856  名前:  838  02/12/31  18:03  ID:???  

200X年12月1日、くすぶり続けていた朝鮮半島にて遂に北朝鮮軍による南進が始まった。  
恐るべき規模での砲撃戦や、韓国軍を装ったゲリラ部隊の米軍施設破壊により、なんと開戦から数時間でソウルが陥落。さらにゲリラ部隊と正規軍の絶妙な連携により破竹の勢いで進撃を進める北朝鮮軍。  
米軍は直ちに各国への働きかけを行い、多国籍軍の派遣を決定、同時に戦況の絶望的な推移を考え在日米軍全兵力を投入する事を決定した。  
例によって自衛隊は野党などの反対にあい出動は断念。日米ガイドラインによる後方支援のみを行うことになる。  
しかし、開戦から10日。事態は一変する。  
北朝鮮軍のゲリラによるテロ事件が続発。銀座でのRPGまで使用した大規模銃撃戦、毒ガスによる地下鉄テロ、高速道路の高架爆破etcetc  
これらの事件が北朝鮮によるものと断定した日本政府は、圧倒的多数の国民の意見を受けて野党等の反対を押し切り、自衛隊の派兵を決定する。  


857  名前:  838  02/12/31  18:19  ID:???  

200X年12月30日  新潟港内陸上自衛隊臨時指揮所  

「斎藤陸将閣下。一部部隊の乗船が開始されました」  

 第一次海外派兵戦闘団長に任命された斎藤三弥陸将の所へ報告にやってきた佐藤大輔三佐が敬礼をする。  

「周辺の警戒を怠るな。北の連中がいつゲリラ攻撃をしてくるか分からんぞ」  

「はっ、警察と協同で周辺の警戒を行っております。艦艇の方は海自がダイバーを出しているそうです」  

「そうか、警察との関係は大丈夫か?」  

「はい、連中、銀座の事件じゃ50人以上死人出てますからね。戦意は我々より旺盛ですよ」  

「そうか、では乗船を急がせ・・・」「閣下!!」  

 三弥の言葉を通信士の絶叫が遮る。  

「どうした!?何事だ!」  

「統幕より通達!北朝鮮より核攻撃!現在空自および米軍により迎撃中っ!」「なんだと!!」  

 三弥が叫ぶと同時に、停泊していた海自の護衛艦から対空ミサイルが次々と放たれていく。  

「総員物陰に退避!急げーー!!」  
                                                       次の瞬間、閃光が全てを飲み込んでいった・・・  



862  名前:  838  02/12/31  20:37  ID:???  

200X年12月31日?  自衛隊陣地  

「諸君!我々の置かれた状況はよく把握していると思う。  
12月31日現在、我々は新潟港の一部と多数の友軍と共に現在地にて孤立している。弾薬は豊富に存在し、糧食は二ヶ月は確実に持つ!燃料に到っては半年は硬いとのことだ。  
各員一致団結し、各々の職務を果たして欲しい。なお、交戦規定は事態が事態なだけに大幅に変更する。  
1、発砲許可は陸曹以上が出せるものとする。  
2、発砲によって生じる全責任は戦闘団長である私が持つ!  
3、敵の死亡確認はきちんとせよ!以上だ!」  




863  名前:  838  02/12/31  20:40  ID:???  

「解散!各中隊長は指揮所へ!」「陣地の展開急げ!」「燃料を倉庫内へ!」「左側!機銃少ないぞ!何やってるの!?」  

 陸曹達の怒号が響き渡る中、部下達を引き連れた斎藤三弥戦闘団長は、臨時の指揮所になっている倉庫内に入っていく。  

「お疲れ様であります」  

 三弥を見つけた佐藤大輔三佐が敬礼をする。  

「状況に動きは?」  

「相変わらずです。外部からの通信も接触もなし。斥候は人工物を見つけられずです」  

「そうか・・・ひとまず陣地の設営を急げ。それと、明日からヘリによる偵察を行う」  

「いいんですか?」  

「糧食が一週間持つか持たないかだ。早いとこ友軍を見つけないと・・・」  

「わかりました。一度に二機飛ばさせます」  

「それと、弾薬は多めに割り当てておけ」  

「は?」  

「今夜から歩哨を倍にする」  

「何かあったんですか?」  

「気を引き締める為だ。さっきの演説の最中も後列の兵達がきょろきょろしていた。士気が下がっている」  

「はっ、わかりました」  



868  名前:  838  02/12/31  23:28  ID:???  

深夜  自衛隊陣地  

「おい」  
「ひぃ!」  

 89式小銃を肩からかけた一士が声を掛けられて飛び上がる。  

「だっ、誰か!?」  

 大慌てで小銃を構えて誰何をする。  

「撃つな馬鹿!」  

 慌てて懐中電灯を振る同僚。  
 その後ろには真っ青な顔をしたもう一人の陸士がいる。  

「お、脅かすな馬鹿野郎!」  
「わ、悪かったよ。んで異常は?」  
「特にないな。つーかあってたまるか・・・ん?あれ?秋山はどこいった?」  

 ふと見ると、巡察の一人の姿が見えない。  

「あれ?おーい、どこいったー?」  
「秋山ぁなにやってるんだ?」  

 すると、呼びかけに答えるかのように草むらが揺れる。  


869  名前:  838  02/12/31  23:29  ID:???  

「おーい、腹でも痛いのか?」  
「ホフゥ!」  
「あ?」  

 意味不明な言葉に耳を傾ける同僚、そこへ剣が突き刺さる。  

「ワァ!な、なんだ!」  

 パニックになった一士の見ている前で同僚が血を噴出しつつゆっくりと倒れる。  

「う、うわぁぁぁぁ!!」  

 パニックになった一士は小銃の引き金を絞った。  

PAPAPAPAPAPAN!!  


870  名前:  838  02/12/31  23:30  ID:???  

「何事だ!敵襲か!?」  

 寝袋から飛び起きた三弥が叫ぶ。  

「わかりません!巡察との連絡が現在途絶えています!閣下は危険ですので倉庫内にて待機していたください。中村ァ!」  
「はっ!中村三曹ここです」  

 メガネをかけた貧相な三曹が敬礼しながらやってくる。  

「俺の銃はどうした?」  
「え?あ・・・」  

 その顔面に本気でパンチを打ち込む佐藤。  

「ひ、ヒデェ」  
「うるせぇボケッ!とっとと用意しろ!」  
「は、はいっ申し訳ありません!」  
「総員起こせ!弾薬と燃料への警備を増やすんだ!急げ!」「敵襲ー敵襲ー!」「投光機急げー!」  

 陣地内は蜂の巣をつついたような大騒ぎであった。  
 誰もが初体験の実戦に浮き足立っていたのである。  



881  名前:  838  03/01/01  03:08  ID:???  

「弾薬集積所付近異常なし!」「燃料集積所も異常なし!」「宿舎付近異常なし!」「西側監視地点にて秋山一士以下3名が戦死っ!」  

 最後の報告に指揮所内が静まり返る。  

「じゅ、殉職・・・だと?」  
「斎藤閣下!呆けている場合ではありません!」  

 力なく椅子に座り込んだ三弥に佐藤が怒鳴る。  

「あ、ああ、そうだったな・・・総員戦闘配備!動く物は何でも撃て!!」  
「了解、自分は陣頭指揮をとります。中村、行くぞ」  
「はっ、へっ?えっ?」  

 目を白黒させながら倉庫を出て行く佐藤についていく中村。  
   
「一匹は残せよ」  

 その佐藤へ声を掛ける三弥。  

「できたらしますよ」  

 既に彼の顔は戦闘時のそれに変わっていた。  


882  名前:  838  03/01/01  03:48  ID:???  

「3人ついてこい!・・・中村くん。いいもの持ってるじゃないか」  

 どこからか暗視スコープを持ってきた中村に声をかける佐藤。  

「はっ、アメさんの物資に混ざっておりました」  
「よこせ(ドガッ!)」  

 手加減無しで殴ると暗視ゴーグルを奪う佐藤。  

(畜生、いつか殺してやる)  

 怒りに燃える中村であったが、直後に響いた銃声で思わず腰を抜かす。  

「ひ、ヒィィィィ!!」  

 だが、悲鳴を上げたのは彼ではなかった。  
 悲鳴の主は倉庫の影から転がり出た若い三尉であった。  
 続いて飛び出してきたのはやたらと小柄な影で、その影は悲鳴を上げる三尉に飛びつくと、たちまち首筋を一閃し彼の命を奪う。  
 すぐさま佐藤達の方へ向き直り、こちらへ飛び掛ろうとするが、一瞬早く佐藤が89式小銃の乱射を食らわせる。  

PAPAPAPAPAPAPAPAPAN!!!  

