571  名前:  ロードス・キャンペーン(1)  ◆PujjQOi5D.  2006/07/12(水)  05:28:39  ID:???  


夜の風が、  
エルフの少女の黄金の髪を美しくなびかせている。  

月の夜の空の下、  
白馬にまたがる美しいエルフの少女・・・  

(  なんとも絵になるものだな  )  

後ろからその姿を見ていると、1瞬だが、見とれてしまう・・  

・・大変『  稀  な  』幸運に恵まれて、  
この世界の人間勢力との交渉の『  機  』を得た今井は、  

この世界と、  
この世界に飛ばされてしまった20万を超える市民と、  
万を超える自衛隊の、  

その命運の鍵を握るに至った。  

しかし、それもこれも、  
この美しいエルフの少女に愛されし勇者・ソーンを、  
無事、自衛隊の生き残りの幹部にまで、引き合わす事ができれば、なのだが・・。  



572  名前:  ロードス・キャンペーン(2)  ◆PujjQOi5D.  2006/07/12(水)  05:31:57  ID:???  


今井は、  
世界や飛ばされた人々の生命のため、なぞと、  
1人、悲壮ぶる気は毛頭なかった。  

ただ、(  なんとかしなくては・・  )  

今井を動かしている原動力は、言ってみれば『それだけ』であった。  



573  名前:  ロードス・キャンペーン(3)  ◆PujjQOi5D.  2006/07/12(水)  05:44:39  ID:???  


そんな今井が数奇な運命に導かれて、  
死霊満ちる戦場に倒れていた2人の少年少女を助け、やってきた陣営、は。  

破滅の戦場から、  
辛うじて逃げ延びる事が出来ただけにすぎない、  
傷つき、脅えに脅えた、哀れな、哀れな子羊の群れに過ぎなかった。  

―  無理も無かった。  

自衛隊の歴史始まって以来の、  
初めての『本気全力の』攻撃により、  
10万を号した軍勢の99%までを失い、文字通り全滅寸前であった彼ら。  

今井がいた21世紀日本の世なら、  
『  核戦争  』をこの目で目撃してしまった  
『人類史上で、最も悲惨な運命を背負わされた人々』と言った所だったろう。  

そんな敗戦と敗走の余燼冷めやらぬボロボロの軍隊の陣営の中で、  
ひときわ際立って、全く異質な雰囲気を漂わす男が1人、いた。  

今井は、その男の名も、経歴も、知らない。  
その男は、この世界では後に、札付きの災厄となる『ハズだった』男だった。  



574  名前:  ロードス・キャンペーン(4)  ◆PujjQOi5D.  2006/07/12(水)  05:47:52  ID:???  


男はその時はまだ、  
やつれ、うなだれ、見る者総てに、  
不快と警戒の印象を与える暗い目をした1人の貧相な盗賊にすぎなかった。  
―  それだけなら、  
どこの世界にも掃いて捨てるほどいるのだが・・  
だがなぜか、その男は、  
その時の最初から、今井の目にやたらと、目立って印象的であった。  

男の名は、ロック。  
この男もまた、その時から本来の運命よりも、数奇な運命を辿る事となる。  



575  名前:  ロードス・キャンペーン(5)  ◆PujjQOi5D.  2006/07/12(水)  06:05:44  ID:???  


不思議な光景であった。  

今井とともに、  
剣士ソーンとエルフの少女が陣営にたどり着いたとき、  
あれほど生気のなかった敗残の軍が、急激に光り輝き、沸き返ったのであった。  

敗残の軍の中で、  
最初に劇的な反応をしたのは、砂漠の王  その人であった。  

憔悴しきっていてもなお、  
ひときわ輝かしい光彩を周囲に放っていた砂漠の王が、  
生還した2人の姿を認めるや、  
この2人の少年少女の生還を、  
その雄雄しい声で喜び、叫び、彼らを抱き上げ、その生還を祝福したのであった。  
そして王に少し遅れて・・死に体だった彼ら全軍が沸き返った!!!  

そこにいた総ての男達が  わあ、と歓声を上げて、  
王と王の抱き上げる2人に駆けより、王もろとも胴上げし、その生還を心から喜び、祝いだしたのであった。  

―  こんな、こんな喜び方なんて、ワールドカップのどの番組でも見たことがない!!  



576  名前:  ロードス・キャンペーン(6)  ◆PujjQOi5D.  2006/07/12(水)  06:12:05  ID:???  


