228  名前:  227  03/03/06  23:56  ID:???  

「それ」はいきなり起きた。いまだに何が起こったのか正確に把握している人が果たして何人いるんだろう  
か。かく言うぼくも、実のところ状況の把握に自信があるとか言えない。  
 九州管内。正確には壱岐対馬、沖縄本島までを含む広い範囲で、通信障害と停電が発生したのは、20  
03年6月22日の午前3時ちょうどだった。第7及び、第9管区海上保安本部のレーダーや、自衛隊の対馬  
レーダーサイトもダウン。TV・ラジオ・電話はもちろん、電気、水道、ガスなどあらゆるライフラインが一斉に  
停止した。  
 翌日には、電気ガスなどのライフラインは復旧した。混乱する中、小倉の自宅で寝ていたぼくの携帯に信  
じられない電話が入ってきたのは朝も8時を過ぎたころだった。電話の相手は大学からの友人で、地方紙で  
も最大手のN新聞に勤める吉川からだった。  
「おい!原田!すぐに小倉港まで来い!」  
 それだけだった。つい先週、フリーのライターとしてイラクから帰ったばかり。来月には戦争間近と言わ  
れる北朝鮮取材のためソウルに渡る予定だったぼくは、いきなりの友人の電話にイライラしながら家を出た。  
 停電があったことは知っていた。夕べ、インターネットをやっていると部屋が真っ暗になり、そのまま寝てし  
まったからだ。町にでると、信号は作動していた。どうやら停電は復旧したようだったが、ラッシュ時のは  
ずの町は、人こそ多いが、通勤に急ぐと言った様子でもなかった。  
 小倉駅で吉川と合流した。彼と共にタクシーを拾うとそのまま小倉港へ向かった。  
「いったいどうしたっていうんだよ」  
「まあ、見ればわかるさ。」  
 吉川は愉快そうでもなく、それだけしか言わなかった。今思うと、他にどんな言い回しがあるのか悩ん  
でいたのだろう・・・・。  



229  名前:  227  03/03/06  23:58  ID:???  

小倉港を一望できる残橋に到着してタクシーを降りた。吉川が黙ってオペラグラスをぼくに渡した。ぼく  
は何も言わずにオペラグラスから海峡を覗いた。いい天気だし、目の前には対岸の下関がよく見える・・  

はずだった・・・・・・・・。  

 いや、見えなくてはいけないはずだったのだが・・・・・。  
 そこに下関はなかった・・・・・。ただただ広がる水平線だけが眼前に広がっている。生唾を飲み込みな  
がら周りを見回すと釣り人やら見物人もぽかんと口をあけて、昨日までそこにあった下関の方を見つめて  
いる。  
 吉川の携帯が鳴った。  
「もしもし?・・・・なんだって?うん!わかった!」  
 ぼくは真っ青な顔をする吉川に尋ねてみた。  
「いったい、どうしたんだ?」  
「福岡空港に着陸するはずの到着便が着いていないんだ・・・・。午前3時以降の到着便はただの1機も着  
いていない」  
 ぼくは愕然とした。そんな事態今まで聞いたこともない。しかし、今ぼくの目の前にあるこの光景と飛行  
機の未着。どう考えても何か関係があるとしか思えなかった。  
 情報は吉川の携帯に次々と入ってきた。山陽新幹線は小倉でストップ、中国自動車道も門司でストップ  
山陽線も、国道2号線も関門トンネルで全てストップしている。つまり、九州と本州が完全に分断されてし  
まったことを意味していた。というより、目の前から本州が消えているのだ。  
 大分からも情報が入った。豊後水道でも同じ状況が発生していた。対岸の四国が消えたというのだ。訳  
の分からない事態は九州全土に混乱を静かにだが、起こしていた。  


230  名前:  227  03/03/06  23:59  ID:???  

ぼくは、その日1日小倉周辺で吉川と取材に当たった。N新聞にはイラクのルポを寄稿していたコネも  
あり、フリーのぼくも彼に同行することができたのが幸いだった。北九州市内は突然の事態と情報錯綜、  
錯綜と言うより情報遮断状態が市民に不安を発生させていた。事故、盗難、暴行事件が相次ぎ、県警は  
てんてこ舞いだった。スーパーには人々が殺到し、食料の買いだめに走った。スーパーからは食料品が  
消えた。  
 福岡市内でも、熊本市内でも、九州の各都市では同じ状況だった。  
 TV、ラジオはローカル以外、どの局も砂嵐。インターネットは九州ほぼ全土で復旧していたが、奇妙な  
状況が発生していた。九州以外のプロバイダのサイトは「404」の表示がでるばかりなのだ。  
 つまり、九州内以外の通信・情報は完全に遮断されているのだ。これは異常としか言い様のない事態だ  
った。  

 翌日、6月23日。混乱らしい混乱は鎮静化に向かっていたが、訳の分からない状況に陥った市民の不  
安は大きくなるばかりだった。市街地では始終パトカーのサイレンが鳴り、田舎でも早とちりしたヤツが寺  
の早鐘を突くような始末だった。  
 各県知事は福岡に集まり、今後の対応策を話し合ったが、話がまとまるはずもなく、各県所有の資材・  
資源・食料などの分配と市民への安定供給を決定できただけだった。各県警も連携を深め、非常事態に  
備える事になった。  



231  名前:  227  03/03/07  00:01  ID:???  

福岡市内でも、熊本市内でも、九州の各都市では同じ状況だった。  
 TV、ラジオはローカル以外、どの局も砂嵐。インターネットは九州ほぼ全土で復旧していたが、奇妙な  
状況が発生していた。九州以外のプロバイダのサイトは「404」の表示がでるばかりなのだ。  
 つまり、九州内以外の通信・情報は完全に遮断されているのだ。これは異常としか言い様のない事態だ  
った。  

 翌日、6月23日。混乱らしい混乱は鎮静化に向かっていたが、訳の分からない状況に陥った市民の不  
安は大きくなるばかりだった。市街地では始終パトカーのサイレンが鳴り、田舎でも早とちりしたヤツが寺  
の早鐘を突くような始末だった。  
 各県知事は福岡に集まり、今後の対応策を話し合ったが、話がまとまるはずもなく、各県所有の資材・  
資源・食料などの分配と市民への安定供給を決定できただけだった。各県警も連携を深め、非常事態に  
備える事になった。  
 自衛隊は、レーダーが全てダウンしてしまったため、西部航空方面隊、南西航空方面隊が各地に哨戒  
機を飛ばし、非常事態に備えていた。西部航空方面隊の哨戒機が対馬沖に、未確認の陸地を発見したと  
の情報が入った。  
 ぼくは吉川に呼び出され、N新聞の本社にいた。  
「対馬沖って事は韓国か?」  
「わからない・・・。陸地は確認できるが、斉州島が見あたらないらしい」  
 吉川の困惑した言葉が帰ってきた。結局、哨戒機は燃料補給のため、一端春日基地に帰還した。  

 その1時間後、海上保安庁より西部航空方面隊に連絡が入る。正体不明の飛行物体が福岡上空に接  
近中とのことだった。すぐさま、築城基地よりF−4ファントムがスクランブルに上がった。  



232  名前:  227  03/03/07  00:02  ID:???  

