637  名前:  名無し三等兵  2006/10/15(日)  18:23:31  ID:???  

そんな自衛隊を見ていられなく、否、  
自衛隊の管理下の閉塞生活に憤懣やるせない市民を食わし続ける苦行に耐えかね、  
遂に自衛隊がその<  最後の1線  >を越える未来、を、激しく嫌った今井は、  
自衛隊がその手を汚す前に私兵の戦国大隊を率いて遠征すること数月、各地で魔族を掃討し、  
1度は魔族に滅ぼされていた<  東方ライン皇国  >の支配権を確立。  
前帝の忘れ形見の皇女を新皇に掲げて、流転の平成人20数万人の生存圏確立の足がかりを築くに至り、  
今では「  皇国新帝代理  」として皇国兵を率いて(  新皇は女性の上に建国数ケ月の国だから仕方無い  )、  
超大国の紛争の後始末に借り出された自衛隊とともに  
(  東方ライン皇国は自発的に参加を打診。超大国はこれを了承  )、  
西方神権国家ミスラの治安維持活動に参加中であった  
(  平成自衛隊は、この時はまだ流浪の市民20万人とともに超大国提供の居留地にあった  )。  

そしてこの時の今井ら皇国兵は、平成自衛隊の89式装甲戦闘車数台に護衛されて、  
四千年の歴史に埋もれたミスラの北の大地を(  白い峰々を左手に見ながら  )南下であった。  


638  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/15(日)  18:24:42  ID:???  


「(  我ながら博打だ・・  )」  

しかし、博打だからと言って、誇りに賭けて絶対に引けぬ状況であった。  

「  諸君  」今井が進軍を止めて、部下達に異例の訓示を行った。  
普段、演説などマンドクサと、3秒で終わらすのが常であった今井の長口上が始まった。  
「  正直、この作戦は博打である。つか、切り札(89式装甲車)の燃料が無い  」  
シン、と静まり返る部下達。うむ。ほんの数週間でよくここまで仕上がった。  

「  引き返すのは簡単である。しかし  」  
「  それにより我が国は偉大な友人の信を失うであろう  」  
前衛のホビッド族がそわそわしだしている。  
彼らは自分の生命が危機に晒された時以外は、ジッとしている事は大の苦手だ。  
・・急がねば。  

「  我が国軍が無事に撤収出来たのは  」  
左右を固めるエルフ達が耳だけを傾けながら、下生えの草むらのチェックを念入りにしている。  
彼らの冷静さがあれば、巨人族との戦い位なら、なんとかなるのだが・・。  

「  我等が危機を察して、最速で駆けつけた友軍が居てくれたからである  」  
後方のドワーフ族が、そんな事は判っているから早く戦わせろ!と戦斧をシゴいている。  
やれやれ、なんて頼もしい連中だ!  

「  ゆえに、全滅したとしても退けぬ。何としてでも小官どのの隊を救出するぞ!  」  
・・なんて恥ずかしいんだ糞!!  
演説好きな連中はきっと、その面の皮は鉄面皮で出来ているに違いない!  

しかし、人間族の若い戦士たちは、ヤル気になっている・・なんと嬉しい事か・・  



639  名前:  名無し三等兵  2006/10/15(日)  18:25:37  ID:???  


何せ装甲車両といった所で、魔術師のファイア・ボールを食らえばタダでは済まないし、  
巨人族からの投石(  ウンザリするほどの大石だ  )を食らえば凹むわで、  
(  装甲車両はどの隊も大いに活用する分  )その損害も大きかったのだった。  

そして、定数割れした車両が復帰してくるあては、今のところゼロ。  

だが、89式装甲車搭載の重火力があれば、巨人族の1匹や2匹はドンと来い、である。  
それにこの子の運転手がたまたま戦闘の名手なら、火竜族の攻撃をも退けてくれるやもしれん。  



640  名前:  名無し三等兵  2006/10/15(日)  18:26:11  ID:???  

「  諸君  」今井が進軍を止めて、部下達に異例の訓示を行った。  
普段、演説などマンドクサと、3秒で終わらすのが常であった今井の長口上が始まった。  
「  正直、この作戦は博打である。つか、切り札(89式装甲車)の燃料が無い  」  
シン、と静まり返る部下達。うむ。ほんの数週間でよくここまで仕上がった。  

「  引き返すのは簡単である。しかし  」  
「  それにより我が国は偉大な友人の信を失うであろう  」  
前衛のホビッド族がそわそわしだしている。  
彼らは自分の生命が危機に晒された時以外は、ジッとしている事は大の苦手だ。  
・・急がねば。  

「  我が国軍が無事に撤収出来たのは  」  
左右を固めるエルフ達が耳だけを傾けながら、下生えの草むらのチェックを念入りにしている。  
彼らの冷静さがあれば、巨人族との戦い位なら、なんとかなるのだが・・。  


643  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/15(日)  18:34:15  ID:???  


そのころ、小官どの指揮の部隊はというと。  

歩兵の半数があらかじめ各中隊から集めてきた携帯対戦車兵器を背負っており、  
その恐るべき破壊力を余すところ無く行使。  
敵の設けた街道の砦という砦を、ただのガレキの山に戻してしまっていた。  

小官どの自身は73式装甲車を駆って、オークの大軍勢との戦いを精力的に指揮した後であった。  

そしてその戦塵煙る戦場の丘陵地帯に幾つも幾つも穿たれた塹壕線のラインは、  
彼が巷に蔓延る猪武者としての称号とはほど遠い、練達の遅延作戦の達人という事を如実に物語っていた。  
そしてその中に篭る各隊の兵達は次の戦闘に備えての準備に余念が無い。  
そんな次の戦闘に備えて活気づく塹壕地帯へと、  
塹壕に篭った各隊から選抜された体力優秀な者のみで結成された迂回部隊が、  
敵地を蹂躙してきた74式戦車の隊とともに帰ってくる。  
彼らは戦場の血飛沫を浴びて真に疲れ切ってはいるが、大勝利だった。  

最も実の所、車両が活躍できる場所はそんなに無くて、  
戦闘車両群達のその日の実際は、最後の蹂躙突撃以外は支援砲撃が主任務であったから、燃料だけはまだまだ十分だ。  
しかし、食料と水だけは枯渇しつつある。  
なにせ、夜半の出動だったために、  

本当に肌身に身に付けていた僅かな持ち合わせしか、持ってこれなかったのだった。  



645  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/15(日)  18:41:06  ID:???  


「  (  ・・  五月蝿いだけで、相変わらず大した事の無い連中だったな  ・・  )  」  

「  え?何か言いましたか?  」  

新米運転手が、指揮官の思いを敏感に感じ取って質問してくるが、無視。  

否、全く別の事に転じて隊員のカンをはぐらかす。  

「  ミスラ89年青の月の13日2330  戦闘開始  味も素っ気も無い結果だったな  」  

「  現地兵に少なからぬ損害が出ましたが・・  」  

「  作戦予定より+5min・・上出来さ。。  」  

新兵にとっては、信じがたい激戦であっただろう。  

同じ地元兵の仲間が幾人も倒れた事への驚きと悲しみに、未だ胸の動機は収まっていない。  

おそらく彼は次の戦闘には役立たずになっているだろう。  

戦場の恐怖を知ってしまったから。  

しかし、彼にとっては激戦でも、  

心優しい、そんな戦闘には全く不向きな彼を、  

あえて特別に選んで身辺に置いて見ている当の指揮官にとっては、  

この程度は、朝の洗顔ほどの事でもなかったのだった・・。  



646  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/15(日)  18:49:16  ID:???  


彼の指揮官は、そんな新兵、  

普通なら役立たずの烙印を押されてどうなることか・・の彼を、  
ふと表情を緩めてジっと見てから、気がつかないくらい位に少しずつ・・顔をそらして、  
やがて、新兵の彼には自分の表情を見えないように・・してしまっていた。  
「  ・・・・・  」  
寂しそうに笑っているのか、背筋も凍るような般若の顔なのかは、配属されたばかりの新兵には察し得ない。  
新兵は何かを尋ねようとしたのだが、まるで其処には居ない人のような、  
まるで手ごたえの無い気配に、ついに話しかける事が出来ないまま、そして、  
それから彼の指揮官は、新兵の彼には、  
感情の端を探れるような事は何も言ってくれないまま、隊の中に消えてしまった。  

そうして小官どのの率いる隊は、燃料の十分ある間に粛々と撤収して行った。  
その途上、予想外の今井の部隊との再会で(  兵力が倍化したためハーピー部隊に発見されてしまった  )  

予定外の大会戦を演じることになるのは、また後の話。  

(  投下終了。付録に続く。  )  





648  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/15(日)  18:57:13  ID:???  


「  アザン?!お前、せん、戦争に行く気なのか!?  」  

「  ユウキ、お前、あんな斑服野郎にビビっているのか?俺は先に行ってるぜ!  」  

戦士・アザンは親友―男と女のだが―のユウキにニッコリと笑いかけ、  
伝来の家宝<  スター(  フル  )ヘルム  >を被りなおして、首をゴキゴキ鳴らしながら今井の前に立つ。  

「  おっさん、まずは俺だ!!  」  

「  ほう、これはまた屈強そうな若者じゃのう  」  

魔族に滅ぼされた東方ライン皇国の新帝都の王城で、  
新生・東方ライン皇国の第1期目の国軍兵の募集を募る今井は、  
この国の支配権を握っているくせに1介の公募係に扮して、これはという若者を掻き集めまくっていた。  

そして、集まってきた群衆の中からイの1番に名乗りを上げたこの若者の肩をスパン!と叩くと、  
「  採用!その意気や良し!君の筋肉と覇気なら、すぐに班長だな!  」  
と褒め上げるのだったが、アザンもまた、若く、真っ直ぐで、何処までも純朴な青年であった。  
「  お、俺がこ、皇国軍の歩兵班長だなんて、よ、よしてくれ!  」  
アザンは身長180cmを越える立派な武者振りであった。  
そして一途に剣を鍛えたその両腕と、自負と大人への対抗心に溢れて反り返ったその背は、  
誰の目にも明らかにギリギりギリギリと引き締まっていて、いかにも頼もしい。  

おそらく1週間以内に班長どころか、小隊の長を任す事になるだろう・・。  

よしてくれよ!ホント!、と素直に喜んでいる所は、明るい隊長として人気が出るだろう。  
うむ。文句無しにごーかく。  

バスン!と書類に叩き付けられた太鼓判の音も高らかに、  
ここに新生・東方ライン皇国・最初の戦士が登録された・・。  




650  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/15(日)  19:13:29  ID:???  


