。  

「守。早く行こうよ。みんな待ってるよ」  
「はいはいわかったわかった。そんなに急がなくても大丈夫だよ。クラウスちゃん」  
そう言って平服を着たクラウスちゃんは僕の腕をとり、引っ張って早く行こうと急かした。ああ、ま  
だこんなところが子供だなぁ。  

「おおっ領主様がお見えだぞ!」  
「婚約者殿もご一緒だ」  
先に到着していた人たちは大騒ぎ。  
「もう準備はできてますね」  
「あったりまえよ」  
昇進した伊良子2佐にギルバートケイン中佐。松下に砂川。エルフ族利益代表。ドワーフ族利益代表。  

目指せ石射猪太郎で、今はここで公使として赴任している外務省官僚。その他関係者。そして住民の  
皆さんが桜に囲まれたこの丘で待っていた。  
後は主賓が来るのを待つばかり。  


678  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/10  16:40:50  ID:???  

217  
「遅くなってすまん」  
ついに今回の主賓がやってきた。  
日本から派遣されてきた技術者の一団。そして元難民のドワーフ一族の皆さんだ。  
まずは僕が立ち上がって歓迎。  
「お疲れ様です皆さん。それではさっそくグラスをお持ちください。ギルバート中佐が持ち込んだ日  
本酒を出しますので」  
「がっはっは。我々はただ来て、掘っただけですぞ」  
そう言い返したのは派遣技術団の団長さん。  
「いえいい。皆さんの成功でこの土地が豊かになる事が確定しました。まだまだこんな歓待では足り  
ませんよ」  
「それを言われると照れるな」  
そうして全員に酒が(一部未成年にはジュース)が行き渡った。  

「それでは領主であるクラウス様、お願いします」  
「え〜とそれでは皆さん。原油採掘プラント商業稼働開始を祝い、同時に桜を愛でながら、乾杯!」  
みんながそれに唱和した。  
「乾杯!」  


僕が日本に戻ってから2ヶ月。その間に政府は大騒ぎになったらしい。石油が無くてピーピー言って  
いる所に「石油埋蔵情報」が「サンプル」と「親日支配者情報」と一緒に転がり込んできた。これで  
騒がない方がおかしい。  
政府は全てを放り出す勢いで、まずは各種センサーを詰め込んだ航空機を1機でっちあげると、該当  
地域の航空調査を行ったそうだ。その結果は…  
「大当たり」  
だったそうだ。  



680  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/10  16:41:34  ID:???  

218  
そうしてその後はボーリングマシンを抱えた大規模試掘団が派遣される事になったが、肝心の場所は  
開拓地で、しかも王国の主権が及んでいる所だった。ならば王国上層部に許可を取ろうとしたが失敗  
してしまった。  
「北方開拓地の権限は騎士クラウスに一任してある」  
と公式に発表済みだったので、王国には許認可権があまりなかったらしい。なぜこうなったかは、元々  
開拓は失敗(1回失敗している)すると見られていたので、これぐらいの飴玉を与えないといけないと  
上層部が思った事と、他の貴族がかかわりを嫌って反対しなかった事と、僕の助言でマイヤーさんが  
色々根回しをしてくれたからだ。その為の資金源は修道院攻防戦や決闘で得た賠償金から出た。とっ  
といてよかった。  

で、肝心の騎士クラウスの方は…  
「守と一緒じゃないとヤダ」  
とゴネた。外務省は困惑。理詰めならなんとかなっても子供のワガママ?は難しい。頭ごなしに叱ろ  
うとしても、向こうは支配者。ここで嫌がらせなどを行って回避しようと考えたらしいが…さすがに  
この重大性が官邸にも伝わっていて、ここで妙な事を起こしたらさすがの外務省もトンでもない目に  
遭う事が分かりきっていた。よって1番簡単な方法である、僕-草薙守を連れてくる事になった。  

その後は簡単。大量の機材と、大量の援助物資(まぁ、土産だ)を抱え、護衛の自衛隊と一緒に現地  
入り。クラウスちゃんの許可を得て、航空調査を行って見込みがある所をボーリング調査。非常に良い  
結果が出た。  
そうして今度は大規模石油掘削施設建設契約を弁護士や関係省庁関係者の前で契約。そうして建設  
が始まり、現在に至る。  
その他に気象庁は百葉箱を片っ端から設置して気象データを集めたり、農業関係の官僚は各メーカー  
と一緒になって調査をおこなったり…大騒ぎになると同時に、クラウスちゃんの所に金を落としてい  
った。  
その資金はインフラ整備や教育に突っ込まれ、少しずつ豊かになっていった。  


681  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/10/10  16:42:11  ID:???  

219  
桜に囲まれた丘の上では笑い声が続いている。  
僕は中ぐらいの桜の樹にもたれ、日本酒を舐めている。  
その横にはクラウスちゃんが座り、一緒にジュースを飲んでいる。  
けどクラウスちゃんは最初、グレープジュースを飲んでいたはずだが、どう見てもワインだぞ?  

「守。幸せだね」  
「まぁね」  
ワインを飲んでいる事は気にしない事にした。こっちではもう成人しているからいいか。  
「God's  in  his  heaven,all's  right  with  the  world」  
「なんて意味なの?わからないよ」  
「『ピッバが通る』にある『朝の歌』の一節。意味は色々とれるらしいけど、僕は純真な心で努力し  
ていれば、神様が守ってくれて良い様にしてくれるって意味にとってる」  
「でも守、大変なときも絶対あるよ」  
「その時はクラウスちゃんと一緒に進めば怖くないさ」  
そう言ってクラウスちゃんを抱き上げて膝の上に。  
「肝心の領主様はどう思う?」  
その質問にクラウスちゃんはとびっきりの笑顔で答えてくれた。  
「その時だけじゃないよ。守とはずっと一緒だよ」  


この1日は後に『北方辺境伯領』と呼ばれ、王国内でも随一の経済力を誇り、かつ同じ王国とは思え  
ないぐらいの地域差を誇るこの地の、繁栄の最初の1歩として書物には記録される事になった。  
そして歴史書・郷土史書・経済書などではこの日の事が必ず取り上げられ、その記述は必ずこう締め  
くくられていた。  
「その日は桜が満開であり、全てを祝福しているようだった」  
と。  



494  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/11/13  00:11:40  ID:???  

シナリオIf-01  

F世界の空を何かが群れをなして飛んでいる。  
それは鳥ではなく、鳥よりも速く飛ぶ。  
それは羽毛を持たず、金属の表皮を持つ。  
それは魔法によって造られたものではなく、科学によって造られた。  
それは日本に所属せず、在日米軍に所属している。  

B-52Hの群れが編隊を組んで飛行している。  

敵は帝國。  
目標は帝國首都。  
理由は戦略級大規模儀式魔法で灰燼と化した、福岡の報復。  

B-52Hの兵装庫には米軍ご自慢の誘導兵器は無かった。  
その代わりを務めるのはいわゆる『通常爆弾』『クラスター爆弾』のようなWW2から変わらぬ無誘導  
兵器だ。  
誘導兵器は数が少ない。  
誘導兵器は金がかかる。  
誘導兵器は再生産が難しい。  
しごく一般的でかつ納得がいく理由で無誘導兵器が選定された。  
数の暴力は正しく、金が無ければ何もできず、生産が困難なものは外される。  
元の地球でもF世界でも、この基本はどこでも正しいようだ。  

福岡の報復に在日米軍が出てきた。日本政府は当初、自衛隊のみによる攻撃を主張した。だがこれも  
常識に阻まれた。  
航空自衛隊は戦術航空機だけなので投弾量が少ない。  
北○鮮絡みで沖縄にB-52部隊がまるごといた。  
在日米軍のNo.2とNo.3が福岡で戦死した。  
金がない代わりに血を流す事で、日本政府は彼ら生活を保障する事にした。  


495  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/11/13  00:12:49  ID:???  

B-52H(編隊長座上)操縦席。  
通信手が先導機からの通信を受信した。  
「機長、爆撃先導機の航空自衛隊F-2より入電『標識弾の投下完了』『目標上空は快晴』『迎撃機は存  

在せず』」  
「任務中止命令は?」  
「ありません」  

機長でもあり編隊長はゆっくりと眼を閉じ、少し物思いに耽った。そして通信手に指揮下のB-52H全て  

へ回線を開くように命じた。  

「全機に告げる。我々はこれより帝國首都への爆撃を敢行する。これだけの規模の爆撃は、燃料などの  
関係から最初で最後であると思われる。総員、全力を尽くせ」  
全機より応答信号が発せられた。  
「爆撃目標を確認する。目標地域は帝國皇帝がいる城を含めた首都全域。皇帝本人は不在なのは残念だ  

がしかたがない」  
編隊長は迷いを振り払う為、ここで一呼吸おいた。  
「A集団は城を含めた首都全域に対する絨毯爆撃」  
WW2以来の大規模無差別都市爆撃。  
「B集団は首都上流の大規模ダム」  
水源地を破壊し、河川交通路と橋を破壊する事による補給路切断。  
「C集団は郊外に集結中の帝國軍本隊」  
敵野戦軍の撃滅。  
「全て吹き飛ばせ。ここで奴らを吹き飛ばさなければ、明日、嘉手納や岩国や横須賀が消滅するかもし  

れない。それを阻止する為にも、奴らを石器時代に戻してやれ!」  

B-52Hがグループごとに散開していく。  


496  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/11/13  00:14:04  ID:???  

「編隊長。連中にとっては神話級の攻撃になりますね」  
「そうだな、副長。だがもっとひどくなる可能性があった。核を使えという意見があったがさすがに拒  

否された」  
「核、ですか」  
「まあどちらにしても彼らは思い知るわけだ。戦略級の攻撃が自分たちの専売特許ではない事を。その  

戦略級攻撃の威力を。そして…日本政府、いや日本人の方向性を変えてしまった事を」  
副長が昔を思い出すような眼をした。  
「昔、日本の巨大掲示板でこういう意見があったと聞きました。『日本人は極端から極端に走る』と」  
「まったくだ。日本政府はこの後、攻撃には報復の刃を振り下ろす事をためらわないだろう」  
「しっぺ返しですね。ただしその『しっぺ』が戦略爆撃機ですか」  
「食らった方は思い知るだろう。少なくとも今後は日本本土への直接攻撃は控えるし、防衛用に物資  
が裂かれるから前線はラクになる。それに…」  
「それに?」  
「地獄に人が多くなれば先に行った連中が淋しがらなくてすむじゃないか。無論、俺たちも後に続く  
かもしれないが」  

それを聞いた副長は凍りついた。無理も無い。機長のセリフは悪魔の宣告のようだった。  
「…おなじこいつに乗っていた爺ちゃんや父ちゃんも、こんな気分だったのだろうか」  
副長はそうつぶやいた。  

眼下に帝國首都が見える。50年以上前の先輩たちはどう思って爆弾を投下したのだろうか。  
兵装庫を開いた。  
「おお、神よ。願わくば彼らの苦しみが短くあらん事を。そして…我々を救いたまえ」  
編隊長は祈りの言葉を捧げた。  

帝國首都とその近辺に降り注いだ爆弾は1500トンだった。  





70  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/11/28  02:21:33  ID:???  

