498  名前:  魔術師1  04/02/17  13:23  ID:???  

>>496  
うん…でも最近流れが速いから一日見ないだけで次スレになってしまわないか心配でさ…。  

随分前に考えたネタ。  名前欄のはその時のコテ名乗ろうと思ってた物。  

オーク軍の襲来に対し、崖っぷちに立たされた人間の王国は「異世界の存在を召喚して一定時間戦わせる」という  
禁呪を発動させる。  その魔法は成功し、異世界より鉄の馬と火を噴く杖を持った軍隊が召喚され、オーク軍を蹴散らし始めた。  

…しかし。  

「…おかしいなあ。  もう既に召喚の永続時間は過ぎたはずなのに、送還されない」  

本陣にて、禁呪を発動させた魔術師は首を捻っていた。  いつまでたっても異世界の軍隊が元の世界に帰る兆しがない。  
召喚された存在は、魔法の効果時間が切れるとともに自動的にもとの世界へ送還されるはずだった。  
なのに、計算ではもうそろそろ、送還されてよい頃合だと思うのだが…?  

「おお、オークの醜い豚どもが蹴散らされてゆくぞ!!  うわはははは!!」  
「やれ!  殺っちまえ!!  ブタどもを殺せー!!」  

王や将軍達は狂喜乱舞して、異世界軍とオーク軍の戦いを見守っている。  
轟音と炎に包まれ、オークの軍勢は既に潰走し始めていた。  

「…やなばいんじゃないのか、あれ」  

ふいに、一人の騎士が魔術師の側に近寄ってきて囁いたので、魔術師は一瞬どきりとして緊張した。  


499  名前:  魔術師1  04/02/17  13:29  ID:???  

「な…なにがですか?」  
「いや、異世界の軍隊の事さ。  たしかにオークどもを蹴散らし、一方的に蹂躙しているように見えるんだが…統制が取れてない。  闇雲に戦っているような感じだ」  

てっきり魔術師は、異世界軍が帰らないことを指摘されると思っていたので、ほっとするとともに、確かに…と呟いて新たな疑問を異世界軍に向けた。  

「まあそりゃあ、彼らにしてみれば突然呼び出されて戦わされているんですからね。  混乱もするでしょう。  この魔法はそれも利用して、召喚した存在を戦わせているようなものです」  
「なんだそりゃ。  随分いい加減だな?」  

あ、まずい、と思って魔術師が口を押さえるももう遅い。  
騎士はさらに、「そんな方法で戦わせて、もし俺たちの側に攻撃しかけてきたらどうするんだ?」と言いかけて…。  

「おい…なんか、異世界軍こっちのほうに向かってきてないか?」  

槍を持った兵士の一人がそんな事を呟いた。  


一方その頃、異世界軍…つまり自衛隊。  

「化け物だ!!  うわああーーーっ!!」  
「北野ニ曹!!  畜生、ブタの怪物め!!  殺してやる!!」  
「RPGを、いいからRPGをはやく撃てっ!!」  
「ああああああああーーーーーっ!!」  
「バカヤロウ!  耳元でミニミを撃つなーっ!!」  
「状況を、状況を報告しろっ!!」  

…とりあえずこんな感じで。  


510  名前:  魔術師1  04/02/17  14:04  ID:???  

>>507  
画像の後の展開として妄想。  

「ゴング1、トカゲを見失った!  どこだ!?」  

「地面に落ちたのか…?  熱源、無し…」  

ガヅン!!  

「うわああああ!?」  

「どうした、ゴング2!?  応答しろ!!」  

「真下だ!!  トカゲがゴング2の真下に!!  …も、もう一匹、俺たちの後ろに!!」  

「2匹目がいたのか…振り切れ!!  いかん、熱源接近、回避っ!!」  



512  名前:  魔術師1  04/02/17  14:16  ID:???  

『…チュウガエリダト?  テツノトリニシテハヨクヤル。  j%dkwy(竜言語の固有名詞につき翻訳不可)、シッポニツカレタ、ナントカシロ』  

『タマニハオマエモウタレテミロ。  オマエノシッポハナガスギルカラツイデニミジカクシテモラエ』  

『…ダマレ。  コノ「カタホウヅノ」ガ。  ギタイハニドモツウジン。  サッサトタスケロ』  

『マテ、カミクダクノニモウスコシ…グガ#$hkアァァッ!?」  

『…チッ、バカメ、ヒノツマッタツツハクウナトマエニイッテオイタダロウガ…』  

ビシッビシッ…  

『ク…ツバサヲヤブラレタ…ヤムヲエンカ…ココマデダ』  


「やった…命中…!!  逃がすな、ミサイルをぶちかませ!!」  

「弾切れだ…燃料もギリだ、帰投する。」  


…即興な上資料不足でさらに文才ないのでこれが限界。  



824  名前:  魔術師1  04/02/18  19:31  ID:???  

じゃあ…  

「撃て!  撃て!  どうした山下1士!?」  

「ジャムりました!」  

「ええいこんな時に!!  貸せ!!」  

「自分もです!!」  

「……どいつもこいつもオンボロ銃め!!  うぐっ!?(矢が命中)」  

「班長!!」  

「大丈夫だ、貫通はしていない…」  

「畜生!!  なんで倒れない!!」  

「…牧村1士、落ち着いて頭を狙え。  胴体じゃ5発は当てないと死なない」  


…こんな感じでしょうかね。  





30  名前:  魔術師1  04/02/19  18:39  ID:???  

こちらの世界に召喚されて数ヶ月がたった。  
俺たちの中隊は毎日の激戦をどうにかこうにか、戦い抜いている。  
戦死者は多く、物資は残り少ない。  
元の世界に戻れるかもわからないこの状況で、精神をやられてしまう奴も大勢いる。  
今日も一人、自分の銃に話しかけている奴がいた。  
64式小銃の整備をしながら何かブツブツ独り言を呟いているので、何かと思えば  
「お前本当に頼りになるなあ。  お前といれば生き残れそうな気がするよ」  
とか、まるで恋人に話しかけるような口調で熱っぽい視線を愛銃に投げかけている。  
自分の装備に愛着を持ち、信頼するのは悪い事じゃない。  
だが、話しかけるところまで行くと異常だ。  
『その銃の名前は?』  『サー、シャーリーンであります、サー!』  
どいつもこいつも微笑みデブ二等兵か。  おめでてえな。  
かと思えば今度は装甲車やトラックに話しかけている奴もいる。  
だめだな、こいつら全員、元の世界に戻っても病院送りだ。  
そんな事を思いながら、俺は弾倉に7.62o弾を一発ずつ込めていた。  



31  名前:  魔術師1  04/02/19  18:40  ID:???  

その日の午後、森で哨戒任務に当たった。  
これが最悪だった。  運悪く、オークの斥候部隊と遭遇してしまったのだ。  
4匹までの胴体と頭に熱い鉛球をプレゼントしてやった時点で、弾切れになった。  
最近は弾薬の節約の為に予備の弾倉すら携行させてもらえない。  
だから、最後の一匹は鋭く研いだ銃剣で相手をすることになった。  
オークどもは豚の化け物のくせに、どいつもこいつもK−1選手みたいな体格をしていやがる。  
時たまボブ・サップ級のデカブツと出会うときもある。  そんなのと銃剣格闘なんかで殺し合いができるか?  
正直ごめんこうむりたい。  M2で挽肉にするか、装甲戦闘車で轢き殺すのでもなければ相手にしたくない。  

だが今此処にそんな便利なものは無い。  逃げ出したいが、向かい合って対峙しているので背を向けた瞬間斬られる恐れがある。  
どうにかして目の前のクソッタレ豚を倒してこの場を生き延びるしかない。  だがどうする?  オークは腹や胸を刺したぐらいじゃ死なない。  
銃弾3発以上撃ち込んでようやく息の根を止められるくらい、強靭な生命力がある。  まるで熊だ。  
狙うとしたら、眉間の急所…と、考える間もなく、オークがでかい剣を横薙ぎに振ってくる。  
図体の大きさの割りに、速い。  受け止めた銃が吹っ飛ばされ、腕がジンジンと痺れた。  
後ずさりした俺にオークが剣を振り上げる。  後ろは樹。  駄目だ、逃げられない。  
俺は死を覚悟した。  振り下ろされる剣の刃先がゆっくり、スローモーションみたいに動く。  



33  名前:  魔術師1  04/02/19  18:41  ID:???  

