289  名前:  翡翠@南十字星  ◆CabqPGtp5s  2006/04/27(木)  12:02:00  ID:???  

(  旧  星砂@南西諸島  ◆CabqPGtp5s  )116+  >>197  
小官殿ほか自制ある板&スレの皆様乙です。とりあえずSSですな。  
(当時の投下準備ネタ)>>249の亜種後継  

リ・アルーム平原の外れの古戦場で  
平原を彷徨う死霊の軍勢と夜明けまで睨み合っていた  
ファンタジア王国軍付・外人義勇騎兵砲兵旅団(自由参加)は  
ファンタジア王国国境付近にて前日の動乱を知るも、無表情な表情を浮かべていた。  

「  私はズィーチを信じている。王国の諸軍がそうであるように。  」  
旅団長は馬を進めながら、呟くように宣言した。  
国境線の遥か先では、前日の動乱にも屈しなかった王国の軍の姿があった。  

かつて、外人義勇騎兵砲兵旅団は、先のズィーチ3000日戦争の最中にあった。  
誰が敵か味方も解らぬ混沌の戦闘の最中、地獄の戦場で見た光明。  
偽書と讒言と罵声とに埋め尽くされた議会の中で。  
ズィーチ3000日戦争の果てに見たゴルゴダの丘の十字架の下で。  

1人の老大公が静かに立って宣言した。  
「  偽・義勇旅団の追討を宣言する。  」  

3000日戦争の地獄の戦闘の果てにみた、真の光明。深淵の闇の夜明け。  
「  私はズィーチを信じている。グ・イータの諸軍がそうであるように。  」  
旅団長は馬を進めながら、そう呟いた  


335  名前:  翡翠@南十字星  ◆CabqPGtp5s  2006/04/30(日)  15:38:48  ID:???  

「  ズィーチの大公達は極めて不死身なのだ  」  
酒場でウオッカを一気呑みしながら満面の笑みを浮かべているゴールド(40)は、  
世界の預言者の様に快活かつ壮大に語るのであった。  

「グ・イータの現・ナ・ナッシー市民会議から  
 如何に議会を大空転させられても、スィーチ大公達は屁とも思っていないだろう。  
 なぜなら議会が如何に空転しようとも、彼らの独自の各公宮には関係の無い事で  
 また彼ら直属の暗殺者達を誰も止める事は出来ない。  
 不死身のお互いがそれぞれに正義を唱えて譲らないのだから、永遠に平行線。光と闇の如く、だ。」  

「  ファンタジアの将兵もシブトサでは負けんぞ!  」  
王国45代を記録しつづけていた書記官の一族もそう気勢を上げた。  
その横で義勇騎兵砲兵旅団の長は無表情に文献に集中していた。  

「  ヲイ、アンタ、アンタは何か意見はないのかよ?  」  
駄羅利教の黄色の頭巾を頭に巻いた美青年が彼に話をフルが  
還って来る返事は文献のページを静かにめくる音だけであった。  

(  >>289  の続き  2  完  )  



457  名前:  翡翠  ◆CabqPGtp5s  2006/05/02(火)  13:11:47  ID:???  

ズィーチとファンタジア王国国境では、  
未だにナ・ナッシー市民会議に潜入した謎の工作員による,  
両国紛争に向けての地道な工作が行なわれていた。  

北では  ズィーチの旗を掲げ、  
南では  ファンタジアの旗を掲げ、  
来る日も両国国境の無力な村落や小城塞都市に火を付けて回っていた。  
戦闘の合間には両国で反ズィーチ、反ファンタジアを絶叫する念のいりようだった。  
その非道振りは王国後背の魔法公国連合にも火付けてまわる無軌道ぶりであった。  

この状況で王国戦線にて華々しい戦果を上げていたのは、  
ファンタジア王国中の百戦練磨、S・Y・ウーカン率いる外人部隊であった。  
荒くれ者を力で統率していたS・Y・ウーカン自身、  
神出鬼没・強襲突破で名を馳せた男であるため、その戦い振りは見事であった。  

※遅滞戦術が極めて好み、という猛将らしからぬ1面も。  


458  名前:  翡翠  ◆CabqPGtp5s  2006/05/02(火)  13:14:41  ID:???  

その彼の活躍に呼応し、  
義勇外人砲兵旅団も国境から2Kmほど離れた僻地に駐屯するべく、  
ファンタジア王国に出征許可の申請を行なっていた。  

沈着なファンタジア王国軍第398連隊長と  
実行のファンタジア王国軍第400連隊長は、即座に同意。  
「  ただちに義勇旅団は国境に出兵を。  」  
※  
ファンタジア王国の各連隊長の決断は速かった。  
そして、正鵠であった。  
しかるに義勇旅団は市街地テロを警戒する余り、  
結局、リ・アルーム平原に出動してしまっていた。  


459  名前:  翡翠  ◆CabqPGtp5s  2006/05/02(火)  13:30:29  ID:???  

そのころ。  
「  ファンタジアはコレで終わりだ。降伏か、さもなくば血の海を。  」  

狂乱の月、を名乗る工作員による工作活動が1つの山を迎えていた。  
無力だが徹底非服従の市民へのテロの舞台は  
ズィーチ国境より30Km奥地の城塞都市にて始まり、  
ズールー村、リノューク村、ノト街道ハーデス宿場町、  
ナニア村、アイザック村、イデクノ城塞、キラ教徒修道院、  
ライトムーア村、ベルベルト牢獄城、スカピ漁港、マツダコア自由市へ。  

その正体は  
魔法公国連合国境を荒らしまわったテロリストだったという。  

その工作員と昨夜、激戦を展開したのはS・Y・ウーカンの外人部隊であった。  

「  貴様等がこの地に移住する前から存在した我々を  」  
「  グ・イータと永きに渡る友好と共存を  」  
「  貴様等如きが  」  

泣き喚く暴徒を捉えて冷笑しつつ  
腕や足を折り捻る様は、正しく古代の猛将の如く、であった。  

※42.1m(細かい)離れていた場所で  
S・Y・ウーカンその人の剛力を目撃していた村民は  
その驚きを村史に正確に記し、これを後世に伝えたという。  


460  名前:  翡翠  ◆CabqPGtp5s  2006/05/02(火)  13:35:09  ID:???  

「  泥を被れる奴など  、か。」  
ズィーチ3000日戦争の記憶もまだ生々しい義勇騎兵砲兵旅団は、  
この3000年遅れて現世に出現した猛将に好感を抱くのを禁じえなかった。  

また昨夜の報告書では  
極めて冷静との衆目厚い「  Y・X・Z  」王国大公の出陣、が記されていた。  

「  Y・X・Z  」王国大公は、  
北部方面で「  全くの無傷の  」見事な防衛線を展開していた。  
・・のだが、  
流石に本国前面の戦線が気になったのか、  
昨日の夜半、300Kmの距離を踏破して戦場に駆けつけていたらしい。  

そして駆けつけそうそう、2人は喧喧囂囂を始めだしたという。  
「・・・猛将同士、ソリが合わないのかも、なあ。」  
戦闘趣向が正逆というのも、実績ある戦術家同士、シャクに触るのかもしれない。  

リ・アムール平原の夜半出兵から帰ってきた義勇旅団の先兵は、  
王国きっての白兵戦の手練同士の再会早々の鍔迫り合いに、ただポカンとしていた。  


461  名前:  翡翠  ◆CabqPGtp5s  2006/05/02(火)  13:38:51  ID:???  

昨日の王国戦史を一読した後・・  

義勇旅団の関心は、  
「  Y・X・Z  」王国大公の直属軍には支給されているという、  
トリメシ・レーションの旨さについて、だった。  

「  トンカツ・カレーと比べるとどっちがいいのだろう?  」  

正規軍とは無縁の義勇旅団将兵は、  
何時までも支給されるハズもない王国のレーションウマーについて  
埒のあくわけもない情けない話を延々と続けていたという。  

(  F王国戦史第45章の3  完  )  






293  名前:  翡翠@南十字星  ◆CabqPGtp5s  2006/04/27(木)  12:30:48  ID:???  

(  旧  星砂@南西諸島  ◆CabqPGtp5s  )116+  >>197  

自衛隊各隊は混乱の極みにあった。  
2xxx年、日・米・韓  の  陸海空三国共同大演習中の夜に  
有史始まって以来の次元回廊の大穴が開いたのだった。  

自衛隊各隊が混乱の極みに達する前。  
そう、韓国領のある森林で異国の夜の野営に上気していた各隊は、  
<  有史始まって以来の次元回廊の大穴  >に、全く気がついていなかった。  


294  名前:  翡翠@南十字星  ◆CabqPGtp5s  2006/04/27(木)  12:33:20  ID:???  

(  旧  星砂@南西諸島  ◆CabqPGtp5s  )116+  >>197  

森林の奥の闇を埋め尽くした、物言わぬ異形の群。  
最初の火蓋を切ったのは、百戦錬磨の米軍であった。  
少し遅れて、不運な隊員の断末魔に耳を塞ぎながら自衛隊各隊も反撃を開始した。  

後の生き残りの証言によれば、  
闇の中、野営地に接近する物言わぬ異形の影に気付く前、  
全く、何の不審な音も匂いもしなかったという。  

ただ、変事の中心と思われる地点に向けて、大気が動いていた。  

最初の混乱から立ち直るのは、それほどの時間を要さなかった。  
物言わぬ異形の群は、信じられない程、足取りが遅かったからだ。  
ただ、前進を止めなかった。  
腕が吹っ飛ばされても、脚が吹っ飛ばされても、ただただ近づいてきた。  
三国各国の、最初の犠牲者たちは、気が付いた時には重囲の中だったのだろう。  

自衛隊といえば、三国連合の演習とはいえ、実弾は必要分しか持ってきていない。  
前線はたちまち弾切れを起こし、前衛各諸隊は涙を飲んで後退を開始した。  
勿論、喰われた仲間の元へ突入した隊員も少なくなかったが、その多くは帰ってこなかった。  


295  名前:  翡翠@南十字星  ◆CabqPGtp5s  2006/04/27(木)  12:40:30  ID:???  

