472 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/03/11 01:00 ID:???

16回目の投稿。輸送戦記?

56
今日も仕事が大変だった。
今までの陸送便に、新しく始まった河川便。両方の荷卸と整理整頓でへとへとです。
僕は河川便の監視役も兼ねているから休めそうで実は休めない。なんとかならんかな。

食堂へ行きがてら砂川と少し話したが、僕が出かけている時にC-17グローブマスター3が1機と、別の
「何か」が数機着陸したらしい。「らしい」と言うのはその時に砂川たちはなぜか窓が塞がれた倉庫
で作業をする事になったので音しか聞こえなかったそうだ。何が来たんだ?

「で、砂川よ、お前の予想はなんだ?」
「聞きたいか?守。俺の予想では別の輸送機で、中身は王国上層部の連中が喜ぶうまいものと見た」
「…砂川よ、隠す必要ないじゃん」
「がっはっはっは。甘い、黒砂糖に蜂蜜(レンゲの花の蜜)をかけたぐらい甘い!」
砂川は太った体を震わせて大笑いしたあと言い切った。
「食い物で釣るのは初歩の初歩。俺たちから隠したのは食い物の恨みが恐いからだ!」
僕は思わずため息をついた。
「さすがは『訓練』を受けてその太った体型を維持どころか逆に太っただけはあるな」
「いやぁ、褒めないでくれよ」
「ほめてないほめてない」

さすがはあのハー○マン軍曹な訓練教官の猛訓練をしっかり受けたのに5kg太ってしまい、医官が首
をかしげた食いしん坊。考え方もすさまじい。

「で、食いしん坊。今日の晩飯は何なのかぐらいは聞いているんだろ?」
「自給用の畑で取れた蕎麦と、同じく山菜とカボチャの天ぷら、卵の『月見野菜天蕎麦』だ!」
「まさかF世界で蕎麦が食えるとは思わなかった」

473 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/03/11 01:00 ID:???

57
食堂はいつもと変わらず大盛況。なんとか席を確保してまずは一口。

「うん。悪くない」
「うまうま」

2人で熱さと旨さに驚きながら蕎麦を手繰っていると、隣に誰か来た。

「隣、よろしいですか?」

いいですよ…と答えて相手を見てみたら、アメリカ空軍士官と思われる(服装で見て取った)アメリ
カ黒人男性が1人。年は35歳あたりか?そのアメリカ人が普通の日本人よりも箸を上手に使い、美味し
そうに蕎麦を手繰り始めた。

「…色々な意味で並の人ではなさそうな気がするが、どう思うよ。守」
「禿同。にしてもなんで米軍さんがこっちの食堂に?第2食堂に米軍がいるって聞いていたが」

そんな会話をしながら蕎麦を手繰る。熱いうちに食べなければならない。伸びた蕎麦なんて食えたも
んじゃない。なんだかんだで僕、砂川、米空軍士官の3人は競うように蕎麦を手繰る。

ご馳走様。

3人とも同じタイミングで丼を置いた。その揃いっぷりに3人とも顔を見合わせて笑ってしまった。
それで緊張が解けたのか、食後の緑茶を飲みながらのお喋りが始まった。

474 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/03/11 01:01 ID:???

58
米空軍士官はギルバート・ケイン少佐と名乗った。いつもは第2食堂で食べているが、こちらで蕎麦
を出すと聞いてこっちに遠征してきたらしい。かなり陽気で好感が持てそうだ。で、日本語ペラペラ
で某巨大掲示板も見ているとか。

「少佐、第2食堂ではいつも何を出してるんです?」
「ハンバーガーとかハンバーガーとかハンバーガーとか」

少し嫌そうな顔だ。そりゃまーそうだろう。いくらアメリカ人の体はハンバーガーとコーラから補給
したメリケン分で構成されている!(偏見)のだとしてもそりゃ飽きるだろう。

「ワタシは焼タラコや海苔や納豆をかけたご飯が食べたくてね。当然、焼いた鮭や梅干やお味噌汁
は欲しいね。つーか食わせろやゴルァ!」

…少佐、あなたは本当にアメリカ人なのですか?

「少佐、納豆は結構好き嫌いが激しい食い物だと思うのですが大丈夫なんですか?」
「あのかぐわしい香りは最高じゃないか!ワタシの周囲では賛成するのがワタシの妻ぐらいなのが悲しいけどね」
「確かにまぁ匂いは独特ですね」
「他にもワタシは自分で糠漬けも漬けているし、趣味で味噌も作っている。味はなかなかのものと自負
している。おっとこれこそ『手前味噌』と言う奴か。HAHAHA」

…日本食大好きで自宅で糠漬けをかき回したり、味噌を造っている米空軍少佐…シュールだ。

475 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/03/11 01:03 ID:???

59
「それでは草壁君に砂川君、ワタシはこれから戻らなくてはならないので失礼するよ」
「あ、はい。色々面白いお話を聞かせていただきありがとうございました」
「それじゃあ困った時は私のコールサイン『オセロー』を呼んでくれ」

そう言って少佐は戻っていった。

「…濃い人だったな」
「ああ、守よ、濃さでは俺たちが筆頭だとは思っていたが、そうじゃなかったようだ」
「だな」
そう言ってお茶をすする。

「守。少佐の所属ってどこかな?」
「米空軍のパイロットか何かじゃないのか?ウィングマークもあったし」
「そりゃわかってる。問題は『何の』だ」
「ここのは輸送機と偵察機しかないはずだぞ。それは砂川、お前さんも知ってるはずだが」
「立ち入り禁止の格納庫に何があるか。それでけっこう変わるぞ」
まー確かに立ち入り禁止格納庫に何があるかは賭けのネタにもなっているしな。
F-22が隠れているだの、こっそりドラゴンを餌付けしているだの、UFOを匿っているだの馬鹿話にも
なっているけど。
「まー妥当な所で、輸送機パイロットか、腕利き偵察機パイロットでないの?」

その時はそう結論したが、後でそれは大間違いであると体験するハメになるとはこの時は考えもしなか
ったのだった。


840 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/03/14 21:17 ID:???

17回目の投稿。輸送戦記?
60
ある1日:朝
6時に起床。同部屋の他の連中はまだ寝ている。まだ正規の起床時間じゃないからしょうがない。
ジャージに着替え、顔を洗い、朝の運動をする為に宿舎の外に出る。

「おはようございます、守」
「おはようございます、クラウスちゃん」
外で待っていたクラウスちゃんと一緒にランニングから始める。最初は僕だけだったが、クラウスちゃ
んが自分から参加したいと主張して毎朝一緒にする事になった。

基地の中をランニング。同じように朝からランニングをしている人がいれば、徹夜の警備任務明けの
隊員もいる。中にはもう仕事を始めている隊員もいる。そんな皆さんに挨拶をしたりしながら走る。
途中で食堂のそばを通り過ぎたら味噌汁のいい香りがした。思わず腹が鳴った。

30分ぐらいでランニングを終わらせ、次は剣術の練習。
使うのはクラウスちゃんが持ち込んだ剣術練習用具一式。クラウスちゃんが打ち手で僕が受け手。
普通はど素人の僕がコテンパンにのされるとみんな考えるが、現実はそうでもない。
感覚系が強化されているから剣筋がよく見える。よく見えるから後はかわすだけ…と言っても「見えて

いても体がついてこれない」ような事があるが、今の所はハー○マン軍曹な教官の訓練+日々の鍛錬+
魔法による補助でなんとかかわせる。そうしてクラウスちゃんの隙を見つけて反撃。
「ほれほれ脇が空いているぞ」
「ずるいぞ!守はドーピングをしているんだから手加減して!」
ドーピング(魔法による補助)については反論できないので明後日の方向を向いて誤魔化す。
「手加減したら訓練にならんでしょーが」
「隙ありっ!」
明後日を向いた隙に打ち込んできたクラウスちゃんをかわし、額にデコピンを一発。

841 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/03/14 21:18 ID:???

61
ある1日:午前中

訓練を終わらせた後にシャワーを軽く浴びるのが普段のパターン。一応言っておくがクラウスちゃん
とは一緒には浴びないぞ。本当だってば。

で、朝食。今日はご飯、味噌汁、納豆、目玉焼き、ホウレン草ともやしのおひたし。うん、正しい日本
の朝食。他の連中やクラウスちゃんと一緒に食べる。クラウスちゃんは最初は納豆の匂いが苦手だった
ようだが、今ではすっかり慣れている。慣れるまでに「納豆にネギを入れる派」「納豆に芥子を入れる
派」同士の勧誘合戦があったとか。まーどっちにしても美味しく食べられるならどうでもいい。ちなみ
に僕は「刻んだ紫蘇の葉を入れる」という極少数派だ。
今日も米空軍のギルバート・ケイン少佐がこっちで食事をとっている。「納豆は1日の活力だよ!」と
主張して今では「納豆を広める会米空軍支部inF世界」の支部長だとか。本当にアメリカ人なのだろー
か。禿しく疑問だ。

食事の後は朝礼をしてから仕事に入る。
今日も僕は河川便担当。下りの船に乗って河口まで行き、上りの船に乗って帰ってくる。
山のように砲弾や燃料が満載された船に乗るのはあまり胃には良くない。けど仕事だからしょうがない
な。
なお、クラウスちゃんは何かが起こらない限り日中は勉強をしている。
日本語の勉強やら、戦術の勉強や、WAC陣による「女の子のたしなみ」の勉強など。生徒1人に先生1
人の贅沢さ。本来は騎士をもっと呼んで講義を行う予定だったようだが、ほとんどの騎士(特に有力
貴族の師弟)が勉強を拒否した為にこうなったそうだ。何を考えているのやら。

842 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/03/14 21:19 ID:???

62
ある1日:午後

僕はは河口の基地でお昼を。クラウスちゃんは首都そばの基地でお昼。クラウスちゃんは独りで寂しい
んじゃないか…と思いきや、砂川や松下、姐御やミランタン、WACの皆さんがその日毎に一緒になってお
喋りをしているから大丈夫らしい。話に聞くと「クラウスちゃんと一緒にお昼を食べる権利」を巡って
(特に野郎どもの間で)微笑ましい争いがあるとかないとか。うん、最近クラウスちゃんはきれいに
なったから人気が出てくるのは当たり前だな…その代わり僕が嫉妬を思いっきり受けるのが難点だけど



午後は午前中と同じ。
僕は河川便上りの船に乗って、嫌な汗をかきながらの仕事。
基地に到着したら荷卸と整頓。いったいどれだけ溜め込めば気が済むのやら。戦闘が始まるまでにか
なりの数を溜め込む腹なのはわかっているが、今回は装甲車両も積んできた。まさかこれ以上増やす
つもりかと考えていたら、後でそれが現実化してしまったのには困った。人手がまた足りなくなるな。
そういえばF世界への民間人派遣(僕たちの事)の第2陣の募集をしているとの噂を聞いたな。人手は
あって困る事はそうないからいくらか楽ができるかな?

クラウスちゃんはお勉強の時があれば、報告に来たマイヤーさんと打ち合わせをするなどけっこう忙
しいらしい。

843 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/03/14 21:20 ID:???

63
ある1日:夜

仕事が終わって夕食だ。クラウスちゃんと一緒に食べるのはいつもの事だが、今回は和食じゃないから
ギルバート・ケイン少佐はいない。代わりに何かの用事で来ていたらしいドワーフが「をををっ」と
驚きながら食べていた。なお、今日の夕食はラーメンだ。
…カレーの時は用事で基地に来たエルフが必ず来て、ラーメンの時はドワーフが必ず来る。ファンタジ
ー小説書きがこの光景を見たら呆れるか笑うかどちらだろう? 私は呆れるに酒を1本賭けているが。

食事が終わって、仕事も終わって、後は自由時間だ。
さっさと寝る奴がいれば、お喋りやカードに興じる奴もいれば、自衛隊王国派遣隊専用新聞(実はこの
新聞は日本での出来事+王国で起きた事件をまとめて3日に1回発行)を読む奴もいる。
僕とクラウスちゃんはそれぞれ本を読む時あり、お喋りをする時もあり、将棋をする時もありとその日
によってする事は違ったりしている。
で、今日は王国についての話を僕が聞き、日本についての話を僕がするお喋りだ。
うーん。「所変われば品変わる」とはよく言うが、世界や技術レベルが違うとここまで違うという良い
例が山ほど聞けた。もしかしてコレは社会学や民族学あたりの先生たちを連れてきた方がいいんじゃな
いか? もっともこの戦争が落ち着いた後でないと駄目だろうけど。

そんなこんなで1日は過ぎた。後は寝るだけ。
クラウスちゃんと宿舎の前で別れ、自室に帰ってベッドに入る。
ああ、今日も忙しかった。



41 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/03/15 22:33 ID:???

18回目の投稿。輸送戦記?
64

「出撃が決定されました」
「いつです?」
「3日後です」
「そりゃ早過ぎませんか?」

夜の闇の中、男が2人小声で話し合っている。僕とマイヤーさんだ。

「実は私も前線への補給活動担当になると内示されました」
「ああ、あなたもですか」
「で、我らが姫はどうなるのです?」
「観戦武官としてそちらに預けるよう工作したのですが…実戦部隊に配属される事に」
そう言ってマイヤーさんは溜息をついた。
「我が身の非力さを痛感しました。もっとも、配属先は実戦部隊と言っても貴族の子弟で構成された
お飾りな部隊なので安心と言えば安心なのですが…」
「何か不安があるのですか?マイヤーさん。教えてください」
「指揮官が問題です」
確かに。指揮官がボンクラでは役に立たない。
「守殿、マルス伯爵家の三男のアスという男について何か評判は聞いていますか?」
っていつぞやの騎士レンジャー赤かよ。
「ボンクラで怠け者なのですか?」
「いいえ。ボンクラで働き者なのです」
僕ととマイヤーさんは同時に溜息をついた。よりによってアイツかよ。あいつの下でクラウスちゃん
がどう扱われるのか…最悪だ。しかも無能な働き者。銃殺してしまえ。畜生。

42 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/03/15 22:34 ID:???

65
「マイヤーさん。クラウスちゃんはここで大きく成長しました。肉体的にも精神的にも。毎日訓練を
続け、旨くて栄養のあるものを食べ、自衛官の皆さんから生き残る為の方法を一対一で学びました。
加えて皆の人気者にもなりました。生き残る確率は倍増していますよ」
「ええ、毎回お嬢様にお会いする度にお嬢様が良い方向に変わっていくのが分かりました…ううっ」
僕は泣き出したマイヤーさんの手をしっかり握り、眼をしっかり見て、そして言い切った。
「クラウスちゃんは大丈夫です。僕の目が届く範囲では必ず守ります。それに、クラウスちゃんが危
険な状況にある事を他の皆にも伝えます。人気者のクラウスちゃんを見捨てるような奴はいません」

それを聞いてマイヤーさんは安心したらしい。
「守殿、お嬢様をよろしくお願いいたします。私も前線に出ることになりましたが、お嬢様とは引き
離され、監視と思われる者がつく事になりました」
「…アスの野郎の差し金ですね」
「恐らく」
思わず僕は天をあおいでしまった。
「ですが守殿。なんとかお嬢様の下に1人だけこちらの手の者を潜り込ませる事に成功しました。お
嬢様との連絡はその者を通じて…」
「なるほど。ところでマイヤーさん合言葉を決めておいたほうがいいですね」
「確かに。偽者に惑わされる可能性があります」
「それでは日本の古い伝統に従って、『山』『川』…といきたいのですが、これは有名ですので『サ
ンダー』『フラッシュ』とゆー事で」
「心得ました」

そうしてマイヤーさんと僕は時間をおいて別々に立ち去った。アスの手の者がいるかもしれないし、
これは密談だ。小細工はしておいた方がいい。
僕ととマイヤーさんは同時に溜息をついた。よりによってアイツかよ。あいつの下でクラウスちゃん

43 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/03/15 22:35 ID:???

66
「…とゆー訳でクラウスちゃんが最前線に投入される事になりました」
そう言った瞬間に罵声が山ほど飛んできた。

ここは基地内の談話室。
僕の目の前にいるのは『クラウスちゃん親衛隊』の幹部連中だ。半分が僕と同じ民間人だが、後の半
分は自衛隊の隊員だ。自衛隊の方は…整備班長や一尉までいるぞヲイ。

「残念ながら直接の指揮権は自衛隊には無い。よってこちらからのコントロールは難しい」
三尉が困った顔をしながら答えた。
「なんでんな事に?一元化した方が有利である事は明白なのに」
民間人から質問が来た。
「政治的理由だ。いわゆる『王国の独自性』を保つように要請があった。つまりは面子を立てなきゃ
いけないからだ。もしこれを無視すると、王権に悪影響が出るかららしい」
この場では最上級の一尉が嫌そうな顔をして答えた。
皆から溜息が出た。

「結局、それぞれができる範囲でクラウスちゃんを守る&アスへの牽制を行うのが最善?」
これは僕だ。こんな玉虫色の決断なんて嫌だけど。
「それしかないが…補給や連絡などでかなりの数の隊員がいるから問題ないかも。それぞれのツテで
も何でもいいから使い、話を通せばかなりイケるかも」
玉虫色のようだけど、一尉の発言からするとけっこういいのかも。
「ウチは手の届く範囲で造り上げた『クラウスちゃん専用防護服整備班スペシャル仕様Ver.1.2』を
進呈してある。アレならば普通の鎧より安全だ。それに実は黙っていたが姐御たちに頼んで初歩的な
対魔法処理も施してある」
整備班長…そんな機能までつけてたんですか。
整備班長の発言をきっかけに意見が飛び交い、議論が始まった。

44 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/03/15 22:36 ID:???