 影は空中にいたこともあり2mほど飛ばされ、そのままピクリとも動かない。  
 一瞬で佐藤は肥満気味なその肉体を駆って影の所へ駆け寄り、頭部にとどめの一発を撃ちこむ。  



884  名前:  838  03/01/01  04:39  ID:???  

「な、なんだこいつは?」  

 滅多な事では動じない佐藤三佐だが、自分が射殺した相手を見た瞬間はさすがに動じてしまった。  
 浅黒い肌、小柄な体型。そこまではいい、だが、とがった耳、ごつごつした肌、そして長い鼻。  

「こいつは・・・・人間じゃない?」PAPAPAPAPAN!!  

 思わず呟いた佐藤の声に重なるように銃声が聞こえる。  

「どこだ!」  

 思わず銃声がしたほうがわからなくなる佐藤。  
 銃声は四方八方から聞こえてきていたのだ。  

「こちら東側監視所、なんだこいつらは!!」「こ、こちら南側監視所!敵襲を受けつつあり、な、なんだこいつ・・・ワァァ!」「撃ぇ!いいから撃ちまくれ!!」「助けてくれぇ!」  

 あちこちから銃声と一緒に兵士達の悲鳴が聞こえてくる。  



885  名前:  838  03/01/01  04:39  ID:???  


「中村!照明弾二発!急げ!」  
「はっはい!」  

 慌てて背嚢から照明弾を取り出す中村。  
 臆病な彼はいつも無駄すぎるほど装備を持ち歩く癖がある。  
 すぐさま上空に打ち上げられ、周囲が明るく照らし出される。  

「な、なんだ、こいつら」  

 そこに照らし出されたのは、あちこちで撃ちまくる兵士達と、例の小柄な連中にのしかかられて今まさに殺されようとしている仲間たちの姿であった。  
 PANPANPAN!  
 唖然とする佐藤の隣で銃声が三度する。  
 すると、手短な兵士に飛び掛っていた小柄な奴が倒れる。  

「中村?」  
「へへ、俺、A級射手なんすよ」  

 得意そうに鼻の下をこする中村。  
 だが、次の瞬間にはその表情は凍りついた。  

「んじゃ君は一人でいけ。残りは3人一組で行動しろ。いいか、一人でも多く助けるんだ。散開!!」  
「え?え?え?」  

 事態についていけない中村を残して散開していく佐藤達。  
 死闘は、明け方まで続いた・・・  




903  名前:  838  03/01/02  20:13  ID:???  

翌朝  自衛隊陣地  

 疲れきった顔をした斎藤が並べられた死体袋の前に立っている。  

「何人やられた?」  
「18人が殉職、7名が重症で9人が軽傷です」  

 隣に立っていた佐藤が答える。  

「重傷者は?」  
「現在医官が見ておりますが、幸いな事にいずれも数ヶ月程度の療養でなんとかなるとのことです」  

 それを聞いた斎藤は沈痛な顔をした。  
 数ヶ月療養ということは、7人の兵士が数ヶ月使えなくなるという事であり、それだけ医官達に負担がかかるということである。  

「負傷者も問題ですが、兵達の士気が著しく下がっております」  
「脱柵者は?」  

 脱柵者とは自衛隊における脱走兵の呼び方である。  

「いえ、敵が森の中から来た事が幸いしました。さすがに敵が大勢いそうな方向に向けて逃亡する者はおらんようです」  
「まずいな、ん?」  

 施設科が鉄条網を張っている方が騒がしい事に気づいた斎藤がそちらの方を見る。  
 数頭の馬に乗った人間が、銃を向けた陸士たちとにらみ合っている。  



906  名前:  838  03/01/02  21:07  ID:???  

「どこの連中だ!」  

 慌ててそちらへ駆け出す斎藤。  

「一個分隊!陸将閣下に続け!!」  

 銃を取り出しつつ佐藤も走っていく。  
 すぐさまあたりにいた陸曹が手短な兵士達を揃えてその後に続く。  
   90式戦車が砲塔をそちらへ回し、96式装輪装甲車に設けられた12.7mm機銃に兵士が取り付く。  
 天幕から青い顔をした兵士達が飛び出し、同じく青い顔をした陸曹たちにどやされつつ配備についていく。  
 倉庫の上で待機していた狙撃兵達が銃を構えつつ初弾を装填する。  

「総員戦闘配備ー!弾薬庫と燃料庫を守れー!」  
「閣下をお守りしろーー!!」  

 陣地は、昨夜と同じ大騒ぎになった。  


914  名前:  838  03/01/03  13:45  ID:???  

「な、なんだあいつらは・・・」  

 部下たちの所へ駆けつけた斉藤は、馬に騎乗している人間たちの格好を見て思わずそう呟いてしまった。  
 彼らは、まるで中世ヨーロッパの騎士のような重たい鎧に身を包み、これまたまるで骨董品のような大剣に手をかけているのだ。  
 だが、その傍らで銃を構えている兵士たち同様にその表情は真剣そのものであり、決して冗談でやっているようには見えない。  

「き、貴様らはいった・・・」「構え!装填!!」  

 相手について斉藤が尋ねようとした瞬間、彼の後ろから号令と銃を構える音、そして初弾を装填する音が大量に聞こえてきた。  
 驚いて振り向くと、そこにはいつの間にか集まった二個小隊ほどの兵士たちが小銃や機関拳銃を構えていた。  

「よ、よせ!撃つな!!」  

 慌てて両手を振りながら銃を下げさせる斉藤。自分まで蜂の巣にされてはかなわないし、今回の相手はおそらく人間である。  
 そうそう簡単に蜂の巣にするわけにはいかない。  

「はっ、銃を下ろせ!!」  

 佐藤の命令で兵士たちはしぶしぶ銃を下ろす。  
 だが、倉庫の上に陣取っていた狙撃兵たちにその命令が伝わるには少し遅かった。  
 銃を下ろした兵士たちを見た彼らは、相手が何らかの手段で戦闘団長を脅して銃を下ろさせようとしたように見えたのだ。  
 そして、付近の草むらなどをざっと見たあと、彼らは独自の判断で射撃を開始した。  

PAPAPAPAPAPAPAN!!!!  




918  名前:  838  03/01/03  21:23  ID:???  

突然あたりに響き渡る銃声。  
 伏せるのも忘れて憤怒の表情であたりを見回す佐藤。  
 だが、伏せる兵士たちの方から続きの銃声や発砲したことを意味する硝煙の臭いはしてこない。  
 すぐに誰が発砲しているのかに気づいた彼は、隣にいた中村の無線機をひったくりながら怒鳴る。  

「馬鹿野郎!!撃つな!!!」  

 彼の怒声が拡声器を使っていないにもかかわらずあたりに響き渡った瞬間、銃声は止んだ。  
 恐る恐る後ろを振り返る斉藤。  
 だが、そこには不思議そうにこちらを見る男たちが先ほどと同じく4人いるだけであった。  
 代わりに、頭を綺麗に撃ち抜かれた昨夜の連中が草むらから少し出たところに8人倒れている。  
 そう、狙撃兵たちは敵かどうか分からない人間たちよりも、昨夜同僚たちを殺害した連中を脅威と判断し、独自の判断で排除したのであった。  
 そして、日ごろの訓練の結果は遺憾なく発揮された。  


919  名前:  838  03/01/03  21:24  ID:???  

(いったい何がどうなっているのだ?)  

 アスター王国神聖騎士のアンドレイは唖然とするばかりであった。  
 事の発端は昨夜であった。  
 突如として西に広がる死の森より轟音が連続して響き渡り、まるで太陽のような光が何度も上がったという報告が西方兵士団より寄せられたのだ。  
そして、高レベルの魔道士同士の戦いではないかと兵士団長が怯えた為に、本来では決戦にのみ動員されるような王国の精鋭である自分たちにお呼びがかかり、当番隊だった自分たちが死の森へと派遣されることとなったのだ。  
 精鋭である自分たちが派遣されたのは正しく、同伴させた西方兵団の兵士たちはことごとくが魔物に返り討ちにされるか逃亡するかしてしまっていた。  
 そして、ようやく妙な気配を魔道士が感じたのでやってきてみれば、妙な格好をした連中が砦を構えており、こちらがいくら話しかけても血走った目で睨むだけ、挙句の果てには奇妙な棒切れをこちらへ向けてくる始末。  
 途方にくれていたところ、明らかに上位者らしい男がこちらへ部下を引き連れて駆けつけ、すわ戦闘か!?というところで先ほどの展開である。  


920  名前:  838  03/01/03  21:25  ID:???  