一方、韓国軍は士気が高かった。  
自国領に自衛隊を迎えての演習という事で、競争心、天を突くばかりであった。  
しかし、不運であった。  

闇の中、陣営内に空から侵入してきた<  黒い天馬を駆る謎の騎士団  >に急襲され、  
徹底的に分断されたのだった。  

野営地のいたる所で湧き上がった銃火の音に、  
その羽ばたく音まで掻き消されていたのが尚、不運であった。  

もし、これが狙っての急襲なら・・は、ともかく、  
その時・最も有力な敵の急襲により、最も混乱させられてしまった韓国軍は、  
統一戦線が取れぬまま各隊員単位で、孤立し、多くの犠牲者を出していった。  

狂乱の第1夜第1幕は、  
各国の機甲師団の登場で収束に向かった。  

戦車の運用できない森林の中に取り残された部隊には  
各国の戦闘ヘリ群が救援に向かっていた。(  第1幕  完  )  



308  名前:  翡翠@南十字星  ◆CabqPGtp5s  2006/04/28(金)  10:37:13  ID:???  

「  な…なんなんですか?ここは、ここは、どこですか?  」  

変異から何日立っただろう。  
南北朝鮮は変異による混乱の坩堝にあった。  
韓国ではデマが蔓延し、愚かしい事に各地で日本人狩りまで発生していた。  
東京大震災、という歴史の本の中にだけある言葉が、男の脳裏を掠めて、消えた。  

「  なんであたし、なんであたし、裸なんですか???  」  
「  知らん。」  

男は素っ気無く応え、  
それから裸で脅えている乙女に、自分の背広を被せてやった。  

「・・・・。」  

何処までも透き通った水色の瞳が、見つめている。  
(・・・日本人には、見えないが、なあ。。。)  
完璧な日本語を話しているから、日本生まれの日本育ちのハーフなのかもしれない。  
大方、頭でも殴られて記憶が飛んでいるだろう。  

「  痛い所はないか?  」  

男の問いに、ふるふる・・と小さく頭を振って、乙女は応えた。  
・・雪の様に真っ白な体は、見たところ何の穢れも無い・・から、  
まあ、最悪な場面だけは回避させてやれたのかもしれない。  

男は乙女を安心させるかのように、そっと頭をひとなでしてからソッポをむいた。  

男の背後には  
暴徒数名が地面にノビていた。(第1幕・外伝・終了)  






813  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/05/23(火)  20:32:48  ID:???  

「  新人!俺の後からはなれるなよ!  」  

外は、何処までも青い空が広がっていた。  
そして、音も無く灼熱の太陽光が、世界の総てに降り注いでいた。  

そんな、外の精妙で美しい光景とは他所に、  
私の脳裏の中で、“小官”殿が  愉快でたまらなさそうに笑っている。  

この時、「  3人  」は、自爆テロ相次ぐ中東で「  公開任務  」に従事していた。  

3機中、最も防弾装甲に優れているのは“小官”機。  
表には出ない海外任務で有名を馳せた“小官”殿専用に特別に設計された巨人機。  
それが今、テロ組織を思いのままに蹂躙していた。  
第三世界で今も使われる旧式の機銃が火を吹くが、まるで効いちゃいなかった。  

小官機と、私こと“新人”の機の主要武器は、巨大な盾と、巨大なハリセンであった。  
(  ※国是により、人を殺めぬ武器=耐水性和紙を何十にも折って、作成。  )  

3機中、最も防弾装甲に優れる“小官”機が、強固な盾を構えて突進してゆく。  
(  ※私の機は、背中に盾を背負っていた。なお、3機ともに両肩に小盾を装備。)  

捕獲性能に優れる“新人”私の機は、左手の巨大ハリセンで小官殿を援護。  
感覚的には、殆ど「  ハエ叩き  」や「  ゴキ退治  」。  
“小官”殿も私も、生身で血肉飛び散る戦場を潜り抜けてきただけに、  
身長10m、旧式機銃の雨など「  何処吹く風  」の巨人機は、正しく求めていた武装であった。  

※  
私の機の右手の巨大ハリセンには、鼠捕りの強力な粘着シートのが塗りたくられていた。  
これで小官殿と私のハリセンでKOされてノビているテロ容疑者を、次々と捕獲。  


814  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/05/23(火)  20:34:58  ID:???  

もう1人の上司、  
“雲の上”から“お目付け役”として赴任してきたY氏“上官”殿は、  
小官機から少し離れた位置で、  
任務エリアに散布された大量の監視機器と激戦中だった。  

彼の掌握する200を超える監視カメラの中で、何かが僅かでも動こうものなら、  
即座に容赦無い「  灼熱の  」砂泥の奔流が、ブチ込まれていった。  

流石は“上官”殿であった。  
動乱の世界で悪名(?)を馳せた小官殿と匹敵する程の、  
(こちらは要人警護で)数多の武勲に輝く“上官”殿に、死角は絶無であった。  
“上官”殿の監視により、前衛の2人に向けられた重火器が火を吹く事は、遂に無かったのだった。  

ところで、なぜ3人が灼熱の中東にいるのかと言えば。  

要するに、自爆テロの鎮圧に、米国が心底、絶望したからであった。  
米国は日本政府にも「  危険地帯の治安活動  」を、強硬に要請。  
(  ※自国兵の死傷に激怒した国民に合衆国は、限界まで追い詰められていた。  )  

そんな米国の強硬な再出動要請を断れなかった日本政府は、  
遂に「  平  〇  憲  法  死  守    」兵器を公開・使用する事を決断した。  
・・自衛隊は、遂に「  主役  」として世界の表舞台に舞い降りたのだった。  


815  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/05/23(火)  20:37:27  ID:???  

それから半年後。  

身長10mの“小官”の愛機が、  
その巨体からは信じられない「  細やかさと軽やかさ  」で  
熱砂の中の街道を「“巨大長虫型の押し車”を押して  」走ってゆく。  

・・ハタから見ていると・・赤面しそうな光景ではあったが、  
この行為だけで、夜明け前に街道そこかしこに埋められた地雷が一網打尽であった。  

“少佐”機が爆破担当。  
空いた穴は、私の機がアスファルトを敷き詰め、  
“上官”機が最期にローラーで仕上げていった。  

その後ろには、  
膨大な数の中東人が道路整備事業に従事する姿があった。  
そうして来る日も来る日も、巨人機3機は、街道という街道を「  耕して  」いった。  

巨人機の背中にへんぽんと翻る  
「  白地に夜明けの太陽の旗  」が、砂漠の灼熱の太陽よりも眩しかった。  

彼等が砂漠の街道を駆け抜けるたびに、  
日本国と自衛隊の名声は、砂漠の空よりも上がっていった。  


816  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/05/23(火)  20:43:15  ID:???  

そんな結構な日々の中。  

「  テロ無血鎮圧  」の  
高揚の日々を忘れられない“小官”殿は、埒も無くぼやくのであった。  

「  なあ新人、国のTVは見たか?(w  」  
「  見ましたよ少佐w  私等は実はアニメの美男美女らしいそうですよw  」  
(  ※新人こと、私、は“小官”殿を私的な場面では“少佐”といって尊敬していたw  )  

「  ボヤくな“小官”!御前を晒せる訳があるかッ#  」  

命を的にして死線を潜ったとはいえ、所詮は御役所の仕事の延長であった。  
“小官”と“上官”は、日本の切り札であった。  

氏名・顔写真など、晒せる訳が、無かった。  

で。  
国許が、どんな誤魔化しをするかと期待してみれば、何の事は無い。  
本物の「  平成のアトム  」として、宣伝されていた。  
要するに、巨人機の中に人は「  いない  」という事だった。  
「  鉄腕アトムの実現  」そんな大嘘が大手を振って闊歩していた。  
ー  全世界へ向けた「  科学大国・日本  」の旗手として  ー  

“  アトム  ”のAIイメージは、例によって、  
婦女子系が喜びそうな星の目の・・言っていてウンザリしてくる・・  
そんな、空虚な、というか国を挙げての大嘘キャラが、  
実在の存在として大人気になっている・・らしい・・。  


817  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/05/23(火)  20:58:56  ID:???  



「  たしかエ●ゲーとやらにもデビューしているらしいですよw  」  
「  新人!御前も黙れッ!不愉快だっ#  」  

思えば“上官”殿は悲惨だった。  
なまじ有能なものだから、我々のような問題児の世話まで押し付けられて。  

・・・このまま1生、全世界の紛争地の中を、  
 「  何をやらかすかワカラン2人  」のお目付け役として這いずり回されるのか???  

そんな悪夢に悩まされる上官殿の悲哀が、痛々しい。  

中東の大地は、今日も何処までも平和であった。(了  


※  
得するのは、我々を管理している派遣部隊の幕僚ばかりであった。  
恐らく、彼等はこの功績により、自衛隊の官位を極めるだろう。  
それどころか、引退後の栄光も約束されたようなものだ。  
回顧録出版、政治家の道、企業のトップの道・・も、約束される事だろう。  

※  しかし、現場好きな“小官”殿は、それでも現状が幸せだろう。  
※  定年まで悪夢に悩まされる“上官”殿はお気の毒だっただが・・・(w糸冬  




901  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/05/30(火)  21:13:03  ID:???  

かつて賢者の学院の魔術師スレンは  
至高神の国・神聖王国テーベの宮廷魔術師イムホテップに言った。  
「あの邪悪な魔女の力は、想像を絶する強大さでした」  
「失われた神代魔法と大慈母神の魔法を操り、今は亡き我等が師、大魔道師カルカスをも凌ぐ力」  
「恐れながら、イムホテップ様でも六人もの聖騎士達を1撃のもとに打ち倒す力はございますまい」  

至高神の国・神聖王国テーベの宮廷魔術師イムホテップは  
王女救出の英雄の1人・賢者の学院の魔術師スレンに答えて言った。  
「そのとおりだ。炎の精霊の術は極めて強力ではあるが」  
「火炎呪だけで我が国が誇る聖騎士の1団が倒せるはずが無い」  


902  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/05/30(火)  21:14:40  ID:???  