「チャーリーエンジェル1より、ABこれより、アンノウンと接触する。」  
「こちらAB、了解」  

 チャーリーエンジェル1は僚機のチャーリーエンジェル2とアンノウンの飛行集団に接近した。すでにアン  
ノウンは博多湾沖50kmに迫っている。こんな日本の領空奥深くに入ってくることは今までにない。チャ  
ーリーエンジェルはじっとりと手に汗をかいた。  
「エンジェル2,まもなく目視できる距離だ・・・・」  
 目の前に見えてくるのは、ミグか、それとも韓国のF−16か・・・・、緊張して目の前を見るチャーリーエ  
ンジェルの視界にはいったものは、彼の思考を一瞬止めた。  
「どうした?チャーリーエンジェル?アンノウンの形式は判明したのか?」  
 ABのスピーカからチャーリーエンジェルの間の抜けた声が聞こえてくる。  
「あ、アンノウンは・・・・・鳥・・・・です・・・」  
「なんだって?」  
「鳥・・・・いや・・・・・・り、竜です」  
 ABの通信手は耳を疑った。チャーリーエンジェルは酔っぱらっているのか?  
「エンジェル。貴官の報告は意味不明だ。もう1度報告せよ」  
「AB、アンノウンは・・・・・・・竜です。間違いない。それに変な格好をした人間が乗ってる。」  
「人間・・・・だって?」  
「そうですAB、時速390km前後で、20機・・・20匹?・・・約20が飛行中・・・・。間もなく接触します。指  
示を!」  
 指示を、などといわれても、そんなわけのわからない報告をされた司令部も困惑するばかりだった。そ  
の時、チャーリーエンジェルから衝撃的な連絡が入った。  
「こちら、チャーリーエンジェル。攻撃されている。バルカン砲かロケット弾かは不明。アンノウンの速度が  
遅すぎて損害なし。指示をあおぐ!」  
 羽の生えた竜みたいなモノにまたがった変な格好をした連中から攻撃を受けるF−4ファントム・・・・。も  
はや、自衛隊が想定している事態の次元を超えていた。  
「あっ、アンノウンの発砲した・・・バルカン砲か何かが当機の右翼に命中!損害なし!」  
 ここにきてようやく、司令部も覚悟を決めた。  
「こちらAB、チャーリーエンジェル1,2。正当防衛射撃を許可する!」  
「チャーリーエンジェル、了解。これより正当防衛射撃にうつる!」  


233  名前:  227  03/03/07  00:04  ID:???  

 敵が低速すぎてバルカン砲の掃射による効果は期待が薄い。サイドワインダーを使った。敵は20以上。  
2機のファントムはありったけのサイドワインダーを撃ち込んだ。  
「チャーリーエンジェル1,FOX2!」  
「チャーリーエンジェル2,FOX2!」  
 サイドワインダーはばしばしと敵に命中していく。いや、命中と言うより、爆風に巻き込まれてなぎ倒され  
ていくと言った方が正しかった。  
「こちらチャーリーエンジェル1、アンノウンに攻撃。16以上を撃墜・・・・、残りは韓国、いや未確認の陸地  
方面に逃走」  

 この事件は、自衛隊に衝撃を与えた。ちょっと革新よりの県知事からは抗議が入り、情報に飢えたマスコ  
ミからは取材攻勢を受け、西部航空方面隊の広報課長は過労で寝込んでしまった・・・。  
 しかし、自衛隊の幹部にとって衝撃はこれだけではなかった。ぼくは事件の翌日、海上保安部の取材の  
貯めに巡視船に乗り込んでいた。このわけの分からない事態にも関わらず、海上保安官はその任務に非  
常に忠実だった。  
「こんな不測の事態だからこそ、日頃の任務が活かされるのです」  
 巡視船の艦長は胸をはってぼくに答えた。その時、門司の本部より連絡が入る。  
「哨戒中のヘリより連絡。大島沖に国籍不明船。急行せよ」  
 巡視船「もみじ」は直ちに現場に向かった。  
ぼくは、降って沸いたスクープに胸を躍らせた。吉川の悔しがる顔が目に浮かび、思わずにやりとした。  
 「もみじ」は大島沖30kmの玄界灘で国籍不明船を補足した。  
「えらく、古い木造船だな・・・・・」  



234  名前:  227  03/03/07  00:09  ID:???  

双眼鏡で眺めながら艦長が言った。ぼくもカメラの望遠レンズを通して国籍不明船を覗く。確かに、旧型  
の木造船だ・・・。旧型どころではない・・・・あれは、ガレオン船じゃないのか?  
 無線の応答に応じない国籍不明船に「もみじ」はスピーカで呼びかけた。日本語、英語、韓国語、中国  
語で・・・。それにも応答がない。乗組員らしき人物が甲板でこっちを見て何か叫んでいる。  
 その時、「もみじ」とガレオン船の上空にまたもや、国籍不明機が現れた。時速390km前後・・・・。  
「艦長!11時方向から4機。こちらに向かってきます」  
 甲板の船員が叫ぶ。ぼくは思わずカメラを向けて驚きの声を上げた。  
 低速の国籍不明機は、例の人間を乗せた竜だったのだ!ガレオン船の連中はなにか喚きながら大騒ぎ  
している。ぼくたちは、さすがの艦長も含めて、ぽかんと口を開けて空を眺めるばかりだった。  
 いきなりだった。  
「うわっ!艦長!攻撃されました。三浦が!三浦が!」  
 前方甲板から船員の悲痛な叫び声が聞こえる。艦長も我に返り損害を確認する。  
「三浦はどうした!」  
「軽傷です!うわ!また来ます!」    
 上空から竜がまっしぐらに「もみじ」に急降下してくるのが見えた。ぼくは夢中でシャッターを押し続けた。  
その時の艦長はあっぱれだった。  
「正当防衛射撃開始!」  
 いきなりの予測不能事態に緊張の糸の切れた船員はありとあらゆる火器で射撃を開始した。20ミリ機  
関砲が上空に弾幕を作る。肉片を飛ばしながら竜は水柱を上げて海に突っ込んだ。3機の竜が突撃しな  
がら撃墜されるのを見ると、残った1機はやはり、陸地の方へ逃走した。  
 ガレオン船からは歓声が上がる。艦長は、正当防衛射撃を本部に報告すると、ガレオン船にさらに接近  
するように命じた。さきほどのドンパチで隊員もかなり緊張している。一方のガレオン船は換気に沸いていた。  


235  名前:  227  03/03/07  00:11  ID:???  

「あー、これより貴船に接舷いたします」  
 このスピーカの呼びかけになんと、ガレオン船の船員たちはただちに接舷準備を始めた。  
「おいおい、言葉わかんのかよ・・・・」  
 隊員の1人がつぶやいた。  
 ぼくは、ガレオン船に乗り込む隊員に艦長から許可を得て同行した。これは間違いなくスクープだ。  
ガレオン船に乗り込むとすぐに、彼らの妙な風貌に気がついた。明らかに、日本人の着る服ではない  
し、周辺国のモノとも違う。そもそも、ブルーの髪の毛の人間なんて見たこともなかった。  
「いやあ、危ないところをありがとうございました!」    
 しかも、そのブルーの髪の男が日本語を喋ったんだから、もうぼくは頭が混乱の極みに達していた。もち  
ろん、ぼくだけではない。あまりの事態に艦長までがガレオン船に乗り込んできた。  
「私は、ノビル王国の調査隊の隊長のコクーンといいます。あなた方の魔法はすばらしい!あっという間  
にコルバーナのドラゴンランサーを倒すなんて・・・・」  
「は、はぁ。私は第7管区海上保安部の三坂です・・・。あの・・・あなたのいう・・・・ノビルですか?その国  
はいったいどこに・・・・・」  
 艦長の問いかけにコクーン隊長は目をぱちくりさせた。  
「ノビルがどこに?って、この先すぐですよ。」  
「艦長、僭越ながら・・・・」  
 ぼくは思わず、艦長とコクーン隊長に割って入った。  
「ノビルとは、この先の大陸の国じゃありませんか?」  
 コクーン隊長は、「おお!」と喜びの表情を見せた。  
「そのとおりです。先日、コルバーナの魔術師が召還魔法を使い、我が国の沖に未知の大陸を出現させま  
した。その大陸の調査にノビル国王の命を受け、我々は旅だったわけです・・・」  


236  名前:  227  03/03/07  00:12  ID:???  

コクーン隊長曰く、九州沖に現れた陸地は、ノビル王国と、コルバーナ王国という国があり、敵対するコ  
ルバーナがノビルを挟み撃ちにするために、彼らの言う「魔法」で陸地を召還し、そこを拠点にしようとして  
いる、とのことだった・・・。つまり、九州はコルバーナのノビル王国への侵略拠点に利用されてようとしているわけだ。  
 ノビル王国は1000年の伝統を持つ、魔法使いの国で、人間とエルフと呼ばれる人種で構成されている  
そうだ。文明の程度は、彼らのガレオン船や持っている武器から、中世から近世あたりの程度だと分かった。  
しかも、王の命令で、コクーン隊長は彼ら側から見た「未知の大陸」の王と会見し、ノビル王国と通商関係  
を結ぶ権利を持ち合わせていた。つまり、尻に火のついた王国が味方が欲しくてたまらない末に派遣され  
た調査隊なわけだ。  
 当然、「もみじ」艦長の権限では通称など結べるはずもなく、ガレオン船は「もみじ」に曳航され、門司に  
向かうこととなった。  
 その途中、ぼくはコクーン隊長に独占インタビューすることができ、上記のことがわかったわけだ。ピュ  
ーリッツア賞もののスクープだった・・・・・、アメリカがこの世界にあるならば。  


237  名前:  227  03/03/07  00:13  ID:???  