「  ・・・・なかなか、楽しそうだね?  」  

女忍者のフェイが空中でヒョイと蜻蛉返りをうって、仲間達に振り返って悪戯っぽく笑う。  
「  ごめんよ?アタシはいくよ?アザンが行くんだろ?  」「  フェイ・・  」  
アザンとフェイの仲間達はまだこの国の支配者の人格を見定めかねていた。  

(  それに、幾ら高給だからって軍隊なんかに・・  )  
彼らは、ライン皇国地方にその名も高き冒険者のパーティだった。  
稼ごうと思えば、実のところ、幾らでも稼げたのであった。  
だが、なぜか、今回だけは、  
今まで鼻も引っ掛けなかった軍隊家業に(  全員が  )引かれつつあった。  

新王の真の護衛兵たちは、古の鎧兜に身を固めていた。  

ギラリ、ギラリ、と太陽光を受けて光る剣の舞、槍の舞は、  
皇国地方で最強を自負する彼らも思わず見とれるほどの美しさであった。  
おそらく、腕は自分達のほうが遥かに上だ。  
しかし、それだけでは済まない何か、  
得体の知れない凄みが彼らの舞から滲み出ていたのだった。  

最初は、ハメル老の知恵と知識と魔法とに助けられっぱなしだった。  
だが今や、1対1でも丘巨人といわれる身長3mを越す人類の敵との戦いにも、圧勝を収めるまでに強くなっていた。  
そんな彼らが釘付けにされる舞の“何か”の正体が、伝説の<  サムライ  >の発する、  
ほんの少しの座興・・ということを知るのは、  

彼らが今井が連れてきた戦国武者達の真の実力を知る、その時まで、待たねばならなかった・・。  



651  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/15(日)  19:19:05  ID:???  


だが、生来あんまり物事を深く考えないフェイは、アザンが決心したのなら、と、迷う事は無かった。  

「  ハイハイハイ!おじさん!いえ、おじ様!私も入るよ!!  」  

「  ほう!今度は女忍者ときたか!  ははは!?  ココは人材の宝庫じゃのう!  」  

「  !  」  

1目で忍者だと見破られたフェイはギョッとしたが、  

「(  人材募集係なんだから、そんな目くらいはあるよね  )」  

と最初の驚きを0.4秒で忘れてしまった。  

天性、冒険者向きの生まれだったのであった。  

「(  着込んだ鎖帷子を物ともしない空中宙返り・・誰にも判らない位、微かな金属音・・  )」  

体は大人のくせに、まだまだあどけない表情を浮かべてギョっとしたダイナマイト娘。(笑  

「(  やれやれ・・本当に凄い女の子が居たものだなあ  )」  

・・忍者の者でしか有り得ない身体能力者であった・・  

当然今井は、満面の笑みでフェイの採用即決の太鼓判を書類に叩き押すのであった。  

新生・東方ライン皇国2番目の戦士は、女忍者であった。(  何たる予想外  )  




653  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/15(日)  19:27:56  ID:???  


「  駄目です、馬を降りては…  」  

女忍者のフェイまで新国の軍隊にいってしまった。  

姫将軍のロード・ユウキも、流石に馬上人を気取っているドコロではなかった。  
だが、忠臣めいた顔で美少年と美青年の中間青年、僧侶・ラスタが、  
彼女が人前で「  地上の人  」になることを許してはくれなかった。  

だが。  

「  ふむう、これはどうやらワシらも行かねばならぬぞ?  」  

「  ハメル老!?  」  

2人の後ろで状況を眺めていたハメル導師が「  ふぉっふぉっふぉ  」と笑うと、  
導師に懐いている風の精霊達がそれに同調して嬉々と舞いあがり、導師のローブがそれに応じて踊り出した。  
・・・風も無いのに、ハタハタとはためきく、実に不思議な光景であった。  
その光景に新王都に集まった群集達が「  おおっ  」どよめくほどで、  
その側で、ラスタは、  
普段は仲間の引き締め役の老師が愉快そうに笑うのを、とまどいの顔で見つめていた。  
「(  導師こそが、戦争嫌いの急先鋒、権力嫌いの化身なのに・・  )」  
誰もが息を呑む大魔道師にして救国の大僧侶だった皇国の守護神、ハメル老。  
老師が命を賭けて王都に張り巡らした防護結界が最初の大悪魔の群れを退けたのは、  
ユウキやラスタが、まだ柔らかな絹に包まれ、ゆりかごに揺られていた遠い昔の日の出来事であった。  

その伝説の大魔道師(  今では皇国防衛に力を使い果たして、並の大魔道師にはなってはいるが  )  
が、普段の叡智をかなぐり捨てて、自らが守り育てた若者達の直感の赴くままに従おうとしていた。  

それは、謹厳実直なラスタにとって、驚天動地の出来事であったのだった・・。  




656  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/15(日)  19:41:22  ID:???  


ラスタは、見る。  

姫将軍・ロードのユウキの白銀の鎧と、不詳自分、僧侶ラスタの純白の法衣は、  
長年の戦いの末にこびり付いた泥と埃と乗馬の血と臓物で見る影も無く汚れていた。  
思えば皇国の平和のために、どれ程の死線を潜ってきた事だろう。  
次々と立った新政権者は、まるで伝説のカナンの軍閥達のように、  
真のロクデナシばかりであった。  
義憤に駆られて彼らの陣幕に突入し、さらわれた娘達を救出し、村人達の財産を奪い返し、  
そして彼ら盗賊と何ら変わらない最低の者達に悪逆非道の烙印を押されて追い回される日々。  

不詳自分、ラスタはいい。  
彼は実のところ、ユウキが居れば何も要らなかったのだから。  
だが、だからこそ、ユウキには綺麗な服を着、  
美しい宮殿に住み、朝から晩まで磨きぬかれた家臣たちにかしづかれて過ごす、  
そんな花と香料と平和に満ちた穏やかな日々を送ってほしい・・。  

「  仕方ないですね・・ユウキ・・ここは決め所のようです・・  」  

決心すれば、今までの態度は何処へやら。  

僧侶・ラスタの美しい(男だが)顔がふ・・とやわらかく微笑みに緩んだ。  
おかしいね。こんな風に笑ったのは何時の日の事ぶりだっただろう。  
彼は苦笑いを浮かべながら、尊敬するハメル導師の横顔を見つめている。  
彼が尊敬してやまない師がすら、決断したのだ。  

なのにどうして彼が迷うことがあろうか。  




658  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/15(日)  19:43:40  ID:???  


ラスタの師の彼も、実は高貴なる生まれの姫が、  

現実世界、娑婆の世界の斬人斬馬の阿修羅道に汚れて行くのは、本心の奥底では耐えられなかったのだった。  

崩れ行く王都の下、まだ赤子だった彼女を抱えて、  
グレーターデーモンの圧倒的な重囲の中を、脱出した、あの日。  

「  数多の軍閥と盗賊がこの国を欲しいままにしましたが、今こそ決断の時  」  

「  ラスタ・・・  」  

今や迷っているのは彼女1人。  

赤子の頃から共に育った忠臣の言葉に、彼女は逆らう術が無かった。  

皇女・ユウキ・エストラーダ、サルカ領主が、東方ライン皇国の次代の新帝となる瞬間であった。  
ただ、この時の彼女は、自分が高貴なる生まれという事に全く気づいていなかったのだが。  

                                               END  



659  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/15(日)  19:49:17  ID:???  


で番外編。つか真のEND。  

「  ・・・・・  」  
「  何が斑服だよ、まったく  」  
「  言うな言うな、まずは地域住民にラブ&ピース。今井のおっさんの口癖だろ?  」  
「  こいつらに俺達の実力を判れ、つうのが無理だけどなあ。俺達の装備はなぁー  」  
「  残酷だぞ?ヤツらにしたら俺達、インディペンデンスデイのアレだろアレ。今に思い知れっての!  」  
「  アイツラさあ、榴弾砲が炸裂する所見たら小便ちびるんじゃねえの??  」  
「  あははははは!違いねえ!  」  
「  いい加減にせんか!さあ、さあ片づけを始めるぞ!蝿が集まる前に!・・っち面倒くせえな?ドーザー!ドーザーはまだか!  」  

今井が「  自衛隊の犠牲者続出はイヤじゃ  」なる方針の元に、  

10万人の群集を集めて開始された1大キャンペーン。  

そしてそのために準備された食物の山。  

会場設営から始まり、公募運営、会場の撤収。  

今、流した汗が、戦場で流す血を少なくするとは言え、、、  

なんともウンザリな汚物の山(  十万人分・・!!  )であった・・。  

この日の、平成自衛隊の、真の戦い(  十万人分の汚物との!  )が、今、始まる!  

                                               END  



266  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/20(金)  00:23:29  ID:???  


「  ・・・情けないものだな・・・  」  

四千年の歴史を誇った大地に吹く風が、この国に冬の訪れを告げていた。  
見渡す限りの廃墟。  
無人の荒野と化した西方神権国家ミスナの町や村。  
風に吹かれてカランコロンと転がって行く水桶だけが、1人寂しく踊っていた。  

「(  自衛隊と市民は無事なのであろうか  )」  

ミスナのテロリスト―  高位の魔術師も少なくない  ―  が、  
進駐してきた外国勢力を排除するために、現代兵器に対して召還魔獣をもって対抗し続けた、報い。  
度重なる召還によりほころび始めた次元の割れ目から、次々に現れる、大悪魔達。  
ここミスナでも、最初の次元ジャンプを起こしたあの世界の様に、時空の崩壊が、始まっていた。  

だが、平成自衛隊は、間一髪で、助かった。  
少し前に居留区で巻き起こった市民の暴動。その慰撫の為の撤退。信じられない程の幸運であった。  
そして平成自衛隊が去った直後に現れた破局。連合軍は雪崩れを打って壊走していった。  
西方神権国家ミスナの南方を1週間で制圧した重戦車の群れも、残らず退却していった。  

「(  今度ばかりは、あの我侭な連中に感謝しなければならないだろうな  )」  

心の中で、塞翁が馬を苦笑。  
呆気無く崩壊した連合軍と、高度な市民国家(  日本  )のマイナス面を嘆きながら、  
各地から計上されてきた被害状況への対策に、頭が痛い今井であった。  
が、いずれにせよ、妖精族を多数抱える今井の軍は、余りグズグズしていられない。  



267  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/20(金)  00:28:25  ID:???  


