491 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/06(火) 03:09:58 ID:???

―やったな!

・・・・?!

やったな!と叫んだ隊員自身が、
自分自身の叫びと感動に驚いていた。
こんな感覚になったのは、何時の日ぶりだったのだろう。
嗚呼、国にいた日の事が、
もう、100年も昔の事の様に思えてしまう。
水辺に写った自分の顔が微笑んでいる。
― いつの間に俺は微笑んでいたのだろう???
子羊の毛の1本1本まで、
子羊の1頭1頭の鳴き声や匂いまでが感じられる。
そしてズボンを塗らした子羊の小水の暖かさ。俺の脚を流れている!

夢じゃあない。

こんな確かな感覚が、催眠術や幻覚の類である訳が無いじゃないか!

羊達の匂い。風の匂い。夕飯の匂い。草の匂い。気の匂い。
朱の空の光。輝く雲。

― 生きている 総てが生きている ―

それら世界の総てが、

1度は深淵の闇に沈んでいた彼等を、柔らかく包み込んでいた。


492 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/06(火) 03:12:15 ID:???

夜。

暖炉の明かりに包まれていた。

パチパチと燃える炎を見つめながら、
ポツリポツリと出る思い出話に浸ってから、眠った。
眠る彼等に再びサラサラと振り掛けられる眠り粉。
そして、おさげの魔法使いが歌う催眠の歌。

カラカラカラ・・・

ある隊員は言った。

目の前で小さい頃みた、風車が回っていた、と。
あれは揺り篭の中で見た風車に違いない、と。

ある隊員は言った。

耳元で、幼き日に聞いたオルゴールの音を聞いた、と。

美しき魔法使いは、

寝息を立てつつある隊員たちの1人1人の耳元で囁いた。

― おやすみなさい。 よい夢を・・・ ―


493 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/06(火) 03:18:37 ID:???

深夜。

精強にして屈強な隊員たちが眠っている。

それを深い安堵に包まれた中道三佐が見下ろしている。
不寝番を自ら受けた。― 俺にやらしてくれ、と。
部下達は黙ってそれを受け入れた。

上官の命令は神の命令。
しかし普段なら先を争って自分がやります!と言っているところだ。
しかし、中道の心の深い傷と人となりを知っている彼ら。

その中道の思いを妨げる事など出来なかった。

寝息を立てている。
女の子の様に可愛らしい顔をして林が寝ている。
そのほおをそっと撫でる中道。

思えば1番発狂する寸前だった。

それが今、本来の安らかな寝息を立てて眠っている。


494 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/06(火) 03:26:04 ID:???

隣で傷だらけの富田が、大の字になって眠っている。

普段は毛布に包まって、赤子の様に寝ているのが癖だった。
・・・富田のことだ。
隊に入ってくる以前の暮らしは、相当に酷かったのだろう。
だから赤子の様に毛布に包まって寝ていた。

しかし、いまや、全身傷だらけであるのにもかかわらず、
大の字になって、穏かな寝息を立てている。

その頬の傷、額の傷、右首の傷、腕の噛まれた後、折れた指。
― お前は俺と別れた後、全力で林を守ってくれたのだな ―

感謝する、などと、どうして言えよう。

ただ、
寝ている富田の手をそっと手にとって、
何時までもその両手で包んでやる事しか出来なかった。

そうして、1人1人の寝顔を見ているうちに、

すっかり夜が更けてしまっていた。


495 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/06(火) 03:38:17 ID:???

外に出れば、雲の間から、振り落ちるほどの星の海だった。
それはかつての宿営地で見た星の海と同じだった様な気がした。

― あの星座は何という名前なのだろう。

派遣地に来る前に、天文は頭に叩き込んできた。
しかし、こういった事は林の方が詳しかった。

― あの星座は何という名前なのだろうね ―

ニッコリ微笑みながらとぼけてみたら、
1番若い林がスラスラと答えて見せたのだからたまげたものだった。

側の水路からカラカラカラと鳴る水車の音が聞こえる。
暖かな熱風が、疲れた心身に、心地よかった。
そして何時しか中道はサラサラと流れる水路の音に誘われていた。
水路の水は快い程度に冷たく、手を差し込んでいると時を忘れるようだった。

そんな水路の流れに1人、手を差し伸べていた中道の側に、
バタバタバタ・・・と、白いローブを風にばたつかせて、
1人の魔法使いが立った。

「 御悩みですか 」

中道は疲れていたが、礼儀正しく振りかえってから返事をした。

「 ええ・・ 」


496 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/06(火) 03:47:34 ID:???

文字通りの「 地獄 」を潜った。

だからこそ、ひしひしと感じ入る、この「 人の世の暮らし 」。
常日頃、部下達に言って聞かせていた事の真の意味が、全身に染みてくる。
自分達が365日油断無く守ってきたものの、真の姿。
そんな思いの中道に、美しい魔法使いの甘美な声が染みとおってくる。

疲れた中道の心に、深く、深く。

「 人は明日の運命どころか、瞬きする間の事さえ予測できません 」
「 ですから、思い悩みますな。総ての事は人の手には重すぎるのです 」
「 本来、人は、自らの命を支える事も出来ないのです 」
「 人は愛を誓い、君を幸せにすると宣言しますが、貴方の留守中、誰が彼女を守りましょうや 」
「 なのに貴方は何十名もの人の命を背負おうとしている。貴方の背中には10名も乗れないのに 」

魔法使いの念話であった。それは直接、脳に、心に、響き渡る。

実際に語りかけている魔法使いの言葉は、
かつての現地で聞いた地元の言葉のような気がするが、よく解からない。

ただ、美しい声が、音色が、全身に染み通ってくる。
気遣いの深い思いと意味が、直接、脳に、心に響く。


497 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/06(火) 03:48:08 ID:???

魔法使いの念話の声が甘美なのは、

彼女の気遣いの心の深さ、優しさの真摯さ、ゆえのことだろう、そう、中道は理解している。

しかし。

「 ― 有り難う、美しい人。

― しかし、私は日本国の自衛隊という組織の指揮官なのです ― 」

( 21 時空の狭間から 生き延びて 9 〆 )




616 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/08(木) 02:02:57 ID:???

「日本召喚」>>45

01 元自衛官の矜持
02 平成の山荘攻防戦
03 病室を埋めたラブレター
04 空の騎兵隊に向かって走れ
05 聖なる夜の真価

06 悲しみの水面の底で
07 悪魔の証明
08 自衛隊の英雄と、隊員だった頃の大公
09 時空の狭間から 生き延びて 1
10 本当に 大事なもの

11 時空の狭間から 生き延びて 2ー7
17 少年の前に舞い降りた 神
18 青い空に翻る日の丸を胸に
19 時空の狭間から 生き延びて 8
20 野に吹く夏の風に空き缶の跳ねる音を聞いて

>>485-497
21 時空の狭間から 生き延びて 9


617 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/08(木) 02:06:45 ID:???

「 お客様のお呼び出しを申し上げます・・・ 」

「 ・・ゆき第・・便は・・ 」

・・・?

・・あれ? 何で俺は空港にいるんだ??

ベテラン隊員である岩田ニ曹は、
「 急げ!遅れるな! 」と叫びながら後ろを振り向いたのだ。

だが、岩田ニ曹が後ろを振り向いた途端、
なぜか岩田ニ曹は「 空港に、いた 」
派遣部隊が飛んだ場面では無い。今から故郷の・・に帰る場面だった。

・・・・???????

「 ・・・さん! ・・・さん!! ここです! 遅れますよッ!! 」
??????
― ああ、アレは・・何でアイツがここに?
― ・・・あれ?・・アイツは誰だったっけ?・・・あんな奴い・・

岩田隊員の思考は、そこで止まった。


618 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/08(木) 02:07:45 ID:???

「 い、岩田アアアアッ! 」

当時、岩田ニ曹に1番近い位置にいた伊藤ニ曹は、
仲間思いであった岩田ニ曹の最後をこう証言する。
「 イワは後ろを振り向いた途端、なぜかボゥっと突っ立っちだしたんだよ 」
故国・日本に生還した生き残り組の伊藤ニ曹は当時をそう振り返った。

「 何かに魅入られていた様だった。 」

― 例の、アレか?
「 ああ・・イワには別の世界( アレ )が見えていたんだと思う 」
― 伊藤、御前は( 当時 )何か見なかったのか?
「 トミ( 富田 )や坊や( 林 )が言っていたのは俺も見たよ 」
― そうか、御前もなのか。
「 なんだ、御前の所にも三佐が笑いながら近寄ってきたのか? 」
― 俺の場合は三佐が血塗れで助けを求めてきたんだがな。あ・・続けてくれよ。
「 ああ。だが、な。俺はトミや坊やの様に三佐にゴロニャンしていなかったからな。 」
― 御前ってホンット、へそ曲がりだよな?
「 ぬかせ。その御蔭で俺は死なずにすんだんだ。見ろ、俺の身体を。 」


619 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/08(木) 02:12:32 ID:???

伊藤ニ曹は確かにヘソ曲がりであった。

だが、それゆえに彼は生還した。・・ほぼ無傷で。
口では“ 俺はゴロニャンしていなかったからな ”とは言うが、
彼が三佐の幻影を見たのは彼が三佐に懐いていた動かぬ証拠であった。

岩田ニ曹はその時、故郷に帰る日を指折り数えて楽しみにしていた。
岩田ニ曹はその思いをフトした拍子に周囲に洩らす事があった。だから、
岩田ニ曹が最後に見た光景を知らぬ彼等ではあったが、彼等には、
岩田ニ曹が最後に見た光景をなんとなくではあるが、理解していた。
岩田ニ曹は仲間思いであった。
仲間思いの彼のことである。
故郷に残した両親への慕情は人一倍強かっただろう。

「 自衛隊に入れば免許がとれる 」

地方連絡部にそうスカウトされた彼は、迷い無く自衛隊の門を叩いた。
しかし、新隊員教育の三ヶ月で“ 何か ”に目覚めた彼は、
“ 免許取得 ”よりも、“ 戦闘訓練 ”の多い方へと行ってしまった。
・・・よほど“ 戦闘訓練 ”に向いていたのだろう。

だからこそ、魔物との遭遇という常識を超える事態に見舞われても
自然に“ 殿( しんがり ) ”に立ったのだった。

「 いい奴だった イワにしか出来ない事(殿)だった 」

― ああ。

“ ヘソ曲がり ”伊藤ニ曹の、岩田ニ曹への哀悼であった・・。


620 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/08(木) 02:14:49 ID:???

話は当事に戻る。

― ・・・・!!
― ああっ?! こ、このッ化け物野郎がッ・・・!

木々を縫って逃げ惑う富田隊員と林隊員に迫る“ 死 ”の影。
・・・しつこかった。本当にしつこかった。
銃撃でほぼミンチになっているというのに這いよって来る彼等。
草叢の影から!木々の間から!!這いよって、来る!!!
・・・後ろは見ない。見れない。見てはいけない。
高所での作業の様に、後ろを見れば悪夢に吸い込まれそうだった。

― 三佐は無事なのだろうか???