いきなり現れた大陸からの使者に九州の県知事で構成された暫定政権は揺れに揺れた。九州内の  
治安、交通はなんとか秩序を回復した。食糧供給は生産品目は片よりはあるモノの、自活のめどは立った。  
しかし、資源、とりわけ石油不足は深刻だった。鹿児島と北九州の石油備蓄基地の石油備蓄はもって  
半年。火力発電を石炭に切り替えての備蓄だった。もっか、暫定政権はその対策で手一杯だったのだ。  
 だが、この問題はコクーン隊長の一言で急展開を迎えることとなる。ぼくは、あの初対面以来、彼と仲良  
くなり、小倉の街で何度か酒を酌み交わしていた。その時、彼が九州の政府は対応が遅いとぼやいたことがあった。  
「実はね、石油と言って、あなたがたのいう魔法を使うために必要な物資が残り少ないのです」  
 ぼくのこの言葉に彼は興味を示した。今思えば、ぼくのこの一言が、九州のこの先の進む道を決めて  
しまったのかもしれない。  
「その石油とはどんなものですか?」  
 コクーン隊長の問いにぼくは懇切丁寧に解説を入れた。そして返ってきた答えは意外なモノだった。  
「それなら、コルバーナの王都の近くで出ていると聞いたことがあります。黒いどろどろとした底なし沼が  
広がっていて、そのため、コルバーナの王都は守られているのです。しかも、その黒い水は火をつければ  
燃え上がり、王都を攻撃する者を焼き尽くすと言われています。」  


238  名前:  227  03/03/07  00:14  ID:???  

これと全く同じ事を彼が県知事たちの前で言ったのかどうかはわからないが、ノビル王国と九州の暫定  
政権との間で同盟が結ばれ、西部方面隊から「調査名目」で第40普通科連隊、対馬警備隊がノビルの首都、  
ノビルバーナへ派遣されることとなった。  
 ぼくも第1陣の対馬警備隊に同行することができた。CH−47の機内でコクーン隊長はびくびくしている。空を飛ぶのは初めてのようだ。  
「まもなく、ノビルバーナに到着します。」  
 パイロットのアナウンスが聞こえ、対馬警備隊の隊員たちに若干緊張が走る。後続の40連隊は、佐世  
保などに停泊していた、「おおすみ」や、アメリカの海兵隊から借り受けた強襲揚陸艦などで2日後に到着  
する予定だ。  
CH−47が20機あまり、護衛のAH−1が15機、いきなり、ノビルバーナ上空に現れ、市民は混乱して  
いた。すぐに馬に乗った騎士の様な連中が、ランディングゾーンに選んだ砂浜に集まってきた。全身甲冑  
に槍を持った騎士、魔法使いというんだろうか、変なフードをかぶった連中、徒歩で弓矢を抱えた耳のとが  
った歩兵。おそらく彼らがエルフというのだろう、が500人ほど集まってきた。  
 ヘリの後部扉が開き、64式小銃を構えた隊員がLZ確保のため展開する。その中に降り立ったコクーン  
隊長を見たとき、砂浜に集まった兵士たちからざわめきが聞こえた。と、1人の騎士が我々に近づいてきた。思わず、64式を構え直す隊員を目で制しながらコクーン隊長が進み出た。  
「王室護衛隊のランドルフです。コクーン卿ですな?」  
「いかにも、未知なる大陸よりの使者をお連れした。至急、王にお目通り願いたい」  


239  名前:  227  03/03/07  00:15  ID:???  

そのランドルフと呼ばれた騎士は颯爽と白馬を走らせ、遠くに見える王宮に向かった。  
 対馬警備隊隊長の村本は、しばしまわりの景色に見とれていたがすぐに行動を開始した。  
「第1小隊!LZ確保。第2小隊、物資の荷下ろし!第3小隊、宿営地の設営!にかかれ!」  
 隊長の命令以下、動きだそうとした隊員を村本は止めた。  
「大事なことを忘れていた・・・・」  
 そう言うと、村本はにやっと笑って、命令した。  
「国旗掲揚と国歌斉唱だ!」  
 事の成り行きを見守る中世の騎士に、耳のとがったエルフに囲まれて、粛々とはためく日の丸とそれに  
敬礼する自衛隊員をぼくは、時間も忘れて撮影しまくった。  


240  名前:  227  03/03/07  00:16  ID:???  

翌日、西部方面総幹部より、幹部がノビルバーナを訪れた。王に謁見するためである。コクーン隊長の  
許可を得て、ぼくもそれに同行した。ここまでくれば、21世紀のキャパになることも夢ではないな。そう思う  
と足取りも軽やかに、王宮へ向かうパジェロに乗り込めた。  
 レンガで舗装されたノビルバーナの道を、89式歩兵戦闘車を戦闘に、ぼくたちや幹部を乗せたパジェロ  
の車列が続く。最後尾は普通科小隊を乗せたジープなどが続いた。その両側は王室護衛隊とかいう騎士  
ががっちりガードしている。市民はこわごわと、雨戸の隙間から我々を見ている。  
「おい、あの女の子、耳がとがってるけどかわいいな」  
 ジープやパジェロの上の隊員たちが手を振るが、エルフたちは恐れをなしてか、家に駆け込んだ。隊員  
たちはがっかりしていた。  

 王宮はまさに中世の城だった。ドイツのノイスバンシュタイン城に匹敵する豪華さで我々を迎えた。普通  
科小隊は整列し、総幹部から来た幹部、大村一佐に敬礼した。大村はコクーン隊長と、護衛隊長のランド  
ルフに伴われ、副官数名と城に消えた。ぼくは、辺り構わずカメラを向けた。コクーン隊長が事前に渡して  
くれた何か文字の入ったプレートを胸につけていたが、そのおかげか、城のどこを歩くのも自由だった。  
 城の中の一角、騎士たちの宿舎街だろうかを見つけ、そこに入った。ドイツの古都のようなたたずまいが  
美しく、思わずカメラを向けた。  
「誰だ!」  
 誰何するような威圧的な声で思わずカメラを落としそうになった。振り向くと、短剣を今にも抜かんばかり  
の勢いで構える女性だった。  
「いや、私は・・・・」  
 ぼくの弁解を聞く間もなく、彼女はあっというまにぼくをねじ伏せた。  


241  名前:  227  03/03/07  00:17  ID:???  

「何者だ!コルバーナの間者ではあるまいな?」  
 短剣を突きつけながら彼女が聞いてきた。というより、ほとんど決めつけている。ぼくは必死で胸につけ  
た例のプレートを指さした。  
「!!」  
 その瞬間、彼女はぼくに襲いかかったのと同じくらいの素早さで飛び退き、その場にひれ伏した。  
「申し訳ございません!なんたるご無礼を。この上は・・・・」  
 言うが早いか彼女は短剣を自分の喉に向けた。  
「だあああああ!!待った!待った!待ってくれよ!」  
 慌てて、彼女の短剣を奪い取る。今度は何も抵抗しない。  
「いや、悪いのはこっちだ。いきなりよそ様の家を写真に撮ったりするから・・・、もうしわけない!」  
「そんな、偉大なるコクーン卿の無二の親友であるあなた様に剣向けた私が悪いのです」  
 偉大なるコクーン卿?彼はそんなに偉い人物だったのか・・・・。  
「まあ、とにかく、こんな格好してないで、さ、立って」  
 彼女はまだまだとまどいつつも、おずおずと立ち上がった。  


242  名前:  227  03/03/07  00:18  ID:???  