67
2時間後。

それぞれが誰にどう話を通すのかの打ち合わせが終了した。
その中で特筆すべきなのは…
『僕が最前線はりつけ』
になる事だったりする。
クラウスちゃんが信頼を寄せている人間で、マイヤーさんとも面識があって、なおかつ裏切らず、ク
ラウスちゃんを守ろうと考えている人間を近くに置いておく事になり、結局僕になった。
最前線に置くのは危険との意見があったが、魔法で強化がされているので普通の連中よりは大丈夫と
の意見が出た。さらには本当の弓矢が飛んでくる最前線には置かない『ようにする』事で決着した。
その『ようにする』つーのが恐ろしい。

そうして議論が終わった後、それぞれ準備をしたり、根回しをする為に散っていった。

…と思ったら整備班長が残っていた。
「草壁よぉ。お前にも防護服を作ってやるよ」
「え?い、いいですよ。整備の仕事でてんてこまいなんでしょ」
事実、整備班は徹夜が多くなっている。
「ああ、それなら問題無い。員数つけてきた奴にいくつか細工を施すだけだ」
「で、でも」
「なぁ草壁よ、嬢ちゃんが助かっても、お前さんが死んじまっては嬢ちゃんは悲しむぞ」
「そりゃそうですが。でも最前線には出ないわけですし」
「ナニ、保険だ保険。それにだ、年上と上官の好意は素直に受け取っておくもんだ。返事!」
「Sir Yes Sir!ありがとうございます」

そうして戦闘が近い夜はふけていった。


54 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/03/16 01:08 ID:???

B-52Hの群れが編隊を組んで飛行している。
敵は帝國。
目標は帝國首都。
攻撃理由は、福岡が戦略級大規模儀式魔法で灰燼と化した。その報復だ。

本来ならば長距離対地ミサイルで攻撃すべきなのだが、弾があまりない事とこの世界ではオーバースペ

ックであるとの理由から、全機通常爆弾やクラスター爆弾になっている。

本来、日本政府は自衛隊のみによる攻撃をしたがったが…
1.戦術航空機だけなので大規模爆撃はできない。
2.ちょうど北○鮮絡みで沖縄にB-52部隊がまるごといた。
3.在日米軍のNo.2とNo.3が所要で福岡にいた為に戦死。その報復。
4.金がない代わりに血を流す。
といった理由で米軍も参加する事になった。

「爆撃先導機の航空自衛隊F-2より入電『標識弾の投下完了』『目標上空は快晴』『迎撃機は存在せず
』だそうです」
「任務中止命令は?」
「ありません」
「全機に告げる。我々はこれより帝國首都への爆撃を敢行する。これだけの規模の爆撃は、燃料などの
関係から最初で最後であると思われる。総員、全力を尽くせ」
「全機より応答信号を受信」
「爆撃目標を確認する。帝國皇帝がいる城を含めた首都全域。皇帝本人は不在なのは残念だがしかたが
ない。全て吹き飛ばせ。ただし、指定を受けた機は上流のダム攻撃と、郊外に集結している帝國軍主力

に向かう事」
B-52Hがグループごとに散開していく。

55 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/03/16 01:08 ID:???

「機長。連中にとっては神話級の攻撃になりますね」
「ああ。だがもっとひどくなる可能性があった。核を使えという意見があったらしいが、さすがに拒否
された。」
「核、ですか。」
「まあどちらにしても彼らは思い知るわけだ。戦略級の攻撃が自分たちの専売特許ではない事を。その

戦略級攻撃の威力を。そして…日本政府、いや日本人の方向性を変えてしまった事を」
「昔、日本の巨大掲示板でこういう意見があると聞きました。『日本人は極端から極端に走る』と」
「まったくだ。日本政府はこの後、攻撃には報復の刃を振り下ろす事をためらわないだろう」
「しっぺ返しですね。ただしその『しっぺ』が戦略爆撃機ですか」
「食らった方は思い知るだろう。少なくとも今後は日本本土への直接攻撃は控えるし、防衛用に物資
が裂かれるから前線はラクになる。それに…」
「それに?」
「地獄に人が多くなれば先に行った連中が淋しがらなくてすむじゃないか。無論、俺たちも後に続く
かもしれないが」

それを聞いた副操縦士は凍りついた。無理も無い。機長のセリフは悪魔の宣告のようだった。
眼下に帝國首都が見える。50年以上前の先輩たちはどう思って爆弾を投下したのだろうか。
爆弾倉を開いた。
おお、神よ。願わくば彼らの苦しみが短くあらん事を。そして…我々を救いたまえ。

帝國首都とその近辺に降り注いだ爆弾は1500トンだった。



675 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/03/22 00:53 ID:???

19回目の投稿。輸送戦記?
68

前回から3日後。

「今日、出発だなクラウスちゃん」
「守もそうでしょ」
朝、いつもなら一緒に練習をしている時間。だが今日は前線への出発の日なので練習は無し。
代わりにお互いの最終確認といったところだ。
クラウスちゃんは整備班特製の『クラウスちゃん専用防護服整備班スペシャル仕様Ver.1.2』を着て。
僕は整備班がガメてきた迷彩服にいくつか改造を施した『迷彩服改』を着ている。

「気をつけろよ、上役はあのアスだ。こないだの恨みをどうはらそうとするかわからんぞ」
「うん。ありがとう」
「クラウスちゃん。そばには僕や自衛隊のみんながいるから助けが必要なら呼んでくれ。遠慮はいらな
いぞ」
「自分でできる事の幅ぐらいはなんとかわかったよ。守こそ気をつけて。民間人じゃ前線貼り付けは
珍しいって聞いたよ」
クラウスちゃんに逆に心配されるとは。
「こっちは大丈夫さ。前線に行ってもやる事は同じ、荷物の搬入搬出数を数えて書類を出して雑務。危

険なんてありゃしないさ」
これは半分本当。
「ところで、朝食は食っていくんだろ?」
「うん。まだ早いけど行こう」
クラウスちゃんに手を引かれ、僕は食堂に向かって歩き始めた。
またこんな風に一緒に食事ができるといいな。

676 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/03/22 00:53 ID:???

69 食堂
「え、え、え?」
クラウスちゃんが僕の朝食と自分の朝食の差に驚いている。無論、自分の方が豪勢である事に。
「お、おじさん。私の朝食これでいいの?」戸惑うクラウスちゃん。
「ああ、そいつはお前さんの分だぞ。出陣なんだろ。だったら旨いものを食べていかないとな」食堂
長のおっさんがそう言って大笑いした。
「え、でも…守も出るし…」
「野郎はいつもの通りでよろしい。まぁ量は多くしているから問題無い」
食堂長。野郎は量で勝負ですか。

そして席に着いて食べ始めた。量が多くて食べるのに時間がかかった。さらには…
「おうおうクラウスちゃんはちっちゃいなぁ。こいつを食って姐御みたいな体になれよ」そう言って
自分のおかずを渡してきたり。
「クラウスちゃん、これあげる。確かこのアメが大好きだったよね」とアメを一缶渡したり。
「これは霊験あらたかなお守りで…」と成田山のお守りを渡したり。
とみんなが何かしらおみやげを持ってきたり、励ましに来た。
みんな無差別に渡しているように見えたが、実は親衛隊が裏で色々吟味して渡している事を僕は知っ
ている。当然、クラウスちゃんには内緒だ。

実は拳銃とか個人携行用の武装といったものも渡す事も検討されたが、訓練もしていない者に渡して
逆に怪我をされては大変なので一般の品物になった。その割には簡易サバイバルグッズがあったりし
て「一般の品物」の範囲から外れるようなものがあるけど…まあいいか。
アリスパック1つ分の荷物。
本当はハリネズミのように武装させて送り出したいのが親心なんだろうけど、あんまりやりすぎると
クラウスちゃんの騎士の誇りを傷つけるからこのぐらいに。

677 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/03/22 00:54 ID:???

70 正門近く

マイヤーさんが馬を連れて待っていた。でも馬が1頭多いぞ。そう思っていたらクラウスちゃんがか
けだして馬に抱きついた。
「マイヤー!私の馬をいつ連れてきたの?」
「お嬢様がこちらに着てからしばらくしてからです。あの時預けた農民が連れてきてくれまして、そ
れから自衛隊の方にこっそり世話をしていただきました」そう言ってマイヤーさんはそばにいた隊員
に礼をした。

ああ、クラウスちゃんとはじめて会った時(8回目の投稿の27)の痩せ馬か。…のわりには体格も毛
艶も良くなっている。手入れも完璧。短期間にここまで良くした手際は素晴らしい。この隊員、只者
ではない!
「自分は実は馬が大好きでして、大学にいた頃は世話をしていたので慣れています。それにこいつは
素直な良い馬です。だから世話が楽しかったです」
かなりの馬好きか。なら納得。

クラウスちゃんが馬具の点検をしているうちに僕はマイヤーさんと軽くうちあわせ。やっぱりあの荷物
が気になったらしい。
「やっぱりあれでも多すぎましたか?」
「いいえ、草壁殿。少なくて目を引きそうです」
は?今何ていった?少なくて?
「他の子息だと馬車1台分の私物を準備している者がいます」そう言って溜息をついた。
「…キャンプに行くんじゃねぇぞと小一時間問い詰めてやりたいですね。補給に負担をかけてどうす
んだか」
「まったくです。個人専用荷駄部隊を準備した者もいましたが、さすがに却下されたそうです」
…正気かよ。激しく不安だ。これだから貴族のボンボンは…

678 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/03/22 00:54 ID:???

71
「守!それでは先に行っているぞ」
「それでは先にまいります」
そう言ってクラウスちゃんたちは馬に乗って出発した。
確か城に集合してから改めて集団で出発するらしいな。当然儀式もあるだろうし、もしかすると半分
パレードみたいな事もするのか? 負けが込んでいるからこそ盛り上げて士気を上げないといけない
だろーしな。
でも何で自衛隊の車両で移動しないんだろうか?やっぱり大多数が車両移動を嫌っているのかな?
教育すら嫌がっていた連中だし、ありえる。

さて、次は僕だ。こっちはもう荷物をつめてある。少し変わった荷物もあるが、なんとか1人でかつ
げる範囲におちついている。まぁ、中には「タバコ2カートン」(僕は吸わない)や「アメがたくさ
ん」が入っているのが変わっているか。
後は整備班製の山刀を下げ、ヘルメットをかぶり、準備完了。

「準備完了です。いつでも出られます」
そう言って前線行きの第1便輸送隊の隊長に申告した。
「おぅ、来たか。すまないが1番先頭の車両に乗ってもらうぞ。君のコールサインの通りの能力を発揮
してくれ。前線行きだからな」
「はい。了解しました。それではよろしくお願いします」

そうして僕は輸送隊最前列の高機動車に乗り込んだ。後ろに続く装甲車の方に乗ってみたかったけど
しょうがない。そう思っているうちに隊長の声が無線から流れた。
「出発!」


487 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/03/29 00:05 ID:???

20回目の投稿。輸送戦記?
72

首都そばの基地から前線近くの基地へ向かう車両の列。いつもの光景…と言いたいけれどそうではな
かったりする。
いつもは高機動車や軽装甲機動車にトラックだけなのだが、今回は87式偵察警戒車はあるわ96式装輪
装甲車はいるわ、トラックには臨時の簡易装甲板+銃座がついているわでものものしい。前線近くだ
から警戒が厳しいのだろうか。

道はそれなりに整備されている。主要街道だから整備が良い上に、自衛隊がこまめに手を入れている
らしい。輸送とか戦略機動で使うからなのかな?それにしても整備をするのはいいのだが、敵手に渡
ったらどうするのかと思ったが、道の横に丸太が積み上げてあったり、崖に何かの細工が施されてい
たりしたのが見えた。ああ、非常時にはアレでバリケードを作ったり、がけ崩れを誘発して塞いだり
するのね。納得。

通り過ぎるのは付近の住民のほかに、難民がけっこう見られるようになった。たいていは人間だけど
、中にはドワーフやエルフのグループもあった。話に聞いていたが、帝國は亜人種に対して非常に厳
しいらしい。何でも宗教やら国民の不満のはけ口やらに関係した政策らしい。ちなみに未征服地の人
間も蛮族扱いだそうだ。はぁ。レイシズムは人間の持つ欠陥だね。あーやだやだ。

色々鬱になるような事を考えながら緊張しながら車に揺られているうちに、基地にたどり着いた。
襲撃を受ける事を覚悟していたが拍子抜けした。それについて聞いたら以前はここらへんでも頻発し
ていたが、火力で殲滅していくうちに下火になったそうだ。あんまり損害が大きいので本当の後方に
送り込んでかく乱する手法に切り替えたのではないかだそうだ。


489 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/03/29 00:06 ID:???

73
着いたらさっそく積み下ろし。
食料を下ろして、部品やら何やらを下ろして、弾薬を下ろして-弾薬を下ろす時にはおっかなびっく
りであった事を白状しておく-といつもの作業をしていると、呼び出された。

なんで連隊長や幕僚が目の前にいるの!
「楽にしてくれ」これは連隊長。お髭の渋いおじさん。ここに派遣されるぐらいだから有能なんだろ
う。
「はい」とはいったものの、緊張するなっつー方が無理。
1佐を頂点に佐官や尉官がごろごろしているから緊張しっぱなし。こんなに緊張したのは本社での研修
以来だぞ。あの時も社長以下専務や常務や部長の目の前で自己紹介させられたっけな。
質問は世間話で緊張を解いた後に始まった。
「感覚のどれが鋭敏になったか」「自力で制限はかけられるか」「どこまで感知できるか」「周辺の
状況に左右(月齢とか)されるか」「成長するのか」「魔法によるジャミングは」「不良視界状況で
も見えるか」…その他。質問責めにあってまいった。
にしても連隊長はよく紙を見ていたが、まさかアレは報告書じゃないだろうな?もしそうなら報告書
の確認としての質問だった事になる。報告書だけでもいいじゃないかと思ったが、非常に珍しい能力
で、どんなものかについてのお披露目も兼ねてならしょうがないか。

で、質問責めの後。
「ああ、草壁君。今から君の能力を検査するので外に出てくれ」
…質問責めの後にコレかよ。頼むから休ませてくれ。

490 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/03/29 00:08 ID:???

74
で、外で検査。
視力測定。ただし目標は100m先にある。
「何が書いてある?」
「えーと。日本国憲法前文。日本国民は、正当に選挙された国会における…」
「よく読めるな。アレは5mm角のフォントだぞ」
「もっと先でもいけますよ」

視力測定で距離。
「的までの距離を見てくれ」
「え〜とこれは…127.23m?」
「センチまではいらん。お前の眼はレーザー測距儀でもついているのか?」

聴力測定。目標は200m先で鳴っているCDプレーヤー(イヤホン)
「何を聞いている?」
「ん? わっはっはっは」
「どうした?」
「桂米朝師匠の落語『花筏』を聞かされりゃこうなりますって。後で貸してください」

嗅覚測定。目標は200m先に置いた何か。
「何の匂いだ?」
「…腹が減りそうです」
「?」
「焼肉のタレ」

491 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/03/29 00:09 ID:???

75
測定終了後。また連隊長の前に連れてこられた。
「結果を見させてもらったよ」結果が書かれた用紙を片手に持った連隊長。
「ウチの仕事を手伝ってくれないか?」
「仕事ですか。荷卸だけじゃなく?」
「そう。ちょっとした仕事です」
ん、この展開は何かあるんじゃないか?
「偵察隊を手伝ってくれないか?当然危険手当も出す」

…連隊長みずからスカウトですか。僕は民間人なんですけど。その民間人をスカウトするという事は
、よっぽど能力が珍しいのか、人が足りないのか。あるいはその両方か。

「少し考えさせていただけませんか。さすがにこれは重大すぎるので」
「うん、そう言うのは当たり前だな。だがこれは君にもメリットがあるぞ」
それはどういう事だ?
「クラウスちゃんのそばにいる事が合法的にできるぞ。今の状況だと君は基地のそばにしかいられな
いぞ。クラウスちゃんの危機も救えるぞ」
「やらせて頂きます」
クラウスちゃんの名前が出るのならしょうがない。にしてもある意味汚いな。
「汚いと思っているだろう。すまない。だがクラウスちゃん親衛隊参加者としては彼女を守るために
しなくてはならないのでね」
…連隊長みずからクラウスちゃんのファンですか。

そんなこんなで自衛隊にさらに深くかかわる事になったのだった。


889 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/04/06 00:09 ID:???

雲ひとつない快晴。
ぽかぽか陽気。
ピクニックなら最高な天気なんだけど…どーして僕は荷物を担いで道を徒歩行軍をしているんだろう。

21回目の投稿。輸送戦記? 76

連隊長みずからの勧誘(悪魔のささやきでも可。むしろそちらを推奨)に乗ってしまった僕が悪いの
か。40sの荷物を背負い、監視所予定地に陸自の隊員と一緒に向かっている。
ちなみに僕が一番荷物が多い。これについては。
「ひどいですよ。みんなより10sは重いですよ」
と抗議をしたが。
「お前が一番若いし、魔法でドーピングもしているんだろ。苦労しなくちゃ」
というセリフで沙汰止みに。一応僕は民間人なはずなんですけど。

獣道を荷物を背負って歩くのはしんどすぎる。でもしょうがない。車は通れない。ヘリなんて論外。
馬ならなんとかなるかもしれないけど、世話が面倒だし、王国が軍事用に抑えてしまったのでこっ
ちにはまわってこない。のこったのは人が運ぶという古典的で確実な手段だけ。
だったら監視所なんか作るなよと言いたいけれど、丘の上など高所に監視所を置いて情報収集を行う
のは基本中の基本だったりするのでしょうがない。
ならば僕でなくてもいいじゃないかと思ったが、監視所設営後に行われる様々な測定などに僕が必要
であるそうだ。まぁレーザー測距儀などが歩いているようなものだから、非常に便利だ。後は僕の訓
練も兼ねている。監視所の偽装と一緒に僕への偽装についての訓練も施すそうで。一石二鳥と言うか
なんと言うか、しょうがない。

それにしても重いし疲れた。ゴールはまだか。

890 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/04/06 00:10 ID:???

