319  名前:  227  03/03/10  10:52  ID:???  

   「ピピピピピ!」  
 ぼくは目覚まし時計の無機質なベルで目を覚ました。「N新聞ノビルバーナ出張所」の一室だ。結局、あ  
の戦争=今では「コルバーナ戦役」と呼ばれる戦争、が終わって間もなく1年になろうとしていた。  
 結局、九州を召還した魔法使いとコルバーナ皇帝は戦後のどさくさで行方不明になったままだ。つまり、  
元の世界への帰還の目処は全く立っていないわけだ。  
 洋の東西(?)に関わらず、戦後の混乱はすさまじいものがあった。結局、大陸のほとんどをノビル王国  
が併合し、コルバーナは公国としてわずかな森林地帯を所有するのみとなった。コルバーナは天然資源  
が豊富な国で、石油、鉄鉱石、銅、スズが産出され、ノビルバーナ沖の無人島からはボーキサイトが産出  
していた。つまり、九州で必要な物資の多くがこの大陸から調達できるわけだ。しかもノビル王国は基本  
的に農業国であり、食糧の供給も盛んに行われた。  
 ここで問題になるのが我が九州がノビルに輸出するモノだ。銃器や内燃機関など、九州の軍事的根幹  
に関わる品目は当然禁輸されたが、電力、電気製品などは盛んに輸出されるようになった。おかげでぼく  
の仕事も大幅に楽になった。記事を九州に送るときは、自衛隊の船やヘリにお願いしていたのだが、今で  
はノートパソコンからメールを使って送れるようになっている。携帯電話の通話もノビルバーナ地区では開  
業された。  
 もちろん、こうした状況は首都のノビルバーナ周辺だけではあった。国王や枢機卿の威光を低下させな  
いためにも、全土の近代化は許されなかったわけである。  
 一方、旧コルバーナの各地の資源産出地には多くの日本人が出向いていた。九州には炭坑が多かっ  
たせいもあり、採掘技術をまだ持っていた企業がこぞってノビル王国に鉱山を開いていった。鉱山夫は給  
料がいいため、各地の鉱山には多くのノビル国民が集まり、ゴールドラッシュの様相だった。  
 また、文化交流も盛んで、特に魔法文化と日本文化の交流が盛んに行われた。エルフの中には厳格な  
日本文化に感動し、自分の家に和室をつくってそこで精霊を召還する、茶道ならぬ、魔道を開いたヤツも  
いた。  


320  名前:  227  03/03/10  10:53  ID:???  

 そんな平和な日々が続いていた矢先だった。ぼくは目覚ましに起こされて日課のメールチェックを行った。  
「新着メールがあります」  
の表示を見てそれをチェックする。今では同僚になった大学同期の吉川からだった。  
「旧コルバーナの炭坑が謎の集団に襲撃されて死傷者多数」  
とのことだった。これは朝から大事件だ。ぼくはカメラを持って出かける支度をした。  
「エスタ!出かけるぞ!」  
 今ではぼくにとって公私ともに欠かせない存在になったエスタはすでにいつでも出かけられる準備を整  
えていた。  
「マスター!いつでもどうぞ!」  
「やれやれ。弟子に後れをとってどうする!」  
 ぼくのカメラの精のロバート・キャパがぼやいていた。  


321  名前:  227  03/03/10  10:54  ID:???  

 ノビルバーナ郊外の第19普通科連隊駐屯地に向かったぼくとエスタは早速現場の炭坑に向かうヘリへ  
の同行許可をもらった。  
 ノビルバーナには19普連が、コルバーナ王都には特科と対馬警備隊が駐屯している。ノビルバーナ郊  
外のコクーン卿の土地には空自のF−4ファントムが駐在し、コルバーナ軍残党に備えていた。  
「原田さん、今回の事件はちょっとやばいかもしれませんよ」  
 ヘリに同乗した。市村三尉がぼくに言った。  
「なんでも、例の炭坑には九州の貝島鉱山が出刃っていたらしいんですが、駐在員と炭鉱労働者がそりゃ  
あもう、ほとんど皆殺しだそうです。今までのコルバーナ軍のゲリラじゃあ、ここまでできないですからね」  
 UH-1と護衛のAH-1は30分ほどで現場に到着した。なるほど、市村の言ったとおり現場はすごい状況だ  
った。先の戦争で常に前線で取材をしてきたぼくでも、現場に散乱する遺体のひどさには目を覆わんばか  
りだった。自衛隊員でも新米の隊員は思いっきり吐いている。  
「こりゃひでぇや」  
 市村の口からはそれ以上の言葉は出なかった。彼の言うとおり、それ以上の表現のしようがない惨状だ  
ったのだ。真っ黒になって炭化した遺体。バラバラで何がなんだかわからない遺体。駐在員の事務所の  
前では処刑されたのだろうか、数名が首を斬られて転がっている。その中には明らかに日本人らしい遺体  
も混じっている。  
「エスタ、こりゃ写真は新聞には使えないよ、ひどすぎる」  
「そうですね・・・・。」  
 彼女は怒りを押し殺しながら黙々とシャッターを押し続けていた。  
「市村三尉!」  
 周辺を捜索していた隊員が市村を呼んだ。生存者がいるらしい。市村に続いてぼくたちもその場へと走  
った。  
 生存者は貝島鉱山の駐在員とエルフの男性のようだった。市村の差し出した煙草を駐在員はペコリと頭  
を下げてもらっている。  
「いったいなにがあったんだい?」  
 比較的落ち着いているエルフの男性の方にぼくは話しかけた。彼は真顔で、そして神妙な声で答えた。  
「伝説のダークエルフだ・・・・。それと見たこともない羽の生えた馬に乗った騎士。ゴブリンの兵隊。ありゃ  
間違いない。」  


322  名前:  227  03/03/10  10:56  ID:???  

 エルフの話によれば、ノビル王国の建国は約1000年前、そのころこの大陸はダークエルフと呼ばれる  
種族に支配されていた。エルフよりも強力な魔法を使い、羽の生えた馬に乗る騎士団を率いて全土を荒ら  
し回っていたそうだ。そこへ今の国王の祖先の一族がより強力な白魔法で対抗して大陸からダークエルフ  
を追い出し、彼らの住む島を封印したそうだ。  
「ということは、そのダークエルフ共がこの炭坑を襲ったというのかい?」  
「ああそうだ。あいつらの魔法は今まで見たことがない。悪魔の雷ていう一瞬で受けた者を炭に変える魔  
法を見たんだ。そいつは本当に炭になっちまった。」  
 彼はそう言って側の遺体を指さした。なるほど、見事に黒こげで炭化してしまっている。  
「しかし、なんで今頃そんな連中が現れたんろうかな?」  
 この問いの答えをぼくは対して期待してはいなかったが、そのエルフはあっさりと答えてくれた。  
「黒の教団の儀式が行われたんだよ。」  
「黒の教団?」  
「ああ、ノビルに伝わる邪教集団でな。暗黒魔法の信者共だ。王の命令で禁止されているが地下に潜って  
密かに儀式を行うんだ。そのたびにどこかの村に2,3匹、はぐれゴブリンがやってくる。魔の世界の扉を  
開くからなんだ。」  
 とすると、彼の話が本当なら黒の教団がどこかで暗黒魔法の儀式を行い、魔の世界からダークエルフ  
を召還したからこの事件が発生したと言うことになる。  
 ぼくの推理に答えるように彼は続ける。  
「でも、今度みたいにやたら大勢ダークエルフ共が出てきたなんて話は聞いたことがない。こりゃあえらい  
ことになるぞ・・・・」  
 そこまで話したところでそのエルフは駐在員と共にヘリで病院に搬送されていった。  
「黒の教団・・・・、暗黒魔法・・・・・ねぇ」  
 1年ほどこんなSFの世界に居続けると、この手の話もすっかり慣れっこになってしまう。ぼくは隊員と話  
をしているエスタを呼んで帰り支度を整えるように言った。  


323  名前:  227  03/03/10  10:57  ID:???  