どうやら、ぼくの聞いたノビル王国の話はまだまだ一部にすぎないようだった。この国は中世の世界の  
用に見えるが、社会システムも中世のそれに近いようだった。  
 まず、トップは国王、今大村一佐と会見している人物だ。次に枢機卿という人々。彼らは神官や魔法使い  
らしい。そして、騎士。王室警護隊のランドルフたちだ。そして、一般市民、エルフたち。この国では階級が  
モノを言う。コクーン隊長は枢機卿の1人で、ぼくが彼のプレートを身につけるということは、コクーン隊  
長が、ぼくを彼と同等に見ているとの証明であるようだった。  
 ぼくは、彼女に名前をエスタというそうだが、ぼくの国、ぼくの国での社会システムをいろいろ教えて、さ  
っきの行為を別にとがめるつもりでないことを説明した。この国では彼女の行為は死刑に相当するモノら  
しいが、ぼくは一向にかわまないとなんとか、信じさせることができた。  
 しかし、ぼくの国の基本的人権の尊重だの、職業選択の自由だのはどうにも理解できないようだった。  
結局彼女はぼくを「マスター」と呼んで、王都での滞在の間いろいろとガイドなりを勤めてくれることになった。  
 枢機卿相当の称号と、綺麗なガイドを手に入れたぼくは、同行した普通科隊員の格好の冷やかしの的  
になった。  
「原田さん、枢機卿ですって?」  
「枢機卿になったら、こんなかわいい女の子はべらせて歩けるんですねぇ」  
「いいなあ、俺もコクーン隊長に小倉のソープでもおごるんだった」  
 エスタは隊員たちのぼくに対する接し方に怒りを覚えていたが、ぼくの国ではこれは当たり前だと説き伏  
せて何とかその場は収まった。  


243  名前:  227  03/03/07  00:20  ID:???  

「原田さん、もうすぐ40普連の上陸です。取材に行きますか?」  
 隊員の1人がぼくを海岸までパジェロで送ってくれると言う。ぼくは快くその申し出を受け入れ、エスタ  
を伴って海岸に向かった。  
 相変わらず、ノビルバーナ市内はひっそりと静まり、時折走る自衛隊の車両を市民はこっそりと見るだ  
けだった。エスタも初めて乗るパジェロにおっかなびっくりだった。  
「マスター!彼はすごい魔法使いですね」  
 運転手を見ながら彼女が言った。ぼくは、またしてもこれは魔法でなく道具であって、ということを延々と  
説明しなくてはいけなくなった。この説明は海岸に到着するまで続いた。  
 海岸に着くとちょうど、「おおすみ」からLキャックが74式戦車を搭載してこっちに向かってくるところだった。  
どうやら、万一に備えて戦車大隊が玖珠から派遣されたようだ。  
「マスター!あれはいったい?」  
 カメラのシャッターを切りながらエスタに淡々と説明してあげた。彼女は一般市民階級だが飲み込みが  
早く、近代兵器と魔法の違いを理解してくれたようだ。彼女がいればこの国での取材もスムーズにいくだろう。  
 主力の上陸はほとんど終わっていた。「おおすみ」から到着したヘリには某政党の県議団が乗り込んで  
いた。早速利権探しでも始めるのだろうか。40普連の幹部と共にパジェロにのってノビルバーナ方面へ  
向かった。  
 施設大隊が、海岸橋頭堡の整理を始めた。コクーン隊長にあらかじめ了解を得ていた地域を平地にす  
る作業が早速始まった。戦車が通れる仮設の道路も引かれて、街道までの交通は容易になっていた。ほ  
んの数時間の間に次々と進んでいく工事と上陸にエスタは感動しっぱなしだった。  
「こんなにすごい軍隊がいればコルバーナ軍もこわくないわ・・・・」  
 自衛隊は軍隊でなくてうんぬんをもはや説明する気になれなかったぼくは、「そうだね」と笑顔で返すば  
かりだった。  


244  名前:  227  03/03/07  00:21  ID:???  

王の謁見の間に通された大村一佐一行は、コクーン隊長の紹介を受けて王に謁見した。コクーン隊長  
は片膝を立てひざまずき、大村一佐一行は敬礼で王を迎えた。初老の王は大村一佐らの遠路の訪問に  
感謝し、ノビル王国の現状を語った。と、そこでそばの魔法使いに命じた。  
「結界を張れ」  
「はっ」  
 魔法使いがなにやら呪文を唱え始めた。血気盛んな幹部が腰の銃に手をかけた。  
「何をする気だ!」  
 コクーン隊長が慌てて説明を始める。どうやら、最近コルバーナ軍の間者がノビルバーナに入り込み、  
城での軍議だのを、魔法で「盗聴」するらしい。その為の対策であった。  
「なるほど、忍者みたいなものか・・・・」  
 大村一佐が部下を叱り、納得するのを見てコクーン隊長はほっとした。  
「陛下、終わりました」  
 魔法使いが結界を張ったことを報告すると王は話を続けた。  
「コクーン卿の話によれば貴殿らはコルバーナのドラゴンランサーを一撃で落とす魔法のような武器を多  
数お持ちと聞いた。是非、我が王国の窮地を救っていただきたいのです」  
「あ、はぁ。しかし、我が国は海外派兵を禁止しておりますもので・・・」  
 日本の事情に多少通じたコクーン隊長が王にその旨を耳打ちした。王は少し考えて、にやりと笑うと、こ  
う言った。  
「どうやら、貴殿らはコルバーナの召還魔法で貴殿らがいた世界とは別の世界に来たようだ。つまり、我  
が国に貴殿らの軍が援軍に来ることは、貴殿の言われる「海外派兵」とやらには、当たらぬのではないの  
かな?」  
 めちゃくちゃな論法だが、大村一佐は返答に窮した。  
「しかも、目下もとの世界に帰る手段もない。しかも貴国では、「石油」というものがなくなると、強力な魔法  
も使えぬそうではないですか・・・・・。」  
 王は、王座からすべりおりると大村に近づいて言った。  
「コルバーナの王都周辺にある、黒い水を貴殿らは欲しがっている。我が国はコルバーナの脅威を取り除  
きたい。持ちつ持たれつですな・・・・・」  
 なんで、こんなSFみたいな世界の人間がそんな高度な日本語を知っているのか?  と思いつつも、今  
の九州暫定政権にとって一番痛いところを突かれてしまった以上、大村はぐぅの根もでなかった。  


245  名前:  227  03/03/07  00:22  ID:???  

 海岸橋頭堡では着々と連隊の設営が進んでいた。ぼくはカメラを抱えて、時にレコーダで隊員にイン  
タビューしながら宿営地をあちこち歩いてまわった。取材記者に現地のかわいい女の子の2人連れだ。当  
然隊員たちの目を引いた。  
 連隊本部の仮設テントにつくとぼくは、外に立っている警務科隊員に取材許可を求めた。隊員はテント  
の中の幹部に話しかけると、2,3枚の書類をぼくに渡した。  
「取材目的と取材日程、それから、こことここに印鑑を・・・」  
 ややこしい書類を何か魔術の契約書類と思ったエスタが怪訝そうに見ていた。そして、ぼくは大事なこと  
に気がつき、エスタに問いかけた。  
「君の印鑑もいるんだけど、印鑑持ってるかい?」  

 夕刻も近づいたころ、海浜橋頭堡に大村一佐一行が戻ってきた。コクーン隊長の話では、ノビル王国へ  
の軍事援助を求められ、即答できずに福岡に持ち帰るらしい。大村を乗せたヘリが飛び立とうとしたとき、  
沖の護衛艦から緊急連絡が入った。  
「コルバーナ軍と思われる大船団が飛行物体多数を伴って侵攻中」  
 現地の最高指揮官は40普連の飯田一佐だ。飯田は直ちにノビルバーナにコルバーナ軍の侵攻を知  
らせ、海岸橋頭堡並びに、王宮に仮駐屯している普通科小隊に自衛戦闘の準備を命じた。  
「原田さん!いよいよ始まりますよ!」    
 昼間海岸まで送ってくれた隊員がぼくたちにあるモノを渡してくれた。  
「気休めかもしれませんがね。ないよりましです!では!」  
 彼が渡してくれたモノ。フリッツ式のヘルメットに防弾チョッキだった。  


246  名前:  227  03/03/07  00:23  ID:???  