『おい!今のは一体何事だ!?』  

 調査隊長であるドゥパイユ上級騎士が焦って叫ぶ。  

『お待ちくださいドゥパイユ殿、直ちに調べます』  

 同じく焦ったアンドレイが慌てて馬を巡らし四方を見る。  
 すると、草むらからこちらを襲おうとしていたのであろうゴブリンが頭を砕かれて絶命しているのが目に入る。それも、一体や二体ではなく、全部で八体も。  

『ご、ご覧ください、ゴブリンの群れが・・・』  
『な、なんと・・・まさか、あの者達が?』  
『そ、そんな、魔力は感じなかったのに・・・』  

 ドゥパイユと魔道士がその光景を目にした途端に驚きのあまり硬直する。  
 二人が凍っている間に同僚であるユーリと互いに目配せをし、いつでも剣を抜き、二人を守れる様に馬を動かす。  

『どうなってるんだ?』  
『わからん、だが、もしもの時はユーリ、お前はあの二人を連れて逃げろ』  
『馬鹿野郎、あれだけいるんだ、間違えたって逃げ切れるものか。一人でも多く道連れにするぞ』  
『さすがはお前だよ・・・ん?』  

 二人がそんな会話をしているところに、白旗を掲げた男たちが近寄ってきていた。  


921  名前:  838  03/01/03  21:26  ID:???  

『降伏か。フッ、閃光のユーリの名は、言葉が通じない連中にも通じるようだ』  

 前髪を掻きあげつつユーリ。  

『アホ、軍使に決まっているだろうが・・・ドゥパイユ殿』  

 呆れつつ上官を呼ぶ。  

『どうした・・・軍使か。翻訳の呪文は掛けられるか?』  

 傍らの魔道士に尋ねる。  

『わからんが・・・やってみる・・・・・・・』  

 そう言うと、魔道士は片手を向かってくる男たちへと向けた。  


922  名前:  838  03/01/03  21:27  ID:???  

「斉藤閣下、あいつらは一体・・・って、なんだあいつ?こっちに片手向けて?」  

 斉藤の前を歩きつつ佐藤。  
 ちなみに、彼の前には丸腰で白旗を持たされた中村がいる。  
 斉藤ですら9mm拳銃を持っていることを考えると、気の毒なことこの上ない。  

「しかし軍使が武装してもいいのか?」  
「かまわんでしょう、あれだけの小銃を向けられても動じない連中です。拳銃の一つや二つ持ったってバチはあたりませんよ」  

 そう、彼らは軍使のくせに武装していたのである。  
 そんな会話をしているうちに彼らは騎士たちの前へ到着した。  
 先ほどまでは、小銃を構えつつかなり片言の英語で語りかけていた陸曹たちも、今は10mほど離れたところで息を呑んで見守っている。  


923  名前:  838  03/01/03  21:28  ID:???  

「陸上自衛隊の斉藤三弥陸将だ。諸君らの所属を明らかにしてもらいたい」  
「あーマイネームイズ、ミツヤ・サイトウ。ジャパニーズセルフディフェンスフォースアーミージェネラル。あー所属ってなんていうんだ?」  

 最後のほうは結局言えないが中村が英語で通訳しようとする。  

「使えんやつだな貴様は、どいてろボケッ!!」  

 躊躇なく佐藤がビンタを食らわす。  
 鼻血とメガネを飛ばしながら中村が地面に倒れる。  

「アスター王国神聖騎士団上級騎士のドゥパイユだ。陸将というのはなんだ?陸上自衛隊というのは陸軍のことか?」  

 不思議そうに聞き返してくる相手に、まず日本語が通じたことに驚く一同。  

「さっきの陸曹の話と違うぞ」  
「ですな、しかし自衛隊が分からないというのは一体・・・」  
「質問に答えよ。陸将とはなにか?」  



934  名前:  838  03/01/04  05:05  ID:???  

ドゥパイユのあまりに高圧的な態度に、圧倒される前に怒りを覚える佐藤。  

「知らんのか?世界でも名高い陸上自衛隊の斉藤三弥陸将閣下といえば有名じゃないか」  

 ちなみに、同姓同名の統幕議長が登場する漫画もあるが、佐藤たちの世界では斉藤は防大をでて(自衛官として)普通の人生を歩んだのちに対ソ戦で陸将になっている。  
 圧倒的不利の状況下でソ連軍を独力で跳ね返した自衛隊は、世界での評価をかなり上げている。  

「だから陸将とは・・・ん?閣下ということは・・・ま、まさか、そちらのお方は将軍閣下か?」  
「当たり前だ。斉藤陸将閣下は通常の軍で言えば中将、いや、大将か?とにかく正真正銘の将軍だ」  

 その言葉を聞いて慌てて馬を降り、膝を着いて頭をたれる四人。  
 当然ながら、彼らの世界で将軍という存在は聖騎士任命式のときにちらりと見えるかどうかという雲の上も上の存在である。  

「しょしょしょ将軍閣下とは知らず、数々の無礼。大変申し訳ありませんでした!!!」  

 真っ青な顔になりつつドゥパイユ。他の三人も真っ青な顔をしている。  
 打ち首にされても文句の言えない非礼をしたわけだからしょうがない。  




155  名前:  838  03/01/07  19:45  ID:???  

「ま、まあ頭を上げてくれ。で、君らは何者だ?というかアスター王国とは?」  
「はっ!アスター王国とはロードスのどちらかといえば東南の半島に位置する王国でして、このあたりでは一番の強国にありまする・・・もしや、将軍閣下たちはこの先の海岸からお越しになられたのでありますか?」  

 先ほどとは180度変わった物の言い方に苦笑しながら斉藤が答える。  

「よく分からん。気がついたらここにいたんだ。ロードスって事はここは地中海か?いや、ここで立ち話もなんだ。うちの司令部で話しを聞こう」  
「は、はいっ!お供させていただきます。貴様ら!将軍閣下に続け!」  
「「「は、はい」」」  


157  名前:  838  03/01/07  19:55  ID:???  

王国暦794年1月13日夜  自衛隊司令部  

「諸君、非常に残念なことが判明した。気を強く持ち、一言も漏らさず聞いてほしい」  

 全員から良く見えるように90式戦車の上に登った斉藤が言う。  

「現在、我々は日本、いや我々の元いた世界とも異なる場所にいることが判明した。この国の名前はアスター王国。アスター21世が収める王制国家だそうだ」  

「な、なんだって!?」「もう戻れないのか?」「あ、あんまりだぁ」「おがあぢゃーん」「畜生め」  

「静かにせんか貴様ら!!!!」  

 口々に騒ぎ出した兵士たちを一括する佐藤。  

「閣下のお話はまだ終わっていない!列を乱すな、口を開くな!!」  


158  名前:  838  03/01/07  19:58  ID:???  

「・・・さて、我々の任務は多国籍軍へ参加し、韓国で苦戦している友軍を支援することだった。だが、現状を考えるに、その任務を果たすことは不可能だ。だが、大変遺憾なことに、ここで待機し、戻ることを期待することも不可能になりつつある」  

 斉藤の言葉に再びどよめく一同。  

「こちらにいるドゥパイユさんによると、我々が現在いる森は『死の森』と呼ばれる非常に危険なところらしい」  

 その言葉を聞いて臨時の死体安置所や周囲を取り囲む森を見る兵士達。  

「そして、これが主な問題だが・・・・・・糧食が、このままでは三ヶ月もたたないうちに底をつく。私は、諸君らを餓死させたくはない。そこで諸君らには申し訳ないが、私の独断を通させてもらう。本日ただいまを持って、我が隊はアスター王国と軍事同盟を結ばせてもらう」  

 静かに聞き入る一同。  
 斉藤が、自分たちを食わせるために全責任を自分が負う形で軍事同盟に同意したということが分かったからだ。  

「早速だが、私と佐藤君は相手方の国王と会談を行うこととなっている。その間、申し訳ないが諸君らにはここで待機してもらう事になる。今後の方針は後ほど指揮官を集めてミーティングを開くので安心してもらいたい。以上だ」  

「解散!持ち場へ戻れ!!」  


159  名前:  838  03/01/07  20:13  ID:???  