「しかし」剣士・バンデッド・ソーンが、うめいた。  
剣士ソーンのうめきに、私は瞑目して答えた。  
「我が国の戦士は、指1本動くのなら」  
「たった1人でも君達の世界の騎士達を、1瞬で殲滅させてしまうだろう」  

自衛隊の90式の主砲が、人喰い鬼の1群を1撃で消滅させた、あの光景。  
99式  自走155mmりゅう弾砲が、  
屈強な戦士達を膨大な土砂と共に、この世界から消し飛ばした、あの光景。  

ソーンのかたわらでエルフの少女が、  
先刻のおぞましい光景を思い出したかの様に、  
怒りに震え、固く目を閉じて、顔をそむけていた。  

前線は、自衛隊の圧倒的な砲撃に煙って、見えない。  

だが、私は、  
「あの」死の暴風吹き荒れる死線を越えて、  
「あの」死線の向こう側にいる「自衛隊」に、事の真実を伝えねばならない。  

私は、正しき人・聖騎士ネメシスが息子、ソーンと計らい、  
砂漠の国ジェラルハザードの王・傭兵王ジュドーに謁見を望み、赦され、  
敗戦の痛手に打ちひしがれる王の軍から必要分の馬を下賜され、  
(※私の話術にあらず。王の、剣士ソーンへの信頼が、王を容易に決断させた。)  
あの砲煙に煙る死線の向こうへと、出発した。  

稀に見る熱血の義士・バンデッド・ソーンの身元保証人として。  


903  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/05/30(火)  21:16:49  ID:???  

肩に破片を負い、口の端からも血を流しながら、  
しかし、その痛手を思わせぬ気丈さで馬上の人となった剣士・ソーン。  
そして彼と行動を共にする美しいエルフの少女が、その脇を固めた。  
一刻も早く、死線の向こう側の「自衛隊」の元へ。  

しかし最早、あたりは夜の帳。道に迷い、獣に追われ、  
自衛隊が銃火砲撃をもって退けている妖魔死霊の群のド真ん中に、迷い込む可能性も、大。  
そんな、砲煙と妖魔・死霊が渦巻く危険な道に、自ら進んで加わった彼等。  
「  ソーン・・  」少女が、少年といっていい程の、若々しい青年を気遣う。  
(  実際に、少年だったのかもしれない。  )  
しかし、救国の志に燃えるその横顔は、もはや1人の立派な男の横顔だった。  
その彼に付き添う彼女もまた、少女に似合わぬ稟とした美しさに満ちていた。  

あの「  異変  」発生時に発生した不幸な戦闘において目撃した、  
傭兵王ジュドーと、剣士ソーンの獅子奮迅の勇姿と、  
三軍入り乱れし戦場を駆け抜けた金の川と青い風の少女。  

私は、少女がついてくるのは、断固、反対であった。  
しかし、エルフの少女は、止める私を氷のような目で睨み、見下げてから王に向かい、  
王にも止められぬ強情さと苛烈で、「  私も行きます  」と宣言した。  

剣士ソーンも、エルフの少女も、泥と敵の返り血に塗れ、疲れきっていた。  
だが、ボロボロの体を気丈に奮い立たせ、この決死行の護衛を申し出てくれた。  
鉄火の暴風と、野獣と死霊の満ちる前線によくぞ・・なんと勇敢な・・否・・なんと無謀な・・か。  
この勇気ある少年少女を、決して、死なすまい。  
なんとしても、彼等と自衛隊の戦闘を終結させなければ。  


904  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/05/30(火)  21:22:26  ID:???  

彼我の死線となった丘陵地帯の向こうの彼等、「自衛隊」  
全く平和な、しかし、興奮に満ちた大演習を、心ゆくまで楽しむ筈だった、彼等。  
その彼等を襲った、謎の黒雲。  
黒雲は、この派手な「総合火器実弾大演習」をひと目見んと集まった、  
数多の市民やTVクルーをも巻き込み・・・・  
気がつけば「我々」は、「この世界」に、転移されていた。  

この「異世界」に飛ばされた「我々」が目撃したのは、  
中世の鎧に身を固めた軍勢と、  
世にもおぞましい死霊や怪物どもの、壮絶な殺し合いであった。  
市民や隊員は、端からこの壮絶な殺し合いに巻き込まれ、殺されていった。  

無論、最初に怪物たちが市民や隊員を襲ったのだったが、  
余りの突然な成り行きに、市民救助を焦った実弾の雨が、  
中世の鎧に身を固めた軍勢をも「まとめて血祭りに」上げてしまっていた。  
もっとも、「状況がいきなりの乱戦」のため、  
怪物も鎧武者達のどれもが「敵」にしか見えなかったが。  
そしてそれは彼等双方にとっても同じ事であっただろう。  
ー  代償は  ー  血を持って、購われる事となった。  

その最も激しい争乱が巻き起こったエリアは、  
騎士達の本隊に襲い掛かる怪物たちの群を、  
横合いから撃たんとして突進してきた(本隊とは別の)「騎士団」の前に、  
「我々」が、まったく突然に出現した形となった区域であった。  

念入りに計算され尽くされた、悲劇の歯車が回りだした。  
突進してきた中世風の騎士団の馬に踏み潰されたり、跳ね飛ばされて圧死した者達。  

その事への、自衛隊の怒りの反撃・報復攻撃が始まった。  


905  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/05/30(火)  21:32:35  ID:???  

不幸の連鎖は、休み無く続いていた。  
怪物たちの指揮官は、余程の人物だったらしい。  
乱闘中の両軍の脇に突如・出現した謎の組織を認めるやいな、  
即座にその中枢が「  誰であり、何処である  」というのを、一瞬で看破していたのだった。  
怪物たちの指揮官の迅速な采配によって、  
空と陸から彼の予備部隊が投入されてきた。ー  死神の代弁者達が  ー  

観戦に招かれていた閣僚、  
それをとりまく高級幕僚達は皆、殺されたり、喰われてしまった。  
市民の犠牲は、押して知る、べし。  
あるTVクルーなどは、TVカメラを構えながら死んでいった。  
3mを遥かに超える筋骨隆々の鬼が生首を口にくわえたまま哄笑していた。  
その巨体の人喰い鬼が握り締めている「かつて人間だった物」が唸りを上げて振り回されるたびに、  
市民の半ダースが消し飛ばされていった。  
人喰い鬼たちの哄笑が天と地に満ちていた。彼等は凱歌を歌っていた。  

その数分後には市民を巻き添えにすることも覚悟した、  
90式戦車の群の一斉射撃が始まるとも知らずに。  

自身が微塵の刑に処される運命とも知らずに。  


906  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/05/30(火)  21:37:02  ID:???  

その殺戮の現場から200m南。  
私の近場で血飛沫を上げて、1人の自衛隊隊員が倒れた。  
その彼の銃器が転がってきた。思わず彼の銃器に手を伸ばす。  
彼を倒した騎士が、向かってきた。  

私は銃器を拾うのをやめた。どのみち、使い方など、わからない。  
こんな事なら、もっと真面目に銃器系の本も読んでおくだった。  
もっとも、読んだ所でAKと64式の見分けもつかないまま  
本棚の奥に放り込んで、記憶から消してしまっていただろうが。  

とりかえしのつかない年月を悔やむかわりに、  
銃器より手近くに幾らもある砂利を右の手の平一杯に握り締め、  
突進してきた騎士の顔面目掛けて、砂利を力任せにブチまけた。  


907  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/05/30(火)  21:39:20  ID:???  

・・・・馬鹿馬鹿しい抵抗・・・・と思いきや。  
相手の騎士にとっては、予想も出来ないほどの低俗で幼稚な抵抗・・だったらしい。  
余りに原始的すぎて予想できなかったのか、まともに砂利の散弾を受けて苦悶していた。  
騎士は、目の痛みに叫び、砂利の目潰しの卑怯を呪い、、そして、私の立つ位置を、誤った。  

目潰しを受けた痛みのあまり、私の位置を誤った彼の剣風は、  
ー剣の重さと馬の重量と疾走をのせて、致死の一撃を帯びた鉄の剣はー  
私の押しのけ、背を向けて必死に逃げようとしていた学生らしい男の頭部を  
プリンでも刈るかのように綺麗に刈りとって、・・明後日の方向に流れていった。  
「  槍でもあれば俺の勝ちなのにな  」今や、隙だらけの騎士の後頭部目掛けて、  
唯1つの武器であるヘルメットを投げつけようとした「その時」  

1人の自衛隊員が、物凄い勢いで間に割って入ってきた。  
そして、騎士に向けて零距離で小銃を3発だけ、発砲した。  
背中に銃弾を受け、声も無く騎士が馬から落馬する。  
私は騎士の被弾ー落馬とともに騎士に向かって跳ねた。  
そして騎士の首も折れよと兜を蹴り上げ、その装備を奪っていた。  

「  すまん(ありがとよ)  」  
剣と盾を手に入れながら、微笑んで振り返った「そこ」にいたのは、  
目だけが異様に印象的な、というか顔全体を化け物ように化粧した男であった。  

それが、斎藤  一  との出会いであった。  





110  名前:  翡翠  ◆CabqPGtp5s  2006/06/03(土)  22:06:16  ID:???  

顔を化け物の様に化粧した男は、  
騎士の戦闘不能と、私の無事を認めたのか、  
私こと「今井」が  
男の目を覗き込んだ次の瞬間には、最寄の敵に向かって駆けていってしまった。  

銃弾に倒れた騎士の馬が、悲しげに、鳴いた。  

足元に転がっている騎士と、主を失った馬。  
ほんの数瞬、この主従に申し訳無さめいたものを感じながら、  
今井は、男の後を追った。  
男は、追って来る今井の方に1度も振り返らぬまま、  
1体1体、正確に、迅速に、最寄の敵を仕留めていく。  

(  まるで猛禽類のようだ  )  

直感に導かれるまま男を追って跳ねた今井と男の周囲には、  
逃げ惑う市民と、怖気づいた兵とで、幾らでも肉の壁があった。  
その肉の壁の合間を男は、実に鮮やかにすり抜けて「敵」の死角へ死角へと回ってゆく。  
そんな「男」が、最初の出会いから数えて6人目の「敵」を倒した頃、  
ようやく周囲の「敵」は何か「猛禽類めいた人間」が居る事に気付き始めた。  


111  名前:  翡翠  ◆CabqPGtp5s  2006/06/03(土)  22:32:45  ID:???  