徒手格闘で( 自分が )遂に勝てなかった三佐の事だから、まさかは無い筈だが。
・・・足が重い。
まるで悪夢の中で、自慢の足が少しも進まぬように。
― はあっっっ!はっ!
・・・駄目だ、なってねえ・・林の奴、パニくって、呼吸が出鱈目になってやがる。
「 しっかりしろ!彼女がいるんだろ!?? 」
そうだ。林には彼女が待っている。死なせる訳にはいかない。
御前は死んじゃいけないんだ。

「 彼女を泣かせたいのか!走れ!!このノロマ!!! 」

富田に“彼女を泣かせたいのか!”と怒鳴られた途端!
ギラリ!と、先程まで泣きべそかきかけていた林の目が、男の目に変わった。

・・・そうだ!その目だッ・・・林ッ・・・!!


621 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/08(木) 02:17:11 ID:???

そして、日本。

・・・・・。

女がベッドの中でタツノオトシゴを見つめている。
真っ暗な部屋と青い光と清水と清らかな砂や珊瑚が彩る世界の中で、
女がアクアリウムの中の“ 正男チャン ”を見つめている。

― つまんない、な・・。

真っ暗な部屋の中で、青い光を受けて青白く照らし出された彼女。
小さく溜息をついた彼女は、ヒョコヒョコと泳ぐ“ 正男チャン ”を、
水槽のガラス越しに、
細くすべらかな人差し指で、ツ、ツー・・となぞっていた。
・・・富田の馴染みの女だった。

― 今日のお客さんはさ、しつこかったんだよ・・

こうしてタツノオトシゴの“ 正男チャン ”に話しかけるのは、もう何日目なのだろう。

― つまんない、な・・。

“ 男の相手 ”という人界の泥水を浴びる事にかけては並ぶもの無き最強の仕事、
“ ソープ嬢 ”。その仕事を生業とする彼女は、しかし心までは汚されはしない。
彼女の部屋の彼方此方に残る富田の匂い。富田の気配。
・・・そう。彼女はその職業にあっても、

ここに移ってきて以来、この部屋に富田以外の男を上げた事は1度も無かった。


622 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/08(木) 02:25:47 ID:???

彼女がこの世界に転落した理由は、昔も今も良くある話だった。
両親の別れ。そして再婚。ロクでもない男にあたった。
そして彼女は養父に襲われた後、家を飛び出した。
・・・後は言うまでも無い。
経済力ある家に恵まれたハンパ者は安易に他人を笑うが、
果たしてその笑う者が、その笑う対象と同じ立場に立った時、
ドレほどの状況を手に入れられるかどうかは疑問だ。

そして彼女はお約束の如く最底辺に巣食う乱暴者にとり憑かれた。
天使の様に人が良すぎた彼女が悪い男にとり憑かれるのに、たいした時間もかからなかった。
もっとも、この世界に落ちる娘達の多くがそうなのであるが・・・。

そして、ある日突然、転機は訪れた。

稼ぎが足りないと殴られた彼女を助けに入った逞しい男。
それが富田だった。
男という男を真から憎悪した彼女に突然舞い降りた奇跡。

「 女に手をあげるんじゃねえッ!!! 」

彼女に青アザと借金しか与えなかった男が、鞠の様にブッ飛ばされていった。


623 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/08(木) 02:28:03 ID:???

男は女を知らなかった。

男は女が殴られていた時、故郷の母を反射的に思い出していたと言う。
「 オヤジはクソだった 」
女を抱いた後、いや、女に抱かれた後、男はそう、ポツリと呟いた。
早く母を楽にさせてやりたくて、自衛隊の門を叩いたのだと言った。
苦しみの多い家に育ち、将来の見えなかった彼には、
彼の高校にやってきた地方連絡部のスカウトが神の様に見えた事だろう。
「 そうか、そうか。なら自衛隊に来るんだ!すぐに母さんを楽にさせてやれるぞ! 」

― 俺は感謝している。

女の前では口数の少ない富田がやっとで喋った、誰にも語らぬ“ 思い ”。

― つらかったんだね。

女が、女を初めて抱いた男の背を抱きしめた。
最底辺の乱暴者を鞠の様にブッ飛ばした男が女の胸の中で子供の様に泣いた。

・・・富田と女の逢瀬の日々が、始まった・・・。


624 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/08(木) 02:30:04 ID:???

― ソープなんかやめろよ。俺が食わしてやるから。

父親が粗暴だったために、女にかける優しい言葉など知らない富田の、精一杯の告白。

― 駄目よ 何言っているの。

( 汚れた私が貴方のお嫁さんになるなんて、無理よ )

― それより、私の部屋に来る?
― いや、駄目だ。
― ええ・・私は来て欲しいのにな。
― 御前、借金がメチャメチャあるんだろう? 俺が全部払ってやる。 だから他のお・・
― めっ。デリカシーなさすぎだゾ。
― ・・・・・。

女の細い、すべらかな人差し指が、富田の唇を遮(さえぎ)った。

最底辺の乱暴者を鞠の様にブッ飛ばした男が、女の細くすべらかな指に、何もできなかった。

( 22 時空の狭間から 生き延びて 10 〆 )



646 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/10(土) 03:21:44 ID:???

「日本召喚」>>45

01 元自衛官の矜持
02 平成の山荘攻防戦
03 病室を埋めたラブレター
04 空の騎兵隊に向かって走れ
05 聖なる夜の真価

06 悲しみの水面の底で
07 悪魔の証明
08 自衛隊の英雄と、隊員だった頃の大公
09 時空の狭間から 生き延びて 1
10 本当に 大事なもの

11 時空の狭間から 生き延びて 2ー7
17 少年の前に舞い降りた 神
18 青い空に翻る日の丸を胸に
19 時空の狭間から 生き延びて 8
20 野に吹く夏の風に空き缶の跳ねる音を聞いて
21 時空の狭間から 生き延びて 9

>>617-624
22 時空の狭間から 生き延びて 10


647 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/10(土) 03:22:38 ID:???

そして話は、戦地に戻る。

中道隊の宿営地南側で、巨大な爆炎が上がった。
それは重症を負った隊員が魔物達を道連れにした魂の爆発だった。
「 ムラアアアアアアア! 」
― 行け!
中道隊の宿営地南側。そこは、稲村小隊が守備する方面であった。
その守備線から離れる事数百メートルの地点で、輸送トラックがひっくり返った。
中道の指揮により林ら若い隊員らが必死に運び込んだ膨大な缶詰類や医薬品、
予備燃料等などが、勢いよく地面へとぶちまけられ、方々に散乱していった。
― お前等といて楽しかったよ! 行け!! 行くんだ!!!
・・・ゾゾゾゾゾゾ!!!・・・と、表現するしかない肉塊の波が村西隊員に迫る。
既に息絶えた派遣隊員1人1人の命と引き換えに手足や形態を破砕された魔物らは、
遠目には・・・押し寄せる粘液の海のようにも見えた。
そう、粘液の海だった。
手足が無いくせに、人が駆け足する程の速度で迫る赤黒い津波。
その悪意ある死の津波が、村西隊員の背後に迫った。

横転した輸送トラックの座席から地面に投げ出された村西隊員は、
その赤黒い粘液の海から逃げ切れぬ、
またはグズグズしたら他の隊員を呼び戻す事になり、
結果、巻き添えにしてしまうと見たのか、

横転した輸送トラックから地面にぶちまけられた燃料に、愛用のジッポライターを投げ放った。

「 ムラアアアアア!こッ!!このッ!!!この大馬鹿野郎ッ!!!! 」


648 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/10(土) 03:27:00 ID:???

宿営地南側の守備を受持った稲村小隊長が、声も枯れよと叫んだ。
「 小隊長! 駄目です!! 後ろを見ては駄目です!!! 」
「 ぐぐぐッ・・・!!! 」
彼等の指揮官である中道三佐から託された西田三曹の命令伝達により、
総てを投げ打って退避に移った稲村小隊の面々。
しかし、彼等が輸送トラックに分乗して宿営地から脱出するまでに、
もう何人もの隊員が後ろを振り返ったまま呆然とし、飲み込まれていった。
無論、仲間を見捨てて逃げるような腰抜けは存在しなかった。
だが、呆然とする隊員を連れ戻しに戻った隊員も・・・同じ運命を辿った。
「 いったい、ココで!何が!!何が起きているんだッ!!! 」
ガンガンと稲村小隊長の拳にブッ叩かれる輸送トラックの側面ドア。
(  ああ、小隊長、また怒ってやがるな・・! )
横転した輸送トラックから地面に投げ出されて、全身バラバラになりそうだった。
だが、今まさに、
自分の身を案じて激怒している稲村小隊長が目に見えるようで、なぜか・・可笑しい。
火のついたジッポライターが地面にブチまけられた燃料の上で跳ねる金属音がした。
(  行け! 行くんだ!! 後ろを見るな!!! )
全身を、物凄く眩しい何かが包んだような気が・・した。
そして爆炎に包まれながらも仲間たちに向けて敬礼をした村西隊員。
― お前等といて楽しかったよ!・・・行け!!行くんだ!!!
― クソッ! クソッ!! クソッ!!!
時をほぼ同じくして、宿営地の彼方此方で次々に爆炎が上がった。
弾薬と同じく、
中道三佐の指揮の元に分散配置された燃料置き場にまで追い詰められたー
いや、その時までは個々に生き延びていた隊員らが、迫る魔物を道連れにした命の炎柱。

派遣隊員の彼等が日々営々と築きあげた自慢の堅陣の、最後の時であった。


649 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/10(土) 03:28:47 ID:???

その頃。

ガッツ!

中道の小銃の銃床が、

ヨタヨタと、しかし驚くほど素早く迫る魔物の残骸をカチ上げた。

中隊にあって、今だ“ 最強者 ”を誇る中道の格闘術。
それがこんな所で発揮されていた。

後方で閃光が走り、爆音が聞こえてきた。

だが、水の中で格闘するようなスローモーションと、
トップスピードが目まぐるしく交差するこの時間世界の中で、
それを振りかえる余裕は中道には無かった。

戦場に伝えられる、ウソ臭い伝説の数々。
やれ誰某は1人でコレコレこれだけを相手を1度に相手にしただのしないだの。

しかし、こと、この日の中道の働きを見れば、その伝説も有り得たのかもしれない。


650 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/10(土) 03:30:45 ID:???

中道三佐が特別なのか?

― 否。

地位が人を作る。責任が人を作る。

持久力や瞬発力、物理的な力は、富田ら若手のパリパリには及ばない。
しかし、事、柔剣道や徒手格闘に関しては、別だ。

鬼の久重 道房( 元 一等陸佐 )に壊されかけながらも選んだ道。
そして中道は、今も若い隊員に負けじと先頭に立って走る。

たしかに突発的な不正規戦なら富田ら若手の方が強いだろう。
しかし、既に起きてしまった修羅場への対応力は、やはり経験が物を言う。

伊達に数十年、真剣に先頭に立って訓練や演習に励んだ訳ではない。
自分に任された部下を1人でも生きて日本に返すためにっ!

・・・・

・・・・・?

( なんだ?? この視線は??? )

ただただ、富田と林を救出して日本に帰る、の1念に凝り固まった彼。

その中道の背中にベッタリと貼り付いた陰険な視線。

・・・な、なんなんだ????


651 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/10(土) 03:32:59 ID:???

・・・・・?