海岸橋頭堡では確実に迎撃準備が進んでいた。沖の護衛艦隊でも接近する敵船団と飛行物体をキャッ  
チしていた。イージス艦「きりしま」がまず先陣を切る。  
 8基のハープーンが轟音と共に飛び立った。敵船団は2隊に別れている。1隊は3km程先の海岸に上  
陸し、もう1隊は護衛艦隊を目指している。ハープーンは艦隊に向かう敵船団を全滅させた。  
 一方、飛行物体1000を越すドラゴンランサーは数体に別れて進撃していた。1隊はノビルバーナに竜  
の口にくわえた黒い水入りの爆弾を投下し始めた。ナパーム弾の原型のような兵器だ。無差別爆撃と言  
えた。ノビル軍の武器と言えばロングボウぐらいだ、高度2,300mで飛来するドラゴンランサーに手も足  
も出ない。  
「ひでぇ。こりゃ虐殺だ・・・・・」  
 連隊本部から双眼鏡で状況を見ていた隊員がつぶやいた。これを聞いた飯田は目をつぶって腕組みし  
て考え込んでいる。その間にも前線の偵察班から報告が寄せられる。  
「本部、このままでは街は壊滅です。攻撃許可を!」  
「本部!海岸に敵軍上陸!騎兵900,歩兵1500。侵攻中!」  
「本部!市民に多数の死傷者!攻撃許可を!」  
 飯田はかっと目を開くと無線のマイクを掴んだ!  
「責任は俺がとる!一般市民に無差別攻撃をくわえる敵を殲滅しろ!第1、第2中隊は敵上陸軍を圧迫。  
第3中隊は王宮の小隊を救出した後、王宮を防衛。状況開始!」  
 橋頭堡のあちこちから「おおっ!」と歓声が上がる。次の瞬間、隊員たちは一斉に動き出した。  
 海上の護衛艦隊も陸上の動きを察知していた。ただちに、自衛攻撃から積極攻撃に移る。護衛艦隊司  
令がこのとき「皇国の興廃この一戦にあり」と訓示したとかしないとか、後に隊員の間の噂になった。  
 敵上陸軍を迎え撃った第1中隊の森三曹は、林の切れる当たりで敵を待ち伏せた。綺麗な1列横隊  
で真っ黒な鎧を着た騎士が足並みそろえて前進してくる。  


247  名前:  227  03/03/07  00:25  ID:???  

自分自身に言い聞かせるように64式の安全装置を外す。騎士が林を指さして何か指示した。フードを  
かぶった連中が何かぶつぶつと唱えると野球ボール大の火の玉が森たちに飛んできた。  
「わぁ!」  
「あちっ!」  
「部下がやられた!」  
 4,5人が直撃を受けたようだ。それと同時に第1中隊は一斉に射撃を開始した。フードをかぶった魔法  
使いたちが肉片になっていく。それを見届けた様に真っ黒な騎士が槍を突きだし突撃を開始した。  
「山本!カールグスタフっ!」  
 森が言うが早いか、山本と呼ばれた隊員がカールグスタフを騎士の横隊にぶっぱなす。轟音と共に騎  
士の身体が宙に舞い上がった。  
 第1中隊長の三田村は興奮して思わず叫んでしまった。  
「突撃にぃ!」  
 61式とMINIMIの支援射撃で援護されながら第1中隊は銃剣突撃を敢行した。未知の弾幕と奇妙な着物  
を着た集団に突撃をかけられてコルバーナ軍は敗走した。海岸までに死体の山を築きながら後退し、追  
いつめられたコルバーナ軍は降伏した。  
 一方のドラゴンランサー部隊は20ミリ機関砲の射程に入るやいなや、バタバタと落とされた。算を乱した  
ドラゴンランサー隊はバラバラになって回避運動を始めた。とはいえ、ロングボウに対する回避運動では  
避けきれるはずもなかった。相手はAH−1のミニガンだった。10機単位でドラゴンランサーは撃墜され  
ていった。  
 上空で繰り広げられる異様な光景にノビルバーナ市民はただ唖然とするばかりだった。そして、その光  
景が何を意味するか分かった瞬間、歓喜の声を上げた。  
 夜が明けて、自衛隊の戦果が判明した。上陸したコルバーナ軍は死者2000以上、捕虜は600。ドラゴ  
ンランサーは900以上を撃墜された。ノビルバーナ市民は無差別爆撃で500名を越す死傷者を出し、自  
衛隊にも4名の負傷者を出した。  


248  名前:  227  03/03/07  00:26  ID:???  

夜明けから自衛官総出の救出作業が始まった。衛生科総出で作られた野戦病院ではノビルバーナ市  
民が次々と運び込まれた。  
「手伝わせて下さい」  
 1人のエルフが衛生科に申し出てきた。彼女はヒーリングの使い手だそうだ。1人の衛生隊員がその様  
子を見ていた。ぼくもカメラを構えた。何か彼女が唱えると、ひどい傷は無理だが、かすり傷はきれいにふ  
さがって、跡もなくなった。まわりの衛生隊員や普通科の隊員から驚きの声があがった。それを見た市民が  
「あんたたち、何を驚いているんだい?エルフはみんな大なり小なりこんな力は持ってるさ」  
 と、大笑いした。衛生科は臨時職員として数名のエルフを雇ったことは言うまでもない。  

 このノビルバーナの攻撃の2週間後。第4師団を主力とする遠征軍がノビルバーナに上陸した、先のコ  
ルバーナの空襲と、その後の自衛隊の救援活動。自衛官との交流のおかげで、当初の恐れをなしていた  
市民感情は消えていた。第4師団は市民の大歓声と共にその上陸を迎えられた。  
 西部方面隊は総監部をノビルバーナ郊外のコクーン隊長邸に司令部を移し、彼の広大な土地に航空  
自衛隊の空港も建設されることとなった。  



249  名前:  227  03/03/07  00:27  ID:???  

施設科、輸送隊が働く間、普通科の隊員にはつかの間の休息が訪れた。ぼくは現地の市民と隊員との  
交流をエスタを連れて取材してまわった。  
 あるエルフに隊員たちが群がっているのを見つけてぼくはカメラを持って近づいた。中年の女性のエル  
フはかなりの上級の魔法使いらしく、隊員が装備品に魔法をかけてもらっては喜んでいた。  
「おい!俺のヘルメットは魔法もはねかえすんだぞ!」  
「俺のチョッキにも頼むよ!」  
 隊員はグ○コのチョコレートを彼女に差し出した。彼女は何か唱えて彼のチョッキに手を伸ばした。チョ  
ッキがぽわっと光ってそれで終わりだった。  
「マスター。彼女は対魔法防御の魔法をかけているんです」  
 エスタが解説してくれた。ぼくも何か頼もうと、カメラを彼女に渡した。  
「ぼくの道具にも何か頼むよ」  
 彼女はそれを見てぼくに言った。  
「あなたの道具に宿る精霊を呼んでみます」  
 彼女は呪文を唱えてぼくのカメラを触った。すると小さな人間のホログラムのようなモノが出てきた。  
「これが、ぼくのカメラの精霊・・・っていうのかい?」  
 ぼくの問いかけに彼女は笑顔でうなずいた。もっと、若くてかわいい女性を期待したんだが。・・・とよく見  
るとこの小さな人物、どこかで見た記憶があった。  
「あっ!」  
 ぼくは声を上げた。その精霊というのは、かの有名な写真家ロバート・キャパその人だったのだ。  


250  名前:  227  03/03/07  00:28  ID:???  

 第4師団上陸から10日後、ノビル、コルバーナ国境の要塞「グレゴリア」がコルバーナ軍に占領された  
との情報がもたらされた。グレゴリア要塞近辺は、ノビル・コルバーナ国境地帯で唯一平坦で機械化部隊  
の進撃に適した地域だったので、戦略的価値が高かった。しかも、最寄りのノビル軍駐屯地は20kmも離  
れていて、人馬に頼るノビル軍ではとうてい、早期奪回は不可能であった。  
 自衛隊は、大幅な作戦変更を迫られていた。幸い、在日米軍と契約して、当面の食糧供給と原油の供  
給めどが立った後の燃料の供給を交換条件に、半島有事に備えて蓄えられていた大量の弾薬と、佐世  
保や沖縄の輸送艦艇の貸し出しに合意していたため、自衛隊のノビル国内での活動に問題はなかった。  
 西部方面軍は第19普通科連隊の2個大隊をヘリ輸送してグレゴリア要塞とその周辺地域を奪還。その  
間に最寄りのノビル軍基地に集結した第4師団主力がそのまま、コルバーナ本土に侵攻するという作戦  
の実施を決定した。  
 西部航空方面隊のノビル進出で国土の制空権を回復したものの、依然、ドラゴンランサーのゲリラ攻撃  
の耐えないノビル上空であったため、対戦車ヘリ中隊が加わり臨時の空中強襲戦隊を編成した自衛隊は  
作戦を開始した。  
 ぼくは19普連に同行してグレゴリア要塞の取材をすることにした。今では優秀な秘書になったエスタに  
は地上部隊に同行してもらうことにした。彼女なら、ぼくのかわりに地上部隊でのことを記録できるであろ  
うからだ。  
「マスター気をつけて」  
 心配するエスタにぼくは「グレゴリアで会おう」と笑顔でヘリに乗り込んだ。  
 昔見たベトナム戦争の記録映画のような光景だった。無数のUH−1が数十機のAH−1に護衛されて突  
き進む。AH−1は今では「ドラゴンキラー」とあだ名されていた。コルバーナ軍のノビルバーナ強襲の戦果  
を受けてである。  


251  名前:  227  03/03/07  00:29  ID:???  