敵の亜人種1人が、男の背後に踊り出る。  
男の背後を追う今井が、亜人種の背後を取る形になった。  
そのまま駆けながら、最初の騎士から奪った剣で切り倒していく。  
というか、背中を切りつけられた衝撃に振り向く亜人種の側面に、  
盾と肩から体当たりをして、小柄な亜人種をケシ飛ばしていく。  

そんな感じで今井は、騎士を1人、兵士を1人、亜人種を3人、倒していった。  
もっとも「男」の方は、今井が5人を倒す間に15人近くを倒していが。  

周囲は、逃げ惑う市民と、最早流れ弾も気にしていない兵達と、  
仲間が撃たれてから始めて狂乱して逃げ出す敵とで、ごった返していた。  
まるで魔女の大釜の底の様な悲惨な惨状だった。  
既に倒れて動かない市民は、最早数え切れない。  
ズタ肉の様になった敵の人馬の死体は、倒れた隊員の5倍から10倍近くもあったかもしれない・・。  

大半の隊員は、銃を構えたまま、九の字になっていた。  
恐らく、最後の瞬間まで単独で抵抗し、背後から襲われ、倒れたのだろう。  
今井は、男を追いながら、  
無念にも倒れた隊員を思い、怒りが込み上げてくるのを禁じえなかった。  
始めての遭遇戦が、こんな混沌の戦場ではなく、会戦に近い整然としたものなら、  
部隊単位の統制された弾幕により、無傷に近い勝利を得られていただろものを。  


112  名前:  翡翠  ◆CabqPGtp5s  2006/06/03(土)  22:38:27  ID:???  

「今井」が、「男」を追いつつ倒した5人目は、騎士であった。  

最初に倒した1人目から4人目までは、殆ど完全な不意打ちだった。  
5人目の騎士もまた、今井の先を行く「猛禽の様な男」に目を奪われ、  
彼を倒しに行こうとした瞬間を、今井に襲れたのだった。  

5人目の相手「騎士」は、小さな斧のついた長柄の槍、を手にしていた。  
今井が望んだ武装は、棚ぼた式に手に入る事となった。  

男の方を向いている騎士の兜目掛けて、今井が剣を力任せに投げつける。  
酷い金属音がして、剣と兜が弾き飛ばし合った。  
騎士は衝撃に大きく体をブレさせてたが、落馬していなかった。  
今井が盾を力任せに投げつける。  
酒場の金属の塵箱の蓋が喧しく喚く様な音がした。  
しかし信じ難い事に、それでも(最早目前の)騎士は、落馬しない。  

仕方なく今井は、騎士のマントを掴んで、彼を馬から引き摺り落とした。  
騎士が抵抗なく地面に引き摺り落とされる。騎士の重い鎧が嫌な音を立てたが気にしない・・。  

これで5人目。  

流石に、もう加減がわかったので、頭は蹴り上げなかった。  
・・どうせ、ノビているに決まっている・・。  


113  名前:  翡翠  ◆CabqPGtp5s  2006/06/03(土)  22:43:15  ID:???  

落ちている長柄の武器を手にし、剣を鞘に仕舞い、盾を回収した。  
倒れている騎士が戦闘不能かどうか、一瞬だけ確認のために見下ろす。  
相手は、金髪の若い騎士だった。  
柔らかげな艶良い髪から何かの花の様な良い匂いが、今井の鼻側に届く。  
・・・匂いに触発されたのか、  
何故か彼の母と彼の団欒が脳裏に浮かぶ。  

「・・すまん。」  

申し訳無げにつぶやいて・・駆け去ろうとした。  
すると、何か、酷い音が、した。  
何の前触れもなく、今井の視界の総てを、黒い馬の体が埋め尽くしている。  
黒い馬の体の先の方、  
若い騎士の顔面のあった所に、馬の体が首の付け根までめり込んでいる。  
・・今井の顔に、何かの影がさしている。  
思わず、見上げる。  

そこには、筋骨隆々の、汚らしい人喰い鬼が、いた。  



152  名前:  黒メノウの落日  2006/06/05(月)  02:15:07  ID:???  

やられた、と思った。  

今井は、目の前の現象が、信じられなかった。  
こんな混乱の最中だからといって、これ程の巨体と猛威に今まで気付かない???  
今井の顎の位置にある鬼の膝が、まるでコンクリの壁のように、無慈悲だ。  
「鬼がホンの少し膝を蹴り上げて、人1人をミンチにする」そんな最期の「  瞬  間  」  

今井は、  
折角手に入れた望みの品(槍)を、無意識に捨てていた。  
ほんの一瞬後に訪れる「最期」を拒否して、剣を抜刀する。  
不思議な事だが、こんな、「土壇場の土壇場」では、  
剣よりも最高に、最高に丈夫な短剣の方が、欲しくて堪らない。  
しかし今は、この剣しか頼れる物が無い。  

−  今井の剣が2cm程も鞘走った。  

(・・・・・・?)  

「鬼」の様子が、・・・おかしい。  

最低でも3m、もしかすると4mを超えていたのかもしれない「鬼」は、  
今、正に「殺そう」としていた「ちっぽけな二本足」なぞ・・見ちゃいなかった。  
「鬼」は、ゾッとするような憤懣で歪みに歪んだその顔を、  
「鬼」の背後4m程に横たわっている栗毛の馬の死体に向けていた。  
「鬼」の両手から、黒馬の両足が、音もなく地面にズリ落ちた。  


153  名前:  黒メノウの落日  2006/06/05(月)  02:17:34  ID:???  

黒馬の体が地面に横倒しになって、ようやく気がついた事があった。  
黒馬の首は、地面にめり込んでいたのではなかった。  
黒馬自身の、胴体にめりこむように押し潰れていた。  
(・・このサイズの馬って何百Kg  だったっけ?)  
場違いな思いに囚われながら、想像する。  
恐らく、コイツ(鬼)は、  
「ここ数年来の改心の1撃」を、俺に見舞っていた。  
人喰い鬼らしい獰猛な歓喜に満ちながら。  
しかし、「貧弱な二本足」への「思いっきりの殴打」の歓喜の余り、  
今は鬼の背後に転がっている栗毛に足をひっかけて・・今、怒・・  

「鬼」が叫んだ。  

耳を塞ぎたいような、なんという、なんという下品な「  轟  音  」  
猛烈な勢いで馬が蹴り飛ばされて、馬の頭部の1部が何処かへ消し飛んでいく。  
(ばっっっコイツ、敵も味方も関係無しかよ!!)  
・・・・鬼の壮絶な地団太が始まった。  
鎧武者を乗せて駆ける程の馬の巨体が、ただの血袋の様にペシャンコになってしまった。  
「ーーーーーーーー!!!!!!!!」  
こんな、こんな奴と武器無しで、相対した奴等の、恐怖。  
今井の剣が、鬼の右アキレス腱に叩き込まる。  
「??ああ?」と、何か予想外の衝撃を受けたかのように、鬼が振り返る。  
そして左アキレスに、もう1撃。  

「鬼」がようやく「状況」を理解して、  
それからやっと痛みを「知覚」した・・らしい。  
地面に倒れた「鬼」が、涙を流しながら猛烈に暴れだした。  
それでも・・1対1なら、即座に視界をも奪いにかかる所だったが、  
この時、何故か今井の本能が、地面でのた打ち回る鬼よりメチャメチャな悲鳴上げ始めた。  
(  やばい  )  
今井は、南に向かって、脱兎の如く駆け出した。  


154  名前:  黒メノウの落日  2006/06/05(月)  02:22:42  ID:???  

今井の直感は、的中した。  
「鬼」の大地を震わす壮絶な「絶叫」に、  
周囲100m内に存在する「鬼」達が一斉に反応、今井の方を向いた。  
今井は今頃になってようやく、身近に「鬼」が幾体も存在していた事に気付いた。  
最も、今井が「鬼」達の存在に気がつかないのも無理はなかったのだが。  
要するに鬼達は殺戮よりも「目の前の食事に夢中」だったのだった。  
(  奴等が、来る  )  
しかし、日々訓練を重ねている隊員達なら、いざしらず。  
ただの一般人の今井の肺と足は、もう、限界を超えていた。  
(  恐怖に震えながら死ぬ位なら、潔く自決した方がマシだ  )  
今井は覚悟を決めて、喉に剣を当てた。ー  その時、・・奇跡が起きた。  
今井と鬼との間に、自衛隊の装甲車が割って入ってきたのだった。  
「乗れ!!!」「あんたわ!」  
あの、化け物の様に化粧した男が、車の中から手を差し伸べている。  
見れば、自衛隊の装甲車達が、次々に突撃してきている・・・・!  
そして、装甲車やトラックの中から次々に精悍な隊員達が出てきて、  
今だ生存している人達を回収しながら、猛烈な弾幕を浴びせ始めていた。  
ー  それから、数分後。  
今井はトラックに移され、後方から、「あの男」と隊員達の活躍を見ている。  
あの人喰い鬼ドモは、  
今やその巨体が仇になって、真っ先に穴だらけにされてしまっていた。  
・・今井が乗っているトラックの止まっている場所から更に後方は、  
救出された重軽傷者で埋まり、足の踏み場も・・  
いや、「救出された」、それ以上何を望むことがあるだろう。  
そんな彼等に、警護に回された隊員達が、申し訳無さげに謝罪して回っている。  
想像するに、  
今まで別のエリアの救出で、手が回らなかっただけだろう。間違いない。  
貴方達は、何も悪くない。  
それに、少なくとも、私にとっては命の恩人・・・  
隊長さんらしき人物が、今井の方にも声をかけにきたが、  
今井は全身と両の手で「とんでもない」と全力で否定して、その頭を下げていた。  





222  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/06/08(木)  21:20:19  ID:???  