中道の背中にベッタリと貼り付く、ネバっこい殺意の視線。
それは、どうにも中道の気に触って仕方が無かった。
だが阿修羅と化した中道には余計な疑念まで対応し処理する余裕は無い。
行く手に立ち塞がる死にぞこないドモを正確に払う事以外は、無視した。
・・・・・・
視線が近付いてくる。
街角で視線を感じてフッと振りかえれば、そこに人がいるように、
そのあからさまな視線がジリジリと近付いてくる。
・・・・・・・
だが、所詮、鍛えた中道の脚力について来れる者などそうそういないように、
その視線はやがて、後方に引き離されていった。

( なんだったんだ? あの視線は?? )

そして、その視線は、急に、フッツリと・・途絶えた。
その時、中道は、たまたま左に薙ぎ払った死にぞこないを、
正確に地面に叩きつけるためのフォロースルーで後ろを振り返る程の“ 捻り ”を入れていた。

その時、中道は、見た。

それは人間だった。

しかし、見ただけで発狂するような狂気をたたえた目をした人間であった。

そして“ ソレ ”は、TVの砂嵐の画面の中に掻き消える様に不意に乱れて、消えた。

( 23 時空の狭間から 生き延びて 11 〆 )


22 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M 2007/02/10(土) 23:07:13 ID:shIou1YF

「日本召喚」

01 元自衛官の矜持
02 平成の山荘攻防戦
03 病室を埋めたラブレター
04 空の騎兵隊に向かって走れ
05 聖なる夜の真価

06 悲しみの水面の底で
07 悪魔の証明
08 自衛隊の英雄と、隊員だった頃の大公
09 時空の狭間から 生き延びて 1
10 本当に 大事なもの

初期の 陸上自衛隊の状況
初期の 空自と海自と海保の状況
初期の 農家の状況

お約束(1)
お約束(2)

異世界の空の下で 〜 武士たちの矜持 〜
異世界の空の下で − 血と炎と嵐 2 −


23 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/02/10(土) 23:07:48 ID:???

シモンが言った。

「 主よ、私はどんな事があっても、貴方に付いて行く覚悟です 」

それに答えてイエスは言った。

「 ペテロよ、君に言っておく 」

「 君は鶏が鳴くまでに三度、イエスなんか知らない と言うだろう 」

      − ルカによる福音書 22 −


24 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/02/10(土) 23:08:54 ID:???

「 ぱぱ、はやくかえってきてね 」

何も、知らない娘。

幼児言葉でパパにニッコリと笑いかけてくる。
そんな、あどけない娘を残して、髭の男が旅立って行く。
部下の前でないのなら、抱きしめたまま放したくなかった。

「 パパ、いっちゃヤダ 」

「 御土産買ってくるから・・ 」

火が付いた様に泣きじゃくる息子を、男が笑顔であやしていた。

「 由美子、翼を頼む 」

「 風邪にだけは気をつけてね・・ 」

男が、まだ幼い息子を、愛する妻に託して旅立って行く。
真綿に包まれたように平和な日本から、
国際協力の名の下に、
硝煙の気配漂う第三世界へと派遣されていく、青い帽子の男達。

そんな男達が、

娘を抱いて涙を浮かべていた男を先頭に、成田空港を飛び立っていく。


25 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/02/10(土) 23:09:52 ID:???

「 翔クン、浮気したら絶交だよ? 」

「 わかっているよ・・ 」

目を閉じれば、幼馴染の麻衣の髪や匂いまでが甦ってくる。
麻衣と歩いた公園、麻衣と学んだ図書館、麻衣と過ごした川辺。
・・・あれからもう何年立ってしまったのだろう?

目を開ければ、

日本人では少し引く程、彫り深く、精悍そうな男達。
それが白い目だけをギョロつかせて、
弾層が入ったままの銃を当たり前にぶら下げている、世界。

弱肉強食の世界なんだと、思い知らされた。

1日の終わりともなれば、

闇を深めてゆく紫色の空と、黄金色に埋め尽くされた荒野だけの世界。

・・・ここには、何にもないよ、麻衣・・・。


26 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/02/10(土) 23:10:34 ID:???

「 おい、林、何をボサっとしている! 早くしろ! 」

今日は、朝から正男さん、機嫌悪い・・・。

闇の広がる風上から、埃を含んだ風が吹きつけてくる。
昼は車輌のボンネットの上で目玉焼きが出来るほど熱いくせに、
夜は凍える程、寒い所だった。
鍛えた僕等じゃなきゃ、3日で身体を壊しているに決まっている。

こんな過酷な風土に晒されていれば、誰でも機嫌が悪くなる。
正男さんなんて、1番威勢のいい事言っていたのに。
こんな何も無い世界で、今世紀に入ってなお血で血を洗う彼等。

そんな彼等を張り切って仲裁に来たのだけれど、日本は余りにも無力だった。

「 でもな、林君 」

「 ここに火が付くと、世界はたちまち魔女の釜になってしまうんだよ 」

・・・魔女の釜だなんて、洒落ているよなあ、ウチの親父。

・・・ 偉い人は、やっぱ、違うのかな ・・・。


27 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/02/10(土) 23:12:25 ID:???

林 翔 三等陸尉の頭の中で、

派遣部隊の長・中道三等陸佐の言葉が、グルグルと回っている。

毎日、暑い中で、先任達にどやされながら作業しているせいか、
どうも、頭が上手く回らない。
だから、作業中なのに、麻衣との思い出か、親父の言葉ばかりを考えている。

子煩悩で、家族思いの人となりのせいか、あんまり固い所がない人だった。
僕らにまで娘の写真を見せびらかす所とか、麻衣の親父さんソックリだった。
・・・偉い人の中にも、こんな人がいるんだなあ・・・

迷彩模様の空自のC−130H型から物資を受領、それを
白い車体に「 UN 」の黒が眩しいトラックに、
フォークリフトで積み込む。

そんな所にまで隊本部事務所から出てきて、声をかけてきてたし。

・・・真面目でいい人だよな。ウチの親父。

「 オラ!ボサっとすんな!!! 」

それに比べて正男さんときたら、機嫌が悪いったらなかった。


28 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/02/10(土) 23:13:00 ID:???

・・・はいはいはい、怒鳴らなくてもわかっていますよ。

・・・あじっつ。

額から流れる汗が目に入って、しみる。
砂埃だけでも目が真っ赤だと言うのに。

・・・あれ?

・・・さっきまでは、夕刻だったのに、変だな?

そんな、照りつける日の下での、作業だった。
温度計で計れば、40℃を軽く越えていただろう。
そんな中でも、親父は、気さくに出てきて、声をかけてきた。

「 林君は考え過ぎる所がありますね、もっと気楽でいいんですよ 」

・・・隣で僕よりガチガチになっている正男さんが、どこか可笑しかった。


29 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/02/10(土) 23:14:01 ID:???

そんな環境下で、

機嫌はともかく真面目に作業を続ける先任の 富田 正男 隊員が、

不意に、顔は明後日の方を向きながら、林隊員に向かって両腕を伸ばしてきた。
その伸ばされた両腕は、不自然な程、林隊員に向かって伸びてきた。

「 正男、さん????? 」

林隊員の目の前で、先任の富田隊員の横顔がぐにゃりと歪んだ。
かつ、まるで悪い冗談のように迫ってくる、富田隊員の姿をした、巨腕と鉤爪。
富田隊員のその腕は、何時の間にか林の胴体ほどに太く、盛りあがっていた。

そして、富田隊員の顎が悪い夢の様にバックリと開け放たれて、こちらを向いた。


30 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/02/10(土) 23:15:37 ID:???

林隊員が目を覚ましたのは、ガタガタと揺れる高機動車の上であった。

― 寒い。

そして、真っ暗だった。

林隊員の向かい側に座って紫煙を流していた隊員も、
黒いシルエットしか見えなかった。

― 黒い、シルエット ?

思わず、座ったまま飛びあがる林隊員。

必死で口を手で押さえたから良いもの、後少しで叫んでしまうところだった。
だが、黒いシルエットは、ぐーぐーと寝息を立てているだけであった。
他の隊員も、揺られながら、寝ている。

あんなに鍛えられた自分達が、あんなに脅えていた自分達が、
あんなに憔悴してしまった自分達が、

あんなに虚ろになってしまった自分達が、
何時の間にか、正体もなく眠り込んでいた。

― 寒い。

・・・着の身着のままで逃げ出してきた。

着の身着のままで逃げ出してきたから、寒くて仕方が無い・・。


31 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/02/10(土) 23:16:45 ID:???
「 林、起きているのか 」
「 ― ! 」

「 早く、寝ろ 」
「 す、すみません 」

「 30分したら、起こす 」
「 はい 」

― 冨田先任の声だった。

暗闇の中、不意に、富田先任に声をかけられて、心臓が止まる所だった。

大丈夫、大丈夫、もう、ここはもう、大丈夫。
もう、化け物は、いない。いない。いない。いない。
・・・いないんだ。

もう、偽者の仲間に殺されそうになる事も騙される事も、ない。
言ったじゃないか、あの村の魔法使いが。

・・・富田先任。
富田先任の声、気の毒なほどに生気が無かった。

・・・夢の中では、
いや、あの時までは、怒鳴ってばかりだったのに。

「 林 」「 は、はい! 」

「 寝ろ 」

( 11 時空の狭間から 生き延びて 2 〆 )



616 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/08(木) 02:02:57 ID:???

「日本召喚」>>45

01 元自衛官の矜持
02 平成の山荘攻防戦
03 病室を埋めたラブレター
04 空の騎兵隊に向かって走れ
05 聖なる夜の真価

06 悲しみの水面の底で
07 悪魔の証明
08 自衛隊の英雄と、隊員だった頃の大公
09 時空の狭間から 生き延びて 1
10 本当に 大事なもの

11 時空の狭間から 生き延びて 2ー7
17 少年の前に舞い降りた 神
18 青い空に翻る日の丸を胸に
19 時空の狭間から 生き延びて 8
20 野に吹く夏の風に空き缶の跳ねる音を聞いて

>>485-497
21 時空の狭間から 生き延びて 9


617 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/08(木) 02:06:45 ID:???

「 お客様のお呼び出しを申し上げます・・・ 」

「 ・・ゆき第・・便は・・ 」

・・・?

・・あれ? 何で俺は空港にいるんだ??

ベテラン隊員である岩田ニ曹は、
「 急げ!遅れるな! 」と叫びながら後ろを振り向いたのだ。

だが、岩田ニ曹が後ろを振り向いた途端、
なぜか岩田ニ曹は「 空港に、いた 」
派遣部隊が飛んだ場面では無い。今から故郷の・・に帰る場面だった。

・・・・???????

「 ・・・さん! ・・・さん!! ここです! 遅れますよッ!! 」
??????
― ああ、アレは・・何でアイツがここに?
― ・・・あれ?・・アイツは誰だったっけ?・・・あんな奴い・・

岩田隊員の思考は、そこで止まった。


618 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/08(木) 02:07:45 ID:???