愛馬に揺られながら、  
猫の子が聞いたのなら確実に飛びかかってくる音を微かに立てながら、  
各地から計上されてきた被害状況のリストをめくる。  
「  羊皮紙とガチョウの羽ペン  」という、気合の入った世界でなくて本当によかった。  

だが、書類の確認作業など、面倒臭い事には変わりが無い。  
で、リストを信じるのなら、  
自衛隊がミスナの治安維持活動で失ったのは、以下の通りであった。  

90式戦車1台(  テロリストのファイヤ・ボール  )乗員は数日間の怪我(  焼け出されて  )  
74式戦車1台(  テロリストの地の精霊設置地雷  )乗員は1週間の怪我(  穴の落差の分  )  
各種装甲車4台(  巨人族の投石や精霊設置地雷等  )乗員に重軽傷者が出る騒ぎに発展。  
各種車両類9台(  人為による崖崩れ、奇襲攻撃等  )新規採用の地元民に大きな被害(  工事用人員  )  

で、東方ライン皇国軍が失ったのは、以下の通り。  

戦国武者(  指揮官級  )2名  
募集兵第1期・人間族兵  8名  ドワーフ族3名、エルフ族2名、ホビッド族2名、ケンタウロス族1名  
西方神権国家ミスナ兵  45名  うち元国軍40名、貧民街での新規募集人員から5名。  

戦国武者が2名死傷しているのは、  
それぞれが任せられたミスナ国軍小隊を陣頭指揮中、退却中に転んだ部下を庇っての事だった。  
そしてミスナ元国軍出身者の犠牲が突出しているのは、上記の小隊長の屍ないし重態を、彼らが全力で守り抜いた証であった。  



268  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/20(金)  00:35:16  ID:???  


国軍の第1中隊を率いる山中鹿介が愛馬にまたがり、悠然と近づいてくる。  

「  これから我らは、どういたしましょうや  」「  まずは王都クシャへ  」  
「  大休止は如何に  」「  山中殿はどう思われますや  」  
「  ここから少し先に村がありもうす。そこでの大休止は如何にございましょうや  」  
「  また、死体埋め作業に忙殺されそうですが、そうすることにしましょう  」  

・・・その村には、昼前に全軍が入った。そして、村には、死体しか残されていなかった。  

しかし・・・  

家畜の被害は思った程ではないし、人の死体も思ったよりは少なかった。  

元居た世界なら「  村人達が動乱から無事に逃げおおせた図  」なのだが・・・  
そんな村の光景に、何か不吉な臭いを嗅いだ今井。  
同様に各諸族も何らかの胡散臭い臭いを感じ取ったらしい。  
何せ異世界。何せ異郷の大地。そして大悪魔出現の後の事ゆえ、油断出来ない。  

臨時の協議の結果、軍の方針は、  

「  この村や他の村村は捨て置いて、一刻も早く人口密集地帯か、最寄の妖精族の版図までの撤退を  」  

という事になった・・のだが。  

協議の結果を、無念そうに聞いていた男が1人。  

山中鹿介は、黙って席を立ち、  

道々の死者達に向かって手を合わせ目を閉じて、念仏や経を唱え始めていた・・。  



269  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/20(金)  00:44:10  ID:???  


・・・仕方が無い・・・  

でも、考えてみれば、何も急ぐ必要は無いのかも知れない・・・。  

「  山中殿  」  
「  もう少しで、終わりもうす  」  
「  判ったから、埋めよう  」  
「  ・・・  」  
「  私が(  黄泉返ってこないように  )切るよ  」  

兵らには先に出発を命じ、その間、2人で1つの村の死体の片づけに移った。  

ハーフエルフとホビッド達も何か言いたげであったが、  
彼らは軍の大事な斥候と、大事な罠探知機でもあったから、ゆっくり、休んでもらわねば。  
そういう訳で彼らには顔を下げ、左右に振って答えて、先を急いでもらうことにした。  
だが、結局、途中から見ていられなくなったのか、ドワーフ達はやってきて、村人の墓穴を掘り始めだした。  

そして。  

「  俺と代わりな  」  
「  斉藤さン  」  
「  ・・・止めるな・・・  それと、斉藤、で、いい・・・  」  

自衛隊でも屈指の戦士であろう斉藤隊員が今井の手から戦斧を奪うと、  
その鍛え上げられた肉体を駆使して、あっという間に、これらの作業を終わらせてしまった。  
そして斉藤隊員がゾンビ防止で最後の死体を断裁し終わる頃には、彼に触発された少なくない者達が埋葬作業に参加していた。  

「  おぬしら・・・気持ちは嬉しいが、軍法違反であるぞ・・・  」  



320  名前:  ショート・リリーフ  2006/10/21(土)  04:03:09  ID:???  


我々に対する、ハーピーの空襲は、深夜0217に開始された。  

やれやれ、鳥目のくせに真夜中に飛んでくるとは、やつらの背後に居るのはいったい何者だ?  
まあ、小官どのの率いる自衛隊と、エルフの居る我が軍に空襲とは片腹痛いのだが・・  
まあ、相手が見えないのは、お互い様だから。  

自衛隊には暗視スコープを装備している隊員も居るのだが、  
それで打ち落とせるようなトロい連中なら世話無い話。  

それでも双方、  
それなりに戦果を上げて痛み分けとなった。  
こちらはパジェロ・・もとい、車輌系統にそれなりの被害が出た。  

つか、対空射撃の火で、  
車体の隠し場所の幾つかがすっかりバレてしまい、  
バレた車輌から集中攻撃されて・・・。  

嗚呼、もう・・・。  



321  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/21(土)  04:08:34  ID:???  


・・・  それから2時間後  ・・・  

地面に打ち落とされたハーピーが、聞くに堪えない喚き声を上げている。  
やれやれやれ。  
食用にするにはアレだし、慰安用にするのは鶏より駄目な代物ときている。  
かと言って殺すのは可哀想だし。  
やれやれやれ、とかため息ついていると、  

パジェ・・もとい、大事な車輌を壊された隊員が、  
腹いせに(  人面鳥を  )サックリ始末してしまった。  

まあ、生かしておいて(放置)何らかの餌食にさせるのも哀れだし。  

で、小官どのは、というと、  
予定外の展開にすっかりしょげてしまっていた。  
なにせ、2時間のタイム・ロス。  

以上、このハーピーの夜間空襲により、  
我々は多大な睡眠時間と、ただでさえ枯渇している弾丸を失い、  
以後の戦闘計画を大幅に練り直さねばならない運びとなった・・。  

(  「  戦史叢書  西方神権国家ミスナの初期の北部作戦2  」より  投下終了&回線オチ  )  



32  :翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  :2006/11/10(金)  02:00:49  ID:???
ショート  B1+  

民間の今井がファンタジー世界で寝ていると、  
ある日、狐の赤子と卵が1つ、枕元に置いてあった。  
そしてその傍で、何処から来たのかカラス天狗氏が「んがごご」と寝息を立てていた。  

「何じゃこりゃ?」  
珍しい事もあるもんだと、狐の赤子は頭にのせて、  
今井がもう1つの卵の方を斉藤隊員に見せに行くと・・・  
斉藤隊員の手のひらの中で、卵からドラゴンの子が孵ったではないか。  
「ほう、可愛いなあ」  
目を細める斉藤隊員の手のひらで、ゴツイ彼を母親と見たドラゴンの幼生が、  
ミャーミャーと頭を(手の平に)擦り付けて愛嬌を振りまいていた。  

ちなみにカラス天狗氏の方は、酔っ払っているのか起こしても起きなかったので、  
そこらへんにほったらかしてある。  

ショート  B2  

それから数年が立った。  
ファンタジー世界では、この世界の住人の年月は飛ぶように過ぎていても、  
異界からやってきた我々平成の世の連中はぜんぜん年を取らない。  

そんな訳で、未だにパツンパツンの肌艶の斉藤隊員に、  
数メートルのデカサに成長した2脚歩行可能のドラゴンが、  
彼の差し出された手のひらをミャーと言いつつ、ベロンと舐めるのであった。  

「ずいぶんと成長しましたね〜」  
今井が人に慣れた(!)ドラゴンに感嘆の声を惜しむ事なく、その成長したドラゴンの子を見上げている。  
「食わすのが大変だがな」  
そういう斉藤隊員の頬をベロンと舐めるドラゴン君。  


33  :翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  :2006/11/10(金)  02:03:55  ID:???
ショート  B3  

まあ物持ちのズバ抜けている+大概の新規隊員を育て上げてきた自衛隊の事だから、  
ドラゴンの子を育て上げるのも可能だったのかもしれない。  
「じゃ、行って来る」  
そう言うと斉藤隊員は、成長したドラゴンの子の背にまたがって、  
草原や森に潜む虎や熊、野生馬、野生牛を狩りに出かけていった。  

で、今井の寝床にいた狐の赤子はと言うと、  

今では立派な九尾の狐(赤子のくせに)の幼生に変身、  
そのフサフサな白と金の毛で、戦闘後遺症に悩む女性隊員に大人気であった。  
「キッ君可愛い〜!」  
まるで女子高生時代に戻ったかの様に嬌声を上げる田中隊員たちは、  
夜もこの子を奪い合って枕にしているらしい・・・。  

ショート  B4  

そんな、女子高生・・もとい、女性隊員に大人気!の九尾の狐に、  
心中深くやっかんだカラス天狗氏が今井の耳元で、  
「アイツだけ女子に人気とは許せんでゴワス!」  
とか言っていたが、カラス天狗氏は「可愛い!」というか「カッコいい!」だからなあ。  
だが安易に女性隊員からの密かな人気(人気者なんですよ。意外に。)を教えると、  
調子乗って神通力を無くしてしまうかも、だから、  

「任務に精勤していれば人気も出るから早く池!」  

と本多隊長の元へと叩き出す今井。  
ヘリの燃料が切れて偵察にも事かいて久しい「この時の」自衛隊とって、  
時の氏神の様に重宝がられているこのカラス天狗氏。  
自分が意外に女性隊員に好かれている事も知らないまま、今日も空を飛んでいくのであった。  
(ここまで前投下分+追記)  


34  :翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  :2006/11/10(金)  02:05:03  ID:???
ショート  B5  

「折角、斉藤氏の養子になったんですから」  

斉藤氏の頭の上でミャーミャーと鳴いている(猫かよ)ドラゴンの赤子。  
だが、このまま成長すると、どんな食性に育つかわからん。  
この子たちを連れてきたハズのカラス天狗氏が、彼らの出生については口をつぐむので、  
仕方なく今井の提案で、人間の手(火)を通した料理しか食わせないことにしてみた。  
(斉藤氏が目を細めているこの子が、憑かれた目をして犬や人を追いかける図とか、見たくないからなあ・・)  

んで、数年がたったのだが、案外イケている所を見ると、このまま人類文明に取り込めるかもしれない。  
最初のころは、呆れた事に脱脂粉乳のミルクでもOKだった。  
で、現在は、斉藤氏のハンティングで捉えた熊のバーベキュー、もとい、サイコロステーキを食わしたりしている。  

で、今のところ、この子が、生物を追っかけたりする事は、皆無。(ウソみたいなホントの話)  