77
到着。
うん、いい眺めだ。既に完成している第1監視所と比べると観測範囲は狭いけど、それでも街道は良く
見えるし、少し無理をすれば街道分岐点も見える。確かにここに置くのは理にかなっているが、問題は
徒歩でないと来れないのがなんとも。

到着後、少し休んでから設営を開始。既に設計図ができあがっているのは助かる。途中でいきなり変
更される事はなさそうなのがいい。
で、作業の方はまず林の一部を伐採して、空いたスペースに天幕を張って、その上に切った木の枝葉
で偽装を施した布を張る。これでここの本部は完成。
で次に林のはずれに大振りの枝を使用した簡易シェルターみたいなものを造る。これで監視場所も
できあがり。
さらに今度は対人センサーと非常時用のクレイモアを敷設。そして仕上げに全ての偽装を念入りに行
って終了。
てっきり土嚢を積み上げるものだとばかり思っていたので首をかしげたが、ここは今回の戦闘で使う
だけであり、これぐらいで十分だそうで。それに基本的な使用方法として、ここは秘密監視所なので
見つかったらさっさと逃げる。逃げた後に敵に使われても厄介にならないように簡易なものに。クレ
イモアは本当の保険で、これを使うようになったらオシマイだそうだ。
住み心地は…あんまり良くない。でも1日交代制だから問題はない…か?

完成した後にこの監視所から各地点までの距離を算出。計測器具は僕だ。レーザー測距儀並みの距離
測定ができるようになった後、これが本格的使用だ。で、結果は、地図上の測定結果と大差なし。こ
れでまず正しい場所に設営ができ、地図が正しい事も確認され、最後に僕の距離測定の精度が確認で
きた。
これで昼の問題はカタがついた。

891 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/04/06 00:11 ID:???

78
その夜。僕たちは設営とここでの監視の第1陣でもあるのでこのままここで泊まる事になった。
夕食はレーションだけ…と思ったら、元レンジャーの隊長がダメもとで仕掛けていた罠にウサギが
引っかかったのでウサギ肉のスープもついた!さらに近くに果樹があって、ちょうど食い時だったか
らデザートまでついた! なんだかキャンプ気分になってしまったのは言うまでもない。

食事の後に、僕には試験が待っていた。
試験と言っても僕の強化された感覚が夜間はどれぐらいまで通用するかの確認だけど。

「う〜ん」
よーく眼を凝らして街道を見る。
「ただ単に『見える』だけなら昼間の90%の距離でも大丈夫ですけど、『識別』までなら70%の距離
が限界ですね」
「…裸眼で道具ナシでそれだけ見えりゃ十分だろ」
試験官でもある隊長が呆れている。
「音や臭覚はどうだ?」
「昼間と全く変わりません」
「なるほど」
そう言って隊長がなにやらメモをとっている。結果を書き込んでいるんだろう。
「よし、草壁。これからそのまま監視任務についてもらうぞ。これから2時間だ」
「私1人ですか?隊長」
「んなこたぁない。2人1組は基本だし、それにお前が一番不安なんだから責任者がついていなくちゃ
ならんだろう」
「はぁ、そうですか」
1番不安と言われてしまってちょっと落ち込む。
「何落ち込んでいる。お前さんは民間人なのだからこれぐらいの配慮は当たり前だ。一緒にいるから
みんな忘れそうになっているが、な」

892 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/04/06 00:13 ID:???

79
朝。

あれから2時間の監視を終わらせた後、天幕で眠った。はじめてのF世界での野宿+寝袋で眠れない
のではないかと思ったが、あっと言う間に眠り込んでしまったらしい。
考えてみると、大荷物を背負って歩いて、設営で働いて、緊張する監視任務とこれだけそろえば肉体
も精神もクタクタになるのは当たり前だったりする。それで当然熟睡。まー地面が硬くて少し背中が
痛いのがちょっと困りものだけど。
天幕の外に出たら朝日がまぶしい。後は空気がうまくて清々しい。うーん、昔やったキャンプを思い
出すなぁ。
思いっきり背伸びをした後に朝食当番の手伝いを申し出た。本当にキャンプだな。

その後昼まで監視を続けたけど、街道には避難民が何組か通っただけ。空はRF-4偵察機が飛んでいた
だけで他には何も無かった。
そうしているうちに交代の部隊が到着して僕たちは基地に戻る事になった。ちゃんと監視所は設営で
きて、僕の能力の確認ができて、これといったトラブルは起きなくて、この世は全て事は無し…とい
ったところだろうか。だけど交代で来た部隊から少し嫌な話を聞いたのが気になる。

その少し嫌な話とは、王国側の部隊がやっと到着した事だ。それ自体は別に悪くなく、喜ばしい事な
のだけど、何かものすごくまずい事が発生しかけているらしい雰囲気だったそうだ。いったい何だ?
クラウスちゃんがあそこにいるから気になる。上役が非常にアレだから余計に気になる。
早く戻った方が良さそうだ。



173 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/04/11 21:55 ID:???

偵察から戻ってみたら、基地の周りに王国軍がたむろしていた。

22回目の投稿。輸送戦記? 80

周辺でたむろしている王国軍は、騎乗した騎士はそれなりに立派な騎士が多いけど、歩兵の方がなん
だかまずそう。なぜか? それはまず服装が統一されておらず、武装がまちまちで、なんだか雑然と
している。なんだか統率できる連中が少ないみたいだ。それにこっちへの視線がなんだか痛い。何な
んだ?

不思議に思っていると皮鎧を着た少年が近寄ってきた。
「草壁さんですね。僕はクラムと申します。合言葉はサンダー」
「フラッシュ。一応確認するけど依頼主は?」
「クラウス様…といいたい所ですが、マイヤー様が依頼主です」
明るくて元気で頭が良さそうな少年だ。
「ところで用件は?」
「はい。現状の説明です」
「うん、わかった。けどここじゃなんだから基地内で…」
「はい。わぁジエイタイのキチに入れるんですね」
「…ここに来てまだ入ってないの?」
「はい。ちょっとした事件がありまして…」
何だ?小声になったぞ。
「まーそこらへんも聞くよ」

そう言ってクラム君を連れて基地内に入ったが、他の王国軍からの視線がキツくなったし、入口で隊
員に止められそうになってひと悶着があったりした。
いったい何があったんだ?

174 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/04/11 21:56 ID:???

81
まずは自己紹介。クラム君は従騎士としてクラウスちゃんの下についているそうだ。そんな彼から
の話をメモを取りながら話を聞いたが、なんだかまずい事が発生していたらしい。
事件は「王国軍による盗難未遂及び騒動」があったそうだ。

兵站と食事が「ヘッポコ」なので自衛隊が炊き出しを行ったが、その時に各場所に砂糖と塩を置いて
おいたが、その砂糖と塩をめぐって殴りあいの大騒ぎになったそうだ。しかも複数の場所で。
原因は砂糖と塩。ここでは「精製された砂糖と塩」は超高級品。何しろ岩塩すらけっこう高い。砂糖
も同じ。マイヤーさんが塩を見て感嘆していたのを思い出した(11回目の投稿の37)。と、ゆー事は
高く売れると踏んでネコババしようとしたが、同じ事をしようとした連中で争奪戦になったと。
さらにはその騒動の真っ最中に備品を持ち逃げしようとした連中が現れてそっちでも騒ぎになったそ
うだ。その時の対象はちり紙や書類などの紙製品。こっちも紙がまだ普及していないのでコレも高級
品だ。
で、そんな事が到着してすぐにあったから王国軍の下の連中はこっちを「ケチ」と見て、自衛隊は王
国軍をある程度警戒している状況ができたそうだ。戦う前からコレかよ。

「わが国の恥をさらすようですが、歩兵の大部分を先の戦闘で失ってしまい、補充の為に急遽徴兵し
ましたので規律に問題があるのです」
クラム君がすまなそうに話す。
そ、それはつまり。
「つまり、いつもならば厳しい訓練で規律を叩き込んだ歩兵がいるが、そんな連中は既に鬼籍に。下
士官連中も同じく。で、急遽補充した連中にはそんなに訓練を積んでおらず、錬度などが低くてなお
かつ武装も間に合わずにまちまち。でいいのか?」
クラム君がうなずいた。
「マイヤー様も同じ事をおっしゃっていました」

すんごくまずい状況だな。不安だ。

175 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/04/11 21:56 ID:???

82
次にクラウスちゃんの状況の説明になった。
「クラウス様はアス様の副官に抜擢されました…」
「それならめでたいとは思うが、何かあったのか?」
「はい。実は…アス様は仕事を不慣れなクラウス様に全て押し付け、邪魔をし、そしてクラウス様が
失敗をなさると責任を全て押し付けます。それを皆の前で叱責します」
アスの野郎、後で絶対殺す。
指揮官が指揮官としての役目を果たさないのは指揮官失格。明治時代にあった「仕事は信頼できる部
下に任せ、自分は部下が動きやすいように工作し、全ての責任を取る」なら良いが、邪魔をして、責
任を押し付け、さらしものにして人気取りに使うとは…あいつには馬鹿という言葉すら生ぬるい。

「草壁様、あの…」
「んい、あ、悪い」
どうやらもの凄く怖い顔をしていて考え込んだらしい。
「続けます… 最初は他の皆さんも笑っていたのですが、さすがにクラウス様に同情する方が出てき
ました。でも表立った応援までには至っていません」
孤立無援か。よし、決めたぞ。
「クラム君。今すぐクラウスちゃんを医務室に連れて来い」
「り、理由はどうするんです?」
「自衛隊のえらい人が呼んでいると言って誤魔化せ。責任は僕が取る。あと、君も戻って来い」
「え、いいんですか?」
「早く行け!」

大慌てでクラム君が駆け出して行った。
それじゃあ僕も急ぐか。ここの医官と食堂長に話をしなくてはいけない。クラウスちゃん親衛隊から
話が通っていたら良いけれど、もしまだならタバコがものを言う事になりそうだ。

176 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/04/11 21:57 ID:???

83
「クラウスちゃん、大丈夫か?」
「へ、平気だよ」
とクラウスちゃんはそう言ったが、顔色を見るとその言葉は大嘘である事がわかる。別れたときと比
べても顔色が悪すぎる。それになんだか細くなったような…
「いいから検診を受けろ。それじゃ先生よろしくお願いします」
後半は話を通した医官へのセリフ。こんな状態で戦争させるのは自殺行為だ。

結局クラウスちゃんには栄養剤点滴と2時間の休息が命令された。あくまでも応急措置にすぎず、元
から解決しないといけないが、王国軍に対して自衛隊は指揮権を持っていない。持っていないのでク
ラウスちゃんの扱いについてとやかく言えない。乗り込んでもアスの性格上言うことを聞かない。そ
れに「恥を外に漏らした」としてさらに状況が悪化してしまうのは確実だ。
畜生。何もできない。今できるのは眠っているクラウスちゃんを見守るだけだ。

「うん。みんなやさしい人ばかりだよ」
「仕事?楽だよ〜」
「アスはどうかって?厳しいけ大丈夫だって」

そうクラウスちゃんは言っていた。
僕を心配させないように虚勢をはっているのはまるわかりだ。
ここでわかったのは2つ。1つはクラウスちゃんが優しい娘である事。
もう1つは、アスの野郎のゲスな性格。

よし決めた。もう決めたぞ。
奴は今や僕らの敵だ。



710 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/04/19 00:00 ID:???

翌日、驚くべき命令が出た。
アスの部隊がまるごと自衛隊直接指揮下に入った。

23回目の投稿
輸送戦記?
84

アスの野郎は驚いていた。
クラウスちゃんも驚いていた。
報告を上げた僕も驚いた。

「何でまた急に?」と思ったのは僕だけではなかった。その理由を知ったのはクラウスちゃん親衛隊
参加者の3尉との雑談の最中だった。

「…ところで、何でまた今回の騒ぎになったんです?」
「ああ、表向きは自衛隊と王国軍の親睦を図る為だよ」
親睦、ね。まー今の所ギスギスしてますから悪い話じゃないな。
「で、3尉。裏の事情は?」
「アスの所の連中は上は大貴族、下でも騎士でまぁ支配階級だ。で、そいつらに自衛隊の実力を知
ってもらいたいらしい。それに彼らは全員が騎兵で、上は何かに使う腹らしい」
「実力ってもう知っているのでは?」
「それなんだが王国が宣伝してないらしいんだ」
そういえばそうだ。最初のクラウスちゃん然り、城でのアス然り、自衛隊での教育を拒否した騎士連
中然り、王国軍には自衛隊の実力が全然伝わってない。
「そういえば王国軍がこっちを侮蔑する傾向がありませんか?3尉?」
「ある。そっちも思い当たる節があるのか?」
「山ほど」
2人同時に溜息をついた。
「何を考えているのやら」

711 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/04/19 00:01 ID:???

85
その後に用事があってアスの部隊を見に行ったが・・・
200人の部隊を2つに分けて、隊長であるアスが直接指揮を執るA隊(便宜上表記)と副隊長である
クラウスちゃんが指揮を執るB隊に別れているが、見ただけでどちらの所属かがまるわかりだった。
A隊の連中の武装は『磨き上げられた輝くばかりの鎧』『装飾過多な剣』と立派で重そうな装備ばか
りなのに対し、B隊は『質素な鎧』『量産品な剣』『ただし馬具は立派』とまぁ軽装で貧弱な見かけ
だった。

どうやらA隊は上・中級貴族の師弟ばかりなのに対し、B隊は下級貴族・騎士で構成されている事が
原因らしい。装備は自弁なのでこうなったとか。まぁ一緒にしてしまうと色々問題が発生するから
妥当な編成とも言える。

A隊の連中は。
「なぜ我々のような高貴な者が異世界人のような下賤の者に…」
「あの草木に良く似た下品な服を着た連中は我慢ならん!」
と文句タラタラだった。これで命令を聞くのかかなり疑問。
B隊の連中は。
「旨くて量が多い食事を食えるのはイイ!」
「努力している副隊長を助けねば」
とクラウスちゃんへの協力をしたがる連中が多いので雰囲気も良く、士気は高い。士気の高さには今
までのイギ○ス以下の『ワイルド』な食事と、自衛隊と同じ食事との落差が激しすぎるのが原因らし
い。まー食事が原因で反乱が起きた例もあるし、食事は重要なのですが。

712 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/04/19 00:02 ID:???

86
そんなアスの部隊を見学した後、本来の仕事である書類の引渡しをする為にアスがいる隊長天幕に
行ってみたが…
「あれ?何でクラウスちゃんしかいないの?」
そう。天幕にはクラウスちゃんしかいなかった。そのクラウスちゃんは書類と悪戦苦闘していた。

「守!どうしたの?」
「ああ、司令部から書類を持ってきたんだけど、アスは?」
「アス隊長なら自分の天幕にいるよ」
…真っ昼間から仕事をほっぽりだしているのかよ。いい度胸してやがるな。
「守。会議をしているの。そんなに怖い顔をしないで」
14歳の少女が色々と王国の恥をさらさないように気をつかっている。こんな良い娘に仕事を押し付け
るとは。
「…ごめん。でも、指揮官が仕事を放棄するのは」
「貴重な経験をさせてもらっていると考えると良いよ」
そう言ってはいるが、無理しているのがまるわかりだ。
「手伝うよ」
「え、でもこれは私の仕事だし、部外者に手伝ってもらうのは…」
「仕分けぐらいならできるぞ。それにだ、ガキは大人を頼れ」
そう言って僕はいつぞやと同じく、クラウスちゃんの頭を「くしゃくしゃ」と撫でた。

「それじゃあお願いします」
副隊長みずからの許可をもらって書類整理。司令部への報告は用事を終わらせて戻ってきた従騎士の
クラム君にお願いし、仕事は1時間で終わった。

713 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/04/19 00:03 ID:???

87
書類整理が終わった後はそのまま帰って良い…はずだったが、隊長の受領印が必ず必要なものがある。
副隊長ではダメという融通のきかなさには困ったものだがしょうがない。
そ−ゆー訳でアスが会議をしている(事になっている)天幕の前。
「自衛隊王国派遣隊所属の草壁守です。入ります」
「おう、入れ」
返事が返ってきたので入ったが、思わず顔をしかめてしまった。

中には10人以上の野郎が真っ昼間から集まり、全員車座になって座っていた。
それぞれが妙な形のキセルを持って何かを吸っていた。だが吸い方がものすごくおかしい。
普通はキセルの雁首を上に向けてタバコを吸う。でも何でアルコールランプであぶっている『何か』
から出る煙を吸っているんだ?当然雁首を下に向けて。
それになんだ?このタバコとは絶対に違う妙な匂いは?

「フン。いつぞやの異世界人か」
なんとなくだらけた印象のあるアスがいた。
「書類の受領印をいただきに来ました」
「勝手に判をつけ」
そう言って明日は控えていた従騎士に目配せをするとハンコを持ってこさせ、僕に向かって放り投げ
た。
こんな所には僕はいたくない。さっさとハンコを押すと挨拶もそこそこに天幕から逃げ出した。

まずいものを見てしまった。
貴族の堕落の一端なのか。まさか真っ昼間から麻薬パーティーか。
大貴族がコレでは、王国は長くはないな。
そう思って僕はアスの部隊を後にした。



193 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/04/25 22:32 ID:???