Ifシナリオ02-星が果てる時  
1  
帝國は崩壊した。だが帝國首都には皇帝が君臨し、帝國軍は動きを止めていない。  
王国は半壊した。帝國軍の攻撃により国土を奪われ、現在組織立った抗戦を続けられる組織を有する  
のは、北方辺境伯領と、王国派遣自衛隊だけになった。  

このような状況になったのは理由がある。  

今から数ヶ月前の事である。  
以前から帝國首都において、何らかの大規模な儀式魔法が行われるらしいとの情報が入っていた。  
物流の大幅増加。魔法使いの集合。潜入させた諜者の報告…公式非公式を問わずにかき集められた情  
報をまとめ、2日連続の討論の末にある結論に達した。  
帝國側による大規模召喚魔法の実施。  
王国が日本列島を召喚し、自衛隊を使って帝國軍を完膚なきまでに叩き潰し、追い払ったのはそれこ  
そ上は王族、下は一般庶民までよく知る事実である。  
その大規模召喚を帝國が行う。しかも実施規模が王国よりも大きい。止めに帝國には『統一帝国』期  
の数多くの遺産-各種魔法具から魔法養成機関-が存在する。  
召喚魔法の規模が大きければ大きいほど召喚物は強大になる。数多くの犠牲を払った王国の召喚魔法  
の日本でこれだけの威力だ。それ以上のモノが召喚されてしまえば、敗北は必至だ。  

日本は先制攻撃による儀式の粉砕を検討したが、それは否決された。  
まず爆撃が提案されたが、儀式の実行場所が帝國首都に広がる遺跡、それも儀式用に適した場所は地下  
50mの場所にあり、場所もよくわからないので通常爆撃は無意味となった。  
遺跡についてはかなり有名であった事と、帝國から亡命してきた魔法使いからの情報から判断された。  
次に特殊部隊の投入もまた否決された。  
遠距離の、支援があまりできない敵地、それも首都に、これまた構造の完全解明ができない遺跡に侵入  
し、儀式を粉砕する。  
0○7か本郷○昭かイン○ィ・○ョーンズ博士でも呼んだ方が早いと揶揄されたのは言うまでもない。  


71  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/11/28  02:22:50  ID:???  

2  
そして何ら有効な手を打てないまま、その日を迎えた。  
その日の夜、王国内に居住する魔法使いが全員『非常に禍々しい魔力』を一斉に感知した。  
当直や諜報活動に従事していた魔法使いはもとより、寝ていた魔法使いも飛び起きた。さらには一般  
の、魔力を持たないはずの人間にまで悪影響が出たのだから、その威力は推して知るべし。  
王国と日本はすぐにでも帝國による侵攻が始まる事を覚悟したが…何も起こらなかった。  
いや、既に起こっていたが気がついた時には手遅れだった。  

帝國側召喚が成功した後から帝國はおかしくなっていた。  
帝國に潜伏していた諜者全員からの連絡が途絶えた。  
帝國領を通過してくる商人-中にはこちらの味方もいる-が1人も来なくなった。  
真昼にU-2で首都を撮影したが、人がいなかった。周囲の街道にすらいなかった。  
『非常に禍々しい魔力』は増大する一方だった。  

「何かがおこっているはず。だがその何かがわからない」  
これが情報関係者の一致した意見だった。  
その情報関係者は真夜中になってもある1室で激論を交わしていた。  
「諜者全員からの連絡が途絶えたのはなぜ?」  
「摘発を食った。あるいは連絡が取れない状況になったかも」  
「馬鹿言え。無線まで持たせているんだぞ」  
「商人が来なくなったのも気になる」  
「帝國が止めているんじゃないのか?大規模な軍移動の関係で」  
「それならこっちの偵察機が気がつく。それに帝國全土で物流が止まってる。変だぞ」  
「数十万は居る帝國首都住民はどこに行った?」  
「夜逃げ?まさか。代替地はないし、移動したなら物流に動きが出る」  
「魔力増大はどう説明つける?」  
「魔法使い連中は『人間ではありえない魔力量』と言っていた」  
そこに男が転がり込んできて叫んだ。  
「大変だ!帝國の侵攻だ!」  


72  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/11/28  02:24:35  ID:???  

3  
帝國軍は以前と全く同じルートを、夜間に使用して侵攻してきた。  
以前占領されたが、自衛隊により奪回された王国領には自衛隊と王国軍が共同で陣地を構えている。  
普通なら王国は負けは無い。暗視装置は夜を昼に変え、圧倒的な火力は夜間でも有効。まともな相手  
ならば必勝間違いなし。だが、今回は相手がまともではなかった。  

「UOOO」  
「Aoo」  
闇の中、呻きながら蠢いているのは帝國軍兵士。いや、それ以外にも普通の一般市民や子供や女性ま  
でいる。その雑多だが圧倒的な人々が共通して自衛隊陣地に殺到していた。  

「本部!本部!こちらB突角保!航空支援!FH70!重迫!何でもいい!早く支援をくれ!」  
ベテラン通信担当が無線で本部に怒鳴っている。  
「本部よりB突角保。全戦線で一斉攻撃を受けている。支援は手一杯だ。しばらく持つか?」  
本部からの返答は最悪のものだった。  
「本部!こちらB突角保。こっちはもう保ちそうにねぇんだ!」  
「本部よりB突角保。すまん…ん、今、航空隊との連絡がついた。呼び出し符丁は『アズライール』で  
周波数…う、うわぁぁぁ!」  
本部からの通信は途切れた。  
「本部!本部!」  
ベテラン通信担当は最悪の状況を思いつき、傍らにいた新米を呼び寄せた。  
「新米!いまからここのD地点に行って本部を見て来い。あそこなら本部が見える。無線を渡すから  
早く行け!」  

そして新米は指定された場所で恐るべきものを見た。  
本部があった所に、夜なのに白く弱い光が乱舞していた。  
それは美しいが、同時に禍々しいものも感じた。  
そしてその白いものは新米に向かい、崩れた顔のようなものをいくつも張り付かせた白いもやのような  
身体を彼に纏わりつかせた。  
そうして彼-中隊に新規配属されたばかりの新米故に新米と呼ばれた2士は、覚めない眠りに墜ちた。  
部隊は全滅した。  


73  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/11/28  02:25:26  ID:???  

4  
戦線は大幅に後退した。  
夜間に人海戦術をかける生ける死者たち。そして夜を自由自在に飛び回る亡霊や怨霊といったゴースト  
たち。生ける屍ならばまだ物理攻撃が効いたが、ゴーストには光源・神聖魔法しか効果があがらないの  
で対応策がとれなかった。  
唯一の救いは、侵攻速度がゆっくりとしたものである事。日中は動きが無い事。報告により強力な投光  
機の投入がなされた事。その他の理由で対応策が取れた事だった。  
それでも、王国領は侵食され、王国首都まであと少しまで追い詰められていた。  
王国軍は崩壊していた。住民は北方辺境伯領へ逃げ出していた。  

対策会議の席上、劣勢の原因が明らかにされた。それは『冥王』の存在である。  
情報関係者が壇上で説明している。  
「帝國は、意図的かどうかは不明ですが、冥王を呼び出してしまいました。帝國首都から発せられる  
魔力は明らかに冥王のものです。それは成功と言えますが彼らはコントロールに失敗してしまったよ  
うです。おそらく冥王は、召喚と同時に首都全域の人間を全て亡霊・ゾンビ化して自分の手駒にしま  
した。これにより首都に誰もいない事・諜者の連絡途絶が説明つきます」  
情報関係者が水を1杯飲んだ。  
「首都を押さえた冥王は次に街道沿いの地域を襲い、同じく手駒を増やしました。結果、人がいなく  
なる訳ですから物流は止まります。そうして生命を『喰った』事により冥王の魔力は増大の一途を辿  
り、手駒も同様に増えます。そうして帝國内だけではなく、ついに我々に対して捕食活動を起こし  
たのです」  
情報関係者の説明にあちこちから溜息が出た。  
だがそこに女性の声が響いた。  
「ですが…日本はこのまま手をこまねいているだけなのでしょうか?」  
非常に失礼な意見だったが、壇上の情報関係者は不快感を顔には出さない事に成功し、失礼にならな  
いように注意しながら答えた。  
「はい。いいえ。我々はまだ諦めません。北方辺境伯閣下」  






99  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/11/29  01:56:59  ID:???  

Ifシナリオ02-星が果てる時  
5  
「必勝の信念が無ければ勝てませんが、信念だけでは勝てません。私はまだ娘だった時にあなたがた  
よりそう教わりました。ならば策はあるのですか?」  
北方辺境伯である女性は壇上の情報関係者に向かって質問をした。  
「はい、閣下。我々は『ダンケルク』及び『黒の乗り手』を現在発動しております」  
「『ダンケルク』は私の夫が関与している王国脱出計画である事はわかります。ですが『黒の乗り手』  
とは?」  
「はい、閣下。『黒の乗り手』に関しては最上級の機密になっております。情報漏洩を避ける為にこの  
後、連絡を行うと聞いております」  
「了解しました」  
そう言うと北方辺境伯は質問を終わらせた。  

「それでは説明を続けます」  
思わぬ質問に話を遮られた情報関係者が解説の続きを始めた。  
「敵対する帝國軍…今となっては冥王軍と呼ぶべきですが、彼らはゾンビと亡霊を主力にしています。  
亡霊は光に弱く、ゾンビは破壊してしまえば終わりですのでまだなんとか対抗は可能になっています。  

冥王をはじめとする死霊系に共通する」弱点をつけば良いのです」  
スクリーンに冥王軍指揮系統図(予想)が映し出された。  
「指揮系統ですが、冥王の遠隔操作、つまりは直接指揮により1つの集団を手足のように扱っていま  
す。聖職者の方々の話によれば、これほどの事を行うには冥王と言えども霊体でまなく受肉が必要だ  
そうです。予想される事態としては召喚主である魔法使いか、あるいは帝國皇帝の身体を乗っ取って  
いる可能性があります。どうやら能力がある者や権力の座にある者を優先的に選ぶ習性があるそうで  
す。冥王さえなんとかしてしまえば勝てます」  
正面のスクリーンに現在の侵攻状況が映し出された。  
「現在、冥王軍は王国首都第3防衛ラインで停止しています。ここが破られれば、残るは首都最終防  
衛ラインのみとなります。我々はこの状況を逆転する計画を検討しています」  


100  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/11/29  01:57:35  ID:???  