 翌日から、大陸各地で似たような事件が多発し始めた。各地の鉱山が襲われ、石油パイプラインが切断  
された。生存者の口々からダークエルフと羽の生えた馬の騎士団の目撃談が話されるようになった。それ  
を聞いてぼくはコクーン卿を訪ねた。  
「やあ、原田さん、どうされました?」  
 ぼくが九州からこっちに来る前からの友人のコクーン卿は豪勢な屋敷の一室にぼくを招き入れた。ぼく  
は博多から空輸してもらった麦焼酎を土産に彼に渡した。  
「おお!これは久しぶりにいい酒を飲める!さ、どうぞ!」  
 コクーン卿は呼び鈴を鳴らして執事に、氷とお湯を持ってくるように命じた。焼酎のお湯割りが大好きな  
魔法の国の貴族というのもなんというか、奇妙に見えたがまあ、彼を焼酎党にしたのは他ならぬぼくだ。  
「原田さん、あなたの訪問の理由は分かってます。最近のダークエルフ共の件でしょう?」  
 乾杯して最初の1杯をあおった後、コクーン卿は言った。  
「残念ながらお答えできませんな。これはあなたの国で言う最高機密ですからなぁ」  
「そうですか・・・・。あなたなら教えてくれると思ったんですが・・・・」  
 彼好みの4分6分でお湯割りをつくってあげながら、ぼくは秘密兵器を取り出す準備を始めた。これは最  
期のカードと思っていたんだが、仕方ない。  
「いずれ、あなたのお国にも情報は伝えます。もともとそういうお約束でしたからね」  
「なるほど・・・。」  
 ぼくは、今だ!と言わんばかりに例のモノを彼の前に差し出した。  
「まあ、これはぼくのおみやげです。」  
 それを見てコクーン卿は顔色を変えた。  
「うっ・・・・。まあ、いいか。私とあなたの間柄だし・・・・・・な」  
 ぼくが彼に差し出したのは、彼が大好物の博多名物「辛子明太子」だったのだ。  


342  名前:  227  03/03/10  19:02  ID:???  

できた端からカキコさせてもらいます  
ぼくの必殺技に見事に屈したコクーン卿は今回の事件に大いに関係の深い出来事を話してくれた。こ  
の国の貴族階級である枢機卿の中には、我々との交流をよく思わない勢力があるという。魔法原理主義  
とでもいうのだろうか。彼らは魔法社会の特権で生きてきた。日本人との交流と近代文明の流入は魔法  
を原理としてきた彼らの特権を奪いかねないというのだ。  
 それを最も強硬に主張していたボルダー卿という人物は先日来、自分の領地に引きこもっているそうだ。  
噂では彼の領地には黒の教団と思われる複数の人物が頻繁に出入りしているという。  
「我が国としても内偵中で、なんとも言えないんですがね」  
 コクーン卿は言いにくそうに言葉を選んでいたが、どうやら近々ボルダー卿の領地への捜査が行われる  
そうだ。そしてその捜査に日本側の協力を仰ぎたいと言うことだった。  
 黒の教団相手では今までにない強力な暗黒魔法の反撃が予想される。だからコルバーナ軍との戦闘  
経験のある自衛隊の派遣を要請したいということだった。  
「でも、それは難しいと思いますよ、これじゃ内政干渉だ。」  
 ぼくはこう反論するしかなかったが、事態が一変する事件がその翌日発生した。  




343  名前:  227  03/03/10  19:25  ID:???  

 吉川から携帯で連絡が入ったのは午後も遅くなったころだった。  
「はい、もしもし・・・」  
「おい!大変だ!テロだ!」  
 吉川の第一声はこれだった。テロっていっても北朝鮮もイスラム過激派もこの世界にはいない。だったら  
一体誰が・・・・  
「哨戒中の自衛隊のレーダーにも映らないミサイルのようなモノが福岡タワーを直撃したそうだ。それから  
中州にも数発落下したらしい。」  
 ぼくはあの炭坑の生き残りのエルフの言葉を思い出していた。  
「悪魔の雷・・・・・」  
 福岡タワーは半壊し、中州の繁華街では雑居ビルが数件全焼した。死傷者も30名を超え、九州がこの  
世界に召還されて初の大惨事となった。連日ニュースはこの事件を書き立て、ボルダー卿関与も連日書  
き立てられた。それを受けて、ついに福岡県警から新設のSATがボルダー卿捜査に投入されることとなった。  
 ぼくもコクーン卿のコネを使ってその強制捜査に同行することができた。事前にエルフに頼んで防弾チョ  
ッキに強力な魔法防御を施してもらって準備は万端だった。  
 ボルダー卿の屋敷を普通科中隊が包囲し、王室護衛隊が隊長のランドルフに率いられて到着した。完  
全武装のSATがMP−5などを装備して屋敷の周囲に密かに配備された。  
「王室警護隊である!ボルダー卿!御開門願いたい!」  
 ランドルフの大声にも屋敷は静まり返っている。しばらく待ってランドルフが部下に無言で指示した。騎士  
たちが下馬して屋敷の門をこじ開けようとした。  
「うわっ!」  
「ぐあっ!」  
 屋敷の窓からロングボウが撃ち出されて数名の騎士が倒れた。  
「救出しろ!」  
 ジェラルミンの盾を持った機動隊員が矢を跳ね返しながら倒れた騎士を引きずって後退する。それを見  
届けた県警の指揮官が無線に叫んだ!  
「突入せよ!突入せよ!」  


344  名前:  227  03/03/10  19:27  ID:???  