24回目の投稿
輸送戦記?
88

帝國軍との交戦(予定)があさってになった。
自衛隊の準備は陣地構築を含めてほぼ完了。王国軍は交戦が近くなって士気が上がっている。しかし
臨時徴募の兵士が脱走する騒ぎが出たのがなんとも。怖気づいた連中が出るのはしょーがない。
士気があがっている王国軍兵士の方は「略奪」が目当てらしい。略奪と言っても民間人相手の物資
強奪ではなく、落ち武者や死体から剣やら鎧やら金目のものをぶんどる方。やっぱり欲がからむと
人間は強くなるね。もっとも、争奪戦になるからもらえない可能性が高いし、それ以前に生き残れる
かどうかが怪しいけど。

そんな中、僕たちは一足早く出発する事になった。
場所は街道(予想進撃ルート)近くの丘にある修道院。そこを拠点にしてクラウスちゃんたちを動か
したり、臨時の避難所にしたり、偵察を行ったりする予定になっている。
なお、修道院には先発隊がいて、そちら向けの補充荷物やら急に回ってきた機材を持っていく事にな
ったので積み込みに汗を流している。
えーと何なんだこの大きいダンボールは? 『精密機械』『取り扱い注意』のシールが張ってあるぞ。
他には…食料品やら予備銃身やら、うぉ!カールグスタフ用の榴弾まで持ってくの? その他色々な
荷物をトラックに積み込んでいる。
久しぶりの輸送の仕事だ。ここ最近は偵察に引っ張られていたが、僕の本業は輸送だ。それを忘れ
かけていたのがなんとも。

194 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/04/25 22:33 ID:???

89
積み込みを含めた出発準備が早めに終わった。時間が余ったから一休みしようかと思ったらクラウスち
ゃんが通りかかった。ちょうどいい。

「クラウスちゃんの準備は整った?」
「うん。いつでも出られるし、戦闘もできるよ」
「ほほう、そいつは頼もしい」
うんうんがんばってるなぁ。これならマイヤーさんも喜びそうだ。
「その『戦闘』を多少有利にするモノを進呈したいんだけどいいかい?」
「いいけど、何なの、守?」
僕はバッグからそれを取り出すとクラウスちゃんに手渡した。
「何これ」
「コレが勝利の鍵だ!…とまではいかないが便利になるよ」
「どーやって使うの?」

5分程使用方法と整備方法を説明。

「なるほど。確かに便利になるね」
「でしょ。他の騎士連中はコレを使っている所は見たことが無いから多少は有利になるよ」
「うん、ありがとう守」
「あとクラウスちゃん、コレは完全に民間用だから壊しても無くしても大丈夫だよ」
「え、自衛隊の装備品の横流しじゃないの?」
「いや、ウチの実家から来た荷物に入ってたやつ。なんでこんな物を送ってきたか謎なんだが、今は
感謝だ」

195 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/04/25 22:34 ID:???

90
「そーいやクラウスちゃんたちも修道院に行くそうだけど、何をするの?」
「守。ここから先は口外無用だぞ」
「当たり前じゃないか」
トラックの陰に移動して内緒話。
「で、何しに行くんだ?」
「うん。帝國軍が先発させるだろう偵察隊を潰すのが1つ」
「と言うからにはまだあるんだな?」
「うん、そうだよ。で、本隊の注意を引いて誘導するんだ」
なるほど。そーゆーわけか。
「誘導先は自衛隊が展開している陣地前の平原な訳ね」
「そうみたい。でも何でだろう、ほおっておいても街道沿いに来るとそのままここに来るのに」
確かに不思議だ。でも、ありえる予想があるな。
「王国軍がゴネたからじゃないの?展開しているのに戦闘に参加できないと王国軍の面子丸つぶれだ
し…」
「守、私もその王国軍の一員だぞ」
「・・・クラウスちゃんごめん」
「早く先を言ってくれ」
「自衛隊としても『敵に渡す情報は少ないほうがいい』と考えているだろう。それに普通は偵察隊の
邪魔ぐらいはするから、邪魔をしない方が怪しむでしょう」
「私の部隊が活動して、注目を集めるなら大成功。注目しなくても偵察隊を潰せて成功なんでしょ?守


「そうじゃないかな?」


196 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/04/25 22:35 ID:???

91
「クラウス様〜」

「あ、そろそろ出発らしい。従騎士のクラム君が呼んでるぞ」
「そうだね。それじゃあそろそろ行くね」
「クラウスちゃん。アスには気をつけろ。あいつは麻薬を常用している可能性がある。もしかしたら
いきなり錯乱するかもしれないし、判断能力が鈍る可能性がある」
「え!アスがよく吸っているアレってそんなに危険なの?」
ちょっと待て。知らなかったのかい。
「アレは危険すぎるぞ。だから非常事態の痛み止めを除いて使用しちゃいけない」
あれ?クラウスちゃんの顔が真っ青になったぞ。
「守…A隊の人はみんなアレを好んで吸っているよ…」
「最低。ともかく兵にも徹底させた方がいい。下手すると戦闘中に発狂した麻薬中毒患者の群れに後
ろから襲われかねん」
「わかった。そろそろ行くけど、守も注意してね」
「クラウスちゃんこそ」
「それじゃ一足先に行ってきます」
そう言ってクラウスちゃんは部隊に戻っていった。

そういえばそろそろこっちも移動する時間だな。そろそろ呼び出しが…
「草壁!出発の訓示があるからこっちに来い!」
さっそく来た。

簡単な訓示の後、僕たちも出発した。ついに大規模戦闘か。クラウスちゃんは無事に戻ってきて欲し
いなぁ。


221 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/05/04 21:42 ID:???

25回目の投稿
輸送戦記? 92

途中の妨害もなく、僕たちは無事に修道院に到着した。
既に先発していた部隊が色々手を加えているのが丸分かりで、その中でも1番よくわかるのは…
「正門にかかる橋の前に作られた陣地」
だったりする。

ここはそれなりの大きさの修道院で、なぜか堀まで掘ってある。で、正面正門にかかっている橋は石
橋になっているから1番攻撃されやすいのは正面になる。そこに臨時に作られた出丸だから…どーみ
てもアレみたいだ。名前を聞いて納得。何せ「真田丸」と命名されていた。

本来ならここもさっさと放棄して避難させたい所だけど、王国及び教会本部の要請&修道士たちの避
難拒否によってこうなり、あるのなら使うしかないとゆー事で今の状態になったらしい。
政治的な縛りが色々入りまくっているが大丈夫なんだろうか。本当に心配になってきたぞ。
その代わり修道士は協力的だし、敷地に迫撃砲の準備+射撃評定済みはあるし、短期間の篭城で済む
ように手配がしてあるから大丈夫らしい。井戸があるから水も問題ないからまぁいいか。

到着したらさっさと積み下ろし。燃料弾薬食料に、謎の精密機械が入った箱を下ろしているといきな
り一緒についてきた技官の人に指名された。
「草壁君だね」
「はい、何でしょう?」
「この精密機械だが君専用だそうです。だから今から据付と調整を行うから持ってきてください」
「はい。それにしても何なんでしょうか?何も聞いていませんが」
「見てからのお楽しみですよ」
なんだ?

222 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/05/04 21:42 ID:???

93
右を見ると右を向く。左を見ると左を向く。上も下も同じく。妙なヘルメットをかぶった僕が向いた
方向にカメラも向く。何だこりゃ?

修道院の鐘楼で、さっそく「精密機器」の据付とテストを行っている。
自由に方向を変えられるカメラ。カメラに映っている物を確認するモニター。そして向いている方向
を読み取るセンサーつきのヘルメットをかぶった僕の3つ。この3つで1つのシステムだそうだ。
名前は「試製監視システム1型」。広角監視を行う部分(ここでは僕)が目標を探し、カメラで精密
観測&撮影をするというもの。なんだか「狙撃手と観測員」「対戦車ヘリの砲手と機銃」「近距離対
空ミサイルの本体と射撃手」みたいと感想を言ったらシステムを流用しているそうだ。ならば今回は
カメラだけど将来は銃がセットなのかな?
それはともかく自分の頭の動きがそのままカメラの動きになる「マスタースレイヴ式」を採用して
いるのでうっかりすると細かい振動が出そうだが、そこらへんはキャンセルする機構が働くそうだ。

「これの目標は何なんですか?」
空を飛んでいる鳶を追いかけながら聞いてみる。
「ああ、敵の指揮官を撮影するんだよ。こっちにも鳶はいるんだねぇ」
「どのレベルの指揮官なんです?」
「リストを作るから偉そうな奴を全部」
思わず顔を下に向けてしまう。
「えらい数になるんですけど」
「撮影時にこっちでも指定するから大丈夫…とこれで良し」
試運転が終わったらしい。
「一旦終わらせるよ」
「ちょっと待って下さい。向こうから騎兵が来ます。練習してみます?」
「丁度いいな。向いてみて…よーし一発で合わせるとは草壁君、君は素人じゃないね?」
「ありがとーございます」

223 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/05/04 21:43 ID:???

94
向こうからやってきた騎兵の群れは…クラウスちゃんたちだ。うーん、凛々しいな。
それにしてもこの機械は便利かも。今までは私が方向を大雑把に指示する事しかできなかったけど、
これにより「僕が見ているもの」を即座に他の人も見ることができるようになる。
カメラを銃につけかえれば照準が楽になる。便利だけど、今の所はまだ試作品。便利でも面倒だった
り高かったりしてお蔵入りになるかもしれないな。さてどうなることやら。
とりあえず馬に乗ったクラウスちゃんの姿を撮影。

その後も試験撮影を進めた。
対象は野外訓練を始めたA隊の連中。B隊は雑用をやらされているようだ。
そのA隊の動きを追う。
どうやって動く。合図。陣形。行動パターン。癖。その他…行動の全てを撮影した。

「あのー今撮影しているデータも使うわけですよね。A隊の奴」
「そうだよ。基本的に帝國の騎兵戦術も似通ったものらしいからね」
「ははぁ。似ているのなら味方をアグレッサー代わりにしてみよーというわけですな」
「正解」

技官はそう答えたが、僕はそれだけではないのではないかと考えた。
技官の人の話によると、このデータはそのまま持ち帰って戦力分析に使い、錬度の参考にしたり、対
騎兵戦術を考えたりに使うと答えた。
戦術が似通っているのなら、それはそのまま対王国にも使用できる事でもある。
何かの事情で王国と戦う事になった場合にもこのデータは使える。今まであがっているだろう王国軍
に関するレポートに、映像情報まで加わったら精度は上昇する。その為には王国の部隊を丸々管理
下におき、彼らの全てを知り尽くす。味方であっても情報活動は控えないという例だ。
情報戦争の一端ってところか。

224 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/05/04 21:44 ID:???

95
そうこうしているうちにA隊が修道院内に戻ってきた。
そうして今度は個人戦闘の練習に入った。
アスの野郎はどこかな〜とさがしていると、いた。白兵戦の練習をしている。
アスの動きを見る。奴の間合い、歩幅、リーチ、反応速度、資格、癖、得意技…全てを記憶する。
いつ使う事になるかはわからないが、情報はあって困るもんじゃない。
そうして観察しているうちに気がついた。なんだか動きが鈍くないか?

ちょうど鐘楼に上がってきた陸自の隊員に感想を聞いてみた。
「アスたちですけど、動きが変じゃないですか?思ったより鈍いし」
「…確かに変だ。1週間前よりも動きが鈍くなったように見える」
「1週間前?」
「ああ。練習を見学したんだが、その時よりも鈍くなっている」

1週間前より鈍くなった動き。もしかして…麻薬の影響が出ている?
一時的に運動能力は確かにあがるものがあるが、代償に体力が落ちる。当然麻薬を部隊で吸っている。
どんどん量が増えると体力の減りも大きくなるはず。
これは本格的にまずいな。だけど上はなぜ放置しているのだろう?
ありえるのは、自衛隊がそれを知らない。王国側が伏せている。の2つがあるが、さらにヤバイ予想
もできる。それは…
麻薬使用者の観察対象になっているから。後は王国から依頼があったからか。どちらにしてもロク
な理由じゃないな。


386 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/05/18 01:17 ID:???

26回目の投稿
輸送戦記?
96
そんなこんなで仕事(のぞきか?)をしているうちに夕方になった・・・がそのまま仕事は継続になった。
暗視装置も組み込んであるからそれも試してみたいそうで。
それにしても色々ついてるな。やっぱり試作品だから色々くっつけて試してみてるんだろうな。
そう考えながら操作を続けているうちに日も暮れ、完全な夜になった。

「よーし草壁、そろそろ終わりにするぞ」
「はい・・・っとちょっと待ってください。街道をトラックが走って…こっちに向かってます」
「あれホントだ」

なんだ?緊急の補充か?でもトラック1台っつーのもなぁ。まーまずは報告だな。

「ホークアイ01(草壁)より本部(修道院守備隊本部)」
「こちら本部。どうした?送レ」
「本部布陣方面よりトラックが1台接近中。送レ」
「了解。当該トラックは臨時輸送任務車両により監視対象ではない。送レ」
「了解しました。終ワリ」

なんだ、たんなる輸送か。でも何を運んでいるんだろう?
そう考えているうちにトラックが真田丸前で止まり、チェックを受けたて修道院に入り、その後最低
限の連中を残して集合命令が出た。何だ?中庭に集まれだと?何だ?
急いで中庭に下りたら隊員の人ごみと懐かしい人影があった。

「何で姐御とミランタンがここにいるの!」

387 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/05/18 01:18 ID:???

97
当然と言うか2回目と言うか、見事な紅葉が1つ。その後に事情の説明があった。
1.対魔法使いとして派遣。
2.魔法の見本を見せる為。
3.僕の能力チェック
が来た理由らしい。ちなみにトラックで来た理由は「丁度出る所だったから」だそうで。

で、始まったのは姐御とミランタンの魔法教室。ついで?かどうかしらないが、この修道院院長も加わって
神聖魔法も見せてくれる事になった。
相変わらず迷彩服がかっこいい姐御が解説役だ。

「よし野郎ども!いまから使用が想定される魔法を見せる。だが今回は直接攻撃魔法は省く。これは
既に全員にみせているからだ。」
僕ですら教育中に見ている。他の隊員については何をかいわんや。
「基本的に銃砲を使用した遠距離戦闘を想定している。理由はギャンとゲルググが争ってゲルググが
選定されたのと似た理由だ」
姐御、マンガだけでなくアニメも視聴済みでつか…って誰が持ってきたんだんなもん。
乱暴な要約をすると殴り合いをする前に射撃で殲滅してしまえば損害が無くてウマーな訳だが。
「よって敵は照準を狂わせる、あるいは射手を幻惑する魔法を使用すると思われる。何か質問は?」
3尉の1人が手を挙げた。
「糸冬3尉であります。風系統魔法により銃弾をそらす方法があると思われますが?」
「良い着眼点だ、糸冬3尉。だが実験ではその手が利くのは低速のロケット・ミサイルを幾らか外し、
迫撃砲弾の弾着を少しずらした程度になった。これはこれで問題だが、迫撃砲の被害発生範囲から
は逃れられず、また大量に使用された場合は風魔法の効果が薄れたので効果はなくなった。所詮は
弓矢を対象としたものであるのが原因だ。今後はそうでなくなる可能性はなくもないが」

388 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/05/18 01:19 ID:???

98
それからは実演に入った。
姐御が見せたのは幻覚・催眠・混乱系のRPG(対戦車ロケット弾にあらず)で言う所の補助系魔法。
ミランタンが見せたのは光の精霊をしようしたフラッシュと、闇の精霊を使用した隠微・混乱。
以下のセリフは食らった人物のセリフである。

「あ、み、見えねえ。レムオルを使いやがったな!」
「うわーかわいいメイドさんがたくさん見える〜」
「あうあう敵だ〜周りはみんな敵だ〜」
「こりゃ焼きつき現象がおこるぞ。サングラスをくれ〜」
「くらいよせまいよこわいよ〜」

さて、どれがどの魔法を食らったか当ててみましょう(藁

さて、残った神聖魔法ですが…これがまたマニアックな事に「対死霊・ゾンビ系魔法に特化しまくっ
た魔法系統」なので、今回の戦闘にはあんまり役に立たない事が判明している。もっとも、銃が効
かない霊が相手では自衛隊は無力なのでその時には無敵を誇る事になりますが。
限定的状況でしか使えないので「神聖魔法役立たず説」が出たが、すぐにそれは消えてしまった。そ
の訳は白髪のおじいちゃんな修道院長(この道50年の超ベテラン)の説明より。

「戦いの後には当然の事ながら亡骸が出る。それと同時に死霊と化す魂も数多く出る。戦いの後に放
置された死体に亡霊が取り付き『生ける死体』が大量に発生する。死体に取り憑かなくとも死霊が周
囲を徘徊する。戦いに勝ったと思い気を抜いた後に元・戦友や倒したはずの敵に襲われるのは恐ろしい
事だ。もし襲われなくとも周辺に彷徨いだしてしまえば…恐ろしい事だ。そこで我々は戦いには必ず
つきそい、迷える魂を天に帰し、亡骸を冒涜する『生ける死体』にさせない為に結界を張る。これこそ
が我らの重要な役割であり、魔法を特化してきたのである」

389 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/05/18 01:20 ID:???