今井が仰天するのも無理は無かった。  

後の話によると、この剣士ソーン、  
先の戦場において、光の王と砂漠の王、そして生き残りの全軍を逃がすために、  
少数の旗本を率いて自衛隊の戦車の群れに突っ込んでいったという。  

当然、エルフの少女は、気も狂わんばかりにソーンの後を追ったのだろう。  

勿論、砂漠の王も、  
この1人の騎士(とその旗本)の勇気ある行動に我を忘れて、  
彼もまた戦車部隊へ向けて駆け出していたのだが、  
これは側近と近衛兵によって取り押さえられたという。  

「  われわれが今あるのは、この2人の御蔭なんだ  」  

白いターバンを巻いて、  
精悍な顔に美しい髭を生やしたこの偉大なる王は、  
まるでイタズラっ子のように満面の笑みで2人を抱き寄せ、  
白い歯を無警戒に覗かせて少年の様にニカッと笑ってみせるのであった。  

そして、そんな王の逞しい腕の中で、  
2人の少年少女も、どこか照れくさそうに・・驚きながら微笑んでいた。  

そしてそれを、周りの全軍が、祝福していたのであった・・。  



577  名前:  ロードス・キャンペーン(7)  ◆PujjQOi5D.  2006/07/12(水)  06:23:12  ID:???  


そんな中で。  

ただ1人だけ、  
何か2人に祝福の言葉をかけかけて・・それをする間もなく、  
集団の輪の中に埋没していった2人の少年少女を・・遠くから見つめ、  

やがてほぞを噛み、  
後ろを向いて、人知れずその場を立ち去っていった男が、いた。  

盗賊のロックであった。  
それが、今井が彼を見た最初の光景であった。  

その男が、今井の目の前に、いる。  

戦場の闇の中、  
ぱちぱち、とはぜるかがり火に照らされたその男の後ろ姿は、  
世にも寂しそうに見えるのであった。  

男の右側面にある、  
白い皮のテントにゆらゆらとゆらめくその影も、  
どこか酷く悲しげにゆらめいて・・見えるのであった。  



578  名前:  ロードス・キャンペーン(8)  ◆PujjQOi5D.  2006/07/12(水)  06:31:35  ID:???  


・・・男は、周りに誰も居ないと思っていたのだろう。  

陣営の1番の外れ、  
人気の無いこの1角の、更にその裏手のテントの影で、  

その男・ロックは、  
ただ肩を落とし、うなだれ、長い溜息をはいて、ボソリボソリ・・と、呟いていた。  

「  ―  何で、ソーンばかりが  」  

必死の戦場から生きて帰ってきた少年少女の帰還に、  
傷ついた兵士達までもがその傷に負けずに奮い立ち、盛り上がるのを、  
何か、とても眩しいものを見上げるように、うめいていた、あの男。  

その男が、巨大な灯りに背を向けて、ボソリボソリと呟き続けていた。  

「  ―  何で、ソーンばかりが  」  



579  名前:  ロードス・キャンペーン(9)  ◆PujjQOi5D.  2006/07/12(水)  06:51:18  ID:???  


風に煽られて、かがり火の火の粉が舞い上がった。  
火の粉は、まるで男の鬱屈を燃え照らす様に、  
その男の周りで舞い狂い、火の雨の様に降り注いでいた。  

「  ―  そこに居るのは、だれだ?  」  

不意に男が、振り返りもしないで、ゾッとするような声を発した。  
「  誰でもあるし、誰でもない  」  
・・この手の場面に慣れているのか、今井の返答はいたって気の無い返事。  
「  ―  見たな?・・聞いたな?  」  
「  ・・俺の惨めな姿を・・俺の惨めな声を  」  
今井の気の無い返事に、まるで、血を吐くような震えるばかりの憎悪を込めて、男がうめいた。  
そしてすらり、と得意の得物らしい短剣を音も無く抜き放ちながら、  
不吉な光に目をギラつかせて、うつむきながら、ゆっくりとこちらに振り返ってくる。  
「  で、食うか?  」「  ―  ?  」  
相も変らぬ気の無い返事に、まるで予想外の答えをよこす今井。  
そんな今井に男は、その予想外具合の分、深く深く鼻に皺寄せて、  
その予想外の答えを発した存在をよくよく見極めようと・・不信げに目を細めている。  
今井が男の鼻ずらに突きつけたのは、さっきの騒動で失敬してきた鳥の串焼きであった。  
「  うまいぞ?食わぬなら俺だけ食うが?  」「  ・・・・  」  
男の目の前には、旨そうに湯気と香りを撒き散らす鳥の串焼きだけがあった。  
元の運命では、この世界に新たな災厄をもたらすハズだったこの男、ロックが、  
元の運命よりも、遥かに数奇な運命を辿る事になる事になった逆転劇の、始まりであった。