 屋敷の周囲に潜んだSAT隊員が行動に移る。あっという間に屋敷の壁に取りつくと、MP−5の銃床で  
窓を破りフラッシュグレネードを投げ込む。ぱっと目を覆う光が屋敷の数カ所で発生し屋敷の中からざわめ  
きと叫び声があがる。  
「突入!ボルダー卿を確保せよ!」  
 命令以下、SATが次々と廷内に突入する。ロングボウを発射する窓に向かって機動隊が催涙弾を撃ち  
込んで沈黙させていく。ぼくもジェラルミンの盾に守られながら正面玄関から屋敷に入っていく。時折、MP  
−5の3連射の銃声が聞こえる。  
「1F確保!2Fに突入!」  
 暗い廷内にMP−5のレーザーポインタと隊員の持つライトが飛び回っている。  
「確保しました!」  
 2階で隊員の声があがった。ぼくも機動隊員と共に2階へと向かった。うまくいけばボルダー卿逮捕の瞬  
間をカメラに収めることができるかもしれない。  
 奥の一室にボルダー卿はいた。短剣を構えた従者とフードを深くかぶった魔法使いと3名だった。短剣  
を構えた従者はMP−5のレーザーポインタが全身に浴びている。盾を構えた機動隊員の後ろからランド  
ルフが叫ぶ。  
「ボルダー卿!ノビル王国の友好国民への攻撃容疑で拘禁いたします。」  
 それを聞いて従者がランドルフに突進した。たちまち、MP−5の射撃が彼の足を撃ち抜き制圧された。  
魔法使いがなにやら呪文を唱えた。隊員が思わず彼に発砲し、彼は倒れた。  
「ばかもん!なぜ撃った!」  
 変な呪文を唱えられて貝島鉱山の駐在員の二の舞を恐れた隊員の恐怖は理解できた。  
「す、すいません!」  
 しかし、次の瞬間一同は呆気にとられた。撃たれた魔法使いが必死に呪文を唱え終わるとボルダー卿  
の姿は一瞬でその場から消え去ったのだ。どうやら、魔法使いは瞬間移動の呪文を唱えたようだ。  
「確保しろ!」  
 命令以下、機動隊員が撃たれた魔法使いのまわりに群がった。フードをめくると今まで見たことない人  
種の魔法使いだ。  
「む、ダークエルフか」  
 ランドルフの言葉に機動隊員たちはざわめいた。  
「おい!ボルダー卿をどこへやった?」  
 ランドルフの問いかけに魔法使いは答えず、なにやらまた呪文を唱え始めた。  


345  名前:  227  03/03/10  19:30  ID:???  

 しかし、次の瞬間一同は呆気にとられた。撃たれた魔法使いが必死に呪文を唱え終わるとボルダー卿  
の姿は一瞬でその場から消え去ったのだ。どうやら、魔法使いは瞬間移動の呪文を唱えたようだ。  
「確保しろ!」  
 命令以下、機動隊員が撃たれた魔法使いのまわりに群がった。フードをめくると今まで見たことない人  
種の魔法使いだ。  
「む、ダークエルフか」  
 ランドルフの言葉に機動隊員たちはざわめいた。  
「おい!ボルダー卿をどこへやった?」  
 ランドルフの問いかけに魔法使いは答えず、なにやらまた呪文を唱え始めた。  
「やめさせろ!」  
 機動隊員が彼の口を手でふさごうとしたが、彼はその手にかみついて呪文を唱え続ける。  
「痛っ!野郎!」  
「異世界人どもめ・・・・、思い知るがいいわ」  
 呪文を唱え終わるとダークエルフは血を吐き出して息絶えた。次の瞬間、大地を揺るがす轟音と震動が  
ぼくたちを襲った。  
「なんだ?」  
 深度に換算して5くらいだろうか。数十秒で地震は収まった。残されたのは足を撃たれた従者とダークエ  
ルフの射殺体だけだった。  
「あ!隊長!」  
 階下で逮捕者の警備に当たっていた隊員が大声を上げた!  
「どうした!」  
「逮捕者が次々と自殺しています!早く猿ぐつわをかませ!」  
 逮捕者が舌をかみ自殺を始めたというのだ。中には手錠をされた状態でガラスを手で破り、その破片で  
首を斬った者もいた。  
「おい!お前ら!どういうつもりだ!」  
 ガラスで首を斬りつけたものの、失敗した逮捕者にランドルフは尋ねた。彼は不敵な笑みを浮かべてラ  
ンドルフに答えた。  
「王室警護隊ならばわかるだろう。魔道士様が最終召還魔法を死の瞬間唱えられた。魔の世界の扉が開  
かれたのだ。伝説の軍団が異世界人と背教者共を皆殺しにしてくれよう・・・・」  
 逮捕者46名、うち自殺した者34名を、騎士団に負傷者5名を出し、ぼくたちは空気も重苦しくボルダー  
卿の屋敷から撤収した。  


346  名前:  227  03/03/10  19:32  ID:???  

 ノビルバーナの事務所に帰ったぼくたちは夕食を取る元気もなかった。仕方がないので空輸してもらっ  
たカップラーメンで質素な夕食を取る運びとなった。カップラーメンで腹を満たした後は、とりあえず冷蔵庫  
からビールを出して晩酌としゃれ込もうと思った矢先だった。  
「原田さん!」  
 事務所のドアをノックすることもなく市村が駆け込んできた。  
「やあ、市村三尉、ビールでもどうだい?エスタ!市村三尉にグラスをたのむよ」  
「アイサー!マスター!状況開始します」  
 妙ちきりんな自衛隊用語を口走りながら彼女がキッチンに消えた。運ばれてきたグラスに注がれたビー  
ルを一気に飲み干して市村は一息ついた。  
「大変ですよ。ノビルバーナの南にまた変な陸地が現れたんですよ。陸地の上空には変な雲がかかってて  
いかにもって感じの雰囲気です。本国は今じゃ大騒ぎですよ」  
 ぼくは彼の言葉にピンときた。死に損ねた黒の教団の言葉・・・・「魔の世界の扉が開かれた」。あの言葉  
の意味がわかったような気がした。その時、キッチンに再び引っ込んだエスタが大声をあげた。  
「マスター!」  
 またゴキブリでも出たのかと思って、市村とキッチンへ向かう。キッチンのテレビを見てぼくは唖然とした  
普段この時間は九州のローカル番組の時間で、温泉特集でもやってる時間だ。だが、画面に映し出され  
たのは、今日機動隊と王室警護隊が取り逃がしたボルダー卿だったのだ。  
「魔法を使った電波ジャックです・・・・」  
 エスタが言った。そう言えば、エルフが魔法を使っている側で携帯電話を使うと通話が途切れるという不  
具合がNTTに数件寄せられているそうだが・・・・。これが事実とすればこの電波ジャックをやらかした連  
中の力は相当なモノだろう。  


347  名前:  227  03/03/10  19:32  ID:???  

「愚かなる異世界人と、邪教徒に屈した国民に告げる。我ら黒の教団は、邪悪なる異世界人と邪教徒を殲  
滅し、この国を再び暗黒魔法の支配する国にするために蜂起した。ノビル国王は直ちに退位し、大魔道  
士ジャルバ様による専制の復活を宣言せよ。」  
「何言ってんだ?こいつ?」  
 事情をよく知らない市村が首を傾げる。テレビの中のボルダー卿は続けた。  
「異世界人にはこれより、魔の世界の伝説の騎士団による攻撃を開始する。国民よこれは聖戦である。  
全土の黒の教徒たちよ。立ち上がり、槍で剣で己の持てる魔法で異世界人を殺せ。抹殺せよ・・・・・・」  
 画像が乱れ始めた。さすがに電波ジャックは奴ら(今のところよくわからないが)には少々きついのかも  
しれない。  
「・・・・・・・これにより、この国に、大魔道士ジャルバ様の・・・・が訪れるであろう」  
 ここまででボルダー卿の映像は途切れた。次の瞬間にはいつもの別府温泉特集が映るばかりだった。  
「なんなんです?ありゃ?」  
 市村がぼくに問いかけながら冷蔵庫のビールをあつかましく勝手に拝借しようとしたときだった。事務所  
全体が大きく揺れて耳を切り裂く爆発音が聞こえた。窓を見ると港に泊まっていた輸送船が炎を上げている。  
間違いない。奴らのテロだ。しばらくすると64式の銃声が聞こえ、警戒に当たっていたんであろう。普通  
科小隊のパジェロだののエンジン音が聞こえた。  
「CMの後は、大分県の秘湯にカメラの初潜入です!」  
 明らかに場違いなテレビのレポーターの声が静まり返った事務所に響いていた。  


348  名前:  227  03/03/10  19:34  ID:???  