99
宗教の起源に片足を突っ込んだような修道院長の説明が終わり、説明会が終了した。が、僕だけは姐
御たちのチェックが待っていた。

「何か変わった事はあった?」
ここにまで持ってきたんか!とツッコミを入れたくなるような白衣姿のミランタンにハァハァしながら問診を
受けた。
「あーそーいえば先程から姐…もとい。ルローネ先生やミラン先生の周りに『青いもやもや』が見え
るんですが、こりゃ何なんでしょう?」
「ふ〜ん。先程っていつから?」
「さっきの説明会でルローネ先生から魔法を食らってからです」
「ふ〜ん」

その後姐御とミランタンがぼそぼそ話を始めたが、音声遮断魔法でも使っているのか内容は聞こえなかった。

「草壁!喜べ!」
「何を喜ぶんですか姐…」
「アタシを姐御と呼ぶな」
「ルローネ、首を絞めちゃだめ〜」
5分後
「草壁、どうやらお前は危険な目に遭うか、その魔法を食らうと対抗処理を体が勝手に行うらしい」
「はぁ。そいつは楽でいいと思いますが」
「ただし生き残る事が条件」
「げ、じゃあ死の魔法なんか食ったら」
「即死」
せめて成長の方向性ぐらいは自分で決めたいな。そう考えながらその日は終わった。



734 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/05/23 22:10 ID:???

27回目の投稿
輸送戦記?
100

「総員起床!」
まだ夜中だっつーのに全員が叩き起こされた。一体なんだよヲイと思いつつ腕時計を見てみたら…
午前1時。寝てから3時間しか経ってない。ぶーぶー文句をタレて着替えをして…といきたいが、5分
で準備を整えて整列しなければいけないので文句を言う暇すらなかったが。

中庭に自衛隊員が整列。修道士の皆さんも整列。クラウス隊が3分遅れて到着。ドベはアス隊の連中
で10分遅れだった。
自衛隊員が早いのは日頃の訓練の賜物だから問題ない。修道士の皆さんは4時間おきの礼拝が終わった
後だったから。クラウス隊はまず全員が揃う事を重視し、軽装状態なので3分の遅れで済んだ。
問題のアス隊は…上級貴族の癖なのか、寝坊を決め込む連中がかなり出たので遅れたそうだ。これが
自衛隊なら全員やり直し&鬼軍曹の下で腕立て伏せになる。ガクガクブルブル

全員揃った所で隊長からの説明があった。
「帝國軍が進撃を開始した」
単純かつ明快な理由。しかし変だな。あと1-2日は余裕があるはずなんだが。
「帝國軍は0000に宿営地を出発。ここには0600(早朝)に到着する予定である」
予想より進撃は早まったのね。で、その結果迎撃の為に叩き起こした訳ね。
「直ちに迎撃準備に入れ」

ついに夏は終わり、実戦という冬がやって来たわけか。もっとも、周りが冬でも僕たちは温室の中に
いただけかもしれないけど。

735 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/05/23 22:10 ID:???

101
「クラウスちゃん、無理はするなよ」
「わかってるよ守。それじゃあ行ってきます」
クラウスちゃんはそう言うと馬にまたがった。
「クラウス隊出陣!」
その号令と共にクラウスちゃん率いる騎士隊(全員が騎乗している)が門から駆け出していった。

アス隊に引き続きクラウス隊も出陣してしまったので、修道院に残るは自衛隊員と修道士だけ。
準備は全て整えている。後は配置に着いて敵を待ち受けるだけ。まぁ敵が来るまでは退屈だが、そこ
は「急いで待て」という昔から軍隊に伝わる言葉の通りだからしょうがない。

そんなこんなで僕は無線のヘッドセット(マイクつき)をつけ、鐘楼に陣取っている。
「試製監視システム1型」もいつでも動かせるように準備はできている。

下では真田丸に担当の隊員が入り、全ての火器には弾が込められて安全装置がかまされた状態で待機
している。漏れ聞こえてくる通信所の声を耳にすると、活発に通信のやりとりをしている。
あ、今オフロードバイクに乗った偵察隊の人が出発した。
そんな戦闘直前の慌しさにどうも緊張してしまう。

「おい草壁。そんなに緊張していると持たんぞ」
と一緒に鐘楼に篭っている隊員の人が声をかけてくれた。
「はい、ありがとうございます。ですが…やっぱり緊張します」
「それについてはコレはどうだ? 戦闘処女は今日で終わりだ!」
思わず吹きだしてしまった。
「ここは西ドイツの某所ですか?」
「少なくとも相手はワルシャワ条約機構軍ではないからある意味余裕だぞ」

736 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/05/23 22:11 ID:???

102
それから僕は持ってきたアメを舐め、一緒に篭っている隊員の人には煙草の一部を提供し、くだらな
い話に興じながら待った。その間に仮眠をとったりして体力を回復させるのも忘れない。
そうしているうちに大変な事が発生した。

「あ、クラウスちゃんたちが戻ってきた…けどおかしい。何でアス隊が30人とクラウス隊が80人しか
いないんだ? それにどっちもボロボロで、こりゃ返り討ちにあったな」
「敵はついてきているか?『付け入り』されてそのまま突入されちゃかなわんぞ」
「敵影はなし。クラウス隊・アス隊だけです」
そう報告した後に全員向けの無線で戻ってきたのはクラウス隊・アス隊である事が告げられた。まだ
暗いから同士討ちをやらかす可能性が高いからすぐに告知しておくのに越したことはない。

それから許可をもらってクラウスちゃんを出迎えたが…想像以上にボロボロだった。
原則として「20%の損害で戦力半減。50%で壊滅」からすると、クラウス隊は半減。さらに70%の損
害を喰ったアス隊は軍事的には消滅したに等しい。ご丁寧に生き残りで負傷者ばかりだった。

「守!」
こっちに気がついたクラウスちゃんが声をかけてきた。
「コレのおかげで助かったよ」
そう言って右手に掲げたのは…前に渡した(24回目の投稿89)『小型拡声器』だった。ただし各部が
割れたりしているのでもう使えそうに無い。
「コレで相手をびっくりさせる事ができたし、『声がかき消されて命令が聞こえない』が無くなった
から助かったよ」
おー役に立ってよかったよかった。

737 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/05/23 22:12 ID:???

103
それから報告を終えて戻ってきたクラウスちゃんに暗がりでこっそり聞いてみた。
「ところでクラウスちゃん。なんであんなに損害を喰ったの?」
「守。私の受けた命令は『敵の先発隊を引っ張りまわせ』だったよね」
「うんそれは聞いている」
90で説明がされているのでよく知っている。
「アスたちと共同で相手を引きずりまわす予定だったけれど…アス隊長たちがいきなり奇声を上げて
突入したんだ。私たちより優勢な敵に」
「交戦する場合は『相手が少数だった場合』だよな?クラウスちゃん」
「うん。もしかして…守が言っていた『麻薬』の影響かな?」
「ありえる。話を続けてくれ」
クラウスちゃんの声が暗くなった。
「見捨ててしまうと私だけでなく他の騎士にも迷惑がかかるので、私たちは救出の為に突入して…20
人を失ってしまった」
最低。
「クラウスちゃん、それについては報告した?もししておかないとアスの野郎の性格上、こっちに責任
をかぶせてくるぞ」
「それは大丈夫。自衛隊の指揮官に直接報告したし、他の偵察隊の人たちからの報告があったみたい。
逆に慰められたよ」
それはよかった。それでは慰めの仕上げを僕がするあ。
「そうか…ならクラウスちゃん。君は今回で苦い敗北の味を知ったね? 敗北を知らないと後で致命的
な敗北につながる可能性がある。それが無くなったのだから元気を出せ。今回の敗北を元にして次を
勝ってしまえばいい」
「うん!」

慰め終了。それにしてもアスのせいで迎撃計画にズレがでなければいいけれど。どうなるんだろう。


762 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/06/14 01:15 ID:???

28回目の投稿
輸送戦記?
104
ついに彼らがやってきた。誰かって?帝國軍に決まっている。
光り輝くまで磨きあげられたプレートアーマーに身を固めた騎士。所属を示すと思われる大きい旗を掲
げた旗手。そして長槍を持った歩兵たち。まさしく立派なF世界の軍隊だ。
彼らの後ろには馬車が何台も続いているが…中には積荷に布を被せ、たまに水をかけているよくわから
ないものもあったりする。

その帝國軍を僕は見ている。偉そうな奴、装飾が派手な奴、そいつらの周りにいる奴を重点的に。何
でか? 答えは簡単で、偉そうな奴や派手な奴は指揮官の可能性が高いから。近代戦では指揮官は目立
つ事を避ける(狙撃とかの理由)が、中世の頃は指揮統制や士気の維持などの観点から派手だったり
する。指揮官を特定しておけば指揮官を潰して相手の統制を乱したりなど便利だ。

「対象A-052」
「撮影終了」
「続いてA-053」
と監視対象を見てナンバリングをする僕と、「試製監視システム1型」で撮影する自衛隊員の声が響く

。その横で別の撮影班が長距離撮影仕様のビデオカメラで帝國軍を撮っている。画像だけかと思いきや

、遠距離仕様にいじったガンマイクもついているから音声もばっちり。そんな撮影班は鐘楼に複数いる

が、ここだけでなく真田丸などにもいたりする。
この撮影体制については「ハリウッド級の迫力で映像資料が撮れる」事から映画監督を連れて来た方
がいいんじゃないかとの意見が出たが、有名所は映画会社や周りが止めてしまったし、かといって無名
な人に任せるのも…という訳で広報で撮影に慣れた・撮影ヲタな隊員を使う事に。まーなかなか小説の

通りにはいかないようだ。

763 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/06/14 01:16 ID:???

105
そうこうしているうちに帝國軍が布陣を終えた。と言っても全てがこっちを目標にしている訳ではなく

、街道の向こうを警戒する連中もいたりする。
それでも僕たちから見て修道院-壁-水堀-正門前に真田丸-所々に盛り上がりがある開けた場所の
前に帝國軍がいるのはなかなか壮観だ。総数は約1万5千。戦慣れしたベテランばかりと聞く。さてさ
て正面切った本格的な戦闘か。

と思ったら帝國軍から白旗を騎士が走り出した。そのまま道をそのまま走って真田丸の前で立ち止まる
と大音声で叫び始めた。

「我は栄えある帝國騎士アンドリュー・ニコルスである! 我ら帝國は神の加護を受けた神聖なる国で
あり、我らに逆らう事は神に逆らう事でもある。ましてや無敵を誇る我らに弓引く事は全くの無駄で
ある。よって我が大将デニーズ・ヒックリー様は諸君らに名誉ある降伏の機会を与えて下さった。すぐ
に降伏すべきである。我らが寛容であるうちに!」

なんつー傲慢な降伏勧告。呆れ果てているうちに自衛隊側からの返答が来た。修道院各部に臨時で取り

付けられたスピーカーを使用しているから多分、帝國軍本隊にも聞こえるはずだ。
「小官は日本国陸上自衛隊王国派遣隊所属、伊良子3佐である。降伏勧告への回答を行う。『Nut!』」
当然と言うかなんと言うか、帝國騎士は困惑。
「それはどのような意味だ?」
伊良子3佐は答えて曰く。
「平易な言葉に直せば『地獄へ落ちやがれ!』がもっとも適当と小官は考える」

爆笑。ここはバストーニュですかい。笑いで味方の緊張をほぐして、敵をおちょくって、かつ回答に
なっていて、縁起もいい。流石だ。ただし多少品が無いのが残念だ。
帝國騎士はカンカンに怒って引き返していった。
やっぱりここは『降伏?考慮しよう。ただ困った事に我らは帝國軍を受け入れるだけの場所が無いので

ね』とイギリス風の方が良かったのじゃないかな?


765 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/06/14 01:18 ID:???

106
帝國騎士が帝國軍本陣に戻った後、本陣で何やら罵声らしき声が聞こえた。そりゃまーあんな返答を
受けたらああなるわな。そう考えているうちに無線が入った。
「攻撃開始30秒前。総員対衝撃体制に入れ」
お、もう始めるのか。降伏勧告は終わったし、あとは火蓋を切るだけか。
「20秒前」
それにしても初手は何なのだろう。
「10秒前」
そう考えて腹ばいになる。
「5秒前」
ラムネの栓を抜いたような音がした。
「だんちゃ〜く!」
帝國軍本陣とその周辺に迫撃砲弾が降り注いだ。
1発だけでななく10発以上の継続した集中射撃。試射なしでのいきなり効力射。迫の命中率が事情に
より高い自衛隊が、事前標定射撃を行った場所への射撃だ。外れるほうがどうかしている。
本陣は阿鼻叫喚の地獄と化している…確かに阿鼻叫喚の地獄だ。何せ迫撃砲で催涙弾を山ほど放り込
んでいるので白い煙とくしゃみと涙と怒りでいっぱいの「なまやさしい」地獄だが。それでも食らっ
た方はたまったもんじゃないが。

さらにスピーカーから帝國軍向けに放送が流される。
「弱いはずの蛮族に馬鹿にされて奇襲を食らうとは、帝國って…馬鹿?」
「やっぱりあの鎧はガワだけ立派で中身はヘタレばかりなんでしょ〜(藁」
「まさにパレード用の軍隊ですな」
…帝國軍を思いっきり馬鹿にした内容が続く。

766 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/06/14 01:19 ID:???

107
そうこうしているうちに帝國軍が動き出した。でもなんだかバラバラ。まさか怒った連中が勝手に動
かしてる?槍兵の集団がこっちに向かってくる。本格的な篭城戦か。
ここで疑問が出てきた。それにしてもおかしいな。何で自衛隊は鉄条網や空堀を作らないんだ? 築城
の為に必須の各種重機はしっかり入っているし、河川便で僕が追加を運んできた。その重機を使って
真田丸を造った。数は十分ある。時間もたっぷりあった。
それに鉄条網などの築城資材も同じく僕が運んだ。それなのに出てこない。何でだ?

きれいに整列した槍兵がどんどん近づく。そしてある地点を通過した段階で彼らの足元が爆発した。
「た、対人地雷!」
思わず叫んでしまった。確かアレはオタワ条約で廃棄が決定したはずじゃなかったっけ?
「アメリカからの貰い物だぜ」
横の自衛隊員が教えてくれた。
「朝鮮半島問題の関係でアメリカは批准していない。だから対人地雷を持っている。だからアメリカ
から貰って運用している」
「条約違反でしょう」
「確かに条約違反ではあるが、ここで使ってもどこが文句をつける?」
「…国内マスコミだけですね」
「そーゆー事だ」

槍兵は混乱している。進んだ連中の足元が爆発して脚を吹き飛ばされてのたうちまわる。後ろの連中
はそれを知らずに進む。進めない連中とぶつかって混乱。全く動けなくなっている。

続いて平地の「盛り上がり」が爆発を起こした瞬間、その前にいた身動きが取れない槍兵の集団が血
まみれになって吹き飛んだ。
「クレイモアまである!」
驚いて叫んだ後、ぼくは血の臭いと肉塊になった人間をみてしまい…嘔吐してしまった。


536 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/06/20 23:17 ID:???
29回目の投稿
輸送戦記?
108
僕がいくら朝食を戻しても戦闘はおかまいなしで続く。
地雷で混乱した槍兵にクレイモアを撃ち、さらにグレネードランチャーを叩き込み、トドメに12.7o
銃弾で仕上げを行い…先走って突入してきた槍兵は全滅した。

肉が焼け焦げる臭いが風に乗ってどんどんこっちに流れてくる。修道院の各所で嘔吐する音と吐瀉物
の臭いがする。しかも僕は眼が良すぎるからこの惨状がよくわかる。このままだと精神がどっかの世界
に逝ってしまいそうだ。それでも観察を続けなければいけない。任務にしがみついていれば多少はマ
シになると本などではあったがどうなのやら。畜生、自分で人体実験をするハメになるとは。

観察していると帝國軍の後方に動きがあった。「青いもやもや」がついている人間が頻繁に水をかけ
られていた荷馬車にとりついている。確かあの「青いもやもや」は魔力の証だから、彼等は魔法使い
だな。その魔法使いが何かやらかそうとしている。そーいやよく見るとあの馬車に積んである荷物?
からも微弱だが魔力が感じられる…帝國軍は魔法を使った何かをやろうとしているな。
「警告、警告。帝國軍後方で魔法使いが何かを準備中。大規模魔法の可能性あり。警戒を要する」
当然警報を流す。これが僕の仕事でもあり、何かが分からなくとも何もしない時と比べて遥かにマシ
になる…はずだ。

そうしてみていると、魔法使いたちは簡単?と思われる儀式を行いそして一斉に叫んだ。
その叫びと共に荷馬車にかけられた布が持ち上がり、最初とは比べ物にならない「青いもやもや」を
まとわりつかせた「荷物」が立ち上がった。

「え、ご、ゴーレム!?」

537 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/06/20 23:18 ID:???
109
えーと…材質は、粘土みたいだな。でも各部に鉄板?を貼り付けている。水をかけていたのは乾く事
を防ぐ為だったのか。納得…って納得している場合じゃない!