その時だ。  俺とオークの間に割って入る影があった。  
迷彩服を着た小柄な体格…シルエットは女性。  WAC!?  そう思った。  
その人影が、振り下ろされるオークの剣を楯となって受ける。  
血飛沫が上がり、叫び声も出さずにWACは地面に倒れた。  
俺は、一瞬何があったのかわからず呆然としたままその光景を見つめていた。  

気がつけば、オークは仰向けに地面に横たわっていて、そしてWACの体は何処にも見当たらなかった。  
地面には、血の跡ひとつ無く…代わりに、WACが倒れたはずの場所に、銃身が真っ二つになった64式小銃が落ちていた。  
そして、オークの左目に、鍔元まで深く刺さった銃剣が一つ。  たぶん、脳まで突き抜けているだろう。  
俺は、何が起こったのか、なんだかわからないまま、足元の、2つになった64式小銃を拾い上げた。  
「…俺を、守ってくれたんだな」  
弾き飛ばされたはずの64式小銃。  倒れたオークの死骸。  そして、いるはずの無いWACの幻。  
全部夢だった、そう片付ける事もできる。  オークは俺が倒した。  銃を楯にして、オークの目に銃剣を突いた。  
だが…何故かそう考える気にはなれなかった。  オークに殺されそうになったときの恐怖で、俺も頭がおかしくなったのかもしれない。  
俺も、愛銃に話しかける奴らの仲間入りってことか。  
それでもいい。  ただ、今は…俺の代わりに死んだ64式小銃に感謝するとともに、その死を悼む気持ちしか考えられなかった。  


64式小銃の精霊  オワリ  




842  名前:  魔術師1  04/02/25  19:39  ID:???  

『重装騎兵の突撃を止められるものなどこの世には存在しない』という言葉がある。  
騎兵のランスチャージは中世の戦争において、歩兵にとってはかなりの脅威だった。  
甲冑を着た騎士の体重は100キロ近い上、馬がそれ自体300キロ以上の重量を持つ。  
全部あわせれば最悪400〜500キロの質量が、横一列になって槍先をそろえて突進してくるのだ。  

これに対抗するために、歩兵は長い槍を斜めに構えて槍襖を作る。  
または、柵を作って突進を阻害する。  土嚢を作る。  穴を掘る。  
ありとあらゆる手段で、騎兵が突撃してこれないような防御策を考えるのだ。  
矢に余裕があれば、矢の雨を降らすのも有効だ。  
騎士は甲冑を着ているが、馬にまでプレートを被せると重量で馬がばてる。  
矢は甲冑を貫通する事はで着ないが、騎士が乗っている馬を倒す事は出来るわけだ。  
…馬にプレートをつけている場合はどうしようもないが。  

「しかし、我々はそういう心配はしなくていい。  我々には文明の利器がある。  かつて、無敵を誇った武田の騎馬部隊は織田信長の鉄砲隊に敗れた。  5.56oの鉛の弾丸嵐で、奴らをなぎ倒してやれ」  

塹壕の中で銃口を敵に向けて、発砲命令を待っている俺たちの横で3曹殿が何か言っている。  どうでもいい事だ。  
俺たちは引き金を引く。  それで敵の原始的な騎馬兵は倒れる。  近寄る事すら出来ずに。  

「おい、お前89式はどうした?」  
「はい、ジャムったらしくて…」  
「馬鹿、9o機関拳銃じゃストッピング性能に欠けるだろ。  俺の64式使え」  

何処かの馬鹿が銃の手入れを怠けていたらしい。  3曹は怒りもせずに、わざわざ薀蓄垂れ流してまで親切に銃を貸した。  
こいつ、知識をひけらかしたいだけなんじゃないのか?  とりあえず、あんたは上官失格だ。  
まあいい。  隊長が馬鹿でも、戦いには勝てるんだから。  
原始的な中世の軍隊なんかに、現代兵器が負けるかよ。  俺はそう思っていた。  



616  名前:  魔術師1  ◆YXzbg2XOTI  04/04/18  04:08  ID:???  

「かつてこの地を統治していた『帝国』は俺たち亜人種を奴隷扱いし、迫害していた。  そこへ、異世界から来たニホン人が『帝国』を滅ぼし、俺たちは解放されたと思った。  だが、この扱いは何だ?  
ニホン人は口では基本的人権だの自由だの平等だのと唱えるが、実際には俺たちに魔力拘束具をつけ、差別し、一方的に危険視し、迫害する。  ニホン人がこの地を支配するようになって、生活は豊かになったが、  
俺たちは奴隷のままだ」  

人虎族の若者が憶えたばかりの「新しい言葉と概念」を使って訴えかける。  
確かにニホン人が来てから俺たちは豊かになった。  農作物は20年前の数倍の効率で取れるようになったし、家畜の病気も減った。  
俺たちに多くの言葉を覚えさせ、新しい考え方を植えつけた。  
町や市場も出来た。  道には時折馬車ではなく機械の車が走るようになった。  
だが…俺たちとニホン人の間には、その権利や生活に大きな隔たりがある。  
ニホン人の法律である『ニホンコクケンポウ』というたいそうな代物に書かれているような事は、実際には守られていない。  


617  名前:  魔術師1  ◆YXzbg2XOTI  04/04/18  04:08  ID:???  

「それは、ニホン人の言う法律や人権が、所詮彼らのためだけのものでしか無いからだ。  ニホン人の中には、俺たちをあからさまに『人では無く家畜』とさげすむ者たちもいる」  
「ニホン国のホンシュウにある俺たちの隔離居住区に住んでいる仲間の扱いはもっとひどい。  ニホン人が俺たちに危害を加えても、俺たちには抵抗する事すら許されない」  
「知っている。  20年前、まだ『帝国』がニホン人と戦い始めた頃に人狼族の亡命移住者の子供がニホン人に暴行され殺された事は、まだ忘れていない」  

議場に集まった人狼族、人虎族、人兎族、人豹族、人牛族、人熊族、人猫族、他各種族の代表は口々にニホン人への不満を口にする。  

「所詮ニホン人も、『帝国』の人間と変わりない。  元『帝国』の平民や農奴の方が、いい暮らしをしている。  奴らにとって、人間以外の種族は結局異種族でしかないのだ」  
「戦うべきだ。  我らの祖父母が『帝国』に対して抵抗したように。  我々にはニホン人が教えた技術も武器もある。  今度こそ、我々自身の手で我らの領土を切り取り、我らの国を、自由と平等の国を創りあげるのだ」  
「だが、今戦って勝てるのか。  ニホン人が我々に与えた技術や工業はわずかだ。  我々に反乱を起こさせないために、奴らはわざとわずかな技術しか教えなかった」  

「だが…今立ち上がらなければ、豊かさに慣れた我らの子孫は、いつか支配される事になれてしまう。  『帝国」の時代を知る年寄り以外の若い世代は、今の現状が普通だと思っているものも少なくない」  
「我らの痛みを、恨みを、種族としての尊厳を失わないためにも、今立ち上がる必要がある」  

意見は統一され、結論が下された。  

「では…今此処に、我ら『自由獣人諸族解放同盟』はニホン人への独立と宣戦布告を宣言する!」  



237  名前:  愚者・魔術師  ◆YXzbg2XOTI  04/05/14  19:01  ID:???  

その1  

「貴様の柔らかい腹に短剣を突き刺して抉ってやろう、切り裂いてやろう、腸を引きずり出してやろう、自らの血と糞便の中で溺れ死なせてやろう、さあ、恐怖におののくがいい〜♪」  
「それがどうした、このフニャ○○の○○カス野郎、さっさと○○○○○○」  

魔物が吐く呪われた陰惨な歌をさえぎり、短く言い放つ。冷凍庫のような冷たい、そしてサーベルのような鋭い視線で刺す。  
大の男すら恐れる海の魔物が歌う声が途切れ、魔物たちは怯えた目をWACに向けるとすごすごと元来た海へ引き返していった。  

「………」  
「おお!退散してゆく!  たった一言で!  信じられない」  
「歌ってもいないし一言しか返していなのに何で…!?  まさかあの女性は到達者級の高位魔術師!?」  

「…男たちのなかで普段生活してるWACに言われたら大抵の奴はひるむよなあ」  
あの目で睨まれたら叶わない。  それを嫌というほど身に染みて憶え込まされている1士は心の中でだけ呟いた。  



240  名前:  愚者・魔術師  ◆YXzbg2XOTI  04/05/14  19:11  ID:???  