 翌日以降、王国全土で発生していた鉱山やパイプライン襲撃のテロは収まりつつあった。だが気になる  
情報も舞い込んでいた。多くの黒の教団と思われる人々が次々と、コルバーナ公国領となった森に姿を消  
しているというのだ。  
 ぼくはそれがどうも気になって仕方がなく、国境に一番近い自衛隊の駐屯地に出向くことにした。コルバ  
ーナ油田と呼ばれる、例の旧コルバーナ王都郊外にある対馬警備隊駐屯地だ。ノビル王国初上陸以来  
の友人、村本三佐もいるし、ちょっとばかり気が楽だった。  
 警備隊に送る物資補給のヘリに便乗させてもらってコルバーナ油田の隣の駐屯地に降り立った。顔見  
知りの隊員が何人かいた。  
「お!原田さんだぞ!」  
 ぼくを見つけたというよりも、ぼくにくっついてエスタがやってきたという期待からだろう(泣)。大勢の隊員  
がヘリポートに集まってきた。残念ながら彼女はノビルバーナの事務所に残って今回はぼくだけだとわか  
ると、隊員たちは口々に不満を漏らした。  
「なんだ、原田さんだけか・・・」  
「ちぇ、おもしろくないなぁ」  
 そんな隊員たちの言葉に半分の愛嬌と、半分の怒りを覚えながらぼくは警備隊本部に向かった。  
「おお!原田さん!お久しぶりですねぇ」  
 数ヶ月ぶりに会った村本は元気そうだった。  



349  名前:  227  03/03/10  19:35  ID:???  

「いや、この先の国境の森に変な連中が出入りしてるって聞きましてねぇ」  
「いや、早速取材ですか。仕事熱心ですなぁ。おい!お茶を出さんか!」  
 村本は大声で部下に命じる。  
「まったく、最近の新米ときたら、本国で仕事がないから自衛隊に入った連中が多くて・・・・」  
 新米だろう、見たことない隊員がお茶を運んできて、ぼくと村本の座った応接机にせんべいを一緒に置  
いていった。  
「にわかせんべいですか・・・・」  
「そうなんです。家内がね。昨日送ってくれたんですよ。」  
 村本の奥さんは九州がこっちの世界に移ってからは対馬を離れて博多の県営住宅で暮らしているそうだ  
やはり、村本もとしてもそっちの方が安心だそうだ。  
「で、例の森に入った連中のことですが・・・・」  
 熱い玄米茶を飲み干し、煙草に火をつけながら村本が言った。  
「さっき上からも通達がありましてね。先日の電波ジャックもあって、調査しろってことなんですよ。私も同行  
しますが・・・・・・。どうします?」  
 村本の問いを断る理由はなかった。  


350  名前:  227  03/03/10  19:36  ID:???  

 森は思ったより深かった。むしろジャングルといった方がいい。偵察隊の2個小隊は車両の警備に分隊  
を残し森に入った。  
「大丈夫ですか?国境の侵犯になりませんかね?」  
「ノビル王国とコルバーナの間での条約で我々にはフリーハンドが与えられています。大丈夫でしょう」  
 森は深く、とても情報のような大勢の人間が住めそうにもなかった。一体彼らはどこに消えていったんだ  
ろうか。  
「隊長!隊長!」  
 先頭を進む分隊から連絡が入った。  
「石の化け物!ゴーレムです!うわっ!鬼だ!ゴブリンだ!」  
 先頭の分隊が教われたらしい。村本は即座に行動に移る。ぼくも隊員たちに遅れまいと後に続いた。先  
頭の分隊はすでに損害を出していた。  
「岩本士長がっ!岩本士長が!」  
 現場は森の中でも見通しの比較的よくなった野原だった数体のゴーレムが前進してきている。ゴブリン  
共も、死体の山を築きながら突撃を繰り返す。岩本という士長はいきなり現れたゴーレムに踏みつぶされ  
たようだ。  
 救援に駆けつけた村本と小隊は火力でゴブリンを圧倒するが、やはり先の戦争でも手こずったゴーレム  
の動きを止めるにはかなりの労力が必要だった。敵を殲滅した小隊は野原に向けて前進を開始した、そ  
の時だった。  
 いきなり、先頭の隊員が空から飛んできた何者かにさらわれた。  
「わぁぁぁぁぁ!」  
 叫び声を残して彼は視界から消えた。  
「後退しろ!後退だ!」  
 上空に盲滅法にMINIMIを乱射しながら小隊は森の切れ目まで後退した。  
「来るぞ!上だ!」  
 誰かの声に反応して隊員たちがあらゆる火器で上空を掃射する。命中したのか、叫び声を上げて騎士  
が地上に落下してきた。コルバーナ軍の兵士ではない。噂の伝説の騎士団だろうか。そのすぐ後、彼の  
乗馬だったであろう、羽の生えた馬も力尽きて落ちてきた。一緒に落ちてきた彼の槍を見て隊員が叫んだ。  
「三田!三田がやられた!」  


351  名前:  227  03/03/10  19:37  ID:???  

「三田!三田がやられた!」  
 槍の穂先には串刺しにされた三田と呼ばれ隊員だった死体が刺さったままだった。  
「なんてことだ・・・」  
 ぼくは目の前の光景にカメラのシャッターを切るのすら忘れていた。だが、これで終わりではなかった。  
「わぁ!」  
「なんだ!」  
 今度は後方から叫び声と銃声が聞こえる。そのパニックはすぐにぼくたちの方にも訪れた。木々の間か  
ら手に手に斧を持ったゴブリン共が襲ってきたのだ。数名の隊員が負傷したようだ。  
「森から出るんだ!」  
 村本の命令を待つまでもなく、2個小隊は襲ってくるゴブリンを払いのけながら後退を始めた。その行く  
手に、今度は木の化け物が現れ、木の枝を機関銃のように飛ばしてくる。チョッキやヘルメットで防護され  
ていない手足に刺さった枝で隊員たちは次々と負傷していく。  
 カールグスタフで木の化け物を吹っ飛ばしながら森を脱出した小隊は負傷者を車両に乗せ撤収の準備  
を始めた。そこへ例の空飛ぶ騎士団が車両に乗った隊員に投げやりで襲いかかった。上空にありったけ  
の弾丸を撃ち上げながら、偵察隊は駐屯地に帰り着いた。  
 小隊は死傷3割以上で戦闘不能だった。そこへ駐屯地めがけて木の化け物やゴーレム、ゴブリンが突進  
してきた。特科が砲撃を開始して駐屯地から森林までの地平に土煙が上がった。しかし、ゴーレムは直撃  
以外ではダメージもほとんどない状態だった。前の戦争の時よりも防御力が増しているのが見て取れた。  
 支援にAH-1が4機駆けつけてヘルファイアでゴーレムを沈黙させた。しかし、ゴブリンは人海戦術ならぬ  
鬼海戦術でこれでもかと押し寄せてきた。時折、悪魔の雷と呼ばれる攻撃魔法が駐屯地に飛来した。直撃  
さえ食らわなければ大した被害はないが、直撃を受けた隊員は全身やけどの重症だった。  
「隊長!これまでです!特科が砲弾を撃ち尽くします!」  
 ゴブリンの群は駐屯地のまわりの金網と有刺鉄線に達していた。隊員が投げる手榴弾で十数体を吹き  
飛ばすが数千体のゴブリンのごく一部に過ぎない。駐屯地の各小隊が弾薬の残量が危険な状態であるこ  
とを報告していた。  


352  名前:  227  03/03/10  19:39  ID:???  