「降下1分前!」  
 ぼくはその時に渡してもらったヘルメットとチョッキを確認して降下に備えた。  
「LZ確保!」  
 わらわらと隊員が周囲に展開しLZを確保する。確保と同時に偵察小隊が周辺の安全を確認して、CH−  
47からパジェロなどの車両が下ろされる。第1大隊はLZと第4師団主力との合流点の確保。第2大隊は4  
0ミリグレネード装備の、海兵隊から貸与されたバンピーの支援を受けグレゴリア要塞を奪還するのだ。  
 第2大隊に先行して偵察中隊が威力偵察をしつつ要塞を目指した。途中、コルバーナ軍の散発的な抵  
抗を受けたが、自衛隊の火力に殲滅された。  
 要塞まで数百メートルに迫った。中隊長の中村は命令を出し渋っているように見えた。なにしろ、猛烈な  
反撃が予測されたコルバーナ軍の反撃がほとんどないのだ。敵は要塞を枕に防御戦をするつもりなのか  
それともすでに引き上げた後なのか・・・・。  
「中隊長、どうしますか?」  
 各小隊隊の報告を受けてもなお、中村は渋った。その時だった。  
「あ、ありゃなんだ?」  
 すっとんきょうな隊員の声が無線から聞こえた。ぼくは慌てて望遠レンズで前方を覗いてみた。見ると、  
何もない地面からむくむくと身長5mはあろうかという石の巨人がわき出ているではないか。  
「バイオハザードかよ・・・」  
「ばか、レイダースだ」  
 冗談を言っている隊員も中村の射撃命令に素早く反応して一斉射撃を開始した。だが、石の巨人は無  
数の7・62ミリ弾を受けても微動だにしない。  


252  名前:  227  03/03/07  00:31  ID:???  

「くそ!カールグスタフ!」  
 無反動砲が直撃しても、あたりどころの悪い巨人は腕を吹き飛ばされても歩いてくる。バンピーの40ミリ  
も発砲を開始する。4,5発撃ち込んでようやく倒れ込むばかりだ。  
「後退!後退しろ!」  
 巨人たちが中隊の散開したラインまで50mまで迫って、ようやく中村は交代命令をだした。ぼくはシャ  
ッターを押すのに必死でようやく、近くにいた隊員にパジェロに放り込まれた。中隊の報告を聞いた大隊は  
すぐさま、81ミリ迫撃砲で支援射撃を開始するが、これも石の固まりの化け物にはあまり効果がなかった。直撃以外では巨人は倒れることがないのだ。  
「あ!やばいぞ!」  
 隊員が指さす方向を見ると、1台のパジェロがスタックにはまってしまった。それに乗っていた隊員は間  
一髪脱出に成功したが、パジェロは巨人の足で踏みつぶされてしまった。  
 中隊は大隊本管の近くまで後退した。数十の石の巨人が大隊にも迫っていた。連絡を受けたAH−1が  
ヘルファイアを撃ち込む。さすがに巨人は木っ端みじんになるが、ミサイルの数が足りない。数体の巨人  
が大隊本管地区に到達した。  
「わぁぁぁぁぁぁ!!!」  
 それと同時に潜んでいたコルバーナの騎士団が突撃を開始した。魔法使いの援護を受け、浮き足だっ  
た自衛隊の司令部地区を襲ったのだ。  
「ノビルバーナAB!火力支援を!送れ!」  
「こちらAB!だめだ。敵が近すぎる!送れ!」  
 必死の通信がやりとりされる。騎士団の大半は銃撃で倒れたが数十騎がやはり本管地区になだれ込  
んだ。隊員は黒の鎧の兵士に浴びせられる限りの銃弾を浴びせた。中には銃床で殴りつけるあっぱれな  
隊員もいた。  


253  名前:  227  03/03/07  00:32  ID:???  

「このやろう!」  
 ぼくの隠れていた塹壕のすぐ横でカールグスタフが発射されて、至近距離で石の巨人の頭を撃ち抜いた。  
「ざまあみろ!このでくの坊!」  
 歓声を上げていた隊員に騎士団の投げやりが刺さった。  
「痛ぇっ!」  
 脇腹を刺された隊員は片手撃ちで64式の一連射をその騎士に浴びせた。ぼくは、ひたすら。飛び交う  
銃弾と敵味方の負傷したうめき声を聞きながら必死で、カメラのシャッターを押し続けた。  
「そっちだ!右!右!右!」  
 ぼくの耳元で精霊のキャパが怒鳴り声を上げていた。  
「そんな腕じゃ、ノルマンディ上陸の写真は撮れないぞ!ほら!今度は左だ!」  
「うわっ!」    
 左腕に激痛が走った。見るとロングボウがぼくの二の腕に刺さっている。かなり、いや、むちゃくちゃ痛い。  
もう1本のロングボウはぼくの防弾チョッキのおかげで見事に跳ね返していた。それを見た側の隊員が6  
1式を撃ちまくる隊員に指示する。  
「おい!新手だぞ。撃ちまくれ」  
 混乱の大隊本管のさらに前方に先ほどロングボウを一斉掃射した歩兵隊が突進してくるのが見えた。よ  
く見ると斧を抱えている。しかも外見は身長1m前後の鬼のような連中だ。  
「野郎!来させるか!」    
 61式の銃手が猛烈な掃射を浴びせる。それに呼応するかのように迫撃砲も発射され始めた。どうやら  
迫撃砲陣地から敵を追い払ったようだ。だが、それでも鬼の集団は突っ込んでくる。その時・・・・、  
 耳を切り裂くような轟音が鳴り響いた。目の前3,400mに迫った鬼の群が吹っ飛ぶのが見えた。  


254  名前:  227  03/03/07  00:33  ID:???  

 第4師団主力、玖珠の戦車大隊が支援に駆けつけたのだ。74式戦車の105ミリが次々と敵の群で炸  
裂する。  
「おーい!後は任せろ!」  
 車載機関銃を撃ちまくりながら戦車長が我々に声をかけながら浮き足だった鬼の群に突進していった。  
陣地からは歓声が上がる。  
「おい、ブン屋さん、手を見せてみろよ」  
 さっきまで61式の銃手をしていた隊員が声をかけてくれた。めちゃくちゃ痛いがどうやらかすっただけら  
しい。  
「俺の同期なんか、あいつらの変な火の玉くらって今は福岡の病院にいるんだ。これくらいどうってことな  
いさ!」  
 笑いながら包帯をしてくれた。後続の89式歩兵戦闘車も大隊本管地区に到着していた。車内だけでなく  
車上にも隊員を乗せた装甲車が走っていく。その後方、74式トラックに乗った普通科隊に混じってエスタ  
がいた。彼女はぼくを見つけると運転手に無理矢理停車させ、トラックから飛び降りた。あやうく、後ろの6  
1式装甲車が追突するところだった。  
「マスター!」  
 彼女はぼくが彼女を置いてきぼりにしたことを怒っているらしい。ぼくの左手をばしばし叩いた。きっとそ  
の手に巻かれた包帯には気がついていないんだろう。  
「うぐっ!うぐっ!うぐっ!」  
「もう、マスター!心配したんですよ。でもちゃんと記録は書き残しましたから!」  
 怪我した左手をばしばし叩かれ、そのたびに悲痛な叫びをあげるぼくを、まわりの隊員は腹を抱えて笑  
っていた。  



256  名前:  227  03/03/07  01:35  ID:???  