 今井らがこの世界に飛ばされて、どれ位の時間が経過したのだろう。  

 今井は比較的・大勢の市民がいるエリアに、いた。  
そのため、最初の10分間を生き延びる事が出来た。  
最激戦区にいれば、ものの5分内で無残な最期を遂げていただろう。  
実際、生き延び事が出来たと言っても、  
ただ逃げ惑う人に流されるまま逃げているだけだったのだから。  
 やがて、中世騎士風の“敵”が、  
逃げ惑う市民の群を思う様に蹂躙・殺戮していく“地獄”がやってきた。  
 その混乱から今井が剣を取って、  
あの“男”と生き抜いたのが・・5分間程度の事だっただろうか。  
救出されて落ち着いている“今”の時間も含めると・・どれくらい?  

 ・・こんな、僅かな時間で“あの男”は、  

10を遥かに超える敵を倒し、突進してくる装甲車を捕まえ、  
私も救出して、また今も戦闘をしてのけているのか。  
(  やっぱり“あの男”は化け物なのだな  )今井の思いを他所に“あの男”は、  
死んだ隊員達の銃を拾いながら、ここの外縁を阿修羅さながらに死守している。  


223  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/06/08(木)  21:29:21  ID:???  

「  不味いな  」ここの外縁に押し寄せる敵は、  
救援に駆けつけた車両群の圧倒的な火力により“瞬時に”瓦解する“はず”だった。  
鬼の群は戦車主砲によりその圧倒的な肉体を跡形も無く消滅させられ、  
亜人種の群は装甲車群の機銃掃射により、幾重にも薙ぎ倒されていた。  
そんな火力を前にして、どうして“この”原始的な怪物の群如きが、崩壊しない訳があるだろう。  
しかし現実は、その予想の遥かナナメ上をいっている・・。  
 たしかに、下手な原付をも上回る速度で巨大な戦車が戦場を駆け抜け、  
装甲車達は亜人種の群を思うままに蹂躙・分断している。ー  完璧じゃないか。  
 しかし、ここの外縁を護る兵の弾数の十倍ではすまない“彼ら”は、  
1時は壊乱して逃げ惑う形になりながらも、  
背後から押し寄せる同種族に押し返されて、また、突っ込んでくる。  
 この“敵”の数と勢いに、救出された重傷者達の警護を取り仕切っている本田は、  
外縁を死守している隊員が次々に弾切れを起こす状況を早期に予測、  
今、立てる隊員総てを外縁に増援する決断を決意していた。  
「  隊長殿でありますか?  」息がようやく落ち着いてきた今井が、本田の後ろから呼びかける。  
「  ・・・  」本田が、ゆっくりと今井に振り返る。  
「  今のうちに重傷者達を、もっと後方に下げるべきです  」  
「  ・・・  」本田は、今井を見つめている。  
この市民は、何の権限があってオレに話し掛けているのだろう?  
「  大丈夫です。危ないから後ろに下がっていてください。  」  
「  ・・今なら、何があっても間に合います・・  」「  ・・・・・・  」  
本田は、融通の利かない男ではあったが、  
自分が“自衛官で公務員”という事実を1瞬たりとも忘れた事はなかった。  
・・冷静に市民の声に、(いちおう)耳を傾ける事にする。  
・・たしかに、何があっても大丈夫な様に、後方に下げておくべきかもしれない・・。  
しかしそのためには、防壁代わりのトラック群を動かす事になるのだ。  
そしてそれは、強力な支援火力をも(1時的に)手放す事に、なる。  
(  どうしたものか。)思案に暮れて本田は空を見上げて、今井に向き直った。  




243  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/06/10(土)  12:36:55  ID:???  

>>110-113  >>152-154  >>222-223  

少し、躊躇うような時間があった。  

やがて、本田は能面の様な顔で、静かに口を開いた。  
「  申し訳無いですが駄目です。今、戦力を二分にするのは危険です。  」  

それだけ言って、本田は押し黙ってしまった。  
本田は“  責任感の固まり  ”といった表情で、静かに今井を見つめている。  

(  彼の言う事は正しい  )  

今でさえ押されているのに、戦力を二分にしたらどうなるだろう?  
十分予想された答えだっただけに、今井も大人しく引き下がる。  
というか無責任・無権限の市民が、  
どうして部下の命を預かる自衛官に、ああだこうだと言えるだろう。  

(  しかし・・・  )  

戦車の主砲弾は、あと幾つだ?  
装甲車両は?後方の砲列群は?  
何より、目の前に展開している隊員達のは?  

(  どう考えても不味い  )  

1般市民の今井が恐れる位なのだから、  
きびすを返して部下に色々指示し始めている“  彼  ”には、  
前衛が弾切れを起こす時間まで読めているのに違いないのだが・・。  


244  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/06/10(土)  12:41:21  ID:???  

(  ここで、死ぬのか  )  

今井は天を仰いだ。  
今井の後ろでは、無数の重傷者達が、うめいている。  
その傍で、婦人自衛官達が甲斐甲斐しく世話をしている。  

みれば、婦人自衛官達はみな学生といった年齢のようだ。  
(  就職難なんだなあ  )  
と、場違いな呑気な思いが1瞬だけ頭を掠める。  

その、学生のように若い婦人自衛官達の中で、  
3人の娘が、なぜかやたらと今井の目にちらついている。  

1人は、大きな丸い目がねをした儚(はかな)げな乙女だった。  
奥手で臆病そうな文系、  
といった雰囲気が、野郎ドモのハートを鷲掴みしそうな。  
「  い、痛いところはなないですかかかか  」  
と、脅え混じりに語り掛けるその声は、その体同様、震えに震えている。  
・・・ゾンビじみた姿になった人間を前にすれば、誰でもそうなるが・・・  
・・・つか、怪我人に痛いところもないだろう・・・;orz  


245  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/06/10(土)  12:47:30  ID:???  

1人は、芯の強そうな勝気な乙女だった。  
「  大の大人が泣かないで!!!!  」  
今にもピシャリと、やってしまいそうな勢いで乙女は、  
今井ら男がすら腰砕けになりそうな程の重傷人達を、  
キリキリと手際よく(包帯を巻いては)次に次にと、捌いて飛び回っている。  
・・姫百合部隊の乙女達は、歴戦の兵士顔負けの健気さだったと聞くが、  
・・あれがそうなのかもしれないなあ。。。  

1人は、女子達の頭格なのか、実にシッカリとしている。  
・・まるで本物の手馴れた看護婦の様だった。  
「  大丈夫ですよ、今、お医者様が着ますからね  」  
と、1人1人、患者の手をしっかりと両手に包んで話し掛けるその声は、  
まるで天使の様に、優しい。  
(  ・・まるで・・本物のナイチンゲールだ  )  

足手まといになるのが解っている今井は、  
重傷者の看護に加わる事なく、ただ彼女達の働きを見ているだけだった。  
そして、しきりに隊長らしき人物(本田)に振り返る。  
もっとも今井の視線を背中で受けている本田にしても、  
圧倒的な責任感に押し潰されそうなのを、  
“ここは、我々は、現状は”“  大丈夫  ”だ、と、  
体で示すかのように銃を構え、仁王立ちしているしかなかったのだが。  



250  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/06/10(土)  20:41:45  ID:???  

 (  ・・やはり駄目だ  )  

流れを見れば、ここが早期に崩壊するのは目に見えている。  
せめて、女子供と婦人自衛官だけでも。  

「  隊長殿  」  

今井と本田の映画さながらの救いのない問答が始まった。  

「  今なら、全員が助かります  」  
「  静かに。大丈夫です。危ないから下がって下さい  」  

 ・・・実は、本田も今井と同じ事を、考えている。  
ただ本田は、ここの責任者として、動くに動けない自衛官だった。  
そんな2人の礼儀正しいが、永遠に対立するしかない問答は、不意に終了の時を迎えた。  

 ここの外縁を死守している、あの化け物の様に化粧した男が、  
弾幕を潜り抜けてきた騎士に、得物の銃を切断されたのだった。  
「  斎藤!  」今井と本田が同時に駆けた。  
本田はまるで転ぶような勢いで片膝をつき、射撃の姿勢を取っている。  
今井は、その射線から1足横に飛んでから、得物の剣を騎士に投げつけた。  
騎士は今井の剣を得物の槍で弾き落とすと同時に、  
本田の銃弾を全身に浴びて、馬もろとも大地に倒れ伏して、動かない。  
“  化け物の様に化粧した男  ”が、此方に身を投げ出すように転がりこんでくる。  
そこへ別の騎士が駆け込んできて白刃を叩き込んできた。  
今井の最期の武器ーヘルメットーが投げつけられて・・  
そしてその騎士も、本田に馬もろとも射殺されて、動かなくなった。  
(  自衛隊って、実弾練習の機会も少なかったんじゃないのか???  )  
 本田の射撃の技量に驚愕する今井だったが、  
三人の武器は、今や本田の手にする銃器だけだった。  


251  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/06/10(土)  20:46:53  ID:???  

 後方の婦人自衛官達と、外縁で今も奮戦中の各隊員の援護射撃の元、  
3人がやっとの思いでトラック群の内側に転がり込む事が出来たのは、  
しばらく後の事であった。  
 最期は3人そろって討たれる所だった。  
無事、トラック群の内側に転がり込んで、ようやく本田が口を開いた。  

「  怪我は無いか?  」  

「  御前に心配されるようじゃ、御仕舞いだな  」  

その化粧(ドーラン)に塗(まみ)れた顔を右手で撫でながら  
“  斎藤  ”が返している。  

(  ・・・場違いな所にいるよなあ、、、  )  

 2人の男っぽいやりとりを呆けて見つめながら、  
今井は場違いな自分を再確認していた。  
・・・その手には、抜け目無く(  先ほどの  )騎士の槍を手にしている。  
(  隙を見て、あの剣を取り戻さなきゃなあ  )  
もっとも、そのチャンスは永遠に訪れないかもしれない・・・。  
今井の見つめるその場所は疾風の様に現れた軍勢によって、  
今まで以上に手が付けられない混乱が巻き起こっていたから。  


252  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/06/10(土)  20:54:22  ID:???  