ショート  B6  

「最初はナイルワニや入り江ワニもどきの恩知らずじゃないかと冷や冷やしてましたが」  
「逆に入り江ワニもどきから俺を救う事もあるよ」  

クメール戦争のころまでは、今井からプレゼントされていた馬に乗って出かけていた斎藤隊員。  
現在(ショートBの時代)は立派に成長したドラゴン君の背にまたがって、湿地帯の移動とか随分楽になったそう。  
で、危険な所ばかりうろつく斉藤氏の相棒は今井の人と相場が決まっていたが、  
(命がけの職務なのに、あえて任務以外で危険な事や余計な訓練等をする人とか滅多にいない)  
国家統治者代理になっても、行こうと言われればホイホイついていく人とはいえ、所詮は帰宅部の民間人。  
ヒルのいる森や湿地帯には金輪際近づかないし、犬の背より高い草が生えている場所にも絶対に近づかないので、  
斉藤氏としては「いい相棒ができた」と言った所だろう。  

そんな訳で斉藤氏は、途中で荷物を今井に預けて、今日もドラゴン君と湿地帯でワニ狩りだそーな。  


35  :翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  :2006/11/10(金)  02:31:28  ID:???
ショート  B7  

次元ジャンプ最初のゾンビ戦で、深刻な戦闘後遺症に悩む女性自衛官の田中嬢、  
最近は寝ても覚めても九尾のキツネの子の「キッ君可愛い!」であった。  

で、ふさふさの白い毛と金の毛のキツネの子はと言うと、  
そんな(戦場の)傷心の乙女達に猫可愛がりされて育ったためか、  
ヌイグルミの様な可愛らしさを益々パワーアップしながら成長している。  

「ふむう。可愛がられて育つ子は可愛くなる、というのは本当らしい」  

そんな女性隊員たちにきゃあきゃあ言われて可愛がられている彼を興味深げに見ていた  
元ミスナ先遣隊司令かつ2児のパパりん・西崎○佐、  
何やらこの子に芸を仕込もうと遊び始めたではないか。  

そしてキツネの子の彼が得た得意技は、空中とんぼ返りからの瞬間移動。  
ここまでは、化けキツネらしくて実に良い。  

しかし、2児のパパりんの西崎○佐にしこまれたせいで、  
「女性隊員の首に巻き付いてリアルマフラーになる」というエゲツナイ必殺技を開発してしまった。  

当分、女性陣人気投票No.1  の座は、揺らぎそうも無い。  


36  :翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  :2006/11/10(金)  02:37:52  ID:???
ショート  B8  

九尾のキツネの子に女性陣の人気を独占されて、日々面白くないカラス天狗氏、  
最近は無頼を気取って、下品なハルピュイヤ族と毎日毎日、喧嘩の日々。  

「お前はカッコイイんだから、しっかり自分を持て!」  
と今井は叱咤するが、  

勘違いも過ぎて、すっかりヒネクレテしまっていた。  

しかし。  

上品な南嬢(女性陣の頭格で、実に美人)と、たまたまコーヒーブレイクの縁があって以来、  

今ではその修験道服の洗濯も日々欠かさず(カラス天狗なのに)、  
男性隊員にねだってマスターした自衛隊風ノリ付けもビシッ!と決まりだしてきた。  
(勿論、その草鞋草履も何時もピカピカである!)  

やっぱ純情悪たれの男の子の修正法は、大人なお姉サマとの縁を多く作っちゃるに限る。  

ちなみに南嬢とのコーヒーブレイクの機会を設けたのは本多隊長。  
やっぱり本多隊長、見ている所は見ているぜ☆  


37  :翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  :2006/11/10(金)  02:46:26  ID:???
ショート  B9  

ちょっとした紛争のとき、自衛隊は巨人の捕虜を1人得た。  

彼は北欧の戦士を思わす衣装で、また、酷く人間っぽかった。  
身長4mの彼は、そのデカさを除けば、まるっきり北欧の気の良い親父だった。  

「・・・こんな奴捕虜にしても、国内法の何に触るか判らん・・・」  

と、何時もの自衛隊風ボヤキとともに、  

その巨人氏、  
自衛隊から今井、今では東方ライン皇国に、回されてきた。  

で、幸い、今井んトコには魔法学校の少女が2人いて、  
言葉は通じなくても意思疎通は彼女らの魔法により、  
「双方の脳内イメージの交換」で、なんとか会話が成った。  

で、彼女らの協力の元での調べによると、どうやら巨人には巨人の世界があるらしい。  

「へえ、北欧神話ってマジなんだな」と、本多隊長・斎藤隊員・民間今井が顔を見合す。  

で、巷でよく見かける狂暴な連中は、  
その世界から落っこちて、「悲しみの余り狂っている」連中なんだそーな。  

で、現在その巨人氏は、  
「東方ライン皇国派遣社員」として、  

こちらの自衛隊施設科で、その上背と怪力を重宝されている。  




103  :翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  :2006/11/11(土)  22:03:37  ID:???

少女は眠っているかのように見えた。  

次元ジャンプ以来、  
転戦に転戦を重ねた歴戦の戦士・陸上自衛隊普通化隊員・斉藤一(はじめ)は、  
廃墟の中の崩れかけた家の中で、  
幼い弟らしき幼児を抱いているその娘を発見した。  

凍死者である。  

「・・・その家も“そう”でしたか・・・」  

普通化隊員きってのナイスガイ・クマラン2曹が、外で待っていた。  
アメリカ海兵隊経験者の2世、またはハーフという触れ込みだが、  
本部や情報部にいた者の常で経歴なんぞは当てにはならぬ・・  
もっとも、他ならぬ斉藤一も謎の多い人物であったが。  

・・・そっちも、“そう”だったのか?  

眠っているかのように綺麗な姉弟を抱いて出てきた斉藤は、  
前日までは氷が張っていた後らしき水溜りの中で紫煙を流している彼に、  
無言のままの視線を投げかけていた。  




105  :翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  :2006/11/11(土)  22:17:29  ID:???

不思議な事に、廃墟と化した村は、  

氷が解けた跡らしい水溜りと、凍死者を除けば、何処にでもあるミスナの平凡な村であった。  
人によってはソー○ワー○ドの匂いのある、ごくごく普通の中世の村。  
そして村には、つい昨日まで、  
健康な生命と生活に満ち溢れていたらしい名残が、至る所に残されていた。  
この、昨日までは平和だったような村に、いったい何が起きたというのだろう。  

斉藤ら、平成の世の自衛隊が、初めて異界に強制召還された時、  

そこは人間側と怪物側、  
否、秩序側人間勢力と混沌側人間側勢力が真っ向から衝突した戦場であった。  

斉藤らは、  
海の向こうの某国の横暴のために、にわかに盛り上がった愛国心?に後押しされて、  
富士の総火演を遥かに上回る2万の兵力と20万の観衆とを集めた国家祭典規模の大演習の最中にあった。  

しかし気がつけば、そこは殺戮の暴風の吹き荒れる地獄であった。  



106  :翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  :2006/11/11(土)  22:30:31  ID:???

「お待ちください・・」  
魔法学校の生徒だったという少女が2人、駆け寄ってきた。  
別の次元世界で、  
斉藤と今井に対し「ファイヤ・ボール」を雨霰と打ち込んできた、  
漫画の中の主人公の様な桁違いの呪力を見せ付けた少女達。  
しかし、  
今は彼女らがいた世界の100分の1の実力も発揮出来ないでいるのだが。  

(次元次元で、精霊たちや魔法発動システムがまるで違うらしい。)  

そんな彼女達が斉藤が抱いている姉弟を覗き込んで、  
何やら魔法語めいた呪文を唱えていた。  

何時もの事だが、何を言っているのかは判らないが・・  
そして彼女らは、平成の世の医者がするように、  
幾らかの触診を済ませた後で、  
2人揃って「ほっとした」ような表情で胸を撫で下ろしていた。  

「大丈夫です・・彼女達は助かります・・」  



107  :翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  :2006/11/11(土)  22:47:35  ID:???

斉藤とクマラン2曹、そして魔法学校の少女らが、  
そんなやり取りをしていた頃。  

村の教会跡で、  
この場にいる全自衛隊のトップであった安室2尉と「今井」が、  
教会跡に残された惨劇の残に絶句して、言葉も無かった。  

安室2尉は、平成の世に昭和の気風を残す、熱血溢れる好ましい幹部自衛官の1人であった。  
「今井」は、平成の世の、ごくごく普通の民間人であった。  
しかし彼らも強制召還以来、あらゆる修羅場を見て、  
日常に埋没させていたあらゆる本領を発揮せざるを得なくなっていた。  

そんな、異世界の「あらゆる場面」を見たはずの彼らが、言葉も、無い。  

安室2尉の護衛である隊員たちが、教会の中に入ろうとして、  
余りの血生臭さに、息を呑んで、凍り付いていた。  

そして安室2尉と「今井」は、静かに教会の外に後ずさりしながら出て、そして、  
その重い扉を、ゆっくりと閉めた。  

今井は、その中から1本のハルバートを持ち出していた。  

村の最後を守った、勇敢な戦士の形見として。  



148  :翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  :2006/11/12(日)  19:38:40  ID:???
>>103-107の続き(104作品は翡翠以外の人の作品でふ)  

昨日までは牧歌的な村だったはずの廃墟の中央で、弔いの炎が舞いあがった。  
その炎は、村人たちの最後の拠り所であった教会を燃やす炎であった。  
人の血肉が焼ける臭いとはまた違った、毒気を含んだ煙が風に流されて行く。  
「・・・」「・・・」  
後ろも見ないで後ずさりをしながら外に出て、教会の重い扉を閉めた後、  
この場の最高位者であった安室2尉と、「今井」は、  
しばし御互いの顔を見合わせた後、手持ちの車輌を側近くによせ、まずは赤外線確認。  
次に「今井」配下の魔法学校の少女2人を呼んで、「魔」の反応が無いかを確認、  
その後、「専門家」のクマラン2曹と斎藤隊員がブービートラップの確認。  
これら総ての「異常無し」の確認を取った上で、改めて2人が中に入って死体を引きずりだしてきた。  
部下にはさせられない。これは上官の仕事である。そして、部下には到底見せられない光景であった。  
クマラン2曹と斎藤隊員だからこそ、潜入させたのである。  
そして、異常な世界の中の亡骸たちを、どうにか部下に見せられる状態にしてから1体1体運び出す。  
安室2尉は主に老人を、膝の壊れている今井は主に子供を、成人男女は曹の2人が。  
「中はどんなだったんです?」などというたわけた質問をする者はいない。  
旅客機墜落事故の現場整理を担当した者達も中に入れなかったのである。  
つまり、これは、尋常な世界の成せる業の現場後では無かった。  
「本隊はどうなっているのだ?」安室2尉が本隊の安否を憂いて空を見上げたが、そこは、  
何の変哲も無いソー○ワール○風の世界の空が広がっているばかりであった。  
後ろで遠巻きにしているドワーフ族がうめいた。「奴らが帰ってきたのだ」  
その周りで、その美しい顔を歪めてエルフ族が顔を背けた。ホビッド族は髭の後ろに隠れていた。  



149  :翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  :2006/11/12(日)  19:40:21  ID:???