王国暦794年1月14日  アスター王国西方街道上  

「しかし、よく訓練された兵士たちですな」  

 斉藤と同じ馬車に乗り込んだドゥパイユが言う。  
 本来ならばヘリやAPCを出したかったところなのだが、城までの距離が分からないということと、駐屯地から森の外へ抜ける道が狭すぎて通行が不可能であることから仕方なく完全武装だが徒歩の一個中隊と行く事になってしまったのだ。  
 何事もなく西方兵士団の砦まで到着した一行は、あるだけの馬車を借りて一路王都へ向かうこととなった。  

「恐れ入ります。ですが、いきなりこんな大勢で押し寄せてもよかったですかな?」  
「いえ、一国の将軍閣下がいらっしゃるのですから。問題なかろうと思われます」  
「そうですか、それはよかった。ああ、会談に臨んで何か注意することは?」  
「そうですなぁ、たとえば・・・」  

 さて、そのころ護衛の一同が乗った別の馬車では・・・  


160  名前:  838  03/01/07  20:15  ID:???  

「・・・・・・・・・・」  
「・・・・・・・・・・」  
「・・・・・・・・・・」  
「・・・・・・・・あの」  

 沈黙に耐えかねた中村が口を開く。  

「何か?」「黙れ」  
「は、はい。なんでもないです」  

 非常に重苦しい空気が立ち込めていた。  
 沈黙の原因は、窮屈そうに座っている中村の横で二人分の席を独占している佐藤である。  
 先ほど斉藤と同じ馬車に乗ろうとしたところ「この馬車は上位者専用のものである」と断られ、さらに斉藤が「まあ佐藤君。申し訳ないがそういうことなので、あちらさんのルールに従おうじゃないか」と言ったからである。  


161  名前:  838  03/01/07  20:15  ID:???  

「フンッ」  
「・・・・・・・・・・」  
「黙ってないで何か言ったらどうなんだ?」  
「不機嫌な人間と話しても無駄なだけだ」  
「・・・・・・・・・・」  

 先ほどからこの調子で会話を拒否している人物。  
 相手の説明では魔道士ということだったが、当然ながら佐藤は信じていない。  
 挨拶のときにローブを取って初めて分かったことだが、彼は・・・いや、彼女はうら若い白人女性であった。それもかなり美人の。  
 当然ながら笑顔で対応した佐藤と中村であったが、相手は佐藤の方には嫌悪を含んだ視線を送り、中村には笑顔で対応したのだ。  
 佐藤が不機嫌にならないわけがない。さらに、中村の顔がにやけっぱなしであるから彼の不機嫌度は上昇の一歩を辿るばかりであった。    



163  名前:  838  03/01/07  20:40  ID:???  

そんなこんなで一同は日が沈む前に王都であるアスターランドに到着した。  
 一国の首都ともなればそれなりに活気があるのだが、一行が到着したとき、王都は活気があるというよりは騒乱状態というほうが相応しい状況であった。  

「この騒ぎは何事だ!!!」  

 手短な兵士に怒鳴りつけるドゥパイユ。  
 まだ若いその兵士はとっさに上級騎士に怒鳴られ返事ができない。  

「貴様!口が利けんのか!!とっとと・・・」「まあまあドゥパイユさん。彼、怯えてるじゃないですか」  

 そこへ斉藤が口を挟む。  

「はっ、申し訳ありません・・・して、何事か?」  

 さすがに将軍に逆らうわけにも行かず、怒りを深く押し殺して尋ねるドゥパイユ。  

「は、はいっ!マーモが、暗黒の島の軍勢が、カノンの地へ上陸したとの事ですっ!!」  



166  名前:  838  03/01/07  21:05  ID:???  

「なんだと!!」  

 思わず勢いよく立ち上がり叫ぶドゥパイユ。  
 再び怒鳴られた兵士は涙すら浮かべている。  

「一体どうしたんですか?」  
「マーモとはロードスの南東に存在する邪悪なる国。奴等とうとうロードスへ攻め込んできたのです。こうしてはおられん、御者!!もっと急ぐのだ!!」  
「わ、わかりました!!」  

 先ほどまでのヘコヘコした態度はどこかへと吹き飛び、隊長らしい態度と口調で叫ぶ。  
 通りにいる人々を蹴散らすようにして馬車は場内へと雪崩れ込んだ。  


167  名前:  838  03/01/07  21:28  ID:???  

場内  謁見の間控え室  

「閣下。同盟を結んだわけなのですが、具体的にはどうされるので?」  

 不機嫌そうな表情で紅茶を飲みながら佐藤。  

「うむ、ひとまず先日夜襲をかけてきた連中の所属を確認する。連中だったらできるだけ搾り取る。盗賊だのって連中だったら・・・」  

 そこで紅茶を飲み干す。  

「血の代償がどれだけ高いかを、教えてやる」  


168  名前:  838  03/01/07  21:56  ID:???  

「彼らはマーモ軍の手の者では無いのだな?」  

 玉座に座っているのは、国王であるアスター21世。  
 ドゥパイユと同行した3人から話を聞いて出た結論を聞く。  

「はっ、断言はできませんが、少なくともマーモ軍の軍装とは異なるものと思われます。また、一昨日の夜半に聞こえた音や光も彼らの出したものであるとの事です」  
「ジドウショージューやショーメーダンという物らしいです」  

 ドゥパイユの言葉を補足する魔道士。  

「物、ということは、魔法ではなく魔導具ということか?」  
「はっ・・・ですが、魔力は感じられませんでした」  
「なに?どういうことだ?」  
「はっ、私が感じた限りでは、魔導具というよりは、剣や弓矢といったただの道具という感じが」  




176  名前:  838  03/01/08  02:36  ID:???  

「ドゥパイユ、貴公はどう感じた?」  
「はっ、判断する材料が少ない為断言はできかねますが、やはり彼らの持っている物は魔導具ではないと思われます」  
「ふむ・・・ひとまず、彼らと話し合ってみよう」  
「かしこまりました・・・おい、誰か!サイトー将軍をこちらへ!」  

 すぐさま数名の兵士が控え室へ走っていき、斎藤たち一行を案内してくる。  
 その背中には89式小銃、腰には9mm拳銃、84式無反動砲やスティンガーを背負った者もいる。  
 これは斎藤の賭けだった。もし相手が(理由はわからないが)こちらを騙そうとしていたり、あるいは敵だった場合、自動小銃やバズーカを背負った失礼極まりない格好で責任者との会談に臨むはずは無いからである。  
 そう、斎藤はドゥパイユの言葉を100%信じたわけではなかったのである。  



216  名前:  838  03/01/10  09:20  ID:???  

「サイトーと申したか?」  
「はっ」  
「一国の将軍ともあろうものが、わずかな手勢を従えて我が国の領内で何をしていたのだ?」  

 まずいぞ。  
 思わず心の中で呟く斉藤。  
 困ったことに、無反動砲を見て顔色一つ変えないところを見ると、どうやら本当にここは現代ではないらしい。  

「詳しい話をいたしますと長くなってしまいますが、早い話が遭難したという表現が一番相応しい状況です」  
「遭難?そのような話は聞いていないが・・・」  

 そこへ口を挟んだのは佐藤である。  


217  名前:  838  03/01/10  09:22  ID:???  

「となると、どうやら我々の船は沈んでしまったようですな」  
「貴公は?」  
「斉藤閣下の腹心、佐藤三等陸佐です。我々の船はどうやら、あなた方が死の森と呼んでいるところの先にある海岸に漂着し、我々が戻る前に沈むか流されるかしてしまったようです」  
「なるほど・・・して、諸君らの目的はなんだ?」  
「当面は迎えが来るのを待ち、その後は帰還です」  
「帰還か・・・よろしい、ならば貴公らへは手出しを出さぬよう伝えよう。そちらが何もしない限りはな」  
「はっ、ありがとうございます・・・ついでに一つ教えていただきたいのですが」  
「なんだ?」  
「我々に先日攻撃を掛けてきた連中、何者ですか?」  
「おおかたゴブリンであろう。申し訳ないな、何度か討伐隊を出してはいるのだが、なかなか根絶やしにできんのだ」  

 済まなそうな表情を浮かべたアスター王  


218  名前:  838  03/01/10  09:23  ID:???  