6  
日本国首相官邸  

首相の目の前には在日米軍総司令官(大将)が座っていた。  
「首相閣下。『黒の乗り手』の重要パーツである『剣』の所有権を引き渡します。もっとも、最終調  
整等であと3日程度を頂きたい。引渡しは我が米軍基地内においてを希望します。これはそちらの政  
治状況等を考慮したものです」  
「お気遣いを感謝いたします、大将。危険な作業に従事して頂いた米軍に感謝を致します」  
「ありがとうございます。それでは首相閣下、条件としていた事項については?」  
「それについては予算において米軍への予算支援、特に家族の方々への支援は日本国首相の名において  
確実に実行いたします」  
それを聞いて大将はほっとしたような表情をした。  
「それにしても…『日本人は極端から極端へ走る』とはよく言ったものですな。召喚前はこのような  
計画は我が米軍が計画するものですが、日本がこの手を使うとは」  
「仕方がないのです。政治家は国の、いや、国民の利益を考えて決断を下さなければなりません。そ  
の方法はこのような滅亡すらありえる状況ではなおさら」  
首相は溜息を1つついた。  
「ですが大将もご存知の通り、これは政府内でも相当な上位の者しか知らされていません。もしこの  
事が現時点で露見してしまうと、混乱に拍車をかける事になります。野党にもれてしまえば…」  
「ヒステリーを起こしかねない?」  
「まさに」  
首相と大将はお互い暗い笑いを漏らした。  
「それにしても運がいい。潜水艦も、航空機も、中身も無事に戻っていて、なおかつ改装で事故は今の  
ところ発生していない」  
「大将、我々はこの後もそれが大量に必要なのですよ」  
「我々はその幸運をもって悪魔を飼いならし、冥王を破る」  
首相は薄く笑った。  
「そういえば昔、神父からこんな話を聞きましたな。『時には悪魔も良き働きをする』と」  
大将も薄く笑った。  
「この世界の悪魔と我々の世界の悪魔。どちらが強いのですかな?」  


101  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/11/29  01:58:30  ID:???  

7  
その在日米軍基地には新規開発され、緊急用として海外で運用される、その機専用の特殊ハンガーが  
召喚前に設置されていた。  
その内部から『地球で1番高価かもしれない航空機』が3機、出撃した。その特殊ハンガーの主は、1  
機ごとに名前がつけられている珍しいものであった。  
その名はB-2スピリット。  
John  Knudsen  Northropに「今こそ、神が25年の余生を与えたもうた理由が分かった」と言わせた全翼  
機である爆撃機。それが3機。だが彼らは観賞用ではなく、兵装庫に『剣』を搭載し、飛び立った。  

3機は高高度を飛び、海を越え、王国を越え、帝國領内、そして帝國首都上空へ侵入した。  

帝國首都上空には3機の他に味方の先客がいた。  
魔力測定として魔法使いを乗せ、正確な場所へ爆弾を誘導する爆撃先導機が3機。  
「サーチャー01(先導機編隊長)よりグランドスラム01(B-2隊編隊長)へ。測定は終了。これより  
照射を開始する」  
「グランドスラム01よりサーチャー01へ。了解した」  

爆撃先導機が魔力の1番濃い所へ爆撃誘導用レーザーを照射した。3機は3機とも同じ地点を照射して  
いる。  
「グランドスラム01より各機。5よりカウントダウンを開始。0で同時に投弾する。爆撃同調装置の  
作動、信管作動を確認せよ」  
全機から応答があった。全ては問題無し。  
「5、4、3、2、1、投弾!」  
B-2各機から特殊爆弾が投下された。  
それらは重力に従いながら、自分についているフィンを動かし、誘導用レーザーが照射してい地点  
に向かって落下していった。  
そうして地面に突き刺さり、何層もの遺跡の天井と床を突き破り、最深部である儀式用の広場-現在  
は冥王の玉座がある-へと到達した。  


102  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/11/29  01:59:12  ID:???  

8  
いきなりの『訪問者』に冥王は驚いていた。だがすぐに安心した。その鉄塊からは何も魔力は感じ  
られなかったからだ。単なる鉄塊で自分を抹殺できると考えた人間への嘲笑が浮かび、さらに馬鹿に  
する為にその鉄塊へ近づいた。  

その鉄塊、すなわち特殊爆弾は自分の役目を覚えていた。  
自分は地下50mに確かに達している事。達してから30秒でそれぞれ同調した原子時計により同時に爆発  
する事を。  
そうして特殊爆弾は自分の役目を忠実に果たした。  

潜水艦搭載型戦略核(水爆)から弾頭を抜き、特殊改造を施したバンカーバスターに無理矢理詰め込  
み、その分減った威力は数で補われた水爆。それは冥王へ超至近距離から太陽と同じ核融合反応を叩  
き付けた。  

冥王は強大で、人間が倒すにはそれこそ勇者や法王クラスを投入してやっとというものであり、その  
強さは『星が果てる時まで倒されない』『人間の手では直接は倒せない』と予言されたほどであった。  
それ以外の倒す方法は、冥王も死霊系統であり、太陽などの光に弱い。だが冥王は地下に篭って出て  
こない。ならば『直接当ててしまおう』と考え、実行された。  

冥王はその身体や魂を強力な放射線、熱、光、衝撃波により粉砕され、原子レベルで崩壊し、魂の欠  
片すら太陽と同じ光によって消滅させられた。  

冥王は短時間だけ現れた『人間の手によって造られた』星(恒星)と共に『星が果てる』と同時に果  
てた。  

予言は成就された。  





216  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/12/05  23:58:35  ID:???  

序章  
広大な平原。視界の先には海が見える。  
そんな海沿いの平原はいつもとは違う状況を呈していた。  
数多く張られた無数のテント。  
その間を走り回る無数の人間。  
そして交わされる活発な会話。  
だがその中で1番の「違い」は、平原に描かれた巨大な魔方陣だった。  

それらの中にある一際立派なテントでは、ローブを着た初老の男が立派な身なりの壮年男性に報告を  
行っていた。  
「公爵閣下。召喚魔法は発動いたしました。現在、海面上に『太陽』と自称している国が現れている  
頃です」  
「ふむ、前例の無い超大規模召喚魔法の成功。魔法ギルドマスターの面目躍如ですな」  
「いいえ。これは支援をして頂いた王の成果です。これで侵攻が確実視されている帝國を撃退できま  
す」  
初老の男は王国の魔法使いを統べる『魔法ギルド』の長、ルーン。  
壮年男性は王から派遣された監督官であるホールデン公爵。  
「後は半日前に放った偵察のワイバーンが戻ってくるのを待つばかりです。公爵閣下」  
そこに伝令が入ってきた。  
「報告します。召喚の確認に向かったワイバーンが戻ってまいりました」  
ルーンの顔に緊張が走った。これで『何もなかった』では責任どころの話ではないからだ。  
「前回、何も無い事が確認された海域に、陸地が発見されました!その陸地には我々や他国とは明ら  
かに違う建物があり、分析班は召喚は成功と判断しました!」  
ルーンの顔に笑顔が浮かんだ。  
「ルーン殿、おめでとうございます。それではこちらは使者を送るよう手配しましょう。君、すぐに  
私の部下の所へ行き、クロンカイト港で待機している使者に出発するようホールデン公爵が命じたと  
伝えてくれ」  
ホールデン公爵は前半部をルーンへの賞賛に。後半部で入ってきた使者への命令を出した。これで彼  
の仕事のほとんどが終了する事になった。  
使者はすぐに出て行った。  


217  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/12/05  23:59:38  ID:???  

急使としてワイバーンが飛び立ってから30分後。また別の使者がテントに入ってきた。  
「ルーン様。副ギルドマスターのカヌート様が見ていただきたい現象が発生したとの事です」  
「あいわかった。すぐに向かいますのでそう伝えておきなさい」  
そうして使者はすぐに戻った。  
「何か珍しい事が起こったようですので見てまいります」  
そう言ってルーンもテントを出た。  

そうしてルーンは少し離れた統括指揮用のテントに入るや否や不機嫌な顔になった。  
「見ていただきたい現象」という言葉はギルド内部の隠語で『トラブル発生』を示すからだ。  
「で、カヌート。トラブルは何だ?」  
カヌートと呼ばれた中年男性は汗をふきつつ答えた。  
「はい、召喚は完了しました。ですが魔法に組み込まれている『従属魔法』の効きが悪いようです」  
「何!それでは召喚してもこちらの言う事は聞かないのか!?」  
「いいえルーン様そうではないのです。効いていますが、有効期間が短く、効果が短くなりそうなの  
です」  
「具体的には…どれぐらいだ?」  
ルーンの顔にも汗が出ていた。これは致命的な問題かもしれない。  
「約1年、と思われます」  
カヌートもルーンも沈黙した。1年。長いようで短い。1年で強大な帝國を退けられるかかなりのバク  
チになる。これは予想外だった。  
「カヌートよ、やはり魔方陣の文法書き換えや、巨大化の弊害か?」  
「そう考えるのが自然でしょう。ですがそれを行わなければ、今回の召喚は失敗していたでしょう」  
2人はそろって溜息をついた。全てを望んでも全ては手に入らない。  

「もう1つあります。魔方陣にまだ魔力が残留しています」  
「待て待て、全部召喚で消えるはずではないのか!」  
「はい、ルーン様。ですが魔方陣内で魔力が残留しているのは確かなのです」  
今度は2人とも首をひねった。  
その瞬間、魔方陣の魔力制御とリンクしていた水晶球が砕け散った。  


218  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/12/06  00:00:24  ID:???  