「 い、岩田アアアアッ! 」

当時、岩田ニ曹に1番近い位置にいた伊藤ニ曹は、
仲間思いであった岩田ニ曹の最後をこう証言する。
「 イワは後ろを振り向いた途端、なぜかボゥっと突っ立っちだしたんだよ 」
故国・日本に生還した生き残り組の伊藤ニ曹は当時をそう振り返った。

「 何かに魅入られていた様だった。 」

― 例の、アレか?
「 ああ・・イワには別の世界( アレ )が見えていたんだと思う 」
― 伊藤、御前は( 当時 )何か見なかったのか?
「 トミ( 富田 )や坊や( 林 )が言っていたのは俺も見たよ 」
― そうか、御前もなのか。
「 なんだ、御前の所にも三佐が笑いながら近寄ってきたのか? 」
― 俺の場合は三佐が血塗れで助けを求めてきたんだがな。あ・・続けてくれよ。
「 ああ。だが、な。俺はトミや坊やの様に三佐にゴロニャンしていなかったからな。 」
― 御前ってホンット、へそ曲がりだよな?
「 ぬかせ。その御蔭で俺は死なずにすんだんだ。見ろ、俺の身体を。 」


619 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/08(木) 02:12:32 ID:???

伊藤ニ曹は確かにヘソ曲がりであった。

だが、それゆえに彼は生還した。・・ほぼ無傷で。
口では“ 俺はゴロニャンしていなかったからな ”とは言うが、
彼が三佐の幻影を見たのは彼が三佐に懐いていた動かぬ証拠であった。

岩田ニ曹はその時、故郷に帰る日を指折り数えて楽しみにしていた。
岩田ニ曹はその思いをフトした拍子に周囲に洩らす事があった。だから、
岩田ニ曹が最後に見た光景を知らぬ彼等ではあったが、彼等には、
岩田ニ曹が最後に見た光景をなんとなくではあるが、理解していた。
岩田ニ曹は仲間思いであった。
仲間思いの彼のことである。
故郷に残した両親への慕情は人一倍強かっただろう。

「 自衛隊に入れば免許がとれる 」

地方連絡部にそうスカウトされた彼は、迷い無く自衛隊の門を叩いた。
しかし、新隊員教育の三ヶ月で“ 何か ”に目覚めた彼は、
“ 免許取得 ”よりも、“ 戦闘訓練 ”の多い方へと行ってしまった。
・・・よほど“ 戦闘訓練 ”に向いていたのだろう。

だからこそ、魔物との遭遇という常識を超える事態に見舞われても
自然に“ 殿( しんがり ) ”に立ったのだった。

「 いい奴だった イワにしか出来ない事(殿)だった 」

― ああ。

“ ヘソ曲がり ”伊藤ニ曹の、岩田ニ曹への哀悼であった・・。


620 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/08(木) 02:14:49 ID:???

話は当事に戻る。

― ・・・・!!
― ああっ?! こ、このッ化け物野郎がッ・・・!

木々を縫って逃げ惑う富田隊員と林隊員に迫る“ 死 ”の影。
・・・しつこかった。本当にしつこかった。
銃撃でほぼミンチになっているというのに這いよって来る彼等。
草叢の影から!木々の間から!!這いよって、来る!!!
・・・後ろは見ない。見れない。見てはいけない。
高所での作業の様に、後ろを見れば悪夢に吸い込まれそうだった。

― 三佐は無事なのだろうか???

徒手格闘で( 自分が )遂に勝てなかった三佐の事だから、まさかは無い筈だが。
・・・足が重い。
まるで悪夢の中で、自慢の足が少しも進まぬように。
― はあっっっ!はっ!
・・・駄目だ、なってねえ・・林の奴、パニくって、呼吸が出鱈目になってやがる。
「 しっかりしろ!彼女がいるんだろ!?? 」
そうだ。林には彼女が待っている。死なせる訳にはいかない。
御前は死んじゃいけないんだ。

「 彼女を泣かせたいのか!走れ!!このノロマ!!! 」

富田に“彼女を泣かせたいのか!”と怒鳴られた途端!
ギラリ!と、先程まで泣きべそかきかけていた林の目が、男の目に変わった。

・・・そうだ!その目だッ・・・林ッ・・・!!


621 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/08(木) 02:17:11 ID:???

そして、日本。

・・・・・。

女がベッドの中でタツノオトシゴを見つめている。
真っ暗な部屋と青い光と清水と清らかな砂や珊瑚が彩る世界の中で、
女がアクアリウムの中の“ 正男チャン ”を見つめている。

― つまんない、な・・。

真っ暗な部屋の中で、青い光を受けて青白く照らし出された彼女。
小さく溜息をついた彼女は、ヒョコヒョコと泳ぐ“ 正男チャン ”を、
水槽のガラス越しに、
細くすべらかな人差し指で、ツ、ツー・・となぞっていた。
・・・富田の馴染みの女だった。

― 今日のお客さんはさ、しつこかったんだよ・・

こうしてタツノオトシゴの“ 正男チャン ”に話しかけるのは、もう何日目なのだろう。

― つまんない、な・・。

“ 男の相手 ”という人界の泥水を浴びる事にかけては並ぶもの無き最強の仕事、
“ ソープ嬢 ”。その仕事を生業とする彼女は、しかし心までは汚されはしない。
彼女の部屋の彼方此方に残る富田の匂い。富田の気配。
・・・そう。彼女はその職業にあっても、

ここに移ってきて以来、この部屋に富田以外の男を上げた事は1度も無かった。


622 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/08(木) 02:25:47 ID:???

彼女がこの世界に転落した理由は、昔も今も良くある話だった。
両親の別れ。そして再婚。ロクでもない男にあたった。
そして彼女は養父に襲われた後、家を飛び出した。
・・・後は言うまでも無い。
経済力ある家に恵まれたハンパ者は安易に他人を笑うが、
果たしてその笑う者が、その笑う対象と同じ立場に立った時、
ドレほどの状況を手に入れられるかどうかは疑問だ。

そして彼女はお約束の如く最底辺に巣食う乱暴者にとり憑かれた。
天使の様に人が良すぎた彼女が悪い男にとり憑かれるのに、たいした時間もかからなかった。
もっとも、この世界に落ちる娘達の多くがそうなのであるが・・・。

そして、ある日突然、転機は訪れた。

稼ぎが足りないと殴られた彼女を助けに入った逞しい男。
それが富田だった。
男という男を真から憎悪した彼女に突然舞い降りた奇跡。

「 女に手をあげるんじゃねえッ!!! 」

彼女に青アザと借金しか与えなかった男が、鞠の様にブッ飛ばされていった。


623 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/08(木) 02:28:03 ID:???

男は女を知らなかった。

男は女が殴られていた時、故郷の母を反射的に思い出していたと言う。
「 オヤジはクソだった 」
女を抱いた後、いや、女に抱かれた後、男はそう、ポツリと呟いた。
早く母を楽にさせてやりたくて、自衛隊の門を叩いたのだと言った。
苦しみの多い家に育ち、将来の見えなかった彼には、
彼の高校にやってきた地方連絡部のスカウトが神の様に見えた事だろう。
「 そうか、そうか。なら自衛隊に来るんだ!すぐに母さんを楽にさせてやれるぞ! 」

― 俺は感謝している。

女の前では口数の少ない富田がやっとで喋った、誰にも語らぬ“ 思い ”。

― つらかったんだね。

女が、女を初めて抱いた男の背を抱きしめた。
最底辺の乱暴者を鞠の様にブッ飛ばした男が女の胸の中で子供の様に泣いた。

・・・富田と女の逢瀬の日々が、始まった・・・。


624 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/08(木) 02:30:04 ID:???

― ソープなんかやめろよ。俺が食わしてやるから。

父親が粗暴だったために、女にかける優しい言葉など知らない富田の、精一杯の告白。

― 駄目よ 何言っているの。

( 汚れた私が貴方のお嫁さんになるなんて、無理よ )

― それより、私の部屋に来る?
― いや、駄目だ。
― ええ・・私は来て欲しいのにな。
― 御前、借金がメチャメチャあるんだろう? 俺が全部払ってやる。 だから他のお・・
― めっ。デリカシーなさすぎだゾ。
― ・・・・・。

女の細い、すべらかな人差し指が、富田の唇を遮(さえぎ)った。

最底辺の乱暴者を鞠の様にブッ飛ばした男が、女の細くすべらかな指に、何もできなかった。

( 22 時空の狭間から 生き延びて 10 〆 )



646 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/10(土) 03:21:44 ID:???

「日本召喚」>>45

01 元自衛官の矜持
02 平成の山荘攻防戦
03 病室を埋めたラブレター
04 空の騎兵隊に向かって走れ
05 聖なる夜の真価

06 悲しみの水面の底で
07 悪魔の証明
08 自衛隊の英雄と、隊員だった頃の大公
09 時空の狭間から 生き延びて 1
10 本当に 大事なもの

11 時空の狭間から 生き延びて 2ー7
17 少年の前に舞い降りた 神
18 青い空に翻る日の丸を胸に
19 時空の狭間から 生き延びて 8
20 野に吹く夏の風に空き缶の跳ねる音を聞いて
21 時空の狭間から 生き延びて 9

>>617-624
22 時空の狭間から 生き延びて 10


647 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/10(土) 03:22:38 ID:???

そして話は、戦地に戻る。

中道隊の宿営地南側で、巨大な爆炎が上がった。
それは重症を負った隊員が魔物達を道連れにした魂の爆発だった。
「 ムラアアアアアアア! 」
― 行け!
中道隊の宿営地南側。そこは、稲村小隊が守備する方面であった。
その守備線から離れる事数百メートルの地点で、輸送トラックがひっくり返った。
中道の指揮により林ら若い隊員らが必死に運び込んだ膨大な缶詰類や医薬品、
予備燃料等などが、勢いよく地面へとぶちまけられ、方々に散乱していった。
― お前等といて楽しかったよ! 行け!! 行くんだ!!!
・・・ゾゾゾゾゾゾ!!!・・・と、表現するしかない肉塊の波が村西隊員に迫る。
既に息絶えた派遣隊員1人1人の命と引き換えに手足や形態を破砕された魔物らは、
遠目には・・・押し寄せる粘液の海のようにも見えた。
そう、粘液の海だった。
手足が無いくせに、人が駆け足する程の速度で迫る赤黒い津波。
その悪意ある死の津波が、村西隊員の背後に迫った。

横転した輸送トラックの座席から地面に投げ出された村西隊員は、
その赤黒い粘液の海から逃げ切れぬ、
またはグズグズしたら他の隊員を呼び戻す事になり、
結果、巻き添えにしてしまうと見たのか、

横転した輸送トラックから地面にぶちまけられた燃料に、愛用のジッポライターを投げ放った。

「 ムラアアアアア!こッ!!このッ!!!この大馬鹿野郎ッ!!!! 」


648 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/10(土) 03:27:00 ID:???