「くそ!支援が足りない!」  
「弾丸待ってこい!」  
「やられた!」  
 このままではゴブリンの群が金網を破って駐屯地に乱入するのは時間の問題だ。村本は決意した  
「撤収だ!撤収しろ!」  
 ありったけの車両が動員され、負傷者が乗せられ、弾薬の切れた重火器が牽引された。ヘリポートに次  
々とヘリが着陸し、隊員を収容していく。上空では数機ずつ飛来するAH-1がありったけのロケット弾やバ  
ルカン砲でゴブリンの群や木の化け物を攻撃するが圧倒的に支援が足りなかった。  
「これで最後です!」  
 最後の重傷者をヘリに乗せた時、ヘリポート直前の金網が破られてゴブリン共が乱入してきた。すでに  
車両隊は強行突破して離脱に成功したようだった。  
「よし!離陸しろ!」  
 村本がUH-1に乗り込んで離陸を始めたとき、彼の脇のチョッキのない部分にロングボウが刺さった。バ  
ランスを崩してかろうじてヘリに捕まる彼にぼくは手を差し出した。  
「早く!村本さん!」  
 ぼくが彼を引き上げかけた瞬間、彼の姿はぼくの前から消えた。  
「隊長!」  
 傍らの隊員が悲痛な声を上げた。生き残った空飛ぶ騎士がヘリにぶら下がった村本を串刺しにして飛  
び去ったのだ。  
「あそこだ!」  
 隊員が指さす方向に全力で離脱しようとする騎士が見えた。撃とうにも村本に当たってしまう。まだ村本  
は生きているのが見えた。カメラの望遠レンズ越しに彼が何か言おうとしているのが見えた。いや、隊員  
は彼の言おうとしていることを理解していた。  
 明らかに、その騎士は村本を盾にヘリを落とそうと狙っている。彼の投げ槍はともかく、強力な魔法があ  
ればそれはたやすいことだ。挑発するようにもう一度、騎士はヘリのすぐ側をゆっくりと飛んだ。  


353  名前:  227  03/03/10  19:41  ID:???  

「隊長!」  
 ヘリの隊員が必死に村本に声をかける。肩当たりを槍に貫かれて必死に身体を支える村本は何か言お  
うとしている。そして、騎士が再び再接近したときに村本は最後の力を振り絞って隊員たちに叫んだ。  
「撃て!撃て!」  
 2、3秒の沈黙の後、隊員たちは一斉に64式を発砲した。仲間ごと撃ち落とそうとしている隊員たちの決  
意を察した騎士は一瞬、兜の中の顔をこわばらせたように見えたが、それも一瞬だった。数十発の弾丸  
が彼を蜂の巣にした。落下していく騎士が落ちるのを誰も見ようとしなかった。ヘリの中には隊員たちのす  
すり泣きの声が聞こえるだけだった。  



97  名前:  前スレ227  03/05/13  23:55  ID:???  

とりあえず、今までのあらすじです。  
詳しくは「保存庫」で  
沖縄を含む九州が魔法世界に召還された。ノビル王国への侵略をもくろむコルバーナ王国が  
戦略拠点を作るために召還したためだった。  
九州のフリージャーナリストの原田はいち早く現地のコクーン卿と接触する。  
自衛隊は石油などの物資確保のためにノビル王国と同盟を締結。コルバーナ軍の首都攻撃を撃退。  
その後も西部方面隊主力部隊を続々とノビル王国に送り込む。  
主人公原田は現地で出会ったエスタを助手に常に最前線で取材を続ける。  
コルバーナは精神的支柱、グロスドラゴンランサーを撃墜され降伏する。  
半年後、コルバーナの油田を確保し、平和を取り戻したかに見えたが「黒の教団」を名乗る組織が各地でテロを開始。  
首謀者の1人とされたノビル王国枢機卿ボルダー卿はSATの突入の甲斐なく逃走。  
彼はただちに、九州とノビル王国に対し宣戦と黒の教団による報復を通告。  
一方原田はコルバーナ油田に旧知の対馬警備隊隊長村本尋ねる。彼と共に黒の教団捜索に同行するが、  
教団とコルバーナ残党、そして謎のゴブリンの群に奇襲されて油田を撤退。  
隊長の村本も壮絶な殉職を遂げる。  



98  名前:  前スレ227  03/05/13  23:58  ID:???  

ではその続きです。(覚えてくれてる人がいればいいんだがw)  
この戦いで自衛隊は60名近い死者を出し、コルバーナ油田を失陥した。幸い、産出量の多いことから九  
州本土の石油備蓄は大幅に増加して約3年分にまで増えていたが、油田失陥と隊員の大損害は官民問  
わずにショックを与えることになった。  
自衛隊は前線を約50km後退させざるを得なかった。コルバーナ油田から最寄りの基地はヘリの緊急着  
陸用に建設された仮設飛行場だけだった。この飛行場を失陥すれば、ノビル王国の制空権の確保はノビ  
ルバーナの航空自衛隊しか遂行できない。急遽、19普連と玖珠戦車大隊が増派され、飛行場は鉄条網  
と塹壕で囲まれることになった。  
ぼくはヘリでそのままノビルバーナへ戻った。隊員たちはみな失意のどん底だった、60名近い仲間と信  
頼すべき隊長であった村本を失い、生命線とも言える油田も放棄せざるを得なかった。すでにヘリポート  
には情報を聞いた衛生科の救急車やら負傷者を収容する仮設テントやらが用意され撤退した隊員や衛  
生科でごった返していた。さすがに、取材する気力もなくぼくは事務所に戻った。  
事務所で留守番をしていたエスタは、もう情報を知っていたのだろう。何も言わずにソファーに座り込んだ  
ぼくに冷えた缶ビールを渡してくれた。  
「ありがとう」  
それだけ言ってぼくは一気にビールを流し込んだ。今まで味わったことのないまずいビールの味だった。  
何も言わずにぼくを見つめるエスタと視線が合った。彼女は青い目をしていると思っていたのだが、よく見  
たら緑がかった色をしているんだな・・・・。まったく関係ないことが頭に浮かんだ後、不意に涙が抑えられな  
くなった。  


99  名前:  前スレ227  03/05/13  23:59  ID:???  