武器は、隊長(本田)が持っている銃だけ。  
周りからの支援の弾幕も間に合わぬ濃密な敵の戦力の前に、  
今井どころか斎藤ですら死を覚悟した、その時。  
1人の王らしい人物が勇猛な軍勢を率いて、  
亜人種の群の後方に疾風の如く突っ込んできたのだった。  

(  相当、実戦馴れしている・・!  )  

逃げる事も忘れて今井は、彼らの活躍に目を見張った。  
今井ばかりでなく、そこに居る総ての人間が彼らの活躍に目を見張っていた。  
その王と軍勢の強さたるや、銃器の有利無しでも圧倒的だった。  
特にその王らしき人物の剣の腕前は、始めてみる物凄さだった。  
(  1、2、3、凄・・・まるで大人と赤子の殺し合いだ・・・  )  
亜人種達の群が、まるで紙か藁人形かの様に切り倒されている。  
数える端から眉間を突かれ、頭蓋を割られ、死体の山になっていく。  

“  王  ”の左右を駆ける1人の剣士と美しい少女のペアも、また、凄い。  

特に美しい少女  ー  耳が異様に長い  ー  は、まるで神話の女神の様だった。  
信じ難い事に、彼女にだけは弓矢が1本たりとも到達していなかったのだった。  
金の髪と青いマントが暗がりの空にも鮮やかに翻(ひるがえ)る。  
(  ・・成る程。ここは神話の世界か  )  
認めざるを得ない。何だあの不自然さは?まるでバリアじゃないか。  
弓矢を無効化する術は魔法以外に無いだろう。ならば・・・本物のエルフか・・・。  


253  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/06/10(土)  20:59:28  ID:???  

亜人種の群の背後で、何の前触れも無しに炎の爆発が起き始めた。  
爆発に巻き込まれた亜人種達のこげた肉片が此方まで飛んできた。  
(  いったい、何が起きている????  )  
その爆発には、外縁で奮戦していた各隊員達も、  
唖然として目を(1瞬だが)見張るしかなかった。  
(  ・・魔法だな・・これこそ魔法で間違いない・・本当にあったとは・・  )  
突然現れた軍勢の強さと始めてみる魔法に驚きつつ、  

今井が本田に性懲りも無く囁く。  
「  今のうちに砲列まで退きましょう。  」  

本田は今井の方を見ないで、じっと戦局を睨んでいる。  
今井に言われるまでも無く、今がチャンスだと本田も考えている。  
・・・しばらくの沈黙の後、本田が振り返って今井の後ろへと声をかけた。  
「  南君、田中君と相馬達をつれて、市民の後送を頼む。」  

きょとん、とする今井の横に、例の3人の乙女がやってきた。  
・・・こうして今井と重傷を負った市民達は  
(  重傷具合と女子供から  )順序良く婦人自衛官達の運転するトラックに揺られて、  
自走155ミリ砲等が並ぶ“後方”へと、下がっていった。  


254  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/06/10(土)  21:09:11  ID:???  

 自走155ミリ砲等は、南に相当下がった線で砲列を並べていた。  
幸いな事に、砲のあるエリアは転移初期から無風状態であった。  
それを利して自走砲達は更に南に下がり、今、砲撃を敵陣へと叩き込んでいる。  

 その砲列の後ろへ婦人自衛官の運転するトラックが、ピストン運動で市民を降ろしてゆく。  
その間今井は、婦人自衛官に混じって重傷市民の運搬に参加していた。  
今井は身の回りの婦人自衛官の頭格らしい南嬢の依頼で、  
相馬嬢という、大きな丸い目がねをした乙女と組む事になった。  

 相馬嬢は・・今もガチガチガチガチと振る続けている。  
・・こんな儚(はかな)げな娘が、どうして自衛隊にいるんだろう・・  
怪我人をトラックから降ろす(今井が車外で怪我人を抱きとめる)作業をしながら、  
ふと気の毒に・・・いやいやいや・・・自由意志で入った娘に、赤の他人が何が気の毒と・・・。  

 その横では南嬢と田中嬢が、本当にテキパキと仕事を進めていく。  
(  相馬嬢に比べると、こちらは本当に男顔負けだなあ・・  )  
ペアを組んでいる可憐な相馬嬢を気の毒に思いながら作業する今井の頭の上で  
強烈なジェット音を上げて美しい機影が北の空へと飛んでいく。  

・・・とうとう、航空自衛隊が空爆を始めたようだ・・・。  


255  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/06/10(土)  21:18:31  ID:???  

 もっとも1般人の今井には、  
F−15Jも、F−4EJ(改)も、F−2も見分けがつかない。  
(  今頃戦場は、凄い事になっているのだろうなあ・・  )  
 今井が空を見上げている間に、前線の車両群の殆どが戻ってきたようだ。  
弾が尽きたのか、弾の余裕のあるうちに、  
この世界の人間側と怪物側の争いを見極める事にしたのか、  
・・それはまだ定かではないけれど・・こちら側は無事に、戦場から撤収しつつある。  

 1台のトラックが此方に走ってきた。  
あの本田氏(  相馬嬢に教えてもらった  =今井  )が運転していて、  
あの斎藤氏は、荷台の上で銃を千切れる様に振って此方に笑いかけている。  
(  以外に、明るい方なのかもしれん  )  
先ほどの戦場では、最期まで表情の崩れたところを見れなかったのだが。  
(  2人とも、無事だったんだなあ・・  )  
見れば、外縁で奮戦していた隊員の殆どの顔が、荷台の上にあった。  

陸自隊員の数も、市民の数も数え切れないが、とりあえず見知った人は無事だ。  
空自が空爆を始めたのだから、今度こそあの怪物の群は消滅するだろう。  
(  そういや、あの王と剣士と少女はどうなったんだ???  )  
今井の内心の懸念を他所に、  
斎藤氏がトラックから勢いよく降りてきて、力強い握手をしてきた。斎藤氏のなんたる握力。  

2人が生きている喜びを、なんと表現していいのか解らない今井だった。  



283  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/06/13(火)  19:07:58  ID:???  

 この世界の夕暮れがやってくる。  

 砲声が轟き、砲煙が煙る、黄金色に染まった世界の中で、  
自衛隊の生き残り達が、休む間も無く今後の事を相談をしている。  

 今井は砲煙の風上に位置する砲列西側後方にいた。  
今井の遥か前方、偽装ネットも被せないまま剥き出しにされた砲列のあたりでは、  
汗と埃に塗れた屈強な男達が、砲列の砲弾の準備に余念が無い。  

 ピュウ、、ピュウ、と、風が鳴いている。  

風に揺られて背後の草の海が、音もなく滑らかに揺らめいている。  


284  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/06/13(火)  19:21:34  ID:???  

 この世界の風の吹く中、  
この世界の総てを震撼させる現世の砲撃の震動の波動の中、  
今井はヤる事も無くなり、手にする槍を弄(もてあそ)ぶだけであった。  
槍は、猛禽の様な斎藤の手にする小銃を切断し、彼をも殺す寸前までいった手練の男の槍であった。  
そして今井が扱うには、少し重過ぎる槍であった。  

 「  騎馬戦か、騎馬の突撃と向き合う時には頼りになるんだがな  」  

今井には、未だにこの槍が、鉄の塊である現世の小銃を切断した事を信じられないでいる。  
この頑丈で重い槍を、斎藤氏ほどの男を倒しかけた兵(つわもの)が操っていたとしても。  

 (  となると、、、魔法か  )  

 1人でそう結論づけていると、  
本田氏と斎藤氏らの相談が終わったらしい。  
彼らは再び車上の人となって、慌しく陣営から出ていこうとしている。  
 (  どこへ行くのかな?  )  
と、今井が考えていると斎藤氏が乗った車両がやってきた。  

黄金色の光に照らし出された斎藤氏は  
「  ちょっと、部下を回収しに行ってきます  」  
と、それだけ言うと、  
本田氏の車両群の後を追っていってしまった。  

 (  ・・・空爆は?砲撃は??  )  

・・・あの空爆と砲撃の中を、救出にいくつもりなの??  
・・・と、今井が気がつけば、あれほど世界を震わせていた砲撃と空爆の音が、止まっている。  
そして再び、戦闘車両の群が北の大地へと動き出していた。  

空自のジェット機は・・・どうなったんだろう・・・  


285  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/06/13(火)  19:39:47  ID:???  

 しばらくして、婦人自衛官の動きも慌しくなってきた。  

彼女らの頭格らしい南嬢の回りに、婦人自衛官達が幾人も集まってきている。  
(  彼女達も出動するのか  )  
何となく近寄って「  何か手伝いますか?  」  
と車の中の南嬢を見上げると、南嬢はあまり迷った様子も無く  
田中嬢と相馬嬢の運転する車両を指定してきた。  
 1般人の今井が  
同行を断られなかった所を考えるに、膨大な犠牲者が出ているのだろう。  

今井が南嬢にささやかな協力を申し出たその時、  
南嬢は周りの娘達の中での1番の年長者らしい落ち着いた雰囲気で今井に礼をのべていたのだが、  
田中嬢は(  1般市民がしゃしゃりでるな  )のオーラが、凄かった・・・。  

 ・・・田中嬢の視線に小さくなっていても生産性が無いので、  
気付かぬ風を装い、前に座る相馬嬢に話をふってみる。  

「  空自の人達、着陸はどうするのでしょう?  」(  ここ、草地があるだけの荒地ですよ?  )  
「  乗り捨てるしかないと思います・・  」と、相馬嬢。  
「  今、パイロットの人達が降りてくる場所を確保しに行くんですよ  」  
「  もちろん、まだ生きている人達の救出も、です。  」  

(  ??????  )  

 他の婦人自衛官2人も話に答えてくれる1見、和やかな雰囲気の中で、  
突然今井は、強烈な殺気を感じる。  
何気なく今井が360度を確認するふりで首を左右に振ると・・・  
(  田中嬢が女の子で良かった  )  
という“  恐ろしいもの  ”を、横目の端に見た様な気がした・・・。  


286  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/06/13(火)  20:06:31  ID:???  