「我々で、始末してもよろしいですかな?」  

 佐藤の言葉に、先ほどまでの柔和な表情を捨て、真剣な表情になるアスター王。  

「できるのならば好きにしたまえ。だが、こちらからは兵は出せんぞ」  
「かまいません」  
「ふむ・・・ドゥパイユ!」「はっ!」  

 部屋の隅に控えていたドゥパイユが慌てて駆けつける。  

「この者たちに同行し、手助けをするがいい」  
「はっ!」  
「話はよろしいか?うむ、では下がるといい。余は薔薇の世話があるのでな、これにて失礼する」  



247  名前:  838  03/01/11  20:12  ID:???  

「ではサイトー閣下こちらへ」  

 数名の兵士を連れたドゥパイユが入口へ誘導する。  
 彼に誘導され、一同は指定された宿舎へと移動した。  
 宿舎に到着すると、そこには執事やメイドたちが二個小隊ほど待機しており、斎藤の姿を見るとすぐさま腰を深く折って礼をした。  

「彼らは?」  
「閣下専属の執事たちであります。なんなりと申し付けてやってください・・・おい!」  
「はっ!」  

 ドゥパイユの呼びかけにすぐさま執事が反応し、メイドたちを従えてやってくる。  

「こちらにおわすお方がサイトー将軍閣下だ。失礼の無いように。護衛の皆さんは・・・」「申し訳ないが、彼らもここに待機させたい」  
「は?・・・はっ!かしこまりました!執事、直ぐに準備せい!!」  

 佐藤たちを別の宿舎へ移動させようとしているのに気づいた斎藤がドゥパイユの言葉を遮る。  
 遮られた方のドゥパイユは、佐藤以外の兵士たちが、実は騎士に相当する階級であったと誤解し、慌てて指示を出す。  

「はっ!お前達!直ぐに準備を!」  
「「「はい!」」」  


266  名前:  838  03/01/12  01:36  ID:???  

深夜  王都アスターランド  自衛隊宿舎  

「佐藤三佐、会話をまとめてくれた事に関しては感謝しよう。だが、勝手に変なことを言い出したのは何故だ?」  

 宿舎として与えられた館の食堂で一同は豪勢な食事を取りつつ作戦会議のようなものをしていた。  
 のようなもの、というのは、一尉以上の者は万が一の事態に備えて駐屯地に待機させられているために、ここでの会議の結果はあくまでも『話し合いの末に出た意見』に過ぎないからである。  

「そうですよ、いくらなんでもまずかったのでは?」ドガッ!  
「ですが陸将閣下、結局の所遅かれ早かれ聞かねばならなかった事ではありませんか」  
「それはそうだが・・・」  
「それに、相手の正体がわかったのです、これで部下達にも安心して射殺を許可する事ができます」  
「ふむ、確かに君の言うとおりだな。すまないな」  


267  名前:  838  03/01/12  01:38  ID:???  

「いえ、大したことではありません・・・中村、いつまで寝てるんだ?」  

 先ほど余計な事を口走って殴り倒された中村を蹴りつける佐藤。  
 いつものことなので斎藤は何も言わない・・・どころか  

「中村、邪魔だ、さっさと不眠番に行け」  

 佐藤と一緒に蹴り飛ばす始末だ。  

「ヒデェ、いつもこれだよ」  
「うるせぇ!早く行け!!」「はっはひぃ!!」  

 佐藤に蹴り飛ばされ、小銃を担いで転がるように部屋を出る・・・というよりは出される中村。  
 ドアに向って呟く。  

「畜生、いつか殺してやる」  




297  名前:  838  03/01/13  03:44  ID:???  

王国暦794年1月15日早朝  自衛隊駐屯地  

 爽やかな冬の青空の下、自衛隊駐屯地には活気がみなぎっていた。  
 施設科の指示の元、召集された現地の木こりの一団が89式小銃や各地に据えられたMINIMI機銃砲座に見守られながら景気よく木を切りまくり、歌を歌いながら道を、防壁を、空き地を作っている。  
 と、少し離れた空き地で爆発が発生する。  

「敵襲ー!総員戦闘配備ー!」「作業員は中へ!機銃砲座発砲自由!」「第二小隊は戦果判定準備!」  




309  名前:  838  03/01/13  23:13  ID:???  

直ちに怒号が飛び交い、兵士達が木こり達を有刺鉄線の内側に誘導し、分隊単位で空き地へ近づいていく。  

「ありがたい限りですね」  

 双眼鏡でその様子を見ていた若い二尉がのんびりという。  

「まったくですね、地雷さまさまですよ」  

 小銃弾倉を目一杯詰め込みながら壮年の一曹が答える。  
 小火器や弾薬と一緒にこちらへ来ていた米軍の物資の中には、大量の対人・対戦車地雷もあったのだ。  
 本来ならば地雷禁止条約に署名している自衛隊が使っていいものでは無いのだが、人的被害を出すよりは責任問題になった方がいいという斎藤の方針を受けて周囲に地雷原を構築してあったのだ。  



424  名前:  838  03/01/20  17:24  ID:???  

深夜  自衛隊駐屯地  木こり達の天幕  

「本当にやる気か?」  

 老年の木こりが尋ねる。  
 仮の宿舎としてあてがわれた天幕の内、一番大きいものの中に大勢の木こり達とその家族が集合していた。  
 車座になって座る一同の真ん中には、一人の若い女性が座っており、最後の一人が入ってきたのを見て話を始めた。  
 話の内容は、自衛隊に認めてもらって、駐屯地の横に自分たちの村を作ろうというものであった。  
 それを聞いた老年の木こりが先ほどの言葉を発した、というわけである。  


425  名前:  838  03/01/20  17:31  ID:???  

自衛隊駐屯地開墾作業の要員募集において、西方兵団は『新規村落開墾団募集』と銘打ってしまったため、集まったのは『家族つきの木こり』達だったのだ。  
 彼らは、目的を告げられずにただ護衛するようにとの命令だけを受けた兵士たちに連れられて、ここ自衛隊駐屯地へとやってきた。  
 だが、到着してから聞かされていた話と現実が違うことを知らされたからといって、いまさら死の森を再び抜けて戻ることはできなかったのだ。  
 なぜならば、彼らを護衛してきた西方兵団の兵士たちはその大半がすでに本部へと帰還していたのだ。  
 では自衛隊はといえば、不慣れな森林地帯を少数の貴重な兵士たちで護衛し、更に無事に帰還するなどという困難な作戦を行うつもりはさらさらなかったのである。  


426  名前:  838  03/01/20  17:33  ID:???  

「西方兵団の護衛が付いているとはいえ、帰りも無事に帰れるとは限らない。それに、ここはついこの間まで森林だったんだ。さぞかし土地が肥えていることだろう」  

 若いリーダーらしい女性が言う。  
 左眼に眼帯をしており、上下にはみ出した傷跡から見てそれはファッションや飾りではないらしい。  

「確かにジェシカの言うことは正しい。だが、あのお方たちが果たしてそれを認めてくださるかどうか・・・」  

 先ほどの老年の木こりが再び言う。  

「なんとかして説得するしかないよ。みんなだって自分の土地が、家が欲しいだろう?」  

 一同の顔を見回す。  
 うなづく一同。小作人やしがない木こりでしかない彼らにとって、土地つき一戸建ては命を掛ける値打ちがある。  

「ここには土地がある、家の材料もたくさんある。あのお方たちもいるし、しかもどうやら西方兵団も詰め所を作るみたいだ。いいこと尽くめじゃないか!」  

 両手を大きく広げて説得をするジェシカ。  
 その言葉に影響されてか、一同の中から賛同の声が次々と上がる。  

「・・・・・・どうだいみんな?賛成かい?」  

 頃合を見計らってのジェシカの問いに全会一致で賛成を唱える一同。  
 しばらく細かい点に関して話し合うと、ジェシカは夜中だというのに自衛隊司令部へと赴いた。  


427  名前:  838  03/01/20  17:36  ID:???  