北ミスナの空の下、自衛隊の混成戦闘団と今井の軍閥が青ざめた顔をしている時、  
ここ東方ライン皇国では、平和な時間だけが流れていた。  
そして自衛隊の行動サポートのために結成・練兵されている派遣用将兵らは、  
1番最初に支給されたショートスォードと小盾で、来る日も来る日も白兵戦を磨く日々であった。  

また軍閥の首魁である今井に特に懇願され、軍事顧問として派遣されていた自衛隊の諸氏らは、  
今は特にやる事も無いので、今井がWW2から連れてきた日米英蘭の石油会社のテクノクラートと、  
馬上にて石油の埋没している可能性のある地域を探して汗を流す日々であった。  

たしかにミスナ上空はグレムリンが跋扈する空域のため、  
あの空では自衛隊の誇る装備が使えないままでいるが、  
燃料確保の目処さえ立てば、自衛隊に恐れる存在は何処にもいない筈・・であった。  



173  :翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  :2006/11/14(火)  18:55:56  ID:???
>>148-149の続きでふ  

「う・・ん」  

本田隊長の腕の中で、  
凍死していたはずの少女と幼い男の子が目を覚ました。  

「ほっほー!譲ちゃん達は運が良い!!!」  

さっきまでは後ろで遠巻きにしていたドワーフ族達が歓声を上げて、どっと駆け寄ってきた。  
「歩くビヤ樽」だの「エルフとドワーフの喧嘩は犬も食わぬ」など、  
色々オイオイ、な喩えにされる髭モジャ妖精族の彼らだが、(妖精族の癖に嫌に人間臭い種族だ)  
根っからの武辺なだけに、彼らの飾り気の無い温かさは本物であった。  
(民話にも歌われた有効種族からの折り紙つきの“無愛想な気難しさの壁”をクリアさえすれば)  

「奴らが帰ってきたのだ、と言ったな?」  

斉藤隊員が、小柄でずんぐりとした体に戦斧を抱えた彼らに質問を投げかける。  
途端に、  

ほっとした笑顔を見せかけていたエルフ族が再び顔を歪めて顔を背けだした。  
ホビッド族は髭族や斉藤のズボンにしがみ付いてワナワナと震えていた。  
そしてドワーフ族は、まるで猛犬の様に歯を向き出して、勢いよくつばを地面に吐きかけた。  
大本は大地の妖精族である筈のドワーフ族のこの態度が、“奴等”をよく物語っていた。  





184  :翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  :2006/11/15(水)  04:32:54  ID:???

>>173の続きでふ  

0400  

少し早めの時間である。  

当直で巡察中の「菅原一曹」隊員氏らの班が、  
朝食担当の糧食班を起こすために、暗闇の中でぼそぼそと声をかけ始めている。  

世界の総てを浄化する朝日は、まだ昇らない。  
そんな肌寒い中を、パチパチと燃える焚き火の炎を見つめる、小官どのと、「今井」。  

「私のお父さんは、両腕に刀傷が一杯あるの!お願い!探してください!」  

狂気の様な勢いで死体を掻き分けていた少女の、  
その振り向いた時の涙一杯の目が、2人の瞼(まぶた)の裏にちらついて、離れない。  

村の教会の中で、最後まで戦ったであろう戦士の形見、ハルバートの槍。  
今井が握っているその槍の影が、焚き火の炎と悲しげに踊っていた。  

何も語らない今井から、小官どのが、  
その槍を受け取ってぽつりと言った。  

「あの娘の親父さんのハルバートなんだろうね」  

安室2尉は炎に照らされた彫像の様な顔で、槍だけを静かに握り締めていた。  

ぶわり・・、と、焚き火の炎がひときわ熱く、燃えた。  



185  :翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  :2006/11/15(水)  04:40:41  ID:???

地の精霊族の末裔であるドワーフ族が猛犬の様に牙を剥き、大地につばを吐き捨てていた。  

原型を留めている亡骸は少なかった。  
もっとも、全部原型など留めていなければよかった。  
原型の留めいてる亡骸は、奇妙なアートと化していた。  
その「悪意そのものを塗りたくった図」を見たのは、  
安室2尉、クラマン2曹、斉藤隊員、民間今井の4人だけである。  
「死者への弔いである!方々、死者への無礼の無き様、宜しく願いつかまつる!」  
戦国時代からの生き残り・剛勇・山中鹿介の掛け声のもと、  
何時ものゾンビ化封じを兼ねた懇切丁寧な埋葬が始まった。  

「やってやろうぜ!・・・やるしかねえしな!??」  

陸自の誰かの勇ましい声が聞こえてくる。  
その声に助けられた者達は、いったい何名にのぼるだろう。  
あちこちで嘔吐を催す者達には、斉藤隊員の激が飛んだ。  
「まだ生存者がいるかもしれん!気分の悪くなった者は・・!!!」  
汗まみれ、血まみれの埋葬作業が始まった。もっとも、今に始まった事じゃあない。  
あちこちで嘔吐する者達には無理をさせず、生存者捜索に振り分ける。  
もう、何度も繰り返した事だ。効率!効率!効率!  

しかし、結局のところ、夕刻までこの作業にかかりっきりだろう。  
現場に顔を背けたエルフ族とホビッド族には、  
無理をさせず、  
ケンタウロス族とともに後方警戒に当たって貰う事にした。  

ここは災害現場じゃない。・・戦場なのだから・・。  







108  :翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  :2006/11/11(土)  22:58:21  ID:???

ショート  C1  

クマラン2曹と、カラス天狗が、青空の下で寝っころがっている。  

「あんさん、つよおおますな」  

「あんたもな☆(^^)」  

「・・・・・」  

「・・・・・」  


ぼーっとした昼下がり。  

小官どの(安室2尉の通称)の隊が到着するまでは、ただただ待っているだけの、平和な時間。  

ひゅるるるるる、と、上品な方のハーピー族が天高く鳴いて、雲間の向こうを泳いでいる。  

「きもちよさそうでごわすな〜」  

「んー☆(^^)」  

・・・って、アンタ、賞味国は何処なのさ?  

・・・あんさんだけには言われとーおまへんわ〜  

平和な、平和な、ファンタジー世界の昼下がり・・・  






141  :翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  :2006/11/12(日)  01:55:11  ID:???

ショート  C2  

クマラン2曹と、カラス天狗が、青空の下で寝っころがっている所に、  
「あ”〜、そこに居ましたか☆」  

戦国武者を数名引き連れて、ぽかりぽかりと民間今井がやってくる。  

自衛隊と共に死線を潜って幾星霜。  
最近は最強の僥倖を誇ったタッグの斉藤隊員が、  
ざぶざぶと湿地帯でワニ狩りばかりしているものだから、すっかり暇になったらしい。  

そういや今井も勝手な人間だが、  
斉藤隊員も随分自由奔放な方である。  

いくら親友でも、あそこまで独断専行を許せるものなのかな?  
「はじめっち、もしか情・・」  

娑婆の人に言われた斉藤隊員は、フッと笑って、空を見ているだけだった。  

やれやれやれ。まだまだ男らしさか優しさが足りないよなあ、俺。  

「じゃなくて、・・娑婆に愛人囲っていねえ?」  

「俺の給料じゃあ、無理だあ」  

愉快そうに笑う斉藤氏。ああああああああああ。すまねえなあ、、、。  




147  :翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  :2006/11/12(日)  19:34:53  ID:???
>>111  関連作品  

ショート  E1  

「あ”−今井君?ちょっとちょっと」  
「今井の人」に呼ばれた「今井君」は、現在18歳(いいなあ)。  

根っからの軍事ファンらしく(もっと幼い時に)例の大演習の時に巻き込まれた市民の1人である。  
そして自衛隊に守られた市民20万人の中で、  
最も早く現実へと適応・覚醒した市民の1人でもある。  

「は、はい!なんでしょう!」  
うはっ。キラキラしていてイイなあ。。やりなおせたらな・・じゃねえって。  

「実はね、小官どのの隊がさ、そう、あの毎回最先鋒を務める精鋭部隊。  
 そこがちと人手不足でね。それで君を見込んでウチから派遣社員として行ってもらいたいだな。」  

「本当にいいんですか!?僕、身長170cmも無いんですよ!?」  
「169cmの健康体で学力優等、その上、自衛隊に理解がありゃ十分OKだべな。」「やったー!」  

「(↑羨ましい奴;)まあ、あれだ。イザっつー時はソ連軍と本土決戦で刺し違える気だった世代だから、  
 ちょおーっと荒っぽいと思うんだけど・・まあ、君なら大丈夫じゃね?  

 バスケOK、ラグビーOK、柔剣道OK・・  
 性格立ち振る舞いは先輩年配組に特に好かれそう・・完璧だな。」  

「いきます!」って、あらら。人の話を聞かないでいっちまったよ。  

・・まあいいや。書類は俺が適当に書いておこう・・。  









168  :翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  :2006/11/14(火)  17:53:04  ID:???

ショート  C3  

クマラン2曹とカラス天狗氏が青空の下で寝っころがっている所に、  
小官どのの隊がやってくる気配が風に乗ってやってきた。  
「じゃあ、そろそろ失礼しまっさ」  
カラス天狗氏は立ちあがり、空の彼方へと飛んで行った。  
それを見上げながら、見まわり地点に到着した安室2尉たち。  

そして、接近しなければとても判らないほど、巧妙に偽装され、  
かつ、風通しのよい清潔な塹壕で敬礼しているクマラン2曹。  

安室2尉は、ボコボコに腫れ上がった顔のクマラン2曹から正午前の報告を受け取った後、  
クマラン2曹を引きとって、ここを「菅原一曹と新人隊員達」に任せて帰路につく。  
警戒線から離れて2人だけになったところで、クマラン2曹からの「本当の報告」を聞く小官氏。  

「どうだった?」「流石カラス天狗氏(^^)」「蘭君が相手を認める事もあるんだなw」  
「他には?」「底の見えぬ奴ですよ☆(^^)」「ん・・、御苦労・・、・・その軟膏は?」  
「今井氏に売りつけられましたよww(^^)」「灰色の忍者氏特製軟膏●か?効き目は?」  

「流石忍者薬ですね凄い効き目です☆(^^)2尉も如何です?」  
「洋モク1箱と交換でいいかな?」  
「まだストックを持っていたんです?(^^)」  
「これくらいは(部下に)好きに吸わせてやりたいからな・・・」  
「・・・(^^)・・・。」  

そんな2人の頭上の青い空の遥か上空で、  
上品な方のハーピー族が、気持ち良さそうに歌を歌っていた・・。  



169  :翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  :2006/11/14(火)  17:54:28  ID:???