それとほぼ同時に部下である魔法使いがかけこんできた。  
「ル、ルーン様!た、大変です!」  
「どうした!報告しる!」  
飛び込んできた魔法使いも動転していたが、ルーンもまた動転していたようだ。  
「は、はい!魔方陣に残留していた魔力がついさっきから急激に上昇してます!メイリーやみんなで  
制御と押さえ込みにかかっていますがかなり難しいです。上司のバーケット様は『魔力の逆流が始ま  
った』と叫んでいました」  
この報告を聞いてルーンとカヌートはそろって顔を青くした。暴走した魔力は最終的に爆発を起こす  
事が知られている。通常魔方陣では家が1つ吹き飛ぶ程度で、制御用魔方陣でなんとかできるが、これ  

けの巨大魔方陣では…考えたくない規模の爆発になる。  
ルーンは決断した。  
「全員に連絡。現在手が空いている者は全員避難する事。私はそれまで制御に参加する」  
「で、ですがルーン様は!」  
「カヌート、脱出の指揮はお前がとれ。私は責任を取らねばならん。これだけの魔力は魔法ギルドマ  
スターたる私でなければ制御しきれん」  
「で、でも…」  
ルーンはカヌートを一喝した。  
「くどい!ここには王国にいる魔法使いのかなりの数がいる。ここで失うワケにはいかん!」  
「わ、わかりました」  
そう言うとカヌートは飛び込んできた魔法使いを連れて外に飛び出した。  
「さて、いつまで持つかな」  
そうルーンは独りつぶやいた。  

果断な判断を下した王国魔法ギルドマスター、ルーン。そして引率を命じられた副マスターのカヌー  
トは自分のできる限りを尽くして破局の回避と被害の極限に務めた。だが残念な事にその努力は無駄  
に終わってしまった。  

魔力の急上昇から7分37秒後。  
ついに大爆発が発生した。  


219  名前:  Call50  ◆XVAlPbeLKw  04/12/06  00:01:18  ID:???  

逆流してきた魔力による大爆発。  
これにより魔方陣から半径5kmの範囲が爆発による直接打撃を受けた。  
具体的には半径5kmの円形に陸地が削り取られた。そしてその円の外縁部は海と接していた。  
結果として爆発後には巨大なクレーターが発生し、そのクレーターに大量の海水が侵入してきた。  
クレーター発生前にそこにあったテント等の設備、王国中から集まった魔法使い、その他貴重な道具  
等は全て爆発により消え去った。  

生存者は誰もいない。  

この事件により王国は大量の魔法使いを失った。そしてこれが帝國の侵攻初期段階における王国の大  
敗北の原因になった。  

だが同時にこの事件が無ければ後に成立する「北方辺境伯領」の繁栄の一端を担う重要地域「トール  
シェルド港」の成立の原因にもなった。  

この事件はこの世界に非常に大きな影響を与えたのだった。  




50  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  05/02/17  21:46:30  ID:???  

「で、我々は神にも等しいと謳われる『彼』をどうにかしなければならないワケだ」  

輸送戦記?Ifシナリオ03  
01  
広大な北方開拓地にはそれこそ「○ショナル○オグラフィックに推薦したくなる」程の自然の驚異  
が転がっている。  
その中でも希少度と脅威度が共にトップクラスなのはこの山だ。世界でも屈指の高峰であるが、そ  
れだけでは無い。この山には『彼』がいる事で世界屈指の脅威度を誇っている。  
『彼』は龍。つまりはドラゴンと言うヤツだ。  
鱗はあらゆる攻撃をはじき、身体から繰り出される一撃は地を割り、古き魔法を操り雷を呼び、そ  
して空を翔る。  
強大な力と深い英知を兼ね備えたF世界最強の生物、その数少ない生き残りが『彼』である。  

某施設に設けられた会議室には、日本大使、自衛隊指揮官・幕僚、移民団団長、エルフ族利益代表  
、ドワーフ族利益代表、開拓地管区司教、そして北方開拓地の女性領主と婚約者が揃っていた。そ  
して全員が頭を抱えていた。  
この会議の目的はまさに冒頭のセリフの通り。  

「こちらに対して『彼』が悪感情を抱いている以上、これより先の開拓には問題がありすぎます。  
それこそ襲撃を受けてしまえば…開拓計画は頓挫してしまいます」  
移民団団長が薄い頭を振りつつまくしたてた。『彼』は火龍に属する。開拓地などブレスのひと吹  
きで壊滅しかねない。団長にとっては死活問題だ。  

「自衛隊としては『彼』と戦闘になった場合、勝利できるのではないかと考えています」  
自衛隊指揮官の力強い言葉に会議室内は少し明るくなった。  
「ですが、勝つ為には自衛隊の全戦力を投入する必要があります。当然の事ながら現在の護衛等の  
業務を放棄し、長期間『彼』との戦闘を行わねばなりません。そのような状態で勝つ事で我々が得  
るのは…ピュロスの勝利だけです」  


51  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  05/02/17  21:47:39  ID:???  

02  
また暗くなった会議室。  
その中で誰かがつぶやいた。  
「そもそも『彼』が悪感情をこちらに抱く事になったのはなぜなんだ?」  
それは皆が知りたがった。物事を解決するにはまずは原因を知らなければならない。  
その声に答えたのは開拓地管区司教。彼はここに島流しにされて長く、数少ない知識階級として記  
録をつけてきた。その中には歴史も含まれている。  
「そもそもの原因ですが、わが王国のまぁ、無知と言うか傲慢さと言うか、それに類するものが原  
因と言えます」  
全員の注目が司教に集まった。  
「領土欲を満たした騎士が、名誉欲を満たす為に『彼』の居城たる山を制圧しようとしたんですな  
。当然の事ながら撃退されましたが…懲りずに何度も攻め込んだワケです。しかも周囲を煽って巻  
き込んだんですな」  
司教が置かれた水を一口飲んだ。  
「最初は説得で。次には軽い攻撃で追い払ったのですが…最後はかなり派手な攻撃をかけて騎士た  
ちは壊滅しました。この騒ぎが開拓失敗の原因の1つになったのです。ああ、煽った騎士ですが、  
自分は深手を負う前に本土へ帰る事に成功し、無事だったそうです。それはともかく、その後は動  
きはありませんでしたが、再開拓を我々が始めた為『彼』は動き出したのです。自分が煩わされな  
い為に」  

会議室に溜息が1つ2つ3つ。  
戦闘をやって勝てるが…失うものは大きい。そのまま放置してはいずれ被害が出る。全員が眉間に  
皺を寄せて黙りこくった。  
そんな中、領主の婚約者がふとつぶやいた。  
「なら身内にしてしまえばいいんじゃない?」  


52  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  05/02/17  21:48:33  ID:???  

03  
全員が顔を見合わせた。放置は無理だし、かと言って戦闘はできない。ならば残ったのは懐柔ぐら  
いか。だが全員が同じ事を考えた。そして太っている大使がその考えをクチに出した。  
「そりゃまぁ、最強の護身術は『自分を殺しに来た相手と仲良くなってしまう』だが…身内にする  
以前に交渉できるんかい」  
「んー。多分大丈夫だと思いますよ」  
「その根拠は?」  
婚約者は頭をかきつつ自衛隊の幕僚に顔を向けた。  
「『彼』が今行っているのは偵察と威圧ですよね?」  
話を振られた自衛隊幕僚はうなずいた。  
「ありがとうございます。こっちを潰す気なら偵察を行った後に初手から攻撃をするはずですよね  
。なのに威圧というまわりくどい手を使っている。それに司教様の話だと『最初は説得』だったそ  
うですから、旗色は悪いけど交渉を行う余地はあるんじゃないですかね?」  
「もし交渉する気が『彼』に無かった場合はどうすんかい」  
「その時はドンパチしかないでしょう。まぁ、交渉で解決できる可能性があるならば、交渉はする  
べきでしょう」  
太った大使がうなずいた。  
「ふむ、確かに交渉の余地があるならば交渉はすべきですな。だが…交渉するには仲介者がいた方  
が助かるのですがどうしたもんか」  
その言葉を聞いてエルフ族利益代表とドワーフ族利益代表が立ち上がった。  
「その役目、我が大地の民であるドワーフ族に」  
「その役目、我が森の民であるエルフ族に」  
立候補した2人は少し睨みあった。  
それを止めさせたのは女性領主。  
「なら一緒に行けば良いとおもうけど、どうなの?エルフとドワーフが組んで行動していれば向こ  
うの興味を引くから交渉のとっかかりにはなりそうだよ」  

そうして『彼』との交渉を行う事が決定された。  


53  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  05/02/17  21:49:58  ID:???  

04  
その後。『彼』との数次にわたる激烈な交渉(証拠として太っていた大使の体重が10s落ちた)の  
末、幾つかの決定がなされた。その中で大きいのは以下の通り。  
1.山は『彼』の所有物であり、本人の意向で入山は規制する。  
2.規制に関しては領主が入山規制区域の指定を行う事。  
3.司教は山を神域に指定し、入山を規制する。なお、修道院を設置しその人員を管理業務につかせ  
る事は認められる。  
4.入山規制区域外の開発は自由。  
これらによりにより『彼』と北方辺境領との間に協定が結ばれた。。  

その後、某所で大使と婚約者が日本酒を飲んでいる。  
「それにしてもよくまとまったな」  
「大使の手腕でしょう。あんな奇手を提示されて『彼』は驚いてましたよ」  
「君こそ後で「『彼』を山の神にしよう」なんて言い出したのを使っただけなんだが」  
そう言って大使は冷奴を口に入れた。  
「君もその「山の神」発言が無ければ山を神域にするなんて考え付かなかったぜ、婚約者殿」  
「まー行政が法律上の入山規制を行い、司教様が宗教上の入山規制を行えば入りたくなる連中は少  
なくなるでしょう。その為には『彼』を山ごと御神体にしてしまえばいいんじゃないかなーと思っ  
ただけですよ」  
婚約者は焼き魚をつまんだ。  
「それにですね大使、現実的な利益も出ますしね。ん、やはりこの焼き魚は旨いですね」  
「なに、交渉成立を祝うささやかな宴だ。こういう時こそ金は使わねば。それはともかく婚約者殿  
よ、『彼』は人間の侵入を規制できて睡眠三昧が出来た上、信仰の対象になって満足。司教殿は領  
主に恩を売ったし、自分の影響下になる修道院を得て大満足。いやぁ良い事だ」  
「大使、まだあるでしょう。信仰の対象になれば巡礼や観光客が来る。客は金を落とし、経済を活  
性化するし道路インフラを有効活用できて領主も満足。そして交渉をまとめたあなたは高得点」  
「まったくその通り。まぁ、皆幸せになって良かった良かった」  

この事が「開拓地の守護神」とも崇められている『彼』の始まりであった。悪しき者(と思われて  
いた)が崇められ、良き者にもなった。『彼』は文字通り「ヤマノカミ」になったのだった。  



409  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/04/21(木)  23:53:23  ID:???  