「・・・・・・・・・はあ」  

 至急の用事だからというので叩き起こされた臨時指揮官の溝口三佐は、事のあまりの緊急性のなさにキレかけた。  
 だが、現地民とは友好関係を保つべしというPKO派遣時の原則を思い出し、ぐっとこらえて先ほどの気のない返事を返した。  

「いかがでしょうか?ああ、もちろん工事が終わってからの話です。もちろんただで、とは申しません。  
 保護していただくのですから保護税は払わせていただきますし、兵士が必要だというのでしたら我々の中からある程度の数を出すことも可能です。  
 それと、我々の中には木彫り細工を作れるものもおりますゆえ、皆様にささやかながら家具や調度品の数々をお送りすることもできます。それに・・・」  
「ま、待った待った」  

 機関銃のように喋りまくるジェシカに押されていた溝口三佐が慌てて止める。  
   
「それは私の一存で決めるわけにはいかない。ひとまずは工事の完了が最優先だ。だが、明日には我々の指揮官が戻る予定だから、そのときに場を設けよう、それでいいかな?」  

 一瞬くらい表情になったジェシカだが、最後の言葉を聞いて表情が一気に明るくなる。  

「ありがとうございますミゾグチさん!!」  

 将軍という雲の上の存在に対する謁見どころか陳情の許可をもらったのだから、彼女の喜びようはさして不思議なものではない。  

「あー喜んでるところ申し訳ないが、ちょっと寝不足でね、そろそろお開きにしてもいいかな?」  

 明らかに疲労困憊という声と表情で溝口。  
 その声を聞いてはっとした表情をしたジェシカは、退出の許可をもらうとそそくさと司令部を退散した。  
 だが、神様というのはよほど意地悪ならしく、その直後に敵襲を示す照明弾が夜空を彩った。  
 寝不足の溝口三佐が呪詛の念を吐きながらベッドから飛び起きざるを得なかったのは言うまでもない・・・  


428  名前:  838  03/01/20  17:38  ID:???  

翌日  自衛隊駐屯地  夕刻  

「・・・お疲れさまであります閣下」  

 怪しい手つきで敬礼をする溝口三佐。  
 昼間にも二度敵襲があったため、不幸な彼は疲労困憊を通り越して倒れる寸前であった。  

「ご苦労溝口君。あー、報告は聞いている。ひとまず君は眠りたまえ。その様子じゃ書類一枚書くのも辛いだろう。  
 一度寝て、時計は合わせてあるな?よーし、2000(午後八時)に司令部に出頭すること、報告書は明日の1800(午後六時)までに提出すること。  
 以上。ご苦労だった」  
「はっ、それでは失礼します」  

 敬礼すると、フラフラしながら自分の天幕へと戻っていく。  
 それを苦笑しながら見送ると、佐藤三佐と共に司令部へと歩き出す斉藤。  
 すれ違う自衛隊員たちの張り切った敬礼や、西方兵団の兵士たちのおぼつかない敬礼を返しながら進んでいく。  
 しばらく行くと、無駄に傷だらけになっている中村が司令部の入り口でもめているのが見えてきた。  


429  名前:  838  03/01/20  17:39  ID:???  

「だーから、斉藤閣下に陳情なんて言う話は聞いてないの!つーかあんた民間人だろー  
 あ、でもあんた結構綺麗だからなーどうよ?俺と今晩ど・・・」「このボケッ!!!!」  

 現地民相手に調子に乗った中村がとんでもない事を口走ろうとした瞬間、一瞬早く佐藤のとび蹴りが中村に襲い掛かった。  

「高校中退のカス!!クズめ!」  

 罵声を浴びせながら殴る蹴るの『教育』を繰り返す佐藤。  
 その様子を見た数名の隊員たちが駆けつけ、一緒になって中村を殴りつけ始める。  

「ああお嬢さん、どうされました?」  

 唖然としているジェシカに笑顔で話しかける斉藤。  
 さりげなく自分の姿で中村の姿を隠すのを忘れない。  

「私はジェシカという者です。自衛隊のサイトー将軍閣下に陳情の許可を取っていただいたはずなのですが・・・」  
「ああ、あなたがジェシカさんですね?大変興味深いご提案があるとかで・・・ささ、司令部の中へどうぞ」  
「は、はい。ところであなたは?」  
「ああ、自己紹介がまだでしたね。陸上自衛隊陸将、斉藤三弥であります」  
「さ、サイトー陸将、将、将軍閣下!?」  


452  名前:  838  03/01/22  15:09  ID:???  

その後、恐縮しきって地面にひれ伏したジェシカをなだめながら司令部の中へと移動した斎藤は、しばらく考えた後にジェシカの申し出を受け入れた。  
 帰還の目処が立たない現状において、最悪の事態、つまり帰還することが不可能な場合にも備えようと考えたのだ。  
 当然ながら工事の完了が優先である事を伝えるのを忘れない。  

「はっ!我々一同、サイトー将軍閣下の御温情にお答えできるよう頑張らせていただきます!!」  

 頭に突き刺さらんばかりの勢いで敬礼をすると、そのままの格好で退出をしていくジェシカ。  
 その姿に苦笑しつつ「俺、文民にあんな態度とられたの初めてだなぁ」とやや嬉しそうに呟く斎藤であった。  


453  名前:  838  03/01/22  15:10  ID:???  

王国暦794年1月17日  自衛隊駐屯地  

「斎藤閣下」  

 作戦図を前にした佐藤が斎藤に声をかける。  
 顔中にドーランを塗りたくり、迷彩服に弾倉を詰め込んだ佐藤が敬礼をしつつ斎藤の指示を待つ。  

「作戦開始だ。敵軍を制圧せよ」  
「はっ!直ちに状況を開始します」  

 斎藤の言葉で弾かれたように敬礼をすると、駆け足で部下達の元へと走っていく佐藤。  


「諸君!作戦を開始する!!所定の計画に基づき、状況を開始せよ!!以上!」  

 佐藤の号令で陸曹たちが声を張り上げる。  

「二班全員集合!一斑に続き前進する!」「六班何をやっている!」「一斑出撃する!先陣だぞー気合入れて行け!!」  


454  名前:  838  03/01/22  15:11  ID:???  

号令や怒号を響かせつつ次々と出撃していく自衛隊員たち。  
 それを歓声を上げながら見送る同僚や民間人たち。  

「こうあるべきなのだ」  
「は?」  

 静かに呟いた斎藤に尋ねる佐藤。  

「自衛隊の出撃とは、こうあるべきなのだ。国を護る為に出撃する我々の出撃とは」  
「まったくですな」  

 斎藤の言いたかった事が分かり同意する佐藤。  
 気がつけば、留守部隊や斎藤たちに混じって、住民達や西方兵団の兵士達もが不慣れな敬礼をしていた。  
 それは、困難に立ち向かわんとする自衛隊員たちへの紛れもない敬意の現れであった・・・    



469  名前:  838  03/01/23  00:22  ID:???  

その日、斎藤たちは王都アスターランドにある自衛隊宿舎に宿泊していた。  
 作者が話の都合上無理やり召喚したからだ(笑)  

「斎藤閣下?確か自分達はさっきゴブリンの洞窟へ出撃したようn・・・」「佐藤君、君は知らなくていいことだ」  

 Delキーを構えた作者を見て慌てて斎藤が黙らせる。よろしい。  

「は、はあ・・・しっかしこの紅茶は美味しいですなぁ〜」  
「そうだな、こう美味しいと呼び出された甲斐があるというものだ」  
「そうですねー」ドガッ!  

 斎藤と一緒に同意した中村が佐藤に回し蹴りを食らう。  

「な、なんd」「うるせぇボケ!!なんで不眠番の貴様がここにいる!」  

 ローマ字入力をする余裕も与えずに素早く第二弾、第三弾を叩き込む佐藤。  

「ひ、ヒデェ、おわっ!」  

 呟きながら立ち上がろうとした中村が、不意によろけてテーブルに置かれたカップを落としてしまう。  

                                                     ガシャン  

 そして、全てが始まった・・・  



472  名前:  838  03/01/23  01:15  ID:???  

「サイトー閣下のいらっしゃるお部屋でカップが割れた模様です」  

 警備役として付けられているエルフ兵からの通報を受けた魔道士が冷静に報告する。  
   
「そうか」  

 それを聞いた執事長は返事をすると後ろを振り向く。  
 そこには大勢の部下達が待機しており、執事長の命令を今か今かと待ち望んでいた。  
 執事長であり、実は大勢の護衛たちを束ねる護衛隊長でもあった彼は、一瞬目をつぶった。  
 次の瞬間、彼は窓が震えるほどの怒号を吐き出した。    

「一斑二班!通常装備で直ちに現場へ急行!!三班!倉庫からあるだけの装備を運び出せ!!四班は俺に続け!!」  
「「「「Sir  yes  sir!」」」」  
「さあさあお嬢様方お仕事の時間だぞ!ケツを上げろ!給料分の仕事を見せろ!GOGOGOGO!!」  

 執事長の怒号に身をすくませながら部隊は出撃した。  
 各自割り当てられた装備を握り締め、硬い表情を浮かべつつ走り続ける。  
 目標は、東館213号。斎藤たちのいる部屋である。  


473  名前:  838  03/01/23  01:17  ID:???  

