199  名前:  3年遅れのファンタジー  ◆PujjQOi5D.  2006/08/02(水)  01:12:15  ID:???  


(  旧or副題・復讐  )  

某所。  

闇の中、桜の花が舞い散る、幻想的な空間があった。  

空間は、広大な森のような庭園であった。  
その庭園の中に、自身に舞い散る桜の花びらを見上げる、1人の女性の姿があった。  
女性は・・・美しい女性ではあったが、なぜか、そら恐ろしい“  何か  ”の様でもあった。  

その、<  美しい女性  >は、深々(しんしん)と冷える森の冷気を十分に味わい尽くした・・・のか、  
ふと、氷のような・・しかし、あどけない少女の様な微笑を浮かべて、  
大理石のバルコニーから、白いカーテンの部屋の中へと、消えていった。  



200  名前:  3年遅れのファンタジー  ◆PujjQOi5D.  2006/08/02(水)  01:13:59  ID:???  


女性が消えた家の中は、真の闇であった。  

ただ、教会を思わす高い天窓に、月夜を背に巨大な桜の木が、その姿を誇らしげに晒している。  
そう。家の中は真っ暗ではあったが、  
天窓から差し込む月明かりが照らす<  この部屋  >だけは、別。  

そして、この幾つかの月の光線が照らす<  ただ1つの部屋  >の中を、誰か1目でも見る事が出来た者は、  
この部屋の所有者の、空恐ろしいまでの圧倒力で迫る高雅な教養の高峰、に、  
心理的な息苦しささえ、感じたであろう。  

なぜなら。  

1見、なんの変哲もない簡素な空間のそこかしこに、  

贅を尽くした調度品と、選び抜かれた素材が、  

その所有者の高雅な趣味のおもむくまま  ―  しかし、実は、  
その所有者の、恐ろしいまでに計算され尽くされた目に愛でられた位置に<  密やかに隠され  >ながら、  
実はその自身の存在を、訪れた者に<  私を見よ  >と誇らしげに誇示して見せている。  
そんな異様な、いや、所有者の圧倒的な力量ゆえか・・が、誰の目にも明らかであったからだった。  



201  名前:  3年遅れのファンタジー  ◆PujjQOi5D.  2006/08/02(水)  01:17:46  ID:???  


雲が、去った。  

1陣の風か、白いカーテンを、音もなく舞い上げた。  

そして月が、夜の女王たる光の全力をもって、その高雅な部屋の中を、より明るく照らし出していた。  
・・・あの美しい女性が、その中に1人、立っている。  
雲が去り、真の顔を晒したその月に向かって、微笑み、振り返りながら。  

―  息を呑む程の絶世の女神の笑顔  ―  が、夜の闇の中で光り輝いていた、  

この高雅な部屋、この深淵の闇の家の主、<  加藤  ・・・・・・・  >が、  

月の光を受けて、全身から雪煙のような眩しい光の輝きを放ちながら、  
窓の外の桜吹雪を、両手を高く上げ、広げ、やわらかく、雄大に、そっと・・抱きしめていた。  



202  名前:  3年遅れのファンタジー  ◆PujjQOi5D.  2006/08/02(水)  01:25:11  ID:???  


「  六郎・・?  江田島  六郎  は  ・・・・  どこに?  」  

「  姫・・いえ、御嬢様の  すぐ側に  」  

艶然と微笑みながら、まだ窓の外の桜景色を全身で抱きしめている加藤<・・・・・・・>の背後に、  
何時の間にか、1人の男の影があった。  
絶世の女神は、その可愛らしい澄んだ声で、その男の名を呼び、  
そして、男の返事に、深く満足したかのように目を細めて微笑んでいるが、  
決して男の方へは振り向こうとも・・・しなかった。  

そして、ただ、うっとりと、  

空の月と桜吹雪と、巨大な桜木を抱きしめ続けていた・・。  

そしてその間、  
この美しき主人に一瞥すら受領されえぬ影の男は、終始、  
笑面の面を被(かぶ)りつづけたまま、厳つい体を思わす影のまま、片膝をついて霞(かすみ)の様に控えている。  
最近、加藤<・・・・・・・>の近辺警護を任されている者であった。  

しかし、常時・笑面の面で素の顔を隠している加藤<・・・・・・・>警護役と、  
その彼、江田島の素の顔を知っている者は、  
江田島の主人である加藤<・・・・・・・>以外は、祖国広大なれど、3指にも足りない。  

もっとも、祖国最強・最大の軍産複合体の第105代当主である加藤<  ・・・・・  >にとっては、  
その異常な記憶能力によって、配下の者総てを目と声だけで誰が誰なのか総て把握の事。  
身辺警護の者から芋蔓式に浸透されぬシステム、を、自然に構築せしめた、恐るべき能力の持ち主であった。