「大勢死んだよ・・・。村本隊長も、ここに来た時に知り合った隊員も大勢。なんで・・・」  
 何も言わずにエスタはぼくを抱きしめてくれた。  
「マスター、あなたのせいじゃありません。」  
「違うんだ。この戦争も、前の戦争も、全部ぼくたちのエゴで始まった戦争だ。石油が欲しい、鉄が欲しい。  
こんなことになったのに、みんな今まで通りの生活がしたいからってだけで始めた戦争なんだ!ぼくたち  
のエゴが隊員たちを殺したも同然なんだよ。」  
 エスタはぼくが早口で何もかも言うのを待ってからやさしく言った。  
「それはマスターの国の事情です。この国の人はみんな感謝してます。コルバーナを倒し、この国に平和  
をもたらしました。それだけじゃなくて、電気や今まで見たこともない力を与えてくれました。マスターの国も  
ノビルも仲良くやっていってるじゃないですか。それでいいじゃないですか」  
 彼女はそう言うとぼくの頭を自分の膝に乗せてやさしく頭をなでた。  
「マスター、今日はゆっくり寝るんです。眠りの世界は全てから解放されて安らかです。」  
 確かに、肉体的にも精神的にもぼくは疲れ切っていた。  
「すまない・・・・」  
 それだけ言うとぼくは急速に眠りの世界に堕ちていった。  
「いいんです、私はあなたがいるだけで・・・・」  
 眠りにつく瞬間、エスタが何か言ったのが聞こえたがそれを聞き返す気力もなかった。  


100  名前:  前スレ227  03/05/14  00:01  ID:???  

ドンドンドン!  
翌朝、激しいノックの音で目を覚まし、ソファーから起きあがった。いや、ソファーと言うより一晩中ぼくに膝  
枕してくれたエスタの膝といった方がいいだろう。  
「はい・・・?」  
ドアを開けた瞬間、ぼくの眠気は一気に吹き飛んだ。  
「原田さん・・・ですね?」  
 ぼくの目の前に立っているのは身長190センチはあろうかという巨漢、というだけではない。黒のスーツ  
にサングラス。短髪の強面。つまり見るからに極道の男が立っているのだ。  
「原田さん・・・ですね?」  
もう一度、静かだが含みを聞かせた声で男が問いかける。「は、はい」。間の抜けた声でそう答えるのがや  
っとだった。  
「姐さん・・・」  
男が一歩下がる。ドアの影から上等な和服、おそらく京都の老舗のモノだろうを着た女性が現れた。  
「あ、あああの・・・?」  
女性と例の巨漢、同じ様な黒のスーツを着込んだ極道たちがずかずかと事務所に入り込む。この騒ぎで  
ようやくエスタも目を覚ました。合計5名の黒服に着物の女性はぼくの前に立ちはだかると、無言でぼくを  
眺めている。  


101  名前:  前スレ227  03/05/14  00:02  ID:???  

、いきなり  
「このたびはまことにお世話になりました」  
女性の言葉を合図に一斉に極道たちが頭を下げた。ぼくは状況がさっぱりつかめずに目を白黒させるば  
かりだ。  
「私、村本の妻、聡子と申します。このたびは主人の最期を見届けていただいたそうで遅ればせながらご  
挨拶に参上した次第でございます。」  
村本隊長・・・・あなたは一体・・?  その心の中の疑問に答えるように聡子が言葉を続ける。  
「私の実家は島田と申しまして、世間様には顔向けできない生業でございますが、主人はそんな私を妻に  
して、対馬に渡りました。私もあの事件(この世界への召還らしい)以来、夫に言われて博多の実家に戻っ  
ており、ご挨拶が遅れましたことをお詫びいたします」  
博多の島田といえば、泣く子も黙る島田組だとすぐにわかった。ということは村本隊長の奥さんは島田組  
長の娘ということか・・・・。  
「そ、それは、大変なときにわざわざおこしいただいて・・・・恐縮です」  
ぼくはとりあえず、聡子を応接イスに案内して、状況をつかめぬエスタにお茶を用意させた。応接イスに座  
った和服の30後半の女性。その後ろに直立不動で立ちすくむ喪服の極道は、どうしてもぼくに威圧感を  
与えないはずがなかった。  
「今日は原田さんにお願いがあって参りました。」  
茶を飲んで一息ついた聡子はぼくに言った。  
「主人は次期島田組組長のイスを蹴って対馬警備隊に赴任しました。父も堅気を守る商売にかわりはな  
いと快く見送ってくれました。そこで・・・」  
ここで聡子は目つきを哀れな未亡人から一気に、極道の妻の目に変えた。  
「主人が常々言っておりました対馬警備隊のみなさんにご挨拶したいのですが、ご同行願えますか?」  
「いや、警備隊は再編成されて前線の空港にいますが、その、民間人を許可なく連れまわすことは・・・・・」  
ぼくの返答を待たずに聡子は後ろの組員を振り返った。組員は持っていたアタッシュケースから書類を取  
り出し聡子に渡した。  
「西部方面隊総監部の許可証です。よろしゅうございますね?」  


102  名前:  前スレ227  03/05/14  00:04  ID:???  

事務所の外に出たぼくとエスタはあっけに取られた。黒塗りのBMWが6台。20名以上の喪服の組員が  
整列して待機していた。ノビルバーナの市民たちはあまりの光景に遠巻きに見守るばかりだ。  
「主人の話を聞いて破門覚悟で私に同行してくれた親衛隊です。」  
そう言うと聡子は喪服の親衛隊に鋭い声で命令した。  
「お前たち!支度しな!」  
6台のBMWのトランクからジェラルミンの盾と手に手にイングラムが運び出され、聡子にはこれまたクラシ  
ックな、ドラムマガジン装着のトミーガンが渡された。さすが、博多の島田組だ・・・・。  
「原田さん、お嬢さん、こちらの車にどうぞ。」  
強面の組員に案内され、ぼくとエスタは最後尾のBMWの後部座席に乗ることになった。  
「シートベルトはしなくてもいいですよ、ここには警察はいませんからね」  
若頭だったという木元が笑いながらぼくに言った。  
「すごい車ですね、自衛隊の車より全然乗り心地がいいです」  
何も知らないエスタは高級車のクッションや外観を珍しがっておおはしゃぎしている。人間、何も知らない  
方が変な気を使わずにいいんだろうか・・・  
「ははは!このBMは姐さんや組長を守るための特別仕様だからね。ライフルくらいならどうってことない  
んだよ!」  
エスタの極道にも物怖じしない態度を気に入ったんだろうか。木元は豪快に笑いながら言った。  
「出発するよ!」  
聡子の声が無線のスピーカから響いた。静かに、高級車らしい軽やかなかすかな震動がBMWの車列が  
出発を開始したことを告げていた。  


103  名前:  前スレ227  03/05/14  00:05  ID:???  