結局、このグレゴリア要塞での意外なコルバーナ軍の反撃で自衛隊は死者28名、負傷者98名を出した。戦闘結果は勝利だが、かつてない損害であった。しかも、車両にもかなりの損害を出していた。これを見  
た西部方面隊は九州から第8師団の機械化戦力を新たにノビルに派遣することを決定した。  
 コルバーナ軍はこれまで以上に強力な魔法を繰り出してくるであろうことが容易に推測できた。ぼくはグ  
レゴリア要塞外苑に作られた第4師団の臨時野戦病院に入院した。未知の病原体対策のためであった。  
 その検査はあまり気持ちのいいモノではない。1日に4回も採血され、検尿、検便、検査のフルコースだ  
った。内地=今は九州のことを呼ぶらしい  に送還になった隊員も現地野戦病院で2、3日検査を受ける  
のだそうだ。幸いぼくは、現地の入院だけで本国送還は免れた。  
 コクーン隊長や、王室護衛隊長のランドルフも見舞いに来てくれた。それよりもなによりも、ぼくのノビル  
残留を最も喜んだ人物がいた。今や、ぼくの私設秘書のエスタだった。  
 上陸以来のつき合いの隊員に言わせれば「もはやいつHしてもおかしくない仲」のぼくとエスタだそうだ。  
もっとも、ぼくは彼女に、女性としての魅力は感じていたが、今は秘書としての彼女の方にニーズがあった  
ので、それどころではないのが本音だった。しかし、その噂は少なくとも、対馬警備隊には確実に浸透しつ  
つあったようだ。というのも、  
「マスターがまだいてくれるならそれだけでいい」  
 などと、対馬警備隊の面々の前で公言したエスタのせいなんだが・・・。  


257  名前:  227  03/03/07  02:19  ID:???  

ともあれ、ぼくの入院していた数日、自衛隊の進撃が止まったのは、方面隊上層部にとってはかなりショ  
ックだったようだ。多数の自衛隊員を失ってしまったわけだから当然といえば当然だろう。  
 だが、当の現場の隊員たちは士気旺盛だった。  
「19普連の敵を討ってやる!」  
 と米軍から貸与された兵器を持って大張り切りだった。実際、このグレゴリア要塞攻防以降、徐々に在  
日米軍の貸与兵器が現場に行き届き始めた。  
 バンピーに40ミリグレネード。バーレット12・7ミリ狙撃ライフル。そして、コルバーナ王都攻略に欠かせ  
ないであろうハイテク兵器、パイオニアまで届いた。パイオニアの誘導弾に互換性のある砲がないため、  
急遽、飯塚の特科がノビルに派遣された。  
 中世の戦略、戦術でもグレゴリア要塞は重要らしく、先日の石の巨人も含めたコルバーナ軍の反撃は今  
まで以上に激しかった。しかし、玖珠戦車大隊、MATなどを装備した重装備の第4師団主力の前には、1  
9普連を混乱に陥れた石の巨人も、冷静に破壊されていった。  
「マスター、あの巨人はゴーレムという召還魔法で作られたモノなんです」  
 エスタがあの石の巨人について語ってくれた。彼女曰く、ゴーレムはコルバーナ軍の上級魔法使いが使  
える上級魔法で、彼ら上級魔法使いはコルバーナ本土の各地に駐屯しているそうだ。つまり、外敵の侵  
入に備えてと、住民の反乱に備えて、だそうだ。  


258  名前:  227  03/03/07  02:20  ID:???  

様々にめまぐるしく移り変わる前線を眺めながら6日で退院したぼくは再び取材に戻った。それと日を同じ  
くして、玖珠戦車大隊と海兵隊のM2ブラッドレーで増強された49普連がついに、コルバーナ本土に侵攻  
することになった。ぼくとエスタはM2の背中に同乗して前線取材に赴いた。  
「おーい!帰ってこいよ!」  
「原田さんはどうでもいいけど、エスタちゃんだけは無事にいろよ!」  
 グレゴリアに残ることになった対馬警備隊の面々の励ましとも煽りともつかない声援に見送られて、ぼく  
たちはグレゴリア領内に入った。  
 国境を越えたら10kmも行かないうちに自衛隊はとんでもない事態に遭遇した。とんでもない、とはいっ  
ても、我々日本人からすればまるでタイムパラドックスのような世界なのかもしれない。  
「11時方向!敵魔法!」  
 89式歩兵戦闘車の機関砲が一斉に射撃を開始する。一見何もない森林が銃弾で切り裂かれる。射撃  
が止んで、降車した隊員が偵察に行くと、決まって悲しそうな顔をして帰ってきた。  
「小隊長。子供です。まだ・・・・、そうですね、12、3歳の魔法使い見習いみたいなガキです」  
 日本人にとってこの光景は思い出したくない光景だった。本土防衛の為に、子供が、しかも将来を担うで  
あろう魔法使い見習いが捨て駒として各拠点に配備されているのだ。  
「マスター、これはどうしようもない。コルバーナでは皇帝がすべて。皇帝のために死ぬのが名誉なんです」  
 エスタは悲しそうに、それでいて吐き捨てるようにぼくに解説してくれた。  


259  名前:  227  03/03/07  02:22  ID:???  

コルバーナでは皇帝が全権を掌握している。よって皇帝命令は絶対なのだ。戦の敗北は許されず、逃  
げ帰った将兵も死刑になるそうだ。思えば、ノビルバーナ空襲のドラゴンランサーも、勝ち目のないAH−  
1に突撃して全滅した。コルバーナではこれが道徳で、当たり前なんだそうだ・・・・。  
 コルバーナ領内で最初の要塞都市にたどり着いた。「グレスフェル」というらしい。新田原の三菱F−1が  
攻撃をくわえて要塞に煙を噴かせた。その後、74式トラックに牽引された機械化特科が砲撃をくわえた。  
「あー!あー!テスト!テスト!晴天なれど波高し」  
 40普連の連隊長自らがマイクを握っての降伏勧告が始まった。隊員は口々に「それをいうなら本日は  
晴天だろうが」とつっこみをいれながら、連隊長の勧告は始まった。  
「あー・・・・・・。諸君は完全に我が軍・・・いや、自衛隊に包囲されました。この上は武装解除の上、一般兵  
と魔法使いを分離してこちら側に降伏していただきたいのであります」  
 その時、連隊長のすぐそばでカメラを構えてぼく向かって、ファインダー越しに何かが飛んでくるのが見えた。  
「マスター!伏せて!」  
 とっさにエスタがぼくに飛びかかる。その「何か」は連隊長が立って話をしていた74式戦車の砲塔に命  
中した。  
「れ、連隊長が!」  
「ばかもん!きさまら!なんのための護衛だ!」  
 パニック状態の連隊。無論だ。今までの戦闘で計算された遙か彼方から飛んできた魔法攻撃。しかも、  
防弾チョッキ、フリッツ製ヘルメットに身を固め、しかもそれらにはエルフの魔法防御がかけられている。そ  
んな重武装にもかかわらず、連隊長は跡形もなく吹き飛んだのだ。  
「後退!後退だ!」  
 次々と戦車や歩兵戦闘車が後退していく。またしても、ぼくとエスタは勇敢な隊員に助けられて後退する  
ことができた。  


260  名前:  227  03/03/07  02:25  ID:???  

捕虜にしたコルバーナ兵によれば、グレスフェルには1級魔法使いがいるらしい。1級魔法使いとは、い  
ままでの魔法使いとは比べモノにならない、強力な魔力を持った連中らしい。  
 40普連連隊長代理を務める山内三佐が口を開いた。  
「この上は海上さんの力を借りますか?」  
 第1臨時混成団=40普連、玖珠戦車大隊、久留米特科大隊  の幹部はどよめきの声を上げた。  
「しかし、我々にはまだ戦闘ヘリ中隊がいます!」  
 久留米特科の幹部が主張する。しかし、玖珠戦車大隊の幹部が首を横に振った。  
「今日の40普連の連隊長の位置から要塞まで約6キロだ。戦闘ヘリを投入しても危険だ」  
 この意見で山内の意見が採り入れられた。しかし、山内は一か八かの賭を同時に提案した。  



261  名前:  227  03/03/07  02:27  ID:???  