シナリオIf-04  
夢  
01  
A「学園祭の出し物、どうしよう」  
B「どうする?よそは資金が潤沢だから大魔法使いを呼ぶらしいが」  
C「ウチにそんな予算はねーよ」  
ここは某工科大学内の魔法同好会部室。  
同好会会長のA。会員2号のB。会員3号で下級魔法使いのC。の3人が集まって相談中  
だったりする。  
日本が魔法を手に入れてからまだ5年もたっていない。そこで魔法を応用した有用  
なものを作成し、デモンストレーションを行えば評判は良くなるし、部員は入るし  
企業からのお声がかかる可能性が高くなる。先達がいない分だけ注目されるだろう  
との考えである。もっとも、先達がいないとどっちの方面に進むのかすら試行錯誤  
で大変であるが。  

A「ともかく『魔法同好会』を名乗っているわけだから魔法系統だな」  
B「う〜ん。確かに魔法だが、ウチは工科大学だから、そっちともからむのがいいと  
思うが」  
C「2人とも、実際に魔法系統を動かす俺の能力を考えて作ってくれ」  
作ろうにもCは下級魔法使い。能力等には制限がつく。  

A「そういえばファンタジー部はゴーレムを作っているそうだ」  
B「うへぇ。本格的」  
C「あそこは漫画やアニメで洗脳(笑)された『本職』がいるからな」  


410  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/04/21(木)  23:54:21  ID:???  

02  
A「ならば対抗して…」  
B「アホかい。向うは資金力も魔法力も違う。んな事したらこっちがみすぼらしく  
なるっつーの」  
C「同じ大きさならできるけど…動きは鈍いし、もろいし、1体作るのに時間がか  
かるよ」  
A「ならば半分の大きさならどうだ?」  
B「半分?  逆に手間取らないか?」  
C「半分ね。普通は小さくする方が難しいけど、この場合は重量や負荷も半分にな  
るからいけなくもない。だが見栄えは劣る」  
良い案かと思ったが、欠点も大きい。3人は困ってしまった。  

A「ゴーレムはゴーレムだが、人型にこだわる必要性ないんじゃない?」  
B「だからと言って多脚型とかを作る?  そっちに詳しそうなロボット研はよそが  
抑えているぞ。それに、ノウハウは人型の方が豊富だ」  
C「面白そうなてを思いついた」  
Cがニヤリとした。  
C「こちらと組んでくれそうで、かつある程度の技術力がある所があればいん  
だろ?  あるぞ。それどころか向こうから頼み込んでくるかも」  
A「あったっけ?」  
C「福祉システム工学科ゼミ。介護用PSを考えている所だよ」  
B「釣るにはエサがいるぞ」  
C「ならこんなのはどうだい?」  


411  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/04/21(木)  23:55:12  ID:???  

03  
C「俺のゴーレム技術は本職と比べると低く、高性能なものを作ると代償として品質  
が悪かったり、耐久性に難が出たりする。これは知っているな?」  
A「それだから困っている」  
C「そこで発想を変えてみた。能力や品質は耐久性などと相談してそこそこのもの  
で我慢しようと思う」  
B「待て。そんなものに誰が注目するのだ」  
C「それでもいいものにするのさ」  
AとBがそろって首をひねった。  
C「PS。つまりパワードスーツで困るのは、稼動させる為のバッテリー等の大重量。  
そして不足しているパワーと短い稼動時間だ。何せ電力を食うからな」  
Cが持っていたジュースを一口含んだ。  

C「そこで、バッテリーとパワーを出したり伝えたりする筋を造ろうと思う」  
A「待て待て。PSをゴーレムで造るのか?それはそれで手間にならないか?」  
C「う〜ん。それも最初は考えたんだけどね、交換とかが面倒になるから没」  
B「ならばどうするんだ?」  
C「PSで使う交換可能な筋をゴーレムで造るのさ」  
AとB「はぁ!?」  
C「パワーは使用者の1.3〜1.5倍あたりにして、その代わり瞬間パワーではなく持続力  
重視にする。そして後は耐久性を重視する。そうして大きさは筋なので小さくて済む。  
それを規格化し、大量生産し、PS各部に組み込む。故障したらすぐに交換できるように  
する。大きくて高性能だが、高価で数が揃えられなくて、人型故の制限があるゴーレム  
と、安くてそこそこの能力だが汎用性と量産性が死ぬほどあるゴーレム筋。良い対照  
になるんじゃないか?」  


412  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/04/21(木)  23:56:22  ID:???  

04  
学園祭当日。  
学園には展示や出し物が数多くあったが、人気を2分したのはファンタジー研のゴ  
ーレムと、魔法同好会&ゼミ連合の介護用PS+各種機械であった。  
介護用PSを見てみると…  
今までの試作型介護用PSの欠点  
・バッテリーや各モーターや骨格が重い。  
・消費電力が大きくて長時間動けない。  
・細かいモーターが多いので修理に手間がかかる。  
があった。  
魔法同好会製ゴーレム筋仕様の場合  
・バッテリーや細かいモーターがいらないからその分軽くなった。  
・バッテリー代わりは人間が生きていると放射する生体エネルギーなので生きている限り動ける。  
・故障したらその筋を換えるだけでいいのでお手軽。  
・筋の動く方向を制限したタイプを使い、その分パワー向上に努めたので能力は  
変わらない。  
・筋の動く方向により種類はあるが、規格化が可能で、大量生産ができるので安い  
とかなり有利なものであった。  
さらには魔法同好会製ゴーレム筋を使用した『人工心臓』や、『パワーアシスト型歩行機械』その  
他…が山のようにあり、各企業の耳目を集めた。  

この大学祭は、この大学が魔法人工筋肉のメッカになる事を約束された、最初の  
1歩になった。そして技術者の夢、介護者の夢、障害者の夢に1番近い場所になるのであった。  




455  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/04/22(金)  23:39:45  ID:???  

朝  
朝礼の後に「魔法人工筋肉利用パワードスーツ」の始業前点検。  
夜のうちに機能停止になった筋をとりかえる。あるいは予備に切り替え。  

始業。  
夜間に到着した長距離トラックからの大重量荷物を降ろす。  
勤続30年でPS登場までは軽貨物にまわっていたおっちゃんが話してくれた。  

「坊主。コレ(PS)ってのは便利だな。こんな大物の時、昔は2台しかないフォー  
クリフトの争奪戦で確保して、パレットごと降ろす。そうして台車や何かで大汗  
をかきながら所定の場所に置いて検品。送り先に分類してから台車や何かで大汗  
をかきながらパレットへ運んで、またフォークリフトの争奪戦やってトラックへ。  
これが終わったら疲れてヘトヘトになっちまってもう体がもたなくなったもんだ」  
そう言っておっちゃんは自衛隊へ納入するセメント袋を2つ抱えた。  
「だが今じゃあ50過ぎのロートルが若ぇ時みたいに荷物を持っても全然疲れねぇ。  
おかげでまだまだ働けそうだぜ。若ぇ者にはまだまだ負けねぇ」  

実際に、同じ大重量荷物を扱っても疲労度は半分、処理スピードは倍。フォーク  
リフト作業がPSつき数人でまかなえるからその分の短縮も大きい。  
この利点を見て自衛隊でも採用されはじめているが、まず後方作業で導入して  
作業の効率化をはかっているらしい。まぁ、武人の蛮用に耐えられるかわからない  
しね。  


456  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/04/22(金)  23:40:18  ID:???  

夜  
終業。  
仕事が終わって他の人たちが帰る中、おっちゃんが独り残って整備をしている。  

「坊主。俺は最初はよくわからねぇカラクリでこいつを嫌ってたが、こいつのお  
かげでまた仕事ができるようになった。だからこいつは道具じゃねぇ、相棒だ。  
その相棒を丁寧に整備してやるのは俺の義務だ。違うか?  と、そこの布を取って  
くれ」  
言われた布を渡した。  
おっちゃんはPSの表面を磨き始めた。  
「それにな、こっちの、その、ファンタジー?な世界に召喚されてから、物にも  
場合によっちゃあ魂が宿るらしいじゃねぇか。なら簡単だ。石には石の心がある  
んなら、機械には機械の心があってもいいじゃねぇか。心があるんならこう毎日  
丁寧に世話して仲良くなれば、もっとラクになるじゃねぇか」  

PSの表面を拭き終わり、次に筋のチェックを始めた。  
「おっちゃん。部品を取り替えているけど、その心が宿っているなら交換しちゃ  
まずいんじゃないの?」  
「馬鹿言え。取り替えてもこいつはこいつだ。何か、坊主は自分の手が義足にな  
ったら自分じゃなくなるって考えるのか?」  
そういえばそうだ。  
そう言っているうちに整備が終わった。おっちゃんはPSを指定の場所へ置き、グ  
レムリン除けの御札をはりつけ、PSに向き直った。  
「ゆっくり休んでくれや、相棒。また明日、働こうぜ」  



68  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/07/13(水)  01:42:04  ID:???  

輸送戦記シナリオIf-05  
01  
日本国JAXA(宇宙航空研究開発機構)施設内会議室。  
「なぜ落ちたんだろう」  
スーツの男がつぶやいた。  
「構造的にはほとんど枯れた技術ばかりを使った手堅いものだ。実績は召喚前からある」  
白衣の男が返した。  
「やはり新規導入した技術がまずかったですかね」  
ローブを着た男が済まなそうに言った。  
「いや。導入を認めたのは我々全員だ。責任は君だけではない」  

この重苦しい会議。原因は数日前に遡る。  
F世界に召喚されてから10年近く経ち、各種データも出揃った。ここで「人工衛星を打ち  
上げて通信及び気象観測を行いたい」との要望が上は政治家から下は一般市民まで幅広い  
範囲から寄せられた。  
JAXAは宇宙開発が本業。異論のあろうはずがない。元からロケット打ち上げをしたくてた  
まらなかったし、今回は新技術-魔法を組み込んだ画期的な液体燃料ロケットエンジンも  
完成して燃焼テストもパスしていた。ならば使ってみたい。  
という事で打ち上げになったが、さすがに実績がないものをいきなりぶっつけ本番は怖い  
ので、実験機を打ち上げてみる事になった。製作されたのは小型のロケット3基。それぞれ  
テレメーターなどを搭載している。  
実験機で問題が無ければ正式採用になるはずだった。  

そのロケットが落ちた。しかも2回連続、同じ理由で。  


69  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/07/13(水)  01:42:40  ID:???  

02  
導入された魔法はいわゆる「魔方陣」の亜種とも言えるものだ。ロケットエンジンの構造  
は堅実で実績のあるものだが、それらに火系統の魔方陣を組み込み、熱や圧力に対する  
耐性を倍に増やしたものだ。  
数十回行われた燃焼試験ではカタログデータとほぼ同じ出力を出し、爆発事故は全く発生  
しなかった。  
そして試験機は打ち上げられ、成層圏を抜けた辺りで爆発した。  
データ検証によると、エンジンの異常燃焼が原因とされた。  
そして原因の検討の為にスーツを着た官僚。白衣を着たロケット技術者。ローブを着た魔  
法技術者の3人による小規模検討会が開かれていた。  

「技術的には枯れて安定したものばかり。MoreはBetterの敵だからな」  
スーツの官僚の言葉に両方の技術者が首をすくめた。  
「やはり熟成が足りないんですかね。魔法と科学の融合はまだ始まったばかり。よちよち  
歩きの赤ん坊ですからね」  
ローブの魔法技術者がくやしそうに言った。  
「しばらくは今までのH-2系列及びM-V系列を使いますか。手馴れていいですけど、コス  
トがねぇ。魔法利用によるコスト削減&性能向上は魅力的だったんですけどねぇ」  
白衣のロケット技術者もくやしそうに言った。  
「しょうがあるまい。安くて高性能なのはいいが、まともに打ち上がらんのではしょうが  
ないさ。それにしても何で燃焼試験では問題が無いのに打ち上げるとこうなるんだろう」  
スーツを着た官僚がそう言いながら首をかしげた。  

その答は意外な所からもたらされた。  


70  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/07/13(水)  01:43:31  ID:???  