「なんか騒がしいな」  

 西館に次々と光が灯っていくのを見ながら佐藤が呟く。  
 彼の足元には中村が倒れている。  

「様子がおかしいな」  
「気のせいではないでしょうか?衛兵達は静かなものですよ?」  
「・・・それもそうか。中村、そこで寝るな。邪魔だ」  

 そう言って倒れている中村のわき腹に蹴りを入れる斎藤。  

「ううっ、ちくsy」「何か不満でもあるのかね?中村三等陸曹殿?」  
「い、いえ」  

 お決まりの台詞すら言わせてもらえない。  

「ほらほら中村くん、さっさと巡察にでる」  
「はっ、はい」  

 部屋から蹴り出される中村。  

「畜生、いつかこr」「オラ中村!さっさと行けよ!「邪魔なんだよ!」  

 今度は部屋の前で警備をしている隊員にどつかれる中村。  

「わ、わかったよ、畜生」  

 呟きつつ廊下をとぼとぼと歩いていく中村。  


474  名前:  838  03/01/23  01:18  ID:???  

曲がり角を曲がって数歩程行くと、向こうから護衛の騎士が二人、談笑しながら歩いてくるのが見えた。  

「ご苦労」  

 偉そうに言いながら敬礼をする中村。  
 彼が二人とすれ違った瞬間、片方の騎士が中村の後頭部に鋭い一撃を食らわせた。  

「グワッ」  

 一撃で撃沈する中村。  
 彼らは気絶した中村の口に猿轡を噛ませると、どこかへと連れ去っていった。引きずりながら。  




568  名前:  838  03/01/28  04:47  ID:???  

 >474の続きの外伝の続きでする〜  

 刻々と迫る大部隊に気づかず、斎藤たちは・・・  

「ふぅーしかし疲れましたなぁ」  

 ソファーにどっかりと腰を下ろして斎藤。  
 佐藤はタバコを吸いながら窓の外を見ていた。  
 ・・・かなりくつろいでいた。  


「一斑が正体不明の部隊と接触!」  

 執事長と共に行動していたエルフ兵が切迫した様子で報告する。  

「なに!?」  

 王都の、それも客将の館で起きてはならない事態に思わず絶句する執事長。  
 だが、次の瞬間には矢継ぎ早に指示を下す。  

「神聖騎士団に出動要請!一般兵は?」  
「門の警備に15名ほど、残りは巡回中です」  
「集められるだけ集めろ!直ぐにだ!門に全員を配置、敵を逃がすな!」  
「はっ」  


569  名前:  838  03/01/28  04:47  ID:???  

「よーし、俺のかわいい貴様ら!よーく聞け!」  

 全力疾走しながらも大声を途切れさせない執事長。  

「閣下の部屋の掃除は後回しだ!メイドの意地を見せろ!武器庫へ急げ!!」  
「「「はいっ」」」  

 第101要人警護団長であり、斎藤たちの執事長もしているハートマンは、いつもの執事長の服装の下からいつのまにか短剣を二本取り出した。  
 そして、ゴブリンどころかデーモンでさえもが裸足で逃げ出しかねない、凶悪極まりない邪悪な笑みを浮かべながら一路武器庫へと向きを変えた。  


570  名前:  838  03/01/28  04:52  ID:???  

同時刻  斎藤たちの部屋  

「革命!?」  

 佐藤にそう告げられた斎藤は、先ほどの叫び声を上げると力なく椅子によりかかってしまった。  
 佐藤が秘密裏に進めていた作戦の成功は、彼の考えていた事を全て水泡に帰すだけではなく、現在の地位を失う事をも意味しているからだ。  

「そういうことです、閣下」  

 満足そうな笑みを浮かべながら佐藤。  

「どうして・・・どうして気づかなかったんだ・・・」  
「経験の違い、でしょうかね」  
「糞・・・現実を・・・受け入れるしかないか・・・」  

 先ほどの態度から一転し、諦めたような口調でカードをテーブルへ投げ出す斎藤。  

「あれ、閣下諦めるんですか?」  
「当たり前だ、残りは2とAしかないんだぞ、どうやって勝てっていうんだ」  

 ポケットからタバコを取り出しながら斎藤。  

「これで12連勝ですな〜♪」  

 嬉しそうに佐藤。  

「ふぅ、しかし、この『大富豪』とかいうカードゲームは緊張感があるな」  
「そうですねー確かにこの緊張感はそうそう味わえるものではありませんな」  

 二人の会話を聞きながら護衛の陸士長は思っていた。  

(嘘だ嘘だ嘘だ!大富豪はあんな嫌な重苦しさがあるゲームじゃない!!)  



612  名前:  838  03/01/31  11:12  ID:???  

 陸士長が心の中で悲痛な悲鳴をあげていたころ、ハートマン率いる護衛部隊は斉藤たちの部屋まであと少しというところに来ていた。  
 だが、曲がり角を曲がろうとしたところで先導の兵士が頭に剣を生やして倒れた。  

「誰だ貴様は!?」  

 素早く身構えながらハートマン。  
 部下たちも一斉に身構える。  
 そんな中、一緒に来ていた二人の兵士が剣を素早く抜いて敵へと斬りかかった。  

「スノーボール!ジョーカー!下がれ!」  

 彼の横を流星のような素早さで飛び出した二人の兵士に怒鳴りつけるハートマン。  
 その言葉に大慌てで立ち止まる二人。  

「指示もないのに勝手に動くんじゃないクソどもが!!」  
   
 おびえたような表情で彼のほうを伺う二人だが、敵はその隙を付いて剣を振り上げた。  
 だが、それを黙って見守るほどハートマンは無能ではない、すかさず両手に持っていたナイフを投げつけて敵の両目に直撃させ、一撃で  
 殺害した。  

「おおー」  

 その見事な腕に歓声を上げる一同だが、その隙に最後尾に忍び寄っていた三人ほどの敵兵が剣を振り上げた。  

「かかれ!!」  

 ハートマンの号令で部下たちが一斉に武器を構え、敵に襲い掛かる。  


613  名前:  838  03/01/31  11:14  ID:???  

「えいえいっ!」「このぉ!」「あっちいけーー!!」「おかあさーーん!」  

 ほうきをブン回し、黄色い声で襲い掛かるメイド達!!!  
 敵は剣を振り上げたのも忘れてその姿に見とれてしまった。  

「だってここのメイドたち胸の露出が多いんだもん」  

 とはこの場で取り押さえられた暗殺者の一人の言葉である。  
 かくして暗殺者たちは取り押さえられ、斉藤たちの所へはほうきと代えのカップを持ったメイドたちが何事もなかったかのように現れ、  
佐藤と斉藤は鼻の下を伸ばしたわけである。  


614  名前:  838  03/01/31  11:19  ID:???  

 一方そのころ中村は・・・    

「貴様は何者だ!」  
「あ、あんた何でそんなに態度がちが・・・」  
「黙れ!アホ相手に質問する役は俺だ!」  
「じ、自衛隊の中村三等陸曹だ!こんなことして」  
「そんな貧相な奴が自衛隊にいるか!クソッタレが、自衛隊をかたるとは、貴様は蛆虫だ!この世で最も価値のない生き物め!!」  

 容赦なく中村を殴りつけるハートマン。  


615  名前:  838  03/01/31  11:20  ID:???  

「ひ、ひでぇ」  
「なんだ?俺をひどい馬鹿とでも言いたいのか?」  
「と、とんでもないです」  
「馬鹿野郎!口からクソを垂れる前と後にサーをつけろ!」  
「サーイエッサー!!」  
「聞こえないぞ!タマ落としたか!!」  
「サーイエッサー!!!」  
「貴様どこの回し者だ!」  
「自分は自衛官でありますサー!」  
「黙れ馬鹿野郎!」  
「申し訳ありませんサー」  
「続けてよろしゅうございますか?」  
「サーイエッサー!」  
「ふざけるな!聞こえねぇぞ!!タマ落としたか!!」  
「サーイエッサー!!!」  

 ヘトヘトになった中村が解放されたのは三日後のことである。      



619  名前:  838  03/01/31  22:16  ID:???  