その2  

「生き血おば  人より絞り  抜け殻を  砕きて啜り  宴開かん」  

「吸うならば  貴様こそのを  縊り殺  甲板をを  血にて洗わん」  

「我が腕  人の子ごとき  儚くも  微塵に砕き  肉塊とせん」  

「我が武器は  雷火の如く  轟きて  醜き頭  血の花咲かせん」  

もう40分ばかりこの応酬は続けられている。  
風流なのか殺伐なのかよくわからない雰囲気があたりを支配していた。  
勝敗がどうなるかと緊張した面持ちで成り行きを見守っているのは船乗りたちと他の自衛官だけで、  
戦っている魔物と1曹の二人だけは扇など扇ぎつつ汗一つかいていない。  
いや、双方とも心の内面では必死の攻防を繰り広げているのだろう。  
それを微塵も感じさせないあたりが、雅な歌人の心意気というものである。  




796  名前:  愚者・魔術師  ◆YXzbg2XOTI  04/06/14  07:50  ID:???  

『慢心が過ぎたようだな、異世界人』  
爬虫類の発声器官から発せられるその言葉は、まるで機械の合成音声のような奇妙なくぐもりを伴っていた。  
否、それは爬虫類と言うより恐竜の類に近いのかもしれない。    
少なくとも、変温動物にはありえない敏捷さと、巨体、そして高い知能を持つその生物を、ただのトカゲなどと同列に扱うのはまさに侮辱そのものであろう。  
5.56o口径の銃弾やカールグスタフなどその表皮には傷一つ与えられず、燃料不足の日本にはヘリや戦闘機で彼らを圧するのも自由ではない。  
むしろ逆に、制空権を奪われこちらの攻撃の届かぬ上空から炎の塊や雷の雨を降らされ、日本国の誇る陸上自衛隊の新世界方面隊第23師団はものの数分で壊滅した。  
『貴様らがこの世界に無理やり呼ばれた経緯は承知している。  そして、貴様らの国が飢えていて、全て命は生きる権利があることもな。  だが、お前たちが生きるために他の命を殺すならば、  
お前たちもお前たち以外の命が生きるために殺されて食われると言う事を、忘れてはならんな?』  



797  名前:  愚者・魔術師  ◆YXzbg2XOTI  04/06/14  07:51  ID:???  

戦闘装甲車や兵員輸送車の残骸が黒煙を上げてくすぶる傍らで、迷彩服を着た人間の死体を貪り食う、恐竜のラプトルにも似た小型の竜。  
自走榴弾砲を足蹴にして転がすのは、鳥類に似た骨格を持つ翼持つ竜…ワイバーン。  
翼を持たぬドレイクが90式戦車を鼻先で押してひっくり返す。  戦車の乗員はパイロヒュドラの吐く数千度の炎で蒸し焼きにされて息絶えていた。  
『我らの友邦たる森の妖精たちの住居をお前たちは侵略し、傲略し、殺戮した。  故に、我らは報復する。  このうえ、さらにお前たちが我らの領域まで侵略を続けるならば…次はこの程度の”警告”では済まさん』  
他の多くの竜たちを圧する威容を誇るその竜は、巨大だった。  翼の全長はゆうに60メートルを超え、頭から尾までの長さは100メートルを越すだろう。  
数千年、いや、あるいは数万年の時を生きる、まさしく真性の「竜」。  嵐や自然界の猛威の神格化、ギリシア神話のテュポーン、日本神話のヤマタノオロチ、中国神話の五つ指の龍、バビロニア神話のティアマト、北欧神話のファフニール…  
様々な伝承・神話に登場する、矮小な人間などでは太刀打ちできぬ至高の存在。  あまねく竜の眷属を束ねるハイ・エンシェントドラゴンだった。  
『心せよ、異世界の人間。  これ以上我らの領土に近づくならば、次は数千の我が眷属がお前たちの国土を焦土に帰るだろう』  

以後、この日を境界線として日本は異世界の最も強力な異種族と交戦状態に入る。  それは、神に挑む戦いにも似た、無謀で不毛な戦いの連続だった。  




863  名前:  愚者・魔術師  ◆YXzbg2XOTI  04/06/14  18:54  ID:???  

「自衛隊が守るべき自国民に銃を向ける様になっちゃあ、この国も終わりだな」  
「…何処の国だってそうさ。  俺たちが守るのは何だった?  政府のお偉いさんか?  幹部連中か?」  
二人の歩哨が駐屯地内を歩きながら話す。  その声はけして大きくない。  話している内容が内容だけに。  
「…今日な、メールが来た。  本土の弟から」  
「ここでも届くっていうのが奇跡だな。  NTTの中継基地まで何キロだ?」  
「…姉貴と義兄が死んだ。  街頭デモに参加してた連中と警務科の衝突に巻き込まれて」  
僚友の沈うつな表情に、彼も黙り込んだ。  本土の様子は、ここや植民地領よりもひどいと言う噂も聞く。  
「…俺たちは国と国民を守る楯だった。  だが、今は何だ?  エルフとかオークどもとかを殺すんならわかる。  だが、今日殺した開拓地の人たちは、何故殺さなきゃならなかった?  
口減らしのためか?  不必要な人間だからか?  国の方針に合わないからか?  主義や思想や宗教が違うからか?  出身地や部落の差別か?  俺たちは、何を守るために殺している?」  
「…答えなんかないさ。  今は生き」  
「答えはある」  
僚友の言葉をさえぎり、彼は強い調子で言った。  
「エルフやオークやこの世界の化け物どもを殺すのは、俺たちの仲間じゃないからだ。  日本人じゃない。  人間じゃない。  俺たちは俺たちの国民を、人間を守るために殺している。    
なら、なぜ俺たちは同じ日本人を殺す?  『自衛』隊は国民を守るための軍隊だ。  国民を守らないなら…それは既に自衛隊じゃない。  此処は、俺たちの原隊じゃない。  だから、原隊に復帰する」  
「言い方を変えただけで、それって脱柵っていわねえか、それ?」  
「…それでもいいさ。  付き合うか?」  
「現状にうんざりしてるから、俺はお前の話に付き合ってる。  聞くまでもねぇさ」  
進行方向先20メートルのテントから、悲鳴と泣き声が聞こえてくる。  同時に、下卑た笑い声。  
エルフの集落やオークの群れを駆除した後などは、同じような声や豚のようなうめき声が聞こえてくる場所だが、今日は「開拓村住人が全滅した日」なのだ。  
つまり…  
「どうする?  糞野郎ども見限るついでに助けていくか?」  
「それこそ、聞くまでもないよ」  
二人は、それぞれ89式小銃とミニミの安全装置を解除した。  




866  名前:  愚者・魔術師  ◆YXzbg2XOTI  04/06/14  19:26  ID:???  

「2尉どのは、何故人間は人間を殺してはいけないか、わかりますか。  人間は、仲間だからです。  仲間同士殺しあうのは、大きな罪です。  
なら、何故今日、そして昨日、俺たちは仲間を、人間を、日本人を、国民を殺したんでしょうか?」  
小隊長の頭に銃口を突きつけながら、彼は質問した。  すぐ隣では、暴行されていた少女が2名、肩を寄せ合って震えている。  更のその隣には…  
銃弾を受けて体中の風通しをよくした士官数名が床に接吻しており、僚友がミニミを抱えてそれを眺めていた。  
「此処は怪物たちの跳梁跋扈する異世界です。  俺たちは人間です。  同じ人間を、国民を守るために戦う自衛隊です。  国民を守るために怪物を殺します。  
なのに、貴方は守るべき国民を殺せと命令した。  何故か分かりますか?  それは、貴方が人間じゃないからです。  だから平気で人間が、国民が殺せるんです。  
貴方は怪物の仲間で、俺たちの仲間である人間に、俺たちの小隊長に成り代わって、本当の2尉どのは殺してしまったんです。  だから…俺たちは怪物を殺します」  
「貴様…こんな事をしてどうな」  
パン!  



867  名前:  愚者・魔術師  ◆YXzbg2XOTI  04/06/14  19:30  ID:???  

今朝まで部隊の指揮をとっていた小隊長は一見血に見える真っ赤な液体を流して絶命した。  
だが、これは本当の小隊長ではなく小隊長に成り代わった怪物なので、流しているのが血とは限らないだろう。  
この怪物の血が、赤いとは限らないからだ。  ただ、脳みそも一緒に流れ出ているのでいくら怪物でも死んだだろう。  
「動くな!」  
テントの入口から陸曹長に率いられた数名の自衛隊員が入ってくる。  全員89式小銃を構えていた。  
「…反乱は即時射殺。  覚悟しているな」  
「反乱はあなた方でしょう、陸曹長。  俺たちの敵は誰ですか。  俺たちが守るのは誰ですか。  何故今日自分達の国民を殺しましたか。  何故仲間を、人間を殺しましたか」  
「仲間だと…?」  
陸曹長は鼻で笑う。  そして、隅の方で怯える少女二人を指して言った。  
「こいつらは、我々が守るべき価値もない、無能者だ。  だからこんな未開地に送られてきた。  我々自衛隊は、こんな奴らを守るための組織ではないのだよ」  
「なら、何を守るんだ?  国民が仲間じゃねえなら、誰が仲間だっていうんだよ」  
「今まで何を教育されてきた?  我々の仲間とは、同じ自衛隊の隊員のみだ。  そして、我々は我々を守るためだけに戦う。  そして、組織の命令と規律は従わなければならん  
お前たちのような、重大な隊規違反を犯すような奴らは、特に許しておけんのだよ。  …2曹、撃て!  どうした!」  
陸曹長の命令に、2曹は従わなかった。  




869  名前:  愚者・魔術師  ◆YXzbg2XOTI  04/06/14  19:31  ID:???  