03  
その回答は航空自衛隊からだった。  
F世界のある物好きな魔法使いが「空で上がれるところまで上がってみたい」という希望  
を出していた。彼は『王国』の王族とかなり太いパイプを持っていて、そちらからの押し  
もあって日本政府は渋々これを認める事になった。もっとも、裏で魔法使いやF世界人の  
高空での身体データが取れると考えていたので損ではないようだが。  
そうしてその魔法使いに用意されたのはF-2支援戦闘機の複座訓練型であるB型だった。  

そして魔法使いはF-2Bの後席に乗り、基地を飛び立った。  
高度を少しずつ上がっていく事に大喜びする魔法使い。彼は今までワイバーンが上がれる  
高度や、高峰の山頂までが限界だった。それをF-2Bは軽々と越えていく。昔から「空を自  
由に飛びたい」と願っていた彼にとっては至福の時だった。だが少し気になる事があり、  
それを機上や飛行後に口にした。  
「1万メートル?かそこらへんから周りにマナ(大気中にある魔力)が薄くなってたなぁ」  

彼の発言がきっかけになって調査が行われた。  
1.マナ(大気中にある魔力)は高空になればなるほど減る。  
2.魔法使いは高空でも自らの生み出す魔力で魔法を行使できるが、マナが少ないので威力  
が落ちる。  
3.高空になると魔力を自力補充できない魔法具や結界は、魔力供給不足により効果を減退  
させるか機能を停止する  
以上が確認された。そしてその結果は  
「大気がある一定の濃度がある成層圏までならマナは大気の精霊や、ギリギリだが大地の  
精から供給できる。ただし低空よりも供給量は減る。成層圏以上だとマナはなくなる」  
というものだった。  


71  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/07/13(水)  01:44:14  ID:???  

04  
結局、液体燃料ロケットエンジンへの魔法技術付加は見送られる事になり、衛星はM-V又  
はH-2Aで打ち上げられる事になった。  
その結果に魔法技術者は悔し涙を流したのは言うまでもない。  
だが捨てる神あれば拾う神があった。  

「大気がある一定の濃度がある成層圏までならマナは大気の精霊や、ギリギリだが大地の  
精から供給できる。ただし低空よりも供給量は減る。成層圏以上だとマナはなくなる」  
だから成層圏を抜けたら魔法陣は効果を無くす。だが逆に考えたら「成層圏までなら魔  
法はなんとか使える」という事になる。  
ならば成層圏まででOKなロケットには何があるかと考えた結果、白羽の矢が立ったのは  
SRBやSSBと呼ばれる固体ロケットブースターだった。  
これらは本命のロケットに初期加速を与えるもので、本命の横にとりつけられる物だ。  
燃焼終了後は切り離される。切り離しは成層圏が多い。ならば魔法は使える。  
重量物を打ち上げる時にSRBやSSBは本数を増やす事で推力を得る。通常は束ねすぎると  
燃焼の同期に問題が発生するが、魔方陣にリンク機能を付け足す事で解決できた。  
それから数年後。  

「リフトオフ」  
今日もまた無事にロケットは打ち上げられた。魔法技術が入ったSRBやSSBは無事故記録  
を順調に伸ばしている。魔法は科学によって消えると思われていたが、その心配はしな  
くて良くなった。魔法と科学は手をつないで遥かなる星を目指す事になったのだから。  





381  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/07/20(水)  20:46:26  ID:???  

輸送戦記シナリオIf-06  無から有を生み出す?  
01  
「ねーねーおかあさんー。あのドラゴンのぬいぐるみ買ってー」  
「ダメでしょうユキちゃん。さっきドラゴンもなかを買ったじゃない」  
旅館で用意された浴衣を着た母娘が、みやげもの屋で激しい(笑)交渉を繰り広げてい  
る。  
他にも様々な浴衣を着た老若男女に、旅装の巡礼者、修道士、騎士、商人に旅芸人と様  
々な人でメインストリートはごったがえしていた。  

ここは北方辺境伯領内にある『彼』-世界最強のドラゴン-が鎮座する山の麓である。  
実は当初、ここは宗教上の要地として巡礼者をあてこんでいたのだが、後で温泉も出る  
事が分かってからは湯治場としても有名になってしまった。  
だから浴衣姿とファンタジーな服装が混在しているのである。  

さて、その温泉地にある大規模旅館「鶴来屋」において変わった会議が開かれていた。  
部屋は大宴会場。中にいるのは青年から老年までの男女50人程。  
彼らは自分たちの前にあるお膳に舌鼓をうちながら、活発な意見を戦わせていた。  
なお、全員が浴衣姿である。さらに言うと、酒は入っていない。まだ。  
表の利用者表には『地質・温泉学会ご一行様』と書かれていた。  

「ありえん!まったく非科学的だ!天本、お前の得意な魔法でもないと説明ができん」  
「ありえないと言っても、事実は事実だ。現実を認めろ。岸田」  
偉そうな老人2人が一番派手にやりあっている。  
部屋の隅では助手らしき連中が固まり、愚痴っていた。  
「ああ、死火山なのに温泉が出るなんてなぁ」  


382  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/07/20(水)  20:47:24  ID:???  

02  
「しかし本当に死火山なのか?」  
「『帝國』の古文書や『彼』とのインタビューも見たが、完全にマグマ活動は止まって  
いるとウチの教授は結論した」  
「確かに振動調査や航空機による広域調査など、思いつく限りの調査結果、あそこは死  
火山だ。まちがいなく。こっちの調査委員会の結論だ」  
「でもおかしいんだよな。地下からのマグマ供給が無いのに、地熱はむやみやたらと高  
いんだぜ」  
「ああ、ヒマラヤみたいに、プレートに押されて発生した造山活動だと、摩擦熱と言う  
かまぁそんなやつで熱は出るぞ」  
「ウチの研究室はそっちを調べていたが、その可能性は低いって出たぞ。こっちの世界  
にもプレートテクトニクスはあるが、ここには影響は出ていない。」  
「じゃあ何で温泉が出るんだよ」  
「わからん」  
「死火山でプレート関係でもないのに、山の中には熱源がある。熱収支が説明できんし  
熱力学第2法則(熱いお茶は放置すると冷めるが、その逆はありえない経験則)に反して  
いるぞ」  
「オレが知るかよそんな事。ただでさえこっちの世界(F世界)に呼ばれてから、物理法  
則に『魔法』なんてゆー反則技が入ったんだ。世界の謎が1つや2つやグロス単位で増え  
ようがもう気にしないぞ」  
「おいおい、それは科学者としての姿勢としちゃまずいんじゃないの?」  
「かまわねーよ。時には開き直りも要るさ」  
「まぁ、そうしたほうが良いか。良い気分転換にもなるし」  


383  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/07/20(水)  20:48:20  ID:???  

03  
その後に酒が持ち込まれ、いわゆる宴会状態に突入した。が、偉そうな老人2人はまだ激  
論を繰り広げていた。  
それ以外の助手に助教授に企業からの出向者に官僚は、そのまま地元特産の地酒を味わ  
いながら飲むわ食うわ踊るわと大騒ぎをしていた。  
それを評して旅館関係者は…  
「サバトよサバト!」  
と断言していた。  
それから12時間後。  

「…という事で結論したいがどうだ、天本?」  
「うむ、岸田よ、貴様の考えとしては筋が通っているな」  
老人の学者2人は酒を飲みつつ一晩中議論を続けていたらしい。  
それ以外の連中は…死屍累々と言うのがふさわしい。  
酒瓶かかえて寝ているやつ。半分裸で寝ているやつ。どーみてもかみ合ってない会話を  
交わし続けるやつ。黙って酒を飲み干しているやつ。そいつにつきあったが、潰された  
やつ。  
老人の科学者2人はどうやら老人医学の常識をこの世のどこかに置き忘れてきた人物の  
ようである。  

「よし、そうと決まれば『彼』に確認を取りに行くぞ。朝風呂を浴びてから出発だぞ、  
天本」  
「うむ、それが良い。だが岸田よ、貴様だけでは不安だからついていくのだぞ」  


384  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/07/20(水)  20:48:57  ID:???  

04  
その後のすったもんだ-助手たちがあわてて後を追ったり、修道院の制止を辺境伯から  
もらった許可証で回避したり、山道での大騒ぎ-があったが、『彼』との会談は無事に  
終わり、老博士2人の意見は正しいと立証された。  

老科学者の意見は「『彼』こそが熱源の元であり、それを受けた山が熱源と化した」と  
いうものである。  

この山の熱源は、世界最強の火龍である『彼』である。  
原子力関係で『放射線を長く受け続けた物質が放射化し、放射線を出すようになる』と  
いうものがある。  
それと同じく、世界最強の火龍である『彼』が千年単位でこの山に居たため、『長く火  
属性の魔力-何せ火龍は火の魔力の高密度集合体-にさらされた山は火の魔力を帯び、そ  
れ自体で熱源を持つようになったのである。  
なお、熱源の補給は『彼』がいる事で補給されるので問題はなかったりする。  

そうして熱源がある所に雨が降る。ここは世界屈指の高峰であり、雨水が山にしみこん  
で地下水になり、その地下水が山の熱源で高温になり、そして温泉として麓で噴出した  
というわけである。  

「で、だ、岸田よ。これで辺境伯は『彼』をさらに大切にするようになるな」  
「確かに。だが天本、あそこは元から敵対するきなんぞ全く無いからな」  
「わかっているさ。軍事上の問題として『王国』は辺境領への圧力はかけにくい。それ  
だけでありがたいのに、資金という便利な道具まで生み出してくれる存在だ。誰がそれ  
を自分から手放すのだ?」  




295  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/08/29(月)  22:42:10  ID:???  