ショート  C4  

「ふふふふふ☆どうだい?クマラン氏は強かっただろ?w」  
「もー、おこったってーな旦那。御蔭でワイのハンサムな顔が凸凹でっせホンマw」  

こちらは今井んトコの陣地。  
で、顔が凸凹になっているカラス天狗氏の、充実し切った様な顔に軟膏を塗り捲っている今井氏。  
「実際カラス天狗氏と試合って引き分けるなんて、タダゴトじゃねー☆」  

試合った後らしい2人の側を通りかかった時、今井氏は、  
目の前のアオタンだらけの2人を見て、含み笑いを止めるのが大変であった。  
女性の人や文系の人にはワカランかもだが、互角の相手が居ることの、幸せ。  
カラス天狗と言えば、古き良き日の本妖怪の代表選手。  
まあ中には人さらいの人食いの僧侶たぶらかしのと言った馬鹿者も多ではあるけれど、  
基本的には修験道という荒修行をしていた人達のなれの果て(江戸期は特に)。  

人面獣身の有翼人でカラスのクチバシから人語を喋る図、を、進化というべきか、畜生界に堕天したというか。  
武芸に優れ有名な創作?では源平合戦の源義経(みなもとのよしつね)の武芸師範だったり。  

んな妖怪戦士の代表格と五分とか。ほんま、あーた、何者ですかと。(www))  



170  :翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  :2006/11/14(火)  17:59:15  ID:???
ショート  C5  

「でもあれだよね。鞍馬山のカラス天狗氏と、クマラン氏。偶然なのかしら?」  
「・・今井殿?カラス天狗氏は“何時”“我々に”回して下さるのです???」  

カラス天狗氏がいないとこで、今井の戦国武者勢が、ちょっと不満そう。  
こちらの手持ちの馬は先の大戦で大悪魔に全部乗っ取られており、  
ゆえに我らは新撰組宜しく徒歩で駐屯地周辺を見廻りする日々。  
流石に徒歩では効率悪いという事でソー○ワール○なこの世界の村村から現「金」で馬を借りたりしているけど、  
馬代だけでも馬鹿にならない訳で。(正確には銀貨だが、面倒臭いので金貨でまとめ借りしている)  

馬は仕方無いとしても、  

この世界では“当然ながら”彼らの武具を細かく修繕できる職人など、居ない。  
それで仕方なく大都市まで出向いて、ここの仕様の刀鍛冶に鎧職人らに高い金を払って、  
少しでも故国の武具に近い奴をオーダーメイドしているのだけど・・やっぱ、なんか、違う・・。  
御蔭で今は、サーベルとかシャムシールがメインウエポンとか。(ランスを使えよランス)  

まあ、でも、そりゃ燃料の(も)無い自衛隊さんも同条件。  
六四式や八九式小銃、どうやって整備しているんだろう?  
そういや小官どのらは六四のパーツ1つ1つの名前を、ソラで言えていたっけ。  
斎藤氏も目隠しで組み立てて見せていた。(以外に簡単だぞ?とか言うがホンマかいな?)  

・・・彼らに「靴の小人さん」は要らないのかもね☆  

「自衛隊に燃料補給のメドが立つまで」「そんな」  
「いいじゃん。アチラには南嬢がいるんだもん。」「・・。」  

カラス天狗氏の姿に心底脅える戦国の女房たちと、  
カラス天狗氏がヌイグルミかペットにしか見えない現代女性の感覚じゃー勝ち目無しよね。  
本多隊長が居る御蔭で、人間世界でも幸せだろうね、カラス天狗氏。  


171  :翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  :2006/11/14(火)  18:19:18  ID:???

ショート  E2  

今井の人に呼ばれた今井君(現在18歳)が、「いきます!」って、  
人の話を聞かないで行ってしまってから、数日が立った。  

まさかこの子が後に、  
アーデルハイド嬢をバイクに乗せて、凄い事やらかすとはね☆  

それはさておき、  
今井君の教官は「菅原一曹」に決まったそうな。  
小官どのの新隊員(正確には違うが)達への愛情がわかろうというものだ。  

新隊員挨拶では、  
自己紹介の場でそれぞれが次元ジャンプ前後の辛い思い出を語り合い、  
意外な程に親睦感が深まったそうな。  

「なんか、スッゴイ、いい雰囲気でした」  

「んー、そうか・・先輩達に可愛がられるようにな・・」  




202  :ほーせき蜜柑  ◆T0nRgrwDYs  :2006/11/17(金)  23:46:30  ID:???

ショート  D1  

「・・・それだけ自衛隊に対する市民の期待が高いという事だ。」  

大隊本部の天幕の中で、西崎司令の訓辞が続いている。  
西崎司令の訓辞を聞いているのは本多隊長だ。  

「身の引き締まる思いです。」  
「そうだ本多君。今後も市民本位で・・。」  

そこまで言って、  
生真面目な訓辞を延々と続けていた西崎司令は、  
「フウ、。」と、なんだかな、な、深い溜息をついて、腰を下ろしてしまった。  

そして、几帳面に西崎司令の訓辞に全身で答えていた本多隊長も、  
なんだかな、な、表情で、天幕のあらぬ方向を見つめている。  

ふう。  

はあ。  

市民本位。  

・・・いや、まあ、確かに、迷う類の事では、無いのだが。  



203  :ほーせき蜜柑  ◆T0nRgrwDYs  :2006/11/17(金)  23:47:23  ID:???

ショート  D2  

確かに、現在の時空流浪の市民の大勢は、自衛隊に理解がある。  
しかし、我らが意のナナメ上を逝く「生命体」が存在する事は、  
何も極東某国某国某国の専売特許では無いのは、今更の事である。  
例えば、某社○党系の議員などは、  
某自○党の議員のように、数の論理でゴリ押ししたりはしないだろう。  
だが、綺麗事の演説はともかく、  
彼らとて、彼らの属する団体の利益誘導を図っている訳だ。(例外除く)  
だが別段、彼らが悪い訳ではない。  
政治家だって、最初は理想の念に燃えて出馬するものなのである。  
そして、喉を潰した街角演説で、数の論理で黙らさられる議会の中で現実を知り、変貌する訳である。  
要は、理想の念に燃えた新人議員すら変貌させてしまう場を作ってしまう国民のレベルが問題なのである。  
もっとも市民のレベルがどうの、というのは、現実を知らぬ学徒の常なのだが。  
学徒は知らぬ。世の中の企業体がどんな思いで経営に苦労しているかを。  
別に殴打足蹴でもって部下を馬車馬のように追いたてるのは某系企業の専売特許では無い話であった。  

また人間は、自分に直接利害が及ばぬ限りは、我関せず。  
偽善といわれようが赤い羽共同募金に寸志を入れれる人間ならば上出来だ。  
そしてこれが何かと責任を問われる官僚の身であるなら、尚更だ。  
当然ヤルべき自らの使命に殉じて動いた幹部が、報われる事無く首を切られるのが現実世界。  
だから、個々人は口をつぐむ。見猿言わ猿聞か猿。だが、彼らはまだまだ上等な部類だ。  
何せ、責任を負わぬ者に限って、やたら声がデカイ。  
郷土から出征してゆく若者を万歳三唱で送った連中が、復員してきた彼らに何をしてやっただろう。  



204  :ほーせき蜜柑  ◆T0nRgrwDYs  :2006/11/17(金)  23:49:07  ID:???

ショート  D3  

「でも、あの時よりはマシです。」  
「ああ。」  

PKO出動の時くらい、心配顔で見送ってもバチは当たらないじゃないか。  
自衛隊派兵反対!を叫ぶなら、国会議事堂前でやってくれよ。  
(対外イメージ操作のための演出なら見上げたものだが。)  
こちとら国民の血税で給料貰っている以上は、その勤めを果たさにゃならんだけだ。  
新婚だってーのに・・。  
故郷(クニ)の老親(おや)を見れるのは俺だけなのに・・。  

「では、すまんが、行ってくれ。」  
「本多隊、行ってきます。」  
「部下達を、宜しく頼む。」  

本多が大隊本部の天幕から出てくると、奇妙な連中が叫んでいた。  
ファンタジー世界に来ても、奇妙な事を叫ぶ奴は叫ぶ。  
まあ、大演習の観客が飛ばされたのが主体なのでその絶対数は多くないのだが。  
「・・・・・・・。」  
本多隊長がげんなりとした表情を浮かべていると、  
本多の袖を引っ張る者がいた。  

頭の上にキツネの子を乗っけた今井氏である。  



205  :ほーせき蜜柑  ◆T0nRgrwDYs  :2006/11/17(金)  23:50:50  ID:???

ショート  D4  

「まま、さ、どぞ」  
「公務中ですので・・」  

・・・また、今井氏に無理矢理「浜辺」に拉致られた。  
まあ、隊は斎藤が居るから大丈夫だが。  
本多が「公務」「職務」「公務員」「命令」等を連発して、  
なんとかやんわりとこの袖を掴む手から逃れようとするのだが、  
どうにもこの人は「しつこい。」・・職務中なのに。  
まるで故郷で御見合い写真を持参して家にまで上がり込んで来る叔母さん達のようだ。  

それは置き、今井の側には、  
今井に雇われたらしい戦災未亡人達の綺麗所がそろっている。  
良く見ると、  
耳の長い華奢な妖精族の女性もいる。・・エルフ族か。  

・・・あれは、噂に聞く櫻の木の精霊・・それともハイエルフ族?  
なんとも華やかな薄桃色の和服を羽織って、なんとも言えぬ見目の良さ・・。  

・・・なるほど、安室(2尉)さんの言うとおり、美しいものだな・・・。  



206  :ほーせき蜜柑  ◆T0nRgrwDYs  :2006/11/17(金)  23:51:34  ID:???