「…陸曹長どの、自分には弟がいます。  歳の離れた弟で、まだ高校生です。  今日、自分が殺した少年は、弟とちょうど同じ年頃でした」  
「何を言っている、2曹!?」  
「自分は撃てません。  陸曹長どの、貴方は間違っておられます」  
陸曹長の顔が見る間に赤くなる。  彼は、さらに部下に二人と、2曹をまとめて射殺せよと命じた。  部下達は3人に銃口を向ける。  
「…教育のされすぎで自分達の家族の顔すら思い出せなくなったのか、みんな。  母親の顔を覚えているか?  父親の顔は?  兄や弟はいるか?    
姉や妹は?  祖父や祖母は健在か?  従兄弟は?  叔父や叔母は?  一人でも家族や親しい人の顔を思いだせる奴はいるか?  お前たちは、お前たちの家族を、両親や兄弟を殺せと命令されても従えるか?」  
彼の言葉に、何人かががはっとした顔をして銃口を下げた。  そして、なおも銃を構える者や陸曹長に銃を向けなおす。  
「さ、これで形勢は互角って所だな」  
ミニミを構え、僚友はやけにのんきで明るそうな声で言った。  


治安維持が警察だけではまかないきれないので自衛隊が出張っていると言う事です。  
ま、一般部隊でも暴動鎮圧に出せると言うならそれでいいですが。  一般部隊の仕事になるかどうか判断付かなかったので。  




878  名前:  愚者・魔術師  ◆YXzbg2XOTI  04/06/14  19:43  ID:???  

「組織された暴力は、決して自ら意思を持ってはならない、か…」  
陸曹長の頭は柘榴のようにはじけ飛んでいた。  他にも、似たような死体がいくつか。  
どの死体も、鉛弾で体重を増加させていた。  
僚友は、彼の右腕を見た。  肉が裂けて弾け飛んでいる。  銃弾を食らったのだ。  自分も、肩に一発もらっていた。  
「運がよかったな。  俺たちが勝った。  …かなり際どかったけどな」  
無傷のものなど一人もいない。  死んだもののほうが多いし、重傷で呻いている奴もいる。  
本当に、幸運が味方したとしか思えなかった。  
隅でおびえ切っている少女達に、比較的血の汚れていなさそうな上着をかけてやる。  
「…俺たち、死んでたらどうなったかな」  
「どうもしねえだろ、今頃穴の中、さ」  
生き残った。  仲間だった人間を殺して。  いや、人間じゃなかったか。  
人間の心を失って、怪物に入れ替わられた奴。  
明日から、反乱部隊として扱われるだろう自分たち。  何処まで、逃げられるだろうか。  
「なあ、お前原隊に復帰するって言ってたよな?」  
「ああ」  
「帰るべき原隊が、『自衛隊』が何処にもなくなってたらどうするよ」  
「…その時は、俺たちが原隊になるさ」  
…本当に国を守る、国民を守る自衛隊が、国民を見捨てない自衛隊が、どこかにあると信じて。  




228  名前:  ◆YXzbg2XOTI  04/10/31  17:38:14  ID:???  

ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド    
「嬢ちゃん  重装騎兵ってのはアレだろ  フルプレート着た人間の体重に  
 馬自体の重量を加えた  怖ろしい突進力を持つ」  
ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  
「ランスを構え  横隊を組んで整列し一糸乱れず動く  
 槍先で徒歩の農民兵を突き殺し  馬蹄で踏み潰すんだろ?」  
 じゃあ  こういうのはどうだい」  
チッ    ボ  ン  ッ  
「な  …ッ!!」  
ド  カ  ッ  
ザ  ッ  「地雷原!!  地雷原だ!!」  
「止まったぞ  やれ」  
ガチッ  ガチッ  ガチッ  ガチッ  
ド  ッ  
ボ  ッ  
ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  
ド  ド  ボ  ゥ  ッ  ド  ゥ  ブ  ッ  ズ  ブ  ォ  ッ  ゴ  ッ  
「AHAAAA」  「AAA」  「GAAAA」  
「……  ………ッツ」  

「BINGO!!  近代兵器をなめるとこーなる」  
「こ…  こんなッ  こんな仕掛けを……ッ!!」  
「しかけ?  バカがつっこんでくるから悪いんだ  真正面から  
 殺気も心も動きも無い発動装置  
 そして点ではなく避けられない面攻撃  
 偽装隠蔽済みボールベアリングのクレイモア地雷列60個の同時発火  
 甲冑で防げるモンなら防いでみろっつうの  
 俺たちゃ接近戦弱いからよ  
 おっかねえから正々堂々とケンカなんかしねえぜ  騎士さんたちよう!!」  


229  名前:  ◆YXzbg2XOTI  04/10/31  17:39:25  ID:???  

別バージョン  

ヒュッ    ボ  ン  ッ  
「な  …ッ!!」  
ド  カ  ッ  
ザ  ッ  「迫撃砲!!  迫撃砲だ!!」  
「止まったぞ  やれ」  
ヒュボッ  ボムッ  ボムッ  ボムッ  
ド  ッ  
ボ  ッ  
ド  ド  ド  ド  ド  ド  ド  
ド  ド  ボ  ゥ  ッ  ド  ゥ  ブ  ッ  ズ  ブ  ォ  ッ  ゴ  ッ  
「AHAAAA」  「AAA」  「GAAAA」  
「……  ………ッツ」  

「着弾イマ!!  近代兵器をなめるとこーなる」  
「こ…  こんなッ  こんな仕掛けを……ッ!!」  
「しかけ?  バカがつっこんでくるから悪いんだ  真正面から  
 殺気も心も動きも無い着発信管  
 そして点ではなく避けられない面攻撃  
 120ミリRTおよび81ミリL16あわせて60門の同時射撃  
 突破できるモンなら突破してみろっつうの  
 俺たちゃ接近戦弱いからよ  
 おっかねえから正々堂々とケンカなんかしねえぜ  騎士さんたちよう!!」  



230  名前:  ◆YXzbg2XOTI  04/10/31  17:40:38  ID:???  

さあ  どうした?  
まだ魔力を使い切っただけだぞ  かかってこい!!  

使い魔達を出せ!!  正体を現して体を怪物に変化させろ!!  
丼飯をかっ込んで立ち上がれ!!  杖を拾って反撃しろ!!  
さあ戦争はこれからだ!!  お楽しみはこれからだ!!  

早く(ハリー)!  
早く早く(ハリーハリー)!!  
早く早く早く(ハリーハリーハリー)!!  

ばッ…ば  
ばッ  化物め!!    

そうか  貴様もそうなのか  魔法使い  
出来損ないのくだらない生きものめ  

ほざくな!  
異世界の軍隊め!!  
召喚主の国の犬になり下がった貴様に兵士としての  

五月蝿(やかまし)い!!  
お前は64式小銃の標的(エサ)だ  

う  あい  う  うお  うあおお  ああ  あああ  
ゴギャ  おごッ  げア…ッ  


231  名前:  ◆YXzbg2XOTI  04/10/31  17:41:21  ID:???  

往生際が悪い下士官だ  いくらあがこうが  逃げようが  無駄だ  
 あきらめろ  もはやこのネリェントスに  この魔都に  
 おまえたちが  逃げる所も  隠れる所も  存在しない  
 あきらめろ  異世界兵!!」  

「あきらめろ?  あきらめろだと  成程  おまえ達らしい  いいぐさだ  
 文明人でいる事に  耐えられなかった  おまえたちのな  
 自衛隊をなめるな  糞野郎どもめ  来い  闘ってやる」  

「……ッ!!  くッくくッ  上等じゃないか  異世界兵!!  上等ぉ!!」  

VoVoVoVoVoVoVoVo!!  