宿営地南側の守備を受持った稲村小隊長が、声も枯れよと叫んだ。
「 小隊長! 駄目です!! 後ろを見ては駄目です!!! 」
「 ぐぐぐッ・・・!!! 」
彼等の指揮官である中道三佐から託された西田三曹の命令伝達により、
総てを投げ打って退避に移った稲村小隊の面々。
しかし、彼等が輸送トラックに分乗して宿営地から脱出するまでに、
もう何人もの隊員が後ろを振り返ったまま呆然とし、飲み込まれていった。
無論、仲間を見捨てて逃げるような腰抜けは存在しなかった。
だが、呆然とする隊員を連れ戻しに戻った隊員も・・・同じ運命を辿った。
「 いったい、ココで!何が!!何が起きているんだッ!!! 」
ガンガンと稲村小隊長の拳にブッ叩かれる輸送トラックの側面ドア。
(  ああ、小隊長、また怒ってやがるな・・! )
横転した輸送トラックから地面に投げ出されて、全身バラバラになりそうだった。
だが、今まさに、
自分の身を案じて激怒している稲村小隊長が目に見えるようで、なぜか・・可笑しい。
火のついたジッポライターが地面にブチまけられた燃料の上で跳ねる金属音がした。
(  行け! 行くんだ!! 後ろを見るな!!! )
全身を、物凄く眩しい何かが包んだような気が・・した。
そして爆炎に包まれながらも仲間たちに向けて敬礼をした村西隊員。
― お前等といて楽しかったよ!・・・行け!!行くんだ!!!
― クソッ! クソッ!! クソッ!!!
時をほぼ同じくして、宿営地の彼方此方で次々に爆炎が上がった。
弾薬と同じく、
中道三佐の指揮の元に分散配置された燃料置き場にまで追い詰められたー
いや、その時までは個々に生き延びていた隊員らが、迫る魔物を道連れにした命の炎柱。

派遣隊員の彼等が日々営々と築きあげた自慢の堅陣の、最後の時であった。


649 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/10(土) 03:28:47 ID:???

その頃。

ガッツ!

中道の小銃の銃床が、

ヨタヨタと、しかし驚くほど素早く迫る魔物の残骸をカチ上げた。

中隊にあって、今だ“ 最強者 ”を誇る中道の格闘術。
それがこんな所で発揮されていた。

後方で閃光が走り、爆音が聞こえてきた。

だが、水の中で格闘するようなスローモーションと、
トップスピードが目まぐるしく交差するこの時間世界の中で、
それを振りかえる余裕は中道には無かった。

戦場に伝えられる、ウソ臭い伝説の数々。
やれ誰某は1人でコレコレこれだけを相手を1度に相手にしただのしないだの。

しかし、こと、この日の中道の働きを見れば、その伝説も有り得たのかもしれない。


650 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/10(土) 03:30:45 ID:???

中道三佐が特別なのか?

― 否。

地位が人を作る。責任が人を作る。

持久力や瞬発力、物理的な力は、富田ら若手のパリパリには及ばない。
しかし、事、柔剣道や徒手格闘に関しては、別だ。

鬼の久重 道房( 元 一等陸佐 )に壊されかけながらも選んだ道。
そして中道は、今も若い隊員に負けじと先頭に立って走る。

たしかに突発的な不正規戦なら富田ら若手の方が強いだろう。
しかし、既に起きてしまった修羅場への対応力は、やはり経験が物を言う。

伊達に数十年、真剣に先頭に立って訓練や演習に励んだ訳ではない。
自分に任された部下を1人でも生きて日本に返すためにっ!

・・・・

・・・・・?

( なんだ?? この視線は??? )

ただただ、富田と林を救出して日本に帰る、の1念に凝り固まった彼。

その中道の背中にベッタリと貼り付いた陰険な視線。

・・・な、なんなんだ????


651 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/10(土) 03:32:59 ID:???

・・・・・?

中道の背中にベッタリと貼り付く、ネバっこい殺意の視線。
それは、どうにも中道の気に触って仕方が無かった。
だが阿修羅と化した中道には余計な疑念まで対応し処理する余裕は無い。
行く手に立ち塞がる死にぞこないドモを正確に払う事以外は、無視した。
・・・・・・
視線が近付いてくる。
街角で視線を感じてフッと振りかえれば、そこに人がいるように、
そのあからさまな視線がジリジリと近付いてくる。
・・・・・・・
だが、所詮、鍛えた中道の脚力について来れる者などそうそういないように、
その視線はやがて、後方に引き離されていった。

( なんだったんだ? あの視線は?? )

そして、その視線は、急に、フッツリと・・途絶えた。
その時、中道は、たまたま左に薙ぎ払った死にぞこないを、
正確に地面に叩きつけるためのフォロースルーで後ろを振り返る程の“ 捻り ”を入れていた。

その時、中道は、見た。

それは人間だった。

しかし、見ただけで発狂するような狂気をたたえた目をした人間であった。

そして“ ソレ ”は、TVの砂嵐の画面の中に掻き消える様に不意に乱れて、消えた。

( 23 時空の狭間から 生き延びて 11 〆 )




675 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/11(日) 03:37:16 ID:???

「日本召喚」>>45

01 元自衛官の矜持
02 平成の山荘攻防戦
03 病室を埋めたラブレター
04 空の騎兵隊に向かって走れ
05 聖なる夜の真価

06 悲しみの水面の底で
07 悪魔の証明
08 自衛隊の英雄と、隊員だった頃の大公
09 時空の狭間から 生き延びて 1
10 本当に 大事なもの

11 時空の狭間から 生き延びて 2― 7
17 少年の前に舞い降りた 神
18 青い空に翻る日の丸を胸に
19 時空の狭間から 生き延びて 8
20 野に吹く夏の風に空き缶の跳ねる音を聞いて

21 時空の狭間から 生き延びて 9―11(23)


676 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/11(日) 03:37:56 ID:???

それは置き。

中道が1人、孤独な戦いを続けている時。
人が代わった様に目がギラついた林に、富田は希望の光を見ていた。
だが状況は以前、地獄の釜の中で飛び跳ねている魚も同然だった。
― !
偶然、林の背後に目がいった。そう、まさしく“ 偶然 ”だった。
その偶然の一瞬、“ 何かが ”富田の反射神経に感応した。
考えるより先に89式銃剣が差し出された。
そして片腕は掴まえている林の身体を沈める具合に動いていた。
89式銃剣が今まさに林隊員の頭があった部分に差し出された。
同時に、89式小銃が富田の手からもぎ取られるほどの衝撃が走った。
― ギャリッンンンンッ!
中隊1のパリパリの富田の目が、これ以上に無いほど見開かれた。
― !
一瞬置いて富田隊員の手から弾き落とされた89式小銃が音を立てて地面に跳ねた。

そして89式小銃が地面に落ちたのと同時に、小銃から3m先の地点に、
全身を血に染まった服で覆った男が着地した。
富田は本能で直感した。― “ 人ではない ”、と。

全身朱に染まったソレは、地面に着地すると同時に、そのままの姿勢で再び飛び跳ねてきた。
― やられる
富田は自分の首が跳ねられる映像を見た気がした。

しかし、左目の視界の端の端で、3点バーストのマズルファイヤの閃光が炸裂するのが先だった。


677 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/11(日) 03:39:52 ID:???

全身朱に染まったソレが、背中を向けたままの姿勢で跳ねてきた。
・・・ソレは、恐るべき速度だった。
ソレとほぼ同時に地面に弾き落とされた89式小銃が、
まだ“ 地面に叩きつけられ、空中に弾き跳び始めた映像 ”だと言うのに。
― やられる
富田は、自分の首が跳ね飛ばされた映像を見たような気がした。
その全身を血で濡れた衣服をまとった男。
― なぜか男だと直感した ― が、
その右腕に逆手に握っている禍禍しく光る短剣。
それが正確に自分の首を薙ぐラインを描いていた。
・・・不思議と、焦りも恐怖も無かった。富田はこの時、
人が死ぬ時に見ると言う走馬灯というやつが理解できたような気がした。
そして富田は、自身の左目の視界の端の端で、
89式の3点バースト・マズルファイアの閃光が炸裂するのを見た。
空中をこちらに向けて跳ね飛んでくる赤黒いソレが1瞬だけ空中で制止した。
― 富田にはその1瞬だけで十分だった。
ほんの30cmだけ、頭部を左に飛ばす事が出来た。
とほぼ同時に富田の右首を薄く切り裂いてゆく死神の剣筋。
― 不味い
林を引き摺っていた左手を離して、林隊員の後方へと身をよじる富田隊員。
同時に機械仕掛けのように敵を追って旋回してくる林隊員の89式小銃の銃口。


678 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/11(日) 03:42:21 ID:???

空中で正確に3度、身震いをした気がしたソレ。
後に、自衛隊の数多の隊員の首を跳ね飛ばし、
前線部隊の隊員達を恐怖のドン底に叩き落す恐怖の存在の1つ。
バランスを崩しながら林の後方に倒れ込む富田。
再び閃光を放つ林隊員の89式小銃。そしてまた正確に3度身震いしたターゲット。
しかしソレは、何時の間にか“ 死にぞこない ”にすり替わっていた。
そして2人の前に崩れ落ちてくる死にぞこないを、
富田隊員の戦闘靴が逆方向へと蹴り飛ばした。
富田隊員は林隊員をかばって首をハネ飛ばされかけたというのに、
全身を血に染めたあの敵は、味方?を身代わりにして姿を消した。
しかし。
死にぞこないが倒れると同時に飛んできた手裏剣。
根元近くまで木に刺さった。1、2、3、4・・5本。
偶然か?それは林隊員の眉間・鼻・口・喉・心臓と同じ高さに刺さっていた。
林隊員の右腕数ミリ横に刺さった5本の短剣はしかし、次は無かった。
ドシャリ。
富田隊員の戦闘靴で蹴倒された死にぞこないが地面に倒れた。

そこへ再び放たれる3点バーストのマズルファイヤ。

地面の上で“ 死にぞこない ”が、また正確に3度、身震いした。


679 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/11(日) 03:45:50 ID:???

その間に態勢を立て直した冨田は、自身の89式小銃を拾って走り出した。

「 行くぞ! 」「 ハイッ! 」( 林・・・御前!! )

女の子の様な顔をしていた林だった。
それが今やベテラン隊員顔負けの精悍な表情になっていた。
( 生き残れるかもしれん! )
身体の奥底から湧きあがる希望。そして富田隊員はようやく思い出した。
( そうだ!!コイツは、射撃だけはド偉く天才的だったんだ! )、と。
そう。林はもともと眼鏡をつけていた“ 学士殿 ”だったのだ。
だが“ ある愛称 ”に耐えかねて眼鏡を捨てた。

その、林隊員が眼鏡を捨てる前の愛称は・・“ のび太 ”

林隊員は体力が無く、徒手格闘や銃剣術となるとまるで駄目だった。
それを見た“ 口は悪いが心は優しいベテランの1人 ”が、
女の子のような顔をした林が、変な仇名をつけてイジめられないうちに、と
名付けてくれた愛称だった。( とんだ親の心子知らずになったが )

だがしかしソレは、この致命の状況にあって、

絶望の淵を覗き続けていた富田隊員に、望外の希望をもたらしたのだった。

( 24 時空の狭間から 生き延びて 12 〆 )





845 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/19(月) 04:47:42 ID:???

「日本召喚」>>45

01 元自衛官の矜持
02 平成の山荘攻防戦
03 病室を埋めたラブレター
04 空の騎兵隊に向かって走れ
05 聖なる夜の真価

06 悲しみの水面の底で
07 悪魔の証明
08 自衛隊の英雄と、隊員だった頃の大公
09 時空の狭間から 生き延びて 1
10 本当に 大事なもの

11 時空の狭間から 生き延びて 2― 7
17 少年の前に舞い降りた 神
18 青い空に翻る日の丸を胸に
19 時空の狭間から 生き延びて 8
20 野に吹く夏の風に空き缶の跳ねる音を聞いて

21 時空の狭間から 生き延びて 9―11(23)

>>676-679 24 時空の狭間から 生き延びて 12


846 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/19(月) 04:48:31 ID:???