ショート  D5  


・・・・・・・・・・。  

「・・・マスコミに叩かれそうな図ですね。」  
「まあ、そう言わずに1杯。桜酒です。美味い(甘い)ですよ?」  

・・・非番の日に、  
クマラン2曹が1斗樽ほど一気飲みして、妖精族から大歓声を受けたという、アレか。  

「すみません、本当に急ぎますので・・。」  

では、これをどうぞ、と言われて、何やら今井氏が押し付けた物。  

「これは・・・?」  
「ミスナの戦いで得た至宝の1つで、“思い出石”という古代魔法具だそうです。」  
「?」  
「まあ、御守り代わりに持って行ってください。」  

「本当に辛くなったら、この“思い出石”を月に掲げてみてくださいね。」  

・・・今井氏は奇妙な首飾りを押し付けて、どっかに逝ってしまった。  
1人取り残された本多隊長は、キツネに包まれた様な態で、自分の隊に帰り、  
居住区の行動制限の規制緩和を叫ぶ市民の声を尻目に、  
近隣の大都市との交易路の警護へと出発していった。  
その2日めの夜。  
望郷の念に駆られて泣いている若い陸士達が居たので、一緒に“思い出石”を掲げてみた所・・・  



207  :ほーせき蜜柑  ◆T0nRgrwDYs  :2006/11/17(金)  23:55:46  ID:???
ショート  D6  

3日目の朝  
福島隊と交代して居留区に戻ってきた本多隊長は、  
何も言わず今井氏の手を握り締めていた。  

そして、本多隊の若い陸士の面々が後から後から御礼にやって来た。  
「何があったんです?」  
と今井氏が聞くまでも無く、彼らの方から話してくれた。  

彼らは2日目の夜、  
国の家族を思って塞いでいる所を本多隊長に発見されて慰められていたが、  
急に何かを思い出した様子で本多隊長が首飾りを月に掲げてみたらしい。  

すると、首飾りが暖かげな光を放ったそうだ。  
そして、えも知れぬ芳香を放って、明滅して消えた、と。  
で、首飾りは消えたが、暖かな空気と芳しい芳香はずっと各自を取り巻いていたと。  
ある者は首飾りの放った光の中で、天使たちが踊っていたとも証言していたそうな。  
(ある者は祭囃子の笛の音すら聞こえたという。)  

この不思議な出来事にすっかり度肝を抜かれて、彼らの悲しみも何処へやら。  
そんな訳で、本多隊は良い雰囲気でそれぞれが仮眠につけたらしい。  

そしてその夢の中で、  
平成の世で彼らの帰りを待つ家族と何事かを楽しく話し合えたそうな。  
そして滂沱の涙を流して御礼をいって帰っていった隊員達。  

・・・この様子だと、もっと、はじめっちと探検に行かなきゃイカンなあ・・。  
(大勢で行くと、カンの良い山師や他の冒険者に取られちゃうから・・)  

(ショートD“夢の中で会えた光景”〆)  




229  :ほーせき蜜柑  ◆T0nRgrwDYs  :2006/11/24(金)  02:12:55  ID:???

夜の雨は、次第に小雨になっていった。  

北ミスナの夜の雨である。  

2人がガチガチと歯の根が合わぬのは仕方が無いだろう。  

まばらな大木の1つに寄りかかって、斎藤隊員と民間今井が、ズルズルと身を沈めていた。  

あの、恐竜のような巨体と、ガラス玉の中に濁った暗黒を詰めた虚無の目。  

「はじめっち。」「ああ。」  

東方ライン皇国の支配権を得た今も、戦場の恐怖は忘れていない。  

その「今井」の差し出すペットボトルの水をごくごくと飲み干して、一息つく斎藤隊員。  



230  :ほーせき蜜柑  ◆T0nRgrwDYs  :2006/11/24(金)  02:16:12  ID:???

斎藤氏の背負いし荷物は、  

あの暗黒の虚無の目にカチカチに凍らされて、今は無い。  

だから、今2人にある飲料物は、  

「今井氏の鎧代わり」のペットボトル類ばかりで、他には無い。  

「まだ、ペットボトルを背負っているんですね。」  
「余所の水など信用できませんですからの。」  
「ミリミリなら濾過装置くらい買うでしょうに。」  
「申し訳無い。ミリミリはミリミリでも、私は貧乏机の戦史派でして。」  
「ははっ役にたたネエ。」「ケッ。」  

自衛隊のあらゆる訓練を経験した彼は、極めて度量の広い男であった。  
そういう男でもないと、民間人とのタッグなど、有り得なかっただろう。  
その斎藤とタッグを組んだ今井と言う中年民間人は、典型的な一般人「以下」であった。  
何より駄目駄目な事に、膝を壊していた。  
そのうえ、ダニやノミや蟻や薮蚊や蝿を嫌う事、毒蛇猛獣を警戒する事、都会の女の如しであった。  

・・・だからかもしれない。  

度量は広いが、誰よりも気難しい彼と、出会いの最初から馬が合ったのは。  

自衛隊と民間人の、戦場凸凹コンビの誕生であった。  



231  :ほーせき蜜柑  ◆T0nRgrwDYs  :2006/11/24(金)  02:19:19  ID:???

ただ、  

民間今井氏は、どんなヤバイ場面でも、彼を見捨てて逃げるという事が無かった。  

それが斎藤の彼への信頼を決定づけさせていた。  

「はははは」「ははははっ」  

「・・・・・・」「・・・・・・」  

軽口を叩き合った後、2人はまた、夜の雨の中を歩き出そうとしていた。  

ぐずぐずしていると、囲まれてしまうかもしれない。  

・・・2人の相手は、異界の、巨大な怪物の群れ、で、あった・・。  

その怪物の群れと、マトモにぶつかった北ミスナの諸国同盟軍(ミスナ地方エルフ族主体)は、  
その主力であるYXz大公率いる魔法大隊が壊滅、行方不明となったのを機に、  
防戦一方となり、国境線へと引いていった。  

また安室二尉率いる戦闘団の主力も、  

最後の最後まで戦場に留まっていたが、今はどうなった事か・・。  



232  :ほーせき蜜柑  ◆T0nRgrwDYs  :2006/11/24(金)  02:20:50  ID:???

本多隊は、  

今井の秘蔵っ子である魔法学園の少女2人を連れて、無事に落ち延びてくれただろうか。  
「灰色の忍者氏」も、  
東方ライン皇国の全軍も付いているから全滅する事は無いだろうけれど。  

今井氏の主力戦国大隊は、  

彼らの乗馬が残らず魔族に乗っ取られ、見る間に化け物と化したために、  
その足を失い、全兵、槍先を揃えての白兵突撃戦となった。  
そのために、列国史上最大の被害を出して壊滅してしまった。  

その彼らの退却を助けるために、斎藤隊員が飛び出して行った。  
その斎藤を助けるために、  
今井は撤退の指揮を「灰色の忍者氏」に任せて、これもまた飛び出して行った。  

そして逃げ遅れた者が倒れ、  

逃げおおせた者は、それぞれ散り散りに落ちて行った。  



233  :ほーせき蜜柑  ◆T0nRgrwDYs  :2006/11/24(金)  02:22:13  ID:???

雨に濡れた地面に倒れた氷の彫像が、粉々に砕け散ってゆく。  

降り頻る雨の中、怪物の2mの巨腕が、  

先ほどまで生きていた氷の彫像を、まるでボーリングのピンを倒す様に薙ぎ払っていた。  

天幕と陣幕が燃えていた。  

この場に戦闘車輌が取り残されていないのは幸いだった。  

斎藤隊員の六四式が、  
ボリボリと人間を食っている巨大な怪物の頭にマトモに命中したが、  

1発では死なないらしい。  

その、昆虫のような、爬虫類のような顔面が無くなるまで、  
強力な「7.62mm  NATO弾」が叩き込まれた。  

そして枯れ木の大木の様に倒れる巨大な怪物。  

しかしその際にも左右から「大冷魔法」と呼ばれる絶対零度を思わす死神の吐息が襲いかかる。  

斎藤隊員で無ければ、その時点で死んでいただろう。  



234  :ほーせき蜜柑  ◆T0nRgrwDYs  :2006/11/24(金)  02:28:18  ID:???

グォン!  

万が一の「死を前提とした伝令」のためにここまで牽引されていた偵察中隊のバイクの爆音が、戦場に響き渡った。  
そして勇敢な偵察隊員の1人が駆るバイクが、夜の雨の中を鮮やかに疾走したかと思うと、  
「大冷魔法」が吹き荒れる地獄の戦場の中から斎藤隊員を拾い上げ、僥倖にも生還してきてくれた。  
まるで戦隊物のリアル版を見ているようだった!  
しかし、即座に恐ろしい地響きを立てて、闇の中を炎に照らされた巨人たちが追いかけてくる。  
中には空を飛ぶ怪物もいた。「アンタはこのまま逃げろ!!!!!!」  
雨の中、森の入り口で斎藤隊員を受け取った今井が叫ぶ。  
勇敢な彼(偵察隊員)の事だ。「荷物」がなければ、雨の中とはいえ、無事逃げのび、生還するだろう。  

今井は、  
特別に選んで側に控えさせていたケンタウロス族の勇者の背に、  
昏倒している斎藤隊員を縛り付け、  
彼らと共に夜の森の中へと逃げ込んでいった。  

この時、奇跡が起きた。  



370  名前:  翡翠(星砂)  ◆PujjQOi5D.  2006/06/21(水)  23:32:39  ID:???  


ショート  1  

斎藤と今井がとある廃墟にやってきた。  
廃墟の上空には、その街を滅ぼした火竜が我が物側で旋空している。  
慎重な偵察の結果、火竜以外に敵性生物が存在しないらしいので攻撃開始。  

したらば火竜の香具師、  
摩訶不思議な力でバリアのような力場を張っている模様。  

斎藤と今井がほうほうの態で逃げ出したのは言うまでも無い。  


371  名前:  翡翠(星砂)  ◆PujjQOi5D.  2006/06/22(木)  00:05:39  ID:???  


ショート  2  

火竜のバリアに敗走を余儀なくされた斎藤と今井。  
だが、そんな事で人喰いトカゲの討伐を諦めるような2人じゃない。  

斎藤は自衛隊隊員としての誇りにかけて。  
今井は異民族に泣きついてきた誇り高いエルフ族の美少女の手前で。  

「どうする?」「陸自の砲列によるアウトレンジ」  
「バリアが張っていてもか?」「陸自の砲なら打ち破れるのでは?」  
「打ち破れなかった場合はまたアレだぞ?」「ではヘリの攻撃で。」  

司令部の許可により貴重なヘリによる威力偵察が始まった。  

だが、信じがたい事にヘリの火力でも火竜のバリアを打ち破れない。  
小癪なヘリに激怒して猛然と追撃に移る火竜だったが、現代科学の粋たるヘリには追いつけない。  

悔し紛れに火竜が火を吹いた。  
全く、生物らしからぬ火炎放射器ぶりであった。  

しかし・・バリアを解除するのを忘れていたらしい。  

あれほど威風と荘厳を撒き散らしていた火竜が、  
見るも無残に丸焼けのトカゲと化して落っこちてくるではないか。  

火竜は、斎藤率いる陸自普通科の射撃の的と化して、  
こんどは香具師の方がほうほうの態で逃げていく番となった。  

路雄土巣島から再び別世界に飛ばされて、最初に得た勝利であった。  


373  名前:  翡翠(星砂)  ◆PujjQOi5D.  2006/06/22(木)  23:14:46  ID:???  


ショート  3  

路雄土巣島から別世界に飛ばされた自衛隊の駐屯地。  
ここでは最近、ある困った事に悩まされ続けている。  

「  偵察  」と称して  
野外で実戦して回る斎藤と今井に倒された人外達がゾンビとなって、  
自衛隊駐屯地を取り囲みだしたのであった。  

もっとも、  
この区域のゾンビ達は映画で見る標準タイプらしく、  
「  う”〜  う”〜  」  
と  唸ってばかりで大して強くは無い。  

強くは無いのだが・・・毎夜毎夜、薄気味悪いったらありゃしない。  


374  名前:  名無し三等兵  2006/06/22(木)  23:43:20  ID:???  