「…な……  ……あ  な…  何…  な゛  お゛  な…ん  ら  な゛んら゛ぼれわ!!  
 体が崩れ…  こ…  これは…ッ  エッ…  エッエ…ッ  エッエムッ  M60!!」  

ズゥルッ  


「おまえは……ッ  在日米軍  沖縄駐留部隊  海兵隊…!!」  

 「SEAL」「マリーン」「FMJ」「第4の軍隊」「最強精鋭」  

 「婦女暴k」  

 「それは余計だ!!」  



267  名前:  ◆YXzbg2XOTI  04/11/01  18:16:56  ID:???  

懲りずにまたネタ投下。  


もう駄目だ  俺たちはもうおしまいだ  

うるせえ!!馬鹿野郎!!  

もう化け物の相手なんかいやだ!!もう限界だ!師団本部も幕僚長も俺たちを見捨てやがった!!  
何いってんだおめえは  どこにも出れねぇしどこにも行かさねぇぞ  

俺は帰る!!もういやだ!!  
どこに行く気だ?おまえの墓穴はここだぞ  
墓標はこの馬鹿でかいネリェントス  墓守りはあのおっかねぇ物語は唐突に氏だ  

碑文にはこうだ  
「すごく格好良い自衛官たちが  人質を救出して  すごく格好良くここに眠る」  

だがおまえのせいで変わっちまう  おまえがメソメソしてるから  
「憲法違反の税金無駄づかい  旧軍のように無能を晒しながら  虫の様にくたばる」  

冗談じゃねえ  おまえには無理矢理でもカッチョ良く死んでもらうぞ!!  
好き好んで給料もらって好き好んで国防やってんだろが!!  おい1士!!  
だったら好き好んで国民守って死ねや!!  

糞・・・ッ  くそォ  畜生(ファック)  畜生(ファック)!!  

それにな  まだ死ぬときまったワケじゃねえよ  俺達ゃディフェンスだ  
ホレ!!さっさとバリ(バリケード)を組むんだよ!!  オタスケマン01が今  救出に来るさ  






683  名前:  ◆YXzbg2XOTI  04/11/18  17:32:40  ID:???  

流れと関係なく思いついたネタを投下。  

「誰か!誰か!誰か!」  
「(あー、こいつ早口で連呼するんだよなあ)青島1尉だ!」  
「2」  
「(えーっと10時は合言葉×3だったから…)6」  


PAM!  


「確かに小隊長の青島1尉です。  確認」  
「何故撃った?」  
「はい、ヒトマルサンマルより合言葉は×4になるとの通達でしたので」  
「自分で決めた合言葉のローテーション忘れたのか…  1尉、演習のときもよくこれで射殺判定喰らってたよなあ」  


その2  

「誰か!  誰か!  誰か!」  
「……………………………」  
「…っ!!  トローr(グシャ!!)  

「…誰何したら熊だった、てのはよくある話だが」  
「つーか大きさで気付けよ」  



545  名前:  ◆YXzbg2XOTI  04/12/18  16:42:59  ID:???  

じゃ、自分も適当なものを投下しようと思います。  
久しぶりにSSらしい何かを書いた…様な気がする。  
背景や設定としてはよくある日本召喚→F世界進出という感じのイメージで補完お願いします。  


「Dragon  Heart」  


それは、自衛隊のある小隊が北部地方の村を制圧しようとしたときのことだった。  
既にこの村を統治していた地方領官は駐留兵とともに逃亡し、住民は素直に降伏し自衛隊を受け入れるかに思えた。  
しかし、予想に反して住民は自衛隊の占領に対して抵抗し、武装して村ごと篭城の構えを見せたのである。  
住民の言い分はこうである。  

「我々はもとよりこの国には臣従しておらず、どこの勢力の風下にも立たぬ自由の民である」  
「我々は長い間、地方領官とその兵に対して抵抗を続けてきた。  彼らが去ったのは自衛隊が来たからではなく我々が勝利したからである」  
「故に、我々は自衛隊に降伏するいわれはない。  さっさと立ち去れ」  

自衛隊は主要な街道に近いこの村を、臨時の仮設補給集積所に利用しようと考えていた。  
そのため、村の早急な制圧を小隊長に厳命したのである。  
小隊長は、柵で周囲を囲い農具で武装した住民を見て、強硬な制圧が可能であると判断した。  
柵を無反動砲で破壊し、装甲車で突入。  下車して制圧。  住民は女子供を含めて一箇所にまとめて監視。  
住民の数は多くないし、大した武器も無い。  それで終わると思っていた。  



546  名前:  ◆YXzbg2XOTI  04/12/18  16:43:35  ID:???  

本来はこういう事は住民感情を悪くする上に自衛隊の、日本の方針や国民の世論上よろしくないのだが…折りしも、  
住民にまぎれた更衣兵の破壊活動が各戦線で問題となっていた時期でもあり、対応に苦慮した師団本部はこういう  
「強硬手段」を事実上容認し現地での指揮官に一任するという態度を取っていた。  

夜明けと共に作戦は開始され、予定通り柵を破壊した後、装甲車での突入、制圧戦が行われた。  
日本が転移して以来の実戦に次ぐ実戦で、屋内戦の経験は隊員の全員に覚えがある。  
だから、今度の任務も楽勝で終わる、そんな事を隊員の一人と先任陸曹は話していた。  
村の中央の広場にバリケードを築いて立て篭もった数名の住民を、小隊長を含む班とで包囲した時の事だった。  
十字砲火を浴びせれば、木材で出来た家具や荷車を組み合わせたバリケードなど、立て篭もった人間ごと粉みじんに粉砕できる。  
村内の他の家屋は捜索しつくし、殆どの住民は制圧し拘束したとの報告が入り、小隊長の顔に若干の余裕が見られた。  
バリケードの向こうに降伏を呼びかける。  大勢は決した。  これ以上必要の無い殺戮を行うことも無いだろう、皆そう思った。  
しかし、その予想は必ず裏切られると先任陸曹は考えていた。  これも、今までの経験から予想できたことだ。  
そういう事があまりにも、多すぎた。  しかし、今日ほど予想を裏切られたことになるとは、流石に思わなかったのだ。  

立て篭もる住民の一人が、フォークのような農機具を担いでバリケードの外へ出てきたのが始まりだった。  
彼は、農機具を構えると包囲する自衛隊員に向かって何を考えたか突進してきたのだ。  
小隊長は即座に発砲命令を下した。  四方八方から銃弾が、その男を襲う。  
男は農機具を捨て、両腕で頭部をかばった。  
嵐のような銃火に晒され、衣服が小口径高速弾の純粋な破壊力、運動エネルギーに引き裂かれ弾け飛ぶ。  
露になった素肌の下から現れたのは赤い肉片と白い骨では無く…ほのかに青く輝く銀色の鱗。  
陽の光を反射してきらめく、爬虫類を連想される硬い質感のその表面は、微塵の傷も付いていなかった。  
呆然とする自衛隊員の目の前で、さらに信じられない現象が起こる。  
男の体が、ぼろ布になった衣服をさらに引き裂いて盛り上がり、膨張をし始めたのだ。  



547  名前:  ◆YXzbg2XOTI  04/12/18  16:45:11  ID:???  

圧縮されていた質量が開放され、魔法の術式で記述されたとおりに、「人化」の変身が解除されてゆく。  
質量から蛋白質を製造するカロリーへとエネルギーが変換され、急速に肉体を構築。  
骨格や神経、内臓等も変形・成長を続け、人間の肉体を異なる生物のものへと変容させてゆく。  
ゆっくりと、しかし迅速に男の体は本来の肉体の姿へと戻りつつあった。  

「まずい…無反動を!」  

そう叫ぶ小隊長の頭を、男の腰から急速に膨張した鱗に包まれた長い肉塊が鞭のようにしなり、棍棒のように叩き付ける。  
その一撃で班長の頭部は頭蓋骨ごとざくろのように粉砕された。  
膨張と同時に急速に変形してゆく男の体は、何処かで見たようなシルエットをとりはじめていた。  
ある者は、博物館などで巨大な骨格標本を見ただろう。  
またある者は、映画でCG合成された姿を見たことがあるだろう。  
図鑑の想像図で、創作物の挿絵で、頭の中で描いた空想で、精巧に作られた某食玩メーカーのフィギュアで。  

誰もが見たはずだ。  獲物を噛み砕く巨大な大顎を。  
体と比較してやけに小さな前足を。  対照的に発達した腿の太い強靭な後ろ足を。  
長く太い丸太のような尻尾を。  
膨張が収まり、完全に変形しきって元の姿に戻った「ソレ」は、遥か古代に絶滅した地上最強の暴君の姿をしていた。  



548  名前:  ◆YXzbg2XOTI  04/12/18  16:46:21  ID:???  