「警報、警報。帝國軍はゴーレムを使用。数は10体。種別はクレイゴーレムと思われるが、装甲板を
装着。動きは…おもったより素早い」

報告した直後に隊長が対応策を指示する声が聞こえる。
ゴーレムは修道院への道を横一列になって進んでくる。端は地雷原にかかるが、対人地雷ではゴーレ
ムは止まらず、地雷の啓開も同時に行っている。
自衛隊は先程と同じくグレネードランチャーと12.7oを打ち込んだが…グレネードランチャーが爆発
した後の破片や12.7oは命中してもめりこむだけに終わった。防御力が強すぎるぞオイ。ってまさか
小説などでよくある「魔力が通っているから防御力上昇」かよ。しかも粘土だから「弾く」より「受
け止める」を重視しているからそっちの効果が上がれば…こりゃまずい。

「何で効かないんだ!」
「粘土人形がどうしてこんなに強いんだ?どろにんぎょうは踊るだけで強くないはずだぞ!」
「グレネードや12.7oが効いてないYO!もっと強い奴をぶつけないとダメだよ!」
「後ろに歩兵がいる!このままだと突破されるぞ!」
「落ち着け!まだ手はある!」
僕も含めてみんなは無線で叫びまくっている。
「迫を打ち込め!ゴーレムと歩兵を分離しろ!」

あ、なるほど。ゴーレムを戦車に見立てて対戦車戦闘の型に持っていくのね。ゴーレムを破城槌兼
防弾板に」して歩兵が進み、歩兵はそれを支援する。ならば歩戦を分離させるのが最上。

538 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/06/20 23:18 ID:???
110
ラムネを抜く音が1つ2つ3つ…っていくつ打ち込むんだ?そうしてゴーレムとその後ろに多数が着弾
。敵のうめき声が聞こえる。精神をどんどん削り取る声が聞こえる。畜生。SANチェックはもう沢山
だ!
迫の集中攻撃で歩兵とゴーレムは分離されたが、ゴーレムはそのまま進んで来る。自律思考ができ
ないタイプのようだな。ちゃ〜んす。仕留めるなら今だ。が、何で仕留めるんだろう?ここには戦車
はいないし、さっきから見ている通り、今まで使用された地雷も迫もグレネードも12.7oも効果は薄
い。
そう考えた瞬間、城壁と真田丸から何かを発射したブラストの音と煙が出た。そうして発射された
「それ」はゴーレムに当たると爆発を起こした。1体に数発が命中し、上半身がそのまま吹き飛ぶ奴
が出る。
カールグスタフだな。聞く所によると「カール君」と呼ばれて対人・対戦車・対陣地攻撃に重宝する
ので普通科の寵愛を受けている携行対戦車兵器。これのHEによる直接射撃。信管が着発か遅延かは知
らないが、当たって爆発してしまえばどちらにしても効果はでかい。
しかしまたゴーレムもしぶとい。粉々になるまでHEを叩き込まれては動かなくなるのは当たり前だが、
下半身だけになった奴はそのまま進んで来る。ゾンビ並みの生命?力だ。これが大挙して押し寄せた
ら対応できんぞ。
ゴーレムが動かなくなるごとに歓声があがるが、その間に道を進んで来た奴が真田丸の近くにまで
やって来た。2体を縦列に進行させて1体目を盾にして2体目を突入させる腹のようだ。まずい、アレ
はもう近づきすぎているぞ。

「ドラグスレイブ発砲開始!」

隊長の声が無線を介して聞こえた。ドラグスレイブって何だ?そんな兵器、自衛隊や米軍にあったっ
け?ドラゴン対戦車ミサイル(古っ)は聞いた事があるが。

539 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/06/20 23:19 ID:???
111
真田丸からまた発砲音が聞こえた。
発射された「それ」はカールグスタフとは比べ物にならない速度でゴーレムに向かって突き進み、ゴ
ーレムをただの1撃で吹き飛ばした。
ゴーレムは全滅した。

修道院から大歓声があがった。自衛隊はもちろん修道士に王国の騎士、みんなが喜んだ。何せゴーレ
ムという(F世界では)破壊力抜群の敵を文字通り吹き飛ばしてしまったからだ。
反対に帝國軍は声も無い。多分城砦攻撃にしようする攻城兵器をあっさり目の前で吹き飛ばされてし
まえばこうなるだろう。
それにしてもドラグスレイブって何だ?その答を教えてくれたのは横に居る隊員だった。

「草壁、アレは君が運んできたものじゃないか」
「え、運んできた?」
「105o牽引砲」
「…確かそれは全部退役しているのでは?」
「万が一を考えて儀礼部隊用の奴を引っ張って来たんだと。もう元はとってあるから自由に使っても
もーまんたいだしな」
「で、直接火力が増えて普通科は大喜びと」
「そーゆー事だ」

「そういえば喜びそうな人たちがまだいましたよ」
「誰だ?」
「某巨大掲示板の『牽引砲スレ』の人たちに決まっているじゃないですか。もっともWW2に限定されて
いましたけど、最後の牽引砲の活躍ですから喜びそうですね」
「違いない」
修道院の前には帝國軍兵士の死体に加えて粘土の破片が加わったが、まだ戦いは終わりそうに無い。


866 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/06/28 01:12 ID:???
30回目の投稿
輸送戦記?
112
最初の槍兵による突撃は各種地雷とグレネードランチャーと12.7oで阻止され、2回目の攻撃のゴー
レムを盾にしての攻撃は迫とカール君と105oによって文字通り「吹きとばされた」。
それでも帝國軍はあきらめない。いや、諦めないと言うよりはほとんど面子の問題になってきたので
はないだろうか。
相手は修道院+陣地。篭るは蛮族。兵力比は圧倒的に帝國軍が上。それなのに…未だに修道院の壁に
すら近づけず、兵は大損害を受け、ゴーレムは全て破壊されてしまた。そして帝國軍を馬鹿にする
放送はそのまま続いている。
この先どうするか? もしこれがWW2ドイツ装甲部隊や各国の機甲関係者なら「堅固な陣地?迂回して
しまえ」と回答するのだろうが、あいにくと帝國軍にはそう考える指揮官はいないようだ。それが何
を表すかと言うと…

「帝國軍側に動きがあります。街道の向こう側に展開している部隊の半数がこっちに移動しました」
「帝國側指揮所と思われる所からの声が聞こえてきました。なんだか頭に血が昇っているみたいな喧
騒が聞こえます。内容は不明」

本格的にこっちを落とす事にしたらしい。いくら近代火器で武装しても押し切られたらどうするんだ
ろう。

「帝國軍の先頭に弓兵が出てきました。あとは…ん?弓兵の中に魔法使いを感知」
?弓兵と魔法使い?どっちも遠距離攻撃OKだが、果たして効くか?
弓は射程距離にもよるが、風系統の魔法でそらす事ができる。魔法は、対抗魔法で中和ができる。
その為に姐御とミランタンがいる。2人だけでは不安かもしれないが、反撃は火器に任せて防御のみに徹する
から問題ないらしい。

「弓兵が射撃準備に入りました」

867 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/06/28 01:12 ID:???
113
「弓兵は射撃を開始!」
おー撃った、が、半分しか届かない軌道を取っている。これなら大丈夫と僕は思ったが、それは大間
違いだった。
「矢はとどか…何ぃ!」
10本の矢だけが他の矢とは違う軌道をとっている。その目標は…ウチだ。鐘楼だ!矢に「青いもやも
や」が見える所からすると魔法がかかっているに違いない。風魔法による防御は…あっさり突破され
た。他の矢への対応で手一杯&魔力で突破しやがったな。だが所詮は10本の矢だから問題は無い。
一応身を隠す。そうして10本の矢は同時に着弾した。
5本は外壁に突き刺さり、5本は窓から内部に入った。なんつー命中精度だ。
そうして矢は「爆発」した。

当然僕たちは爆風に煽られて壁にぶつかった。僕はその後に窓から落ちそうになったがなんとか助か
った。そうしているうちに2射目が来た。
今度は魔力つきの矢に集中でいたのか5本が外れ、5本が外壁で爆発した。
ま、まさかこれって「魔法剣」か?名作で名高い「最後の幻想」がタイトルなRPGに出てくる攻撃方法
で、武器に各種攻撃魔法を宿らせて直接攻撃+魔法攻撃で大ダメージな奴。この場合は矢に爆発系の
魔法を宿らせて射撃。魔力つきだから対抗魔法にも強く、射程も延びる。そして手練が狙う。これは
強力だ。弓兵の中に魔法使いを感知したのはこの為だったのか。
爆発の衝撃の中、倒れたままでそんな事を考える。冷静なのかそうではないのか我ながらよく分から
ない。
3射目が来てまた爆風が荒れ狂った。ああ、貴重な設備が壊れていく。「試製監視システム1型」もダ
メだ。陸自隊員が記録メディアを大慌てで回収している。
射撃は3射目で終わったみたいだ。
ぼんやりしながら僕は窓から外を眺める。狙撃の的になる非常にまずい行動だったが、その時の僕は
ぼんやりしていたからしょうがない。
空からかすかな音が聞こえてきた。
「ん、なんだろう」

868 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/06/28 01:13 ID:???
114
「それ」はこちらから見て太陽の中を飛んでいた。エンジン音やモーター音が聞こえない。ならば航
空機ではない。では何だろう?
それはどんどん近づいて来た。眩しくてよく見えない。
「不審飛行物体接近中」
ぼんやりしながら無線にそう報告した。その飛行物体はどんどん近づいて来た。そうしてある機動に
入ったのを見て僕は怒鳴った。それが間に合わないと分かっていても。
「敵機直上急降下!」

飛行物体は竜だった。竜と言っても人が1−2人乗れるぐらいの「ワイバーン」に分類されるもので、
知性は犬並みで、炎は吐けないそんな竜だった。その竜は6匹で、全部が何かを抱えていた。スツー
カよろしく奇妙な鳴き声をあげて真田丸への急降下爆撃を開始した。奇跡的に対応が出来た城壁設置
機関銃が火を吐き、1匹を撃墜した。が、残りは真田丸へ何かを叩きつけた。そうして竜は逃走に入
ったが、機関銃により2匹が落とされた。6匹のうち3匹を撃墜だからそれなりの戦果だが、投弾の影響
を考えると小さな戦果だった。

真田丸に投弾されたモノは着弾と同時にかなり大きな炎を吐き出した。真田丸に篭る陸自隊員が消火剤
をかけるが…火勢の方が強くて炎は消えなかった。それが5つ。しかも開口部やその手前に落ちるなど
で戦闘に支障が出ていた。

「うわ、まずいぞ」
思わずそうつぶやいてしまう状況だった。
「草壁、こっちもまずいから逃げるぞ」
「え、何が?」
「鐘楼が崩れかけている。総員退避」
そう言って隊長が総員退避を命令した。鐘楼の責任者である3尉は最後まで踏みとどまり、全員を掌握
して退避を確認後に自分も退避した。
その後すぐに鐘楼が倒壊した。

869 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/06/28 01:15 ID:???
115
鐘楼が崩れてしまった後、他部署への応援に向かうために駆け足をしていると、この戦闘中だっつーの
に門の所で揉めている馬鹿がいた。その馬鹿はアスという形をしていた。
「そこをどけクラウス副隊長!我らは今から出撃し、敵に打撃を与えてやるのだ」
「何を言っているのですアス隊長。あなたの部下はもはや30騎しかいません。それでは無駄死にです」
「ならばお前の部下をよこせ」
「あなたの誇りだけの為に部下を死地に追いやるのは私の仕事ではありません!」
「うるさい!ここで突撃を行えば敵は混乱するに違いないのだ」

閂がかかった門の前でクラウスちゃんたち10人がアスたち30人を足止めしている。会話から察するに
アスが無断出撃をやらかそうとしているのか?
当然、僕たちを掌握している3尉が介入する。
「雑兵は去れ!我らが神聖なる誇りを汚す行為はゆるさんぞ」
そうどなりつけるアスの眼は完全にイっていた。ヤクの影響が出てやがる。
「出撃命令は出ましたか?それを確認するまでお待ちください」
そう言って3尉は無線で隊長に確認を入れる。
無断出撃の可能性がある以上、当たり前だ。
その間にアスは左右の部下に目配せをした。そうして剣をいきなり抜き放った!
「総員突撃!」
とアスは叫ぼうとしたが最後まで叫べなかった。その理由は…
『私が「総員」の段階でアスを殴り飛ばした』
からである。
大胆不敵な行為にアスも、騎士も、陸自隊員もあっけにとられたが、その状況はスピーカーから流れ
た命令で吹き飛んだ。

「帝國軍の総攻撃が始まった。総員所定の場所へつけ!真田丸は放棄!全員修道院内に撤退しろ!」



265 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/07/04 22:52 ID:???
31回目の投稿
輸送戦記?
116

帝國軍の総攻撃の報を聞いてアスが喚き始めた。
「これぞ好機!帝國軍などチンピラゴロツキの集団。我々が進めば鎧袖一触!」
「お前は打通太郎か!」
そうツッこんだ直後に真田丸から撤退してきた隊員が戻ってきて、さらに他の手すき隊員も到着。
そうしてその中にいる後藤1尉が臨時に部隊を掌握。
「クラウス副隊長!君の所で君を外した若い奴を10人借りるぞ。弾薬運びに使う。あとアス隊長。君
の所はここで待機して逆襲準備に入れ。ただし逆襲は命令があるまで待て。あとは草壁も弾運びだ」
やっぱり逆襲馬鹿のアスは自分の目の届く所に置いておくのね。で、仲が悪い僕を遠ざけておくと。
「草壁と選抜した騎士はすぐに作業に入れ!早くしないと弾丸の壁がなくなる」
そう言われてしまえば急ぐしかない。駆け足で弾薬庫にしている修道院内の地下室に急行。

「待て。どこからの命令でどこに持っていく」
当然と言うか何と言うか、弾薬庫警備の隊員に誰何された。
「後藤1尉の命令で城壁各所へ銃弾を持っていきます。後ろの騎士も同じです」
「うん。よし、持って行け」
後藤1尉からの連絡があったらしくすぐに通してくれた。事前連絡が行っているとやっぱり楽だね。こ
れが全く行われないと現場に全責任がかかってくるんだよなぁ。
それはともかくさっそく持っていかねば。
「12.7oと5.56oとカール君用の弾だな。えーとこれとこれはそっちの君にお願いします。2人1組で
持って行って。うん、城壁に陣取っている隊員にね」
運び先を割振った後は僕の番だ。魔法による補助があるから多く持てるな。ならばこう持つか。
12.7o弾薬箱(大)を右腕に。5.56o弾倉いり布袋(大)を右手に。トドメにカール君用弾をリュック
ごと持っていく事に。ちょっときついが問題は無い。早く行って先行した騎士たちに追いつかないと。

266 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/07/04 22:53 ID:???
117
魔法の補助があってもやっぱり重い。えっちらおっちらと修道院の廊下を進む。
とその前に現れた黒い影。それはアスだった。

あれ?アスは門の前で待機じゃなかったっけ?その疑問が出たが気にせず運ぼうと思ったが、いきなり
アスが通せんぼをしやがった。
「この下賤の者め!よくも誇りある我の顔に泥を塗ってくれたな」
…さっき殴り倒した事か?
「命令無視して勝手に突っ込もうとしてたわけですから普通は止めます」
「命令?フン。あのような草木で染めたような醜い服を着た下賤の者の命令など聞けん!」
こいつ馬鹿だ。
「下賤の者だろうが何だろうが命令は命令です。よって私は今から弾薬を運ばねばならないのでどいて
ください。私はまだアパムになる気はありません」
「うるさい!我の用が先だ!」
完全に目が血走っている。まずい、剣に手がかかっている。ここで抜く気かよ。となれば強行突破か…
ん?あの手が使えるかも。

「アス隊長」
「何だ下賤の者。反省して我が剣の錆になる覚悟ができたか?」
「受け取って!」
そう叫ぶと僕は12.7o弾薬箱(大)をアスに向かってブン投げた。
いきなり『受け取って』と物を投げられればとりあえずは受けとってしまうのが当たり前。アスもその
例外ではなかった。問題はその『モノ』が大きさはキャリングケースとほぼ同等で、重さはそれ以上
の鋼鉄の塊であった事か。

267 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/07/04 22:54 ID:???
118
「うわっ」
思わず受け取ってしまい、その勢いに押されてアスは引っくり返った。
「何をするこの下賤の者め、早くこれをどけろ」
アテを転ばす為に行ったのだからんな事する訳はないだろ。
そうして弾薬を素早く下ろしてアスに近づいた。
「アス隊長。全てあなたが悪いんですよ」
そう囁くと僕は、荷物につぶされてもがいているアスの後頭部をブンなぐって気絶させた。

「悪いけど邪魔されたくないのでここでおとなしくしてくださいね」
と気絶しているので答えられるわけはないのだが、そう声をかけてそばにあった部屋にアスを入れた。
「お、ラッキー。ロープがある」
おあつらえ向きに物置らしいその部屋には短いロープがあった。こら幸いとアスの手足を縛り、持っ
ていたハンカチで猿轡をかませた。これで少なくともこの戦闘中はちょっかいを出せないだろう。
これで邪魔者は片付いた。さっさと行かないと。

そうしてやっと外に出たが、状況は思ったより悪化していた。
城壁の一部が炎上していた。
大急ぎで弾薬を持っていく。

「畜生!やつらまた突入してきやがった!弾薬がたりねー」
「!またファイヤーボールが来ます!全員伏せろ!」
僕も伏せる。そうして僕たちから離れた所に着弾して炎上する。そうしている間に帝國軍は前進す
る。魔法攻撃で頭を下げさせているうちに歩兵を進ませる。本当に相手は中世の軍隊かよ。
「弾薬を持ってきました!」
収まると立ち上がって怒鳴った。
「早くよこせ!」
まさに地獄だった。

268 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/07/04 22:55 ID:???
119
修道院へ向かう道は死体だらけだった。
魔法の支援があるとは言え、銃弾の壁に阻まれていたようだ。で、遅まきながらその壁を形成して
いた銃座をつぶしにかかったと。
各銃座は臨時に屋根や壁を作っているから大丈夫だが、それ以外の所は何もされていないから矢が
たまに飛び込んできたりして負傷者が出ている。もっとも、迫撃砲が狂ったように打ち込まれている
から差し引きではまだこちらの方が有利だ。気になるのが真田丸の失陥だ。
そう考えながら銃弾の補給を手伝っているといきなり真田丸が爆発した。

「イヤッホーざまあみろ!」
真田丸近辺に集結していた帝國軍がまとめて吹き飛ばされ、修道院から歓声があがる。
「え、何で爆発したの?」
「無線で自爆装置がしかけてあったんだろう」
いわゆるトラップね。相手の戦力をそいで、なおかつ遺棄した兵器を渡さない。合理的だけど105o
砲はもったいないな。ま、しょうがない。