翌日、グレスフェル要塞に1台のパジェロが近づいた。車上には中世の槍にウサギの死骸を刺したモノ  
を掲げている。エスタ曰く、この大陸で長く続く「軍使」の印だそうだ。ぼくたちはその効果を見守った。す  
でに、久留米の特科は数キロ後方でグレスフェルをがれきの山にするだけの砲弾を用意している。それ  
でも、敵が降伏しなければ、ノビルバーナ沖のイージス艦からのミサイル攻撃でグレスフェルはただの更  
地になる予定であった。  
「エスタ、本当に大丈夫なのかい?」  
 軍使のパジェロの後部座席に乗り込んだぼくは、さすがに震えながら横のエスタに尋ねた。  
「だいじょうぶ、マスター。彼らも騎士です。条約は守るはずです」  
 いつのまにか、ぼくはあまりの恐怖だろうか。右手でカメラを支え、シャッターチャンスを待ちながらも、左  
手でエスタの右手を握っていた。エスタもまたぼくの手を握り返してきた。  
「お、おい」  
「え?なんですか?マスター?」  
 ぼくは普通に返してくる彼女にちょっと困惑を覚えた。ぼくは今にも失禁しそうなくらい怖いのだ。それで  
彼女の手を握った。握り返してきた彼女の気持ちをその返答では推測できかねたのだ。  
「いや、なんでもない」  
 果たして、対馬警備隊の愉快な面々の言うとおり、ぼくを慕っての行為なのか。それとも彼女もマジで  
びびっているからなのか。ぼくが思わず掴んだ手を握り返した彼女の真意は闇に消えた。  



263  名前:  227  03/03/07  12:03  ID:???  

「あ、あの、降伏して下さい。」  
 マイク役に選ばれた三尉は緊張しながら言った。要塞から顔を出したコルバーナ兵はきょとんとしている  
しかし、やはり伝統の停戦の儀式なんだろうか。槍に刺されたウサギを見て攻撃してくる様子はない。  
「あの〜、してくれないと、ミサイルっていう・・・・その、魔法というか。攻撃が来るんですけど・・・」  
 自信なさげな三尉の忠告にコルバーナ兵は笑い転げた。それを後方で見ていた山内は、ノビルバーナ  
沖のイージス艦に言い放った。  
「ハープーンを先ほどの座標に発射願います!」  
 次の瞬間、地平線の向こうで上がった煙にコルバーナ兵が気づき指さした。わいわいとしている間に、ハープーンはグレスフェルの象徴のコルバーナ皇帝像を打ち壊した。コルバーナ兵のざわめきが途絶えた。  
「あと・・・1級魔法使いのみなさん。」  
 相変わらず、自信のなさげな三尉が続けた。  
「今のは本気の攻撃ではないです。信管という装置を抜いてあるんで、何かの像を壊しただけです。これ  
を拒否すると、この何倍もの威力のミサイルがあなた方の頭上に降ってきますが、何か?」  
緊張のあまり、いつも見ている匿名掲示板の言い回しをしゃべってしまい困惑する三尉だったが、後に  
降伏したグレスフェルの1級魔法使いの証言はこうだった。  
「あの指揮官の「なにか?」という問いには心底震えた」  
 彼はこの攻防以降、広報課に転属となった。  



264  名前:  227  03/03/07  12:05  ID:???  

コルバーナの国境地帯はこうして平定されていった。しかし、最大の難題が自衛隊にに残された。最強  
の守護神、「グロス・ドラゴンランサー」である。  
 グロスドラゴンランサーの脅威はコルバーナ侵攻の直後から始まっていた。前線に物資を届けるCHー4  
7が3機、次々と行方不明になったのだ。  
 彼らの残した通信記録から敵は10m級のドラゴンであるらしかった。しかも奴らは30ミリミニガンをも跳  
ね返すそうだ。行方不明になったCH−47の1機にはAH−1に搭載されていたミニガンが配備されていた。それをもびくともせずに一気にCH−47をかみ砕いたことが判明している。  
 新田原基地からF−15が進出して上空警戒に当たるようになった。国内の石油備蓄は底をつきかけて  
いたので、一刻も早い王都侵攻を迫られていた。  
 グレスフェル要塞をコルバーナ国内の拠点にして一気に王都を陥落させる作戦に出た。第8師団も上  
陸し、西部方面隊はそのほとんどの戦力を投入することになった。コルバーナ王都まで直線距離で90km。  
一気に機動力にモノを言わせて進撃するのだ。ぼくは前線の玖珠戦車大隊に同行することにした。最近カ  
メラの使い方を覚えたエスタには後方の特科を取材してもらうことにした。  
「マスター、今度こそ気をつけて下さいね。コルバーナ軍は必死の抵抗をしてくるはずです。」  
「わかった。気をつけるさ」  
 ぼくはそう言って89式の背中に飛び乗った。  



266  名前:  227  03/03/07  12:08  ID:???  

 コルバーナ王都郊外までは順調な進撃が続いた。今や歴戦の勇士である第1臨時混成団はM2ブラッ  
ドレーなどの米軍の貸与兵器で増強され、確実に前進していた。だが・・・・。  
「え?なんだって?」  
 ぼくの乗せてもらっていた89式の無線が信じられないことを伝えてきた。後方の特科がグロスドラゴンラ  
ンサーに襲撃されたというのだ。第1臨時混成団は進撃を停止した。ぼくは後方に連絡に向かうパジェロ  
に同乗してエスタが同行している特科に向かった。  
 状況はかなり悲惨だった。駆けつけたF−15がグロス・ドラゴンランサーが撃墜したそうだ。道から外れ  
た野原で大きな巨体を晒していた。  
 道は壊された車両や運転手として雇われたエルフたちの死体でいっぱいだった。1個中隊分の155ミ  
リりゅう弾砲がスクラップにされている。ぼくは衛生科やら壊れた車両を撤去する施設のブルドーザーでご  
った返す現場をエスタを探して歩き回った。  
「おーい!ブン屋さん!俺を取材してくれよ!敵のドラゴンランサーを5人も撃ち殺したんだぞ!」  
 狙撃用の89式小銃を持った隊員がぼくに声をかけてきたが、はっきりいってそれどころではなかった。  
「ちぇ、なんだい」  
 ぶつぶつ言う隊員を無視してぼくは臨時の野戦病院へ向かって歩いた。その時、  
「マスター!」  


267  名前:  227  03/03/07  12:10  ID:???  

 ぼくを呼ぶ聞き慣れた声が耳に入った。振り返るとカメラを大事そうに抱えたエスタがパトロールに出る  
普通科小隊の列の向こうに見えた。  
「エスタ!エスタ!」  
 ぼくは衛生科や施設隊員をかき分け彼女に向かって走った。彼女は怪我一つなくカメラであちこち取材  
して歩いていたのだ。  
「マスター、ごめんなさい。レンズを1個壊しちゃいました。」  
 申し訳なさそうに謝る彼女をぼくは力一杯抱きしめた。  
「おいおい、まだ昼間だぜ!」  
「ブン屋さん!第1混成団がコルバーナ王都に到達したぞ!デートしてる場合じゃないぞ!」  
 ぼくを送ってくれた隊員がパジェロを乗り付けながらやってきた。今のぼくとしてはそれどころではなかっ  
たんだが・・・。  
「マスター、急ぎましょう!とくだねを逃しますよ!」  
 エスタの言葉にぼくは渋々パジェロに乗り込んだ。  
「グロス・ドラゴンランサーがやられたもんだからさ、敵も戦意喪失ってやつらしい。今日中には敵は降伏  
するそうだよ」  
 隊員が伝えてくれる最新情報をぼくではなくエスタがメモに書き留める。  
「マスター、戦争は終わりですね」  
 エスタがそう言ったとき、上空を飛行機雲を出しながらF−15の編隊が飛んでいった。軽くバンクさせて  
地上に挨拶している。  
「戦争が終わったら君は、どうするんだい?」  
 戦争がもうすぐ終わると言うことはぼくも九州に帰ると言うことだ。エスタともお別れになるのか、と考えた  
らちょっと悲しかった。しかし、彼女の言葉はぼくを喜ばせた。  
「マスターにどこまでもついていきます。私も「じゃあなりすと」ですから!」  
 ぼくは彼女の言葉を聞いて思わず彼女をもう一度抱きしめた。まわりの隊員が口々に冷やかしの声を  
上げた。  
 上空をもう1度、F−15の編隊が轟音をあげて飛び去っていった。