「アレじゃないでしょうか?」  

 先行して偵察に当たっていた空挺隊員の一人が小声で部隊長に話しかける。  

(止まれ)  

 音声では答えずに手で仲間たちにサインを送る。  
 それを見た周囲の空挺隊員たち14名が動きを止めて周辺の警戒に当たる。  

(お前とお前、こっちにこい)  

 サインで部下二名を自分のところへ来させると、残りの隊員たちはやや間隔を狭めて周囲の警戒に当たる。  

「中の様子を伺って敵がいるかどうか確かめろ。そのあとで重迫(重迫撃砲)による制圧射撃を申請する。小銃小隊は?」  
「すでに後ろ500mの地点へ到達しております。小隊長殿をお呼びしますか?」  
「そうする。それじゃ行ってこい」  
「「はっ!!」」  

 とは敬礼せずに、コクンとうなずくと遮蔽物をうまく利用しながら地面にぽっかりとあいた洞窟の入り口へと近づいていく。  
 それを眺めながら隊長はインカムのマイクを喉元へとやっていく。  


620  名前:  838  03/01/31  22:17  ID:???  

「こちらグリーンヒル1、グリーンヒル1、アラバスタ2応答願います、オクレ」  
<こちらアラバスタ2、グリーンヒル1どうぞ、オクレ>  
「目標発見、攻勢準備をしたい、前進願います、オクレ」  
<アラバスタ2了解。グリーンヒル1、現在位置知らせ、オクレ>  
「前方約500、オクレ」  
<アラバスタ2了解、そちらを視認したら通信する、交信オワリ>  
「グリーンヒル1了解」  
<グリーンヒル1、こちらハンマー01、そちらの通信を傍受した。観測班を送ったので視認したら誘導してやってくれ、オクレ>  

 通信を聞いていた重迫撃砲部隊が早くも観測班を送ったらしい。  
意外なほど素早い展開にニヤリとする偵察隊長。  


621  名前:  838  03/01/31  22:18  ID:???  

「グリーンヒル1了解、オワリ」  
「隊長、間違いありません、連中です。洞窟内は奥行きおよそ10mほどと思われます。武装は確認できた範囲内では剣のみ、人骨が多数確認できました。敵勢力はおよそ20名ほどかと思われます」  

 いつの間にか隊長のところへと戻ってきていた先ほどの隊員が声を掛ける。  

「そうか、今、後続のアラバスタ2とハンマー01の弾着観測班がこっちへくる。話が付き次第攻撃する。周囲の警戒を怠るな」  

 再びコクンとうなづくと、物音を立てないようにしながら周囲に溶け込んでいく。  
 しばらくすると、小銃小隊がガサゴソいいながら近づいてきた。  

「こちらグリーンヒル1、前方約20の木陰、オクレ」  
<こちらアラバスタ2、小隊長の三舟だ、そちらを視認できない、申し訳ないがでてきてもらえるか?オクレ>  

 それに答えて何の変哲もない草むらが動き、一人の草人間・・・幹部空挺レンジャー資格保有者、秋山健一一等陸曹が現れた。  


622  名前:  838  03/01/31  22:18  ID:???  

「前方の洞窟ですか?」  
「ああ、直ぐにでも作戦を開始したい。重迫の観測班が向かっているらしいので・・・」  

 そこまで話したところで小銃小隊の後ろの草むらが物音を立てる。  
 すぐさまその場にいる全員が小銃をそちらへ向ける。  

「撃つなっ!・・・人生は?」  

 発砲を控えさせ、合言葉を言う秋山。  

「暇つぶし」  
「よし」  
「重迫の観測班です」  

 ビクビクしながら草むらから二人の隊員が現れる。  

「発射準備はすでに完了しています」  
「いまから展開するところだ、誘導は任せた。あちらさんの兵士たちは?」  
「それが・・・」  

 観測班の隊員によると、面目を保つためという理由で連れて来ていた、というか勝手についてきていた西方兵団の兵士たちは全員が野鳥の飛び立つ音などで逃げ出してしまったらしい。  

「やれやれ・・・んで一人もいないのか?」「いるわよ」  


623  名前:  838  03/01/31  22:19  ID:???  

 呆れ果てて呟いた秋山の言葉に即答する人物がいた。  
 弾かれたようにそちらへ小銃を向ける一同。  
 そこにはローブ姿の女性が一人、不敵な笑みを浮かべて立っていた。  

「人生は?」  
「暇つぶし。もっとまともな合言葉は思いつかないのかしら?」  
「所属は?」  
「ちょっと、合言葉答えたのになんで・・・」「所属は?答えないのならば射殺する」  
「・・・はぁーなんであんたたちはそう硬いのよ。アスター王国神聖騎士団主席魔道士のフレデリカよ。これでいいかしら?アキヤマさん」  
「どうしてここにいる?」  
「えっらそうねー・・・分かったわよ」  

 今にも発砲しそうな一般隊員たちに銃を向けられて面倒そうに言うフレデリカ。  


624  名前:  838  03/01/31  23:04  ID:???  

「王様がねー西方兵団にはろくな兵がいないから手伝って来いっていうのよーなんでこの私がこんな森の中へこなけりゃなんな・・・」  
「わかったわかった、わかったから黙ってくれ、坂田三曹」  

 直ぐに先ほど偵察に行った隊員の一人がやってくる。  

「坂田三曹ここです」  
「こちらのご婦人のお相手を、小銃小隊は直ぐに展開。観測班は自分と一緒に、散開!」  

 すぐさま周囲へと散っていく隊員たち。  

「ずいぶん訓練されてるわねー西方兵団の連中に見せてやり・・・」「お静かに」  

 フレデリカの口を塞ぐ坂田三曹。  

<アラバスタ2、準備よし、オワリ>  
「データ送信しました」  
「よし、攻撃開始する、弾着に注意せよ」  
「了解、こちらドラクエ1こちらドラクエ1、ハンマー01ハンマー01砲撃開始砲撃開始」  
<ハンマー01了解>  

PONKPONK  

 応答と共に後方から迫撃砲の発射音がかすかに聞こえてきた。  

「何の音?」「伏せろっ!」  



634  名前:  838  03/02/01  12:55  ID:???  

BAKOM!BAKOM!  

 凄まじい爆発と共に洞窟の入口が宙に舞い上がり、辺りに文字通りの『土砂降り』となって降り注ぐ。    

「着弾を確認、効力射を要請する、オクレ」  
<ハンマー01了解、効力射開始>  

PONK!PONK!PONK!  

「い、今のは何ていう魔ほ・・・」「伏せろっての!!」  

BAKOM!BAKOM!BAKOM!!!!!!  

 坂田がフレデリカを押し倒すのと同時に洞窟周辺が立て続けに爆発する。  
 全員伏せて耳を塞ぐと同時に口を開けて気圧の変動に耐える。  
 だが、事前にそんなことは聞いていないフレデリカは、立ち上がったところ土砂を大量に浴び、続いて爆風で打ち倒され、次いで耳にダイレクトに飛び込んできた爆音で悲鳴を上げる、と見事な三連コンボを食らっていた。  
 そんな彼女を尻目に秋山以下自衛隊員たちは効力射の終了を待っていた。  


635  名前:  838  03/02/01  12:56  ID:???  

「効力射終了しました!」  
「総員着剣!突撃準備!!」  

 マイクに秋山が怒鳴ると、周囲の自衛隊員たちが89式小銃に銃剣を着剣していく。  
 それを見ながら自分の9mm機関拳銃の弾倉を確認し、セーフティーを解除する。  

「総員一連射の後に突撃する、撃ぇ!!」  

PAPAPAN!!  
PAPAPANN!!PAPAPAPAPAN!!  

 たちまち辺りは銃声に支配される。  
 砲撃で破壊されなかった木々が粉砕され、草が舞い、岩が砕かれていく。  

「総員突撃ぃぃ!!!」  
「ウォォォォォォ!!!!」「死ねぇぇぇぇぇ!!」「ディリャァァァァァァ!!!」  

 秋山の怒号で一斉に木陰から、草むらから隊員たちが怒号を上げながら躍り出る。  
 だが、めぼしい物は全て砲撃か先ほどの一斉射撃で粉砕されてしまったため、洞窟の入り口までやってきた一同は、そこで先ほどの鬼気迫る迫力を失ってしまった。  
 なぜならば、洞窟の入り口は先ほどの砲撃で完全に崩落、埋まってしまったのだ。  

「秋山隊長、どうしますか?」  

 困ったようにいう坂田。  
 その傍らでは、なみだ目になったフレデリカが目を丸くしていた。