BMWの車列は通りの市民の視線を集中されながらノビルバーナ市街から郊外に出て、2時間ほどで川  
沿いの田園道路に出た。川沿いにこのまま3時間ほどで空港に到着する予定だ。  
「ちょっと一息いれようか」  
聡子の号令以下、車列は道の脇に停車した。律儀にハザードランプをつけて止まるBMWもあった。ぼく  
は木元の気さくさでだいぶ緊張がとれていた。エスタは元々極道に対する先入観がないせいか、まったく  
緊張していない。いい気なもんだ。  
「ちょっと失礼」  
トイレをしようとぼくはBMのドアに手をかけた。木元は煙草をくわえて外を眺めている。ぼくがドアを開け  
て外に足を踏み出した瞬間、木元のすごみのある声が耳に飛び込んできた。  
「待てい!外に出るな!」  
思わず、車に駆け込んでドアを閉めた。彼の叫び声は他の組員に向けられたモノであったが、さすが若頭組員は彼の命令通りすばやく車内に戻っていた。  
「いったい、何が・・・」  
ぼくの問いに答えることなく木元は無線のマイクに向かって叫んだ。  
「姐さん!変な野郎が飛んできます。」  
窓から見ると、100m程先に例の空飛ぶ騎士が1騎、こっちを伺っているのが見えた。どうやら、初めて見  
るBMWを警戒しているようだ。空飛ぶ馬、我々の伝説に習ってペガススと呼ぶようになったが。そのペガ  
ススにまたがり、全身鎧に身を固めた騎士は明らかに警戒しつつ、敵意を見せていた。  
「若頭、撃ち落としてやりましょうか?」  
運転席の若い組員がイングラムを構えて窓を開けようとする。助手席の木元も何も言わない。  
「やってやりましょう」  
「やめろ!」  
組員が窓を開けようとするのをぼくは思わず止めた。戦闘モードに入った血走った目がぼくに向けられる  
思わず、声を出したことを後悔する。  
「原田さん、どうされました?」  
いきり立つ組員を目で制しながら木元がぼくに尋ねてきた。  


104  名前:  前スレ227  03/05/14  00:06  ID:???  

「原田さん、どうされました?」  
いきり立つ組員を目で制しながら木元がぼくに尋ねてきた。  
「あいつはおそらく飛び道具で攻撃してくるでしょう。今、窓を開けるのは危険です。それに相手がダークエ  
ルフの場合魔法攻撃をかけてから突進してくるでしょうから。」  
「なるほど、実体験に基づいてってわけですな」  
そう言うと木元は無線のマイクを取り出した。  
「全車、しばらく様子を見ろ。くれぐれも先に手を出すな。何してくるかわからんぞ」  
木元が言い終わらないうちに目の前が光に包まれた。  
「うわっ」  
「きゃあ!」  
「なんだ!」  
BMWが巨体を揺らす。例の騎士はダークエルフのようだ。射程数キロの悪魔の雷を食らったようだ。ぼ  
くは思わず身をかがめる。BMWが爆発すれば一巻の終わりだ。  


105  名前:  前スレ227  03/05/14  00:08  ID:???  

だが、BMWはその巨体を揺らしただけでそれ以上なんのダメージも受けていないようだった。いくら防弾  
加工を施したと言っても人間を炭にしてしまう程の威力の魔法を受けてこれですむなんていったい・・・・。  
「よし、緒方。かましてやれ」  
木元のお墨付きをいただいた緒方と呼ばれた運転手の組員は、待ってましたとばかりにパワーウインドウ  
を開けた。騎士は魔法が効果がないことを悟ると槍を構えて突進を始めた。  
他のBMの組員もパワーウインドウを開けてイングラムの銃口を騎士に向けている。マイクを持った木元  
が聡子に確認を取る。  
「姐さん」  
BMWに搭載された全ての無線のスピーカから聡子の冷酷な命令が響いた。  
「やってやんな!」  
至近距離から十数挺のイングラムから発射される9ミリ弾を受けてペガススは瞬時に肉片となって、ぼとっ  
という感じで地面に落下した。ダークエルフは被弾を免れたが手綱がからまって地面でもがいている。緒  
方がサイドブレーキの横に隠していた日本刀を持ってBMWから飛び出した。ダークエルフの側まで走  
ると、蹴り上げて兜を吹っ飛ばし、日本刀を大きく振り上げた。首をぶった斬る気だ。  
「見るな!」  
これから起こるであろう惨劇を見せるべきでないと判断したぼくはエスタにあさっての方向を向かせた。  
「待てい!緒方!殺すな!」  
中世風の田園に響きわたる木元の声で、緒方は日本刀を振り下ろす直前でかろうじて手を止めた。聡子が  
トミーガンを持ってBMWから降りてくる。緒方は先走ってしまったことを今更ながら自覚し、聡子を呆然と  
見つめている。  
「緒方・・・・」  
いかなる叱責も甘んじて受けようとしていた緒方に彼女から意外な言葉がかけられた。  
「よくやったね」  
「は、はい!」    
直立不動のまま、思いっきり緒方は頭を下げた。そして、組員たちに取り押さえられたダークエルフに向き直った。  
「おのれ、異世界人め。いい気になるなよ」  


106  名前:  前スレ227  03/05/14  00:09  ID:???  

「やかましいわぁ!おんどれは!」  
思いっきり方言丸だしの啖呵に意味がわからないはずのダークエルフも思わず黙り込むほどの迫力だった。  
「おのれはよそ様の車に傷ばつけて何を偉そうなこと言いよるとかい!」  
聡子はそう言ってぼくたちの乗っていたBMWを指さした。確かに、悪魔の雷が直撃した部分の塗装が剥  
げてボディがこぶし大凹んでいる。それとこれとは関係ないんだが、あまりの迫力にダークエルフも黙り込む。  
「おのれは、どこの者じゃ?」  
「我は魔の帝国の主、大魔道士ジャルバ様の配下・・・・、後悔せぬうちにこの地を去れ!」  
鼻血を流しながら精一杯の虚勢だろうか、大魔道士の名前を出したダークエルフだったが、眉毛一つ動か  
さない聡子にかなり動揺しているようだった。  
「おんどれは、博多島田組を脅迫するんやのぉ・・・」  
聡子はぐいっとダークエルフの胸ぐらを掴んで顔をくっつけんばかりに近づけた。  
「博多の極道なめたらいかんけのぉ・・・・・・木元!」  
木元を呼びつけ何か命じた。木元と緒方がダークエルフを引っ張って連れていった。  
「奥さん・・・・」  
ぼくはちょっとタイミングが悪いかなと思いつつ、気になっていたことを聞いてみた。  
「さっきの魔法を跳ね返す装甲なんていったいどこで・・・・」  
「ああ、あれですか・・・・ハインツ!」  
ハインツと呼ばれた男がぼくの前に姿を現した。ぼくより早く、エスタが「あっ」と声を上げた。  
「ハインツと申します。お見知りおきを・・・」  
彼が直立してぼくに頭を下げたときにぼくも気がついた。彼の耳は大きくとがっていたのだ。エルフだった。  


107  名前:  前スレ227  03/05/14  00:16  ID:???  