輸送戦記外伝?  皇帝陛下の憂鬱  

「じい。わが帝國には領土を拡大したがる馬鹿しかおらぬのか?」  
「陛下。そのような問題発言は控えていただけませんか。ご幼少の頃からお  
世話申し上げている私ならともかく、他の者に聞かれたら困りますぞ」  
「帝國」皇帝の執務室には少年といっていい年齢の皇帝陛下と、彼を生まれ  
た時から世話をしているじいやである侍従長がいた。  
「フン。いくら皇帝を名乗っていても権力が無ければただの置物だ」  
「陛下〜」  
苛立つ…と言うよりすねている皇帝陛下と、それを宥める侍従長(じいや)。  
執務室のいつもの光景である。  

ここで1つ疑問。なぜ皇帝なのに権力が無いか。  
実は「帝國」は元々、大中小の王国の寄り合い所帯であり、皇帝は彼らをま  
とめる旗印であった。その後、時代が下るにつれて皇帝の権力は強くはなっ  
たが、絶対的な力は未だに持てず、当然の事ながら直轄領も(大貴族と比べ  
ると)まだまだ小さい。  
できる事といえば「命令」ではなく「調整」しかないのが現実だ。  
しかもこの皇帝陛下、まだ10代。若すぎるので侮られたりするなど苦労が絶  
えない。  
「まったく。今度は隣国の『王国』に勝手に攻め込んで、勝手に返り討ちに  
あった。そしたらこっちに泣きついてくる。ただでさえ国内での問題が山積  
みだと言うのに勝手なことばかり!」  


296  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/08/29(月)  22:43:00  ID:???  

皇帝陛下が愚痴っているのは「帝國」による「王国」第1次侵攻である。  
実はこの侵攻、大貴族が不満を抱えている騎士連中をあおって攻め込ませた  
もので、皇帝は事後承諾になった。  
騎士連中は領土も狭く、中には領土すら持たない連中もいて、彼らが山賊化  
するなど問題になっている。  

「不満な連中を『片付けられる』し、増えた領土の分配で解決。その後は?」  
「じいやが考えまするに、エサを与えていれば大貴族は騎士に恩が売れます  
し、元々大貴族はあおっただけで持ち出しはほとんどありませんからな。騎士  
は大貴族の後ろ盾を得ておおっぴらに領土を取れますし、武勇を示す良い機会  
ですならな」  
「そうして戦死した騎士で跡継ぎがいない領土は皇帝のもの。そして新領土を  
いくつか献上する事で皇帝の顔も立てると。という事だな。じい」  
「そのとおりであります、陛下。陛下のご慧眼にはこのじいやは感涙いたしま  
すぞ…先代様がお聞きになられましたらさぞかし喜ぶ事でしょう」  
じいやは本当に泣き出した。  
「あーもうじい、そんなに泣くな」  

これが執務室のいつもの光景。だが、皇帝とじいやはいつもこんな苦労をして  
いるとは「王国」も「日本」も「帝國」の騎士もだーれも知らない。  
知っているのは大貴族ぐらい。  
その大貴族はその苦労を知ってか知らずか…多分しってるだろう…ワガママば  
かり。皇帝とじいやに必要なのは胃薬と頭痛薬と睡眠導入剤かもしれない。  


297  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/08/29(月)  22:43:37  ID:???  

「まったく、あの大貴族連中はこっちの邪魔ばかり。エルフやドワーフを魔  
法学院に入れて研究をさせると嫌がらせはするわ、彼らの母集団を標的にし  
て領民の不満の解消に使うわ。そのせいで1番有能なエルフ研究者がその、  
「日の昇る国」か?その資料を抱えて逃げ出すわ。これで研究が頓挫する!」  
「陛下。こればかりはなんとも。領民には不満がたまっているのは由々しき  
事ですし…」  
「その元を造っているのはあの大貴族連中だろうが!」  

ここ最近、大貴族同士の衝突や、不良騎士の跳梁で治安が悪化気味である。  
加えて大貴族は大商人と組んで穀物の値上げを行うわ、税をむやみやたらと  
上げるわと無茶を行っている。当然、そんな無茶ばかりでは領民は逃げ出して  
流民と化す。彼等が都市や他貴族の領土に流れ込んで問題がまた出る。という  
悪循環が続いている。  

「その尻拭いをするのは我々ですからなぁ」  
「忠誠はしているフリでこっちに問題を押し付ける。そんな連中はまとめて  
さらし首にしてやりたい!」  
「陛下、お気持ちはわかりますが、それを行うと貴族から反感を買いますし  
貴族と密接な関係を持つ『教団』との関係も…」  

「帝國」には「教会」と呼ばれる宗教があり、国教となっている。現在の所  
はその中でも強硬派が大貴族と組んでいるから始末が悪い。今回の「王国」  
侵攻にも「教会」がお墨付きを与えている。  


298  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/08/29(月)  22:44:21  ID:???  

皇帝とじいやは同時に溜息1つ。溜息を1つすると希望が逃げていくが、この  
場合はしょうがないだろう。  
「それで陛下。第2次『王国』侵攻ですが、いかが致しますか?」  
「認めるしかないだろう!  ここで拒否したら矛先がこっちに来る」  
「やはりそれしかありませんか」  
「『王国』もそう無能ではないらしい。第1次侵攻の5000人が壊滅したからな。  
2回目もまたこっちに打撃を与えるだろう。その分こっちの狂信者がいなくな  
るから多少は楽になる」  
「それでは陛下、勝った場合は?」  
「あ、決まっている。あいつらが献上してきた領土はもらい、死んだ連中の  
領土はこっちがもらう。その分こっちが楽になる」  
「では、負けた場合は?」  
「負けた責任を取らせてお取り潰しや領土の没収。死人が増えるから没収で  
きる領土が増える。狂信者どもの数が減る」  
「どちらにしても陛下は傷つかない訳ですな」  
この皇帝陛下、年齢のワリには現実主義者だ。もっともこれだけ苦労してい  
ればこうなるか。  
「それで、もしかしたらなのですが、3次以降で出馬を要請されたらいかがい  
たします?」  
「受けるしかないだろう。もっとも、担ぎ出した責任として大貴族に経費を  
まわすから、あいつらの勢力は少しは弱まる…だろう」  

そうして皇帝は溜息を1つ。こう言って見たものの、うまくいきそうにないのは  
分かっている。今日も皇帝陛下は憂鬱なまま仕事にはげむのであった。  





719  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/09/26(月)  23:56:25  ID:???  

 執務室に10人もの男女がなだれ込んで来た。  
 彼らの手にはそれぞれ武器が握られ、中には真新しい血が滴っていた。  
 そしてその凶器を振るう者の服には返り血が染み付き、人と言うよりは鬼のように見えた−まぁ  
真昼間にこんな格好で殴りこんできた連中はまともではないのだからあまり変わらないが。  

 執務室。と言っても少しだけ広い部屋に安っぽい事務机と書類棚と応接セットがあるだけの簡素  
な部屋。その事務机に陣取っていた男-北方辺境伯の夫-は驚きもせずに鉛筆を置き、侵入者を眺め  
てからニヤリと笑い、男たちが何かを喚く前に言い放った。  
「おやおや、もうお昼かい?  僕の愛妻弁当を狙ってくるのはわかるが、もっとスマートにできない  
かい?」  

 男たち。中でも1番前にいたリーダーとおぼしきガタイの良い男の顔が真っ赤に染まった。  
 激昂するかとおもいきや自己制御に成功したらしい。深呼吸をして自分を落ち着かせた後に意外  
な程冷静な口調で話し出した。まぁ突っ込むだけの馬鹿ではないらしい。  
「北方辺境伯副代表、草壁守。貴様を我々『北方の暁』が天誅を加える」  

 意外にステロタイプな口上だったな。まぁ様式美と言えなくもないが。いわゆる革命家あたりの。  
「確かに僕は草壁守だ。天誅を加えられる前に少し聞いておきたいのだが」  
「冥土の土産に聞いてやろう。囀ってみろ」  
「その血だが、誰の血だ?」  
「あ、誰のかって?  クハハハハ」  
 襲撃者のリーダーは哄笑した後に答えた。  
「門番に決まってるじゃねえか。それにしても無用心だな。警備は正門の門番しかいねぇし、そい  
つを切り殺したら後はスンナリここまで入れたぞ」  


720  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/09/26(月)  23:57:24  ID:???  

「それでは死人は門番だけなんだな?」  
「ああ。門番の2人を華麗な剣さばきで殺してやった。気持ちよかったぜ」  
「外道が」  
「外道でけこう。すぐに後を追わせてやるぜ」  
 そう言うとリーダーは剣を上げかけた。  
「さらに聞いていいか?  ここ以外にも襲撃しているんだろ?」  
「決まってるじゃねぇか。テメエの大切な伯爵の所にも行ってるぜ。それにだ、助けを呼ぼうとし  
ても大切な12騎士団『ゾディアック』はこっちの仲間たちの騒ぎで出払っているか、元から動けな  
い。王手詰みだ」  

 王手詰み、か。はたしてそうかな?  

 その次の瞬間、外で銃声が連続して鳴り響いた。  
 『北方の暁』の連中の注意がそれた。  
 その隙に僕は机の陰に隠すように立てかけておき、後は引き金を引くだけのショットガン-しかも  
銃身を切り詰めて振り回しやすくしている-を『北方の暁』の連中に向け、撃った。  
 1発。2発。3発。散弾は良く飛び散り、連中の体を切り裂いた。そのままうずくまって動かなくな  
った連中もいるが、まだやれる連中もいる。  
 そして僕は剣を抜いて連中に切りかかった。  
 近接格闘戦の教官に死ぬほど叩き込まれた技。今でも欠かさぬトレーニングで培った体力。相手の  
動きから次の動きが判るほど進化した視覚強化。そして相手は手負いで、戦場はホームグラウンド。  
 数の少なさを補うには十分すぎてお釣りが出る。  
 そして部屋に血飛沫が舞った。  


721  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/09/26(月)  23:58:21  ID:???  

「騎士団はみんな出払っているはずだ。日本の野郎もだ!  いったい何なんだ!」  
 リーダーは瀕死の怪我を負ったが、喚く気力はあるらしい。  
「『ゾディアック』ってなんだか知ってるかい?  黄道12宮と呼ばれる星座で、ウチの騎士団には  
それぞれの星座名が割り振ってある」  
 ここで一息つく。  
「工廠群としての牡羊座。航空集団としての射手座。海兵隊としての蟹座。精強な歩兵師団として  
牡牛座・獅子座・蠍座・山羊座・水瓶座・双子座・乙女座。警察機構としての天秤座。水上・海上  
護衛艦隊としての魚座。それだけかな?」  
「テメェが自分で12て言ったんだろ」  
「だけどね、13番目があるんだよ。あまりメジャーではないが、蛇使い座がね」  
 リーダーの目が驚きで見開かれた。  
「蛇使い座はあまり有名ではない。だから彼らには裏方をお願いしている。つまり…」  
 わざとらしく途中で止め、ゆっくりと、子供に教えるように言った。  
「情報・諜報機関として彼らは造られ、運用されている。そこにあるのに無いものとされている。  
だがある以上は必須のものだ。僕としては別の星座を割り振りたかったが、責任者がそれで良いと  
主張したんでね」  
「そ、それなら『北方の暁』の行動は…」  
 死刑を告げるように、彼の言葉の続きを僕は言った。  
「全てばれている。今頃カウンターを食っている。ここも不必要な人間は退去させている。門番は  
『事がおこったらすぐに逃げる』と言っていたが、間に合わなかったようだ。無理にでも退去させ  
ておけば良かった。後で勲章を申請しよう。遺族には僕から直接謝罪しよう」  
 そう言いながら僕はリーダーに向き直った。  
「な、何もかも話す。だから、助けてくれ」  
「少なくとも革命を目指す者はそのような見苦しい真似は慎むべきだと思うが、どうかな?」  


722  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/09/26(月)  23:59:16  ID:???  