「 お兄ちゃんが出来てよかったわね 」

勝也があの婦人自衛官から微笑みかけられたのは、
それからまた数日後の事だった。

伝え聞く話では、勝也達を襲った妖魔は、
市街地からは完全に駆除されたらしい。
今までその存在を朧にしか認識していなかった勝也が知る、
“ 自衛隊の強さ ”であった。

「 アンタラ、ヒトゴロシノクンレンヲ、シテイルンダロ? 」

警察関係の特殊部隊がすらその手の忌避を受ける国、日本。
その彼等が真価を発揮してしまった不幸な時代。そこで、
その彼等が立ち向かう相手と、立ち向かった彼等の強さを身体で知った人々。

そう。

今までの勝也たちにとって“ 自衛隊 ”とは、
“ 小説やゲームの世界の住人 ”でしかなかった。
その彼等が、彼等を「 ヒトゴロシ 」と忌避する人々を救い守った。

冬の原野で「 これじゃクルシミマスだぜ 」と、震えていた彼等、が。


847 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/19(月) 04:49:38 ID:???

避難所で出される茶は熱かった。

空は相変わらずドンヨリとした1月の空だった。
灰色の雲が流れ出す彼方から舞い降りてくる正月の雪。
勝也は、その美しい婦人自衛官から童女を引きとって側に置いた。
いずれ行政側かNPOによって孤児達を総て管理する機構が生まれるだろう。
だが今はその余裕も無かった。

“ 死体が襲いかかってきた ”

“ 人間とは思えぬ化け物が走っていた ”

市民達が見た“ この異界の市街戦 ”は、都市を舞台にしたパニック映画そのままだった。
だから今も市街で警備につく警察機構も、鎮圧に回る自衛官たちも、
文字通り“ 血 眼 ”が常態であった。
中には空に舞うスーパーのビニール袋にも発砲した者がいるらしい。
それも無理は無かった。最初のインパクトの心理的影響を思うのなら、
異常心理下の彼等の心臓を鷲掴みする怪音を立てながら夜中に舞う、
白や半透明のビニール袋は、文字通りの妖魔に見え恐怖した事だろう。
公式には“ 市街地からは害獣を駆除しました ”とされたが、

実際に現場に立つ者は、ゴーストタウンと化した街路に転がる紙袋にすら、発砲する状況だった。


848 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/19(月) 04:56:47 ID:???

その避難所をTVで見ていた家主は呟いた。

「 これでキメラやマンティアコアまでいたら、どうなる事やら 」

今のところ、この混乱は単なる自然発生の結果によるモノであった。
だがこれが軍事関係者の手のなるものなら、今が主力の投入時であった。

「 ・・・電話してやったらどうだ? 」

身体を鍛える事とフィールドワーク以外には興味がなさそうな斎藤が、
家主に両足を掌握させておいて、驚異的な腹筋運動をかましている。
高い木にでも登って勝手にブラ下がって腹筋してくれてりゃ楽でイイのだが、
斎藤の緻密な筋肉の重量を思うと樹木虐待というか環境破壊も甚だしい。
かといって公園のブランコや橋の欄干にブラ下がられても目だってx2仕方が無い。
同様の理由でスポーツ・ジムもダメだ。

・・・まあコレも、相棒の仕事のウチだろう。

「 まさか。ズブの素人がプロ中のプロに意見するほど耄碌しちゃいねえYO 」

「 ははっ、そうだな 」斎藤が破顔して答える。

・・・そして天上がギシギシと悲鳴を上げた。

家主の握力だけでは斎藤を掌握できる訳が無いのだから当然だが、やれやれ。
で、天上から延びた数本のヒモが斎藤の腰に腹に巻きついているのだが・・。

そのいずれもが“ ビーン、ビーン ”と天上に負けずに悲鳴を上げている。

・・・天井、抜け落ちねえよな???


849 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/19(月) 05:00:07 ID:???

それをポカンと見ているエルフの皆様。

そういや妙齢の子の方は古典銀幕の花・オードリーに、少し似ている。

彼女よりは多少日本人男性が好みにする造詣で、
( まんまオードリーの方が女性受けはいいのにね )
彼女のとがり耳より少し長めに尖りめ。

その彼女等にとって、この鍛錬の化身は、今まで見たどんな生物よりも奇妙な事だろうて。

「 なあ、斎藤 」「 ? 」「 俺ら、国を出ようか? 」

家主の問いに、斎藤は“ それがいいんじゃねえの? ”と、迷いも無い。

元々、外国でも平気に立ちまわってきた男。

家主としては貯め込んだ古本を破棄するのは残念だが、
この様子だと戒厳令もどきが発動されるのも近いだろう。

その場合、彼女等がこの日本でどういう運命を辿るのか、自信が無い。

日本のことだから彼女等に無茶な事はしないと思う。だが、
彼女等の故郷は、もう、この国には、何所にも、無い、だろう。

彼女等の幸せを真に思うなら、まだ故郷のある俺らが、何かを考えてやらねば。
・・・そういや、海好きのあの人は元気だろうか。

海上の事で頼める人といったらアノ人位しかイネ―し。


850 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/19(月) 05:01:42 ID:???

で、避難所。

勝也が面倒を見ている童女はというと、
勝也の側に立った婦人自衛官に「 おねえちゃん 」と、実の妹の様になついていた。
それに「 なあに?春奈ちゃん 」と、童女の目の高さでにっこりと微笑む婦人自衛官。
被災民の諸事の世話など色々と大変だろうに、彼女の笑顔には些かの乱れも無い。
国家認定の“ 戦争の専門家 ”として日々生活を律していたのだとしても、
被災民の100人1000人総てに同じ笑顔で笑いかけ続けるその無限の奇跡は、
今だ少年の尻尾を残す勝也が目眩を起こすほどの“ 大人の女性の眩しさ ”であった。

“ ・・・・・・・ ”

何所かで銃の乱射音が響き渡った。
だが幸い、それは童女の耳に入ることは無かった。
その時、婦人自衛官の耳がピクリと動いたのを勝也は見逃さなかった。
だが婦人自衛官の彼女には、いささかの乱れも無い。
相変わらず童女を同じ目線であやし続けるその笑顔のこぼれる様な眩しさ。

知らず、何度目かの目眩を覚えた勝也は、その動揺を隠すのがやっとだった。

その間にも、銃の乱射音は続いていた。余程注意深い者にしか気付かれない微かな音で。


851 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/19(月) 05:03:42 ID:???

1発の銃声が響いた。

89式小銃が持ち主の足のつま先に噛みつこうとした者の眉間を、
ただの1発で正確にブチ抜いた。
そして後続の者の放つ3点バーストが零距離でターゲットを粉砕した。
割れたスイカの様になったソレ。
血飛沫や脳漿を浴びて、怪物じみた顔になった精悍な男達。

― こんどこそ、死んだか?

もう1度、油断なく戦闘靴でガンガンと蹴っ飛ばす隊員たち。
が、“ ソレ ”が、隊員たちの足に食らいつこうとする事は2度と無かった。

これでもう何体目だろうか。

隊員たちが血の海に沈むソレを、再び血の海に沈めてやる。
ゲームの世界ならよかった。
餓鬼どもが勝手に興奮して延々と嬉々として遊ぶソレなら。

だが、人の姿をしたソレを、自らの手で粉砕するこのおぞましさ。


852 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/19(月) 05:07:13 ID:???

― この臭い、とれるんスかね ??

― 聞くな。・・・胸糞悪い。

( おそらく、1生、鼻につくだろうな )と、煙草に火をつけながら思った。

返り血と脳漿でドロドロになった隊員たち。
こんな事なら、泥に塗れ、薮蚊を相手に舌打ちしている演習のがマシだ。
だが、国家から正式に認められた、彼等にしか許されぬ崇高な任務だった。
だからその矜持を胸に、彼等だけで、この任務を遂行するしかなかった。

― こんな糞な事こそ、あの娑婆の糞どもにやらしてやればいいものを。
― ぼやくな。あの餓鬼どもに本物を握らしてみろ?
― 戦争ごっこ宜しく嬉々とはしゃぎだすんだぞ?そんな奴らにお前、耐えられるか??
― それはイヤっすね。あの気狂い連中を喜ばすのだけはイヤっすね。
― そうだろ?だから“ コレ ”は、俺達生粋のプロにだけ許される事なんだよ。

そう言いながら彼等の班長は、ツカツカと“ スイカ頭 ”に近づくと、
その吸いかけた煙草を、“ スイカ頭 ”の顎の中にそっと押し込んでやった。
その“ スイカ頭 ”の背広からは、煙草の匂いが数メートル先からも匂ってきた。
恐らく生前は極度のヘビースモーカーだったのだろう。

― ブチ抜いてスマンかったな。せめてコレでも吸ってくれよ。

線香のように垂直に立ち昇る紫煙。それに向かって黙祷する彼等の班長。

煙草の火は、血の海に浸かって、スグに消えた。

( 25 時空の狭間から 生き延びて 13 〆 )




892 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/26(月) 03:37:56 ID:???

「日本召喚」>>45

01 元自衛官の矜持
02 平成の山荘攻防戦
03 病室を埋めたラブレター
04 空の騎兵隊に向かって走れ
05 聖なる夜の真価

06 悲しみの水面の底で
07 悪魔の証明
08 自衛隊の英雄と、隊員だった頃の大公
09 時空の狭間から 生き延びて 1
10 本当に 大事なもの

11 時空の狭間から 生き延びて 2― 7
17 少年の前に舞い降りた 神
18 青い空に翻る日の丸を胸に
19 時空の狭間から 生き延びて 8
20 野に吹く夏の風に空き缶の跳ねる音を聞いて

21 時空の狭間から 生き延びて 9―13(25)


893 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/26(月) 03:41:54 ID:???

斎藤と家主が元自衛隊で、今は海の男になった男と接触したのは、

1月の南国にしては珍しい快晴の日の事であった。

潮の匂いがする海辺で1月の凍える風を背にした男は、
照りつける日を背後にした斉藤と家主の前に立ち、手を振っていた。

全身黒く日に焼け、白い歯が眩しい。

そう、男は、どこからどうみても海の男だった。
だが、その動きそのものは、機敏第一の自衛隊のソレであった。

家主が、自衛隊を辞めて南国にやって来た彼と仕事をしていた時もそうだった。
何事にも全力で走ってゆく、そんな男だった。

「 やあ、正宗さん 」
家主が親しげに声をかけると、“ 正宗さん ”と呼ばれた男が、
「 スマン、返金はまってくれ 」と、
イタズラ少年が手を上げる事だけは絶対にしない母親にだけは困って見せるような、

そんな憎めない笑顔で笑った。

煙草が好きな男だった。
別れた妻を何時までも思っているような古風な純情男だった。

仕事の合間合間、ずっと別れた妻への歌を歌っていた男だった。

たった1つの歌だけを。


894 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/26(月) 03:46:41 ID:???