『  ゴ    ガ  ア  ァ  ァ  ァ  ァ  ァ  ァ  ァ  ァ  』  

突風のような吐息と共にソレは聞くものの心の奥底より本能に刻み込まれた恐怖を呼び覚ますような咆哮を発した。  
はるか昔、人類の祖先が、暴君の足元を跳ね回る卑小な小動物だった頃、それを聞いていたのがDNAに記憶されていたのかもしれない。  
そんな事さえ、思いたくなるような根源的な恐怖だった。  
その威容と声の凄まじさに、小隊の何人かがパニックを起こして装備も何もかなぐり捨てて逃げ出す。  
しかし、銀色に光る巨体の暴君は彼らが走るよりも早く首を動かし、顔を横にして地面すれすれまで近づけつつ隊員の一人の背後から負う。  
そして、左右から迫るその巨大な顎で人間を捕まえた。  
左半身と腰から下を交差した牙の向こう側に持っていかれた不幸な隊員は、断面より血と内臓をこぼしながら地面に転がる。  
体勢を戻した暴君は、地上10メートルの高さから、咀嚼する肉塊を牙の隙間からぼたぼたと零した。  

「撃て!  撃てぇ!!」  

先任陸曹の号令の元、半ば恐慌状態になりつつも逃げ出さなかった残りの隊員が89式小銃を暴君に向ける。  
しかし、5.56ミリの小さな弾丸は銀色の装甲に阻まれ一切の傷をつけることは出来なかった。  
ただでさえこの巨体に小口径の火器では話しにならない。  さっきも小隊長は無反動砲の用意を指示したではないか。  
先任陸曹は自分も少しパニックになりつつあるのを自覚した。  

「無反動砲用意!」  
「距離至近、目標、正面、撃て!」  



549  名前:  ◆YXzbg2XOTI  04/12/18  16:48:07  ID:???  

怪獣映画のような巨大な悲鳴が響く。  暴君の右肩に命中した弾頭は轟音と共に爆発、破片を撒き散らした。  
が、それだけであった。  84ミリ無反動砲弾の爆発は、命中箇所の暴君の鱗を弾き飛ばし、その下の赤黒い  
肉と血管を露出させただけで、致命傷を与えるほどのダメージは全く与えていなかったのである。  

「総員、退却!  森の中へ!  ティラノサウルスは動きが鈍い!」  

確かに、ティラノサウルスは近年の研究でも他の恐竜に比べて動きが鈍く、積極的に狩猟をするよりも死んだ  
他の恐竜の腐肉を食べていたという説が有力である。  
しかし、これほどの巨体を維持するのに死体漁り位で追いつくのだろうかという疑問は大きいし、  
そもそもそれなら大型化する必然性に乏しい。  
それに…この白銀の鱗を持つ巨大な暴君が、かつて地球で発掘された化石の生物と、同一であるとは限らない。  
それは、先ほど逃げる隊員の一人に反応して捕食した素早い動作でも証明されていたはずである。  
瞬く間に、地響きを引き連れて暴君は逃げる人間たちに追いつく。  隊員の半数が悲鳴ごと暴君の牙の  
向こうへ飲み込まれ、一部が巨大な足に踏み潰された。  

「駄目だ…あれを殺すにはキューマルが必y」  

そう言いかけていた先任陸曹の上半身が血飛沫と共に消滅し、下半身は走りこみながら森へと飛び込んで、  
木の根に躓いて草の中に倒れた。  



数日後、機甲科中隊と合流した普通科一個中隊によってその村は制圧された。  
村の住民は全員が降伏を拒否したため、女子供を除いて射殺。  以後、この村は補給集積所として利用される。  
近隣の村落の住民によって、悪徳地方領官と自衛隊に抵抗し自由を貫き通した村の住民と、その住民に力を貸した  
偉大な竜の伝説が広まり、文献に収録されるようになったのは数十年後の話である。  

終わり  




721  名前:  ◆YXzbg2XOTI  04/12/24  17:19:58  ID:???  

あー、やっぱり駄コテ叩きが流れの主流になってる…  
よし、流れ無視してゲリラ的にSS投下。  


日本が異世界に転移してより数年。  
転移の原因もわからぬまま、未知の世界を開拓し始めた日本は、当初の資源および食糧不足からなる  
政情不安を乗り越え、新しい時代を迎えようとしていた。  
政権が改革され、新土開拓移住による雇用問題の解決がなされ、資源の採掘が軌道に乗り、転移直後  
に予想された問題は全て解決されてゆくかに見えた。  

だが、その希望は思わぬところから邪魔される。  
人類の天敵。  幻獣の出現である。  

開拓の進んでいた、日本が新土と呼ぶ大陸の奥地より出現し、瞬く間に勢力圏を拡大したこの世界の原住生物。  
彼らに口はなく、牙も爪もなく、ただ自身に蓄えられた栄養が尽きるまで戦い、死ねば赤い粒子となって消滅する生物群。  
人間に対し敵対行動を取り、人を見れば傘にかかって虐殺を行う、戦闘種族。  
自衛隊は彼らの物量に押され、開拓地の大半を失い避難民と共に本土へと後退を続けていた。  

200X年2月。  政府は開拓地の完全放棄を決定。  
避難民本土移送の時間を稼ぐため、自衛隊は時間稼ぎのため最終防衛戦として開拓都市「新常盤市」を要塞化し  
持久戦を行う命令が下される。  
同時に、前年度より試験的に行っていた、徴兵制度の完全実施。  
さらに、少年工科学校を全国的に拡大した防衛学校の生徒、約3000人を訓練未了のまま戦線に投入することを決定する。  
これは、相次ぐ敗北により人員不足に陥っていた自衛隊戦力を補うための苦肉の措置であった。  

こうして、避難民約20万人を本土へ脱出させるための捨て駒として、多くの少年少女が戦場に身を投じることになる。  




722  名前:  ◆YXzbg2XOTI  04/12/24  17:22:20  ID:???  

輸送艦「くにさき」に揺られること8時間。  
浜城防衛高等学校の生徒200人は新土への海路の玄関口「新常陸市」へ到着した。  
生徒のほとんどが、初めて踏む新土。  中学のときの修学旅行で来たことのある奴は自分も含めて少数。  
此処から、車で3時間の新常盤市へと向かう。  緑色の防衛学校制服(作業服だが)を着ていなければ、  
観光か実習に来た高校生に見えるだろう。  実際、ほぼ全員その乗りなのだが。  
中学生気分が抜けてないのは自分も同じで、春に防衛学校に入学して…というのも、自分は普通科高校に  
入れる頭がなかったから、仕方なく強制的に、この国の新しい制度とやらで入学せざるを得なかったのだけど…  
まあとにかく基礎訓練とやらもそこそこに、新土へ送られることになった。  
本格的な教育訓練はこっちで行うらしい。  
引率の教官が、生徒を移送用の車の列に誘導する。  ちょっとがっかりした。  
73式トラックじゃなくて、観光用のバスみたいなのだったからだ。  
しかも、車体が少し汚れている。  
自分と同じクラスの女子たちは、座席のある車に乗れて良かった、みたいな事を話している。  
あんまり大声で余計なこと話してると、教官に私語するな、と怒鳴られる…ほら、言わんこっちゃない。  

一応アスファルト舗装された、常盤市までの道路は田園風景が広がるばかりでとても退屈だ。  
本土の田舎とそう変わらない。  家があって、電線があって、見慣れたキャッシング会社の広告があって。  
時々、反対車線を走る車の列とすれ違う。  自分たちと同じような観光バスや、軽乗用車や軽トラ。  
どの車も、キャビンや荷台いっぱいに人を乗せていた。  みんなでピクニックだろうか?  
何故か地震とかで避難する人たちみたいな格好をしている。  時々、自衛隊の車両も走っている。  人を乗せて。  




723  名前:  ◆YXzbg2XOTI  04/12/24  17:23:55  ID:???  

ヘリの音が聞こえてくる。  窓の外を見ると2機のCH−47JAが新常陸市の方向へ向かって飛んでいくのが見えた。  
5分もしないうちに、今度は3機のヘリが飛んでゆく。  それの爆音が聞こえなくなると、また次のヘリが飛んでくる。  
その後も引っ切り無しにヘリは僕らの頭上を飛んでいった。  

どうせなら、ヘリのほうに乗りたかったな。  贅沢なことを考えてみる。  
バスの中はクラスメイトたちの会話するかしましい声で満ちていた。  
やっぱり、修学旅行の集団みたいに思えてくる。  目的地到着まであと2時間半。  僕は目を瞑ることにした。  





ここまで。  細かい推敲とかしないで見切り投下なんでこれまた突っ込みどころ多数。  
とりあえず流れよ変われ。  




130  名前:  ◆YXzbg2XOTI  04/12/31  05:07:13  ID:???  