戦果に沸いた修道院だが、良い事があって気が緩んだ所に悪い知らせが飛び込んできた。

「迫撃砲は全弾を射耗。カンバンだ」

まずいな。火力支援がなくなってしまったのは痛すぎる。もっと弾はないのかよ。
そう考えた後すぐに退避命令が来た。
「ファイヤーボールがこっちに来る!退避!」
その声にすぐに反応したが、全員は逃げ切れなかった。


503 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/07/11 22:41 ID:???
32回目の投稿
輸送戦記?
120
「総員、状況報告!」
ファイヤーボールの直撃。その直後にここの隊長が情況報告を命令する。
「死者なし。軽症者5名のみ。戦闘は可能です」
…直撃を食らった割には損害が軽いな。そう思っていると正門側にファイヤーボールが直撃したのが
見えたが、ファイヤーボールが着弾寸前に素人にも分かるぐらい減衰しているのが見えた。
PiPiPiPiPiPi
銃座そなえつけの無線の呼び出し音が響いた。多分指揮所からの問い合わせだろう。
「はい…こちらは死者なし。軽症者5名のみ。戦闘は可能です…はい。姐御たちの対抗魔法?それで
威力が減衰…ええ、この礼は100倍にして返します」
漏れ聞こえた内容によると姐御たちが防御魔法を張り続けてくれているから助かったらしい。ならば
姐御たちの負担を軽くするために魔法使いを倒さないと。

「隊長!帝國軍はこっちが潰れたと勘違いしています。お返しとして魔法使いを殺りましょう!」
「草壁、お返しはいいとしてどうやって位置を特定する?特定できなければ攻撃はできんぞ」
「私は魔力を視覚化できます。さっき見ましたが、敵魔法使いは5人しか残っていません。後は下が
ったか死んだと思われます。今は4人と1人に別れているので4人を倒しましょう」
「…よし、やるか。それで敵の位置は?迫がもう無くなったから遠距離はダメだぞ」
「423.2m先の歩兵の集団の中です」
「よし、それならば草壁が照準した12.7ミリの弾着先を基準にして手持ちの火器を全部ブチ込むぞ」
奇跡的に生き残った12.7oにそれぞれが持つ5.56oに1つだけ生き残ったカール君による集中射撃に
よるヤマモト・オプションね。
「12.7mm着弾付近に全弾を撃ち込め。着弾確認後に発砲。弾薬が切れたら正門に回る事。今度は向こ
うが危ない」
「了解」
「草壁、狙いをつけたな…撃てぇ!」

504 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/07/11 22:42 ID:???
121
狙うは大きい「青いもやもや」が見える歩兵連中。
多分護衛と思われる歩兵を排除し、中心付近にいる魔法使いを倒す。そのためには全火力を打ち込ま
なくてはならない。道を開くのは火力、その道を塞ぐのも火力か。
僕が狙いをつけた12.7mmが歩兵を薙ぎ倒す。当然の事ながら外れ弾も出る、が、そこは5.56oがカバー
してくれる。そうして火力で肉の壁を突き崩し、その向こう側にいる連中に、12.7mmと5.56oとHE弾
が叩き込まれた。

だが向こうも最後にこちらに向かってファイヤーボールを打ち込んできた。それはおそらく断末魔の
あがきだったのだろうが、だからこそ後先考えずに魔力を注ぎ込んだ強力なものだった。結果、防御
魔法による減衰があっても威力は強力なままでこちらに向かってきた。
「た、退避!」
魔力がデカイ分、足が遅いようで今度は退避する余裕があった。
僕を含めた隊員は全員足す方が、置くしかなかった装備が丸ごと吹き飛んでしまった。もったいない
が帝國軍の火力の40%を吹き飛ばしたから十分に元は取れている。

「総員、点呼」
「総員無事です」
「正門に急げ!」
もうこの銃座は使い物にならない。ならば次の攻撃目標と思われる正門に向かうのは当たり前だ。
帝國軍は最初は散発的に魔法攻撃をしてきたが、何度も大損害を受けたのでそれぞれの火点に集中砲
火を浴びせた。どうやら残っているのは正門だけらしい。その正門ももう少しで沈黙しそうだ。今ま
での攻撃での損害に、最後に残った魔法使いの攻撃+矢で攻撃しにくくなっている。ならばその隙に
正門に押し寄せるのは当たり前だ。それにしても魔法の集中運用をとっさに思いつく指揮官がいると
はF世界も油断ができない。

505 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/07/11 22:43 ID:???
122
正門に人が集まっていた。
正門の上にある見張り台にも人がいたが…見ているうちに魔法の直撃で崩れた。
そして門前には伊良子3佐みずから指揮を執って準備を整えていた。
「おう、来たな。全員火器はあるな…臨時に造った遮蔽物に隠れて待機だ」
まさか。
「おそらく門は破られる。向こうの連中は丸太を使った破城槌を持っているからな。そこで突入して
くるだろう。で、バリケードを臨時に造っておいたからそこで足止めしているウチに殲滅。その後
にそのまま射撃なり突撃に切り替える」
うを。ア●スラー●戦記(頼むから続編出して)にでも出てきそうなカウンターですな。本当なら落
とし穴もつけたかったに違いない。

「草壁君。君は別の所に行ってくれ」
「はい…ですがこちらは人手が必要なはずです。ここで外すのは私が民間人だからですか!」
「違う。君は城壁にこっそり上り、帝國軍の動きを細かく報告してくれ」
「はい。ですが」
「命令は既に達せられた!護衛を2人つける。行け!」
「は、はい!」

大慌てで駆け出す。しょうがない、3佐にあそこまで言われてしまったらもうやるしかない。
大急ぎで梯子を使って上り、瓦礫で身が隠せるところにこっそり潜む。こっちは準備万端整った。こ
っそり帝國軍をみてみたら攻撃が止めてまた白旗を掲げた騎士が走ってきた。ありゃ最初に降伏勧告
をしにきた奴じゃないか?だけどなんだかぼろっちいが。

506 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/07/11 22:44 ID:???
123
「我は栄えある帝國騎士アンドリュー・ニコルスである! 諸君の防戦は見事であった。が、もはや
落城は確実である。そこで我が大将デニーズ・ヒックリー様は諸君らに再び名誉ある降伏の機会を与
えて下さった。すぐに降伏すべきである!」
…またかよ。そうおもっていると伊良子3佐が拡声器で返答した。
「降伏か…考慮しよう」
「おお、やっとその気になって我が帝國の力を知ってひれ伏すか」
「しかし困ったな。こちらには帝國軍を全員収容できるスペースがないのですよ」
「…何を言っている?」
「帝國が我々に降伏するのでしょう?」

3佐…あなたはイギリス人ですか。後はこの時の為にそのセリフをとっておきましたね。
当然と言うかなんと言うか、ニコルス君はカンカンに怒って戻っていった。
陸自隊員からはヤンヤの歓声があがり、修道士とクラウスちゃんたち騎士は呆れ果てているようだ。

「ホークアイより総員。盛り上がっている所悪いのですが、帝國軍が接近してきました」
そう無線にささやき、実況中継を続ける。
「あと100m。90m…」
「総員着剣」
小銃に着剣する音が響く。
WW2以来初めての部隊単位での銃剣突撃があるのか。諸外国からけっこう恐れられている上に、掃討
段階での出会いがしらの戦闘が多くなって見直されているらしいが。
「総員抜剣」
こっちはクラウスちゃんたちだ。
「総員射撃準備。ただし突撃は命令あるまで待機」
こっちの準備は整った。そしてついに始まった。
「帝國軍が突入しました!」


622 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/07/18 22:26 ID:???
3回目の投稿
輸送戦記?
124
「こちらホークアイ。敵は徒歩歩兵のみ、その後に第2波と支援の弓兵がいます!あと80m。ああ、
弓兵が射撃を開始。照準は…うをこっちに来た!」
「草壁!撤退しろ!」
さすがに矢の雨の下で実況生中継をするほど度胸はすわってない(あるいはイカれてない)のでさっ
さと撤退。大慌てでクラウスちゃんの所に合流。

「守、大丈夫か?」
「なんとか。でもそれはこっちのセリフだよ」
「なぜだ?」
「陸自で抑え切れなかった場合、クラウスちゃんたちが最後の盾になるんだよ」
「守、私たちはその為に生きている」
「Noblesse Oblige」
「どういう意味?」
「『高貴なる者に伴う義務』どこぞのおぼっちゃんに死ぬほど聞かせてやりたいですな」
それを聞いて周りにいたクラウス隊の騎士たちがクスクスと笑い、少数派のアス隊騎士がムッとした。
「それでは誇り高き騎士殿、私めもその高貴な義務に加わる事をお許しください」ニヤニヤ
クラウスちゃんはそれを聞いてびっくりし、そして困惑した。
「え、大丈夫なの?」
「負けたらおそらく(今までの損害などから見て)皆殺し。だったらまだ生き残る可能性がある方に
賭けますよ。それに腕ですがなかなかのものと自負しています」
「そうか…ダメと言ってもついてくるんでしょ?なら仕方が無いな。私と一緒でね」
「クラウスちゃんには傷をつけませんよ」
そうしてクラウスちゃんは満面の笑みを浮かべて言った。
「我が騎士団へようこそ」

623 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/07/18 22:27 ID:???
125
そうこう言っているうちにときの声があがって帝國軍が突入してきた!
こっちはカウンターを準備しているが…なぜか門には閂や錠が下ろされていない。当然、帝國軍は門
をあけて雪崩れ込み、そしてバリケードに阻まれた。

「撃て!」

伊良子3佐の射撃開始命令と同時に現在保有している全火器が火を吹いた。
そして今までのうっぷんを晴らすように姐御とミランタンの攻撃魔法も炸裂した。

5.56o弾が鎧を貫いた。
12.7mm弾が頭を兜ごと吹き飛ばした。
40oグレネードランチャーの破片が服や鎧や肉体を切り裂いた。
カールグスタフのHE弾がそれ以上の威力で敵を切り裂き、吹き飛ばした。
クレイモア対人地雷が帝国兵とその死体を区別無くそのベアリングで全てを挽肉にした。
そして最後に姐御とミランタンの火系広範囲攻撃魔法が一掃し、生者と死者を区別する事なく彼らを火
葬にした。

帝國軍の突入第1波は消滅した。
第2波は何も知らないまま突入し、第1波の死体の山に驚いて足止めされ、そして同じ火力の洗礼を受
け、1/3を残して消滅した。
第3波も突入したが、第2波の生き残りが結果的に盾になり消滅は避けられたが、それでも半減して
しまった。
正門は撤退しようとする第3波と、事情を知らない第4波がぶつかりあって大混乱に陥った。それを見
逃すような者はどこにもいない。HE弾を1発撃ち込んでさらなる混乱を引き起こした後、伊良子3佐は
トドメを刺す命令を出した。
「総員突撃」

624 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/07/18 22:28 ID:???
125
死者を冒涜する行為である事は百も承知。黒焦げになった帝國軍の死体を踏み越えて、陸自とクラウ
ス隊は混乱中の帝國軍に突っ込んだ。
長剣が敵を切り裂く。銃剣着き小銃が敵を突き刺し、ある時は発砲する。中にはサブマシンガンやシ
ョットガンを撃ちまくる者までいる。

「クラウスちゃん危ない!」
「ありがとう守」
クラウスちゃんの背後に回ろうとした不届き者を山刀で斬り、クラウスちゃんを助けた草壁。
「戦場で気を抜くな!」
そう言いつつ陸自隊員がサブマシンガンを2人に近づこうとした帝國兵に叩き込む。そして怯んだ隙
に騎士が突っ込んで掻き回し、他の隊員が支援をする。

修道院正門前は、日露戦争の旅順と化した。

ここまでに帝國軍は第1・第2波を潰され、第3波と第4波が恐怖と混乱の真っ只中にあった。ここまで
混乱してしまってはいくら強力な軍隊であってもまともな戦闘力は維持できない。そこに決死の覚悟
で突入してくる火器を装備した不可思議な軍勢。これで潰走しない方がおかしい。
ここから回復したくとも指揮官は一緒に混乱中。太平洋戦争で米軍が銃剣突撃用に使用した鉄条網や
機関銃や迫撃砲による火力制圧もどきをしたくても、そんなものはF世界の軍隊には無い。火力代わり
に魔法を使いたくても10人いたはずの魔法使いは生き残りは1人しかいない。

帝國軍の修道院突入は火力による攻撃により頓挫させられ、時代錯誤と思われた銃剣突撃によって失
敗した。

625 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/07/18 22:29 ID:???
126
帝國軍突入部隊を追い払った後、修道院は再び門を閉ざした。
門の中では突撃が大成功を収めて大騒ぎ。
門の外では突入が大失敗になって意気消沈。
門を境に対照的な2つの勢力。だが片方はそれでも修道院攻略を諦めなかった。

「こちたホークアイ…帝國軍は再編成部隊と予備隊?から抽出したと思われる部隊をこっちに向けて
います。連中、まだやる気です」
正門の上に陣取った草壁が呆れ果てながら報告する。

「奴らは正気か?どう見ても20%以上、下手すりゃ50%は損害を食らい、魔法使いも10人中9人をや
られて火力も失った。なのにまだここを落とすつもりか。狂ってやがる」
陸自幹部が恐怖と共に叫ぶ。

「奴ら、誇りを少しでも取り戻す為にここに固執してるんじゃないのか?」
クラウス隊のある騎士がそうつぶやく。

そんな問題だらけの帝國軍だが、陸自にも残り弾薬が少ない事と、ケガ人続出で兵員不足という大問
題が発生していた。

「次を支えきれるかどうか怪しいな…司令部に『情況D』『サラマンダー』を報告しろ」
伊良子3佐は何かを決断した。

「こちらホークアイ。帝國軍がまた向かってきた!」

778 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/07/25 23:01 ID:???
34回目の投稿
輸送戦記?
127
「こちらホークアイ。帝國軍がまた向かってきた!数は1000程度。魔法使いはいない。何か梯子とか
を抱えています。あとは破城槌代わりの丸太も!」

なりふりかまわず攻撃を仕掛けてきた帝國軍。こっちは迫撃砲は撃ちつくし、同じくクレイモア対人
地雷も無い。各種銃弾も残り少ない。姐御たちの魔法も姐御たちが疲れ切っているのでダメ。怪我人
はいっぱいで軽症者は戦線復帰させている。ないない尽くしのロイヤルストレートフラッシュ。もう
こっちは城ならぬ修道院を枕に討ち死にかよ。まー修道院を守ったから天国かどこかには連れてって
くれるだろう。あるいは…ヴァルハラかな?
そう現実逃避気味な事を考えながら門につけてある視察穴から向こう側を見ている。あまりな情況に
思わず天を仰いでしまう。

「…なんだアレ?」
門の上などに色々なケーブルがのたくっているのが見えた。暗色系の色で今までは気がつかなかった
がよくよく見たら色々な所にある。で、その先は変な箱につながっている。何だろう?

「草壁!そろそろ門から離れろ。そろそろ奴らが来る」
うわ、こんな所で考え事をしている訳にはいかねぇ。さっさとズラかるか。
そして僕は門から離れてクラウスちゃんの所へ逃げ出した。
しかしもうここも持たないな。降伏もできないだろうし、考えてみたら僕がここで戦死したらどんな
扱いになるのやら。保険金は倍額らしいけど…

779 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/07/25 23:02 ID:???
128
臨時に作られた障害物の陰で様子を伺う。帝國軍はさっきの「引っ張り込んで皆殺し」を警戒したの
か、一部の兵を梯子を使って中に侵入し、安全を確認してから門の閂を外そうとしている。

「守。さっきはわざと開けっぱなしだったけど、今は門を閉めてわざわざ帝國軍に開けさせているけ
ど…なんでなの?」
不安になったのかクラウスちゃんが囁く。
「時間稼ぎかな?さっき伊良子3佐が『情況D』『サラマンダー』を宣言したいたからそれ絡みかな?」
「どちらにしてももうこの情況は落城寸前だよ…守、いざとなったらみんなを連れて囲みを破って逃
げるよ」
クラウスちゃんは何かを決意した顔をしている。こんなかわいい娘のこんな心配をさせちゃあいけない
な。
「正々堂々正面突破で逃走か…関ヶ原の島津がやって成功したっけ」
「なら…可能性はゼロじゃないの?」
「ああ、数千で正面にいる数万の軍勢を突破して本拠地まで帰る事に成功したんだよ。これはけっこ
う有名だから帰ったらクラウスちゃんに資料を見せてあげるよ」
「本当?約束は守ってね。守」
「わかってますって。お、クラウスちゃん。門が開くから準備して」
「う、うん」
そう言って安心させたが実はわざと伏せた事がある。確かに突破に成功したが本拠地に辿りついたの
は数千のうちの大将を含む数十人だけである事を。

帝國兵が門を開ける。この間に自衛隊からの攻撃は全く無い。おいおいどーするんだよ。
見ている間に帝國軍が中に入ってくる。やべー。そう思っていると伊良子3佐から通信が入った。
「総員、対衝撃防御。カウント3、2、1、0」
カウントが0になると同時に門が爆発した。

780 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/07/25 23:03 ID:???
129
兵士の集団が門を通っている時の爆発。あのケーブルと箱は爆破用のものだったのか。それにしても
爆発が派手だ。爆発でかなり大きかった門がなくなっている。そこを通っていた帝國軍は瓦礫の下。
既に通っていた連中は大丈夫だがケガをしている。まだの連中も同じ。敵は戦力を分断してかつ弱っ
ている。チャンス!