元1は逃げたん?  


375  名前:  翡翠(星砂)  ◆PujjQOi5D.  2006/06/22(木)  23:45:41  ID:???  


ショート  4  

「  ああ、〇〇に帰りたいな  」  

最近、本田を悩ます「部下達の声」の最たるものは、  
部下達の「  望郷の嘆き  」であった。  

正直、環境がどうの、  
敵性生物がどうの、弾薬燃料の残りがどうの、女がどうの。  
そんなもんはナンとでも我慢できるが、望郷の念だけは、どうにもならない。  

老いた父母がまだ健在な者たちの、声。  
家に妻や生まれたばかりの赤子が待っている者たちの、声。  

「  ウチの坊主、今度小学校に上がるんだ。  」  
家族の写真を見つめて目を細めている部下達と、何もしてやれない自分。  

本田だって、  
家には妻子が、実家には両親が待っているのである。  
部下の思いは痛い程解る。解るが、神ならぬ身にはどうにもできない問題だった。  

最近は、部下に隠れて飲む酒の量も増えてしまった本田であった。  



378  名前:  翡翠(星砂)  ◆PujjQOi5D.  2006/06/23(金)  00:44:14  ID:???  


ショート  5  

「  本田隊長殿、やせましたですね  」  

今朝も寸分の隙も無くビシッと決めている本田隊長。  
全く惚れ惚れとする位、鑑になる男だった。  

「  あれで隠しているつもりだからな  」  

朝から、寸分の隙も無い本田である。  

しかし、実は本田が部下に隠れて、  
連日連夜したたかに酒を飲んでいる事に気付かない2人では、無い。  

「  あれじゃ体壊しますよ  」「  言うな  」  
「  女(おんな)顔負けの化粧上手ですが・・・さて  」  
「  何か上手い手でもあるのか?隠さずに言えよ  」  
「  本田隊長が女好きなら、サッキュバスでも何でも捕らえてきますがね・・・  」  
「  アイツはコレ1本だよ  」「  どうしましょうかね  」  

どうにかしてやりたいが、どうにもできない。  
・・・良い考えも浮かばない。  

部下の前で精一杯、気を張っている本田。  
その本田を見ていられなくて、  
2人はその日もまた「  偵察  」と称して駐屯地の外に逃げ出すのであった・・・。  


379  名前:  翡翠(星砂)  ◆PujjQOi5D.  2006/06/23(金)  00:49:19  ID:???  


ショート  5  

「  本田隊長殿、やせましたですね  」  

今朝も寸分の隙も無くビシッと決めている本田隊長。  
全く惚れ惚れとする位、鑑になる男だった。  

「  あれで隠しているつもりだからな  」  

朝から、寸分の隙も無い本田では、ある。  

しかし、実は本田が部下に隠れて、  
連日・精神安定剤や睡眠薬まで服用している事に気付かない2人では、無い。  

「  あれじゃ体壊しますよ  」「  言うな  」  
「  女(おんな)顔負けの化粧上手ですが・・・さて  」  
「  何か上手い手でもあるのか?隠さずに言えよ  」  
「  本田隊長が女好きなら、サッキュバスでも何でも捕らえてきますがね・・・  」  
「  アイツはコレ1本だよ  」「  どうしましょうかね  」  

どうにかしてやりたいが、どうにもできない。  
・・・良い考えも浮かばない・・・。  

部下の前で精一杯、気を張っている本田。  
そんな本田を見ていられなくて、  
2人はその日もまた「  偵察  」と称して駐屯地の外に逃げ出すのであった・・・。  



515  名前:  翡翠(星砂)  ◆PujjQOi5D.  2006/07/08(土)  14:08:01  ID:???  


法皇歴2XXX年・夏。  
法皇国扶桑の首都・聖京の法国議事堂が、  
史上最悪の犯罪組織である「永遠の千年魔道帝国」の武装SS小隊に占拠された。  

だが、幸いな事に、  
その前日に突如『自衛隊』と名乗る謎の武装集団が、法皇国・不二の原野に出現。  
そのため当日未明、法国の全閣僚・全代議士が秘密裏に現地入りし、  
その武装集団との交渉に入っていたため、法国議事堂内はほぼ空であった。  

現在、法国議事堂を占拠した集団は、  
この謎の武装集団『自衛隊』によって  

『  全  滅  』が確認されている。  

だが、彼ら『永遠の千年魔道帝国』の本隊は、  
エルフ海軍連合王国首都・霧笛にあり、現在も連合王国政府軍と交戦中である。  
彼らの要求する声明は「破壊!破壊!破壊!」と、完全に常軌を逸しており、  
目下、各地にて連合王国政府軍を殲滅、女王宮殿へと侵攻中との事である。  

万が一、彼らによりエルフ海軍連合王国が制圧されてしまえば、  
連合王国に住む数十万の邦人の生命が、殺戮の濁流に飲み込まれてしまう。  

至急、『自衛隊』と『法皇国第一先遣軍』は、  
エルフ海軍連合王国の邦人救出に出動すべし。  

『自衛隊』は先の法国国会議事堂奪回作戦の協力と、  
この『エルフ海軍連合王国邦人救出作戦』への参戦の協力とにより、  
法皇国・扶桑の永遠の市民権と庇護と支援を約束されるものとする。  




419  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  sage  2006/11/27(月)  17:17:15  ID:???  

追い詰められた王国軍は、遂に禁断の魔法を行使した。  

戦場の青天の空に無数の光点が発生したかと思うと、  
大気圏で燃やし尽くされなかった流星群が次々と戦場に降り注いできたのである。  
そして流星弾をマトモに食らい轟音を立てて崩れ落ちる城塞都市の塔。  
やれやれやれ!海自の港湾や空自の基地で禁呪を発動され無くて本当に良かった!  

「全員!掩蔽壕に退避!」  

本多隊長の絶叫。  
そして各隊員も隊長に続いて「掩蔽壕に退避!」を叫ぶ。  
流星雨が大地を震撼させ、流星雨が叫ぶ声が天から隊員達に襲いかかる。  
見れば、流星雨は敵陣にも降り注いでいるではないか。  

あの我が世を謳歌した暴虐非道な連中が、  
自衛隊を敵わぬ敵と悟って、モロとも道連れにする気にまでなっていたのか。  

「だーかーらー、囲んでは逃がし、囲んでは逃がせと言ったのに。」  

手製の「戦場えびせん」をボリボリ食いながらボヤく今井氏に、  
貴族諸侯兵と貴族連中が真っ赤になって何か言おうとしていたが、  
なるほど、何も持たぬがゆえに暴徒となった彼ら。  
何も持つ物が無いまでに収奪されたがゆえに暴徒となった彼ら。  

その彼らが神出鬼没だった理由と、  
その彼らが暴徒になった理由を察し得なかった彼らの落ち度は明白だった。  

自衛隊の絶大な火力支援に調子に乗ったこの国の御坊ちゃん集団は、  
最後の最後まで彼らを棄民程度に見積もり、包囲殲滅を図って今、凶悪なしっぺ返しを食らおうとしていた。  



420  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  sage  2006/11/27(月)  17:18:30  ID:???  

偵察中隊のバイク兵が、辛くも流星弾を食らう事もなく戦場に到達した。  

「特科、所定位置に到着!詳しい指示を求みます!」  
「よし、御苦労!君もここに!」  

ここで最も高位の安室二尉がバイク(オート)兵に向かって労いの言葉を叫ぶが、  
さて、この流星雨の中を、どうやって特科に我が意を伝えよ(渡そ)う?  
敵陣蹂躙の前に、敵の特火点や精霊地雷原を吹き飛ばさねばならぬのだが・・。  
エルフと選抜隊員らが命を張って作成した図面が、空しく二尉の手に握り締められている。  

「ここはウチのホビッド達に任せて貰えません?」と、今井氏。「え?」「え?」  
「よし、ここは俺が!」と名乗りでようとしていた元・通信担当隊員らがズッコける。  
「いえ、ここは我々が」暴徒らに部下を殺傷された二尉の目が燃えている、が、  

後方で待つ20万の市民の食料供給のためとは言え、  
現地の住民殺戮の汚名を被りかねない「綱渡り」をしている彼らに、今以上の犠牲など!  

「と、言う訳だ☆  地元民間代表、という事で宜しく頼む。」  
「り、流星雨が、こ、怖いよ代理!!」  

今井の言葉に、成長しきっても人間の子供にしか見えないホビッド族が震えあがっている。  

「戦勝の暁には、貴族連の食べているマーツ牛を全員に支給するがどーよ?」  
「やります☆」  
「よっしゃ!!頼むぞ!!!」  
「あ”、じゃ、俺もいきますわ☆(^^)」  

そんな訳で特科への図面は、  
クマラン二曹に率いられたホビッド族に委ねられる事となった。  



421  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  sage  2006/11/27(月)  17:26:28  ID:???  

流星雨が降り注ぐ中、信じられない事が起きた。  

王国軍、いや、貴族側からすれば反乱軍・・の、  
最後の大隊と見られる1団が、ゾゾゾゾゾ、と突撃・浸透を図ってきたのである。  
彼らに残された最後の軍隊(市民兵)が、  
その義務と誇りにかけて、余りにも無謀な、死を賭した突撃を・・敢行しようとしているのだ。  

どうやら壊乱・壊走した貴族諸侯軍の居なくなった穴から脱出する女子供を庇っての捨て身の攻撃らしい。  
見れば、この流星雨の中を反対方向へと落ちてゆく蟻の大軍の様な無数の人の群れが見える。  
各所で貴族の館を襲って暴虐非道を働いた連中もいれば、このように捨て身で民衆を庇う者達もいたのだ。  

もっとも、そんな事は現代世界からやってきた「似た者同士」の自衛隊には、  
最初っから判りきった事であった。  
だが、所詮は「中世の特権階級」には判らぬ事。  
いや、真の騎士の魂を持った貴族がいたのなら、判っていた事だろうに。  

ガシャガシャガシャガシャっと、着剣する自衛隊の隊員たち。  
エルフ族はキリキリと弓矢を引き絞って狙いを定めている。  
日の本の鎧武者の集団と、西洋鎧の歩兵集団も、  
誇り高い戦士であった彼らとの最後の戦いを敢行するべく、槍先を外に揃えて潜んでいる。  

流星雨が小雨になった頃、自衛隊の榴弾が、各所で炸裂した。  
ただの1度の一斉砲撃が止んだ後、敵の特火点の過半が叩き潰されていた。  
同じに、戦場の各所から開放された精霊(地雷)の薄透明な影が天に昇りながら消えて逝く。  
しかし、死兵達の前進は止まらない。落ち延びて逝く人の群れの父兄なのだろう。  

六四と八九のマズル・ファイヤが、壮絶に火を噴いた。  

END