こんな時間に早朝投下。  

「比翼」  


最初に知った感覚は、外の景色でなく音だった。  

わたしが初めて暗い閉じた世界から殻を破って外界に触れたとき、わたしは雄大で慈愛に満ちた巨大な影の下にいて、その庇護下にあった。  
生まれたばかりのわたしはとても虚弱で卑小で、地べたをはいずる虫みたいな存在だったが、わたしを生んだ巨大な母の翼の下にいれば、恐れも憂いも悲しみもないと知っていた。  
陽の日差しは未熟な鱗に覆われた体を焼くことなく、雨風は体から熱を奪うことなく。  母の翼が守ってくれていた。  
あの青き遥か天にも届くほどの高みから見下ろす母の優しい瞳が、わたしを愛しげに見つめて微笑んだ。  
その時わたしは、わたしの隣でさっきまでわたしを包んでいた堅い殻が破れる音をもう一度聞いた。  
見れば、わたしと同じく弱くて小さな体と翼と爪と牙しか持たないキミがいた。  
キミは何度か瞬きをして、驚いたような顔で辺りを見回した。  
きっと、はじめてみる外の世界のまぶしさに、驚いていたんだろう。  
わたしも調度その時、同じことを感じていたからだ。  

天と地の間にそびえ立ち、世界の四方をその翼の下に影で多いつくす偉大な母のもとで、わたし達は共に育った。  
やさしき春の風も、熱き夏の熱風も、冷たさをはらんだ秋の風も、厳しき冬の風も、何度も過ぎた。  
何十度、何百度となく、繰り返す季節と風の息吹とを、母の元でキミと過ごした。  


131  名前:  ◆YXzbg2XOTI  04/12/31  05:07:48  ID:???  

母の元から巣立ち、風に乗って遥かに見える山脈を越えたその先へと旅立つときがきても、キミはわたしの側に並んでいた。  
飛び立つための風は何度も吹いたのに、キミはわたしより先に飛ぼうとしなかった。  
何度目かの風が吹いたときわたしはついに走り出した。  翼を広げ、十分な助走距離を駆けて、台地を蹴った。  
走るときも、キミはわたしの隣に並んでいた。  地面を蹴るときも、一緒だった。  

そしてわたし達は、並んで空へと舞い上がった。  

それからのわたし達は、常に二人きり、いつも一緒にいた。  
剣のように立ち並ぶ山脈を越えるときも  
蛇行しながら地平へと続く大河の上を飛んだときも  
草木生えぬ岩と砂、灼熱の砂漠の上を何日も当てもなくさまよったときも  
氷河に覆われた極北の地を、世界の果てを目指して吹雪に逆らって進んだときも  
果てしなく続く大海の向こうの、誰も知らぬ伝説の大陸を探したときも  

いつも、キミがいた。  
やがて、やさしき春の風も、熱き夏の熱風も、冷たさをはらんだ秋の風も、厳しき冬の風も、何度も過ぎて。  
何百度、何千度となく、繰り返す季節と風の息吹とを、寄り添うようにキミと過ごした。  




132  名前:  ◆YXzbg2XOTI  04/12/31  05:08:23  ID:???  

そう、ずっと、ずっと  


キミは生まれたときからわたしと共にいて  

わたしの側にいて  

わたしの隣にいて  

ずっとふたり、寄り添って生きていくはずだった。  


あの日まで。  


キミは傷ついて帰ってきた。  
沢山血を流して  
頑丈で美しかった鱗は剥がれ落ちて  
強靭だった翼はぼろぼろに引きちぎれて  
息も絶え絶えに、わたしの元へ帰ってきた。  

苦しそうな声でうめくキミを  
最後の吐息が吐かれるまで  
美しい夜空の星のような瞳が閉じるまで  
体から熱が奪われていく最後の一瞬まで  
わたしはキミに寄り添った。  





133  名前:  ◆YXzbg2XOTI  04/12/31  05:09:16  ID:???  

許さない  

許せない  

ずっとずっと、共に過ごしてきたキミを  
寄り添って生きてきたキミを  
この世の誰よりも愛しいキミを  
どうして奪われなければならなかった?  
どうして殺されなければならなかった?  
キミはもう居ない  この世界のどこにも居ない  
剣のような山脈にも  大河の上にも  砂漠の空の下にも  極北の地にも  果てなく大海の向こうにも  
この世界の何処を探し回っても、キミはいなくなった  

いつもわたしの隣に居た翼は、もう居ない  
二人で、風に乗って飛ぶ事は、もう無いのだ  

誰が殺した?  誰がわたしからキミを奪った?  誰がわたしからわたしの半身を奪い、飛べなくした?  

誰がわたしを独りぼっちにしたんだ!!  




134  名前:  ◆YXzbg2XOTI  04/12/31  05:11:42  ID:???  

天の星々を叩き落さんがごとく、わたしは叫んだ。  
怒りと憎しみを胸の奥に燃やして、風を捕まえて飛んだ。  
わたしの仇はどこに居る?  
キミの仇はどこに居る?  
必ず探し出してやる。  捕まえて、踏み潰して引き裂いて噛み砕いてやる。  
わたしからキミを奪った相手を、絶対に許さない。  

許すものか!!  



「軽装甲機動車4両、高機動車3両、トラック多数、APC3両、高射機関砲2門、人的被害は死者行方不明者14名、重軽傷者…」  
「…施設建造物まで含めると損害が怪獣映画並だ。  まさか、2匹いるとはな」  
「番で巣を作っている事は十分予想できた。  現地人の専門家の意見に耳を貸さなかった幹部連中の責任だ」  
「耳に入れて居たさ。  だが、ここまでとは思わなかった。  襲ってきても携SAM1発で事足りると…」  
「管理中隊の認識なんて、『害獣駆除』ぐらいが関の山さ。  流石に次は無いだろう、Bの連中でも学習する脳みそぐらいは無きゃ、幹部なんて務まらないだろ?」  
「そう思いたいがな…」  

まだ仕事は残っていた。  先に退治したドラゴン、おそらく雄…今回撃墜した方はどうやら雌らしかったので、の死骸の確認と、番で巣が作られているのならば…おそらく「卵」が既に産卵されている可能性がある。  
これらを発見して後始末をしない事には、完全に安心する事が出来ない。  

                   AH-64D  
「捜索には引き続きロングボウも使用する。  尾根と言う尾根をくまなく探せ」  

終わり。  




66  名前:  ◆YXzbg2XOTI  05/02/18  01:14:09  ID:???  

乙ー。  
ところで山ノ神というと、実はあんまり良くない神様も多いんですよねえ。  
良い神も悪い神も、祀って煽てて機嫌とって鎮めるのが日本のやり方ですが。  


ある地方では、猟師が山に入るときは仲間同士の名前もそうだが、動物の名前を直接言わない。  
猿はフタツ。  猪や鹿はヨッツ。  鳥は特に名前がない。  
獲物を追い立て、罠を張り仕留める山の男たちが恐れるモノが山には住んでいる。  
それに会うのはごくまれだ。  ちょくちょく会いたくないものだし、逢ってはならないモノだ、  
猟師はそれをミツと呼ぶ。  

「撃ち方、やめ!  点呼!!  班長は隊員の数を報告!!」  
「1班、2名やられました!」  
「3班、1名不明!  上山士長です!」  

銃で殺せない獣はいない。  銃で撃たれて死なない人間はいない。  
死ににくい獣や、急所を外れて助かる人間は多いが、傷の付かない生き物などいない。  
まして、至近距離から小銃の十字砲火を浴びて、まだ動いているような生き物は。  

「熊ではないのか?」  
「…大きさが違います。  見た感じ、豹に見えました。  いや、山犬かも」  
「頭は人面でした…こっちを見て、ニヤって…笑ったんです」  

ある地方では、人か獣か判別するとき足を見る。  足跡でそれの正体はわかる。  
人、あるいは猿なら足は2本。  猪か鹿なら4本。  鳥は飛ぶ。  
なら、人でも獣でもないものは…?  



67  名前:  ◆YXzbg2XOTI  05/02/18  01:15:13  ID:???  