 車両に揺られて1行が北に進むにつれて、  
倒れ付している人馬よりも、肉片と鉄片のが多くなっていった。  
やがて、巨大な穴が点在する地点にさしかかった頃、ここらが彼女らの指定の場所なのか、  

静かに・・車が止まった。  

田中嬢が率先して勢い良く飛び出す。  
他の女性隊員達がその後に続いた。  

彼女達が、  
まだ、生きている人はいないかと、  
まだ、敵対的な存在が生きてはいないかと、  
迅速に、細やかに、定められた確認作業をクリアしていく。  

 今井は、その良く訓練された体力と動きについていけず、  
(  生存者が見つかるのをまって、それから手伝おう・・  )  

と、情けなくも横着する事に、決めた。  
鍛えている彼女らに比べて、今井の体力の無さは絶望的であった。  

・・・。  
彼女達の体力に、今井は目を見張るばかり、で、あったが・・・  
その中でも際立った速さの田中嬢には、ある種の危険を感じ始めていた。  
 (  ・・・チト急ぎすぎじゃないかなあ  )  

今井の心配を他所に、  
田中嬢は無限の体力をもっているかのように次々と確認をクリアしていく。  

そうして、田中嬢が50体程の死体の確認をし終えた頃、  
田中嬢が次の死体の確認へと移る瞬間・・・死体が後ろから田中嬢の足首とズボンを捕まえて、  
彼女を地面に引き摺り倒してしまったのであった。  




314  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/06/16(金)  13:04:11  ID:???  

起きました〜。昼時ですのう。。  
水兵氏殿も着ていたようなので、例の置いて見ませう〜。  

前スレの「☆人型生体兵器ダイダラ☆  」にヒントを得た1発ネタのSS。  
「☆巨人兵inF世界☆」  

登場人物  
「小覇王」  
「D」小隊の初代指揮官。北米を除く全世界での非合法活動で悪名を轟かしていた。  
主な活動地区は亜細亜。「小覇王」は大陸系マフィアが付けた仇名。略して「小覇」  

「上級天使」  
「D」小隊の現指揮官。北米に置かれた諜報機関の現場指揮官だった。  
「上級天使」は、南米の非合法組織から付けられた仇名。略して「上使」  

「民間保護課長」  
「D」小隊にガン〇ム1のア〇ロ並みの偶然で巻き込まれた民間人。  
このSSが笑小話である事を身を持って示す重要な人物。略して「民間」  

んじゃ落としてみませう〜。  


315  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/06/16(金)  13:08:31  ID:???  

☆  巨人兵  in  F世界  ☆  

 西暦2XXX年、  
日本国陸上自衛隊は汎用人型生体兵器の試験運用を開始した。  
コードネーム「DAIDARA」である。(  略称  巨人兵  )  

「DAIDARA」は、  
全高10メートルに達する巨大な二足歩行ロボット兵器の外観を誇る“生物兵器”であった。  
(  断じて二足歩行猫型ロボットでもガン〇ムでもない  )  

「DAIDARA」は、来るべき世界PKO活動の主任務、  
「対・第三世界ゲリラ戦」を想定して開発された兵器であった。  

   陸上自衛隊の上層部は、  
「DAIDARA」を実戦使用するための運用データ獲得を目的として一つの実験部隊を創設する。  
略称「D」小隊と呼ばれたその部隊の初代指揮官に選ばれた男の名は「小覇王」  
その通称で日本が関わった数ある紛争で悪名を轟かしてきた男であった。  


316  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/06/16(金)  13:18:09  ID:???  

 時は移って・・・  

陸上自衛隊上層部の期待以上に、  
「D」小隊と「小覇王」略して「小覇」は、その能力を「発揮」していた。  
「  平和の旗手・ニッポン  」の名は世界の果てまでも届く有様であった。  
・・・流石に鉄と血と泥の最前線で生き抜いてきた男だけはあった・・・。  

の、だが・・・。  

ぶっちゃけて言うと・・・  

「小覇」はその余りの独断専行(  に見える  )が祟って、  
政府上層部の不興を買ってしまったのであった。  

また、「DAIDARA」の中身と正体を知る、  
その他の権力者達や上級指揮官や各方面からも、  
まるで嫁入り前の箱入り娘を強姦されたかのような怒りを買う始末であった。  

 しかたなく陸上自衛隊上層部は、  
同じく独断専行ばかりする「民間保護課長」略して「民間」と「小覇」の押さえに、  
要人警護でこの世界に名を轟かしていた「ある有能な男」を、  
「DAIDARA」小隊の2代目指揮官として派遣する事にした・・。  


317  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/06/16(金)  13:27:20  ID:???  

「DAIDARA小隊」は、見事に復活した。  

米国派遣の諜報網と現地部隊の指揮をとっていた彼の猛者は、  
その抜群の交渉力と調整能力と語学力で「DAIDARA小隊」の信頼を回復、  
その上タイミングもよくアラブの放蕩王子とじゃじゃ馬王女を救出した功績で、  
「DAIDARA小隊」および「日本国と自衛隊」は、  
某中東産油国某王国の絶大な信頼と後ろ盾を得たのであった。  
 防衛費1%枠に縛られながらも、あらゆる艱難辛苦に耐えて、  
自国兵器開発に努力し続けた全自衛隊の勝利の瞬間であった・・・。  



319  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/06/16(金)  13:39:04  ID:???  

“  新人(民間)!俺の後ろから離れるなよ!  ”  
「  あ−、いいねー。昔は熱かったなあ・・・  」  

 “新人(民間)”は、来る日も来る日も、  
砂漠のオアシスのほとりに作られた豪華遊興施設(宮殿とプール)三昧であった。  
もっとも、バックミュージックがわりの  
過去の戦闘記録ビデオによる「実戦への研究」に抜かりは無かったのだが。  

まあ、そんなことはどーでもいい。  
任務の日々の溜まりに溜まった鬱憤もどこへやら。  
日本国はこの3人の男に  
(  某王国王族のプッシュに耐え切れず  )なんと、半年間の有給休暇を!  

 オアシスの外は、何処までも青い空が広がっていた。  
そして音も無く灼熱の太陽光が、世界の総てに降り注いでいた。  
そんな外の精妙で美しい光景の中で、  
“民間”の脳裏の中・・もとい、目の前で、“小覇”殿が愉快でたまらなさそうに  
1目惚れの女性と白いテラスの中で笑っている。  

「  あのプロ10000人斬りの小覇殿が、ねえ・・・  」  

自爆テロ相次ぐ中東で、  
例の「公開任務」に従事していたあの頃が、ちょっぴり懐かしい“新人(民間)”だった・・・。  


320  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/06/16(金)  13:48:18  ID:???  

3機中、最も防弾装甲に優れている“小覇”機。  
表には出ない海外任務で有名を馳せた“小覇”専用に特別に設計された、巨人機。  
その小覇機と民間の機の主要武器は、巨大な盾と巨大なハリセンであった。  

3機中、最も防弾装甲に優れる小覇機が、強固な盾を構えて突進してゆく。  
それに捕獲性能に優れる民間の機が続く。  
感覚的には殆ど「  ハエ叩き  」や「  ゴキ退治  」だった・・・。  

 “民間”が民間人らしいノー天気ぶりを発揮している所に、  

もう1人の上司、  
“雲の上”から“お目付け役”として赴任してきた“上使”殿が、  
例の中東某王国王族と和やかな歓談を続けながら此方にやってくる。  
上使は1見、中東の王族特有の美しい顔立ちの彼ら王族に負けぬ美丈夫ぶりではあるが・・・  
実戦中、200を超える膨大な監視カメラを掌握し、  
作戦エリアで何かが僅かでも動こうものなら即座に  
容赦無い灼熱の砂泥を叩き込む「恐ろしい人物」でもあった。  

小隊の安全のためには、子ヌコですら容赦なく捻り潰せる男であった。  
(  内心は涙に耐えぬ思いであろうけれど  )  

 街道という街道を「  耕して  」いったあの日々よ。  
巨人機の背中にへんぽんと翻る「  白地に夜明けの太陽の旗  」が、  
砂漠の灼熱の太陽よりも眩しかったあの日々よ。  
砂漠の街道を駆け抜けるたびに、日本国と自衛隊の名声が砂漠の空よりも上がっていったあの日々よ。  
「  テロ無血鎮圧  」の、今後2度と破られる事の無い記録を打ち立てたあの日々よ・・・。  


321  名前:  翡翠(星砂)  ◆CabqPGtp5s  2006/06/16(金)  14:00:58  ID:???  

「  民間氏、準備はいいですか?  」  

“  ボヤくな“小覇”!御前を晒せる訳があるかッ#  ”  
“  新人(民間)!御前も黙れッ!不愉快だっ#  ”  

これから1生“異端”の2人の監視を押し付けられて、  
全世界の紛争地や邦人救出にコキ使われ飛び回されるハメになっていた筈の彼は、  
今や、某中東王国の特別顧問の地位にあった。噂ではこの国の王族に列されるという。  
南米の非合法組織から「アークエンジェル(上級天使。略して上使)」とまで恐れられた彼の能力と、  
悪名高い「D」小隊をこの位置にまで押し上げた調整力なれば、それもまた当然であったが・・・。  
そういえば、先ほどまでの流暢な英語の会話からよくもまあ、  
こうも簡単に日本語の会話に切り替えられるものだ・・・。  

(  脳の中身を覗いてみたいものだ  )  

「  はい。何時でも出立可能であります  」  

「  そう、それでは今夜8時に  」  

上使は、王族もかくや、な優雅な会釈の後に、  
某中東王国王族と和やかな会話を続けながら白亜と黄金の小宮殿へと消えていった。  

砂漠の夜をまって(天然のクーラーの中で)、  
「DAIDARA小隊」と「日本国自衛隊」に与えられた  
広大な敷地(  巨人兵用戦闘訓練場。総合火器訓練場を兼ねる  )の整備。  

そして闇の中の実戦訓練。  

民間でも有り得ない半年休暇の最中だろうが、  
死ぬまで優雅な生活が約束されていようが、結局、そういう事をしている「3人」であった。  



328  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/13(金)  15:16:44  ID:???  