「 金はどうでもいいですよ。それよか相談があるんですが 」

実際、金のことはどうでもいい。

“ 金は ”では笑っていた家主が、“ 相談 ”では深刻な顔をした事と、
関係者には人目でその筋の男とわかる斎藤が家主の背後に立った事で、
彼は敏感にも自分にもたらされようとする難問の具合を悟った。

“ スマン、返金はまってくれ ”
家主が金の催促に来る事など無い事を承知の上での本音まじりの冗談だった。
そんな永遠に頼り無しの家主が突然彼を訪ねてきて深刻な顔をしているのである。
家主が尋常ならざる案件で彼の力を必要としているのは聞くまでも無い事だった。

「 難問なんだな?わかった。話してくれ。俺で出来る事は何でもしよう 」

彼は迷い無く応じてくれた。
その彼の迷いの無い決断に無言で頷く家主。
だが・・その、肩や腕がブルブルと震える癖が直っていないのを見て、
家主は彼が今だ非常に困難な状況にある事を悟った。

もともと、
妻への歌を歌っている時以外は、始終ピリピリしていた男であった。
だがソレは、責任重大な部署にいた自衛隊員の性というより、

娑婆で受けた色々な事情ゆえのことだろう。

営内と外の世界はリズムも価値観も全然違う。

営内では当たり前だった動作や受け答え、待ち姿勢等々で、
骨身に染みる目に会う事がたびたびあったのは、想像に固くない。


895 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/26(月) 03:52:37 ID:???

まして借金を背負った者がどう変貌を遂げるかは、
金融に追われた経歴のある家主には、イヤと言う程、承知のことだった。

家主の背後の斎藤も正宗氏の苦労について敏感に察知したらしい。
家主は正宗氏の事についてはナンの情報も斎藤に与えていない。
それは男同士の流儀。
話さなくても会えば解かるし、解からなくても時期がこれば解かる。
そして斎藤は彼にしては珍しく同情の念を顔に出して、ひっそりと沈黙した。
強い男にありがちだが、
斎藤も在職中に得た金は、友人らに貸してスッカラカンだった。
家主は知らなかったが、正宗氏が家主に見せた苦笑は、斎藤が病身の母に見せた苦笑と同じだった。
“ 無関心 ”を装う男の優しさの化身じみた斉藤が、
人の目にも明らかに同情の念を見せるのは、無理のない事であった。
・・・もっとも、
斉藤の見せた表情の理由について家主が知るのは、大分後のことであったが。

・・・こうして、斎藤と家主が正宗氏にあって数日後、
3人はエルフの1族を正宗氏の船に乗せて、大陸へと旅立って行った。

・・・途中、幾つかの騒動があったが、
自衛隊を辞めた後、海外にまで出かけた斎藤が一緒なので問題は無かった。

実際、家主は、斎藤が素手の喧嘩に負けた所を見た事が無かった。

出会いの日に斎藤が街角の筋の者に簀巻きにされて地面にノビていた時も、
彼は無抵抗のままであったし、
簀巻きにされて地面にノビていたというのに、
家主の差し出したケーキを平然と食らい、タバコの煙を流していた。

そんな男が一緒であった。


896 翡翠(星砂) ◆F1KoBsy57M sage 2007/03/26(月) 03:57:29 ID:???

一方。

斎藤と家主が正宗氏の船で大陸に渡っていた頃。

海外派遣組の生き残りはそれぞれの各地で、
先住民とのファーストインパクトに悩まされていた。

「 御前達は、何者だ? 」
「 自衛隊だ 」「 自衛隊だよ! 」「 何者って、自衛隊だが?? 」

乾いた血と泥だらけの迷彩服を着込んだ壮絶な顔の自衛隊の面々と、
交渉役の魔法使いとの間に繰り広げられる深刻な問答。

実際、問答1つ間違えたたがために、遂に日本に帰って来れなかった自衛官の数は・・・。

・・・状況は、実に深刻であった。

「 世界が割れた日の後に呪われた地からやってきった御前達は、神か?悪魔か? 」
「 だから、俺達は自衛隊だ 」「 自衛隊は自衛隊だよ! 」「 ・・・馬鹿? 」

― 神か悪魔だって???

「 そうだ。御前達は神か?悪魔か? 」

( 26 時空の狭間から 生き延びて 14 〆 )





66 名前: 翡翠(星砂) ◆X9uEcr1WoA [sage] 投稿日: 2007/06/18(月) 04:44:28 ID:???

「 生きているかね? 」

斎藤の顔を覗きこむ顔があった。

( … 俺は音威子府の戦いで死んだ筈 … )

しかし、日差しの中の顔は、地獄の鬼の顔でも天使の顔でもなかった。

( … 俺の部下達は …? )普通の男の顔…であった。

「 ケーキを食うかね? それとも葡萄酒を1杯やるかね? 」

男は左手に葡萄酒を、右手に特大のケーキを持っていた。

67 名前: 翡翠(星砂) ◆X9uEcr1WoA [sage] 投稿日: 2007/06/18(月) 04:47:19 ID:???

男の差し出す特大のケーキは、旨かった。

…以前、同じような光景を経験したような気がした。

斎藤は特大のケーキを食しきった後、男に質問した。
「 俺の部下達は何所に居る 」

男は立ちあがり、背を向けて答えた。
曰く「 死んだよ 」と。

男の話を信じるのなら部下達は道民を守って死んだらしい。
「 道民の娘がヤラレかかっていてね 」

部下達はその娘を守って死んだらしい。
「 彼等は言っていたよ 」

男は斎藤の側に座りながら、彼の部下達の最期の言葉を伝えた。
「 隊長は音威子府で戦車を屠ったんです 」

「 だから必ず生かして帰して下さい 」

そう言っていたんだよ、と、空を見上げながら答えた。

68 名前: 翡翠(星砂) ◆X9uEcr1WoA [sage] 投稿日: 2007/06/18(月) 05:05:11 ID:???

男は振り返って、座りなおしてから、言った。

「 私は、道民の娘を守って死んだ自衛官達の思いを、引き継がねばならない 」と。

だから「 御前さんが例え何者であったろうと知ったこっちゃないね 」と。
だから「 貴方を必ず生かして帰す 」と。

男が斎藤を見つめるその目には、斎藤の瞳しか映っていなかった。
斎藤の血塗れの化粧も迷彩服も弾帯も鉄帽も、意に介していなかった。

男は、痛みで身動きの取れぬ斎藤をガラス細工でも扱うように、そっと、そっと支え、
「 これは死んだ自衛官達の意思 」なのだと言って、
戦地では貴重品である医薬品を惜しげもなく傷口にすりこんでいった。

そして「 眠ってください 」と。

「 貴方は音威子府の戦いで戦車砲に吹き飛ばされて 」
斎藤を見つめながら男がフッと微笑んだ。
「 今の今まで意識不明の状態にあったんですから 」
「 何時死ぬか、今死ぬかとハラハラしていたのに 」
「 守っていたんでしょうなあ…貴方の部下たちが 」

斎藤は北海道の空に仰向けで正対しながら涙した。

泣きを知らない男が、涙を流していた。

69 名前: 翡翠(星砂) ◆X9uEcr1WoA [sage] 投稿日: 2007/06/18(月) 05:28:07 ID:???
夜。

満天の星空だった。

男はヒグマの襲撃を恐れる様子も無く、側に座ったままの体勢で寝ていた。
声をかけてみると、アッサリ目を覚まして、やあ、と笑った。
「 ヒグマは怖くないのか? 」と聞いてみると、
「 マトモな熊なら皆、逃げちまっているでしょう 」と。
「 空爆が酷いですし、方々で砲弾も飛び交っていますしね 」
男は笑いながら言った。
「 こんな地獄に残っているのは人間だけですよ 」
…なるほど、理屈である。
「 むしろダニやノミが怖いですよ…熊笹の中にいたのでしょ? 」

冷静に周りを見回す…寝かされているのは…軽トラの荷台、か。
夜の北海道…軽トラックの荷台の上は…寒かった。
斎藤が小刻みに震えるのに気付いた男は、
手持ちのありったけの衣服を被せながら詫びた。
「 毛布で寝床も作りたかったけど…我慢して下さいね 」

言われるまでもなかった。
毛布など気の利いたものは、斎藤が被せられている1枚きりであろう。
そして慌てて被せられた衣服は…空爆でも受けたのか、土まみれだった。
今まで斎藤に被せていなかったのは、
衣服の汚れが傷口に触るのを恐れていたのだろう。そして、
意識の無い人間、それも完全武装の、それも意識不明の重態の自衛官を、
民間の素人1人で、どうベットメイキングまで介護できるというだろう。

そんな事より…北の超大国の侵攻が気になる。

だが斎藤が「 ここは何所だ? 」と訪ねても、
男からは「 さあ… 」と言う申し訳無さげな答えしか返ってこなかった。
70 名前: 翡翠(星砂) ◆X9uEcr1WoA [sage] 投稿日: 2007/06/18(月) 05:37:11 ID:???

男は夜空を見上げながら言った。

「 ここが旭川だろうが札幌だろうが根室だろうが釧路だろうが 」
「 何所でも良いんですよ、貴方さえ無事なら 」

笑いながら答えになっていない答えを答える男の言う話を信じるのなら、
道内は、何所も大混乱の模様だった。

制空権を得た超大国の空挺の進出により自衛隊は各地で分断され、
最早、市民レベルでは、何所が前線なのかも定かではないと言う。
要するに音威子府の戦いから斎藤の部隊は各地に転戦、
男は避難民を満載したバスにでも揺られて逃げ回っていた、という所なのだろう。
( …あれから、何時間立った?…いや、何日? )
そんな斎藤の問いに男が天使の様な微笑みを浮かべて微笑んだ。
…血の涙を流すように。

「 貴方にも見せたかったですよ 」
男は目を細めて斎藤を見つめた。
「 あやまれ!自衛隊の人たちにあやまれ! 」って、
「 泣いて抗議していたんですよ、彼女は 」と。

道民を襲った超大国の兵と、襲われた道民と娘と、それに介入した音威子府の生き残り。

微笑みながら泣く男が何を見たのか、

斎藤にはそれを聞く事がどうしてもできなかった。

71 名前: 翡翠(星砂) ◆X9uEcr1WoA [sage] 投稿日: 2007/06/18(月) 05:41:53 ID:???