「ハインツはコルバーナ軍の魔法使いでしたが、嫌気がさして九州に流れてきたところを私どもが面倒を  
見てあげていたのです。」  
「はっ、姐さんはじめ皆様のお気持ちにお答えすべく、今回微力ながらお役に立てればと・・・」  
極道になったエルフ・・・。しかし物言いといい、身のこなしといい。まさに極道のそれそのものだった。エル  
フは本来は適応能力が高いのかも知れない。  
「姐さんがこちらに渡るということで、私の魔法が役に立てばと思い、車両に魔法防御をかけさせていただ  
きました。恥ずかしながら、私コルバーナ軍で1級魔法使いをやっておりましたので・・・」  
なるほど、コルバーナ軍の上級の魔法使いだったらこの強力な魔法防御も納得できるというものだ。博多  
島田組、まさに未知の魔法世界でも敵なしになるかもしれない・・・・。  
「さあ、出発しましょう。木元と緒方は後で追いつきます。ハインツ、お二人を車にご案内しな」  
 聡子はきびすを返すと彼女専用のBMWに颯爽と乗り込んだ。ハインツはもう一度ぼくたちに頭を下げた。  
「姐さん方のご指導を受けまして、何とか半人前というところです。いろいろとご指導お願いします」  
ハインツに彼の車へ案内されながらエスタがぼくに耳打ちした。  
「マスター、あの女の人、かっこいいですね」  
ぼくはもはや、緊張でパンツまで汗をかいていて彼女に説明する気力もなかった。  
「今度吉川に、「極道の妻たち」ってビデオを君に送ってもらうように頼んでおくよ」  
 数日後、ノビルバーナを流れる川の川岸に、簀巻きにされたダークエルフの水死体が上がった。  


108  名前:  前スレ227  03/05/14  00:18  ID:???  

空港に到着したBMWの車列は当然、現地の自衛隊員の注目の的だった。自衛隊の前線は空港から3k  
m先、ちょうど、山岳と川で平地が狭くなっている部分に橋頭堡が置かれ、空港周辺は特科と第2防衛ライ  
ンとなって、大陸中部における自衛隊の軍事的イニシアチブを維持する最期の拠点として最大級のレヴ  
ェルで防御されていた。  
「対馬警備隊はどこですか?」  
隊員たちの余計な詮索を避けるためにぼくが代表して19普連の連隊本部に問い合わせにうかがった。  
「あんた、あのBMWの人たち?困るんだよねぇ」  
新任の本部員であろう、ぼくの顔を知らない幹部がいかにも迷惑そうに言った。そりゃそうだろう。  
「許可証はあるの?ここは民間人が入れるところじゃないんだよ」  
「はぁ」  
「まったく、鉱山ができて商社が入りだしてからこれなんだから・・・・、だいたいねぇ・・・・・」  
横柄な幹部の言葉が途中で止まった。ぼくの後ろには追いついてきた木元が立っていたのだ。  
「西部方面隊総監部の許可証です。対馬警備隊はどこにおられますか?」  
木元は静かにだが、これ以上うだうだ言わせないという気迫のこもった声で幹部に問いかけた。  
「あ、あ、あの。前線の左翼あたりで再編成展開中であります」  
幹部にはこれだけ言うのが精一杯だった。木元は無表情のまま一礼すると連隊本部を後にした。  


109  名前:  前スレ227  03/05/14  00:19  ID:???  

対馬警備隊の戦区に到着した我々は、当然ながら奇異の視線の洗礼を浴びることとなった。  
「おい、あれ。原田さんじゃないのか・・・」  
「エスタちゃんもいるぞ。どーなってんだ・・・・」  
古参の隊員たちの怪訝そうな視線と言葉を気づかないふり、聞こえないふりをしてぼくたちは指揮所に  
向かった。  
たしか、村本隊長の後任が先日派遣されたらしい。前田という人物らしいのだが・・・。  
「こんにちわぁ!」  
近所に回覧板でも持ってきたかのような緊張感のない声でエスタが指揮所になっているノビル風の農家  
に入り込む。こんなときほど、彼女の存在がありがたいことはない、と心から思った。  
「わぁぁ!エスタちゃんじゃないかぁ!」  
古参の幹部が喜びの声を挙げる。それを確認してぼくも指揮所の農家に入り込む。とたんに、幹部の顔  
色が変わる。  
「あ・・・・、原田さん・・・・・?」  
そりゃそうだ。ぼくの後ろには十数名の完全武装の極道がいるのだ。  
「前田さんはいるかな?」  
可能な限り申し訳なさそうに、苦笑いを出しながらぼくは幹部に質問した。彼もそのぼくの表情を察した  
のか、面倒に関わりたくないと思ったのか、すぐに前田隊長を連れてきた。前田は50前後のひょろっとし  
た感じの男だった。だが、その外見とは裏腹に意外と肝が太いようだった。聡子たちの一団を見ても顔色  
一つ変えずに、  
「ああ、村本隊長の奥様ですね。話は聞いてます。ささ、どうぞ」  
という感じで聡子を応接間にしている離れに通した。  


110  名前:  前スレ227  03/05/14  00:21  ID:???  

聡子と前田の間でなにかしらの協定が結ばれたようだ。聡子と島田組親衛隊は対馬警備隊戦区におい  
て行動の自由を得たようだった。  
「総員、傾注!」  
塹壕陣地に残すべき最低限の歩哨を除いて対馬警備隊が指揮所前に集合した。急ごしらえの演題には  
前田がのっかって部隊員におきまりの訓辞をしている。その後ろには聡子以下、20名の島田組親衛隊  
が直立不動で控えている。  
「では、前隊長の細君であられる、島田聡子様にご挨拶をいただきます」  
指揮所の幹部が聡子を演台にお勧めする。聡子は隊員たちに深々と一礼すると静かに語り始めた。  
「皆様、わが夫村本を慕っていただき・・・・」  
ここで彼女の言葉が途絶えた。耳を切り裂きそうな爆発音と爆風が周辺で立ち上がった。  
「悪魔の雷だ!」  
歩哨の叫び声がかろうじて隊員たちに届く。どうやら、対馬警備隊戦区に集中的に攻撃が浴びせられてい  
るようだ。敵の反撃が近いのであろう。  
「総員退避だ!」    
実戦経験がないであろう前田が軽装備で集合してパニックの兆候を見せている警備隊隊員に号令しよう  
とした。その時だった・・・  
「あんたたち!」  
爆音と怒号を切り裂くような甲高い声が戦場に響いた。  


111  名前:  前スレ227  03/05/14  00:22  ID:???  

声の主は聡子だった。戦場で予想もしない高音の声に思わずパニックになりかけた隊員も耳を傾けた。  
「あんたたち!それでも主人の部下かい!?うちの主人はねぇ!あんたたちをねぇ!休暇のたびにあた  
しに向かって誉めまくっていたんだよ!こんな優秀で勇敢な部下はいないってね!」  
聡子の発言が続いている間も、悪魔の雷は降り注いでいたが、隊員は彼女の声に回避運動も忘れてそ  
の場に立ちつくした。  
「主人があんたたちを守って死んだって聞いて博多から来てみればなんね!この情けなさは!あんた  
たち!それでも自衛隊ね!?」  
聡子の言葉はなおも続く。  
「たかが、わけのわからん魔法使いの魔法くらいでびびってから、そんなこつで自衛隊なんち名乗りなさ  
んな!」  
聡子の言葉が途切れて数秒。逃げ出しかけた隊員に沈黙が訪れる。そして次の瞬間。聡子は和服の袖を  
まくり上げた。  
「おお!」  
隊員たちからおどろきの声があがった。むき出しになった聡子の左肩には、それは見事な「登り龍」が描  
かれていたのだ。  
「あんたたち!九州男児の根性見せないやぁ!!」  
「うおおおおお!!!」  
戦国時代の兵士たちのような鬨の声が対馬警備隊の面々から響きわたった。