「…全員片目をつぶれ。  銃剣を取り出して背を開いている方の目に当てろ」  

小体長は以前叔父に山歩きに連れて行ってもらった時に、魔除けの方法を幾つか教えてもらった。  
曰く、弁当は一口だけ残しておけ。  山では本名で呼び合うな。  短剣を持って行け。  
この化け物にそれが通用するかどうかはわからない。  
藁にもすがる思いで、迷信じみた命令を部下に下した。  


結局、化け物は銃剣で仕留められた。  
体に小隊全員分の銃剣を生やしたその奇妙な化け物の体に、赤茶色い枯葉がひらひらと舞い落ちる。  
断っておくが、今は紅葉の季節ではない。  
風が吹いた瞬間、周辺の木々がどっと茶色い葉っぱを地面に落とし始めた。  

「なんだったんですかね、この化け物」  
「…山の神様」  
「は?」  
「禍々しい存在でも山を守る恩恵ぐらいはあったんだろうさ」  

山には神が棲んでいる。  多くは恵みをもたらすものだが、神の全てが良い存在ばかりとは限らない。  

参考:オカルト板  「山にまつわる怖い話スレ」  





153  名前:  ◆YXzbg2XOTI  2005/04/12(火)  19:20:43  ID:???  

「起動コード、emeth、入力。  コード受信確認。  試08式歩行戦車、システム起動します」  

重厚なモーター音をハンガー内に響かせながら桜の印をつけたアイアンゴーレムが立ち上がる。  
チタン合金とセラミックの複合装甲を身に纏い、強化ガラスで出来た赤い瞳を輝かせ、今一歩を踏み出す。  
ゆっくりと片足が持ち上がり、一拍の間をおいて踏み下ろされる。  
ズム、という腹に響く音とともに、酷く不快で耳障りな音がゴーレムの膝関節から聞こえてきた。  

「右脚部駆動部に過負荷。  バランス修正…不可!  …倒れます」  

メキメキという音とともにゴーレムの膝が折れ、鋼鉄の巨体は派手な音を立てて横倒しに倒れた。  

「停止コード、meth、入力。  システムダウン。  …停止しました」  

モニターの前で長い耳の魔法技官がため息をつく。  
8度目の起動試験失敗。  陸上自衛隊の歩行戦車…アイアンゴーレム研究は難航を極めていた。  

富士山麓  開発実験団第3開発試験場施設。  

「だから、こんな予算の無駄遣い止めてしまえと言ってるんだ。  魔法技術を取り入れるための研究開発と言ったって、何の成果も出せていない」  



154  名前:  ◆YXzbg2XOTI  2005/04/12(火)  19:21:30  ID:???  

休憩室の自販機の前でジョー○アの缶コーヒーを飲み干しながら3尉の襟章をつけた自衛隊員が愚痴をこぼす。  
耳の長い帰化人の…エルフ族の女性技官は爽健○茶に口をつけずずずーっと飲んだ。  

「結局、作った物といえばアニメもどきのロボットが8台。  全部起動直後に重量オーバーでぶっ壊した。  そもそも、人型のロボットなんかが兵器として実用性に…」  
「まあ、私はこうしてこの国に帰化させてもらって、専門の技能も生かすことが出来て万々歳なんですけどねえ」    

日本列島が異世界に召還されて2年。  
不足する化石燃料資源の代替として、異世界固有のエネルギー資源である「魔法」を使う案が国会に提出されて1年。  
未知のエネルギー源である魔法とともに、そのシステム・技術・そして魔法使いと称される技術者の流入は進み、  
現在ではト○タ社や○産社製の魔法動力ハイブリッドカーなるものがモーターショーで展示される時代。  


魔法は次世代のエネルギーおよび動力システムとして、官民両方から期待されていた。  
何しろ開発中の次期新型MBTや装輪装甲車にさえ、魔法動力エンジンを組み込む案がまじめに予算審議されているくらいだ。  
しかし、それを実現させるまでには様々な障害があった。  
まず、魔法という未知の異質な技術を取り入れるために、日本の技術者がそれを理解する必要があった。  
その為に日本は占領あるいは友好条約を結んだ異世界現地の国々に留学生を送り込み、同時に技術交換も行った。  



155  名前:  ◆YXzbg2XOTI  2005/04/12(火)  19:22:35  ID:???  

次に、魔法を動力とするエンジンの開発。  燃費などエネルギー効率の問題。  
当初、魔法のシステムはブラックボックス的で現地技術者でさえ把握していない部分が多く、システムの解明には時間がかかると予想された。  
中でも最も未知の領域が多かったのは魔法で無生物に擬似的な生命を与え、動かす技術。  
ゴーレム技術である。  
ゴーレムの利点として研究者が目をつけたのは、動力部…エンジンが必要ないと言うことである。  

物体に生命を与えれば、(間接など可動部を作ってやる必要はあるものの)後は勝手に動いてくれるのだ。  
動力の伝達系も、制御系必要ない。  まさに自動的に動くロボットだ。  
防衛庁ではこの技術を取り入れた「ゴーレム戦車」なるものを次世代のMBTに採用する案を検討しており、  
その為の予算も組まれ開発部も設立された。  
もしゴーレム戦車が開発されれば、エンジンが必要ない分重量を大幅に軽減できる。  
さらに、乗員も必要なくなるかもしれない。  省力化に繋がる。  遠隔操作などによる制御は必要だろうが…  
こうして期待を一身に背負ったゴーレム戦車だが、開発は難航を極めた。  
異世界製のゴーレムは多くが人型であり、それがメジャーな形態だ。  
逆に言えば、異世界の魔法技術者には、人型以外の形のゴーレムを作るノウハウが全く欠けていたのである。  

…なので、自衛隊のゴーレム戦車開発は、システムの全容把握も含めてまず人型ゴーレムを製作するところから始まったのだった。  




156  名前:  ◆YXzbg2XOTI  2005/04/12(火)  19:23:24  ID:???  

「計算上は、自重に耐えれるように設計して駆動系の強度設定を行っているはずなんですがねえ」  

技官は口をそろえてそういう。  実際、直立するまでは問題ない。  
腕は普通に動かせる。  可動域も広く取ってあるので、かなり人間に近い挙動が可能だ。  

「ゴーレムと言うのは、この操り人形みたいなものなんです。  動力部も伝達系も無い人形に、糸を  
つけて引っ張ってあげる…魔法のエネルギーで、無理やり動かしてあげている、に近いでしょうか。  
だから、材質の強度が不足したり可動域が狭かったりすると、自分で自分の関節を破壊する動きかたをしてしまう」  
「でもそれも見越して強度計算と可動域を広く取ってるんじゃないか。  大体既存のアイアンゴーレムより  
も柔軟性では上のはずなんだ」  

エルフの技官に反論するのは、眼鏡の若い技官だ。  
彼の机の上には、今までの試作1号機〜8号機までの分厚い設計図が山のように積み重ねられている。  
実験データの資料を見ながら難しい顔をしている初老の技官が重苦しく口を開く。  

「やはり、人型にこだわるのはやめて第2開発部のように多脚式に切り替えた方が良いんじゃないのか」  

人型の開発を続けているここ第1開発部の隣に開発室を置く第2開発部では、装甲車に6本の足を生やした多脚式ゴーレム装甲車の開発を行っている。  
既にそちらは何度も機動試験を成功させ、研究成果ではこちらより遥かに先に進んでいるはずだ。  
上の方からも、試作機の製作予算を提出する時必ず第2開発部を引き合いに出されては、遠まわしに嫌味を言われている。  



157  名前:  ◆YXzbg2XOTI  2005/04/12(火)  19:24:21  ID:???  

「やっぱり重量問題じゃないのかな?  2本足だと、僕らが思ってるより過負荷が…」  
「うちが作ってるのは戦車だぞ!  試08式は新型戦車の目標である40トンにも満たない軽量だ。  こいつを動かせる出力が得られなきゃ、とても戦車なんて動かせない」  
「おいおい…マ○ンガーやガソダム作ってるんじゃないんだぜ。  足動かすよりキャタピラ動かす方面の研究しようや」  

技官たちがああでも無いこうでも無いと議論している蚊帳の外で、三尉は開発室の隅に備え付けられた小型テレビを見ながらタバコを吸っている。  
彼は本来、試作戦車ゴーレムの火器管制官なのだが、肝心のゴーレムがいつまで経っても機動試験すら満足に成功させられない上、  
砲塔の搭載(ちなみに89式装甲戦闘車の35ミリ機関砲を搭載予定)も未定なので、出番が無いのだ。  
エルフ技官は彼の方をちらりと見た。  こちらに背中を向けているが、彼も相当苛立ちを溜め込んでいるのだな、と先刻の休憩室での会話を思い出しながら考えた。  
彼の視線の先、見ているんだかいないんだか不明なテレビの画面には、異世界人による反日テロの報道が映し出されていた。  


続く。