斎藤は満天の星空と正対しながら、他のことを尋ねた。

男は斎藤の質問にはナンでも答えた。

曰く、軽トラの荷台に積んでいる自衛隊の装備は、貴方達の持ち物だと。
曰く、AK他超大国の装備品は倒された超大国の兵士の持ち物だったと。

「 ゲリラ戦をするつもりなのか? 」と、斎藤。

「 ゲリラ戦はプロにまかせますよ 」と、男。
「 むしろ、自決用ってとこですね 」男が斎藤の額を濡れタオルで拭った。
「 避難民の噂を信じるの、なら… 」男が濡れタオルを絞りながら言った。

曰く、北海道各地で、お決まりの光景が広がっているらしい、と。

第三次世界大戦の不穏な気配を察知して富裕層は行動を開始した。
そして失業と命の二者択一を迫られる官民=庶民の大多数が道内に残った。
庶民には、当然ながら、自衛官の家族も、含まれる。

「 要するに、満州と同じ事が起きた、らしい 」

荷台に積め込まれた多数のペットボトルのうちの1つから水が垂らされ、

再びヒンヤリとした濡れタオルが斎藤の首や腕をそっと拭った。

72 名前: 翡翠(星砂) ◆X9uEcr1WoA [sage] 投稿日: 2007/06/18(月) 05:56:33 ID:???
斎藤はグウの音もでず、現状を認めた。

「 すまない 」

微笑む男の「 自決用 」と言う言葉に秘められた思いが、胸に突き刺さる。

「 戦車を屠った自衛官が謝るとか… 」

困るなあ、と苦笑しながら男は、
手持ちのもう1枚の綺麗なタオルに水を含ませ絞ってから、斎藤の傷口周辺を拭った。
もうこれで何度、自衛官の傷口を拭ったかは覚えていないが…。
ずっと見ていたから、わかる。
おそらく、この自衛官( 斎藤 )は助かる。
もっとも彼は死んだところで、たちまち部下達に黄泉路から叩き帰されて来るのだろうけれど。

( しかし… 何所か、で …?? )
( おかしいな )

男は、奇妙な思いに、困惑していた。
なぜか、以前から彼( 斎藤 )を知っているような気がするが…まあ、いい。
そういや、なぜさっきから、初対面の男に … なぜだろう …?
「 ところで、なぜ、ケーキばかりを積んでいるんだ? 」
斎藤の右目の方向にうず高く詰まれたケーキの山。
そんな斎藤の何気ない問いに男は我に返って、ニヤリと笑った。

「 戦争になれば食料の買占めが始まるじゃね? 」

男は斎藤の飾らない精神に感化されて自分の口調がタメ口になりつつあるのを、微笑みつつ認めた。

「 つまり、ケーキくらいしか売れ残っていなかったのさ 」


79 名前: 翡翠(星砂) ◆X9uEcr1WoA [sage] 投稿日: 2007/06/20(水) 07:09:39 ID:???

「 音威子府 」 >>66-72

「 夜は長い…、まあ、飲めよ 」

闇の中、

男から葡萄酒が差し出された。
ほのかなワインの香りが鉛のような身体に気持ち良かった。
そして、葡萄酒を差し出す男の顔は、何所までも優しげだった。

…不思議だった。

男は満天の星空を背にして、真っ黒のシルエットでしかなった。

なのに、斎藤は、男の表情が、陽射しの中にあるかのように判るのである。
( それに、なぜ、俺は、初対面の民間人に、こうも心を許している? )

満天の星空を背にして微笑む男。

斎藤は、竹を割ったようにサッパリとした男だった。
元来、腹に一物も無い、綺麗な男であった。

( 不思議だ )

こんな、言葉に直せない精妙な、感覚…。

80 名前: 翡翠(星砂) ◆X9uEcr1WoA [sage] 投稿日: 2007/06/20(水) 07:13:01 ID:???

それから数日が立った。

斎藤は、青森から進出してきた増援部隊( 第25普連 )に発見された。
…彼等は、時の首相命令により、青森から動くはずの無い部隊であった。
そして原隊である第2師団…健在であった…に送られ、そこで終戦を迎えた。

第三次世界大戦の開幕戦と見られた北海道攻防戦。

それは、安保条約の名において遅まきながら参戦してきた米国の登場によって、幕を閉じた。
北海道は自衛隊の水際立った防衛戦術によって、かろうじて、守られた。
その代償として陸海空は最新鋭の装備と備蓄の殆どを消耗し尽くし、再建の日々を送る事となった。

81 名前: 翡翠(星砂) ◆X9uEcr1WoA [sage] 投稿日: 2007/06/20(水) 07:22:54 ID:???

国会は紛糾した。

超大国の暴挙に泣き寝入りするしかない日本は、
失われし人命・財産への慟哭の総てを、時の政府へ叩きつけた。
とくに、政府方針であった“ 日米連合作戦 ”のために、
米軍の参戦まで増派を禁じられた自衛隊の運営については、
全国民的な糾弾の嵐が巻き起こっていた。

その中心勢力となったのは戦場となった北海道、
北海道の守備についた自衛隊の隊員を多く輩出した九州各県、
そして皮肉な事に、反戦平和の総本山の1角、沖縄の3者であった。

北海道と九州の代議士達が血涙を流して政府を糾弾したのは当然であったが、
何故、沖縄が?と言うと、
沖縄県民が北海道民に対し、昭和20年の自分達の姿を見たからであった。

特に、国会議員としては誰よりも早く北海道入りした島守(沖縄県)の舌鋒は、
氏が公平な見識者ゆえに最も厳しいモノとなった。

「 首相命令で自衛隊が戦力温存に走らねば、失われた道民の命の多くが救われた筈 」

温厚な氏のとつとつとした熱弁は多くの国民の共感を呼んだが、
大人物であった時の首相である小南州は頑として屈しなかった。

「 政府としましては、最善を尽くした、と、信じる所であります 」

罵声と怒号の暴風が吹き荒れる国会の中で、

2人の偉大な政治家だけが、真摯な眼差しを静かに、熱く、投げかけ合っていた。

82 名前: 翡翠(星砂) ◆X9uEcr1WoA [sage] 投稿日: 2007/06/20(水) 07:31:58 ID:???

夜。

首相の小南州は、副総理の八城と、
自衛隊現役トップ( 数名 )を、私邸に呼んだ。

首相に招かれた彼等は、戦争前夜から首相と寝起きを共にし、
昨夜、半年振りに、家族の元へ帰ったばかりであった。
再び、首相に招かれるままに集った彼等は、そこで首相の遺言を、聞いた。

曰く、「 承知のとおり、全力上げて自衛隊を動かさなかったのは、私の意思による 」
故に、「 責任は私1人にある 」
今後、「 八城君が国家の舵を取るように 」

それだけ言うと、
彼は、不眠不休であった同志と握手し、別れの杯を交わした。
誰もがやつれ、疲れきっていた。
そして各自は総理に託された意思を胸に、帰って行った。
そんな、死人のように暗く、足取りの重い人々の中で、
小南州から派閥を譲られた八城の内心だけは炎の様に燃え盛っていた。

そして1人、第7師団の永田( 陸将 )だけが残った。

「 どうしても、逝きますか 」
「 永田君には、すまない事をしました 」

小南州の頭の落下を両手で制止しながら豪傑笑いを浮かべた永田は

「 誰かが責任を取らねばならぬなら、私もお供します 」
「 精鋭の第7師団を温存などと、面目無い事を強要したのは、私です 」
83 名前: 翡翠(星砂) ◆X9uEcr1WoA [sage] 投稿日: 2007/06/20(水) 07:36:36 ID:???

「 … 北海道を救うには、あの手しか無かった筈です … 総理 」

米軍あればこその必勝だった。

そして、兵力をギリギリまで温存した自衛隊は、米軍と共同して、勝利した。

単独で北海道決戦を決行していれば、
日本は、独立を維持するのも困難なほど、壊滅( 自衛隊 )していただろう。

「 しかし、明日の道民を生かすために費やされた人命は、戻ってこない 」
首相が静かに9mm(拳銃)をこめかみに当てた。

「 私もお供します 」
「 君は生きなさい 」
「 もう、生き飽きました 」

「 君が死ねば、悪い前例が残る 」
「 … 」
「 君が死ぬのは許さない。生きなさい 」

「 しかし 」
「 自衛隊には何の罪も無い。生きて、使命を果たしなさい 」

それだけ言うと小南州は静かに引金を引いた。

小南州より生きる事を強要された永田は、後に第7師団を率いて、
バンパイアの大集団から超大国の民を守るべくシベリアに向かう事となるが、

血塗れの小南州を抱えて帝医大に駆け込む永田には、今だ判らぬ事であった。


91 名前: 翡翠(星砂) ◆X9uEcr1WoA [sage] 投稿日: 2007/06/21(木) 04:31:43 ID:???

「 音威子府 」 >>66-72
「 終戦内閣 」 >>79-83

帝医大にて、

瀕死の小南州が全国に向けて遺言を放ち、

第7師団の永田( 陸将 )が、

記者達の放つフラッシュの洪水の中で、
人目をはばからず男泣きに泣いた夜から、

… 半年が経った。

92 名前: 翡翠(星砂) ◆X9uEcr1WoA [sage] 投稿日: 2007/06/21(木) 04:35:55 ID:???

北海道は、復興の槌音も高らかに、繁栄の道を歩み出していた。

その復興の中心地である札幌市は全国から労働者が集まり、
街には日本を代表する建設会社の様々なロゴマークが所狭しと翻っていた。

そして其処には、
全国から派遣された自衛隊の復興協力隊の姿も、色濃くあった。

その汗を流す自衛官達の姿を、

島守( 沖縄県選出議員 )と荒井( 北海道警トップ )は、
自衛隊担当区の全周に張り巡らされ、
風を受け音を立ててはためく真っ白なシートの囲いの外から、見ていた。
その2人の周りには、
誇りではちきれんばかりに目を輝かしている札幌市職員と
警察、消防の姿があった。
死神の笛が吹き荒れる北海道にたった1人降り立った国会議員と、
外国軍の侵攻にも持ち場を堅守して離れなかった北海道官僚組織と、そのトップ。

「 やっとここまできましたね 」

2人の会話を1つも聞き漏らすまいとメモを走らせる記者達も、誇らしげであった。
2人の周りにはべる彼等の同僚の少なくない数が、あのとき、倒れた。
彼等は皆、その中の生き残りであった。

そして、北海道のロジスティクスと足を支える民間各社の代表が、やってきた。

何万何千という民衆を本州へ本州へと不眠不休で運んだ彼等、であった。

93 名前: 翡翠(星砂) ◆X9uEcr1WoA [sage] 投稿日: 2007/06/21(木) 04:39:10 ID:???

その頃。

北海道防衛で、膨大な血を流した在道師団は、長い休暇に入っていた。

彼等は深刻なレベルで定数割れしている状態 ―
つまり、日々の任務も不可能なレベル ―

で、あったのだが、

戦後処理内閣の長である八城の厳命で、無理矢理、休暇を取らされたのであった。
当然、斎藤の所属する第2師団の各駐屯地も、閑古鳥が鳴いていた。

…戦後始まって以来、終に起きた戦争の後である。

当然、上は諸外国の政治家に軍人から、
下はイロイロと奇妙なマニアな人達の訪問が殺到するのだが、彼等は、
在道師団の休暇の穴埋めに全国から派遣された自衛官達に、蝿の様に追い返された。

まあ、実際の所、彼等を蝿の様に追い返したのは、

駐屯地外周の警備専門に雇われた警備会社の職員達、
そして在道師団の奮戦をその目で見た
道民の有志のボランティア組織であったのだが。

94 名前: 翡翠(星砂) ◆X9uEcr1WoA [sage] 投稿日: 2007/06/21(木) 04:44:44 ID:???

そんな、

戦後処理内閣の手厚い配慮、により、

静かに閑古鳥の鳴く駐屯地の柵の中で、1人、斎藤は、
ただただボンヤリと、青草の茂る土手に寝転がって、空ばかりを見ていた。
そんな斎藤を、周囲は腫れ物を扱うように、ソッと…、放っておいていた。

音威子府をはじめ北海道の各戦場で、数多の英雄が生まれた。
だがその中でも、
周囲から確認されただけでも4台の戦車を屠って生きていた“ 異例 ”。
だが斎藤は部下の総てを失い、
あらゆる物事に興味を示さなくなっていた。

いわゆる「 特攻崩れ 」に近い荒んだ精神状態にあったのかもしれない。

そんな斎藤が最近思うのは、あの戦場彷徨の、不思議な夜の事だった。