「閣下!  だから私は反対したのです!」  
 全てが終わった執務室で、僕は警護担当からガミガミと説教を食らっていた。  
「あーわかったわかった。次から気をつける」  
「こんなのが毎回あるなんて困ります!」  
 やばい。逆効果だったか。  
「あーでも1箇所に固めたから排除しやすかたろ。で、ほかの所、特にクラウスは?」  
「クラウス辺境伯代表に掠り傷でもつけたらクラウスちゃん親衛隊に拷問された上、わたしゃ切腹  
させられますよ。クラウス辺境伯代表は無事です。閣下がご自分の警護役までまわしたんですから  
無事なのは当たり前です。えーと、で、連中はほとんどが降伏しました。血が流れたのはここぐら  
いなもんです」  
「…珍しいな。こっちの手回しが良かったのか、向こうがヘタレだったのか」  
「多分両方でしょう」  
 警護担当は少しは落ち着いてきたらしい。  
「そうか。それじゃあ『掃除』を始めるか」  
 掃除。『北方の暁』の実働部隊はこれでかなりをつぶした。後はあいつらを手引きした連中を、  
『蛇使い座』の情報を元に摘発するか。いや、まるごと乗っ取って逆用させるか。  
 あーでもそこらへんの判断は向こうに任せよう。餅は餅屋だ。  
「えーと警護担当。この後もしばらく何かあるかもしれないから引き続き警護をお願いします」  
「今回みたいな無茶は無しですよ!」  
 そんな声を聞きながら力を少し抜いた。全部抜くのはクラウスの前だけだ。  
 今は彼女のために『掃除』を始めなくてはならない。蛇使い座の情報を使って。  
   
 そういえば蛇使い座の由来には「蛇と薬草」があったな。情報はやりようによっては今回のように  
人を殺したり、助けたりする。情報部にふさわしいかもしれないな。  
 そう思いながら僕は書きかけの書類にまた向かった。  





265  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/11/15(火)  23:07:41  ID:???  

魔法運用研究会  

紫煙がこもる会議室。そこに3人の自衛官が話し合いをしている。  
A「日本国においても魔法使いの数が増えつつあり、ウチ(陸上)を含めた自衛隊にも入ってくるだ  
ろう」  
B「確かに。陸海空問わずだろうな。だが比率で言うと陸が多くなるかもしれんが」  
C「『王国』に展開している派遣部隊では陸が1番多くて、それでも足りないと言って困ってるから  
なー。まーあんまり人が行っても兵站がもたんが」  

 彼らが集まって話をしているのは上記が理由である。  
 日本国がF世界に召喚されて1年以上が経過した。その間にF世界の物理法則における目玉商品であ  
る『魔法』についての研究は進み、日本国民の中にもぽつぽつ魔法が使える人間が出てきたとの話  
が聞こえている。もっとも、極少数だが。だが日本に亡命や難民としてきたエルフ・ダークエルフ  
もいるので頭数から言えばまぁまぁかもしれない。  

A「で、だ。将来的には『魔法科』として独立した上で配属される魔法使いをどう運用するかが問題  
となる。将来的には軍事的常識に従って集団運用になるとは思うが。今は今でどうするかも重要だ  
が」  
B「今から考えておかないと大変だからね。新兵科だから、他とのすりあわせとかも考えておかない  
と後が困る。運用が未発達で歩兵直協の任務だけを強いられて、戦車を分散運用してしまった愚を  
繰り返したくはない」  
C「確かにー。で、かの独逸にはグデーリアンという天才がいて、彼によって装甲部隊の運用が進歩  
したが、我々には彼がいないー。なら集団の力でなんとか捻り出そうとゆー訳ですか。おお、ナポ  
レオンという天才に対抗する為に秀才の集団である参謀本部で対抗したのと似てますねー。願わくば  
思考の硬直化はカンベンしてほしーですね」  


266  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/11/15(火)  23:08:18  ID:???  

A「かなり先の未来はいったん置いといて。近い将来、魔法使いが少数派遣されて来た場合からだ」  
B「まず予想人数と能力がどのぐらいかが知りたい」  
A「おそらく中隊に1人ぐらいになると聞いている。何だかんだ言っても研究や教育に人手を裂かな  
ければならないしな。次に能力だが、平均的な能力では、攻撃呪文の威力がカールグスタフ級にな  
るようだ。当然、それよりも上な連中もいるそうだ」  
B「数が少なすぎるな。だが火力支援のあるのはありがたい」  
C「でもー数が少なすぎて運用が厳しくなるよー。数が少ないのならその分火力は上げてほしいし  
なー。155mm級ぐらいに」  
A「そんな簡単に155mm級なんて野戦重砲なんて口にするな。重量無しで魔力が続く限りカールグス  
タフ級の火力を投射できるだけでもすごいぞ」  
B「だな。野戦重砲級を使えるのはかなり能力が高くないと駄目と聞いたぞ。まぁ1発だけならでき  
るらしいが、1発撃ったらへたりこんだらしい。そんな不安定なのはちょっと」  
C「あとさ、聞いたんだけどー魔法ってかなり特殊なモノを除いて曲射ができないって話だけどー」  
A「そうだ。攻撃魔法では直接相手を見ないと駄目だ。眼鏡は大丈夫だが双眼鏡クラスではもう駄目  
で、TVなんて論外」  
B「確か射程距離も短くないか?」  
A「そうだ。長くても200以下でモノによっては50以下もあるそうだ」  
 攻撃魔法の大欠点である。  
 ここで全員が溜息をひとつ。  
C「よーするに魔法使いの目玉商品である攻撃魔法を振るわせるには…前線で、100以下の至近距離  
で運用するしかないの?そんな事したら死傷率がどれぐらいになる事やら。そんな事を部下にはあま  
りさせたくないよ」  


267  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/11/15(火)  23:09:00  ID:???  

B「ところで、F世界ではこの問題をどう解決してきたんだ?」  
A「根本的解決はされていない。前線の兵に混ぜて運用している。射程距離だが、F世界の戦闘では  
火力支援に集中されている。何せゴーレムを戦闘に持ち出すぐらいだから、それを砕いたり、歩兵  
突撃の支援などでどうしても射程距離は短くなる」  
B「対砲兵射撃みたいにそうだな…弓兵を制圧したり、敵を足止めさせようとは考えなかったのか?」  
A「それは考えられたが、攻撃魔法の特性で駄目になったそうだ」  
C「特性?長距離だと威力が落ちるとかがあるの?」  
A「その通り。射程距離の増加と攻撃力の増加を同時に行なうのはかなり難しいそうだ」  
C「パワーを取るとスピードが出ない。その逆も同じ。解決するには元の出力を上げるしかないー」  
A「そんなもんだ。魔力の増加は経験をつまなければならない。その経験を積むのも難しいらしい」  
 全員が頭を抱え込んでしまった。  
C「…なーなー。今考えたんだが、どーして僕たちはこっちの連中(F世界)と同じ運用を考えなけ  
ればならないの?何で魔法使いを火力支援に投入しなくちゃならんの?」  
B「また根源的た疑問だな。だが基本に戻って考えるのはいいな」  
A「いまのところはF世界を参考にするしかないからな」  
C「んーでもさ、平均してカールグスタフでしょ。それなら僕たちがちょっと苦労して持っていけば  
いいじゃん。それに魔法使いってけっこう貴重なんでしょ?そんな重要なものを矢玉が飛び交う最  
前線に放り込むのはおかしいよ」  
A「確かにそうだ」  
B「それをカバーするには…装甲でも着せるか?」  
C「そんな事するぐらいだったら戦車持ち込んだほうが威力があるー」  
A「確かにそうだ。それでは君の意見はどうなのだ?代案はありそうだが」  


268  名前:  Call50  ◆9L0MrlozK2  2005/11/15(火)  23:10:10  ID:???  

C「んー火力支援は手持ちの火砲や、無線で呼ぶ長距離砲・航空支援で補いがつくからー魔法使い  
はいらない。それだからできれば後方で力を使ってもらったほうがいい」  
B「でも後方だと目玉商品の価値が低くなるぞ。今まで火力が売りだったんだからな」  
C「ならばー前線で使うにしても、直接体をさらさないように『妨害』に専念してもらえばいいー」  
A・B「妨害?」  
C「聞いたんだけどー魔法って自前の魔力でとば口をつけて、それから周辺にあるマナで威力を増加  
させているらしい。ならば、とば口あたりでマナの利用ができないように周辺魔力をぐちゃぐちゃ  
にしてもらえばいい」  
A「なるほど。周辺のマナが使えない・使いにくくなったばあいには自前の魔力で魔法を使わないと  
いけなくなるから威力は低くなる。もしかすると魔法が立ち消えてしまうかもしれないな」  
B「うんうん。そうするとこちらは魔法による火力支援はできなくなるが、同時に相手の魔法を封じ  
てしまい、火力を取り上げてしまう事になる。火力がなければ相手の戦力は低くなるから、魔法で  
直接削るのとあまり変わらなくなる、と」  
C「そーそー。両方の魔法による火力支援がなくなっても別に問題ないしー。だってウチは元から  
向こうよりも火力で優越してるし。敵味方で魔法が使えなくなったら、残るは物理攻撃のみ。その  
物理攻撃は白兵戦だが、そうなるとその白兵戦の前にウチが一方的にボコる射撃戦が入る。さて、  
火力支援すら欠いた白兵突撃を火力が上な敵にしかけた集団はどうなったでしょうか。言うまでも  
ないー」  
A「そうだな」  
B「決まりだな」  

     
この研究会での意見は後に採用され、他のF世界の軍隊とは違い、自衛隊での魔法使いの死傷率の低  
下に貢献する事となった。  
当初の思惑とは違い、電子戦のような運用がされたのは誤算ではあったが。