ここ、西方神権国家ミスナにおける連続爆破事件は、10月に入ると自衛隊の戦車すらも標的とするようになっていた。  

10月5日の正午、王都クシャのテロリストに爆破された初めての90式戦車が、  
先遣隊司令の西崎と民間の今井の目の前で紅蓮の炎を上げて燃え狂っていた。  
「  くっそ!  」西方神権国家ミスナへの先遣部隊の指揮を任された西崎が、  
自分の部下が危険な目に会った怒りを押さえきれず、その真新しい軍帽を地面に叩きつけた。  
王都クシャの貧民街のど真ん中で起きた白昼堂々のテロルであった。  
憤懣やるせないる西崎の側で黙って燃え盛る90式戦車を見つめていた元民間の今井は、  
その叩きつけられた真新しい軍帽を拾い砂埃を綺麗に払ってから、持ち主の西崎の手に手渡した。  
「  えー、クシャのテロリストは見境無いので、戦車の中の人も気をつけてください  」  
10月4日の朝、そんな間の抜けな調子で淡々と王都クシャの状況を先遣部隊の面々に説明していた今井は、  
説明の次の日には戦車1台を殺(と)られた事に、先行きの困難を改めて思い知らされ、閉口するしかなかった。  

だが。  

「(  まあ、狙われたのが(  平成自衛隊の  )90式戦車でよかった  )  」  

部下を狙われた西崎と、度肝を抜かれた当の90式戦車小隊の面々には悪いが、狙われたのが平成自衛隊でよかった。  
現に、殺られた戦車に搭乗していた面々は、  
「  ニホンノヒト、ダイジョブカ?  」「  ダイジョーブ?  」  
そんな片言をかけて再び集まってくる貧民街の者達に囲まれて、慰められることしきりであった。  
彼ら地元民に人気急上昇中の平成自衛隊は、この日も朝から貧民街の者達に囲まれる事しきりであった。  
これが地元民に不人気の超大国の戦車兵なら、貧民街の者達の心強い壁も無く、よって、  
テロリストのファイヤ・ボールとサラマンダーの容赦無い連続攻撃を受けて消滅させられていただろう。  




332  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/13(金)  15:26:53  ID:???  


その日の夕方、超大国の1個小隊が大通りで襲撃されて全滅した。  

テロの実行犯達は、クシャの人民の海の中に没した。  

超大国はクシャの人民を片っ端から連行して弾圧を繰り返すだけでは、  
怨みを買うだけで何の効力も無いと、見とめざるをえなかった。  
連絡を受けて駆けつけた西崎らは、初めて見る焼殺死体に思わず顔を歪めてしまった。  
ブスブスと今も燃える1個小隊の兵達のザックの中身は、既に略奪された後であった。  
そして1個小隊の焼殺現場を取り囲んでいる群衆の眼は、何処までも冷たかった。  

「  誰も助ける者はいなかったのか!!!!  」  

哀れな1個小隊の末路に西崎が義憤に駆られて絶叫しようとした瞬間、  
今井がわざとコケて西崎ともつれながら街路を転げてその口を封じるのだった。  
「(あきまへん。彼らはここでは不倶戴天の敵。同情する訳が無いんですよ  )」  

今井は、西崎にもかすかにしか聞き取れない声で彼に囁くのであった。  





334  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/13(金)  15:31:24  ID:???  


そんな2人の背後から魔法学校の少女が2人出て、水筒の水を死体の上に流し始めた。  
ややあって、2人は同時にこちらに振り向き、声を揃えて語るのであった。  

「  1人残らず炎の精霊(サラマンダー)に燃やし尽くされています  」  

彼女達の分析なら間違いないだろう。  
つまり炎の精霊を自在に操る術者が側近くに居る訳だ。  

そうだろうな、と呟いた今井が焼殺死体をよっこらせィと抱えて戸板の上に載せてゆく。  
隣の斎藤隊員は馴れたもので、もう3人目を収容していたが。  
超大国は戦車ですら現場に近づけなくなっていた。だから収容は我等の役目。  
超大国は10月だけで9台の戦車が魔法の炎に焼かれて鉄屑になっていた。  
中が黒焦げなのは、魔法でやられた何よりの証拠であった。  
今井は今や東方ライン皇国の兵である戦国大隊を指揮し、クシャの人民に喜捨をするのを忘れない。  
戦国大隊が行くところ人垣が出来て、その後に綺麗に道を空けてくれる。  
そしてその中をモーゼの行進のように自衛隊の車両がしずしずと通りすぎてゆく。  

四千年の古都・クシャの西の空に沈む巨大な夕日を背景にして。  




630  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/15(日)  17:43:08  ID:???  


「  んー?  で、Yxz大公は何て言っているって?  」  

「  小官と代理は銃殺刑だ!、だ、そうですよー  」  

「  んー。・・それでいい。  それで完璧だから  」  

「  ・・いーんですかそれで?  」  

「  新兵君、1国の統治者は2兎を追ってはダメなのですよ  」  



631  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/15(日)  17:46:54  ID:???  


20万の観客を集めた陸・海・空の1大祭典の場に起きた突然の次元ジャンプの悲劇。  

それ以来、流浪の平成市民20万人を守り、  

その生命と生活とを保証し続ける、果てし無い苦行に苦しんでいた、平成自衛隊。  

そんな自衛隊を見ていられなく、否、  
自衛隊の管理下の閉塞生活に憤懣やるせない市民を食わし続ける苦行に耐えかね、  
遂に自衛隊がその<  最後の1線  >を越える未来、を、激しく嫌った今井は、  
自衛隊がその手を汚す前に私兵の戦国大隊を率いて遠征すること数月、各地で魔族を掃討し、  
1度は魔族に滅ぼされていた<  東方ライン皇国  >の支配権を確立。  
前帝の忘れ形見の皇女を新皇に掲げて、流転の平成人20数万人の生存圏確立の足がかりを築くに至り、  
今では「  皇国新帝代理  」として皇国兵を率いて(  新皇は女性の上に建国数ケ月の国だから仕方無い  )、  
超大国の紛争の後始末に借り出された自衛隊とともに  
(  東方ライン皇国は自発的に参加を打診。超大国はこれを了承  )、  
西方神権国家ミスラの治安維持活動に参加中であった  
(  平成自衛隊は、この時はまだ流浪の市民20万人とともに超大国提供の居留地にあった  )。  

そしてこの時の今井ら皇国兵は、平成自衛隊の89式装甲戦闘車数台に護衛されて、  
四千年の歴史に埋もれたミスラの北の大地を(  白い峰々を左手に見ながら  )南下であった。  



632  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/15(日)  17:52:05  ID:???  


「  代理・・!そろそろ燃料が切れそうです・・!  」  

配下の(  東方ライン皇国の  )新米兵士が不安そうに報告してきた。  

「(  あ”−そりゃ、実に、不味い・・  )」  

北のミスラは、当然ながら、日が落ちるのが王都より早かった。  
人気の無い山々と森の中で、急速に日暮れてゆく光の中で、今井は本当に困ってしまった。  
念の為、側に控えている電信係に  
<  最寄の自衛隊第・・連隊第・・中隊  >へ補給依頼の陳情をさせてみたが、  

やっぱり、あちらも、燃料は枯渇気味との事。  

「(  不味い。実に不味い・・  )」  

89式装甲車の重火力があればこそ、  
こんな糞辺鄙な丘陵地帯をショートカット出来るのである。  
運悪くこの子が腹空かして立ち往生なんぞでもかました日にゃ、と思うだけで寒気がする。  

将兵の手前、決して顔にも口にも出さないが、実はこの子(  89式装甲車君  )、  
第・・連隊第・・中隊が余所の隊から借りてきた子なのであった・・。  



633  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/15(日)  18:01:32  ID:???  


「  小官どのの隊を救出に行く?  そんな無茶な・・  」  

榊原中隊長は心配してくれたが、  
小官どのの隊が敵の重囲に飛び込んでいるのは、  
東方ライン皇国の撤退援護だというのは誰の目にも明らかであった。  
東方ライン皇国がそれを知ったのは、  
小官どのの隊がミスラの北辺に突撃を開始してから2日後の事であった。  
そのとき東方ライン皇国は、敵地の中を整然と撤収、  
王都クシャの見える平原まで脱出していたのだからたまらない。  

「  すいません・・ここは引くわけにはいかんのですよ・・  」  

「  ・・それなら、この子達を連れて行ってください。役に立つでしょう  」  

榊原中隊長はそう言って、「  対・巨人族戦、対・火竜族戦用  」にと、  
虎の子の89式装甲車を数台、東方ライン皇国に貸してくれたのであった。  
王都郊外の治安を守る榊原中隊長としても、  
車両の抽出は本当に痛いのだが、それでも貸してくれた。  
この足のない世界で、この魔法の飛び交う危険な世界で、  
装甲車両がある事がどれほど有難い事か。  

人格誉れ高い第・・中隊の榊原隊長だからこそ、借り物のこの子をも思いきって貸してくれたのだった。  



634  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/15(日)  18:08:52  ID:???  


装甲車両の有難さは、戦場に立った者にしか判らないだろう。  

だが、当然の事ながら戦場の約束事として、  
装甲車両があったとしても、殺られるときは殺られるのが、戦場の定め。  

何せ装甲車両といった所で、魔術師のファイア・ボールを食らえばタダでは済まないし、  
巨人族からの投石(  ウンザリするほどの大石だ  )を食らえば凹むわで、  
(  装甲車両はどの隊も大いに活用する分  )その損害も大きかったのだった。  

そして、定数割れした車両が復帰してくるあては、今のところゼロ。  

だが、89式装甲車搭載の重火力があれば、巨人族の1匹や2匹はドンと来い、である。  
それにこの子の運転手がたまたま戦闘の名手なら、火竜族の攻撃をも退けてくれるやもしれん。  

そんな訳で、  

何が潜むか判らない見知らぬ世界の丘陵地帯を行くには、どうしても戦闘車両は必要であった。  



635  名前:  翡翠(星砂)  ◆djVD4M.9Gw  2006/10/15(日)  18:18:29  ID:???  


「  ・・・  とにかく、何とか行けるところまでは、行こう  ・・・  」  

もしかしたら、燃料は小官どのの部隊が潤沢に持っているかも、しれん。  
なにせ、最前線に1人残った彼の部隊だ。  

・・・・全滅していないのが不思議なくらいだった・・・・  

となれば、車両の燃料は、案外全部、丸々残されているかもしれん。  

東方ライン皇国軍とともに、連合軍の少なくない部隊が南下を開始したから、  
そのうちのどれかの部隊が燃料を回してくれるかもしれん・・。