「総員突撃。敷地にいる敵を排除せよ。ただし門跡より外に出るな」
伊良子3佐の命令が下り、僕たちは帝國軍に襲い掛かった。
突然の爆発で右往左往し、ケガまでしている連中を「排除」するのはすぐに終わった。奇襲を食らっ
たらどれだけ脆いかよくわかる戦闘だった。

敷地内の帝國軍を駆逐しえから門跡の瓦礫に隠れて帝國軍を偵察したら…案の定後退していた。
いきなり爆発がおこってこっちがまた妙な手を使ったと考えて、まー実際使ったんだが、体勢を立て
直しを図っているんだろう。
それにしてももうヤバイ。門は敵を生き埋めにして、なおかつ妙な指向性がつくように調整されてい
たのか門の外の帝國軍を道連れにしてなくなってしまった。こっちはもう何もない。敵を防いでくれ
る石の壁は門が無くなって意味がなくなってしまった。旅順を演出した銃砲弾の壁も弾がないからも
うできない。残るは僕たち肉の壁は怪我人が多い。玉砕確定かよ。畜生。

「畜生、こうなったら1人残らず地獄へ引き込んでやろうか」
「その決意はちょっと早いな。草壁守」
いきなり装備している無線から声が聞こえてきた。
ん、何だこのエンジン音は?
そう思った瞬間に突入をしようとしていた帝國軍部隊に空からの砲弾が降ってきた。当然、彼らは手
足を砕かれ、頭を吹き飛ばされ、ミンチにされ続けた。

「こちらサラマンダー。待たせたな、騎兵隊の到着だ!」

781 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/07/25 23:04 ID:???
130
空を見あげると、空を飛んでいるのは4発エンジンでプロペラな航空機。どーみても輸送機だが、機
体左側に火器が満載され、機体は左旋回をしながら舐めるように帝國軍を駆逐していく。

「AC-130スペクター!」
「正解。助けに来たぜ。草壁守」
「その声は…日本食大好きな米空軍ギルバート・ケイン少佐ですね」
「HAHAHA。言ったろう、助けを呼んでくれたら参上するって」
「サラマンダーがあなただったんですね、で、スペクターが立ち入り禁止格納庫の主だった」
スペクターがまるでサラマンダーのように砲弾を地上に向かって撒き散らしている。
「正解だよ草壁君。副賞の特製糠漬けをプレゼントだよHAHAHA」
そうしているうちにこちらに向かおうとしていた帝國軍部隊は残らず屍と化してしまった。それでも
帝國軍は本陣と残った部隊だけでも修道院守備隊よりも多いが…攻めてこない。圧倒的火力を見せ付
けられて意欲を失ってしまったようだ。
「それじゃワタシは橋の方に行くのでここを離れるよ」
「ありがとう。少佐」

スペクターは飛び去った。が、帝國軍にはまだ災難が降りかかってきた。
「ん、あれは…陸自と王国軍だ!」
陸自と王国軍がついに救援にやってきた。遅すぎだが、修道院で足止め&損耗させて弱くなってか
ら『思い切り、横から、殴りつける』のは理にかなっている。それに王国軍は寄せ集めだから強い時
にぶつけるのは得策じゃない。だから今まで戦闘参加のタイミングを計っていたんだな。

陸自が持ち込んだ74式戦車が榴弾を撃ちこみ、帝國軍の自棄になった突撃を頓挫させた。89式装甲戦
闘車&87式偵察警戒車の射撃と87式自走高射機関砲の対地モード射撃で撃ち残しを倒し、そして残敵
掃討の段階になってから王国軍が突入した。
もう終わったな。

936 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/08/01 21:33 ID:???
35回目の投稿
輸送戦記?
131
87式偵察警戒車の25o砲、89式装甲戦闘車&87式自走高射機関砲の35mm砲、74式戦車の105o砲。そ
れぞれが帝國軍を文字通り『挽肉』にし、王国軍が突撃を行っている。そんな戦場を僕たちは眺めて
いる。
クラウスちゃんをはじめとするクラウス隊の面々と修道士たちは、装甲車両+火砲による『戦闘』を
恐怖と興奮が入り混じった表情を浮かべている。
「守…これが、守のいた所での『戦い』なの?」
クラウスちゃんは完全に怖がっている。僕たちを含めた自衛隊の恐ろしさ、そして裏切った時に自分
たちがどうなるかを想像しているのだろう。
「多分…まだ甘いと思う」
周りにいる騎士たちがざわめく。
「え…そ、それじゃもっとひどい…の?」
「ああ。1日で2万人以上が戦死したというのなら100年前からあるぞ。その100年前から今までの総戦
死者数は1億人を超えるらしい。」
あまりの数に真っ青になる騎士がぽつぽつ出る。そりゃまーそうだろー、総人口が数百万?以下な国家
がごろごろしている所に1億だからな。
「ああ、安心してもいいよクラウスちゃん。日本国は裏切られない限り味方にこんな事はしないさ」
「…何でそんな事が言えるの…」
「味方が少ない。帰れるかどうか怪しい情況だから味方は増やしたいし、今後の商売や外交を考えると
むやみやたらと敵を増やすのはアホだ」
それを聞いてみんな少しはほっとしたようだ。
ん、ちょうどいいや、まえから考えていた提案をしてみるか。
「そこで、クラウスちゃんに騎士の皆さんに提案をしたい。日本国に貸しを作っておくと後々有利だと
思うし、みんなの名誉も上がるし日本国も助かる。そんな虫のいいのがあるけど…どうする?」

937 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/08/01 21:34 ID:???
132
クラウスちゃんたちはそろってどんな提案なのか聞き耳を立てる。
「簡単。いまから出撃し、恐らく撤退準備をしている帝國軍司令部を襲撃。各種資料を捕獲する。当然
の事ながら指揮官を捕獲してしまえばなお良し」
「ちょっと待って下さい。もし襲撃しきれない程の敵だったらどうするのです?」
騎士の1人から質問が来る。
「その時は触接を続け、位置情報を陸自に流したり、嫌がらせ程度をやって撤退を妨害してしまえば
いい。捕獲よりは落ちるが陸自には助かる。逃げ出すのが遅れるとその分陸自が追い付く可能性が高
くなり、各種情報や身代金満載の司令部を押さえる可能性が高くなる。現代戦において司令部は宝の
山だから評価は高いぞ」
全員が黙り込み、お互い顔を見合わせる。迷っているようだな。ならばここで焚きつけるか。
「騎士は篭城しているだけなのか?」
「守。騎士は馬を駆って走り、戦うのが本分だ。その話に乗ろう。他の皆はどう?」
皆は歓声を上げて同意した。

「早く馬をもってこい!」
「伊良子3佐に報告を忘れるな!」
一気に騎士たちは準備を始めた。やはり騎兵は積極的な行動がお好みらしい。

「ところで…守はどうするの?」
「言いだしっぺが行かないわけにはいかないでしょう。私もついていきますよ。ただし問題が…私は
馬に乗れないんですよ」
「なら私と2人乗りだね」
マジですか?
「え〜クラウスちゃん、大丈夫なの?」
「守は私と一緒じゃイヤ?」
「そんな事はないぞ」
「なら決まりだね」

938 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/08/01 21:34 ID:???
133
「総員出撃!」
クラウス隊が一斉に出撃する。鎧に身を固めた騎士が馬に乗って走り出すのはかっこいいなぁ。問題
は僕がクラウスちゃんと2人乗りな事だけど。
騎士たちが出た後にバイクに乗った偵察兵が出てきた。伊良子3佐が安全の為&連絡役としてつけてく
れた人だ。
「クラウスちゃん。見たところ司令部は最初の所から離れているよ。どうやら逃げ出しているらしい」
「方向は分かる?」
「常識的には来た道を逆に」
「なら行こう。優勢な敵と遭ったら逃げて報告で。総員私に続け!」
すっかり指揮官が板についているな。王国のジャンヌダルクと呼んであげよう…てマスコミが書き立
てそうだな。

街道を走っているが、反撃を行おうとする連中とは遭わなかった。
多くても20人ぐらいの集団がぽつぽついたが、剣から何から放り出してしまった丸腰な連中が多い。
こっちを見て逃げ出す連中も多い。そりゃまー1万以上いた連中が半減どころかそれ以上の損害を食う
わ、敵は魔法みたいな攻撃をしかけるわ、空からデカい鳥が攻撃をするわと士気が崩壊するのは無理
も無い。
戦争に負ける事はこういう事か。

しばらく走っていると前方に徒歩の集団が見えてきた。身なりが立派だ、もしかして…
「帝國の司令部部隊だ!クラウスちゃん!」

どうやら向こうもこっちに気がついたらしい。護衛の連中が展開するのが見えた。…ん、青いもやもや
も見えるから、最後に残った魔法使いもいる!

「向こうはまだやる気だ。魔法使いもいるぞ!気をつけろ」

939 名前:Call50 ◆XVAlPbeLKw :04/08/01 21:35 ID:???
134
まずいな。魔法使いがいるのならば遠距離で攻撃魔法が来そうだ。散開させるべきかと思っていると。
「散開!密集するな。魔法の餌食になるぞ!」
分かってるな、クラウスちゃん。
そして進むが…攻撃魔法が来ない。もしかして引きつけてから一斉射撃を狙っているのか?もしそう
ならかなりやばいが、散開して多方向からの一斉襲撃に耐えられるかな?何せ帝國司令部部隊よりこ
っちの方が数が多い。

魔法使いが何か唱えだした。
「魔法が来るぞ!」
そう叫んで身構えた。この情況では炎か風系統が来そうだ。ならば火炎放射か鎌鼬か?…と思ってい
たが来ない。何かと思っていたら、いきなり地面が逆転した。

最初はさっぱり分からなかったが、どうやら馬が棹立ちになって振り落とされたらしい。クラウスち
ゃんも同じだ。他の騎士たちは愛馬と一緒に明後日の方向に駆け出したり、振り落とされたり、酔っ
払ったように歩いていたりしている。陸自の偵察隊の人は…バイクから投げ出されて動かない。もしか
して即死か。
「大丈夫かクラウスちゃん」
「う〜ん大丈夫」
と言って立とうとするが、立ち上がってすぐに変な風に転んだ。まるで平衡感覚がおかしくなったみた
いだ。
いったい何をかけたんだ?
「いったいどうした?」
「普通に立って敵に向かうつもりだったけど…何で転んだんだろう。普通に歩いたつもりだったのに」
おかしい。全員がそろって平衡感覚がおかしくなるのは絶対におかしい。魔法か?という事はあの魔法
使いは『平衡感覚をおかしくさせる魔法』を使ったにちがいない。どうしよう。


19 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/08/02 23:55 ID:???

36回目の投稿
輸送戦記?
135
前言を修正。『平衡・方向感覚をおかしくなる魔法』だな。効果対象は…なんだか広すぎるから個別
型ではなく、一定範囲の人間・動物を対象にする空間型か。見たところ魔法使いは詠唱を止めてない
から自然治癒は難しい。ならば蛇口を閉めるか。

「クラウスちゃんはここでおとなしくしていて」
「私も行く」
「こんな状態では何もできません。ならば待機して逆襲の準備をして下さい」
「守、でもどうするの?」
「幸運にも私には魔法がかかりませんでした。事前(98)にかけてもらった魔法で抵抗が上がってい
るのと、範囲が広がった分だけ魔法の強度が低い。この2つのどちらかあるいは両方でしょう。動ける
のは私だけならば、動ける奴が動くべきです」
あー、クラウスちゃんそんな心配そうな表情で見ないでくれ。
「大丈夫ですよ。切り込みをかけるような無茶はしませんよ」
「本当?」
「本当ですって。それでは行きます」

そう言って僕は走り出した。向かうはバイクから投げ出された陸自隊員の所。何か妨害があるかと思
ったが、特にはなかった。
このチャンスに魔法使いの護衛連中が切り込んでくるかと思ったが、そんな動きはなかった。多分、
今回の幻惑魔法の効果範囲は空間型だから、そこの空間に入った人間・動物を対象にできる反面、敵
味方お構いなしにかかるから突っ込んでこないに違いない。
魔法使いが別の攻撃魔法をかけるかもしれないが、複数の魔法を同時並行的に使用するのはそれこそ
賢者クラスの超高レベルでないと無理。ならば現在は幻惑魔法の維持に没頭しているので攻撃は無い。
ならば行けるな。

20 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/08/02 23:56 ID:???

136
倒れている隊員の所にたどり着いた。隊員は…もう息がない。仇はとります。
隊員が背中に背負っていた89式小銃を引っ張り出す。えーとどうやって発射するんだったっけな。
まず安全装置はかかったままだな。銃口は…覗くのはヤバイから手でさぐってみたら…防塵カバー
代わりのコンドームがかぶさっていた。なら大丈夫かな?後は衝撃でどこかおかしくなっていない事
を祈るのみだ。
まず弾丸は弾倉に入っているからOK。衝撃で装填済みの弾がおかしくなっているかもしれないor暴発
防止でまだ入っていない可能性があるから1回コッキングをして…よし、弾が出た。
魔法使い護衛たちはこっちを見ている。まずいな。
次に安全装置を外して、単射モードにして…バースト射撃にしたいけど、命中率が下がりそうだから
無し。次に2脚を立てて、僕も腹ばいになって伏射姿勢を取る。ここまでは知識を動因したり、他の
隊員を見ていてわかった。後は当てるだけか。

魔法使いに狙いをつけた。狙うのは胴体。面積が広いし弾が当たっても魔法を維持できるような奴は
○ードス島戦記に出てくる奴しかいない。少なくとも詠唱できなくさせればこっちの勝ちだ。そう思
って引き金を引いた。

1射目。外れた。那須与一やゴ○ゴ13じゃあるまいし、1発目から命中するなんて無理だから気にしな
い。
2射目。銃が反動で跳ねて外した。次は押さえ込むから大丈夫だろう。まずい、護衛が気がついた。
3射目。反動を押さえた。でも外れた。
4射目。外れた。どこに行っているのかわからないから修正ができない。まずい。護衛が魔法使いを
守るように動き始めた。えーいもう自棄だ。
5射目。魔法使いのいるあたりに端から振るようにして5発連続して撃って見る。護衛の2人が倒れた。
6射目。今度は逆から5発連続して。護衛3人に当たった。1人は腹で、2人は腕。高さは合っているから
後は左右か。

21 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/08/02 23:57 ID:???

137
結局8射目で魔法使いに当たった。なんとなくだが2発当たったらしい。

「クラウスちゃん、魔法使いは片付いた!」
まだ影響が残っていて多少フラついてはいるが、クラウスちゃんが立ち上がった。
「総員集合!」
1人で切り込んでも意味が無いので周辺で同じく苦しんでいた騎士たちを呼び集める。
やっぱりまだ影響はあるのでフラフラしているが、なんとか全員集まった。ただ問題がある。半分が
馬を失っていた。
馬が無い。まずいな、機動力が発揮できるのは半分かよ。
「馬を持った者は私に続け。徒歩の者は後からこい。魔法使いをはじめとする帝國兵はできるだけ捕虜
にする」
まずは手持ちだけで先行し、移動妨害をしかけているうちに後続を待つ事にしましたか。
こっちが魔法使いに攻撃を食らっているうちに帝國軍司令部部隊はかなり先にまで行っている。ほと
んどが騎乗しているから早そうに見えるが、豪奢な鎧や荷物の重量で人の疾走よりは速い程度になって
いるからまだ追い付ける。
「守、一緒に乗って。騎乗!突撃!私に続け!」

蛮声を上げて追撃を開始する騎士たち。今のクラウスちゃんは『民衆を導く自由の女神』ならぬ『騎
士を導く勝利の女神』ってところか。で、僕はさしずめ女神の横にいる黒い帽子をかぶった男ってと
ころか。
逃げ出そうとしている魔法使いと護衛たちを思いっきり無視して騎士たちは進む。
走っていると街道を疾走(と言うには遅いが)している帝國軍司令部部隊が見えた。
向こうもこっちを見つけたのか足を速めた…がそれでも遅い。こっちの速度なら絶対に追い付ける。
「彼らを追い越して道をふさげ!」
クラウスちゃんも立派な指揮官になっているな。それが良いかどうかはわからないが。

22 名前: Call50 ◆XVAlPbeLKw 04/08/02 23:59 ID:???

138
帝國軍司令部部隊は結局、追い付かれてしまった段階で降伏した。
数は20人。大将デニーズ・ヒックリーや伯爵やら候爵やら上級・中級貴族がごろごろ。その中には帝
國騎士アンドリュー・ニコルスまでいたりする。
全員が武装解除され、1ヶ所に集められている。みんな一様に落胆していた。まー楽勝と思っていた
相手に軍勢のほとんどを滅殺された上、自分たちがまるごと捕まってしまえばこうなるか。
ん、1人だけ元気な奴がいる。
「我らを今すぐ解放せよ!さもなくば帝國本軍が相手になるぞ!今ならとりなしてやっても良いぞ」
その元気な奴はニコルス君だったりする。いやー若いね〜(英国的嫌味95%含有)
まー他はみんながっかりしているから扱いやすいが。

「大手柄だね、クラウスちゃん」
「うん。みんなも大喜びだよ」
「司令部をまるごと捕まえたから自衛隊には貸しができるし、身代金でおおもうけ。さらには王国
で唯一?の戦果だから名誉も上がるね」
嬉しそうなクラウスちゃんがちょっと緊張した顔になった。なんだろう?
「…守、ちょっと耳を貸して」
「ああ、いいけど?」
顔を近づける。
「ありがとう」
そう言ってクラウスちゃんは頬にキスをすると捕虜のいる所に走っていった。

その後ろ姿を見送りつつ僕は考えていた。
「僕はいつまでクラウスちゃんと一緒にいられるのだろう」
もう今回の戦いはこれで終わった。この後は僕は日本に戻されるのだろうか。
「こっちにいられるように申請でも出そうかな…」